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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B01D |
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管理番号 | 1360501 |
異議申立番号 | 異議2019-700983 |
総通号数 | 244 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-04-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-12-04 |
確定日 | 2020-03-03 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6526534号発明「沈殿槽及び沈殿処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6526534号の請求項1?6に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第6526534号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成27年9月25日に出願され、令和1年5月17日にその特許権の設定登録がされ、令和1年6月5日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1?6に係る特許に対して、令和1年12月4日付けで特許異議申立人大森桂子により特許異議の申立てがされたものである。 2 本件特許発明 本件特許の請求項1?6に係る発明(以下、「本件特許発明1」?「本件特許発明6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 被処理水中に含まれるフロックを沈殿分離するための沈殿槽であって、 円柱状又は多角柱状の槽体と、 前記槽体内において、前記槽体の軸方向下方に向かって前記被処理水を供給する流入管と、 前記流入管を中心とする前記槽体内の周方向に、前記槽体の中央上方から外周下方に向かって傾斜する傾斜面を有する、前記流入管の流入口よりも高い位置に配置された傾斜部材と、 を備える沈殿槽であって、 前記傾斜部材は、前記流入管を中心として放射状に均等に配置された複数枚の傾斜板を、鉛直方向又は水平方向の異なる位置に複数段設け、かつ、平面視したとき、前記異なる位置に設けられた傾斜板同士の一部が重なるように配置されていることを特徴とする、沈殿槽。 【請求項2】 前記傾斜部材は、該傾斜面の上面に沈降するフロックを前記槽体内の外周付近まで誘導可能に設けられた請求項1に記載の沈殿槽。 【請求項3】 前記流入管から供給される前記被処理水を、衝突により水平方向に分散させる被処理水分配機構を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の沈殿槽。 【請求項4】 前記槽体内の壁面の周方向に円環状の棚板を具備することを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の沈殿槽。 【請求項5】 前記棚板の主面が、水平に又は前記槽体の壁面側より中心側の方が下方になるように傾斜していることを特徴とする請求項4に記載の沈殿槽。 【請求項6】 請求項1?5のいずれか1項に記載の沈殿槽を用いた沈殿処理方法であって、 前記流入管から前記槽体内に、フロックを含有する被処理水を供給する被処理水供給工程と、 前記槽体内に供給された被処理水中に含まれるフロックを沈降させるフロック沈降工程と、 前記フロック沈降工程で沈降したフロックを、前記槽体の底部に沈殿させる沈殿工程と、 を備えることを特徴とする、沈殿処理方法。」 3 申立理由の概要 特許異議申立人は、証拠として、甲第1号証(特開昭54-101561号公報)、甲第2号証(特開昭53-12151号公報)、及び、甲第3号証(実願平2-49682号(実開平4-9603号)のマイクロフィルム)を提出し、本件特許発明1?6は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものであるとの申立理由を主張している。 4 甲号証の記載事項 (1)甲第1号証の記載事項 ア 「原水を2、ポンプを用いて特殊翼又はボールを内蔵する3、反応筒に圧入し、ここへ4、5、6、パイプミキサーよりそれぞれの目的に適した各種凝集剤をこの順序で定量ポンプを用いて一定量を圧入すると、原水が3、反応筒を通過する際各特殊翼の働きによって無駆動で急速攪拌が行なわれミクロフロックを形成する。 次に2、ポンプ及び3、反応筒に連結する7、フロキュレータに圧送したミクロフロックや細、粗粒子は8、固定スクリューのらせん板上を緩かにころがり運動をなし高分子凝集剤の吸着架橋作用で雪だるま式に次第に大きくなり、重いマクロフロックを形成し、ポンプの送水圧力で強制的に1、本体槽底に急速沈降して次第に濃縮する。 処理水中の破壊フロックや未フロックの超微粒子は11、円筒傾斜板の隙間を通過すると、ころがり運動でマクロフロックに成長して槽底に再沈降する。沈堆したスラッジは10、連続汚泥排出装置の9、攪拌翼の緩速運転の働きでスラッジの固化防止と界面の水平を保ちつつ14、ピンチバルブを調節して定時的且つ定量のスラッジを排出させる。 更に処理水は12、整流孔を通過する際超微粒子は抑止されて清澄水のみ13、集水樋に入り15、排水管を通って1、本体槽外に排出される。 本シックナーは上記各種機能の相乗効果により凝集・沈降・濃縮・排泥等の処理を強制連続的に行なうため、従来のシックナーと同じ表面積で処理効率を数倍増大できる優れたシックナーである。」(特許請求の範囲) イ 「 」(第3頁) (上記アの記載を参酌すると、フロキュレータ7は、本体槽1内に設けられており、反応筒3から圧送された処理水は、フロキュレータ7を通して、本体槽1の軸方向下方に向かって供給されることが窺える。また、円筒傾斜板11は、本体槽1の中央上方から外周下方に向かって傾斜する傾斜面を有しており、フロキュレータ7の流出口よりも高い位置に配置され、さらに、フロキュレータ7を中心に水平方向の異なる位置に複数段設けられ、平面視したときに、異なる位置に設けられた円筒傾斜板11同士の一部が重なるように配置されていることが窺える。) (2)甲第1号証に記載された発明 上記(1)ア及びイに摘示した甲第1号証の記載を、本件特許の請求項1の記載ぶりに則して整理すると、甲第1号証には、 「凝集・沈降・濃縮・排泥等の処理を行なうシックナーであって、 本体槽1と、 本体槽1内において、反応筒3から圧送された処理水を本体槽1の軸方向下方に向かって供給するフロキュレータ7と、 本体槽1の中央上方から外周下方に向かって傾斜する傾斜面を有しており、フロキュレータ7の流出口よりも高い位置に配置された円筒傾斜板11と、 を備えるシックナーであって、 前記円筒傾斜板11は、フロキュレータ7を中心に水平方向の異なる位置に複数段設け、平面視したときに、異なる位置に設けられた円筒傾斜板11同士の一部が重なるように配置されている、シックナー。」 の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 5 申立理由の検討 (1)本件特許発明1について ア 本件特許発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「本体槽1」、「処理水」は、それぞれ、本件特許発明1の「槽体」、「被処理水」に相当する。 また、甲1発明の「凝集・沈降・濃縮・排泥等の処理を強制連続的に行なうシックナー」は、処理水(被処理水)中のフロックを沈降させて分離するものであるから、本件特許発明1の「被処理水中に含まれるフロックを沈殿分離するための沈殿槽」に相当する。 そして、甲1発明の「フロキュレータ7」は、反応筒から圧送された処理水(被処理水)を本体槽(槽体)に供給するものであるから、本件特許発明1の「流入管」に相当し、また、甲1発明の「フロキュレータ7の流出口」は、本件特許発明1の「流入管の流入口」に相当する。 さらに、甲1発明のフロキュレータ(流入管)を中心として設けられた「円筒傾斜板11」は、円筒形状であるため、本体槽(槽体)内の周方向に存在していることは明らかであるから、甲1発明の「本体槽1の中央上方から外周下方に向かって傾斜する傾斜面を有しており、フロキュレータ7の下部よりも高い位置に配置された円筒傾斜板11」は、本件特許発明1の「前記流入管を中心とする前記槽体内の周方向に、前記槽体の中央上方から外周下方に向かって傾斜する傾斜面を有する、前記流入管の流入口よりも高い位置に配置された傾斜部材」に相当する。 また、甲1発明の「円筒傾斜板11」が「フロキュレータ7を中心に水平方向の異なる位置に複数段設け、平面視したときに、異なる位置に設けられた円筒傾斜板11同士の一部が重なるように配置されている」ことは、本件特許発明1の「傾斜部材」が「鉛直方向又は水平方向の異なる位置に複数段設け」、「平面視したとき、前記異なる位置に設けられた」「傾斜部材」「の一部が重なるように配置されている」ことに相当する。 したがって、本件特許発明1は、甲1発明と、 「被処理水中に含まれるフロックを沈殿分離するための沈殿槽であって、 槽体と、 前記槽体内において、前記槽体の軸方向下方に向かって前記被処理水を供給する流入管と、 前記流入管を中心とする前記槽体内の周方向に、前記槽体の中央上方から外周下方に向かって傾斜する傾斜面を有する、前記流入管の流入口よりも高い位置に配置された傾斜部材と、 を備える沈殿槽であって、 前記傾斜部材は、鉛直方向又は水平方向の異なる位置に複数段設け、かつ、平面視したとき、前記異なる位置に設けられた傾斜部材の一部が重なるように配置されている、沈殿槽」の点で一致し、以下の点で相違している。 (相違点1) 本件特許発明1では、槽体は「円柱状又は多角柱状」であるのに対して、甲1発明ではその点が明らかでない点。 (相違点2) 本件特許発明1では、傾斜部材が「流入管を中心として放射状に均等に配置された複数枚の傾斜板」からなり、異なる位置に設けられた「傾斜板」の一部が重なるように配置されているのに対して、甲1発明では、傾斜部材が「円筒傾斜板」であり、異なる位置に設けられた「円筒傾斜板」の一部が重なるように配置されている点。 事案に鑑みて、相違点2から検討するに、甲第2号証及び甲第3号証のいずれにも、被処理水中に含まれるフロックを沈殿分離するための沈殿槽に設けられる傾斜部材を、「流入管を中心として放射状に均等に配置された複数枚の傾斜板」とすることは記載も示唆もされていない。 そうしてみると、甲第2号証及び甲第3号証の記載を参酌したとしても、甲1発明において、「円筒傾斜板」を「流入管を中心として放射状に均等に配置された複数枚の傾斜板」とすると共に、異なる位置に設けられた「傾斜板」の一部が重なるように配置とすることは、当業者が容易に想到し得ることであるといえない。 したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明、並びに、甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をできたものといえない。 イ 特許異議申立人は、甲第1号証の添付図には、フロキュレータ7を中心として放射状に均等に配置された複数枚の円筒傾斜板11が、水平方向の異なる位置に複数段設けられていることが記載されていることから、本件特許発明1と甲1発明は、傾斜部材が「流入管を中心として放射状に均等に配置された複数枚の傾斜板」からなる点でも一致している旨を主張している(特許異議申立書第15頁下から4行?第16頁第14行)。 この点について検討するに、本件特許発明1の「流入管を中心として放射状に均等に配置された複数枚の傾斜板」とは、本件特許の願書に添付された明細書及び図面の記載、特に、【0075】、【0076】、【図9】及び【図10】の記載からみて、複数の傾斜板が、平面視において、流入管を中心として放射状に伸びると共に、周方向に均等に配置されていることを示していることは明らかである。 これに対して、甲1発明のフロキュレータ7を中心として水平方向の異なる位置に複数段設けられている円筒傾斜板11は、フロキュレータ7を中心として周方向に均等に配置されたものではないから、本件特許発明1の「流入管を中心として放射状に均等に配置された複数枚の傾斜板」に相当するものでない。 よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 (2)本件特許発明2?6について 本件特許発明2?6は、本件特許発明1を引用するものであって、少なくとも上記相違点2が存在するから、本件特許発明2?6も、上記(1)で検討したとおり、甲第1号証に記載された発明、並びに、甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をできたものといえない。 (3)小括 以上で検討したとおり、本件特許発明1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでないから、特許異議申立人が主張する申立理由に理由はない。 6 むすび したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-02-19 |
出願番号 | 特願2015-188207(P2015-188207) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(B01D)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 田中 則充 |
特許庁審判長 |
豊永 茂弘 |
特許庁審判官 |
金 公彦 宮澤 尚之 |
登録日 | 2019-05-17 |
登録番号 | 特許第6526534号(P6526534) |
権利者 | 株式会社東芝 東芝インフラシステムズ株式会社 |
発明の名称 | 沈殿槽及び沈殿処理方法 |
代理人 | 特許業務法人サクラ国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人サクラ国際特許事務所 |