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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
管理番号 1360470
異議申立番号 異議2019-700426  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-04-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-05-27 
確定日 2020-02-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6428591号発明「付加硬化型シリコーンゴム組成物及びシリコーンゴム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6428591号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?14〕について」訂正することを認める。 特許第6428591号の請求項1?5、7?14に係る特許を維持する。 特許第6428591号の請求項6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6428591号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?14に係る特許についての出願は、平成27年12月10日を出願日とする特許出願(特願2015-240773号)に係るものであって、平成30年11月9日にその特許権の設定登録がされ、平成30年11月28日に特許掲載公報が発行されたものである。

その後、本件特許の請求項1?14に係る特許に対して、令和1年5月27日に特許異議申立人であるモメンティブ パフォーマンス マテリアルズ インコーポレイテッド(以下、「申立人A」という。)により、同年5月28日に、特許異議申立人である黒川 真一(以下、「申立人B」という。)により、それぞれ特許異議の申立てがされた。

本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。
令和1年 5月27日 申立人Aによる特許異議申立書
同年 5月28日 申立人Bによる特許異議申立書
同年 8月19日付け 取消理由通知書
同年10月18日 特許権者による意見書の提出及び訂正の請求
同年10月24日付け 訂正請求があった旨の通知
同年11月25日 申立人Bによる意見書の提出
同年12月18日 申立人Aによる意見書の提出


第2 訂正の請求について

1 訂正の内容

令和1年10月18日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。下線は、訂正箇所を示す。
また、本件訂正前の請求項2?14は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?14は、一群の請求項であり、本件訂正請求は、一群の請求項〔1?14〕に対して請求されたものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の、
「(E)重合度が10以下でSi-OH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサンの含有量が組成物全体に対し0.005?0.3質量%である付加硬化型シリコーンゴム組成物。」を、
「(E)重合度が10以下でSi-OH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサンの含有量が組成物全体に対し0.005?0.3質量%であり、(F)重合度が10以下で分子中に官能基を有しないオルガノポリシロキサンの含有量が(A)成分中0.3質量%以下である付加硬化型シリコーンゴム組成物。」
に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5の、
「M_(2k+1)Q_(k)OH (2)
MD_(m)OH (3)
HO-D_(n)-OH (4)」を、
「M_(2k+1)Q_(k)O_(1/2)H (2)
MD_(m)O_(1/2)H (3)
HO_(1/2)-D_(n)O_(1/2)H (4)」
に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7の「請求項1?6のいずれか1項記載の」を、「請求項1?5のいずれか1項記載の」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項8の「請求項1?7のいずれか1項記載の」を、「請求項1?5及び7のいずれか1項記載の」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項10の「請求項1?9のいずれか1項記載の」を、「請求項7?9のいずれか1項記載の」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項11の「請求項1?10のいずれか1項記載の」を、「請求項1?5及び7?10のいずれか1項記載の」に訂正する。

(8)訂正事項8
明細書の段落【0013】において、「従って、本発明は、下記に示す付加硬化型シリコーンゴム組成物及びシリコーンゴムを提供する。」以降を削除し、
「〔1〕
(A)下記平均組成式(1)
R^(1)_(a)SiO_((4-a)/2) (1)
(式中、R^(1)は互いに同一又は異種の1価炭化水素基であり、aは1.5?2.8の正数である。)
で表され、一分子中に少なくとも2個の珪素原子と結合するアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)珪素原子と結合する水素原子(SiH官能基)を一分子中に少なくとも2個合有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:0.3?20質量部、
(C)補強性シリカ:5?80質量部、
(D)付加反応触媒:白金族金属として(A)、(B)成分の合計質量に対し、0.5?1,000ppm
を含有してなり、かつ、(E)重合度が10以下でSi-OH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサンの含有量が組成物全体に対し0.005?0.3質量%であり、(F)重合度が10以下で分子中に官能基を有しないオルガノポリシロキサンの含有量が(A)成分中0.3質量%以下である付加硬化型シリコーンゴム組成物。」
〔2〕
(A)成分中の珪素原子結合アルケニル基に対する(B)成分中のSiH官能基のモル比がSi-H/アルケニル基=0.6?3.0の範囲であることを特徴とする〔1〕記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
〔3〕
(C)成分の補強性シリカが、オルガノシラン化合物及びオルガノシラザン化合物から選ばれる少なくとも1種の表面処理剤により表面疎水化処理されたシリカである(予め、上記表面処理剤で表面疎水化処理されたシラン、あるいは、組成物の製造途中で、表面未処理のシリカ及び/又は表面疎水化処理済みのシリカを該表面処理剤の存在下に(A)成分の一部又は全部と共に加熱混合することにより表面疎水化処理されたシリカである)ことを特徴とする〔1〕又は〔2〕記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
〔4〕
前記表面処理剤がヘキサメチルジシラザンである〔3〕記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
〔5〕
(E)成分が、下記式(2)?(4)の構造で表されるオルガノポリシロキサンのいずれか1種又は2種以上である〔1〕?〔4〕のいずれかに記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
M_(2k+1)Q_(k)O_(1/2)H (2)
MD_(m)O_(1/2)H (3)
HO_(1/2)-D_(n)O_(1/2)H (4)
(ここで、kは0?3の整数、mは0?9の整数、nは1?10の整数であり、M=
(CH_(3))_(3)SiO_(1/2)-、Q=SiO_(4/2)、D=-(CH_(3))_(2)SiO_(2/2)-を意味す
る。)
〔7〕
(G)重合度が10以下で分子中にSi-OH官能基を含有せず、かつ、Si-H官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサンの含有量が(B)成分中10.0質量%以下である〔1〕?〔5〕のいずれかに記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
〔8〕
(B)成分が、重合度が11以上の、直鎖状、環状、分岐状又は三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンであることを特徴とする〔1〕?〔5〕及び〔7〕のいずれかに記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
〔9〕
(B)成分が、下記式(5)で示される直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンである〔8〕記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
【化1】

(式中、yは1?98の整数、zは2?50の整数、かつ、y+zは9?100の整数である。R^(2)は炭素数1?10の非置換又は置換の1価炭化水素基で、同一であっても異なっても良い。R^(3)は互いに独立にR^(2)又は水素原子である。)
〔10〕
(F)成分と(G)成分の含有量の合計が組成物全体の0.3質量%以下である〔7〕?〔9〕のいずれかに記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
〔11〕
〔1〕?〔5〕及び〔7〕?〔10〕のいずれかに記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物からなるシリコーンゴム。
〔12〕
前記付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物中における、(E)成分の含有量が0.005?0.3質量%である〔11〕記載のシリコーンゴム。
〔13〕
前記付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物中における、(F)及び(G)成分の含有量の合計が0.3質量%以下である〔12〕記載のシリコーンゴム。
〔14〕
前記付加硬化型シリコーンゴム組成物の1次キュア(金型内硬化)後の硬化物のBfR規定に基づく200℃×4時間での加熱減量が、0.5質量%以下である〔11〕、〔12〕又は[13]記載のシリコーンゴム。」に訂正する。

(9)訂正事項9
明細書の段落【0045】の、
「M_(2k+1)Q_(k)OH (2)
MD_(m)OH (3)
HO-D_(n)-OH (4)」を、
「M_(2k+1)Q_(k)O_(1/2)H (2)
MD_(m)O_(1/2)H (3)
HO_(1/2)-D_(n)O_(1/2)H (4)」
に訂正する。


2 訂正の適否についての当審の判断

(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の(A)?(E)成分を含有する付加硬化型シリコーンゴム組成物において、「(F)重合度が10以下で分子中に官能基を有しないオルガノポリシロキサンの含有量が(A)成分中0.3質量%以下である」という限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲(以下、「本件明細書等」という。)の請求項6、段落【0013】及び【0019】に記載されているから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、化学構造式として正しくないことが技術的に明らかである記載を、正しく訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正前の「OH」なる記載が、「O_(1/2)H」の誤りであることは、本件特許出願当時の技術常識から明らかであるので、訂正事項2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項3は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項4、5、7について
訂正事項4、5、7は、上記訂正事項3により、請求項6が削除されたことに伴い、その請求項の記載を引用しないものとするものであり、また、上記訂正事項1により、請求項1が減縮されていることから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項4、5、7は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5)訂正事項6について
訂正事項6は、請求項1?9を引用していたものを、請求項7?9を引用するものに限定するものであり、また、請求項7?9は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであるところ、上記訂正事項1により、請求項1が減縮されていることから、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項6は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(6)訂正事項8、9について
訂正事項8、9は、上記訂正事項1?7の特許請求の範囲の訂正に伴う明細書の訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項8、9は、上記(1)?(5)で述べたのと同様の理由により、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 まとめ

以上のとおり、訂正事項1?9は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。

また、特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

したがって、本件特許の特許請求の範囲及び明細書を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲及び明細書のとおり、訂正後の請求項〔1?14〕について訂正することを認める。


第3 本件発明

上記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?14に係る発明(以下、順に「本件訂正発明1」のようにいい、総称して「本件訂正発明」という。)は、それぞれ、令和1年10月18日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?14に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
(A)下記平均組成式(1)
R^(1)_(a)SiO_((4-a)/2) (1)
(式中、R^(1)は互いに同一又は異種の1価炭化水素基であり、aは1.5?2.8の正数である。)
で表され、一分子中に少なくとも2個の珪素原子と結合するアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)珪素原子と結合する水素原子(SiH官能基)を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:0.3?20質量部、
(C)補強性シリカ:5?80質量部、
(D)付加反応触媒:白金族金属として(A)、(B)成分の合計質量に対し、0.5?1,000ppm
を含有してなり、かつ、(E)重合度が10以下でSi-OH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサンの含有量が組成物全体に対し0.005?0.3質量%であり、(F)重合度が10以下で分子中に官能基を有しないオルガノポリシロキサンの含有量が(A)成分中0.3質量%以下である付加硬化型シリコーンゴム組成物。
【請求項2】
(A)成分中の珪素原子結合アルケニル基に対する(B)成分中のSiH官能基のモル比がSi-H/アルケニル基=0.6?3.0の範囲であることを特徴とする請求項1記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
【請求項3】
(C)成分の補強性シリカが、オルガノシラン化合物及びオルガノシラザン化合物から選ばれる少なくとも1種の表面処理剤により表面疎水化処理されたシリカであることを特徴とする請求項1又は2記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
【請求項4】
前記表面処理剤がヘキサメチルジシラザンである請求項3記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
【請求項5】
(E)成分が、下記式(2)?(4)の構造で表されるオルガノポリシロキサンのいずれか1種又は2種以上である請求項1?4のいずれか1項記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
M_(2k+1)Q_(k)O_(1/2)H (2)
MD_(m)O_(1/2)H (3)
HO_(1/2)-D_(n)-O_(1/2)H (4)
(ここで、kは0?3の整数、mは0?9の整数、nは1?10の整数であり、M=(CH_(3))_(3)SiO_(1/2)-、Q=SiO_(4/2)、D=-(CH_(3))_(2)SiO_(2/2)-を意味する。)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(G)重合度が10以下で分子中にSi-OH官能基を含有せず、かつ、Si-H官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサンの含有量が(B)成分中10.0質量%以下である請求項1?5のいずれか1項記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
【請求項8】
(B)成分が、重合度が11以上の、直鎖状、環状、分岐状又は三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンであることを特徴とする請求項1?5及び7のいずれか1項記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
【請求項9】
(B)成分が、下記式(5)で示される直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンである請求項8記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
【化1】

(式中、yは1?98の整数、zは2?50の整数、かつ、y+zは9?100の整数である。R^(2)は炭素数1?10の非置換又は置換の1価炭化水素基で、同一であっても異なっても良い。R^(3)は互いに独立にR^(2)又は水素原子である。)
【請求項10】
(F)成分と(G)成分の含有量の合計が組成物全体の0.3質量%以下である請求項7?9のいずれか1項記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
【請求項11】
請求項1?5及び7?10のいずれか1項記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物からなるシリコーンゴム。
【請求項12】
前記付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物中における、(E)成分の含有量が0.005?0.3質量%である請求項11記載のシリコーンゴム。
【請求項13】
前記付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物中における、(F)及び(G)成分の含有量の合計が0.3質量%以下である請求項12記載のシリコーンゴム。
【請求項14】
前記付加硬化型シリコーンゴム組成物の1次キュア(金型内硬化)後の硬化物のBfR規定に基づく200℃×4時間での加熱減量が、0.5質量%以下である請求項11、12又は13記載のシリコーンゴム。」


第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要

1 特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由

(1)申立人Aによる特許異議申立て
申立人Aが特許異議申立書(以下、「申立書A」という。)において申立てた理由は、概略、請求項1?14に係る発明についての本件特許は、次の申立理由1?5により、取り消されるべきものであるというものである。
申立人Aは、証拠方法として、下記カの甲第1号証?甲第10号証(以下、順に「甲1A」、「甲2A」等という。)を提出した。

ア 申立理由1(新規性)

(ア)申立理由1-1(甲1Aに基づく新規性)
本件訂正前の請求項1、3、5、11?12に係る発明は、甲1Aに記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(イ)申立理由1-2(甲2Aに基づく新規性)
本件訂正前の請求項1?5、11?12に係る発明は、甲2Aに記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(ウ)申立理由1-3(甲3Aに基づく新規性)
本件訂正前の請求項1?5、8、11に係る発明は、甲3Aに記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(エ)申立理由1-4(甲4Aに基づく新規性)
本件訂正前の請求項1?14に係る発明は、甲6Aの記載を参酌すると、甲4Aに記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

イ 申立理由2(進歩性)

(ア)申立理由2-1(甲1A及び甲2A?甲5Aに基づく進歩性)
本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲1Aに記載された発明及び甲1A?甲5Aに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(イ)申立理由2-2(甲4A及び甲3Aに基づく進歩性)
本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲4Aに記載された発明及び甲4A、甲3Aに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(ウ)申立理由2-3(甲1A?甲5Aに基づく進歩性)
本件訂正前の請求項2?14に係る発明は、甲1A?甲4Aに記載された発明それぞれ及び甲1A?甲5Aに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

ウ 申立理由3(実施可能要件)

本件訂正前の請求項1?14に係る特許は、明細書の発明の詳細な説明の記載に不備があるため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

エ 申立理由4(サポート要件)

本件訂正前の請求項1?14に係る特許は、特許請求の範囲の記載に不備があるため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

オ 申立理由5(明確性)

本件訂正前の請求項5?14に係る特許は、特許請求の範囲の記載に不備があるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

カ 証拠方法

甲1A:特開2011-16977号公報
甲2A:特表平11-514667号公報
甲3A:特開平8-176446号公報
甲4A:特開2008-255227号公報
甲5A:特開2003-137530号公報
甲6A:実験・分析に関する宣誓証明書、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社 モメンティブ シリコーン フォーミュレーテッドプロダクツセクター エラストマー ビジネス テクノロジー シニアスペシャリスト 島川雅成作成、令和1年5月24日(申立人Aの関係会社従業員である島川雅成が、東芝環境ソリューション株式会社に依頼した、甲4Aに記載されたシリコーンゴム組成物及びその硬化物の分析における、分析方法及び分析結果の報告書)
甲7A:ホームページ「ChemSpider」の「トリス(トリメチルシロキシ)シラノール」(http://www.chemspider.com/Chemical-Structure.2041619.html)
甲8A:BfRによる食品接触材料に関する勧告書
(https://bfr.ble.de/kse/faces/resources/pdf/150.pdf;jsessionid=0858F9F4E2C3A38DEE379CA00DC3086F)
甲9A:Bundesgesundheitsbl-Gesundheitsforsch-Gesundheitsschutz(2003)Vol.46,p.362-365
甲10A:Bundesgesundheitsbl-Gesundheitsforsch-Gesundheitsschutz(2002)Vol.45,p.462

(2)申立人Bによる特許異議申立て
申立人Bが特許異議申立書(以下、「申立書B」という。)において申立てた理由は、概略、請求項1?14に係る発明についての本件特許は、次の申立理由6?9により、取り消されるべきものであるというものである。
申立人Bは、証拠方法として、下記オの甲第1号証?甲第7号証(以下、順に「甲1B」、「甲2B」等という。)を提出した。

ア 申立理由6(新規性)

本件訂正前の請求項1?5、8、11?12に係る発明は、甲1Bに記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

イ 申立理由7(進歩性)

(ア)申立理由7-1(甲1B及び甲3Bに基づく進歩性)
本件訂正前の請求項6?7、9?10、13?14に係る発明は、甲1Bに記載された発明、甲3Bに記載された事項及び本件出願日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(イ)申立理由7-2(甲2B及び甲3Bに基づく進歩性)
本件訂正前の請求項1?14に係る発明は、甲2Bに記載された発明、甲3Bに記載された事項及び本件出願日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

ウ 申立理由8(サポート要件)
本件訂正前の請求項1?14に係る特許は、特許請求の範囲の記載に不備があるため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

エ 申立理由9(明確性)
本件訂正前の請求項5?14に係る特許は、特許請求の範囲の記載に不備があるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

オ 証拠方法

甲1B:特開平8-100125号公報
甲2B:特開2011-16977号公報(甲1Aと同じ)
甲3B:特開2008-255227号公報(甲4Aと同じ)
甲4B:特開2003-151586号公報
甲5B:特公平5-28738号公報
甲6B:特開平7-228782号公報
甲7B:国際公開第2015/178140号

2 取消理由通知書に記載した取消理由

(1)取消理由1(新規性)
本件訂正前の請求項1?5、11、12、14に係る発明は、甲2Aに記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

(2)取消理由2(進歩性)
本件訂正前の請求項1?5、8、11、12、14に係る発明は、甲2Aに記載された発明及び甲2Aに記載された事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件訂正前の請求項9、11、12、14に係る発明は、甲2Aに記載された発明、及び、甲2A、甲3B、甲5B、甲6Bに記載された事項及び周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3)取消理由3(サポート要件)
本件訂正前の請求項1?9、11、12、14に係る特許は、特許請求の範囲の記載に不備があるため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(4)取消理由4(明確性)
本件訂正前の請求項5?14に係る特許は、特許請求の範囲の記載に不備があるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

第5 当審の判断

1 各甲号証の記載事項及び各甲号証に記載された発明

(1)甲1A(甲2B)に記載された事項及び甲1Aに記載された発明

甲1A(甲2B)には、以下の事項が記載されている。


「【請求項1】
(A)下記平均組成式(1):
R_(n)SiO_((4-n)/2) (1)
[式中、Rは独立に非置換又は置換の1価炭化水素基であり、nは1.95?2.04の正数である。]
で表され、重合度が10以下の低分子シロキサン含有量が2,000ppm以下の、一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン
100質量部、
(B)下記一般式(2):
【化1】

[式中、R^(1)は独立に1価炭化水素基又は(CH_(3))_(3)SiO基である。]
で表されるジシラノール化合物 0.1?20質量部、
(C)比表面積が50m^(2)/g以上の補強性シリカ 10?100質量部、
(D)縮合触媒 有効量、
(E)硬化剤 有効量
を含有してなり、重合度が10以下の低分子シロキサン含有量が2,000ppm以下である硬化物を与えるシリコーンゴム組成物。」


「【0001】
本発明は、シリコーンゴム組成物製造時に加熱工程を行わなくても、低分子シロキサンが少なく(アセトン抽出による重合度10以下の低分子シロキサン含有量が、2,000ppm以下)、圧縮永久歪特性等に優れた硬化物を与えるシリコーンゴム組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
・・・
【0003】
しかし、シリコーンゴム組成物を製造する工程中で、たとえ原料のベースポリマーとして低分子シロキサン含有量の低減されたオルガノポリシロキサンを使用したとしても、該ベースポリマーとしてのオルガノポリシロキサンに、分散剤と共に補強性シリカが配合されたシリコーンゴム組成物中には、アセトン抽出による重合度10以下の低分子シロキサン(特には、ジメチルシロキサン環状3量体?10量体などのジオルガノシロキサン環状3量体?10量体や、分子鎖両末端がシラノール基(即ち、ケイ素原子に結合した水酸基)で封鎖されたジメチルシロキサン3量体?10量体などの、分子鎖両末端シラノール基封鎖直鎖状ジオルガノポリシロキサン3量体?10量体など)が含有されている。これらの低分子シロキサンはシリコーンゴムを形成するシロキサンポリマー由来のものの他にも、分散剤(ウエッター)由来のものも含有されており、ベースポリマー由来のものは、シロキサンポリマーが、酸やアルカリなどによるシロキサンオリゴマーの平衡反応により生成されるため、重合度の大小にかかわらず、常に相当量の低分子シロキサンとよばれる重合度(即ち、一分子中のケイ素原子の数)10以下の環状又は直鎖状のシロキサンが存在してしまうためである。このような低分子シロキサンは、組成物の製造工程中で調製されるシリコーンゴムコンパウンド中から、あるいは最終的な組成物を製造した後で、別途、減圧下、高温で揮発させることにより除去することが必要となる。
【0004】
これら低分子シロキサンは、高温雰囲気だけでなく、室温状態においても僅かながらシリコーンゴム成型物より揮発し、周囲に付着することにより、くもりや濁りの発生、接点障害の原因、接着阻害、表面の疎水化など多種多様な問題を引き起こすことが知られている。シリコーンゴム成型物を熱処理することで、低分子シロキサンを減らすことは可能であるが、ゴムが密閉状態で使用される場合や、耐熱性の低い樹脂などと組み合わされる部品等では、高温に曝すことができないなどの問題がある。また、120?250℃の高温のオーブンで30分?10時間程度熱処理を行うため、経済的でない。
【0005】
オルガノポリシロキサン中の低分子シロキサンは、減圧高温下で低分子シロキサンを揮発させることで、除去されることが知られており、種々の提案がなされている。
しかし、低分子シロキサンを除去したオルガノポリシロキサンを使用しても、シリコーンゴムコンパウンドの調製過程において、フィラーの分散剤(上記式(I)で表される化合物)由来の低分子シロキサンが残存するため、配合後、140℃以上で1?2時間熱処理する必要があった。
・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、シリコーンゴムコンパウンドの調製後に、別途、特別に加熱処理を行うことなく製造することができ、アセトン抽出による重合度10以下の低分子シロキサン含有量が2,000ppm以下のシリコーンゴムを得ることができるシリコーンゴム組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。」


「【0023】
(B)成分は、(C)成分の分散性を高め、可塑化戻り(crepe hardening)の抑制上有効な成分であり、(B)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.1?20質量部であり、好ましくは0.5?10質量部である。この配合量が0.1質量部未満であると、(C)成分の分散性向上効果や、可塑化戻りの抑制効果が十分発揮されず、また20質量部を超えると、得られるシリコーンゴム組成物が粘着性を持つものとなり、経済的にも好ましくない。更に必要以上に添加すると、(B)成分自体や、(B)成分中に含まれる不純物、又は(B)成分の縮合反応物等がシリコーンゴム中に残り、低分子シロキサンの要因となる可能性がある。」


「【0030】
[(E)硬化剤]
(E)成分は硬化剤であり、その具体例としては、例えば、有機過酸化物、付加系硬化剤(付加架橋剤(オルガノハイドロジェンポリシロキサン)及びヒドロシリル化反応触媒(白金族金属系触媒)の組み合わせ)等が好ましく、特に有機過酸化物が好ましい。」


「【0039】
上記シリコーンゴム組成物を硬化してなるシリコーンゴム(硬化物)のアセトン抽出による重合度10以下の低分子シロキサン含有量は、2,000ppm以下(0?2,000ppm)であり、好ましくは1,000ppm以下(0?1,000ppm)、より好ましくは700ppm以下(0?700ppm)である。
・・・
【0040】
なお、本発明において、上記重合度が10以下の低分子シロキサン含有量は、シリコーンゴム硬化物1gをn-テトラデカン(20μg/mL)含有アセトン10mL中に16時間浸漬させた後、該アセトン中に抽出された低分子シロキサン量をキャピラリーガスクロマトグラフにより測定することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例と比較例を用いて、本発明を具体的に説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。なお、オルガノポリシロキサンの低分子シロキサン量はキャピラリーガスクロマトグラフにより測定したものであり、オルガノポリシロキサンの重合度はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)分析におけるポリスチレン換算での数平均重合度を示す。
【0042】
[実施例1]
(低分子シロキサンの少ないオルガノポリシロキサンの調製)
ジメチルシロキサン単位99.825モル%、メチルビニルシロキサン単位0.15モル%、及びジメチルビニルシロキサン単位0.025モル%からなり、平均重合度が約6,000であり、低分子シロキサン量(即ち、ジメチルシロキサン環状3量体?環状10量体及び分子鎖両末端シラノール基封鎖直鎖状ジメチルシロキサン3量体?10量体の合計質量、以下同様)が20,000ppmのオルガノポリシロキサンをニーダーにて170℃で3時間熱処理し、低分子シロキサン量が550ppmである、オルガノポリシロキサンを調製した。
【0043】
(シリコーンゴム組成物)
上記で調製したオルガノポリシロキサン100質量部、下記式(3)で表されるジシラノール化合物4質量部、BET法による比表面積が200m^(2)/gであるヒュームドシリカ(商品名:アエロジル(登録商標)200、日本アエロジル(株)製)40質量部、ヘキサメチルジシラザン0.1質量部を添加し、室温下でニーダーにより混合し、ベースコンパウンド(1)を調製した。配合終了時は混合による発熱のため70℃となった。
【化4】

【0044】
上記ベースコンパウンド(1)100質量部に対して、(F)硬化剤として2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン0.5質量部を添加し、二本ロールで均一に混合した後、165℃、9.8MPaの条件で10分間プレスキュアーを行うことにより、試験シート及び圧縮永久歪測定用、反発弾性測定用の試験片を作製した。その試験シート及び試験片を用いて、諸特性について以下の測定方法に従って測定を行った。その結果を表1に示す。
・・・
【0047】
[低分子シロキサン量測定]
上記ベースコンパウンド(1)を用いて作製した試験シート(シリコーンゴム硬化物)1gをn-テトラデカン(20μg/mL)含有アセトン10mL中に16時間浸漬させ、抽出された低分子シロキサン量をキャピラリーガスクロマトグラフ((株)日立製作所製 G-3500)にて測定した。ケイ素原子数3?10の低分子シロキサンの合計量(即ち、ジメチルシロキサン環状3量体?環状10量体及び分子鎖両末端シラノール基封鎖直鎖状ジメチルシロキサン3量体?10量体の合計質量)を表1に示す。」


「【表1】




摘記ア、オ、カより、甲1Aには、実施例1として、以下の発明が記載されていると認められる。
「ジメチルシロキサン単位99.825モル%、メチルビニルシロキサン単位0.15モル%、及びジメチルビニルシロキサン単位0.025モル%からなり、平均重合度が約6,000であり、低分子シロキサン量(即ち、ジメチルシロキサン環状3量体?環状10量体及び分子鎖両末端シラノール基封鎖直鎖状ジメチルシロキサン3量体?10量体の合計質量、以下同様)が550ppmである、オルガノポリシロキサン100質量部、下記式(3)で表されるジシラノール化合物4質量部、BET法による比表面積が200m^(2)/gであるヒュームドシリカ(商品名:アエロジル(登録商標)200、日本アエロジル(株)製)40質量部、ヘキサメチルジシラザン0.1質量部を添加し、室温下でニーダーにより混合したベースコンパウンド(1)100質量部に対して、硬化剤として2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン0.5質量部を添加したシリコーンゴム組成物。

」(以下、「甲1A発明a」という。)


摘記ア、オ、カより、甲1Aには、実施例1として、以下の発明が記載されていると認められる。
「甲1A発明aをプレスキュアーして作製したシート。」(以下、「甲1A発明b」という。)

(2)甲2Aに記載された事項及び甲2Aに記載された発明

甲2Aには、以下の事項が記載されている。


「【特許請求の範囲】
1.オルガノポリシロキサンを基とする架橋可能な材料において、これがオルガノポリシロキサンに追加して、式
R^(1)_(a)R^(2)_(b)(OR^(3))_(c)SiO_(4-(a+b+c)/2)(I)
〔式中、
R^(1)は、同じかまたは異なっていてもよく、かつ炭素原子1?18個を有する脂肪族飽和SiC-結合炭化水素基を表し、
R^(2)は、同じかまたは異なっていてもよく、かつ炭素原子1?18個を有する脂肪族飽和でハロゲン原子で置換されているSiC-結合炭化水素基を表わし、
R^(3)は、同じかまたは異なっていてもよく、かつ水素原子または炭素原子1?12個を有し、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基を表し、これは酸素原子で中断されていてもよく、
aは、0、1、2または3であり、
bは、0、1、2または3であり、
cは、0、1、2または3であり、かつ
式(I)中のa、bよびcから成る和は、3より小さいかまたはこれと等しく、ただし、bが0である式(I)の単位から成る低分子量有機ケイ素化合物は、aが0または1に等しい式(I)の単位少なくとも一個、およびaが3に等しい式(I)の単位少なくとも一個を0.1から5重量%の量で架橋可能な材料の全重量に対して有する〕
の単位から成り、ケイ素原子2から17個を有する少なくとも一種の低分子量有機ケイ素化合物を含むことを特徴とする材料。
・・・
4.
(1)脂肪族炭素-炭素多重結合を有する基を有し、少なくともケイ素原子18個を有するオルガノポリシロキサン、
(2)Si-結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン、
(3)脂肪族多重結合へのSi-結合水素付加を促進する触媒、
(4)ケイ素原子2?17個を有し、式(I)の単位を0.1から5重量%の量で架橋可能な材料の全重量に対して有する少なくとも一種の低分子量有機ケイ素化合物、および
(5)補強性および/または非補強性充填物、
ならびに場合によればその他の物質
を含む
付加架橋可能なオルガノポリシロキサン材料である、請求項1記載の架橋可能な材料。」


「他の材料(e)として使用できる補強性充填物の例は、BET比表面積少なくとも50m^(2)/gを有する熱分解または沈降ケイ酸ならびにファーネスブラックおよびアセチレンブラックである。
上記のケイ酸充填物は、親水性を有しているか、または公知の方法により疎水化してあってもよい。このために、例えばドイツ特許(DE)第3839900A号明細書(ワッカー-ヘミー、1988年11月25日出願)ならびに相当する米国特許(US-A)第5057151号明細書が挙げられる。その際、一般に、疎水化は、ヘキサメチルジシラザンおよび/またはジビニルテトラメチルジシラザン1?20重量%および水0.5?5重量%をいずれもオルガノポリシロキサン材料の全重量に対して用いて行われ、その際、その試薬は、有利には好適な混合装置、例えば混練機または混和機中で、あらかじめ装入してあるオルガノポリシロキサンに加えられ、次いで親水性ケイ酸を順次材料中に混和させる。」(第14頁下から第1行?第15頁第11行)


「オルガノポリシロキサン(1)は、有利には線状、環状または分枝状で、少なくともケイ素原子18個を有し、式
R^(4)_(s)R^(5)_(t)SiO_((4-s-t)/2 )(IV)
〔式中、
R^(4)は、同じかまたは異なっていてもよく、かつSiO-結合、炭素原子2?18個を有する脂肪族不飽和炭化水素を表し、
R^(5)は、同じかまたは異なっていてもよく、かつ水素原子または場合によれば置換されている炭素原子1?18個を有するSiO-結合で脂肪族飽和炭化水素基を表し、その際、基Rをケイ素原子あたりに水素原子を表す最高1個は有していてもよく、
sは、0、1または2であり、かつ
tは、0、1、2または3であり、ただし、和s+tは、3より小さいかまたはこれと等しく、かつ少なくとも2個の基R4がシロキサン分子あたりに存在する〕
の単位から成るシロキサンである。
オルガノポリシロキサン(1)は、有利には平均粘度10^(2)?10^(6)mm^(2)/秒を25℃において有する。
有利には、基R^(4)は、脂肪族多重結合を有し、炭素原子2?6個を有する炭化水素基、例えばビニル基、アリル基、メタリル基、2-プロペニル基、3-ブテニル基、4-ペンテニル基、5-ヘキセニル基、ブタジエニル基、ヘキサジエニル基、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基、エチニル基、プロパルギル基および2-プロピニル基であり、その際、ビニル基およびアリル基が殊に有利である。
基R^(5)の例は、すべて基R^(1)およびR^(2)のために記載した例のものである。
基R^(5)は、有利には場合によれば置換されており、炭素原子1?8個を有する脂肪族飽和一価炭化水素基であり、その際、メチル基が殊に有利である。
殊に有利には、オルガノポリシロキサン(1)は、線状で、粘度200?10^(5)mm^(2)/秒を25℃において有し、構造
(ViMe_(2)SiO_(1/2))(ViMeSiO)_(0-50)(Me_(2)SiO)_(30-2000)(ViMe_(2)SiO_(1/2))
〔式中、Meは、メチル基、Viはビニル基を表す〕
を有するオルガノポリシロキサンである。
Si-結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン(2)として、有利には線状、環状または分枝状で、式

〔式中、
R^(5)は、同じかまたは異なっていてもよく、上記のこのために記載されたものを表し、
uは、0、1、2または3であり、かつ
vは、0、1または2であり、
ただし、和u+vは、3より小さいかまたはこれと等しく、平均して少なくともSi-結合水素原子2個が分子あたりに存在する〕
の単位から成るシロキサンが使用される。
オルガノポリシロキサン(2)は、有利には平均粘度10?2・10^(4)mm^(2)/秒を25℃において有する。
有利には、3個またはそれ以上のSiH-結合を分子1個あたりに有しているポリオルガノシロキサン(2)の使用である。2個だけのSiH-結合を分子1個あたりに有する構成要素(2)の使用の場合には、オルガノポリシロキサン(1)は、有利には少なくとも3個の脂肪族炭素-炭素多重結合を分子1個当たりに有する。
また、有利には、ポリオルガノシロキサン(2)は、架橋剤としても使用される。ケイ素原子に直接結合している水素原子のみが関係する架橋剤の水素含有量は、有利には水素0.002?1.7重量%、殊に有利には水素0.1?1.7重量%である。
殊に有利には、オルガノポリシロキサン(2)は、粘度20?1000mm^(2)/秒を25℃において有するオルガノポリシロキサンである。
ポリオルガノシロキサン(2)は、有利には、SiH-基の成分(1)の脂肪族炭素-炭素多重結合を有する基に対するモル比が、0.5?5、有利には1.0?3.0の間にある量を硬化可能なシリコーンゴム中に含まれる。」(第17頁下から第5行?第20頁第1行)


「構成要素(3)は、構成要素(1)の炭素-炭素脂肪族多重結合を有する基と構成要素(2)のSi-結合水素原子との間の付加反応(ヒドロシリル化)のための触媒として役立つ。文献には、すでに多数の好適なヒドロシリル化触媒が記載されている。原理的に、本発明による材料中には、通常、付加架橋性シリコーンゴム材料に使用されるヒドロシリル化触媒が使用できる。
ヒドロシリル化触媒として、金属、例えば白金、ロジウム、パラジウム、ルテニウムおよびイリジウム、有利には白金が、場合によれば微粉状の担体、例えば活性炭、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素上に固定されて使用できる。
有利には、白金および白金化合物が使用される。殊に有利には、ポリオルガノシロキサン中に可溶性の白金化合物が使用される。可溶性白金化合物として、例えば式(PtCl_(2)・オレフィン)_(2)およびH(PtCl_(3)・オレフィン)の白金-オレフィン-錯体が使用され、その際、有利には炭素原子2?8個を有するアルケン、例えばエチレン、プロピレン、ブテンの異性体およびオクテン、または炭素原子5?7個を有するシクロアルケン、例えばシクロペンテン、シクロヘキセンおよびシクロヘプテンが使用される。その他の可溶性白金触媒は、式(PtCl_(2)・C_(3)H_(6))_(2)の白金-シクロプロパン錯体、ヘキサクロロ白金酸とアルコール、エーテルおよびアルデヒドならびにこれらの混合物との反応生成物またはヘキサクロロ白金酸とメチルビニルシクロテトラシロキサンとの炭酸ナトリウムの存在下におけるエタノール性溶液中での反応生成物である。殊に有利には、白金とビニルシロキサン、例えば1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサンとの錯体である。
ヒドロシリル化触媒は、マイクロカプセルの形でも使用でき、これは、触媒を含み、かつポリオルガノシロキサン中に不溶性の微細な固体、例えば熱可塑性樹脂(ポリエステル樹脂、シリコン樹脂)である。ヒドロシリル化触媒は、例えばシクロデキストリン中の包接化合物の形でも使用できる。
使用されるヒドロシリル化触媒の量は、希望する架橋速度ならびに経済的観点から定まり、公知である。通例の白金触媒を用いる場合には、硬化可能なシリコーンゴム材料の含有量は、元素白金として、元素白金0.1?500重量ppm、有利には10?100重量ppmの範囲内にある。」(第20頁第2行?第21頁第2行)


「使用される充填物(5)の例は、上記に例として挙げた充填物である。」(第21頁第11行)


「実施例1
・・・
付加架橋性材料のための基礎材料の製造
実験室用5l混練機中に粘度2000mm^(2)/秒を有する、ビニル基末端ジメチルポリシロキサン500gを装入し、150℃に加熱し、ヘキサメチルジシラザンを用いて冒頭に記載したドイツ特許(DE)第3839900A号明細書記載により疎水化したケイ酸390gを充填物として混合させる。1000hPa、150℃において混練した後に、1時間で揮発性成分を除去する。著しく硬直した材料が生成し、これを引き続き上記のジメチルポリシロキサン410gを用いて希釈する。この基礎材料から引き続き遊星混合機中でA-成分ならびにB-成分を製造する。
A-成分の製造のために、30分以内に室温、常圧において、上記の基礎材料380g、ジビニルテトラメチルジシロキサンとのPt-錯体0.2g、上記i)において製造された低分子量有機ケイ素化合物1.0gならびに開始剤としてエチニルシクロヘキサノール1.0gと混合させる。
次いで、B-成分の製造のために、30分以内に室温、常圧において、上記の基礎材料380g、架橋剤としてSi-H0.5モル%および粘度400mm^(2)/秒を有する線状メチル-H-ポリシロキサン18g、開始剤としてエチニルシクロヘキサノール1.0gおよび上記i)において製造された低分子量有機ケイ素化合物1.0gを混合させる。
成分AおよびBを、いずれも重量比1:1で混合し、温度160℃において架橋させ、その際、ポットライフおよび貯蔵安定性は下記のようにして測定される。」(第27頁下から第9行?第29頁第10行)


「実施例2
ii)低分子量有機ケイ素化合物(Me_(3)SiO)_(3)SiOHの製造
水50gおよびヘキサメチルジシラザン50gを強く、BET比表面積300m^(2)/gを有する熱分解ケイ酸(商標「ワッカーHDK^(R)T30」としてワッカー-ヘミー有限会社から購入できる)100gと混合させ、1時間攪拌し、引き続き24時間、80℃において貯蔵する。粉末状反応混合物を引き続き140℃において2時間、弱い窒素気流中で揮発性化合物を精製除去する。220℃、8時間における乾燥窒素中での蒸留除去により、少量の水相を分離した後に、透明液体17gが得られ、これはガスクロマトグラフィーにより(Me_(3)SiO)_(3)SiOH83%を含んでいる。
ii)で得られた低分子量有機ケイ素化(当審注:「低分子量有機ケイ素化合物」の誤記と認められる。)を用いて、実施例1の記載のようにして処理する。
ポットライフおよび貯蔵安定性の値は表1に記載してある。」(第30頁第13行?下から第2行)


摘記ア、カ、キより、甲2Aには、実施例2として、以下の発明が記載されていると認められる。
「ビニル基末端ジメチルポリシロキサン500gを装入し、150℃に加熱し、ヘキサメチルジシラザンを用いて疎水化したケイ酸390gを充填物として混合させ、1000hPa、150℃において混練した後に、1時間で揮発性成分を除去し、これを引き続き上記のジメチルポリシロキサン410gを用いて希釈し、基礎材料とし、
上記の基礎材料380g、ジビニルテトラメチルジシロキサンとのPt-錯体0.2g、(Me_(3)SiO)_(3)SiOHを83%を含む低分子量有機ケイ素化合物1.0gならびに開始剤としてエチニルシクロヘキサノール1.0gとを、30分以内に室温、常圧において混合させてA-成分とし、
次いで、上記の基礎材料380g、架橋剤としてSi-H0.5モル%および粘度400mm^(2)/秒を有する線状メチル-H-ポリシロキサン18g、開始剤としてエチニルシクロヘキサノール1.0gおよび(Me_(3)SiO)_(3)SiOHを83%を含む低分子量有機ケイ素化合物1.0gを、30分以内に室温、常圧において混合させてB-成分として、
上記A-成分およびB-成分を、いずれも重量比1:1で混合した、付加架橋可能なオルガノポリシロキサン材料。」(以下、「甲2A発明a」という。)


また、摘記ア、カ、キより、甲2Aには、実施例2として、以下の発明が記載されていると認められる。
「甲2A発明aを架橋させた架橋物。」(以下「甲2A発明b」という。)

(3)甲3Aに記載された事項及び甲3Aに記載された発明

甲3Aには、以下の事項が記載されている。


「【請求項1】(A)下記一般式(1)
【化1】

[式中、R^(1)は非置換又は置換の一価炭化水素基、R^(2)は二価の有機基、Rfは炭素数1?12のパーフルオロアルキル基又は炭素数5?18のパーフルオロオキシアルキル基、Xは下記式(2)
【化2】

(式中、R^(3)は非置換又は置換の一価炭化水素基、pは1?3の整数である)で表わされる基であり、mは15?4,000 の整数、nは0≦n/(n+m)≦0.1 を満足する整数である]で表わされ、分子量が 3,000以下の環状ポリシロキサンの含有率が1ppm 以下であるオルガノポリシロキサン、(B)シラン類、シロキサン類で表面処理されていない未処理充填剤、(C)1分子中に、けい素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、及び(D)白金族金属系触媒からなることを特徴とする硬化性シリコーン組成物。
【請求項2】 請求項1に記載の硬化性シリコーン組成物を硬化させて得られる含フッ素シリコーンゴム硬化物。
【請求項3】 トリメチルシラノール及び分子量 3,000以下の環状ポリシロキサンの合計含有率が1ppm 以下である請求項2に記載の含フッ素シリコーンゴム硬化物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、低分子シロキサン等の低分子有機けい素化合物を実質的に含まず、電気・電子用、建材用として好適な硬化性シリコーン組成物及びその硬化物に関するものである。
・・・
【0004】さらに、上記の製造方法では、解重合反応の生起のため、目的の高分子鎖状シロキサンの他に、環状シロキサンや低分子量の直鎖状シロキサンが副生し、特に環状シロキサンは3量体から数十量体まで連続的に生成する。これらのうち、低分子量の直鎖状シロキサンや重合度の低い環状シロキサンは、重合体を減圧下に加熱することにより容易に除去できるが、分子量 740以上、特に分子量 1,480以上の環状シロキサン(通常、ジメチルシロキサン換算で環状10量体以上、特に環状20量体以上)の除去は非常に困難である。従って、この様にして得られたポリオルガノシロキサン重合体は、公知の技術によって、オイル、ゴム状硬化物、コーティング被膜等の形態で用いられるわけであるが、該オルガノポリシロキサン中に含まれる環状シロキサンがオイル、ゴム状硬化物、被膜等から徐々に揮発、ブリードを起こし、電気分野においては電気接点トラブル、建材分野では周辺汚染等の原因となっている。
・・・
【0009】
【発明が解決しようとする課題】従って、含フッ素シリコーン系組成物についても、直鎖状あるいは環状の低分子シロキサンやシラン類を含まないオルガノポリシロキサン(ベースポリマー)と、同じく低分子シロキサン等を含まない充填剤、その他同様に低分子シロキサン等を含まない添加剤よりなる組成物が望まれている。本発明は、この様な成分からなる鎖状あるいは環状の低分子シロキサンやシラン類を実質的に含まない硬化性組成物、また、その硬化物を提供しようとしてなされたものである。」


「【0024】(D)成分の白金族金属系触媒は硬化触媒であり(A)成分中の脂肪族不飽和基と、(C)成分中の SiH基とのヒドロシリル化反応を促進させるものであり、これには、白金系、パラジウム系、ロジウム系のものがあるが、コストの点等から通常は白金系のもの、例えば白金黒;塩化白金酸;塩化白金酸とアルコール、エーテル、アルデヒド、エチレン等のオレフィンとのコンプレックス;アルミナ、シリカ、アスベスト等の各種担体に白金粉末を担持させたもの;等が好適に使用される。かかる(D)成分の配合量はいわゆる触媒量でよく、通常、(A)成分 100重量部当たり、白金族金属換算で1?500ppm、特に5?200ppmの範囲である。」


「【0028】
【実施例】
参考例
攪拌装置付1リットルセパラフラスコに、下記式
【化13】

で表わされるシクロトリシロキサン1,000g(1.529 モル)、下記式
【化14】

で表わされるリチウムシラノレート 17.6g(0.0229モル)、テトラグライム1.0gを入れ、窒素雰囲気下で 100℃へ昇温し5時間反応させた。
・・・
【0030】次に環状ポリシロキサン定量のため、フタ付ガラスビンに精製オルガノポリシロキサン1.0g、内部標準としてn-デカン 20ppm含有のアセトン 10.0gを入れ、振とう後、24時間静置してアセトン層に抽出された分子量 3,000以下の環状ポリシロキサン(ジメチルポリシロキサンとして40量体以下)を、フレームイオン化検出器(FID)により検出したところ1ppm 以下であった。なお、この測定条件は以下の通りである。
使用機器:島津GC-14A
カラム :GL製キャピラリーカラムTC-1701 0.53mm×30m
昇温条件:初期温度70℃(1分)、昇温速度15K/分、最終温度 270℃(保持40分)
また、得られたオルガノポリシロキサンは下記の平均分子式
【化15】

で表わされる鎖状オルガノポリシロキサンである。
【0031】実施例1
(以下の例において、「部」は「重量部」を意味し、また粘度は25℃での測定値を示した。)
参考例で得られた分子量 3,000以下の環状シロキサンの含有率が1ppm 以下の鎖状オルガノポリシロキサン 100部、クリスタライト5X(TATSUMORI LTD.製、商品名)25部を 150℃×2時間ミキサーで混練してベース組成物を調製した。
【0032】上記のベース組成物125gに、式
【化16】

で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン1.9g、カーボンブラック8g、塩化白金酸の2-エチルヘキサノール溶液(白金濃度 2.0%) 0.05g、エチニルシクロヘキサノールの50%トルエン溶液0.4g、式
【化17】

で示される接着付与剤を加え、混合して硬化性組成物を調製した。
【0033】比較例1
比較のために、クリスタライト5Xを使用するかわりに、ヘキサメチルジシラザンで表面処理した Aerosil 300(日本 Aerosil社製、商品名)13部を配合した以外は実施例1と同様にベース組成物を調製し、このベース組成物113gにカーボンブラック0.2gを配合した以外は上記と同様にして硬化性組成物を調製した。
【0034】上記で調製された実施例1及び比較例1の硬化性組成物を、それぞれ温度 150℃、圧力 100kg/cm^(2)の条件下で10分間プレスして厚さ2mmのシートを作成した。得られたシートをさらに 150℃で50分間加熱処理し、この加熱処理後のシートのゴム物性をJIS K 6301に準じて調べた。結果を表1に示す。
【表1】

硬さは、A型スプリング試験機を用いて測定した(以下同じ)。
【0035】また、実施例1、比較例1の硬化物試料を加熱して発生するガスを逐次補集し(ヘッドスペースサンプラ)、GC-MSにより定量分析を行なったところ、トリメチルシラノール及び分子量 3,000以下の環状ポリシロキサンの合計量は、実施例1が 0.54ppm、比較例1が 3.94ppmであった。」


摘記ウより、甲3Aには、実施例1として、以下の発明が記載されていると認められる。
「分子量 3,000以下の環状ポリシロキサンの含有率が1ppm 以下であり、下記の平均分子式
【化15】

で表わされる鎖状オルガノポリシロキサン100部、クリスタライト5X(TATSUMORI LTD.製)25部を混練したベース組成物125gに、式
【化16】

で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン1.9g、カーボンブラック8g、塩化白金酸の2-エチルヘキサノール溶液(白金濃度 2.0%) 0.05g、エチニルシクロヘキサノールの50%トルエン溶液0.4g、式
【化17】

で示される接着付与剤を加えた硬化性組成物」(以下、「甲3A発明a」という。)


また、摘記ウより、甲3Aには、実施例1として、以下の発明が記載されていると認められる。
「甲3A発明aを、加圧下で加熱した後、さらに加熱処理を行って得られたシートであって、トリメチルシラノール及び分子量 3,000以下の環状ポリシロキサンの合計量が 0.54ppmである硬化物。」(以下、「甲3A発明b」という。)


摘記ウより、甲3Aには、比較例1として、以下の発明が記載されていると認められる。
「分子量 3,000以下の環状ポリシロキサンの含有率が1ppm 以下であり、下記の平均分子式
【化15】

で表わされる鎖状オルガノポリシロキサン100部、ヘキサメチルジシラザンで表面処理した Aerosil 300(日本 Aerosil社製、商品名)13部を混練したベース組成物113gに、式
【化16】

で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン1.9g、カーボンブラック0.2g、塩化白金酸の2-エチルヘキサノール溶液(白金濃度 2.0%) 0.05g、エチニルシクロヘキサノールの50%トルエン溶液0.4g、式
【化17】

で示される接着付与剤を加えた硬化性組成物」(以下、「甲3A発明c」という。)


また、摘記ウより、甲3Aには、比較例1として、以下の発明が記載されていると認められる。
「甲3A発明cを、加圧下で加熱した後、さらに加熱処理を行って得られたシートであって、トリメチルシラノール及び分子量 3,000以下の環状ポリシロキサンの合計量が 3.94ppmである硬化物。」(以下、「甲3A発明d」という。)

(4)甲4Aに記載された事項及び甲4Aに記載された発明

甲4Aには、以下の事項が記載されている。


「【請求項1】
(A)一分子中に少なくとも2個の珪素原子と結合するアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン: 100質量部、
(B)珪素原子と結合する水素原子(SiH官能基)を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン: 0.3?20質量部、
(C)付加反応触媒: 触媒量
を含有してなり、かつ、重合度が10以下でSiH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサンの含有量が組成物全体に対し0.5質量%以下である付加硬化型シリコーンゴム組成物。
【請求項2】
(A)成分中の珪素原子結合アルケニル基に対する(B)成分中のSiH官能基のモル比がSi-H/アルケニル基=0.6?3.0の範囲であることを特徴とする請求項1記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
・・・
【請求項6】
重合度が10以下でSiH官能基を有しないオルガノポリシロキサンの含有量が(A)成分中0.5質量%以下である請求項1?5のいずれか1項記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
・・・
【請求項11】
重合度が10以下でSiH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサンの含有量が(B)成分中10.0質量%以下である請求項1?10のいずれか1項記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
【請求項12】
請求項1?11のいずれか1項記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物を硬化させてなるシリコーンゴム硬化物。
【請求項13】
硬化物中における、重合度が10以下でSiH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサンの含有量が0.5質量%以下である請求項12記載のシリコーンゴム硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性の揮発性シロキサン化合物、特には珪素原子と結合する水素原子(以下、SiH官能基と略記する)を含有する揮発性シロキサン化合物の含有量が少ない付加硬化型シリコーンゴム組成物、及びその硬化物に関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、硬化物から低分子シロキサン成分の揮発量が少なく、揮発した低分子シロキサンが周囲に付着することによるくもりや濁りの発生、接点障害の原因、接着阻害、表面の疎水化などの問題がない硬化物が得られる付加硬化型シリコーンゴム組成物、及びその硬化物を提供することを目的とする。」


「【0016】
更に、(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ベースポリマー)としては、従来技術において記載した無官能性の(即ち(A)成分と(B)成分とのヒドロシリル化付加反応に関与する官能性基を有さない)低分子シロキサン成分の含有量が所定量以下に低減されたものであることが好ましく、具体的には、重合度が10以下の官能基を有しない低分子シロキサンの含有量が、(A)成分中に0.5質量%以下(0?0.5質量%)、好ましくは0.2質量%以下(0?0.2質量%)、より好ましくは0.1質量%以下(0?0.1質量%)であることが望ましい。無官能性の低分子シロキサン成分の含有量が0.5質量%を超えるとそれ自体が揮発により周辺部品等に悪影響を与えるだけでなく、SiH官能基を有する反応性の低分子シロキサンの揮発を容易にしてしまうなどの問題がある。」


「【0043】
[参考例]
下記のビニル基含有オルガノポリシロキサン((A)成分)中の低分子シロキサン及びオルガノハイドロジェンポリシロキサン((B)成分)中の低分子シロキサンは、以下のようにして低減した。
(A)成分のビニル基含有オルガノポリシロキサン中の低分子シロキサン(無官能性低分子シロキサン)は、約100Paの減圧下で試料を撹拌下に200℃で6時間加熱して低分子シロキサン成分を除去した後、更に窒素ガスを試料中に吹き込んで(バブリングして)、4時間除去操作を行った後、最後に50Pa以下の減圧下に250℃で2時間加熱除去操作を行って、低分子シロキサン成分を低減した。
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサン中の低分子シロキサン(主としてSiH基含有低分子シロキサンと無官能性低分子シロキサンとを含む)は、約100Paの減圧下で試料を撹拌下に180℃で6時間加熱して低分子シロキサン成分を除去した後、更に、窒素ガスを試料中に吹き込んで(バブリングして)、4時間除去操作を行った。更に、20Pa以下の減圧状態で200℃に昇温した熱盤上を100μm以下の薄膜状で試料(オイル状のオルガノハイドロジェンポリシロキサン)を流し、低分子シロキサン成分を低減した。
【0044】
[実施例1]
両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が500のジメチルポリシロキサン[重合度10以下でSiH官能基を有しない低分子シロキサン(即ち、無官能性低分子シロキサン。以下同じ)の含有量=0.08質量%]65質量部、比表面積が200m^(2)/gであるヒュームドシリカ(日本アエロジル社製、アエロジル200)30質量部、ヘキサメチルジシラザン5質量部、水2.0質量部を室温で30分混合後、150℃に昇温して3時間撹拌を続け、冷却し、シリコーンゴムベースを得た。
【0045】
このシリコーンゴムベース100質量部に、両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が250のジメチルポリシロキサン[重合度10以下でSiH官能基を有しない低分子シロキサンの含有量=0.03質量%]40質量部を入れ、30分撹拌を続けた後、更に架橋剤として下記式
【化7】

で示される両末端及び側鎖にSiH官能基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン[重合度10以下でSiH官能基を1?3個有する前記式(5)で示される低分子環状シロキサンの含有量=7.8質量%]を1.5質量部[Si-H/アルケニル基=1.5]、反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノール0.05質量部を添加し、15分撹拌を続けてシリコーンゴム組成物を得た。
このシリコーンゴム組成物全体中の重合度が10以下の無官能性及びSiH官能性の低分子シロキサン含有量を測定した結果、0.14質量%であり、そのうちSiH官能基を1個以上含有するものは0.09質量%(そのうち前記式(5)で示される環状構造のものが0.08質量%、直鎖状構造のものが0.01質量%)、官能基を有しないものは0.05質量%であった。
【0046】
このシリコーンゴム組成物に白金触媒(Pt濃度1%)0.1質量部を混合し、120℃/10分のプレスキュア後、厚さ2mmのゴムシートを得た。このゴムシートより、アセトン抽出(25℃×24時間浸漬)により含有する重合度が10以下の無官能性及びSiH官能性の低分子シロキサンを測定した結果、0.06質量%であり、そのうちSiH官能基を含有するものが0.01質量%(そのうち前記式(5)で示される環状構造のものが約0.01質量%で、直鎖状構造のものは0.001質量%未満)、官能基を有しないものが0.05質量%であった。
【0047】
また、このゴムシートより、JIS-K6249に基づき、硬さ、引張り強度、切断時伸びを測定した結果を表1に示した。」


摘記ウより、甲4Aには、実施例1として、以下の発明が記載されていると認められる。

「両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が500のジメチルポリシロキサン[重合度10以下でSiH官能基を有しない低分子シロキサン(無官能性低分子シロキサン)の含有量=0.08質量%]65質量部、比表面積が200m^(2)/gであるヒュームドシリカ(日本アエロジル社製、アエロジル200)30質量部、ヘキサメチルジシラザン5質量部、水2.0質量部を混合して得られたシリコーンゴムベース100質量部に、両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が250のジメチルポリシロキサン[重合度10以下でSiH官能基を有しない低分子シロキサンの含有量=0.03質量%]を40質量部、架橋剤として下記式
【化7】

で示される両末端及び側鎖にSiH官能基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン[重合度10以下でSiH官能基を1?3個有する前記式(5)で示される低分子環状シロキサンの含有量=7.8質量%]を1.5質量部、反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノールを0.05質量部添加した、シリコーンゴム組成物全体中の重合度が10以下の無官能性及びSiH官能性の低分子シロキサン含有量が0.14質量%である、シリコーンゴム組成物に、白金触媒(Pt濃度1%)0.1質量部を混合した組成物。」(以下「甲4A発明a」という。)


摘記ウより、甲4Aには、実施例1として、以下の発明が記載されていると認められる。
「甲4A発明aをプレスキュアして得られた、アセトン抽出(25℃×24時間浸漬)により測定した、重合度が10以下の無官能性及びSiH官能性の低分子シロキサンの含有量が0.06質量%であるゴムシート。」(以下「甲4A発明b」という。)

(5)甲6Aに記載された事項

甲6Aには、以下の事項が記載されている。

「・ベースコンパウンドの調製
5Lスケールのプラネタリーミキサーに、両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が500のジメチルポリシロキサン(重合度10以下でSiH基を有しない低分子シロキサンの含有量=0.08%、ビニル基含有量0.05mmol/g)65質量部、ヘキサメチルジシラザン5質量部、および、水2質量部を仕込み、比表面積が200m^(2)/gであるヒュームドシリカ(日本アエロジル社製、アエロジル200)30質量部を加えた。ヒュームドシリカを加えた後、30分間室温常圧で混錬し、さらに150℃に昇温して3時間、常圧で加熱混錬を行い、冷却してベースコンパウンドを調製した。

・シリコーンゴム組成物の調製
5Lスケールのプラネタリーミキサーに、ベースコンパウンド100質量部と、両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が300のジメチルポリシロキサン(重合度10以下でSiH基を有しない低分子シロキサンの含有量=0.03%、ビニル基含有量0.09mmol/g)質量部を仕込み、室温常圧で30分間混合し、架橋剤としてM^(H)D_(8)D^(H)_(6)M^(H)で示される、両末端および側鎖にSiH基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(重合度10以下でSiH基を1?3個有する低分子環状シロキサンの合有量=7.8%、SiH含有量7.4mmol/g)を1.5質量部(SiH基/ビニル基=1.58)、反応抑制剤としてエチニルシクロヘキサノール0.05質量部を添加して、室温常圧で15分間撹拌してシリコーンゴム組成物を調製した。

・シリコーンゴム硬化物の作製
シリコーンゴム組成物141.55質量部に、白金触媒(Pt濃度2%)0.05質量部を加えて手撹拌で混合後、真空脱泡した混合物を厚さ2mmの金型に流し込んで、120℃/10分の条件でプレス硬化により、厚さ2mmのゴムシートを作製した。
(2)シリコーンゴム組成物および、硬化物の組成
上記(1)で調製したシリコーンゴム組成物及びその硬化物であるゴムシートについて、本件特許の請求項1等で規定する低分子シラノール化合物その他の不純物の含有量を調べる目的で、当該試料の分析を下記分析機関に依頼し、その結果を受領しました。なお、本分析は、本件特許に記載された分析方法に準拠するよう依頼しました。具体的には、サンプル瓶に、試料1グラムを採取し、アセトン10cc中で、室温(25℃)で24時間放置したのち、アセトン中に抽出された、M-OH、M3Q-OH、M5Q2-OHおよびM5Q3-OHについてGC分析(FID検出)によって実施しました。各低分子量シラノールの判別はGC-MSによって行いました。GC及びMSのチャートを添付しています。低分子量シラノールの含有量は、標準サンプルのアセトン溶液を規定の濃度で調製したものを用いて検量線を作成し、測定対象のアセトン溶液1μLをGC測定することで得られたピーク面積と検量線から試料中の絶対量を算出することで求めました。

報告日:2019年 5月 24日
分析者:東芝環境ソリューション株式会社
試料 :シリコーンゴム組成物及びその硬化物であるゴムシート」(第3頁第8行?第4頁18行)

(6)甲8Aに記載された事項

甲8Aには、以下の事項が記載されている。




」(第5-5頁下から第3?2行)

(当審訳:シリコーンエラストマーは、0.5%より多い揮発性有機物及び0.5%より多い抽出成分を放出してはならない^(16)。)


「^(16)61.Mitt.ueber die Untersuchung von Kunststoffen, Bundesgesundheitsblatt,Gesundheitsforschung, Gesundheitsschutz 46(2003)362.」(第5-5頁脚注)

(当審訳:^(16)第61回プラスチックの検査に関するコミュニケーション、
Bundesgesundheitsblatt,Gesundheitsforschung, Gesundheitsschutz 46(2003)362.)

(7)甲9Aに記載された事項

甲9Aには、以下の事項が記載されている。




」(第362頁標題)

(当審訳:食品及び商品法の意味で商品として使用される場合のプラスチックの検査
61.コミュニケーション)




」(第362頁左段第1?9行)

(当審訳:このコミュニケーションは、吸収性パッドの吸収能力を決定するための方法を提示し、食料品の官能評価に関する基本的な情報を提供する。さらに、シリコーンエラストマー中の揮発性成分の決定方法の改訂版が公表される。)




」(第365頁中段第25行?右段第24行)

(当審訳:シリコーン製商品の検査
第60回コミュニケーション[Bundesgesundheitsbl.45(2002)462]で公表されたシリコーンエラストマー中の揮発性成分の決定方法は、次のように改訂される。
試験材約10gを約1×2cmの小片に切断し、室温で48時間、デシケーター中の塩化カルシウムに対して保管する。前処理済み(調整済み)小片を±0.1mgの精度で平らな秤量瓶に量り取る。<150℃の温度で使用される商品は、§35 LMBGに準拠する検査手続の公式コレクションの方法B 80.30-1(EG)に対応する乾燥オーブン中で、表3(模擬溶媒による移行試験用の条件)に指定される時間及び温度で加熱される。ただし、下記の商品は、200℃で4時間加熱される。
・飲用及び鎮静用の乳首、ニップルキヤップ、おしゃぶり
・搾乳機、飲料自動販売機又は分配システムなどの飲料用ホース
>150℃の温度で使用する予定の商品もまた、乾燥オーブン中で、200℃で4時間加熱される。デシケ一ター中で冷却した後、再び計量され、揮発性成分の含有量(パーセント)が重量差から決定される。)

(8)甲10Aに記載された事項

甲10Aには、以下の事項が記載されている。




」(第462頁標題)

(当審訳:食品及び商品法の意味で商品として使用される場合のプラスチックの検査
60.コミュニケーション)




」(第462頁中段第1?33行)

(当審訳:シリコーン製商品の検査
第12回コミュニケーション[Bundesgesundheitsbl.II(1968)56]で公表されたシリコーンエラストマー中の揮発性成分の決定方法は、次のように改訂される。
試験材約10gを約1×2cmの小片に切断し、室温で48時間、デシケーター中の塩化カルシウムに対して保管する。前処理済み(調整済み)小片を±0.1mgの精度で平らな秤量瓶に量り取る。<150℃の温度で使用される商品は、§35 LMBGに準拠する検査手続の公式コレクションの方法B 80.30-1(EG)の最も不利で予測可能な接触条件に対応する乾燥オーブン中で、表3(模擬溶媒による移行試験用の条件)に指定される時間及び温度で加熱される。>150℃の温度で使用する予定の商品は、乾燥オーブン中で、200℃で4時間加熱される。デシケーター中で冷却した後、再び計量され、揮発性成分の含有量(パーセント)が重量差から決定される。)

(9)甲1Bに記載された事項及び甲1Bに記載された発明

甲1Bには、以下の事項が記載されている。


「【請求項1】 (A)下記平均組成式(1)
R^(1)_(n)SiO_((4-n)/2) …(1)
(式中、R^(1)は同一又は異種の非置換又は置換1価炭化水素基、nは1.98?2.02の正数である。)で示されるオルガノポリシロキサン100重量部、(B)吸着炭素量が2重量%以上で疎水化度が50容積%以上である疎水性煙霧質シリカ10?70重量部、(C)けい素原子数が1?10のシラノール基含有低重合度けい素化合物0?3重量部からなることを特徴とするシリコーンゴム組成物。
・・・
【請求項3】 (C)成分のシラノール基含有低重合度けい素化合物が、下記一般式(2)
【化1】

(式中、R^(2)はメチル基、フェニル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基又はトリメチルシロキシ基を示す。)で示されるものである請求項1又は2記載の組成物。」


「【0027】上記シリコーンゴム組成物を硬化させる方法としては、従来から公知のヒドロシリル化反応を利用する方法と有機過酸化物を触媒として加硫させる方法のどちらかで硬化させることができる。
【0028】ヒドロシリル化反応を利用して硬化させる場合には、シリコーンゴム組成物に硬化剤としてオルガノハイドロジェンポリシロキサンと白金族金属系触媒とを配合することができる。なおこの場合、(A)成分のオルガノポリシロキサンとしては一分子中に2個以上のアルケニル基を有するもの、好ましくはR^(1)中0.001?5モル%がアルケニル基であるものを使用する。
【0029】ここで、オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、一分子中に2個以上のSiH基を有するオルガノポリシロキサンであればよく、直鎖状、環状又は分枝状の何れであってもよいが、重合度が300以下のものが好適である。また、このようなSiH基は、ポリシロキサン鎖の末端でもよいし、途中にあってもよい。かかるオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、(A)成分のオルガノポリシロキサンのアルケニル基1モル当り、通常SiH基が0.5?3モル、特に1.0?2モルとなる量割合で使用される。また、同時に使用される白金族金属系触媒は、(A)成分のオルガノポリシロキサン中のアルケニル基とオルガノハイドロジェンポリシロキサン中のSiH基とのヒドロシリル化反応の触媒として作用するもので、(A)成分のオルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンの合計量に対して、通常0.1?1,000ppm、好ましくは1?100ppm(白金金属として)の範囲で使用される。かかる白金族金属系触媒としては、例えば米国特許第2,970,150号に記載されている微粉末金属白金触媒、米国特許第2,823,218号に記載されている塩化白金酸触媒、米国特許第3,159,601号及び同3,159,662号に記載されている白金-炭化水素錯化合物、米国特許第3,516,946号に記載されている塩化白金酸-オレフィン錯化合物、米国特許第3,775,452号、同3,814,780号に記載されている白金-ビニルシロキサン錯体などを使用することができる。
【0030】ヒドロシリル化反応により硬化させる場合には、室温における保存安定性が良好でかつ適度なポットライフを保持するために、メチルビニルシクロテトラシロキサン、アセチレンアルコール類等の反応制御剤を添加することもできる。」


「【0038】〔実施例4〕ジメチルシロキサン単位99.95モル%、メチルビニルシロキサン単位0.025モル%、ジメチルビニルシロキサン単位0.025モル%からなり、平均重合度が約8,000であり、かつ末端の未封鎖率が8%のガム状オルガノポリシロキサン100重量部に、オクタメチルシクロテトラシロキサンで表面処理された疎水性煙霧質シリカ(比表面積151m^(2)/g,吸着炭素量2.1%,疎水化度62%)を45重量部、1,3-ジヒドロキシ-1,3-ジメトキシ-1,3-ジメチルジシロキサンを0.3重量部添加したものをニーダーで混合分散し、150℃にて1時間加熱処理して、シリコーンゴム組成物を製造した。
・・・
【0043】これらの組成物をまず2本ロールで十分に混練し、初期のウイリアムス可塑度を測定した。更に90℃,24時間経過した後、組成物を繰り返すことなく30分放冷して、戻りウイリアムス可塑度を測定した。その差から可塑度変化を求めた。また、これらの組成物に2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド(50%品)を1.5重量部加え、120℃,10分プレスキュアーし、更に200℃,4時間ポストキュアーしたもののゴム物性を測定した。結果を表1に示す。」


摘記ウより、甲1Bには、実施例4として、以下の発明が記載されているものと認められる。

「ジメチルシロキサン単位99.95モル%、メチルビニルシロキサン単位0.025モル%、ジメチルビニルシロキサン単位0.025モル%からなり、平均重合度が約8,000であるガム状オルガノポリシロキサン100重量部に、オクタメチルシクロテトラシロキサンで表面処理された疎水性煙霧質シリカ(比表面積151m^(2)/g,吸着炭素量2.1%,疎水化度62%)を45重量部、1,3-ジヒドロキシ-1,3-ジメトキシ-1,3-ジメチルジシロキサンを0.3重量部添加したシリコーンゴム組成物に2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド(50%品)を1.5重量部加えた組成物。」(以下、「甲1B発明a」という。)


摘記ウより、甲1Bには、実施例4として、以下の発明が記載されているものと認められる。

「甲1B発明aをプレスキュアー及びポストキュアーしたもの。」(以下、「甲1B発明b」という。)

2 判断

本件訂正発明6は削除されたので、本件訂正発明6に係る異議申立ては却下する。
したがって、本件訂正発明1?5、7?14に対する上記第4の取消理由及び申立理由について、以下に検討する。

(1)取消理由1、2について

取消理由1、2は、甲2Aに基づく新規性及び進歩性に関するものであるから、申立理由1-2(甲2Aに基づく新規性)、及び、申立理由2-3のうち甲2Aに基づくものと、以下にまとめて検討する。

ア 本件訂正発明1について

(ア)対比
本件訂正発明1と甲2A発明aとを対比する。
まず、組成物中の各成分について対比する。
甲2A発明aの「ビニル基末端ジメチルポリシロキサン」は、本件訂正発明1の「(A)」「アルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン」に相当する。また、甲2A発明aの「ヘキサメチルジシラザンを用いて疎水化したケイ酸」は、摘記1(2)イ、オより、「(C)補強性シリカ」に相当し、甲2A発明aの「ジビニルテトラメチルジシロキサンとのPt-錯体」は、摘記1(2)エより、本件訂正発明1の「白金族金属」を含有する「(D)付加反応触媒」に相当する。そして、甲2A発明aの「架橋剤としてSi-H0.5モル%および粘度400mm^(2)/秒を有する線状メチル-H-ポリシロキサン」、「(Me_(3)SiO)_(3)SiOH」はそれぞれ、本件訂正発明1の「(B)珪素原子と結合する水素原子(SiH官能基)を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン」、「(E)重合度が10以下でSi-OH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサン」に相当し、甲2A発明aの「付加架橋可能なオルガノポリシロキサン材料」は、本件訂正発明1の「付加硬化型シリコーンゴム組成物」に相当する。
次に、各成分の含有量について検討する。
甲2A発明aで調製された「A-成分」の合計量は、382.2(=380+0.2+1.0+1.0)gであり、「B-成分」の合計量は、400(=380+18+1.0+1.0)gであり、「付加架橋可能なオルガノポリシロキサン材料」は、「A-成分およびB-成分を、いずれも重量比1:1で混合した」ことから、A-成分を382.2(=380+0.2+1.0+1.0)gと、B-成分を同量の382.2g用いたとして計算すると、「ビニル基末端ジメチルポリシロキサン」の含有量は、520.163(=380×(500+410)/1300〕+〔380×(500+410)/1300×382.2/400〕)g、「線状メチル-H-ポリシロキサン」の含有量は、17.199(=18×382.2/400)g、「ヘキサメチルジシラザンを用いて疎水化したケイ酸」の含有量は、222.927(=380×390/1300〕+〔380×390/1300×382.2/400〕)gとなる。そうすると、「ビニル基末端ジメチルポリシロキサン」が100質量部とすると、甲2A発明aの「線状メチル-H-ポリシロキサン」の含有量は、3.3(=17.199/520.163×100)質量部であり、本件訂正発明1の「0.3?20質量部」と重複一致し、甲2A発明aの「ヘキサメチルジシラザンを用いて疎水化したケイ酸」の含有量は、43(=222.927/520.163×100)質量部であり、本件訂正発明1の「5?80質量部」と重複一致する。
さらに、甲2A発明aの「(Me_(3)SiO)_(3)SiOH」の「付加架橋可能なオルガノポリシロキサン材料」全体に対する含有量は、0.21(=〔(1.0+1.0×382.2/400)×0.83〕/(382.2×2)×100)質量%である。そして、摘記1(2)カより、「ヘキサメチルジシラザンを用いて疎水化したケイ酸」を混合、混練して「基礎材料」を調製する際、「1時間で揮発性成分を除去」していることから、甲2A発明aの「付加架橋可能なオルガノポリシロキサン材料」には、「(Me_(3)SiO)_(3)SiOH」以外の「(E)重合度が10以下でSi-OH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサン」は含有していないものと解される。してみると、上記の「0.21質量%」は、本件訂正発明1の「0.005?0.3質量%」と重複一致する。

そうすると、本件訂正発明1と甲2A発明aとは、
「(A)アルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン:100質量部、(B)珪素原子と結合する水素原子(SiH官能基)を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:0.3?20質量部、
(C)補強性シリカ:5?80質量部、
(D)白金族金属を含有する付加反応触媒
を含有してなり、かつ、(E)重合度が10以下でSi-OH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサンの含有量が組成物全体に対し0.005?0.3質量%である付加硬化型シリコーンゴム組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件訂正発明1は、「アルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン」が「下記平均組成式(1)
R^(1)_(a)SiO_((4-a)/2)(1)
(式中、R^(1)は互いに同一又は異種の1価炭化水素基であり、aは1.5?2.8の正数である。)
で表され、一分子中に少なくとも2個の珪素原子と結合するアルケニル基を含有する」ものであることを特定するのに対し、甲2A発明aは、「ビニル基末端ジメチルポリシロキサン」の平均組成式が明らかでない点。

<相違点2>
本件訂正発明1は、「珪素原子と結合する水素原子(SiH官能基)を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン」が「SiH官能基を一分子中に少なくとも2個含有する」ことを特定するのに対し、甲2A発明aは、「線状メチル-H-ポリシロキサン」が含有するSiH官能基の個数が明らかでない点。

<相違点3>
本件訂正発明1は、付加反応触媒の含有量が「白金族金属として(A)、(B)成分の合計質量に対し、0.5?1,000ppm」であることを特定するのに対し、甲2A発明aは、「ジビニルテトラメチルジシロキサンとのPt-錯体」の白金族金属としての含有量が明らかでない点。

<相違点4>
本件訂正発明1は、「(F)重合度が10以下で分子中に官能基を有しないオルガノポリシロキサンの含有量が(A)成分中0.3質量%以下である」ことを特定するのに対し、甲2A発明aは、そのような特定がない点。

(イ)相違点についての判断
まず、上記相違点4について検討する。
上記(ア)で示したとおり、甲2A発明aの「アルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン」が本件訂正発明1の「(A)」成分に相当するものであるところ、甲2Aには、「アルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン」中の「重合度が10以下で分子中に官能基を有しないオルガノポリシロキサン」の含有量が記載されていない。
よって、上記相違点4は、実質的な相違点である。

次に、相違点4に係る事項が、当業者が容易に想到し得たものであるか否かについて検討する。
まず、甲2Aに記載された事項に基いて、相違点4に係る事項を容易に想到し得るか否か検討する。
甲2Aには、低重合度のオルガノポリシロキサンを低減させることが記載も示唆もされておらず、ましてや、「アルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン」中に含有される「重合度が10以下で分子中に官能基を有しないオルガノポリシロキサン」を低減させることについては、何らの記載も示唆もない。
また、甲2Aは、摘記1(2)アに記載されるとおり、「(4)ケイ素原子2?17個を有」「する少なくとも一種の低分子量有機ケイ素化合物」という、低重合度のオルガノポリシロキサンを、課題解決のために配合するものであるから、「重合度が10以下」である低重合度のオルガノポリシロキサンの含有量を低減させるという何らの動機付けも見出せない。
次に、他の甲号証に記載された事項に基いて、相違点4に係る事項を容易に想到し得るか否か検討する。
甲4Aの段落【0016】には、付加硬化型シリコーンゴム組成物において、硬化物から揮発した低分子シロキサンが周囲部品等に悪影響を与えることを防ぐために、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン中の、無官能性の(ヒドロシリル化付加反応に関与する官能性基を有さない)低分子シロキサン成分の含有量を0.5質量%以下とすることが記載されている(摘記1(4)イ)。
しかしながら、上記のとおり、甲2Aには、低重合度のオルガノポリシロキサンの含有量を低減させるという何らの動機付けもないのであるから、たとえ甲4Aに、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン中の、無官能性の(ヒドロシリル化付加反応に関与する官能性基を有さない)低分子シロキサン成分を低減させることが記載されているとしても、甲2A発明aにおいて、甲4Aに記載された事項を組み合わせる動機付けがあるとはいえない。
したがって、甲2A発明aにおいて、「アルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン」中の「(F)重合度が10以下で分子中に官能基を有しないオルガノポリシロキサンの含有量」を「(A)成分中0.3質量%以下である」と特定することは、当業者が容易に想到し得るとはいえない。
また、甲2A、甲4A以外の他のいずれの甲号証を見ても、「(A)」「アルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン」中の「(F)重合度が10以下で分子中に官能基を有しないオルガノポリシロキサンの含有量」を「(A)成分中0.3質量%以下である」と特定することを動機付ける根拠は見出せず、それが本件特許出願日当時において技術常識であったともいえない。
したがって、甲2A発明aにおいて、「アルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン」中の「(F)重合度が10以下で分子中に官能基を有しないオルガノポリシロキサンの含有量」を「(A)成分中0.3質量%以下である」と特定することは、当業者が容易に想到するとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおり、本件訂正発明1と甲2A発明aとは、少なくとも相違点4の点で実質的に相違するから、相違点1?3について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲2Aに記載された発明ではない。
また、本件訂正発明1は、相違点4に係る事項が、当業者が容易に想到し得るといえないので、相違点1?3について検討するまでもなく、甲2Aに記載された発明、及び、甲3B、甲5B、甲6Bに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件訂正発明2?5、7?10について

本件訂正発明2?5、7?10は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用するものであり、上記アで述べたのと同様の理由により、甲2Aに記載された発明ではなく、また、甲2Aに記載された発明と、甲3B、甲5B、甲6Bに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件訂正発明11について

本件訂正発明11と甲2A発明bとを対比する
甲2A発明bの「架橋させた架橋物」は、本件訂正発明11の「硬化物からなるシリコーンゴム」に相当する。
してみると、本件訂正発明11と甲2A発明bとは、上記ア(ア)で示した相違点1?4の点で相違する。
そして、上記アで述べたのと同様の理由により、本件訂正発明11と甲2A発明bとは、少なくとも相違点4の点で実質的に相違するから、相違点1?3について検討するまでもなく、本件訂正発明11は、甲2Aに記載された発明ではない。
また、本件訂正発明11は、相違点4に係る事項が、当業者が容易に想到し得るといえないので、相違点1?3について検討するまでもなく、甲2Aに記載された発明、及び、甲3B、甲5B、甲6Bに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件訂正発明12?14について

本件訂正発明12?14は、本件訂正発明11を直接又は間接的に引用するものであり、上記ウで述べたのと同様の理由により、甲2Aに記載された発明ではなく、また、甲2Aに記載された発明と、甲3B、甲5B、甲6Bに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 申立人の主張について

(ア)令和1年12月18日提出の意見書における申立人Aの主張
申立人Aは、令和1年12月18日提出の意見書において、概略、以下のとおり主張する。
シリコーンゴム組成物において、(F)成分の量を特定することは、甲4Aに記載されている。そして、シリコーンゴムの分野で共通する甲2Aと甲4Aを組み合わせることに困難はない。(F)成分の特定を組み込むことは公知技術の単なる寄せ集めにしか過ぎない。
したがって、本件訂正発明1は、容易に想到することができる。

(イ)令和1年11月25日提出の意見書における申立人Bの主張
申立人Bは、令和1年11月25日提出の意見書において、概略、以下のとおり主張する。
甲2A発明aにおいて、「1時間で揮発性成分を除去」することで「基礎材料」中に含まれていた揮発性成分は全て除去されるといえることから、甲2A発明aには(F)成分は含まれておらず、本件訂正発明1と甲2A発明aとには、相違点1?3以外の新たな相違点はない。
したがって、本件訂正発明1は、依然として、新規性を欠くものである。
また、「(F)重合度が10以下で分子中に官能基を有しないオルガノポリシロキサンの含有量が(A)成分中0.3質量%以下である」点が、本件訂正発明1と甲2A発明aとの間の新たな相違点となったとしても、当該相違点は、以下の理由により、容易に想到し得るものである。
シリコーンゴム硬化物より揮発して種々の問題を生じることになる、重合度が10以下の低分子シロキサンの含有量を低減することは、申立書Bに引用した甲2B、甲3B、甲4B等に記載されていることから、上記相違点は、本件特許出願日当時の技術常識乃至周知技術である。
したがって、本件訂正発明1は、依然として、進歩性を欠くものである。

(ウ)当審の判断

a まず、申立人Aの上記主張(ア)について検討する。
上記ア(イ)で検討したとおり、甲2Aには、「重合度が10以下」である低重合度のオルガノポリシロキサンの含有量を低減させるという何らの動機付けも見出せないのであるから、甲2A及び甲4Aの技術分野が、シリコーンゴム組成物という点で共通しているとしても、甲2Aに記載された発明において、甲4Aに記載された事項を組み合わせる動機付けがあるとはいえない。
したがって、申立人Aの上記主張(ア)は、採用しない。

b 次に、申立人Bの上記主張(イ)について検討する。
甲2A発明aの「基礎材料」は、「1時間で揮発性成分を除去」した後、さらに「ビニル基末端ジメチルポリシロキサン」(本件訂正発明1の「(A)成分」に相当。)を加えて得られたものである。そうすると、「1時間で揮発性成分を除去した」ことにより、その時点においては、揮発性成分である(F)成分がほとんど除去されるとしても、後から加えた「ビニル基末端ジメチルポリシロキサン」中に含まれる(F)成分の含有量が明らかでない。
してみると、甲2A発明aの(A)成分中の(F)成分の含有量が、本件訂正発明1と一致するということはできない。
また、上記aと同様に、甲2Aには、「重合度が10以下」である低重合度のオルガノポリシロキサンの含有量を低減させるという何らの動機付けも見出せないのであるから、シリコーンゴム組成物の技術分野において、重合度が10以下の低分子シロキサンの含有量を低減することが技術常識乃至周知技術であったとしても、甲2Aに記載された発明において、そのような技術常識乃至周知技術を適用する動機付けがあるとはいえない。
したがって、申立人Bの上記主張(イ)は、採用しない。

カ まとめ
以上のとおりであるから、取消理由1、2、申立理由1-2、及び、申立理由2-3のうち甲2Aに基づくものについては、理由がない。

(2)取消理由3について

取消理由3は、申立理由4及び申立理由8と一部同旨であるから、以下にまとめて検討する。

ア 本件訂正発明の課題について
本件訂正発明が解決しようとする課題は、本件明細書の段落【0005】の記載から、「硬化物から低分子シロキサン成分の揮発量が少なく、揮発した低分子シロキサンが周囲に付着することによるくもりや濁りの発生、接着阻害、表面の疎水化などの問題がな」い「付加硬化型シリコーン組成物、およびシリコーンゴムを提供すること」であると解される。

イ 本件明細書の記載
本件明細書の段落【0006】?【0012】には、付加硬化型シリコーンゴム組成物に補強性シリカを配合するための表面処理剤は必須のものであり、表面処理剤を用いることにより、シラノール含有シラン又はシロキサンが発生し、組成物中に残存することは避けられないものであるところ、このような、重合度が10以下でSi-OH官能基を有する低分子シラン及びシロキサン((E)成分)を削減して組成物全体の0.3質量%以下とすることにより、上記アの課題を解決できる旨記載されている。そして、同【0047】には、(E)成分は、補強性シリカを表面疎水化する工程で生成され系内に残ってしまうものであるから、(E)成分の含有量を低下させるためには、減圧や加熱により処理剤あるいはその分解物を揮発させる方法が効果的である旨記載されている。
また、同【0019】には、(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ベースポリマー)として、無官能性の(即ち(A)成分と(B)成分とのヒドロシリル化付加反応に関与する官能性基を有さない)低分子シロキサン成分の含有量が所定量以下に低減されたもの、すなわち、(F)成分として、重合度が10以下の官能基を有しない低分子シロキサンの含有量が、(A)成分中に0?0.3質量%であるものを用いることが上記アの課題を解決するのに望ましい旨記載されている。
そして、本件明細書の段落【0058】?【0059】の実施例1、2、4には、(F)成分の含有量が、(A)成分中0.3質量%以下である(A)成分を用い、補強性シリカを表面疎水化処理を行った後に減圧及び加熱を行うことにより、組成物全体の(E)成分の含有量がそれぞれ、0.110%、0.176%、0.088%であるシリコーンゴム組成物が得られ、その硬化物の200℃/4時間での重量減少がそれぞれ、0.28%、0.32%、0.29%であることが示されている。一方、比較例1、2、4には、(F)成分の含有量が、(A)成分中0.3質量%以下である(A)成分を用い、補強性シリカを表面疎水化処理を行った後に常圧で加熱を行うことにより、組成物全体の(E)成分の含有量がそれぞれ、0.379%、0.534%、0.702%であるシリコーンゴム組成物が得られ、その硬化物の200℃/4時間での重量減少がそれぞれ、0.52%、0.63%、0.77%であることが示されている。

ウ 本件訂正発明1について
上記イに示したとおり、本件明細書の実施例1、2、4には、(F)成分の含有量が、(A)成分中0.3質量%以下である(A)成分を用い、補強性シリカを表面疎水化処理を行った後に減圧及び加熱を行うことにより、組成物全体の(E)成分の含有量が0.005?0.3質量%とすることができ、それにより、硬化物の重量減少を低減できることが具体的なデータとともに示されている。
ここで、硬化物の重量減少が小さいことは、硬化物からの揮発成分が少ないことを意味していることは、当業者にとって技術常識であり、また、揮発成分が少ないことにより、揮発物が周囲に付着することによるくもりや濁りの発生、接着阻害、表面の疎水化などの問題を解決できることは、当業者が容易に予測できることであるといえる。
してみると、本件明細書の実施例1、2,4には、得られた付加硬化型シリコーンゴム組成物が上記アの課題を解決することが、具体的に示されているといえる。
そうすると、当業者であれば、本件訂正発明1に係る(A)?(D)成分を含有する付加硬化型シリコーンゴム組成物において、「(E)重合度が10以下でSi-OH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサンの含有量」を「組成物全体に対し0.005?0.3質量%」とし、「(F)重合度が10以下で分子中に官能基を有しないオルガノポリシロキサンの含有量が(A)成分中0.3質量%以下」とすることによって、硬化物から低分子シロキサン成分の揮発量が少なく、揮発した低分子シロキサンが周囲に付着することによるくもりや濁りの発生、接着阻害、表面の疎水化などの問題がない付加硬化型シリコーン組成物を得られることが、本件明細書の記載から理解できるものといえる。

以上のとおり、本件訂正発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件訂正発明1は、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。

エ 本件訂正発明2?5、7?14について
本件訂正発明2?5、7?14は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用するものであり、上記ウで示したのと同様の理由により、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。

オ 申立人の主張について

(ア)令和1年12月18日提出の意見書における申立人Aの主張
申立人Aは、令和1年12月18日提出の意見書において、概略、以下のとおり主張する。
本件明細書の段落【0037】の記載から、ある種の(G)成分は、揮発性シロキサンによる問題を生じやすいと認識できる。また、本件明細書の実施例4には、(G)成分の含有量が本件訂正発明7の範囲を超えている場合に、硬化物中の(G)成分の量が他の実施例と比べて有意に大きくなっており、(G)成分の量が多いと、揮発性シロキサンによる問題を生じ得ることを示している。
したがって、(G)成分の含有量が特定されていない本件訂正発明1は、課題が解決されうると当業者が認識することができない。

(イ)当審の判断
本件明細書に段落【0069】及び【表1】の記載から、実施例4は、(B)成分中の(G)成分の含有量が本件訂正発明7の範囲を超えるものであるところ、実施例4で得られた組成物全体に対する(G)成分の含有量は、1.759質量%であり、硬化物中の(G)成分の含有量は、0.048質量%であり、いずれも、他の実施例と比較して多くなっており、これらの値は、本件訂正発明10及び本件訂正発明13の規定する範囲を超えるものである。しかしながら、実施例4の硬化物の重量減少は、0.29%であり、他の実施例と同等に、比較例より小さい値となっている。
これらの結果から、(G)成分の含有量が本件訂正発明7、10又は13の規定を超えるものであっても、硬化物の重量減少を低減させることができることが理解でできる。そして、上記ウで述べたとおり、硬化物の重量減少が小さいことは、本件訂正発明の上記課題アを解決できることを示しているといえる。
したがって、申立人Aの上記主張(ア)は、採用しない。

カ まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1?5、7?14は、発明の詳細な説明に記載したものであるといえ、取消理由3は、理由がない。申立理由及び申立理由8の同旨の部分についても同様に、理由がない。

(3)取消理由4について

取消理由4及び申立理由9(明確性)は同旨であるから、以下にまとめて検討する。

ア 取消理由通知について
当審は、上記取消理由通知において、以下のとおり説示した。

(ア)
「本件発明5では、「(E)成分」を表す「式(2)?(4)」として、
「M_(2k+1)Q_(k)OH(2)
MD_(m)OH(3)
HO-D_(n)-OH(4)
(ここで、kは0?3の整数、mは0?9の整数、nは1?10の整数であり、M=(CH_(3))_(3)SiO_(1/2)-、Q=SiO_(4/2)、D=-(CH_(3))_(2)SiO_(2/2)-を意味する。)」と規定されている。
・・・
しかしながら、これらの化合物は、分子中のSiが-O_(1/2)-を介してOHと結合しており、化学構造として正しくないことは明らかである。
したがって、本件発明5は、明確でない。
また、本件発明5を直接又は間接的に引用する本件発明6?14も同様に、明確でない。」

(イ)
「本件発明10では、「(F)成分と(G)成分の含有量」が規定されるが、本件発明10が引用する本件発明1?5、8、9には、「(F)成分」及び「(G)成分」が規定されていないので、如何なる成分を意味するのか不明確である。
よって、本件発明10は、明確でない。
また、本件発明10を直接又は間接的に引用する本件発明11?14も同様に、明確でない。」

イ 本件訂正発明についての判断

(ア)本件訂正発明5、7?14について
上記ア(ア)に対し、本件訂正発明5は、「(E)成分」を表す「式(2)?(4)」として、
「M_(2k+1)Q_(k)O_(1/2)H (2)
MD_(m)O_(1/2)H (3)
HO_(1/2)-D_(n)-O_(1/2)H (4)
(ここで、kは0?3の整数、mは0?9の整数、nは1?10の整数であり、M=(CH_(3))_(3)SiO_(1/2)-、Q=SiO_(4/2)、D=-(CH_(3))_(2)SiO_(2/2)-を意味する。)」
と規定された。
してみると、これらの化合物の化学構造は、適切である。
したがって、本件訂正発明5が明確でないとはいえない。
また、本件訂正発明5を直接又は間接的に引用する本件訂正発明7?14も同様に、明確でないとはいえない。

(イ)本件訂正発明10?14について
上記ア(イ)に対し、本件訂正発明10は、本件訂正発明7?9を引用するものとなった。
してみると、本件訂正発明7が引用する本件訂正発明1には、「(F)成分」が規定され、本件訂正発明7には、「(G)成分」が規定されているので、本件訂正発明10において、「(F)成分(G)成分の含有量」を規定することが明確でないとはいえない。
したがって、本件訂正発明10が明確でないとはいえない。
また、本件訂正発明10を直接又は間接的に引用する本件訂正発明11?14も同様に、明確でないとはいえない。

ウ まとめ
以上のとおり、本件訂正発明5、7?14は、明確でないといえないから、取消理由4及び申立理由9は、理由がない。

(4)取消理由通知において採用しなかった申立理由について

ア 申立理由1-1(甲1Aに基づく新規性)、申立理由2-1(甲1A及び甲2A?甲5Aに基づく進歩性)及び申立理由7-2(甲2B及び甲3Bに基づく進歩性)について

取消理由通知において採用しなかった申立理由のうち、甲1A(甲2B)を主引例とする申立理由1-1、申立理由2-1及び申立理由7-2について、以下にまとめて検討する。

(ア)本件訂正発明1について

a 対比
本件訂正発明1と甲1A発明aとを対比する。
まず、組成物中の各成分について対比する。
甲1A発明aの「ジメチルシロキサン単位99.825モル%、メチルビニルシロキサン単位0.15モル%、及びジメチルビニルシロキサン単位0.025モル%からな」る「オルガノポリシロキサン」は、甲1Aの請求項1の記載(摘記1(1)ア)より、「下記平均組成式(1):
R_(n)SiO_((4-n)/2) (1)
[式中、Rは独立に非置換又は置換の1価炭化水素基であり、nは1.95?2.04の正数である。]
で表され」、「一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン」の具体的化合物であるから、本件訂正発明1の「(A)下記平均組成式(1)
R^(1)_(a)SiO_((4-a)/2) (1)
(式中、R^(1)は互いに同一又は異種の1価炭化水素基であり、aは1.5?2.8の正数である。)
で表され、一分子中に少なくとも2個の珪素原子と結合するアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン」に相当する。また、甲1A発明aの「ヒュームドシリカ(商品名:アエロジル(登録商標)200、日本アエロジル(株)製)」は、本件訂正発明1の「(C)補強性シリカ」に相当する。そして、甲1A発明aの「式(3)(化学構造式は省略)で表されるジシラノール化合物」及び「オルガノポリシロキサン」中の「分子鎖両末端シラノール基封鎖直鎖状ジメチルシロキサン3量体?10量体」は、本件訂正発明1の「(E)重合度が10以下でSi-OH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサン」に相当する。さらに、甲1A発明aの「オルガノポリシロキサン」中の「ジメチルシロキサン環状3量体?環状10量体」は、本件訂正発明1の「(F)重合度が10以下で分子中に官能基を有しないオルガノポリシロキサン」に相当する。そして、甲1A発明aの「シリコーンゴム組成物」は「、(F)硬化剤として2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン」を含有するものであるから、本件訂正発明1の「付加硬化型シリコーンゴム組成物」と、「硬化型シリコーンゴム組成物」の限りにおいて一致する。
次に、各成分の含有量について検討する。
甲1A発明aの「ヒュームドシリカ」は、「オルガノポリシロキサン」100重量部に対して40重量部含有するので、本件訂正発明1の「5?80質量部」と重複一致する。

そうすると、本件訂正発明1と甲1A発明aとは、
「(A)下記平均組成式(1)
R^(1)_(a)SiO_((4-a)/2) (1)
(式中、R^(1)は互いに同一又は異種の1価炭化水素基であり、aは1.5?2.8の正数である。)
で表され、一分子中に少なくとも2個の珪素原子と結合するアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(C)補強性シリカ:5?80質量部
を含有してなり、かつ、(E)重合度が10以下でSi-OH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサン及び(F)重合度が10以下で分子中に官能基を有しないオルガノポリシロキサンを含有する硬化型シリコーンゴム組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件訂正発明1は、「(B)珪素原子と結合する水素原子(SiH官能基)を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:0.3?20質量部」及び「(D)付加反応触媒:白金族金属として(A)、(B)成分の合計質量に対し、0.5?1,000ppm」を含有する「付加硬化型シリコーンゴム組成物」であるのに対し、甲1A発明aは、「硬化剤として2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン0.5質量部」を含有する硬化型シリコーンゴム組成物である点。

<相違点2>
「(E)重合度が10以下でSi-OH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサンの含有量」について、本件訂正発明1は、「組成物全体に対し0.005?0.3質量%であ」るのに対し、甲1A発明aは、オルガノポリシロキサン100質量部に対する「式(3)で表されるジシラノール化合物」の含有量が4質量部であり、オルガノポリシロキサン中の「分子鎖両末端シラノール基封鎖直鎖状ジメチルシロキサン3量体?10量体」の含有量が不明である点。

<相違点3>
「(F)重合度が10以下で分子中に官能基を有しないオルガノポリシロキサンの含有量」について、本件訂正発明1は「(A)成分中0.3質量%以下である」のに対し、甲1A発明aは、オルガノポリシロキサン中の「ジメチルシロキサン環状3量体?環状10量体」の含有量が不明である点。

b 相違点についての判断
まず、相違点1について検討する。
甲1A発明aの「シリコーンゴム組成物」は、有機過酸化物である「2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン」を含有し、オルガノハイドロジェンポリシロキサン、付加反応触媒のいずれも含有しないものであるので、本件訂正発明1の「オルガノハイドロジェンポリシロキサン」及び「付加反応触媒」を含有する「付加硬化型シリコーンゴム組成物」とは、相違するものである。
よって、上記相違点1は、実質的な相違点である。

次に、相違点1に係る事項が、当業者が容易に想到し得たものであるか否かについて検討する。
甲1Aの段落【0030】には、シリコーン組成物の「(E)硬化剤」として、「有機過酸化物」と「付加系硬化剤(付加架橋剤(オルガノハイドロジェンポリシロキサン)及びヒドロシリル化反応触媒(白金族金属系触媒)の組み合わせ)」が記載され、「有機過酸化物」が好ましい旨記載されている(摘記1(1)エ)。
してみると、甲1A発明aにおいて「(E)硬化剤」として好ましいとされている「有機過酸化物」を、敢えてオルガノハイドロジェンポリシロキサン及びヒドロシリル化反応触媒からなる付加系硬化剤に代える動機付けはない。
また、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを有機過酸化物で硬化する場合と、オルガノハイドロジェンポリシロキサン及びヒドロシリル化反応触媒で硬化する場合とでは、硬化における反応様式も、それにより形成される化学構造も異なるものであるから、「(E)硬化剤」以外の他の成分、すなわち、(A)アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、(B)ジシラノール化合物及び(C)補強性シリカの組成が同一であるシリコーン組成物において、「(E)硬化剤」として、「有機過酸化物」に代えて、オルガノハイドロジェンポリシロキサン及びヒドロシリル化反応触媒からなる「付加系硬化剤」を用いても、必ずしも同等の効果を奏する組成物が得られるとは限らないことが、本件特許出願当時の技術常識であるといえるところ、「(E)硬化剤」以外の他の成分の組成を何ら変更せずに、硬化剤を「有機過酸化物」に代えてオルガノハイドロジェンポリシロキサン及びヒドロシリル化反応触媒とするだけで、同等の効果を奏する組成物が得られることが、甲1Aに示唆されているとはいえない。そして、甲2A?甲5Aをみても、そのことを示唆する記載があるとはいえない。
してみると、甲1A発明aにおいて、硬化剤として、有機過酸化物である「2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン」に代えて、付加系硬化剤である「オルガノハイドロジェンポリシロキサン」及び「付加反応触媒」を用いることは、何ら動機づけられず、当業者が容易に想到するとはいえない。

c 小括
以上のとおり、本件訂正発明1と甲1A発明aとは、少なくとも相違点1の点で実質的に相違するから、相違点2?3について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1Aに記載された発明ではない。
また、本件訂正発明1は、相違点1に係る事項が、当業者が容易に想到するとはいえないので、相違点2?3について検討するまでもなく、甲1Aに記載された発明、及び、甲1A?甲5Aに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)本件訂正発明2?5、7?10について

本件訂正発明2?5、7?10は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用するものであり、上記(ア)bで述べたのと同様の理由により、甲1Aに記載された発明ではなく、また、甲1Aに記載された発明、及び、甲1A?甲5Aに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)本件訂正発明11について

本件訂正発明11と甲1A発明bとを対比する
甲1A発明bの「プレスキュアーして作製したシート」は、本件訂正発明11の「硬化物からなるシリコーンゴム」に相当する。
してみると、本件訂正発明11と甲1A発明bとは、上記(ア)aで示した相違点1?相違点3の点で相違する。
そして、上記(ア)bで述べたのと同様の理由により、本件訂正発明11と甲1A発明bとは、少なくとも相違点1の点で実質的に相違するから、相違点2?3について検討するまでもなく、本件訂正発明11は、甲1Aに記載された発明ではない。
また、本件訂正発明11は、相違点1に係る事項が、当業者が容易に想到するとはいえないので、相違点2?3について検討するまでもなく、甲1Aに記載された発明、及び、甲1A?甲5Aに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(エ)本件訂正発明12?14について

本件訂正発明12?14は、本件訂正発明11を直接又は間接的に引用するものであり、上記ウで述べたのと同様の理由により、甲1Aに記載された発明ではなく、また、甲1Aに記載された発明、及び、甲1A?甲5Aに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(オ)まとめ
以上のとおり、申立理由1-1、申立理由2-1及び申立理由7-2は、理由がない。

イ 申立理由1-3(甲3Aに基づく新規性)及び申立理由2-3(甲1A?甲5Aに基づく進歩性)について

取消理由通知において採用しなかった申立理由のうち、甲3Aを主引例とする申立理由1-3及び申立理由2-3について、以下にまとめて検討する。

(ア)本件訂正発明1について

a 甲3A発明aとの対比及び判断

(a)対比
本件訂正発明1と甲3A発明aとを対比する。
まず、組成物中の各成分について対比する。
甲3A発明aの「下記の平均分子式
【化15】

で表わされる鎖状オルガノポリシロキサン」、「式
【化16】

で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン」はそれぞれ、それらの化学構造式からみて、本件訂正発明1の「(A)下記平均組成式(1)
R^(1)_(a)SiO_((4-a)/2) (1)
(式中、R^(1)は互いに同一又は異種の1価炭化水素基であり、aは1.5?2.8の正数である。)
で表され、一分子中に少なくとも2個の珪素原子と結合するアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン」、「(B)珪素原子と結合する水素原子(SiH官能基)を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン」に相当する。
また、甲3A発明aの「クリスタライト5X(TATSUMORI LTD.製)」は、その商品名からみて、本件訂正発明1の「(C)補強性シリカ」に相当する(必要であれば、特開平5-186567号公報、特開平5-297747号公報、特開平4-126762号公報を参照。)。
さらに、甲3A発明aの「塩化白金酸の2-エチルヘキサノール溶液(白金濃度 2.0%)」は、甲3Aの【0024】の記載(摘記1(3)イ)から、本件訂正発明1の「白金族金属」を含有する「(D)付加反応触媒」に相当する。
そして、甲3A発明aの「硬化性組成物」は、式【化15】(化学構造式は省略)で表わされる、ビニル基を有する「鎖状オルガノポリシロキサン」と、「オルガノハイドロジェンポリシロキサン」を含有するものであり、ヒドロシリル化により付加硬化するものであるから、本件訂正発明1の「付加硬化型シリコーンゴム組成物」に相当する。
次に、各成分の含有量について検討する。
甲3A発明aの「オルガノハイドロジェンポリシロキサン」、「クリスタライト5X(TATSUMORI LTD.製)の含有量はそれぞれ、「鎖状オルガノポリシロキサン100部」に対して1.9部、25部であるから、これらは各々、本件訂正発明1の「0.3?20質量部」、「5?80質量部」と重複一致する。
また、甲3A発明aの「塩化白金酸の2-エチルヘキサノール溶液」は、「鎖状オルガノポリシロキサン100部」及び「オルガノハイドロジェンポリシロキサン」1.9部に対し、0.05部含有し、「白金濃度 2.0%」であるから、白金族金属としての含有量は、約9.8(=0.05×0.02/(100+1.9)×10^(6))ppmであり、これは、本件訂正発明1の「0.5?1,000ppm」と重複一致する。

そうすると、本件訂正発明1と甲3A発明aとは、
「(A)下記平均組成式(1)
R^(1)_(a)SiO_((4-a)/2) (1)
(式中、R^(1)は互いに同一又は異種の1価炭化水素基であり、aは1.5?2.8の正数である。)
で表され、一分子中に少なくとも2個の珪素原子と結合するアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)珪素原子と結合する水素原子(SiH官能基)を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:0.3?20質量部、
(C)補強性シリカ:5?80質量部、
(D)付加反応触媒:白金族金属として(A)、(B)成分の合計質量に対し、0.5?1,000ppm
を含有してなる付加硬化型シリコーンゴム組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件訂正発明1は、「(E)重合度が10以下でSi-OH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサンの含有量が組成物全体に対し0.005?0.3質量%であ」るのに対し、甲3A発明aは、「(E)重合度が10以下でSi-OH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサン」を含有するか否か明らかでなく、その含有量も明らかでない点。

<相違点2>
本件訂正発明1は、「(F)重合度が10以下で分子中に官能基を有しないオルガノポリシロキサンの含有量が(A)成分中0.3質量%以下である」のに対し、甲3A発明aは、「鎖状オルガノポリシロキサン」中の「分子量 3,000以下の環状ポリシロキサンの含有率が1ppm 以下であ」る点。

(b)相違点についての判断
まず、相違点1について検討する。
甲3Aには、得られた硬化性シリコーン組成物中に「(E)重合度が10以下でSi-OH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサン」が含有されることは明記されていない。しかしながら、甲3Aの請求項3には、該硬化性シリコーン組成物を硬化させて得られるシリコーンゴム硬化物中の「トリメチルシラノール及び分子量3000以下の環状ポリシロキサンの合計含有率」が記載されている(摘記1(3)ア)ことから、硬化前の組成物である「硬化性シリコーン組成物」にも、トリメチルシラノールが含まれるものといえる。ここで、該「トリメチルシラノール」は、本件訂正発明1の「(E)重合度が10以下でSi-OH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサン」に相当するものである。
そして、甲3Aの実施例1には、甲3A発明aを硬化して得られたシート(硬化物)について、「トリメチルシラノール及び分子量3000以下の環状ポリシロキサンの合計量」が0.54ppmであることが記載されており、上記「0.54ppm」のうちの全てが「トリメチルシラノール」だとすると、甲3A発明aの硬化物は、「トリメチルシラノール」を0.54ppm、すなわち、0.000054%含有するものといえる。
そうすると、この硬化物の硬化前の組成物である甲3A発明aも、該「トリメチルシラノール」を含有するものと認識でき、硬化中に低分子成分である「トリメチルシラノール」が揮発することを考慮すれば、甲3A発明aは、該「トリメチルシラノール」を「0.000054%」より多く含有することが推認できる。しかしながら、硬化前の「トリメチルシラノール」含有量が「0.000054%」よりは多いとしても、「0.005%」よりは少ないと見積もるのが自然である。
つまり、甲3A発明aは、「(E)重合度が10以下でSi-OH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサン」である「トリメチルシラノール」を含有するものの、その含有量は、0.005%より少ないといえる。
したがって、上記相違点1は、実質的な相違点である。

次に、相違点1に係る事項が、当業者が容易に想到し得たものであるか否かについて検討する。
甲3Aの段落【0001】、【0004】、【0009】等(摘記1(3)ア)に記載されるとおり、甲3Aは、揮発、ブリードを起こし、電気接点トラブルや周辺汚染等の原因となる低分子量のシロキサンを実質的に含まない硬化性シリコーン組成物を得ることを目的とするものである。
ここで、「(E)重合度が10以下でSi-OH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサン」は、上記の「低分子量のシロキサン」に該当するものであるといえる。
してみると、「低分子量のシロキサン」の含有量を低減させることを目的とする甲3A発明aにおいて、「低分子量のシロキサン」である「(E)重合度が10以下でSi-OH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサン」の含有量を0.005%以上に増加させることは、何ら動機付けられない。
さらに、甲1A、甲2A、甲4A及び甲5Aの記載を検討したとしても、「(E)重合度が10以下でSi-OH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサン」の含有量を0.005%以上に増加させることが動機付けられるとはいえない。
したがって、相違点1に係る事項が、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。

b 甲3A発明cとの対比及び判断

(a)対比
本件訂正発明1と甲3A発明cとを対比する。
まず、組成物中の各成分について対比する。
甲3A発明cの「鎖状オルガノポリシロキサン」、「オルガノハイドロジェンポリシロキサン」、「塩化白金酸の2-エチルヘキサノール溶液」はそれぞれ、上記(ア)aと同様に、本件訂正発明1の「(A)下記平均組成式(1)
R^(1)_(a)SiO_((4-a)/2) (1)
(式中、R^(1)は互いに同一又は異種の1価炭化水素基であり、aは1.5?2.8の正数である。)
で表され、一分子中に少なくとも2個の珪素原子と結合するアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン」、「(B)珪素原子と結合する水素原子(SiH官能基)を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン」、「(D)付加反応触媒」に相当する。
そして、「Aerosil 300(日本 Aerosil社製)」は、その商品名からみて、ヒュームドシリカである(必要であれば、特開平5-140455号公報、特開平4-236265号公報、特開昭62-197454号公報を参照。)から、甲3A発明cの「ヘキサメチルジシラザンで表面処理したAerosil 300(日本 Aerosil社製)」は、本件訂正発明1の「(C)補強性シリカ」に相当する。
また、甲3A発明cの「硬化性組成物」も、上記a(a)と同様に、本件訂正発明1の「付加硬化型シリコーンゴム組成物」に相当する。
次に、各成分の含有量について検討する。
甲3A発明cの「オルガノハイドロジェンポリシロキサン」、「ヘキサメチルジシラザンで表面処理した Aerosil 300(日本 Aerosil社製)」の含有量はそれぞれ、「鎖状オルガノポリシロキサン100部」に対して1.9部、13部であるから、これらは各々、本件訂正発明1の「0.3?20質量部」、「5?80質量部」と重複一致する。
また、甲3A発明cの「塩化白金酸の2-エチルヘキサノール溶液」の含有量は、上記a(a)で示したのと同様に、本件訂正発明1の「0.5?1,000ppm」と重複一致する。

そうすると、本件訂正発明1と甲3A発明cとは、上記a(a)で示したのと同様の点で一致し、同様の相違点1?2で相違する。

(b)相違点についての判断
まず、相違点1について検討する。
上記a(b)で述べたとおり、甲3Aの硬化前の組成物である「硬化性シリコーン組成物」にも、トリメチルシラノールが含まれるものといえる。
そして、甲3Aの比較例1には、甲3A発明cを硬化して得られたシート(硬化物)について、「トリメチルシラノール及び分子量3000以下の環状ポリシロキサンの合計量」が3.94ppmであることが記載されており、上記a(b)で述べたのと同様の理由により、甲3A発明cの硬化物は、「トリメチルシラノール」を、最大で3.94ppm、すなわち、0.000394%含有するものといえる。
そうすると、この硬化物の硬化前の組成物である甲3A発明cも、該「トリメチルシラノール」を含有するものと認識でき、硬化中に低分子成分である「トリメチルシラノール」が揮発することを考慮すれば、甲3A発明cは、該「トリメチルシラノール」を「0.000394%」より多く含有することが推認できる。しかしながら、硬化前の「トリメチルシラノール」含有量が「0.000394%」よりは多いとしても、「0.005%」よりは少ないと見積もるのが自然である。
つまり、甲3A発明cは、「(E)重合度が10以下でSi-OH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサン」である「トリメチルシラノール」を含有するものの、その含有量は、0.005%より少ないといえる。
したがって、上記相違点1は、実質的な相違点である。

次に、相違点1に係る事項が、当業者が容易に想到し得たものであるか否かについて検討する。
甲3A発明cは、甲3において比較例として記載されているものであるから、当該発明を基礎として、いずれかの事項を変更することは、何ら動機付けられるものではない。
したがって、相違点1に係る事項が、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。

c 小括
以上のとおり、本件訂正発明1と甲3A発明a又はcとは、少なくとも相違点1の点で実質的に相違するから、相違点2について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲3Aに記載された発明ではない。
また、本件訂正発明1は、相違点1に係る事項が、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえないので、相違点2について検討するまでもなく、甲1Aに記載された発明、及び、甲1A?甲5Aに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)本件訂正発明2?5、7?10について

本件訂正発明2?5、7?10は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用するものであり、上記(ア)で述べたのと同様の理由により、甲3Aに記載された発明ではなく、また、甲3Aに記載された発明、及び、甲1A?甲5Aに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)本件訂正発明11について

本件訂正発明11と甲3A発明bとを対比する。
甲3A発明bの「硬化物」は、本件訂正発明1の「硬化物からなるシリコーンゴム」に相当する。
してみると、本件訂正発明11と甲3A発明bとは、上記(ア)a(a)で示した相違点1?相違点2の点で相違する。
また、本件訂正発明11と甲3A発明dとを対比すると、両者は、上記と同様に、上記相違点1?相違点2の点で相違する。
そして、上記(ア)a(b)、(ア)b(b)で述べたのと同様の理由により、本件訂正発明11と、甲3A発明b又は甲3A発明dとは、少なくとも相違点1の点で実質的に相違するから、相違点2について検討するまでもなく、本件訂正発明11は、甲3Aに記載された発明ではない。
また、本件訂正発明11は、甲3Aに記載された発明、及び、甲1A?甲5Aに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(エ)本件訂正発明12?14について

本件訂正発明12?14は、本件訂正発明11を直接又は間接的に引用するものであり、上記(ウ)で述べたのと同様の理由により、甲3Aに記載された発明ではなく、また、甲3Aに記載された発明、及び、甲1A?甲5Aに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(オ)まとめ
以上のとおり、申立理由1-3及び申立理由2-3のうち甲3Aを主引例とするものについては、理由がない。

ウ 申立理由1-4(甲4Aに基づく新規性)、申立理由2-2(甲4A及び甲5Aに基づく進歩性)及び申立理由2-3(甲1A?甲5Aに基づく進歩性)について

取消理由通知において採用しなかった申立理由のうち、甲4Aを主引例とする申立理由1-4、申立理由2-2及び申立理由2-3について、以下にまとめて検討する。

(ア)本件訂正発明1について

a 対比
本件訂正発明1と甲4A発明aとを対比する。
まず、組成物中の各成分について対比する。
甲4A発明aの「両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が500のジメチルポリシロキサン」及び「両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が250のジメチルポリシロキサン」は、いずれも、本件訂正発明1の「(A)下記平均組成式(1)
R^(1)_(a)SiO_((4-a)/2) (1)
(式中、R^(1)は互いに同一又は異種の1価炭化水素基であり、aは1.5?2.8の正数である。)
で表され、一分子中に少なくとも2個の珪素原子と結合するアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン」に相当する。また、甲4A発明aの「比表面積が200m^(2)/gであるヒュームドシリカ(日本アエロジル社製、アエロジル200)」、「下記式
【化7】

で示される両末端及び側鎖にSiH官能基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン」はそれぞれ、本件訂正発明1の「(C)補強性シリカ」、「(B)珪素原子と結合する水素原子(SiH官能基)を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン」に相当する。
さらに甲4A発明aの組成物は、両末端にビニル基を有するジメチルポリシロキサンに架橋剤としてSiH官能基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサンを含有するものであり、ヒドロシリル化による付加反応により硬化するものであるから、甲4A発明aの「白金触媒」は、本件訂正発明1の「(D)付加反応触媒」に相当する。
そして、甲4A発明aの「重合度10以下でSiH官能基を有しない低分子シロキサン」は、甲4Aの段落【0016】(摘記1(4)イ)の記載から、(A)アルケニル基含有オルガノポリシロキサンと(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサンとのヒドロシリル化付加反応に関与する官能性基を有さないものであるから、本件訂正発明1の「(F)重合度が10以下で分子中に官能基を有しないオルガノポリシロキサン」に相当する。
また、甲4A発明aの「組成物」は、白金触媒を混合した「シリコーンゴム組成物」であって、上記のとおり付加硬化する組成物であるから、本件訂正発明1の「付加硬化型シリコーンゴム組成物」に相当する。
次に、各成分の含有量について検討する。
甲4A発明aの「メチルハイドロジェンポリシロキサン」、「ヒュームドシリカ」の含有量はそれぞれ、「両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が500のジメチルポリシロキサン」「65質量部」及び「両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が250のジメチルポリシロキサン」「40質量部」に対し、「1.5質量部」、「30質量部」であるから、これらの「両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された」「ジメチルポリシロキサン」の合計100質量部に対する含有量は、約1.43(=1.5/(65+40)×100)質量部、約28.6(=30/(65+40)×100)質量部である。これらは、本件訂正発明1の「0.3?20質量部」、「5?80質量部」と重複一致する。
また、甲4A発明aの「白金触媒」は、Pt濃度が1%であり、「両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された」「ジメチルポリシロキサン」の合計105(=65+40)質量部及び「メチルハイドロジェンポリシロキサン」「1.5質量部」に対し、0.1質量部含有するものであるから、「両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された」「ジメチルポリシロキサン」及び「メチルハイドロジェンポリシロキサン」の合計質量に対し、Ptとして約9.4(=0.1×0.01/(105+1.5)×10^(6))ppm含有するものである。これは、本件訂正発明1の「0.5?1,000ppm」と重複する。
そして、甲4A発明aの「重合度10以下でSiH官能基を有しない低分子シロキサン」の、「両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が500のジメチルポリシロキサン」及び「両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が250のジメチルポリシロキサン」中の含有量はそれぞれ、「0.08質量%」、「0.03質量%」であるから、これは、本件訂正発明1の「(F)重合度が10以下で分子中に官能基を有しないオルガノポリシロキサンの含有量が(A)成分中0.3質量%以下である」ことと重複一致する。

そうすると、本件訂正発明1と甲4A発明aとは、
「(A)下記平均組成式(1)
R^(1)_(a)SiO_((4-a)/2) (1)
(式中、R^(1)は互いに同一又は異種の1価炭化水素基であり、aは1.5?2.8の正数である。)
で表され、一分子中に少なくとも2個の珪素原子と結合するアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)珪素原子と結合する水素原子(SiH官能基)を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:0.3?20質量部、
(C)補強性シリカ:5?80質量部、
(D)付加反応触媒:白金族金属として(A)、(B)成分の合計質量に対し、0.5?1,000ppm
を含有してなり、かつ、(F)重合度が10以下で分子中に官能基を有しないオルガノポリシロキサンの含有量が(A)成分中0.3質量%以下である付加硬化型シリコーンゴム組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件訂正発明1は、「(E)重合度が10以下でSi-OH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサンの含有量が組成物全体に対し0.005?0.3質量%であ」るのに対し、甲4A発明aは、「(E)重合度が10以下でSi-OH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサン」を含有するか否か明らかでなく、その含有量も明らかでない点。

b 相違点についての判断
甲4Aには、「(E)重合度が10以下でSi-OH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサン」を含有するか否かについて、何らの記載も示唆もない。
したがって、相違点1は、実質的な相違点である。

次に、相違点1に係る事項が、当業者が容易に想到し得たものであるか否かについて検討する。
甲4Aの段落【0005】には、「硬化物から低分子シロキサン成分の揮発量が少なく、揮発した低分子シロキサンが周囲に付着することによるくもりや濁りの発生、接点障害の原因、接着阻害、表面の疎水化などの問題がない硬化物が得られる付加硬化型シリコーンゴム組成物」「を提供することを目的とする」旨記載され、同【0005】及び【0016】には、低減すべき該「低分子シロキサン成分」として、「重合度が10以下でSiH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサン」及び無官能性の低分子シロキサン成分が記載されている(摘記1(4)ア、イ)。
しかしながら、甲4Aには、低減すべき「低分子シロキサン成分」として、「重合度が10以下でSi-OH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサン」は記載されておらず、それを示唆する何らの記載もない。
そして、甲1A?甲3A、甲5Aを検討しても、付加硬化型シリコーンゴム組成物において、「重合度が10以下でSi-OH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサン」を低減したり、調節したりすることは何らの記載も示唆もなく、それが本件特許出願当時の技術常識であったともいえない。
したがって、甲4A発明aにおいて、「重合度が10以下でSi-OH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサン」を「組成物全体に対し0.005?0.3質量%」という特定の範囲とすることが、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

c 申立人Aの主張について、

(a)申立人Aの主張
申立人Aは、申立書Aにおいて、概略、以下のように主張する。
甲6Aは、甲4Aの実施例1に記載された内容に沿ってシリコーンゴム組成物及びその硬化物を調製したものであるところ、その結果は、シリコーンゴム組成物に含まれる(E)成分の量が合計で0.007質量%であるというものであった。
ここで、甲6Aにおいて、オルガノポリシロキサンの重合度が甲4A記載の試料と完全に一致していないが、本件明細書の段落【0007】、【0011】の記載から、オルガノポリシロキサンの重合度の僅かな違いがシラノールの含有量に有意な影響を与えるものではない。
したがって、本件訂正発明1は、実質的に、甲4Aに記載された発明である。

(b)当審の判断
甲4Aの段落【0045】には、実施例1においてシリコーンゴムベースにさらに添加するジメチルポリシロキサンとして、「両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が250のジメチルポリシロキサン[重合度10以下でSiH官能基を有しない低分子シロキサンの含有量=0.03質量%]」が記載されている(摘記1(4)ウ)。一方、甲6Aの実験においては、シリコーンゴムベースにさらに添加するジメチルポリシロキサンとして、「両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が300のジメチルポリシロキサン(重合度10以下でSiH基を有しない低分子シロキサンの含有量=0.03%、ビニル基含有量0.09mmol/g)」が記載されている(摘記1(5)ア)。
また、甲4Aの段落【0044】?【0046】には、シリコーンゴムベースを製造するにあたり、各成分を単に「混合」し、加熱することのみが記載される(摘記1(4)ウ)のに対し、甲6Aには、「5Lスケールのプラネタリーミキサー」で「混練」や「加熱混練」を行うことが記載されている。
これらについて検討すると、甲6Aに記載された「ジメチルポリシロキサン」は、平均重合度の点において甲4Aの実施例1と異なるものである。また、甲4Aには、混合に用いた混合機等が明記されていないことから、甲6Aにおける混合条件が甲4Aの実施例1における混合条件と同一であるとはいえない。また、甲6Aにおける混合条件が、技術常識であるとする証拠も挙げられていない。
してみると、甲6Aに記載された実験の内容が、甲4Aの実施例1と一致するとはいえないので、甲6Aにおいて得られた結果が、甲4Aの実施例1の結果であるということはできない。
ここで、申立人Aが上記(a)において「オルガノポリシロキサンの重合度の僅かな違いがシラノールの含有量に有意な影響を与えるものではない。」と主張することについて検討する。
仮に、申立人Aが述べるとおり、「オルガノポリシロキサンの重合度の僅かな違いがシラノールの含有量に有意な影響を与えるものではない。」としたとしても、(E)成分(低分子シラノール)の生成に関与する、シリコーンゴムベースの調製において、甲4Aの実施例1と甲6Aとは、上記のとおり、混合条件が同一であるとはいえないことから、同等量の(E)成分が生成しているとはいえない。
したがって、たとえ甲6Aの記載を参酌したとしても、本件訂正発明1が、実質的に甲4Aに記載された発明であるということはできない。
よって、申立人Aの上記主張(a)は、採用しない。

d 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1と甲4A発明aとは、相違点1の点で実質的に相違するから、本件訂正発明1は、甲4Aに記載された発明ではない。
また、本件訂正発明1は、相違点1に係る事項が、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえないので、甲1Aに記載された発明、及び、甲1A?甲5Aに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)本件訂正発明2?5、7?10について

本件訂正発明2?5、7?10は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用するものであり、上記(ア)で述べたのと同様の理由により、甲4Aに記載された発明ではなく、また、甲4Aに記載された発明、及び、甲1A?甲5Aに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)本件訂正発明11について

本件訂正発明11と甲4A発明bとを対比する
甲4A発明bの「ゴムシート」は、甲4A発明aの混合物をプレスキュアして得られたものであるから、本件訂正発明11の「付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物からなるシリコーンゴム」に相当する。
してみると、本件訂正発明11と甲4A発明bとは、上記(ア)aで示した相違点1の点で相違する。
そして、上記(ア)で述べたのと同様の理由により、本件訂正発明11と、甲4A発明bとは、相違点1の点で実質的に相違するから、本件訂正発明11は、甲4Aに記載された発明ではない。
また、本件訂正発明11は、甲4Aに記載された発明、及び、甲1A?甲5Aに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(エ)本件訂正発明12?14について

本件訂正発明12?14は、本件訂正発明11を直接又は間接的に引用するものであり、上記(ウ)で述べたのと同様の理由により、甲4Aに記載された発明ではなく、また、甲4Aに記載された発明、及び、甲1A?甲5Aに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(オ)まとめ
以上のとおり、申立理由1-4、申立理由2-2及び申立理由2-3のうち甲4Aを主引例とするものについては、理由がない。

エ 申立理由6(新規性)及び申立理由7-1(甲1B及び甲3Bに基づく進歩性)について

取消理由通知において採用しなかった申立理由のうち、甲1Bを主引例とする申立理由6及び申立理由7-1について、以下にまとめて検討する。

(ア)本件訂正発明1について

a 対比
本件訂正発明1と甲1B発明aとを対比する。
まず、組成物中の各成分について対比する。
甲1B発明aの「ガム状オルガノポリシロキサン」は、甲1Bの請求項1に記載される「(A)下記平均組成式(1)
R^(1)_(n)SiO_((4-n)/2) …(1)
(式中、R^(1)は同一又は異種の非置換又は置換1価炭化水素基、nは1.98?2.02の正数である。)で示されるオルガノポリシロキサン」(摘記1(9)ア)の具体的化合物であることから、本件訂正発明1の「(A)下記平均組成式(1)
R^(1)_(a)SiO_((4-a)/2) (1)
(式中、R^(1)は互いに同一又は異種の1価炭化水素基であり、aは1.5?2.8の正数である。)
で表され、一分子中に少なくとも2個の珪素原子と結合するアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン」に相当する。
また、甲1B発明aの「オクタメチルシクロテトラシロキサンで表面処理された疎水性煙霧質シリカ」、「1,3-ジヒドロキシ-1,3-ジメトキシ-1,3-ジメチルジシロキサン」はそれぞれ、本件訂正発明1の「(C)補強性シリカ」、「(E)重合度が10以下でSi-OH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサン」に相当する。
さらに、甲1B発明aの「組成物」は、甲1Bの【0027】の記載(摘記1(9)イ)から、シリコーンゴム組成物に、有機過酸化物である2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイドを加えた硬化性組成物であるから、本件訂正発明1の「付加硬化型シリコーンゴム組成物」と、「硬化型シリコーンゴム組成物」の限りにおいて一致する。
次に、各成分の含有量について検討する。
甲1B発明aの「疎水性煙霧質シリカ」は、「ガム状オルガノポリシロキサン100重量部」に対して45重量部含有するものであり、これは、本件訂正発明1の「5?80質量部」と重複一致する。
また、甲1B発明aの「1,3-ジヒドロキシ-1,3-ジメトキシ-1,3-ジメチルジシロキサン」の組成物全体に対する含有量は、約0.2(=0.3/(100+45+0.3+1.5)×100)%であるから、本件訂正発明1の「0.005?0.3質量%」と重複一致する。

そうすると、本件訂正発明1と甲1B発明aとは、
「(A)下記平均組成式(1)
R^(1)_(a)SiO_((4-a)/2) (1)
(式中、R^(1)は互いに同一又は異種の1価炭化水素基であり、aは1.5?2.8の正数である。)
で表され、一分子中に少なくとも2個の珪素原子と結合するアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(C)補強性シリカ:5?80質量部
を含有してなり、かつ、(E)重合度が10以下でSi-OH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサンの含有量が組成物全体に対し0.005?0.3質量%である硬化型シリコーンゴム組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件訂正発明1は、「(B)珪素原子と結合する水素原子(SiH官能基)を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:0.3?20質量部」及び「(D)付加反応触媒:白金族金属として(A)、(B)成分の合計質量に対し、0.5?1,000ppm」を含有する「付加硬化型シリコーンゴム組成物」であるのに対し、甲1B発明aは、「2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイドを1.5重量部」含有する硬化型シリコーンゴム組成物である点。

<相違点2>
本件訂正発明1は、「(F)重合度が10以下で分子中に官能基を有しないオルガノポリシロキサンの含有量が(A)成分中0.3質量%以下である」のに対し、甲1B発明aは、「(F)重合度が10以下で分子中に官能基を有しないオルガノポリシロキサンの含有量」が不明である点。

b 相違点についての判断
まず、相違点1について検討する。
甲1B発明aの「組成物」は、有機過酸化物である「2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド」を含有し、オルガノハイドロジェンポリシロキサン、付加反応触媒のいずれも含有しないものであるので、本件訂正発明1の「オルガノハイドロジェンポリシロキサン」及び「付加反応触媒」を含有する「付加硬化型シリコーンゴム組成物」とは、相違するものである。
よって、上記相違点1は、実質的な相違点である。

次に、相違点1に係る事項が、当業者が容易に想到し得たものであるか否かについて検討する。
甲1Bには、シリコーン組成物を硬化させる方法として、ヒドロシリル化反応を利用する方法と有機過酸化物を触媒として加硫させる方法とが記載され、ヒドロシリル化反応を利用する場合には、硬化剤としてオルガノハイドロジェンポリシロキサンと白金属金属系触媒とを配合することができる旨記載されている(摘記1(9)イ)。
しかしながら、上記ア(ア)bで述べたとおり、ヒドロシリル化反応を利用する方法と有機過酸化物を触媒として加硫させる方法とでは、反応様式も、それにより形成される化学構造も異なるものであるから、硬化剤以外の他の成分の組成が同一であるシリコーン組成物において、硬化させる方法として、「有機過酸化物を触媒として加硫させる方法」に代えて「ヒドロシリル化反応を利用する方法」を用いても、必ずしも同等の効果を奏する組成物が得られるとは限らないことが、本件特許出願当時の技術常識であるといえるところ、硬化剤以外の他の成分の組成を何ら変更せずに、「有機過酸化物を触媒として加硫させる方法」に代えて「ヒドロシリル化反応を利用する方法」とする、すなわち、「有機過酸化物」に代えてオルガノハイドロジェンポリシロキサン及び白金属金属系触媒を用いるだけで、同等の効果を奏する組成物が得られることが、甲1Bに示唆されているとはいえない。そして、甲3B等の他のいずれの文献をみても、そのことを示唆する記載があるとはいえない。
してみると、甲1B発明aにおいて、有機過酸化物である「2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド」を触媒として加硫させる方法に代えて、硬化剤としてオルガノハイドロジェンポリシロキサンと白金属金属系触媒とを配合して「ヒドロシリル化反応を利用する方法」を用いることは、何ら動機づけられず、当業者が容易に想到するとはいえない。

c 小括
以上のとおり、本件訂正発明1と甲1B発明aとは、少なくとも相違点1の点で実質的に相違するから、相違点2について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1Bに記載された発明ではない。
また、本件訂正発明1は、相違点1に係る事項が、当業者が容易に想到するとはいえないので、相違点2について検討するまでもなく、甲1Bに記載された発明、及び、甲1B、甲3Bに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)本件訂正発明2?5、7?10について

本件訂正発明2?5、7?10は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用するものであり、上記(ア)で述べたのと同様の理由により、甲1Bに記載された発明ではなく、また、甲1Bに記載された発明、及び、甲1B、甲3Bに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)本件訂正発明11について

本件訂正発明11と甲1B発明bとを対比する
甲1B発明bの「プレスキュアー及びポストキュアーしたもの」は、本件訂正発明11の「硬化物からなるシリコーンゴム」に相当する。
してみると、本件訂正発明11と甲1B発明bとは、上記(ア)aで示した相違点1?相違点2の点で相違する。
そして、上記(ア)bで述べたのと同様の理由により、本件訂正発明11と甲1B発明bとは、少なくとも相違点1の点で実質的に相違するから、相違点2について検討するまでもなく、本件訂正発明11は、甲1Bに記載された発明ではない。
また、本件訂正発明11は、甲1Bに記載された発明、及び、甲1B、甲3Bに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(エ)本件訂正発明12?14について

本件訂正発明12?14は、本件訂正発明11を直接又は間接的に引用するものであり、上記(ウ)で述べたのと同様の理由により、甲1Bに記載された発明ではなく、また、甲1Bに記載された発明、及び、甲1B、甲3Bに記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(オ)まとめ
以上のとおり、申立理由6及び申立理由7-1は、理由がない。

オ 申立理由3(実施可能要件)について

(ア)申立人Aの主張

申立人Aは、申立理由3について概略、以下のとおり主張する。

a 本件明細書には、(E)、(F)及び(G)成分の含有量の測定について、(E)、(F)及び(G)成分の同定方法の詳細が明らかにされておらず、また、(E)?(F)成分に該当する化合物の【表1】に挙げられたもの以外の成分の検出・定量についての記載もない。
してみると、本件明細書の記載によって(E)、(F)及び(G)成分の同定及び定量が可能であるということはできず、本件発明1及び10で特定されるような組成物を得るには、当業者に期待し得る程度を超えた過度の試行錯誤や高度な実験を要するものである。
したがって、本件発明1?14は、実施可能要件を満足しない。

b 本件明細書の段落【0046】に記載されるとおり、(E)成分に相当する化合物は多様に存在するものであるところ、本件明細書の【表1】には、(E)成分としてM-OH、M3Q-OH、M5Q2-OH及びM5Q3-OHという4種類の成分の含有量の測定結果のみしか示されていない。
そうすると、本件明細書の実施例で得られた組成物が本件発明における(E)成分の要件を満たすか否か不明である。また、硬化物についても同様である。
してみると、本件発明1?14で特定される組成物又は硬化物を得るには、当業者に期待し得る程度を超えた過度の試行錯誤や高度な実験を要するものである。
したがって、本件発明1?14は、実施可能要件を満足しない。

c 本件明細書に記載される実施例1と比較例1とを対比すると、表面処理剤の量、圧力、温度、時間の条件が実施例と比較例とで全て異なっており、各要素が(E)成分の含有量に与える影響を理解することができない。
したがって、本件明細書は、本件発明1?14に係る物を得ることができるように記載されているとはいえない。

(イ)当審の判断

a 実施可能要件について
物の発明における発明の実施とは、その物を生産、使用等をすることをいうから(特許法2条3項1号)、物の発明については、明細書にその物を製造する方法についての具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
そこで、この点について以下に検討する。

b 本件訂正発明1?5、7?10について
本件明細書の段落【0047】には、本件訂正発明1?5、7?10に係る組成物を製造するにあたり、(E)成分含有量を低下させるために、「補強性シリカの表面疎水化後に減圧乾燥、加熱乾燥、あるいは減圧加熱乾燥などの工程が必要であ」り、また、「(A)成分のポリマーとシリカを混合する場合に表面処理剤を加えて疎水化処理を実施する際は、表面処理剤の量を最小限にし、更には混合中に減圧や加熱により処理剤あるいはその分解物を揮発させる方法が(E)成分の含有量を低下させるのに効果的である。」と記載されている。
また、本件明細書の段落【0058】には、(A)成分中の(F)成分の含有量を低減させる方法が具体的に記載され、同【0059】?【0069】の実施例1、2、4には、本件訂正発明1?5、7?10に係る付加硬化型シリコーンゴム組成物を製造する方法が具体的に記載されており、(E)、(F)及び(G)成分の含有量も、同【0060】、【0063】及び【0069】に具体的なデータとともに示されている。
そうすると、本件明細書には、本件訂正発明1?5、7?10に係る物を製造する方法が具体的に説明されていると解される。
してみると、当業者であれば、これらの実施例1、2、4の記載を参考に、本件訂正発明1?5、7?10に係る付加硬化型シリコーンゴム組成物を製造することができるといえる。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえる。

c 本件訂正発明11?14について
上記bで示した実施例1、2、4には、本件訂正発明11?14に係るシリコーンゴムを製造する方法について具体的に記載されており、(E)、(F)及び(G)成分の含有量及び加熱減量が、同【0061】、【0064】、【0069】及び【表1】に具体的なデータとともに示されている。
そうすると、本件明細書には、本件訂正発明11?14に係る物を製造する方法が具体的に説明されていると解される。
してみると、当業者であれば、これらの実施例1、2、4の記載を参考に、本件訂正発明11?14に係る付加硬化型シリコーンゴム組成物を製造することができるといえる。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明11?14を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえる。

d ここで、申立人Aの上記主張(ア)a?bについて検討する。
本件明細書の段落【0050】、【0060】及び【0061】には、低分子シロキサンの含有量の測定方法について、アセトン抽出の方法が具体的に記載され、アセトン抽出後にGC-MS分析及びSi^(29)-NMRにより同定、分析する旨記載されている。そして、本件明細書の【表1】には、(E)、(F)及び(G)成分の具体的化合物の化学構造が示され、それぞれの含有量が示されている。
また、GC-MS分析及びSi^(29)-NMRによる同定、分析方法は、本件特許出願当時の技術常識であるといえる。
そうすると、本件明細書には、(E)、(F)及び(G)成分の含有量の測定方法が、具体的に説明されていると解される。
してみると、当業者は、本件訂正発明を実施するにあたり、上記【表1】に示される(E)、(F)及び(G)成分の具体的化合物について同定及び分析を行えばよく、(E)?(F)成分に該当する化合物の【表1】に挙げられたもの以外の成分の検出・定量についての記載がないことを根拠に、当業者が本件訂正発明に係る物を生産することができないということにはならない。
したがって、申立人Aの上記主張(ア)a?bは採用しない。

e 次に、申立人Aの上記主張(ア)cについて検討する。
上記b、cで検討したとおり、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明1?5、7?14を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえる。
たとえ、比較例1の記載から、表面処理剤の量、圧力、温度、時間の各条件が(E)成分の含有量に与える影響を具体的に理解することができないとしても、上記b、cで示したとおり、本件明細書の実施例や、段落【0047】等の記載から、当業者は、(E)成分の含有量を低減させることができるものと認識できる。
したがって、申立人の上記主張(ア)cは採用しない。

(ウ)まとめ
以上のとおりであるから、申立理由3には、理由がない。

カ 申立理由4(サポート要件)及び申立理由8(サポート要件)について

申立理由4及び申立理由8のうち、取消理由3と同旨でない部分について、以下に検討する。

(ア)申立人Aの主張

申立人Aは、申立理由4について概略、以下のとおり主張する。

a 本件発明の課題は、表面処理剤を用いるがために残存してしまう(E)成分を除去することであるから、表面処理剤を用いていない組成物は、上記課題が発生しないためその課題を解決したことによる効果を奏さない。
したがって、表面処理剤を含まない本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

b シラノール含有低分子シラン及びシロキサンの生成は、補強性シリカ及び表面処理剤に由来するものであるところ、シリカの種類、粒子径、表面積、表面シラノール基密度及び配合量並びに表面処理剤の種類及び配合量等によって、シラノール含有低分子シラン及びシロキサンの生成量が大きく変動することは、当該技術分野の技術常識である。
してみると、本件明細書の、補強性シリカ及び表面処理剤の限られた実施例の記載のみからでは、本件発明1に包含される全ての組成物について発明の課題を解決できると当業者が認識できるように記載されているとはいえない。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

c 本件明細書の実施例で製造された各組成物は、特定の条件下での抽出の結果として、(E)、(F)及び(G)成分の一部である特定の成分がある量で抽出したことが示されているにすぎず、本件明細書には、(E)、(F)及び(G)成分が本件発明1又は10で規定する量の範囲で含まれていることが確かめられた例はない。
したがって、本件発明1及び10は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

d 比較例1のシリコーンゴムシート中の(E)成分の含有量が0.281質量%であるから、これは、本件発明12の範囲内である。

e 本件発明14の「BfR規定に基づく200℃×4時間での加熱減量」について、本件明細書の段落【0057】に記載される方法は、BfRによる食品接触材料に関する勧告書である甲9A及び甲10Aに記載される方法と、サンプルの数が異なるものであり、本件明細書に記載された方法は、本来のBfR規定に基づく方法に比べ有利である。
したがって、本件発明14には、「BfR規定に基づく200℃×4時間での加熱減量が、0.5質量%以下である」組成物であるにもかかわらず、本件明細書にはそれとは異なる方法で評価される組成物しか記載されていない。
よって、本件発明14は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

f 上記オ(ア)cで示したとおり、表面処理剤の量、圧力、温度、時間の各条件が(E)成分の含有量に与える影響が理解できないので、例えば(C)成分である補強性シリカや表面処理剤の量が実施例よりも多い物が、本件明細書に記載された課題を解決可能であると当業者が認識できるとはいえず、配合の異なる組成物が(E)成分の含有量に関する要件を満たす、と本件明細書の記載を拡張ないし一般化することもできない。
よって、本件発明1?14は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

(イ)申立人Bの主張

申立人Bは、申立理由8について概略、以下のとおり主張する。

a 本件発明1は、「(E)成分の含有量が組成物全体に対して0.005?0.3質量%」と規定されているが、本件明細書には、(E)成分の含有量を特定の範囲とすることにより、くもりや濁りの発生、接着阻害、表面の疎水化などの問題を解決できることを何ら実証されていない。
また、本件発明10、13には、「(F)成分と(G)成分の含有量の合計」が規定されているが、本件明細書には、(F)成分と(G)成分の含有量の合計を特定の範囲とすることにより、くもりや濁りの発生、接着阻害、表面の疎水化などの問題を解決できることを何ら実証されていない。
したがって、本件発明は、本件明細書によってサポートされていないことは明らかである。

b 本件発明1には、(E)成分の含有量が組成物全体に対し「0.005?0.3質量%」であることが規定され、本件発明10及び13には、「(F)成分と(G)成分の含有量の合計」が「0.3質量%である」旨規定されるところ、それぞれの上限である「0.3質量%」や、下限である「0.05質量%」の臨界的意義が不明である。
したがって、上記特定範囲とすることにより、本件発明の課題を解決できるか否かは不明である。

(ウ)当審の判断

本件訂正発明1?5、7?14が、発明の詳細な説明に記載したものであるといえることは、上記(2)で述べたとおりである。
申立人A及び申立人Bの上記主張について、以下に検討する。

a 申立人Aの上記主張(ア)aについて
本件訂正発明が解決しようとする課題は、上記(2)アで述べたとおり、「硬化物から低分子シロキサン成分の揮発量が少なく、揮発した低分子シロキサンが周囲に付着することによるくもりや濁りの発生、接着阻害、表面の疎水化などの問題がな」い「付加硬化型シリコーン組成物、およびシリコーンゴムを提供すること」であると解される。
そして、本件明細書の段落【0011】、【0047】の記載から、低分子シロキサンである(E)成分は、補強性シリカを表面処理剤で表面疎水化する工程で生成され系内に残ってしまうものであると解される。
そうすると、表面処理剤を用いていない組成物は、該(E)成分が生成されないものであり、上記課題は解決できるものといえる。
したがって、表面処理剤を含まない本件訂正発明1について、発明の課題を解決できると当業者が認識できるように記載されているといえる。
よって、申立人Aの上記主張(ア)aは採用しない。

b 申立人Aの上記主張(ア)bについて
本件明細書の段落【0047】には、(E)成分の含有量を低下させるためには、「補強性シリカの表面疎水化後に減圧乾燥、加熱乾燥、あるいは減圧加熱乾燥などの工程が必要であ」り、また、「(A)成分のポリマーとシリカを混合する場合に表面処理剤を加えて疎水化処理を実施する際は、表面処理剤の量を最小限にし、更には混合中に減圧や加熱により処理剤あるいはその分解物を揮発させる方法が(E)成分の含有量を低下させるのに効果的である。」と記載されている。そして、同【0059】?【0069】の実施例には、(A)成分のポリマーとヒュームドシリカを混合してヘキサメチルジシラザンを加えて疎水化処理を実施し、減圧及び加熱を行うことにより、(E)成分の含有量を特定の範囲まで低減できたことが、具体的に記載されている。
これらの記載から、当業者は、表面処理剤の量を最小限にし、表面疎水化後に減圧や加熱により処理剤あるいはその分解物を揮発させることにより、上記(2)アで示した課題を解決できるものと理解することができる。また、シリカの種類、粒子径、表面積、表面シラノール基密度等が異なることにより、シラノール含有低分子シラン及びシロキサンの生成量が大きく変動することについて、申立人Aは何ら証拠を示していないので、それが当該技術分野の技術常識であるとはいえない。
仮に、シリカの種類、粒子径、表面積、表面シラノール基密度等が異なることにより、シラノール含有低分子シラン及びシロキサンの生成量が大きく変動することが技術常識であるとしても、実施例で記載されたシリカ及び表面処理剤と異なるものを用いる場合には、本件明細書の上記記載を参考に、表面処理剤の配合量、加熱及び乾燥の条件等を適宜変更することにより、上記(2)アの課題を解決できることを、当業者が認識できるといえる。
また、申立人Aは、実施例に示されたもの以外のシリカや表面処理剤を用いることによって、上記(2)アの課題が解決されないという技術的な根拠を示していない。
したがって、申立人Aの上記主張(ア)bは採用しない。

c 申立人Aの上記主張(ア)cについて
上記オ(イ)dで示したとおり、本件訂正発明1及び10に係る組成物は、本件明細書の【表1】に具体的に示された(E)、(F)及び(G)成分を特定の範囲の含有量で含むものであるといえるので、本件明細書には、(E)、(F)及び(G)成分が本件発明1又は10で規定する量の範囲で含まれる組成物が記載されているといえる。
したがって、申立人Aの上記主張(ア)cは採用しない。

d 申立人Aの上記主張(ア)dについて
本件訂正発明12が引用する本件訂正発明11は、「請求項1?5及び7?10のいずれか1項記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物からなるシリコーンゴム」、すなわち、本件訂正発明1?5及び7?10のいずれかの付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物からなるシリコーンゴムである。
これに対し、比較例1のシリコーンゴムシートの硬化前の付加硬化型シリコーンゴム組成物は、(E)成分の含有量が0.379質量%であるから、本件訂正発明1の付加硬化型シリコーンゴム組成物に該当しない。
してみると、比較例1のシリコーンゴムシートは、本件訂正発明12の範囲に包含されるものではない。
したがって、申立人Aの上記主張(ア)dは採用しない。

e 申立人Aの上記主張(ア)eについて
本件明細書の段落【0057】には、「請求項14に記載の加熱減量については、BfR(Bundesinstitut fur Risikobewertung)による食品接触材料に関する勧告書15章Siliconeの記載に基づき、次のように実施した。」と記載され、その方法が具体的に記載されている。
してみると、本件訂正発明14に係る「BfR規定に基づく200℃4時間での加熱減量」は、同【0057】に具体的に記載された方法により測定されたものであると認識することができる。
ここで、甲8Aは、上記「BfR(Bundesinstitut fur Risikobewertung)による食品接触材料に関する勧告書15章Silicone」であるところ、甲8Aは、シリコーンエラストマーの揮発性有機物の測定について、甲9Aを引用しており(摘記1(6)イ)、甲9Aには、シリコーンエラストマー中の揮発性成分の決定方法が記載され、その方法が、甲10Aに記載された方法を改訂したものである旨も記載されている(摘記1(7)ウ)。そして、甲9A及び甲10Aには、シリコーンエラストマー中の揮発性成分の測定のサンプルとして、試験材約10gを約1×2cmに切断した小片を用いることが記載されている(摘記1(7)ウ、1(8)イ)。
これらの甲9A及び甲10Aの記載をみても、サンプルの数は明確でなく、上記【0057】に記載された方法と異なるか否か明らかでないものの、たとえ、甲9A又は甲10Aの記載と異なる点があるとしても、同【0057】に記載された方法により測定された「加熱減量」が、本件訂正発明14に係る「加熱減量」であると認識できるものである。
そして、本件明細書の段落【0061】、【0064】、【0069】には、硬化物の上記【0057】に記載された方法により測定された「加熱減量」が、0.5質量%以下であることが、具体的に記載されている。
したがって、本件明細書には、本件訂正発明14に係る「BfR規定に基づく200℃×4時間での加熱減量が、0.5質量%以下である」組成物が記載されているといえる。
したがって、申立人Aの上記主張(ア)eは採用しない。

f 申立人Aの上記主張(ア)fについて
上記(2)で示したとおり、(E)成分及び(F)成分が本件訂正発明1に係る範囲である付加硬化型シリコーンゴム組成物が、本件訂正発明の課題を解決できると当業者が認識できるように記載されているといえる。
一方、(C)成分である補強性シリカや表面処理剤の量が実施例よりも多い物であって、(E)成分の含有量が本件訂正発明1に係る範囲にないものは、本件訂正発明の課題を解決できると当業者が認識できるものではないから、例えば(C)成分である補強性シリカや表面処理剤の量が実施例よりも多い物が、(E)成分の含有量に関する要件を満たすかどうか不明であることを根拠に、本件明細書は、本件訂正発明の課題を解決できると当業者が認識できるように記載されていないということはできない。
したがって、申立人Aの上記主張(ア)fは採用しない。

g 申立人Bの上記主張(イ)aについて
(E)?(F)成分の低分子シロキサンの含有量が少なければ、硬化物からの低分子シロキサン成分の揮発量が少ないことは、明らかな技術事項であり、また、上記(2)ウで述べたとおり、低分子シロキサン成分の揮発量が少なければ、揮発した低分子シロキサンが周囲に付着することによるくもりや濁りの発生、接着阻害、表面の疎水化などの問題がないことは、本件特許出願当時の技術常識から、当業者が容易に予測できることである。
したがって、本件明細書にくもりや濁りの発生、接着阻害、表面の疎水化などの問題を解決できることが何ら実証されていないとしても、本件明細書が、本件訂正発明の課題を解決できると当業者が認識できるように記載されていないということはできない。
したがって、申立人Bの上記主張(イ)aは採用しない。

h 申立人Bの上記主張(イ)bについて
本件明細書の実施例等の記載から、本件訂正発明1?5、7?14が、発明の詳細な説明に記載したものであるといえることは、上記(2)で述べたとおりである。
そして、(E)成分又は(F)成分と(G)成分の含有量の合計が、上記特定範囲の臨界点に近い含有量である場合に、本件発明の課題を解決しないという技術的根拠を、申立人Bは示していない。
してみると、(E)?(F)成分の含有量を、本件訂正発明1、10、l3の特定範囲としても本件発明の課題を解決できないということはできない。
したがって、申立人Bの上記主張(イ)bは採用しない。

(エ)まとめ
以上のとおりであるから、申立理由4及び申立理由8には、理由がない。

キ 申立理由5(明確性)について

(ア)申立人Aの主張

申立人Aは、申立理由5について概略、以下のとおり主張する。

a 本件発明5に関し、式(2)においてk=0である化合物と、式(3)においてm=0である化合物は、いずれもMOHであり、同一である。
したがって、(E)成分がMOHである場合、該化合物が式(2)及び 式(3)のいずれに属するのか不明である。
よって、本件発明5及び本件発明5を引用する本件発明6?14は、明確でない。

b 本件発明7は、「(G)成分の含有量が(B)成分中10.0質量%である」と規定するのに対し、本件明細書の段落【0036】には、「(G)成分の含有量が(B)成分組成物全体に対し0?10.0質量%である」と記載されている。
してみると、(G)成分の含有量が、(B)成分と(B)成分組成物とのいずれに対して規定されるのか不明である。
よって、本件発明7及び本件発明7を引用する本件発明8?14は、明確でない。

(イ)当審の判断

a 申立人Aの上記主張(ア)aについて
本件訂正発明5において、式(2)においてk=0である化合物と、式(3)においてm=0である化合物は、いずれもMO_(1/2)Hであり、同一である。
しかしながら、MO_(1/2)Hは、本件訂正発明5に係る(E)成分に該当することが明確であるから、該化合物が式(2)及び 式(3)のいずれに属するのか不明であるからといって、本件訂正発明5が明確でないとはいえない。
よって、申立人Aの上記主張(ア)aは採用しない。

b 申立人Aの上記主張(ア)bについて
本件明細書の段落【0024】には、「この(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、例えば、・・・で示され、一分子中に少なくとも2個(通常、2?300個)、好ましくは3個以上(例えば、3?200個)、より好ましくは4?150個程度の珪素原子結合水素原子を有するものの1種又は2種以上が好適に用いられる。」と記載されていることから、本件訂正発明における(B)成分は、複数種のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの組成物である場合を包含するものと認識できる。
してみると、本件訂正発明7に係る「(G)成分の含有量」を規定する記載における「(B)成分」と、本件明細書の段落【0036】に記載される「(B)成分組成物」とは、同義であるといえる。
したがって、本件訂正発明7が明確でないとはいえない。
よって、申立人Aの上記主張(ア)bは採用しない。

(ウ)まとめ
以上のとおりであるから、申立理由5には、理由がない。

(5)令和1年11月25日提出の意見書における申立人Bの主張について

ア 申立人Bの主張
申立人Bは、令和1年11月25日提出の意見書において、概略、以下のとおり主張する。
本件訂正発明1の規定された(F)成分の「重合度が10以下で分子中に官能基を有しないオルガノポリシロキサン」について、当該「官能基」が何を指すのか不明であるので、本件訂正発明1は、明確でない。

イ 当審の判断
申立人Bの上記主張アは、申立書Bに記載されておらず、申立書Bに記載された特許異議の申立ての理由に対して、意見の内容が実質的に新たな内容を含むものであるといえる。また、本件訂正発明1の(F)成分に関する規定は、本件訂正前の請求項6に記載されていたものであるから、特許権者による訂正の請求に付随して生じた事項でもない。
したがって、申立人Bの上記主張アは、新たな取消理由として採用しない。

上記主張アは、新たな取消理由として採用はしないものの、その内容について以下に一応検討する。
本件訂正発明1の(F)成分に関する「官能基」が如何なる官能基を包含するのか、請求項1の記載のみから直ちに理解することはできない。
しかしながら、本件明細書の段落【0019】には、「従来技術において記載した無官能性の(即ち(A)成分と(B)成分とのヒドロシリル化付加反応に関与する官能性基を有さない)低分子シロキサン成分の含有量が所定量以下に低減されたものであることが好ましい。具体的には、(F)成分として、重合度が10以下の官能基を有しない低分子シロキサンの含有量が、(A)成分中に0?0.3質量%、・・・であることが望ましい。」と記載されていることから、(F)成分の「官能基」とは、「(A)成分と(B)成分とのヒドロシリル化付加反応に関与する官能性基」を意味するものと理解することができ、その包含する範囲は、明確である。
よって、本件訂正発明1は、明確である。


第6 むすび

以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件訂正発明1?5、7?14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に、本件訂正発明1?5、7?14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正発明6は削除されたので、本件訂正発明6に係る異議申立ては却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
付加硬化型シリコーンゴム組成物及びシリコーンゴム
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性の揮発性シロキサン化合物、特には珪素原子と結合するOH官能基(あるいはシラノール基)を含有する揮発性シロキサン化合物の含有量が少ない付加硬化型シリコーンゴム組成物、及びシリコーンゴムに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴムは、耐熱性、耐寒性、電気特性などを活かして、いろいろな分野で広く利用されている。しかしながら、シリコーンゴムを形成するシロキサンポリマーは、酸やアルカリなどによるシロキサンオリゴマーの平衡反応により生成されるため、重合度の大小にかかわらず、常に相当量の低分子シロキサンとよばれる重合度(即ち、一分子中の珪素原子の数)20以下の、分子中にSiH官能基やアルケニル官能基などの反応性基を有さない、いわゆる無官能性の環状シロキサンが存在してしまうことが知られている。これら低分子シロキサンは、高温雰囲気だけでなく、室温状態においても僅かながらゴム硬化物より揮発して周囲に付着することにより、くもりや濁りの発生、接着阻害、表面の疎水化など多種多様な問題を引き起こすことが知られている。これらは、ゴム硬化物を高温でポストキュアすることによりかなり減少させることができるが、ゴムが密閉状態で使用される場合や、耐熱性の低い樹脂などと組み合わされる部品等では、高温に曝すことができないなどの問題がある。このような低分子シロキサンは、減圧下、高温で揮発させることにより除去されるが、完全に取り除くことは困難で、1質量%前後、あるいはそれ以下の0.5質量%(5,000ppm程度)のレベルが残存してしまう。
【0003】
この場合、例えば、特開平3-157474号公報(特許文献1)に、200℃で10mmHg以上の蒸気圧を有する低分子シロキサン含有量が500ppm以下である付加反応硬化型シリコーンゴム接着剤が開示され、特公平6-54405号公報(特許文献2)には、重合度が20以下の低分子シロキサン含有量が0.75重量%以下である定着ローラーが示されている。また、特開平4-311764号公報(特許文献3)には、分子鎖両末端にSiH官能基を有するポリマーによって鎖長延長をすることにより低分子シロキサンの含有量が少ないシロキサンポリマーを得る方法が開示されている。
しかしながら、このように低分子シロキサン含有量を低減しても、上記のような問題や、硬化物より揮発して周辺の物質に付着した低分子シロキサンが、溶剤で拭き取る等の手段でも容易に取り除くことが困難であるという問題があった。
更に特開2008-255227号公報(特許文献4)においては、珪素原子に直接結合した水素原子(Si-H官能基)を有する低分子シロキサンについても、その特殊な問題点、及びそれを低減した組成物を開示している。
【0004】
【特許文献1】特開平3-157474号公報
【特許文献2】特公平6-54405号公報
【特許文献3】特開平4-311764号公報
【特許文献4】特開2008-255227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、硬化物から低分子シロキサン成分の揮発量が少なく、揮発した低分子シロキサンが周囲に付着することによるくもりや濁りの発生、接着阻害、表面の疎水化などの問題がなく、更には哺乳瓶用乳首やおしゃぶりなどの赤ちゃん用品、ケーキモールドなどのキッチン用品水道周辺に使用されるパッキン、人工透析器など医療、ヘルスケア用品に安全に使用できる硬化物が得られる付加硬化型シリコーンゴム組成物、及びシリコーンゴムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、低分子シロキサン成分として、このような無官能性の低分子シロキサン成分や分子中にSiH官能基等の反応性基を有する低分子環状シロキサン成分とは別に、Si-OH(シラノール基)を有する低分子もまたシリコーンゴム中に含有することを知見した。
一般的に、無官能性低分子環状シロキサンは、無官能性ポリマーや、ビニル官能性ポリマー中に含まれ、Si-Hを含有する低分子環状シロキサンは、架橋剤として使用されるSi-H官能性ポリマーに含まれる。
【0007】
一方、シラノール基含有シロキサンは、これらポリマーには含まれないか、含まれていても極少量で問題を引き起こすレベルではない。しかしながら、シリコーンポリマーからシリコーンゴムを製造するには、補強性シリカが必須である。この補強性シリカなしでは、引張強度も伸びも小さい物理的強度が非常に小さいゴムになってしまう。ところが、この補強性シリカは、ヒュームドシリカであっても沈降シリカであっても表面に多数のシラノール基を有する親水性であるため、疎水性のシリコーンポリマーと混合し、混合状態を安定させることは非常に困難である。そのため、通常、補強性シリカの粉体をそのまま、あるいはシリコーンポリマーとの混合時に、ウエッターあるいは表面処理剤とよばれる物質で化学処理する必要がある。このような物質は、シリカのシラノール基との反応性が必要であるため、官能基を有する必要がある。
【0008】
このような物質として、アルキルアルコキシシラン、アルキルシラノール(アルキルヒドロキシシラン)、アルキルクロロシラン、アルキルシラザン、シランカップリング剤などのシランやそのオリゴマーが知られている。しかしこれらは、シラノール含有シランあるいはシロキサンを含むか、反応中に分解又は再結合等によりシラノール含有物質を生成してしまう。これら官能性シランを使用せずに、シリコーンポリマーである鎖状あるいは環状の短鎖ポリシロキサンを使用する場合もあるが、これをシリカと反応させるためには、高温及び/又は分解触媒を使用する必要があり、同様にシラノール含有シラン又はシロキサンを発生してしまう。
【0009】
このようなシラノール含有シラン及びシロキサンは、無官能性低分子シロキサンやSi-H官能性低分子シロキサンと同様に、揮発し周囲に付着することによるくもりや濁りの発生、接点障害、接着阻害、表面の疎水化などの問題を引き起こす可能性がある。その上にこのシラノール含有シラン及びシロキサンは、シラノール基を有するために、無官能性やSi-H官能性低分子シロキサンと比較して親水性が高い。即ち、水、アルコールなどのより親水性の高い液体で容易に抽出されてしまう危険性がある。例えば、哺乳瓶用の乳首やおしゃぶり用途では、唾液に抽出されて赤ちゃんに吸収されてしまう可能性が高くなり、キッチン用品では、料理用のスープ等各種水系液体に抽出される可能性が高まってしまう。更には蛇口周りのパッキンでは水道水に、医療用関連では血液などの体液、ヘルスケア関連では、汗などそれぞれ水系の液体で抽出される可能性が高まってしまう。
【0010】
しかしながら、上述した先行技術で例示される低分子シロキサンは、無官能タイプの環状又は直鎖状のシロキサン(ジメチルポリシロキサン)か、SiH官能基含有の低分子シロキサンについての記述のみで、シラノール含有低分子シロキサンについては全く触れられていない。
【0011】
本発明者らは、更なる検討を行った結果、付加反応硬化型のシリコーンゴム組成物において、硬化したゴムに強度を与える補強性シリカ、これをシリコーンポリマー中に配合するための表面処理剤は必須のものであり、組成物中におけるシラノール含有低分子シラン及びシロキサンの残存は避けられないため、これらを特定のレベル以下に制御することが、上記問題を解決する上で重要であることを知見した。
【0012】
即ち、付加硬化型のシリコーンゴム組成物において、重合度が10以下の無官能性低分子シロキサン及びSi-H官能性の低分子シロキサンの含有量を削減するだけでなく、重合度が10以下でSi-OH官能基を有する低分子シラン及びシロキサンを削減して組成物全体の0.3質量%以下とすることにより、低分子シロキサンが揮発することによる硬化物周囲の接点不良、接着不良、外観の濁りなど各種の問題、更には、Si-OH官能性低分子シロキサンがおしゃぶりや医療器具から直接、あるいは食品や水道水を通して人体に吸収されることを危険性を減らすことができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0013】
従って、本発明は、下記に示す付加硬化型シリコーンゴム組成物及びシリコーンゴムを提供する。
〔1〕
(A)下記平均組成式(1)
R^(1)_(a)SiO_((4-a)/2) (1)
(式中、R^(1)は互いに同一又は異種の1価炭化水素基であり、aは1.5?2.8の正数である。)
で表され、一分子中に少なくとも2個の珪素原子と結合するアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)珪素原子と結合する水素原子(SiH官能基)を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:0.3?20質量部、
(C)補強性シリカ:5?80質量部、
(D)付加反応触媒:白金族金属として(A)、(B)成分の合計質量に対し、0.5?1,000ppm
を含有してなり、かつ、(E)重合度が10以下でSi-OH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサンの含有量が組成物全体に対し0.005?0.3質量%であり、(F)重合度が10以下で分子中に官能基を有しないオルガノポリシロキサンの含有量が(A)成分中0.3質量%以下である付加硬化型シリコーンゴム組成物。
〔2〕
(A)成分中の珪素原子結合アルケニル基に対する(B)成分中のSiH官能基のモル比がSi-H/アルケニル基=0.6?3.0の範囲であることを特徴とする〔1〕記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
〔3〕
(C)成分の補強性シリカが、オルガノシラン化合物及びオルガノシラザン化合物から選ばれる少なくとも1種の表面処理剤により表面疎水化処理されたシリカである(予め、上記表面処理剤で表面疎水化処理されたシラン、あるいは、組成物の製造途中で、表面未処理のシリカ及び/又は表面疎水化処理済みのシリカを該表面処理剤の存在下に(A)成分の一部又は全部と共に加熱混合することにより表面疎水化処理されたシリカである)ことを特徴とする〔1〕又は〔2〕記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
〔4〕
前記表面処理剤がヘキサメチルジシラザンである〔3〕記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
〔5〕
(E)成分が、下記式(2)?(4)の構造で表されるオルガノポリシロキサンのいずれか1種又は2種以上である〔1〕?〔4〕のいずれかに記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
M_(2k+1)Q_(k)O_(1/2)H (2)
MD_(m)O_(1/2)H (3)
HO_(1/2)-D_(n)-O_(1/2)H (4)
(ここで、kは0?3の整数、mは0?9の整数、nは1?10の整数であり、M=(CH_(3))_(3)SiO_(1/2)-、Q=SiO_(4/2)、D=-(CH_(3))_(2)SiO_(2/2)-を意味する。)
〔7〕
(G)重合度が10以下で分子中にSi-OH官能基を含有せず、かつ、Si-H官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサンの含有量が(B)成分中10.0質量%以下である〔1〕?〔5〕のいずれかに記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
〔8〕
(B)成分が、重合度が11以上の、直鎖状、環状、分岐状又は三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンであることを特徴とする〔1〕?〔5〕及び〔7〕のいずれかに記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
〔9〕
(B)成分が、下記式(5)で示される直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンである〔8〕記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
【化1】

(式中、yは1?98の整数、zは2?50の整数、かつ、y+zは9?100の整数である。R^(2)は炭素数1?10の非置換又は置換の1価炭化水素基で、同一であっても異なっても良い。R^(3)は互いに独立にR^(2)又は水素原子である。)
〔10〕
(F)成分と(G)成分の含有量の合計が組成物全体の0.3質量%以下である〔7〕?〔9〕のいずれかに記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
〔11〕
〔1〕?〔5〕及び〔7〕?〔10〕のいずれかに記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物からなるシリコーンゴム。
〔12〕
前記付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物中における、(E)成分の含有量が0.005?0.3質量%である〔11〕記載のシリコーンゴム。
〔13〕
前記付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物中における、(F)及び(G)成分の含有量の合計が0.3質量%以下である〔12〕記載のシリコーンゴム。
〔14〕
前記付加硬化型シリコーンゴム組成物の1次キュア(金型内硬化)後の硬化物のBfR規定に基づく200℃×4時間での加熱減量が、0.5質量%以下である〔11〕、〔12〕又は〔13〕記載のシリコーンゴム。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、硬化物から低分子シロキサン成分の揮発量が少なく、揮発した低分子シロキサンが周囲に付着することによるくもりや濁りの発生、接着阻害、表面の疎水化などの問題がなく種々の用途に安全に使用できる硬化物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の(A)成分としての一分子中に平均して少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンは、組成物の主剤(ベースポリマー)であり、このアルケニル基含有オルガノポリシロキサンとしては、下記平均組成式(1)で示されるものを好適に用いることができる。ここで、一分子中のアルケニル基の平均値とは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)分析におけるポリスチレン換算の数平均分子量(数平均重合度)から求められる一分子あたりのアルケニル基の数平均値を意味する。
R^(1)_(a)SiO_((4-a)/2) (1)
(式中、R^(1)は互いに同一又は異種の炭素数1?10、好ましくは1?8の非置換又は置換1価炭化水素基であり、aは1.5?2.8、好ましくは1.8?2.5、より好ましくは1.95?2.05の正数である。)
【0016】
ここで、上記R^(1)で示される珪素原子に結合した非置換又は置換の1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基、シアノエチル基等が挙げられるが、全R^(1)の90%以上がメチル基であることが好ましい。
【0017】
また、一分子中のR^(1)のうち少なくとも2個はアルケニル基(炭素数2?8のものが好ましく、更に好ましくは2?6であり、特に好ましくはビニル基である。)であることが必要である。なお、アルケニル基の含有量は、オルガノポリシロキサン中5.0×10^(-6)?5.0×10^(-3)mol/g、特に1.0×10^(-5)?1.0×10^(-3)mol/gとすることが好ましい。アルケニル基の量が5.0×10^(-6)mol/gより少ないとゴム硬度が低く、十分なシール性が得られなくなってしまう場合があり、また5.0×10^(-3)mol/gより多いと架橋密度が高くなりすぎて、脆いゴムとなってしまう場合がある。このアルケニル基は、分子鎖末端の珪素原子に結合していても、分子鎖途中の珪素原子に結合していても、両者に結合していてもよい。
【0018】
このオルガノポリシロキサンの構造は、通常、主鎖が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状構造を有するが、部分的には分岐状の構造、環状構造などであってもよい。分子量については、特に限定なく、粘度の低い液状のもの(通常、回転粘度計等による25℃における粘度が100?1,000,000mPa・s、好ましくは300?500,000mPa・s、より好ましくは1,000?100,000mPa・s程度)から、粘度の高い(あるいは室温(25℃)においてほとんど流動性のない)生ゴム状(例えば、25℃における粘度が1,000,000mPa・sを超えて、特に2,000,000?10,000,000mPa・s(平均重合度が3,000?10,000)程度あるいはそれ以上の高粘度(高重合度))のものまで使用できる。ここで、平均重合度はGPC分析から求められるポリスチレン換算数平均重合度を意味する。
【0019】
更に、(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(ベースポリマー)としては、従来技術において記載した無官能性の(即ち(A)成分と(B)成分とのヒドロシリル化付加反応に関与する官能性基を有さない)低分子シロキサン成分の含有量が所定量以下に低減されたものであることが好ましい。具体的には、(F)成分として、重合度が10以下の官能基を有しない低分子シロキサンの含有量が、(A)成分中に0?0.3質量%、好ましくは0?0.2質量%、より好ましくは0?0.1質量%であることが望ましい。(F)成分の含有量が0.3質量%を超えると揮発により周辺部品等に悪影響を与えてしまう。なお、本発明において官能基とは(A)成分と(B)成分とのヒドロシリル化付加反応に関与する基(アルケニル基、Si-H基)及びSi-OH基を示す。
【0020】
(F)成分として、より具体的には、下記式(6)
【化2】

(式中、xは3?10の整数であり、R^(1)は上述の通りである。)
で示される環状構造のジオルガノシクロポリシロキサンが挙げられ、官能基(アルケニル基、Si-H基及びSi-OH基)を含有しない。
【0021】
(F)成分を低減する方法としては、10?10,000Paの減圧状態で200?300℃程度の高温加熱下に低分子シロキサン成分を気化除去する方法や、該気化除去中あるいはこの気化除去の後に、更に不活性ガスを吹き込んで気化を促進する方法などが挙げられる。
【0022】
なお、この(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン中には、後述する(E)成分又は(G)成分は、通常、実質的に問題となるレベルでは含有されていない。
【0023】
(B)成分は、一分子中に珪素原子と結合する水素原子(SiH官能基)を少なくとも2個(通常、2?300個)、好ましくは3個以上(例えば、3?200個)、更に好ましくは4?150個程度含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、分子中のSiH官能基が前記(A)成分中の珪素原子に結合したアルケニル基とヒドロシリル化付加反応により架橋して組成物を硬化させるための硬化剤(架橋剤)として作用するものである。
【0024】
この(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、例えば、下記平均組成式(7)
R^(2)_(b)H_(c)SiO_((4-b-c)/2) (7)
(式中、R^(2)は互いに独立に炭素数1?10の非置換又は置換の1価炭化水素基である。またbは0.7?2.1、cは0.001?1.0で、かつb+cは0.8?3.0を満足する正数である。)
で示され、一分子中に少なくとも2個(通常、2?300個)、好ましくは3個以上(例えば、3?200個)、より好ましくは4?150個程度の珪素原子結合水素原子を有するものの1種又は2種以上が好適に用いられる。
【0025】
ここで、R^(2)の1価炭化水素基としては、R^(1)で例示したものと同様のものを挙げることができるが、アルケニル基を有しないものが好ましい。また、bは0.7?2.1、好ましくは0.8?2.0、cは0.001?1.0、好ましくは0.01?1.0、b+cは0.8?3.0、好ましくは1.0?2.5を満足する正数である。
【0026】
この場合、一分子中の珪素原子の数(又は重合度)は2?300個、好ましくは3?250個、より好ましくは4?200個、更に好ましくは5?150個、とりわけ好ましくは11?100個程度の室温(25℃)で液状(通常、回転粘度計等で0.1?1,000mPa・s、好ましくは0.5?500mPa・s程度)のものが好適に用いられる。
なお、珪素原子に結合する水素原子は、分子鎖末端、分子鎖の途中(分子鎖非末端)のいずれの珪素原子に結合したものであってもよく、両方に位置するものであってもよい。
【0027】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、三次元網状のいずれの構造であってもよいが、直鎖状、分岐状又は三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンであるか、オルガノハイドロジェンシクロポリシロキサン(即ち、オルガノハイドロジェンシロキサン単位のみからなる環状重合体)であるものから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましく、また、重合度(分子中の珪素原子の数)が11以上のオルガノハイドロジェンポリシロキサン、一分子中に少なくとも4個のSiH官能基を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましく、特には、重合度(分子中の珪素原子の数)が11以上で、一分子中に少なくとも4個のSiH官能基を含有する、直鎖状、環状、分岐状又は三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。
【0028】
ここで、直鎖状のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、特に下記式(5)で例示されるものを挙げることができる。
【化3】

【0029】
式(5)中、yは1?98の整数、zは2?150の整数、かつ、y+zは9?300の整数である。R^(2)は上記と同様であり、R^(3)はR^(2)又は水素原子である。更に全R^(2)のうち90%以上がメチル基であることが好ましい。
【0030】
また、環状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンである場合には、全ての繰返し単位がオルガノハイドロジェンシロキサン単位(例えば、R^(2)HSiO_(2/2)で示される2官能性シロキサン単位)のみからなるオルガノハイドロジェンシクロポリシロキサンであるか、あるいは、分子中に上記オルガノハイドロジェンシロキサン単位の他に、ジオルガノシロキサン単位(例えば、R^(2)_(2)SiO_(2/2))を繰返し単位の一部として含有するジオルガノシロキサン・オルガノハイドロジェンシロキサン環状共重合体である場合には、重合度(分子中の珪素原子数)が11以上の高重合環状体であるか、又は、分子中のSiH官能性基の数(即ち、分子中のオルガノハイドロジェンシロキサン単位の繰返し数)が4個以上の高濃度SiH官能性であるものが望ましい。
【0031】
また、分子中の全炭素原子数(例えば、R^(2)中の炭素原子の総数)に対する珪素原子に結合する全水素原子数の比は、モル比で、好ましくは[水素原子]/[炭素原子]<0.6、より好ましくは0.05<[水素原子]/[炭素原子]≦0.5、更に好ましくは0.1≦[水素原子]/[炭素原子]≦0.4、とりわけ好ましくは0.25≦[水素原子]/[炭素原子]≦0.4である。0.6以下だとSiH官能基の密度が高すぎないため発泡することがなく、0.05以上だと、反応が遅すぎないため成形不良が発生しない。
【0032】
上記(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとして具体的には、例えば、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)メチルシラン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)フェニルシラン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、(CH_(3))_(2)HSiO_(1/2)単位と(CH_(3))_(3)SiO_(1/2)単位とSiO_(4/2)単位とからなる共重合体、(CH_(3))_(2)HSiO_(1/2)単位とSiO_(4/2)単位とからなる共重合体、(CH_(3))_(2)HSiO_(1/2)単位とSiO_(4/2)単位と(C_(6)H_(5))_(3)SiO_(1/2)単位とからなる共重合体などや、これら各例示化合物において、メチル基の一部又は全部がエチル基、プロピル基等の他のアルキル基やフェニル基等で置換されたものなどが挙げられる。
【0033】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量は、(A)成分100質量部に対して0.3?20質量部、好ましくは0.5?15質量部、より好ましくは0.8?10質量部である。(B)成分の配合量が少なすぎると架橋点が少なくなる(架橋密度が低くなる)ため、ゴム状の弾性体(ゴム硬化物)が得られなくなり、多すぎるとかえって架橋点の分散により、やはり十分なゴム物性が得られない。
【0034】
更に、上記(B)成分中のオルガノポリシロキサンの珪素原子と結合する水素原子(SiH官能基)と(A)成分中の珪素原子に結合するアルケニル基の総量とのモル比が、SiH官能基/アルケニル基=0.6?3.0、特に0.8?2.5であることが好ましい。この比が0.6より大きいと十分に架橋したゴムが得られ、3.0より小さいと未反応のSiH官能基含有低分子シロキサンが硬化後に残存しない。
【0035】
この(B)成分の架橋剤としてのオルガノハイドロジェンポリシロキサンから由来する、前記した(G)重合度が10以下で分子中にSi-OH官能基を含有せず、かつ、珪素原子と結合する水素原子(SiH官能基)を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサンは、例えば、重合度が10以下のジオルガノシロキサン・オルガノハイドロジェンシロキサン環状共重合体、特に、下記式(8)
【化4】

(式中、oは1?9の整数、pは1?9の整数(特には1?3の整数)、かつ、o+pは3?10の整数である。R^(2)は上記の通りであるが、アルケニル基を有しない。)
で示される環状オルガノハイドロジェンポリシロキサン、とりわけ分子中のSiH官能性基の数(即ち、分子中のオルガノハイドロジェンシロキサン単位の繰返し数p)が1?3個とSiH官能性基濃度が低く、かつ重合度(分子中の珪素原子数o+p)が10以下の低分子環状シロキサンを含むものであり、アルケニル基及びSi-OH基を含有しない。
【0036】
(G)成分の含有量は、(B)成分組成物全体の質量に対し0?10.0質量%、好ましくは0?8.0質量%、より好ましくは0?5.0質量%に低減されることが望ましい。これは、SiH官能基を有する低分子シロキサンが、硬化物中に残存した場合、雰囲気中に揮発して周囲に付着することにより様々な問題を引き起こすだけでなく、更には、SiH官能基を有するため、雰囲気中に揮発し、一旦周辺の物質に付着したSiH官能基低分子シロキサンは、溶剤で拭き取る等の手段では容易に取り除くことも困難であるという問題を回避するために必須とされるものである。
【0037】
これらSiH基含有低分子環状シロキサンのうち、一部あるいは大半の付加反応性の高い架橋剤はゴムの架橋反応により硬化物内のシロキサンマトリックス中に組み込まれるが、特に、分子中のSiH官能性基の数(特には、R^(2)HSiO_(2/2)単位等で示される2官能性シロキサン単位中のSiH基など、分子鎖途中(非末端)の珪素原子に結合した水素原子としての比較的付加反応性が低いSiH基の数)が1?3個とSiH官能性基濃度が低く、また、分子中にR^(2)_(2)SiO_(2/2)単位等のジオルガノシロキサン単位を1個以上有し、かつ重合度(分子中の珪素原子数)が10以下の低分子環状シロキサンは、付加反応性が低いため、未反応のSiH官能基を持つ低分子シロキサンとして、そのままフリーの状態で硬化物内に残存してしまう。これが保管時や使用時に雰囲気中に揮発して周辺部品等に付着すると、接点障害・接着不良・表面の疎水化・外観変化など多大な問題を引き起こしてしまう。特にSiH基含有低分子環状シロキサンが(B)成分中に10.0質量%よりも多く残存すると、硬化後でも多量に残存してしまう場合があるため、悪影響が大きい。
【0038】
これらSiH基含有の低分子シロキサンを除去する方法は、いかなる方法でも良いが、従来の無官能性の低分子シロキサンを除去する際に適用されたような高温でかつ長時間の加熱処理により溜去する方法は、SiH官能基の反応性が高いため好ましくはない。低分子シロキサンを除去する際の温度としては、好ましくは210℃以下、より好ましくは200℃以下である。210℃を超える温度の場合、薄膜蒸留器のようなオイルが長時間高温に曝されない装置を使用する必要がある。また、210℃以下の温度の場合は、装置内の撹拌を十分に行うだけでなく、不活性ガスの強制吹き込み(バブリング)のように、低分子シロキサンの揮発を促進する方法が好ましい。
低分子シロキサンを揮発させる方法は、減圧下で高温撹拌により系外に揮発させる方法が一般的である。この場合、1,000?1Paの減圧下、150?210℃の温度で10分?10時間で揮発させることが好ましい。
【0039】
(C)成分の補強性シリカとしては、沈殿シリカ(沈降シリカ、湿式シリカ)及びヒュームドシリカ(煙霧質シリカ、乾式シリカ)が広く使用されている。
【0040】
ここで、沈殿シリカとしては、BET法による比表面積が100m^(2)/g以上(例えば100?300m^(2)/g)、好ましくは120?250m^(2)/g、より好ましくは150?220m^(2)/gのものを用いることが望ましい。比表面積が100m^(2)/gより小さいと目的とする高引裂きかつ高伸長なゴムが得られなくなってしまう。
また、DBP吸油量として、100?250ml/100gのものを用いることが好ましく、150?220ml/100gのものを用いることがより好ましい。DBP吸油量が上記範囲より小さいと十分なゴム強度が得られない場合があり、上記範囲を超えると圧縮永久歪が著しく悪化してしまう場合がある。
【0041】
ヒュームドシリカとしては、BET法による比表面積が50m^(2)/g以上、好ましくは100m^(2)/g以上、より好ましくは120?350m^(2)/g、更に好ましくは150?320m^(2)/gのものを用いることが望ましい。比表面積が小さ過ぎると目的とする高引裂きで高伸長なゴムが得られなくなってしまう。
本発明においては、沈殿シリカとヒュームドシリカを組み合わせて用いてもこれらの一方を用いても構わないが、ヒュームドシリカを用いることがより好ましい。
【0042】
これら微粉末シリカは、そのまま用いても構わないが、表面疎水化処理剤で予め処理したものを使用すること、又は前記(A)及び/又は(B)成分のオルガノポリシロキサンとの混練時に表面処理剤を添加して処理することにより使用することが好ましい。これら表面処理剤は、アルキルアルコキシシラン、アルキルヒドロキシシラン、アルキルクロロシラン、アルキルシラザン、シランカップリング剤、低分子シロキサンポリマー、チタネート系処理剤、脂肪酸エステルなど公知のいかなるものでもよいが、好ましくはアルキルジシラザン、より好ましくはヘキサメチルジシラザンである。これら表面処理剤は、1種で用いてもよく、また2種以上を同時に又は異なるタイミングで用いても構わない。これら表面処理剤の使用量は、補強性シリカ100質量部に対して、通常、0.5?50質量部、好ましくは1?40質量部、より好ましくは2?30質量部程度とすることができる。表面処理剤の使用量は、上記範囲内であると組成物中に処理剤又はその分解物が残らず、流動性が得られ、経時で粘度が上昇しない。また、多すぎても少なすぎても、ゴム強度が低下してしまう場合がある。
【0043】
(C)成分の微粉末シリカの配合量は、(A)成分及び(B)成分の合計100質量部に対し、5?80質量部、好ましくは10?60質量部、より好ましくは20?60質量部である。配合量が5質量部より少ないと十分なゴム強度が得られず、また80質量部より多いと、配合が困難になってしまうだけでなく、圧縮永久歪が高くなってしまう。
【0044】
(D)成分の付加反応触媒としては、白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と1価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、塩化白金酸とビニルシロキサンとの錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などの公知の白金属金属触媒が挙げられる。なお、この付加反応触媒の配合量は触媒量とすることができ、通常、白金族金属として(A)、(B)成分の合計質量に対し、0.5?1,000ppm、特に1?500ppm程度である。
【0045】
(E)成分の重合度が10以下でSi-OH官能基(シラノール基)を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサンは、下記平均組成式(2)?(4)のいずれか
M_(2k+1)Q_(k)O_(1/2)H (2)
MD_(m)O_(1/2)H (3)
HO_(1/2)-D_(n)-O_(1/2)H (4)
(ここで、kは0?3の整数、mは0?9の整数、nは1?10の整数であり、M=(CH_(3))_(3)SiO_(1/2)-、Q=SiO_(4/2)、D=-(CH_(3))_(2)SiO_(2/2)-を意味する(以下同じ)。)
で示され、アルケニル基及びSiH基を含有しない。
【0046】
式(2)のオルガノポリシロキサンとしては、例えば、
(CH_(3))_(3)Si-OH、[(CH_(3))_(3)SiO]_(3)Si-OH、
[(CH_(3))_(3)SiO]_(3)SiO[(CH_(3))_(3)SiO]_(2)Si-OH、
[(CH_(3))_(3)SiO]_(3)SiO[(CH_(3))_(3)SiO]_(2)SiO[(CH_(3))SiO]_(2)Si-OHなど、
式(3)のオルガノポリシロキサンとしては、例えば、
(CH_(3))_(3)SiO(CH_(3))_(2)Si-OH、(CH_(3))_(3)SiO(CH_(3))_(2)SiO(CH_(3))_(2)Si-OH、(CH_(3))_(3)SiO(CH_(3))_(2)SiO(CH_(3))_(2)SiO(CH_(3))_(2)Si-OHなど、
式(4)のオルガノポリシロキサンとしては、
(CH_(3))_(2)Si(OH)_(2)、(OH)(CH_(3))_(2)SiO(CH_(3))_(2)Si(OH)
などが挙げられるが、その他には、
[(CH_(3))_(3)SiO]_(3)SiO(CH_(3))_(2)Si-OH、
[(CH_(3))_(3)SiO]_(3)SiO(CH_(3))_(2)SiO[(CH_(3))_(2)SiO]_(2)Si-OH、
などのM_(2n+3)QDQ_(n)-H構造を有するポリシロキサン、
[(CH_(3))_(3)SiO]_(3)SiO(CH_(3))_(2)SiO(CH_(3))_(2)Si-OH、
などのM_(2n+3)QD_(n)-H構造を有するポリシロキサンが挙げられ、これらに限定されるものではない。
【0047】
(E)成分の含有量としては、シリコーンゴム組成物全体中の0.005?0.3質量%、好ましくは、0.005?0.25質量%、より好ましくは、0.005?0.20質量%である。含有量が0.3質量%より多いと、哺乳瓶乳首やキッチン用品等に使用された場合、人体に移行してしまう可能性が大きくなる。
これら(E)成分は、主として(C)成分の補強性シリカを表面疎水化する工程で生成され系内に残ってしまうものである。(A)成分のポリマーとの配合前に補強性シリカ単体で(E)成分の含有量を低下させる場合は、補強性シリカの表面疎水化後に減圧乾燥、加熱乾燥、あるいは減圧加熱乾燥などの工程が必要である。(A)成分のポリマーとシリカを混合する場合に表面処理剤を加えて疎水化処理を実施する際は、表面処理剤の量を最小限にし、更には混合中に減圧や加熱により処理剤あるいはその分解物を揮発させる方法が(E)成分の含有量を低下させるのに効果的である。
【0048】
これらの成分以外に、必要に応じて、表面処理用の水、石英粉、珪藻土、炭酸カルシウムのような充填剤や、カーボンブラック、導電性亜鉛華、金属粉等の導電剤、窒素含有化合物やアセチレン化合物、リン化合物、ニトリル化合物、カルボキシレート、錫化合物、水銀化合物、硫黄化合物等のヒドロシリル化反応制御剤、酸化鉄、酸化セリウムのような耐熱剤、ジメチルシリコーンオイル等の内部離型剤、接着性付与剤、チクソ性付与剤等を本発明の目的を損なわない範囲で配合することは任意とされる。
【0049】
本発明の付加硬化型シリコーンゴム組成物は、ニーダー、プラネタリーミキサーなどの通常の混合撹拌器、混練器等を用いて上記各成分を均一に混合することにより調製することができる。
【0050】
本発明において、これら低分子シロキサン含有量の測定方法は、サンプルびん中に採取した試料1gにアセトン10ccを添加して室温(25℃)で24時間放置した後、該アセトン中に抽出された低分子シロキサンをガスクロマトグラフ分析(FID検出器)により測定する。なお、この場合、シラノール基含有低分子シロキサン、無官能低分子シロキサン成分及びSiH含有低分子シロキサン成分の判別はGC-MS及びSi^(29)-NMRにより同定、判別することができる。
【0051】
本発明の付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化条件としては、公知の付加反応硬化型シリコーンゴム組成物と同様でよく、例えば常温でも十分硬化するが、必要に応じて加熱してもよく、この場合、80?250℃、特に120?220℃で3秒?10分間、特に5秒?3分間加熱することにより硬化することができる。
【0052】
本発明のシリコーンゴム組成物を硬化して得られるシリコーンゴム硬化物に関しても、硬化前の組成物と同様に、硬化物全体に対して(E)成分が0.005?0.3質量%、好ましくは0.005?0.2質量%、より好ましくは0.005?0.1質量%、前記(F)成分と(G)成分の合計が0?0.3質量%、好ましくは0?0.25質量%、特に0?0.2質量%のものが好ましい。
なお、(A)、(B)成分として(F)、(G)成分の少ないものを使用し、また(E)成分について上述した処理を行うことで、上記含有量とすることができるが、得られた硬化物を減圧や加熱下に曝せば、上記成分を減量することができる。
【0053】
なお、シリコーンゴム硬化物の加熱減量については、BfR(Bundesinstitut fur Risikobewertung)の食品接触材料に関する勧告15章シリコーンにおいて、200℃/4時間での加熱減量が0.5質量%以下との指針もあり、これら低分子シロキサンを低減することにより、本加熱減量も0.5質量%とすることができる。
【0054】
このようにして得られた付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物は、低分子シロキサン、特にシラノール基を有する低分子シロキサン成分量が特定量以下であるために、ゴム硬化物から哺乳瓶乳首、水道水周辺パッキン、医療器具のシール材、各種キッチン用品などの用途において、水系液体により直接、間接に体内に吸収される危険性を低減するだけでなく、低分子シロキサンが揮発して周囲に付着することによるくもりや濁りの発生、接着阻害、表面の疎水化などの問題解決がはかれるものである。
【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、下記の例において、(A)成分中の(F)成分の含有量及び(B)成分中の(G)成分の含有量は、GC-MS分析及びSi^(29)-NMRにより同定、分析したものであり、組成物全体中及びシリコーンゴム硬化物中の(F)成分、(G)成分、(E)成分含有量は、前記した低分子シロキサン含有量の測定方法に従って、アセトン抽出後にGC-MS分析及びSi^(29)-NMRにより同定、分析したものである。
【0056】
更に、親水性分子の抽出については、抽出溶剤をアセトンからエチレングリコールに変更して実施した。溶剤の性質により検出精度は低下してしまうが、より疎水性の低い物質が選択的に抽出される結果になっている。
【0057】
[測定方法]
請求項14に記載の加熱減量については、BfR(Bundesinstitut fur Risikobewertung)による食品接触材料に関する勧告書15章Siliconeの記載に基づき、次のように実施した。
厚さ約2mmの硬化シートから総重量が約10gになるよう2枚のシートを切り出し、塩化カルシウムを敷いたデシケーター中に20?26℃で48時間放置する。その後取り出して直ぐに重量を測定後、200℃のオーブンに入れる。4時間後、取り出してデシケーター中で30分冷却させた後、重量を測定し、オーブン前後での重量変化を計算する。
【0058】
[参考例]
下記のビニル基含有オルガノポリシロキサン((A)成分)中の低分子シロキサン及びオルガノハイドロジェンポリシロキサン((B)成分)中の低分子シロキサンは、以下のようにして低減した。
(A)成分のビニル基含有オルガノポリシロキサン中の低分子シロキサン(無官能性低分子シロキサン((F)成分))は、約100Paの減圧下で試料を撹拌下に200℃で6時間加熱して低分子シロキサン成分を除去した後、更に窒素ガスを試料中に吹き込んで(バブリングして)、4時間除去操作を行った後、最後に50Pa以下の減圧下に250℃で2時間加熱除去操作を行って、低分子シロキサン成分を低減した。
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサン中の低分子シロキサン(主としてSiH基含有低分子シロキサン((G)成分)と無官能性低分子シロキサン((F)成分)とを含む)は、約100Paの減圧下で試料を撹拌下に180℃で6時間加熱して低分子シロキサン成分を除去した後、更に、窒素ガスを試料中に吹き込んで(バブリングして)、4時間除去操作を行った。更に、20Pa以下の減圧状態で200℃に昇温した熱盤上を100μm以下の薄膜状で試料(オイル状のオルガノハイドロジェンポリシロキサン)を流し、低分子シロキサン成分を低減した。
【0059】
[実施例1]
両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が500のジメチルポリシロキサン(A1)[(F)成分の含有量=0.05質量%]65質量部、比表面積が200m^(2)/gであるヒュームドシリカ(日本アエロジル社製、アエロジル200)30質量部、ヘキサメチルジシラザン5質量部、水2.0質量部を室温で30分混合後、約100mmHgの減圧下、150℃に昇温して2時間、更に180℃で1時間撹拌を続け、冷却し、シリコーンゴムベースを得た。
【0060】
このシリコーンゴムベース100質量部に、両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が250のジメチルポリシロキサン(A2)[(F)成分の含有量=0.03質量%]30質量部を入れ、30分撹拌を続けた後、更に架橋剤として下記式
【化5】

で示される両末端及び側鎖にSiH官能基を(分子中に合計8個)有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(B1)[(G)成分の含有量=5.9質量%]を1.6質量部[Si-H/アルケニル基=1.3]、反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノール0.05質量部を添加し、15分撹拌を続けてシリコーンゴム組成物を得た。
このシリコーンゴム組成物全体中の(E)成分、(G)成分、(F)成分含有量を測定した結果、それぞれ0.110質量%、0.073質量%、0.070質量%であり、(F)成分のうち環状構造のものが0.061質量%であった。その詳細を表1、エチレングリコールによる抽出結果を表2に記した。
【0061】
このシリコーンゴム組成物に白金触媒(Pt濃度1質量%)0.1質量部を混合し、120℃/10分のプレスキュア後、厚さ2mmのゴムシートを得た。このゴムシートより、アセトン抽出(25℃×24時間浸漬)により含有する重合度が10以下の低分子シロキサンを測定した結果を表1に示した。(E)成分、(G)成分、(F)成分含有量を測定した結果、それぞれ0.076質量%、0.006質量%、0.044質量%であり、(F)成分のうち環状構造のものが0.029質量%であった。その詳細を表1、エチレングリコールによる抽出結果を表2に記した。更に、この硬化物の200℃/4時間での重量減少をBfR規定に基づいて測定した結果、0.28%であった。
【0062】
[実施例2]
両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が500の実施例1のジメチルポリシロキサン(A1)60質量部、比表面積が130m^(2)/gであるヒュームドシリカの表面をジメチルジクロロシランにより疎水化処理したヒュームドシリカ(日本アエロジル社製、アエロジルR972)40質量部、ヘキサメチルジシラザン3質量部、ジビニルテトラメチルジシラザン0.2質量部、水2.0質量部を室温で30分混合後、約200mmHgの減圧下、150℃に昇温して3時間、更に170℃に昇温して2時間撹拌を続け、冷却し、シリコーンゴムベースを得た。
【0063】
このシリコーンゴムベース105質量部に、上記の平均重合度が500のジメチルポリシロキサン(A1)20質量部、及び両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖され側鎖にビニル基を有する平均重合度が180のジメチルポリシロキサン(A3)[ビニル基含有量0.00052mol/g、(F)成分の含有量=0.04質量%]30質量部を入れ、30分撹拌を続けた後、更に架橋剤として下記式
【化6】

で示される側鎖にSiH官能基を20個有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(B2)[(G)成分の含有量=3.6質量%]を3.0質量部[Si-H/アルケニル基=1.8]、反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノール0.05質量部を添加し、15分撹拌を続けてシリコーンゴム組成物を得た。
このシリコーンゴム組成物全体中の(E)成分、(G)成分、(F)成分含有量を測定した結果、それぞれ0.176質量%、0.094質量%、0.082質量%であり、(F)成分のうち環状構造のものが0.061質量%であった。
【0064】
このシリコーンゴム組成物に白金触媒(Pt濃度1質量%)0.1質量部を混合し、120℃/10分のプレスキュア後、厚さ2mmのゴムシートを得た。このゴムシートより、アセトン抽出(25℃×24時間浸漬)により含有する重合度が10以下の低分子シロキサンを測定した結果を表1に示した。(E)成分、(G)成分、(F)成分含有量を測定した結果、それぞれ0.135質量%、0.015質量%、0.071質量%であり、(F)成分のうち環状構造のものが0.042質量%であった。その詳細を表1、エチレングリコールによる抽出結果を表2に記した。更に、この硬化物の200℃/4時間での重量減少をBfR規定に基づいて測定した結果、0.34%であった。
【0065】
[実施例3]
両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が450のジメチルポリシロキサン(A4)[(F)成分の含有量=0.54質量%]70質量部、比表面積が300m^(2)/gであるヒュームドシリカ(日本アエロジル社製、アエロジル200)30質量部、ヘキサメチルジシラザン6質量部、水2.0質量部を室温で30分混合後、約100mmHgの減圧下、150℃に昇温して2時間、更に180℃で2時間撹拌を続け、冷却し、シリコーンゴムベースを得た。
【0066】
このシリコーンゴムベース108質量部に、両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が250の実施例1のジメチルポリシロキサン(A2)30質量部を入れ、30分撹拌を続けた後、更に架橋剤として下記式
【化7】

で示される側鎖にSiH官能基を35個有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(B3)[(G)成分の含有量=1.8質量%]を2.0質量部[Si-H/アルケニル基=1.5]、反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノール0.05質量部を添加し、2本ロールで15分ロール練を続けてシリコーンゴム組成物を得た。
このシリコーンゴム組成物全体中の(E)成分、(G)成分、(F)成分含有量を測定した結果、それぞれ0.188質量%、0.039質量%、0.344質量%であり、(F)成分のうち環状構造のものが0.328質量%であった。
【0067】
このシリコーンゴム組成物に白金触媒(Pt濃度1質量%)0.1質量部を混合し、120℃/10分のプレスキュア後、厚さ2mmのゴムシートを得た。このゴムシートより、アセトン抽出(25℃×24時間浸漬)により含有する重合度が10以下の低分子シロキサンを測定した結果を表1に示した。(E)成分、(G)成分、(F)成分含有量を測定した結果、それぞれ0.129質量%、0.003質量%、0.315質量%であり、(F)成分のうち環状構造のものが0.298質量%であった。その詳細を表1、エチレングリコールによる抽出結果を表2に記した。更に、この硬化物の200℃/4時間での重量減少をBfR規定に基づいて測定した結果、0.32%であった。
【0068】
[実施例4]
両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が500の実施例1のジメチルポリシロキサン(A1)65質量部、比表面積が200m^(2)/gであるヒュームドシリカ(日本アエロジル社製、アエロジル200)30質量部、ヘキサメチルジシラザン5質量部、水2.0質量部を室温で30分混合後、約100mmHgの減圧下150℃に昇温して2時間、更に180℃に昇温して1時間撹拌を続け、冷却し、シリコーンゴムベースを得た。
【0069】
このシリコーンゴムベース100質量部に、両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が250のジメチルポリシロキサン(A2)15質量部、両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖され側鎖にビニル基を有する平均重合度が180の実施例2のジメチルポリシロキサン(A3)15質量部を入れ、30分撹拌を続けた後、更に架橋剤として下記式
【化8】

で示される両末端及び側鎖にSiH官能基を(分子中に合計4個)有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(B4)[(G)成分の含有量=60.0質量%]を4.1質量部[Si-H/アルケニル基=2.3]、反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノール0.05質量部を添加し、15分撹拌を続けてシリコーンゴム組成物を得た。
このシリコーンゴム組成物全体中の(E)成分、(G)成分、(F)成分含有量を測定した結果、それぞれ0.088質量%、1.759質量%、0.054質量%であり、(F)成分のうち環状構造のものが0.402質量%であった。
このシリコーンゴム組成物に白金触媒(Pt濃度1質量%)0.1質量部を混合し、120℃/10分のプレスキュア後、厚さ2mmのゴムシートを得た。このゴムシートより、アセトン抽出(25℃×24時間浸漬)により含有する重合度が10以下の低分子シロキサンを測定した結果を表1に示した。(E)成分、(G)成分、(F)成分含有量を測定した結果、それぞれ0.073質量%、0.048質量%、0.035質量%であり、(F)成分のうち環状構造のものが0.027質量%であった。その詳細を表1、エチレングリコールによる抽出結果を表2に記した。更に、この硬化物の200℃/4時間での重量減少をBfR規定に基づいて測定した結果、0.29%であった。
【0070】
[比較例1]
実施例1の両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が500のジメチルポリシロキサン(A1)65質量部、比表面積が200m^(2)/gであるヒュームドシリカ(日本アエロジル社製、アエロジル200)30質量部、ヘキサメチルジシラザン6質量部、水2.0質量部を室温で30分混合後、常圧で150℃に昇温して3時間撹拌を続け、冷却し、シリコーンゴムベースを得た。
【0071】
このシリコーンゴムベース100質量部に、両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された実施例1の平均重合度が250のジメチルポリシロキサン(A2)30質量部を入れ、30分撹拌を続けた後、更に架橋剤として下記式
【化9】

で示される実施例1の両末端及び側鎖にSiH官能基を(分子中に合計8個)有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(B1)を1.6質量部[Si-H/アルケニル基=1.3]、反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノール0.05質量部を添加し、15分撹拌を続けてシリコーンゴム組成物を得た。
このシリコーンゴム組成物全体中の(E)成分、(G)成分、(F)成分含有量を測定した結果、それぞれ0.379質量%、0.082質量%、0.092質量%であり、(F)成分のうち環状構造のものが0.041質量%であった。
【0072】
このシリコーンゴム組成物に白金触媒(Pt濃度1質量%)0.1質量部を混合し、120℃/10分のプレスキュア後、厚さ2mmのゴムシートを得た。このゴムシートより、アセトン抽出(25℃×24時間浸漬)により含有する重合度が10以下の低分子シロキサンを測定した結果を表1に示した。(E)成分、(G)成分、(F)成分含有量を測定した結果、それぞれ0.281質量%、0.007質量%、0.070質量%であり、(F)成分のうち環状構造のものが0.030質量%であった。その詳細を表1、エチレングリコールによる抽出結果を表2に記した。更に、この硬化物の200℃/4時間での重量減少をBfR規定に基づいて測定した結果、0.52%であった。
【0073】
[比較例2]
両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が500の実施例1のジメチルポリシロキサン(A1)60質量部、比表面積が130m^(2)/gであるヒュームドシリカの表面をジメチルジクロロシランにより疎水化処理したヒュームドシリカ(日本アエロジル社製、アエロジルR972)40質量部、ヘキサメチルジシラザン5質量部、ジビニルテトラメチルジシラザン0.2質量部、水2.0質量部を室温で30分混合後、常圧で130℃に昇温して3時間撹拌を続け、冷却し、シリコーンゴムベースを得た。
【0074】
このシリコーンゴムベース105質量部に、上記の平均重合度が500のジメチルポリシロキサン(A1)20質量部、及び両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖され側鎖にビニル基を有する平均重合度が180のジメチルポリシロキサン(A3)30質量部を入れ、30分撹拌を続けた後、更に架橋剤として下記式
【化10】

で示される側鎖にSiH官能基を20個有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(B2)を3.0質量部[Si-H/アルケニル基=1.8]、反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノール0.05質量部を添加し、15分撹拌を続けてシリコーンゴム組成物を得た。
このシリコーンゴム組成物全体中の(E)成分、(G)成分、(F)成分含有量を測定した結果、それぞれ0.534質量%、0.102質量%、0.173質量%であり、(F)成分のうち環状構造のものが0.072質量%であった。
【0075】
このシリコーンゴム組成物に白金触媒(Pt濃度1質量%)0.1質量部を混合し、120℃/10分のプレスキュア後、厚さ2mmのゴムシートを得た。このゴムシートより、アセトン抽出(25℃×24時間浸漬)により含有する重合度が10以下の低分子シロキサンを測定した結果を表1に示した。(E)成分、(G)成分、(F)成分含有量を測定した結果、それぞれ0.377質量%、0.018質量%、0.127質量%であり、(F)成分のうち環状構造のものが0.055質量%であった。その詳細を表1、エチレングリコールによる抽出結果を表2に記した。更に、この硬化物の200℃/4時間での重量減少をBfR規定に基づいて測定した結果、0.63%であった。
【0076】
[比較例3]
両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が450のジメチルポリシロキサン(A4)70質量部、比表面積が300m^(2)/gであるヒュームドシリカ(日本アエロジル社製、アエロジル200)30質量部、ヘキサメチルジシラザン8質量部、水2.0質量部を室温で30分混合後、常圧で150℃に昇温して4時間撹拌を続け、冷却し、シリコーンゴムベースを得た。
【0077】
このシリコーンゴムベース108質量部に、両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が250の実施例1のジメチルポリシロキサン(A2)30質量部を入れ、30分撹拌を続けた後、更に架橋剤として下記式
【化11】

で示される側鎖にSiH官能基を35個有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(B3)を2.0質量部[Si-H/アルケニル基=1.5]、反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノール0.05質量部を添加し、2本ロールで15分ロール練を続けてシリコーンゴム組成物を得た。
このシリコーンゴム組成物全体中の(E)成分、(G)成分、(F)成分含有量を測定した結果、それぞれ0.523質量%、0.042質量%、0.504質量%であり、(F)成分のうち環状構造のものが0.418質量%であった。
【0078】
このシリコーンゴム組成物に白金触媒(Pt濃度1質量%)0.1質量部を混合し、120℃/10分のプレスキュア後、厚さ2mmのゴムシートを得た。このゴムシートより、アセトン抽出(25℃×24時間浸漬)により含有する重合度が10以下の低分子シロキサンを測定した結果を表1に示した。(E)成分、(G)成分、(F)成分含有量を測定した結果、それぞれ0.370質量%、0.003質量%、0.430質量%であり、(F)成分のうち環状構造のものが0.338質量%であった。その詳細を表1、エチレングリコールによる抽出結果を表2に記した。更に、この硬化物の200℃/4時間での重量減少をBfR規定に基づいて測定した結果、0.98%であった。
【0079】
[比較例4]
両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が500の実施例1のジメチルポリシロキサン(A1)65質量部、比表面積が200m^(2)/gであるヒュームドシリカ(日本アエロジル社製、アエロジル200)30質量部、ヘキサメチルジシラザン6質量部、水2.0質量部を室温で30分混合後、常圧で150℃に昇温して3時間撹拌を続け、冷却し、シリコーンゴムベースを得た。
【0080】
このシリコーンゴムベース100質量部に、両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された平均重合度が250のジメチルポリシロキサン(A2)15質量部、両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖され側鎖にビニル基を有する平均重合度が180の実施例2のジメチルポリシロキサン(A3)15質量部を入れ、30分撹拌を続けた後、更に架橋剤として下記式
【化12】

で示される両末端及び側鎖にSiH官能基を(分子中に合計4個)有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(B4)を4.1質量部[Si-H/アルケニル基=2.3]、反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノール0.05質量部を添加し、15分撹拌を続けてシリコーンゴム組成物を得た。
このシリコーンゴム組成物全体中の(E)成分、(G)成分、(F)成分含有量を測定した結果、それぞれ0.702質量%、1.783質量%、0.104質量%であり、(F)成分のうち環状構造のものが0.038質量%であった。
このシリコーンゴム組成物に白金触媒(Pt濃度1質量%)0.1質量部を混合し、120℃/10分のプレスキュア後、厚さ2mmのゴムシートを得た。このゴムシートより、アセトン抽出(25℃×24時間浸漬)により含有する重合度が10以下の低分子シロキサンを測定した結果を表1に示した。(E)成分、(G)成分、(F)成分含有量を測定した結果、それぞれ0.410質量%、0.046質量%、0.095質量%であり、(F)成分のうち環状構造のものが0.029質量%であった。その詳細を表1、エチレングリコールによる抽出結果を表2に記した。更に、この硬化物の200℃/4時間での重量減少をBfR規定に基づいて測定した結果、0.77%であった。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記平均組成式(1)
R^(1)_(a)SiO_((4-a)/2) (1)
(式中、R^(1)は互いに同一又は異種の1価炭化水素基であり、aは1.5?2.8の正数である。)
で表され、一分子中に少なくとも2個の珪素原子と結合するアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)珪素原子と結合する水素原子(SiH官能基)を一分子中に少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:0.3?20質量部、
(C)補強性シリカ:5?80質量部、
(D)付加反応触媒:白金族金属として(A)、(B)成分の合計質量に対し、0.5?1,000ppm
を含有してなり、かつ、(E)重合度が10以下でSi-OH官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサンの含有量が組成物全体に対し0.005?0.3質量%であり、(F)重合度が10以下で分子中に官能基を有しないオルガノポリシロキサンの含有量が(A)成分中0.3質量%以下である付加硬化型シリコーンゴム組成物。
【請求項2】
(A)成分中の珪素原子結合アルケニル基に対する(B)成分中のSiH官能基のモル比がSi-H/アルケニル基=0.6?3.0の範囲であることを特徴とする請求項1記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
【請求項3】
(C)成分の補強性シリカが、オルガノシラン化合物及びオルガノシラザン化合物から選ばれる少なくとも1種の表面処理剤により表面疎水化処理されたシリカであることを特徴とする請求項1又は2記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
【請求項4】
前記表面処理剤がヘキサメチルジシラザンである請求項3記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
【請求項5】
(E)成分が、下記式(2)?(4)の構造で表されるオルガノポリシロキサンのいずれか1種又は2種以上である請求項1?4のいずれか1項記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
M_(2k+1)Q_(k)O_(1/2)H (2)
MD_(m)O_(1/2)H (3)
HO_(1/2)-D_(n)-O_(1/2)H (4)
(ここで、kは0?3の整数、mは0?9の整数、nは1?10の整数であり、M=(CH_(3))_(3)SiO_(1/2)-、Q=SiO_(4/2)、D=-(CH_(3))_(2)SiO_(2/2)-を意味する。)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(G)重合度が10以下で分子中にSi-OH官能基を含有せず、かつ、Si-H官能基を一分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサンの含有量が(B)成分中10.0質量%以下である請求項1?5のいずれか1項記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
【請求項8】
(B)成分が、重合度が11以上の、直鎖状、環状、分岐状又は三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンであることを特徴とする請求項1?5及び7のいずれか1項記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
【請求項9】
(B)成分が、下記式(5)で示される直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンである請求項8記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
【化1】

(式中、yは1?98の整数、zは2?50の整数、かつ、y+zは9?100の整数である。R^(2)は炭素数1?10の非置換又は置換の1価炭化水素基で、同一であっても異なっても良い。R^(3)は互いに独立にR^(2)又は水素原子である。)
【請求項10】
(F)成分と(G)成分の含有量の合計が組成物全体の0.3質量%以下である請求項7?9のいずれか1項記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物。
【請求項11】
請求項1?5及び7?10のいずれか1項記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物からなるシリコーンゴム。
【請求項12】
前記付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物中における、(E)成分の含有量が0.005?0.3質量%である請求項11記載のシリコーンゴム。
【請求項13】
前記付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物中における、(F)及び(G)成分の含有量の合計が0.3質量%以下である請求項12記載のシリコーンゴム。
【請求項14】
前記付加硬化型シリコーンゴム組成物の1次キュア(金型内硬化)後の硬化物のBfR規定に基づく200℃×4時間での加熱減量が、0.5質量%以下である請求項11、12又は13記載のシリコーンゴム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-01-30 
出願番号 特願2015-240773(P2015-240773)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C08L)
P 1 651・ 536- YAA (C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L)
P 1 651・ 121- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小森 勇  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 佐藤 健史
武貞 亜弓
登録日 2018-11-09 
登録番号 特許第6428591号(P6428591)
権利者 信越化学工業株式会社
発明の名称 付加硬化型シリコーンゴム組成物及びシリコーンゴム  
代理人 特許業務法人 津国  
代理人 特許業務法人英明国際特許事務所  
代理人 特許業務法人英明国際特許事務所  

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