• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09K
管理番号 1360523
異議申立番号 異議2019-700928  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-04-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-20 
確定日 2020-03-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第6531807号発明「ノンアスベスト摩擦材組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6531807号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6531807号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成23年6月7日(以下「遡及出願日」という。)に出願された特願2011-127572号の一部を、平成28年6月22日に新たな特許出願とした特願2016-123632号の一部を、さらに平成29年10月25日に新たな特許出願としたものであって、令和元年5月31日にその特許権の設定登録がされ、同年6月19日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1?5に係る特許に対し、同年11月20日に特許異議申立人 柴田秀子(以下「申立人」という。)が、特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
1 特許第6531807号の請求項1?5の特許に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明5」といい、まとめて「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材を含む摩擦材組成物であって、
該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として4質量%以下であり、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり、有機充填材の含有量が1?20質量%であり、チタン酸塩の含有量が13?24質量%であり、酸化ジルコニウムの含有量が5?30質量%かつ粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムの含有量が1.0質量%以下である、ノンアスベスト摩擦材組成物。
【請求項2】
前記繊維基材が、無機繊維、金属繊維、有機繊維及び炭素系繊維からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のノンアスベスト摩擦材組成物。
【請求項3】
前記繊維基材の含有量が5?40質量%である、請求項1又は2に記載のノンアスベスト摩擦材組成物。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項に記載のノンアスベスト摩擦材組成物を成形してなる摩擦材。
【請求項5】
請求項1?3のいずれか1項に記載のノンアスベスト摩擦材組成物を成形してなる摩擦材と裏金とを用いて形成される摩擦部材。」
2 本件明細書の記載
(1)「【0039】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明によって何ら制限を受けるものではない。
なお、実施例(参考例を含む)及び比較例に示す評価は次のように行った。
【0040】
(1)高温での耐摩耗性の評価
耐摩耗性は、制動前ブレーキ温度500℃、制動前速度60km/h、減速度0.3Gで1000回制動を行い、試験前後の摩擦材厚みから、摩擦材の摩耗量を算出した。
(2)メタルキャッチ生成の評価
メタルキャッチ生成の評価では、制動前速度60km/h、制動条件1.96m/s^(2)、2.94m/s^(2)、3.92m/s^(2)でそれぞれ2回ずつ、制動前温度を50℃から300℃まで50℃間隔で昇温する計36回の制動を行った後、250℃から50℃まで50℃間隔で降温し、かつ上記同様の制動条件による計30回の制動を行った。試験完了後、摩擦材摺動面に生成したメタルキャッチの大きさと数を、以下の基準で評価した。
A:メタルキャッチの生成無し
B:長径2mm未満のメタルキャッチが1個?2個生成
C:長径2mm未満のメタルキャッチが3個以上生成
D:長径2mm以上のメタルキャッチが1個以上生成
(3)摩擦係数の評価
摩擦係数は、自動車技術会規格JASO C406に基づき測定し、第2効力試験における摩擦係数の平均値を算出した。
【0041】
なお、上記耐摩耗性の評価、メタルキャッチ生成及び摩擦係数の評価は、ダイナモメータを用い、イナーシャ7kgf・m・s^(2)で評価を行った。また、ベンチレーテッドディスクロータ(株式会社キリウ製、材質FC190)、一般的なピンスライド式のコレットタイプのキャリパを用いて実施した。」
(2)「【0042】
[実施例(参考例を含む)1?13及び比較例1?5]
ディスクブレーキパッドの作製
表1に示す配合比率に従って材料を配合し、実施例(参考例を含む)及び比較例の摩擦材組成物を得た。なお、表1の各成分の配合量の単位は、摩擦材組成物中の質量%である。
この摩擦材組成物をレディーゲミキサー(株式会社マツボー社製、商品名:レディーゲミキサーM20)で混合し、この混合物を成形プレス(王子機械工業株式会社製)で予備成形し、得られた予備成形物を成形温度145℃、成形圧力30MPaの条件で5分間成形プレス(三起精工株式会社製)を用いて日立オートモティブシステムズ株式会社製の裏金と共に加熱加圧成形し、得られた成形品を200℃で4.5時間熱処理し、ロータリー研磨機を用いて研磨し、500℃のスコーチ処理を行って、ディスクブレーキパッド(摩擦材の厚さ11mm、摩擦材投影面積52cm^(2))を得た。
作製したディスクブレーキパッドについて、前記の評価を行った結果を表1に示す。
【0043】
なお、実施例(参考例を含む)及び比較例において使用した各種材料は次のとおりである。
(結合材)
・フェノール樹脂:日立化成工業株式会社製(商品名:HP491UP)
(有機充填剤)
・カシューダスト:東北化工株式会社製(商品名:FF-1056)
(無機充填剤)
・チタン酸塩1:大塚化学株式会社製 (商品名:テラセスL)
成分:チタン酸リチウムカリウム、形状:燐片状
メジアン径:25μm、比表面積:0.6m^(2)/g
・チタン酸塩2:大塚化学株式会社製 (商品名:テラセスPS)
成分:チタン酸マグネシウムカリウム、形状:燐片状
メジアン径:4μm、比表面積:2.5m^(2)/g
・チタン酸塩3:大塚化学株式会社製 (商品名:テラセスTF-S)
成分:チタン酸カリウム、形状:燐片状
メジアン径:7μm、比表面積:3.5m^(2)/g
・チタン酸塩4:株式会社クボタ製 (商品名:TXAX-MA)
成分:チタン酸カリウム、形状:板状
比表面積:1.5m^(2)/g
・チタン酸塩5:東邦マテリアル株式会社製 (商品名:TOFIX-S)
成分:チタン酸カリウム、形状:柱状
メジアン径:6μm、比表面積:0.9m^(2)/g
・チタン酸塩6:大塚化学株式会社製 (商品名:ティスモD)
成分:チタン酸カリウム、形状:繊維状
比表面積:7.0m^(2)/g
・酸化ジルコニウム1:第一稀元素化学工業株式会社製
(商品名:BR-3QZ、平均粒子径2.0μm、最大粒子径15μm)
・酸化ジルコニウム2:第一稀元素化学工業株式会社製
(商品名:BR-QZ、平均粒子径6.5μm、最大粒子径26μm)
・酸化ジルコニウム3:第一稀元素化学工業株式会社製
(商品名:BR-12QZ、平均粒子径8.5μm、最大粒子径45μm)
・黒鉛:TIMCAL社製(商品名:KS75)
(繊維基材)
・アラミド繊維(有機繊維):東レ・デュポン株式会社製(商品名:1F538)
・鉄繊維(金属繊維):GMT社製(商品名:#0)
・銅繊維(金属繊維):Sunny Metal社製(商品名:SCA-1070)
・鉱物繊維(無機繊維):LAPINUS FIBERS B.V製(商品名:RB240 Roxul 1000、平均繊維長300μm)」
(4)「【0044】
【表1】



第3 異議申立の概要
申立人の主張の概要は以下のとおりである。
1 記載要件違背
次の理由により本件発明は明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定した要件を満たさないから、特許法第113条第4号の規定により、本件発明に係る特許は取り消されるべきものである。
(1)理由1
前記第2の2(4)に摘記した本件明細書の【表1】において、「実施例」とされている例と、「参考例」とされている例を仕分ける基準が明確でなく、結果として本件発明が不明確となっている。
(2)理由2
前記第2の2(4)に摘記した本件明細書の【表1】を参照すると、参考例9における「500℃摩擦材磨耗量」、「メタルキャッチ生成」、「摩擦係数」よりも低い効果を奏している、実施例4、7、9、10については、参考例とされるべきであり、この結果、本件発明が不明確となっている。
2 進歩性欠如
本件発明1?5は、遡及出願日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、遡及出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、特許法第113条第2号の規定により、本件発明に係る特許は取り消されるべきものである。

甲第1号証:特開2010-24429号公報
甲第2号証:特開2008-174705号公報
甲第3号証:国際公開第2010/140265号
甲第4号証:特開2007-197533号公報

第4 引用文献の記載
1 甲第1号証(以下「甲1」という。)
甲1には、次の記載がある。
(1)「【請求項1】
繊維基質、無機充填材、結合材、有機充填材及び研削材を含む摩擦材組成物において、
前記研削材として50%粒径が0.1?5.0μmの範囲の酸化ジルコニウムを15?35質量%含有し、かつ酸化ジルコニウム以外のモース硬度が7以上の研削材を2.0質量%以下含有した摩擦材組成物。
【請求項2】
前記酸化ジルコニウム以外のモース硬度7以上の研削材が、珪酸ジルコニウムである請求項1記載の摩擦材組成物。
【請求項3】
前記珪酸ジルコニウムの50%粒径が、10μm以下である請求項2記載の摩擦材組成物。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか一項に記載の摩擦材組成物を加熱加圧成形した摩擦材。
【請求項5】
請求項4記載の摩擦材と裏金とを一体化した摩擦部材。」
(2)「【0006】
一制動中の車速に対する摩擦係数の負勾配とは、V(車速)に対するμ(摩擦係数)の負の勾配を示し、「μ-V負勾配」と呼ばれる。
また、低温、高湿放置後の制動では車速の低下とともにμが増加するため、Vに対しμは負に大きい勾配を示しやすい。この負の勾配が大きいと自励振動を励起力とするブレーキ鳴きが発生しやすくなる。
【0007】
前述のように低温、高湿放置後の摩擦係数を低減することで低温、高湿放置後のブレーキ鳴きを抑制する方法はいくつか提案されているが、この低温、高湿放置後のμ-V負勾配を低減する手法については充分に確立していない。
・・・
【0009】
本発明は、上記事情を鑑みなされたもので、低温、高湿放置後のμ-V負勾配を低減する観点で、従来品に対して低温、高湿放置後の鳴きを低減することが可能な摩擦材組成物、この摩擦材組成物を用いた摩擦材及び摩擦部材を提供することを目的とするものである。」
(3)「【0016】
酸化ジルコニウムの含有量が15質量%以上であればμ-V負勾配の低減効果が小さいこともなく、35質量%以下であれば、低温、高湿放置後だけでなく通常の制動時においても、摩擦係数が高くなりブレーキ鳴きの発生が多くなるという問題も生じにくい。50%粒径が0.1?5.0μmの範囲の酸化ジルコニウムのより好ましい含有量は、20?35質量%である。
また、酸化ジルコニウムの50%粒径が0.1?5.0μmの範囲と規定したのは、0.1μm以上とすることで、また5.0μm以下とすることで、低温、高湿放置後のμ-V負勾配の低減を小さくし、ブレーキ鳴きを抑制することができるためである。
【0017】
また、同時に酸化ジルコニウム以外のモース硬度7以上の研削材の含有量が2.0質量%以下でなければならない。モース硬度7以上の研削材は制動時に相手材を削り易く、その引っ掻き抵抗は速度が高いほど低下する。」
(4)「【0021】
本発明に用いられる繊維基材としては、金属繊維、無機繊維、有機繊維等が挙げられる。
このうち、金属繊維としては、銅繊維、黄銅繊維、青銅繊維、鉄繊維、チタン繊維、亜鉛繊維、アルミ繊維等を用いることができ、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
無機繊維としては、セラミック繊維、生分解性セラミック繊維、鉱物繊維、炭素繊維、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維、シリケート繊維等を用いることができ、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができるが、環境物質低減の観点で吸引性のチタン酸カリウム繊維やセラミック繊維を含有しないことが好ましい。
【0023】
有機繊維としては、アラミド繊維、アクリル繊維、セルロース繊維、フェノール樹脂繊維等を用いることができ、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、繊維基材は、組成物中に5?30質量%含有することが好ましく、10?20質量%含有することがより好ましい。
【0024】
本発明に用いられる無機充填材としては、例えば、三硫化アンチモン、硫化スズ、二硫化モリブデン、硫化鉄、硫化ビスマス、硫化亜鉛、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、ドロマイト、コークス、黒鉛、マイカ、酸化鉄、バーミキュライト、粒状チタン酸カリウム、硫酸カルシウム、板状チタン酸カリウム、タルク、クレー、ゼオライト等を用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
前記無機充填材の含有量は、摩擦材用組成物において20?80質量%であることが好ましく、30?60質量%であることがより好ましい。」
(5)「【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明は何らこれらに限定されるものではない。
<実施例1?4及び比較例1?4>
(ディスクブレーキパッドの作製)
表1に示す配合比率に従って材料を配合し、実施例1?4及び比較例1?4の摩擦材組成物を得た。
【0032】
この摩擦材組成物をレディーゲミキサー〔(株)マツボー社製、商品名:レディーゲミキサーM20〕で混合し、この混合物を成形プレス〔王子機械工業(株)製)で予備成形し、得られた予備成形物を成形温度145℃、成形圧力30MPaの条件で5分間成形プレス(三起精工社製)を用いて加熱加圧成形した。
【0033】
得られた成形品を200℃で4.5時間熱処理し、ロータリー研磨機を用いて研磨し、500℃のスコーチ処理を行ってディスクブレーキパッドを得た。なお、本実施例では、摩擦材投影面積52cm^(2)のディスクブレーキパッドを作製した。
【0034】
なお、表1中の酸化ジルコニウム(1)?(3)、珪酸ジルコニウム(1)、(2)の詳細は以下の通りである。
酸化ジルコニウム(1):第一稀元素化学工業(株)製、商品名:BR-3QZ、D50%粒度=2.0μm
酸化ジルコニウム(2):第一稀元素化学工業(株)製、商品名:BR-QZ、D50%粒度=6.5μm
酸化ジルコニウム(3):第一稀元素化学工業(株)製、商品名:BR-12QZ、D50%粒度=8.5μm
珪酸ジルコニウム(1):第一稀元素化学工業(株)製、商品名:MZ-1000B、D50%粒度=1.5μm
珪酸ジルコニウム(2):第一稀元素化学工業(株)製、商品名:MZ-50B、D50%粒度=17.0μm
【0035】
(低温放置後ブレーキ鳴き及びμ-V負勾配の評価)
前記の方法で作製した実施例1?4及び比較例1?4のディスクブレーキパッドを、ブレーキダイナモ試験機を用いて低温放置後ブレーキ鳴きの評価を行った。実験には、一般的なピンスライド式のコレット型キャリパー及びキリウ社製ベンチレーテッドディスクローター(FC250)を用い、日産自動車製スカイラインV35の慣性モーメントで評価を行った。
また、低温放置後の鳴きを顕著に発生させるために、ディスクブレーキパッドには、一般的に鳴き防止のために装着される減衰シムを用いずに試験を行った。
【0036】
JASO C427に準拠したすり合わせ(初速度50km/h、減速度0.3G、制動前ブレーキ温度100℃、制動回数200回)を行ったあと、温度5℃、湿度40%RHの環境で4時間放置し、120秒のインターバルで車速10km/h、ブレーキ液圧0.5MPaの制動を50回繰り返した。
【0037】
その後、温度-5℃の環境で4時間放置し、120秒のインターバルで車速10km/h,ブレーキ液圧0.5MPaの制動を50回繰り返した。この試験において、5℃及び-5℃の環境で放置した後の低速低減速度の制動における75dB以上の音圧で計測されたブレーキ鳴きの発生率を実施例1?4及び比較例1?4のディスクブレーキパッドについて評価した。
【0038】
また、制動後半の車速に対する摩擦係数の変化を一次近似し、その傾きをμ-V勾配とした。このμ-V勾配の値は、負に大きいほうが制動後半の摩擦係数の増加が大きくブレーキ鳴きに対して不利なことを示す。このμ-V勾配は、5℃及び-5℃各々の環境で放置した後の制動50回の平均値を算出した。」
(6)「【0039】
【表1】

※ 表1の配合量は、摩擦材組成物全体に対する質量%である。
【0040】
表1に示されるように、本発明の乗用車用ブレーキパッド向け摩擦材組成物は、摩擦材としたときに、比較例の摩擦材組成物に比較して低温放置後、特に、極低温放置後のブレーキ鳴きを低減することが明らかである。」
2 甲第2号証?甲第4号証(以下「甲2」?「甲4」という。)の記載
(1)甲2には、次の記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦材組成物及び摩擦材組成物を用いた摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などには、その制動のためディスクブレーキパッド、ブレーキライニング等の摩擦材が使用されている。」
イ 「【0018】
本発明で用いる無機粉は、モース硬度5以上7未満の無機粉、モース硬度7以上の無機粉及び硫化錫を含むものであり、摩擦材組成物全重量に対するそれらの含有量が重要である。
【0019】
モース硬度5以上7未満の無機粉の含有量は、摩擦材組成物全重量に対して7?30重量%であり、好ましくは15?28重量%である。前記モース硬度5以上7未満の無機粉の含有量が7重量%未満である場合は、低速から高速まで効力が大きく低下し、良好な摩擦係数が得られない。一方、前記モース硬度5以上7未満の無機粉の含有量が30重量%を超える場合は、メタルキャッチ発生及び対面材の荒れの程度が急激に大きくなる。」
ウ 「【0022】
モース硬度5以上7未満の無機粉としては、酸化ジルコニウム(モース硬度:6)、四三酸化鉄(モース硬度:6.5)、酸化マグネシウム(モース硬度:6.5)、酸化チタン(モース硬度:6.5)などが例示される。これらのなかでも、酸化ジルコニウム及び/又は四三酸化鉄は、メタルキャッチ発生の防止及び対面材の荒れの防止を向上し、良好な摩擦係数を示すという点でより好ましい。また、メタルキャッチ発生の防止及び対面材の荒れの防止を向上する点で、酸化ジルコニウムの平均粒径は7μm以下であることが好ましい。」
(2)甲3には、次の記載がある。
ア 「[請求項1]結合材、繊維基材、研削材、無機充填材、有機充填材を含有する摩擦材組成物であって、さらに亜鉛及び前記繊維基材として鉄系繊維2?10wt%を含有し、かつ前記研削材としてモース硬度8以上で粒径1μm以上の無機研削材の含有量が1wt%以下の摩擦材組成物。
[請求項2]前記亜鉛の含有量が2?5wt%である請求項1に記載の摩擦材組成物。
[請求項3]記繊維基材として、アラミド繊維を1.5wt%以上含有する請求項1又は2に記載の摩擦材組成物。

イ 「[0049]本発明で用いられる研削材は、前述したモース硬度8以上の研削材以外を用いることができる。モース硬度8以上の研削材以外の研削材として、ケイ酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、ムライト、クロマイト、酸化チタン、酸化マグネシウム、シリカ、酸化鉄、γ-アルミナ等の活性アルミナ等が挙げられ、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。特にγ-アルミナを用いると、高温時のフェード現象を抑制できる。」
ウ 「[0051] また、前記研削材(モース硬度8以上の研削材以外の研削材)の含有量は、摩擦材用組成物において10?40wt%であることが好ましく、15?35wt%であることがより好ましい。この範囲とすることで、ブレーキの効き、耐摩耗性、鳴き特性を良好にすることができる。
なお、γ-アルミナの含有量は、摩擦材組成物において1?10wt%が好ましい。」
(3)甲4には、次の記載がある。
ア 「【0006】
したがって本摩擦材は、チタン酸化合物塩を有しているために、チタン酸化合物塩によってトランスファーフィルムを形成することができ、トランスファーフィルムによって高い耐摩耗性を得ることができる。また本摩擦材は、Fe_(2)O_(3)も有しているが、Fe_(2)O_(3)は、モース硬度が6.0程度であって、ZrO_(2)(モース硬度6.5)やZrSiO_(4)(モース硬度7.5)などの一般的な摩擦調整剤に比べて低い。そのためFe_(2)O_(3)を添加してもトランスファーフィルムが破壊される心配が少なく、高い耐摩耗性を維持することができる。」
イ 「【0010】
請求項3に記載の発明によると、チタン酸化合物塩が、板状、フレーク状または粉状の非ウィスカー状になっている。
請求項4に記載の発明によると、チタン酸化合物塩の添加量が、摩擦材全体の6?38重量%である。
したがってチタン酸化合物塩の添加量が摩擦材全体の6重量%以上であるために、耐摩耗性を十分に大きく確保することができる。」

第5 判断
1 記載要件について
(1)理由1について
ア 前記第2、2(4)において摘記した本件明細書の表1に記載された各参考例について以下検討する。
イ 参考例8について
参考例8においては、チタン酸塩1が組成物中に12質量%含有され、チタン酸塩2?6がゼロであるから、チタン酸塩は合計で組成物中に12質量%含有されていることが読み取れる。そうすると、参考例8は、本件発明における「チタン酸塩の含有量が13?24質量%」という発明特定事項を充足しないため、参考例とされていることが理解できる。
ウ 参考例9について
参考例9においては、チタン酸塩1が組成物中に25質量%含有され、チタン酸塩2?6がゼロであるから、チタン酸塩は合計で組成物中に25質量%含有されていることが読み取れる。そうすると、参考例8は、本件発明における「チタン酸塩の含有量が13?24質量%」という発明特定事項を充足しないため、参考例とされていることが理解できる。
エ 参考例12について
参考例12においては、酸化ジルコニウム1が組成物中に2質量%、酸化ジルコニウム2?3がゼロであるから、酸化ジルコニウムは合計で組成物中に2質量%含有されていることが読み取れる。そうすると、参考例12は、本願発明における「酸化ジルコニウムの含有量が5?30質量%」という発明特定事項を充足しないため、参考例とされていることが理解できる。
オ 参考例13について
参考例13においては、酸化ジルコニウム1が組成物中に41質量%、酸化ジルコニウム2?3がゼロであるから、酸化ジルコニウムは合計で組成物中に41質量%含有されていることが読み取れる。そうすると、参考例12は、本願発明における「酸化ジルコニウムの含有量が5?30質量%」という発明特定事項を充足しないため、参考例とされていることが理解できる。
カ 以上イ?オにおいて検討したように、参考例8、9、12、13がなぜ参考例とされているかの基準は明らかであって、申立人の主張は失当である。
(2)理由2について
ア 前記第2、2(4)において摘記した本件明細書の表1について検討する。参考例8の効果として、500℃磨耗材磨耗量(mm)が「2.0」、メタルキャッチ生成が「B」、摩擦係数が「0.40」であることが読み取れる。
イ ここで、前記(1)イで検討したように、参考例は、本件発明1の実施例ではない。
ウ 一方、表1に記載された実施例1?7、10、11は、本件発明1の
発明特定事項を充足するものであるため、本件発明1の実施例であることが読み取れる。
エ 申立人が主張するように、実施例4、7、10が、参考例8、9の作用効果と同等以下の効果しか奏さないものであるとしても、その結果本件発明1の構成が不明確になるとはいえず、申立人の主張は失当である。
(3)記載要件についての小括
以上のとおり、申立人の主張は、成り立たず、本件発明1?5が明確でないということはできないから、本件請求項1?5の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件と満たさないということはできない。
2 進歩性について
(1)甲1の実施例2に記載された発明との対比・判断
ア 甲1発明A
前記第4、1(6)において摘記した甲1の表1における実施例2に注目すると、次の発明(以下「甲1発明A」という。)が認定できる。なお、申立人は、甲1を主たる引用文献としているものの、引用発明を認定していないので、主たる引用発明を申立人の主張に基づき認定した。
「繊維基質として、鉱物繊維2質量%、銅繊維10質量%及びアラミド繊維2質量%を含有し、
無機充填材として、硫酸バリウム30質量%、ゼオライト1質量%、粒状チタン酸カリウム11質量%、黒鉛3質量%、コークス2質量%、マイカ4質量%、硫化錫3質量%、水酸化カルシウム2質量%含有し、
結合材として、フェノール樹脂7質量%を含有し、
有機充填材として、カシューダスト4質量%、ゴム粉1質量%を含有し、
研削材として、酸化ジルコニウム(1)18質量%含有する
摩擦材組成物。」
イ 対比
(ア)甲1発明Aの「結合材」、「有機充填材」、「無機充填材」、「繊維基質」、「摩擦材組成物」は、本件発明1の「結合材」、「有機充填材」、「無機充填材」、「繊維基材」、「摩擦材組成物」に相当する。
また、甲1発明Aの「チタン酸カリウム」は、本件発明1の「チタン酸塩」に相当する。
(イ)甲1発明Aにおける18質量%の酸化ジルコニウム(1)とは、前記第4、1(5)で摘記した段落【0034】によると、「第一稀元素化学工業(株)製、商品名:BR-3QZ、D50%粒度=2.0μm」であって、前記第2、2(2)に摘記した本件明細書の【0034】における酸化ジルコニウム1と同じであって、本件発明1における酸化ジルコニウムの粒径に関する事項は、甲1発明Aとは一致することになる。また、甲1発明Aの酸化ジルコニウムの含有量は、本件発明1の酸化ジルコニウムの含有量に含まれる。
(ウ)甲1発明Aにおいて、繊維基質に含まれる金属繊維は、銅繊維のみであるから、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量は、0質量%である。また、甲1発明Aにおいて、石綿繊維は含まれていないから、ノンアスベストということができる。
(エ)甲1発明における有機充填剤の含有量は、カシューダスト4質量%とゴム粉1質量%を合わせて5質量%となる。
(オ)一致点
以上より、本件発明1は、甲1発明Aと次の点で一致する。
「結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材を含む摩擦材組成物であって、
銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり、有機充填材の含有量が1?20質量%であり、酸化ジルコニウムの含有量が5?30質量%かつ粒子径が30μmを超える酸化ジルコニウムの含有量が1.0質量%以下である、ノンアスベスト摩擦材組成物。」である点。
(カ)相違点
本件発明1は、甲1発明Aと次の点で相違する。
a 相違点A1
銅について、本件発明1においては、「摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として4質量%以下」であるのに対し、甲1発明Aにおいては、銅繊維が10質量%含有されている点。
b 相違点A2
チタン酸塩に関連して、本件発明1においては、「チタン酸塩の含有量が13?24質量%」であるのに対し、甲1発明Aにおいては、チタン酸カリウムが11質量%含有されている点。
ウ 検討
事案に鑑み、相違点A2について検討する。
(ア)前記第2、2(4)に摘記した本件明細書の【表1】の記載のうち、実施例1、参考例8及び参考例9に着目する。これらは、チタン酸塩の含有量がそれぞれ、15質量%、12質量%及び20質量%とされている点で相違がある。
(イ)そして、それらの作用効果として、500℃摩耗材摩耗量がそれぞれ、1.3mm、2.0mm、1.7mmとなっており、また、メタルキャッチ生成についても、それぞれA、B及びBとなっている。
(ウ)甲1発明Aにおいて、チタン酸カリウムは、8種類の無機充填剤の中のひとつに過ぎず、甲1には、無機充填剤としてのチタン酸カリウムを用いる技術的意義については、何ら記載されていない。
(エ)また、前記第4、1(4)に摘記した甲1の【0024】には、摩擦材組成物における無機充填材の含有量について、「20?80質量%」ないし「30?60質量%」が好ましい旨の記載があることから、仮に、甲1発明Aにおいて無機充填材の含有量を増やすことが可能であったとしても、8種類の無機充填材の中のどれを増やせばいいかについては、当業者にとって不明としかいいようがない。
(オ)そうすると、甲1発明Aにおいて、チタン酸カリウムの含有量を11質量%から、本件発明1のように13?24質量%とする動機付けはないというべきである。
(カ)しかも、前記(ア)(イ)で述べたように、本件発明1においてチタン酸塩の含有量を13?24質量%としたことにより、そうでないものと比較して、摩耗材摩耗量やメタルキャッチ生成について格別顕著な作用効果を奏することが実施例において確認されているのであるから、相違点A2に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(キ)申立人は、相違点A2に係る本件発明1の構成は、単なる数値限定であることを前提として、甲2?甲4に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に想到し得ると主張するが、上述したように単なる数値限定とはいえず、その前提に誤りがあり採用することができない。
(2)甲1の比較例3に記載された発明との対比・判断
申立人は、甲1の比較例3についても言及しているので、念のため検討する。
ア 甲1発明B
前記第4、1(6)において摘記した甲1の表1における比較例3に注目すると、次の発明(以下「甲1発明Bという。)が認定できる。
「繊維基質として、鉱物繊維2質量%、銅繊維10質量%及びアラミド繊維2質量%を含有し、
無機充填材として、硫酸バリウム35質量%、ゼオライト1質量%、粒状チタン酸カリウム14質量%、黒鉛3質量%、コークス2質量%、マイカ4質量%、硫化錫3質量%、水酸化カルシウム2質量%を含有し、
結合材として、フェノール樹脂7質量%を含有し、
有機充填材として、カシューダスト4質量%、ゴム粉1質量%を含有し、
研削材として、酸化ジルコニウム(1)10質量%を含有する
摩擦材組成物。」
イ 相違点B
前記(1)イと同様に対比すると、本件発明1と甲1発明Bは、少なくとも次の点で相違する(以下「相違点B」という。)。
銅について、本件発明1においては、「摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として4質量%以下」であるのに対し、甲1発明Bにおいては、銅繊維が10質量%含有されている点。
ウ 検討
(ア)甲1の記載
前記第4、1(2)の段落【0009】に摘記したように、甲1は、低温、高湿放置後のブレーキ鳴きを低減することが可能な摩擦材組成物を提供することを目的とする技術を開示するところ、「ブレーキ鳴き」とは、低温、高湿放置後の制動において、自励振動を励起力として発生するものである。
具体的には、同(5)の段落【0035】?【0037】に記載のように、「5℃及び-5℃の環境で放置した後の低速低減速度の制動における75dB以上の音圧で計測されたブレーキ鳴きの発生率」として評価されているものである。
(イ)阻害要因
そして、前記第4、1(6)に摘記した甲1の表1における比較例3については、上記ブレーキ鳴きの発生率が、5℃放置後で12.0%、-5℃放置後で24.0%となっており、甲1の実施例1?4のブレーキ鳴きの発生率と比べると相当高くなっている。
そうすると、甲1に接した当業者は、比較例3に記載された甲1発明Bに基いて、その成分の種類や含有量を変更しようとすることについては、阻害要因があるというべきである。また、仮に、甲1発明Bにおいて、銅繊維の含有量を減らすことを試みた場合、他の成分の含有量をどのようにすればいいかについて、当業者にとって不明というほかない。
したがって、上記相違点Bに係る本件発明1の構成を容易に想到し得るということができない。
(3)小括
ア 前記(1)、(2)において検討したように、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲1?4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
イ また、本件発明2?5は、本件発明1を包含し、さらに特定事項を追加したものであるから、本件発明1と同様に、甲1に記載された発明及び甲1?4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
ウ したがって、本件発明1?5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえず、本件発明1?5に係る特許は、特許法第113条第2号により取り消すべきものではない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-03-06 
出願番号 特願2017-206611(P2017-206611)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C09K)
P 1 651・ 121- Y (C09K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 櫛引 智子  
特許庁審判長 川端 修
特許庁審判官 牟田 博一
門前 浩一
登録日 2019-05-31 
登録番号 特許第6531807号(P6531807)
権利者 日立化成株式会社
発明の名称 ノンアスベスト摩擦材組成物  
代理人 澤山 要介  
代理人 平澤 賢一  
  • この表をプリントする
事前申し込み無料!情報収集目的の方もぜひいらしてください!
すごい知財サービス EXPO 2021

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ