• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1361035
審判番号 不服2019-543  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-01-16 
確定日 2020-03-19 
事件の表示 特願2018-36168「光学補償層付偏光板およびそれを用いた有機ELパネル」拒絶査定不服審判事件〔平成30年7月12日出願公開,特開2018-109778〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2018-36168号(以下「本件出願」という。)は,平成27年8月31日に出願された特願2015-171244号の一部を,平成30年3月1日に新たな特許出願としたものであるところ,その手続等の経緯は,以下のとおりである。
平成30年 6月 5日付け:拒絶理由通知書
平成30年 8月 7日付け:意見書
平成30年10月 9日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成31年 1月16日付け:審判請求書

2 本願発明
本件出願の請求項1に係る発明は,特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるとおりの,次のものである(以下「本願発明」という。)。
「 偏光子と光学異方性層と第1の光学補償層と第2の光学補償層とをこの順に備え,
該光学異方性層が,nx≧ny>nzの屈折率特性を示し,Re(550)が0nm?20nm,Rth(550)が10nmより大きく100nm以下であり,
該第1の光学補償層が,nx>ny≧nzの屈折率特性を示し,Re(450)<Re(550)の関係を満たし,
該第2の光学補償層が,nz>nx≧nyの屈折率特性を示し,
該第1の光学補償層と該第2の光学補償層との積層体のRe(550)が120nm?160nm,Rth(550)が-50nm?80nmであり,
該第1の光学補償層のRe(550)が80nm?200nmであり,
有機ELパネルに用いられる,
光学補償層付偏光板:
ここで,Re(450)およびRe(550)は,それぞれ,23℃における波長450nmおよび550nmの光で測定した面内位相差を表し,Rth(550)は,23℃における波長550nmの光で測定した厚み方向の位相差を表す。」

3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,概略,本願発明は,その出願前に頒布された刊行物である特開2014-167922号公報(以下「引用文献1」という。)に記載された発明に基づいて,その出願前に,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

第2 当合議体の判断
1 引用文献1の記載及び引用発明
(1) 引用文献1の記載
本件出願の出願前に頒布された刊行物である引用文献1(特開2014-167922号公報)には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定及び判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光子と第1の位相差層と第2の位相差層とを備え,
該第1の位相差層が,nx>ny=nzの屈折率特性を示し,Re(450)<Re(550)の関係を満たし,
該第2の位相差層が,nz>nx≧nyの屈折率特性を示し,
該偏光子の吸収軸と該第1の位相差層の遅相軸とのなす角度θが,35°≦θ≦55°の関係を満たし,
該第1の位相差層と該第2の位相差層との積層体のRe(550)が120nm?160nmで,Rth(550)が40nm?100nmであり,
該第1の位相差層の吸水率が3%以下であり,
有機ELパネルに用いられる,
偏光板:
ここで,Re(450)およびRe(550)は,それぞれ,23℃における波長450nmおよび550nmの光で測定した面内位相差を表し,Rth(550)は,23℃における波長550nmの光で測定した厚み方向の位相差を表す。
【請求項2】
前記偏光子と,前記第1の位相差層または前記第2の位相差層との間に光学異方性層を含まない,請求項1に記載の偏光板。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は,偏光板および有機ELパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年,薄型ディスプレイの普及と共に,有機ELパネルを搭載したディスプレイが提案されている。有機ELパネルは反射性の高い金属層を有するため,外光反射や背景の映り込み等の問題を生じやすい。そこで,円偏光板を視認側に設けることにより,これらの問題を防ぐことが知られている。…(省略)…フラットな波長分散特性を有する位相差フィルムを含む円偏光板を有機ELパネルに用いた場合,優れた反射色相が得られないという問題がある。
【0003】
上記のような問題を解決するために,位相差値が測定光の波長に応じて大きくなるいわゆる逆分散の波長依存性(逆分散波長特性)を有する位相差フィルムを含む円偏光板が提案されている(例えば,特許文献1)。このような円偏光板を有機ELパネルに用いた場合,正面方向における外光反射および反射色相は大きく改善され得る。しかし,パネルを斜め方向から見た場合に,正面方向の色相とは異なる色相が得られてしまい,この色相差が大きな問題となっている。また,経時的にパネルの表示特性が変化するという問題も確認されている。」

ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり,その主たる目的は,優れた視野角特性と表示特性の変化を抑制する偏光板を提供することにある。
…(省略)…
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば,上記の光学特性および吸水率を満足する第1の位相差層と第2の位相差層とを用いることにより,視野角特性を向上させ,かつ,表示特性の変化を抑制することができる。」

エ 「【発明を実施するための形態】
【0009】
以下,本発明の好ましい実施形態について説明するが,本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0010】
(用語および記号の定義)
本明細書における用語および記号の定義は下記の通りである。
(1)屈折率(nx,ny,nz)
「nx」は面内の屈折率が最大になる方向(すなわち,遅相軸方向)の屈折率であり,「ny」は面内で遅相軸と直交する方向(すなわち,進相軸方向)の屈折率であり,「nz」は厚み方向の屈折率である。
(2)面内位相差(Re)
「Re(550)」は,23℃における波長550nmの光で測定した面内位相差である。Re(550)は,層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき,式:Re=(nx-ny)×dによって求められる。なお,「Re(450)」は,23℃における波長450nmの光で測定した面内位相差である。
(3)厚み方向の位相差(Rth)
「Rth(550)」は,23℃における波長550nmの光で測定した厚み方向の位相差である。Rth(550)は,層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき,式:Rth=(nx-nz)×dによって求められる。なお,「Rth(450)」は,23℃における波長450nmの光で測定した厚み方向の位相差である。
(4)Nz係数
Nz係数は,Nz=Rth/Reによって求められる。
【0011】
A.偏光板
本発明の偏光板は,偏光子と第1の位相差層と第2の位相差層とを備え,偏光子の片側に第1の位相差層および第2の位相差層が積層されている。好ましくは,偏光板は,偏光子と,第1の位相差層または第2の位相差層との間には光学異方性層(例えば,液晶層や位相差フィルム)を含まない。以下,具体例について説明する。
【0012】
図1(a)は,本発明の好ましい実施形態による偏光板の概略断面図である。本実施形態の偏光板100は,偏光子10と,偏光子10の片側に配置された保護フィルム20と,偏光子10のもう片側に配置された第1の位相差層30および第2の位相差層40とを備える。
…(省略)…
【0013】
図1(b)は,本発明の別の好ましい実施形態による偏光板の概略断面図である。偏光板100’は,偏光子10と,偏光子10の片側に配置された第1の保護フィルム21と,偏光子10のもう片側に配置された第1の位相差層30および第2の位相差層40と,偏光子10と第1の位相差層30との間に配置された第2の保護フィルム22とを備える。好ましくは,第2の保護フィルム22は,光学的に等方性である。第2の保護フィルムが光学的に等方性であることにより,より優れた反射色相(特に,視野角特性)を達成することができる。
…(省略)…
【0015】
A-1.偏光子
上記偏光子としては,任意の適切な偏光子が採用され得る。
…(省略)…
【0018】
A-2.第1の位相差層
上記第1の位相差層は,上述のとおり,屈折率特性がnx>ny≧nzの関係を示す。第1の位相差層の面内位相差Re(550)は,好ましくは80nm?200nm,より好ましくは100nm?180nm,さらに好ましくは110nm?170nmである。
【0019】
第1の位相差層は,いわゆる逆分散の波長依存性を示す。具体的には,その面内位相差は,Re(450)<Re(550)の関係を満たす。このような関係を満たすことにより,優れた反射色相を達成することができる。Re(450)/Re(550)は,好ましくは0.8以上1未満であり,より好ましくは0.8以上0.95以下である。
…(省略)…
【0054】
A-3.第2の位相差層
上記第2の位相差層40は,上述のとおり,屈折率特性がnz>nx≧nyの関係を示す。第2の位相差層の厚み方向の位相差Rth(550)は,好ましくは-260nm?-10nm,より好ましくは-230nm?-15nm,さらに好ましくは-215nm?-20nmである。
【0055】
1つの実施形態においては,第2の位相差層は,その屈折率がnx=nyの関係を示す。
…(省略)…
【0058】
A-4.積層体
上記第1の位相差層と第2の位相差層との積層体の面内位相差Re(550)は,120nm?160nmであり,好ましくは130nm?150nmである。当該積層体の厚み方向の位相差Rth(550)は,40nm?100nmであり,好ましくは60nm?80nmである。積層体の光学特性をこのように設定することにより,視野角特性を向上させ,表示特性の変化を抑制することができる。なお,積層体は,第1の位相差層と第2の位相差層とを,任意の適切な粘着剤層または接着剤層を介して積層することにより得られる。
【0059】
A-5.保護フィルム
上記保護フィルムは,偏光子の保護層として使用できる任意の適切なフィルムで形成される。当該フィルムの主成分となる材料の具体例としては,トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂や,ポリエステル系,ポリビニルアルコール系,ポリカーボネート系,ポリアミド系,ポリイミド系,ポリエーテルスルホン系,ポリスルホン系,ポリスチレン系,ポリノルボルネン系,ポリオレフィン系,(メタ)アクリル系,アセテート系等の透明樹脂等が挙げられる。
…(省略)…
【0069】
偏光子10と第1の位相差層30との間に配置される第2の保護フィルム22は,上述のとおり,光学的に等方性であることが好ましい。本明細書において「光学的に等方性である」とは,面内位相差Re(550)が0nm?10nmであり,厚み方向の位相差Rth(550)が-10nm?+10nmであることをいう。また,上記光学異方性層は,例えば,面内位相差Re(550)が10nmを超え,および/または,厚み方向の位相差Rth(550)が-10nm未満もしくは10nmを超える層をいう。
…(省略)…
【0075】
C.有機ELパネル
本発明の有機ELパネルは,その視認側に上記偏光板を備える。偏光板は,各位相差層が有機ELパネル側となるように(偏光子が視認側となるように)積層されている。」

オ 「【実施例】
【0076】
…(省略)…
【0078】
[実施例1]
(ポリカーボネート樹脂フィルムの作製)
イソソルビド(ISB)37.5質量部,9,9-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BHEPF)91.5質量部,平均分子量400のポリエチレングリコール(PEG)8.4質量部,ジフェニルカーボネート(DPC)105.7質量部,および,触媒として炭酸セシウム(0.2質量%水溶液)0.594質量部をそれぞれ反応容器に投入し,窒素雰囲気下にて,反応の第1段目の工程として,反応容器の熱媒温度を150℃にし,必要に応じて攪拌しながら,原料を溶解させた(約15分)。
…(省略)…
【0081】
(第1の位相差層の作製)
得られたポリカーボネート樹脂フィルムを,長さ300mm,幅300mmに切り出し,ラボストレッチャーKARO IV(Bruckner社製)を用いて,温度136℃,倍率2倍で縦延伸を行い,位相差フィルムを得た。
得られた位相差フィルムのRe(550)は141nm,Rth(550)は141nmであり(nx:1.5969,ny:1.5942,nz:1.5942),nx>ny=nzの屈折率特性を示した。また,得られた位相差フィルムのRe(450)/Re(550)は0.89であった。さらに,環境試験による位相差変動は5nmであった。
【0082】
(第2の位相差層の作製)
下記化学式(I)(式中の数字65および35はモノマーユニットのモル%を示し,便宜的にブロックポリマー体で表している:重量平均分子量5000)で示される側鎖型液晶ポリマー20重量部,ネマチック液晶相を示す重合性液晶(BASF社製:商品名PaliocolorLC242)80重量部および光重合開始剤(チバスペシャリティーケミカルズ社製:商品名イルガキュア907)5重量部をシクロペンタノン200重量部に溶解して液晶塗工液を調製した。そして,基材フィルム(ノルボルネン系樹脂フィルム:日本ゼオン(株)製,商品名「ゼオネックス」)に当該塗工液をバーコーターにより塗工した後,80℃で4分間加熱乾燥することによって液晶を配向させた。この液晶層に紫外線を照射し,液晶層を硬化させることにより,基材上に第2の位相差層となる液晶固化層(厚み:0.58μm)を形成した。この層のRe(550)は0nm,Rth(550)は-71nmであり(nx:1.5326,ny:1.5326,nz:1.6550),nz>nx=nyの屈折率特性を示した。
【0083】
【化13】

【0084】
(積層体の作製)
上記位相差フィルム(第1の位相差層)に,アクリル系粘着剤を介して上記液晶固化層(第2の位相差層)を貼り合わせた後,上記基材フィルムを除去して,位相差フィルムに液晶固化層が転写された積層体を得た。
得られた積層体のRe(550)は141nmであり,Rth(550)は70nmであった。
【0085】
(偏光子の作製)
ポリビニルアルコールフィルムを,ヨウ素を含む水溶液中で染色した後,ホウ酸を含む水溶液中で速比の異なるロール間にて6倍に一軸延伸して偏光子を得た。
【0086】
(偏光板の作製)
上記偏光子の片側に,ポリビニルアルコール系接着剤を介してトリアセチルセルロースフィルム(厚み40μm,コニカミノルタ社製,商品名「KC4UYW」)を貼り合わせた。
偏光子のもう片側に,ポリビニルアルコール系接着剤を介して上記位相差フィルムを貼り合わせた。ここで,位相差フィルムの遅相軸が偏光子の吸収軸に対して反時計回りに45°となるように貼り合わせた。次いで,位相差フィルム側に,アクリル系粘着剤を介して上記液晶固化層を貼り合わせた後,上記基材フィルムを除去して偏光板を得た。
【0087】
(有機ELパネルの作製)
得られた偏光板の液晶固化層(第2の位相差層)側にアクリル系粘着剤で粘着剤層を形成し,寸法50mm×50mmに切り出した。
有機ELディスプレイ(LG社製,製品名「15EL9500」)から有機ELパネルを取り出し,この有機ELパネルに貼り付けられている偏光フィルムを剥がし取り,かわりに,切り出した偏光板を貼り合わせて有機ELパネルを得た。
…(省略)…
【0088】
[実施例2]
以下の位相差フィルム(第1の位相差層)および液晶固化層(第2の位相差層)を用いたこと以外は,実施例1と同様にして有機ELパネルを作製した。
この有機ELパネルの反射色相の測定結果を表1に示す。
【0089】
(第1の位相差層の作製)
延伸倍率を1.85倍としたこと以外は,実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。
得られた位相差フィルムのRe(550)は120nm,Rth(550)は120nmであり(nx:1.5967,ny:1.5944,nz:1.5944),nx>ny=nzの屈折率特性を示した。また,得られた位相差フィルムのRe(450)/Re(550)は0.89であった。さらに,環境試験による位相差変動は5nmであった。
【0090】
(第2の位相差層の作製)
厚み:0.66μmに調整したこと以外は,実施例1と同様にして液晶固化層を得た。
得られた液晶固化層のRe(550)は0nm,Rth(550)は-80nmであり(nx:1.5339,ny:1.5339,nz:1.6551),nz>nx=nyの屈折率特性を示した。
【0091】
(積層体の作製)
上記の位相差フィルムと液晶固化層とを用いたこと以外は,実施例1と同様にして積層体を得た。
得られた積層体のRe(550)は120nmであり,Rth(550)は40nmであった。
…(省略)…
【0239】
【表1】


…(省略)…
【0241】
各実施例においては,いずれも,視野角特性が0.07を下回り良好であり,正面および斜め方向のいずれの色相変化Δxyも0.07を下回り良好であった。第1の位相差層の吸水率,あるいは,第1の位相差層と第2の位相差層との積層体のRe(550)またはRth(550)が,本発明の範囲から外れる比較例においては,視野角特性,正面色相の変化Δxyおよび斜め色相の変化Δxyのうち少なくとも1つが不十分なものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0242】
本発明の偏光板は,有機ELデバイスに好適に用いられる。」

カ 図1




(2) 引用発明
引用文献1の【0078】?【0086】には,「実施例1」の「偏光板」が記載されている。また,【0087】では,この偏光板を用いて,有機ELパネルが作製されている。そして,引用文献1の【0088】では,「以下の位相差フィルム(第1の位相差層)および液晶固化層(第2の位相差層)を用いたこと以外は,実施例1と同様」として,「実施例2」の有機ELパネルが作製されている。ここで,「以下の位相差フィルム」及び「液晶固化層」は,それぞれ,【0089】及び【0090】に記載のとおりのものである。また,屈折率等の定義は,【0010】に記載のとおりである。
そうしてみると,引用文献1には,「実施例2」の「有機ELパネルに用いられる偏光板」として,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「 ポリカーボネート樹脂フィルムを倍率1.85倍で縦延伸を行い,位相差フィルムを得,ここで,以下の定義にしたがい測定された位相差フィルムのRe(550)は120nm,Rth(550)は120nmであり(nx:1.5967,ny:1.5944,nz:1.5944),nx>ny=nzの屈折率特性を示し,また,得られた位相差フィルムのRe(450)/Re(550)は0.89であり,
基材上に第2の位相差層となる液晶固化層(厚み:0.66μm)を形成し,ここで,以下の定義にしたがい測定された液晶固化層のRe(550)は0nm,Rth(550)は-80nmであり(nx:1.5339,ny:1.5339,nz:1.6551),nz>nx=nyの屈折率特性を示し,
偏光子の片側に,ポリビニルアルコール系接着剤を介してトリアセチルセルロースフィルムを貼り合わせ,偏光子のもう片側に,ポリビニルアルコール系接着剤を介して位相差フィルムを,位相差フィルムの遅相軸が偏光子の吸収軸に対して反時計回りに45°となるように貼り合わせ,次いで,位相差フィルム側に,アクリル系粘着剤を介して液晶固化層を貼り合わせた後,基材フィルムを除去して得た,
有機ELパネルに用いられる偏光板。
(1)屈折率(nx,ny,nz)の定義
「nx」は面内の屈折率が最大になる方向(すなわち,遅相軸方向)の屈折率であり,「ny」は面内で遅相軸と直交する方向(すなわち,進相軸方向)の屈折率であり,「nz」は厚み方向の屈折率である。
(2)面内位相差(Re)の定義
「Re(550)」は,23℃における波長550nmの光で測定した面内位相差である。Re(550)は,層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき,式:Re=(nx-ny)×dによって求められる。なお,「Re(450)」は,23℃における波長450nmの光で測定した面内位相差である。
(3)厚み方向の位相差(Rth)の定義
「Rth(550)」は,23℃における波長550nmの光で測定した厚み方向の位相差である。Rth(550)は,層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき,式:Rth=(nx-nz)×dによって求められる。なお,「Rth(450)」は,23℃における波長450nmの光で測定した厚み方向の位相差である。」

2 対比及び判断
(1) 対比
本願発明と引用発明を対比すると,以下のとおりである。
ア 光学補償層付偏光板
引用発明の「偏光板」は,「偏光子の片側に,ポリビニルアルコール系接着剤を介してトリアセチルセルロースフィルムを貼り合わせ,偏光子のもう片側に,ポリビニルアルコール系接着剤を介して位相差フィルムを,位相差フィルムの遅相軸が偏光子の吸収軸に対して反時計回りに45°となるように貼り合わせ,次いで,位相差フィルム側に,アクリル系粘着剤を介して液晶固化層を貼り合わせた後,基材フィルムを除去して得た」ものである。
ここで,引用発明の「偏光子」は,その文言が意味するとおりの光学部材であり,この点は,本願発明の「偏光子」においても同じである。また,上記の積層関係からみて,引用発明の「位相差フィルム」及び「液晶固化層」は,いずれも,偏光子を透過した光に対し「光学」上の作用を及ぼす「層」,すなわち「光学」「層」ということができる。加えて,これらは,「第1」,「第2」という序数詞を付して称することができる。さらに,上記の製造工程からみて,引用発明の「偏光板」は,「偏光子」と,「位相差フィルム」と,「液晶固化層」とをこの順に備えたものといえる。そして,引用発明の「偏光板」は,「光学」「層」といえる「位相差フィルム」及び「液晶固化層」が「付」いたものであるから,「光学」「層」「付」「偏光板」といえる。
そうしてみると,引用発明の「偏光子」は,本願発明の「偏光子」に相当する。また,引用発明の「位相差フィルム」,「液晶固化層」及び「偏光板」と,本願発明の「第1の光学補償層」,「第2の光学補償層」及び「光学補償層付偏光板」は,それぞれ,「第1の光学」「層」,「第2の光学」「層」及び「光学」「層付偏光板」の点で共通する。また,引用発明の「偏光板」と本願発明の「光学補償層付偏光板」は,「偏光子と」「第1の光学」「層と第2の光学」「層とをこの順に備え」という構成の点で共通する。

イ 測定条件
引用発明の「Re(450)」及び「Re(550)」,並びに,「Rth(550)」の定義は,以下のとおりである。
「(2)面内位相差(Re)の定義
「Re(550)」は,23℃における波長550nmの光で測定した面内位相差である。Re(550)は,層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき,式:Re=(nx-ny)×dによって求められる。なお,「Re(450)」は,23℃における波長450nmの光で測定した面内位相差である。
(3)厚み方向の位相差(Rth)の定義
「Rth(550)」は,23℃における波長550nmの光で測定した厚み方向の位相差である。Rth(550)は,層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき,式:Rth=(nx-nz)×dによって求められる。なお,「Rth(450)」は,23℃における波長450nmの光で測定した厚み方向の位相差である。」

これに対して,本願発明の「Re(450)」及び「Re(550)」,並びに,「Rth(550)」の定義は,次のとおりである。
「Re(450)およびRe(550)は,それぞれ,23℃における波長450nmおよび550nmの光で測定した面内位相差を表し,Rth(550)は,23℃における波長550nmの光で測定した厚み方向の位相差を表す。」

そうしてみると,引用発明の「Re(450)」及び「Re(550)」並びに「Rth(550)」と,本願発明の「Re(450)」及び「Re(550)」並びに「Rth(550)」は,同一の物理量である。

ウ 第1の光学補償層
引用発明の「位相差フィルム」は,「nx>ny=nzの屈折率特性を示し」,「Re(450)/Re(550)は0.89」,「Re(550)は120nm」である。
上記の光学特性からみて,引用発明の「位相差フィルム」は,本願発明の「第1の光学補償層」における,「nx>ny≧nzの屈折率特性を示し,Re(450)<Re(550)の関係を満たし」及び「Re(550)が80nm?200nmであり」という要件を満たす。

エ 第2の光学補償層
引用発明の「液晶固化層」は,「nz>nx=nyの屈折率特性を示し」という構成を具備する。
上記の光学特性からみて,引用発明の「液晶固化層」は,本願発明の「第2の光学補償層」における,「nz>nx≧nyの屈折率特性を示し」という要件を満たす。

オ 積層体のRe(550)及びRth(550)
引用発明の「位相差フィルムのRe(550)は120nm,Rth(550)は120nmであり」,「液晶固化層のRe(550)は0nm,Rth(550)は-80nmであ」る。また,上記アで述べた積層関係からみて,引用発明の「位相差フィルム」及び「液晶固化層」を併せたものは,「積層体」ということができる。
ここで,上記「積層体」のRe(550)及びRth(550)について検討すると,まず,「液晶固化層のRe(550)は0nm」であるから,「積層体」のRe(550)は,「位相差フィルム」のRe(550)と同じ120nmとなる。また,Rth(550)は,「位相差フィルム」及び「液晶固化層」のRth(550)を加算して,120nm+(-80)nm=40nmと計算される。
(当合議体注:引用文献1の【0091】の記載からも確認できる事項である。)
そうしてみると,引用発明の「位相差フィルム」及び「液晶固化層」を併せたものは,本願発明の「積層体」に相当するとともに,「該第1の光学補償層と該第2の光学補償層との積層体のRe(550)が120nm?160nm,Rth(550)が-50nm?80nmであり」という要件を満たす。

カ 有機ELパネル
引用発明の「偏光板」は,「有機ELパネルに用いられる」ものであるから,「有機ELパネルに用いられる」のに適した物といえる。
そうしてみると,引用発明の「偏光板」は,本願発明の「光学補償層付偏光板」における,「有機ELパネルに用いられる」という要件を満たす。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「 偏光子と第1の光学層と第2の光学層とをこの順に備え,
該第1の光学層が,nx>ny≧nzの屈折率特性を示し,Re(450)<Re(550)の関係を満たし,
該第2の光学層が,nz>nx≧nyの屈折率特性を示し,
該第1の光学層と該第2の光学層との積層体のRe(550)が120nm?160nm,Rth(550)が-50nm?80nmであり,
該第1の光学層のRe(550)が80nm?200nmであり,
有機ELパネルに用いられる,
光学層付偏光板:
ここで,Re(450)およびRe(550)は,それぞれ,23℃における波長450nmおよび550nmの光で測定した面内位相差を表し,Rth(550)は,23℃における波長550nmの光で測定した厚み方向の位相差を表す。」

イ 相違点
本願発明と引用発明は,次の点で相違する。
(相違点)
一致点とした「光学層付偏光板」が,本願発明は,光学「補償」層付偏光板であり,また,偏光子と「光学異方性層と」第1の光学「補償」層と第2の光学「補償」層とをこの順に備え,「該光学異方性層が,nx≧ny>nzの屈折率特性を示し,Re(550)が0nm?20nm,Rth(550)が10nmより大きく100nm以下であり」という構成を具備するのに対して,引用発明は,「光学異方性層」を具備せず,また,「偏光板」,「位相差フィルム」及び「液晶固化層」は,光学「補償」層付偏光板,第1の光学「補償」層及び第2の光学「補償」層と称されるものではない点。

(3) 判断
本願発明の「光学異方性層」,「第1の光学補償層」及び「第2の光学補償層」の技術的意義に関して,本件出願の明細書の【0021】及び【0047】には,それぞれ,「光学異方性層のRe(550)は0nm?20nmであり,Rth(550)は5nm?100nmであり。(当合議体注「であり。」は,「である。」又は「であり,」の誤記である。)面内位相差および厚み方向位相差がこのような範囲であれば,第1の光学補償層および第2の光学補償層の積層体について後述するような光学特性の最適化を行うことにより,得られる光学補償層付円偏光板の優れた反射防止特性を維持することができる。」及び「上記第1の光学補償層と第2の光学補償層との積層体の面内位相差Re(550)は,120nm?160nmであり,好ましくは130nm?150nmである。当該積層体の厚み方向の位相差Rth(550)は,-40nm?80nmであり,好ましくは-20nm?50nmである。積層体の光学特性をこのように設定することにより,上記のような光学異方性層を用いることによる光学補償層付偏光板の反射防止特性に対する悪影響を回避することができる。」と記載されている。
これら記載によると,本願発明の「光学異方性層」は,「光学補償層付偏光板の反射防止特性に対する悪影響」を及ぼすものであり,また,本願発明の「第1の光学補償層」及び「第2の光学補償層」は,「光学異方性層」による「悪影響」を「補償」するものと理解される。
しかしながら,仮に「光学異方性層」が「光学補償層付偏光板の反射防止特性に対する悪影響」を及ぼすものならば,これを用いなければ良い。また,「光学異方性層」を用いなければ,これを補償する「第1の光学補償層」及び「第2の光学補償層」も用いる必要がない。しかしながら,このような理解は,本願発明の,「偏光子と光学異方性層と第1の光学補償層と第2の光学補償層とをこの順に備え」た「光学補償層付偏光板」の技術的意義を減殺するものであり,不適切なものと考えられる。

そこで,改めて,本願発明の「光学補償層付偏光板」,「光学異方性層」,「第1の光学補償層」及び「第2の光学補償層」の技術的意義について検討すると,上記【0021】に記載されたとおり,本願発明の「光学補償層付偏光板」とは,有機ELパネルにおける外光反射の防止のために用いられる「円偏光板」のことと理解される。また,偏光板に関する技術常識を考慮すると,本件出願の明細書の【0006】に「偏光子の内側保護フィルムとしても機能し得る」と記載された本願発明の「光学異方性層」は,まさしく「偏光子の内側保護フィルム」である。そして,有機ELパネルにおける外光反射の防止のために用いられる「円偏光板」に関する技術常識を考慮すると,本願発明の「第1の光学補償層」及び「第2の光学補償層」は,それぞれ,「λ/4板」,「反射色相を改善するための層」,すなわち,引用発明でいう「位相差フィルム」及び「液晶固化層」のことに外ならない。
(当合議体注:本願発明の「第1の光学補償層」及び「第2の光学補償層」に求められる「補償」の程度は,「Re(550)が0nm?20nm,Rth(550)が10nmより大きく100nm以下」という「光学異方性層」に対し,「Re(550)が120nm?160nm,Rth(550)が-50nm?80nm」というのものであり,「補償」する方向ではあるとしても,その許容範囲は非常に大きいから,「補償」の技術的意義(程度)を含めて検討したとしても,引用発明のものと,物として相違しない。)

ここで,引用発明の「偏光板」は,「偏光子」と「位相差フィルム」の間に,「保護フィルム」を具備しないもの(図1(a)の態様のもの)であるが,引用文献1の【0013】には,「偏光子」と「位相差フィルム」の間に,「保護フィルム」を具備するもの(図1(b)の態様のもの)も開示されている。また,「偏光子」の「保護フィルム」としては,引用発明においても用いられている「トリアセチルセルロースフィルム」が一般的であり,かつ,「nx≧ny>nzの屈折率特性を示し,Re(550)が0nm?20nm,Rth(550)が10nmより大きく100nm以下であり」の要件を満たすものも周知である(例えば,特開2014-209219号公報(以下「周知例1」という。)の【0108】,国際公開第2013/137464号(以下「周知例2」という。)の[0136]の[表1]の実施例3の透明支持体層,特開2004-126355号公報(以下「周知例3」等。)の【0103】を参照。なお,これら周知例には,「nx≧ny>nzの屈折率特性」を満たすことの明記がないが,Re及びRthから計算すると,「nx≧ny>nzの屈折率特性」を満たす。)。
ところで,引用発明において,「偏光子」と「位相差フィルム」との間に(第2の)保護フィルムを設ける場合には,「光学的に等方性であることが好ましい。」,すなわち,「面内位相差Re(550)が0nm?10nmであり,厚み方向の位相差Rth(550)が-10nm?+10nmであること」が好ましいことが,引用文献1の【0069】に記載されている。また,この記載に基づいて選択された(第2の)保護フィルムは,本願発明の「Rth(550)が10nmより大きく100nm以下であり」という要件を満たさなくなる(Rth(550)の値が,10nmで接してはいるが,重複はしていない。)。
しかしながら,引用文献1の【請求項1】及び【請求項2】の記載からも明らかなとおり,引用文献1は,「偏光子」と「位相差フィルム」(第1の位相差層)の間に,光学異方性層(【0069】でいう,厚み方向の位相差Rth(550)が10nmを超える層)を含むことを排除していない。
(当合議体注:引用文献1の【0239】の【表1】に記載のとおり,引用発明(実施例2)の積層体のRe及びRthは,「120」及び「40」という程度のものであるから,例えば,Rthが20nm程度のトリアセチルセルロースフィルムを採用しても,大きな問題は生じないと考えられる。)

以上のとおりであるから,周知技術を心得た当業者が,引用発明において,相違点に係る本願発明の構成を採用することは,引用文献1の記載が示唆する範囲内の事項にすぎない。

(4) 発明の効果について
本願発明の効果に関して,本件出願の明細書の【0006】には,「光学補償層付偏光板において,偏光子の内側保護フィルムとしても機能し得る光学異方性層を設け,かつ,それぞれ所定の屈折率特性を有する第1の光学補償層および第2の光学補償層の積層体の面内位相差および厚み方向位相差を所定の範囲で最適化することにより,優れた反射色相および視野角特性を実現し,かつ,優れた機械的強度を有する光学補償層付偏光板を得ることができる。」と記載されている。
ここで,引用発明の「位相差フィルム」及び「液晶固化層」は,いずれも,偏光子の内側保護フィルムの光学異方性を補償するように設計されたものではなく,設計方法の観点からみると,引用発明は,本願発明の効果を奏さないもののようにも理解される。
しかしながら,本願発明は,設計方法の発明ではなく物の発明であり,また,本願発明の「第1の光学補償層」及び「第2の光学補償層」における「補償」の許容範囲は,「Re(550)が0nm?20nm,Rth(550)が10nmより大きく100nm以下」という「光学異方性層」に対し,「Re(550)が120nm?160nm,Rth(550)が-50nm?80nm」という程度のものにすぎない(本願発明は,全体のRe(550)及びRth(550)の範囲や,Nz係数の範囲を特定するものではない。)。
加えて,本願発明は,本件出願の特許請求の範囲の【請求項3】に規定されるような,機械的強度に関する発明特定事項を具備しない。
以上勘案すると,本願発明の効果は,顕著なものではない。

(5) 請求人の主張について
請求人は,審判請求書において,技術思想の相違を主張するが,前記(3)及び(4)で述べたとおりである。

(6) 小括
本願発明は,引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて,本件出願前の当業者が容易に発明をすることができたものである。

第3 むすび
以上のとおりであるから,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-01-15 
結審通知日 2020-01-21 
審決日 2020-02-03 
出願番号 特願2018-36168(P2018-36168)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉川 陽吾  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 樋口 信宏
井口 猶二
発明の名称 光学補償層付偏光板およびそれを用いた有機ELパネル  
代理人 籾井 孝文  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ