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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1360318
審判番号 不服2019-4378  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-03 
確定日 2020-03-05 
事件の表示 特願2016-234593「積層ポリエステルフィルムおよびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月 5日出願公開、特開2017-182041〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成28年12月2日(優先権主張 平成28年3月29日)の出願であって、平成29年9月26日付けで拒絶理由が通知され、同年11月28日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、平成30年4月25日付けで拒絶理由が通知され、同年7月5日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年12月25日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、平成31年4月3日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。


2 本件発明
本願の請求項1?7に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は、以下のとおりのものである。
「ポリエステルフィルム基材の少なくとも片面に、炭素-炭素二重結合を有する化合物を含有する塗布層および量子ドット含有層を有し、該炭素-炭素二重結合を有する化合物が(メタ)アクリレート化合物であり、該(メタ)アクリレート化合物に対する炭素-炭素二重結合部の割合が3重量%以上であることを特徴とする積層ポリエステルフィルム。」

なお、本件発明1は、平成30年7月5日に提出された手続補正書の特許請求の範囲(以下、「本件補正前」という。)の請求項1の記載を、請求項8の記載(炭素-炭素二重結合を有する化合物が(メタ)アクリレート化合物)を介して引用する請求項9((メタ)アクリレート化合物に対する炭素-炭素二重結合部の割合は、3重量%以上である)に係る発明に該当する。
また、同様に、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項2?7(以下、「本件発明2」?「本件発明7」という。)に係る発明は、本件補正前の以下の請求項に係る発明に該当する。

本件発明2:本件補正前の請求項1、2、8の記載を引用する請求項9
本件発明3:本件補正前の請求項1、3、8の記載を引用する請求項9
本件発明4:本件補正前の請求項1、4、8の記載を引用する請求項9
本件発明5:本件補正前の請求項1、5、8の記載を引用する請求項9
本件発明6:本件補正前の請求項1、7、8の記載を引用する請求項9
本件発明7:本件補正前の請求項1,8、9の記載を引用する請求項10

以上のとおり、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に係る発明は、すべて、本件補正前の何れかの請求項に係る発明に該当するものである。そうすると、本件補正は、本件補正前の請求項1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2?5、7に係る発明、及び、請求項6に係る発明を削除するものであることは明らかである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる「請求項の削除」を目的とするものである。


3 原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶理由の概要は、本件補正前の請求項9に係る発明について、その優先権主張の日前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づいて、その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
なお、主引用発明が記載された文献として引用された引用文献1、及び、副引用文献又は周知技術を示す文献として引用された引用文献2は、以下に示すものである。

引用文献1:国際公開第2016/013656号
引用文献2:国際公開第2015/015900号


4 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶理由に引用され、本願の優先権主張の基礎とされた先の出願前の2016年(平成28年)1月28日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された引用文献1(国際公開第2016/013656号)には、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。引用文献2についても同様である。

ア 「技術分野
[0001] 本発明は、積層フィルム及び積層体、並びに、波長変換シート、バックライトユニット及びエレクトロルミネッセンス発光ユニットに関する。

(中略)

発明が解決しようとする課題
[0005] しかしながら、本発明者の検討によれば、特許文献1に記載のバリア性積層体を用いたとしても、いまだ十分な密着性が得られているとは言えなかった。本発明は、密着性を向上でき、優れた不透湿性を得ることが可能な積層フィルム及び積層体、並びに、これらにより得られる波長変換シート、バックライトユニット及びエレクトロルミネッセンス発光ユニットを提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0006] 本発明は、バリアフィルムと、該バリアフィルム上に形成された易接着層とを備え、上記易接着層は、反応性炭素炭素二重結合を有する基及び2つ以上の水酸基を含む重合体、並びに、ポリイソシアネートを含有し、上記易接着層の厚さが0.01μm以上1μm以下である、積層フィルムを提供する。本発明の積層フィルムでは、易接着層が上記構成を備えることにより、積層フィルムの密着性を向上でき、優れた不透湿性を得ることが可能となる。

(中略)

[0008] 上記積層フィルムにおいて、上記バリアフィルムが、第一の高分子フィルムと、該第一の高分子フィルム上に形成された不透湿層とを含み、上記易接着層は上記バリアフィルムの上記不透湿層側に形成されていることが好ましい。バリアフィルムが上記構成を備えることにより、十分な不透湿性が得られやすくなる。

(中略)

[0013] 本発明はさらに、波長変換層と、上記波長変換層の両面上に形成された一対の保護フィルムとを備え、上記保護フィルムの少なくとも一方が上記積層フィルムの上記易接着層を硬化させて得られる硬化積層フィルムである、波長変換シートを提供する。本発明の波長変換シートによれば、波長変換層との密着性を向上することができ、高温での長期保存後も優れた外観と発光効率を維持することができる。

(中略)

発明の効果
[0016] 本発明によれば、密着性を向上でき、優れた不透湿性を得ることが可能な積層フィルム及び積層体、並びに、これらにより得られる波長変換シート、バックライトユニット及びエレクトロルミネッセンス発光ユニットを提供することができる。」

イ 「発明を実施するための形態
[0018] 以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
[0019][積層フィルム20]
図1は本発明の一実施形態に係る積層フィルムの概略断面図である。本実施形態に係る積層フィルム20は、第一の高分子フィルム2と、第一の高分子フィルム2上に形成された不透湿層4と、不透湿層4上に形成された第二の高分子フィルム8と、第二の高分子フィルム8上に形成された易接着層10とを備える。図1において、第二の高分子フィルム8は粘着層又は接着層6を介して不透湿層4上に配置されている。
[0020] 図1において、易接着層10以外の層をまとめてバリアフィルム11と称することができる。バリアフィルム11はガスバリア性を有するフィルムであり、バリアフィルム11の構成は図1に示した構成に限定されない。例えば、積層フィルム20において、バリアフィルム11は、第一の高分子フィルム2と、該第一の高分子フィルム2上に形成された不透湿層4とを含んでいてもよい。この場合、易接着層10はバリアフィルム11の不透湿層4側に形成することができる。バリアフィルム11が第一の高分子フィルム2と不透湿層4を備えることにより、十分な強度と不透湿性が得られやすくなる。また、積層フィルム20では、バリアフィルム11がさらに、不透湿層4上に配置された第二の高分子フィルム8を含んでいてもよい。この場合、易接着層10は第二の高分子フィルム8上に形成することができる。バリアフィルム11が第二の高分子フィルム8を備えることにより、加工及び流通等における破損を一層抑制することができる。

(中略)

[0046](第二の高分子フィルム8)
第二の高分子フィルム8は、必要に応じて粘着層又は接着層6を介して、不透湿層4上に配置される。第二の高分子フィルム8としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ナイロン等のポリアミド;ポリプロピレン及びシクロオレフィン等のポリオレフィン;ポリカーボネート;並びにトリアセチルセルロース等が挙げられるが、これらに限定されない。第二の高分子フィルム8はポリエステルフィルム又はポリアミドフィルムであることが好ましく、ポリエチレンテレフタレートフィルムであることがより好ましい。また、第二の高分子フィルム8は二軸延伸されていることが好ましい。

(中略)

[0064](易接着層10)
易接着層10は第二の高分子フィルム8上(バリアフィルム11上)に形成される。易接着層10は、反応性炭素炭素二重結合を有する基及び2つ以上の水酸基を含む重合体、並びに、ポリイソシアネートを含有する。易接着層10は、さらに後述する反応性炭素炭素二重結合を有する基及び水酸基を含む単量体を含有していてもよい。反応性炭素炭素二重結合とは、ラジカル重合又はカチオン重合可能な炭素炭素二重結合を指す。反応性炭素炭素二重結合を有する基は、エチレン性不飽和二重結合を有する基であることが好ましく、例えば、スチリル基又は(メタ)アクリロイル基等であることがより好ましく、アクリロイル基であることがさらに好ましい。反応性炭素炭素二重結合を有する基がアクリロイル基であることにより、反応性が向上し、より優れた密着性が得られる傾向がある。
[0065] 反応性炭素炭素二重結合を有する基及び2つ以上の水酸基を含む重合体は、反応性炭素炭素二重結合を有する基を含む単量体を重合することにより得られる。上記単量体は1種類の単量体から構成されていてもよく、複数種類の単量体から構成されていてもよい。重合体の製造に用いられる単量体が1種類の単量体から構成される場合、上記単量体は反応性炭素炭素二重結合を有する基及び水酸基を有する基を含む単量体である。また、重合体の製造に用いられる単量体が複数種類の単量体から構成される場合、上記単量体は反応性炭素炭素二重結合を有する基及び水酸基を含む単量体と、反応性炭素炭素二重結合を有する基を含む別の単量体との組み合わせであることができる。
[0066] 上記反応性炭素炭素二重結合を有する基を含む単量体は、(メタ)アクリロイル基を含む単量体又はスチリル基を含む単量体であることが好ましく、(メタ)アクリロイル基を含む単量体であることがより好ましい。(メタ)アクリロイル基を含む単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、アルキル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、及びエポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。上記アルキル(メタ)アクリレートのアルキル基の炭素数は例えば1?5である。また、反応性炭素炭素二重結合を有する基及び水酸基を含む単量体は、(メタ)アクリロイル基及び水酸基を含む単量体又はスチリル基及び水酸基を含む単量体であることが好ましく、(メタ)アクリロイル基及び水酸基を含む単量体であることがより好ましい。(メタ)アクリロイル基及び水酸基を含む単量体としては、(メタ)アクリル酸、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、及びペンタエリスリトールトリアクリレート等が挙げられる。上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのアルキル基の炭素数は例えば1?5である。

(中略)

[0071] 易接着層10は、例えば、反応性炭素炭素二重結合を有する基及び2つ以上の水酸基を含む重合体、並びに、ポリイソシアネートを含有する接着剤を、第二の高分子フィルム8上(バリアフィルム11上)に塗布し、塗布膜を乾燥することにより得られる。上記接着剤は反応性炭素炭素二重結合を有する基及び2つ以上の水酸基を含む重合体と、ポリイソシアネートと、上記重合体及びポリイソシアネートを溶解する溶媒とを含有することが好ましい。溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサンノン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、及びブタノール等を使用することができる。

(中略)

[0083][波長変換シート100]
上記積層フィルム20及び積層体30を用いて、波長変換シートを提供することができる。図3は本発明の第一の実施形態に係る波長変換シートの概略断面図である。図3において、波長変換シート100は、波長変換層13と、波長変換層13の両面上に形成された一対の硬化積層フィルム20’a,20’bを保護フィルムとして備える。第一硬化積層フィルム20’aは第一の高分子フィルム2aと、第一の高分子フィルム2a上に形成された不透湿層4aと、不透湿層4a上に形成された硬化接着層10’aを備え、第二硬化積層フィルム20’bは第一の高分子フィルム2bと、第一の高分子フィルム2b上に形成された不透湿層4bと、不透湿層4b上に形成された硬化接着層10’bを備える。第一硬化積層フィルム20’aは、第一硬化接着層10’aが波長変換層13と対向するように、波長変換層13の一方の面上に形成され、第二硬化積層フィルム20’bは、第二硬化接着層10’bが波長変換層13と対向するように、波長変換層13の他方の面上に形成されている。また、波長変換シート100は、波長変換層13と、波長変換層13の両面上に形成された一対の保護フィルムとを備え、上記保護フィルムの一方のみが硬化積層フィルム20’であってもよい。

(中略)

[0086] 波長変換層13は外部からのエネルギーを光に変換して発光する発光体層であり、励起光の入射によって発光することができる。波長変換層13は、第一の高分子フィルム2を内側にした状態で一対の上記積層フィルム20によって蛍光体層を挟持するとともに密封し、必要に応じて、蛍光体層と積層フィルム20の間を封止樹脂で封止することにより得られる。波長変換層13の厚さは、例えば、10?500μmである。
[0087] 蛍光体層は樹脂及び蛍光体を含む。上記樹脂としては、例えば、光硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂を用いることができる。上記蛍光体としては、例えば、発光部としてのコアが保護膜としてのシェルで被覆されたものが挙げられる。上記コアとしては、例えば、セレン化カドミウム(CdSe)等が挙げられ、上記シェルとしては、例えば、硫化亜鉛(ZnS)等が挙げられる。CdSeの粒子の表面欠陥がバンドギャップの大きいZnSにより被覆されることで量子効率が向上する。また、蛍光体は、コアが第1シェル及び第2シェルにより二重に被覆されたものであってもよい。この場合、コアにはCsSe、第1シェルにはセレン化亜鉛(ZnSe)、第2シェルにはZnSが使用できる。上記蛍光体は2種類以上を組み合わせて用いられる。また、1種類の蛍光体のみを含む蛍光体層と別の種類の蛍光体のみを含む蛍光体層とが積層されていてもよい。上記2種類の蛍光体は、励起波長が同一のものが選択される。励起波長は、発光ダイオード光源が照射する光の波長に基づいて選択される。2種類の蛍光体の蛍光色は相互に異なる。各蛍光色はそれぞれ、赤色及び緑色である。各蛍光の波長、及び発光ダイオード光源が照射する光の波長は、カラーフィルタの分光特性に基づき選択される。蛍光のピーク波長は、例えば、赤色が610nmであり、緑色が550nmである。上記蛍光体は量子ドットであることが好ましい。上記蛍光体の平均粒子径は、例えば、1nm?20nmである。
[0088] 図4は本発明の第二の実施形態に係る波長変換シートの概略断面図である。本実施形態の波長変換シート100では、第一硬化積層フィルム20’aが備えるバリアフィルム11aが、第一の高分子フィルム2aと、第一の高分子フィルム2a上にアンカーコート層3aを介して形成された不透湿層4aと、不透湿層4a上に粘着層又は接着層6aを介して形成された第二の高分子フィルム8aを含み、第二硬化積層フィルム20’bが備えるバリアフィルム11bが、第一の高分子フィルム2bと、第一の高分子フィルム2b上にアンカーコート層3bを介して形成された不透湿層4bと、不透湿層4b上に粘着層又は接着層6bを介して形成された第二の高分子フィルム8bを含む点で、第一の実施形態に係る波長変換シートと異なる。第一硬化接着層10’aはバリアフィルム11aの第二の高分子フィルム8a上に形成されており、第二硬化接着層10’bはバリアフィルム11bの第二の高分子フィルム8b上に形成されている。硬化積層フィルム20’及び波長変換層13の構成の詳細は上述のとおりである。」
なお、図4は、以下のとおりのものである。


ウ 「実施例
[0101] 以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。

(中略)

[0139][波長変換シートの作製]
(実施例3)
図4に示す波長変換シートを作製するために、第一の高分子フィルム2aとして二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:P60、厚さ:12μm、東レ株式会社製)をコロナ放電処理し、その面上にポリエステル樹脂溶液をバーコート法により塗布し、80℃1分乾燥硬化させることにより、厚さ100nmのアンカーコート層3aを形成した。
[0140] 電子ビーム加熱式の真空蒸着装置を用いて、酸化珪素材料(キヤノンオプトロン株式会社製)を1.5×10^(-2)Paの圧力下で電子ビーム加熱によって蒸発させ、上記アンカーコート層3a上に厚さ40nmのSiO_(x)膜を形成した。なお、蒸着における加速電圧は40kVであり、エミッション電流は0.2Aであった。
[0141] テトラエトキシシランの加水分解物とポリビニルアルコールを1/1の質量比で混合した混合液を、上記SiO_(x)膜上にバーコート法により塗布し、120℃1分乾燥硬化させることにより、厚さ400nmのSiO_(x)膜を形成した。さらに、同様の手順で真空蒸着による厚さ40nmのSiO_(x)膜と塗布による厚さ400nmのSiO_(x)膜とをこの順で形成した。このようにしてアンカーコート層上に形成された、真空蒸着によるSiO_(x)膜と塗布によるSiO_(x)膜とを交互に2層備える多層膜を不透湿層4aとした。
[0142] 上記不透湿層4a上に接着剤(商品名:タケラックA525、三井化学株式会社製)を塗布して粘着層6aとし、上記接着剤を介して上記不透湿層4aと、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(第二の高分子フィルム8a、商品名:FE2001、厚さ:25μm、フタムラ化学株式会社製)のコロナ放電処理された面を貼り合わせ、50℃2日間エージングを実施し、第一バリアフィルム11aを得た。貼り合わせ後の接着層6aの厚さは5μmであった。
[0143] アクリル酸35質量部、ヒドロキシエチルアクリレート35質量部、及びノルマルブチルアクリレート30質量部を重合して得られたアクリル樹脂(重量平均分子量:30000)70質量部と、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(商品名:デスモジュールN3300、住化バイエルウレタン社製)30質量部との混合溶液を作製し、第一バリアフィルム11aの第二の高分子フィルム8aの表面上に塗布した。塗布液を乾燥し、厚さ0.2μmの第一易接着層10aを形成した。以上のようにして、第一バリアフィルム11a上に第一易接着層10aが形成された、第一積層フィルム20aを作製した。
[0144] 第一バリアフィルム11aと同様の方法で、第一の高分子フィルム2b、アンカーコート層3b、不透湿層4b、接着層6b、及び第二の高分子フィルム8bがこの順に積層された、第二バリアフィルム11bを作製した。また、第二バリアフィルム11bの第二の高分子フィルム8bの表面上に、第一易接着層10aと同様の方法で、厚さ0.2μmの第二易接着層10bを形成した。以上のようにして、第二バリアフィルム11b上に第二易接着層10bが形成された、第二積層フィルム20bを作製した。
[0145] 第一バリアフィルム11a上の第一易接着層10a上に、コアがセレン化カドミウム(CdSe)、シェルが硫化亜鉛(ZnS)の量子ドット発光体が熱硬化型エポキシ樹脂に分散した材料を滴下し、第二バリアフィルム11b上の第二易接着層10bを、滴下した材料に接触させ、ラミネーターを用いて、滴下した材料が均一な膜となるように第一バリアフィルム11aと第二バリアフィルム11bとを滴下した材料を介してラミネートした。
[0146] 室温で24時間エージングすることにより、上記エポキシ樹脂を硬化させ、第一バリアフィルム11aと第二バリアフィルム11bとの間に波長変換層13を形成し、波長変換シート100を作製した。このとき、波長変換層13の厚みは100μmであった。

(中略)

[0151] 易接着層と発光体層との密着性、長期信頼性外観、長期信頼性発光効率の評価結果を表2に示す。
[0152]
[表2]

[0153] 表2に示されるように、実施例3の波長変換シートでは、優れた密着性が得られ、上記波長変換シートを用いて作製したバックライトユニットでは、優れた長期信頼性が得られた。これに対し、比較例5の波長変換シートでは、十分な密着性が得られず、上記波長変換シートを用いて作製したバックライトユニットでは、長期信頼性試験中に第一バリアフィルム及び第二バリアフィルムが波長変換層から剥がれた。このため、量子ドット発光体が失活し、保存後の波長変換シートを用いて作製したバックライトユニットからは光源からの青色光が確認された。これは、光源からの青色光が波長変換層によって変換されなかった(白色光とならなかった)ことを意味し、波長変換層からの発光が著しく低減したと判断することができる。これは、易接着層形成の有無による相違である。」

エ 「請求の範囲
[請求項1] バリアフィルムと、該バリアフィルム上に形成された易接着層とを備え、
前記易接着層は、反応性炭素炭素二重結合を有する基及び2つ以上の水酸基を含む重合体、並びに、ポリイソシアネートを含有し、
前記易接着層の厚さが0.01μm以上1μm以下である、積層フィルム。

(中略)

[請求項3] 前記バリアフィルムが、第一の高分子フィルムと、該第一の高分子フィルム上に形成された不透湿層とを備え、前記易接着層は前記バリアフィルムの前記不透湿層側に形成されている、請求項1又は2に記載の積層フィルム。

(中略)

[請求項9] 波長変換層と、前記波長変換層の両面上に形成された一対の保護フィルムとを備え、前記保護フィルムの少なくとも一方が請求項1?7のいずれか一項に記載の積層フィルムの前記易接着層を硬化させて得られる硬化積層フィルムである、波長変換シート。」

(2)引用文献1に記載された発明
前記(1)イによれば、引用文献1には、図4に示される断面図を有する第二の実施形態に係る波長変換シート(特に、段落[0088])が記載されており、波長変換シートについて、波長変換層13の両面上に形成された一対の硬化積層フィルム20’a,20’bを備え、第一硬化積層フィルム20’aが備えるバリアフィルム11aの第二の高分子フィルム8a上に形成される第一硬化接着層10’aがを介して波長変換層13が配置されることが示されている。
また、第二の高分子フィルム8としては、ポリエチレンテレフタレートフィルムであることがより好ましい(段落[0046])ことが記載されており、易接着層10が、反応性炭素炭素二重結合を有する基及び2つ以上の水酸基を含む重合体、並びに、ポリイソシアネートを含有し、さらに反応性炭素炭素二重結合を有する基及び水酸基を含む単量体を含有していてもよい(段落[0064])ものであって、反応性炭素炭素二重結合を有する基を含む単量体は、(メタ)アクリロイル基を含む単量体であることがより好ましい(段落[0066])こと、接着剤を、第二の高分子フィルム8上に塗布し、塗布膜を乾燥することにより得られる(段落[0071])ことが記載されており、波長変換層13は、積層フィルム20によって蛍光体層を挟持するとともに密封することにより得られる(段落[0086])こと、蛍光体層は樹脂及び蛍光体を含み、蛍光体は量子ドットであることが好ましい(段落[0087])ことが記載されている。
以上より、引用文献1の前記(1)イの記載に基づけば、引用文献1には、図4に示される断面図を有する好ましい第二の実施形態に係る波長変換シートの発明として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「波長変換層13と、波長変換層13の両面上に形成された一対の硬化積層フィルム20’a,20’bを保護フィルムとして備える波長変換シート100であって、
第一硬化積層フィルム20’aが備えるバリアフィルム11aが、第一の高分子フィルム2aと、第一の高分子フィルム2a上にアンカーコート層3aを介して形成された不透湿層4aと、不透湿層4a上に粘着層又は接着層6aを介して形成された第二の高分子フィルム8aを含み、第二硬化積層フィルム20’bが備えるバリアフィルム11bが、第一の高分子フィルム2bと、第一の高分子フィルム2b上にアンカーコート層3bを介して形成された不透湿層4bと、不透湿層4b上に粘着層又は接着層6bを介して形成された第二の高分子フィルム8bを含む波長変換シート100であり、
第一硬化接着層10’aは、バリアフィルム11aの第二の高分子フィルム8a上に形成されており、第二硬化接着層10’bは、バリアフィルム11bの第二の高分子フィルム8b上に形成されており、
第二の高分子フィルム8a、8bは、ポリエチレンテレフタレートフィルム等のポリエステルであり、
易接着層10a、10bは、第二の高分子フィルム8a、8b上に形成され、反応性炭素炭素二重結合を有する基及び2つ以上の水酸基を含む重合体、並びに、ポリイソシアネートを含有し、易接着層10a、10bは、さらに反応性炭素炭素二重結合を有する基及び水酸基を含む単量体を含有しており、反応性炭素炭素二重結合を有する基を含む単量体は、(メタ)アクリロイル基を含む単量体であり、接着剤を、第二の高分子フィルム8a、8b上に塗布し、塗布膜を乾燥することにより得られ、
波長変換層13は、一対の上記積層フィルム20’a,20’bによって蛍光体層を挟持するとともに密封することにより得られ、蛍光体層は、樹脂及び蛍光体を含み、上記蛍光体は量子ドットである、
波長変換シート100。」

(3)引用文献2に記載された発明
原査定の拒絶理由に引用され、本願の優先権主張の基礎とされた先の出願前の2015年(平成27年)2月5日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された引用文献2(国際公開第2015/015900号)には、以下の事項が記載されている。

ア 「技術分野
[0001] 本発明は、塗布フィルムに関するものであり、特に、液晶ディスプレイのバックライトユニット等に用いられるプリズムシートやマイクロレンズ用部材として好適に用いられ、各種の機能層との密着性が良好な塗布フィルムに関するものである。

(中略)

発明が解決しようとする課題
[0008] 本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、各種の無溶剤系の樹脂に良好な密着性を有し、例えば、液晶ディスプレイのバックライトユニット等に用いられるプリズムシートやマイクロレンズ用部材として好適に利用することができる塗布フィルムを提供することにある。
課題を解決するための手段
[0009] 本発明者らは、上記実情に鑑み、鋭意検討した結果、特定の構成からなる塗布フィルムを用いれば、上述の課題を容易に解決できることを知見し、本発明を完成させるに至った。
[0010] すなわち、本発明の要旨は、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、ウレタン(メタ)アクリレート化合物(a)と、オキサゾリン化合物、イソシアネート系化合物及びカルボジイミド系化合物の中から選ばれる少なくとも1種の化合物(b)とを含有する塗布液から形成された塗布層を有することを特徴とする塗布フィルムに存する。
発明の効果
[0011] 本発明の塗布フィルムによれば、各種のプリズム層やマイクロレンズ層等の表面機能層に対して、密着性、耐湿熱性に優れた塗布フィルムを提供することができ、その工業的価値は高い。」

イ 「[0026] 次に本発明における塗布フィルムを構成する塗布層の形成について説明する。塗布層に関しては、ポリエステルフィルムの製膜工程中にフィルム表面を処理する、インラインコーティングにより設けられてもよく、一旦製造したフィルム上に系外で塗布する、オフラインコーティングを採用してもよい。より好ましくはインラインコーティングにより形成されるものである。

(中略)

[0028] 本発明においては、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、ウレタン(メタ)アクリレート化合物(a)と、オキサゾリン化合物、イソシアネート系化合物及びカルボジイミド系化合物の中から選ばれる少なくとも1種の化合物(b)とを含有する塗布液から形成された塗布層を有することを必須の要件とするものである。

(中略)

[0030] 密着性向上の推測メカニズムは、プリズム層やマイクロレンズ層を形成する際に照射する紫外線により、本発明のフィルムの塗布層に含有されるウレタン(メタ)アクリレート化合物中の炭素-炭素二重結合と、プリズム層やマイクロレンズ層の形成に用いられる化合物の炭素-炭素二重結合とを反応させ、共有結合を形成させるというものである。
[0031] ウレタン(メタ)アクリレート化合物に対する炭素-炭素二重結合の割合は、プリズム層やマイクロレンズ層への密着性、特に屈折率が高い樹脂への密着性を考慮すると、5重量%以上が好ましく、より好ましくは10重量%以上である。」

ウ 「 請求の範囲
[請求項1] ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、ウレタン(メタ)アクリレート化合物(a)と、オキサゾリン化合物、イソシアネート系化合物及びカルボジイミド系化合物の中から選ばれる少なくとも1種の化合物(b)とを含有する塗布液から形成された塗布層を有することを特徴とする塗布フィルム。
[請求項2] ウレタン(メタ)アクリレート化合物中の炭素-炭素二重結合の割合が5重量%以上である請求項1に記載の塗布フィルム。」

4 対比
本件発明1と引用発明とを対比する。

ア 基材フィルム
引用発明の「第二の高分子フィルム8a、8b」は、その上に易接着層10a、10bが形成されることから、「基材」としての機能を有するものである。また、引用発明の「第二の高分子フィルム8a、8b」は、「ポリエチレンテレフタレートフィルム等のポリエステル」のフィルムである。
したがって、引用発明の「第二の高分子フィルム8a、8b」は、本件発明1の「ポリエステルフィルム基材」に相当する。

イ 塗布層
引用発明の「易接着層10a、10b」は、「接着剤を、第二の高分子フィルム8a、8b上に塗布し、塗布膜を乾燥する」ことにより得られるものである。そうすると、引用発明の「易接着層10a、10b」は、本件発明1の「塗布層」に相当する。
また、引用発明の「易接着層10a、10b」は、「反応性炭素炭素二重結合を有する基及び2つ以上の水酸基を含む重合体、並びに、ポリイソシアネートを含有し、易接着層10a、10bは、さらに反応性炭素炭素二重結合を有する基及び水酸基を含む単量体を含有して」いる。ここで、引用発明の「反応性炭素炭素二重結合を有する基及び水酸基を含む単量体」は、技術的にみて、本件発明1の「炭素-炭素二重結合を有する化合物」に相当する。さらに、引用発明は、「反応性炭素炭素二重結合を有する基を含む単量体は、(メタ)アクリロイル基を含む単量体」であるとされているから、「反応性炭素炭素二重結合を有する基及び水酸基を含む単量体」は「反応性炭素炭素二重結合を有する基」として「(メタ)アクリロイル基」を有するといえる。ここで、引用発明の「(メタ)アクリロイル基を含む単量体」は、技術的にみて、本件発明1の「(メタ)アクリレート化合物」に相当する。
したがって、引用発明の「易接着層10a、10b」は、本件発明1の「炭素-炭素二重結合を有する化合物を含有する」とする要件、及び、「該炭素-炭素二重結合を有する化合物が(メタ)アクリレート化合物」であるとする要件を満たしている。
さらに、引用発明の「易接着層10a、10b」は、「第二の高分子フィルム8a、8b上」に形成されている。したがって、引用発明は、本件発明1の「ポリエステルフィルム基材の少なくとも片面」に「塗布層」を「有し」との構成を具備している。

ウ 量子ドット含有層
引用発明の「波長変換層13」は、「量子ドット」を含むものである。したがって、引用発明の「波長変換層13」は、本件発明1の「量子ドット含有層」に相当する。

エ 積層ポリエステルフィルム
引用発明の「波長変換シート100」は、「波長変換層13」と、「ポリエチレンテレフタレートフィルム等のポリエステル」とされる「第二の高分子フィルム8a、8b」を含む「一対の硬化積層フィルム20’a,20’b」とを積層してなるものである。そうすると、引用発明の「波長変換シート100」は、本件発明1の「積層ポリエステルフィルム」に相当する。

オ 一致点及び相違点
以上より、本件発明1と引用発明とは、
「ポリエステルフィルム基材の少なくとも片面に、炭素-炭素二重結合を有する化合物を含有する塗布層および量子ドット含有層を有し、該炭素-炭素二重結合を有する化合物が(メタ)アクリレート化合物である積層ポリエステルフィルム。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点](メタ)アクリレート化合物が、本件発明1は、「該(メタ)アクリレート化合物に対する炭素-炭素二重結合部の割合が3重量%以上である」のに対し、引用発明は、単量体に対する炭素-炭素二重結合部の割合が特定されていない点。


5 判断
(1)[相違点]について
引用文献1には、反応性炭素炭素二重結合を有する基を含む単量体の具体例について、「(メタ)アクリロイル基及び水酸基を含む単量体としては、(メタ)アクリル酸、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、及びペンタエリスリトールトリアクリレート等が挙げられる。上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのアルキル基の炭素数は例えば1?5である。」(段落[0066])と記載されている。ここで、これらの単量体における炭素-炭素二重結合部の割合は、それぞれ、メタアクリル酸が27.9%、炭素数5のヒドロキシアルキルメタクリレートが14.0%、ペンタエリスリトールトリアクリレートが24.2%であり、いずれも、単量体に対する炭素-炭素二重結合部の割合が3重量%以上であるとする要件を満たすものである。
(合議体注:
メタアクリル酸
C_(4)H_(6)O_(2) Mw=86.09
C=C 24.02
24.02÷86.09×100=27.90
ヒドロキシペンタンメタクリレート
C_(9)H_(16)O_(3) Mw=172.22
C=C 24.02
24.02÷172.22×100=13.95
ペンタエリスリトールトリアクリレート
C_(14)H_(18)O_(7) Mw=298.28
C=C 24.02
24.02×3÷298.28×100=24.16 )
また、引用文献2には、「無溶剤系の樹脂に良好な密着性」を有する塗布フィルム(段落[0008])において、「ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、ウレタン(メタ)アクリレート化合物(a)と、オキサゾリン化合物、イソシアネート系化合物及びカルボジイミド系化合物の中から選ばれる少なくとも1種の化合物(b)とを含有する塗布液から形成された塗布層を有する」(段落[0010])こと、塗布層に含有される「ウレタン(メタ)アクリレート化合物に対する炭素-炭素二重結合の割合は、プリズム層やマイクロレンズ層への密着性、特に屈折率が高い樹脂への密着性を考慮すると、5重量%以上が好ましく、より好ましくは10重量%以上である」(段落[0031])ことが記載されている。上記記載に基づけば、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に形成される塗布層に含有される化合物の炭素-炭素二重結合の割合を5重量%以上とすることにより、密着性が良好になるという技術事項が、本願の優先権主張の基礎とされた先の出願前に知られていたことが理解できる。
そして、引用発明も「密着性を向上でき」る波長変換シートを提供することを課題としている(段落[0005])。そうすると、引用発明において、より密着性が向上するように、易接着層に用いる単量体として、炭素-炭素二重結合部の割合が5重量%以上の単量体を選択し、本件発明1の上記[相違点]に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(2)本件発明1の効果について
本願の明細書段落【0011】における「本発明によれば、色再現性に優れた量子ドット含有層、および量子ドットを含有する層に対する密着性に優れた塗布層を有する積層ポリエステルフィルムを提供することができ、従来のものよりも高い色再現性の発現や省エネルギー化を可能とするディスプレイ部材として用いることができることから、本発明の工業的価値は高い。」との記載に基づけば、本件発明1が奏する効果は、「色再現性に優れた量子ドット含有層、および量子ドットを含有する層に対する密着性に優れた塗布層を有する積層ポリエステルフィルム」を提供することであるといえる。
一方、引用発明は、「量子ドット」を含む「波長変換層13」と、「波長変換層13の両面上に形成された一対の硬化積層フィルム20’a,20’b」を備える「波長変換シート100」であって、「密着性を向上でき、優れた不透湿性を得ることが可能な積層フィルム及び積層体、並びに、これらにより得られる波長変換シート・・・を提供することができる」(段落[0016])という効果を奏するものである。また、引用文献2の段落[0031]の記載に基づけば、塗布層に含まれる化合物に対する炭素-炭素二重結合の割合を5重量%と以上とすることにより、ポリエステルフィルムへの密着性が良好となることも、本願の優先権主張の基礎とされた先の出願前に知られていたといえる。
そうすると、本件発明1の効果は、引用文献1及び引用文献2の記載に基づいて当業者が予測し得た範囲のものであるから、格別顕著なものということができない。

(3)審判請求人の主張について
ア 審判請求人は、審判請求書の請求の理由において、「引用文献1の実施例3で用いられているアクリル樹脂は、単官能アクリレートおよびアクリル酸のみを重合して得られたアクリル樹脂であり、各モノマーが有する炭素-炭素二重結合は重合過程で消費されるため、重合して得られる当該アクリル樹脂には炭素-炭素二重結合が存在せず、「炭素-炭素二重結合を有する(メタ)アクリレート化合物」には該当致しません。」、「審査官殿の仰るとおり、アクリル樹脂の重合過程により炭素-炭素二重結合が消費されているとしても、末端等には不均化停止等による二重結合が存在する可能性も考えられますが、仮にアクリル樹脂の末端等に二重結合が存在したとしても、(メタ)アクリレート化合物に対する炭素-炭素二重結合部の割合が3重量%以上であるとは考えられません。」と主張している。

(ア)しかしながら、引用文献1には、易接着層10について、重合体に加えて、「さらに後述する反応性炭素炭素二重結合を有する基及び水酸基を含む単量体を含有していてもよい。」(段落[0064])と記載されている。仮に、重合体を構成することとなるモノマーが有していた炭素炭素二重結合が、審判請求人の主張するとおり、重合過程で消費されるとしても、引用発明の「易接着層10」は、さらに「反応性炭素炭素二重結合を有する基及び水酸基を含む単量体」を含有するのであるから、引用発明の易接着層10a、10bは、炭素-炭素二重結合を有する化合物を含有しているといえる。

(イ)また、単官能アクリレート及びアクリル酸を重合してアクリル樹脂を得るに際し、全ての単官能アクリレート及びアクリル酸が、アクリル樹脂の重合過程で消費されるとは考え難い(本願明細書の段落【0064】における「できあがった塗布層中には、これら架橋剤の未反応物、反応後の化合物、あるいはそれらの混合物が存在しているものと推測できる。」との記載からも、未反応物が残存すると推認できる。)。そして、アクリル樹脂とポリイソシアネート、及び、残存する未反応の単官能アクリレートやアクリル酸を含んだ組成物が、易接着層としての機能を奏しているものと考えられる。したがって、引用文献1が、未反応の炭素-炭素二重結合を有する化合物を易接着層に含むことを排除しているということはできない。

以上のとおりであるから、審判請求人の上記主張は採用できない。

イ 審判請求人は、審判請求書の請求の理由において、さらに、「引用文献1には、易接着層中に含有されるアクリル樹脂中に反応性炭素-炭素二重結合部を意図的に存在させるといった思想は記載も示唆もされていません。」、「一方で、引用文献2に記載の炭素-炭素結合部を有するウレタン(メタ)アクリレート化合物は、反応性炭素-炭素二重結合部を意図的に存在させる設計思想です。」、「このように両化合物は、設計思想や構造が大きく異なっており、当業者が引用文献2に記載のウレタン(メタ)アクリレート化合物を参照したとしても、引用文献1に記載の、炭素-炭素二重結合部が存在しないか、仮に存在したとしても制御できないもの、反応性炭素-炭素二重結合部を意図的に存在させるといった思想がないアクリル樹脂において炭素-炭素二重結合部の割合を容易に調整できるものではありません。」と主張している。
しかしながら、引用文献1の段落[0064]には、易接着層10について、「重合体」とは別に、「さらに後述する反応性炭素炭素二重結合を有する基及び水酸基を含む単量体を含有していてもよい。」と記載されている。上記記載に基づけば、引用文献1に、易接着層中に、反応性炭素-炭素二重結合を有する化合物を含有させることが記載されていたことは明らかであり、また、引用文献1が、易接着層に反応性炭素炭素二重結合を有する基及び水酸基を含む未反応の単量体を含有することを排除していたということもできない。そして、前記(1)に記載したとおり、引用発明も引用文献2に記載された技術事項も、塗布フィルムの密着性を良好なものとする点で共通するものであり、両者の「設計思想や構造が大きく異なる」ということはできない。
したがって、審判請求人の上記主張は、採用できない。


6 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-12-27 
結審通知日 2020-01-07 
審決日 2020-01-20 
出願番号 特願2016-234593(P2016-234593)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩井 好子  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 宮澤 浩
高松 大
発明の名称 積層ポリエステルフィルムおよびその製造方法  

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