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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D21C
管理番号 1360520
異議申立番号 異議2019-700936  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-04-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-22 
確定日 2020-03-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第6518287号発明「溶解クラフトパルプの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6518287号の請求項1?9に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6518287号(以下「本件特許」という。)の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成24年7月31日に出願した特願2012-170531号の一部を、平成29年6月30日に新たな特許出願としたものであって、平成31年4月26日にその特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:令和元年5月22日)がされたものであり、その特許について、令和元年11月22日に特許異議申立人実川栄一郎(以下「申立人」という。)より特許異議の申立てがされたものである。

2.本件特許発明
本件特許の請求項1?9に係る発明(以下「本件発明1?9」という。)は、それぞれ、本件特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
前加水分解処理を行った後、前加水分解液を除去してから木材チップを水で洗浄し、回収する工程と、
回収した木材チップをクラフト蒸解する工程と、
蒸解したパルプに酸素脱リグニン処理を施す工程と、
酸素脱リグニン処理したパルプを、水酸化ナトリウム濃度3?25質量%、20?50℃の条件で10?60分間、アルカリ精製する工程と、
を含む、セルロースアセテート製造用の溶解クラフトパルプを製造する方法であって、
前加水分解処理が、下式:
Pファクター=∫exp(40.48-15106/T)dt
[式中、Tは、前加水分解処理のある時点における絶対温度]
で表される前加水分解のPファクターが350?800となるように、150?180℃にて40?150分間、熱水の状態の水を用いて、木材チップ1kgあたりの水の液比が1.0?5.0L/kgにて耐圧性容器において行われる、上記方法。
【請求項2】
木材チップ1kgあたりの水の液比が1.5?5.0L/kgという条件で前加水分解処理が行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
固液分離装置を用いて前加水分解液を除去する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記クラフト蒸解を、120?220℃にて60?240分間行う、請求項1?3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記クラフト蒸解を、木材チップ1kgあたりのクラフト蒸解液の液比が1.0?5.0L/kgの条件で耐圧性容器において行う、請求項1?4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記酸素脱リグニン処理を、アルカリ添加率0.5?4質量%、80?140℃の条件で行う、請求項1?5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
溶解クラフトパルプのα-セルロース含有量が95%以上である、請求項1?6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
溶解クラフトパルプのヘミセルロース含有量が2.5%以下である、請求項1?7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
請求項1?8のいずれかに記載の方法で溶解クラフトパルプを製造し、その溶解クラフトパルプを原料としてセルロースアセテートを製造することを含む、セルロースアセテートの製造方法。」

3.申立理由の概要
申立人は、以下の甲1?甲5を提出し、本件発明1?9は、甲1に記載された発明及び甲2?甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するものであるから、本件発明1?9に係る特許は、特許法第113条第2号に該当するため取り消すべきものである旨、申立てている。
甲1:特表2002-533587号公報
甲2:Herbert Sixta,「Handbook of Pulp Volume1」、WILEY-VCH Verlag GmbH & Co.KGaA、Published online 2008年1月30日、329?347頁
甲3:Gabriele Schild 外2名、「MULTIFUNCTIONAL ALKALINE PULPING,DELIGNIFICATION AND HEMICELLULOSE EXTRACTION」、CELLULOSE CHEMISTRY AND TECHNOLOGY、44(1-3)、2010年、35?45頁
甲4:特開2004-256924号公報
甲5:紙パルプ技術協会編、「亜硫酸パルプ 溶解パルプ」、昭和41年11月15日発行、338?341頁、364?375頁

4.当審の判断
(1)甲1に記載された発明
ア 甲1には、以下の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 97%より大きいアルファセルロース含量及び30センチポアズより大きい粘度を有する繊維パルプから吸収性のカルボキシアルキル多糖類組成物を製造するための方法であって、
(a)水を用いて広葉樹材チップを前加水分解する段階と、
(b)前記前加水分解された木材チップをクラフト蒸解し、前記木材チップを繊維に分解する段階と、
(c)前記冷却された繊維を漂白する段階と、
(d)前記漂白された繊維を苛性アルカリで処理し、処理された繊維パルプを生成する段階と、
(e)前記処理された繊維パルプを、向上された吸収性を有するカルボキシアルキル多糖類に変換する段階と、
を含むことを特徴とする方法。」
「【0001】
(技術分野)
本発明は、例えば超吸収体として用いられる、クラフト木材パルプを製造する方法に関する。
【0002】
(背景技術)
使い捨ての吸収性パーソナルケア製品における、超吸収体として通常知られる吸収性材料の使用は既知である。・・・・
【0003】
このようなパーソナルケア製品における吸収性材料としての使用のための多様な材料が記述されてきている。そのような材料には、・・・・カルボキシアルキルセルロースなどのような天然ベース材料、ならびにポリアクリレート、ポリアクリルアミド、加水分解ポリアクリロニトリルなどのような合成材料が含まれる。天然ベースの吸収性材料はパーソナルケア製品における使用について既知であるが、そのような製品は広くは使用されていない。充分に使用されない理由は、少なくともある程度は、その吸収特性がポリアクリレートのような合成吸収性材料に比べて劣っていることによる。特に、多くの天然ベース材料は、液体で膨潤したとき、軟らかいゼリー状の塊を形成する傾向がある。吸収性製品に用いたとき、このような軟らかいゼリー状の塊の存在は、吸収性材料が組み込まれている繊維状母材内の液体の移動を妨害する傾向がある。この現象は、ゲルブロッキングとして知られている。一度ゲルブロッキングが発生すると、引続く液体の放出が製品によって有効に吸収されず、製品に漏れが起こるようになる。さらに、天然ベース材料の多くは、特に外部からの圧力を受けたときに、劣った吸収特性を示す。対照的に、合成吸収性材料は、一般的に固くてゼリー状でない性質を保持しながら大量の液体を吸収できることが多い。従って、合成吸収性材料は、ゲルブロッキングのおそれを最小にして吸収性製品に組み込むことができる。
【0004】
カルボキシアルキル多糖類及びカルボキシアルキルセルロース材料は、当業技術においてはよく知られている。不幸にも、多くの既知の多糖類及びセルロースは、合成の高度吸収性材料の多くと比較できる吸収特性は有していない。
【0005】
(発明の開示)
本発明は、97%より大きいアルファセルロース含量と、40センチポアズより大きい粘度(0.5%CED法により水溶パルプについて測定した)とを有するクラフト木材パルプを製造する方法に関する。この方法には、広葉樹材チップを水で前加水分解する段階と、その木材チップをクラフト蒸解する段階と、そのパルプを漂白する段階と、苛性アルカリ処理する段階とが含まれる。得られたパルプは、カルボキシアルキル多糖類、好ましくはカルボキシアルキルセルロース、最も好ましくはカルボキシメチルセルロースの超吸収体に変換されることができ、これは改良された特性、特に、約20あるいはそれより大きい、より詳細には20ないし約25である、高い荷重下吸収性(Absobency Under Load)を有する。」
「【0023】
実施例1
実施例1については、テラス・ベイ・アスペン木材チップが、4:1の水:木材比で水と混合された。この混合物は、約170℃の温度まで60分間で加熱され、次いで170℃に20分間保持された。この前加水分解が終了すると液体が排出された。前加水分解されたアスペンは、4:1の溶液:チップ比でアルカリ溶液(有効アルカリ度14.5%、硫化度25%)と混合された。この混合物は、約170℃の温度まで60分間で加熱され、次いで170℃に35分間保持された。このクラフト蒸解段階が終了すると液体が排出された。漂白工程において、クラフト蒸解され前加水分解されたアスペン繊維は、3段階で処理された。木材繊維は、二酸化塩素0.94%を有する水溶液中に10%に希釈され、135゜F(57℃)で60分間保持された。熱苛性アルカリ抽出段階が続いて行われ、繊維は、水酸化ナトリウム1.5%を有する水溶液中に10%に希釈され、160゜Fで70分間保持された。二酸化塩素の段階が繰り返され、繊維は、二酸化塩素0.6%を有する水溶液中に10%に希釈され、160゜F(71℃)で150分間保持された。次に苛性アルカリ処理(冷苛性アルカリ抽出)が行われ、繊維は、水酸化ナトリウム7.5%を有する水溶液中に10%に希釈され、77゜F(25℃)で60分間保持された。
得られたクラフトパルプは、97.8%のアルファセルロース含量及び42.9センチポアズの粘度を有した。」
イ そうすると、甲1(特に、段落【0005】及び実施例1の記載参照。)には、以下の「引用発明」が記載されている。
「テラス・ベイ・アスペン木材チップが、4:1の水:木材比で水と混合され、この混合物は、約170℃の温度まで60分間で加熱され、次いで170℃に20分間保持され、この前加水分解が終了すると液体が排出され、
前加水分解されたアスペンは、4:1の溶液:チップ比でアルカリ溶液(有効アルカリ度14.5%、硫化度25%)と混合され、この混合物は、約170℃の温度まで60分間で加熱され、次いで170℃に35分間保持され、このクラフト蒸解段階が終了すると液体が排出され、
漂白工程において、クラフト蒸解され前加水分解されたアスペン繊維は、3段階で処理され、木材繊維は、二酸化塩素0.94%を有する水溶液中に10%に希釈され、135゜F(57℃)で60分間保持され、熱苛性アルカリ抽出段階が続いて行われ、繊維は、水酸化ナトリウム1.5%を有する水溶液中に10%に希釈され、160゜Fで70分間保持され、二酸化塩素の段階が繰り返され、繊維は、二酸化塩素0.6%を有する水溶液中に10%に希釈され、160゜F(71℃)で150分間保持され、次に苛性アルカリ処理(冷苛性アルカリ抽出)が行われ、繊維は、水酸化ナトリウム7.5%を有する水溶液中に10%に希釈され、77゜F(25℃)で60分間保持する方法であって、
97%より大きいアルファセルロース含量と、40センチポアズより大きい粘度とを有するクラフト木材パルプを製造する方法。」

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と引用発明を対比すると、本件発明1の「回収した木材チップをクラフト蒸解する工程」は、引用発明の「4:1の溶液:チップ比でアルカリ溶液(有効アルカリ度14.5%、硫化度25%)と混合され、この混合物は、約170℃の温度まで60分間で加熱され、次いで170℃に35分間保持され」る「クラフト蒸解段階」に相当し、以下同様に、本件発明1の「蒸解したパルプに酸素脱リグニン処理を施す工程」は、引用発明の「水酸化ナトリウム1.5%を有する水溶液中に10%に希釈され、160゜Fで70分間保持され」る「熱苛性アルカリ抽出段階」に、本件発明1の「酸素脱リグニン処理したパルプを、水酸化ナトリウム濃度3?25質量%、20?50℃の条件で10?60分間、アルカリ精製する工程」は、引用発明の「水酸化ナトリウム7.5%を有する水溶液中に10%に希釈され、77゜F(25℃)で60分間保持する」「苛性アルカリ処理(冷苛性アルカリ抽出)」に、それぞれ相当するから、本件発明1と引用発明とは、
「前加水分解処理を行った後、前加水分解液を除去する工程と、
回収した木材チップをクラフト蒸解する工程と、
蒸解したパルプに酸素脱リグニン処理を施す工程と、
酸素脱リグニン処理したパルプを、水酸化ナトリウム濃度3?25質量%、20?50℃の条件で10?60分間、アルカリ精製する工程と、
を含む、クラフトパルプを製造する方法」で一致し、以下の点で相違する。
[相違点]
本件発明1の方法は、「セルロースアセテート製造用の溶解クラフトパルプを製造する方法」であって、「前加水分解処理が、下式:
Pファクター=∫exp(40.48-15106/T)dt
[式中、Tは、前加水分解処理のある時点における絶対温度]
で表される前加水分解のPファクターが350?800となるように、150?180℃にて40?150分間、熱水の状態の水を用いて、木材チップ1kgあたりの水の液比が1.0?5.0L/kgにて耐圧性容器において行われ」、その後、「木材チップを水で洗浄し、回収する」のに対し、
引用発明の方法は、前加水分解処理を行うものの、本件発明1のPファクターものとは特定されておらず、前加水分解処理後に、木材チップを水で洗浄するとも特定されていない点。
イ 上記相違点について検討する。
本件発明1は、「セルロースアセテート製造用の溶解クラフトパルプを製造する方法」において、「前加水分解のPファクターが350?800となるように、150?180℃にて40?150分間、熱水の状態の水を用いて、木材チップ1kgあたりの水の液比が1.0?5.0L/kgにて耐圧性容器において行」うものであり、そのような工程を含む一連の工程を備えることで、「α-セルロース含有量が高く、ヘミセルロース含有量が低い溶解クラフトパルプを効率的に製造することができる。本発明によって得られる溶解クラフトパルプは、セルロースアセテート用途など、高いαセルロース含有量が要求される用途に好適である。」との効果を奏するものである(本件特許明細書の段落【0008】)。
一方、引用発明は、「97%より大きいアルファセルロース含量と、40センチポアズより大きい粘度とを有するクラフト木材パルプを製造する方法」において、前加水分解を「4:1の水:木材比で水と混合され、この混合物は、約170℃の温度まで60分間で加熱され、次いで170℃に20分間保持」するように行うものであり、「得られたパルプは、カルボキシアルキル多糖類、好ましくはカルボキシアルキルセルロース、最も好ましくはカルボキシメチルセルロースの超吸収体に変換されることができ、これは改良された特性、特に、約20あるいはそれより大きい、より詳細には20ないし約25である、高い荷重下吸収性(Absobency Under Load)を有する」(甲1の段落【0005】)ものとできる。しかし、このような引用発明の方法を、本件発明1のように、「セルロースアセテート製造用の溶解クラフトパルプを製造する」ために、前加水分解でのPファクターを350?800となるように、反応系に加える熱の総量を調整するものに換える動機付けがない。
また、甲2(図4.106)には、ブナ材を液体固定比10対1で水前加水分解を行った際の0?2500までのPファクターと残渣中のキシラン含量の関係について示され、甲3(37頁)には、前加水分解処理のPファクターを600とすることが記載され、甲4(段落【0015】)には、抽出後の熱水を除去し、チップを水で洗浄することが記載され、甲5(338?339頁)には、溶解パルプをアセテートに利用することが記載されているが、いずれの文献にも、超吸収体に用いる所定のアルファセルロース含量と粘度を有するクラフトパルプを製造する方法に係る引用発明の方法において、「セルロースアセテート製造用の溶解クラフトパルプを製造する方法」として用い、それに合わせて前加水分解におけるPファクターを350?800となるように調整することを、動機付ける記載も示唆もない。
そうすると、上記相違点に係る構成は、引用発明及び甲2?甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。
ウ よって、本件発明1は、引用発明及び甲2?甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明2?9について
本件発明2?9は、いずれも本件発明1の発明特定事項を、直接又は間接的にすべて含むものであるところ、上記(2)で述べたように、本件発明1は、引用発明及び甲2?甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の発明特定事項をすべて含む本件発明2?9も、引用発明及び甲2?甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5.むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-03-06 
出願番号 特願2017-128901(P2017-128901)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (D21C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岩田 行剛佐藤 玲奈  
特許庁審判長 高山 芳之
特許庁審判官 井上 茂夫
杉山 悟史
登録日 2019-04-26 
登録番号 特許第6518287号(P6518287)
権利者 日本製紙株式会社
発明の名称 溶解クラフトパルプの製造方法  
代理人 小笠原 有紀  
代理人 中村 充利  
代理人 新井 規之  

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