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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C07K
審判 全部無効 2項進歩性  C07K
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C07K
管理番号 1360394
審判番号 無効2018-800114  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-09-07 
確定日 2020-03-06 
事件の表示 上記当事者間の特許第5550350号発明「第VIII因子とその誘導体の製造及び精製方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5550350号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5550350号(請求項の数は4。以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成19年2月23日を国際出願日とする出願であって、平成26年5月30日に特許権の設定登録がされたものである。
特許無効審判の請求人は、平成30年9月7日に本件特許の請求項1ないし4に係る発明についての特許の無効を求める審判を請求した。
本件無効審判の手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年9月7日 審判請求書及び甲第1?15号証の提出
平成30年11月12日付け 特許法第134条第1項の規定による答弁
指令(被請求人による応答なし。)
令和1年5月21日付け 書面審理通知
令和1年5月31日付け 審決の予告(請求人、被請求人のいずれか らも応答なし。)

第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりの以下のものである。

【請求項1】 培養培地中に第VIII因子又は第VIII因子誘導体をコードするcDNAを含有する発現DNAベクターで形質転換された哺乳類宿主細胞から組み換え第VIII因子を生産し、前記第VIII因子を固相支持体に結合された第VIII因子特異的親和性分子を使用して精製する方法であって、
(a)前記哺乳類宿主細胞を、プロテアーゼ阻害活性を有する硫酸化多糖類が補充された培養培地で培養し、前記硫酸化多糖類は、約20,000?約5,000,000Daの分子量を有する硫酸デキストランであり、前記培養培地中の前記硫酸デキストランの量が25mg/L乃至200mg/Lである工程、
(b)限外ろ過を通して前記第VIII因子を含有する培養培地を濃縮し、
(c)前記第VIII因子を免疫親和性クロマトグラフィーにより前記濃縮された培養培地から精製することを含み、ここで、前記親和性クロマトグラフィーは、(i)抗第VIII因子特異抗体が結合されたアガロース及びセファロースを含む固相支持体で充填されたカラム、及び(ii)前記抗体が結合された固相支持体に結合された第VIII因子分子のための緩衝剤、塩、塩化カルシウム、界面活性剤及びエチレングリコールを含有する溶出緩衝剤を含む方法。
【請求項2】 前記培養培地が動物性タンパク質を含まない培地である、請求項1記載の方法。
【請求項3】 前記哺乳類宿主細胞がCHO、BHK及びCOS細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項4】 前記生産された第VIII因子分子の均質性を増加させる方法である、請求項1?3のいずれか1項記載の方法。
(以下、これらの請求項に係る発明を、それぞれ、「本件発明1」、・・・「本件発明4」といい、まとめて「本件発明」という。)

第3 審判請求人の主張の概要
審判請求書の記載によれば、請求人が主張する無効理由の概要は、次の1ないし4のとおりである。
1 無効理由1
本件発明1ないし4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証及び甲第2ないし15号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし4に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(特許法第123条第1項第2号)
2 無効理由2
本件発明1ないし4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第3号証及び甲第1、2、4ないし15号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし4に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(特許法第123条第1項第2号)
3 無効理由3
本件発明に対応する実施例が発明の詳細な説明には記載されていないところ、本件発明が発明の詳細な説明の記載から当業者が理解し得る以上の効果を奏するものであれば、本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(特許法第123条第1項第4号)
4 無効理由4
本件発明に対応する実施例が発明の詳細な説明には記載されていないところ、本件発明が発明の詳細な説明の記載から当業者が理解し得る以上の効果を奏するものであれば、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(特許法第123条第1項第4号)

<証拠方法>
甲第1号証:米国特許第5422250号明細書(1995年6月6日発行)
甲第2号証:Eur J Biochem, 1995, Vol.232, pp.19-27.
甲第3号証:Biochem J, 1991, Vol.277, pp.23-31.
甲第4号証:Biotechnol Bioeng, 2004, Vol.87, pp.400-412.
甲第5号証:Curr Sci, 2005, Vol.89, pp.614-622.
甲第6号証:Semin Thromb Hemost, 2001, Vol.27,pp.385-394.
甲第7号証:米国特許第5851800号明細書(1998年12月22日発行)
甲第8号証:国際公開第90/02175号
甲第9号証:国際公開第88/05825号
甲第10号証:J Biol Chem, 1988, Vol.263, pp.6352-6362.
甲第11号証:FEBS Lett, 1992, Vol.306, pp.243-246.
甲第12号証:米国特許第6300100号明細書(2001年10月9日発行)
甲第13号証:米国特許出願公開第2004/0147436号明細書
甲第14号証:BMJ, 1956, Vol.2, pp.1023-1027.
甲第15号証:Proc Natl Aacd Sci USA, 1988, Vol.85, pp.6132-6136.

第4 証拠の記載事項
本件特許の出願日よりも前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の証拠には、それぞれ以下の事項が記載されている。
1 甲第1号証
(1) 特許請求の範囲
ア 請求項1
「第VIII因子又は第VIII因子アナログを製造し、分離するための方法であって、当該方法は前記第VIII因子又は第VIII因子アナログを生産し、分泌する真核細胞を培養し、次いで、前記第VIII因子又は第VIII因子アナログを分離することを含む方法であり、前記真核細胞は前記第VIII因子又は第VII因子[当審注:第VIII因子の明白な誤記と認める]アナログをコードする遺伝子を含む発現ベクターが導入されており、前記細胞は前記第VIII因子又は第VII因子[当審注:第VIII因子の明白な誤記と認める]アナログを継続的に発現する組換えVeto、Hela、WI38、BHK、CHO、COS-7及びMDCK細胞から選択され、ここで、5,000?700,000の分子量を有し、硫黄含量が0.5?18重量%であるヘパリン、硫酸デキストラン及び硫酸ヒドロキシエチルスターチから選択される硫酸化多糖の少なくとも1つの誘導体が、前記硫酸化多糖を含まない培地で前記細胞を培養した場合と比較して、第VIII因子又は第VIII因子アナログの生産を増強するのに十分な量で添加された無血清培地中で前記細胞を培養することを改良点に含む、方法。」(第16欄1?22行)
イ 請求項4
「第VIII因子又は第VIII因子アナログを製造し、分離するための方法であって、前記第VIII因子又は第VIII因子アナログを生産し分泌する真核細胞を培養し、次いで、前記細胞によって生産された前記第VIII因子又は第VIII因子アナログを分離する工程を含む方法であり、前記細胞は前記第VIII因子又は第VIII因子アナログをコードする遺伝子を含む発現ベクターが導入されており、前記細胞は前記第VIII因子又は第VIII因子アナログを継続的に発現するCHO細胞であり、ここで、5,000?700,000の分子量を有し、硫黄含量が10?18重量%である硫酸デキストランの少なくとも1つの誘導体が、前記硫酸デキストランを含まない培地で前記細胞を培養した場合と比較して第VIII因子又は第VIII因子アナログの生産を増強するのに十分な量で添加された無血清培地中で前記細胞を培養することを改良点に含む、方法。」(第16欄27?45行)

(2) 詳細な説明
ア 「本発明は、ヒト第VIII因子及びヒト第VIII因子アナログの製造方法に関する。
第VIII因子は血友病Aを患っている患者の治療に用いられる血液凝固因子である。
この治療で使用される第VIII因子は、現在のところ、ヒトの血しょう画分から得られた第VIII因子の濃縮物である。第VIII因子のこの供給源を、より簡単に入手でき、かつ、ウイルスや他の汚染物質の影響を受けにくい供給源に置き換える試みがなされており、遺伝子工学で第VIII因子を得るために多大な努力が払われてきた。現在得られている結果は、組換え第VIII因子は、天然の第VIII因子が有する全ての特性を示し、満足のいく工業的条件で得ることができることを示している。
遺伝子工学による第VIII因子の調製は、とりわけ以下の特許において既に広く記載されている。・・・
特に、欧州特許出願公開第162067号明細書は、様々な真核細胞、特にCHO細胞における第VIII因子の発現について記載している。
欧州特許出願公開第160457号明細書も真核細胞、特にBHK細胞における第VIII因子の発現について記載しており、VERO、HeLA、CHO、WI38、COS-7、及びMDCK細胞などの細胞株由来の脊椎動物細胞が使用できることも記載している。」(第1欄7?39行)
イ 「第VIII因子アナログとは、第VIII因子の活性を有し、かつ、幾つかのアミノ酸の削除により第VIII因子から得られる分子、又は、ある種の可能性のある変異を受けたにもかかわらず第VIII因子の主要な活性を保持している分子であると理解される。」(第2欄3?8行)
ウ 「国際公開第87/4187号・・・に記載されているように、第VIII因子又は第VIII因子アナログの製造の最適化のために、フォンウィルブランド因子又はリン脂質の細胞培養培地への添加を検討することは有用である可能性がある。
培養培地中のフォンウィルブランド因子の存在が、第VIII因子を安定化し、その収率をかなり改善することが実際に示された。
上述したのと同様の理由で、使用されるフォンウィルブランド因子は、汚染の危険性を避けるために組換えフォンウィルブランド因子であることは明らかである。このことは、第VIII因子の製造で、追加の工程とコストの増加、特に価格の倍増を要求する。
したがって、フォンウィルブランド因子の使用を必要としないにもかかわらず、高収率の第VIII因子をもたらす第VIII因子の製造方法を有することが有用であろう。
本発明の目的は、この問題の解決方法を正確に提案することである。
より具体的には、本発明は、第VIII因子又は第VIII因子アナログを生産する細胞の培養培地中での培養による第VIII因子又は第VIII因子アナログの製造方法、及び第VIII因子又はそのアナログを分離する方法に関し、ここで、当該培養培地は、少なくとも1つのポリカチオン及び/又はポリアニオン性ポリマーの誘導体を含む。」(第2欄9?38行)
エ 「第VIII因子アナログの中で、特に第VIII因子のアミノ酸771?1666を欠失したものに対応する、第VIII因子Δ2を挙げることができ、欧州特許出願公開第303540号明細書にその製法が詳細に記載されている。」(第2欄39?43行)
オ 「当該細胞は、ワクシニアウイルスのような組換えウイルスベクターに感染していることが好ましく、このことは、当該細胞内での第VIII因子アナログのcDNAの発現を提供する。」(第2欄53?57行)
カ 「本発明によるポリマーは、好ましくはポリオシディックポリマー、特に多糖類の誘導体である。
これらのポリマーは、好ましくは硫酸化されている。
・・・
本発明の特定の実施形態によれば、使用されるポリマーは硫酸デキストランである。・・・
非常に多様な分子量の硫酸デキストランを本発明に従って使用することができる。したがって、その分子量は、5000?700,000Daで変動する。」(第3欄1?25行)
キ 「第VIII因子又は第VIII因子アナログの生産に適し、フォンウィルブランド因子がない培養培地中での本発明によるポリカチオン及び/又はポリアニオン性ポリマーの存在は、フォンビルブラント因子も本発明のポリマーを含まない培地中で得られるものよりも著しく高い第VIII因子又は第VIII因子アナログの収率をもたらす。
したがって、本発明の方法で実施された以下の実施例に記載の実験から、分子量500,000の硫酸デキストランを含む培養培地を使用することにより、抗第VIII因子モノクローナル抗体を用いた免疫酵素的方法と、ウシ血清の非存在下で発現される第VIII因子Δ2の主要な形態である165kDaに主要なバンドを示す、還元又は非還元条件下のPAGE-SDS分析のような物理化学的方法の2つの異なる方法によって決定された第VIII因子Δ2を大量に得ることができることが判明した。」(第3欄31?52行)

(3) EXPERIMENTAL SECTION(実験の部)
ア EXAMPLE 5(実施例5)
「第VIII因子の発現に及ぼす硫酸デキストランの影響に関する研究
この研究は、完全な第VIII因子を発現するクローンCHO TG 1566-3013を使用して行われる。
図1は、6ウェルプレート中での第VIII因子の発現に対する硫酸デキストラン(ファルマシア社、分子量;500,000)の添加量とその効果を示す。
2日にわたる生産、第4日から第5日及び第5日から第6日において、第VIII因子の生産は硫酸デキストランのないコントロールと比較して明らかに増加することが認められた。閾値は、500mg/lの硫酸デキストランである。」(第14欄60行?第15欄5行)
イ EXAMPLE 6(実施例6)
「化学的に限定された培地での第VIII因子の発現についてのフォンウィルブランド因子及び硫酸デキストラン(分子量;50,000)の影響に関する比較
この研究は、1リットルのバイオリアクター(SGI社)中で行われる。
完全な第VIII因子を発現するクローンCHO TG 1566-3013を、支持体Cultispher-G(架橋したウシゼラチンの微小孔ビーズ)上で4g/lの濃度の培養する。
5%FCSを含有するIscove培地中での9日間の増殖の後に、3種の生産培地の影響を連続的に試験した:
5%FCSは含有するが、フォンウィルブランド因子及び硫酸デキストランは含有しない培地(培地A)
FCSを含有せず、1単位のフォンウィルブランド因子/mlを含有する培地(培地B)
フォンウィルブランド因子及びFCSを含有せず、200mg/lの硫酸デキストラン(分子量;50,000)を含有する培地(培地C)
結果を図2に示す。
第VIII因子の活性は、硫酸デキストランを含有しない培地では、培地1リットル当たりのAPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)単位により表され、硫酸デキストランを含有する培地ではCag(Coagulation抗原)単位により表される(ELISAアッセイ)。APTT及びELISAアッセイの間の比は、1.2?1.4のオーダーで、DS処理細胞のCag単位は、図2ではAPTT単位に変換されている。
培地Bで達成された生産は、培地Aで達成されたものよりも高い(680±67U APTT/l対502±96U APTT/l)。培地Cで達成された生産は、培地Bで得られたものに匹敵する。
結論として、硫酸デキストランは、化学的に限定された培地での第VIII因子の発現を増加させるためにフォンウィルブランド因子に代替できることが明確に示される。」(第15欄7?42行)

(4) BRIEF DESCRIPTION OF THE DRAWINGS(図面の簡単な説明)
「図1は、第VIII因子の発現における硫酸デキストランの用量効果を示す。
図2は、5%FCS、0%FCS+mlあたり1単位のフォンウィルブランド因子又は0%FCS+200mg/l硫酸デキストラン(分子量:50,000)を有する培地で培養した細胞の第VIII因子発現を示す。」(第8欄下から6?1行)

(5) 図面
ア 図1


イ 図2

(当審注:横軸J35のバーの上方に示された「5% FCS」は、実施例6及び図面の簡単な説明の記載より「0% FCS + 硫酸デキストラン」の明らかな誤記と認められる。)

2 甲第2号証
(1) 表題
「新規なBドメイン欠失組換え第VIII因子 構築と生化学的特性」

(2) 要約
「Bドメインを欠く80-kDaと90-kDaポリペプチド鎖の複合体である、最も小さい活性な血しょう由来第VIII因子に類似の組換え分子は、効率的に80 + 90-kDa複合体に変換された一次翻訳産物を得るために様々な第VIII因子cDNA構築物を用いて生産されている。第VIII因子変換に重要と考えられる、Arg740及びGlu1649の部位を考慮して、Bドメイン欠失第VIII因子誘導体をコードする3種類の単鎖cDNAを設計した。
1型構築物では、第VIII因子BドメインのN末端領域のArg747、Arg752又はArg776のいずれかが、80kDaサブユニットのN末端(Glu1649)に融合する。2型構築物のうち、r-VIIISQは、Ser743とGln1638が融合し、90kDa鎖のC末端(Arg740)と80kDa鎖のN末端との間に14個のアミノ酸が連結した。また、r-VIIIRHは、Arg747とHis1646が融合した。3型構築物では、Bドメインは完全に除去されたか、1?4個のArg残基で置換された。
CHO細胞での発現後、1型構築物及び0?2個のArg残基が挿入された3型構築物は部分的にしか変換されず、170-kDaの一次翻訳産物を大量に含んでいた。対照的に、2型構築物であるr-VIIISQ及びr-VIIIRHの大部分と、80kDa鎖のN末端に先行する3又は4個の追加のArg残基を含む3型構築物r-VIIIR4及びr-VIIIR5は、所望の80 + 90-kDa鎖複合体に変換した。最も効率的に変換された第VIII因子欠失誘導体に共通する特徴は、それらがほとんど細胞で発現される、膜結合型スブチリシン様プロテアーゼであるフリンによるタンパク質分解的切断のための認識モチーフ、すなわち、Glu1649の開裂部位を基準にした位置1及び4の塩基性アミノ酸残基を含むことであった。最も効果的に変換された2つの第VIII因子誘導体であるr-VIIISQ及びr-VIIIR5の生化学的研究は、両方のタンパク質が正常な第VIII因子補因子機能を有し、そして、血しょう由来第VIII因子に見られるものに対応する80kDaのN末端及び90kDaのC末端を有することを示した。」

(3) MATERIALS AND METHODS(材料と方法)
ア Derivation of cell-lines expressing factor VIII deletion derivatives.(第VIII因子欠失誘導体を発現する細胞株の誘導)
「チャイニーズハムスター卵巣細胞(・・・)を、10%ウシ胎児血清を添加したダルベッコの改変イーグル培地/F12(・・・)中で培養した。直径10cmの皿中で増殖させたサブコンフルエント培養物に、第VIII因子欠失誘導体発現ベクターとマウスジヒドロ葉酸レダクターゼ(dhfr)cDNA(pKGE327、図1)の1:1混合物10μgを、リン酸カルシウム共沈法(Graham and van der Eb、1973)を用い、トランスフェクトした。2日後、培地を、ヒポキサンチン、グリシン及びチミジンを欠き、そして十分に透析されたウシ胎児血清を補充した選択培地と交換し、約2週間後、dhfr陽性細胞のコロニーが採取された。」
イ Purification of factor VIII.(第VIII因子の精製)
「組換え第VIII因子産物の翻訳後切断に関する最初の研究は、90kDaペプチド鎖のA2ドメインに対するモノクローナル抗体が結合したセファロース2B上に、血しょう第VIII因子から調製された第VIII因子産物を免疫吸着させた後に行われた。洗浄手順に続き、濃縮組換え第VIII因子タンパク質を、50mM トリス、0.15M 塩化ナトリウム、5mM 塩化カルシウム及び2% SDSを含有する緩衝液(pH 7.4)で溶出し、次いでSDS/PAGE及びウエスタンブロット分析を行った。
さらなる生化学的特徴付けを実施した場合、培地からの組換え第VIII因子タンパク質の部分精製は、上記と同じタイプの免疫親和性樹脂を使用する免疫親和性クロマトグラフィーによって達成された。第VIII因子物質を20mM トリス、50mM 塩化カルシウム、0.02% ポリソルベート及び50% エチレングリコールを含有する緩衝液(pH6.8)で溶出し、次いでQ-セファロースでイオン交換クロマトグラフィーにかけた。樹脂上に50mM ヒスチジン、0.6M 塩化ナトリウム、4mM 塩化カルシウム(pH 6.8)を通過させることにより、第VIII活性を有する物質の溶出を得た。
血しょう由来の第VIII因子はAndersonら(1986)の記載に従って精製した。」

3 甲第3号証
(1) 表題
「Bドメインの大部分を欠く新しい組換え第VIII因子である第VIII-ΔII因子の構造的及び機能的な特徴」

(2) 要約
「組換え第VIII因子(第VIII-ΔII因子)は、血しょう由来第VIII因子のBドメインの主要部分とArg-1648-Glu-1649の切断部位を欠く165kDaの他に類をみないポリペプチド鎖からなる。それはフォンウィルブランド因子を含む無血清培地中、哺乳類細胞において発現され、そして一段階免疫精製によって精製された。血しょう由来分子とは対照的に、当該組換え第VIII因子は、fplcで単一の活性ピークを示した。その凝固活性はEDTAの存在下で減少し、このことは、血しょう由来第VIII因子のように、二価イオンが必要であることを示唆する。トロンビンによる活性化及び活性化プロテインCによる不活性化について調べ、得られた分子をfplc及びSDS/PAGEで分析した。血しょう由来第VIII因子と組換え第VIII因子の構造的な相違にもかかわらず、その結果は、第VIII-ΔII因子の活性化及び不活性化は、血しょう由来第VIII因子の場合と同様の分解複合体が生じることを明らかに示す。したがって、血しょう由来第VIII因子と同様に分解されるこの欠失組換え第VIII因子は、血液凝固カスケードにおける第X因子活性化の調節システムに正常に組み込まれる。」

(3) INTRODUCTION(序論)
「『欠失された』第VIII因子、すなわち第VIII-ΔII因子(Meulien et al., 1988)は、Bドメインの主要部分及びArg-1648-Glu-1649のタンパク質分解性切断部位を含む、天然の第VIII因子のPro-771-Asp-1666の配列を含まない(図1)。他の幾つかの欠失された組換え第VIII因子分子(Kaufman et at., 1988)とは対照的に、第VIII-ΔII因子はフォンウィルブランド因子に結合することができる(Meulien et al., 1988;・・・)。結果的に、この新たなタンパク質はフォンウィルブランド因子によって安定化され得る。第VIII-ΔII因子は、165kDaのポリペプチドの一本鎖からなる。第VIII-ΔII因子は、BドメインのN末端である重鎖(90kDa)と、A1-A2-B部-A3-C1-C2のドメインに対応する軽鎖の主要部分とを含む。さらに、血しょう由来第VIII因子に関して記載される、トロンビン及び活性化プロテインCの切断部位は、存在したままである。
この論文では、この精製された組換え第VIII-ΔII因子の免疫精製及び特徴について述べる。トロンビン、活性化プロテインC及びEDTAの効果を分析する。この新たな欠失された分子を、構造と機能の関係に関して血しょう由来第VIII因子と比較する。」(23ページ右欄15行?24ページ左欄下から4行)

(4) MATERIALS AND METHODS(材料と方法)
ア Culture medium(培養培地)
「第VIII-ΔII因子を、組換えフォンウィルブランド因子(1単位/ml)を含有する無血清培地中チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞系で発現させた。第VIII因子抗原に対するフォンウィルブランド因子の比は1:4であった。」
イ Purification of recombinant Factor VIII-ΔII(組換え第VIII-ΔII因子の精製)
「モノクローナル免疫吸着剤カラムを用い、細胞培養上清から組換え第VIII因子を精製した。第VIII因子軽鎖に対するモノクローナル抗体AMC-463(CAGI 463A8)(Croissantら、1986;Saugerら、1986)を、DEAE-Affigel Blueカラム(・・・)を用いてマウス腹水から精製した。免疫吸着剤は、モノクローナル抗体AMC-463とCNBr活性化セファロース4B(ファルマシア社)を、単位体積(ml)のゲル当たり0.5mgのIgGを結合させることによって得、単位体積(ml)の免疫吸着剤当たり700単位の組換え第VIII因子を充填した。
吸着後、カラムを150mM 塩化ナトリウム、100mM リジン及び350mM 塩化カルシウムを含む200mM イミダゾール緩衝液(pH7.2)で洗浄し、フォンウィルブランド因子を切り離した(Cooper et al、1973)。
第VIII-ΔII因子を、10mM ヒスチジン、20mM イミダゾール、50%(v/v) エチレングリコール、1mM 塩化カルシウム及び2M 塩化ナトリウムを含有する緩衝液(pH7.0)で溶出し、次いで、150mM 塩化ナトリウム及び10mM 塩化カルシウムを含有する20mM トリス緩衝液(pH7.2)(・・・)中のSephadex G-25(ファルマシア社)カラムによるゲル濾過でそれを除去した。
血しょう由来第VIII因子は、同じ条件で市販の濃縮物から精製した。」

4 甲第5号証
(1) 表題
「ヒト治療用の組換えDNA発現産物」

(2) Production and purification of rDNA products(組換えDNA産物の製造と精製)
「精製は、組換えDNA産物の生産における重要な点である。精製の全体的な目標は、できるだけ少ない損失でできるだけ多くの生成物をもたらすことである。一般的な精製プロセスを図2に示す。所望の生成物が細胞内に存在する場合、発酵後に細胞を収穫する。この手順は、一般的に遠心分離又はろ過によって達成される。細胞は破壊されるか、又は溶解され、細胞の残骸は遠心分離によって除去され、粗製の目的生成物の希釈溶液が残る。哺乳類又は酵母システムが使用されている場合は、目的生成物を培地から直接得ることができる。今では、限外ろ過は生成物の濃縮において選ばれる方法となっている。
組換えDNA産物の精製に使用できるいくつかの方法があるが、一般的にクロマトグラフィー精製方法のみが使用される(表1)。典型的な下流処理工程では、2ないし4の異なるクロマトグラフィー技術の組合せが一般的に使用される。ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィーが最も一般的である。親和性クロマトグラフィーは可能な限り使用されるが、その理由は、当該方法が高い生物特異性を有し、高度の精製を達成することができるからである。」(616ページ左欄28行?右欄16行)

(3) 図2(616ページ左欄)


第5 当審の判断
1 無効理由1
(1) 本件発明1について
ア 甲1発明
甲第1号証(以下、単に「甲1」という。)の請求項4には、「第VIII因子又は第VIII因子アナログを製造し、分離するための方法であって、前記第VIII因子又は第VIII因子アナログを生産し分泌する真核細胞を培養し、次いで、前記細胞によって生産された前記第VIII因子又は第VIII因子アナログを分離する工程を含む方法であり、前記細胞は前記第VIII因子又は第VIII因子アナログをコードする遺伝子を含む発現ベクターが導入されており、前記細胞は前記第VIII因子又は第VIII因子アナログを継続的に発現するCHO細胞であり、ここで、5,000?700,000の分子量を有し、硫黄含量が10?18重量%である硫酸デキストランの少なくとも1つの誘導体が、前記硫酸デキストランを含まない培地で前記細胞を培養した場合と比較して第VIII因子又は第VIII因子アナログの生産を増強するのに十分な量で添加された無血清培地中で前記細胞を培養することを改良点に含む、方法」についての発明が記載されている(前記第4の1(1)イ)。(以下、この発明を「甲1発明」という。)

イ 対比・判断
(ア) 本件発明1と甲1発明の対比
本件特許の発明の詳細な説明には、「前記哺乳類宿主細胞は、組み換え第VIII因子を発現できる任意の動物細胞であり得、好ましくは目的とする形質転換細胞を容易に分離させることができる動物細胞、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、BHK細胞、又はCOS細胞、より好ましくはCHO細胞である。」(段落【0014】)と記載されていることから、甲1発明における第VIII因子又は第VIII因子アナログを発現するCHO細胞は、本件発明における哺乳類宿主細胞に含まれる。また、前記第4の1(2)オより、甲1発明において導入された発現ベクターはcDNAの発現を提供するものである。そうしてみると、両者は、「培養培地中に第VIII因子又は第VIII因子誘導体をコードするcDNAを含有する発現DNAベクターで形質転換されたCHO細胞から組換え第VIII因子を生産する方法であって、前記CHO細胞を、分子量約20,000?700,000Daの硫酸デキストランが補充された培養培地で培養する工程を含む方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1) 硫酸デキストランについて、本件発明1ではプロテアーゼ阻害活性を有すると特定されているのに対し、甲1発明はそのような特定がされていない点。
(相違点2) 培養培地中の硫酸デキストランの量が、本件発明1は25mg/L乃至200mg/Lであるのに対し、甲1発明は硫酸デキストランを含まない培地でCHO細胞を培養した場合と比較して第VIII因子又は第VIII因子誘導体の生産を増強するのに十分な量である点。
(相違点3) 本件発明1は、第VIII因子を固相支持体に結合された第VIII因子特異的親和性分子を使用して精製する方法であって、限外ろ過を通して第VIII因子を含有する培養培地を濃縮し、前記第VIII因子を免疫親和性クロマトグラフィーにより前記濃縮された培養培地から精製することを含み、ここで、前記親和性クロマトグラフィーは、(i)抗第VIII因子特異抗体が結合されたアガロース及びセファロースを含む固相支持体で充填されたカラム、及び(ii)前記抗体が結合された固相支持体に結合された第VIII因子分子のための緩衝剤、塩、塩化カルシウム、界面活性剤及びエチレングリコールを含有する溶出緩衝剤を含む、のに対し、甲1発明は、第VIII因子又は第VIII因子誘導体を分離する方法であり、分離・精製の方法は特定されていない点。

(イ) 相違点についての検討
a 相違点1
甲1の第3欄40?52行には、甲1の実施例には、500,000Daの分子量の硫酸デキストランを含む培養培地を使用することにより、PAGE-SDSによる分析で第VIII因子Δ2の主要な形態である165kDaに主要なバンドを示す第VIII因子Δ2を得ることができた旨が記載されており(前記第4の1(2)キ)、硫酸デキストランが補充された培養培地で培養して得られた第VIII因子誘導体の分子量が当該誘導体の主要な形態のものであったということから、甲1発明においても硫酸デキストランは本件発明と同様にプロテアーゼ阻害活性を有しているものと認められる。また、仮に、甲1の記載からは甲1発明における硫酸デキストランがプロテアーゼ阻害活性を有しているものとは認めることができないとしても、本件発明1において用いられている硫酸デキストランが「プロテアーゼ阻害活性を有する」という発明特定事項は、単に当該硫酸デキストランが有する性質を表しているに過ぎず、甲1発明において培地に添加された硫酸デキストランが、当該発明特定事項の有無により、本件発明1における硫酸デキストランと、培地中の成分として相違するものとは認められない。したがって、前記相違点1は、実質的な相違点ではない。

b 相違点2
甲1の実施例5(前記第4の1(3)ア)では、第VIII因子の発現に対する硫酸デキストランの培地への添加量の影響について検討しているところ、硫酸デキストランの添加量が0.1g/lより多い場合には、4日目から5日目における第VIII因子の生産は、硫酸デキストランを含まない培地と比較して明らかに増加することが図1に示されている。そうしてみると、0.1g/l、すなわち、100mg/Lの硫酸デキストランが添加された培養培地は、硫酸デキストランを含まない培地で培養した場合と比較して第VIII因子の生産を増強するのに十分な量の硫酸デキストランが添加されているということができる。また、甲1の実施例6(前記第4の1(3)イ)では、培地の組成を変化させた場合の第VIII因子の発現に対する影響について検討しているところ、FCS(ウシ胎児血清)を含有せずフォンウィルブランド因子を含有する培地(培地B)で達成された生産は、5%FCSを含有しフォンウィルブランド因子及び硫酸デキストランは含有しない培地(培地A)で達成された生産よりも高く、また、フォンウィルブランド因子及びFCSを含有せず、200mg/lの硫酸デキストランを含有する培地(培地C)で達成された生産は、上記培地Bで達成された生産に匹敵するものであったことが示されている。そうしてみると、200mg/Lの硫酸デキストランが添加された培養培地は、硫酸デキストランを含まない培地で培養した場合と比較して第VIII因子の生産を増強するのに十分な量の硫酸デキストランが添加されているということができる。このように、甲1発明における硫酸デキストランを含まない培地でCHO細胞を培養した場合と比較して第VIII因子又は第VIII因子誘導体の生産を増強するのに十分な量とは、100mg/Lや200mg/Lであると理解できることから、前記相違点2は、実質的な相違点ではない。

c 相違点3
組換えDNA産物を含有する培地を濃縮する際に選ばれる方法が限外ろ過であることは、甲第5号証(以下、単に「甲5」という。)に記載されている(前記第4の4(2))ように当該技術分野において周知の事項であり、また、高い生物特異性を有し、高度の精製を達成することができる親和性クロマトグラフィーによる組換えDNA産物の精製も、甲5に記載されている(前記第4の4(2))ように当該技術分野における周知技術である。
また、甲第2号証(以下、単に「甲2」という。)には、Bドメイン欠失組換え第VIII因子の精製に、90kDaペプチド鎖のA2ドメインに対するモノクローナル抗体が結合されたセファロース2Bを免疫親和性樹脂として使用する免疫親和性クロマトグラフィーを使用したことが記載されており(前記第4の2(3)イ)、また、天然の第VIII因子からPro-771-Asp-1666の配列が欠失された165kDaの組換え第VIII因子である第VIII-ΔII因子の精製において、第VIII因子軽鎖に対するモノクローナル抗体AMC-463が結合されたセファロース4Bで充填されたモノクローナル免疫吸着剤カラムを使用したことが甲第3号証(以下、単に「甲3」という。)に記載されている(前記第4の3(4)イ)ように、親和性クロマトグラフィーによる第VIII因子誘導体の精製において、抗第VIII因子特異抗体が結合されたセファロースを含む固相支持体で充填されたカラムを使用することも、当該技術分野における周知技術である。
ここで、甲1に記載された発明の課題は、前記第4の1(2)ア及びウの記載より、遺伝子工学による第VIII因子の製造において、コスト増の原因となる組換えフォンウィルブランド因子の使用を必要としないにもかかわらず、高収率の第VIII因子をもたらす第VIII因子の製造方法を提供することであるため、この甲1に記載された発明の課題とは直接関係しない、得られた第VIII因子や第VIII因子アナログの精製方法については甲1には記載されていないものの、遺伝子工学により得た組換えタンパク質の精製は当業者に自明の事項であることから、甲1発明においても、CHO細胞によって生産された第VIII因子又は第VIII因子アナログを分離する工程において、上述した周知技術を適用し、限外ろ過により培養培地を濃縮し、次いで、抗第VIII因子特異抗体が結合されたセファロースを含む固相支持体が充填されたカラムを免疫親和性クロマトグラフィーのカラムとして使用して、第VIII因子又は第VIII因子アナログを前記濃縮された培養培地から精製することは、当業者であれば格別の創意を要する事項とは認められない。
そして、これらの抗第VIII因子特異抗体が結合されたカラムから第VIII因子誘導体を溶出する際に使用される溶出緩衝剤については、甲2では、20mM トリス、50mM 塩化カルシウム、0.02% ポリソルベート及び50% エチレングリコールを含有する緩衝液(pH6.8)を使用したことが記載されており(前記第4の2(3)イ)、また、甲3では、10mM ヒスチジン、20mM イミダゾール、50%(v/v) エチレングリコール、1mM 塩化カルシウム及び2M 塩化ナトリウムを含有する緩衝液(pH7.0)を使用したことが記載されている(前記第4の3(4)イ)ように、緩衝剤、塩化カルシウム、界面活性剤及びエチレングリコールを含有する溶出緩衝剤や、緩衝剤、塩、塩化カルシウム及びエチレングリコールを含有する溶出緩衝剤は、第VIII因子誘導体を溶出する際に使用される溶出緩衝剤として公知の溶出緩衝剤である。ここで、本件特許の実施例では、第VIII因子誘導体を溶出する際に使用される溶出緩衝剤の組成は明記されていないものの、「第VIII因子-結合された免疫親和性カラムを2.5層体積の平衡緩衝剤及び洗浄緩衝剤(20mMのTris-HCl[pH7.0]、400mM NaCl、5mLCaCl_(2)、3mM EDTA、10%エチレングリコール)で洗浄した。40?60%範囲の濃度でエチレングリコールを含有する溶出緩衝剤を使用して段階的勾配溶出で溶出を行った。」(段落【0030】)との記載から、本件特許の実施例において使用された溶出緩衝剤は、洗浄緩衝剤のエチレングリコールの濃度を変化させたものであるとした場合、その組成は、緩衝剤、塩、塩化カルシウム及びエチレングリコールを含有する溶出緩衝剤であることも考慮すると、これらの抗第VIII因子特異抗体が結合されたカラムから第VIII因子誘導体を溶出する際に使用される溶出緩衝剤の組成を、緩衝剤、塩、塩化カルシウム、界面活性剤及びエチレングリコールを含有するものとすることも、当業者であれば格別の創意を要する事項とは認められない。

d 本件発明の効果について
本件発明は、本件特許明細書の記載から、培養培地に硫酸デキストランを補充することにより、CHO細胞培養中に生産されたプロテアーゼによる切断から第VIII因子が保護され、生産された第VIII因子の均質性が増加することを発明の効果とするものと認められる。しかし、甲1発明も本件発明において特定された分子量の硫酸デキストランを本件発明において特定された量で培養培地中に含有するものであることから、甲1発明における硫酸デキストランも本件特許明細書に記載の効果を奏するものと認められる。したがって、本件発明が甲1に記載された発明と比較して格別顕著な効果を有しているものとは認められない。

e 小括
以上に述べたとおりであるから、本件発明1は、甲1ないし3及び5に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2) 本件発明2ないし4について
本件発明2は、本件発明1において培養培地が動物性タンパク質を含まない培地であることを特定するものである。しかし、甲1発明も無血清培地を使用するものであることから、本件発明2における発明特定事項と甲1発明の間に相違点はない。
本件発明3は、本件発明1において哺乳類宿主細胞がCHO、BHK及びCOS細胞であることを特定するものである。しかし、甲1発明もCHO細胞から第VIII因子又は第VIII因子アナログを得るものであるし、第VIII因子の発現にBHK細胞やCOS細胞の一種であるCOS-7細胞を使用できることも甲1に記載されている(前記第4の1(1)ア、(2)ア)ことから、本件発明3における発明特定事項と甲1発明の間に相違点はないか、甲1の記載から当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明4は、本件発明1ないし3において生産された第VIII因子分子の均質性を増加させる方法と特定するものである。しかし、前記(1)イ(イ)aで述べたように、甲1発明においても硫酸デキストランはプロテアーゼ阻害活性を有し、生産された第VIII因子分子の均質性は増加しているものと認められるので、本件発明4における発明特定事項と甲1発明の間に相違点はない。

2 無効理由2
(1) 本件発明1について
ア 甲3発明
前記第4の3に摘記した甲3の記載より、甲3には、「培養培地中にCHO細胞から組換え第VIII因子を生産し、前記第VIII因子を固相支持体に結合された第VIII因子特異的親和性分子を使用して精製する方法であって、前記CHO細胞を組換えフォンウィルブランド因子を含有する無血清培地で培養する工程、前記第VIII因子を免疫親和性クロマトグラフィーにより培養培地から精製することを含み、ここで、前記第VIII因子が天然の第VIII因子からPro-771-Asp-1666の配列が欠失された165kDaの組換え第VIII因子である第VIII-ΔII因子であり、前記親和性クロマトグラフィーは、第VIII因子軽鎖に対するモノクローナル抗体AMC-463が結合されたセファロース4Bが充填されたモノクローナル免疫吸着剤カラム、及び、ヒスチジン、イミダゾール、エチレングリコール、塩化カルシウム及び塩化ナトリウムを含有する溶出緩衝剤を含む方法。」についての発明が記載されている。(以下、この発明を「甲3発明」という。)

イ 対比
(ア) 本件発明1と甲3発明の対比
甲3には、組換え第VIII因子を生産するCHO細胞が、当該第VIII因子をコードするcDNAを含有する発現DNAベクターで形質転換されたことは記載されていないものの、形質転換されていないCHO細胞が外来のタンパク質を生産することはないので、甲3発明の組換え第VIII因子を生産するCHO細胞も当該第VIII因子をコードするcDNAを含有する発現DNAベクターで形質転換されているものと認められる。また、甲3発明における第VIII因子軽鎖に対するモノクローナル抗体AMC-463は、本件発明1における抗第VIII因子特異抗体の1種であり、甲3発明における第VIII-ΔII因子は、本件発明1における第VIII因子誘導体の1種である。そうしてみると、両者は、「培養培地中に第VIII因子誘導体をコードするcDNAを含有する発現DNAベクターで形質転換されたCHO細胞から組換え第VIII因子を生産し、前記第VIII因子を固相支持体に結合された第VIII因子特異的親和性分子を使用して精製する方法であって、前記CHO細胞を培養培地で培養する工程、前記第VIII因子を免疫親和性クロマトグラフィーにより培養培地から精製することを含み、ここで、前記親和性クロマトグラフィーは、抗第VIII因子特異抗体が結合されたアガロース及びセファロースを含む固相支持体で充填されたカラム、及び、溶出緩衝液を含む方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点4) 培養培地が、本件発明1では、プロテアーゼ阻害活性を有する硫酸化多糖類が補充された培養培地であって、前記硫酸化多糖類は、約20,000?約5,000,000Daの分子量を有する硫酸デキストランであり、培養培地中の前記硫酸デキストランの量が25mg/L乃至200mg/Lであるのに対し、甲3発明では、組換えフォンウィルブランド因子を含有する無血清培地である点。
(相違点5) 本件発明1は、第VIII因子特異的親和性分子を使用して精製する前に、限外ろ過により培養培地を濃縮するのに対し、甲3発明では、培養培地を濃縮することなく、第VIII因子特異的親和性分子を使用して第VIII因子を精製する点。
(相違点6)溶出緩衝液が、本件発明1では、緩衝剤、塩、塩化カルシウム、界面活性剤及びエチレングリコールを含有するものであるのに対し、甲3発明では、ヒスチジン、イミダゾール、エチレングリコール、塩化カルシウム及び塩化ナトリウムを含有するものであり、甲3発明の溶出緩衝液は界面活性剤を含まない点。

(イ) 相違点についての検討
a 相違点4
甲1に記載された発明の課題は、前記1(1)イ(イ)cで述べたように、遺伝子工学による第VIII因子の製造において、コスト増の原因となる組換えフォンウィルブランド因子の使用を必要としないにもかかわらず、高収率の第VIII因子をもたらす第VIII因子の製造方法を提供することであり、甲1には、当該課題を解決するための手段として、フォンウィルブランド因子の替わりに硫酸デキストランが使用できることが記載されている(前記第4の1(2)キ及び(3)イ)。この様な甲1の記載に接した当業者であれば、CHO細胞を組換えフォンウィルブランド因子を含有する無血清培地で培養することにより第VIII-ΔII因子を生産しようとする甲3発明において、フォンウィルブランド因子に替えて硫酸デキストランを用いようとすることは、格別の創意を要する事項とは認められない。そして、甲1発明において使用される硫酸デキストランの分子量は5,000?700,000であるし、甲1発明における硫酸デキストランの添加量が100mg/Lや200mg/Lであることは前記1(1)イ(イ)bで述べたとおりであるが、この硫酸デキストランの分子量や添加量は、本件発明1において特定される数値に包含されている。また、本件発明1では硫酸デキストランがプロテアーゼ阻害活性を有すると特定されているが、この点についての判断は前記1(1)イ(イ)aで述べたとおりである。そうしてみると、相違点4は甲3発明に甲1の記載を適用することにより当業者であれば容易に想到可能なものである。

b 相違点5
前記1(1)イ(イ)cで述べたように、組換えDNA産物を含有する培地の濃縮する際に選ばれる方法が限外ろ過であることは当該技術分野において周知の事項であるところ、免疫親和性クロマトグラフィーを用いて第VIII因子を精製する前に培養培地を濃縮する工程を含まない甲3発明においても、この周知技術を適用し、限外ろ過により第VIII因子を含有する培養培地を濃縮することは、当業者であれば格別の創意を要する事項とは認められない。

c 相違点6
抗第VIII因子特異抗体が結合されたカラムから第VIII因子誘導体を溶出する際に使用される溶出緩衝剤について、甲2には、トリス、塩化カルシウム、ポリソルベート及びエチレングリコールを含有する緩衝液(pH6.8)を使用したことが記載されている(前記第4の2(3)イ)ように、抗第VIII因子特異抗体から第VIII因子誘導体を溶出する際の溶出液にポリソルベートのような界面活性剤を配合することは、本件特許の出願日において公知の事項であった。そして、前記1(1)イ(イ)cで述べたように、本件特許の実施例において使用された溶出緩衝剤が洗浄緩衝剤のエチレングリコールの濃度を変化させたものであるとした場合、その組成は界面活性剤を含まないものであるが、そのような場合にも第VIII因子誘導体の精製が首尾よく完了する(本件特許明細書の段落【0030】)ことも考慮すると、甲3発明の溶出緩衝液に界面活性剤を配合することは当業者であれば格別の創意を要する事項とは認められない。

d 本件発明の効果について
本件発明は、培養培地に硫酸デキストランを補充することにより、CHO細胞培養中に生産されたプロテアーゼによる切断から第VIII因子が保護され、生産された第VIII因子の均質性が増加することという効果を有するものであり、甲1発明における硫酸デキストランも本件特許明細書に記載の効果を奏するものと認められることは、前記1(1)イ(イ)dで述べたとおりであるが、甲1発明が奏する硫酸デキストランの作用効果は、甲3発明に甲1発明を適用した場合にも得ることができるものと認められる。したがって、引用発明に甲1発明を適用した場合の効果は、当業者が予測の範囲内の事項であり、本件発明が格別顕著な効果を有しているものとは認められない。

e 小括
以上に述べたとおりであるから、本件発明1は、甲1ないし3及び5に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2) 本件発明2ないし4について
本件発明2は、本件発明1において培養培地が動物性タンパク質を含まない培地であることを特定するものである。しかし、甲3発明はフォンウィルブランド因子を添加した無血清培地を使用するものであるところ、甲3発明でフォンウィルブランド因子を硫酸デキストランに替えることにより、甲3発明の培養培地はもはや動物性タンパク質を含まない。したがって、本件発明2も当業者が容易に想到可能な発明である。
本件発明3は、本件発明1において哺乳類宿主細胞がCHO、BHK及びCOS細胞であることを特定するものである。しかし、甲3発明もCHO細胞から第VIII因子誘導体の1種である第VIII-ΔII因子を得るものであるし、第VIII因子の発現にBHK細胞やCOS細胞の一種であるCOS-7細胞を使用できることも甲1に記載されている(前記第4の1(1)ア、(2)ア)ことから、本件発明3における発明特定事項と甲3発明の間に相違点はないか、甲1の記載を採用することにより当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明4は、本件発明1ないし3において生産された第VIII因子分子の均質性を増加させる方法と特定するものである。しかし、前記(1)イ(イ)dで述べたように、甲3発明に甲1の記載を適用することにより生産された第VIII因子分子の均質性は増加しているものと認められるので、本件発明4も当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 無効理由3
(1) 本件特許の発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明には以下の事項が記載されている。(下線は当審において付与。)

ア 背景技術
(ア) 「第VIII因子は血液凝固と関連する血漿糖タンパク質である。その機能の欠陥又は異常は血友病Aと呼ばれる深刻な遺伝性疾患を招く(Eaton, D. et al., ・・・)。今まで、血友病Aの唯一の治療はヒトの血液又は組み換え供給源から製造された第VIII因子の静脈内投与であった。安全性の理由により、組み換え第VIII因子が血漿由来第VIII因子より好まれる。・・・
・・・
哺乳類細胞発現のための選択として、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞発現システムが第VIII因子を含む多数の治療タンパク質の生産に使用されていた(Chu, L et al., ・・・)。CHO細胞株の特徴は明らかにされている。CHO細胞株は血清含有培地又は無血清培地に適合した、固定依存的な方法又は懸濁方法で成長することができ、特に、ヒトの糖鎖付加パターンとほぼ同一のタンパク質の翻訳後変更を支援することができる(Brooks S.A., ・・・)。大概は、動物由来ウイルス又はプリオンの伝染に係る安全性を解決してより容易な精製のために、治療タンパク質を生産するCHO細胞を動物由来無タンパク質培地で培養した(Chu, L., et al., ・・・)。しかし、前記培養培地から血清の除去は血清補充物のうち天然的に含有されたプロテアーゼ抑制剤も除去し、前記生産過程中に細胞生存率を維持することが困難となる(Mols, J., et al., ・・・)。
減少した生存率及びストレスが多い環境は、死んだ細胞から分泌されたり放出されるプロテアーゼの生産を増加させると見られており、これは前記治療タンパク質を攻撃して不均質性(heterogeneity)を誘発し得る。治療タンパク質の内部切断により誘発された不均質性は大きな問題となり得るが、その理由は切断されたタンパク質が不活性となり、生産及び精製過程中に“ロット間(lot to lot)”同一性を維持することが困難となるためである。従って、生産中に比較的低い水準のプロテアーゼを維持しプロテアーゼ活性を防止することが重要である。
培養中にCHO細胞株から放出されたプロテアーゼにより誘発されるこのようなタンパク質分解を防止するためのいくつかの成功した努力が報告されているが、CHO細胞株から生産された全ての治療タンパク質に適用できる普遍的な抑制剤は未だに発見されていない。」(段落【0001】?【0005】)
(イ) 「本発明は、CHO細胞培養中に生産されたプロテアーゼからの第VIII因子又はその誘導体の切断に対する硫酸デキストランの保護効果を立証することを目的とする。」(段落【0009】)

イ 発明の概要
「本発明の一様態において、硫酸デキストランが補充された無血清培地に適用された哺乳類宿主細胞株で第VIII因子又はその誘導体の生産方法を提供する。培養培地に硫酸デキストランを添加すると、CHO細胞培養培地が起源である(a)いくつかのプロテアーゼの第VIII因子-切断機能が有効に減少されたり遮断され、同時に前記生産された第VIII因子分子の均質性が増加する。
本発明の別の様態において、単クローン抗体依存精製方法を使用して硫酸デキストラン含有培地から第VIII因子分子を効率的に精製する方法を提供する。
本発明は、哺乳類宿主細胞培養中に放出されるプロテアーゼによる切断から米国特許第7,041,635号に開示された単一鎖第VIII因子誘導体を保護することができる有効抑制剤及び前記生産された第VIII因子誘導体の均質性を増加させることに関する。また、本発明は、前記プロテアーゼ抑制剤の添加による影響なく前記第VIII因子を精製する方法に関する。
・・・
・・・本発明は、硫酸デキストランのみが培養過程中に培養培地に添加されるとき、第VIII因子切断に対して非常に強い保護効果を有することを立証した。」(段落【0012】?【0015】)

ウ 実施例
(ア) 実施例1
「I2GdBNの断片化に対する多様な硫酸化多糖類の保護効果の比較
高分子量の硫酸デキストラン(約500kDa)、ヘパリン、2種類の低分子量ヘパリン(?3kDa及び4?6kDa)、及びデルマタン硫酸を・・・、水に再懸濁してフィルター殺菌した。細胞を先で言及したように分株して24時間後に、培地を新しいものと換え、5種類の硫酸化多糖類を各ウェルに各々25mg/L、50mg/L、100mg/L、又は200mg/Lの最終濃度で添加した。48時間培養した後、培養上澄液を除去し、ウエスタンブロット分析を通して分析した。図1に示したように、・・・3種のヘパリンの保護効果はほとんどなかった。しかし、硫酸デキストランは濃度-依存的方式で効率的に第VIII因子の切断を保護した。」(段落【0026】)
(イ) 実施例2
「I2GdBNの切断に対する硫酸デキストランの分子量の効果
・・・より少ない分子量の硫酸デキストランが細胞培養中に発現されたI2GdBNの切断を保護することができるかを調べるために、同一含量の硫黄を有し、同一の供給源から起源する8kDa、10kDa及び500kDaの硫酸デキストランを100mg/L、200mg/L、400mg/L、及び1000mg/Lの多様な濃度で前記培地に加えた。硫酸デキストランを添加して72時間後、培養培地を収穫し、ウエスタンブロット分析により分析した。図2に示されるように、低分子量の硫酸デキストランの量を増加させて(図2でレーン1?レーン8)、細胞培養培地に添加したが、I2GdBN切断に対する効率的な保護効果が全く観察されなかった。500kDaの硫酸デキストラン(レーン9?レーン12)のみが単一鎖I2GdBNの断片化を保護することが分かった。」(段落【0027】)
(ウ) 実施例4
「懸濁培養に対する硫酸デキストランの適用
硫酸デキストラン(500kDa)をかん流培養システムに適用した。1本のバイアルの細胞を解凍し、T75フラスコで細胞数を増大させ、T125フラスコで更に増大させた。T125フラスコ中の細胞を250mL、1L及び3Lスピナーフラスコに連続的に移し、100rpmの回転速度で5%のCO2/空気混合物下に37℃で磁気攪拌器プレート上で懸濁培養状態で培養させた。3Lスピナーフラスコの中で幾何級数的に成長する細胞を回収し、5Lの可動範囲を有する7.5L生物反応器に接種した。硫酸デキストラン(500kDa)を前記生物反応器中の無血清培地に200mg/Lの濃度で加えた。培養かん流の間、細胞生存率が92.7%以上で維持され、培養過程の間、ウエスタンブロットでの各バンドの密度測定分析より判断したとき、第VIII因子の断片は5%未満で検出された。」(段落【0029】)
(エ) 実施例5
「免疫親和性クロマトグラフィーによる培養培地からI2GdBNの精製
・・・実施例4で精製された培養培地を接線流限外ろ過により濃縮させ、平行緩衝剤(20mMのTris-HCl[pH7.0]、400mM NaCl、5mL CaCl_(2)、3mM EDTA)であらかじめ平衡化させた免疫親和性カラムに加えた。免疫親和性カラムを第VIII因子重鎖のA2部位を認識する単クローン抗第VIII因子をCNBr-活性化されたセファロースに結合させることで製造した。第VIII因子-結合された免疫親和性カラムを2.5層体積の平衡緩衝剤及び2.5層体積の洗浄緩衝剤(20mMのTris-HCl[pH7.0]、400mM NaCl、5mL CaCl_(2)、3mM EDTA、10%エチレングリコール)で洗浄した。40?60%範囲の濃度でエチレングリコールを含有する溶出緩衝剤を使用して段階的勾配溶出で溶出を行った。12個の溶出分画中9個(図5でE1?E9に相当する溶出分画1?9番)をサンプリングし、7.5%のSDS-PAGEに適用し、クマシーブリリアントブルーR250染料で染色した。図5で例示したように、前記培養培地の単一段階の精製のみでも95%を超過する非常に純粋な単一鎖第VIII因子を提供した。」(段落【0030】)

(2) 特許法第36条第6項第1号について
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満足するか否か、すなわち、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるか否かについて検討する。
本件発明が解決しようとする課題は、前記(1)ア及びイの記載より、哺乳類宿主細胞による組換え第VIII因子の生産ではプロテアーゼが生産された第VIII因子を切断し、生産された第VIII因子が不均質なものとなるため、得られた製品のロット間の同一性を維持することが困難であったところ、哺乳類宿主細胞が生産した第VIII因子をプロテアーゼによる切断から保護し、生産される第VIII因子の均質性を増加させること(以下、この課題を「課題1」という。)にあり、さらに、プロテアーゼによる切断から第VIII因子を保護するために添加したプロテアーゼ抑制剤の影響なく第VIII因子を精製すること(以下、この課題を「課題2」という。)にあると認められる。
そして、当該課題1は、硫酸デキストランが添加された培養培地で哺乳類宿主細胞を培養することにより解決できることが前記(1)イに記載されている。また、実施例1には、約5000000Daの分子量を有する硫酸デキストランを25mg/L乃至200mg/L補充された培養培地でCHO細胞を培養することにより、添加剤がない培地で培養した場合と比較して、第VIII因子の切断を防ぐことができたことが記載されており(前記(1)ウ(ア)、実施例2には、5000000Daの分子量を有する硫酸デキストランを100mg/L又は200mg/L補充された培養培地でCHO細胞を培養することにより、8000Da又は10000Daの分子量を有する硫酸デキストランを補充した場合と比較して、第VIII因子の切断を防ぐことができたことが記載されており(前記(1)ウ(イ))、実施例4には、5000000Daの分子量を有する硫酸デキストランを200mg/L補充された培地でCHO細胞を懸濁培養する場合に、第VIII因子の切断は5%未満であったことが記載されている(前記(1)ウ(ウ))。このように、本件発明が解決しようとする課題1は、約20000?約5000000Daの分子量を有する硫酸デキストランを25mg/L乃至200mg/L補充された培養培地で哺乳類宿主細胞を培養することにより解決できることが発明の詳細な説明に記載されているということができる。そして、哺乳類宿主細胞を上述した条件で培養することは、本件特許の請求項1に(a)工程として特定して記載されていることから、上記課題1について、本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできない。
また、課題2については、実施例5において、第VIII因子の断片の検出は5%未満であった実施例4の培養培地を、限外ろ過により濃縮し、第VIII因子重鎖のA2部位を認識するモノクローナル抗第VIII因子をCNBr-活性化されたセファロースに結合させることで製造した免疫親和性カラムを用い、40?60%範囲の濃度でエチレングリコールを含有する溶出緩衝剤を使用して段階的勾配溶出で第VIII因子を溶出することにより精製した場合に、95%を超過する非常に純粋な単一鎖第VIII因子を得ることができたことが記載されている(前記(1)ウ(エ))ところ、当該記載からは、固相支持体に結合された第VIII因子特異的親和性分子を使用して第VIII因子を精製する工程において、精製の前後で第VIII因子の純度に変化はないと理解できる。そうしてみると、本件発明が解決しようとする課題2も解決できることが本件特許の発明の詳細な説明に記載されているということができる。
審判請求人は、当該実施例に記載された精製工程では、実際に「抗第VIII因子特異抗体が結合されたアガロース及びセファロースを含む固相支持体」及び「固相支持体に結合された第VIII因子分子のための緩衝剤、塩、塩化カルシウム、界面活性剤及びエチレングリコールを含有する溶出緩衝剤」が使用されていない旨を主張する。しかし、そもそも、第VIII因子特異的抗体を使用する親和性クロマトグラフィーにおいて、固相支持体や溶出緩衝液の相違が精製の結果に大きな影響を与えるということはできないことから、実施例の記載が本件発明と完全に一致していないことを根拠に、本件発明が、発明の詳細な説明において本件発明が解決しようとする課題2を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているということはできない。
また、審判請求人は、本件発明が発明の詳細な説明の記載から当業者が理解し得る以上の効果を奏するものである場合にはサポート要件を満たさない旨を主張する。しかし、本件発明についてのサポート要件の判断は上述したとおりであり、仮に、本件発明が発明の詳細な説明の記載から当業者が理解し得る以上の効果を奏すると認められるような主張があったとしても、それは、発明の進歩性の判断においてそのような効果の主張を参酌できるか否かという問題であって、本件発明のサポート要件の判断には関係しない。したがって、請求人の主張は失当である。
以上のとおりであるから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできない。

4 無効理由4
本件発明は方法の発明であるところ、本件特許の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満足するか否か、すなわち、本件方法の発明を当業者が実施できるように発明の詳細な説明が記載されているか否かについて検討するに、本件発明を当業者が実施することができないとか、その実施が困難であるような理由を特段見いだすことはできない。
審判請求人は、この無効理由においても、本件特許の発明の詳細な説明の実施例5に記載された精製工程では、本件発明の発明特定事項である「抗第VIII因子特異抗体が結合されたアガロース及びセファロースを含む固相支持体」及び「固相支持体に結合された第VIII因子分子のための緩衝剤、塩、塩化カルシウム、界面活性剤及びエチレングリコールを含有する溶出緩衝剤」が実際に使用されていない旨を主張する。しかし、親和性クロマトグラフィーに使用する固相支持体としてのアガロースは周知のものであるし、親和性クロマトグラフィーで使用する溶出緩衝剤に添加する界面活性剤の種類もおのずと限定されるものである。そうしてみると、本件発明に完全に対応する実施例が本件特許の発明の詳細な説明に記載されていないことを根拠に、本件発明の実施において、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や、複雑高度な実験が必要になるということはできず、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできない。
また、審判請求人は、本件発明が発明の詳細な説明の記載から当業者が理解し得る以上の効果を奏するものである場合には実施可能要件を満たさない旨を主張する。しかし、本件発明についての実施可能要件の判断は上述したとおりであり、仮に、本件発明が発明の詳細な説明の記載から当業者が理解し得る以上の効果を奏すると認められるような主張があったとしても、それは、発明の進歩性の判断においてそのような効果の主張を参酌できるか否かという問題であって、本件発明の実施可能要件の判断には関係しない。したがって、請求人の主張は失当である。

第6 むすび
以上のとおり、本件発明1ないし4は、甲第1号証に記載された発明並びに甲第2、3及び5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし4に係る発明についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである(無効理由1)。
また、本件発明1ないし4は、甲第3号証に記載された発明並びに甲第1、2及び5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし4に係る発明についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである(無効理由2)。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-10-09 
結審通知日 2019-10-15 
審決日 2019-10-31 
出願番号 特願2009-550781(P2009-550781)
審決分類 P 1 113・ 121- Z (C07K)
P 1 113・ 536- Z (C07K)
P 1 113・ 537- Z (C07K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 崇之  
特許庁審判長 長井 啓子
特許庁審判官 天野 貴子
田村 聖子
登録日 2014-05-30 
登録番号 特許第5550350号(P5550350)
発明の名称 第VIII因子とその誘導体の製造及び精製方法  
代理人 市川 さつき  
代理人 金山 賢教  
代理人 山内 真之  
代理人 星野 貴光  
代理人 山崎 一夫  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 川嵜 洋祐  
代理人 須田 洋之  
代理人 服部 博信  
代理人 田中 伸一郎  
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