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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 E06B 審判 一部申し立て 発明同一 E06B |
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管理番号 | 1360441 |
異議申立番号 | 異議2018-700640 |
総通号数 | 244 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-04-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-08-02 |
確定日 | 2020-01-20 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6275430号発明「窓の防火構造」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6275430号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕、4について訂正することを認める。 特許第6275430号の請求項1、3、4に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6275430号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成25年9月17日に特許出願され、平成30年1月19日付けでその特許権の設定登録がされ、平成30年2月7日に特許掲載公報が発行された。 本件特許異議の申立ての経緯は、次の通りである。 平成30年 8月 2日:特許異議申立人石井克彦(以下「申立人」と いう。)よる請求項1、3、4に係る特許に 対する特許異議の申立て 平成30年10月 3日:取消理由通知書(起案日) 平成30年12月 7日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 平成31年 2月20日:申立人による意見書の提出 平成31年 3月27日:取消理由通知書〈決定の予告〉(起案日) 令和 1年 6月 3日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 (以下「本件訂正請求」という。) 令和 1年 8月14日:訂正拒絶理由通知書(起案日) 令和 1年 9月18日:特許権者による意見書の提出 令和 1年11月25日:申立人による意見書の提出 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正内容は、以下の(1)?(6)のとおりである(下線は訂正箇所を示す。) (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1を、 「引き違い窓または上げ下げ窓として構成された窓の防火構造において、 室外側障子と室内側障子の各召し合せ框に、障子が閉じた状態において互いに相手の裏面側どうしが対面するように交差する煙返しを備えると共に、 前記室内側障子の召し合せ框における、前記室外側障子の召し合せ框との対向面であって、かつ前記室内側障子の召し合せ框の煙返しの根本側で、室内外方向に見て前記煙返しと重ならない箇所に、前記室内側障子の煙返しの室外側面よりも室内側へ凹み、両脇が断面略コ字形に曲成された取付け溝を備え、 前記取付け溝に、加熱により発泡して召し合せ框どうしの隙間を閉塞する加熱発泡材が、その両脇を前記取付け溝の両脇の曲成部に嵌め込んで取付けられ、 火災発生時に、内外の召し合せ框間の隙間が前記加熱発泡材の発泡により生じた発泡体によって充填されることにより、召し合せ框どうしを離反させる力が発生し、内外の召し合せ框にそれぞれ形成した煙返しどうしが圧接して、障子が開き難くなる構成を有することを特徴とする窓の防火構造。」と訂正する。 (請求項1を引用する請求項3も同様に訂正する) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を請求項1の従属請求項から独立請求項とし、 「請求項1に記載の窓の防火構造において、」を、 「引き違い窓または上げ下げ窓として構成された窓の防火構造において、 室外側障子と室内側障子の各召し合せ框に、障子が閉じた状態において互いに相手の裏面側どうしが対面するように交差する煙返しを備えると共に、 前記室内側障子の召し合せ框における、前記室外側障子の召し合せ框との対向面に、前記室内側障子の煙返しの室外側面よりも室内側へ凹み、両脇が断面略コ字形に曲成された取付け溝を備え、 前記取付け溝に、加熱により発泡して召し合せ框どうしの隙間を閉塞する加熱発泡材が、その両脇を前記取付け溝の両脇の曲成部に嵌め込んで取付けられ、」と訂正する。 (請求項2を引用する請求項3も同様に訂正する) (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項4を、 「引き違い窓または上げ下げ窓として構成された窓の防火構造において、 室外側障子と室内側障子の各召し合せ框に、障子が閉じた状態において互いに相手の裏面側どうしが対面するように交差する煙返しを備え、 前記室内側障子の召し合せ框における、前記室外側障子の召し合せ框との対向面であって、かつ前記室内側障子の召し合せ框の煙返しの根本側で、室内外方向に見て前記煙返しと重ならない箇所に、前記室内側障子の煙返しの室外側面よりも室内側に位置する取付け面を備え、 前記取付け面に、加熱により発泡して召し合せ框どうしの隙間を閉塞する加熱発泡材が設けられており、 火災発生時に、内外の召し合せ框間の隙間が前記加熱発泡材の発泡により生じた発泡体によって充填されることにより、召し合せ框どうしを離反させる力が発生し、内外の召し合せ框にそれぞれ形成した煙返しどうしが圧接して、障子が開き難くなる構成を有し、 前記室内側障子の召し合せ框に、非防火性クレセントが取付けられていることを特徴とする窓の防火構造。」と訂正する。 (4)訂正事項4 明細書の段落【0010】を、 「請求項1の窓の防火構造は、引き違い窓または上げ下げ窓として構成された窓の防火構造において、 室外側障子と室内側障子の各召し合せ框に、障子が閉じた状態において互いに相手の裏面側どうしが対面するように交差する煙返しを備えると共に、 前記室内側障子の召し合せ框における、前記室外側障子の召し合せ框との対向面であって、かつ前記室内側障子の召し合せ框の煙返しの根本側で、室内外方向に見て前記煙返しと重ならない箇所に、前記室内側障子の煙返しの室外側面よりも室内側へ凹み、両脇が断面略コ字形に曲成された取付け溝を備え、 前記取付け溝に、加熱により発泡して召し合せ框どうしの隙間を閉塞する加熱発泡材が、その両脇を前記取付け溝の両脇の曲成部に嵌め込んで取付けられ、 火災発生時に、内外の召し合せ框間の隙間が前記加熱発泡材の発泡により生じた発泡体によって充填されることにより、召し合せ框どうしを離反させる力が発生し、内外の召し合せ框にそれぞれ形成した煙返しどうしが圧接して、障子が開き難くなる構成を有することを特徴とする。」と訂正する。 (5)訂正事項5 明細書の段落【0011】を、 「請求項2の窓の防火構造は、引き違い窓または上げ下げ窓として構成された窓の防火構造において、 室外側障子と室内側障子の各召し合せ框に、障子が閉じた状態において互いに相手の裏面側どうしが対面するように交差する煙返しを備えると共に、 前記室内側障子の召し合せ框における、前記室外側障子の召し合せ框との対向面に、前記室内側障子の煙返しの室外側面よりも室内側へ凹み、両脇が断面略コ字形に曲成された取付け溝を備え、 前記取付け溝に、加熱により発泡して召し合せ框どうしの隙間を閉塞する加熱発泡材が、その両脇を前記取付け溝の両脇の曲成部に嵌め込んで取付けられ、 前記室外側障子の召し合せ框における、前記室内側障子の召し合せ框との対向面にも加熱により発泡して召し合せ框どうしの隙間を閉塞する加熱発泡材が設けられていることを特徴とする。」に訂正する。 (6)訂正事項6 明細書の段落【0013】を、 「請求項4の窓の防火構造は、引き違い窓または上げ下げ窓として構成された窓の防火構造において、 室外側障子と室内側障子の各召し合せ框に、障子が閉じた状態において互いに相手の裏面側どうしが対面するように交差する煙返しを備え、 前記室内側障子の召し合せ框における、前記室外側障子の召し合せ框との対向面であって、かつ前記室内側障子の召し合せ框の煙返しの根本側で、室内外方向に見て前記煙返しと重ならない箇所に、前記室内側障子の煙返しの室外側面よりも室内側に位置する取付け面を備え、 前記取付け面に、加熱により発泡して召し合せ框どうしの隙間を閉塞する加熱発泡材が設けられており、 火災発生時に、内外の召し合せ框間の隙間が前記加熱発泡材の発泡により生じた発泡体によって充填されることにより、召し合せ框どうしを離反させる力が発生し、内外の召し合せ框にそれぞれ形成した煙返しどうしが圧接して、障子が開き難くなる構成を有し、 前記室内側障子の召し合せ框に、非防火性クレセントが取付けられていることを特徴とする。」と訂正する。 2 訂正の目的の適否、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無 (1)訂正事項1 ア 訂正の目的の適否について 訂正事項1は、請求項1において、(1-1)「取付け溝」の位置について、「前記室内側障子の召し合せ框の煙返しの根本側で、室内外方向に見て前記煙返しと重ならない箇所に」限定し、さらに、(1-2)「窓の防火構造」として、「火災発生時に、内外の召し合せ框間の隙間が前記加熱発泡材の発泡により生じた発泡体によって充填されることにより、召し合せ框どうしを離反させる力が発生し、内外の召し合せ框にそれぞれ形成した煙返しどうしが圧接して、障子が開き難くなる構成を有する」ものに限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 訂正事項1は、上記アのとおり、「取付け溝」や「窓の防火構造」を限定する訂正であって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。 ウ 新規事項の有無について 訂正事項1の(1-1)に関し、本件特許図面(図2)を参照すると、引き違い窓については、取付け溝が、室内側障子の召し合せ框の煙返しの根本側であって、室内外方向に見て煙返しと重ならない箇所に設けられていることが看取でき、また、上げ下げ窓については、「【0036】上記の実施の形態においては、引き違い窓に本発明の防火構造を適用した例について示したが、本発明は、図6の縦断面図に示すように、上げ下げ窓にも適用することができる。・・・」と記載されていることから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面(以下「明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正である。 次に、(1-2)に関し、発明の詳細な説明には、 「【0016】また、内外の召し合せ框間の隙間が発泡体によって充填されることにより、召し合せ框どうしを離反させる力が発生し、これにより、内外の召し合せ框にそれぞれ形成した煙返しどうしが圧接する。これにより、煙返しどうしの摩擦抵抗が増大すると共に、この摩擦抵抗に、発泡体と召し合せ框との間で発生する摩擦抵抗が加わり、その結果、内外の召し合せ框どうしの間に大きな摩擦抵抗が発生し、障子が開き難くなる。・・・」と記載されていることから、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。 (2)訂正事項2 ア 訂正の目的の適否 訂正事項2は、訂正前の請求項2が、請求項1を引用するものであるところ、該請求項1の記載を加えて請求項1を引用しないものとする訂正であるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。 イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否及び新規事項について 訂正事項2は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではなく、新規事項の追加に該当しないことは明らかである。 (3)訂正事項3 ア 訂正の目的の適否 訂正事項3は、請求項4において、(3-1)「窓の防火構造」について、「前記室内側障子と室外側障子の各召し合せ框に、障子が閉じた状態において互いに相手の裏面側同士が対面するように交差する煙返しを備え」るものであって、「火災発生時に、内外の召し合せ框間の隙間が前記加熱発泡材の発泡により生じた発泡体によって充填されることにより、召し合せ框どうしを離反させる力が発生し、内外の召し合せ框にそれぞれ形成した煙返しどうしが圧接して、障子が開き難くなる構成を有」するものに限定し、さらに、(3-2)「加熱発泡材」が設けられる位置について、「前記室外側障子の召し合せ框との対向面であって、かつ前記室内側障子の召合わせ框の煙返しの根本側で、室内が方向に見て前記煙返しと重ならない箇所に、前記室内側障子の煙返しの室外側面よりも室内側に位置する取付け面」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 訂正事項3は、上記アのとおり、「窓の防火構造」及び「加熱発泡材」を限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。 ウ 新規事項の有無について 訂正事項3の(3-1)に関し、発明の詳細な説明には、 「【0028】・・・24,25はそれぞれ召し合せ框8,13における相互の対向面に形成した煙返しであり、障子5,6を閉じた状態において、それぞれ煙返し24,25は相手の裏側の面(框8,13の対向面の反対側の面)に対面するように交差させて係合させるものである。」、 「【0016】また、内外の召し合せ框間の隙間が発泡体によって充填されることにより、召し合せ框どうしを離反させる力が発生し、これにより、内外の召し合せ框にそれぞれ形成した煙返しどうしが圧接する。これにより、煙返しどうしの摩擦抵抗が増大すると共に、この摩擦抵抗に、発泡体と召し合せ框との間で発生する摩擦抵抗が加わり、その結果、内外の召し合せ框どうしの間に大きな摩擦抵抗が発生し、障子が開き難くなる。・・・」と記載されていることからみて、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。 また、(3-2)に関し、本件特許図面(図2)を参照すると、引き違い窓の実施の形態ではあるが、取付け溝において、室外側障子の召し合せ框に対向した面(「取付け面」に相当。)が、室内側障子の召し合せ框の煙返しの根本側であって、室内外方向に見て煙返しと重ならない箇所に、室内側障子の煙返しの室外側面よりも室内側に位置することが看取でき、また、上げ下げ窓については、「【0036】上記の実施の形態においては、引き違い窓に本発明の防火構造を適用した例について示したが、本発明は、図6の縦断面図に示すように、上げ下げ窓にも適用することができる。・・・」と記載されていることから、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。 (4)訂正事項4?6 訂正事項4?6は、それぞれ、上記訂正事項1?3に係る請求項1、2、4の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかである。 (5) 一群の請求項について 本件訂正前の請求項〔1?3〕は、請求項2及び3が請求項1の記載を直接または間接的に引用する関係にあるから、一群の請求項に該当するものである。 (6) 小括 したがって、本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号、又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?3〕、4について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 訂正後の請求項1ないし4に係る発明 上記第2のとおり本件訂正請求による訂正は認められるから、本件訂正請求により訂正された請求項1ないし4に係る発明(以下「本件特許発明1」等といい、全体を「本件特許発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 引き違い窓または上げ下げ窓として構成された窓の防火構造において、 室外側障子と室内側障子の各召し合せ框に、障子が閉じた状態において互いに相手の裏面側どうしが対面するように交差する煙返しを備えると共に、 前記室内側障子の召し合せ框における、前記室外側障子の召し合せ框との対向面であって、かつ前記室内側障子の召し合せ框の煙返しの根本側で、室内外方向に見て前記煙返しと重ならない箇所に、前記室内側障子の煙返しの室外側面よりも室内側へ凹み、両脇が断面略コ字形に曲成された取付け溝を備え、 前記取付け溝に、加熱により発泡して召し合せ框どうしの隙間を閉塞する加熱発泡材が、その両脇を前記取付け溝の両脇の曲成部に嵌め込んで取付けられ、 火災発生時に、内外の召し合せ框間の隙間が前記加熱発泡材の発泡により生じた発泡体によって充填されることにより、召し合せ框どうしを離反させる力が発生し、内外の召し合せ框にそれぞれ形成した煙返しどうしが圧接して、障子が開き難くなる構成を有する ことを特徴とする窓の防火構造。 【請求項2】 引き違い窓または上げ下げ窓として構成された窓の防火構造において、 室外側障子と室内側障子の各召し合せ框に、障子が閉じた状態において互いに相手の裏面側どうしが対面するように交差する煙返しを備えると共に、 前記室内側障子の召し合せ框における、前記室外側障子の召し合せ框との対向面に、前記室内側障子の煙返しの室外側面よりも室内側へ凹み、両脇が断面略コ字形に曲成された取付け溝を備え、 前記取付け溝に、加熱により発泡して召し合せ框どうしの隙間を閉塞する加熱発泡材が、その両脇を前記取付け溝の両脇の曲成部に嵌め込んで取付けられ、 前記室外側障子の召し合せ框における、前記室内側障子の召し合せ框との対向面にも加熱により発泡して召し合せ框どうしの隙間を閉塞する加熱発泡材が設けられていることを特徴とする窓の防火構造。 【請求項3】 請求項1または2に記載の窓の防火構造において、 前記加熱発泡材は、発泡温度が250℃以下であることを特徴とする窓の防火構造。 【請求項4】 引き違い窓または上げ下げ窓として構成された窓の防火構造において、 室外側障子と室内側障子の各召し合せ框に、障子が閉じた状態において互いに相手の裏面側どうしが対面するように交差する煙返しを備え、 前記室内側障子の召し合せ框における、前記室外側障子の召し合せ框との対向面であって、かつ前記室内側障子の召し合せ框の煙返しの根本側で、室内外方向に見て前記煙返しと重ならない箇所に、前記室内側障子の煙返しの室外側面よりも室内側に位置する取付け面を備え、 前記取付け面に、加熱により発泡して召し合せ框どうしの隙間を閉塞する加熱発泡材が設けられており、 火災発生時に、内外の召し合せ框間の隙間が前記加熱発泡材の発泡により生じた発泡体によって充填されることにより、召し合せ框どうしを離反させる力が発生し、内外の召し合せ框にそれぞれ形成した煙返しどうしが圧接して、障子が開き難くなる構成を有し、 前記室内側障子の召し合せ框に、非防火性クレセントが取付けられていることを特徴とする窓の防火構造。」 2 取消理由の概要 訂正前の請求項1、3、4に係る特許に対して、平成31年3月27日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。 (1)取消理由1 特許法第29条の2(拡大先願) 本件請求項1、3、4に係る発明は、いずれも甲第1号証に記載された発明と同一である。 よって、本件請求項1、3、4に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 (2)取消理由2 特許法第29条第2項(進歩性欠如) 本件請求項4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3,4号証に記載された周知技術並びに甲第8ないし10号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって、本件請求項4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 [各甲号証] 甲第1号証:特願2013-98882号 (特開2014-218832号) 甲第2号証:特開2013-79563号公報 甲第3号証:特開2005-351008号公報 甲第4号証:特開2012-202190号公報 甲第5号証:特開2013-53420号公報 甲第6号証:特開2013-72218号公報 甲第7号証:特開2013-127167号公報 甲第8号証:特開2002-180755号公報 甲第9号証の1:平成14年2月1日付け認定書(国住指第1640号) 甲第9号証の2:認定書の別添書類(認定番号EB-9112仕様の 概要) 甲第9号証の3:認定書の別添書類(認定番号EB-9113仕様の 概要) 甲第10号証:特開2009-84785号公報 3 取消理由についての判断 (1)各甲号証の記載事項 ア 甲第1号証 甲第1号証(特願2013-98882号(特開2014-218832号))には、以下の記載がある(本決定で下線を付与。以下同様。) (ア)「【0009】 本発明の実施形態に係る上げ下げ窓を防火用上げ下げ窓に適用した一例を、図面を参照しながら説明する。 図1は、本発明の実施形態に係る上げ下げ窓100の室内側全体正面図である。図2は、図1に示した上げ下げ窓100のA-A線に沿った縦断面図である。図3(a)は本発明の実施形態に係る上げ下げ窓100の横断面図である。詳細には、図3(a)は図1に示したB-B線に沿った断面模式図、図3(b)は図2に示したC-C線に沿った断面模式図である。」 (イ)「【0013】 <外障子2> 外障子2は、上障子として機能し、上框21、下框22、竪框23,24を四周枠組みして構成されている。外障子2は、各框により区画された区画内にガラスパネル25(パネル)を装着して構成されている。 <内障子3> 内障子3は、下障子として機能し、上框31、下框32、竪框33,34を四周枠組みして構成されている。内障子3は、各框により区画された区画内にガラスパネル35(パネル)を装着して構成されている。」 (ウ)「【0019】 <施錠金具7(クレセント)> 図1、図2に示したように、外障子2(上障子)の下框(召し合せ框)と、内障子3(下障子)の上框31(召し合せ框)は、施錠金具7(クレセント)により施錠可能に構成されている。詳細には、内障子3(下障子)の上框31(召し合せ框)の略上端中央部にクレセント本体金具71が設けられている。外障子2の下框(召し合せ框)の略上部中央には、クレセント受け金具72が設けられている。」 (エ)「【0023】 外障子2の下框22は、アルミニウム合金などの押出形材の金属框であり、図4に示したように、断面略四角筒形状に形成されており、中空部22k内に金属材料からなる補強材223を備えている。外障子2の下框22の上部には、シール部材6を介してパネル25を挟持する凹部22aが設けられており、その凹部22aにパネル25としてガラスが設けられている。本実施形態では、シール部材6と下框22との間に、ステンレス鋼(SUS)などの金属材により形成された、間口補強材61が設けられている。 外障子2の下框22は、内障子側の側面部に煙返し22bが設けられており、煙返し22bの近傍に、先端部が室内側に向かって延びるモヘヤなどの気密部材971を備える。 本実施形態では、外障子2の下框22には、図4に示したように、室内側角部に切り欠け状の段部が形成されている。外障子側金具82(上障子側金具)は、外障子2の下框22の下面側の段部に対応する形状に形成されており、下框22の下面側の段部に固定部材902,903,904などにより固定さている。」 (オ)「【0026】 内障子3の上框31は、外障子側の側面部に煙返し31bが設けられている。内障子3と外障子2が閉鎖状態の場合、内障子3の煙返し31bと外障子2の煙返し22bが係合するように構成されている。 また、内障子3の上框31(樹脂上框312)の室外側の側面部の上部には、先端部が室外側に向かって延びるパッキンなどの気密部材951が設けられている。」 (カ)「【0029】 <内障子側金具83(下障子側金具)> 図4、図5、図6、図7に示したように、反り防止金具80の内障子側金具83は、内障子3の竪框34(33)の上部(召し合せ部)の外障子2側(室外側)に設けられている。詳細には、内障子側金具83は、本体部83aと、段部83bと、係合突起部83cと、などを有する。竪框33の上部に設けた内障子側金具83については、同様な構成であるので、説明を省略する。」 (キ)「【0032】 また、本実施形態では、図7に示したように、内障子側金具83の本体部83aに、熱膨張耐火材9を設けている。熱膨張耐火材9としては、例えば積水化学工業株式会社製の商品名「フィブロック(登録商標)」を用いることができる。これは、プラスチック技術を活用した有機系耐火材であり、通常の状態では柔軟な薄いシート状で、200℃以上に加熱されると発泡して厚さ方向に5?40倍に膨張し、断熱層を形成する。この熱膨張耐火材9は、火災時に消失することがなく、有害ガスが発生することもない。またフィブロックは、片面に剥離紙付きの接着層を有し、剥離紙を剥がして簡便に接着取付けすることができる。」 (ク)「【0042】 また、火災時、図4に示したように、内障子3の上框31(金属上框311)に、その上框31の長手方向に沿って設けられた熱膨張耐火材9aが熱により発泡して5?40倍に膨張して、外障子2の下框22の室内側側面と、内障子3の上框31の室外側側面との間の空間を埋めて断熱層を形成する。同様に、火災時、図4、図9に示したように、内障子側金具83に設けられた熱膨張耐火材9が、熱により発泡して5?40倍に膨張して、内障子3の竪框33(34)の室外側側面の上部と、外障子2の竪框23,24の下部の室内側側面との間の空間を埋めて断熱層を形成する。 このため、火災時であって、外障子2と内障子3の召し合せ部の気密性を確実に維持することができる。」 (ケ)「【0048】 さらに、内外障子(3,2)の召し合せ框間と内障子側金具83には、熱膨張耐火材9が設けてあるため、火災時には、召し合せ部の隙間を熱膨張耐火材9で連続して塞ぐことができ、これにより、火災時においても内外障子(3,2)の召し合せ部の気密性を維持することができる。」 (コ)図4は次のとおりである。 (サ)上記(コ)の図4を参照すると、内障子3の召し合せ框31における、外障子2の召し合せ框22の煙返し22bとの対向面に、内障子3の煙返し31bの室外側面よりも室内側へ凹み、両脇が断面略コ字形に曲成された取付け溝が形成されている点、及び該取付け溝に、熱膨張耐火材9aが取付けられている点が看て取れる。 また、外障子2と内障子3の各召し合せ框22,31に設けられた煙返し22b,31bは、障子が閉じた状態において互いに相手の裏面側どうしが対面していることが看て取れる。 (シ)上記(ク)の記載からみて、熱膨張耐火材9aは、熱膨張耐火材9と同様に火災時に膨張するから、上記(キ)における熱膨張耐火材9と同様に、200℃以上に加熱されると発泡すると認められる。 (ス)上記(ア)ないし(シ)からみて、甲第1号証には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。 「上げ下げ窓として構成された窓の防火構造において、 外障子2と内障子3の各召し合せ框22,31に、障子が閉じた状態において互いに相手の裏面側どうしが対面する煙返し22b,31bを備えると共に、 前記内障子3の召し合せ框31における、前記外障子2の召し合せ框22の煙返し22bとの対向面に、前記内障子3の煙返し31bの室外側面よりも室内側へ凹み、両脇が断面略コ字形に曲成された取付け溝を備え、 前記取付け溝に、熱により発泡して外障子2の召し合せ框22の室内側側面と、内障子3の召し合せ框31の室外側側面との間の空間を埋める熱膨張耐火材9aが取付けられ、 内障子3の竪框34(33)の上部(召し合せ部)の外障子2側(室外側)に、反り防止金具80の内障子側金具83が設けられ、内障子側金具83に、熱膨張耐火材9を設けており、 熱膨張耐火材9aは200℃以上に加熱されると発泡するものであって、 前記内障子3の召し合せ框31に、クレセント7が取付けられている 窓の防火構造。」 イ 甲第2号証 甲第2号証(特開2013-79563号公報)には、以下の記載がある。 (ア)「【0010】 以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1?3は、本発明の建具の一実施形態に係る引違いサッシを示している。本サッシは、躯体開口部に取付けた枠1と、枠1内に引違い状に開閉自在に収めた外障子2及び内障子3を備えている。」 (イ)「【0017】 さらに、各框のガラス溝20内には、図1,2,4に示すように、グレチャン22の内側面と複層ガラス21の室外側の見付面との間の全長に、熱に反応して発泡・膨張する耐火材34aが設けてある。かかる熱発泡性の耐火材34aは、市販品の中から適宜選択して用いることができ、例えば積水化学工業株式会社製の商品名「フィブロック」を用いることができる。これは、プラスチック技術を活用した有機系耐火材であり、通常の状態では薄いシート状で、200℃以上に加熱されると厚さ方向に5?40倍に膨張し、断熱層を形成する。火災時に消失することがなく、有害ガスが発生することもない。またフィブロックは、片面に剥離紙付きの接着層を有しているので、剥離紙を剥がして簡便に接着取付けできる。熱発泡性の耐火材34aは、グレチャン22と複層ガラス21の見付面の間に単に差し入れてもよいし、グレチャン22の内側面若しくは複層ガラス21の見付面に予め接着しておいてもよい。」 (ウ)「【0021】 また下框17a,17bは、図1,4に示すように、外周側にレール9,10を呑み込む溝39が形成してあり、溝39の下縁に沿ってタイト材40が設けてあり、タイト材40の上方に熱発泡性の耐火材34dが設けてある。耐火材34dは、下框17a,17bの全長に連続して設けてある。火災時には、図8に示すように、耐火材34dが膨張して下框17a,17bとレール9,10間の隙間を塞ぐ。タイト材40は、焼結クロロプレンゴムで形成されており、火災時でも燃えないものとなっている。上框16a,16bも、外周側にレール9,10を呑み込む溝39が形成してあり、その溝39の室内側の側面に熱発泡性の耐火材34eが設けてあり、火災時にはこの耐火材34eが発泡・膨張して溝39内の隙間を塞ぐ。さらに、図1に示すように、上枠4の下面にも熱発泡性の耐火材34hが設けてあり、火災時にはこの耐火材34hが発泡・膨張し、上枠4の下面と障子2,3間の隙間を遮蔽する。 戸先框18a,18bは、図2に示すように、外周側に竪枠6の突条41を呑み込む溝42が形成してあり、その溝42の底面に熱発泡性の耐火材34fが戸先框18a,18bの全長に連続して設けてあり、火災時にはこの耐火材34fが発泡して膨張し、竪枠6と戸先框18a,18b間の隙間を塞ぐ。 外障子2の召し合せ框19aの室内側面には、煙返しの近傍と内周側の縁部とに熱発泡性の耐火材34gが召し合せ框19aの全長に連続して設けてあり、火災時にはこの耐火材34gが発泡して膨張し、内外障子の召し合せ框19a,19b間の隙間を塞ぐ。 このように本サッシは、火災時に下框17a,17b及び上框16a,16bとレール9,10との隙間、上枠4の下面と障子2,3間の隙間、戸先框18a,18bと竪枠6の隙間、内外障子の召し合せ框19a,19bの隙間が、耐火材34d,34e,34f,34g,34hによってそれぞれ塞がれるので、上下框16a,16b,17a,17bと上下枠4,5間、戸先框18a,18bと竪枠6間、及び内外障子の召し合せ框19a,19b間から、火炎や煙等が室外から室内へ又は室内から室外へ侵入するのを防ぎ、防火性能を向上できる。」 (エ) 図2は以下のとおりである。 (オ)上記(エ)の図2を参照すると、外障子2と内障子3の各召し合せ框19a,19bに、障子が閉じた状態において互いに相手の裏面側どうしが対面する煙返しを備える点、及び、外障子2の召し合せ框19aにおける、内障子3の召し合せ框19bとの対向面に、耐火材34gが取付けられている点が看て取れる。 また、内障子3の召し合せ框19bに、クレセントが取付けられていることが看て取れる。 (カ)上記(ア)ないし(オ)からみて、甲第2号証には以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認める。 「引違い窓として構成された窓の防火構造において、 外障子2と内障子3の各召し合せ框19a,19bに、障子が閉じた状態において互いに相手の裏面側どうしが対面する煙返しを備え、 外障子2の召し合せ框19aにおける、内障子3の召し合せ框19bとの対向面に、火災時に発泡して召し合せ框間の隙間を塞ぐ耐火材34gが設けられており、 前記内障子3の召し合せ框19bに、クレセントが取付けられている、 窓の防火構造。」 ウ 甲第3号証 甲第3号証(特開2005-351008号公報)には、以下の記載がある。 (ア)「【0013】 本発明の合成樹脂製引違い窓は、火炎に曝されて、外障子召合せ框の室内側壁部及び内障子召合せ框の屋外側壁部が、燃焼や熱変形により壁に穴があいた場合には、それぞれの内部に設けられた熱膨張性耐火材層が熱膨張して、上記両召合せ框の間隙に双方から膨出し、この間隙を密閉性良く閉鎖する。その結果、本発明の合成樹脂製引違い窓は、該召合せ框の間隙に起因した防火性の低下の問題を大きく改善できる。」 (イ)「【0023】 本発明の最大の特徴は、斯様な構造をした合成樹脂製引違い窓において、外障子召合せ框(4)の室内側壁部(14)及び内障子召合せ框(4')の屋外側壁部(14')の各内壁面(15)(15')又はこれら内壁面に近接させて、熱膨張性耐火材層(16)(16')を各内設したことにある。この熱膨張性耐火材層(16)(16')は、閉窓時において、外障子召合せ框(4)の室内側壁部(14)と内障子召合せ框(4')の屋外側壁部(14')とを挟んでそれぞれの少なくとも一部が対面する位置関係で設ける。」 (ウ)「【0025】 すなわち、前述の如く熱膨張性耐火材層(16)(16')は、外障子召合せ框(4)の室内側壁部(14)及び内障子召合せ框(4')の屋外側壁部(14')の各内壁面(15)(15')又はこれらに近接させて設けてあるので、この熱膨張した該熱膨張性耐火材(19)(19')がこれら壁部(14)(14')から膨出する。この時、上記したように熱膨張性耐火材層(16)(16')は、各召合せ框(4)(4')の壁部(14)(14')を挟んでそれぞれの少なくとも一部が対面するように設けてあるため、双方の壁部(14)(14')から膨出した各熱膨張性耐火材(19)(19')は両召合せ框(4)(4')間の間隙(17)に各々広がって合着し、該間隙(17)を密閉性良く閉鎖する。その結果、両召合せ框(4)(4')間の間隙(17)では、炎や煙の流通することが防止され、上記引違い窓は、この部分に起因した防火性の低さが大きく改善される。」 (エ)上記(ア)ないし(ウ)からみて、甲第3号証には、以下の点が記載されていると認められる。 「引違い窓において、外障子召合せ框(4)の室内側壁部(14)及び内障子召合せ框(4')の屋外側壁部(14')の各内壁面(15)(15')又はこれら内壁面に近接させて、火災時に熱膨張する熱膨張性耐火材層(16)(16')を各内設し、熱膨張性耐火材層(16)(16')が熱膨張して両召合せ框(4) (4')間の間隙(17)に各々広がって合着し、該間隙(17)を密閉性良く閉鎖する点。」 エ 甲第4号証 甲第4号証(特開2012-202190号公報)には、以下の記載がある。 (ア)「【0010】 以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施によるサッシ用気密材9?12は、引違い窓サッシに適用されている。この引違い窓は、図2のように、上枠1と下枠2と左右の縦枠3を四周枠組みして構成した枠体13内に外障子4aと内障子4bを備えており、外障子4aと内障子4bは、上枠1と下枠2に設けたレール1a,2aに沿って左右に移動し、枠体13内で引違い式に開閉するものである。内外障子4a,4bの戸車収納部7a内周側の室外側部下端には気密材ホルダー7bが設けてあり、その気密材用ホルダー7bにシール材(サッシ用気密材)9が保持されている。これにより、上枠1の室外側内周部下端と、内外障子4a,4bの戸車収納部7a室外側壁部内周下端に気密材ホルダー7bで保持されるシール材9が、枠体13と外障子4aとの間の隙間や、あるいは、戸車収納部7aと戸車14との間の隙間から吹き込む風や雨水の吹き上げを制限している。また、図3のように、内外障子4a,4bの召し合わせ側の縦框5同士の間と、内外障子4a,4b戸先の縦枠3と当接する箇所、そして、下枠2と内外障子4a,4b下框7の間(図2もあわせて参照)、及び上枠1と内外障子4a,4b上框6との間には、それぞれにタイト材8,10,11,12が設けてある。これにより、内外障子4a,4bを閉じたときには、縦枠3と内外障子4a,4bの戸先の縦框5とがタイト材12を介在して当接するので、サッシの気密性と水密性が確保される。 【0011】 上述したとシール材9にタイト材8,10,11,12ついて、このうちの図1中Aで囲む位置に取り付けてあるシール材9と、図1中Bで囲む位置に取り付けてあるタイト材12について説明する。図1(a)に示すものは、図2もあわせて参照すれば、外障子4b下框7の戸車収納部7aの室外側壁部内周下端に設けてある気密材ホルダー7bに保持されるシール材9であり、気密材ホルダー7bに保持されるブロック状をなす基部9aと、その基部9aから戸車14に向けて突出するシール片(突出部)9bとからなっており、外障子4aの下框7の長手方向の全長に渡って配置されている。また、シール材9は、基部9aが塩化ビニル系樹脂からなり、また、シール片9bが塩化ビニル系樹脂に膨張黒鉛(熱膨張耐火成分)を含有したものからなり、基部9aとシール片9bが一体成形されている。」 (イ)「【0012】 図2(b)に示すものは、図3もあわせて参照すれば、内外障子4a,4bの戸先側の縦框5に保持されるタイト材12であり、縦框5の戸先に設けてある凹状をなす気密材ホルダー5aに保持されるブロック状の基部12aと、その基部12aから縦枠3内周に向けて突出する凸部(突出部)12bとからなっており、内外障子4a,4bの戸当たり側の縦框5長手方向の全長に渡って配置される。そしてタイト材12は、その基部12aがサッシ用のタイト材に一般的に使用されるシリコン系ゴムからなり、また、凸部12bがシリコン系ゴムに膨張黒鉛を含有したものからなり、基部12aと凸部12bが一体成形されている。そして、上記のシール材9やタイト材12及びその他、膨張黒鉛(熱膨張耐火成分)を含有したサッシ用気密材を、図2と図3もあわせて参照すれば、それぞれに対応する気密材ホルダー3a,5a,5b、7bに取り付けることで、枠体13と内外障子4a,4bの間隔や各形材間の隙間に膨張黒鉛(熱膨張耐火成分)が配置されるので、万一の火災時には、その膨張黒鉛が膨張して隙間や間隔を塞ぎ、炎や熱の侵入を防ぐことになる。」 (ウ)上記(ア)及び(イ)からみて、甲第4号証には、以下の点が記載されていると認められる。 「引違い窓サッシにおいて、内外障子4a,4bの召し合わせ側の縦框5同士の間に、火災時に膨張して両縦框間の隙間を塞く膨張黒鉛(熱膨張耐火成分)を含有したサッシ用気密材を配置する点。」 オ 甲第5号証 甲第5号証(特開2013-53420号公報)には、以下の記載がある。 (ア) 「【0031】 [B-4]ガイドレールの熱膨張耐火部材 ガイドレール3の側辺30の内面には、内部空間の開口側に位置してポケット部35が形成されており、ポケット部35には、難燃性の熱膨張耐火部材8が収容されている。熱膨張耐火部材8は、ポケット部35から離脱しないような態様で収容されていれば、ポケット部35に対して固定ないし接着しなくてもよい。あるいは、ガイドレール3の側辺30の内面には、内部空間の開口側に位置して熱膨張耐火部材8が収容できる収容空間が位置していればよく、熱膨張耐火部材8をガイドレール3の側辺30の内面にガイド空間Gに突出しないように直接接着したり固定してもよい。図示の態様では、熱膨張耐火部材8は、所定の板厚を備え、高さ方向に延びる長尺状の板体ないしシート体である。熱膨張耐火部材8は、例えば、温度が150℃?250℃の温度に加熱されることで発泡して膨張する材である。熱膨張耐火部材8は、通常時には、ポケット部35内に収容された状態にあり、ガイド空間Gに突出しないような板厚を備えている。」 (イ)図5は以下のとおりである。 (ウ)上記(イ)の図5を参照すると、ポケット部35は、両脇が断面略コ字形に曲成された取付け溝であり、熱膨張耐火部材8が、その両脇を前記取付け溝(ポケット部35)の両脇の曲成部に嵌め込んで取付けられている点が看て取れる。 カ 甲第6号証 甲第6号証(特開2013-72218号公報)には、以下の記載がある。 (ア)「【0025】 図18を参照して、本発明の第3実施の形態を説明する。図18は第3実施の形態にかかるサッシ1の下枠15及び下框7を示したものであり、第4熱膨張耐火材32dは、下框7の室内側見付け面と見込み面とのコーナ部7cに対向して配置してあり、火災時期に膨張してアルミニウム製の下框7のコーナ部7cに当接するようにしたものである。また、第4熱膨張耐火材32dは、熱膨張耐火材保持具43に嵌合固定してあり、経年劣化による脱落を防止してある。・・・」 (イ)図18は以下のとおりである。 (ウ)上記(イ)の 図18を参照すると、熱膨張耐火材保持具43には、両脇が断面略コ字形に曲成された取付け溝が形成され、第4熱膨張耐火材32dが、その両脇を前記取付け溝の両脇の曲成部に嵌め込んで取付けられている点が看て取れる。 キ 甲第7号証 甲第7号証(特開2013-127167号公報)には、以下の記載がある。 (ア)「【0016】 戸先框10は、図1に示すように、室外側面に戸先側に突出する煙返し27が設けてあり、煙返し27により竪枠5と戸先框10の見込面5a,10a間の隙間を塞いでいる。煙返し27の先端部には不燃性タイト材46が設けてあり、不燃性タイト材46の先端部が竪枠5の室外側面に当接している。煙返し27の室内側面には、熱膨張性耐火材47が長手方向に沿って設けてある。・・・」 (イ)図1は以下のとおりである。 (ウ)上記(イ)の図1を参照すると、煙返し27の室内側面には、両脇が断面略コ字形に曲成された取付け溝が形成され、熱膨張性耐火材47が、その両脇を前記取付け溝の両脇の曲成部に嵌め込んで取付けられている点が看て取れる。 ク 甲第8号証 甲第8号証(特開2002-180755号公報)には、以下の記載がある。 (ア)「【0027】 上記クレセント受け具60は、図6に示すように、一例として横長の長方形平板からなり、平板の右半部を取付基部63とすると共に、左半部に上記クレセント50の掛け金具51が回動挿入される開口部62を形成し、かつ、この開口部62に向けて突出する係合突片61を中央部に設けてなるもので、外障子10Aの召合框11dの屋内面に対し、上記取付基部63をビス固定することにより外障子10Aに取付けてなる。すなわち、図5に示すように、上記取付基部63を外障子10Aの召合框11dの屋内面の中間部に当接させてビス固定することにより、クレセント受け具60は側方に突出するようにして、外障子10Aに取り付けられる。なお、上記クレセント錠を構成するクレセント50とクレセント受け具60の構成は、特に限定されるものではなく、任意の形態変更が可能であり、また、これらは、ステンレススチールや亜鉛ダイカスト等の金属部材から形成される。」 ケ 甲第9号証の1ないし3 甲第9号証の1ないし3は、カーテンウォール・防火開口部協会が国土交通大臣に申請したアルミニウム合金製はめ殺し窓等の構造方法等に対して、国土交通大臣が該窓等の構造方法等が建築基準法に適合することを認めた認定書(平成14年2月1日付け認定書(国住指第1640号))で、甲第9号証の1は当該認定書の本紙であり、甲第9号証の2は認定番号「EB-9112」「アルミニウム合金製引き窓」の仕様についての別添、甲第9号証の3は認定番号「EB-9113」「アルミニウム合金製上げ下げ窓」の仕様についての別添であって、一体のものと認められる。 甲第9号証の1ないし3には、以下の記載がある。 (ア)「下記の構造方法又は建築材料については、建築基準法第68条の26第1項(同法第88条第1項において準用する場合を含む。)の規定に基づき、同法第2条第9号の二ロ及び同施行令第109条の2(20分間の遮炎性能を有する防火設備)の規定に適合するものであることを認める。 記 1.認定番号 2.認定をした構造方法又は建築材料の名称 EB-9111 アルミニウム合金製はめ殺し窓 EB-9112 アルミニウム合金製引き窓 EB-9113 アルミニウム合金製上げ下げ窓 ・・・ 3.認定をした構造方法又は建築材料の内容 別添の通り」(甲第9号証の1、1行?最下行) (イ)「1.適用範囲 本仕様書は、建築基準法第2条第9号の二ロ及び同法施行令第109条の2(20分間の遮炎性能を有する防火設備)に規定するアルミニウム合金製引き窓(EB-9112)について適用する。」(甲第9号証の2、3頁1?2行) (ウ) 「(8)戸を拘束する部品(クレセント、グレモン錠等) 戸を拘束する部品のうち、戸を閉じた状態に保つために必要な部分は、鋼、ステンレス鋼、黄銅、もしくは融点がこれらと同等以上の金属製とする。 ただし、召合せ部に煙返しを有し、その構造が5.2(3)(b)による場合は、召合せ部を拘束する部品のうち、戸を閉じた状態に保つために必要な部分をアルミニウム合金、亜鉛もしくは融点がこれらと同等以上の金属製とすることができる。」(甲第9号証の2、7頁20?25行) (エ)「5.3 かかりしろ ・・・ (2)召合せの構造 召合せの構造は、以下による。 (a) 召合せに煙返しがない場合には、4.2(8)に規定する部品を使用する等により、防火上有害な変形を生じないものを用いる。 (b) 召合せに煙返しを設ける場合には、かかりしろは3mm以上とする。」(甲第9号証の2、8頁1?7行) (オ)「1.適用範囲 本仕様書は、建築基準法第2条第9号の二ロ及び同法施行令第109条の2(20分間の遮炎性能を有する防火設備)に規定するアルミニウム合金製上げ下げ窓(EB-9113)について適用する。」(甲第9号証の3、3頁1?3行) (カ)「(8)戸を拘束する部品(クレセント等) 戸を拘束する部品のうち、戸を閉じた状態に保つために必要な部分は、鋼、ステンレス鋼、黄銅、もしくは融点がこれらと同等以上の金属製とする。 ただし、召合せ部に煙返しを有し、その構造が5.2(2)(b)による場合は、召合せ部を拘束する部品のうち、戸を閉じた状態に保つために必要な部分をアルミニウム合金、亜鉛もしくは融点がこれらと同等以上の金属製とすることができる。」(甲第9号証の3、6頁20?24行) (キ)「5.3 かかりしろ ・・・ (2)召合せの構造 召合せの構造は、以下による。 (a) 召合せに煙返しがない場合には、4.2(8)に規定する部品を使用する等により、防火上有害な変形を生じないものを用いる。 (b) 召合せに煙返しを設ける場合には、かかりしろは3mm以上とする。」(甲第9号証の3、7頁1行?7頁7行) (ク)上記(ア)ないし(キ)からみて、甲第9号証の1ないし3には、以下の点が記載されていると認められる。 「防火設備(引き窓及び上げ下げ窓)において、他の構成(煙返し部分の構成)によって十分な防火性能を得られるのであれば、戸を拘束する部品(クレセント等)について、アルミニウム合金、亜鉛もしくは融点がこれらと同等以上の金属製としてもよい点。」 コ 甲第10号証 甲第10号証(特開2009-84785号公報)には、以下の記載がある。 (ア)「【0004】 ところで、従来のグレモン錠では、ハンドルや錠本体における抵抗によってロッドの下降が防止されているのであるが、火災の熱によってハンドルや錠本体が溶融してしまうと、ロッドの下降を防止する抵抗力が低下してしまう可能性がある。そして、火災時にロッドが下降して施錠状態が解除され、障子が解錠されてしまうと障子が開く可能性があり、火災の激化や延焼などの可能性がある。このため、従来のグレモン錠では、ハンドルや錠本体の構成部品に防火仕様のものを用いる必要があり、原材料費が高くなったり加工手間が増加したりなど、製造コストが増大するという問題がある。」 (イ)「【0022】 なお、以上において、各部品を構成する材料としては、防火仕様の材料(火災の熱に対して所定時間以上溶融することなく、主要部に用いることができる材料)と、比較的防火性能の低い材料(火災時に所定時間以内に溶融する可能性がある材料)とが適宜使い分けられている。すなわち、防火仕様の材料としては、鋼材やステンレス、黄銅などが例示でき、これらの材料であれば、その使用箇所および厚さ寸法に関わらず防火性能が高いと認められる。一方、防火性能の低い材料としては、亜鉛ダイカストや熱可塑性樹脂などが例示できる。さらに、使用箇所によって防火仕様と認められる材料としては、アルミダイカスト等などが例示でき、露出部分では防火仕様と認められないものの、隠蔽部分では防火仕様と認められる。また、使用箇所および厚さ寸法によって防火仕様と認められる材料としては、アルミニウム押出形材やアルミニウム板などが例示できる。 ただし、以上の各種材料は一例であって、他の材料であってもよいし、法令や基準、指針等の改訂や、個別の試験、実験等によって防火性能が認められる(あるいは認められない)場合もある。従って、本発明における各部品を構成する材料としては、前述のものに限定されず、適宜な材料が使用可能である。」 (ウ)「【0024】 (2)さらに、操作ハンドル24や中間作動部25を防火仕様の材料から製造する必要がなくなり、比較的防火性能の低い材料からなる部品を用いることができるようになる。従って、原材料費や加工性などに応じて最適な材料選択が可能になり、製造コストの抑制や製造効率の向上を図ることができる。一方、移動規制手段を構成するリンケージバー26や抑え部品28、板ばね283を融点の高い金属材料から形成しておくことで、開き窓1の防火性能が確保できるので、防火仕様の窓と通常仕様の窓とで操作ハンドル24や中間作動部25等が共通化でき、部品の製造コストや管理コストの低減を図ることができる。」 (エ)上記(ア)ないし(ウ)からみて、甲第10号証には、以下の点が記載されていると認められる。 「防火仕様の窓において、十分な防火性能を得られる場合には、部品の一部を比較的性能の低い材料(亜鉛ダイカスト)として製造コストや管理コストの低減を図る点。」 (2)取消理由1 特許法第29条の2(拡大先願)について ア 本件特許発明1について (ア)対比 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明における「外障子2」は、本件特許発明1の「室外側障子」に相当し、同様に「内障子3」は「室内側障子」に、「加熱膨張耐火材9a」は「加熱発泡材」に、「煙返し22b,31b」は、「煙返し」に相当する。 そして、甲1発明の煙返し22bは、外障子2の召し合せ框22の一部分であるから、甲1発明の「内障子3の召し合せ框31における、外障子2の召し合せ框22の煙返し22bとの対向面」は、本件特許発明1の「室内側障子の召し合せ框における、前記室外側障子の召し合せ框との対向面」に相当する。 また、甲1発明における「外障子2の召し合せ框22の室内側側面と、内障子3の召し合せ框31の室外側側面との間の空間」は、本件特許発明1の「召し合せ框どうしの隙間」に相当するから、甲1発明で「前記取付け溝に、熱により発泡して外障子2の召し合せ框22の室内側側面と、内障子3の召し合せ框31の室外側側面との間の空間を埋める熱膨張耐火材9aが取付けられ」ていることと、本件特許発明1で「前記取付け溝に、加熱により発泡して召し合せ框どうしの隙間を閉塞する加熱発泡材が、その両脇を前記取付け溝の両脇の曲成部に嵌め込んで取付けられている」こととは、「前記取付け溝に、加熱により発泡して召し合せ框どうしの隙間を閉塞する加熱発泡材が取付けられている」点で共通する。 したがって、両者は、以下の点で一致する。 「上げ下げ窓として構成された窓の防火構造において、 室外側障子と室内側障子の各召し合せ框に、障子が閉じた状態において互いに相手の裏面側どうしが対面するように交差する煙返しを備えると共に、 前記室内側障子の召し合せ框における、前記室外側障子の召し合せ框との対向面に、前記室内側障子の煙返しの室外側面よりも室内側へ凹み、両脇が断面略コ字形に曲成された取付け溝を備え、 前記取付け溝に、加熱により発泡して召し合せ框どうしの隙間を閉塞する加熱発泡材が取付けられている 窓の防火構造。」 そして、以下の点で相違する。 相違点1:取付け溝について、本件特許発明1は、室内側障子の召し合せ框の煙返しの根本側で、室内外方向に見て煙返しと重ならない箇所に設けたのに対し、甲1発明は、そのような特定がされていない点。 相違点2:加熱発泡材について、本件特許発明1は、その両脇を取付け溝の両脇の曲成部に嵌め込んで取付けられているのに対して、甲1発明は、そのような特定がされていない点。 相違点3:本件特許発明1は、火災発生時に、内外の召し合せ框間の隙間が前記加熱発泡材の発泡により生じた発泡体によって充填されることにより、召し合せ框どうしを離反させる力が発生し、内外の召し合せ框にそれぞれ形成した煙返しどうしが圧接して、障子が開き難くなる構成を有するのに対して、甲1発明は、そのような特定がされていない点。 (イ)判断 まず、相違点1について検討する。 甲1発明が備える熱膨張耐火材9は、竪框33(34)の上部に設けられた内障子側金具83に設けたものであって、仮に、熱膨張耐火材9を取り付けるために取付け溝を設けるとしても、召し合せ框31に設けるものとはならない。 また、相違点1に係る構成は、申立人が提示した他の証拠をみても、本件特許の出願前に周知の技術であったとは認められず、課題解決のための具体化手段における微差に過ぎないものとは認められないから、相違点1は実質的な相違点である。 したがって、相違点2及び3について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明と同一ではない。 イ 本件特許発明3について 本件特許発明3は、本件特許発明1の構成をすべて含み、さらに「加熱発泡材は、発泡温度が250℃以下である」との特定を加えたものであるから、上記アで説示した理由と同じ理由により、甲1発明と同一ではない。 ウ 本件特許発明4について (ア)対比 本件特許発明4と甲1発明とを対比する。 甲1発明における「外障子」は、本件特許発明4の「室外側障子」に相当し、同様に「内障子」は「室内側障子」に、「加熱膨張耐火材9a」は「加熱発泡材」に、「煙返し22b,31b」は、「煙返し」に相当する。 また、甲1発明の「クレセント」と、本件特許発明4における「非防火性クレセント」とは、「クレセント」として共通する。 さらに、甲1発明の煙返し22bは、外障子2の召し合せ框22の一部分であるから、甲1発明の「内障子3の召し合せ框31における、外障子2の召し合せ框22の煙返し22bとの対向面」は、本件特許発明4の「室内側障子の召し合せ框における、室外側障子の召し合せ框との相互の対向面」に相当する。 したがって、両者は、以下の点で一致する。 「上げ下げ窓として構成された窓の防火構造において、 室外側障子と室内側障子の各召し合せ框に、障子が閉じた状態において互いに相手の裏面側どうしが対面するように交差する煙返しを備え、 前記室内側障子の召し合せ框における、前記室外側障子の召し合せ框との相互の対向面に、加熱により発泡して召し合せ框どうしの隙間を閉塞する加熱発泡材が設けられており、 前記室内側障子の召し合せ框に、クレセントが取付けられている、 窓の防火構造。」 そして、以下の点で相違する。 相違点4:加熱発泡材について、本件特許発明4は、室内側障子の召し合せ框の煙返しの根本側で、室内外方向に見て煙返しと重ならない箇所に備えた、室内側障子の煙返しの室外側面よりも室内側に位置する取付け面に設けたのに対し、甲1発明は、そのように特定されていない点。 相違点5:クレセントについて、本件特許発明4は、「非防火性クレセント」であるのに対して、甲1発明は、そのような特定がされていない点。 相違点6:本件特許発明4は、火災発生時に、内外の召し合せ框間の隙間が前記加熱発泡材の発泡により生じた発泡体によって充填されることにより、召し合せ框どうしを離反させる力が発生し、内外の召し合せ框にそれぞれ形成した煙返しどうしが圧接して、障子が開き難くなる構成を有するのに対して、甲1発明は、そのような特定がされていない点。 (イ)判断 まず、相違点4について検討すると、相違点4に係る構成は、申立人が提示した他の証拠をみても、本件特許の出願前に周知の技術であったとは認められず、課題解決のための具体化手段における微差に過ぎないものとは認められないから、相違点4は実質的な相違点である。 したがって、相違点5及び6について検討するまでもなく、本件特許発明4は甲1発明と同一ではない。 エ まとめ 以上のとおり、本件特許発明1、3、4は、いずれも甲第1号証に記載された発明と同一とは認められない。 (3)取消理由2 特許法第29条第2項(進歩性欠如)について ア 本件特許発明4について (ア)対比 本件特許発明4と甲2発明とを対比する。 甲2発明における「外障子」は、本件特許発明4の「室外側障子」に相当し、同様に「内障子」は「室内側障子」に、「耐火材34g」は「加熱発泡材」に、「煙返し」は、「煙返し」に相当する。 そして、甲2発明における「外障子2の召し合せ框19aにおける、内障子3の召し合せ框19bとの対向面」と、本件特許発明4における「室内側障子の召し合せ框における、前記室外側障子の召し合せ框との対向面」とは、「一方の障子の召し合せ框における、他方の障子の召し合せ框との対向面」の点で、共通する。 また、甲2発明の「クレセント」と、本件特許発明4における「非防火性クレセント」とは、「クレセント」として共通する。 したがって、両者は、以下の点で一致する。 「引き違い窓として構成された窓の防火構造において、 室外側障子と室内側障子の各召し合せ框に、障子が閉じた状態において互いに相手の裏面側どうしが対面するように交差する煙返しを備え、 一方の障子の召し合せ框における、他方の障子の召し合せ框との相互の対向面に、加熱により発泡して召し合せ框どうしの隙間を閉塞する加熱発泡材が設けられており、 室内側障子の召し合せ框に、クレセントが取付けられている 窓の防火構造。」 そして、以下の点で相違する。 相違点7:加熱発泡材について、本件特許発明4は、室内側障子の召し合せ框の煙返しの根本側で、室内外方向に見て煙返しと重ならない箇所に備えた、室内側障子の煙返しの室外側面よりも室内側に位置する取付け面に設けたのに対し、甲2発明は、そのように特定されていない点。 相違点8:「クレセント」について、本件特許発明4は、「非防火性クレセント」であるのに対して、甲2発明は、非防火性クレセントであるか否かは不明な点。 相違点9:本件特許発明4は、火災発生時に、内外の召し合せ框間の隙間が前記加熱発泡材の発泡により生じた発泡体によって充填されることにより、召し合せ框どうしを離反させる力が発生し、内外の召し合せ框にそれぞれ形成した煙返しどうしが圧接して、障子が開き難くなる構成を有するのに対して、甲2発明はそのような特定がされていない点。 (イ)判断 まず、相違点7について検討する。 甲2発明の耐火材34gは、外障子2の召し合せ框19aに設けられているところ、甲第3号証及び甲第4号証の記載事項からみて、召し合せ框の外障子側または内障子側のどちらに設けるかは,当業者が適宜選択し得る設計上の事項と認められるから、該耐火材34gを、内障子2の召し合せ框19bに設けることについては、当業者が適宜なし得たことといえる。 しかし、その際に、該召し合せ框19bの煙返しの根本側で、室内外方向に見て煙返しと重ならない箇所に備えた、煙返しの室外側面よりも室内側に位置する取付け面に設けることについては、申立人が提示したその他の証拠には、記載も示唆もされていないから、相違点7に係る本件特許発明4の構成は、甲2発明やその他の証拠に基いて、当業者が容易になし得たこととは認められない。 よって、相違点8及び9を検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲2発明及び甲第3,4号証に記載された周知技術並びに甲第8ないし10号証に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第4 むすび 以上のとおり、取消理由通知〈決定の予告〉に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によって、本件請求項1、3、4に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に、本件請求項1、3、4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 窓の防火構造 【技術分野】 【0001】 本発明は、住宅等の建物に設置される引き違い窓や上げ下げ窓の防火構造に関する。 【背景技術】 【0002】 建物の引き違い窓等の窓においては、火災発生時に延焼を防止する機能を備えることが要求される。このような延焼防止機能を高める1つの手段として、特許文献1に記載のように、高い耐火性を備えた防火性クレセントを使用するものがある。また、特許文献2には、耐火性の異なる2枚のガラスパネルからなる複層パネルを備えた引き違い窓において、耐火性の高いガラスパネル側から見て、障子の4周の框を全部露出するか、あるいは全部枠に隠れるかいずれかの構成をとることにより、火災発生時の框の温度分布ができるだけ均一になるようにし、もってガラスパネルの割れを防止したものが提案されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0003】 【特許文献1】実公平7-55244号公報 【特許文献2】特開2013-108259号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 しかしながら、特許文献1に記載のように、防火性クレセントを用いたものは、防火性クレセントが非防火性クレセントに比較して価格が高価となり、コスト高となる上、1棟内に防火性クレセントと非防火性クレセントが混在すると、意匠性を統一することができないという問題点があった。 【0005】 一方、特許文献2に記載の引き違い窓等に非防火性クレセントを用いた場合、次のような問題点がある。図7は引き違い窓を閉じた状態における室内側障子5、室外側障子6の各召し合せ框8,13の接合部を示す横断面図である。17は室内側障子5の召し合せ框8に取付けたクレセント、20は室外側障子6の召し合せ框13に設けた受け金具である。24,25はそれぞれ召し合せ框8,13どうしの対向面に設けた煙返しであり、図示のように障子5,6が閉じた状態においては、これらの煙返し24,25は互いに相手の裏面側に対面するように交差した状態となる。 【0006】 ここでクレセント17として非防火性クレセントを用いた場合、室内側からの火災発生によりクレセント17が溶融すると、召し合せ框8,13どうしの結合が解かれ、図8に示すように、障子5,6の横框(図示せず)やガラスパネル11,16の熱膨張により、召し合せ框8,13がそれぞれ矢印X1,X2に示すように互いに反対側に移動する。 【0007】 すなわち、障子5,6が閉じた状態においては、障子5,6の縦框のうち、召し合せ框8,13の反対側の縦框(図示せず)は窓枠の縦枠(図示せず)に当接しているので、障子5,6が膨張しても召し合せ框8,13の反対側の縦框は移動ができないが、しかしクレセント17が溶融した状態では、召し合せ框8,13は互いに非拘束となるので、これらの召し合せ框8,13側が障子5,6の膨張により矢印X1,X2に示すように移動する。 【0008】 さらに室内側で発火した場合には、室内側障子5の召し合せ框8の上下方向の中央部が熱膨張により矢印Y1で示すように室内側に変形するので、煙返し24,25どうしが外れて召し合せ框8,13どうしの隙間gが大きくなり、この拡大された隙間gを通して熱風や火炎が室内側から室外側に向けて噴出し、延焼を起こしやすくなる。このような問題は上げ下げ窓においても同様に生じてくる。 【0009】 本発明は、上記問題点に鑑み、引き違い窓や上げ下げ窓において、非防火性クレセントを用いた場合であっても室内外障子の召し合せ框間の隙間増大による延焼が防止され、防火性を向上させた窓の防火構造を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0010】 請求項1の窓の防火構造は、引き違い窓または上げ下げ窓として構成された窓の防火構造において、 室外側障子と室内側障子の各召し合せ框に、障子が閉じた状態において互いに相手の裏面側どうしが対面するように交差する煙返しを備えると共に、 前記室内側障子の召し合せ框における、前記室外側障子の召し合せ框との対向面であって、かつ前記室内側障子の召し合せ框の煙返しの根本側で、室内外方向に見て前記煙返しと重ならない箇所に、前記室内側障子の煙返しの室外側面よりも室内側へ凹み、両脇が断面略コ字形に曲成された取付け溝を備え、 前記取付け溝に、加熱により発泡して召し合せ框どうしの隙間を閉塞する加熱発泡材が、その両脇を前記取付け溝の両脇の曲成部に嵌め込んで取付けられ、 火災発生時に、内外の召し合せ框間の隙間が前記加熱発泡材の発泡により生じた発泡体によって充填されることにより、召し合せ框どうしを離反させる力が発生し、内外の召し合せ框にそれぞれ形成した煙返しどうしが圧接して、障子が開き難くなる構成を有することを特徴とする。 【0011】 請求項2の窓の防火構造は、引き違い窓または上げ下げ窓として構成された窓の防火構造において、 室外側障子と室内側障子の各召し合せ框に、障子が閉じた状態において互いに相手の裏面側どうしが対面するように交差する煙返しを備えると共に、 前記室内側障子の召し合せ框における、前記室外側障子の召し合せ框との対向面に、前記室内側障子の煙返しの室外側面よりも室内側へ凹み、両脇が断面略コ字形に曲成された取付け溝を備え、 前記取付け溝に、加熱により発泡して召し合せ框どうしの隙間を閉塞する加熱発泡材が、その両脇を前記取付け溝の両脇の曲成部に嵌め込んで取付けられ、 前記室外側障子の召し合せ框における、前記室内側障子の召し合せ框との対向面にも加熱により発泡して召し合せ框どうしの隙間を閉塞する加熱発泡材が設けられていることを特徴とする。 【0012】 請求項3の窓の防火構造は、請求項1または2に記載の窓の防火構造において、 前記加熱発泡材は、発泡温度が250℃以下であることを特徴とする。 【0013】 請求項4の窓の防火構造は、引き違い窓または上げ下げ窓として構成された窓の防火構造において、 室外側障子と室内側障子の各召し合せ框に、障子が閉じた状態において互いに相手の裏面側どうしが対面するように交差する煙返しを備え、 前記室内側障子の召し合せ框における、前記室外側障子の召し合せ框との対向面であって、かつ前記室内側障子の召し合せ框の煙返しの根本側で、室内外方向に見て前記煙返しと重ならない箇所に、前記室内側障子の煙返しの室外側面よりも室内側に位置する取付け面を備え、 前記取付け面に、加熱により発泡して召し合せ框どうしの隙間を閉塞する加熱発泡材が設けられており、 火災発生時に、内外の召し合せ框間の隙間が前記加熱発泡材の発泡により生じた発泡体によって充填されることにより、召し合せ框どうしを離反させる力が発生し、内外の召し合せ框にそれぞれ形成した煙返しどうしが圧接して、障子が開き難くなる構成を有し、 前記室内側障子の召し合せ框に、非防火性クレセントが取付けられていることを特徴とする。 【発明の効果】 【0014】 請求項1の発明によれば、火災発生時に召し合せ框に設けた加熱発泡材が発泡し、室内側障子の召し合せ框と室外側障子の召し合せ框との間の隙間が発泡体により閉塞される。このため、内外障子の召し合せ框間からの熱風や火炎が室外側に噴出することが防止され、延焼が防止される。その結果、クレセントとして非防火性クレセントを用いた場合であっても、延焼防止による防火性の向上が達成できる。 【0015】 また、室内側障子の召し合せ框に加熱発泡材を設けたので、室内側から出火した場合、室内側障子の召し合せ框が室外側障子の召し合せ框に先行して加熱されるため、加熱発泡材が短時間で発泡する。このため、非防火性クレセントを用いた場合であっても、クレセントが溶融する前に内外の召し合せ框間が発泡体で充填され、確実な延焼防止効果が得られる。 【0016】 また、内外の召し合せ框間の隙間が発泡体によって充填されることにより、召し合せ框どうしを離反させる力が発生し、これにより、内外の召し合せ框にそれぞれ形成した煙返しどうしが圧接する。これにより、煙返しどうしの摩擦抵抗が増大すると共に、この摩擦抵抗に、発泡体と召し合せ框との間で発生する摩擦抵抗が加わり、その結果、内外の召し合せ框どうしの間に大きな摩擦抵抗が発生し、障子が開き難くなる。このため、さらに延焼防止効果が上がり、防火性が向上する。 【0017】 請求項2の発明によれば、外側障子の召し合せ框における、室内側障子の召し合せ框との対向面にも加熱発泡材を設けたので、内外の召し合せ框間に大量かつ広範囲に発泡体を充填させることができ、その上、内外の召し合せ框と発泡体との摩擦抵抗が増大し、召し合せ框どうしの移動をし難くするため、防火性を高めることができる。 【0018】 また、煙返しを備えたものにおいては、火災発生時に召し合せ框どうしを発泡体によって押圧する力が増大するので、内外の煙返し間の摩擦抵抗も増大するので、発泡体と召し合せ框との間の摩擦抵抗が増大することと相俟って、さらに延焼防止効果が上がり、防火性が向上する。 【0019】 請求項3の発明によれば、加熱発泡材として、発泡温度が250℃以下のものを使用したので、加熱発泡材を室内側障子の召し合せ框に設けたことと相俟って、火災発生時から短時間で加熱発泡材を発泡させることができ、クレセントが溶融して内外の召し合せ框間の隙間が増大する前に、発泡体によって召し合せ框間の隙間を閉塞し、防火性を確保することができる。 【0020】 請求項4の発明によれば、クレセントとして非防火性クレセントを用いたものでありながら、火災発生時に召し合せ框間の隙間を閉塞する加熱発泡材を設けたことにより、防火性の高い窓を実現することが可能となる。また、クレセントとして非防火性クレセントを用いたので、クレセントの価格低減が可能になると共に、防火性が要求されない箇所の窓のクレセントと意匠を統一することができる。 【図面の簡単な説明】 【0021】 【図1】本発明の窓の防火構造の一実施の形態を示す引き違い窓であり、窓を室内側から見た図である。 【図2】図1のE-E拡大断面図である。 【図3】この実施の形態において、火災発生時に加熱発泡材が発泡した状態を示す横断面図である。 【図4】本発明の窓の防火構造の他の実施の形態を示す横断面図である。 【図5】図4の実施の形態において、火災発生時に加熱発泡材が発泡した状態を示す横断面図である。 【図6】本発明の窓の防火構造を上げ下げ窓に適用した例を示す縦断面図である。 【図7】従来の引き違い窓の召し合せ框の部分を示す横断面図である。 【図8】図7の引き違い窓の火災発生時における召し合せ框の変化を示す横断面図である。 【発明を実施するための形態】 【0022】 図1は本発明の窓の防火構造の一実施の形態を示す引き違い窓であり、室内側から見た図である。図2は図1のE-E拡大断面図である。図1において、1は窓枠であり、この窓枠1は、アルミニウム合金等の金属製押出形材を主体とした左右の縦枠2,2と、上枠3および下枠4とにより構成される。5,6はこの窓枠1にスライド可能に装着されて引き違い窓を構成する室内側障子および室外側障子である。 【0023】 室内側障子5は、縦枠2側縦框7と、召し合せ框8と、その間に設けられた上框9と、下框10と、これらの框7?10でなる框組内に組み込まれたガラスパネル11とで構成する。室外側障子6は、縦枠2側縦框12と、召し合せ框13(図2参照)と、その間に設けられた上框14と、下框15と、これらの框12?15でなる框組内に組み込まれたガラスパネル16とで構成する。これらの框7?10、12?15はアルミニウム合金等の金属製押出形材を主体として構成する。 【0024】 17は室内側障子5の召し合せ框8に取付けたクレセントであり、この実施の形態においては、例えば亜鉛ダイカストを主体とした非防火性クレセントを用いる。このようにクレセント17として非防火性クレセントを用いれば、クレセントの価格低減が可能になると共に、クレセントの意匠を統一することができる。 【0025】 なお、非防火性クレセントとしては、亜鉛ダイカストを主体としたもの以外に、アルミニウムダイカスト、マグネシウムダイカスト、ポリアミド系樹脂等を主体としたものを用いることができる。しかしながら、本発明の防火構造を実現する場合、クレセント17として、例えば鋼材を主体とした防火性クレセントを用いてもよい。 【0026】 図2に示すように、ガラスパネル11,16は、防火性、断熱性を高めるため、それぞれ網入りのガラスパネル11a,16aと、網なしのガラスパネル11b,16bとにより複層パネルとして構成している。11c,16cはこれらのガラスパネル11,16を召し合せ框8,13に組み込むためのグレージングチャンネルである。 【0027】 室内側障子5において、8aは、断熱性向上のために、召し合せ框8における室外側の面以外の面を空気層を介して覆う樹脂製の押出形材である。クレセント17は、取付けねじ18を、このクレセント17および押出形材8a,召し合せ框8の取付け穴に貫通して召し合せ框8内に設けた裏板19のねじ孔に螺合し締結することにより、召し合せ框8に取付ける。20はこのクレセント17のフック17aを係止するために、室外側障子6の召し合せ框13に取付けた受け金具である。 【0028】 22は室内側障子5の召し合せ框8に設けた気密材であり、障子5,6を閉じた状態において、室外側障子6の召し合せ框13に当接させるものである。23は室外側障子6の召し合せ框13に設けた気密材であり、障子5,6を閉じた状態において、室内側障子5の召し合せ框8に当接させるものである。24,25はそれぞれ召し合せ框8,13における相互の対向面に形成した煙返しであり、障子5,6を閉じた状態において、それぞれ煙返し24,25は相手の裏側の面(框8,13の対向面の反対側の面)に対面するように交差させて係合させるものである。 【0029】 27は室内側障子5の召し合せ框8における室外側障子6の召し合せ框13との対向面に設けた加熱発泡材である。召し合せ框8には、この加熱発泡材27を取付けるため、召し合せ框8の全長にわたって加熱発泡材27の取付け溝28を設ける(図1参照)。この加熱発泡材27は火災発生時の加熱により発泡するものである。取付け溝28は、煙返し25より室内側障子の煙返し25の室外側面よりも室内側へ凹み、両脇が断面略コ字形に曲成された形状に形成される。また、取付け溝28は、室内側障子5の召し合せ框8の煙返し25の根本側で、室内外方向に見て煙返し25と重ならない箇所に設けられる。加熱発泡材27は、その両脇を、取付け溝28の両脇のコ字形に曲成された部分に嵌めて、召し合せ框8の全長にわたって取付けられる。召し合せ框8における加熱発泡材27の取付け面は、室内側障子5の煙返し25における室外側障子6の召し合せ框13との対向面より室内側に位置する。これにより、加熱発泡材27が召し合せ框8の室外側の面からせり出すことなく、加熱発泡材27を取付け溝28により確実に保持した状態で取付けることができる。 【0030】 この構成において、火災発生時に加熱発泡材27が発泡すると、図3に示すように、召し合せ框8、13間の隙間が発泡体27aにより充填される。特に室内側から出火した場合、室内側障子5の召し合せ框8が室外側障子6の召し合せ框13に先行して加熱されるため、室内側障子5の召し合せ框8に設けた加熱発泡材27が早期に発泡し、召し合せ框8,13の間の隙間が発泡体27aにより閉塞される。このため、室内外障子5,6の召し合せ框8,13間からの熱風や火炎が室外側に噴出することが防止され、延焼が防止される。このため、クレセント17として非防火性クレセントを用いた場合であっても、延焼防止による防火性の向上が達成できる。 【0031】 また、この実施の形態のように、煙返し24,25をそれぞれ召し合せ框8,13に設けたものにおいては、召し合せ框8,13間の隙間が発泡体27aによって充填されることにより、矢印Y2に示すように、召し合せ框8,13どうしを離反させる力が発生し、これにより、内外の召し合せ框8,13にそれぞれ形成した煙返し24,25どうしが圧接する。これにより、煙返し24,25どうしの摩擦抵抗が増大すると共に、この摩擦抵抗に、発泡体27aと召し合せ框13との間で発生する摩擦抵抗が加わり、その結果、内外の召し合せ框8,13どうしの間に大きな摩擦抵抗が発生し、障子が開き難くなる。このため、さらに延焼防止効果が上がり、防火性が向上する。すなわち、仮に火災による熱によってクレセント17が溶融したとしても、延焼防止効果を持続させることが可能となる。 【0032】 ここで、加熱発泡材27は、火災発生時にクレセント17が溶融する前に発泡することが好ましい。このように加熱発泡材27を迅速に発泡させるには、比較的低温で発泡する加熱発泡材を用いることが好ましく、発泡温度が250℃以下の例えばエポキシ系樹脂を基材としたものを用いることが好ましい。発泡温度が250℃以下であれば、室内側で発火させる火災実験において、加熱発泡材27を6?7分で発泡させることが可能であることを確認している。 【0033】 このような加熱発泡材を用いれば、クレセント17の溶融前に、より確実に発泡させ、召し合せ框8,13間を発泡体27aで迅速に閉塞し、発泡体27aや煙返し24,25どうしの圧接により、召し合せ框8,13を互いに離反しない状態に維持することができる。 【0034】 図4は本発明の窓の防火構造の他の実施の形態であり、室内側障子5の召し合せ框8のみならず、室外側障子6の召し合せ框13における室内側障子5の召し合せ框8との対向面にも加熱発泡材30を、召し合せ框13のほぼ全長にわたって設けたものである。この実施の形態においても、召し合せ框13に設けた取付け溝31に加熱発泡材30を嵌め込んで取付けている。 【0035】 図5は火災発生時に加熱発泡材27,30が発泡して膨張し、発泡体27a,30aとして召し合せ框8,13間の隙間を閉塞した状態を示す。この実施の形態によれば、内外の召し合せ框8,13間の隙間に大量かつ広範囲に発泡体27a,30aを充填させることができ、防火性をさらに高めることができる。また、障子5,6を閉じた状態において、煙返し24,25どうしを係合させる構成においては、火災発生時に召し合せ框8,13どうしを発泡体27a,30aによって押圧する力(矢印Y2に示す。)が増大するので、発泡体27a,30aと召し合せ框13,8との間の摩擦抵抗が増大すると共に、内外の煙返し24,25間の摩擦抵抗も増大するので、さらに延焼防止効果が上がり、防火性が向上する。 【0036】 上記の実施の形態においては、引き違い窓に本発明の防火構造を適用した例について示したが、本発明は、図6の縦断面図に示すように、上げ下げ窓にも適用することができる。図6において、33は室内側障子、34は室外側障子である。35は室内側障子33の上框となる召し合せ框、36は室外側障子34の下框となる召し合せ框である。 【0037】 37は網入りガラスパネル37aと網無しガラスパネル37bとからなる室内側障子33のガラスパネル(複層パネル)である。38はガラスパネル37を召し合せ框35に組み込むためのグレージングチャンネルである。39は網入りガラスパネル39aと網無しガラスパネル39bとからなる室外側障子34のガラスパネル(複層パネル)である。40,41はこのガラスパネル39を召し合せ框36に組み込むためのビートである。 【0038】 室内側障子33において、35aは断熱性向上のために、召し合せ框35における室外側の面以外の面を空気層を介して覆うように組み合わせた樹脂製の押出形材である。44は召し合せ框35に取付けたクレセントである。45はこのクレセント44のフック44aを係止するために室外側障子34の召し合せ框36に取付けた受け金具である。 【0039】 46,47は室内側障子33の召し合せ框35に取付けた気密材であり、障子33,34を閉じた状態において、室外側障子34の召し合せ框36に当接させるものである。48は室外側障子34の召し合せ框36に取付けた気密材であり、障子33,34を閉じた状態において、室内側障子33の召し合せ框35に当接させるものである。50,51はそれぞれ召し合せ框35,36における相互に対向面に形成した煙返しであり、障子33,34を閉じた状態において、それぞれ煙返し50,51は相手の裏側の面に対面するように係合させるものである。 【0040】 52は、室内側障子33の召し合せ框35において、室外側障子34の召し合せ框36との対向面に設けた加熱発泡材である。召し合せ框35には、この加熱発泡材52を接着または不図示のねじ等の固定具により召し合せ框35の全長にわたって取付ける。この加熱発泡材52の取付けは、前記実施の形態と同様に召し合せ框35に取付け溝を設け、その取付け溝に加熱発泡材52を嵌め込むことによって行なうようにしてもよい。 【0041】 図示のように、召し合せ框35,36どうしが対面するように障子33,34が閉じた状態においては、加熱発泡材52は、室内側障子33の召し合せ框35に取付けた気密材46と、室外側障子34の召し合せ框36に取付けた気密材48との間に位置するように構成する。 【0042】 この上げ下げ窓は、室内側障子33を上げるかまたは室外側障子34を下げることによって開放状態とするものであり、閉じ状態においては、クレセント44のフック44aを受け金具45に係合させる。 【0043】 この上げ下げ窓においても、火災発生時には前記実施の形態と同様に加熱発泡材52が発泡して召し合せ框35,36間の隙間を塞ぎ、かつ発泡体の膨張により煙返し50,51どうしが圧接して摩擦抵抗を増大させ、発泡体と召し合せ框36との摩擦抵抗も加わり、障子33,34の開き方向の動きを防止するので、クレセント44が溶融したとしても、障子33,34の閉じ状態を維持し、防火性を高めることができる。 【0044】 また、この実施の形態のように、室内側障子33の召し合せ框35に加熱発泡材52を設けることにより、室内側から出火した際に加熱発泡材52が迅速に発泡し、クレセント44の溶融前に障子33,34の閉じ状態を維持する態勢を確立させておくことができる。 【0045】 また、この実施の形態においては、障子33,34の閉じ状態において、加熱発泡材52が上下の気密材46,48間に介在する構造としたので、発泡時における発泡体の下方への落下を塞ぎ、発泡体を効率のよい状態で召し合せ框35,36間に充填させることができる。 【0046】 図6に示すような上げ下げ窓においても、室内側障子33の召し合せ框35のみならず、室外側障子34の召し合せ框36の召し合せ框35との対向面にも加熱発泡材を設けてもよい。このように、室外側障子34の召し合せ框36にも加熱発泡材を設ければ、召し合せ框35,36間の隙間をより大量かつ広範囲の発泡体によって閉塞することができ、煙返し50,51間の摩擦抵抗、および発泡体と召し合せ框35,36間の摩擦抵抗もより増大するので、防火性がより向上する。 【0047】 以上本発明を実施の形態により説明したが、本発明を実施する場合、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、窓枠や障子の具体的構成や加熱発泡材の取付け構造等について、種々の変更、付加が可能である。 【符号の説明】 【0048】 1:窓枠、2:縦枠、3:上枠、4:下枠、5:室内側障子、6:室外側障子、7:縦框、8:召し合せ框、9:上框、10:下框、11:ガラスパネル、12:縦框、13:召し合せ框、14:上框、15:下框、16:ガラスパネル、17:クレセント、18:取付けねじ、19:裏板、20:受け金具、24,25:煙返し、27:加熱発泡材、27a:発泡体、28:取付け溝、30:加熱発泡材、30a:発泡体、31:取付け溝、33:室内側障子、34:室外側障子、35,36:召し合せ框、37,39:ガラスパネル、44:クレセント、45:受け金具、50,51:煙返し、52:加熱発泡材 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 引き違い窓または上げ下げ窓として構成された窓の防火構造において、 室外側障子と室内側障子の各召し合せ框に、障子が閉じた状態において互いに相手の裏面側どうしが対面するように交差する煙返しを備えると共に、 前記室内側障子の召し合せ框における、前記室外側障子の召し合せ框との対向面であって、かつ前記室内側障子の召し合せ框の煙返しの根本側で、室内外方向に見て前記煙返しと重ならない箇所に、前記室内側障子の煙返しの室外側面よりも室内側へ凹み、両脇が断面略コ字形に曲成された取付け溝を備え、 前記取付け溝に、加熱により発泡して召し合せ框どうしの隙間を閉塞する加熱発泡材が、その両脇を前記取付け溝の両脇の曲成部に嵌め込んで取付けられ、 火災発生時に、内外の召し合せ框間の隙間が前記加熱発泡材の発泡により生じた発泡体によって充填されることにより、召し合せ框どうしを離反させる力が発生し、内外の召し合せ框にそれぞれ形成した煙返しどうしが圧接して、障子が開き難くなる構成を有することを特徴とする窓の防火構造。 【請求項2】 引き違い窓または上げ下げ窓として構成された窓の防火構造において、 室外側障子と室内側障子の各召し合せ框に、障子が閉じた状態において互いに相手の裏面側どうしが対面するように交差する煙返しを備えると共に、 前記室内側障子の召し合せ框における、前記室外側障子の召し合せ框との対向面に、前記室内側障子の煙返しの室外側面よりも室内側へ凹み、両脇が断面略コ字形に曲成された取付け溝を備え、 前記取付け溝に、加熱により発泡して召し合せ框どうしの隙間を閉塞する加熱発泡材が、その両脇を前記取付け溝の両脇の曲成部に嵌め込んで取付けられ、 前記室外側障子の召し合せ框における、前記室内側障子の召し合せ框との対向面にも加熱により発泡して召し合せ框どうしの隙間を閉塞する加熱発泡材が設けられていることを特徴とする窓の防火構造。 【請求項3】 請求項1または2に記載の窓の防火構造において、 前記加熱発泡材は、発泡温度が250℃以下であることを特徴とする窓の防火構造。 【請求項4】 引き違い窓または上げ下げ窓として構成された窓の防火構造において、 室外側障子と室内側障子の各召し合せ框に、障子が閉じた状態において互いに相手の裏面側どうしが対面するように交差する煙返しを備え、 前記室内側障子の召し合せ框における、前記室外側障子の召し合せ框との対向面であって、かつ前記室内側障子の召し合せ框の煙返しの根本側で、室内外方向に見て前記煙返しと重ならない箇所に、前記室内側障子の煙返しの室外側面よりも室内側に位置する取付け面を備え、 前記取付け面に、加熱により発泡して召し合せ框どうしの隙間を閉塞する加熱発泡材が設けられており、 火災発生時に、内外の召し合せ框間の隙間が前記加熱発泡材の発泡により生じた発泡体によって充填されることにより、召し合せ框どうしを離反させる力が発生し、内外の召し合せ框にそれぞれ形成した煙返しどうしが圧接して、障子が開き難くなる構成を有し、 前記室内側障子の召し合せ框に、非防火性クレセントが取付けられていることを特徴とする窓の防火構造。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-01-09 |
出願番号 | 特願2013-192469(P2013-192469) |
審決分類 |
P
1
652・
121-
YAA
(E06B)
P 1 652・ 161- YAA (E06B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 佐々木 崇 |
特許庁審判長 |
森次 顕 |
特許庁審判官 |
住田 秀弘 秋田 将行 |
登録日 | 2018-01-19 |
登録番号 | 特許第6275430号(P6275430) |
権利者 | 株式会社LIXIL |
発明の名称 | 窓の防火構造 |
代理人 | 若田 勝一 |
代理人 | 若田 充史 |
代理人 | 若田 勝一 |
代理人 | 若田 充史 |