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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1360885
審判番号 不服2019-3588  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-03-15 
確定日 2020-03-13 
事件の表示 特願2014- 79373「液体吐出装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月12日出願公開、特開2015-199264〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年4月8日の出願であって、平成29年12月19日付けで拒絶の理由が通知され、平成30年2月21日付けで意見書が提出されるとともに、手続補正がなされ、同年4月17日付けで拒絶の理由が通知され、同年8月22日付けで意見書が提出されるとともに、手続補正がなされ、同年12月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成31年3月15日付けで拒絶査定に対する不服審判請求がなされると同時に手続補正がなされたものである


第2 平成31年3月15日付け手続補正書による補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成31年3月15日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲について、下記(1)に示す本件補正前の(すなわち、平成30年8月22日付けで提出された手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1乃至12を、下記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1乃至9へと補正するものである。(下線は審決で付した。以下同じ。)

(1)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
筐体と、
液体が貯留される液体貯留室、上記液体貯留室に液体を補充するための注入口、及び上記液体貯留室から液体を流出させる液体流出路が形成されたタンクと、
記録媒体を支持する給送カセットと、
上記給送カセットの上方に配置され、前後方向へ延びる搬送経路に沿って記録媒体を搬送する搬送機構と、
上記搬送経路より上下方向の上方で、且つ上記搬送経路に対面する位置において左右方向へ移動するキャリッジと、
上記キャリッジに搭載されており、上記液体流出路を通じて上記液体貯留室から流出された液体を上記搬送機構によって搬送された上記記録媒体に向かって吐出するノズルを有するヘッドと、を備えており、
上記タンク、上記搬送経路、及び上記キャリッジは、上記筐体内に配置されており、
上記タンクは、上記左右方向において上記搬送経路の外側に配置されて上記筐体に固定されており、
上記タンクは、一部が上記左右方向において上記キャリッジの移動領域の両端より内側にあり、他の部分が上記左右方向において上記キャリッジの移動領域の両端より外側になるように配置されており、
上記タンクの上記左右方向の寸法は、上記左右方向の上記搬送路の一端と上記移動領域の一端との間の距離よりも大きく、
上記タンクと上記給送カセットとは、上記上下方向から視て重ならず、上記左右方向から視て重なる液体吐出装置。
【請求項2】
上記筐体は、上記タンクの注入口へアクセス可能な開口が側壁に形成されており、
上記注入口は、当該注入口が上記筐体の外側且つ斜め上方を向いている請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
上記タンクの注入口は、上記筐体の開口の外側に位置する請求項1又は2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
上記タンクの注入口に対して着脱可能なキャップを更に備えた請求項1から3のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項5】
上記タンクは、上記前後方向において上記キャリッジより前方に配置されている請求項1から4のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項6】
上記筐体の開口は、上記前後方向の前側となる側壁に形成されたものである請求項1から5のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項7】
上記タンクは、複数の上記液体貯留室と、複数の上記液体貯留室それぞれに液体を注入するための複数の注入口と、を有するものであり、
上記複数の注入口は、上記左右方向に一列に並んで配置されている請求項6に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
上記筐体に、上記開口を開閉可能なカバーが設けられている請求項1から7のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項9】
上記カバーは、左右方向に沿って延出する回動軸の周りに回動するものであり、
上記回動軸は、上記カバーが上記開口を閉じているときに、上記カバーの上端よりも下端に近い位置に設けられている請求項8に記載の液体吐出装置。
【請求項10】
上記筐体の前側となる側壁であって、上記上下方向において上記タンクより上方に、外部からの入力を受け付ける入力部又は画像を表示する表示部の少なくとも一方を有する操作パネルが配置されている請求項1から9のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項11】
上記給送カセットは、上記筐体の前方へ引き出し可能である請求項1から10のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項12】
上記筐体は、上記給送カセットの上方に記録用紙を排出するための内部空間を有するものである請求項11に記載の液体吐出装置。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
筐体と、
液体が貯留される液体貯留室、上記液体貯留室に液体を補充するための注入口、及び上記液体貯留室から液体を流出させる液体流出路が形成されたタンクと、
上記タンクの上記注入口に対して着脱可能なキャップと、
記録媒体を支持する給送カセットと、
上記給送カセットの上方に配置され、前後方向へ延びる搬送経路に沿って記録媒体を搬送する搬送機構と、
上記搬送経路より上下方向の上方で、且つ上記搬送経路に対面する位置において左右方向へ移動するキャリッジと、
上記キャリッジに搭載されており、上記液体流出路を通じて上記液体貯留室から流出された液体を上記搬送機構によって搬送された上記記録媒体に向かって吐出するノズルを有するヘッドと、
上記筐体は、少なくとも上記タンクの上記注入口を上記筐体の外側で露出する開口を有しており、且つ上記筐体は、その開口を開閉可能なカバーと、を備えており、
上記搬送経路及び上記キャリッジは、上記筐体内に配置されており、
上記タンクは、上記左右方向において上記搬送経路の外側に配置されて容易に取り外すことができないように上記筐体内で固定されており、
上記タンクは、一部が上記左右方向において上記キャリッジの移動領域の両端より内側にあり、他の部分が上記左右方向において上記キャリッジの移動領域の両端より外側になるように配置されており、
上記タンクの上記左右方向の寸法は、上記左右方向の上記搬送路(審決注:「搬送経路」の誤記と認める。)の一端と上記移動領域の一端との間の距離よりも大きく、
上記タンクと上記給送カセットとは、上記上下方向から視て重ならず、上記左右方向から視て重なる液体吐出装置。
【請求項2】
上記開口は、上記筐体の側壁に形成されており、
上記注入口は、上記筐体の外側で斜め上方を向いている請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
上記タンクは、上記前後方向において上記キャリッジより前方に配置されている請求項1又は2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
上記筐体の開口は、上記前後方向の前側となる側壁に形成されたものである請求項1から3のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項5】
上記タンクは、複数の上記液体貯留室と、複数の上記液体貯留室それぞれに液体を注入するための複数の注入口と、を有するものであり、
上記複数の注入口は、上記左右方向に一列に並んで配置されている請求項4に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
上記カバーは、左右方向に沿って延出する回動軸の周りに回動するものであり、
上記回動軸は、上記カバーが上記開口を閉じているときに、上記カバーの上端よりも下端に近い位置に設けられている請求項1から5のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項7】
上記筐体の前側となる側壁であって、上記上下方向において上記タンクより上方に、外部からの入力を受け付ける入力部又は画像を表示する表示部の少なくとも一方を有する操作パネルが配置されている請求項1から6のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項8】
上記給紙カセットは、上記上下方向から視たときに、上記搬送経路と重なる位置に配置されており、
上記給送カセットは、上記筐体の前方へ引き出し可能である請求項1から7のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項9】
上記筐体は、上記給送カセットの上方に記録用紙を排出するための内部空間を有するものである請求項8に記載の液体吐出装置。」

2 補正の適否(新規事項の追加の有無について)について
平成30年8月22日付けで提出された手続補正書により、請求項1に係る発明は、「上記タンクの上記左右方向の寸法は、上記左右方向の上記搬送路の一端と上記移動領域の一端との間の距離よりも大きく」との事項(以下「補正事項」という。)を含むものとなった。
そして、上記補正事項は、インクタンク100の左右方向9の寸法は、搬送経路の左右方向の右端とキャリッジ23の移動領域の右端との間の距離よりも大きいこと、のみならず、インクタンク100の左右方向9の寸法は、搬送経路の左右方向の左端とキャリッジ23の移動領域の右端との間の距離よりも大きいことも包含するものと解する。

これに対し、本願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、これらを「当初明細書等」という。特に、【0066】及び【図3】)には、インクタンク100の左右方向9の寸法は、搬送経路の左右方向の右端とキャリッジ23の移動領域の右端との間の距離よりも大きいことは、記載されているものの、インクタンク100の左右方向9の寸法は、搬送経路の左右方向の左端とキャリッジ23の移動領域の右端との間の距離よりも大きいことまでは、記載も示唆もされていない。
そうすると、補正事項は、当初明細書等に記載されているとはいえない。
以上のことから、補正事項である「上記タンクの上記左右方向の寸法は、上記左右方向の上記搬送路の一端と上記移動領域の一端との間の距離よりも大きく」との事項は、当初明細書等には記載がなく、当初明細書等から自明でもないから、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
したがって、本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものとはいえず、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

以上のとおり、本件補正は特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 独立特許要件について
以上のように、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるが、仮に本件補正に含まれる上記補正事項が当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものとして補正されたとして、本件補正後の請求項1に係る発明(平成31年3月15日付け手続補正書の特許請求の範囲に記載された事項により特定される、上記「1 (2)本件補正後の特許請求の範囲」の【請求項1】乃至【請求項9】(以下、それぞれ「本願補正発明1」乃至「本願補正発明9」という。)における本願補正発明1が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(1)本願補正発明1
本願補正発明1は、上記「1 (2)本件補正後の特許請求の範囲」の【請求項1】に記載したとおりのものと認める。

(2)引用例
ア 引用例1
原査定の拒絶の理由において引用され、本願の出願日前の平成26年2月6日に頒布された刊行物である特開2014-24349号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は液体カートリッジ及び画像形成装置に関する。」
(イ)「【0012】
この画像形成装置は、シリアル型画像形成装置であり、装置本体100の上面側に開閉可能にカバー101が設けられ、このカバー101を開くことで内部の機構部にアクセスすることができる。また、装置本体100の前面側には給紙トレイ102と排紙トレイ103を備えている。
【0013】
さらに、装置本体100の右側前面には開閉可能なカバー104が設けられ、カバー104を開くことで、装置本体100のカートリッジホルダ61に対して本発明に係る液体カートリッジであるインクカートリッジ62の着脱を行うことができる。」
(ウ)「【0017】
また、キャリッジ4には、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色の液滴を吐出する画像形成手段としての液体吐出ヘッドからなる記録ヘッド11a、11b(区別しないときは、「記録ヘッド11」という。以下、同様)を複数のノズルからなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配列し、滴吐出方向を下方に向けて装着している。
【0018】
記録ヘッド11はそれぞれ2列のノズル列を有し、4つのノズル列にそれぞれY、M、C、Kの各色の液滴を吐出するように割り当てている。
【0019】
記録ヘッド11a、11bにはこの記録ヘッド11にインクを供給するヘッドタンク12a、12bが一体的に設けられている。一方、装置本体側には、カートリッジホルダ61に液体カートリッジ(メインタンク、以下「インクカートリッジ」という。)62が交換可能に着脱され、インクカートリッジ62から送液ポンプユニット63によって供給チューブ64を介してヘッドタンク12にインク(液体)を供給する。

【0021】
一方、キャリッジ4の下方側には、用紙10を副走査方向に搬送する搬送手段としての搬送ベルト21を配置している。この搬送ベルト21は、無端状ベルトであり、搬送ローラ22とテンションローラ23との間に掛け回されて、副走査モータ31によってタイミングベルト32及びタイミングプーリ33を介して搬送ローラ22が回転駆動されることによって副走査方向に周回移動される。」
(エ)「【0024】
このように構成したこの画像形成装置においては、給紙された用紙を搬送ベルト21で間歇的に搬送し、キャリッジ4を主走査方向に移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド11を駆動することにより、停止している用紙に液滴を吐出して1行分を記録し、用紙を所定量搬送後、次の行の記録を行なう動作を繰り返して用紙上に画像を形成し、画像形成後用紙を排紙する。

【0027】
インクカートリッジ62は、記録ヘッド11のヘッドタンク12に供給する液体であるインクを収容する液体収容部材であるインク袋600と、インク袋600を内部に収納したケース部材であるカートリッジケース601とを有している。」
(オ)「【0050】 導出部材702は、平板状の本体部711のほぼ中央部(インク袋の辺方向)に、袋本体701内のインクを外部に導出する供給口部712が設けられている。また、本体部711には、供給口部712に隣り合って、袋本体701にインクを充填するときに使用する充填口部720が設けられている。」
(カ)「【0057】
このように、本実施形態のインクカートリッジ62においては、インク袋600をケースベース611に容易に位置決めして取り付けることができ、また、インク袋600の倒れも防止できる。
【0058】
また、本実施形態におけるインク袋600の導出部材702は、供給口部712と穴部713との間、供給口部712と穴部714との本体部711と一体の補強リブ717が設けられている。なお、供給口部712と穴部714との間には充填口部720が介在している。」
(キ)「【0092】
そして、正しい種類のインクカートリッジ62が差し込まれることで、インクカートリッジ62内に収納されているインクと連通可能な流路を形成するためのカートリッジホルダ61側のニードルなどの供給部材(図示しない)が前記インク袋600の供給口部712に刺し込まれる。」
(ク)上記(ウ)及び図7より、インクが貯留されるインク袋600及びインク袋600からインクを流出させる供給口部712を備えるインクカートリッジ62が看取できる。
(ケ)上記(ウ)、図1、図2及び図4より、装置本体100内で、キャリッジ4は、上下方向で給紙トレイ102及び排紙トレイ103の上方に配置され、かつ、搬送ベルト21の直上に配置され、その移動方向は用紙10を副走査方向に搬送する搬送ベルト21と直交することが看取できる。
(コ)図3より、インクカートリッジ62は、キャリッジ4の移動方向において搬送ベルト21の外側に配置され、一部がキャリッジ4の移動方向においてキャリッジ4の移動領域の両端より内側にあり、他の部分がキャリッジ4の移動方向においてキャリッジ4の移動領域の両端より外側になるように配置されており、インクカートリッジ62のキャリッジ4の移動方向の寸法は、キャリッジ4の移動方向の搬送ベルト21の一端とキャリッジ4の移動領域の一端との間の距離よりも大きいことが看取できる。
(サ)図2及び図3より、インクカートリッジ62と給紙トレイ102とは、上下方向から視て重ならないことが看取できる。

そうすると、上記(ア)乃至(サ)の記載事項から、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「画像形成装置は、装置本体100の前面側に給紙トレイ102を備え、
装置本体100の右側前面には開閉可能なカバー104が設けられ、カバー104を開くことで、装置本体100のカートリッジホルダ61に対して液体カートリッジであるインクカートリッジ62の着脱を行うことができ、
インクカートリッジ62は、インクが貯留されるインク袋600及びインク袋600からインクを流出させる供給口部712を備え、
インク袋600には、袋本体701に、インクを充填するときに使用する充填口部720が設けられ、
装置本体100内で、キャリッジ4は、上下方向で給紙トレイ102の上方の排紙トレイ103の上方に配置され、かつ、搬送ベルト21の直上に配置され、その移動方向は用紙10を副走査方向に搬送する搬送ベルト21と直交し、
キャリッジ4は、ノズル列を有し、インクカートリッジ62からインクが供給され、用紙に液滴を吐出して記録する記録ヘッド11を装着し、
インクカートリッジ62は、キャリッジ4の移動方向において搬送ベルト21の外側に配置され、一部がキャリッジ4の移動方向においてキャリッジ4の移動領域の両端より内側にあり、他の部分がキャリッジ4の移動方向においてキャリッジ4の移動領域の両端より外側になるように配置されており、インクカートリッジ62のキャリッジ4の移動方向の寸法は、キャリッジ4の移動方向の搬送ベルト21の一端とキャリッジ4の移動領域の一端との間の距離よりも大きく、
インクカートリッジ62と給紙トレイ102とは、上下方向から視て重ならない、画像形成装置。」

(3)対比
そこで、本願補正発明1と引用発明1とを対比すると、
ア 後者の「装置本体100」、「インク」、「インク袋600」、「インク袋600からインクを流出させる供給口部712」、「用紙10」、「給紙トレイ102」、「搬送ベルト21」、「キャリッジ4」、「記録ヘッド11」、「カバー104」、及び「画像形成装置」は、それぞれ、前者の「筐体」、「液体」、「液体貯留室」、「液体貯留室から液体を流出させる液体流出路」、「記録媒体」、「給送カセット」、「搬送機構」、「キャリッジ」、「ヘッド」、「カバー」、及び「液体吐出装置」に相当する。
イ 前者の「記録媒体を支持する給送カセット」について、当初明細書等の【0017】に「給送トレイ20は、積層された複数の用紙12を支持可能である。」と、【0018】に「給送部15は、給送トレイ20に支持された用紙12を搬送経路65へ給送する。」と記載されているだけであるから、前者の「記録媒体を支持する給送カセット」とは、「記録媒体を収納している給送カセット」と解する。してみると、後者の「給紙トレイ102」か用紙10を収納していることは明らかであるから、前者の「給送カセット」と後者の「給紙トレイ102」とは、「記録媒体を支持する」との概念で共通する。
ウ 後者の「搬送ベルト21」は、用紙10を副操作方向に搬送するものであるから、「前後方向へ延びる搬送経路に沿って記録媒体を搬送する」といえる。
エ 後者の「キャリッジ4」は、装置本体100内で、搬送ベルト21の直上に配置され、その移動方向は用紙10を副走査方向(前後方向)に搬送する搬送ベルト21と直交するものであるから、「搬送経路より上下方向の上方で、且つ搬送経路に対面する位置において左右方向へ移動する」といえ、後者の「搬送ベルト21」及び「キャリッジ4」は、「筐体内に配置されて」いるといえる。
オ 後者の「記録ヘッド11」は、キャリッジ4に装着され、ノズル列を有し、インクカートリッジ62からインクが供給され、用紙に液滴を吐出して記録するものであって、インクカートリッジ62のインク袋600から供給口部712を介してインクが供給されるのであるから、前者の「ヘッド」と後者の「記録ヘッド11」とは、「キャリッジに搭載されており、液体流出路を通じて液体貯留室から流出された液体を搬送機構によって搬送された記録媒体に向かって吐出するノズルを有する」点で共通する。
カ 後者の「装置本体100」は、その右側前面には開閉可能なカバー104が設けられ、カバー104を開くことで、装置本体100のカートリッジホルダ61に対して液体カートリッジであるインクカートリッジ62の着脱を行うことができるものであるから、インクカートリッジ62を装置本体100の「外側で露出する開口を有して」いることは明らかであって、後者の「カバー104」が前記開口を開閉可能としていることも明らかであるから、前者の「カバー」と後者の「カバー104」とは、「開口を開閉可能なカバー」との概念で共通する。
キ 後者の「インクカートリッジ62」は、キャリッジ4の移動方向において搬送ベルト21の外側に配置され、
一部がキャリッジ4の移動方向においてキャリッジ4の移動領域の両端より内側にあり、他の部分がキャリッジ4の移動方向においてキャリッジ4の移動領域の両端より外側になるように配置されており、インクカートリッジ62のキャリッジ4の移動方向の寸法は、キャリッジ4の移動方向の搬送ベルト21の一端とキャリッジ4の移動領域の一端との間の距離よりも大きいから、前者の「タンク」と後者の「インクカートリッジ62」とは、「左右方向において搬送経路の外側に配置されて、一部が上記左右方向においてキャリッジの移動領域の両端より内側にあり、他の部分が上記左右方向において上記キャリッジの移動領域の両端より外側になるように配置されており、その上記左右方向の寸法は、上記左右方向の上記搬送経路の一端と上記移動領域の一端との間の距離よりも大きく、」との概念で共通する。
ク 後者の「インクカートリッジ62」及び「給紙トレイ102」とは、上下方向から視て重ならないものであるから、前者の「タンク」及び「給送カセット」と後者の「インクカートリッジ62」及び「給紙トレイ102」とは、「上下方向から視て重なら」ないとの概念で共通する。

したがって、両者は、
「筐体と、
液体が貯留される液体貯留室、及び上記液体貯留室から液体を流出させる液体流出路が形成されたタンクと、
記録媒体を支持する給送カセットと、
前後方向へ延びる搬送経路に沿って記録媒体を搬送する搬送機構と、
上記搬送経路より上下方向の上方で、且つ上記搬送経路に対面する位置において左右方向へ移動するキャリッジと、
上記キャリッジに搭載されており、上記液体流出路を通じて上記液体貯留室から流出された液体を上記搬送機構によって搬送された上記記録媒体に向かって吐出するノズルを有するヘッドと、
上記筐体は、少なくとも上記タンクを上記筐体の外側で露出する開口を有しており、且つ上記筐体は、その開口を開閉可能なカバーと、を備えており、
上記搬送経路及び上記キャリッジは、上記筐体内に配置されており、
上記タンクは、上記左右方向において上記搬送経路の外側に配置されており、
上記タンクは、一部が上記左右方向において上記キャリッジの移動領域の両端より内側にあり、他の部分が上記左右方向において上記キャリッジの移動領域の両端より外側になるように配置されており、
上記タンクの上記左右方向の寸法は、上記左右方向の上記搬送経路の一端と上記移動領域の一端との間の距離よりも大きく、
上記タンクと上記給送カセットとは、上記上下方向から視て重ならない液体吐出装置。」
の点で一致し、以下の点で、相違する。

[相違点1]
タンクが、本願補正発明1が、「液体貯留室に液体を補充するための注入口」が形成され、「注入口に対して着脱可能なキャップ」が備えられ、「注入口が、筐体の開口から外側に露出」するものであるのに対し、引用発明1は、インクカートリッジ62に備えられたインク袋600には、袋本体701に、インクを充填するときに使用する充填口部720が設けられるものである点。
[相違点2]
搬送機構が、本願補正発明1が、「給送カセットの上方に配置され」ているものであるのに対し、引用発明1は、給紙トレイ102との上下関係が明らかでない点。
[相違点3]
タンクが、本願補正発明1が、「容易に取り外すことができないように筐体内で固定されて」いるものであるのに対し、引用発明1は、装置本体100に対して着脱可能である点。
[相違点4]
タンクと上記給送カセットとが、本願補正発明1では、「左右方向から視て重なる」のに対し、引用発明1では、左右方向から視て重なるのか否か定かでない点。

(4)判断
上記各相違点について、以下、検討する。
ア [相違点1]について
液体吐出装置の分野において、タンクの液体貯留室に液体を補充するための注入口に対して着脱可能なキャップを設け、注入口を筐体に設けたカバーにより開閉可能となった開口から外部に露出させることは、周知の技術手段である(例えば、特開平11-78048号公報(【0019】、図2?4参照。)、特開平7-205450号公報(【0045】、図1、2、5?7参照。)以下「周知技術1」という。)。
そして、液体吐出装置に分野において、小型化・薄型化という課題は、自明の課題であって、引用発明1及び上記周知技術1においても内在するものである。
そうすると、引用発明1の装置本体100の右側前面のカバー104内のカートリッジホルダ61に、上記周知技術1を適用し、上記相違点1とすることは、当業者が容易になし得ることである。
してみると、引用発明1に、前記周知技術1を適用し、相違点1に係る本願補正発明1とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

イ [相違点2]について
引用発明1において、キャリッジ4は、上下方向で給紙トレイ102の上方の排紙トレイ103の上方に配置され、かつ、搬送ベルト21の直上に配置されており、記録された用紙は、搬送ベルト21上から排紙トレイ103へ搬送され、引用文献1の図1の排紙トレイ103の形状からして、搬送ベルト21の上面は、排紙トレイのトレイ面より上方であることは、技術常識から明らかであるから、搬送ベルト21の上面が、排紙トレイ103の下方に配置された給紙トレイ102より上方に配置されていると推認できる。
してみると、上記相違点2は、実質的な相違点ではないか、少なくとも、引用発明1において、相違点2のように構成することは、当業者が適宜なし得ることであって、格別なことではない。

ウ [相違点3]について
液体吐出装置の分野において、特開2014-54824号公報に示されているように(【0089】?【0092】参照。)、装置本体に対してねじでタンクケースを固着することは、周知の技術手段である(以下「周知技術2」という。)。が記載されている。
ここで、本願補正発明1の「容易に取り外すことができないように筐体内で固定されて」について、当初明細書等には、「インクタンク100は、複合機10から容易に取り外すことができないように、複合機10に固定されている。」と記載されているだけで、具体的な構成、及び作用・効果は、何ら記載されていない。
そうすると、筐体に、単に固定されていると解して検討すると、上記相違点3は、周知の技術手段と認められる。
そして、液体吐出装置に分野において、筐体内に部材を設置するに際し、安定的に設置することは、自明の課題であって、引用発明1及び上記周知技術2においても内在するものである。
そうすると、引用発明1の装置本体100の右側前面のカバー104内のカートリッジホルダ61に、上記周知技術2を適用し、上記相違点3とすることは、当業者が容易になし得ることである。
してみると、引用発明1に、前記周知技術2を適用し、相違点3に係る本願補正発明1とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

エ [相違点4]について
引用発明1において、インクカートリッジ62と給紙トレイ102とは、上下方向から視て重ならないものであって、引用文献1の図1及び図2を見ても、インクカートリッジ62を下方へ移動させるのを阻害するような構成は把握できないから、引用発明1において、タンクと給送カセットとを、左右方向から視て重なるように配置することは、当業者が適宜なし得ることであって、格別なことではない。

そして、本願補正発明1の発明特定事項によって奏される効果も、引用発明、上記周知技術1及び周知技術2から、当業者が予測しうる範囲内のものである。

請求人は、上記相違点3によりタンクはメンテナンス等の場合を除き、タンクが容易に取り外されることがないため、タンクへの悪戯等の可能性や不慮の事故の発生を低減できます、と主張する。
しかし、そもそも、請求人の上記主張は、明細書等の記載に基づく主張ではないし、タンクへの悪戯等の可能性や不慮の事故の発生を低減できる「容易に取り外すことができない」程度がどのようなものなのか、当初明細書等には記載も示唆もされていないから、上記請求人の主張は採用できない。
仮に、「容易に取り外すことができない」程度が当業者にとって技術常識であるというのであれば、当業者が適宜なし得る程度のものといえる。

よって、本願補正発明1は、引用発明、上記周知技術1及び周知技術2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際、独立して特許を受けることが出来ない。

(5)明確性要件について
本願補正発明1の「容易に取り外すことができないように筐体内で固定されて」について、「容易に取り外すことができない」程度は、当初明細書等の記載を参酌しても定かでない。
よって、本願補正発明1は、不明確であるから、特許法第36条第6項第2号の規定により特許出願の際、独立して特許を受けることが出来ない。

(6)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
また、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成30年8月22日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。
「筐体と、
液体が貯留される液体貯留室、上記液体貯留室に液体を補充するための注入口、及び上記液体貯留室から液体を流出させる液体流出路が形成されたタンクと、
記録媒体を支持する給送カセットと、
上記給送カセットの上方に配置され、前後方向へ延びる搬送経路に沿って記録媒体を搬送する搬送機構と、
上記搬送経路より上下方向の上方で、且つ上記搬送経路に対面する位置において左右方向へ移動するキャリッジと、
上記キャリッジに搭載されており、上記液体流出路を通じて上記液体貯留室から流出された液体を上記搬送機構によって搬送された上記記録媒体に向かって吐出するノズルを有するヘッドと、を備えており、
上記タンク、上記搬送経路、及び上記キャリッジは、上記筐体内に配置されており、
上記タンクは、上記左右方向において上記搬送経路の外側に配置されて上記筐体に固定されており、
上記タンクは、一部が上記左右方向において上記キャリッジの移動領域の両端より内側にあり、他の部分が上記左右方向において上記キャリッジの移動領域の両端より外側になるように配置されており、
上記タンクの上記左右方向の寸法は、上記左右方向の上記搬送路の一端と上記移動領域の一端との間の距離よりも大きく、
上記タンクと上記給送カセットとは、上記上下方向から視て重ならず、上記左右方向から視て重なる液体吐出装置。」(以下「本願発明」という。)

2 引用例
平成30年4月17日付けの拒絶の理由に引用された引用例、及び、その記載内容は上記「第2 3 (2)引用例」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、実質的に、本願補正発明1の「上記タンクの上記注入口に対して着脱可能なキャップと」、「上記筐体は、少なくとも上記タンクの上記注入口を上記筐体の外側で露出する開口を有しており、且つ上記筐体は、その開口を開閉可能なカバーと」、及び「容易に取り外すことができないように」との限定を省くものである。
そうすると、本願発明と引用発明とを対比すると、上記「第2 3 (3)対比」での検討を勘案すると、両者は、
「筐体と、
液体が貯留される液体貯留室、及び上記液体貯留室から液体を流出させる液体流出路が形成されたタンクと、
記録媒体を支持する給送カセットと、
上記給送カセットの上方に配置され、前後方向へ延びる搬送経路に沿って記録媒体を搬送する搬送機構と、
上記搬送経路より上下方向の上方で、且つ上記搬送経路に対面する位置において左右方向へ移動するキャリッジと、
上記キャリッジに搭載されており、上記液体流出路を通じて上記液体貯留室から流出された液体を上記搬送機構によって搬送された上記記録媒体に向かって吐出するノズルを有するヘッドと、を備えており、
上記タンク、上記搬送経路、及び上記キャリッジは、上記筐体内に配置されており、
上記タンクは、上記左右方向において上記搬送経路の外側に配置されて上記筐体に固定されており、
上記タンクは、一部が上記左右方向において上記キャリッジの移動領域の両端より内側にあり、他の部分が上記左右方向において上記キャリッジの移動領域の両端より外側になるように配置されており、
上記タンクの上記左右方向の寸法は、上記左右方向の上記搬送路の一端と上記移動領域の一端との間の距離よりも大きく、
上記タンクと上記給送カセットとは、上記上下方向から視て重ならず、上記左右方向から視て重なる液体吐出装置。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1’]
タンクが、本願発明では、「液体貯留室に液体を補充するための注入口」が形成されるものであるのに対し、引用発明1は、インクカートリッジ62に備えられたインク袋600の袋本体701には、インクを充填するときに使用する充填口部720が設けられるものである点。
[相違点2]
搬送機構が、本願発明では、「給送カセットの上方に配置され」ているものであるのに対し、引用発明1は、給紙トレイ102との上下関係が明らかでない点。
[相違点4]
タンクと上記給送カセットとが、本願発明では、「左右方向から視て重なる」のに対し、引用発明1では、左右方向から視て重なるのか否か定かでない点。
そして、上記「第2 3 (4)判断」における検討内容を踏まえれば、本願発明は、引用発明、及び上記周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明、及び上記周知技術1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-12-26 
結審通知日 2020-01-07 
審決日 2020-01-20 
出願番号 特願2014-79373(P2014-79373)
審決分類 P 1 8・ 55- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
P 1 8・ 575- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 昌伸  
特許庁審判長 吉村 尚
特許庁審判官 河内 悠
藤本 義仁
発明の名称 液体吐出装置  

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