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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60W
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60W
管理番号 1360319
審判番号 不服2019-4601  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-08 
確定日 2020-03-05 
事件の表示 特願2017-25551「車両用制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年8月23日出願公開、特開2018-131040〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年2月15日の出願であって、平成30年6月12日付け(発送日:同年6月19日)で拒絶理由が通知され、平成30年8月10日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成30年12月20日付け(発送日:平成31年1月8日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成31年4月8日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判請求と同時に、手続補正書が提出されたものである。

第2 平成31年4月8日にされた手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成31年4月8日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正前の平成30年8月10日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
エンジンの駆動力を車輪に伝達するエンジンモードと、前記エンジンおよび電動機の駆動力を前記車輪に伝達するアシストモードと、を備える車両用制御装置であって、
前記電動機に接続される蓄電体と、
停止条件が成立した場合に前記エンジンを停止させ、始動条件が成立した場合に前記電動機を用いて前記エンジンを始動させるアイドリングストップ制御を、前記蓄電体のSOCが下限値を下回る場合に禁止するアイドリングストップ制御部と、
前記エンジンモードを実行したときの第1燃料消費量と、前記アシストモードを実行したときの第2燃料消費量と、を算出する消費量算出部と、
前記第1燃料消費量から前記第2燃料消費量を減算し、前記アシストモードを実行することで削減される燃料削減量を算出する削減量算出部と、
前記蓄電体のSOCが前記下限値を上回り、かつ前記燃料削減量が閾値を上回る場合に、前記アシストモードを実行する一方、前記蓄電体のSOCが前記下限値を上回り、かつ前記燃料削減量が前記閾値を下回る場合に、前記エンジンモードを実行するモード制御部と、
前記蓄電体のSOCが高い場合に、前記閾値を低く設定する一方、前記蓄電体のSOCが低い場合に、前記閾値を高く設定する閾値設定部と、
を有する、車両用制御装置。」

(2)そして、本件補正により、上述の本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおり補正された(下線は、請求人が補正箇所を示すために付したものである。)
「【請求項1】
エンジンの駆動力を車輪に伝達するエンジンモードと、前記エンジンおよび電動機の駆動力を前記車輪に伝達するアシストモードと、を備える車両用制御装置であって、
前記電動機に接続される蓄電体と、
停止条件が成立した場合に前記エンジンを停止させ、始動条件が成立した場合に前記電動機を用いて前記エンジンを始動させる、アイドリングストップ制御を実行するアイドリングストップ制御部と、
前記エンジンモードを実行したときの第1燃料消費量と、前記アシストモードを実行したときの第2燃料消費量と、を算出する消費量算出部と、
前記第1燃料消費量から前記第2燃料消費量を減算し、前記アシストモードを実行することで削減される燃料削減量を算出する削減量算出部と、
前記蓄電体のSOCが下限値を上回り、かつ前記燃料削減量が閾値を上回る場合に、前記アシストモードを実行する一方、前記蓄電体のSOCが前記下限値を上回り、かつ前記燃料削減量が前記閾値を下回る場合に、前記エンジンモードを実行するモード制御部と、
前記蓄電体のSOCが高い場合に、前記閾値を低く設定する一方、前記蓄電体のSOCが低い場合に、前記閾値を高く設定する閾値設定部と、
を有し、
前記アイドリングストップ制御部および前記モード制御部は、前記蓄電体のSOCが前記下限値を下回る場合に、前記アイドリングストップ制御および前記アシストモードを禁止する一方、前記蓄電体のSOCが前記下限値を上回る場合に、前記アイドリングストップ制御および前記アシストモードを許可する、
車両用制御装置。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「アイドリングストップ制御部およびモード制御部」について、「前記蓄電体のSOCが前記下限値を下回る場合に、前記アイドリングストップ制御および前記アシストモードを禁止する一方、前記蓄電体のSOCが前記下限値を上回る場合に、前記アイドリングストップ制御および前記アシストモードを許可する」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1(以下「本件補正発明」という。)が、同法同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

3 独立特許要件
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1.(2)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2007-176270号(以下「引用文献1」という。)には、「ハイブリッド車両の回転電機制御装置」に関して、図面と共に次の記載がある(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。

(ア)「【0027】エンジン1002、回転電機1004、変速機1006及び熱発電機1012の動作はコントローラ(制御手段)1018により制御される。コントローラ1018は、図示しないセンサ等を経由して図1に示す各機器の状態たとえば回転数や燃料消費量や電圧、電流などを検出するとともに運転者の意想をアクセルペダル踏み量やブレーキペダル踏み量などにより検出している。なお、熱発電機1012はエンジン1002の廃熱を利用する発電手段の一例であり、太陽電池など他の発電手段に置換可能である。これらのセンサ及び機器制御自体は従来と同様であり、かつ、ハイブリッド車技術では周知事項でもあるため、詳細説明は省略する。」

(イ)「【0013】上記課題を解決する第1発明のハイブリッド車両の回転電機制御装置は、走行動力を発生するエンジンと、前記エンジンと動力授受する回転電機及び電力を充放電する蓄電装置を含む電源系と、前記回転電機の作動を制御する制御装置とを備えるハイブリッド車両の回転電機制御装置において、前記制御装置が、前記回転電機の発電動作により得られる経済効果と、前記回転電機の電動動作により得られる経済効果とを同一単位系にて算出し、前記発電動作と電動動作とのうち経済効果が大きい方の動作を前記回転電機に指令することを特徴としている。」

(ウ)「【0016】好適な態様において、前記制御装置は、前記蓄電装置の残存容量が所定基準レベルよりも小さい場合には前記蓄電装置の残存容量を回復する方向へ、前記蓄電装置の残存容量が所定基準レベルよりも大きい場合には前記蓄電装置の残存容量を減らす方向へ前記電費閾値をシフトする。このようにすれば、残存容量を基準値にシフトしつつ回転電機の経済的な運転が可能となる。

(エ)「【0031】この車両側指令すなわち直接要求は、例えば回転電機1004だけにより車両駆動したい時や、エンジン出力だけの車両駆動力では不十分であり回転電機の動力を付加したい時や、あるいはエンジンのトルク応答が遅いため回転電機でトルクを付加したいとき等の種々の運転条件にて発生する。もちろん、コントローラ1018内にて、外部からの入力情報を判断してこの車両側指令すなわち直接要求を創成してもよい。」

(オ)「【0033】(ステップ1106)次のステップ1106では、回転電機1004を電動動作させてトルクアシストする際の燃費改善効果であるトルクアシストモード時燃費改善効果(駆動効果とも言う)を算出する。また、トルクアシストモードにおける回転電機1004の好適な駆動電力である駆動指令値を算出する。駆動効果の算出については後述する。なお、ここで言うトルクアシストモードの中には、エンジンを停止し、全ての駆動力をモータで出力する所謂EV走行モードもアシストの一つの形態として含んでいる。」

(カ)「【0049】(駆動効果及び駆動指令値の演算)回転電機1004をトルクアシストモードで運転する場合すなわち回転電機1004を電動動作(駆動とも言う)させる場合の燃費改善効果である駆動効果と、この時の好適な駆動指令値とを算出する駆動効果及び駆動指令値算出サブルーチン(ステップ1106)について図4に示すフローチャートを参照して説明する。
【0050】まず、ステップ1302にて、エンジン電費Dengを算出する。このエンジン電費とは、現時点においてエンジン1002により回転電機1004を単位電力量だけ駆動をする場合と、しない場合との間の燃費消費量の差として定義され、単位は単位電力量あたりの燃料消費変化量となる。エンジン電費の算出は、本質的に図3におけるステップ1202と同じである。エンジン電費Dengの算出式は、本出願人らにより出願された特開2004-260908にて発電側について示されており、これを駆動側へ拡張して適用した形となる。つまり駆動力側については、単位電力量を用いて回転電気004でトルクアシストした場合とアシストしない場合との燃料消費の減少量で表され、発電電力を正、燃料増加量を正の符号とすると、駆動電力は負、燃料減少量も負となり、燃料変化量/電力量で算出される電費は発電時も駆動時も同じ単位で表すことができる。
【0051】次のステップ1304にて、駆動動作の許可、不許可を区分するエンジン電費Dengの閾値であるエンジン電費閾値Dasilimを決定する。この実施形態では、エンジン電費Dengが閾値Dasilim以上の場合にトルクアシストモードを実施するに十分なだけエンジン電費Dengが高いと仮定している。この実施形態では、エンジン電費閾値Dasilimは所定の一定値とするが、バッテリ状態などの関数値としてもよい。たとえば、SOCが高い場合には閾値Dasilimを小さくすることで駆動機会を増やしてSOCを低下させることができる。但しこの場合は燃費改善効果が小さいときにも駆動動作を行うため、平均的な燃費改善効果は小さくなる。」

(キ)「【0054】トルクアシストモードにおいて、蓄電装置1016は、電力回路系および回転電機1004の両方に給電する。既述したように、本明細書では、回転電機1004及び蓄電装置1016以外の他の発電装置及び電気負荷1014を含む回路系を電力回路系と称する。電力回路系の要求電力Pcは、電気負荷1014の要求電力から他の発電装置(ここでは熱発電機1012)の発電電力を差し引いた値となる。したがって、トルクアシストモードにおける回転電機1004の最大電力Pgmaxすなわち駆動指令値は、蓄電装置1016の許容可能な放電電力Pdiから電力回路系の電力Pcを差し引いた値となる。もちろん回転電機1004自体の駆動電力容量は別途上限の制約になっている。更には放電過多により前記電源系のバス電圧が所定値よりも下降する場合もあり、この場合にも駆動電力を抑制する必要がある。この電圧と電力の関係については本出願人らが特開2004-249900にて説明している。」

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、整理すると、引用文献1には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「エンジン出力だけの車両駆動と、前記エンジンおよび回転電機1004を作動させるトルクアシストモードと、を備える回転電気制御装置であって、
回転電機1004に接続される蓄電装置1016と、
トルクアシストした場合とアシストしない場合との燃料消費の減少量であるエンジン電費Dengを算出するコントローラ1018と、
エンジン電費Dengがエンジン電費閾値Dasilim以上の場合にトルクアシストモードを実施し、
SOCが高い場合にエンジン電費閾値Dasilimを小さく設定する制御部と、
を有する、ハイブリッド車両の回転電機制御装置。」

イ 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2016-182895号(以下「引用文献2」という。)には、「バッテリ残容量表示装置」に関して、図面と共に次の記載がある。

(ア)「【0007】モータによりエンジンの再始動や駆動のアシストを行なわせる車両においては、バッテリのSOCに閾値を設定し、設定された閾値に基づいてアイドルストップの禁止やモータによるアシスト走行の禁止等の走行制御が実行される。」

(イ)「【0031】制御部9は、車両1の停止時に自動的にエンジン2の停止及び再始動を行なわせるアイドルストップ制御や、エンジン2の駆動をモータ3の駆動によりアシストさせて車両1を走行させるアシスト走行制御を行なうようになっている。なお、アイドルストップ時のエンジン2の再始動時には、モータ3がエンジン2を回転させることで再始動が行なわれるようになっている。」

(ウ)「【0033】充電状態検出部91は、バッテリ状態検出センサ61の検出結果から、バッテリ6の充電状態としてSOCを検出する。」

(エ)「【0043】判定部95は、バッテリ6のSOCが図3に示す閾値以上である場合、閾値の対象となる動作、すなわち、アイドルストップ制御またはアシスト走行制御を許可する。第一の閾値及び第二の閾値は、後述する表示状態設定部96の表示状態の判定で使用される。
【0044】図3に示す閾値は、予め実験等によって求められ、制御部9のROM内に記憶されている。各閾値の値は、A<B<C<D、且つ、A'<B'<C'<D'と設定される。すなわち、アイドルストップ制御を許可する閾値よりアシスト走行制御を許可する閾値のほうが大きく設定され、アシスト走行制御を許可する閾値より第一の閾値が大きく設定され、第一の閾値より第二の閾値が大きく設定される。」

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、整理すると、引用文献2には以下の発明(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。

[引用文献2記載事項]
「車両1の停止時に自動的にエンジン2の停止及び再始動を行なわせるアイドルストップ制御を実行する制御部9と、
アイドルストップ制御またはアシスト走行制御は、バッテリ6のSOCが閾値以上である場合、アイドルストップ制御またはアシスト走行制御を許可する判定部95を備え、当該閾値はアイドルストップ制御を許可する閾値よりアシスト走行制御を許可する閾値の方が大きく設定されている、車両用制御部。」

(3)対比・判断
本件補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「エンジン出力だけの車両駆動」はその機能、構成及び技術的意味からみて前者の「エンジンモード」に相当し、以下同様に、「回転電機1004」は「電動機」に、「トルクアシストモード」は「アシストモード」に、「回転電気制御装置」は「車両用制御装置」に、「蓄電装置1016」は「蓄電体」に、「エンジン電費Deng」は「燃料削減量」に、「エンジン電費閾値Dasilim」は「閾値」に、「ハイブリッド車両の回転電機制御装置」は「車両用制御装置」に、それぞれ相当する。
また、後者の「トルクアシストした場合とアシストしない場合との燃料消費の減少量であるエンジン電費Dengを算出するコントローラ1018」は、エンジンモードを実行したときの燃料消費量と、アシストモードを実行したときの燃料消費量とを算出することで、燃料消費の減少量を算出していることは自明であり、これらを算出している該「コントローラ1018」は、「消費量算出部」および「削減量算出部」の機能をそなえていることから、前者の「前記エンジンモードを実行したときの第1燃料消費量と、前記アシストモードを実行したときの第2燃料消費量と、を算出する消費量算出部と、前記第1燃料消費量から前記第2燃料消費量を減算し、前記アシストモードを実行することで削減される燃料削減量を算出する削減量算出部」に相当する。
また、後者の「エンジン電費Dengがエンジン電費閾値Dasilim以上の場合にトルクアシストモードを実施」する制御部は、エンジン電費閾値Dasilim以上の場合に、トルクアシストモードを実施することで燃費改善がなされており、エンジン電費閾値Dasilim以下の場合にエンジン出力だけの車両駆動を実施することは自明といえるから、前者の「前記蓄電体のSOCが下限値を上回り、かつ前記燃料削減量が閾値を上回る場合に、前記アシストモードを実行する一方、前記蓄電体のSOCが前記下限値を上回り、かつ前記燃料削減量が前記閾値を下回る場合に、前記エンジンモードを実行するモード制御部」とは、「前記燃料削減量が閾値を上回る場合に、前記アシストモードを実行する一方、前記燃料削減量が前記閾値を下回る場合に、前記エンジンモードを実行するモード制御部」である限りにおいて一致する。
また、後者の「SOCが高い場合にエンジン電費閾値Dasilimを小さく設定する制御部」は、SOCが低い場合に、前記閾値を大きくしてSOCの低下を抑えることは自明といえることから、前者の「前記蓄電体のSOCが高い場合に、前記閾値を低く設定する一方、前記蓄電体のSOCが低い場合に、前記閾値を高く設定する閾値設定部」に相当する。

そうすると、本件補正発明と引用発明とは、次の一致点、相違点がある。

[一致点]
「エンジンの駆動力を車輪に伝達するエンジンモードと、前記エンジンおよび電動機の駆動力を前記車輪に伝達するアシストモードと、を備える車両用制御装置であって、
前記電動機に接続される蓄電体と、
前記エンジンモードを実行したときの第1燃料消費量と、前記アシストモードを実行したときの第2燃料消費量と、を算出する消費量算出部と、
前記第1燃料消費量から前記第2燃料消費量を減算し、前記アシストモードを実行することで削減される燃料削減量を算出する削減量算出部と、
前記燃料削減量が閾値を上回る場合に、前記アシストモードを実行する一方、前記燃料削減量が前記閾値を下回る場合に、前記エンジンモードを実行するモード制御部と、
前記蓄電体のSOCが高い場合に、前記閾値を低く設定する一方、前記蓄電体のSOCが低い場合に、前記閾値を高く設定する閾値設定部と、
を有する、
車両用制御装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
「アイドリングストップ制御部」に関して、本件補正発明は、「停止条件が成立した場合に前記エンジンを停止させ、始動条件が成立した場合に前記電動機を用いて前記エンジンを始動させる、アイドリングストップ制御を実行するアイドリングストップ制御部」を備えているのに対して、引用発明は当該構成を備えていない点。

[相違点2]
「前記燃料削減量が閾値を上回る場合に、前記アシストモードを実行する一方、前記燃料削減量が前記閾値を下回る場合に、前記エンジンモードを実行するモード制御部」に関して、本件補正発明は、更に「前記蓄電体のSOCが下限値を上回り」との条件を備えているのに対して、引用発明は、当該条件を備えていない点。

[相違点3]
「アイドリングストップ制御部およびモード制御部」に関して、本件補正発明は、「前記アイドリングストップ制御部および前記モード制御部は、前記蓄電体のSOCが前記下限値を下回る場合に、前記アイドリングストップ制御および前記アシストモードを禁止する一方、前記蓄電体のSOCが前記下限値を上回る場合に、前記アイドリングストップ制御および前記アシストモードを許可する」構成を備えているが、引用発明は当該構成を備えていない点。

上記相違点1について検討する。
前記引用文献2記載事項は、以下の事項(以下、「引用文献2記載事項A」という。)を含むものである。
「車両1の停止時に自動的にエンジン2の停止及び再始動を行なわせるアイドルストップ制御を実行する制御部9。」
相違点1について検討するに、本件補正発明と引用文献2記載事項Aとを対比すると、後者の「車両1の停止時」はその機能、構成及び技術的意義からみて前者の「停止条件が成立した場合」に相当し、以下同様に、「エンジン2」は「エンジン」に、「再始動」は「エンジンを始動」に、「制御部9」は「アイドリングストップ制御部」に、それぞれ相当する。
してみると、引用文献2記載事項Aは、本件補正発明の用語で表すと、次のとおりのものといえる。
「始動条件が成立した場合にエンジンを停止させ、始動条件が成立した場合に前記エンジンを始動させる、アイドリングストップ制御を実行するアイドリングストップ制御部。」

引用発明と引用文献2記載事項Aとは、ハイブリッド車両という共通の技術分野において、燃費消費量改善のための制御という共通の機能を有するものである。
そうすると、引用発明と引用文献2記載事項に接した当業者であれば、引用発明において、アイドリングストップ制御部を設けることは容易に想到し得たことである。
その際に、エンジンを始動させるために「電動機」を用いることは周知技術である。
そうすると、このような引用発明に引用文献2記載事項を適用して、上記相違点1にかかる本件補正発明の構成とすることは当業者であれば容易に想到し得たことである。

上記相違点2について検討する。
引用文献2記載事項は、以下の事項(以下、「引用文献2記載事項B」という。)を含むものである。
「バッテリ6のSOCが閾値以上である場合、アシスト走行制御を許可する判定部95。」
本件補正発明と引用文献2記載事項Bとを対比すると、後者の「バッテリ6」はその機能、構成及び技術的意義からみて前者の「蓄電体」に相当し、以下同様に「閾値」は「下限値」に、「アシスト走行制御」は「アシストモード」に、「判定部95」は「モード制御部」にそれぞれ相当する。
してみると、引用文献2記載事項Bは、本件補正発明の用語で表すと、次のとおりのものといえる。
「蓄電体のSOCが下限値を上回る場合に、アシストモードを実行するモード制御部。」

そして、引用発明と引用文献2記載事項Bとは、ハイブリッド車両という共通の技術分野において、アシスト走行を実行する制御部といった共通の機能を有するものである。
そうすると、引用発明と引用文献2記載事項Bに接した当業者であれば、引用発明におけるアシストモードにおいて、引用文献2記載事項Bのアシスト走行制御を実行することは当業者が容易に想到し得たことである。
そして、閾値を下回った場合に、アシスト走行を行わない、即ちエンジンによる走行を実行することは自明である。
そうすると、このような引用発明に引用文献2記載事項Bを適用して、上記相違点2にかかる本件補正発明の構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

上記相違点3について検討する。
引用文献2記載事項は、以下の事項(以下、「引用文献2記載事項C」を含むものである。
「アイドルストップ制御またはアシスト走行制御は、バッテリ6のSOCが閾値以上である場合、アイドルストップ制御またはアシスト走行制御を許可する判定部95を備え、当該閾値はアイドルストップ制御を許可する閾値よりアシスト走行制御を許可する閾値の方が大きく設定されている、制御部9。」
相違点3について検討するに、本件補正発明と引用文献2記載事項Cとを対比すると、後者の「アイドルストップ制御」及び「判定部95」はその機能、構成及び技術的意義からみて前者の「アイドリングストップ制御部」に相当し、以下同様に、「アシスト走行制御」及び「判定部95」は「モード制御部」に、「バッテリ6」は「蓄電体」に、「閾値」は「下限値」に、「制御部9」は「車両用制御装置」に、それぞれ相当する。
してみると、引用文献2記載事項Cは、本件補正発明の用語で表すと、次のとおりのものといえる。
「アイドリングストップ制御部およびモード制御部は、蓄電体のSOCが下限値を上回る場合に、前記アイドリングストップ制御およびアシストモードを許可し、各下限値はアイドリングストップ制御を許可する下限値よりアシストモード走行制御を許可する下限値の方が大きく設定されている、車両用制御装置。」

そして、引用発明と引用文献2記載事項Cは、ハイブリッド車両という技術分野が共通し、蓄電体のSOCに基づくトルクアシストモードの制御をおこなうという機能において共通する。
そうすると、このような引用発明に引用文献2記載事項Cを適用することは、当業者であれば容易に想定し得たことである。
ここで、アイドルストップ制御またはアシスト走行制御それぞれの閾値の設定については、バッテリのSOCにどの程度余裕を持たせるか、あるいは、アイドルストップ制御またはアシスト走行制御をどの程度優先的に使用するか等の目的に応じて当業者が適宜決定し得る設計事項であり、アイドルストップ制御やモータによるアシスト走行制御を許可する閾値を同じ値にする構成についても、特開2004-328906号公報の段落【0021】ないし【0022】に記載されているように周知技術であり、格別の事項とはいえないから、当業者が適宜設定し得る設計事項である。
また、バッテリのSOCが閾値を下回る場合に、アイドルストップ制御およびアシスト走行制御を禁止することは自明である。
そうすると、引用発明、引用文献2記載事項C及び周知技術に接した当業者であれば、引用発明において、引用文献2記載事項C及び周知技術を適用し、上記相違点3にかかる本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

また、本件補正発明を全体としてみても、本件補正発明が、引用発明、引用文献2記載事項からみて、格別顕著な効果を奏するともいえない。

したがって、本件補正発明は、引用発明、引用文献2記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)請求人の主張について
審判請求人は、平成31年4月8日の審判請求書において、次のように主張する。
「本願発明の車両用制御装置は、アイドリングストップ制御に先行してアシストモードを禁止することなく、アシストモードの許可領域を低SOC側に拡大するため、アシストモードの実行基準である閾値をSOCに基づき設定しております。これにより、SOCが低い領域であってもアシストモードを適切に実行することができるため、SOCの過度な低下によるアイドリングストップ制御およびアシストモードの禁止を回避しつつ、アシストモードの許可領域を低SOC側に拡大することができ、燃料消費量を大幅に削減することが可能になるのであります。
ご指摘いただきましたように、引用文献1の段落[0051]には、「この実施形態では、エンジン電費閾値Dasilimは所定の一定値とするが、バッテリ状態などの関数値としてもよい。たとえば、SOCが高い場合には閾値Dasilimを小さくすることで駆動機会を増やしてSOCを低下させることができる。」と記載されております。しかしながら、段落[0051]の記載内容は、単にSOCが高い場合にトルクアシストモードの実行機会を増加させる、という内容であり、アイドリングストップ制御に先行してアシストモードを禁止することなく、アシストモードの許可領域を低SOC側に拡大するため、アシストモードの実行基準である閾値をSOCに基づき設定する、という技術を示唆する内容ではありません。
また、引用文献2の段落[0042]-[0044]および図3には、バッテリ6のSOCが低下する過程において、SOCが閾値Bを下回るタイミングでアシスト走行制御を禁止し、その後、SOCが閾値Bよりも低い閾値Aを下回るタイミングでアイドリングストップ制御を禁止する、という内容が記載されております。すなわち、引用文献2には、アイドリングストップ制御に先行してアシストモードを禁止する、という内容が記載されており、アイドリングストップ制御に先行してアシストモードを禁止することなく、アシストモードの許可領域を低SOC側に拡大する、という技術を示唆する内容については一切記載されておりません。
このように、引用文献1および2には、アイドリングストップ制御に先行してアシストモードを禁止することなく、アシストモードの許可領域を低SOC側に拡大するため、アシストモードの実行基準である閾値をSOCに基づき設定する、という技術について、全く記載されておりませんので、引用文献1および2から本願発明が示唆されることはあり得ません。」

しかしながら、「アイドリングストップ制御に先行してアシストモードを禁止することなく、アシストモードの許可領域を低SOC側に拡大するため、アシストモードの実行基準である閾値をSOCに基づき設定する」構成については、上記(3)における相違点3についての検討で示したとおりである。
したがって、請求人の主張に沿って検討した場合でも、本件補正発明は、引用発明、引用文献2記載事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に想到し得たものであるといえる。

(5)まとめ
上記(1)ないし(4)により、本件補正発明は、引用発明、引用文献2記載事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

したがって、本件補正発明は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、[補正却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成31年4月8日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成30年8月10日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下のとおりである。
本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.特開2007-176270号公報
引用文献2.特開2016-182895号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された、引用文献及びその記載事項は、前記第2の[理由]3(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本件補正発明は、前記第2の[理由]2で検討したとおり、本願発明に発明特定事項を付加して限定したものであるから、本願発明は、本件補正発明の発明特定事項の一部を削除したものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が前記第2の[理由]3に記載したとおり、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は、実質的に同様の理由により、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2019-12-24 
結審通知日 2020-01-07 
審決日 2020-01-21 
出願番号 特願2017-25551(P2017-25551)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B60W)
P 1 8・ 575- WZ (B60W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 賢明塩澤 正和神山 貴行  
特許庁審判長 渋谷 善弘
特許庁審判官 北村 英隆
金澤 俊郎
発明の名称 車両用制御装置  
代理人 特許業務法人筒井国際特許事務所  

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