• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
管理番号 1360513
異議申立番号 異議2019-700684  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-04-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-08-29 
確定日 2020-03-16 
異議申立件数
事件の表示 特許第6516132号発明「電子部品の処理装置」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6516132号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6516132号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は,平成30年2月9日に出願され,平成31年4月26日にその特許権の設定登録がされ,令和元年5月22日に特許掲載公報が発行された。その後,その特許に対し,令和元年8月29日に特許異議申立人 澁谷工業株式会社は,特許異議の申立てを行った。

2 本件発明
特許第6516132号の請求項1ないし5の特許に係る発明は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
電子部品を保持する保持機構を複数備え,当該保持機構により電子部品を保持しながら回転と停止を1サイクルとして繰り返して間欠的に角度θ1ずつ回転搬送するメインテーブルと,前記メインテーブルの周囲に設けられた工程処理機構であり,前記メインテーブルが前記角度θ1ずつ間欠的に停止している間に前記保持機構と前記電子部品の受け渡しおよび受け取りを行う工程処理機構とを備える電子部品の処理装置において,
前記メインテーブルと前記工程処理機構との間に設けられ,前記メインテーブルが前記角度θ1ずつ間欠的に停止する第1受渡位置において前記保持機構から電子部品を受け取って前記工程処理機構の処理位置へ搬送し,前記工程処理機構において工程処理を終えた電子部品を,前記メインテーブルが前記角度θ1ずつ間欠的に停止する第2受渡位置において再度保持機構へ受け渡すサブテーブルであり,前記第2受渡位置が,前記第1受渡位置とは異なる位置であって前記メインテーブルの回転方向の下流側位置であり,当該サブテーブルと前記メインテーブルとが共に停止したタイミングで前記第1受渡位置における前記保持機構からの電子部品の受け取りと,前記第2受渡位置における前記保持機構への電子部品の受け渡しとを同時に行うサブテーブルと,
前記電子部品の前記メインテーブルと前記サブテーブルとの間の受け渡しが前記第1受渡位置とこの第1受渡位置とは異なる前記第2受渡位置とで行われることにより発生する方向ずれを補正し,前記電子部品の姿勢を復元する方向補正手段と
を備えた電子部品の処理装置。
【請求項2】
前記方向補正手段は,前記メインテーブルの回転方向の前記第2受渡位置よりも下流側位置に設けられたものである請求項1記載の電子部品の処理装置。
【請求項3】
前記方向補正手段は,前記メインテーブルの回転方向の前記第1受渡位置よりも上流側位置に設けられたものである請求項1記載の電子部品の処理装置。
【請求項4】
前記方向補正手段は,前記サブテーブルの前記第1受渡位置と前記第2受渡位置との間の位置に設けられたものである請求項1記載の電子部品の処理装置。
【請求項5】
前記方向補正手段による方向ずれの補正後に電子部品の位置ずれを補正する位置補正手段を備えた請求項1から4のいずれか1項に記載の電子部品の処理装置。」

3 申立理由の概要
特許異議申立人 澁谷工業株式会社は,主たる証拠として特開2008-66472号公報(以下「文献1」という。)及び従たる証拠として特開2009-139157号公報(以下「文献2」という。)を提出し,請求項1ないし5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項1ないし5に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
また,特許異議申立人 澁谷工業株式会社は,本件特許の請求項1,3ないし5に係る発明は,特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものであるから,請求項1,3ないし5に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

4 文献の記載
(1)文献1には,以下の事項が記載されている。(下線は,当審で付加した。以下同じ。)
「【技術分野】
【0001】
本発明は,半導体素子等のワークに対してそのワークの電気特性等の検査を行って,良品をテーピング梱包等の処理を行うワーク複合処理装置に関するものである。」

「【0027】
ワーク複合処理装置は,薄肉チップ状のワークWをピックアップ位置Aに供給するワーク供給手段21と,ピックアップ位置Aに供給されたワークWを180度反転させて,ピックアップ位置Aから所定距離離れた受取位置A1に搬送する搬送手段22と,前記受取位置A1でワークWを受取る回転テーブル23と,受取位置A1とピックアップ位置Aとの間のスペースS(図2参照)に配設されて,回転テーブル23の回転によって処理位置D,E,F,G,H等に順次供給されたワークWの検査等の処理を行う複数の処理部24を有する処理手段25とを備える。」

「【0033】
回転テーブル23は,前記鉛直テーブル30と同様,この回転テーブル23の外周側に周方向に沿って所定ピッチで配設される複数の吸着ヘッド36とを備える。この吸着ヘッド36もその先端の吸着孔を介してワークWが真空吸引され,このヘッド36の先端面にワークWが吸着する。この真空吸引(真空引き)が解除されれば,ヘッド36からワークWが外れる。」

「【0035】
ところで,図1に示すように,処理位置Dにおける処理部24には位置補正機構40が配置され,処理位置Eにおける処理部24には第1位置認識機構41が配置され,処理位置Fにおける処理部24には第1電気特性検査機構42が配置され,処理位置Gにおける処理部24には第2位置認識機構43が配置され,処理位置Hにおける処理部24には第2電気特性検査機構44が配置されている。
【0036】
位置補正機構40は,カメラを備え,位置補正ポジションDにワークWが搬入されると,ワークWの実装面Wf(図5(a)参照)をカメラが撮像し,撮像した画像を演算処理して半導体素子実装面Wfの電極端子W1の位置ズレを検出して,このズレを例えばこのワークWを吸着している吸着ヘッド36を微調整することによって修正する。また,位置認識機構41,43は図5(b)と図5(d)に示すように認識用のカメラ45を有し,このカメラ45の画像にて位置を認識することができる。」

「【0039】
回転テーブル23に近接して,種々のオプション処理を行うための副回転テーブル52が設けられる。この場合,処理位置Iにおける処理部24には位置補正機構53が配置され,処理位置Jにおける処理部24には図6(b)に示すようにカメラ58を有する外観検査機構54が配置され,処理位置Kにおける処理部24には図6(c)に示すようにカメラ59を有する製品側面検査機構55が配置され,処理位置Lにおける処理部24には図6(d)に示すように刻印機構56が配置され,処理位置Mにおける処理部24には図6(e)に示すようにカメラ62を有する捺印検査機構57が配置されている。
【0040】
副回転テーブル52は,この副回転テーブル52の外周側に周方向に沿って所定ピッチで配設される複数の吸着ヘッド60とを備える。この吸着ヘッド60もその先端の吸着孔を介してワークWが真空吸引され,このヘッド60の先端面にワークWが吸着する。この真空吸引(真空引き)が解除されれば,ヘッド60からワークWが外れる。この副回転テーブル52は,図示省略のモータ等の駆動機の回転軸に固着され,この駆動機の駆動によってその回転軸の軸心廻りに回転する。」

「【0041】
位置補正機構53は,前記位置補正機構40と同様,カメラを備え,ワークWの実装面Wf(図6(a)等参照)をカメラが撮像し,撮像した画像を演算処理して半導体素子実装面Wfの電極端子W1の位置ズレを検出して,このズレを例えばこのワークWを吸着している吸着ヘッド60を微調整することによって修正する。」

「【0043】
なお,処理位置Nにおける処理部24には位置補正機構63が配置され,処理位置Oにおける処理部24には図7(b)に示すようにカメラ64を有する端子面検査機構65が配置されている。位置補正機構63は,前記位置補正機構40と同様,カメラを備え,ワークWの実装面Wf(図7(a)等参照)をカメラが撮像し,撮像した画像を演算処理して半導体素子実装面Wfの電極端子W1の位置ズレを検出して,このズレを例えばこのワークWを吸着している吸着ヘッド36を微調整することによって修正する。」

「【0051】
受取位置A1に搬送されたワークWは,この受取位置A1に対応している回転テーブル23の吸着ヘッド36に吸着されて,回転テーブル23に移行される。この回転テーブル23に移行したワークWは,回転テーブル23の矢印a2の方向の回転によって,順次,D,E,F,G,Hの処理位置に搬送され,各処理位置で,ぞれぞれの処理が行われる。すなわち,図5(a)に示す位置補正工程,図5(b)に示す第1製品位置認識工程,図5(c)に示す第1電気特性検査工程,図5(d)に示す第2製品位置認識工程,図5(e)に示す第2電気特性検査工程を順次行う。
【0052】
そして,ワークWが受渡位置A2に到達した際には,この受渡位置A2に対応している副回転テーブル52の吸着ヘッド60に吸着されて,この副回転テーブル52に移行する。この副回転テーブル52に移行したワークWは,副回転テーブル52の矢印a3の方向の回転によって,順次,I,J,K,L,Mの処理位置に搬送され,各処理位置で,それぞれの処理が行われる。すなわち,図6(a)に示す第2位置補正工程,図6(b)に示す外観検査工程,図6(c)に示す製品側面認識工程,図6(d)に示すレーザ捺印工程,図6(e)に示す捺印検査工程を順次行う。
【0053】
そして,ワークが受渡位置A3に到達した際には,受渡位置A3に対応している回転テーブル23に吸着ヘッド36に吸着され,回転テーブル23に移行される。この回転テーブル23に移行したワークWは,回転テーブル23の矢印a2の方向の回転によって,順次,N,O,P,Qの処理位置に搬送され,各処理位置で,それぞれの処理が行われる。すなわち,図7(a)に示す位置補正工程,図7(b)に示す端子面検査工程を順次行う。」





そうすると,文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「半導体素子等のワークに対してそのワークの電気特性等の検査を行って,良品をテーピング梱包等の処理を行うワーク複合処理装置であって,
前記ワーク複合処理装置は,
薄肉チップ状のワークWをピックアップ位置Aに供給するワーク供給手段21と,ピックアップ位置Aに供給されたワークWを180度反転させて,ピックアップ位置Aから所定距離離れた受取位置A1に搬送する搬送手段22と,
前記受取位置A1でワークWを受取る回転テーブル23と,
受取位置A1とピックアップ位置Aとの間のスペースSに配設されて,回転テーブル23の回転によって処理位置D,E,F,G,H等に順次供給されたワークWの検査等の処理を行う複数の処理部24を有する処理手段25とを備えるものであり,
前記回転テーブル23は,この回転テーブル23の外周側に周方向に沿って所定ピッチで配設される複数の吸着ヘッド36とを備え,この吸着ヘッド36の先端の吸着孔を介してワークWが真空吸引され,このヘッド36の先端面にワークWが吸着するものであり,
前記回転テーブル23の処理位置Dにおける処理部24には位置補正機構40が配置され,処理位置Eにおける処理部24には第1位置認識機構41が配置され,処理位置Fにおける処理部24には第1電気特性検査機構42が配置され,処理位置Gにおける処理部24には第2位置認識機構43が配置され,処理位置Hにおける処理部24には第2電気特性検査機構44が配置されており,
前記位置補正機構40は,カメラを備え,位置補正ポジションDにワークWが搬入されると,ワークWの実装面Wfをカメラが撮像し,撮像した画像を演算処理して半導体素子実装面Wfの電極端子W1の位置ズレを検出して,このズレを例えばこのワークWを吸着している吸着ヘッド36を微調整することによって修正するものであり,また,位置認識機構41,43は,認識用のカメラ45を有し,このカメラ45の画像にて位置を認識することができるものであり,
前記ワーク複合処理装置には,前記回転テーブル23に近接して,種々のオプション処理を行うための副回転テーブル52が設けられており,
前記副回転テーブル52の処理位置Iにおける処理部24には位置補正機構53が配置され,処理位置Jにおける処理部24には,カメラ58を有する外観検査機構54が配置され,処理位置Kにおける処理部24には,カメラ59を有する製品側面検査機構55が配置され,処理位置Lにおける処理部24には,刻印機構56が配置され,処理位置Mにおける処理部24には,カメラ62を有する捺印検査機構57が配置されており,
前記副回転テーブル52は,この副回転テーブル52の外周側に周方向に沿って所定ピッチで配設される複数の吸着ヘッド60とを備え,この吸着ヘッド60の先端の吸着孔を介してワークWが真空吸引され,このヘッド60の先端面にワークWが吸着するものであり,
前記位置補正機構53は,前記位置補正機構40と同様,カメラを備え,ワークWの実装面Wfをカメラが撮像し,撮像した画像を演算処理して半導体素子実装面Wfの電極端子W1の位置ズレを検出して,このズレを例えばこのワークWを吸着している吸着ヘッド60を微調整することによって修正するものであり,
前記回転テーブル23の処理位置Nにおける処理部24には位置補正機構63が配置され,処理位置Oにおける処理部24には,カメラ64を有する端子面検査機構65が配置されており,前記位置補正機構63は,前記位置補正機構40と同様,カメラを備え,ワークWの実装面Wfをカメラが撮像し,撮像した画像を演算処理して半導体素子実装面Wfの電極端子W1の位置ズレを検出して,このズレを例えばこのワークWを吸着している吸着ヘッド36を微調整することによって修正するものであり,
受取位置A1に搬送されたワークWは,この受取位置A1に対応している前記回転テーブル23の吸着ヘッド36に吸着されて,前記回転テーブル23に移行され,前記回転テーブル23に移行したワークWは,前記回転テーブル23の回転によって,順次,D,E,F,G,Hの処理位置に搬送され,各処理位置で,ぞれぞれ,位置補正工程,第1製品位置認識工程,第1電気特性検査工程,第2製品位置認識工程,第2電気特性検査工程を順次行うものであり,
ワークWが受渡位置A2に到達した際には,この受渡位置A2に対応している前記副回転テーブル52の吸着ヘッド60に吸着されて,前記副回転テーブル52に移行し,前記副回転テーブル52に移行したワークWは,前記副回転テーブル52の回転によって,順次,I,J,K,L,Mの処理位置に搬送され,各処理位置で,それぞれ,第2位置補正工程,外観検査工程,製品側面認識工程,レーザ捺印工程,捺印検査工程を順次行うものであり,
ワークが受渡位置A3に到達した際には,受渡位置A3に対応している前記回転テーブル23に吸着ヘッド36に吸着され,前記回転テーブル23に移行され,前記回転テーブル23に移行したワークWは,前記回転テーブル23の回転によって,順次,N,O,P,Qの処理位置に搬送され,各処理位置で,それぞれ,位置補正工程,端子面検査工程を順次行う,
ワーク複合処理装置。」

(2)次に,文献2には,以下の事項が記載されている。
「【0040】
より具体的には,図1の位置1において,パーツフィーダから整列搬送されるデバイスを,ターンテーブルTの下方に伸びるように,円周等配位置に複数(ここでは,10度間隔で36個)設けられた吸着保持機構のノズルNによってピックアップされる。このターンテーブルTは,図中時計回り方向に,10°ずつ間欠回転するものであり,位置2においてデバイスの電極の極性チェックを外観カメラ等によってなされる外観検査装置が設けられ,位置3において極性の修正を行う反転装置が設けられている。」

「【0069】
一方,図5(a)に示す本実施形態の分離テーブル3では,受取りポジションR1と受渡しポジションR2を中心にから80°の角度を以って別々に設けている。さらに,ターンテーブルTの中心位置Pと,分離テーブル3の中心位置Qとを結んだ直線がこれらポジションR1とR2との中点を通るように,分離テーブル3をターンテーブルに対して配置した。
【0070】
ここで,従来は,ターンテーブルTから分離テーブル30同一のポジションから受け取り,同一のポジションにおいて受け渡すことで,デバイスの向きは変わらなかったが,本実施形態の分離テーブル3では,異なるポジションで受け取り受渡しを行うため,受け取り時と受渡し時において,デバイスの向きが変更する。
【0071】
より具体的には,分離テーブル3では,ポジションR1とポジションR2が上記の通り,80°の角度を設けて設けられているため,分離テーブル3のR1に搭載されたデバイスが分離テーブルの回転によってR2まで移動することで,デバイスの向きは,80°変わる。また,ターンテーブルTにおいて,ノズルが,受取り位置R1でデバイスを分離テーブル3に受渡し,10°回転した受渡し位置R2でデバイスを分離テーブル3より受け取ることにより,デバイスを渡した際よりも,10°異なった角度で,受け取ることとなる。したがって,分離テーブル3におけるデバイスにおける向きの変更80°と,ターンテーブルTにおける向きの変更10°とにより,全体として,ノズルNに保持されたデバイスは,R1からR2の移動によって,向きが90°変更されることとなる。」

「【0081】
次に,ターンテーブルTはさらに10°回転し,ノズルNは,高温テスト装置13上に位置し,ノズルNのZ軸方向の下降動作により,デバイスの電極を高温テスト装置13のコンタクトに接触させ,電気テストを実行する。電気テスト後,ターンテーブルTはさらに10°回転し,ノズルNは,位置9の反転装置上に位置し,ノズルNのZ軸方向の下降動作により,加熱及びテスト済みのデバイスを90°回転させる。なお,この反転装置は,例えば,本出願人が先に提案した特開2004-186328号公報に開示される装置のほか,従来からある機構を用いることができる。」





これらの記載を総合的に参酌すると,文献2には,分離テーブル3の,異なるポジションで受け取り受渡しを行うことで,受け取り時と受渡し時において,デバイスの向きを90°変更する手段が記載されている。

5 特許法第29条第2項(進歩性)についての当審の判断
(1)請求項1に係る発明について
請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「半導体素子等のワーク」,「吸着ヘッド36」,「回転テーブル23」,「副回転テーブル52」,及び,「処理位置Jにおける処理部24」に配置された「カメラ58を有する外観検査機構54」(「処理位置Kにおける処理部24」に配置された「カメラ59を有する製品側面検査機構55」,「処理位置Lにおける処理部24」に配置された「刻印機構56」)は,それぞれ,本件発明の「電子部品」,「保持機構」,「メインテーブル」,「サブテーブル」,及び,「工程処理機構」に相当する。

イ 引用発明において,吸着ヘッド36が回転テーブル23に等間隔に設けられていること,ならびに各処理部24において相応の処理時間を要することから,引用発明の回転テーブル23が,間欠的に所定角度ずつ停止しながらワークを回転搬送するものであることは明白である。
したがって,本件発明のメインテーブルと,引用発明の回転テーブル23は,「回転と停止を1サイクルとして繰り返して間欠的に角度θ1ずつ回転搬送する」ものである点で一致する。

ウ 引用発明の「受渡位置A2」,「受渡位置A3」は,それぞれ,本件発明の「第1受渡位置」,「第2受渡位置」に相当する。

エ 本件発明の「方向補正手段」と,引用発明の「位置補正機構40」,「位置補正機構53」,及び,「位置補正機構63」は,「補正手段」である限りにおいて一致する。

オ 本件発明の「電子部品の処理装置」と,引用発明の「ワーク複合処理装置」とは,以下の相違点を除いて,「電子部品の処理装置」である点で一致する。

そうすると,本件発明と,引用発明とは,以下の点で一致し,相違する。
<一致点>
「電子部品を保持する保持機構を複数備え,当該保持機構により電子部品を保持しながら回転と停止を1サイクルとして繰り返して間欠的に角度θ1ずつ回転搬送するメインテーブルと,前記メインテーブルの周囲に設けられた工程処理機構であり,前記メインテーブルが前記角度θ1ずつ間欠的に停止している間に前記保持機構と前記電子部品の受け渡しおよび受け取りを行う工程処理機構とを備える電子部品の処理装置において,
前記メインテーブルと前記工程処理機構との間に設けられ,前記メインテーブルが前記角度θ1ずつ間欠的に停止する第1受渡位置において前記保持機構から電子部品を受け取って前記工程処理機構の処理位置へ搬送し,前記工程処理機構において工程処理を終えた電子部品を,前記メインテーブルが前記角度θ1ずつ間欠的に停止する第2受渡位置において再度保持機構へ受け渡すサブテーブルであり,前記第2受渡位置が,前記第1受渡位置とは異なる位置であって前記メインテーブルの回転方向の下流側位置であり,当該サブテーブルと前記メインテーブルとが共に停止したタイミングで前記第1受渡位置における前記保持機構からの電子部品の受け取りと,前記第2受渡位置における前記保持機構への電子部品の受け渡しとを同時に行うサブテーブルと,
補正手段と
を備えた電子部品の処理装置。」

<相違点>
本件発明の補正手段が,「前記電子部品の前記メインテーブルと前記サブテーブルとの間の受け渡しが前記第1受渡位置とこの第1受渡位置とは異なる前記第2受渡位置とで行われることにより発生する方向ずれを補正し,前記電子部品の姿勢を復元する方向補正手段」であるのに対して,引用発明の位置補正機構40は,「カメラを備え,位置補正ポジションDにワークWが搬入されると,ワークWの実装面Wfをカメラが撮像し,撮像した画像を演算処理して半導体素子実装面Wfの電極端子W1の位置ズレを検出して,このズレを例えばこのワークWを吸着している吸着ヘッド36を微調整することによって修正するもの」である点。

そこで,上記相違点について検討する。
本件発明の方向補正手段は,電子部品のメインテーブルとサブテーブルとの間の受け渡しが第1受渡位置とこの第1受渡位置とは異なる第2受渡位置とで行われることにより発生する方向ずれを補正することによって,電子部品の姿勢を,電子部品のメインテーブルとサブテーブルとの間の受け渡しが無かった場合と同じ姿勢となるように復元するもの,すなわち,電子部品のメインテーブルとサブテーブルとの間の受け渡しが第1受渡位置とこの第1受渡位置とは異なる第2受渡位置とで行われることにより発生する方向ずれの角度がθである場合,方向補正手段において電子部品の方向を-θだけ回転して,メインテーブルの半径方向(あるいは接線方向)に対する電子部品の方向を,電子部品のメインテーブルとサブテーブルとの間の受け渡しが無かった場合と同じ方向となるように補正するものである。

このような理解は,本件特許明細書及び図面の以下の記載にも整合するものである。
「【0027】
図4に示すように,本実施形態における処理装置1では,供給機構4より電子部品Sが長辺方向を半径方向としてメインテーブル2へ供給された後,工程処理ユニット5a(図1参照。)により長辺方向を回転方向R1の接線方向に変換され,その下流の工程処理ユニット5b,5cによる工程処理が行われ,第1受渡位置T1においてサブテーブル10へ受け渡される。このとき,電子部品Sはサブテーブル10に対して長辺方向をサブテーブル10の半径方向から15°(回転方向R2の接線方向に対して75°)ずれた姿勢(方向)で受け渡される。なお,前述のマーキングユニット5dのカメラ装置21は,このときの電子部品Sの角度ずれも含めて検出する。
【0028】
そして,電子部品Sはそのままの姿勢でマーキングユニット5dにより工程処理が行われ,第2受渡位置T2においてメインテーブル2へ受け渡される。この第2受渡位置T2はサブテーブル10上で回転中心軸10aを中心に電子部品Sを240°回転させた位置であるため,電子部品Sは第1受渡位置T1で受け渡された状態から240°ずれた姿勢(方向)でメインテーブル2へ受け渡される。方向補正ユニット5eは,この電子部品Sのサブテーブル10への受け渡しによる方向ずれを補正し,第1受渡位置T1で受け取った姿勢へ復元するものである。」









一方,引用発明の位置補正機構40は,「半導体素子実装面Wfの電極端子W1の位置ズレを検出して,このズレを例えばこのワークWを吸着している吸着ヘッド36を微調整することによって修正するもの」であって,電子部品の姿勢を,電子部品のメインテーブルとサブテーブルとの間の受け渡しが無かった場合と同じ姿勢となるように復元するものではない。
また,文献1及び文献2には,電子部品の姿勢を,電子部品のメインテーブルとサブテーブルとの間の受け渡しが無かった場合と同じ姿勢となるように復元する構成は記載も示唆もされていない。
さらに,上記相違点について,本件発明の構成を採用する動機は,文献1に記載も示唆もされていない。
したがって,本件発明は,文献1に記載された発明に基づき,または,文献1に記載された発明及び文献2に記載された技術的事項に基いて,当業者が容易に想到し得るものではない。

特許異議申立人 澁谷工業株式会社は,特許異議申立書において,「しかしながら,甲第2号証の2-Bにおいて,ターンテーブルTと分離テープル3との間でデバイスの受け渡しを行う際に,受取り位置R1と受渡し位置R2とでデバイスの角度が変化してしまうことが認識されているため,当業者であれば甲第1号証においても受渡位置A2と受渡位置A3とで受け渡しに伴う「方向ずれ」が発生してしまうことを理解し,甲第1号証においてこのような方向ずれを補正していると理解できるものである。」と主張するが,「方向ずれ」が生じることが,必ずしも「方向ずれ」を復元することを必要とすることではないから,特許異議申立人の前記主張はその前提において根拠を欠く。
むしろ,電子部品のメインテーブルとサブテーブルとの間の受け渡しが第1受渡位置とこの第1受渡位置とは異なる第2受渡位置とで行われることにより発生する方向ずれの角度は相当に大きいことから,当該方向ずれの補正は,引用発明の吸着ヘッド36を「微調整する」との構成の範疇には含まれないものと解するのが自然かつ合理的といえる。
したがって,特許異議申立人の前記主張には理由がない。

加えて,特許異議申立人 澁谷工業株式会社は,特許異議申立書において,「実際,甲第1号証において図5(a)にかかる処理位置24Dでのワークの状態と,図7(a)にかかる処理位置24Nでのワークの状態とが同じ状態であることからも,処理位置24Nでは「前記第1受渡位置とこの第1受渡位置とは異なる前記第2受渡位置とで行われることにより発生する方向ずれを補正し,前記電子部品の姿勢を復元」していることは明らかである。」と主張するが,文献1の図5(a)及び図7(a)からは,回転テーブルに対する電子部品の方向を判断することができない。したがって,「図5(a)にかかる処理位置24Dでのワークの状態と,図7(a)にかかる処理位置24Nでのワークの状態とが同じ状態である」ことを前提とする特許異議申立人の前記主張には理由がない。

(2)請求項2ないし5に係る発明について
請求項2ないし5に係る発明は,請求項1に係る発明に対して,さらに技術的事項を追加したものである。よって,上記(1)に示した理由と同様の理由により,請求項2ないし5に係る発明は,上記文献1に記載された発明及び文献2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易になし得るものではない。

(3)進歩性についてのまとめ
以上のとおり,請求項1ないし5に係る発明は,文献1に記載された発明及び文献2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

6 特許法第36条第6項第2号(明確性)についての当審の判断
(1)特許異議申立人 澁谷工業株式会社は,特許異議申立書において,「請求項1の発明において,構成Cは「前記電子部品の前記メインテーブルと前記サブテーブルとの間の受け渡しが前記第1受渡位置とこの第1受渡位置とは異なる前記第2受渡位置とで行われることにより発生する方向ずれを補正し,前記電子部品の姿勢を復元する方向補正手段とを備えた電子部品の処理装置。」となっている。
ここで,構成Cには「電子部品の姿勢を復元する」との記載があるが,「復元」とは,「もとにかえすこと。もとの位置,形態にもどすこと」(広辞苑 岩波書店)との意味である。
つまり請求項1の発明における方向補正手段は,第1受渡位置と第2受渡位置とで行われることによって電子部品に方向ずれが発生した結果,これを「もとの位置,形態にもどす」ために設けられているものと解釈しなければならない。
しかしながら,構成Cの「電子部品の姿勢を復元する」なる記載だけでは,復元する前の姿勢が不明確であり,どのような姿勢をどのような姿勢にもどすことが「復元」に該当するのかを把握することができない。
例えば図4に示される実施例からは,復元する前の電子部品の姿勢として,供給機構4よりメインテーブル2へ供給された際の,電子部品Sの長辺方向を半径方向に向けた姿勢か,もしくは第1受渡位置T1において工程処理ユニット5aによりサブテーブル10へ受け渡された際の,長辺方向を回転方向R1の接線方向に向けた姿勢等が考えられるが,いずれの姿勢を元の姿勢とするのか不明確である。
以上のことから,請求項1の記載された内容だけでは,どのような姿勢をどのような姿勢に戻すことが「復元」に該当するか理解不能であり,従って請求項1における特許請求の範囲の記載は不明確であるといえる。」と主張する。
しかしながら,本件発明は「前記電子部品の前記メインテーブルと前記サブテーブルとの間の受け渡しが前記第1受渡位置とこの第1受渡位置とは異なる前記第2受渡位置とで行われることにより発生する方向ずれを補正し,前記電子部品の姿勢を復元するもの」であるから,例えば図4に示される実施例においては,「第1受渡位置T1において工程処理ユニット5aによりサブテーブル10へ受け渡された際の,長辺方向を回転方向R1の接線方向に向けた姿勢」が,復元する前の電子部品の姿勢であることは明確である。
したがって,特許異議申立人の主張には理由がない。

(2)さらに,特許異議申立人 澁谷工業株式会社は,特許異議申立書において,
「次に,請求項1に従属する請求項2の発明は,方向補正手段を第2受渡位置よりも下流側位置に設けていることから,第1受渡位置での姿勢を元の姿勢とするならば,請求項2の発明にかかる方向補正手段は第2受渡位置において発生した方向ずれを「復元」しているものといえる。
なおこの場合,上述したように甲第1号証の図5(a)にかかる処理位置24Dでのワークの状態と,図7(a)にかかる処理位置24Nでのワークの状態とが同じ状態であるため,当該請求項2の発明は甲第1号証に開示されているものといえる。
しかしながら,請求項1に従属する請求項3の発明の場合,方向補正手段を第1受渡位置よりも上流側位置に設けていることから,第2受渡位置において方向ずれが発生する前に,電子部品の向きを補正しているのであり,上記「復元」という語の持つ意味から乖離していると考えられ,この点において請求項3における特許請求の範囲の記載は不明確である。
これと同様,請求項1に従属する請求項4の発明の場合も,方向補正手段をサブテーブルの第1受渡位置と第2受渡位置との間に設けていることから,第2受渡位置において方向ずれが発生する前に,電子部品の向きを補正しているのであり,上記「復元」という語の持つ意味から乖離していると考えられ,この点において請求項4における特許請求の範囲の記載は不明確である。
そして,請求項5は請求項3,4に従属した構成となっているが,上述したように請求項3,4の特許請求の範囲の記載は不明確であることから,当該請求項3,4に従属した部分において,請求項5の特許請求の範囲の記載も不明確である。」と主張する。
しかしながら,本件発明の復元は,電子部品のメインテーブルとサブテーブルとの間の受け渡しが第1受渡位置とこの第1受渡位置とは異なる第2受渡位置とで行われることにより発生する方向ずれを補正するものであって,その補正の大きさ(補正に要する回転の角度)は,装置の幾何学的な構成から一義的に定まるものである。したがって,方向補正手段の設置位置を,第1受渡位置よりも上流側位置に設けたことで発明が不明確となるとは認められない。
したがって,特許異議申立人の主張には理由がない。

(3)明確性についてのまとめ
以上のとおり,請求項1の発明における「復元」という語が,請求項3,4に記載された構成と整合性がとれないということはない。また,請求項5の特許請求の範囲の記載が,これらの請求項に従属するとの理由によって不明確であるともいえない。したがって,特許請求の範囲の記載が不明確であるとはいえない。

7 むすび
以上のとおり,特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-03-06 
出願番号 特願2018-21614(P2018-21614)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (H01L)
P 1 651・ 121- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 土谷 慎吾  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 加藤 浩一
小田 浩
登録日 2019-04-26 
登録番号 特許第6516132号(P6516132)
権利者 上野精機株式会社
発明の名称 電子部品の処理装置  
代理人 南瀬 透  
代理人 神崎 真  
代理人 遠坂 啓太  
代理人 加藤 久  
代理人 神崎 真一郎  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ