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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A01K
管理番号 1360426
審判番号 不服2019-7357  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-06-04 
確定日 2020-03-24 
事件の表示 特願2017-163943「駆動ギア」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月21日出願公開、特開2017-221218、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年9月25日(以下、「原出願日」という。)に出願された特願2012-210574号の一部を分割して、平成29年8月29日に新たな特許出願としたものであって、平成30年8月10日付け(起案日)で拒絶理由通知がなされ、同年10月16日に意見書及び手続補正書が提出され、平成31年3月26日付け(起案日)で拒絶査定(以下、「原査定」という。)がなされ、これに対して令和1年6月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成31年3月26日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願請求項1ないし3及び6に係る発明は、下記引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献:
1.特開平11-182652号公報

第3 本願発明
本願請求項1?6に係る発明(以下、「本願発明1」?「本願発明6」という。)は、平成30年10月16日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
釣り用リールに用いられる駆動ギアであって、
かみ合い進行方向線と交差する少なくとも1つの溝部が歯面に形成された複数のギア歯を有するギア歯部と、
前記ギア歯部が外周面及び外周側の側面のいずれかに形成される円板部と、を備え、
前記少なくとも1つの溝部は、かみ合い同時接触線に沿って延びる、釣り用リールの駆動ギア。

【請求項2】
前記溝部は、前記歯面の前記かみ合い進行方向線の方向に間隔を隔てて複数設けられる、請求項1に記載の釣り用リールの駆動ギア。

【請求項3】
前記複数の溝部は、前記歯面に7本から15本形成される、請求項2に記載の釣り用リールの駆動ギア。

【請求項4】
前記ギア歯は、前記円板部の外周側の側面に形成されるフェースギア歯を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の釣り用リールの駆動ギア。
【請求項5】
前記複数の溝部は、前記歯面に湾曲して形成される、請求項4に記載の釣り用リールの駆動ギア。

【請求項6】 前記ギア歯は、前記円板部の外周面に形成される、すぐ歯、はす歯、及びやま歯のいずれかを含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の釣り用リールの駆動ギア。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1
(1)記載事項
原査定に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付した。)。

ア 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は歯車に係り、特に、歯面間の油膜の形成と歯面の冷却効果を高くして歯面の損傷を効果的に防止することができる歯車に関するものである。」

イ 「【0007】【発明の実施の形態】以下に本発明の実施形態を図に基づいて詳細に説明する。図1は本発明に係る歯車の第1実施形態を示す歯の部分の斜視図、図2は図1に示した歯の正面図、図3は図2のA-A断面図である。
【0008】本実施形態においては、歯車の歯10における負荷側の歯面11に、歯面接触線12と直交する方向に沿う複数条の直線状をなす溝条13を形成している。
【0009】従って、歯面11に供給された潤滑油は、溝条13をガイドとして遠心力で歯面11に沿って歯10の先端側に流れながら油膜を形成して歯面11に蓄積された熱を吸収した後に外部に飛散する。また、このような歯面11における潤滑油の流れに際して、本実施形態においては歯面接触線12と直交する方向に沿って溝条13を形成している。従って、歯10が接触している際に溝条13による油切り効果が少なく、歯面11における油膜の形成が良好なものとなる。
【0010】ところで、溝条13は例えば図3に示したように断面半円状に形成されるが、図4に示したような矩形断面の溝条13を設けたものであってもよい。また、溝条13は歯車の素材段階で、あるいは、歯面11の形成過程もしくは形成後に従来公知の切削手段または成型手段により形成することができるが、いずれの手段を採用した場合においても直線状の溝条13を形成するものであるから格別な困難性はない。
【0011】上記実施形態においては歯面接触線12と直交する方向に沿う溝条13を形成することにより、溝条13による油切り効果を回避して良好な油膜を得るようにしているが、図5に示した第2実施形態のように歯形方向に沿う溝条13を形成することができる。このように歯形方向に沿う溝条13を設けた場合は、歯面11に供給されて熱を吸収した潤滑油の遠心力による流れの方向と溝条13の方向が一致する。従って、本実施形態による場合は、歯面11における潤滑油の流れが円滑化されてより高い冷却効果を得ることができる、という利点がある。
【0012】また、図6に示した第3実施形態のように歯スジ方向に沿う溝条13を形成した場合は、溝条13を容易に形成することができる。さらに、本実施形態においては、溝条13に貯溜された潤滑油が歯車の回転にともなう遠心力を受けて徐々に流出するために、良好な油膜が形成されて歯面11を長時間にわたって保護・冷却するために、歯面11の損傷防止効果が高くなる、という利点がある。
【0013】 なお、溝条13の位置および本数は歯10の大きさならびに歯幅によって変わるものであり、歯車の運転条件、潤滑条件などを勘案して実験的に求めることができる。
【0014】 さらに、本発明においては原則として駆動側ならびに従動側の歯車における負荷側の歯面のみに溝条を形成するが、駆動側もしくは従動側の少なくとも一方の歯車の歯面のみに溝条を形成し、あるいは、負荷側の歯面に加えて反負荷側の歯面に溝条を設けることにより、潤滑油による冷却効率をより高くするとともに、負トルクが伝達される場合における歯面の損傷に備えることもできる。
【0015】【発明の効果】以上の説明から明らかなように本発明は、直線状をなす溝条を歯面に形成したことにより、この溝条による潤滑油の貯溜作用と案内作用で歯面間の油膜の形成と歯面の冷却効果を助長することができるために、歯面の損傷を効果的に防止することができる。」

ウ 図面
(ア)【図1】




(イ)【図2】




(ウ)【図6】



図6から、歯10に2本の溝条13が形成された点が看て取れる。

イ 引用文献1に記載された発明
上記アより、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(引用発明)
「歯10における負荷側の歯面11に、2本の溝条13を、歯スジ方向に沿って形成している駆動側の歯車。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「駆動側の歯車」は、本願発明1の「駆動ギア」に相当する。
イ 引用発明の「歯10」及び「歯面11」は、本願発明1の「ギア歯」及び「歯面」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「歯10」は、「駆動側の歯車」の要素であり、「駆動側の歯車」は、「従動側の歯車」に、車という形態で、「歯10」を介して動力を伝達することから、「駆動側の歯車」が「歯10」を複数具備していることは明らかである。そうすると、引用発明の「駆動側の歯車」の複数の「歯10」を備える部位は、本願発明1の「複数のギア歯を有するギア歯部」に相当する。

ウ 引用発明の「2本の溝条13」が「歯10における負荷側の歯面11」に「歯スジ方向に沿って形成」されることと、本願発明1の「少なくとも1つの溝部」が「歯面」に「形成」されることとは、「少なくとも1つの溝部」が「歯面」に「形成」される点で共通する。

以上より、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点及び相違点があるといえる。

<一致点>
「駆動ギアであって、
少なくとも1つの溝部が歯面に形成された複数のギア歯を有するギア歯部を備えた、駆動ギア。」

<相違点1>
「駆動ギア」が、本願発明1では、釣り用リールに用いられるのに対して、引用発明では、そのような特定がなされていない点。

<相違点2>
「ギア歯」の「歯面」に形成された「少なくとも1つの溝部」が、本願発明1では、「かみ合い進行方向線と交差する」とともに、「かみ合い同時接触線に沿って延びる」ものであるのに対して、引用発明では、そのような特定がなされていない点。

<相違点3>
「駆動ギア」が、本願発明1では、ギア歯部が外周面及び外周側の側面のいずれかに形成される円板部を備えているのに対して、引用発明では、そのような特定がなされていない点。

(2)判断
事案に鑑み、上記相違点2から判断する。
ア 引用文献1には、「かみ合い進行方向線」が記載されておらず、「歯面10」におけるかみ合い進行方向がどのような方向となるのかについても何ら示唆されていない。
したがって、引用文献1には、「かみ合い進行方向線と交差する少なくとも1つの溝部」の構成が記載も示唆もされているとはいえない。

イ 引用文献1の図6(上記第4の1(1)ウ(ウ)参照)をみると、歯スジ方向に沿う2本の「溝条13」が記載されているものの、「かみ合い同時接触線」は記載されていない。
ここで、引用文献1の段落【0012】(上記第4の1(1)イ参照)をみると、図6の実施態様に関して、「溝条13に貯溜された潤滑油が歯車の回転にともなう遠心力を受けて徐々に流出する」と記載されている。ここには、駆動側の歯車の回転に関する記載があって、当該記載からは、「溝条13」が、「潤滑油」が「遠心力を受けて徐々に流出する」ように設けられていることは理解できるものの、従動側の歯車についての態様(従動側の歯車のタイプや、駆動側の歯車の軸に対する従動側の歯車の軸の位置関係など)が特定されていないので、図6の実施態様における「歯面11」において、「かみ合い同時接触線」の方向や「溝条13」との位置関係を特定することができない。
ところで、引用文献1の段落【0009】及び図2(上記第4の1(1)イ、ウ(イ)参照)をみると、「歯面接触線12」(本願発明1の「かみ合い同時接触線」)が記載されている。仮に、上記図6の実施態様における「歯面11」における「歯面接触線」の方向が、上記図2に示された「歯面接触線12」の方向と同じであるとすると、図6の実施態様における「溝条13」は、「歯面接触線12」と交差することになる、すなわち、「歯面接触線12」に沿って延びるとはいえないことになる。
よって、引用文献1には、「少なくとも1つの溝部は、かみ合い同時接触線に沿って延びる」との構成が記載も示唆もされているとはいえない。

ウ 以上のとおりであるから、引用文献1には、「ギア歯」の「歯面」に形成された「少なくとも1つの溝部」が、「かみ合い進行方向線と交差する」とともに、「かみ合い同時接触線に沿って延びる」の点(相違点2に係る本願発明1の構成)は記載も示唆もされているとはいえない。

エ したがって、上記相違点1及び3について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明に基いて、容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2?6について
本願発明2?6も、本願発明1の全ての発明特定事項を含むものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明に基いて、容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明1?6は、当業者が引用発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-03-09 
出願番号 特願2017-163943(P2017-163943)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A01K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 門 良成  
特許庁審判長 小林 俊久
特許庁審判官 西田 秀彦
森次 顕
発明の名称 駆動ギア  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

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