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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1361102
審判番号 不服2019-2523  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-25 
確定日 2020-03-26 
事件の表示 特願2017-128738「プログラム、情報処理装置、及び制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 1月24日出願公開、特開2019- 10340〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年6月30日の出願であって、平成30年6月28日付けで拒絶理由通知がされ、同年8月29日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ、同年11月26日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成31年2月25日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 平成31年2月25日付けの手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容について
本件補正は、特許請求の範囲の記載について、下記(1)に示す本件補正前の(すなわち、平成30年8月29日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1を、下記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1へ補正することを含むものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、平成30年8月29日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「ゲームを実行する情報処理装置に、
複数のゲーム媒体が2つ以上のグループに分かれて参加するゲームパートを開始するステップと、
仮想空間内に存在する複数の領域のうち第1グループに属する第1領域から前記第1グループに属する特定領域までの経路上に、前記第1グループに属さない非第1領域が存在しない場合、前記第1領域に位置しかつ前記第1グループに属する第1ゲーム媒体の第1パラメータを所定の変動量に応じて増加させる変動処理を行うステップと、
を実行させ、
前記第1パラメータが、前記第1ゲーム媒体に行動を実行させるために消費するパラメータであり、
前記変動処理において、前記経路上に、前記第1グループに属しかつ通常状態である第1状態とは異なる第2状態の第1経路領域が存在する場合、前記第1ゲーム媒体の前記第1パラメータを増加させる前記変動量を低減し又はゼロにする、プログラム。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。(下線部は、補正箇所である。)
「ゲームを実行する情報処理装置に、
複数のゲーム媒体が2つ以上のグループに分かれて参加するゲームパートを開始するステップと、
仮想空間内に存在する複数の領域のうち第1グループに属する第1領域から前記第1グループに属する特定領域までの経路上に、前記第1グループに属さない非第1領域が存在するか否かを判定し、該非第1領域が存在しないと判定した場合、前記第1領域に位置しかつ前記第1グループに属する第1ゲーム媒体の第1パラメータを所定の変動量に応じて増加させる変動処理を行うステップと、
を実行させ、
前記第1パラメータが、前記第1ゲーム媒体に行動を実行させるために消費するパラメータであり、
前記変動処理において、前記経路上に前記非第1領域が存在しないと判定した場合に、前記経路上に、前記第1グループに属しかつ通常状態である第1状態とは異なる第2状態の第1経路領域が存在するか否かを判定し、該第1経路領域が存在すると判定した場合、前記第1ゲーム媒体の前記第1パラメータを増加させる前記変動量を低減し又はゼロにする、プログラム。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「変動処理」及び「変動処理を行うステップ」の内容について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(2)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献等の記載事項
ア 引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願日前に頒布された引用文献である、「ハーツ オブ アイアンIII【完全日本語版】 HEARTS OF IRON III,電撃ゲームス Vol.5,株式会社アスキー・メディアワークス,2010年1月22日,第10巻,PP.212?221」(以下、「引用文献1」という。)には、次の記載がある。(下線は、当審で付した。以下同じ。)

(ア) 「“マニアック過ぎる”ゲームが人気作として熱烈に支持されているPCゲーム界。ここでは、そんなタイトルの代表ともいえる戦略級SLG『ハーツ オブ アイアン III【完全日本語版】(以下、HOI3)』の魅力をとことんまでお伝えしよう。」(第212頁下部左側)

(イ) 「【動作環境】
◆OS:Microsoft Windows XP・Vista (DirectX 9.0以上)・7(動作確認済み)
◆CPU:Intel Pentium 4 2.4GHz 以上 or AMD Athlon 64 3500+以上
◆メモリ:2GB以上
◆VGA:NVIDIA GeForce 8800 以上 or ATI Radeon X 1900以上」(第212頁下部右側)

(ウ) 「マップ上に存在するすべての国家でプレイ可能
世界地図から特定の国を選択してゲームを開始する。ドイツや日本など、史実で戦争に参加した国はもちろん、戦争とは関係のなかった国を選ぶことも可能。各国家の状況は、開始年が違う7つのシナリオによって異なるほか、各シナリオで登場する国家も変化する。」(第213頁中央部中央)

(エ) 「1万以上のプロヴィンスに区分された世界で覇権を争う
本作のマップは、1万以上の「プロヴィンス」と呼ばれる地域に区分されており、戦争が発生すると、互いの国家のプロヴィンスを奪い合うことになる。ただし、本作には「勝利条件」のような明確な目的は存在せず、1947年末までに、特定のプロヴィンスに設定されている「勝利ポイント」を多く獲得することが勝敗の目安とされているだけだ。」(第214頁下部左側)

(オ) 「インフラマップモード
列車や高速道路網など、移動や輸送のための設備(インフラ)の整備度合いを示すモード。赤や黄が低く、緑が高い。左の写真のシベリアでは、東西に延びる緑の線(シベリア鉄道のある場所)が特徴的だ。」(第216頁下部中央)

(カ) 「物資
ユニットが必要とする補給物資を生産するための分配先。物資は他国に輸出することも可能。」(第218頁上部中央)

(キ) 「敵ユニットのいるプロヴィンスへの移動で戦闘が発生
本作における戦闘は、ユニットを敵ユニットがいるプロヴィンスに移動させることで自動的に発生し、勝敗も自動的に決するというシンプルなものだ。」(第220頁上部左側)

(ク) 「リアリティあふれる補給線のメカニズム
本作の戦闘ではユニットへ物資を補給することが非常に重要。補給はユニットがいるプロヴィンスに向けて物資が移動する「補給線」が形成される仕組みで行われるが、この補給線が敵に分断されると補給は滞ってしまう。また、補給物資が移動する速度は、プロヴィンスのインフラの影響を受けるので、インフラが完備していない場所に大規模な部隊を展開した場合、補給が続かずその部隊が壊滅状態になることもあるのだ。」(第221頁上部右側)

(ケ) 「補給が滞ると、ユニットの物資ゲージが赤くなり、指揮統制率が減少。また、装甲兵など一部のユニットは、燃料の補給が滞ると行動できなくなる。」(第221頁上部右側)

(コ) 「補給線の状況は補給マップモードで確認可能。海を越える場合は、本国からの輸送船が到着する港が補給の起点となり、港の規模が小さいと運ばれる物資は少なくなる。緑は補給が十分なプロヴィンス、赤やグレーは補給が滞っているプロヴィンス。」(第221頁上部右側)

(サ) 「インフラが整備されていない地域では補給は滞りがち。右は、いわゆる補給を無視した作戦の代名詞であるインパール作戦の舞台となったミャンマー北西部。インフラマップモードで確認すると、そのインフラの不十分さがよくわかるだろう。」(第221頁上部右側)

(シ) 第218頁上部左側の画像から、「物資」との表示とともに木箱のアイコンが、また、「燃料」との表示とともにドラム缶のアイコンが看取できる。

(ス) 第221頁上部左側の左から1番目の画像から、木箱のアイコンとともに緑色で表示されたゲージが、ドラム缶のアイコンとともに緑色で表示されたゲージが看取できる。また、当該ゲージの右側に「供給元:ベルリン」との文字が看取できる。

(セ) 第221頁上部右側の上から1番目の画像から、木箱のアイコンとともに赤色で表示されたゲージが、ドラム缶のアイコンとともに緑色で表示されたゲージが看取できる。また、当該ゲージの右側に「供給元:ピーヂョウ」との文字が看取できる。

(ソ) 第221頁上部右側の上から2番目の「補給マップモード」を示す画像から、プロヴィンスが緑、赤、グレーに色分けされる様子が看取できる。

(タ) 第221頁上部右側の上から3番目の「インフラマップモード」を示す画像から、プロヴィンスが緑、黄、赤に色分けされる様子が看取できる。

(チ) 上記(オ)、(サ)、(タ)より、各プロヴィンスには、インフラの整備度合いの高い緑の状態、及び、インフラの整備度合いの低い黄、赤の状態があることが理解できる。

(ツ) 上記(ケ)より、ユニットは物資ゲージを有しており、補給が滞ると、ユニットの物資ゲージが赤くなるものであるところ、各ユニットは、保有する物資量に関するパラメータを有していることが理解できる。また、上記(ク)より、補給物資が移動する速度は、プロヴィンスのインフラの影響を受けるものであるところ、上記(ク)における、ユニットへの物資の「補給」は、補給物資が移動する速度に応じて、当該物資量に関するパラメータが増加することを意味するものと理解できる。

(テ) 上記(キ)より、敵ユニットのいるプロヴィンスへの移動で戦闘が発生するものであるから、戦闘が行われていない場合、通常、各ユニットは自国のプロヴィンスに配置されるものであることは技術常識から見て明らかである。よって、上記(ク)、(ス)、(セ)より、ユニットが自国のプロヴィンスに配置される場合、「補給線」は、物資供給元のプロヴィンスとユニットがいる自国のプロヴィンスとの間に形成されることが理解できる。

(ト) 上記(ウ)、(エ)、(キ)より、引用文献1に記載されたゲームは、「複数のユニットが複数の国に分かれて参加するものであって、特定の国を選択してシナリオが開始される」ものであると理解できる。

(ナ) 上記(エ)、(ツ)、(テ)より、引用文献1に記載されたゲームは、「マップ上に存在する1万以上のプロヴィンスのうち、物資供給元のプロヴィンスとユニットがいる自国のプロヴィンスとの間に補給線が形成されることによって、当該ユニットに物資の補給が行われ、当該補給は、補給物資が移動する速度に応じて、当該ユニットが保有する物資量に関するパラメータが増加するものであり、補給物資が移動する速度は、プロヴィンスのインフラの影響を受ける」ものであると理解できる。

(ニ) 上記(ア)、(イ)より、ハーツ オブ アイアン III【完全日本語版】とのタイトルであるゲームは、「PCゲーム」であって、上記(イ)に示された所定のOS、CPU、メモリ、VGAを備えた動作環境で動作するものであるから、ゲームを実行するPCに所定の処理を実行させるプログラムが存在することは技術常識から見て明らかである。

(ヌ) 上記(ト)、(ニ)より、プログラムが、「複数のユニットが複数の国に分かれて参加するシナリオを開始するステップ」をPCに実行させていることは、技術常識から見て明らかである。

(ネ) 上記(ナ)、(ニ)より、プログラムが、「マップ上に存在する1万以上のプロヴィンスのうち、物資供給元のプロヴィンスとユニットがいる自国のプロヴィンスとの間に補給線を形成することによって、当該ユニットに物資の補給を行うステップ」をPCに実行させていることは、技術常識から見て明らかである。

(ノ) したがって、上記(ア)?(ネ)より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ゲームを実行するPCに、
複数のユニットが複数の国に分かれて参加するシナリオを開始するステップと、
マップ上に存在する1万以上のプロヴィンスのうち、物資供給元のプロヴィンスとユニットがいる自国のプロヴィンスとの間に補給線を形成することによって、当該ユニットに物資の補給を行うステップと、
を実行させ、
上記物資の補給は、補給物資が移動する速度に応じて、当該ユニットが保有する物資量に関するパラメータが増加するものであり、
上記補給線が敵に分断されると補給が滞るものであり、
各プロヴィンスには、インフラの整備度合いの高い緑の状態、及び、インフラの整備度合いの低い黄、赤の状態が存在し、
上記物資の補給において、補給物資が移動する速度は、プロヴィンスのインフラの影響を受ける、プログラム。」

イ 周知文献2
同じく原査定に引用され、本願の出願日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、戦術シミュレーションの基礎,2016年7月15日,[online],平成30年11月22日検索,URL,
https://web.archive.org/web/2016715032419/http://kamurai.sakura.ne.jp/simulation/kiso.htm(以下、「周知文献2」という。)には、次の記載がある。

(ア)「ここでは、その「戦術シミュレーションゲーム」の基本的なルールを、初心者の方向けに解説します。」(本文第8行)

(イ)「【占領と補給】
戦術シミュレーションゲームの多くには、「占領」という要素があります。
占領はマップ上の基地や都市、空港など、戦略上の拠点となる場所を自分のものにすることで、占領した拠点では燃料や弾丸の補給、ダメージの回復などが行えるのが普通です。
多くのゲームでは、移動や攻撃を行うごとに燃料やエネルギー、弾丸などを消費します。」(本文第22?25行)

ウ 周知文献3
本願の出願日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、大戦略に兵站ルールが!「大戦略パーフェクト3.0」レビュー -4Gamer.net,2008年5月1日, [online], 令和2年1月9日検索,URL,
https://web.archive.org/web/20080501062816/http://www.4gamer.net/games/036/G003669/20080425063/(以下、「周知文献3」という。)には、次の記載がある。

(ア)「ゲームルール上の大きな変更点は,補給線と物資の概念が導入されたことだろう。燃料や弾薬,それに資材といった「物資」の輸送(兵站)は,現実においても重要な要素だ。」(「物資と補給線の概念で,兵站を考慮した作戦立案が必要に」の項目の第1?5行)

(イ)「したがって,例えば相手陣営の近くで都市をぽつんと一つだけ確保した状態では,ルートが確保されていないので物資が届かず,補給はできないことになる。従来のようにただ「点」としての都市を占領するだけでなく,それらをつなぐ「線」をイメージしなければならない。」(同項目の第19?22行)

(ウ)「このように,常に物資の流れを意識して,どこの都市を占領すれば補給線が確保できるかを考えながら作戦を立てるのが戦略モードでのプレイだ。また逆に,敵陣営の補給線を遮断することで,戦況を好転させることも可能だ。より戦略性の強いプレイが実現したといえよう。」(同項目の第33?36行)

(エ)「戦略モードでは,道路でつながった自陣営都市の間に赤いラインが引かれている。これが補給線で,つながった都市間では物資のやりとりが行われる」(同項目の2番目の画像の説明文)

(オ)「補給線は,途中の都市を占領/破壊されると途切れる。占領できる部隊が近くにいない場合は,覚悟を決めて破壊し,敵の補給線を分断するという作戦もあり得る」(同項目の1番目の画像の説明文)

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明の「PC」は、本件補正発明の「情報処理装置」に相当する。

(イ)引用発明の「ユニット」、「国」、「シナリオ」は、それぞれ、本件補正発明の「ゲーム媒体」、「グループ」、「ゲームパート」に相当する。
したがって、引用発明の「複数のユニットが複数の国に分かれて参加するシナリオを開始するステップ」は、本件補正発明の「複数のゲーム媒体が2つ以上のグループに分かれて参加するゲームパートを開始するステップ」に相当する。

(ウ)引用発明の「マップ」、「プロヴィンス」は、それぞれ、本件補正発明の「仮想空間」、「領域」に相当する。
したがって、引用発明の「マップ上に存在する1万以上のプロヴィンス」は、本件補正発明の「仮想空間内に存在する複数の領域」に相当する。

(エ)本件補正発明は、「仮想空間内に存在する複数の領域のうち第1グループに属する第1領域から前記第1グループに属する特定領域までの経路上に、前記第1グループに属さない非第1領域が存在するか否かを判定し、該非第1領域が存在しないと判定した場合、前記第1領域に位置しかつ前記第1グループに属する第1ゲーム媒体の第1パラメータを所定の変動量に応じて増加させる変動処理を行うステップ」を有するところ、引用発明は、「マップ上に存在する1万以上のプロヴィンスのうち、物資供給元のプロヴィンスとユニットがいる自国のプロヴィンスとの間に補給線を形成することによって、当該ユニットに物資の補給を行うステップ」を有し、当該「物資の補給」は、「補給物資が移動する速度に応じて、当該ユニットが保有する物資量に関するパラメータが増加する」ものである。
ここで、引用発明の「ユニットがいる自国のプロヴィンス」、「物資供給元のプロヴィンス」、「補給物資が移動する速度」、「ユニットが保有する物資量に関するパラメータ」は、それぞれ、本件補正発明の「第1グループに属する第1領域」、「特定領域」、「所定の変動量」、「第1パラメータ」に相当する。
したがって、本件補正発明と引用発明とは、「仮想空間内に存在する複数の領域のうち第1グループに属する第1領域から特定領域までの経路」を有し、「前記第1領域に位置しかつ前記第1グループに属する第1ゲーム媒体の第1パラメータを所定の変動量に応じて増加させる変動処理を行うステップ」を備える限りにおいて共通する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
「ゲームを実行する情報処理装置に、
複数のゲーム媒体が2つ以上のグループに分かれて参加するゲームパートを開始するステップと、
仮想空間内に存在する複数の領域のうち第1グループに属する第1領域から特定領域までの経路を有し、前記第1領域に位置しかつ前記第1グループに属する第1ゲーム媒体の第1パラメータを所定の変動量に応じて増加させる変動処理を行うステップと、
を実行させる、プログラム。」

【相違点1】
「経路」が、本件補正発明では、「第1グループに属する特定領域まで」であるのに対し、引用発明では、「第1グループに属する」特定領域までであるか不明である点。

【相違点2】
変動処理を行うステップに関し、本件補正発明は、「経路上に、前記第1グループに属さない非第1領域が存在するか否かを判定し、該非第1領域が存在しないと判定した場合」に当該変動処理を行うステップを実行させているのに対し、引用発明では、そのような判定を行っているか否か不明である点。

【相違点3】
第1パラメータが、本件補正発明では、「前記第1ゲーム媒体に行動を実行させるために消費するパラメータ」であるのに対し、引用発明では、そのようなパラメータであるか否か不明である点。

【相違点4】
変動処理において、本件補正発明は、「前記経路上に前記非第1領域が存在しないと判定した場合に、前記経路上に、前記第1グループに属しかつ通常状態である第1状態とは異なる第2状態の第1経路領域が存在するか否かを判定し、該第1経路領域が存在すると判定した場合、前記第1ゲーム媒体の前記第1パラメータを増加させる前記変動量を低減し又はゼロにする」のに対し、引用発明では、各プロヴィンスには、インフラの整備度合いの高い緑の状態、及び、インフラの整備度合いの低い黄、赤の状態が存在し、補給物資が移動する速度は、プロヴィンスのインフラの影響を受けるものであるものの、その具体的な処理が不明である点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1について
上記相違点1について検討すると、上記(2)ウ(エ)で摘記したとおり、自国の領域の間に補給線を形成することは、周知文献3に記載されているようにシミュレーションゲームの分野における周知技術(以下、「周知技術1」という。)であるから、引用発明において、上記周知技術1を勘案し、補給線の経路を第1グループに属する特定領域までとすることにより、上記相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

イ 相違点2について
上記相違点2について検討すると、上記(2)ウ(オ)で摘記したとおり、途中の都市を占領されると補給線が途切れるものとすることは、例えば、周知文献3に記載されているように、シミュレーションゲームの分野における周知技術(以下、「周知技術2」という。)である。
そうすると、引用発明において、「補給線が敵に分断されると補給が滞る」ものとする具体的なゲーム設定として、補給線の経路上のプロヴィンスが敵に占領され、経路上に自国以外のプロヴィンスが存在することになった場合に、補給線が分断されたと判断する設定とすることは、上記周知技術2を勘案しながら、当業者が適宜設定し得る設計的事項にすぎない。
したがって、引用発明において、経路上に、「前記第1グループに属さない非第1領域が存在するか否かを判定し、該非第1領域が存在しないと判定した場合に」補給を行う構成とすることにより、上記相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

ウ 相違点3について
上記相違点3について検討すると、上記(2)イ(イ)で摘記したとおり、移動や攻撃を行うごとに燃料や弾丸などの物資を消費することは、周知文献2に記載されているように、シミュレーションゲームの分野における周知技術(以下、「周知技術3」という。)であるから、引用発明において上記周知技術3を勘案し、ユニットが保有する物資量であるパラメータを、第1ゲーム媒体に行動を実行させるために消費するパラメータとすることにより、上記相違点3に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

エ 相違点4について
上記相違点4について検討すると、引用発明は、「各プロヴィンスには、インフラの整備度合いの高い緑の状態、及び、インフラの整備度合いの低い黄、赤の状態が存在し、上記物資の補給において、補給物資が移動する速度は、プロヴィンスのインフラの影響を受ける」ものである。
ここで、インフラの整備度合いが低い場合、物資の移動に悪影響を及ぼすことは一般常識といえることから、引用発明において、経路上にインフラの整備度合いの低い黄、赤の状態のプロヴィンスが存在するか否かを判定し、当該プロヴィンスが存在すると判定した場合、補給物資が移動する速度を低減させる処理を行っていることは明らかであるといえる。
また、引用発明においては、補給線の分断の有無、及び、インフラの整備度合いが補給に影響しているところ、補給の際に、両者をどの順序で考慮するかは、ゲームを設計するに当たり当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。
したがって、引用発明において、補給線が分断されているか否かを判断し、補給線が分断されていない場合にインフラの影響を考慮するゲーム設定とすること、すなわち、「前記経路上に前記非第1領域が存在しないと判定した場合に、前記経路上に、前記第1グループに属しかつ通常状態である第1状態とは異なる第2状態の第1経路領域が存在するか否かを判定し、該第1経路領域が存在すると判定した場合、前記第1ゲーム媒体の前記第1パラメータを増加させる前記変動量を低減し又はゼロにする」ことにより、上記相違点4に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

オ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

カ したがって、本件補正発明は、引用発明及び本願出願前の前記周知技術1?3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし10に係る発明は、平成30年8月29日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1、9、10に係る発明は、本願の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明、及び引用文献2に例示される周知技術に基づいて、また、この出願の請求項2?5に係る発明は、本願の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1、3?5に記載された発明、及び引用文献2に例示される周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:ハーツオブ アイアンIII【完全日本語版】 HEARTS OF IRON III,電撃ゲームス Vol.5,株式会社アスキー・メディアワークス,2010年1月22日,第10巻,PP.212?221
引用文献2:戦術シミュレーションの基礎,2016年 7月15日,[online],平成30年11月22日検索,URL,
https://web.archive.org/web/2016715032419/http://kamurai.sakura.ne.jp/simulation/kiso.htm
引用文献3:領土統治について,ハーツオブアイアン2 攻略作戦 ?初心者の館?,2016年 6月10日,[online],平成30年6月26日検索,URL,
https://web.archive.org/web/20160610135719/http://kamurai.sakura.ne.jp:80/simulation/hoi2/province.htm
引用文献4:パルチザンへの対応,ものぐさHoI3備忘録,2014年 8月 9日,[online],平成30年6月26日検索,URL,
http://hoihoisan.cocolog-nifty.com/blog/2014/08/post-4d90.html
引用文献5:第48話独ソ戦起こらず,ハーツオブアイアン架空戦記,2009年12月11日,[online],平成30年6月26日検索,URL,
http://gen2.cocolog-nifty.com/blog/2009/12/48-2f70.html

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明における、「前記第1グループに属さない非第1領域が存在するか否かを判定し、該非第1領域が存在しないと判定した場合、前記第1領域に位置しかつ前記第1グループに属する第1ゲーム媒体の第1パラメータを所定の変動量に応じて増加させる変動処理を行うステップ」という事項から、非第1領域が存在「するか否かを判定し、該非第1領域が存在しないと判定した」場合という限定事項を削除し、また、本件補正発明における「前記変動処理において、前記経路上に前記非第1領域が存在しないと判定した場合に、前記経路上に、前記第1グループに属しかつ通常状態である第1状態とは異なる第2状態の第1経路領域が存在するか否かを判定し、該第1経路領域が存在すると判定した場合」という事項から、「前記経路上に前記非第1領域が存在しないと判定した場合に」という限定事項、及び第1経路領域が存在する「か否かを判定し、該第1経路領域が存在すると判定した」場合という限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び本願出願前の前記周知技術1?3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び本願出願前の前記周知技術1?3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-01-22 
結審通知日 2020-01-28 
審決日 2020-02-10 
出願番号 特願2017-128738(P2017-128738)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A63F)
P 1 8・ 575- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上田 泰  
特許庁審判長 藤本 義仁
特許庁審判官 藤田 年彦
小林 謙仁
発明の名称 プログラム、情報処理装置、及び制御方法  
代理人 坂本 智弘  

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