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審決分類 審判 一部無効 1項2号公然実施  B60N
審判 一部無効 1項1号公知  B60N
審判 一部無効 2項進歩性  B60N
審判 一部無効 1項3号刊行物記載  B60N
管理番号 1361057
審判番号 無効2018-800073  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-06-05 
確定日 2020-03-16 
事件の表示 上記当事者間の特許第5913755号発明「座席用表皮材、座席用表皮材の製造方法、及びエンボスロール」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5913755号の請求項1、2、4、8及び9に記載された発明についての特許を無効とする。 その余についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、これを6分し、その1を請求人の負担とし、その余を被請求人の負担とする。  
理由 第1 手続の経緯

特許第5913755号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2014年(平成26年)11月18日を国際出願日とする特許出願であって、平成28年4月8日に特許権の設定登録がされたものである。

そして、その後の主な経緯は次のとおりである。

平成30年 6月 5日:本件審判請求(請求項1、2、4、5、8及び9に対し)及び検証申出書の提出(審決注:当該検証申出書による検証の申し出については、後述の検証申出書2の提出によって、事実上、撤回されたと解される。)
同年 9月11日:答弁書の提出
同年10月 9日:請求人に対する審尋
同年11月 9日:審尋回答書及び検証申出書2の提出(請求人)
同年11月15日:被請求人に対する審尋
同年12月 4日:審尋回答書の提出(被請求人)
平成31年 1月17日:審理事項通知書
同年 2月26日:口頭審理陳述要領書及び証人尋問申出書の提出(請求人)
口頭審理陳述要領書の提出(被請求人)
同年 3月12日:第1回口頭審理及び第1回証拠調べ(検証)
令和 1年 5月14日:上申書の提出(被請求人)
同年 5月29日:審理事項通知書
同年 6月27日:口頭審理陳述要領書2の提出(請求人及び被請求人)
同年 7月11日:第2回口頭審理及び第2回証拠調べ(証人尋問)
同年 9月13日:審決の予告
同年11月18日:上申書の提出(被請求人)
同年11月28日:請求人に対する審尋
同年12月17日:回答書の提出(請求人)

第2 本件発明

本件特許の請求項1、2、4、5、8及び9に係る発明(以下、順に、「本件発明1」のようにいう。また、総称して、「本件発明」という。)は、各々、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1、2、4、5、8及び9に記載された次の事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
座席用表皮材の製造方法であって、
ベース面から突出する複数の型押部が設けられた加熱エンボスロールと、加熱フラットロールとの間に長尺材を通過させて、前記型押部により前記長尺材を押圧する工程を備え、
前記複数の型押部のうちの少なくとも一つの前記型押部は、前記加熱エンボスロールのベース面からの高さが部位によって異なるように形成されているとともに、前記ベース面から最も高い頂面の両側に形成された側面が互いに異なる形状に形成され、前記複数の型押部により、前記長尺材を押圧することを特徴とする座席用表皮材の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の座席用表皮材の製造方法において、
前記加熱エンボスロールと前記加熱フラットロールとの間を前記長尺材が通過するとき、前記加熱エンボスロールのベース面が前記長尺材と接触しないことを特徴とする座席用表皮材の製造方法。
【請求項4】
請求項1?3のうちいずれか一項に記載の座席用表皮材の製造方法において、
前記型押部のそれぞれには、その少なくとも一部に斜面が形成されていることを特徴とする座席用表皮材の製造方法。
【請求項5】
請求項1?3のうちいずれか一項に記載の座席用表皮材の製造方法において、
前記複数の型押部のそれぞれには、前記ベース面からの高さが変化する斜面が形成され、
前記複数の型押部は、前記ベース面上の仮想線に沿って並ぶ一群の型押部を備え、
前記一群の型押部において隣接する型押部の斜面は、前記仮想線に対してそれぞれ異なる向きに傾斜していることを特徴とする座席用表皮材の製造方法。
【請求項8】
座席用表皮材の製造に用いられるエンボスロールであって、
前記エンボスロールのベース面には、複数の型押部が形成され、
前記複数の型押部は、前記ベース面からの高さを有し、
前記複数の型押部の少なくとも一つの型押部は、前記ベース面からの高さが部位によって異なるように形成されているとともに、前記ベース面からの高さが最も高い頂面の両側に形成された側面が互いに異なる形状に形成されていることを特徴とするエンボスロール。
【請求項9】
複数の凹部が形成された表面を有する座席用表皮材であって、
前記複数の凹部のそれぞれは、底面を挟んで対向する一対の斜面を有し、
前記複数の凹部の少なくとも一つでは、前記一対の斜面の一方と他方とが異なる傾斜に形成されていることを特徴とする座席用表皮材。」

第3 請求人の主張の概要及び証拠方法

1 請求人の主張の概要

請求人は、「特許第5913755号の請求項1、2、4、5、8及び9に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として、おおむね次の無効理由を主張している。

(1)無効理由1-1(請求項9に対する新規性)
検甲第1号証のデザインマスターの布帛は「ラフェスタ ハイウェイスター」の座席用表皮材として用いられていた表皮材の見本であり、かつ、当該「ラフェスタ ハイウェイスター」が少なくとも2006年(平成18年)7月の時点において販売されていたこと、当該デザインマスターの布帛は本件発明9と同一であることから、本件発明9は、特許法第29条第1項第1号又は第2号に該当(公知・公用)する発明である。

(2)無効理由1-2:(請求項9に対する新規性)
検甲第4号証の「本件ラフェスタ」の車両は、特許出願前に日本国内で販売されており、本件発明9は、「本件ラフェスタ」の車両に設けられた座席用表皮材に係る発明と同一であるから、特許法第29条第1項第1号又は第2号に該当(公知・公用)する発明である。

(3)無効理由3:(請求項9に対する新規性)
本件発明9は、本件特許の出願前に頒布された検甲第2号証の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する発明である。

(4)無効理由4:(請求項1、2、4、5、8に対する進歩性)
本件発明1、4、8は、甲第27号証に記載された発明、並びに検甲第1号証のデザインマスターを見本として製造された座席用表皮材を装備した日産自動車株式会社の商品名「ラフェスタ ハイウェイスター」の車両に設けられた座席用表皮材に関する技術事項及び検甲第4号証の「本件ラフェスタ」の車両に設けられた座席用表皮材に関する技術事項の少なくとも一方又は検甲第2号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、本件発明2は、甲第27号証に記載された発明、並びに検甲第1号証のデザインマスターを見本として製造された座席用表皮材を装備した日産自動車株式会社の商品名「ラフェスタ ハイウェイスター」の車両に設けられた座席用表皮材に関する技術事項及び検甲第4号証の「本件ラフェスタ」の車両に設けられた座席用表皮材に関する技術事項の少なくとも一方又は検甲第2号証に記載された技術事項、加えて甲第28号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、 本件発明5は、甲第27号証に記載された発明及び検甲第2号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

2 証拠方法

(1) 書証(証拠の表記については、証拠説明書の記載を採用する場合がある。以下同じ。)
甲第1号証 検甲第1号証(デザインマスター)の写真・図面
甲第2号証 フォーマ量産移行会議録
甲第3号証 フォーマ社内承認見本
甲第4号証 フォーマP1回目量産移行会議録
甲第5号証 初期加工品チェックシート
甲第6号証 新規立ち上り品番の連絡
甲第7号証 標準作業表
甲第8号証 工程別加工設計[指示書](PS工程)
甲第9号証 工程別加工設計[指示書](RA工程)
甲第10号証 工程別加工設計[指示書](FS工程)
甲第11号証 「364 S-LOT COLOR SPEC」表紙、34-38頁
甲第12号証 フォーマ立ち上がりデリバリーと生産資料
甲第13号証 ファクシミリ文書「7月内示数」
甲第14号証 仕訳帳(仕分No.B69679)
甲第15号証 加工データ集計表
甲第16号証 ファクシミリ文書「’B30打ち切り対象部品リスト配布の件」
甲第17号証 日産自動車「ラフェスタ」カタログ、表紙、裏表紙、p40-45、p48-51
甲第18号証 日産自動車「ラフェスタ」ウェブカタログ http://history.nissan.co.jp/index.html
甲第19号証 公正証書(平成30年5月30日 作成者 公証人 上坂功)
甲第20号証 検甲第2号証(椅子張総合見本 VOL.6)の写真・図面
甲第21号証 Upholstery 椅子張総合見本 VOL.6のウェブカタログ、表紙、目次、p112、奥付 http://www.sangetsu.co.jp/pdfdownload/old/upholstery06/
甲第22号証 ニュースリリース http://www.sangetsu.co.jp/files/info/6918/6918.pdf
甲第23号証 商品ニュース http://online.ibnewsnet.com/news/file_n/sy2011/sy110517-01.html
甲第24号証 椅子生地総合見本帳「2016-2019UP」のウェブカタログ、表紙、目次、p112、奥付 http://www.sangetsu.co.jp/digital_book/chair.html
甲第25号証 検甲第3号証(UP8894)の写真
甲第26号証の1 サンプル請求依頼書
甲第26号証の2 サンプル送付状
甲第27号証 特開2007-276285号公報
甲第28号証 特開2013-59881号公報
甲第29号証 陳述書(平成31年2月26日 作成者 川村和徳)
甲第30号証 経編設計書
甲第31号証 検甲第1号証及び検甲第4号証の一部の写真
甲第32号証 PXフオマの編み組織図
甲第33号証 特表平4-505107号公報
甲第34号証 特開2014-70321号公報
甲第35号証 特開2014-184580号公報
甲第36号証 特開昭63-135236号公報
甲第37号証 特開昭56-99623号公報
(以下、順に「甲1」のようにいう。)

(2) 検証物及び証人
検甲第1号証 デザインマスター
検甲第2号証 株式会社サンゲツ発行の椅子張の見本帳「Upholstery 椅子張総合見本 VOL.6」
検甲第4号証 日産自動車株式会社製の「ラフェスタ ハイウェイスター」(車体番号:B30-117209)の車両

証人 川村和徳

第4 被請求人の主張の概要及び証拠方法

1 被請求人の主張の概要

被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として、請求人が主張する上記無効理由1-1ないし4はいずれも理由がない旨主張している。

2 証拠方法

乙第1号証 ピンソニック加工(http://www.maruya-tx.co.jp/processing/pinsonic.html)
乙第2号証 報告書(平成30年9月7日 作成者 北野勝)
乙第3号証 報告書(令和1年11月13日 作成者 澤田大輔)
(以下、順に「乙1」のようにいう。)

第5 当審の判断

事案に鑑み、無効理由1-2から検討する。
1 無効理由1-2について

(1) 検甲第4号証について
ア 検甲第4号証について、第1回証拠調べ調書によれば、その検証の結果、以下の事実が認められる。

(ア) 検甲第4号証の前方及び後方からの外観は、甲19の写真1及び4における外観とそれぞれ同じであること。(第1回証拠調べ調書の5.(3)ア)
(イ) 検甲第4号証のエンジンルームの正面視中央奥の車体フレームに「B30-117209」との文字の刻印があること。(同5.(3)イ)
(ウ) 検甲第4号証の正面視右奥に設けられたコ?ションプレートの2行目に「B30-117209」との文字が刻印されていること。(同5.(3)ウ)
(エ) 検甲第4号証の2列目座席の座面の座席用表皮材の表面には、複数の凹部が設けられ、該凹部が矩形状の底面を有して複数列に並べて設けられていること。(同5.(3)エ)
(オ) 検甲第4号証の2列目座席の座面の座席用表皮材の表面に形成された凹部の列間が隆起しており、そのため凹部の列を挾んで複数の筋状の凸部が互いに平行に設けられていること。(同5.(3)オ)
(カ) 検甲第4号証の2列目座席の座面の座席用表皮材の表面に形成された複数の筋状の凸部は、その幅が最大のものから順に狭くなり再び広くなって最大となるように繰り返し並んでいること。(同5.(3)カ)
(キ) 検甲第4号証の2列目座席の座面の座席用表皮材の表面は、最大の幅を持つ2つの凸部の間にこれらよりも幅の狭い9つの凸部があること。(同5.(3)キ)
(ク) 検甲第4号証の2列目座席の座面の座席用表皮材の表面は、上記凹部の矩形状の底面の長手方向に直交する方向において底面を挟んで対向する一対の斜面が形成され、一方の斜面が底面に対して大きな角度で立ち上がり、他方の斜面が緩やかな角度で立ち上がる傾斜面に形成されていること。(同5.(3)ク)
(ケ) 検甲第4号証の2列目座席の左側側部後方にチャックがあること。(同5.(3)チ)
(コ) 検甲第4号証の2列目座席の左側側部後方のチャックを開放しても座席用表皮材の一部を剥がせるが、完全には剥がせないこと。(同5.(3)ツ)
(サ) 検甲第4号証の2列目座席には、座席用表皮材に製造番号等の印字及び座席自体の製造番号等はなかったこと。(同5.(3)テ)
(シ) 検甲第4号証の左右前席及び2列目座席には、座席用表皮材が貼り替えた形跡はなかったこと。(同5.(3)ト)
(ス) 検甲第4号証の内装材全体である、ドアの内装材、左右前席の座席用表皮材、2列目座席、3列目座席の座席用表皮材間での違和感はなく、傷みもなかったこと。(同5.(3)ナ)
(セ) 検甲第4号証の左右前席の座面の座席用表皮材、2列目座席の座面の座席用表皮材間でのくたびれ感を比較すると、右前席(運転席)の座面の座席用表皮材が他の座席用表皮材に比べてへたっていること。(同5.(3)ニ)

イ また、甲19(公正証書)は、日産自動車株式会社の商品名「ラフェスタ ハイウェイスター」の車両について、その座席用表皮材の形状、構造を確認することを目的として作成されたものである。そして、当該車両は検甲第4号証と同じものであることが明らかであるといえるところ(この点、当事者間に争いはない。)、その甲19には、以下の事項が記載されている。

(ア) 「第2 本公証人が、目撃、確認した事実等(その1)
1 平成30年5月7日午後2時、セーレン株式会社事業管理部部長代行野形明広(以下、「説明者」という。)は本公証人に対し、セーレン株式会社研究開発センター敷地内のFMセンターにおいて、日産自動車株式会社の商品名「ラフェスタ ハイウェイスター」の車両(写真1)と、その車両の平成28年2月29日付け自動車検査証の写し(資料1)及び平成29年11月2日付け登録識別情報等通知書(資料2)を提示した。

・・・
3 本公証人は、車両のエンジンルームの正面視中央奥の車体フレームに、車台番号「B30-117209」が刻印されていること(写真2)、正面視右奥に設けられたコーションプレートに、車両の型式「DBA-B30」、及び車台番号「B30-117209」が刻印されていること(写真3)を確認した。」

(イ) 「7 本公証人は、「本件ラフェスタ」に設けられた本件の座席用表皮材の形状、構造等について以下の事実を確認した。
(1)本件の座席用表皮材の凹部の形状について
本件の座席用表皮材には、写真7、写真8及び図1に示すように、矩形状の底面を有する凹部が複数列に並べて設けられていることを確認した。

セーレン株式会社事業管理部知財担当小玉知代(以下、「実験者」という。)は、「本件ラフェスタ」の3列シートの2列目の座席の背もたれに張られた本件の座席用表皮材の一部、すなわち、写真7において、白色カラーラベルテープで示した3か所(それぞれ縦8cm×横9cmの大きさ)を、上から順に1?3の番号を付してハサミによって3枚切り出し、(写真9、写真10)、切り出した本件の座席用表皮材1?3を本公証人に手渡した。

本公証人、説明者、実験者等は、「本件ラフェスタ」が駐車されたFMセンターから、研究開発センター化学実験室5まで移動し、本公証人は、実験室内で、切り出した本件の座席用表皮材1?3を実験者に手渡した。
実験者は、切り出した3枚のうち、本件の座席用表皮材3をハサミによってさらに縦1.5cm×横9cmの大きさに切断し(写真11)、これを測定サンプルとした。

実験者は、上記測定サンプルを、両面テープによって、マイクロチューブスタンド(アズワン株式会社製)に貼り付けた後、凹部の長手方向に直交する方向の断面を撮影し、得られた画像をマイクロスコープ「キーエンス株式会社製マイクロスコープVHX-200」に取り込んだ。
実験者は、取り込んだ画像を4.0倍に拡大した後(写真12)、凹部の底面と斜面をそれぞれ赤線で示し、凹部の底面と斜面のなす角の頂点に、No.1?No.8の番号を付した(写真13)。

そのうえで、底面と斜面のなす角度(内角)を、上記マイクロスコープに内蔵される計測ツール「角度1」を用いて測定し、その測定値から傾斜角度(外角)を求めた。
すなわち、通常、傾斜を表す角度は90°以下で示されるが、得られた測定値はいずれも90°を超えているため、180°から測定値を差し引いた。その結果は、次の「角度計測表」に示す通りである。

角度計測表
底面と斜面のなす角度 傾斜角度
(内角) (外角)
No.1 159.28° 20.72°
No.2 132.18° 47.82°
No.3 156.38° 23.62°
No.4 139.41° 40.59°
No.5 158.38° 21.62°
No.6 128.85° 51.15°
No.7 160.93° 19.07°
No.8 123.95° 56.05°

本公証人は、上記角度計測表に示すように、凹部の底面を挟んで対向する一対の斜面のうち一方の斜面(No.2,4,6,8)は、他方の斜面(No.1,3,5,7)よりも傾斜角度(外角)が大きいことを確認した。
すなわち、本件の座席用表皮材の凹部の長手方向(図1においては上下方向)に直交する方向の断面形状は、写真12,13、及び図1,2に示すように、凹部の底面を挟んで対向する一対の斜面は、一方の斜面(斜面(急))が底面に対して大きな角度で立ち上がるのに対し、他方の斜面(斜面(緩))は緩やかな角度で形成されたものであり、本件の座席用表皮材の形状、構造は、以下の構成(ア)?(ウ)を有するものであることを確認した。
(ア)座席用表皮材は、複数の凹部が形成された表面を有する。
(イ)上記複数の凹部のそれぞれは、底面を挟んで対向する一対の斜面を有している。
(ウ)上記複数の凹部の少なくとも一つでは、上記一対の斜面の一方と他方とが異なる傾斜に形成されている。」

(ウ) 「(2)座席全体での本件の座席用表皮材の外観的特徴について
本公証人、説明者、実験者は、再度、写真1の「本件ラフェスタ」が駐車されているFMセンターに移動した。
本公証人は、写真7に示すように、座席の背もたれの表面に設けられた凹部は底面の長辺が正面視右上から左下に向かって整列し、かつ、底面の短辺が正面視左上から右下に向かって整列するように設けられていることを確認した。
また、上述のとおり、一座席の背もたれの表面に設けられた凹部は、凹部の長手方向に直交する方向において底面を挟んで対向する一対の傾斜の異なる斜面を有していることを確認した。
すなわち、座席の背もたれの表面は、正面視右上から左下に向かって、一対の傾斜の異なる斜面が複数列に並べて形成されており、緩やかな角度で形成された斜面は、その面積が相対的に広いため、視覚的に強調されて見えた。
8 次いで、説明者は、「本件ラフェスタ」に設けられた本件の座席用表皮材が販売当時から取り替えられていないことを明らかにするために、本公証人に対し、「ラフェスタ」の紙カタログ(資料5、資料6)、及びWEBカタログ(資料7)を提示した。

(1)紙カタログについて
本公証人は、説明者より、「ラフェスタ」の紙カタログは、「2006年7月頃」に発行されたものであるとの説明を受け、紙カタログの裏表紙(資料5)の下欄に「2006年7月現在」のものである旨が記載されていることを確認した。
本公証人は、説明者より、資料6のカタログ40-41頁に掲載された「ラフェスタ」の車内を側面から撮影した画像は、「ラフェスタ ハイウェイスター」の車内の画像であるとの説明を受け、40頁の下欄に「Photo:ハイウェイスター」との記載があることを確認した。
次いで、本公証人は、資料6に掲載された画像に写る座席用表皮材と、「本件ラフェスタ」の車両に設けられた本件の座席用表皮材(写真7、写真8)とを比較観察し、同様の外観的特徴を有していることを確認した。」

(2) 検甲第4号証発明
検甲第4号証の検証による認定事実(上記(1)ア)および検甲第4号証と同じものについての甲19の記載(同(1)イ)から、検甲第4号証の車両について、以下の発明(以下、「検甲第4号証発明」という。)が認定できる。

「日産自動車株式会社製の「ラフェスタ ハイウェイスター」(車体番号B30-117209)の車両の2列目座席の背もたれに張られた、複数の凹部が設けられた表面を有する座席用表皮材であって、
該表面には、上記凹部の矩形状の底面の長手方向に直交する方向において底面を挟んで対向する一対の斜面が形成され、一方の斜面が底面に対して大きな角度で立ち上がり、他方の斜面が緩やかな角度で立ち上がる傾斜面に形成されている座席用表皮材。」

(3) 無効理由1-2の判断
ア 本件発明9と検甲第4号証発明との対比
本件発明9と検甲第4号証発明とを対比する。
座席用表皮材に関する、検甲第4号証発明の「複数の凹部が設けられた表面」は、本件発明9の「複数の凹部が形成された表面」に相当する。
表面の凹部の形状に関する、検甲第4号証発明の「矩形状の底面の長手方向に直交する方向において底面を挟んで対向する一対の斜面が形成され、一方の斜面が底面に対して大きな角度で立ち上がり、他方の斜面が緩やかな角度で立ち上がる傾斜面に形成されている」は、本件発明9における「底面を挟んで対向する一対の斜面を有し、前記複数の凹部の少なくとも一つでは、前記一対の斜面の一方と他方とが異なる傾斜に形成されている」に相当し、当該複数の凹部において当該形状が存するのであるから、検甲第4号証発明においても、当該凹部の形状は、複数の凹部のそれぞれが有しているといえる。
してみれば、本件発明9と検甲第4号証発明との間に、相違点はみあたらない。

イ 検甲第4号証発明の公知・公用の時期について
検甲第4号証の車両(日産自動車株式会社製の「ラフェスタ ハイウェイスター」(車体番号B30-117209))についてのものであることが明らかな平成28年2月29日作成の自動車検査証(甲19の資料1)には、「初度登録年月」が「平成19年3月」、「登録年月日/交付年月日」が「平成23年4月28日」、備考欄に「[旧走行距離計表示値]57,600km(平成26年2月27日)」との記載があることから、本件特許の出願前の平成26年2月27日までに検甲第4号証の車両は、57,600km走行していた事実が認められる。
そうすると、当該車両は、本件特許の出願前の平成26年2月27日までに秘密を脱した状態で不特定人に知られた(公知となった)といえるし、あるいは、実施(使用)されたことで公用となったといえる。
そして、検甲第4号証についての検証の結果、認定できる事実(上記1(1)ア(ス)?(ソ))から、日産自動車株式会社製の「ラフェスタ ハイウェイスター」(車体番号B30-117209)の車両の2列目座席の背もたれに張られた座席用表皮材は、初年度登録時から取り替えられていないものといえるから、検甲第4号証発明も、本件出願前に、公知・公用となったといえる。

ウ まとめ
以上のことから、本件発明9は、特許法第29条第1項第1号又は第2号に規定する発明であると判断される。
したがって、無効理由1-2は、理由がある。

2 無効理由1-1について

(1) 証拠等について
ア 検甲第1号証について
検甲第1号証について、第1回証拠調べ調書によれば、その検証の結果、以下の事実が認められる。

(ア) 検甲第1号証のデザインマスターは、台紙に黒色の布帛がホッチキスで留められたものであること。(第1回証拠調べ調書の5.(2)ア)
(イ) 台紙には、「カラーコード COLOR CODE」欄に「FG88」、「車種 GRAIN CODE」欄に「364」、「部品名称 PARTH NAME」欄に「SEAT CLOTH」、「記事欄 REMARK」欄に「LOT;NZ1895-3」との記載がそれぞれあること。(同5.(2)イ)
(ウ) 台紙の上部には「日産自動車株式会社御中」と記載され、「受領印欄 RECEIVED STAMP」欄にはその上方に「日産自動車(株)」、下方に「カラーデザイン」、中央部分の横方向に「’04.12.02」とこれを挟んで縦方向に「受」「領」との記載がある丸印が押印されていること。(同5.(2)ウ)
(エ) 布帛は、表面に複数の凹部を有し、該凹部は矩形状の底面を有して複数列に並べて設けられていること。(同5.(2)エ)
(オ) 布帛の表面に形成された凹部の列間は隆起しており、そのため凹部の列を挾んで複数の筋状の凸部が互いに平行に設けられていること。(同5.(2)オ)
(カ) 布帛の表面に形成された複数の筋状の凸部は、その幅が最大のものから順に狭くなり再び広くなって最大のものが位置するように並んでいること。(同5.(2)カ)
(キ) 布帛の表面は、最大の幅を持つ2つの凸部の間にこれらよりも幅の狭い9つの凸部があること。(同5.(2)キ)
(ク) 布帛が、矩形状の底面の長手方向に直交する方向において底面を挟んで対向一対の斜面が形成され、一方の斜面が底面に対して大きな角度で立ち上がり、他方の斜面が緩やかな角度で立ち上がる傾斜面に形成されていること。(同5.(2)ク)
(ケ) 布帛が、見る角度によって、異なる立体感を持って視認されること。(同5.(2)ケ)
(コ) 布帛が、表地と裏地との間で連結糸で結合してなる立体編地であること。(同5.(2)コ)
(サ) 布帛は、凹部部分での厚みが1mm未満であり、凸部部分での厚みが約2?4mmであること。(同5.(2)サ)
(シ) 布帛の裏面全面に、短径:約1mm、長径:約1?2mmの楕円形状の穴が千鳥状に設けられ、穴の間隔は、その長径方向に約8mm、短径方向に約5mmであること。(同5.(2)シ)

イ 甲2について
甲2は、下記のとおりのものであって、その左上に「フォーマ量産移行会議録」、「H17年5月23日(月)」、「自工メーカー 日産」、「品番 フォーマ」、「車種 C-MPV 364 ラフェスタ(S-MID)」、「色番 FG88(ブラック)」、「流通 セーレン(フォーマ)-・・・-日産九州」、「決定事項 ・・・正規承認:No.NZ1895-3」との記載がある。


ウ 甲11について
甲11は、下記のとおりのものであって、その2?6頁目の左上に「型式 364SM」、「グレード Super-MID」、右上に「メーカー セーレン」「仕様表皮材NO. G FG88」、「記号 ○A(審決注:丸囲みAを意味する)」、「表皮仕様 スペースファブリック」との記載がある。




エ 甲17について
甲17は、下記のとおりのものであって、1頁目の右上に「LAFESTA」、左下に「日産自動車株式会社」、「このカタログの内容は2007年7月現在のもので」、2頁目の左下に「Photo:ハイウェイスター(2WD)」との記載がある。




オ 甲18について
甲18は、下記のとおりのものであって、「日産:ラフェスタインテリア」の頁には、「LAFESTA|スタイリング」、「Seat シート地 シート地:ダブルラッセル/トリコット・ステッチ付 内容色:ブラック<G> 設定グレード:ハイウェイスター」、右下には、「2004年12月?2007年5月まで掲載 NISSAN」との記載がある。


カ 検甲第1号証のデザインマスターの布帛(以下、単に「デザインマスターの布帛」という。)と検甲第4号証の2列目座席の背もたれに張られた座席用表皮材について、第1回証拠調べ調書によれば、その検証の結果、以下の事実が認められる。

(ア) 検甲第4号証の2列目座席背もたれ部分の座席用表皮材と検甲第1号証の布帛を比較観察し、検甲第4号証の2列目座席背もたれ部分の座席用表皮材の立体編地と検甲第1号証の布帛の立体編地が同じ構造であること。(第1回証拠調べ調書の5.(3)シ)
(イ) 検甲第4号証の2列目座席背もたれ部分の座席用表皮材の裏地には、裏面全面に短径:約1mm、長径:1?2mmの楕円形状の複数の穴が千鳥状に設けられ、穴の間隔は、その長径方向に約8mm、その短径方向に約5mmであること。(同5.(3)ス)
(ウ) 検甲第4号証の2列目座席背もたれ部分の座席用表皮材の裏面と、検甲第1号証の布帛の裏面は、穴の配置が同じであること。(同5.(3)セ)
(エ) 検甲第4号証の左右前席、2列目、3列目座席の座席形状及び座席用表皮材の配置等のデザインは、甲第11号証の図面に記載されている左右前席、2列目、3列目の座席形状及び座席用表皮材の配置等のデザインと同じであること。(同5.(3)ソ)
(オ) 検甲第4号証の左右前席、2列目、3列目座席の座席形状及び座席用表皮材の配置等のデザインは、甲17の紙カタログ及び甲18のウェブカタログにおける左右前席、2列目、3列目座席の座席形状及び座席用表皮材の配置等のデザインと同じであること。(同5.(3)タ)

(2) デザインマスターの布帛と検甲第4号証の2列目座席の背もたれに張られた座席用表皮材との関係について
デザインマスターの布帛の検証の結果、認定できる布帛の表面形状に関する事実(上記(1)ア(エ)ないし(ク))及び検甲第4号証についての検証の結果、認定できる検甲第4号証の座席用表皮材の表面形状に関する事実(上記1(1)ア(エ)ないし(ク))から、デザインマスターの布帛の表面形状と検甲第4号証の2列目座席の背もたれに張られた座席用表皮材の表面形状とは、同じ表面形状を有している。
検甲第1号証のデザインマスターと検甲第4号証の2列目座席の背もたれに張られた座席用表皮材についての検証の結果、認定できる事実(上記(1)カ(ア)から(オ))から、デザインマスターの布帛の中間層の立体編地及び裏面と検甲第4号証の2列目座席の背もたれに張られた座席用表皮材の中間層の立体編地及び裏面は同じ構造を有している。

(3) デザインマスターの布帛と平成19年3月時点において日産自動車株式会社から販売されていた「ラフェスタ ハイウェイスター」の座席用表皮材との関係
検甲第1号証の台紙には、「カラーコード COLOR CODE」欄に「FG88」、「車種 GRAIN CODE」欄に「364」、「部品名称 PARTS NAME」欄に「SEAT CLOTH」、「記事欄 REMARK」欄に「LOT;NZ1895-3」との記載があり、またその上部には「日産自動車株式会社御中」と記載され、「受領印欄 RECEIVED STAMP」欄には、上方に「日産自動車(株)」、下方に「カラーデザイン」、中央部分の横方向に「’04.12.02」とこれを挟んで縦方向に「受」「領」との記載がある丸印が押印されている。
また、甲2である「フォーマ量産移行会議録」には、「自工メーカー 日産」、「品番 フォーマ」、「車種 C-MPV 364 ラフェスタ(S-MID)」、「色番 FG88(ブラック)」、「流通 セーレン(フォーマ)-・・・・-日産九州」、「正規承認:No.NZ1895-3」との記載がある。
そして、証人川村和徳の検甲第1号証、甲2及び甲11に関する証言と、上記(2)での検討並びにその他の全ての証拠を総合して勘案すると、平成19年(2007年)3月時点で日産自動車株式会社から販売されていた「ラフェスタ ハイウェイスター」には、その座席に、検甲第1号証のデザインマスターの布帛を見本として製造された座席用表皮材が用いられていたことが認められる。

(4) ラフェスタ座席用表皮材発明
以上の検討から(上記(1)?(3))、平成19年(2007年)3月時点で日産自動車株式会社から販売されていた「ラフェスタ ハイウェイスター」に用いられていた座席用表皮材として、以下の発明(以下、「ラフェスタ座席用表皮材発明」という。)が認定できる。

「表面に複数の凹部を有する座席用表皮材であって、
該表面には、上記凹部の矩形状の底面の長手方向に直交する方向において底面を挟んで対向一対の斜面が形成され、
一方の斜面が底面に対して大きな角度で立ち上がり、他方の斜面が緩やかな角度で立ち上がる傾斜面に形成されている座席用表皮材。」

(5) 対比・判断
本件発明9とラフェスタ座席用表皮材発明とを対比する。
座席用表皮材に関する、ラフェスタ座席用表皮材発明の「表面に複数の凹部を有する座席用表皮材」は、本件発明9の「複数の凹部が形成された表面を有する座席用表皮材」に相当する。
表面の凹部の形状に関する、ラフェスタ座席用表皮材発明の「矩形状の底面の長手方向に直交する方向において底面を挟んで対向一対の斜面が形成され、一方の斜面が底面に対して大きな角度で立ち上がり、他方の斜面が緩やかな角度で立ち上がる傾斜面に形成されている」は、本件発明9における「底面を挟んで対向する一対の斜面を有し、前記複数の凹部の少なくとも一つでは、前記一対の斜面の一方と他方とが異なる傾斜に形成されている」に相当し、当該複数の凹部において当該形状が存するのであるから、ラフェスタ座席用表皮材発明においても、当該凹部の形状は、複数の凹部のそれぞれが有しているといえる。
してみれば、本件発明9とラフェスタ座席用表皮材発明との間に、相違点はみあたらない。

(6) ラフェスタ座席用表皮材発明の公知・公用の時期について
上記(4)のとおり、ラフェスタ座席用表皮材発明は、平成19年(2007年)3月時点で日産自動車株式会社から販売されていたラフェスタ ハイウェイスターの車両に用いられていたのであるから、ラフェスタ座席用表皮材発明は、本件特許の出願前に、公知となった、あるいは、当該「ラフェスタ ハイウェイスター」が販売又は使用されることで、車両に設けられている座席用表皮材であるラフェスタ座席用表皮材発明も、公用となったといえる。

(7) まとめ
以上のことから、本件発明9は、特許法第29条第1項第1号又は第2号に規定する発明と判断される。
したがって、無効理由1-1は、理由がある。

3 無効理由3について

(1) 検甲第2号証について
検甲第2号証について、第1回証拠調べ調書によれば、その検証の結果、以下の事実が認められる。

ア 検甲第2号証が、表紙及び背表紙に「Upholstery Fabrics & Synthetic Leather 椅子張総合見本 VOL.6」及び「SANGETSU」との記載があり(写真II-1)、その最終頁の右下に、「●発行日/2011年5月 ●発行所/株式会社サンゲツ」との記載があること。(第1回証拠調べ調書の5.(1)ア)
イ 右上に「INDEX」との記載がある頁に「VINYL LEATHER ビニールレザー 101?132」との記載があること。(同5.(1)イ)
ウ 右下に「112」との記載がある頁に、「MADE IN SPAIN UP2704?2707 標準価格 5,200円/m(税別) 表皮 ビニール(PVC) 裏地 ポリエステル100% 有効幅 135cm×30m乱」との記載があり、その下に品番「UP2704」?「UP2707」の見本が貼付されていること。(同5.(1)ウ)
エ 品番「UP2705」の見本が表面に複数の筋状の凹部を有すること。(同5.(1)エ)
オ 品番「UP2705」の見本の筋状の各凹部が、対向する一対の斜面を有し、複数の凹部においてこれら一対の斜面の一方と他方とが、傾斜が急な斜面と傾斜が緩やかな斜面に形成されていること。また、指示説明者富田は、品番「UP2705」の筋状の各凹部が「底面」を挟んで対向する一対の斜面を有すると説明したが、「底面」は確認できないこと。(同5.(1)オ)

(2) 検甲第2号証発明
検甲第2号証の検証による認定事実(上記(1))から、検甲第2号証の刊行物の112頁に添付された品番「UP2705」について、以下の発明(以下、「検甲第2号証発明」という。)が認定できる。

「表面に複数の筋状の凹部を有する座席用表皮材であって、
各凹部が、対向する一対の斜面を有し、複数の凹部においてこれら一対の斜面の一方と他方とが、傾斜が急な斜面と傾斜が緩やかな斜面に形成されている座席用表皮材。」

(3) 無効理由3の判断
本件発明9と検甲第2号証発明とを対比する。
検甲第2号証発明の「表面に複数の筋状の凹部を有する座席用表皮材」は、本件発明9における「複数の凹部が形成された表面を有する座席用表皮材」に相当する。
検甲第2号証発明の「各凹部が、対向する一対の斜面を有し、複数の凹部においてこれら一対の斜面の一方と他方とが、傾斜が急な斜面と傾斜が緩やかな斜面に形成されている」ことは、本件発明9における「前記複数の凹部の少なくとも一つでは、前記一対の斜面の一方と他方とが異なる傾斜に形成されている」ことに相当する。
そうすると、両者は、
「複数の凹部が形成された表面を有する座席用表皮材であって、
前記複数の凹部の少なくとも一つでは、前記一対の斜面の一方と他方とが異なる傾斜に形成されている座席用表皮材。」の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>

対向する一対の斜面を有する複数の凹部のそれぞれの形状に関し、本件発明9は、「底面を挟んで」と特定するのに対し、検甲第2号証発明は、底面を有していない点。

上記相違点について検討すると、上記相違点は形状として実質的な相違点である。
してみれば、本件発明9は、検甲第2号証の刊行物に記載された発明ということはできない。

以上のことから、検甲第2号証の刊行物が本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布されたものであるかどうかについて検討するまでもなく、無効理由3には理由がない。

4 無効理由4について

(1) 甲27の記載
本件特許の出願前に頒布されたことが明らかな刊行物である甲27には、以下の記載がある。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンボスロールとヒートロールからなるロータリーエンボス加工装置において、該エンボスロールと該ヒートロールを加熱し、両ロール間を通過押圧させることにより加圧し、積層シートに凹凸模様を付与する車輌の座席用表皮材の製造方法。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、凹凸模様を形成することが困難とされてきた、熱伝導率の低い空気層を持つ積層シート、及び深い凹凸を形成するエンボス加工を施し難い合成皮革に凹凸模様を深くはっきりと形成させることができ、生産効率の高い凹凸模様を有する車輌の座席用表皮材の製造方法及びこのような凹凸模様を有する車輌の座席用表皮材を提供することを目的とする。」

ウ 「【発明の効果】
【0016】
[1]の発明によれば、積層シートが加熱されたエンボスロールとヒートロールの間を押圧された状態で通過するため、積層シートに凹凸模様が深くはっきりと形成されて、意匠性に優れた凹凸模様を有する車輌の座席用表皮材の製造方法とすることができる。・・・」

エ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、織物、編物、不織布から選ばれる少なくとも一種の表地と、軟質ポリウレタンフォーム材、織物、編物、不織布から選ばれる少なくとも一種のクッション層となる基材を積層一体化して得られた積層シート、あるいは合成皮革からなる表地と織物、編物、不織布から選ばれる少なくとも一種の繊維質基材を積層一体化して得られた積層シートを、型押部が突設され、かつ100℃から250℃に温度設定された、所定の間隔で設置された一対のエンボスロールとヒートロールとの間を、加工スピード0.3m/分から10m/分で押圧された状態で通過させることにより、空気層を持ち、熱伝導率の低い積層シートにおいても、あるいは深い凹凸を形成し難い合成皮革を表皮とした積層シートにおいても、車輌の座席用表皮材の表面に凹凸模様が深くはっきりと形成されることを見いだし、本発明を提供するものである。
・・・
【0035】
本発明におけるエンボスロールの表面の型押部は分散状態に配置され、型押部の高さは3.0mm?6.0mmが好ましく、かつこれら型押部の型押面の合計面積はエンボスロールの押圧面の面積に対して1?60%に設定するのが好ましい。多数個の型押部が分散状態に配置されているので、得られる表皮材の凹凸模様の凹部がその表面において分散状態に形成されるものとなり、表皮材の意匠性が顕著に向上すると共に、表皮材の風合いもより向上するし、クッション性も良くなる。」

オ 「【実施例】
【0040】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
<実施例1>ポリエステル糸からなる厚さ1.2mmのダブルジャージ(表地)と、厚さ5mm、密度0.018g/cm^(3)、硬さ110Nの軟質ポリウレタンフォーム材(クッション層となる基材)とをフレームラミネート法により積層一体化して積層シートを得た。
【0042】
さらに前記積層シートをエンボスロールと、ヒートロールの間隔を0.15mmに設定した間に、高さは5mmの型押部が突設された前記エンボスロールと積層シートの表地とが向き合う態様で配置して、エンボスロールを200℃、ヒートロールを200℃に温度設定を行い、加工スピードを3m/分の条件でエンボス加工を行い、図3に示すような表面に凹凸模様を有する車輌の座席用表皮材を得た。得られた車輌の座席用表皮材において表地の厚さは1.2mm、軟質ポリウレタンフォーム材の厚さは4mmであった。また、車輌の座席用表皮材の凹凸模様の凸部と凹部の高低差は3.0mmであった。
【0043】
なお、エンボスロールの型押部の合計面積は、エンボスロール表面の面積に対して25%であった。」

カ 「



(2) 甲27に記載された発明
甲27の特許請求の範囲の請求項1、段落【0041】、【0042】、図1、3、4の記載から、甲27には、以下の発明(以下、「甲27発明A」という。)が認定できる。

「車輌の座席用表皮材の製造方法であって、
複数の型押部が突設されたエンボスロールとヒートロールからなるロータリーエンボス加工装置において、該エンボスロールと該ヒートロールを加熱し、両ロール間を通過押圧させることにより加圧し、積層シートに凹凸模様を付与する、車輌の座席用表皮材の製造方法。」

また、甲27発明Aの製造方法において利用されているエンボスロールとして、以下の発明(以下、「甲27発明B」という。)が認定できる。

「車輌の座席用表皮材の製造に用いられるエンボスロールであって、
エンボスロールには、複数の型押部が形成されている、エンボスロール。」

(3) 甲28に記載された技術事項
甲28の特許請求の範囲の請求項1、段落【0001】、【0012】、図2の記載から、甲28には、以下の技術事項(以下、「甲28の技術事項」という。)が記載されていると認める。

座席用シート生地として用いられ、その表面に凹凸模様(エンボス模様)を有する長尺材の製造方法において、加熱されたエンボスロールのベース面が長尺材表面に接触しないように成形することで、高温加熱されたエンボスロールとの熱接触による欠陥(表面当たり)を生じさせることなく、長尺材表面にエンボス模様を見栄え良く形成させることができ、意匠性に優れた長尺材を提供することができること。

(4) 本件発明1と甲27発明Aとの対比・判断
ア 対比
本件発明1と甲27発明Aとを対比する。
甲27発明Aの「複数の型押部が突設された」「加熱」される「エンボスロール」は、本件発明1における「ベース面から突出する複数の型押部が設けられた加熱エンボスロール」に相当する。
甲27発明Aの「積層シート」は、本件発明1における「長尺材」に相当する。
甲27発明Aの「加熱」された「ヒートロール」は、本件発明1における「加熱フラットロール」に相当し、甲27発明Aの「両ロール間を通過押圧させることにより加圧し、積層シートに凹凸模様を付与する」工程は、本件発明1における「加熱エンボスロールと、加熱フラットロールとの間に長尺材を通過させて、前記型押部により前記長尺材を押圧する工程」に相当する。
そうすると、両者は、次の点で一致する。

「座席用表皮材の製造方法であって、
ベース面から突出する複数の型押部が設けられた加熱エンボスロールと、加熱フラットロールとの間に長尺材を通過させて、前記型押部により前記長尺材を押圧する工程を備え、
前記複数の型押部により、前記長尺材を押圧する座席用表皮材の製造方法。」

そして、両者は、次の点で相違する。

<相違点1>

ベース面から突出する複数の型押部の形状に関して、本件発明1においては、「前記複数の型押部のうちの少なくとも一つの前記型押部は、前記加熱エンボスロールのベース面からの高さが部位によって異なるように形成されているとともに、前記ベース面から最も高い頂面の両側に形成された側面が互いに異なる形状に形成され」と特定するのに対し、甲27発明Aにおいては、凹凸を付与する形状ではあるものの、具体的な形状を特定していない点。

イ 相違点1についての判断

積層シートに対するエンボスロールを利用したエンボス成形において、エンボスロールの形状が転写されて成形品の形状となることは当業者の技術常識である(要すれば、甲27の図3及び図4、甲34の段落【0003】、甲35の段落【0030】、甲36の6頁右上欄第5から10行及び第1、2図、甲37の3頁左下欄第3?15行及び第4,5図参照のこと)。
そして、付与する凹凸模様の具体的な形状を特定していない甲27発明Aにおいて、その凹凸模様の形状を設計するにあたり、本件特許の出願前に公知・公用であった検甲第4号証の座席用表皮材に接した当業者が、甲27発明Aによって製造される座席用表皮材の表面形状として、検甲第4号証の座席用表皮材の表面形状を採用しようとすることは通常の創作能力の発揮といえる。
そうすると、上記技術常識をふまえ、甲27発明Aにおけるエンボスロールの型押部の形状を、エンボスロールのベース面からの高さが部位によって異なるように形成されているとともに、前記ベース面から最も高い頂面の両側に形成された側面が互いに異なる形状に形成されたものとすることもまた容易である。
すなわち、甲27発明Aにおいて、相違点1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たといえる。

ウ 被請求人の主張の検討
被請求人は、答弁書において次のように主張する。

「しかし、・・・ラフェスタ発明も単なる形態のみならず「ピンソニック加工」により形成されたものであることも含めて認定すべきであり、この点で請求人主張のラフェスタ発明の認定は誤りである。ラフェスタ発明がピンソニック加工により形成されたものであることを考慮すると、加熱したエンボスロールを用いる甲27発明にラフェスタ発明を適用する動機付けが存在しないことは明らかである。」
「しかし、・・・ピンソニック加工により形成されたラフェスタ発明を、全く異なる「エンボス加工」に関する甲27発明において試みることにつき、検甲1・甲1?19号証には何らの開示も示唆もないのであるから、そのような試みが当業者にとって容易とは到底いえない。」
「また、請求人は、ラフェスタ発明・・に記載の凹部を形成するための型押部の形状は、当該凹部を反転させた形状となるはずであり、相違点に係る本件発明1の構成を具備したものとなる旨主張する(審判請求書第33頁13?23行)。しかし、ラフェスタ発明は「ピンソニック加工」で模様を形成する技術であって「エンボス加工」で模様を形成するものではないから、「エンボス加工の型押部の形状」にまで結びつけるのは倫理の飛躍がある。」

そこで、上記主張について検討するに、被請求人のいうところのラフェスタ発明が、仮に、ピンソニック加工で製造されたものであったとしても、甲27発明Aの座席用表皮材の具体的な形状(デザイン)として、当該ラフェスタ発明の具体的な形状(デザイン)を採用できないとする理由はない。
よって、被請求人の主張は採用できない。

また、被請求人は、令和1年5月14日付け上申書及び令和1年11月18日付け上申書において、以下のように主張する。

「甲27発明において、その凹部の形状として「検甲1座席用表皮材」及び/又は「検甲4座席用表皮材」の凹部を有する表面形状を採用するとしても、同形状は、甲27発明の構成にて実現することができ(乙第3号証の報告書)、相違点に係る本件発明1の構成は不要である。この点で、相違点に係る本件発明の構成を採用する動機付けはない。」

上記主張について検討するに、甲27発明Aの「積層シート」は、甲27によればその態様として「織物、編物、不織布から選ばれる少なくとも一種の表地と、軟質ポリウレタンフォーム材、織物、編物、不織布から選ばれる少なくとも一種のクッション層となる基材を積層一体化して得られた積層シート」(上記(1)エ)が用いられ、また、実施例においては「ポリエステル糸からなる厚さ1.2mmのダブルジャージ(表地)と、厚さ5mm、密度0.018g/cm^(3)、硬さ110Nの軟質ポリウレタンフォーム材(クッション層となる基材)とをフレームラミネート法により積層一体化し」た「積層シート」が利用されているから、乙第3号証の報告書のとおり、Wラッセル編みによる立体編地に対して、型押部の形状が型押部のベース面から垂直に立ち上がっており、斜面はない形状のエンボス金型を使ってエンボス加工することで検甲第4号証発明の表皮材の形状(デザイン)と同じ形状が実現できたとしても、このことは直ちに、甲27発明Aの「積層シート」で実現できることを裏付けるものとはならない。
そして、甲27発明Aは、凹凸模様を深くはっきりと形成させることを課題としており(上記(1)イ)、上記積層シートに対するエンボス成形に係る技術常識を踏まえると、甲27のエンボス成形はエンボスロールの形状を転写することを前提としていると考えるのが自然であるから、甲27発明Aにおいて、目的とする形状をエンボスロールの形状と離れて実現するということは想定していないともいえる。
よって、請求人の上記主張は失当であって採用できない。

エ まとめ
本件発明1は、甲27発明A及び検甲第4号証発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5) 本件発明2について
本件発明2と甲27発明Aとを対比すると、上記(4)アに記載の点で一致し、上記相違点1に加えて、下記の点でも相違する。

<相違点2>
本件発明2は、「前記加熱エンボスロールと前記加熱フラットロールとの間を前記長尺材が通過するとき、前記加熱エンボスロールのベース面が前記長尺材と接触しないこと」を特定するのに対し、甲27発明Aは、この点を特定しない点。

以下、相違点について検討する。
相違点1については、上記(4)イにおいて検討したとおりである。
相違点2について
甲27発明Aと同じ座席用表皮材の製造方法に係る文献である甲28に記載の技術事項を知り得た当業者は、甲27発明Aにおいて、意匠性に優れたものを得ることができるように、「加熱エンボスロールと前記加熱フラットロールとの間を前記長尺材が通過するとき、前記加熱エンボスロールのベース面が前記長尺材と接触しない」ようにすることは、容易に想到し得たことである。
そのことによる効果を検討しても、格別なものがあるとはいえない。
よって、本件発明2は、甲27発明A、検甲第4号証発明及び甲28の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6) 本件発明4について
本件発明4と甲27発明Aとを対比すると、上記(4)アに記載の点で一致し、上記相違点1に加えて、下記の点でも相違する。

<相違点3>
ベース面から突出する複数の型押部の形状に関して、本件発明1においては、「前記型押部のそれぞれには、その少なくとも一部に斜面が形成されている」と特定するのに対し、甲27発明Aにおいては、そのような特定がない点。

以下、相違点について検討する。
相違点1については、上記(4)イにおいて検討したとおりである。
相違点3について
検甲第4号証の座席用表皮材における複数の凹部のそれぞれは、底面を挟んで対向する一対の斜面を有し、前記複数の凹部の少なくとも一つでは、前記一対の斜面の一方と他方とが異なる傾斜に形成されている、すなわち、それぞれの凹部には、その少なくとも一部に斜面が形成されている。
してみれば、甲27発明Aのベース面から突出する型押部の形状として、相違点3の構成を採用することは、検甲第4号証の座席用表皮材を知り得た当業者が容易に想到し得たことである。
そのことによる効果を検討しても、格別なものがあるとはいえない。
よって、本件発明4は、甲27発明A、検甲第4号証発明及び甲28の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(7) 本件発明5について
本件発明5と甲27発明Aとを対比すると、上記(4)アに記載の点で一致し、上記相違点1に加えて、下記の点でも相違する。

<相違点4>
ベース面から突出する複数の型押部の形状に関して、本件発明5においては、「複数の型押部のそれぞれには、前記ベース面からの高さが変化する斜面が形成され、前記複数の型押部は、前記ベース面上の仮想線に沿って並ぶ一群の型押部を備え、前記一群の型押部において隣接する型押部の斜面は、前記仮想線に対してそれぞれ異なる向きに傾斜していること」と特定するのに対し、甲27発明Aにおいては、その具体的な形状についての特定がない点。

以下、相違点について検討する。
相違点1については、上記(4)イにおいて検討したとおりである。
以下、相違点4について検討する。
相違点4に係る形状によって形成されることになる座席用表皮材の形状は、検甲第4号証の座席用表皮材の形状と異なるものであり、請求人の提示するいずれの文献にも、相違点4に係るエンボスロールの型押部の形状についての記載はなく、示唆もされていない。
してみれば、甲27発明Aのエンボスロールの具体的な形状を相違点4の形状とすることは、当業者においても想到容易とはいえない。
そして、当該相違点4のエンボスロールで製造することで、座席用表皮材が「見る角度によって、凹部の形状が異なるため、光の反射具合、光沢感が異なり、複雑な立体感を持って視認され」、「長尺材の表面全体に複雑な立体感が付与される」(本件明細書の段落【0011】)という格別な効果が奏されるものであり、当該効果は、当業者において予測し得るものとはいえない。
よって、本件発明5は、甲27発明A、検甲第4号証発明、当業者の技術常識及び甲28の技術事項に基づいても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(8) 本件発明8と甲27発明Bとの対比・判断
本件発明8と甲27発明Bとを対比する。
甲27発明Bの「車輌の座席用表皮材」は、本件発明8における「座席用表皮材」に相当する。
甲27発明Bの「複数の型押部」は、エンボスロールのベース面に形成されていることは明らかである。
そうすると、両者は、次の点で一致する。

「座席用表皮材の製造に用いられるエンボスロールであって、
前記エンボスロールのベース面には、複数の型押部が形成されているエンボスロール。」

そして、両者は、次の点で相違する。

<相違点5>

ベース面に形成されている複数の型押部の形状に関して、本件発明8は、「前記複数の型押部の少なくとも一つの型押部は、前記ベース面からの高さが部位によって異なるように形成されているとともに、前記ベース面からの高さが最も高い頂面の両側に形成された側面が互いに異なる形状に形成され」と特定するのに対し、甲27発明Bにおいては、凹凸を付与する形状ではあるものの、その具体的な形状についての特定がない点。

以下、相違点5について検討するに、相違点5は上記相違点1と実質的に同じである。そして、その判断は、上記(4)イで検討のとおりである。
よって、本件発明8は、甲27発明B及び検甲第4号証発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(9) むすび

したがって、本件発明1、2及び4は、甲27発明A、検甲第4号証発明及び甲28の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明8は、甲27発明B及び検甲第4号証発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1、2、4及び8に係る特許に対する無効理由4には、理由がある。
また、本件発明5は、甲27発明A、検甲第4号証発明、当業者の技術常識及び甲28の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件発明5に係る特許に対する無効理由4には、理由がない。

第6 結語

以上のとおり、本件発明1、2、4及び8に係る特許についての無効理由4は、理由があるから、本件発明1、2、4及び8に係る特許を無効とする。
また、本件発明9に係る特許についての無効理由1-1ないし1-2は何れも理由があるから、本件発明9についての特許を無効とする。
本件発明5に係る特許についての無効理由4は、理由がないから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明5に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第64条の規定により、これを6分し、その1を請求人の負担とし、その余を被請求人の負担とする。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-01-16 
結審通知日 2020-01-21 
審決日 2020-02-03 
出願番号 特願2015-545210(P2015-545210)
審決分類 P 1 123・ 112- ZC (B60N)
P 1 123・ 113- ZC (B60N)
P 1 123・ 121- ZC (B60N)
P 1 123・ 111- ZC (B60N)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 鏡 宣宏  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 須藤 康洋
大島 祥吾
登録日 2016-04-08 
登録番号 特許第5913755号(P5913755)
発明の名称 座席用表皮材、座席用表皮材の製造方法、及びエンボスロール  
代理人 有近 康臣  
代理人 富田 克幸  
代理人 小林 徳夫  
代理人 蔦田 正人  
代理人 前澤 龍  
代理人 水鳥 正裕  
代理人 中村 哲士  

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