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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1360495
異議申立番号 異議2018-701059  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-04-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-12-27 
確定日 2020-02-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6351874号発明「炭化珪素エピタキシャル基板および炭化珪素半導体装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6351874号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-7〕,〔8-10〕について訂正することを認める。 特許第6351874号の請求項1,2及び4ないし10に係る特許を維持する。 特許第6351874号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6351874号発明の請求項1ないし10に係る特許についての出願は,平成28年11月30日(優先権主張 平成27年12月2日)に国際出願され,平成30年6月15日にその特許権の設定登録がされ,平成30年7月4日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は,次のとおりである。
平成30年12月27日 特許異議申立人 株式会社レクレアル(以下
,「特許異議申立人」という。)による請求
項1ないし10に係る特許に対する特許異議
の申立て
平成31年 3月 7日付け 取消理由通知書
令和 元年 5月 8日 特許権者による意見書の提出
令和 元年 7月31日付け 取消理由通知書(決定の予告)
令和 元年10月 2日 特許権者による意見書,訂正請求書(以下,
この訂正請求書による訂正請求を「本件訂正
請求」という。)の提出
令和 元年11月 8日 特許異議申立人による意見書(以下,「意見
書」という。)の提出

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
(1)一群の請求項1ないし7に係る訂正
本件訂正請求による,一群の請求項1ないし7に係る訂正の内容は,以下のアないしキのとおりである(下線部は訂正箇所を示す。以下,同じ。)。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記第1の炭化珪素層(21)上に設けられ、前記第1の不純物濃度よりも高い第3の不純物濃度を有する前記一の導電型の第2の炭化珪素層(22)」と記載されているのを,「前記第1の炭化珪素層(21)上に設けられ、500nm以上の厚みを有し、前記第1の不純物濃度よりも高くかつ5×10^(18)cm^(-3)以上である第3の不純物濃度を有する前記一の導電型の第2の炭化珪素層(22)」に訂正する

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1から3のいずれか1項に記載の炭化珪素エピタキシャル基板(51?53)」と記載されているのを,「請求項1または2のいずれか1項に記載の炭化珪素エピタキシャル基板(51?53)」に訂正する。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1から4のいずれか1項に記載の炭化珪素エピタキシャル基板(51?53)」と記載されているのを,「請求項1、2または4のいずれか1項に記載の炭化珪素エピタキシャル基板(51?53)」に訂正する。

オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1から5のいずれか1項に記載の炭化珪素エピタキシャル基板(51?53)」と記載されているのを,「請求項1、2、4または5のいずれか1項に記載の炭化珪素エピタキシャル基板(51?53)」に訂正する。

カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1から5のいずれか1項に記載の炭化珪素エピタキシャル基板(53)」と記載されているのを,「請求項1、2、4または5のいずれか1項に記載の炭化珪素エピタキシャル基板(53)」に訂正する。

キ 訂正事項7
願書に添付した明細書の段落【0014】に「第2の炭化珪素層は、第1の炭化珪素層上に設けられており、第1の不純物濃度よりも高い第3の不純物濃度を有している。」と記載されているのを,「第2の炭化珪素層は、第1の炭化珪素層上に設けられており、500nm以上の厚みを有しており、第1の不純物濃度よりも高くかつ5×10^(18)cm^(-3)以上である第3の不純物濃度を有している。」に訂正する。

訂正事項1ないし6は,一群の請求項〔1-7〕に対して請求されたものである。また,明細書に係る訂正事項7は,一群の請求項〔1-7〕について請求されたものである。

(2)一群の請求項8ないし10に係る訂正
本件訂正請求による,一群の請求項8ないし10に係る訂正の内容は,以下のア及びイのとおりである。
ア 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に「前記第1の炭化珪素層(21)上に設けられ、前記第1の不純物濃度よりも高い第3の不純物濃度を有する前記一の導電型の第2の炭化珪素層(22)」と記載されているのを,「前記第1の炭化珪素層(21)上に設けられ、500nm以上の厚みを有し、1の不純物濃度よりも高くかつ5×10^(18)cm^(-3)以上である第3の不純物濃度を有する前記一の導電型の第2の炭化珪素層(22)」に訂正する。

イ 訂正事項9
願書に添付した明細書の段落【0015】に「第2の炭化珪素層は、第1の炭化珪素層上に設けられており、第1の不純物濃度よりも高い第3の不純物濃度を有している。」と記載されているのを,「第2の炭化珪素層は、第1の炭化珪素層上に設けられており、500nm以上の厚みを有しており、第1の不純物濃度よりも高くかつ5×10^(18)cm^(-3)以上である第3の不純物濃度を有している。」に訂正する。

訂正事項8は,一群の請求項〔8-10〕に対して請求されたものである。また,明細書に係る訂正事項9は,一群の請求項〔8-10〕について請求されたものである。

2 訂正の目的の適否,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)一群の請求項1ないし7について
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的の適否
訂正前の請求項1に係る特許発明では,「第2の炭化珪素層(22)」の厚み,及び「第3の不純物濃度」については何ら特定されていない。
これに対して,訂正事項1は,請求項1に,第2の炭化珪素層(22)が「500nm以上の厚みを有し」,「5×10^(18)cm^(-3)以上である第3の不純物濃度」と限定することで,特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
よって,訂正事項1は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)新規事項の有無
訂正事項1は,明細書の段落【0058】,【0023】に基づいて導き出される構成であるから,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(ウ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は,訂正後の請求項1に係る発明並びに訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2及び4ないし7に係る発明の技術的範囲を狭めるものであるにとどまり,それらのカテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当しない。

イ 訂正事項2について
(ア)訂正の目的の適否
訂正事項2は,訂正前の請求項3の記載を削除するものである。
したがって,訂正事項2は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)新規事項の有無
訂正事項2は,訂正前の請求項3の記載を削除するものであるから,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(ウ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は,訂正前の請求項3の記載を削除するのみであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

ウ 訂正事項3ないし6について
(ア)訂正の目的の適否
訂正事項3ないし6は,上記訂正事項2に伴い,明瞭でない記載となった請求項4ないし7を明瞭な記載とするものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
したがって,訂正事項3ないし6は,特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(イ)新規事項の有無
訂正事項3ないし6は,明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(ウ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3ないし6は,明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

エ 訂正事項7について
(ア)訂正の目的の適否
訂正事項7は,上記訂正事項1に伴い,明瞭でない記載となった明細書の記載を明瞭な記載とするものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
したがって,訂正事項7は,特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(イ)新規事項の有無
訂正事項7は,明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(ウ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項7は,明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

オ 一群の請求項1ないし7についてのまとめ
以上のとおりであるから,一群の請求項1ないし7についての本件訂正請求による訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2)一群の請求項8ないし10について
ア 訂正事項8について
(ア)訂正の目的の適否
訂正前の請求項8に係る特許発明では,「第2の炭化珪素層(22)」の厚み,及び「第3の不純物濃度」については何ら特定されていない。
これに対して,訂正事項8は,請求項8に,第2の炭化珪素層(22)が「500nm以上の厚みを有し」,「5×10^(18)cm^(-3)以上である第3の不純物濃度」と限定することで,特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
よって,訂正事項8は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)新規事項の有無
訂正事項8は,明細書の段落【0058】,【0023】に基づいて導き出される構成であるから,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(ウ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項8は,訂正後の請求項8に係る発明並びに訂正後の請求項8を引用する訂正後の請求項9及び10に係る発明の技術的範囲を狭めるものであるにとどまり,それらのカテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当しない。

イ 訂正事項9について
(ア)訂正の目的の適否
訂正事項9は,上記訂正事項8に伴い,明瞭でない記載となった明細書の記載を明瞭な記載とするものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
したがって,訂正事項9は,特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(イ)新規事項の有無
訂正事項9は,明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(ウ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項9は,明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

オ 一群の請求項8ないし10についてのまとめ
以上のとおりであるから,一群の請求項8ないし10についての本件訂正請求による訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3)特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては,訂正前の全ての請求項1ないし10に係る特許が特許異議の申立ての対象とされているため,訂正事項1ないし9に関して,特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

3 小括
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって,明細書,特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正明細書,特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-7〕及び〔8-10〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1ないし10に係る発明(以下,順に「本件発明1」ないし「本件発明10」という。また,「本件発明1」ないし「本件発明10」をまとめて「本件発明」という。)は,その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
第1の不純物濃度を有する一の導電型の炭化珪素単結晶基板(10)と、
前記炭化珪素単結晶基板(10)上に設けられ、前記第1の不純物濃度よりも低い第2の不純物濃度を有する前記一の導電型の第1の炭化珪素層(21)と、
前記第1の炭化珪素層(21)上に設けられ、500nm以上の厚みを有し、前記第1の不純物濃度よりも高くかつ5×10^(18)cm^(-3)以上である第3の不純物濃度を有する前記一の導電型の第2の炭化珪素層(22)と、
前記第2の炭化珪素層(22)上に設けられ、前記第2の不純物濃度よりも低い第4の不純物濃度を有する前記一の導電型の第3の炭化珪素層(23)と、
を備える、炭化珪素エピタキシャル基板(51?53)。
【請求項2】
前記第3の不純物濃度は2×10^(19)cm^(-3)以下である、請求項1に記載の炭化珪素エピタキシャル基板(51?53)。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記第2の不純物濃度は5×10^(16)cm^(-3)以上、1×10^(19)cm^(-3)以下である、請求項1または2に記載の炭化珪素エピタキシャル基板(51?53)。
【請求項5】
前記第4の不純物濃度は1×10^(14)cm^(-3)以上、5×10^(16)cm^(-3)以下である、請求項1、2または4のいずれか1項に記載の炭化珪素エピタキシャル基板(51?53)。
【請求項6】
第1の面(S1)と前記第1の面(S1)と反対の第2の面(S2)とを有し、炭化珪素から作られたバッファ層(29,29v)をさらに備え、
前記第1の面(S1)は前記第2の炭化珪素層(22)に面しており、前記第2の面(S2)は前記第3の炭化珪素層(23)に面しており、前記バッファ層(29,29v)は、前記第1の面(S1)から前記第2の面(S2)へ向かって連続的に減少する不純物濃度プロファイルを有している、請求項1、2、4または5のいずれか1項に記載の炭化珪素エピタキシャル基板(51?53)。
【請求項7】
第1の面(S1)と前記第1の面(S1)と反対の第2の面(S2)とを有し、炭化珪素から作られたバッファ層(29v)をさらに備え、
前記第1の面(S1)は前記第2の炭化珪素層(22)に面しており、前記第2の面(S2)は前記第3の炭化珪素層(23)に面しており、
前記バッファ層(29v)の前記第1の面(S1)と前記第2の面(S2)との間の地点を中間地点とすると、前記バッファ層(29v)は、不純物濃度が、前記第1の面(S1)から前記中間地点へ向かって連続的に第1の減少率で減少し、かつ前記中間地点から前記第2の面(S2)へ向かって第2の減少率で連続的に減少する不純物濃度プロファイルを有しており、
前記第1の減少率は前記第2の減少率よりも小さい、
請求項1、2、4または5のいずれか1項に記載の炭化珪素エピタキシャル基板(53)。
【請求項8】
第1の不純物濃度を有する一の導電型の炭化珪素単結晶基板(10)と、
前記炭化珪素単結晶基板(10)上に設けられ、前記第1の不純物濃度よりも低い第2の不純物濃度を有する前記一の導電型の第1の炭化珪素層(21)と、
前記第1の炭化珪素層(21)上に設けられ、500nm以上の厚みを有し、前記第1の不純物濃度よりも高くかつ5×10^(18)cm^(-3)以上である第3の不純物濃度を有する前記一の導電型の第2の炭化珪素層(22)と、
前記第2の炭化珪素層(22)上に設けられ、前記第2の不純物濃度よりも低い第4の不純物濃度を有する前記一の導電型の第3の炭化珪素層(23)と、
前記第3の炭化珪素層(23)上に設けられた、前記一の導電型と異なる導電型の第4の炭化珪素層(124,224,324)と、
を備える、炭化珪素半導体装置(100,200,300)。
【請求項9】
前記炭化珪素単結晶基板(10)に電気的に接続された第1の電極(101,201,301)と、
前記第4の炭化珪素層(124,224,324)に電気的に接続された第2の電極(102,202,302)と、
をさらに備える、請求項8に記載の炭化珪素半導体装置(100,200,300)。
【請求項10】
前記第1の電極(101,201,301)は前記炭化珪素単結晶基板(10)にオーミック接続されており、前記第2の電極(102,202,302)は前記第4の炭化珪素層(124,224,324)にオーミック接続されている、請求項9に記載の炭化珪素半導体装置(100,200,300)。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし10に係る特許に対して,当審が令和元年7月31日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は,次のとおりである。

特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載されたものではないから,請求項1ないし10に係る特許は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,取り消されるべきものである。

2 当審の判断
(1)本件特許の課題及び課題を解決するための手段
本件発明の課題は,段落【0005】,【0011】,【0013】,【0017】,【0027】,【0032】及び【0035】の記載から,「炭化珪素の代表的な結晶欠陥のうち,基底面転位が,バイポーラ動作時の通電に伴って,活性層中へ伸長及び拡大することを妨げ,バイポーラ動作時の通電劣化を抑制することができる,炭化珪素エピタキシャル基板および炭化珪素半導体装置を提供すること。」である。

また,課題を解決する手段に関連して,

ア 炭化珪素エピタキシャル基板を用いた炭化珪素半導体装置のバイポーラ動作時に,第1の炭化珪素層から第3の炭化珪素層の方へ向かう基底面転位の伸長が第2の炭化珪素層によって妨げられることによって,バイポーラ動作時において,第3の炭化珪素層中の基底面転位の伸長および拡大に起因した通電劣化を抑制することができること。(段落【0018】)

イ 第2の炭化珪素層22の第3の不純物濃度の下限値は,第1の不純物濃度よりも高い必要があり,具体的には,基底面転位の伸長がほぼ防止される,5×10^(18)cm^(-3)以上であること。(段落【0028】)

ウ (実施例2)として,不純物濃度5×10^(18)cm^(-3)を有する炭化珪素基板10と,炭化珪素基板10上に形成された,厚さが200nmで,不純物濃度が5×10^(18)cm^(-3)から5×10^(17)cm^(-3)まで線形に減少するバッファ層と,バッファ層上に形成された,不純物濃度が5×10^(17)cm^(-3)の第1の炭化珪素層21と,第1の炭化珪素層21上に形成された,厚さが500nmで,不純物濃度が5×10^(17)cm^(-3)から1×10^(19)cm^(-3)まで線形に増加するバッファ層と,バッファ層上に形成された,厚さが500nmで,不純物濃度が1×10^(19)cm^(-3)の第2の炭化珪素層22と,第2の炭化珪素層22上に形成された,厚さが10μmで,不純物濃度が5×10^(19)cm^(-3)から3×10^(16)cm^(-3)まで線形に減少するバッファ層29と,バッファ層29上に形成された,厚さが10μmで,不純物濃度が3×10^(16)cm^(-3)の第3の炭化珪素層23からなる,炭化珪素エピタキシャル基板52が示されていること。(段落【0058】,【0059】)

が記載されている。

(2)上記記載から,本件発明1及び8の
「第1の不純物濃度を有する一の導電型の炭化珪素単結晶基板(10)と、
前記炭化珪素単結晶基板(10)上に設けられ、前記第1の不純物濃度よりも低い第2の不純物濃度を有する前記一の導電型の第1の炭化珪素層(21)と、
前記第1の炭化珪素層(21)上に設けられ、500nm以上の厚みを有し,前記第1の不純物濃度よりも高くかつ5×10^(18)cm^(-3)以上である第3の不純物濃度を有する前記一の導電型の第2の炭化珪素層(22)と、
前記第2の炭化珪素層(22)上に設けられ、前記第2の不純物濃度よりも低い第4の不純物濃度を有する前記一の導電型の第3の炭化珪素層(23)」
を備えることが,バイポーラ動作時の通電に伴って基底面転位が活性層中へ伸長及び拡大することを妨げ,バイポーラ動作時の通電劣化を抑制することは,当業者にとって明らかであり,また,本件発明1及び8で特定される構成によっては,本件発明の課題を解決できないとはいえないから,本件発明1及び8は,当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
さらに,本件発明2,4ないし7及び9,10は,上記本件発明1及び8の構成を全て備え,さらに限定したものであるから,本件発明2,4ないし7及び9,10は,当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

(3)よって,本件発明1,2及び4ないし10は,発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立て理由について
1 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は,特許異議申立書において,以下のとおり主張する。
(1)訂正前の特許請求の範囲に記載された請求項1ないし3,5,8及び9に係る特許について,特開2011-114252号公報(以下,「甲第1号証」という。)を証拠として提出し,特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるから,請求項1ないし3,5,8及び9に係る特許を取り消すべきものである。

(2)訂正前の特許請求の範囲に記載された請求項1ないし6及び8ないし10に係る特許について,主たる証拠として甲第1号証並びに従たる証拠としてR.L.Myers-Ward et al.,“Spontaneous Conversion of Basal Plane Dislocations in 4°Off-axis 4H-SiC Epitaxial Layers”,Cryst. Growth Des.,2014(11),pp5331-5338(以下,「甲第2号証」という。)及び特開2011-236085号公報(以下,「甲第3号証」という。)を提出し,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項1ないし6及び8ないし10に係る特許を取り消すべきものである。

(3)訂正前の特許請求の範囲に記載された請求項1ないし4及び8ないし10に係る特許について,主たる証拠として国際公開第2008/088019号(以下,「甲第4号証」という。)及び従たる証拠として米国特許出願公開第2012/0105094号明細書(以下,「甲第5号証」という。)を提出し,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項1ないし4及び8ないし10に係る特許を取り消すべきものである。

2 甲号証の記載等
(1)甲第1号証
甲第1号証には,以下の記載がある。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の炭化珪素半導体基板と、
前記基板上に形成され、前記基板より低不純物濃度の第1導電型の第1の炭化珪素半導体層と、
前記第1の炭化珪素半導体層上に形成され、前記第1の炭化珪素半導体層より高不純物濃度の第1導電型の第2の炭化珪素半導体層と、
前記第2の炭化珪素半導体層上に形成され、前記第2の炭化珪素半導体層より低不純物濃度の第3の炭化珪素半導体層と、
を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記炭化珪素半導体基板と前記第1の炭化珪素半導体層との間に、前記基板より低不純物濃度で前記第1の炭化珪素半導体層より高不純物濃度の第1導電型の第4の炭化珪素半導体層を有することを特徴とする請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第2の炭化珪素半導体層の不純物濃度が5×10^(17)cm^(-3)以上5×10^(18)cm^(-3)以下であることを特徴とする請求項2記載の半導体装置。
【請求項4】
前記第3の炭化珪素半導体層が第1導電型であることを特徴とする請求項3記載の半導体装置。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素(SiC)を用いた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体パワーデバイスにおいては、オン抵抗を最小化し、耐圧を最大化するようなデバイス構造およびデバイス材料が求められる。従来は、シリコンを半導体材料として半導体パワーデバイスが製造されていた。一方、炭化珪素(SiC)を材料に用いることでシリコンと比べて飛躍的にオン抵抗を低く、かつ、耐圧を高く設計できる。このため、次世代の半導体パワーデバイスとして炭化珪素を用いたパワーデバイスが研究されている。
【0003】
しかしながら、炭化珪素を用いた半導体パワーデバイスには、基板中に基底面転位(BPD:Basal Plane Dislocation)称される転位が存在する。そして、この転位は製造プロセス中やデバイス動作中に拡張する。このため、デバイスのオン抵抗が増大したり、リーク電流が増大したりするなどの問題が生ずる。
【0004】
この問題を解決するために、特許文献1には、炭化珪素のエピタキシャル成長前にKOHエッチングを行う方法が開示されている。この方法によれば、BPDの周囲のエピタキシャル成長を、BPDの無い部分のエピタキシャル成長とは異なるようにコントロールする。そして、BPDのバーガーズベクトルを保存しながら、BPDをよりデバイス特性に対する影響が小さい刃状転位(TED:Threading Edge Dislocation)に転換して、デバイス活性領域のBPD密度を下げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7018554号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
もっとも、パワーデバイス製造プロセスには、デバイス形成のためのイオン注入およびアニール工程がある。BPDをTEDに変換する処理をしていたとしても、これらの工程で基板中に存在するBPDが再活性化し、デバイス活性領域に移動する場合があることを本願発明者らは見出した。
【0007】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであり、その目的とするところは、BPDによる性能の劣化および信頼性の低下を防止する半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様の半導体装置は、第1導電型の炭化珪素半導体基板と、前記基板上に形成され、前記基板より低不純物濃度の第1導電型の第1の炭化珪素半導体層と、前記第1の炭化珪素半導体層上に形成され、前記第1の炭化珪素半導体層より高不純物濃度の第1導電型の第2の炭化珪素半導体層と、前記第2の炭化珪素半導体層上に形成され、前記第2の炭化珪素半導体層より低不純物濃度の第3の炭化珪素半導体層と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、BPDによる性能の劣化および信頼性の低下を防止する半導体装置を提供することが可能となる。」

「【0017】
(第1の実施の形態)
本実施の形態の半導体装置は、第1導電型の炭化珪素半導体基板と、この基板上に形成され、基板より低不純物濃度の第1導電型の第1の炭化珪素半導体層と、第1の炭化珪素半導体層上に形成され、第1の炭化珪素半導体層より高不純物濃度の第1導電型の第2の炭化珪素半導体層と、第2の炭化珪素半導体層上に形成され、第2の炭化珪素半導体層より低不純物濃度の第3の炭化珪素半導体層と、を有することを特徴とする。そして、第3の炭化珪素半導体層が第1導電型である。
【0018】
図1は、本実施の形態の半導体装置であるMOSFETの構成を示す断面図である。このMOSFET100は、第1と第2の主面を有するSiC基板(炭化珪素半導体基板)12を備えている。図1においては、第1の主面とは図の上側の面であり、第2の主面とは図の下側の面である。
【0019】
このSiC基板12は、不純物濃度5×10^(18)?1×10^(19)cm^(-3)程度の、例えばN(窒素)をn型不純物として含む六方晶SiC基板(n^(+)基板)である。
【0020】
また、SiC基板12の第1の主面は、(0001)方向または(000-1)方向に対して、例えば、0度より大きく8度以下のオフ角を有している。オフ角が0度の場合は、SiC基板12上のエピタキシャル成長が困難になるため、オフ角は0度より大きいことが望ましい。また、オフ角が8度より大きくなると、SiC基板を製造する際のコストが増加するため望ましくない。
【0021】
このSiC基板12の第1の主面上には、n型のSiCのバッファ層(第4の炭化珪素半導体層)14が形成されている。バッファ層の厚さは、例えば0.5μm程度である。
【0022】
さらに、バッファ層14を介してSiC基板12上に、SiC基板12よりも低不純物濃度のn型の第1のSiC層(第1の炭化珪素半導体層)16を備えている。第1のSiC層16の不純物濃度は、例えば、1×10^(15)?1×10^(16)cm^(-3)程度である。第1のSiC層16の厚さは、例えば1.0?2.0μm程度である。
【0023】
なお、バッファ層14は、高濃度のSiC基板12上に、低不純物濃度の第1のSiC層16をエピタキシャル成長で形成する際に、格子不整合に伴う欠陥が生ずることを防止するために挿入することが望ましい。
【0024】
バッファ層14の不純物濃度は、SiC基板12よりも低濃度で、第1のSiC層16よりも高濃度である。バッファ層14により、急激な不純物濃度の変化を抑え、第1のSiC層16を形成する際に、SiC基板12との格子不整合を緩和する。
【0025】
第1のSiC層16上には、第1のSiC層16よりも高不純物濃度のn型の第2のSiC層(第2の炭化珪素半導体層)18が形成されている。第2のSiC層18の厚さは、例えば0.5?1.5μm程度である。
【0026】
第2のSiC層18上には、第2のSiC層18よりも低不純物濃度のn型の第3のSiC層(第3の炭化珪素半導体層)20が形成されている。第3のSiC層20の不純物濃度は、例えば、1×10^(15)?1×10^(16)cm^(-3)程度である。また、第3のSiC層20の厚さは、要求されるデバイス特性によって異なるが、例えば5.0?100μm程度である。
【0027】
第3のSiC層20の一部表面には、p型不純物の不純物濃度1×10^(17)?5×10^(17)cm^(-3)程度のp型のpウェル領域22が形成されている。pウェル領域22の深さは、例えば0.6μm程度である。
【0028】
pウェル領域22の一部表面には、n型不純物の不純物濃度1×10^(20)cm^(-3)程度のn型のソース領域24が形成されている。ソース領域24の深さは、pウェル領域24の深さよりも浅く、例えば0.3μm程度である
【0029】
また、pウェル領域22の一部表面であって、n型のソース領域24の側方に、p型不純物の不純物濃度1×10^(19)?1×10^(20)cm^(-3)程度のp型のpウェルコンタクト領域26が形成されている。pウェルコンタクト領域26の深さは、pウェル領域22の深さよりも浅く、例えば0.3μm程度である。
【0030】
さらに、pウェル領域22、第3のSiC層20の表面に連続的に、これらの領域および層を跨ぐように形成されたゲート絶縁膜28を有している。ゲート絶縁膜28には、例えばSi酸化膜やhigh-k絶縁膜が適用可能である。
【0031】
そして、ゲート絶縁膜28上には、ゲート電極30が形成されている。ゲート電極30には、例えばポリシリコン等が適用可能である。ゲート電極30上には、例えば、シリコン酸化膜で形成される層間絶縁膜32が形成されている。
【0032】
そして、ソース領域24と、pウェルコンタクト領域26と電気的に接続される第1の電極(ソース・pウェル共通電極)34を備えている。第1の電極(ソース・pウェル共通電極)34は、例えば、Tiのバリアメタル層34aと、バリアメタル層34a上のAlのメタル層34bとで構成される。また、SiC基板12の第2の主面上には、第2の電極(ドレイン電極)36が形成されている。
【0033】
なお、本実施の形態において、n型不純物は例えば、P(リン)が好ましいが、N(窒素)、またはAs(ヒ素)等を適用することも可能である。また、p型不純物は例えば、Al(アルミニウム)が好ましいが、B(ボロン)等を適用することも可能である。
【0034】
図3は、本実施の形態の作用を説明する図である。従来のように、第1のSiC層16と第2のSiC層18とがない場合には、製造時のイオン注入や熱処理のプロセスあるいはデバイス動作中にSiC基板12中に残っているBPD86a(図3中の点線)が再活性化し、SiC基板12上面に移動し、デバイス活性領域まで到達するようなBPD86b(図3中の一点鎖線)に変化する。
【0035】
これに対し、これに対し、本実施の形態によれば、プロセスやデバイス動作により、BPD86aが再活性化し、SiC基板12上面方向に移動する際、第1のSiC層16と第2のSiC層18とに存在する不純物濃度差に由来する応力によりその間に引き寄せられ、第2のSiC層18より上の層に伸びることのないBPD86c(図3中の実線)に変化する。
【0036】
したがって、本実施の形態によれば、再活性化したSiC基板12内のBPDがデバイス活性領域まで伸びることがない。したがって、BPDによる、デバイスのオン抵抗の増大、リーク電流の増大、ゲート絶縁膜の耐圧劣化等のデバイス特性劣化が生じない。よって、BPDによる性能の劣化および信頼性の低下が抑制された半導体装置を提供することが可能となる。
【0037】
なお、第2のSiC層(第2の炭化珪素半導体層)の濃度は5×10^(17)cm^(-3)以上5×10^(18)cm^(-3)以下であることが望ましい。5×10^(17)cm^(-3)未満では、再活性化したBPDがデバイス活性領域に伸びることを抑制できない恐れがあるからである。また、5×10^(18)cm^(-3)より高いと、上層の第2のSiC層のエピタキシャル成長が格子不整合により困難になる恐れがあるからである。
【0038】
次に本実施の形態の半導体装置の製造方法について説明する。本実施の形態の半導体装置の製造方法は、第1導電型の炭化珪素半導体基板を準備する工程と、基板上に基板より低不純物濃度の第1導電型の第1の炭化珪素半導体層を形成する工程と、第1の炭化珪素半導体層上に第1の炭化珪素半導体層より高不純物濃度の第1導電型の第2の炭化珪素半導体層を形成する工程と、第2の炭化珪素半導体層上に第2の炭化珪素半導体層より低不純物濃度の第3の炭化珪素半導体層を形成する工程と、を有する。
【0039】
なお、第3の炭化珪素半導体層が第1導電型である。
【0040】
ここで、炭化珪素半導体基板と第1の炭化珪素半導体層との間に、基板より低不純物濃度で第1の炭化珪素半導体層より高不純物濃度の第1導電型の第4の炭化珪素半導体層を形成する工程を有することが望ましい。
【0041】
第2の炭化珪素半導体層の濃度が5×10^(17)cm^(-3)以上5×10^(18)cm^(-3)以下であることが望ましい。
【0042】
図4?図6は、本実施の形態の半導体装置の製造方法を示す工程断面図である。
【0043】
まず、図4に示すように、n型不純物としてP(リン)またはN(窒素)を不純物濃度5×10^(18)?1×10^(19)cm^(-3)程度含み、例えば、厚さ300μmであり、六方晶系の結晶格子を有する低抵抗のSiC基板(炭化珪素半導体基板)12を準備する。このSiC基板12の主面は、(0001)方向または(000-1)方向に対し、オフ角が0度より大きく8度以下となっている。
【0044】
そして、SiC基板12の一方の主面上にエピタキシャル成長法により、n型不純物として例えばNを含み、厚さが0.5μm程度のバッファ層14を成長させる。
【0045】
バッファ層14を成長させる工程の前に、KOHエッチング等のBPDをTEDに変換する工程を行うことが望ましい。
【0046】
次に、バッファ層14の上に、SiC基板12よりも低不純物濃度のn型の第1のSiC層(第1の炭化珪素半導体層)16をエピタキシャル成長法により成長させる。第1のSiC層16の不純物濃度は、例えば、1×10^(15)?1×10^(16)cm^(-3)程度である。第1のSiC層16の厚さは、例えば1.0?2.0μm程度である。
【0047】
ここで、バッファ層14の不純物濃度は、SiC基板12よりも低濃度で、第1のSiC層16よりも高濃度である。
【0048】
次に、図5に示すように、第1のSiC層16よりも高不純物濃度のn型の第2のSiC層(第2の炭化珪素半導体層)18をエピタキシャル成長法により成長させる。第2のSiC層18の厚さは、例えば0.5?1.5μm程度である。
【0049】
次に、図6に示すように、第2のSiC層18上に第2のSiC層18よりも低不純物濃度のn型の第3のSiC層(第3の炭化珪素半導体層)20をエピタキシャル成長法により形成する。第3のSiC層20の不純物濃度は、例えば、1×10^(15)?1×10^(16)cm^(-)3程度である。また、第3のSiC層20の厚さは、例えば5.0?100μm程度である。
【0050】
バッファ層14、第1のSiC層16、第2のSiC層18、第3のSiC層20は同一のエピタキシャル成長装置内で原料ガスを切り替えることにより連続成膜することが望ましい。製造コストが低減でき、各層の品質も高く維持することが可能だからである。
【0051】
その後、p型不純物であるAlを第3のSiC層20にイオン注入し、pウェル領域22を形成する。また、n型不純物である第3のPをSiC層20にイオン注入し、ソース領域24を形成する。さらに、p型不純物であるAlをSiC層14にイオン注入し、pウェルコンタクト領域20を形成する。この後、例えば、不活性ガス雰囲気中で、1500℃?1900℃程度の熱処理によりイオン注入した不純物を活性化する。
【0052】
その後、公知の半導体プロセスにより、ゲート絶縁膜28、ゲート電極30、層間絶縁膜32、第1の電極(ソース・pウェル共通電極)34、第2の電極(ドレイン電極)36を形成し、図1に示すMOSFETが製造される。」

【図1】


【図6】


上記記載から,甲第1号証には,以下の発明(以下,「甲第1号証発明」という。)が記載されている。

「パワーデバイス製造プロセスにおけるデバイス形成のためのイオン注入およびアニール工程による基板中の基底面転位による性能の劣化及び信頼性の低下を防止するために,
N(窒素)をn型不純物として(5×10^(18)?1×10^(19)cm^(-3)程度)含む六方晶SiC基板12と,
SiC基板12上にエピタキシャル成長法により成長させた,SiC基板より低不純物濃度(1×10^(15)?1×10^(16)cm^(-3)程度)のn型の第1のSiC層16と,
第1のSiC層16上にエピタキシャル成長法により成長させた,第1のSiC層16より高不純物濃度(5×10^(17)cm^(-3)以上,5×10^(18)cm^(-3)以下)で厚さが0.5?1.5μm程度のn型の第2のSiC層18と,
第2のSiC層上にエピタキシャル成長法により成長させた,第2のSiC層18よりも低不純物濃度(1×10^(15)?1×10^(16)cm^(-3)程度)のn型の第3のSiC層20と,
第3のSiC層20の一部表面にイオン注入により形成された,p型不純物の不純物濃度(1×10^(17)?5×10^(17)cm^(-3)程度)のp型のpウェル領域22と,
を備え,
第1のSiC層16,第2のSiC層18,第3のSiC層20は,同一のエピタキシャル成長装置内で原料ガスを切り替えることにより連続成膜されたことを特徴とする,
半導体装置。」

(2)甲第2号証
甲第2号証には,以下の記載がある。

「A highly doped(?7×10^(17)cm^(-3))N^(+)BL was incorporated prior to the lower doped epilayer for some experiments as indicated.」(第5332頁左欄61行ないし63行)(抄訳:示された実験では,高ドープ(?7×10^(17)cm^(-3))N^(+)BLが,低ドープエピ層の前に設けられた。」

「To evaluate the possibility of the highly doped buffer layer reducing the conversion efficiency of BPDs, different epitaxial layers were grown on 1/4 of 100mm pieces from the same substrate of Vendor II with doping concentrations ranging from 2×10^(15) to 1×10^(17)cm^(-3).」(第5336頁左欄35行ないし39行)(抄訳:高ドープバッファ層によるBPDの変換効率の低減可能性について評価するために,2×10^(15)?1×10^(17)cm^(-3)の不純物濃度を有する様々なエピタキシャル層を,Vendor II の同一基板からの100mmの破片の1/4上に成長させた。)

(3)甲第3号証
甲第3号証には,以下の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャル炭化珪素(SiC)単結晶基板及びその製造方法に関するものである。」

「【0021】
図7aは図2aと同様の場所に、本発明を適用してドーピングした場合のドーピングプロファイルであり、理想的なドーピングプロファイルが得られた時には、ドーピング密度は点線のようになる。つまり、ドーピングガスである窒素を導入しながら形成するドープ層では、C/Si比を図1における値Yよりも高く、1.5以上にしているため、残留キャリア密度の影響を受けることなくN_(C)が得られるようにドーピングされる。一方、ドーピングガスである窒素を導入せずに形成するノンドープ層では、C/Si比が図1における値Yである、1.0程度のため、図2aのN_(B1)の残留キャリア密度を示すようになる。しかし実際には、ドープ層とノンドープ層の間のドーピング密度変化は連続的であるため、実線のようなプロファイルになる。そして、実効的なドーピング密度はN_(C1)程度と考えられる。」

【図7a】


(4)甲第4号証
甲第4号証には,以下の記載がある。

「技術分野
[0001] この発明は、炭化珪素単結晶基板の表面から成長させた炭化珪素エピタキシャル部の内部で電流通電時に電子と正孔が再結合するバイポーラ型半導体素子に関する。一例として、この発明は、特に、電流通電に伴い順方向電圧が経時増加する要因である積層欠陥の核となる欠陥を低減させることが可能なバイポーラ型半導体素子に関する。
背景技術
[0002] 従来、炭化珪素(SiC)などのワイドギャップ半導体材料は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界強度が約10倍高い等の優れた特性を有しており、高い耐逆電圧特性を有する高耐圧バイポーラパワー半導体素子に好適な材料として注目されている。
[0003] pinダイオードやバイポーラトランジスタ、GTO(ゲートターンオフトランジスタ)、GCT(ゲート転流型ターンオフトランジスタ)などのバイポーラ半導体素子は、ショットキーダイオードやMOSFETなどのユニポーラ半導体素子に比べてビルトイン電圧が高いが、少数キャリアの注入によるドリフト層の伝導度変調によりオン抵抗が大幅に小さくなる。
[0004] したがって、電力用途などの高電圧大電流領域では、損失を小さくするために、バイポーラ半導体素子が用いられている。SiCでこれらのバイポーラ半導体素子を構成すると、Siの素子に比べて格段に優れた性能を実現できる。
[0005] 例えば、SiCで構成した10kVの高耐圧pinダイオード素子は、順方向電圧がSiのpinダイオードの約1/3であり、オフ時の速度に該当する逆回復時間が約1/20以下と高速である。
[0006] また、SiCで構成した10kVの高耐圧pinダイオード素子は、電力損失をSiのpinダイオードの約1/5以下に低減でき、省エネルギー化に大きく貢献できる。また、SiCのpinダイオード以外にもSiCのnpnトランジスタやSiCのSIAFET、SiCのSIJFETなどが開発され、同様の電力損失低減効果が報告されている(例えば、非特許文献1を参照)。
[0007] この他には、ドリフト層として反対極性のp型半導体層を用いたSiCのGTOなども開発されている(例えば、非特許文献2を参照)。
[0008] SiCを用いて半導体素子を作製する場合、SiC単結晶の拡散係数が極めて小さいために不純物を深く拡散させることが困難である。このことから、SiCバルク単結晶基板上に、基板と同一の結晶型で、所定の膜厚および不純物濃度を有する単結晶膜をエピタキシャル成長させることが多い。
[0009] 図6に示すように、ドリフト層の不純物濃度は、素子が要求する耐電圧値によって決まる。例えば、耐電圧値20kVの半導体素子を作製する場合、不純物濃度が5×10^(14)cm^(-3)以下のドリフト層が必要である。なお、図6において、縦軸の「1E+14」,「1E+15」,「1E+16」は、それぞれ、1×10^(14),1×10^(15),1×10^(16)を表している。
[0010] ところで、このようにして得られた従来のバイポーラ半導体素子には、マテリアルズ サイエンス フォーラム ボリューム389-393(2002)第1259-1264頁[Materials Science Forum Vols.389-393(2000) pp.1259-1264]で報告されているように、新品のバイポーラ半導体素子に通電を開始してから通電時間(使用時間)が増えるに従い経時変化により順方向電圧が増大する現象がある。
[0011] この現象を「順方向電圧劣化」と呼ぶ。新品のバイポーラ半導体素子に順方向に、電流密度100A/cm^(2)で1時間通電したとき、通電開始直後と1時間通電後の電流密度100A/cm^(2)での「順方向電圧差ΔVf」で順方向電圧劣化の度合いを表す。
[0012] SiC基板中には、貫通らせん転位(TSD)、貫通刃状転位(TED)といったc軸方向に平行な貫通タイプの線欠陥とc軸に垂直な基底面転位(BPD)といった線欠陥が含まれている。線欠陥のほとんどは、エピタキシャル成長の成長方向(c軸方向)と平行なTSDとTEDである。これは、成長界面付近の転位には、界面と垂直になるような力が働くため、c軸と垂直なBPDはTEDに変換されるためと考えられる。
[0013] しかし、BPDの一部は、TEDに変換されず、BPDのまま存在する。更にエピタキシャル成長時に、基板とエピタキシャル層の界面から発生するBPDが存在することも報告されている(例えば、非特許文献3を参照)。
[0014] 上述のTSDやTEDといった線欠陥、およびフランクタイプの積層欠陥は安定であることが知られている。しかし、BPDは安定ではなく、積層欠陥に拡張してしまうことが報告されている。
[0015] BPDは、c面内に存在する完全転位とよばれる線欠陥で、これは、簡単に二つのショックレーの部分転位に分解する。二つの部分転位は反発し合う力が働くので、BPDの分解が容易に起こる。この二つの部分転位の間には、面欠陥が存在し、積層欠陥となる。
[0016] この部分転位と積層欠陥を含めたものは拡張転位と呼ばれている。積層欠陥は面積に比例するエネルギーを持つので、部分転位の反発力と釣り合うところで、積層欠陥の拡張は一旦止まり、エピタキシャル膜の結晶中に拡張転位として存在する。
[0017] SiC中で、この二つの部分転位の一方はSiをコアとして持ち、もう片方はCをコアとして持っている。Siコアを持つ部分転位はSiC中の再結合発光程度の比較的低いエネルギーで積層欠陥を広げる方に動くことが報告されている。この時、Cコアを持つ部分転位は動かない。この結果、バイポーラデバイス中での電子と正孔の再結合発光により、積層欠陥が広がっていく。
[0018] この広がった積層欠陥は、キャリアのライフタイムキラーとして働き、積層欠陥の存在するエリアでは、十分な伝導度変調が起こらない。このため、電流は、積層欠陥の存在しないエリアに集中し、電流の流れる面積が小さくなる。
[0019] その結果、オン電圧が上昇する現象が発生する。その結果、素子内部での電力損失が著しく増大し、素子内部での発熱により素子が破壊されてしまう場合が生じる。
[0020]
以上のように、SiCバイポーラ素子は、Si素子に比べて大変優れた初期特性を有しているにもかかわらず、この順方向電圧劣化のため信頼性が低い。そのため、長時間運転可能で電力損失が少なくかつ信頼性の高いインバーター等の電力変換装置を実現することが困難であった。このため、SiCバイポーラ素子では、順方向電圧劣化を低減させるという課題があった。
非特許文献1:松波弘之編著、「半導体SiC技術と応用」、日刊工業新聞社刊、(2003年 3月31日初版発行)、218-221頁、
非特許文献2:A.K.Agarwal et.al、Materials Science Forum Volume 389-393、2000年、1349-1352頁
非特許文献3:H.Tsuchida et.al、JapaneseJournal of Applied Physics,Vol.44,No.25,2005年、L806-L808頁
発明の開示
発明が解決しようとする課題
[0021] そこで、この発明の課題は、順方向電圧の増加を抑制できるバイポーラ型半導体素子を提供することにある。
発明が解決するための手段
[0022] 上記課題を解決するため、この発明のバイポーラ型半導体素子は、炭化珪素単結晶基板と、
上記炭化珪素単結晶基板上に形成されると共に通電時に電子と正孔が再結合する炭化珪素エピタキシャル部とを備え、
上記炭化珪素エピタキシャル部は、不純物濃度が1×10^(13)cm^(-3)以下であるドリフト層を有していることを特徴としている。
[0023] この発明のバイポーラ型半導体素子によれば、ドリフト層の不純物濃度を1×10^(13)cm^(-3)以下としたことによって、順方向電圧劣化を抑制することが可能となる。
[0024] 半導体デバイス中のバンド構造は、例えば、i層として5×10^(14)cm^(-3)のドナー不純物濃度をもつ耐電圧20kVのpinダイオードの場合、図7に示すようになる。積層欠陥が形成される準位E_(SF)は、導電帯のレベルEcよりも0.22eVだけ下に位置する。このとき、室温でのフェルミレベルEfは、導電帯のレベルEcよりも、0.22eVだけ下に形成されている。このとき、i層の濃度は必要以上に高純度化しないのが普通である。
[0025] ここで、図8に示すように、i層のフェルミレベルEfは不純物濃度が下がることによって低下する。例えば、i層の不純物濃度を1×10^(13)cm^(-3)とすると、図9に示すように、室温でのフェルミレベルEfは、導電帯のレベルEcよりも0.33eVだけ下に形成される。この場合、フェルミレベルEfよりも上にある積層欠陥の準位E_(SF)は電子で占有されていない。
[0026] したがって、i層を高純度化すると、積層欠陥はライフタイムキラーとして働き難くなり、順方向電圧劣化を抑制することが可能となる。
[0027] また、この発明は、上記炭化珪素単結晶基板と炭化珪素エピタキシャル膜が、六方晶である場合に好ましく適用される。より具体的には、この発明は、上記炭化珪素単結晶基板と炭化珪素エピタキシャル膜が、六方晶四回周期型、六方晶六回周期型、六方晶二回周期型のうちのいずれかである場合に好ましく適用される。また、この発明は、上記炭化珪素単結晶基板と炭化珪素エピタキシャル膜が、菱面十五回周期型である場合に好ましく適用される。
[0028] 通常は、10kV程度の耐電圧を満たすためには、不純物濃度を5×10^(14)cm^(-3)?1×10^(15)cm^(-3) とする最低限の高純度化を行い、製造が難しくなると共にコスト高を招くような必要以上の高純度化は行わない。これに対し、本発明では、耐電圧のために要する最低限の不純物濃度の高純度化を越える高純度化を行ったことで、順方向電圧の増加を抑制できたものである。
[0029] なお、一実施形態のバイポーラ型半導体素子では、上記ドリフト層の不純物濃度を、0.8×10^(13)cm^(-3)以上とした。
[0030] この実施形態では、高純度化のための製造上の困難さを抑えつつ、順方向電圧の増加を抑制することが可能となる。
[0031] この発明の炭化珪素バイポーラ型半導体素子によれば、ドリフト層の不純物濃度を1×10^(13)cm^(-3)以下としたことによって、順方向電圧の増加を抑制できる。」

「[0034] (第1の実施の形態)
図1は、この発明のバイポーラ半導体素子の第1実施形態としてのpn接合ダイオード(pinダイオード)20の断面図である。この第1実施形態では、第1の導電型としてのn型の4H型SiCで作製した基板21の上に、以下に説明する半導体層を形成する。なお、4H型の「H」は六方晶を表し、4H型の「4」は原子積層が4層周期となる結晶構造を表している。
[0035] 上記n型の4H型SiC基板21上に、順次、不純物濃度が1×10^(13)cm^(-3)のn型4H-SiC、p型(第2の導電型)4H-SiCをエピタキシャル成長させて、後述するように、エピタキシャルpinダイオード20を作製する。
[0036] 図1に示すn型の4H型SiC基板21は、改良レーリー法によって成長させたインゴットをオフ角θを8度にしてスライスし、鏡面研磨することによって作製した。ホール効果測定法によって求めたSiC基板21のキャリヤ密度は5×10^(18)cm^(-3)、厚さは400μmである。
[0037] カソードとなる基板21の上に、CVD法によって窒素ドープn型SiC層(n型成長層)とアルミニウムドープp型SiC層(p型成長層)を順次エピタキシャル成長で形成する。上記窒素ドープn型SiC層であるn型成長層が、図1に示すn型のバッファ層22とn型のドリフト層23となる。バッファ層22はドナー密度7×10^(17)cm^(-3)、膜厚は10μmである。このバッファ層22は必ずしも必要ではなくこれを形成しない場合もある。一方、ドリフト層23はドナー密度1×10^(13)cm^(-3)、膜厚は200μmである。
[0038] 一方、上記アルミニウムドープp型SiC層であるp型成長層が、アノードとなるp型接合層24とp+型コンタクト層25となる。このp型接合層24はアクセプタ密度5×10^(17)cm^(-3)、膜厚は1.5μmである。また、p+型コンタクト層25はアクセプタ密度約1×10^(18)cm^(-3)、膜厚は0.5μmである。」

「[0054] 次に、基板21の下面に、Ni(厚さ350nm)を形成しカソード電極28とする。P+型コンタクト層25上に、Ti(チタン:厚さ350nm)とAl(アルミニウム:厚さ100nm)の膜をそれぞれを蒸着し、アノード電極29とする。アノード電極29は、Ti層29aとAl層29bから構成されている。最後に、1000℃で20分間の熱処理を行って、カソード電極28およびアノード電極29をそれぞれオーミック電極にする。pn接合のサイズは直径が2.6mmφでありほぼ円形である。なお、この実施形態ではアルミニウムイオン注入によってp型JTE26を形成したが、ボロン(B)のイオン注入を用いた場合でも同様の効果がある。」

[図1]


(なお,図1の70の数字は,20の誤記であると認められる。)

上記記載から,甲第4号証には,以下の発明(以下,「甲第4号証発明」という。)が記載されている。

「バイポーラデバイス中での電子と正孔の再結合発光により,積層欠陥が広がり,オン電圧が上昇することによる,順方向電圧の増加を抑制するために,i層を高純度化し,積層欠陥がライフタイムキラーとして働き難くし,順方向電圧劣化を抑制することが可能となるバイポーラ型半導体素子であって,
第1の導電型としてのn型の4H型SiCで作成したキャリア密度が5×10^(18)cm^(-3)の基板21を備え,
SiC基板21上に,窒素ドープn型SiC層であるドナー密度7×10^(17)cm^(-3),膜厚10μmのn型のバッファ層22と,
バッファ層22上に,窒素ドープn型SiC層であるドナー密度1×10^(13)cm^(-3),膜厚200μmのn型のドリフト層23と,
をエピタキシャル成長させ,
ドリフト層23上に,p型4H-SiCをエピタキシャル成長させる,
pn接合ダイオード(pinダイオード)20。」

(5)甲第5号証
甲第5号証には,以下の記載がある。

「ABSTRACT
…Further, a defect termination layer (DTL) is arranged between the substrate and the collector region. A thickness and a doping level of the DTL are configured to terminate basal plane dislocations in the DTL and reduce the growth of defects from the DTL to the collector region. At least some of the embodiments are advantageous in that SiC BJTs with improved stability are provided. Further, a method of evaluating the degradation performance of a SiC BJT is provided.」(抄訳:要約
…また,欠陥終端層(DTL)が基板とコレクタ領域の間に配置されている。DTLの厚さとドーピングレベルは,DTL内の基底面転位が終端され,DTLからコレクタ領域までの欠陥成長が低減できるように設定される。実施形態の少なくともいくつかは,改良された安定性を有するSiC系BJTが設けられている点において,有利である。また,SiC系BJTの劣化性能を評価する方法が提供される。)

「[0030] … Although at least some of the embodiments are not limited to the following values, the doping levels are normally in the mid 10^(15) cm^(-3) range forthe collector region,….」(抄訳:[0030]… 実施形態の少なくともいくつかは下記の数値に限定されないが,通常,コレクタ領域におけるドーピングレベルは,10^(15)cm^(-3)半ばである,…。)

「[0059] According to another embodiment, the doping level of the Nitrogen in the DTL is comprised in the range of 3×10^(18)to 2×10^(19)cm^(-3), and more preferably in the range of 5×10^(18)to 1×10^(19)cm^(-3),which is advantageous in that the growth of SFs from the bulk of the DTL into the collector layer is reduced. ….」(抄訳:別の実施形態では,DLTに含まれている窒素のドーピングレベルが3×10^(18)?2×10^(19)cm^(-3),より好ましくは5×10^(18)?1×10^(19)cm^(-3)であるため,コレクタレベル内にてDTLのバルクからSFの成長が抑制される点で有利である。…。)

3 対比・判断
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲第1号証発明について
(ア)本件発明1の「第1の不純物濃度を有する一の導電型の炭化珪素単結晶基板(10)」と甲第1号証発明の「N(窒素)をn型不純物として(5×10^(18)?1×10^(19)cm^(-3)程度)含む六方晶SiC基板12」とを対比する。
甲第1号証発明の「n型」,「六方晶SiC基板12」は,それぞれ本件発明1の「一の導電型」,「炭化珪素単結晶基板」に相当するから,本件発明1と甲第1号証発明とは,「第1の不純物濃度を有する一の導電型の炭化珪素単結晶基板(10)」を備える点で一致する。

(イ)本件発明1の「前記炭化珪素単結晶基板(10)上に設けられ、前記第1の不純物濃度よりも低い第2の不純物濃度を有する前記一の導電型の第1の炭化珪素層(21)」と甲第1号証発明の「SiC基板12上にエピタキシャル成長法により成長させた,SiC基板より低不純物濃度(1×10^(15)?1×0^(16)cm^(-3)程度)のn型の第1のSiC層16」とを対比する。
甲第1号証発明の「第1のSiC層16」は,本件発明1の「第1の炭化珪素層」に相当し,「SiC基板12上」に成長させた,「SiC基板より低不純物濃度(1×10^(15)?1×0^(16)cm^(-3)程度)のn型不純物を備える第1のSiC層16」であるから,本件発明1と甲第1号証発明とは,「前記炭化珪素単結晶基板(10)上に設けられ,前記第1の不純物濃度よりも低い第2の不純物濃度を有する前記一の導電型の第1の炭化珪素層(21)」を備える点で一致する。

(ウ)本件発明1の「前記第1の炭化珪素層(21)上に設けられ、500nm以上の厚みを有し、前記第1の不純物濃度よりも高くかつ5×10^(18)cm^(-3)以上である第3の不純物濃度を有する前記一の導電型の第2の炭化珪素層(22)」と甲第1号証発明の「第1のSiC層16上にエピタキシャル成長法により成長させた,第1のSiC層16より高不純物濃度(5×10^(17)cm^(-3)以上,5×10^(18)cm^(-3)以下)で厚さが0.5?1.5μm程度のn型の第2のSiC層18」とを対比する。
甲第1号証発明の「第2のSiC層18」は,本件発明1の「第2の炭化珪素層」に相当し,「第1のSiC層16上」に成長させた,「第1のSiC層16より高不純物濃度(5×10^(17)cm^(-3)以上,5×10^(18)cm^(-3)以下)で厚さが0.5?1.5μm程度のn型の第2のSiC層18」であるから,本件発明1と甲第1号証発明とは,「前記第1の炭化珪素層上に設けられ,500nm以上の厚みを有し,5×10^(18)cm^(-3)以上である第3の不純物濃度を有する前記一の導電型の第2の炭化珪素層」を備える点で一致する。

(エ)本件発明1の「前記第2の炭化珪素層(22)上に設けられ、前記第2の不純物濃度よりも低い第4の不純物濃度を有する前記一の導電型の第3の炭化珪素層(23)」と甲第1号証発明の「第2のSiC層上にエピタキシャル成長法により成長させた,第2のSiC層18よりも低不純物濃度(1×10^(15)?1×10^(16)cm^(-3)程度)のn型の第3のSiC層20」とを対比する。
甲第1号証発明の「第3のSiC層20」は,本件発明1の「第3の炭化珪素層」に相当し,「第2のSiC上」に成長させた,「第2のSiC層18よりも低不純物濃度(1×10^(15)?1×10^(16)cm^(-3)程度)のn型の第3のSiC層20」であるから,本件発明1と甲第1号証発明とは,「前記第2の炭化珪素層上に設けられ,前記第2の不純物濃度よりも低い第4の不純物濃度を有する前記一の導電型の第3の炭化珪素層(23)」を備える点で一致する。

(オ)甲第1号証発明は,「六方晶SiC基板12」と,「エピタキシャル成長法により成長させた」,「第1のSiC層16」と,「エピタキシャル成長法により成長させた」,「第2のSiC層18」と,「エピタキシャル成長法により成長させた」,「第3のSiC層20」とを備え,「第1のSiC層16,第2のSiC層18,第3のSiC層20は,同一のエピタキシャル成長装置内」で「連続成膜され」ているから,この連続成膜により成長された「六方晶SiC基板12」ないし「第3のSiC層20」を備える基板は,本件発明1の「炭化珪素エピタキシャル基板(51?53)」に相当する。

(カ)そうすると,本件発明1と甲第1号証発明とは以下の点で一致し,また相違する。
[一致点]
「第1の不純物濃度を有する一の導電型の炭化珪素単結晶基板(10)と,
前記炭化珪素単結晶基板(10)上に設けられ,前記第1の不純物濃度よりも低い第2の不純物濃度を有する前記一の導電型の第1の炭化珪素層(21)と,
前記第1の炭化珪素層上に設けられ,500nm以上の厚みを有し,5×10^(18)cm^(-3)以上である第3の不純物濃度を有する前記一の導電型の第2の炭化珪素層と,
前記第2の炭化珪素層上に設けられ,第4の不純物濃度を有する前記一の導電型の第3の炭化珪素層(23)と,
を備える,炭化珪素エピタキシャル基板(51?53)。」

[相違点1]
「前記第1の炭化珪素層上に設けられ,500nm以上の厚みを有し,5×10^(18)cm^(-3)以上である第3の不純物濃度を有する前記一の導電型の第2の炭化珪素層」について,本件発明1は「第3の不純物濃度」が「前記第1の不純物濃度よりも高」いのに対して,甲第1号証発明は「SiC基板12」の不純物濃度が5×10^(18)?1×10^(19)cm^(-3)程度であり,「第2のSiC層18」の不純物濃度が5×10^(17)cm^(-3)以上,5×10^(18)cm^(-3)以下であるから,「第2のSiC層18」の不純物濃度が「SiC基板12」の不純物濃度以下である点。

[相違点2]
「前記第2の炭化珪素層上に設けられ,第4の不純物濃度を有する前記一の導電型の第3の炭化珪素層」について,本件発明1は「第3の炭化珪素層(23)」の不純物濃度が「前記第2の不純物濃度よりも低い」のに対して,甲第1号証発明は「第3のSiC層20」の不純物濃度が1×10^(15)?1×10^(16)cm^(-3)程度であり,「第1のSiC層16」の不純物濃度が1×10^(15)?1×10^(16)cm^(-3)程度であるから,その不純物濃度の大小関係が不明である点。

(キ)当審判断
事案に鑑み,[相違点1]について検討する。
甲第1号証発明は,[相違点1]に係る「第3の不純物濃度」と「第1の不純物濃度」の関係を有しておらず,本件発明1は甲第1号証発明と同一であるとはいえないから,甲第1号証に記載された発明ではない。
また,甲第2号証及び甲第3号証には,炭化珪素半導体装置のバイポーラ動作時に,第1の炭化珪素層から第3の炭化珪素層の方へ向かう基底面転位の伸長及び拡大を防止することは記載されていないから,甲第1号証発明に甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項を適用し,[相違点1]に係る構成を備えるようにすることが容易であったともいえない。
そして,本件発明1は[相違点1]に係る構成を備えることにより,「バイポーラ動作時の通電劣化を抑制することができる」(段落【0013】)という,格別の効果を奏するものである。
したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本件発明1は,甲第1号証に記載された発明ではなく,また甲第1号証発明並びに甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項から当業者が容易になし得たものでもない。

イ 本件発明1と甲第4号証発明について
(ア)本件発明1の「第1の不純物濃度を有する一の導電型の炭化珪素単結晶基板(10)」と甲第4号証発明の「第1の導電型としてのn型の4H型SiCで作成したキャリア密度が5×10^(18)cm^(-3)の基板21」とを対比する。
甲第4号証発明の「n型」及び「4H型SiCで作成した」「基板21」は,それぞれ本件発明1の「一の導電型」及び「炭化珪素単結晶基板」に相当するから,本件発明1と甲第4号証発明とは,「第1の不純物濃度を有する一の導電型の炭化珪素単結晶基板(10)」を備える点で一致する。

(イ)本件発明1の「前記炭化珪素単結晶基板(10)上に設けられ、前記第1の不純物濃度よりも低い第2の不純物濃度を有する前記一の導電型の第1の炭化珪素層(21)」と甲第4号証発明の「SiC基板21上に,窒素ドープn型SiC層であるドナー密度7×10^(17)cm^(-3),膜厚10μmのn型のバッファ層22」とを対比する。
甲第4号証発明の「n型SiC層である」「n型のバッファ層22」は,本件発明1の「第1の炭化珪素層」に相当し,「ドナー密度7×10^(17)cm^(-3)」の「n型のバッファ層22」であり,「基板21」のキャリア密度5×10^(18)cm^(-3)より低い不純物濃度となるから,本件発明1と甲第4号証発明とは,「前記炭化珪素単結晶基板(10)上に設けられ,前記第1の不純物濃度よりも低い第2の不純物濃度を有する前記一の導電型の第1の炭化珪素層(21)」を備える点で一致する。

(ウ)本件発明1の「前記第1の炭化珪素層(21)上に設けられ、500nm以上の厚みを有し、前記第1の不純物濃度よりも高くかつ5×10^(18)cm^(-3)以上である第3の不純物濃度を有する前記一の導電型の第2の炭化珪素層(22)」及び「前記第2の炭化珪素層(22)上に設けられ、前記第2の不純物濃度よりも低い第4の不純物濃度を有する前記一の導電型の第3の炭化珪素層(23)」と甲第4号証発明の「バッファ層22上に,窒素ドープn型SiC層であるドナー密度1×10^(13)cm^(-3),膜厚200μmのn型のドリフト層23」とを対比する。
甲第4号証発明の「SiC層である」「n型のドリフト層23」は,本件発明1の「前記一の導電型の第2の炭化珪素層(22)」及び「前記一の導電型の第3の炭化珪素層(23)」に対応し,両者は「バッファ層22上に」設けられたといえるから,本件発明1と甲第4号証発明とは,「前記第1の炭化珪素層(21)上に設けられた,前記一の導電型の炭化珪素層」である点で共通する。

(エ)甲第4号証発明の「バッファ層22」及び「ドリフト層23」は,「SiC基板21」上にエピタキシャル成長させた窒素ドープn型SiC層であるから,甲第4号証発明の「基板21」,「バッファ層22」及び「ドリフト層23」は,本件発明1の「炭化珪素エピタキシャル基板(51?53)」に相当する。

(オ)そうすると,本件発明1と甲第4号証発明とは以下の点で一致し,また相違する。
[一致点]
「第1の不純物濃度を有する一の導電型の炭化珪素単結晶基板(10)と,
前記炭化珪素単結晶基板(10)上に設けられ,前記第1の不純物濃度よりも低い第2の不純物濃度を有する前記一の導電型の第1の炭化珪素層(21)と,
前記第1の炭化珪素層(21)上に設けられた,前記一の導電型の炭化珪素層と,
を備える,炭化珪素エピタキシャル基板(51?53)。」

[相違点3]
「前記第1の炭化珪素層(21)上に設けられた,前記一の導電型の炭化珪素層」について,本件発明1は「前記第1の炭化珪素層(21)上に設けられ、500nm以上の厚みを有し,前記第1の不純物濃度よりも高くかつ5×10^(18)cm^(-3)以上である第3の不純物濃度を有する前記一の導電型の第2の炭化珪素層(22)」と「前記第2の炭化珪素層(22)上に設けられ、前記第2の不純物濃度よりも低い第4の不純物濃度を有する前記一の導電型の第3の炭化珪素層(23)」からなるのに対して,甲第4号証発明は複数の層からなるものでなく,また,不純物濃度及び他の層の不純物濃度との大小関係並びに膜厚が異なる点。

(カ)当審判断
[相違点3]について検討する。
甲第4号証発明は,バイポーラデバイス中での電子と正孔の再結合発光により,積層欠陥が広がり,オン電圧が上昇することによる,順方向電圧の増加を抑制するために,i層を高純度化し,積層欠陥がライフタイムキラーとして働き難くし,順方向電圧劣化を抑制することが可能となるバイポーラ型半導体素子であるから,[相違点3]に係る他の層との不純物濃度の大小関係とすることが容易であるとはいえない。
即ち,甲第4号証発明は,積層欠陥が広がることを防止するために,i層,即ち「ドリフト層23」を高純度化するものであるから,「ドリフト層23」と「バッファ層22」とが接する部分に,低純度の層,即ちドナー密度の高い層を設け,その層を「基板21」よりキャリア密度の高い層とし,[相違点3]に係る構成とすることには動機付けがない。
加えて,甲第5号証には,炭化珪素半導体装置のバイポーラ動作時に,第1の炭化珪素層から第3の炭化珪素層の方へ向かう基底面転位の伸長及び拡大を防止するために,「第3の不純物濃度」を「第1の不純物濃度」より高くすることは記載されていないから,甲第4号証発明に甲第5号証に記載された事項を適用し,[相違点3]に係る構成を備えるようにすることが容易であったともいえない。
また,本件発明1は[相違点3]に係る構成を備えることにより,「バイポーラ動作時の通電劣化を抑制することができる」(段落【0013】)という,格別の効果を奏するものである。
したがって,本件発明1は,甲第4号証発明及び甲第5号証に記載された事項から当業者が容易になし得たものではない。

ウ 本件発明1についてのまとめ
以上のとおりであるから,本件発明1は,特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえず,また,同条第2項の規定に違反しているともいえない。

(2)本件発明2及び4ないし6について
本件発明2及び5は,本件発明1に係る構成を全て備えているから上記(1)アと同様の理由により,甲第1号証に記載された発明ではない。
また,本件発明2及び4ないし6は,本件発明1に対し,さらに,「前記第3の不純物濃度は2×10^(19)cm^(-3)以下である」(請求項2),「前記第2の不純物濃度は5×10^(16)cm^(-3)以上、1×10^(19)cm^(-3)以下である」(請求項4),「前記第4の不純物濃度は1×10^(14)cm^(-3)以上、5×10^(16)cm^(-3)以下である」(請求項5)及び「第1の面(S1)と前記第1の面(S1)と反対の第2の面(S2)とを有し、炭化珪素から作られたバッファ層(29,29v)をさらに備え、前記第1の面(S1)は前記第2の炭化珪素層(22)に面しており、前記第2の面(S2)は前記第3の炭化珪素層(23)に面しており、前記バッファ層(29,29v)は、前記第1の面(S1)から前記第2の面(S2)へ向かって連続的に減少する不純物濃度プロファイルを有している」(請求項6)という技術的事項を追加したものであるから,上記(1)アと同様の理由により,甲第1号証発明並びに甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項から当業者が容易になし得たものではない。
加えて,本件発明2及び4は,本件発明1に対し,さらに,「前記第3の不純物濃度は2×10^(19)cm^(-3)以下である」(請求項2)及び「前記第2の不純物濃度は5×10^(16)cm^(-3)以上、1×10^(19)cm^(-3)以下である」(請求項4)という技術的事項を追加したものであるから,上記(1)イと同様の理由により,甲第4号証発明及び甲第5号証に記載された事項から当業者が容易になし得たものではない。
したがって,本件発明2及び5は,特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえず,また,本件発明2及び4ないし6は,同条第2項の規定に違反しているともいえない。

(3)本件発明8について
ア 本件発明8と甲第1号証発明について
(ア)本件発明8の「第1の不純物濃度を有する一の導電型の炭化珪素単結晶基板(10)」と甲第1号証発明の「N(窒素)をn型不純物として(5×10^(18)?1×10^(19)cm^(-3)程度)含む六方晶SiC基板12」とを対比する。
甲第1号証発明の「n型」,「六方晶SiC基板12」は,それぞれ本件発明8の「一の導電型」,「炭化珪素単結晶基板」に相当するから,本件発明8と甲第1号証発明とは,「第1の不純物濃度を有する一の導電型の炭化珪素単結晶基板(10)」を備える点で一致する。

(イ)本件発明8の「前記炭化珪素単結晶基板(10)上に設けられ、前記第1の不純物濃度よりも低い第2の不純物濃度を有する前記一の導電型の第1の炭化珪素層(21)」と甲第1号証発明の「SiC基板12上にエピタキシャル成長法により成長させた,SiC基板より低不純物濃度(1×10^(15)?1×0^(16)cm^(-3)程度)のn型の第1のSiC層16」とを対比する。
甲第1号証発明の「第1のSiC層16」は,本件発明8の「第1の炭化珪素層」に相当し,「SiC基板12上」に成長させた,「SiC基板より低不純物濃度(1×10^(15)?1×0^(16)cm^(-3)程度)のn型不純物を備える第1のSiC層16」であるから,本件発明8と甲第1号証発明とは,「前記炭化珪素単結晶基板(10)上に設けられ,前記第1の不純物濃度よりも低い第2の不純物濃度を有する前記一の導電型の第1の炭化珪素層(21)」を備える点で一致する。

(ウ)本件発明8の「前記第1の炭化珪素層(21)上に設けられ、500nm以上の厚みを有し、前記第1の不純物濃度よりも高くかつ5×10^(18)cm^(-3)以上である第3の不純物濃度を有する前記一の導電型の第2の炭化珪素層(22)」と甲第1号証発明の「第1のSiC層16上にエピタキシャル成長法により成長させた,第1のSiC層16より高不純物濃度(5×10^(17)cm^(-3)以上,5×10^(18)cm^(-3)以下)で厚さが0.5?1.5μm程度のn型の第2のSiC層18」とを対比する。
甲第1号証発明の「第2のSiC層18」は,本件発明8の「第2の炭化珪素層」に相当し,「第1のSiC層16上」に成長させた,「第1のSiC層16より高不純物濃度(5×10^(17)cm^(-3)以上,5×10^(18)cm^(-3)以下)で厚さが0.5?1.5μm程度のn型の第2のSiC層18」であるから,本件発明8と甲第1号証発明とは,「前記第1の炭化珪素層上に設けられ,500nm以上の厚みを有し,5×10^(18)cm^(-3)以上である第3の不純物濃度を有する前記一の導電型の第2の炭化珪素層」を備える点で一致する。

(エ)本件発明8の「前記第2の炭化珪素層(22)上に設けられ、前記第2の不純物濃度よりも低い第4の不純物濃度を有する前記一の導電型の第3の炭化珪素層(23)」と甲第1号証発明の「第2のSiC層上にエピタキシャル成長法により成長させた,第2のSiC層18よりも低不純物濃度(1×10^(15)?1×10^(16)cm^(-3)程度)のn型の第3のSiC層20」とを対比する。
甲第1号証発明の「第3のSiC層20」は,本件発明1の「第3の炭化珪素層」に相当し,「第2のSiC上」に成長させた,「第2のSiC層18よりも低不純物濃度(1×10^(15)?1×10^(16)cm^(-3)程度)のn型の第3のSiC層20」であるから,本件発明8と甲第1号証発明とは,「前記第2の炭化珪素層上に設けられ,前記第2の不純物濃度よりも低い第4の不純物濃度を有する前記一の導電型の第3の炭化珪素層(23)」を備える点で一致する。

(オ)本件発明8の「前記第3の炭化珪素層(23)上に設けられた、前記一の導電型と異なる導電型の第4の炭化珪素層(124,224,324)」と甲第1号証発明の「第3のSiC層20の一部表面にイオン注入により形成された,p型不純物の不純物濃度(1×10^(17)?5×10^(17)cm^(-3)程度)のp型のpウェル領域22」とを対比する。
甲第1号証発明の「p型」は,本件発明8の「前記一の導電型と異なる導電型」に相当し,甲第1号証発明の「p型のpウェル領域22」は,「第3のSiC層20の一部表面にイオン注入により形成され」た領域であるから,本件発明8と甲第1号証発明とは,「前記第3の炭化珪素層(23)上に設けられた,前記一の導電型と異なる導電型の第4の炭化珪素層(124,224,324)」を備える点で一致する。

(カ)甲第1号証発明は「六方晶SiC基板12」,「第1のSiC層16」,「第2のSiC層18」,「第3のSiC層20」及び「第3のSiC層20の一部表面にイオン注入により形成され」「pウェル領域22」を備えた「半導体装置」であるから,この「半導体装置」は,本件発明8の「炭化珪素半導体装置(100,200,300)」に相当する。

(キ)そうすると,本件発明8と甲第1号証発明とは以下の点で一致し,また相違する。
[一致点]
「第1の不純物濃度を有する一の導電型の炭化珪素単結晶基板(10)と,
前記炭化珪素単結晶基板(10)上に設けられ,前記第1の不純物濃度よりも低い第2の不純物濃度を有する前記一の導電型の第1の炭化珪素層(21)と,
前記第1の炭化珪素層上に設けられ,500nm以上の厚みを有し,5×10^(18)cm^(-3)以上である第3の不純物濃度を有する前記一の導電型の第2の炭化珪素層と,
前記第2の炭化珪素層上に設けられ,第4の不純物濃度を有する前記一の導電型の第3の炭化珪素層(23)と,
前記第3の炭化珪素層(23)上に設けられた,前記一の導電型と異なる導電型の第4の炭化珪素層(124,224,324)と,
を備える,炭化珪素半導体装置(100,200,300)。」

[相違点4]
「前記第1の炭化珪素層上に設けられ,500nm以上の厚みを有し,5×10^(18)cm^(-3)以上である第3の不純物濃度を有する前記一の導電型の第2の炭化珪素層」について,本件発明8は「第3の不純物濃度」が「前記第1の不純物濃度よりも高」いのに対して,甲第1号証発明は「SiC基板12」の不純物濃度が5×10^(18)?1×10^(19)cm^(-3)程度であり,「第2のSiC層18」の不純物濃度が5×10^(17)cm^(-3)以上,5×10^(18)cm^(-3)以下であるから,「第2のSiC層18」の不純物濃度が「SiC基板12」の不純物濃度以下である点。

[相違点5]
「前記第2の炭化珪素層上に設けられ,第4の不純物濃度を有する前記一の導電型の第3の炭化珪素層」について,本件発明8は「第3の炭化珪素層(23)」の不純物濃度が「前記第2の不純物濃度よりも低い」のに対して,甲第1号証発明は「第3のSiC層20」の不純物濃度が1×10^(15)?1×10^(16)cm^(-3)程度であり,「第1のSiC層16」の不純物濃度が1×10^(15)?1×10^(16)cm^(-3)程度であるから,その不純物濃度の大小関係が不明である点。

(ク)当審判断
事案に鑑み,[相違点4]について検討する。
甲第1号証発明は,[相違点4]に係る「第3の不純物濃度」と「第1の不純物濃度」の関係を有しておらず,本件発明8は甲第1号証発明と同一であるとはいえないから,甲第1号証に記載された発明ではない。
また,甲第2号証及び甲第3号証には,炭化珪素半導体装置のバイポーラ動作時に,第1の炭化珪素層から第3の炭化珪素層の方へ向かう基底面転位の伸長及び拡大を防止することは記載されていないから,甲第1号証発明に甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項を適用し,[相違点4]に係る構成を備えるようにすることが容易であったともいえない。
そして,本件発明8は[相違点4]に係る構成を備えることにより,「バイポーラ動作時の通電劣化を抑制することができる」(段落【0013】)という,格別の効果を奏するものである。
したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本件発明8は,甲第1号証に記載された発明ではなく,また甲第1号証発明並びに甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項から当業者が容易になし得たものでもない。

イ 本件発明8と甲第4号証発明について
(ア)本件発明8の「第1の不純物濃度を有する一の導電型の炭化珪素単結晶基板(10)」と甲第4号証発明の「第1の導電型としてのn型の4H型SiCで作成したキャリア密度が5×10^(18)cm^(-3)の基板21」とを対比する。
甲第4号証発明の「n型」及び「4H型SiCで作成した」「基板21」は,それぞれ本件発明8の「一の導電型」及び「炭化珪素単結晶基板」に相当するから,本件発明8と甲第4号証発明とは,「第1の不純物濃度を有する一の導電型の炭化珪素単結晶基板(10)」を備える点で一致する。

(イ)本件発明8の「前記炭化珪素単結晶基板(10)上に設けられ、前記第1の不純物濃度よりも低い第2の不純物濃度を有する前記一の導電型の第1の炭化珪素層(21)」と甲第4号証発明の「SiC基板21上に,窒素ドープn型SiC層であるドナー密度7×10^(17)cm^(-3),膜厚10μmのn型のバッファ層22」とを対比する。
甲第4号証発明の「n型SiC層である」「n型のバッファ層22」は,本件発明8の「第1の炭化珪素層」に相当し,「ドナー密度7×10^(17)cm^(-3)」の「n型のバッファ層22」であり,「基板21」のキャリア密度5×10^(18)cm^(-3)より低い不純物濃度となるから,本件発明8と甲第4号証発明とは,「前記炭化珪素単結晶基板(10)上に設けられ,前記第1の不純物濃度よりも低い第2の不純物濃度を有する前記一の導電型の第1の炭化珪素層(21)」を備える点で一致する。

(ウ)本件発明8の「前記第1の炭化珪素層(21)上に設けられ、500nm以上の厚みを有し、前記第1の不純物濃度よりも高くかつ5×10^(18)cm^(-3)以上である第3の不純物濃度を有する前記一の導電型の第2の炭化珪素層(22)」及び「前記第2の炭化珪素層(22)上に設けられ、前記第2の不純物濃度よりも低い第4の不純物濃度を有する前記一の導電型の第3の炭化珪素層(23)」と甲第4号証発明の「バッファ層22上に,窒素ドープn型SiC層であるドナー密度1×10^(13)cm^(-3),膜厚200μmのn型のドリフト層23」とを対比する。
甲第4号証発明の「SiC層である」「n型のドリフト層23」は,本件発明8の「前記一の導電型の第2の炭化珪素層(22)」及び「前記一の導電型の第3の炭化珪素層(23)」に対応し,両者は「バッファ層22上に」設けられたといえるから,本件発明8と甲第4号証発明とは,「前記第1の炭化珪素層(21)上に設けられた,前記一の導電型の炭化珪素層」である点で共通する。

(エ)本件発明8の「前記第3の炭化珪素層(23)上に設けられた、前記一の導電型と異なる導電型の第4の炭化珪素層(124,224,324)」と甲第4号証発明の「ドリフト層23上に,p型4H-SiCをエピタキシャル成長させ」た「p型4H-SiC」とを対比する。
甲第4号証発明の「p型」は,本件発明8の「前記一の導電型と異なる導電型」に相当するから,本件発明8と甲第4号証発明とは,「前記炭化珪素層上に設けられた,前記一の導電型と異なる導電型の第4の炭化珪素層(124,224,324)」を備える点で一致する。

(オ)甲第4号証発明は「4H型SiCで作成した」「基板21」,「n型SiC層である」「バッファ層22」,「n型SiC層である」「ドリフト層23」及び「p型4H-SiC2」を備えた「pn接合ダイオード(pinダイオード)20」であるから,この「pn接合ダイオード(pinダイオード)20」は,本件発明8の「炭化珪素半導体装置(100,200,300)」に相当する。

(カ)そうすると,本件発明8と甲第4号証発明とは以下の点で一致し,また相違する。
[一致点]
「第1の不純物濃度を有する一の導電型の炭化珪素単結晶基板(10)と,
前記炭化珪素単結晶基板(10)上に設けられ,前記第1の不純物濃度よりも低い第2の不純物濃度を有する前記一の導電型の第1の炭化珪素層(21)と,
前記第1の炭化珪素層(21)上に設けられた,前記一の導電型の炭化珪素層と,
前記炭化珪素層上に設けられた,前記一の導電型と異なる導電型の第4の炭化珪素層(124,224,324)と,
を備える,炭化珪素半導体装置(100,200,300)」

[相違点6]
「前記第1の炭化珪素層(21)上に設けられた,前記一の導電型の炭化珪素層」について,本件発明8は「前記第1の炭化珪素層(21)上に設けられ、500nm以上の厚みを有し,前記第1の不純物濃度よりも高くかつ5×10^(18)cm^(-3)以上である第3の不純物濃度を有する前記一の導電型の第2の炭化珪素層(22)」と「前記第2の炭化珪素層(22)上に設けられ、前記第2の不純物濃度よりも低い第4の不純物濃度を有する前記一の導電型の第3の炭化珪素層(23)」からなるのに対して,甲第4号証発明は複数の層からなるものでなく,また,不純物濃度及び他の層の不純物濃度との大小関係並びに膜厚が異なる点。

(キ)当審判断
[相違点6]について検討する。
甲第4号証発明は,バイポーラデバイス中での電子と正孔の再結合発光により,積層欠陥が広がり,オン電圧が上昇することによる,順方向電圧の増加を抑制するために,i層を高純度化し,積層欠陥がライフタイムキラーとして働き難くし,順方向電圧劣化を抑制することが可能となるバイポーラ型半導体素子であるから,[相違点6]に係る他の層との不純物濃度の大小関係とすることが容易であるとはいえない。
即ち,甲第4号証発明は,積層欠陥が広がることを防止するために,i層,即ち「ドリフト層23」を高純度化するものであるから,「ドリフト層23」と「バッファ層22」とが接する部分に,低純度の層,即ちドナー密度の高い層を設け,その層を「基板21」よりキャリア密度の高い層とし,[相違点6]に係る構成とすることには動機付けがない。
加えて,甲第5号証には,炭化珪素半導体装置のバイポーラ動作時に,第1の炭化珪素層から第3の炭化珪素層の方へ向かう基底面転位の伸長及び拡大を防止するために,「第3の不純物濃度」を「第1の不純物濃度」より高くすることは記載されていないから,甲第4号証発明に甲第5号証に記載された事項を適用し,[相違点6]に係る構成を備えるようにすることが容易であったともいえない。
また,本件発明8は[相違点6]に係る構成を備えることにより,「バイポーラ動作時の通電劣化を抑制することができる」(段落【0013】)という,格別の効果を奏するものである。
したがって,本件発明8は,甲第4号証発明及び甲第5号証に記載された事項から当業者が容易になし得たものではない。

ウ 本件発明8についてのまとめ
以上のとおりであるから,本件発明8は,特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえず,また,同条第2項の規定に違反しているともいえない。

(4)本件発明9及び10について
本件発明9は,本件発明8に係る構成を全て備えるから,上記(3)アと同様の理由により,甲第1号証に記載された発明ではない。
また,本件発明9及び10は,本件発明8に対し,さらに,「前記炭化珪素単結晶基板(10)に電気的に接続された第1の電極(101,201,301)と、前記第4の炭化珪素層(124,224,324)に電気的に接続された第2の電極(102,202,302)」(請求項9,10)という技術的事項を追加したものであるから,上記(3)ア及びイと同様の理由により,甲第1号証発明並びに甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項,甲第4号証発明及び甲第5号証に記載された事項から当業者が容易になし得たものではない。
したがって,本件発明9は,特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえず,また,本件発明9及び10は,同条第2項の規定に違反しているともいえない。

4 小括
以上のとおりであるから,特許異議申立人の上記1にかかる主張は,採用することができない。

第6 特許異議申立人の意見について
1 特許異議申立人は意見書において,請求項1及び8の「5×10^(18)cm^(-3)以上である第3の不純物濃度を有する前記一の導電形の第2の炭化珪素層(22)」について,本件特許明細書では,「1×10^(19)cm^(-3)の不純物濃度を有する第2の炭化珪素層」を有する実施例1,2の素子に対して通電した後においても基底面転位の活性層(第3の炭化珪素層)への伸長は観察されなかったとされ,実験的に見出されているから,不純物濃度5×10^(18)cm^(-3)以上1×10^(19)cm^(-3)未満の領域においても,基底面転位の伸長が防止されるという事象が常に発揮されるか否かは,不明であり,本件発明は,依然として本件発明の課題を解決していない権利を含むものである旨主張する。(意見書第1頁下2行ないし第3頁5行,第4頁23行ないし31行)
しかしなら,上記第4の2(1)で検討したように,段落【0023】に「第2の炭化珪素層22」の「第3の不純物濃度」の下限値は,第1の不純物濃度よりも高い必要があり,具体的には,基底面転位の伸長がほぼ防止される,5×10^(18)cm^(-3)以上であることが記載されており,また,「第2の炭化珪素層(22)」の厚さが500nm以上であり,且つ,「第3の不純物濃度」が,5×10^(18)cm^(-3)以上1×10^(19)cm^(-3)未満であるとき,本件発明の課題を解決できないとはいえないから,「第3の不純物濃度」を5×10^(18)cm^(-3)以上とした本件発明は,当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。

2 特許異議申立人は意見書において,請求項1及び8の「500nm以上の厚みを有し、前記第1の不純物濃度よりも高くかつ5×10^(18)cm^(-3)以上である第3の不純物濃度を有する前記一の導電型の第2の炭化珪素層(22)」について,本件特許明細書には,500nmが「第2の炭化珪素層」の厚みの下限値であるとの記載はなく,また,発明の課題を解決するために「第2の炭化珪素層」の厚さの範囲をどのように定めたかは記載も示唆もないから,「第2の炭化珪素層」が「500nm以上の厚みを有し」といった数値の限定の記載が出願当初からなされていたものもしくは自明であるとは評価できず,願書に最初に添付した明細書等に記載した事項の範囲を超えたものであり,また,発明の詳細な説明に記載されていないものである旨主張し,さらに,「第2の炭化珪素層」の厚さの上限が1μmとされて初めて本件発明は明確になる旨主張する。(意見書第3頁6行ないし第4頁22行)
しかしながら,上記第4の2(1)で検討したように,段落【0058】,【0059】には,(実施例2)として,バッファ層上に形成された,厚さが500nmで,不純物濃度が1×10^(19)cm^(-3)の第2の炭化珪素層22からなる,炭化珪素エピタキシャル基板52が記載されているから,「第2の炭化珪素層」が500nmの厚みを備えることは,願書に最初に添付した明細書に記載された範囲内の事項であり,また,発明の詳細な説明に記載されている。
そして,「第2の炭化珪素層」の厚さの上限が1μmとされていない本件発明の範囲は明確であるから,本件発明は明確である。

第7 むすび
したがって,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては,請求項1,2及び4ないし10に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1,2及び4ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
なお,請求項3に係る特許は,訂正により削除されたことにより,特許異議申立人がした請求項3に係る申立てについては,対象となる請求項が存在しないものとなったため,特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
炭化珪素エピタキシャル基板および炭化珪素半導体装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素エピタキシャル基板および炭化珪素半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素単結晶は、大きな絶縁破壊電界強度および高い熱伝導率など、優れた物性を有している。このため、半導体材料として従来広く用いられてきたシリコンに代わり炭化珪素を用いた半導体装置、すなわち炭化珪素半導体装置、は、高性能の半導体装置、特にパワーデバイス、として期待されている。炭化珪素には、同一の化学式であっても結晶構造の異なる結晶多形(いわゆる2H、3C、4H、6H、8H、15R型など)が存在する。これらの中でも、大きな電圧を扱うようなパワーデバイスの用途には4H型の炭化珪素が適している。ここで、「H」は結晶多形が六方晶系(Hexagonal)であることを表しており、「4」はSi(シリコン)およびC(カーボン)からなる2原子層が4回積層されたものが単位構造であることを表している。4H型の炭化珪素は、パワーデバイス向け基板の材料としての利点を特に有している。具体的には、そのバンドギャップが3.26eVと大きく、また、c軸に平行な方向と垂直な方向とでの電子移動度の異方性が小さい。
【0003】
炭化珪素単結晶基板は、一般的に、SiおよびCを含む原料を坩堝内で昇華させることで種結晶上での結晶成長を行う手法(昇華再結晶法)により製造される。1つの基板からできるだけ多くの炭化珪素半導体装置を高い歩留まりで得るためには、炭化珪素単結晶基板の全体が、単一の結晶多形を有する均一な結晶であることが求められる。このような要件を満たしつつ、生産性を高めるために、基板のサイズを大きくするための努力がなされている。市販されている基板の直径は、従来100mm(4インチ)までであったところ、現在では150mm(6インチ)まで大きくなってきている。
【0004】
炭化珪素半導体装置の製造には、炭化珪素単結晶基板と、その上にエピタキシャル成長によって設けられた炭化珪素層とを有する炭化珪素エピタキシャル基板が用いられる。エピタキシャル成長は、典型的には、Si原子およびC原子を含む原料ガスを用いた化学気相成長(CVD)法によって行われる。エピタキシャル層の少なくとも一部は、半導体素子構造が形成される活性層として用いられる。活性層の不純物濃度および厚みを調整することで、半導体装置の耐電圧および素子抵抗が調整される。具体的には、活性層中の不純物濃度が低いほど、また、活性層の厚みが大きいほど、高い耐電圧を有する半導体装置が得られる。
【0005】
市販の炭化珪素単結晶基板は、シリコン単結晶基板などと比して、結晶欠陥を高密度で有している。結晶欠陥は、エピタキシャル成長の際に単結晶基板からエピタキシャル成長層へと(すなわち活性層にまで)伝播することで、炭化珪素半導体装置の動作に悪影響を与え得る。炭化珪素の代表的な結晶欠陥としては、貫通らせん転位、貫通刃状転位、基底面転位、積層欠陥などが挙げられる。基底面転位は、2本の部分転位に分解し、それらの間に積層欠陥を伴っている。この積層欠陥は、pinダイオードなどのバイポーラデバイスが順方向に通電された際に、注入されたキャリアをトラップするとともにその面積を拡大させていく。これに起因して、デバイスの順方向電圧降下の増大が引き起こされることが知られている(たとえば、非特許文献1:JOURNAL OF APPLIED PHYSICS 99, 011101(2006)を参照)。以下、この現象を「通電劣化」と称する。また、本明細書内における「基底面転位」の表現は、上記「2本の部分転位」の意を含むものとする。
【0006】
(0001)面から数度傾いた面を表面にもつ炭化珪素基板中の基底面転位の多くは、CVD法によるエピタキシャル成長時に、デバイスへの影響の程度がより低い貫通刃状転位に転換することが知られている。前述した通電劣化の抑制のため、基板中の基底面転位がエピタキシャル成長時に貫通刃状転位転換する割合(転換率)を向上させるべく、様々な取組がなされている。
【0007】
たとえば、特開2007-250693号公報(特許文献1)によれば、第1のエピタキシャル成長層の途中に、3×10^(19)cm^(-3)以上の不純物濃度を有する第2のエピタキシャル成長層が形成される。第2のエピタキシャル成長層においては結晶歪みが急激に大きくなる。上記公報によれば、転位の方向性を変えることで、電気特性に悪影響を及ぼし難い転位への転換が可能である旨が記載されている。しかしながらこの方法では、高い不純物濃度を有する第2のエピタキシャル成長層を形成すること自体が、積層欠陥を発生させる要因となり得る(たとえば非特許文献2:PHYSICA B 376-377, 338(2006)を参照)。また、第1のエピタキシャル成長層と第2のエピタキシャル成長層との間での不純物濃度プロファイルの急峻な変化が、基底面転位を新たに発生させてしまい得る。よってこの方法の有効性は実際のところ低かった。
【0008】
また、たとえば、特開2008-74661号公報(特許文献2)によれば、炭化珪素単結晶基板上に、基底面転位密度を抑制する抑制層と、抑制層上に形成された活性層とを有する炭化珪素エピタキシャル基板が開示されている。抑制層は、活性層側へ階段状に窒素濃度が低減した構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007-250693号公報
【特許文献2】特開2008-74661号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】JOURNAL OF APPLIED PHYSICS 99, 011101(2006)
【非特許文献2】PHYSICA B 376-377, 338(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の特開2008-74661号公報に記載の方法を本発明者らが検討したところ、炭化珪素エピタキシャル基板中の活性層の基底面転位密度は抑制されたものの、この基板を用いて作製されたバイポーラデバイスの通電劣化は十分には抑制されなかった。
【0012】
なお、本明細書における「バイポーラデバイス」は、バイポーラ動作のみを行うものに加えて、バイポーラ動作とユニポーラ動作とを行うものも含む。よって、一般的にはユニポーラデバイスに区分されることが多いMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)であっても、その寄生pinダイオードがバイポーラ素子として動作する場合は、本明細書における「バイポーラデバイス」に相当する。このような寄生pinダイオードは、しばしば、MOSFETの内蔵ダイオードとして活用されている。
【0013】
本発明は以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、バイポーラ動作時の通電劣化を抑制することができる、炭化珪素エピタキシャル基板および炭化珪素半導体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の炭化珪素エピタキシャル基板は、一の導電型の炭化珪素単結晶基板と、上記一の導電型の第1の炭化珪素層と、上記一の導電型の第2の炭化珪素層と、上記一の導電型の第3の炭化珪素層とを有している。炭化珪素単結晶基板は第1の不純物濃度を有している。第1の炭化珪素層は、炭化珪素単結晶基板上に設けられており、第1の不純物濃度よりも低い第2の不純物濃度を有している。第2の炭化珪素層は、第1の炭化珪素層上に設けられており、500nm以上の厚みを有しており、第1の不純物濃度よりも高くかつ5×10^(18)cm^(-3)以上である第3の不純物濃度を有している。第3の炭化珪素層は、第2の炭化珪素層上に設けられており、第2の不純物濃度よりも低い第4の不純物濃度を有している。
【0015】
本発明の炭化珪素半導体装置は、一の導電型の炭化珪素単結晶基板と、上記一の導電型の炭化珪素単結晶基板と、上記一の導電型の第1の炭化珪素層と、上記一の導電型の第2の炭化珪素層と、上記一の導電型の第3の炭化珪素層と、上記一の導電型と異なる導電型の第4の炭化珪素層とを有している。炭化珪素単結晶基板は第1の不純物濃度を有している。第1の炭化珪素層は、炭化珪素単結晶基板上に設けられており、第1の不純物濃度よりも低い第2の不純物濃度を有している。第2の炭化珪素層は、第1の炭化珪素層上に設けられており、500nm以上の厚みを有しており、第1の不純物濃度よりも高くかつ5×10^(18)cm^(-3)以上である第3の不純物濃度を有している。第3の炭化珪素層は、第2の炭化珪素層上に設けられており、第2の不純物濃度よりも低い第4の不純物濃度を有している。第4の炭化珪素層は第3の炭化珪素層上に設けられている。
【0016】
なお上記において、「炭化珪素単結晶基板上に設けられ」との文言は、特段の記載を伴わない限り、炭化珪素単結晶基板上に直接設けられることと、単結晶基板上に何らかの層を介して設けられることとのいずれをも意味し得る。「第1の炭化珪素層上に設けられ」、「第2の炭化珪素層上に設けられ」および「第3の炭化珪素層上に設けられ」の文言についても同様である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の炭化珪素エピタキシャル基板によれば、炭化珪素エピタキシャル基板を製造するためのエピタキシャル成長時に、炭化珪素単結晶基板中の基底面転位が第1の炭化珪素層によって貫通刃状転位に転換される。これにより、エピタキシャル成長時に第3の炭化珪素層中へ基底面転位が伝播することが抑制される。さらに、この炭化珪素エピタキシャル基板を用いた炭化珪素半導体装置のバイポーラ動作時に、第1の炭化珪素層から第3の炭化珪素層の方へ向かう基底面転位の伸長が第2の炭化珪素層によって妨げられる。よってバイポーラ動作時において、第3の炭化珪素層中の基底面転位の伸長および拡大に起因した通電劣化を抑制することができる。
【0018】
本発明の炭化珪素半導体装置によれば、炭化珪素エピタキシャル基板を製造するためのエピタキシャル成長時に、炭化珪素単結晶基板中の基底面転位が第1の炭化珪素層によって貫通刃状転位に転換される。これにより、エピタキシャル成長時に第3の炭化珪素層中へ基底面転位が伝播することが抑制される。さらに、第4の炭化珪素層と第3の炭化珪素層と炭化珪素単結晶基板との積層構造によるpin構造を利用したバイポーラ動作時に、第1の炭化珪素層から第3の炭化珪素層の方へ向かう基底面転位の伸長が第2の炭化珪素層によって妨げられる。よってバイポーラ動作時において、第3の炭化珪素層中の基底面転位の伸長および拡大に起因した通電劣化を抑制することができる。
【0019】
この発明の目的、特徴、局面、および利点は、以下の詳細な説明と添付図面とによって、より明白となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態1における炭化珪素半導体装置の構成を概略的に示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1における炭化珪素エピタキシャル基板の構成を概略的に示す断面図である。
【図3】比較例の炭化珪素エピタキシャル基板の構成を概略的に示す断面図である。
【図4】比較例の炭化珪素半導体装置のバイポーラ動作時における炭化珪素エピタキシャル基板中での基底面転位の伸長の様子を示す部分断面図である。
【図5】図1の炭化珪素半導体装置のバイポーラ動作時における炭化珪素エピタキシャル基板中での基底面転位の伸長の様子を示す部分断面図である。
【図6】本発明の実施の形態1における第1の変形例の炭化珪素半導体装置の構成を概略的に示す断面図である。
【図7】本発明の実施の形態1における第2の変形例の炭化珪素半導体装置の構成を概略的に示す断面図である。
【図8】本発明の実施の形態2における炭化珪素エピタキシャル基板の構成を概略的に示す断面図と、その模式的な不純物濃度プロファイルと、を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態3における炭化珪素エピタキシャル基板の構成を概略的に示す断面図と、その模式的な不純物濃度プロファイルと、を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0022】
<実施の形態1>
図1および図2を参照して、本実施の形態のpinダイオード100(炭化珪素半導体装置)は、炭化珪素エピタキシャル基板51を用いて製造されたものである。言い換えれば、pinダイオード100は炭化珪素エピタキシャル基板51を有している。炭化珪素エピタキシャル基板51は、n型(一の導電型)の炭化珪素単結晶基板10と、n型の第1の炭化珪素層21と、n型の第2の炭化珪素層22と、n型の第3の炭化珪素層23(活性層)とを有している。第1の炭化珪素層21は炭化珪素単結晶基板10上に設けられている。第1の炭化珪素層21は炭化珪素単結晶基板10上に直接設けられていてよい。第2の炭化珪素層22は第1の炭化珪素層21上に設けられている。第2の炭化珪素層22は第1の炭化珪素層21上に直接設けられていてよい。第3の炭化珪素層23は第2の炭化珪素層22上に設けられている。第3の炭化珪素層23は第2の炭化珪素層22上に直接設けられていてよい。第1の炭化珪素層21、第2の炭化珪素層22および第3の炭化珪素層23は、炭化珪素単結晶基板10上のエピタキシャル成長によって形成されたエピタキシャル層である。エピタキシャル成長はCVD法によって行われ得る。
【0023】
炭化珪素単結晶基板10は第1の不純物濃度を有している。第1の不純物濃度は、5×10^(17)cm^(-3)以上、1×10^(19)cm^(-3)以下であることが好ましい。第1の炭化珪素層21は、第1の不純物濃度よりも低い第2の不純物濃度を有している。第2の不純物濃度は、エピタキシャル成長において炭化珪素単結晶基板10から伝播してきた基底面転位DBaが第1の炭化珪素層21中の転換点PNで貫通刃状転位DTに転換する率が高くなるように選択されることが好ましい。この目的を満たすため、第2の不純物濃度は、5×10^(16)cm^(-3)以上、1×10^(19)cm^(-3)以下であることが好ましい。第2の炭化珪素層22は、第1の不純物濃度よりも高い第3の不純物濃度を有している。新たな結晶欠陥を発生させないようにするため、第3の不純物濃度は2×10^(19)cm^(-3)以下であることが好ましい。さらに、第3の不純物濃度の下限値は、第1の不純物濃度よりも高い必要があり、具体的には5×10^(18)cm^(-3)以上である。第3の炭化珪素層23は、第1の不純物濃度よりも低い第4の不純物濃度を有している。第4の不純物濃度は、第2の不純物濃度よりも低いことが好ましく、具体的には1×10^(14)cm^(-3)以上、5×10^(16)cm^(-3)以下が好ましく、たとえば5×10^(15)cm^(-3)程度である。
【0024】
炭化珪素単結晶基板10は、六方晶系の結晶構造を有しており、好ましくは結晶多形4Hを有している。炭化珪素単結晶基板10の、第1の炭化珪素層21が設けられている表面(図中、上面)は、{0001}面に対して0°よりも大きいオフ角を有している。このオフ角は、0.05°以上であることが好ましく0.1°以上であることがより好ましい。ある程度の大きさのオフ角が設けられることで、炭化珪素単結晶基板10の結晶構造と同様の結晶構造を有するエピタキシャル層の形成が容易となる。またこのオフ角は、8°以下であることが好ましく、5°以下であることがより好ましい。オフ角が過度に大きくないことで、炭化珪素単結晶基板10の表面上における基底面転位の密度が過度に大きくなることが避けられる。また上記オフ角は、{0001}面である(0001)面および(000-1)面のうち、(0001)面を基準とした角度であることが好ましい。
【0025】
pinダイオード100はさらに、p型(一の導電型と異なる導電型)の第4の炭化珪素層124と、カソード電極101(第1の電極)と、アノード電極102(第2の電極)と、JTE(Junction Termination Extension)領域123と、絶縁膜133とを有している。第4の炭化珪素層124は第3の炭化珪素層23上に設けられている。第4の炭化珪素層124は第3の炭化珪素層23上に直接設けられていてよい。カソード電極101は炭化珪素単結晶基板10に電気的に接続されている。カソード電極101は炭化珪素単結晶基板10にオーミック接続されている。そのような接続を得るために、カソード電極101は炭化珪素単結晶基板10上に直接設けられていてよい。アノード電極102は第4の炭化珪素層124に電気的に接続されている。アノード電極102は第4の炭化珪素層124にオーミック接続されている。そのような接続を得るために、アノード電極102は第4の炭化珪素層124上に直接設けられていてよい。
【0026】
図3を参照して、比較例の炭化珪素エピタキシャル基板59においても、炭化珪素エピタキシャル基板51(図2)と同様に、エピタキシャル成長時の基底面転位DBaの伸長が第1の炭化珪素層21中の転換点PNで止められている。一方で、炭化珪素エピタキシャル基板59(図3)には第2の炭化珪素層22が設けられていない。
【0027】
図4を参照して、上記のように第2の炭化珪素層22を欠く炭化珪素エピタキシャル基板59を用いて製造されたpinダイオード(図1参照)に順方向電流が流されたところ、大きな通電劣化が生じた。この理由を発明者らが調査したところ、通電に伴って、転換点PNより深く(図中の下側)に存在する基底面転位DBa(言い換えれば積層欠陥)から、第3のエピタキシャル層23(活性層)中へ、基底面転位DBzが伸長および拡大していることが明らかとなった。よって、炭化珪素エピタキシャル基板59を用いてpinダイオードが製造された場合、バイポーラ動作に伴う通電劣化が大きいことになる。
【0028】
そこで本発明者らは、転換点PNより下側に存在する基底面転位DBaからの基底面転位の伸長を妨げる構成がエピタキシャル層中に必要であると考えた。その一環として基底面転位の伸長と炭化珪素中の不純物濃度との関係を調査したところ、基底面転位はより不純物濃度の低い方向へと伸長することがわかった。また不純物濃度が高い領域においては基底面転位の伸長が抑制され、特に不純物濃度5×10^(18)cm^(-3)以上の領域においては伸長がほぼ防止されることが分かった。
【0029】
以上のような発見に基づき、本実施の形態の炭化珪素エピタキシャル基板51(図2)は、第1の炭化珪素層21上に第2の炭化珪素層22が設けられたものとされた。第2の炭化珪素層22の不純物濃度(第3の不純物濃度)は、炭化珪素単結晶基板10の不純物濃度(第1の不純物濃度)よりも高く、好ましくは5×10^(18)cm^(-3)以上とされた。
【0030】
図5を参照して、第2の炭化珪素層22が設けられた炭化珪素エピタキシャル基板51を用いて製造されたpinダイオード100(図1)に順方向電流が流されたところ、通電劣化は起きにくかった。これは、転換点PNより深く(図中の下側)に存在する基底面転位DBaからバイポーラ動作時に伸長してきた基底面転位DBbが、第2の炭化珪素層22に達した後は、さらには伸長しにくかったため、と考えられる。
【0031】
この検証のため、炭化珪素単結晶基板10の直上にエピタキシャル層として、徐々に不純物濃度が低くなる濃度傾斜層(後述するバッファ層29(図8)と同様の層)のみを有する炭化珪素エピタキシャル基板が準備された。この炭化珪素エピタキシャル基板に対して、疑似的な通電劣化を生じさせるために、紫外レーザーが照射された。それにより拡大された積層欠陥をエピタキシャル成長面側から観察した。その結果、積層欠陥の幅は、不純物濃度が高い位置ほど幅が狭くなっていた。このことから、高不純物濃度層が基底面転位(すなわち積層欠陥)の拡大を抑制する理由は、高不純物濃度層内において積層欠陥(言い換えればそれを縁取る2つの部分転位)が移動しにくくなるためと考えられる。積層欠陥は、2つの部分転位のうちSiコアと呼ばれる一方の部分転位が結晶内を移動することで拡大することが知られている。Siコアの部分転位は、より不純物濃度の低い側へ移動する傾向がある。このため、第2の炭化珪素層22の不純物濃度(第3の不純物濃度)は、炭化珪素単結晶基板10の不純物濃度(第1の不純物濃度)よりも高くする必要があり、好ましくはその2倍以上の不純物濃度を有している。ただし第2の炭化珪素層22の不純物濃度が2×10^(19)cm^(-3)を超えると、エピタキシャル成長時に新たな結晶欠陥の発生を引き起こしやすい。このため第2の炭化珪素層22の不純物濃度は2×10^(19)cm^(-3)以下であることが好ましい。
【0032】
本実施の形態のpinダイオード100(図1)によれば、炭化珪素エピタキシャル基板51(図2)を製造するためのエピタキシャル成長時に、炭化珪素単結晶基板10中の基底面転位DBaが第1の炭化珪素層21によって貫通刃状転位DTに転換される。これにより、エピタキシャル成長時に第3の炭化珪素層23中へ基底面転位が伝播することが抑制される。さらに、第4の炭化珪素層124と第3の炭化珪素層23と炭化珪素単結晶基板10との積層構造によるpin構造を利用したバイポーラ動作時に、第1の炭化珪素層21から第3の炭化珪素層23の方へ向かう基底面転位DBb(図5)の伸長が第2の炭化珪素層22によって妨げられる。よってバイポーラ動作時において、第3の炭化珪素層23中の基底面転位の伸長および拡大に起因した通電劣化を抑制することができる。
【0033】
pinダイオード100(図1)において、カソード電極101は炭化珪素単結晶基板10に電気的に接続されており、アノード電極102は第4の炭化珪素層124に電気的に接続されている。これにより、カソード電極101およびアノード電極102を主電極とする縦型半導体装置が構成される。縦型の炭化珪素半導体装置においてはバイポーラ動作時の通電劣化が問題となりやすいところ、本実施の形態によりそれを抑制することができる。
【0034】
また、カソード電極101は炭化珪素単結晶基板10にオーミック接続されており、アノード電極102は第4の炭化珪素層124にオーミック接続されている。これにより、カソード電極101とアノード電極102との間が、第4の炭化珪素層124と第3の炭化珪素層23と炭化珪素単結晶基板10との積層構造によるpin構造により接続される。このpin構造を利用したバイポーラ動作において、従来、通電劣化が生じやすかったところ、本実施の形態によりそれを抑制することができる。
【0035】
本実施の形態の炭化珪素エピタキシャル基板51(図2)によれば、炭化珪素エピタキシャル基板51を製造するためのエピタキシャル成長時に、炭化珪素単結晶基板10中の基底面転位DBaが第1の炭化珪素層21によって貫通刃状転位DTに転換される。これにより、エピタキシャル成長時に第3の炭化珪素層23中へ基底面転位が伝播することが抑制される。さらに、この炭化珪素エピタキシャル基板51を用いたpinダイオード100(図1)のバイポーラ動作時に、第1の炭化珪素層21から第3の炭化珪素層23の方へ向かう基底面転位DBbの伸長が第2の炭化珪素層22によって妨げられる。よってバイポーラ動作時において、第3の炭化珪素層23中の基底面転位の伸長および拡大に起因した通電劣化を抑制することができる。
【0036】
好ましくは、第3の炭化珪素層23の不純物濃度(第4の不純物濃度)は、第1の炭化珪素層21の不純物濃度(第2の不純物濃度)よりも低い。これにより、第3の炭化珪素層23の不純物濃度を十分に低くすることができる。よって、第4の不純物濃度が第2の不純物濃度よりも高い場合に比して、炭化珪素エピタキシャル基板51を用いたpinダイオード100(図1)の耐電圧を高くすることができる。
【0037】
好ましくは、第2の炭化珪素層22の不純物濃度(第3の不純物濃度)は2×10^(19)cm^(-3)以下である。これにより、第2の炭化珪素層22の形成時の積層欠陥の発生を抑制することができる。
【0038】
なお炭化珪素半導体装置は、pinダイオード100(図1)に限定されるものではなく、他のバイポーラデバイスであってもよい。前述したように、一般的にユニポーラデバイスに区分されることが多いMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)であっても、その寄生pinダイオードがバイポーラ素子として動作し得る場合は、本明細書における「バイポーラデバイス」に相当する。MOSFETはプレーナゲート型MOSFET200(図6)であってもよい。プレーナゲート型MOSFET200(図6)は、炭化珪素エピタキシャル基板51と、ベース層224(第4の炭化珪素層)と、ソース層223と、ゲート絶縁膜231と、ゲート電極232と、ドレイン電極201(第1の電極)と、ソース電極202(第2の電極)とを有している。またMOSFETはトレンチゲート型MOSFET300(図7)であってもよい。トレンチゲート型MOSFET300は、炭化珪素エピタキシャル基板51と、ベース層324(第4の炭化珪素層)と、ソース層323と、ゲート絶縁膜331と、ゲート電極332と、ドレイン電極301(第1の電極)と、ソース電極302(第2の電極)とを有している。
【0039】
<実施の形態2>
図8を参照して、本実施の形態の炭化珪素エピタキシャル基板52はバッファ層29を有している。バッファ層29は、第1の面S1と、第1の面S1と反対の第2の面S2とを有している。バッファ層29は炭化珪素から作られている。バッファ層29は、第2の炭化珪素層22上でのエピタキシャル成長によって形成され得る。
【0040】
第1の面S1は第2の炭化珪素層22に面しており、第2の面S2は第3の炭化珪素層23に面している。第1の面S1は第2の炭化珪素層22に直接面していてよい。第2の面S2は第3の炭化珪素層23に直接面していてよい。第1の面S1が第2の炭化珪素層22に直接面し、かつ第2の面S2が第3の炭化珪素層23に直接面することで、第3の炭化珪素層23は第2の炭化珪素層22上にバッファ層29のみを介して設けられる。バッファ層29は、第1の面S1から第2の面S2へ向かって連続的に減少する不純物濃度プロファイルを有している。
【0041】
バッファ層29の不純物濃度プロファイルは、図8に示すように線形に変化することが好ましいが、急峻な変化を伴わなければ線形でなくてもよく、上述したように連続的な変化であれば許容される。逆に、不純物濃度プロファイルが不連続に(言い換えれば離散的に)変化する階段構造を有する場合、エピタキシャル成長時に当該不連続界面において新たな結晶欠陥が生じやすい。これは、不純物濃度が不連続な界面では、結晶の格子定数も不連続となり、その結果歪が生じるためである。たとえば、厚み10μm程度のバッファ層29において、不純物濃度は第1の面S1から第2の面S2に向かって厚み1μmあたり2×10^(18)cm^(-3)程度で減少するものとされる。これにより、不純物濃度の変化がバッファ層29と第3の炭化珪素層23との界面で急峻とならないようにすることができる。
【0042】
活性層としての第3の炭化珪素層23における新たな結晶欠陥の発生をより低減するためには、図8の不純物濃度プロファイルに示されるように、他の界面においても濃度変化が急峻とならないよう、不純物濃度が滑らかに変化するように各層が接続されることが好ましい。この場合、厳密にいえば、第2の炭化珪素層22と第3の炭化珪素層23との間だけでなく、炭化珪素単結晶基板10と第1の炭化珪素層との間、および第1の炭化珪素層と第2の炭化珪素層との間の各々にも、バッファ層(図8の断面図において図示せず)が設けられているともいえる。
【0043】
上記以外の構成については、上述した炭化珪素エピタキシャル基板51(図2:実施の形態1)の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0044】
本実施の形態によれば、バッファ層29により、第2の炭化珪素層22と第3の炭化珪素層23との間での不純物濃度の急峻な変化が抑制される。これにより、エピタキシャル成長時に新たな結晶欠陥が発生することを抑制することができる。よって、実施の形態1で説明した効果をより高めることができる。なお、炭化珪素エピタキシャル基板52を用いて、実施の形態1とほぼ同様の炭化珪素半導体装置を製造することができる。
【0045】
<実施の形態3>
図9を参照して、本実施の形態の炭化珪素エピタキシャル基板53は、実施の形態2(図8)における炭化珪素エピタキシャル基板52のバッファ層29に代わり、バッファ層29vを有している。バッファ層29と同様、バッファ層29vは、第1の面S1と、第1の面S1と反対の第2の面S2とを有している。バッファ層29vは炭化珪素から作られている。バッファ層29vは、第2の炭化珪素層22上でのエピタキシャル成長によって形成され得る。
【0046】
実施の形態2と同様、第1の面S1は第2の炭化珪素層22に面しており、第2の面S2は第3の炭化珪素層23に面している。第1の面S1は第2の炭化珪素層22に直接面していてよい。第2の面S2は第3の炭化珪素層23に直接面していてよい。第1の面S1が第2の炭化珪素層22に直接面し、かつ第2の面S2が第3の炭化珪素層23に直接面することで、第3の炭化珪素層23は第2の炭化珪素層22上にバッファ層29vのみを介して設けられる。バッファ層29vは、第1の面S1から第2の面S2へ向かって連続的に減少する不純物濃度プロファイルを有している。
【0047】
ここで第1の面S1と第2の面S2との間の地点を中間地点PIとする。中間地点PIは、第1の面S1と第2の面S2との間に位置する、第1の面S1および第2の面S2の各々から離れた地点であればよく、第1の面S1および第2の面S2から等距離に位置する必要はない。本実施の形態によれば、バッファ層29vは、その不純物濃度が、第1の面S1から中間地点PIへ向かって連続的に第1の減少率で減少し、かつ中間地点PIから第2の面S2へ向かって第2の減少率で連続的に減少する不純物濃度プロファイルを有している。第1の減少率は第2の減少率よりも小さい。
【0048】
バッファ層29(図8)とバッファ層29v(図9)との間でその不純物濃度プロファイルを比較すると、バッファ層29vにおいては、第2の炭化珪素層22の直上からバッファ層29vの厚み方向における中間地点PIまでの不純物濃度の変化がより緩やかとされている。これにより、第2の炭化珪素層22と第3の炭化珪素層23との界面での歪の発生が抑制される。よって、新たな結晶欠陥の発生をさらに抑制することができる。
【0049】
バッファ層29vは、たとえば、次のように形成される。まず、第2の炭化珪素層22上に、表面に向かって厚み1μmあたり2×10^(17)cm^(-3)(第1の減少率)で不純物濃度が減少するように、厚み10μmの第1の炭化珪素領域が堆積される。第1の炭化珪素領域上に、表面に向かって厚み1μmあたり2×10^(18)cm^(-3)(第2の減少率)で不純物濃度が減少するように、厚み5μmの第2の炭化珪素領域が堆積される。これにより総厚み15μmのバッファ層29vが形成され、第1の炭化珪素領域と第2の炭化珪素領域との間の界面の位置が中間地点PIに対応する。
【0050】
なお上記の例においては、中間地点PIは、不純物濃度プロファイルが折れ曲がる地点に対応している。しかしながら中間地点PIは、必ずしもそのような地点である必要はなく、不純物濃度プロファイルが上述した条件を満たすように仮想的に定められればよい。また上記の例においては第1および第2の減少率の各々は一定であるが、これらは厚み方向において変化してもよい。言い換えれば、上記第1および第2の炭化珪素領域の各々において、不純物濃度プロファイルは、必ずしも直線で変化する必要はなく、曲線で変化してもよい。その場合、第1および第2の減少率の各々は、平均的な値によって代表されればよい。
【0051】
炭化珪素エピタキシャル基板53の、上記以外の構成については、前述した炭化珪素エピタキシャル基板52(図8:実施の形態2)の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0052】
なお、上記各実施の形態においては、「一の導電型」がn型の場合について説明したが、「一の導電型」はp型であってもよい。
【0053】
<実施例>
(実施例1)
炭化珪素単結晶基板10(図2)として、オフ角4度、直径75mm(3インチ)、結晶多形4H、導電型n型、不純物濃度5×10^(18)cm^(-3)を有する炭化珪素基板が用意された。炭化珪素基板の表面は、あらかじめ、機械研磨および化学機械研磨により鏡面に加工されていた。表面における基底面転位密度は500個cm^(-2)であった。
【0054】
次に、この表面に存在する有機物汚染および金属汚染などを除去するための表面洗浄が実施された。具体的には、まず、炭化珪素単結晶基板10がアンモニア水と過酸化水素水との混合溶液を加熱したものに浸された。次に、炭化珪素単結晶基板10が、加熱された塩酸と過酸化水素水との混合溶液に浸された。次に、炭化珪素単結晶基板10が、フッ化水素を含む水溶液に浸された。次に、純水による置換処理が施された。次に炭化珪素単結晶基板10が乾燥された。表面洗浄前の表面には、たとえば、金属元素などの異物が存在し得る。このような異物は、エピタキシャル成長時に新たな結晶欠陥が発生する原因となり得る。
【0055】
なお、後述するエピタキシャル成長の最初の段階で導入される水素ガスにも、表面汚染を除去する作用がある。しかしながら、表面洗浄を十分に行う意味でも、また、成長炉内の清浄度を保つ意味でも、表面上の異物は、炭化珪素単結晶基板10がエピタキシャル成長のための反応炉に導入される前に除去しておくことが望ましい。
【0056】
続いて、炭化珪素単結晶基板10がエピタキシャル成長用のCVD装置の反応炉内に導入された。反応炉内の温度は1575℃とされた。キャリアガスである水素ガスを供給し始めた後に炭化珪素原料ガスおよび不純物原料ガスを導入することでエピタキシャル成長が開始された。具体的には、炭化珪素ガスおよび不純物原料ガスの流量を調整することで、まず、不純物濃度5×10^(17)cm^(-3)の第1の炭化珪素層21が500nmの厚みで形成された。続いて、窒素ガス流量を調整することで、不純物濃度1×10^(19)cm^(-3)の第2の炭化珪素層22が1μmの厚みで形成された。さらに、不純物濃度が3×10^(16)cm^(-3)の第3の炭化珪素層23が10μmの厚みで形成された。炭化珪素原料ガスにはモノシランおよびプロパンが用いられた。不純物原料ガスには、窒素(N)原子を含有するガス、具体的には窒素ガス、が用いられた。なお窒素ガスに代わり、リン(P)原子を含有するガスを用いることもできる。また、成長させられるエピタキシャル層がp型の場合は、アルミニウム(Al)原子またはボロン(B)原子を含むガスが用いられ得る。
【0057】
以上により、炭化珪素エピタキシャル基板51を得た。その全体のフォトルミネッセンスイメージを取得したところ、第3の炭化珪素層23中の基底面転位密度は300個cm^(-2)であった。この炭化珪素エピタキシャル基板51を用いて、バイポーラ素子であるpinダイオード100(図1)が作製された。作製された複数の素子のうち、活性層としての第3の炭化珪素層23中に基底面転位が存在しない素子が選択された。当該素子に対して50Acm^(-2)の電流密度で60分間の順方向通電が行われた。その結果、ダイオードの特性に変化はみられなかった。また、活性層としての第3の炭化珪素層23中に基底面転位が存在する素子について、基底面転位の断面構造が観察された。その結果、基底面転位は、第2の炭化珪素層22と第3の炭化珪素層23との界面から形成されていた。
【0058】
(実施例2)
実施例1と同様に準備された炭化珪素単結晶基板10(図8)上に、エピタキシャル成長層が形成された。具体的には、まず、不純物濃度が5×10^(18)cm^(-3)となるように窒素ガス流量を調整された状態で成長が開始された。成長が始まると同時に窒素ガス流量を一定の割合で減少させることで、炭化珪素単結晶基板10上に、不純物濃度が5×10^(18)cm^(-3)から5×10^(17)cm^(-3)まで線形に減少するようなバッファ層が200nmの厚みで形成された。続いて、不純物濃度が5×10^(17)cm^(-3)の第1の炭化珪素層21が形成された。次に、不純物濃度が5×10^(17)cm^(-3)から1×10^(19)cm^(-3)まで線形に増加するようなバッファ層を500nmの厚みで成長させた後に、不純物濃度が1×10^(19)cm^(-3)の第2の炭化珪素層22が500nmの厚みで形成された。さらに、不純物濃度が5×10^(19)cm^(-3)から3×10^(16)cm^(-3)まで線形に減少するようなバッファ層29が10μmの厚みで形成された。バッファ層29上に不純物濃度が3×10^(16)cm^(-3)の第3の炭化珪素層23が10μmの厚みで形成された。
【0059】
以上により、炭化珪素エピタキシャル基板52を得た。その全体のフォトルミネッセンスイメージを取得したところ、第3の炭化珪素層23中の基底面転位密度は50個cm^(-2)であった。これらの基底面転位の断面構造を確認しところ、基底面転位は炭化珪素単結晶基板10から伝播してきたものであった。この炭化珪素エピタキシャル基板52を用いて、バイポーラ素子であるpinダイオードが作製された。作製された複数の素子のうち、活性層としての第3の炭化珪素層23中に基底面転位が存在しない素子が選択された。当該素子に対して50Acm^(-2)の電流密度で60分間の順方向通電が行われた。その結果、ダイオードの特性に変化はみられなかった。
【0060】
(比較例)
実施例1と同様に準備された炭化珪素単結晶基板10(図3)上に、エピタキシャル成長層が形成された。具体的には、まず、不純物濃度5×10^(17)cm^(-3)の第1の炭化珪素層21が500nmの厚みで形成された。続いて、窒素ガス流量を調整することで、不純物濃度が3×10^(16)cm^(-3)の第3の炭化珪素層23が10μmの厚みで形成された。以上により、炭化珪素エピタキシャル基板59を得た。その全体のフォトルミネッセンスイメージを取得したところ、第3の炭化珪素層23中の基底面転位密度は100個cm^(-2)であった。この炭化珪素エピタキシャル基板59を用いて、バイポーラ素子であるpinダイオードが作製された。
【0061】
作製された複数の素子のうち、活性層としての第3の炭化珪素層23中に基底面転位が存在しない素子が選択された。当該素子に対して50Acm^(-2)の電流密度で60分間の順方向通電が行われた。その結果、通電に伴い順方向電圧降下の増大がみられた。このような劣化がみられた素子について、その電極などを除去した後に、フォトルミネッセンスイメージが取得された。その結果、拡大した積層欠陥が確認された。炭化珪素単結晶基板10と第1の炭化珪素層21との界面に積層欠陥が交錯する位置周辺の断面構造を確認した結果、第1の炭化珪素層21(図4)中で、炭化珪素単結晶基板10から伝播してきた基底面転位DBaが貫通刃状転位DTに転換している様子と、転換点PNより下側の基底面転位DBa(すなわち積層欠陥)から第3の炭化珪素層23へ基底面転位DBzが伸長している様子とが観察された。
【0062】
なお、本発明は、その発明の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略したりすることが可能である。この発明は詳細に説明されたが、上記した説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。
【符号の説明】
【0063】
S1 第1の面、S2 第2の面、DT 貫通刃状転位、PN 転換点、DBa,DBb,DBz 基底面転位、10 炭化珪素単結晶基板、21 第1の炭化珪素層、22 第2の炭化珪素層、23 第3の炭化珪素層,第3のエピタキシャル層、29,29v バッファ層、51?53 炭化珪素エピタキシャル基板、100 pinダイオード(炭化珪素半導体装置)、101 カソード電極(第1の電極)、102 アノード電極(第2の電極)、123 JTE領域、124 第4の炭化珪素層、133 絶縁膜、200 プレーナゲート型MOSFET(炭化珪素半導体装置)、300 トレンチゲート型MOSFET(炭化珪素半導体装置)、201,301 ドレイン電極(第1の電極)、202,302 ソース電極(第2の電極)、223,323 ソース層、224,324 ベース層(第4の炭化珪素層)、231,331 ゲート絶縁膜、232,332 ゲート電極。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の不純物濃度を有する一の導電型の炭化珪素単結晶基板(10)と、
前記炭化珪素単結晶基板(10)上に設けられ、前記第1の不純物濃度よりも低い第2の不純物濃度を有する前記一の導電型の第1の炭化珪素層(21)と、
前記第1の炭化珪素層(21)上に設けられ、500nm以上の厚みを有し、前記第1の不純物濃度よりも高くかつ5×10^(18)cm^(-3)以上である第3の不純物濃度を有する前記一の導電型の第2の炭化珪素層(22)と、
前記第2の炭化珪素層(22)上に設けられ、前記第2の不純物濃度よりも低い第4の不純物濃度を有する前記一の導電型の第3の炭化珪素層(23)と、
を備える、炭化珪素エピタキシャル基板(51?53)。
【請求項2】
前記第3の不純物濃度は2×10^(19)cm^(-3)以下である、請求項1に記載の炭化珪素エピタキシャル基板(51?53)。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記第2の不純物濃度は5×10^(16)cm^(-3)以上、1×10^(19)cm^(-3)以下である、請求項1または2に記載の炭化珪素エピタキシャル基板(51?53)。
【請求項5】
前記第4の不純物濃度は1×10^(14)cm^(-3)以上、5×10^(16)cm^(-3)以下である、請求項1、2または4のいずれか1項に記載の炭化珪素エピタキシャル基板(51?53)。
【請求項6】
第1の面(S1)と前記第1の面(S1)と反対の第2の面(S2)とを有し、炭化珪素から作られたバッファ層(29,29v)をさらに備え、
前記第1の面(S1)は前記第2の炭化珪素層(22)に面しており、前記第2の面(S2)は前記第3の炭化珪素層(23)に面しており、前記バッファ層(29,29v)は、前記第1の面(S1)から前記第2の面(S2)へ向かって連続的に減少する不純物濃度プロファイルを有している、請求項1、2、4または5のいずれか1項に記載の炭化珪素エピタキシャル基板(51?53)。
【請求項7】
第1の面(S1)と前記第1の面(S1)と反対の第2の面(S2)とを有し、炭化珪素から作られたバッファ層(29v)をさらに備え、
前記第1の面(S1)は前記第2の炭化珪素層(22)に面しており、前記第2の面(S2)は前記第3の炭化珪素層(23)に面しており、
前記バッファ層(29v)の前記第1の面(S1)と前記第2の面(S2)との間の地点を中間地点とすると、前記バッファ層(29v)は、不純物濃度が、前記第1の面(S1)から前記中間地点へ向かって連続的に第1の減少率で減少し、かつ前記中間地点から前記第2の面(S2)へ向かって第2の減少率で連続的に減少する不純物濃度プロファイルを有しており、
前記第1の減少率は前記第2の減少率よりも小さい、
請求項1、2、4または5のいずれか1項に記載の炭化珪素エピタキシャル基板(53)。
【請求項8】
第1の不純物濃度を有する一の導電型の炭化珪素単結晶基板(10)と、
前記炭化珪素単結晶基板(10)上に設けられ、前記第1の不純物濃度よりも低い第2の不純物濃度を有する前記一の導電型の第1の炭化珪素層(21)と、
前記第1の炭化珪素層(21)上に設けられ、500nm以上の厚みを有し、前記第1の不純物濃度よりも高くかつ5×10^(18)cm^(-3)以上である第3の不純物濃度を有する前記一の導電型の第2の炭化珪素層(22)と、
前記第2の炭化珪素層(22)上に設けられ、前記第2の不純物濃度よりも低い第4の不純物濃度を有する前記一の導電型の第3の炭化珪素層(23)と、
前記第3の炭化珪素層(23)上に設けられた、前記一の導電型と異なる導電型の第4の炭化珪素層(124,224,324)と、
を備える、炭化珪素半導体装置(100,200,300)。
【請求項9】
前記炭化珪素単結晶基板(10)に電気的に接続された第1の電極(101,201,301)と、
前記第4の炭化珪素層(124,224,324)に電気的に接続された第2の電極(102,202,302)と、
をさらに備える、請求項8に記載の炭化珪素半導体装置(100,200,300)。
【請求項10】
前記第1の電極(101,201,301)は前記炭化珪素単結晶基板(10)にオーミック接続されており、前記第2の電極(102,202,302)は前記第4の炭化珪素層(124,224,324)にオーミック接続されている、請求項9に記載の炭化珪素半導体装置(100,200,300)。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-01-31 
出願番号 特願2017-554137(P2017-554137)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (H01L)
P 1 651・ 113- YAA (H01L)
P 1 651・ 121- YAA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 綿引 隆  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 辻本 泰隆
小田 浩
登録日 2018-06-15 
登録番号 特許第6351874号(P6351874)
権利者 三菱電機株式会社
発明の名称 炭化珪素エピタキシャル基板および炭化珪素半導体装置  
代理人 松浦 孝  
代理人 吉竹 英俊  
代理人 有田 貴弘  
代理人 吉竹 英俊  
代理人 有田 貴弘  

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