• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 E04D
管理番号 1360801
審判番号 不服2019-7968  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-06-14 
確定日 2020-03-31 
事件の表示 特願2017-193414「金属屋根材の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 4月25日出願公開、特開2019- 65621、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年10月3日の出願であって、原審におけるその後の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成30年 9月12日付け 拒絶理由通知
(平成30年 9月18日発送)
平成30年11月15日 意見書及び手続補正書の提出
平成31年 1月11日付け 拒絶理由通知
(平成31年 1月22日発送)
平成31年 2月15日 意見書の提出
平成31年 4月11日付け 拒絶査定
(平成31年 4月16日発送)

本件はこれに対し、原査定の謄本送達から3月以内の令和1年6月14日に、拒絶査定不服審判の請求がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定(平成31年4月11日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願請求項1ないし3に係る発明は、下記引用文献1ないし5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献:
1.特開2015-71927号公報
2.特許第5864015号公報(平成28年2月17日発行)
3.特開平10-249442号公報
4.特開平6-297045号公報
5.意匠登録第1559617号公報(平成28年9月26日発行)


第3 本願発明
本願請求項1ないし3に係る発明(以下、「本願発明1」等という。)は、平成30年11月15日付け手続補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される発明であって、以下のとおりの発明である。

本願発明1
「【請求項1】
金属板を素材とし箱形に形成された本体部を有する表基材と、前記本体部の開口を塞ぐように前記表基材の裏側に配置された裏基材と、前記本体部と前記裏基材との間に充填された芯材とを備えた金属屋根材を製造するための金属屋根材の製造方法であって、
金属板に成形加工を施して前記本体部と前記本体部の周囲に形成された平板状の周縁部とを有する中間体を得る工程と、
前記中間体を得た後に、プレス加工機を用いて前記中間体の前記本体部の天板にエンボス柄を付す工程とを含み、
前記エンボス柄には、小柄領域と、前記小柄領域よりも凹凸の変化頻度が低い大柄領域とが含まれている、
金属屋根材の製造方法。」

本願発明2
「【請求項2】
前記金属屋根材は奥行方向が屋根の軒棟方向に延在するように適合されており、
前記エンボス柄は、前記奥行方向に延在する線状の凸部及び凹部を含む流れ模様である
請求項1記載の金属屋根材の製造方法。」

本願発明3
「【請求項3】
前記金属屋根材は奥行方向が屋根の軒棟方向に延在するように適合されており、
前記大柄領域は、前記小柄領域よりも棟側に位置するように配置されている、
請求項1又は請求項2に記載の金属屋根材の製造方法。」


第4 進歩性
1 引用文献の記載
(1)引用文献1
ア 記載事項
原査定に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同様。)。

(ア)明細書
「【技術分野】
【0001】
本発明は、建築用金属屋根材に関し、特に、建築用金属屋根材に用いる金属屋根板の表面に棟軒方向に沿う線状の凹凸部を形成することにより、雨水の流れを容易とするための新規な改良に関する。
・・・・(中略)・・・・
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、建築用金属屋根材に用いる金属屋根板の表面に棟軒方向に沿う線状の凹凸部を形成することにより、雨水の流れを容易とすることである。
【実施例】
・・・・(中略)・・・・
【0018】
前述の形態においては、前記金属屋根板20のみを用いて重ね葺きを行なった場合について述べたが、本発明においては、前記金属屋根板20に厚さtを形成した他の形態を図7に示している。
すなわち、図7において、前記金属屋根板20の端部20Aを内側に90度曲げて形成した曲折部20B(10mm)により、全体形状を箱形状とし、前記金属屋根板20の裏面側20aに裏面紙22を貼り、前記裏面側20aと前記裏面紙22との間に、図示しない発泡樹脂注入機からの発泡ウレタン、発泡イソシアヌレート、発泡フェノールなどの発泡樹脂23を注入することにより、前記曲折部20Bの厚さtを有する金属屋根材1を得ることができる。
【0019】
従って、図7の金属屋根材1を屋根下地材2の上面2aに載置した場合は、裏面紙22の下面22aが屋根下地材2の上面2aに接し、各金属屋根材1を次々に、従来と同様の重ね葺き方法によって屋根葺きを行なうことにより、前記下面22aが下部の金属屋根材1の金属屋根板20の凹凸部21と接するため、厚みのある図7で示される金属屋根板20の重ね葺きにおいても、前記凹凸部21を介して、各金属屋根材1の重なり部分における雨水は前記凹凸部21を介して滞留を起こすことなく、円滑に流れることができる。
【0020】
そこで、本出願人は、本発明による図7で示す前記金属屋根材1の金属屋根板20の凹凸部21の雨水の流れ状態を評価した結果、表1の通りであった。
<供試材>
屋根形状に成形した0.35mmの塗装溶融Zn-Al合金めっき鋼板からなる金属屋根板20にプレス成型機により凹凸形状を付与した。加工深さは、0?0.8mmまで変化させ、また、上下方向(棟軒方向)に線状に流れ模様となる図1から図3の「流れ模様A,B,C」の凹凸形状を付与した。比較として、凹凸形状を付与しないフラットな屋根材及び流れ模様の無い(方向性の無い)凹凸形状である図4で示す「模様D」を付与した金属屋根板20を準備した。次に、これらの金属屋根板20の端部20A(10mm)を90度曲げて箱状に加工した金属屋根板20の裏面側20aには裏面紙22を貼り、表面側の金属屋根板20と裏面側20aの裏面紙22による空間に芯材として発泡ウレタン樹脂を注入し屋根パネルとしての金属屋根材1を作製した。
例えば、長さ910mm、幅410mmの屋根パネルとしての金属屋根材1は、(図5に示すような)重ね葺き施工し、1,200×700mmの模擬屋根を作製した。この模擬屋根の勾配は15°とし、雨水の流れ性と意匠性を評価した。」

(イ)図面
【図7】には、次の図示がある。

上記図7から、「裏面紙22」は、「金属屋根板20」の箱状に加工された裏面側を、断面図で見て閉じるように配置される様子が、看てとれる。
また、同図7より、「発泡樹脂23」は、金属屋根板20と裏面紙22による空間に、断面図で見て隙間無く注入されている様子が、看てとれる。

イ 引用文献1に記載された発明
上記ア(ア)の段落【0020】には、「金属屋根材1」の「作製」について、「次に、」という語に示されるとおり、時系列をなす複数の手順を経て「作製」が行われることが記載されているから、「金属屋根部材1」を「作製」する方法が記載されていると認められる。
そのため、上記ア(ア)及び(イ)より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「金属屋根板20に、プレス成型機により、線状に流れ模様となる凹凸形状を付与し、
次に、金属屋根板20の端部20Aを90度曲げ、箱状に加工した金属屋根板20の裏面側20aには、断面図で見て金属屋根板20の箱状に加工された裏面側を閉じるように、裏面紙22を貼り、
表面側の金属屋根板20と裏面側20aの裏面紙22による空間に、芯材として発泡ウレタン樹脂である発泡樹脂23を、断面図で見て隙間無く注入し、屋根パネルとする、
金属屋根材1を作製する方法。」

(2)引用文献2
ア 記載事項
原査定に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。
(ア)技術分野
「【技術分野】
【0001】
本発明は、屋根下地の上に他の金属屋根材とともに並べて配置される金属屋根材並びにそれを用いた屋根葺き構造及び屋根葺き方法に関する。」

(イ)実施の形態1
「【0012】
図1及び図2に示す金属屋根材1は、家屋等の建物の屋根下地の上に他の金属屋根材とともに並べて配置されるものである。図2に特に表れているように、金属屋根材1は、表基材10、裏基材11及び芯材12を有している。
【0013】
表基材10は、金属板を素材とするものであり、金属屋根材1が屋根下地の上に配置された際に屋根の外面に表れる部材である。
【0014】
表基材10の素材である金属板としては、溶融Zn系めっき鋼板、溶融Alめっき鋼板、溶融Zn系めっきステンレス鋼板、溶融Alめっきステンレス鋼板、ステンレス鋼板、Al板、Ti板、塗装溶融Zn系めっき鋼板、塗装溶融Alめっき鋼板、塗装溶融Zn系めっきステンレス鋼板、塗装溶融Alめっきステンレス鋼板、塗装ステンレス鋼板、塗装Al板又は塗装Ti板を用いることができる。
【0015】
金属板の厚みは0.27mm以上かつ0.5mm以下であることが好ましい。金属板の厚みの増加に伴い、屋根材の強度が増大するが重量も増す。金属板の厚みを0.27mm以上とすることで、屋根材として必要とされる強度を十分に確保でき、耐風圧性や踏み潰れ性を十分に得ることができる。金属板の厚みを0.5mm以下とすることで、金属屋根材1の重量が大きくなりすぎることを回避でき、太陽電池モジュール、太陽光温水器、エアコン室外機、融雪関連機器等の機器を屋根上に設けた際の屋根の総重量を抑えることができる。
【0016】
表基材10には、本体部100及びフランジ部110が設けられている。本体部100は、天板部101及び側壁部102を有する箱形の部分である。この本体部100は、金属板に絞り加工又は張り出し加工が施されることで形成されることが好ましい。箱形の本体部100を形成する別の方法としては、図3に示すような形状を有する金属板を図中の一点鎖線に沿って屈曲する方法を採ることもできる。しかしながら、金属板を屈曲して箱形を形成した場合、側壁部102の間に切れ目が生じてしまい、本体部100の内部に水分が浸入しやすくなる。一方、絞り加工又は張り出し加工により箱形を形成した場合には、側壁部102を表基材10の周方向に連続する壁面とすることができ、本体部100の内部に水分が浸入する可能性を低くすることができる。
【0017】
特に、表基材10の金属板として鋼板(溶融Zn系めっき鋼板、溶融Alめっき鋼板、溶融Zn系めっきステンレス鋼板、溶融Alめっきステンレス鋼板、ステンレス鋼板、Al板、Ti板、塗装溶融Zn系めっき鋼板、塗装溶融Alめっき鋼板、塗装溶融Zn系めっきステンレス鋼板、塗装溶融Alめっきステンレス鋼板、塗装ステンレス鋼板)を用いる場合に、絞り加工又は張り出し加工により本体部100を形成した場合、加工硬化により側壁部102の硬度を高めることができる。具体的には、側壁部102のビッカース硬度を加工前に比べて1.4?1.6倍程度増大させることもできる。上述のように側壁部102が表基材10の周方向に連続する壁面とされるとともに、加工硬化により側壁部102の硬度が高められることにより、金属屋根材1の耐風圧性能が著しく向上する。耐風圧性能とは、強い風に対して座屈せずに金属屋根材1が耐えられる性能である。
【0018】
フランジ部110は、本体部100から延出されている。図1に示すように、フランジ部110は本体部100の全周に渡って形成されている。本体部100と一体にフランジ部110が設けられていることで、絞り加工又は張り出し加工により金属板に生じたひずみによって表基材10が反ることを回避することができる。
【0019】
本体部100からのフランジ部110の延出幅t1は、2mm以上かつ5mm以下とすることが好ましい。延出幅t1を2mm以上とすることで、フランジ部110に十分な強度を持たせることができ、表基材10の反りをより確実に防止することができる。延出幅t1を5mm以下とすることで、延出幅t1を大きくすることによるフランジ部110の強度低下を回避できるとともに、金属屋根材1の意匠性を良好に保つことができる。
【0020】
図2に特に表れているように、フランジ部110は、本体部100の下端から本体部100の外方に向けて延びる金属板111が裏基材11を抱え込むように表基材10の裏側に折り返されることで形成されている。すなわち、裏基材11は、フランジ部110の側端114よりも内側に位置されている。
【0021】
フランジ部110の折返し部分には、屋根下地に接する裏端112が設けられている。フランジ部110に設けられた裏端112と裏基材11の裏面11aとの間の距離t2は、1mm以上かつ4mm以下とされている。裏端112と裏面11aとの間の距離t2が1mm以上とされることで、毛細管現象により裏端112と裏面11aと間に水分が浸入することを回避することができる。また、裏端112と裏面11aとの間の距離t2が4mm以下とされることで、フランジ部110の強度が低下することを回避することができる。また、裏端112と裏面11aとの間の距離t2が4mm以下とされることで、後述するようにフランジ部110が他の金属屋根材1のフランジ部110と突き合わされた後に、フランジ部110の間に溜まる水分が多くなることを回避でき、腐食の恐れをより確実に低減できる。
【0022】
表基材10を構成する金属板の外縁113は、フランジ部110に含まれる。外縁113は、フランジ部110の側端114よりも内側に位置されている。外縁113には塗装やめっきが施されていないことが多いが、外縁113が側端114よりも内側に位置されていることで、雨水や海塩粒子等の外部からの腐食因子に外縁113が直接曝されることを回避できる。
【0023】
フランジ部110の折返し部分の形状としては、図2に示すように一度折り返すだけの形状であってもよいし、図4の(a)及び(b)のように折り返した後にさらに折り曲げを繰り返してもよい。また、フランジ部110の折り返しは、図2並びに図4の(a)及び(b)のように90°曲げによって行ってもよいし、図4の(c)及び(d)のように一定の曲率を有する180°曲げによって行ってもよい。フランジ部110は、必要に応じて曲げ加工する前に任意の形状に一部を切断してもよい。
【0024】
フランジ部110の折返しを90°曲げ及び180°曲げのいずれによって行う場合でも、フランジ部110における金属板の屈曲部の曲率半径は0.5mm以上とされていることが好ましい。曲率半径を0.5mm以上とすることで、曲げ加工により金属板の塗膜及びめっき層にクラックが発生し、塗膜及びめっき層の剥離及び金属板の腐食が発生することを回避することができる。」

(ウ)試作
「【0036】
次に、実施例を挙げる。本発明者は、以下の条件にて金属屋根材1を供試材として試作した。
【0037】
表基材10の素材は、0.20?0.8mmの塗装溶融Zn-55%Alめっき鋼板、塗装溶融Zn-6%Al-3%Mgめっき鋼板又は塗装溶融Alめっき鋼板を使用した。
裏基材11のとしては、0.2mmガラス繊維紙、0.2mmAl蒸着紙、0.2mmPE樹脂フィルム、0.1mmAl箔又は0.27mm塗装溶融Znめっき鋼板を使用した。
芯材12としては、2液混合型の発泡樹脂を使用した。ポリオール成分とイソシアネート、フェノールもしくはヌレート成分の混合比率は重量比で1:1とした。
【0038】
表基材10を所定の屋根材厚みと形状となるように加工した後に、本体部100の開口を塞ぐように表基材10の裏側に裏基材11を配置し、市販の高圧注入機により表基材10の本体部100と裏基材11との間の空隙に発泡樹脂を注入した。樹脂発泡は、温水循環により70℃に温度調整した金型内で2分保持した後、金型から屋根材を取出し、室温20℃の条件下で5分間静置し、樹脂の発泡を完了させた。
【0039】
樹脂の発泡を完了させた後に、フランジ部110の幅が5mmとなるように、本体部100の下端から本体部100の外方に向けて延びる金属板111を切断し、ベンダーにより金属板111を所定の形状に曲げ加工した。最終的な金属屋根材1の寸法は、414mm×910mmとした。また、最終的な屋根材の厚みは3mm?8mmの範囲とした。」

イ 引用文献2に記載された発明
上記アより、引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「表基材10、裏基材11及び芯材12を有する金属屋根材1の試作方法であり、
表基材10には、本体部100及びフランジ部110が設けられ、天板部101及び側壁部102を有する箱形の部分である本体部100は、金属板に絞り加工又は張り出し加工が施されることで形成され、フランジ部110は、本体部100から延出されて、全周に渡って形成されており、
表基材10の素材は、塗装溶融Alめっき鋼板を使用し、
表基材10を所定の屋根材厚みと形状となるように加工した後に、本体部100の開口を塞ぐように表基材10の裏側に裏基材11を配置し、表基材10の本体部100と裏基材11との間の空隙に発泡樹脂を注入し、
樹脂の発泡を完了させた後に、フランジ部110の幅が5mmとなるように、本体部100の下端から本体部100の外方に向けて延びる金属板111を切断し、ベンダーにより金属板111を所定の形状に曲げ加工し、最終的な金属屋根材1とした、
金属屋根材1の試作方法。」

(3)引用文献3
ア 記載事項
原査定に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)課題を解決するための手段
「【0011】
【課題を解決するための手段】本発明にかかる屋根葺用成形品は、矩形金属板の長手方向に平行な両側端部にハゼ部が形成されるとともに、該ハゼ部間の広幅底面に長手方向に平行な小波形状が形成され、かつ、長手方向へ上又は下向きのアーチ形状を有することを特徴とする。」

(イ)発明の実施の形態
「【0018】上記構成のアーチ曲げ機構付フォーミングロール成形機の作用を説明すると、図1において、テーブル7より取り入れた原板11は、矢示a方向に進み、メインモーターM1の駆動によるローラーチェーンにて図中矢示方向へ回転する上下のフォーミングロール3,3の隙間を通ることによりハゼ部15,15aが長手方向の両側端部に折り曲げ形成され、次の他のフォーミングロール3,3へと搬送され、さらに他のフォーミングロール3,3の隙間を通ることによりさらに折り曲げられて固定化しながら搬送される。このようにして複数組の上下フォーミングロール3,3の隙間を通ることにより、従来例同様図3に示すように、所定の形状に折り曲げられた予備的成形品12となる。
【0019】この予備的成形品12は、メインモーターM1の駆動によるローラーチェーンにて回転する縦サザナミロール2,2の隙間を通ることにより、図4に示すように、予備的成形品12の流れ方向に対して略平行な小波形状16が形成される。なお、小波形状16を必要としない場合は、サザナミ用ハンドル10を回すことにより、上下配置の縦サザナミロール2,2の隙間を広くし、図7及び図8に示すように、予備的成形品12の広幅底面13に小波形状16を形成しないこととすることも可能である。」

(ウ)図面
【図1】、【図3】、【図4】には、それぞれ次の図示がある。






イ 記載された技術的事項
上記アより、引用文献3には次の技術的事項が記載されていると認められる。

「矩形金属板である原板11を、
上下のフォーミングロール3,3の隙間を通すことにより、長手方向に平行な両側端部にハゼ部15,15aが折り曲げ形成された、予備的成形品12とし、
回転する縦サザナミロール2,2の隙間を通すことにより、ハゼ部間の広幅底面に長手方向に平行な小波形状16を形成する、
屋根葺用成形品の形成方法。」

(4)引用文献4
ア 記載事項
原査定に引用された引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)実施例
「【0011】
【実施例】以下,この発明に係る金属屋根板ロール成形機におけるリブ付け装置の一実施例につき、図1ないし図6を参照して詳細に説明する。
【0012】図1は、この実施例を適用したリブ付け装置の構成を概念的に示す全体斜視図であり、図2は、同上所定の長手方向横断面形状による各部の賦形成形用前段側成形ロール列,所定の短手方向縦断面凹凸状による各リブ部の賦形成形用後段側成形ロール段,および部材全体の撓曲度合いを矯正する曲げ矯正ロール段の各配置態様を示す端面説明図、図3は、同上後段側成形ロール段の回転駆動系を取り出して示す部分斜視図である。また、図4は、同上実施例によって賦形成形される金属屋根板部材の概要構成を示す全体斜視図であり、図5は、同上各リブ付け部の概念を示す斜視説明図、図6は、同上各リブ付け部の寸法関係を示す端面説明図である。
【0013】先にも述べたように、この種の円筒シェル構造屋根に適用されて施工時にアーチ状に湾曲される金属屋根板部材には、数多くの形態があり、この実施例においては、長尺の焼き付け塗装金属薄鋼板を用い、その長手方向に沿って形成される溝部に対し、長手方向に直交する短手方向に凹凸状の各リブ部を連接して賦形成形させるものであるから、説明の便宜上,こゝでは、図4に示されている部材形態(前記図7における形態Aに対応)について述べることゝする。
【0014】すなわち、この実施例で取扱うアーチ形成のための金属屋根板部材は、図4に示されているように、長尺の焼き付け塗装金属薄鋼板を用いることで、長手方向aに沿って中央部に形成される溝部1と、当該溝部1の左右両側端縁部から長手方向aに沿う上部側へ末広がり状に立上げて形成される左右1組の立上り斜壁部3と、当該各立上り斜壁部3の上部に長手方向aに沿う隣接相互間で適宜に結合接続可能に形成される継ぎ合わせ係合部5とを一連に有する横断面形状に賦形成形させると共に、その後、前記溝部1の溝面上に長手方向aに直交する短手方向bに向けて、施工時にアーチ形成のための襞部となる縦断面凹凸形状の各リブ部6を連接状態で賦形成形,この場合には、予備成形させたものである。」

(イ)図面
【図1】、【図4】には、それぞれ次の図示がある。





イ 記載された技術的事項
上記アより、引用文献4には次の技術的事項が記載されていると認められる。

「長尺の焼き付け塗装金属薄鋼板の、長手方向aに沿って中央部に溝部1を形成し、
溝部1の溝面上に縦断面凹凸形状の各リブ部6を連接状態で賦形成形する、
金属屋根板部材の形成方法。」


(5)引用文献5
ア 記載事項
原査定に引用された引用文献5には、次の図が示されている。

(ア)正面図
【正面図】


(イ)A-A’拡大端面図、及びD-D’部分拡大図


(ウ)B-B’拡大端面図、及びE-E’部分拡大図
【B-B’拡大端面図】



2 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1における「金属屋根板20」は、本願発明1における「金属板」に相当する。
引用発明1において、「プレス成型機」により「金属屋根板20」に付与される、「線状に流れ模様となる凹凸形状」は、本願発明1における「エンボス柄」が、「プレス加工機を用いて」付されるものであり、かつ「凹凸」を有するものであることを勘案すると、本願発明1における「エンボス柄」に相当する。
引用発明1において、「金属屋根板20に、プレス成型機により、線状に流れ模様となる凹凸形状を付与」することは、「金属屋根材1を作製」するうえでの一つの工程と言い得ることを勘案すると、本願発明1における、「プレス加工機を用いて前記中間体の前記本体部の天板にエンボス柄を付す工程」とは、「プレス加工機を用いてエンボス柄を付す工程」という点で共通する。
引用発明1において、「金属屋根板20の端部20Aを90度曲げ、箱状に加工」することは、本願発明1において、「金属板を素材とし箱形に形成」することに相当する。
引用発明1において、「箱状に加工した」状態の「金属屋根板20」は、裏面側に「裏面紙22」を貼り、該「裏面紙22」との間の空間に「芯材」となる発泡樹脂23を注入すると「屋根パネル」となることを勘案すると、「屋根パネル」である「金属屋根材1」の主体となる部分を備えた表側の部材と言うことができるから、本願発明1における「本体部を有する表基材」に相当する。
引用発明1において、「金属屋根板20の端部20Aを90度曲げ」ることで「箱状に加工した金属屋根板20」を得ることは、「金属屋根材1を作製」するうえでの一つの工程と言い得ることを勘案すると、本願発明1において、「金属板に成形加工を施して前記本体部と前記本体部の周囲に形成された平板状の周縁部とを有する中間体を得る工程」とは、「金属板に成形加工を施して前記本体部を有する部材を得る工程」という点で共通する。
引用発明1において、「箱状に加工した金属屋根板20」の「裏面側20a」に、「断面図で見て金属屋根板20の箱状に加工された裏面側を閉じるように」貼られる「裏面紙22」は、本願発明1における「前記本体部の開口を塞ぐように前記表基材の裏側に配置された裏基材」に相当する。
引用発明1において、「箱状に加工」した後の「表面側の金属屋根板20」と「裏面側20aの裏面紙22」による「空間」に、「芯材」として、「断面図で見て隙間無く注入」される「発泡ウレタン樹脂」である「発泡樹脂23」は、本願発明1において、「前記本体部と前記裏基材との間に充填された芯材」に相当する。
引用発明1において、「箱状に加工」された「金属屋根板20」、「裏面紙22」、及び「芯材」としての「発泡樹脂23」を、「屋根パネル」として作製される「金属屋根材1」が備える構成は、本願発明1において、「金属屋根材」が「表基材」と「裏基材」及び「芯材」とを備える構成に相当する。そして、引用発明1における「金属屋根材1」は、本願発明1における「金属屋根材」に相当する。
引用発明1における、「金属屋根材1を作製する方法」は、本願発明1における、「金属屋根材の製造方法」に相当する。

以上より、本願発明1と引用発明1とは、次の点で一致する。
「金属板を素材とし箱形に形成された本体部を有する表基材と、前記本体部の開口を塞ぐように前記表基材の裏側に配置された裏基材と、前記本体部と前記裏基材との間に充填された芯材とを備えた金属屋根材を製造するための金属屋根材の製造方法であって、
プレス加工機を用いてエンボス柄を付す工程と、
金属板に成形加工を施して前記本体部を有する部材を得る工程と、
を含む、
金属屋根材の製造方法。」

一方、本願発明1と引用発明1とは、以下の点で相違する。

<相違点1>
工程の順序、及び順序と関連する各工程の内容に関し、
本願発明1では、
・「成形加工」により「箱状に形成」された「前記本体部」を有する「中間体を得る工程」の後に、「プレス加工機」を用いて「エンボス柄を付す工程」を行うものであり、
・成形加工においては、「前記本体部と前記本体部の周囲に形成された平板状の周縁部とを有する中間体」を得、
・エンボス柄を付す工程においては、成形加工により「前記中間体を得た後」に、「前記中間体の前記本体部の天板にエンボス柄」を付す、
のに対し、
引用発明1では、
・金属屋根板20にプレス成型機により凹凸形状を付与した後に、次に、金属屋根板20を箱状に加工するものであり、
・箱状に加工した金属屋根板20は、金属屋根板20の端部20Aを90度曲げたものであり、「本体部の周囲に形成された平板状の周縁部」を有していないとともに、後続してエンボス加工がなされる「中間体」ではなく、
・プレス成型機による凹凸形状の付与は、箱状に加工される前の金属屋根板20に対して行われるものであり、「箱形に形成」された「本体部」と「前記本体部の周囲に形成された平板状の周縁部」とを有する「中間体」に対して、「前記中間体の前記本体部の天板に」なされるものではない、
という点。

<相違点2>
付されるエンボス柄に関し、
本願発明1では、「エンボス柄には、小柄領域と、前記小柄領域よりも凹凸の変化頻度が低い大柄領域とが含まれている」のに対し、
引用発明1では、付与される凹凸形状に「小柄領域と、前記小柄領域よりも凹凸の変化頻度が低い大柄領域とが含まれ」てはいない点。

(2)判断
ア 相違点1について
上記相違点1について判断する。
引用文献2には、上記1(2)イに認定した引用発明2が記載されている。
引用発明2は、「表基材10、裏基材11及び芯材12を有する金属屋根材1の試作方法」において、「金属板に絞り加工又は張り出し加工が施されることで形成」される、「天板部101及び側壁部102を有する箱形の部分である本体部100」と「フランジ部110」とが設けられた「表基材10」について、素材として「塗装溶融Alめっき鋼板を使用」し、「所定の屋根材厚みと形状となるように加工」した後に、発泡樹脂の注入等を経たうえで、「フランジ部110の幅が5mmとなるように、本体部100の下端から本体部100の外方に向けて延びる金属板111を切断し、ベンダーにより金属板111を所定の形状に曲げ加工」する構成を有している。
ここで、引用発明2において、「フランジ部110の幅が5mmとなるように、本体部100の下端から本体部100の外方に向けて延びる金属板111を切断し、ベンダーにより金属板111を所定の形状に曲げ加工」する前の「表基材10」は、後に「本体部100から延出されて、全周に渡って形成」された「フランジ部110」となる「本体部100の外方に向けて延びる金属板111」が、「曲げ加工」されない平板状のままで存在すると解されることを勘案し、また後続する「曲げ加工」等が行われることから中間体と言い得ることを勘案すると、上記相違点1に係る本願発明1の構成のうち、「前記本体部と前記本体部の周囲に形成された平板状の周縁部とを有する中間体」に相当する。また、引用発明2において、「金属板に絞り加工又は張り出し加工」を施すことで「表基材10を所定の屋根材厚みと形状となるように加工」することは、上記相違点1に係る本願発明1の構成のうち、「金属板に成形加工を施して前記本体部と前記本体部の周囲に形成された平板状の周縁部とを有する中間体を得る工程」に相当する。
しかしながら、引用発明2は、上記相違点1に係る本願発明1の構成のうち、「エンボス柄を付す工程」を有しておらず、また工程の順序として「中間体を得る工程」の後に「エンボス柄を付す工程」を行う構成を有していない。また、引用発明2は、上記相違点1に係る本願発明1の構成のうち、「エンボス柄」を「前記中間体の前記本体部の天板」に付す構成も有していない。
そのため、引用発明1に引用発明2を適用しても、上記相違点1に係る本願発明1の構成には至らないところ、引用発明1が、「箱状に加工する」前の「金属屋根板20」に「凹凸形状を付与」したうえで「箱状」への加工を行っている一方、引用発明2はそもそも「エンボス柄を付す工程」を有していないという、製造工程における不一致を勘案すると、引用発明1に引用発明2を適用する積極的な動機付けがあったということはできない。
また、引用発明1が、「箱状に加工する」前の「金属屋根板20」に「凹凸形状を付与」したうえで「箱状」への加工を行っている一方、引用発明2が「エンボス柄を付す工程」を有していないという、製造工程の不一致を勘案すると、引用発明1において、引用発明2における、「フランジ部110」となる「本体部100の外方に向けて延びる金属板111」が、「曲げ加工」されない状態で「本体部100から延出されて、全周に渡って」存在する「表基材10」を一度形成するという部分の構成を採用し、しかも、引用発明1における「箱状に加工」する工程と「凹凸形状を付与」する工程との順序を入れ変えるとともに、「凹凸形状を付与」する部分を加工前の「金属屋根板20」自体から「箱状に加工」された天板部相当の箇所とすることは、引用文献1及び引用文献2にも示唆されておらず、当業者にとっても動機付けがあったということができない。
この点に関し、引用文献3には上記1(3)イに認定した技術的事項が、引用文献4には上記1(4)イに認定した技術的事項が、それぞれ記載されている。
しかしながら、引用文献3に記載された技術的事項は、原板11にハゼ部15,15aを折り曲げ形成した予備的成形品12のハゼ部間の広幅底面に小波形状16を形成しているものの、ハゼ部15,15aは予備的整形品12の長手方向に平行な両側端部にしか形成されておらず、それゆえに回転する縦サザナミロール2,2の隙間を通して当該予備的成形品12に小波形状16を形成することが可能であると解される。そして、当該理解は、上記1(3)ア(ウ)に摘記した引用文献3の図1、図3及び図4の図示とも、整合する。また、引用文献4に記載された技術的事項は、焼き付け塗装金属薄鋼板の溝部1の溝面上に縦断面凹凸形状の各リブ部6を形成するものの、溝部1は長尺の焼き付け塗装金属薄鋼板の長手方向aに沿って中央部に設けられたものであり、箱状の底部に凹凸形状を付与するものではないと解される。そしてこの理解も、上記1(4)ア(イ)に摘記した引用文献4の図1、図4の図示とも、整合する。
そのため、たとえ引用文献3あるいは引用文献4に記載された技術的事項が周知技術であったとしても、当該周知技術は、引用発明1における「箱状に加工した金属屋根板20」、及び引用発明2における「箱形の部分である本体部100」が設けられた「表基材10」のいずれに対しても、適用できるものではない。そして、引用発明1、引用発明2、及び引用文献3ないし4に記載された技術的事項を併せて考慮しても、引用発明1に引用発明2を適用し、さらに箱状への加工とエンボス加工の順序、及びエンボス加工の対象を変更して、上記相違点1に係る本願発明1の構成とすることが、示唆されていたということはできない。
引用文献5には、上記1(5)に摘記した図が示されているが、加工の順序や加工の詳細については記載されておらず、引用文献5を併せて考慮したとしても、引用発明1に引用発明2を適用し、さらに箱状への加工とエンボス加工の順序、及びエンボス加工の対象を変更して、上記相違点1に係る本願発明1の構成とすることが、示唆されていたということはできない。
したがって、引用発明1において、上記相違点1に係る本願発明1の構成に至ることは、引用発明2、又は引用文献2に記載されたその他の事項、並びに引用文献3ないし5に記載された事項を考慮しても、当業者にとって容易に想到できたということはできない。
なお、引用発明2において、引用発明1、及び引用文献3ないし5に記載された事項を考慮したとしても、引用文献2にエンボス加工に関する記載がないこと、引用発明1における箱状への加工と凸凹の付与との順序が本願発明1とは逆であること、引用文献3ないし4に記載される事項も長尺状の物体を搬送しながら凸凹を付与する技術に関するから、引用発明1又は引用発明2において箱状とした後の部材にエンボス加工を行うという変更を示唆するものではないことを勘案すると、エンボス加工の順序及び対象に係る本願発明1の構成に至ることは、当業者にとって容易に発明できたということはできない。

イ まとめ
上記アのとおり、上記相違点1に係る本願発明1の構成は、引用発明1に基いて、引用文献2ないし5に記載された事項を考慮しても、本願出願前に当業者が容易に想到することができたとはいえない。
したがって、上記相違点2についての判断を要することなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2ないし5に記載された事項に基いて、容易に発明できたものであるとはいえない。

3 本願発明2ないし3について
本願発明2及び3は、いずれも本願発明1の構成を全て有したうえで、さらに付加的特定事項により本願発明1を限定したものである。そして、上記2で判断したとおり、本願発明1が、引用発明1及び引用文献2ないし5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明できたものではないから、本願発明2及び3も、引用発明1及び引用文献2ないし5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。


第5 原査定について
本願発明1ないし3は、前記第4で検討したとおり、当業者であっても、原査定において引用された引用文献1ないし5に記載された発明に基いて、容易に発明できたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。


第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。


 
審決日 2020-03-16 
出願番号 特願2017-193414(P2017-193414)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (E04D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 兼丸 弘道園田 かれん  
特許庁審判長 小林 俊久
特許庁審判官 西田 秀彦
有家 秀郎
発明の名称 金属屋根材の製造方法  
代理人 アクシス国際特許業務法人  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ