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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60W
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60W
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 B60W
管理番号 1360316
審判番号 不服2019-3597  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-03-15 
確定日 2020-03-05 
事件の表示 特願2017-170357「車両制御装置および車両制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年3月22日出願公開、特開2019-43428〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年9月5日の出願であって、平成30年6月8日付け(発送日:平成30年6月19日)で拒絶の理由が通知され、平成30年8月17日に意見書が提出されたが、平成30年12月21日付け(発送日:平成31年1月8日)で拒絶査定がされ、これに対し、平成31年3月15日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に手続補正書が提出され、令和元年5月27日に上申書が提出されたものである。

第2 平成31年3月15日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成31年3月15日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正について
(1)本件補正前の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
外部から自車両前方のカーブ半径、自車位置、自車両からカーブまでの距離を含む情報をカーブ情報として取得し、カーブの度合いに応じて適切な走行目標速度を演算し、カーブ手前から減速制御を実行する走行制御部を備えた車両制御装置であって、
前記カーブ情報に基づく自車位置のカーブ半径を第1のカーブ半径として抽出するとともに、前記自車両の検出部で検出された前記自車両の速度およびヨーレートから前記自車両の現在の走行路のカーブ半径を第2のカーブ半径として演算し、前記第1のカーブ半径と前記第2のカーブ半径との差分があらかじめ設定した許容範囲内にあるか否かを判定する判定部を備え、
前記走行制御部は、
前記判定部により前記差分が前記許容範囲内にあるとの判定結果が得られた場合には、前記減速制御を実行し、
前記判定部により前記差分が前記許容範囲内にないとの判定結果が得られた場合には、前記減速制御を実行不可能と判断し、
前記減速制御を実行中に前記減速制御を実行不可能と判断した場合には、前記減速制御を中止する
車両制御装置。」

(2)そして、本件補正により、上述の本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおり補正された(下線は、請求人が補正箇所を示すために付したものである。)。
「【請求項1】
外部から自車両前方のカーブ半径、自車位置、自車両からカーブまでの距離を含む情報をカーブ情報として取得し、カーブの度合いに応じて適切な走行目標速度を演算し、カーブ手前から減速制御を実行する走行制御部を備えた車両制御装置であって、
前記自車両が前記カーブに進入する以前に、前記カーブ情報に基づく自車位置のカーブ半径を第1のカーブ半径として抽出するとともに、前記自車両の検出部で検出された前記自車両の速度およびヨーレートから前記自車両の現在の走行路のカーブ半径を第2のカーブ半径として演算し、前記第1のカーブ半径と前記第2のカーブ半径との差分があらかじめ設定した許容範囲内にあるか否かを判定する判定部を備え、
前記走行制御部は、
前記判定部により前記差分が前記許容範囲内にあるとの判定結果が得られた場合には、前記自車両が前記カーブに進入する以前に、前記減速制御を実行し、
前記判定部により前記差分が前記許容範囲内にないとの判定結果が得られた場合には、前記自車両が前記カーブに進入する以前に、前記減速制御を実行不可能と判断し、
前記減速制御を実行中に前記減速制御を実行不可能と判断した場合には、前記自車両が前記カーブに進入する以前に、前記減速制御を中止する
車両制御装置。」

2.補正の適否
(1)新規事項について。
はじめに、本件補正が願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された範囲内のものであったかについて検討する。
本願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、これらを「当初明細書等」という。)には、「前記判定部により前記差分が前記許容範囲内にないとの判定結果が得られた場合」の「減速制御」に関して、以下の記載がある。

ア 「【0024】
図3は、本発明の実施の形態1における車両制御装置による一連処理を示すフローチャートである。ステップS101において、第1の検出部31は、カーブ情報検出部10から取得したカーブ情報に基づいて演算したカーブ半径を出力する。一方、ステップS102において、第2の検出部32は、車両状態量検出部20から得られた自車速とヨーレートに基づいて演算したカーブ半径を出力する。
【0025】
すなわち、第1の検出部31は、カーブ情報に含まれる「カーブまでの距離」、「カーブ半径」、「自車位置」に関する情報から、ナビ装置が、カーブを走行中と認識しているか、カーブより手前の直線路を走行中と認識しているか、を判断することができる。
【0026】
一方、第2の検出部32は、自車両がカーブを走行中においては、車両状態量として検出された自車速とヨーレートから、走行中のカーブ半径を演算することができるとともに、カーブを走行中であることを認識できる。また、第2の検出部32は、自車両が直線路を走行中においては、車両状態量として検出された自車速とヨーレートから演算で求めたカーブ半径があらかじめ決まられた上限値より大きいことで、直線路を走行中であることを認識できる。
【0027】
そして、ステップS103において、自車位置正誤判定部30は、ステップS101で出力されたカーブ半径と、ステップS102で出力されたカーブ半径との差分を求める。さらに、自車位置正誤判定部30は、求めた差分があらかじめ設定した許容範囲内であれば、ナビ装置から得られた自車位置が正しい、すなわち「正」と判断し、許容範囲外であれば、ナビ装置から得られた自車位置が正しくない、すなわち「誤」と判断する。
【0028】
なお、カーブ半径の検出の仕方は、自車両状態に基づく検出方法と、ナビによるカーブ情報に基づく検出方法とで互いに異なる。そこで、検出方法の違いに起因した誤差分を考慮した上で、上述した許容範囲が設定されることとなる。
【0029】
ステップS103における判定結果が正であれば、ステップS104に進み、誤であれば、ステップS105に進む。ステップS104に進んだ場合には、カーブ走行目標車速演算部40は、カーブ走行目標車速を、上式(1)を用いて決定し、カーブでの減速制御を行う。」

イ 「【0033】
図4は、本発明の実施の形態1における車両制御装置で実行される車両走行の例を示す図である。具体的には、図4(a)は、ナビ装置のGPSにおいて、衛星からの電波を正常に受信できたときのカーナビ上での自車位置表示を示した図である。
【0034】
すなわち、図4(a)は、自車位置正誤判定部30により、自車位置が正しいと判定される場合に相当し、ナビ装置から出力された自車位置に基づいて検出されたカーブ半径と、車両状態から検出されたカーブ半径との差分が、許容範囲内に収まることで、図3のステップS103において「正」と判定された場合の、カーナビ上での自車位置表示に相当する。
【0035】
また、図4(a)のような自車位置表示が得られた場合には、自車両が、直進からカーブに進入し通過するために、区間Aから区間Bまでを走行する際に、以下のような走行制御が行われる。すなわち、区間Aにおいて、車両制御装置は、ドライバにより設定されている定速走行車速による走行制御を実施する。その一方で、区間Bにおいて、車両制御装置は、入手したカーブ情報を基にカーブでの目標車速を求め、カーブ減速制御を実行する。」

ウ 「【0039】
より具体的には、実際には、直線の区間Aを走行している場合には、第2の検出部32によって車両状態量から検出されるカーブ半径は、無限大に近いかなり大きな値となる。一方、実際には、直線の区間Aを走行しているにもかかわらず、ナビ上で区間Bを走行していると誤認識した場合には、第1の検出部31では区間Bに相当するカーブ半径が検出される。
【0040】
この場合には、比較部33により算出される、第1の検出部31により検出されたカーブ半径と第2の検出部32により検出されたカーブ半径との差分が、許容範囲を超えることとなる。従って、カーブ走行目標車速演算部40は、直線の区間Aを走行中に、ナビ装置がカーブ走行中と誤認識した場合には、減速制御を実施せず、あらかじめ決めた車速での定速走行制御を実施することができる。」

エ 図4の図示内容及び上記ウの記載事項から、低速走行車速による走行制御を行う直線の区間A及び入手したカーブ情報を基にカーブでの目標車速を求め、カーブ減速制御を実行する区間Bがあることがわかる。

これら記載及び図示内容から、本願明細書及び図面には、第1の検出部31により自車両がカーブを走行中かカーブ手前の直線部を走行中かを判断するとともに、第2の検出部によりカーブを走行中であるか直線路を走行中であるかを認識し、第1の検出部31により求めたカーブ半径と第2の検出部32により求めたカーブ半径との差分があらかじめ設定した許容範囲内であればカーブでの減速制御を行うことが記載されていると理解できる。そして、第1の検出部31及び第2の検出部32のいずれも、カーブ走行中におけるカーブ半径を求めるものであるから、減速制御はカーブ走行中に行われているといえ、車両がカーブに進入する以前に行われるものが示されているとはいえない。
そして、願書に最初に添付された明細書には、「判定部により前記差分が前記許容範囲内にあるとの判定結果が得られた場合には、前記自車両が前記カーブに進入する以前に、前記減速制御を実行」するとの明示的な記載はない。
また、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1には「カーブ手前から減速制御を実行する走行制御部」との記載はある。しかしながら、上記の通り願書に最初に添付した明細書には減速制御はカーブ走行中に行われることのみ記載されている。一方、車両制御装置は直線の区間A及びカーブ減速制御を行う区間Bで実行されるものであり、さらに、該走行制御部による「前記判定部により前記差分が前記許容範囲内にないとの判定結果が得られた場合には、前記減速制御を実行不可能と判断し、
前記減速制御を実行中に前記減速制御を実行不可能と判断した場合には、前記減速制御を中止する」との事項は、カーブ手前で実行される事項である。そうすると、「カーブ手前から減速制御を実行する走行制御部」は、「カーブ手前」において「減速制御」の「実行」を「中止」することを行う走行制御部と解されるもので、「自車両が前記カーブに進入する以前に、前記減速制御を実行」することを意味するものではなく、示唆するものでもない。
してみると、本件補正により追加された「前記判定部により前記差分が前記許容範囲内にあるとの判定結果が得られた場合には、前記自車両が前記カーブに進入する以前に、前記減速制御を実行」することは、願書に最初に添付された明細書及び図面に記載はなく、示唆もない。

そうすると、本件補正により追加された「前記判定部により前記差分が前記許容範囲内にあるとの判定結果が得られた場合には、前記自車両が前記カーブに進入する以前に、前記減速制御を実行」することは、当初明細書等に記載がなく、当初明細書等の記載から自明な事項でもないから、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
したがって、本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてしたものとはいえず、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

(2)独立特許要件について
次に、本件補正が特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものと仮定して、本件補正の適否を検討する。
この仮定において、本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「前記カーブ情報に基づく自車位置のカーブ半径を第1のカーブ半径として抽出するとともに、前記自車両の検出部で検出された前記自車両の速度およびヨーレートから前記自車両の現在の走行路のカーブ半径を第2のカーブ半径として演算し、前記第1のカーブ半径と前記第2のカーブ半径との差分があらかじめ設定した許容範囲内にあるか否かを判定する判定部」について、「前記自車両が前記カーブに進入する以前に」との限定を付加し、「前記判定部により前記差分が前記許容範囲内にあるとの判定結果が得られた場合には、前記減速制御を実行し」について「前記自車両が前記カーブに進入する以前に」との限定を付加し、「判定部により前記差分が前記許容範囲内にないとの判定結果が得られた場合には、前記減速制御を実行不可能と判断し」について「前記自車両が前記カーブに進入する以前に」との限定を付加し、さらに「前記減速制御を実行中に前記減速制御を実行不可能と判断した場合には、前記減速制御を中止する」について「前記自車両が前記カーブに進入する以前に」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1(以下、「本件補正発明」という。)が、同法同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

ア 本件補正発明
本件補正発明は、上記1.(2)に記載したとおりのものである。

イ 引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である特開2008-13121号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「車両の走行安全装置」に関して、図面(特に、【図1】ないし【図6】を参照。)とともに次の事項が記載されている(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。

(ア) 「【0002】
車両がカーブを安定して走行するために、車両がカーブに進入するときに、介入ブレーキ(例えば、ブレーキアシスト装置や自動ブレーキ装置など)を介入させて減速支援制御を行う車両の走行安全装置(例えば、特許文献1参照)や、低速側の変速段に変速して減速支援制御を行う車両の走行安全装置(例えば、特許文献2参照)が知られている。
従来、この種の走行安全装置では、カーブ旋回中に減速支援制御すると車両の挙動が大きくなる虞があるため、また、運転者が違和感を感じる虞があるため、カーブ進入前の直線部分で減速支援制御の許否判断と制御内容の変更を行っており、カーブ進入後の減速支援制御の介入を禁止していた。
【特許文献1】特開平2006-126924号公報
【特許文献2】特開平2001-263478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、カーブ進入後であっても、進入初期段階であれば減速支援が可能である。例えば、カーブ初期状態では横加速度は最大値に至っておらず、タイヤの縦方向の力を有効に使えるため、ブレーキによる減速効果は充分発揮可能である。しかしながら、従来はこの点について考慮されておらず、カーブに到達した後の減速支援制御の介入を禁止していた。
そこで、この発明は、カーブ進入初期段階まで安全装置の作動許容範囲を拡大することができる車両の走行安全装置を提供するものである。」

(イ) 「【0010】
請求項1に係る発明によれば、安全装置の作動許容範囲をカーブ進入初期状態まで拡大することができる。また、道路データによるカーブの開始点位置の位置精度不足を補うことができ、安全装置の作動の許否を適正に判定することができる。
請求項2に係る発明によれば、カーブ進入初期状態を適正に判定することができる。また、道路データによるカーブの開始点位置の位置精度不足を補うことができ、安全装置の作動の許否を適正に判定することができる。
請求項3に係る発明によれば、カーブ進入初期状態を適正に判定することができる。また、道路データによるカーブの開始点位置の位置精度不足を補うことができ、安全装置の作動の許否を適正に判定することができる。
請求項4に係る発明によれば、実カーブと認識カーブとが違う場合にカーブ進入初期状態であると誤判定するのを防止することができる。
請求項5に係る発明によれば、カーブ進入初期状態の誤判定を防止して、カーブ進入初期状態を適正に判定することができる。
請求項6に係る発明によれば、カーブ進入初期状態ではない状態を適正に判定することができる。」

(ウ) 「【0011】
以下、この発明に係る車両の走行安全装置の実施例を図1から図6図面を参照して説明する。
図1に示すように、この実施例における車両の走行安全装置10は、例えば、記憶部(記憶手段)11と、自車位置検出部(自車位置検出手段)12と、車両状態検出部(車両状態検出手段)13と、カーブ認識部(カーブ認識手段)14と、カーブ進入初期状態判定部(カーブ進入初期状態判定手段)15と、適正車両状態設定部(適正車両状態設定手段)16と、比較部(比較手段)17と、作動部(作動手段)18と、ブレーキ操作入力検出部19と、安全装置20と、を備えて構成されている。
【0012】
記憶部11は、道路に係るノード情報およびカーブ情報を道路データとして記憶しており、ノード情報は、例えば道路形状を把握するための座標点のデータであり、カーブ情報は、例えばリンク(つまり、各ノード間を結ぶ線)上に設定されたカーブの開始点および終了点に加えて、カーブの曲率に係る情報(例えば、カーブの曲率や半径Rおよび極性)と、カーブの深さに係る情報(例えば、カーブの通過に要する旋回角θやカーブの長さ等)とから構成されている。
【0013】
自車位置検出部12は、例えば人工衛星を利用して車両の位置を測定するためのGPS(Global Positioning System)信号や、例えば適宜の基地局を利用してGPS信号の誤差を補正して測位精度を向上させるためのD(Differential)GPS信号等の測位信号や、後述する車両状態検出部13から出力される検出信号に基づく自律航法の算出処理によって自車両の現在位置を算出する。
さらに、自車位置検出部12は、算出した自車両の現在位置と記憶部11から取得した道路データとに基づいてマップマッチングを行い、自律航法による位置推定の結果を補正する。
そして、自車位置検出部12は自車位置情報を後述するカーブ進入初期状態判定部15に出力する。
【0014】
車両状態検出部13は、例えば、自車両の現在速度を検出する車速センサや車輪速センサと、自車両の横加速度(横G)を検出する横加速度センサと、水平面内での自車両の向きや鉛直方向に対する傾斜角度(例えば、自車両の前後方向軸の鉛直方向に対する傾斜角度や車両重心の上下方向軸回りの回転角であるヨー角等)および傾斜角度の変化量(例えば、ヨーレート等)を検出するジャイロセンサやヨーレートセンサと、操舵角(運転者が入力した操舵角度の方向と大きさ)や操舵角に応じた実舵角(転舵角)を検出する舵角センサと、操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ等を備えて構成され、各検出信号を自車位置検出部12とカーブ進入初期状態判定部15と比較部17へ出力する。
なお、この実施例において前記横加速度センサおよびヨーレートセンサは自車両の旋回状態を検知する旋回状態検知手段を構成する。
【0015】
カーブ認識部14は、記憶部11に記憶された道路データを取得し、この道路データに基づいて、自車両の現在位置から進行方向前方の所定範囲の道路上に存在するカーブを認識する。例えばカーブ認識部14は、ノード情報つまり道路形状を把握するための座標点と、各ノード間を結ぶ線であるリンク情報とに基づいて、カーブの形状(認識カーブ形状)を認識する。
さらに、カーブ認識部14は、記憶部11から取得した道路データに含まれるカーブ情報に基づき、自車両の進行方向前方で認識したカーブの開始点位置および形状(例えば、カーブの半径Rや曲率、旋回角θやカーブの長さやカーブの深さ等)を検出して、カーブ進入初期状態判定部15および適正車両状態設定部16に出力する。
【0016】
カーブ進入初期状態判定部15は、瞬間旋回半径検出部(旋回状態検知手段)15aと、同一カーブ判定部(同一カーブ判定手段)15bと、実カーブ進入判定部15cとを備えて構成されている。
瞬間旋回半径検出部15aは、車両状態検出部13により検出されるヨーレートに基づいて現在の自車両の瞬間旋回半径Rを算出する。
同一カーブ判定部15bは、自車両が実カーブに進入したと判定された時点での実カーブの極性(カーブの曲がり方向)と、同時点で検出された瞬間旋回半径Rに基づき算出した実カーブの曲率(1/R)と、カーブ認識部14で認識された認識カーブのカーブ情報(極性および曲率)とを比較して、実カーブと認識カーブが同一か否かを判定する。
実カーブ進入判定部15cは、自車両が実カーブに進入したか否かを判定する。例えば、瞬間旋回半径検出部15aにより検出された現在の自車両の瞬間旋回半径Rに基づいて算出した実カーブの曲率(1/R)が所定値以上となったときに自車両が実カーブに進入したと判定する。
【0017】
そして、カーブ進入初期状態判定部15は、同一カーブ判定部15bによって実カーブと認識カーブが同一であると判定され、実カーブ進入判定部15cによって実カーブに進入したと判定され、実カーブと認識カーブとのずれが所定範囲内であって、自車両の横加速度が最小閾値(第1の所定値)以上で増加中であり且つ最大閾値(第2の所定値)以下である場合に、カーブ進入初期状態であると判定する。
横加速度をカーブ進入初期状態判定の要件とした次の理由による。
図2(A)は、車両が図2(B)に示す曲率(=1/瞬間旋回半径)で変化するカーブに進入開始してから退出するまで一定速度で走行した場合の車両の横加速度の変化の一例を示している。車両がカーブに進入すると横加速度が徐々に増加していき、最大閾値以上になると横加速度がほぼ平衡し、その後は横加速度が徐々に減少していく。つまり、最大閾値以上になって横加速度がほぼ平衡する状態は定常旋回状態であり、横加速度が徐々に減少していく状態はカーブの後半を表している。したがって、横加速度が最大閾値以上の場合は定常旋回状態であり、カーブ進入初期状態であるとは言えない。また、横加速度が増加していない場合もカーブ進入初期状態であるとは言えない。そこで、横加速度が増加中であり且つ最大閾値以下であるときをカーブ進入初期状態の要件とする。なお、横加速度が最小閾値以上をカーブ進入初期状態の要件としたのは、車両のふらつきやドリフトノイズによる影響を排除するためである。なお、カーブ進入初期状態判定の要件である横加速度の代わりに、瞬間旋回半径検出部15aにより検出された現在の自車両の瞬間旋回半径Rに基づいて算出した実カーブの曲率(1/R)を用いてもよい。」

(エ) 「【0018】
適正車両状態設定部16は、適正横加速度設定部16aと、適正車両速度設定部16bとを備える。
適正横加速度設定部16aは、カーブ認識部14により認識された認識カーブ形状に基づいて、自車両が認識カーブを適正に通過する際に許容される横加速度(適正横加速度)を算出する。
適正車両速度設定部16bは、適正横加速度設定部16aにより算出された適正横加速度に基づき、自車両が認識カーブ形状を適正に通過可能な車両の速度(適正車速)を算出し、比較部17に出力する。
また、適正車両状態設定部16は、自車両の現在の車速から適正車速まで適正に減速する際に要する距離(適正カーブ距離)を算出する。
【0019】
比較部17は、車両状態検出部13により検出された現在の自車両の車両状態(車速等)と、適正車両状態設定部16により設定された適正車両状態(適正車両速度等)とを比較し、比較結果を作動部18に出力する。
ブレーキ操作入力検出部19は、例えばブレーキペダルの操作を検出するブレーキペダルセンサなどから構成され、検出結果を作動部18に出力する。
【0020】
安全装置20は、例えば、警報部21と、エンジン制御部(図示略)および変速制御部(図示略)およびブレーキアシスト制御部22からなる。
ブレーキアシスト制御部22は、ブレーキ入力値検出部22aと、ブレーキ出力値検出部22bと、ブレーキ加圧量制御部22cとを備えて構成されている。
ブレーキ入力値検出部22aは例えばマスターシリンダー圧をブレーキ入力値として検出し、ブレーキ出力値検出部22bは例えばホイールシリンダー圧をブレーキ出力値として検出する。ブレーキ加圧量制御部22cは、ブレーキ入力値検出部22aによって検出されたブレーキ入力値に基づいてブレーキアシスト量(ブレーキ加圧量)を算出する。このブレーキアシスト量をブレーキ入力値に加算した圧力をブレーキ出力とする。
【0021】
作動部18は、カーブ進入初期状態判定部15の判定結果と、比較部17での比較結果と、ブレーキ操作入力検出部19の検出結果に基づいて、安全装置20を作動させるか否かを判定し、その判定結果に基づいて安全装置20の作動を制御する。
例えば、比較部17の比較結果が現在の自車両の車速が適正車速よりも高い状態等のように自車両が適正車両状態にない場合であって、図3に示すように自車両がカーブ進入前あるいはカーブ進入初期状態判定部15によりカーブ進入初期状態であると判定され、且つ、ブレーキ操作入力検出部19によって運転者のブレーキペダル踏み込み(ブレーキ操作入力)を検出した場合には、ブレーキアシスト制御部22を介してブレーキアクチュエータを作動させて、自動的に自車両の減速支援を行う。」

(オ) 「【0022】
次に、この実施例における車両の走行安全装置10の動作、特に作動部18におけるブレーキアシスト制御部22に対する作動判定処理について図4のフローチャートに従って説明する。
まず、ステップS101において、記憶部11に格納された自車両の進行方向前方の道路データを取得する。
次に、ステップS102に進み、自車両の現在位置、車速、ヨーレート、横加速度を取得する。
次に、ステップS103に進み、道路データに基づき、進行方向前方にカーブを認識したか否かを判定する。
ステップS103における判定結果が「NO」(認識なし)である場合には、カーブ進入支援制御の適用範囲外であるので、本ルーチンの実行を一旦終了する。
【0023】
一方、ステップS103における判定結果が「YES」(認識あり)である場合には、ステップS104に進み、現在の自車両のヨーレートに基づいて瞬間旋回半径Rを検出する。
次に、ステップS105に進み、認識したカーブ(認識カーブ)までの距離が所定距離以下であるか否かを判定する。
ステップS105における判定結果が「NO」(所定距離より大きい)である場合には、ステップS104に戻る。
ステップS105における判定結果が「YES」(所定距離以下)である場合には、ステップS106に進み、認識カーブにおける適正通過車速を算出する。
次に、ステップS107に進み、自車両の車速が適正通過車速よりも大きいか否かを判定する。
ステップS107における判定結果が「NO」(適正通過車速以下)である場合には、ブレーキアシストを実行する必要がないので、本ルーチンの実行を一旦終了する。
【0024】
一方、ステップS107における判定結果が「YES」(適正通過車速より大)である場合には、ステップS108に進み、自車両の車速から適正通過車速を減算して速度差ΔVを算出する。
次に、ステップS109に進み、速度差ΔVに応じてブレーキアシスト量を算出する。
そして、ステップS110に進み、自車両が実カーブに進入したか否かを判定する。すなわち、ステップS104において検出した瞬間旋回半径Rに基づいて算出した実カーブの曲率(1/R)が所定値以上である場合には自車両が実カーブに進入したと判定し、所定値以下である場合には実カーブに進入していないと判定する。
【0025】
ステップS110における判定結果が「NO」(実カーブに進入していない)の場合には、ステップS111に進み、運転者によるブレーキ操作があるか否かを判定する。例えば、ブレーキペダルセンサによってブレーキペダルの踏み込みが検出されたときにはブレーキ操作があると判定し、検出されないときにはブレーキ操作がないと判定する。
ステップS111における判定結果が「NO」(ブレーキ操作なし)である場合には、ブレーキアシストを実行する必要がないので、本ルーチンの実行を一旦終了する。
ステップS111における判定結果が「YES」(ブレーキ操作あり)である場合は、ステップS112に進み、ステップS109で算出したブレーキアシスト量に応じたブレーキアシスト制御を実行し、本ルーチンの実行を一旦終了する。
【0026】
一方、ステップS110における判定結果が「YES」(実カーブに進入した)である場合には、ステップS113に進み、実カーブがS103で認識した認識カーブと同一カーブか否かを判定する。この同一カーブの判定は、ヨーレートに基づいて検出した実カーブの極性(カーブの曲がり方向)およびステップS104で検出された瞬間旋回半径Rに基づいて算出した実カーブの曲率(1/R)と、道路データから取得した認識カーブのカーブ情報(極性および曲率)とを比較して行う。
ステップS113における判定結果が「NO」(非同一)である場合には、本ルーチンの実行を一旦終了する。
【0027】
ステップS113における判定結果が「YES」(同一)である場合には、ステップS114に進み、実カーブに進入したと判断された地点(すなわち、自車両の現在地点)と道路データに基づく認識カーブの開始地点までの距離ΔLが所定値(例えば、約20m程度)以内か否かを判定する。
【0028】
ステップS114における判定結果が「NO」(ΔLが所定値より大)である場合には、カーブ進入初期状態ではないと判断して、本ルーチンの実行を一旦終了する。
ステップS114における判定結果が「YES」(ΔTが所定値以内)である場合には、ステップS115に進み、ステップS102で取得した自車両の横加速度が最小閾値以上で且つ最大閾値以下か否かを判定する。
ステップS115における判定結果が「NO」(最小閾値未満あるいは最大閾値より大)である場合には、カーブ進入初期状態ではないと判断して、本ルーチンの実行を一旦終了する。
ステップS115における判定結果が「YES」(最小閾値以上且つ最大閾値以下)である場合には、ステップS116に進み、自車両の横加速度の履歴から横加速度が増加中か否かを判定する。
ステップS116における判定結果が「NO」(増加していない)である場合には、カーブ進入初期状態ではないと判断して、本ルーチンの実行を一旦終了する。
【0029】
ステップS116における判定結果が「YES」(増加中)である場合には、カーブ進入初期状態であると判断して、ステップS117に進み、運転者によるブレーキ操作があるか否かを判定する。例えば、ブレーキペダルセンサによってブレーキペダルの踏み込みが検出されたときにはブレーキ操作があると判定し、検出されないときにはブレーキ操作がないと判定する。
ステップS117における判定結果が「NO」(ブレーキ操作なし)である場合には、ブレーキアシストを実行する必要がないので、本ルーチンの実行を一旦終了する。
ステップS117における判定結果が「YES」(ブレーキ操作あり)である場合は、ステップS118に進み、ステップS109で算出したブレーキアシスト量に応じたブレーキアシスト制御を実行し、本ルーチンの実行を一旦終了する。」

(カ) 「【0030】
図5および図6は、道路データに基づいて判断される認識カーブ進入判断タイミングと車両状態に基づいて判断される実カーブ進入判断タイミングのタイムチャートの一例である。これらの図では、曲率(=1/旋回半径)の時間的変化によって認識カーブおよび実カーブを表しており、認識カーブおよび実カーブともに、曲率が所定値1/αに達したとき(換言すると瞬間旋回半径が所定値に達したとき)をカーブ進入開始と判定している。以下、パターン別に説明する。
【0031】
図5に示すパターンは、認識カーブ進入判断タイミングと実カーブ進入判断タイミングとがほぼ一致し、認識カーブに対しては接近状態(カーブ未進入)であり、車両状態による実カーブに対しても未進入状態(非旋回状態)であるときに、ブレーキアシストの介入を許可した場合を示している。これは、ステップS111における判定結果が「YES」の場合に相当し、従来と同様にカーブ手前においてブレーキアシストの許否判定が行われる。
【0032】
図6に示すパターンは、認識カーブに対しては接近状態(カーブ未進入)であるが、車両状態による実カーブに対しては進入状態(旋回状態)で且つカーブ進入初期状態であるときに、ブレーキアシストの介入を許可する場合を示している。これは、ステップS116における判定結果が「YES」の場合に相当し、従来は実カーブ進入後のブレーキアシストの介入を許可していなかったが、この車両の走行安全装置10では、実カーブ進入後であってもカーブ進入初期状態である場合には、ブレーキアシストの介入を許可する。したがって、ブレーキアシストの作動許容範囲が従来よりも拡大される。
これにより、例えば、運転者がカーブ到達後に速度超過に気付き、ブレーキ操作を行ったときにも、ブレーキアシストによる減速支援を行うことが可能になる。
なお、カーブ進入後のブレーキアシスト制御により車両の挙動が若干大きくなっても、車両挙動の安定性を確保するための他の安全システム(例えば、アンチロック・ブレーキ・システム(ABS)や車両挙動安定化制御システム(VSA)など)によって車両挙動の安定性を保障することができる。」

(キ) 「【0034】
また、認識カーブと実カーブとが同一か否かを判定し(ステップS113)、同一であると判定された場合にカーブ進入初期状態か否かの判定(ステップS114?S116)を行うので、実カーブと認識カーブとが違う場合にカーブ進入初期状態であると誤判定するのを防止することができる。」

(ク) 「【0037】
〔他の実施例〕
なお、この発明は前述した実施例に限られるものではない。
例えば、前述した実施例では、安全装置20における減速支援システムを、運転者の減速意志がある場合に減速支援するブレーキアシストシステムとしたが、運転者の減速意志の有無に関わらず減速支援する自動ブレーキ制御システムとすることも可能である。
また、図4に示すフローチャートにおいてステップS114の処理を省いてもこの発明は成立する。」

(ケ) 上記(ウ)の段落【0012】、【0013】及び【0015】の記載事項からみて、カーブ認識部14におけるカーブの形状(認識カーブ形状)の認識は、自車位置検出部12により外部から取得した信号により算出した自車位置と記憶部11から取得した道路データにより行われるものであるから、外部からの進行方向前方のカーブの半径R、自車位置、カーブの開始点位置を含む情報をカーブ情報として取得しているといえる。

(コ) 上記(ウ)の段落【0011】ないし【0013】の記載事項、特に段落【0013】の、自車位置情報をカーブ進入初期状態判定部15に出力するとの記載事項から、自車両からカーブまでの距離を取得していると理解できる。

(サ) 上記(ウ)の段落【0015】の記載から、カーブ認識部14による認識カーブ形状の認識は、自車両の現在位置から進行方向前方の道路上に存在するカーブを認識するものであるので、自車両がカーブに進入する以前に認識されるものといえる。

(シ) 上記(エ)の記載内容及び図3の図示内容からみて、安全装置20はカーブ手前から減速支援を実行する安全装置20であることがわかる。

(ス) 上記(エ)の記載内容からみて、安全装置20は、実カーブと認識カーブとのずれが所定範囲内であると判定しないときは、自車両の減速支援を行わないことがわかる。

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、本件補正発明の記載ぶりに則り整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「 外部から自車両前方の進行方向前方のカーブの半径R、自車位置、自車両からカーブまでの距離を含む情報をカーブ情報として取得し、認識カーブ形状に応じて適正車速を算出し、カーブ手前から運転者の減速意思の有無に関わらず減速支援する自動ブレーキ制御システムを備えた車両の走行安全装置10であって、
前記自車両が前記カーブに進入する以前に、前記カーブ情報に基づき認識カーブを認識するとともに、車両状態検出部13で検出された前記自車両のヨーレートから前記自車両の瞬間旋回半径Rに基づいて実カーブを算出し、前記認識カーブと前記実カーブとのずれが所定範囲内であることを判定する実カーブ判定部15cを備え、
前記走行制御部は、
前記実カーブ判定部15cにより前記ずれが前記所定範囲内であると判定された場合には、運転者の減速意思の有無に関わらず減速支援し、
前記実カーブ判定部15cにより前記ずれが前記所定範囲内であると判定されない場合には、運転者の減速意思の有無に関わらず減速支援をしない
車両の走行安全装置10。」

原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された特開2008-12975号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面(特に【図4】を参照。)とともに次の記載がある。

(セ) 「【0009】
また、本発明の第2の態様である、車両走行制御システムは、地図情報から第1の曲率半径情報を取得する第1曲率半径情報取得手段と、前記地図情報以外から得られる道路形状から第2の曲率半径情報を取得する第2曲率半径情報取得手段と、前記第1の曲率半径情報と前記第2の曲率半径情報を比較して、より小さい曲率半径情報を選択して、目標速度を演算し、演算された目標速度に応じて自車の速度を制御する速度制御手段とを備える。」

(ソ) 「【0017】
まず、車載端末装置10の構成と処理内容について説明する。
【0018】
なお、車載端末装置10は、CPUなどの演算装置と、RAM,ROMなどのメモリと、ハードディスクなどの外部記憶装置と、スイッチで構成される入力装置と、液晶ディスプレイなどで構成される表示装置からなるコンピュータシステムにより構成できる。以下に説明する、各機能部は、CPUが所定のプログラムを実行することにより達成される。また、現在位置検出のために、車速センサ、ジャイロセンサ、GPS(Global Positioning System)受信装置も備えている。
【0019】
車載端末装置10は、自車位置検出部1、地図情報取得部2、道路情報取得部3、情報報知部4によって構成される。それぞれの機能部の処理は、コンピュータプログラミングにより、予め定められた周期で繰り返し実行される。
【0020】
自車位置検出部1は、GPSのような人工衛星による検出方法や、インフラストラクチャ等との通信により、自車位置を検出する。
【0021】
地図情報取得部2は、地図DBを有している。ただし、別個地図情報を記憶する記憶部があってもよい。その記憶媒体としては、コンピュータが読み取り可能なCD-ROM、DVD-ROM、ハードディスク等である。また、地図データは、上記記憶媒体にデータベースとして車に搭載してもよいが、情報センタから通信によって入手する様態で実施してもよい。
【0022】
道路情報取得部3は、自車位置検出部1によって検出された自車位置の信号と、地図情報取得部2により自車周辺の道路情報を取得し、取得された道路情報を車内LAN(Local Area Network)等の通信手段を用いて走行制御装置20に出力する。
【0023】
情報報知部4は、現在の走行及び制御モード、自車周辺の道路案内、カーブでの走行速度、並びに減速の事前案内などを、運転者に分かり易く、スピーカを介して音声で報知したり、ディスプレイを介して画面表示で報知する。
【0024】
なお、車載端末装置10は、経路探索機能や経路誘導機能を備えた車載用ナビゲーション装置であってもよい。例えば、目的地までの経路を乗員に報知するカーナビゲーションシステムであってもよい。」

(タ) 「【0102】
次に、本実施例において、道路情報取得部3により取得される道路情報が正確に取得できなかった場合の制御方法について説明する。
【0103】
前述したとおり、車載端末装置10に代表されるナビゲーションシステムにおいてGPSを使用するものは、地形によってはマルチパスが起こるとことや衛星が捕捉できないことで精度が著しく低下することがある。ここで、精度が低下したまま道路情報を出力し、第1の目標速度の演算を行うと、走行の安定性および快適性が著しく低下してしまうことになり、道路形状検出部40の検出結果を利用した第2の目標速度との比較も困難になる。そこで、道路情報取得部3により取得される道路情報の信頼性(精度)が低い場合には、速度制御を実施しない方が好ましい。
【0104】
図12は、道路情報取得部3により取得される道路情報の信頼性(精度)を演算して、速度制御(第1の走行モード)を続けるか否かの判断を行う際の処理内容を示すフローチャートである。このフローは、速度制御部21により、定期的に行われる。
【0105】
まず、速度制御部21は、道路情報取得部3から自車周辺の道路情報を取得する(S1201)。このとき、自車位置検出部1により自車位置を検出する際に利用したGPS衛星の個数(GPS衛星捕捉数)と、GPS衛星の配置状態によって決まる測位精度の劣化を示すDOP(Dilution of Precision:測位精度劣化指数)を取得する。また、自車周辺の道路情報として、マルチパスの影響が大きい場所か否かの指標も取得する。例えば、都心部のビルが立ち並ぶような場所ではマルチパスの影響は大きく、逆に周りに遮蔽物の少ない郊外ではマルチパスの影響は小さくなる。
【0106】
次に、速度制御部21は、S1201にて取得した道路情報やGPSの測位状態の情報を用いて、道路情報取得部3により取得された道路情報の信頼性の判断を行う(S1202)。なお、ここでの道路情報の信頼性は「1」?「5」の5段階の指標により評価を行い、「1」が信頼性が低く、「5」が信頼性が高いものとする。GPS衛星捕捉数に関しては、捕捉数が多いほど信頼性が高く、DOPに関しては、その値が小さいほど信頼性は高い。また、マルチパスの影響が小さいほど信頼性は高い。これらの情報から、道路情報の信頼性を評価し、1?5の5段階に決定する。
【0107】
次に、速度制御部21は、S1202にて決定された信頼性の評価結果が所定値以上であるかの判断を行い(S1203)、所定値以上であれば(S1203でYES)、S1204へと進み、速度制御(第1の走行モード)をそのまま続行する。
【0108】
一方、信頼性の評価結果が所定値以下であった場合(S1203でNO)には、速度制御部21は、速度制御を解除するため、その旨を乗員に、音声や表示により、報知する。報知する手段としては、車載端末装置10により警告音を発生させたり、ディスプレイに表示を行ったりする方法がある。続いて、速度制御の解除を行い(S1206)、運転者の手動操作に従って自車の速度を制御する第2の走行モードに切り替える。このとき、自車が加速状態若しくは減速状態であった場合には、自車の加減速度の遷移に急変が生じないように自車の速度の制御を行った後に、速度制御を解除する。具体的には、自車が加速状態であった場合には、目標エンジントルクTTENGを徐々に小さくしていき、逆に自車が減速状態であった場合には、目標ブレーキ圧力TPBRKを徐々に小さくしていく。
【0109】
以上説明したように、道路情報取得部3により取得される道路情報の信頼性(精度)が低い場合には、速度制御を解除することで、誤った速度制御を行う可能性が低くなるため、走行の安定性が向上する。また、速度制御の解除を行う際には、乗員に事前に情報を報知できるため、乗員の安心感が向上する。さらに、速度制御を解除する際に、自車が加速状態若しくは減速状態であった場合には、自車の加減速度の遷移に急変が生じないように自車の速度の制御を行うことで、乗員に対する速度制御の唐突感を和らげることができ、乗員の安心感と走行の安定性が向上する。」

(チ) 「【0127】
<第2の実施形態>
図15は、本発明の第2の実施形態に係る自動車の走行制御システムの概略図である。
【0128】
図15は、第1の実施形態の構成(図1)において、第1目標速度演算部22を第1曲率半径情報取得部1501に、第2目標速度演算部23を第2曲率半径情報取得部1502に、最終目標速度演算部24を曲率半径目標速度演算部1503に変更した構成となっている。なお、第1曲率半径情報取得部1501と第2曲率半径情報取得部1502は走行制御装置20内の構成となっているが、第1曲率半径情報取得部1501は道路情報取得部3内の構成に、第2曲率半径情報取得部1502は道路形状取得部40内の構成としても良い。
【0129】
第1曲率半径情報取得部1501は、道路情報取得部3により取得された道路情報から曲率半径の情報を第1の曲率半径情報として取得する。同様に、第2曲率半径情報取得部1502は、道路形状検出部40により取得された道路形状の情報から曲率半径の情報を
第2の曲率半径情報として取得する。
【0130】
曲率半径目標速度演算部1503は、第1の曲率半径情報と第2の曲率半径情報を入力し、2つの曲率半径に応じた曲率半径目標速度を演算し、駆動軸要求トルク演算部25に出力する。
【0131】
次に、図16を用いて、自車前方にカーブ路を検出した場合に、第1の曲率半径情報と第2の曲率半径情報に応じて曲率半径目標速度を演算する方法について説明する。
【0132】
図16は、曲率半径目標速度演算部1503の処理内容を示すフローチャートである。
【0133】
まず、曲率半径目標速度演算部1503は、第1曲率半径情報取得部1501から第1の曲率半径情報Rk1を、第2曲率半径情報取得部1502から第2の曲率半径情報Rk2をそれぞれ取得する(S1601)。さらに、Rk1とRk2を比較して、より小さい方を曲率半径Rkに設定する(S1602)。
【0134】
次に、曲率半径目標速度演算部1503は、カーブ進入時の目標速度Vinを演算する(S1603)。
【0135】
次に、曲率半径目標速度演算部1503は、現在の速度VsがVinを超えているか否か判定する(S1604)。現在の速度VsがVinを超えていない場合(S1604でNo)、減速する必要がないので、処理を終了する。
【0136】
一方、現在の速度VsがVinを超えている場合(S1604でYES)、曲率半径目標速度演算部1503は、速度Vsとカーブ進入時の目標速度Vinに応じて減速距離Xを演算する(S1604)。減速距離Xは、車速Vsからカーブ進入時の目標速度Vinまで所定の減速度で減速する場合に必要な距離を示している。減速距離Xは(9)式により求められる。
X=1/2×A1×T2+Vs×T+(Va2-Vin2)÷(2×A2) ・・・(9)
ここで、A1は初期のエンジンブレーキを想定した減速度であり、A2はフットブレーキを想定した減速度である。また、Tは減速度A1を継続する時間であり、運転者がアクセルペダルからブレーキペダルに踏み変える時間を考慮して設定することが望ましい。また、Vsは減速開始時の速度を示しており、Vaは初期の減速が終了したときの速度である。速度Vaは減速度A1,時間Tを用いて(10)式で表される。
【0137】
Va=Vs-A1・T ・・・(10)
曲率半径目標速度演算部1503は、S1605の後、カーブ到達距離Dを演算する(S1606)。カーブ到達距離Dは、カーブの入口と自車位置までの距離を示す。さらに、減速距離Xとカーブ到達距離Dの大小関係を比較して減速開始地点に到達したか否かの判定を行う(S1607)。
【0138】
減速距離Xがカーブ到達距離Dよりも小さく、減速開始地点に到達していないと判定した場合(S1607でNO)、制御タイマtのクリア処理(=0)を行う(S1608)。さらに、目標速度TVSPにセット車速VSPSET(運転者がスイッチ操作などで設定した目標速度)を代入して(S1609)、処理を終了する。
【0139】
一方、減速距離Xがカーブ到達距離D以上となり、減速開始地点に到達したと判定した場合(S1607でYES)、曲率半径目標速度演算部1503は、制御タイマtのインクリメント処理を行う(S1610)。さらに、制御タイマtが時間Tよりも小さい場合(S1611)、エンジンブレーキを想定した減速度により目標速度TVSPを演算して
(S1612)、処理を終了する。なお、S1612における目標速度TVSPの演算は(11)式により実行される。ただし、目標速度TVSPの下限を、初期の減速が終了したときの速度Vaで制限する。
TVSP(n)=TVSP(n-1)-A1・t ・・・(11)
一方、制御タイマtが時間T以上となった場合(S1611でNO)、曲率半径目標速度演算部1503は、フットブレーキを想定した減速度により目標速度を演算して(S1613)、処理を終了する。S1613の目標速度TVSPの演算は(12)式により実行される。ただし、目標速度TVSPの下限を、カーブ進入時の目標速度Vinで制限する。
TVSP(n)=TVSP(n-1)-A2・(t-T) ・・・(12)
以上説明したように、図16に示した処理により、カーブ進入時における道路形状に応じた目標速度の設定を2つの曲率半径情報を用いて行うことが可能となる。」

(ツ) 「【0165】
なお、本実施例においては、システムの一例として、カーブ前に事前に速度を制御するシステムに関して記載したが(第3の実施形態においては、停止線及びカーブ出口を記載)、T字路や十字路などの交差点,スクールゾーンや制限速度の情報を利用して自車の速度を制御するシステムに関しても本発明は適用可能である。また、特に自車が減速動作を行うときの制御方式について説明したが、自車が加速動作を行う場合にも本発明は適用可能であることは言うまでもない。」

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、整理すると、引用文献2には、以下の事項が記載されている。

あ 「カーブ前に事前に速度を制御すること。」(以下、「引用文献2の記載事項1」という。)

い 「道路情報やGPSの測位状態の情報を用いて、道路情報取得部3により取得された道路情報の信頼性の判断を行い、道路情報の信頼性が低い場合には、速度制御を解除すること。」(以下、「引用文献2の記載事項2」という。)

本願の出願前に頒布された特開2002-329299号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面(特に【図1】を参照。)とともに次の記載がある。

(テ) 「【0018】図1においては、符号10はカーブ進入制御装置の主要構成をなす制御コントローラであり、マイクロコンピュータ及びその他の周辺回路を含んで構成される。この制御コントローラ10には、車速センサ1、ヨーレートセンサ2、横加速度センサ3等の車両挙動を検出するためのセンサ類からの情報が直接或いはユニット間通信によって入力されると共に、周知のナビゲーション装置20からの道路情報がユニット間通信によって入力される。
【0019】制御コントローラ10では、主としてナビゲーション装置20からの情報に基づいて自車が走行路前方のカーブを充分に安定して曲がれるか否かを判定し、必要に応じて、ブザー、音声警報、警告灯等からなる警報装置30を駆動させて運転者に報知する。また、強制的に減速させる必要がある場合には、制御コントローラ10から減速装置40に対して減速指令を出力し、トランスミッションのシフトダウン、エンジントルクダウン、ブレーキ作動等により減速制御を行い、更に、カーブに対する操舵角が適切でなく安全性を損なう虞がある場合には、操舵装置50に対して操舵角修正指令を出力し、操舵制御を行う。
【0020】更に、制御コントローラ10では、ナビゲーション装置20からの道路情報に基づいて演算したカーブ情報の信頼性を、センサ類で検出した実際の車両挙動を表す旋回運動パラメータから演算した実カーブ情報を用いて検証する(ナビマッチング処理)。そして、ナビゲーション装置20によるカーブ情報が実際の車両挙動に基づく実カーブ情報と整合しない場合、ナビゲーション装置20からのデータ(ナビデータ)には信頼性が無いものと判断し、設定走行距離、設定時間、或いは不整合性が解消するまでの間、警報、減速、操舵等の制御指令を中止し、誤動作を未然に回避する。」

(ト) 「【0026】同時に、制御コントローラ10では、実際の車両挙動を表す旋回運動パラメータとしてヨーレートセンサ2によるヨーレートγを用い、このヨーレートγをナビデータの同一カーブに対応する区間で積分した値∫γdtを、カーブ深さ(ナビ合計角度)s_nm_tnaviに対応するヨー角度s_nm_psiとして求める。また、最大ナビ曲率s_nm_rnavi_maxに対応するパラメータとして、車速センサ1による車速Vとヨーレートセンサ2によるヨーレートγとから演算した旋回半径(≒V/γ)により、実際の車両挙動から得られるカーブの実曲率の最大値(最大実曲率)s_nm_rpsi_maxを求める。尚、最大実曲率は、車速と横加速度とから算出しても良い。」

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、整理すると、引用文献3には、以下の事項が記載されている。

あ 「車速センサ1による車速Vとヨーレートセンサ2によるヨーレートγまたは車速と横加速度から、実際の車両挙動から得られるカーブの実曲率の最大値を求めること。」(以下、「引用文献3の記載事項1」いという。)

い 「自車が走行路前方のカーブを充分に安定して曲がれるか否かを判定し、減速させる必要がある場合には減速制御を行うこと。」(以下、「引用文献3の記載事項2」という。)

う 「ナビゲーション装置20によるカーブ情報が実際の車両挙動に基づく実カーブ情報と整合しない場合、ナビゲーション装置20からのデータ(ナビデータ)には信頼性が無いものと判断し、制御指令を中止し、誤動作を未然に回避すること。」(以下、「引用文献3の記載事項3」という。)

ウ 引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「自車両の進行方向前方」はその機能、構成及び技術的意義からみて前者の「自車両前方」に相当し、以下同様に、「カーブの半径R」は「カーブ半径」に、「認識カーブ形状」は「カーブの度合い」に、「適正車速」は「適切な走行目標速度」に、「算出」は「演算」に、「運転者の減速意思の有無に関わらず減速支援」は「減速制御を実行」に、「自動ブレーキ制御システム」は「走行制御部」に、「車両の走行安全装置10」は「車両制御装置」に、「車両状態検出部13」は「前記自車両の検出部」に、「ずれ」は「差分」に、「実カーブ判定部15c」は「判定部」に、「車両の走行安全装置10」は「車両制御装置」にそれぞれ相当する。
後者の「認識カーブ」はその機能、構成及び技術的意義からみて前者の「第1のカーブ半径」に相当する。してみると、後者の「カーブ情報に基づき認識カーブを認識する」ことは前者の「カーブ情報に基づく自車位置のカーブ半径を第1のカーブ半径として抽出する」ことに相当する。
同様に、後者の「瞬間旋回半径R」はその機能、構成及び技術的意義からみて前者の「自車両の現在の走行路のカーブ半径」に相当し、同様に「実カーブ」は「第2のカーブ半径」に相当する。そうすると、後者の「前記自車両の車両状態検出部13で検出された前記自車両のヨーレートから前記自車両の瞬間旋回半径Rに基づいて実カーブの曲率を算出」することと前者の「前記自車両の検出部で検出された前記自車両の速度およびヨーレートから前記自車両の現在の走行路のカーブ半径を第2のカーブ半径として演算」することとは、「前記自車両の検出部で検出された前記自車両のヨーレートから前記自車両の現在の走行路のカーブ半径を第2のカーブ半径として演算」することという限りで一致する。
後者の「所定範囲内」は前者の「あらかじめ設定した許容範囲内」及び「許容範囲内」に相当する。してみると、後者の「所定範囲内であること」は前者の「あらかじめ設定した許容範囲内にあるか否か」に相当し、同様に「所定範囲内であると判定された」は「許容範囲内にあるとの判定結果が得られた」に、「前記所定範囲内であると判定されない」は「前記許容範囲内にないとの判定結果が得られた」にそれぞれ相当する。そうすると、後者の「前記実カーブ判定部15cにより前記ずれが前記所定範囲内であると判定されない場合には、運転者の減速意思の有無に関わらず減速支援をしない」と前者の「前記判定部により前記差分が前記許容範囲内にないとの判定結果が得られた場合には、前記自車両が前記カーブに進入する以前に、前記減速制御を実行不可能と判断し、前記減速制御を実行中に前記減速制御を実行不可能と判断した場合には、前記自車両が前記カーブに進入する以前に、前記減速制御を中止する」とは、「前記判定部により前記差分が前記許容範囲内にないとの判定結果が得られた場合には、前記減速制御を中止する」という限りで一致する。

したがって、両者は、
「外部から自車両前方のカーブ半径、自車位置、自車両からカーブまでの距離を含む情報をカーブ情報として取得し、カーブの度合いに応じて適切な走行目標速度を演算し、カーブ手前から減速制御を実行する走行制御部を備えた車両制御装置であって、
前記自車両が前記カーブに進入する以前に、前記カーブ情報に基づく自車位置のカーブ半径を第1のカーブ半径として抽出するとともに、前記自車両の検出部で検出された前記自車両のヨーレートから前記自車両の現在の走行路のカーブ半径を第2のカーブ半径として演算し、前記第1のカーブ半径と前記第2のカーブ半径との差分があらかじめ設定した許容範囲内にあるか否かを判定する判定部を備え、
前記走行制御部は、
前記判定部により前記差分が前記許容範囲内にあるとの判定結果が得られた場合には、前記減速制御を実行し、
前記判定部により前記差分が前記許容範囲内にないとの判定結果が得られた場合には、前記減速制御を中止する
車両制御装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
前者は「自車両の速度およびヨーレート」から「第2のカーブ半径」を「演算」するのに対し、後者は「自車両のヨーレート」から「実カーブ」を「算出」する点。

[相違点2]
「判定部により差分が許容範囲内にあるとの判定結果が得られた場合」に関し、前者は、「自車両が前記カーブに進入する以前」に、前記減速制御を実行するのに対し、後者はかかる事項を備えるか不明な点。

[相違点3]
「判定部により前記差分が前記許容範囲内にないとの判定結果が得られた場合」に関し、前者は、「前記自車両が前記カーブに進入する以前に、前記減速制御を実行不可能と判断し、前記減速制御を実行中に前記減速制御を実行不可能と判断した場合には、前記自車両が前記カーブに進入する以前に、前記減速制御を中止する」のに対し、後者はかかる事項を備えるか不明な点。

エ 判断
相違点について検討する。
相違点1について検討すると、上記「イ 引用文献の記載事項」(ウ)において上述したとおり、引用文献1の段落【0014】には、車両状態検出部13は車速センサ及びヨーレートセンサを備えて構成され、検出信号をカーブ初期状態判定部15に出力することが開示される。すなわち、引用発明においても車速及びヨーレートの検出信号を用いたものといえる。引用文献3の記載事項1のとおり、実際の車両挙動から得られるカーブの実曲率の最大値を求めるときに、ヨーレートまたは横加速度の外に車速を用いることは、本願出願前における周知の事項といえる。そうすると、引用発明においても、瞬間旋回半径Rの算出に際しヨーレートとともに車速を用いることは、当業者であれば通常の創作能力の範囲で十分理解し得たことである。この理解においては、相違点1については実質的な相違とはいえない。
仮にこのように理解できないとしても、引用文献3の記載事項1のとおり、「車速センサ1による車速Vとヨーレートセンサ2によるヨーレートγまたは車速と横加速度から、実際の車両挙動から得られるカーブの実曲率の最大値を求めること。」は従来知られた事項であるから、引用発明において、従来知られた事項を踏まえ、当業者がその通常の創作能力の範囲で相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、容易になし得たことである。

相違点2について検討すると、上記「イ 引用文献の記載事項」(ア)及び(イ)に上述したとおり、引用文献1の段落【0002】、【0003】及び【0010】には、カーブ進入前の直線部分を安全装置の作動許容範囲としていた従来技術をカーブ進入初期段階まで拡大することが開示される。
また、上記「イ 引用文献の記載事項」(エ)及び(カ)に上述したとおり、引用文献1の段落【0021】及び【0030】ないし【0032】には、認識カーブに対しては接近状態(カーブ未進入)であり、実カーブに対して未進入またはカーブ初期進入状態であるときのブレーキアシストによる減速支援に係る事項を開示する。すなわち、引用文献1においても、「自車両がカーブに進入する以前に、減速制御を実行」することは、少なくとも示唆されているといえる。さらに、「自車両がカーブに進入する以前に、減速制御を実行」することは、一般に引用文献2の記載事項1及び引用文献3の記載事項2にも記載されているように周知技術(以下、「周知技術1」という。)である。
そうすると、引用文献1において、周知技術1を踏まえ、相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者がその通常の創作能力の範囲で容易になし得たことである。

相違点3について検討すると、「イ 引用文献の記載事項」(オ)に上述したとおり、引用文献1の段落【0026】には、「実カーブが認識カーブと同一カーブか否かを判定する」ことと、「判定結果が非同一である場合には、本ルーチンの実行を一旦終了する」ことが開示されている。そして、判定結果が非同一である場合は、ブレーキアシスト制御が実行不可能と判断した場合といえるから、引用文献1には、相違点3に係る本件補正発明の発明特定事項における「判定部により差分が許容範囲内にないとの判定結果が得られた場合には、減速制御を実行不可能と判断し、減速制御を実行中に減速制御を実行不可能と判断した場合には、減速制御を中止する」が少なくとも示唆され、引用発明も備えているといえる。
そして、相違点2における検討において指摘したとおり、引用文献1にも、「自車両がカーブに進入する以前に、減速制御を実行」することは少なくとも示唆され、周知技術1で示したとおり、「自車両がカーブに進入する以前に、減速制御を実行」することは、周知技術である。
さらに、「イ 引用文献の記載事項」(キ)に上述したとおり、引用文献1の段落【0034】には「認識カーブと実カーブが同一か否かを判定し」、実カーブと認識カーブが違う場合の誤判定を防止することが記載されているから、引用発明も認識カーブと実カーブの正誤を判定するものといえる。また、「外部からの情報に信頼性がない場合、制御指令を中止すること」は、引用文献2の記載事項2及び引用文献3の記載事項3に記載されるとおり周知技術(以下、「周知技術2」という。)である。
そうすると、引用発明において、周知技術1及び周知技術2を踏まえ、当業者がその通常の創作能力の範囲で、相違点3に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは容易になし得たことである。

また、本件補正発明は、全体としてみても、引用発明及び周知技術1並びに周知技術2から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。

したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術1並びに周知技術2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
上記2.(1)のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
また、本件補正が特許法第17条の2第3項の規定に違反しないものであったとしても、上記2.(2)のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成31年3月15日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2 1.(1)に記載のとおりのものである。

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献に記載された発明に基づいて、その出願前に発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2008-13121号公報
引用文献2:特開2008-12975号公報(周知技術を示す文献)

3.引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び2及びその記載事項は、前記第2[理由]2.(2)イに記載したとおりである。

4.対比・判断
本願発明は前記第2[理由]2.(2)で検討した本件補正発明から、「前記自車両が前記カーブに進入する以前に、前記カーブ情報に基づく自車位置のカーブ半径を第1のカーブ半径として抽出するとともに、前記自車両の検出部で検出された前記自車両の速度およびヨーレートから前記自車両の現在の走行路のカーブ半径を第2のカーブ半径として演算し、前記第1のカーブ半径と前記第2のカーブ半径との差分があらかじめ設定した許容範囲内にあるか否かを判定する判定部」について、「前記自車両が前記カーブに進入する以前に」との限定を削除し、「前記判定部により前記差分が前記許容範囲内にあるとの判定結果が得られた場合には、前記自車両が前記カーブに進入する以前に、前記減速制御を実行し」について「前記自車両が前記カーブに進入する以前に」との限定を削除し、「判定部により前記差分が前記許容範囲内にないとの判定結果が得られた場合には、前記自車両が前記カーブに進入する以前に、前記減速制御を実行不可能と判断し」について「前記自車両が前記カーブに進入する以前に」との限定を削除し、さらに「前記減速制御を実行中に前記減速制御を実行不可能と判断した場合には、前記自車両が前記カーブに進入する以前に、前記減速制御を中止する」について「前記自車両が前記カーブに進入する以前に」との限定を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2[理由]2.(2)ウ及びエに記載したとおり、引用発明及び周知技術1並びに周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術1並びに周知技術2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-12-27 
結審通知日 2020-01-07 
審決日 2020-01-20 
出願番号 特願2017-170357(P2017-170357)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60W)
P 1 8・ 575- Z (B60W)
P 1 8・ 561- Z (B60W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 賢明塩澤 正和神山 貴行  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 齊藤 公志郎
水野 治彦
発明の名称 車両制御装置および車両制御方法  
代理人 曾我 道治  
代理人 吉田 潤一郎  
代理人 大宅 一宏  
代理人 上田 俊一  
代理人 梶並 順  

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