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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B |
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管理番号 | 1361151 |
審判番号 | 不服2019-5334 |
総通号数 | 245 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-05-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-04-22 |
確定日 | 2020-04-17 |
事件の表示 | 特願2016-552095「光制御シート,それを備えるカーテン,及び光制御シートの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月 7日国際公開,WO2016/052560,請求項の数(1)〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 事案の概要 1 手続等の経緯 特願2016-552095号(以下「本件出願」という。)は,2015年(平成27年)9月29日(先の出願に基づく優先権主張 平成26年9月30日)を国際出願日とする出願であって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。 平成30年 9月14日付け:拒絶理由通知書 平成30年11月19日付け:意見書 平成30年11月19日付け:手続補正書 平成31年 1月18日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 平成31年 4月22日付け:審判請求書 平成31年 4月22日付け:手続補正書 2 本願発明 本件出願の請求項1に係る発明は,平成31年4月22日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの,次のものである(以下「本願発明」という。)。 「 対向する入射面と出射面とを有し,前記入射面から入射した光を偏向して前記出射面から出射させる偏向層と,前記偏向層に積層され,その表面が色を発現する色部材と,を備える光制御シートの製造方法であって, 前記色部材の開口率をx〔%〕とし,前記色部材の表面の明度をyとする座標面において, y=-1.4137x+91.447で規定される直線と, y=-1.6000x+194.20で規定される直線と,の間の領域に,前記色部材の開口率と明度とが設定される前記色部材,を,開口率及び明度を用いて選択する工程と, 選択した前記色部材を,前記偏向層に積層する工程と, を備える,光制御シートの製造方法。」 なお,平成31年4月22日付け手続補正書による補正は,17条の2第5項1号に掲げる事項(36条5項に規定する請求項の削除)を目的としたものである。 3 原査定の概要 本願発明に対する原査定の拒絶の理由は,概略,本願発明は,先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて,先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 引用文献1:特開2011-164311号公報(主引用例) 引用文献2:特開2004-162194号公報(周知技術を示す文献) 引用文献3:実開平5-21095号公報(周知技術を示す文献) 引用文献4:特開2005-154970号公報(周知技術を示す文献) 引用文献5:実願平2-90984号(実開平4-48398号)のマイクロフィルム(周知技術を示す文献) 第2 当合議体の判断 1 引用文献の記載及び引用発明 (1) 引用文献1の記載 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1(特開2011-164311号公報)は,先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は,光学体およびその製造方法,窓材,建具,ならびに日射遮蔽装置に関する。詳しくは,日射を遮蔽可能な光学体に関する。 【背景技術】 【0002】 近年,空調負荷低減の観点から,日射を遮蔽するための窓用フィルムや窓ガラスが利用されている。特に日射エネルギーの半分以上は可視光であることから,赤外光のみならず,可視光も同時に遮蔽するフィルムや窓ガラスが利用されている。また,西日による眩しさを低減するという目的においても,可視光を一部遮蔽する事は重要である。 【0003】 このようなフィルムや窓ガラスとして,金属の半透過層を成膜したものが知られている(例えば特許文献1?3参照)。しかしながら,これらのフィルムや窓ガラスでは,平板上に半透過層が成膜されているため,可視光が反射して鏡状となり,眩しさや映り込みの問題がある。 …(省略)… 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 したがって,本発明の目的は,眩しさや映り込みを抑えつつ,可視光を含めた日射の遮蔽が可能となる光学体およびその製造方法,窓材,建具,ならびに日射遮蔽装置を提供することにある。」 イ 「【課題を解決するための手段】 【0006】 …(省略)… 【0008】 本発明では,第1の光学層の凹凸面上に半透過層を形成しているので,眩しさや映り込みを抑えつつ,可視光を含めた日射の遮蔽が可能となる。また,第2の光学層により,半透過層が形成された第1の光学層の凹凸面を包埋することで,透過像も鮮明に視認することが可能となる。 【発明の効果】 【0009】 以上説明したように,本発明によれば,眩しさや映り込みを抑えつつ,可視光を含めた日射の遮蔽が可能となる。」 ウ 「【発明を実施するための形態】 【0011】 …(省略)… 【0012】 <1.第1の実施形態> [光学フィルムの構成] 図1Aは,本発明の第1の実施形態に係る光学フィルムの一構成例を示す断面図である。図1Bは,本発明の第1の実施形態に係る光学フィルムを被着体に貼り合わせた例を示す断面図である。光学体としての光学フィルム1は,いわゆる指向反射性能を有する光学フィルムである。図1Aに示すように,この光学フィルム1は,凹凸形状の界面を内部に有する光学層2と,この光学層2の界面に設けられた半透過層3とを備える。光学層2は,凹凸形状の第1の面を有する第1の光学層4と,凹凸形状の第2の面を有する第2の光学層5とを備える。光学層内部の界面は,対向配置された凹凸形状の第1の面と第2の面とにより形成されている。具体的には,光学フィルム1は,凹凸面を有する第1の光学層4と,第1の光学層の凹凸面上に形成された反射層3と,反射層3が形成された凹凸面を埋めるように,反射層3上に形成された第2の光学層5とを備える。光学フィルム1は,太陽光などの光が入射する入射面S1と,この入射面S1より入射した光のうち,光学フィルム1を透過した光が出射される出射面S2とを有する。光学フィルム1は,内壁部材,外壁部材,窓材などに適用して好適なものである。また,光学フィルム1は,ブラインド装置のスラット(日射遮蔽部材),およびロールスクリーン装置のスクリーン(日射遮蔽部材)として用いても好適なものである。さらに,光学フィルム1は,障子などの建具(内装部材または外装部材)の採光部に設けられる光学体として用いても好適なものである。 …(省略)… 【0020】 第1の光学層4と第2の光学層5とは,屈折率などの光学特性が同じであることが好ましい。 …(省略)… 【0021】 第1の光学層4と第2の光学層5は,可視領域において透明性を有することが好ましい。ここで,透明性の定義には2種類の意味があり,光の吸収がないことと,光の散乱がないことである。 …(省略)… 【0030】 D65光源に対する透過像鮮明度に関し,0.5mmの光学くしを用いたときの値が,好ましくは30以上,より好ましくは50以上,さらに好ましくは75以上である。透過像鮮明度の値が30未満であると,透過像がぼけて見える傾向がある。30以上50未満であると,外の明るさにも依存するが日常生活には問題がない。 …(省略)… 【0033】 (第1の光学層,第2の光学層) 第1の光学層4は,例えば,半透過層3を支持し,かつ保護するためのものである。第1の光学層4は,光学フィルム1に可撓性を付与する観点から,例えば,樹脂を主成分とする層からなる。第1の光学層4の両主面のうち,例えば,一方の面は平滑面であり,他方の面は凹凸面(第1の面)である。半透過層3は該凹凸面上に形成される。 【0034】 第2の光学層5は,半透過層3が形成された第1の光学層4の第1の面(凹凸面)を包埋することにより,半透過層3を保護するためのものである。第2の光学層5は,光学フィルム1に可撓性を付与する観点から,例えば,樹脂を主成分とする層からなる。第2の光学層5の両主面のうち,例えば,一方の面は平滑面であり,他方の面は凹凸面(第2の面)である。第1の光学層4の凹凸面と第2の光学層5の凹凸面とは,互いに凹凸を反転した関係にある。 …(省略)… 【0061】 (半透過層) 半透過層は,半透過性の反射層である。半透過性の反射層としては,例えば,半導体性物質を含む薄い金属層,金属窒化層などが挙げられ,反射防止,色調調整,化学的濡れ性向上,または環境劣化に対する信頼性向上などの観点からすると,上記反射層を酸化層,窒化層,または酸窒化層などと積層した積層構造とすることが好ましい。 …(省略)… 【0063】 半透過層の膜厚は,例えば,2nm以上40nm以下の範囲とすることが可能であるが,可視領域および近赤外領域において半透過性を有する膜厚であればよく,これに限定されるものではない。ここで,半透過性とは,波長500nm以上1000nm以下における透過率が5%以上70%以下,好ましくは10%以上60%以下,更に好ましくは15%以上55%以下であることを示す。また,半透過層とは,波長500nm以上1000nm以下における透過率が5%以上70%以下,好ましくは10%以上60%以下,更に好ましくは15%以上55%以下である反射層を示す。 【0064】 (光学フィルムの機能) 図5A,図5Bは,光学フィルムの機能の一例を説明するための断面図である。ここでは,例として,構造体の形状が傾斜角45°のプリズム形状である場合を例として説明する。図5Aに示すように,この光学フィルム1に入射した太陽光のうち一部の光L_(1)は,入射した方向と同程度の上空方向に指向反射するのに対して,残りの光L_(2)は光学フィルム1を透過する。 …(省略)… 【0072】 [光学フィルムの製造方法] …(省略)… 【0073】 まず,図9Aに示すように,例えばバイト加工またはレーザー加工などにより,構造体4cと同一の凹凸形状の金型,またはその金型の反転形状を有する金型(レプリカ)を形成する。次に,図9Bに示すように,例えば溶融押し出し法または転写法などを用いて,上記金型の凹凸形状をフィルム状の樹脂材料に転写する。 …(省略)… 【0075】 次に,図10Aに示すように,その第1の光学層4の一主面上に半透過層3を成膜する。半透過層3の成膜方法としては,例えば,スパッタリング法,蒸着法,CVD(Chemical Vapor Deposition)法,ディップコーティング法,ダイコーティング法,ウェットコーティング法,スプレーコーティング法などが挙げられ,これらの成膜方法から,構造体4cの形状などに応じて適宜選択することが好ましい。次に,図10Bに示すように,必要に応じて,半透過層3に対してアニール処理31を施す。アニール処理の温度は,例えば100℃以上250℃以下の範囲内である。 【0076】 次に,図10Cに示すように,未硬化状態の樹脂22を半透過層3上に塗布する。樹脂22としては,例えば,エネルギー線硬化型樹脂,または熱硬化型樹脂などを用いることができる。エネルギー線硬化型樹脂としては,紫外線硬化樹脂が好ましい。次に,図11Aのように,樹脂21上に第2の基材5aを被せることにより,積層体を形成する。次に,図11Bに示すように,例えばエネルギー線32または加熱32により樹脂22を硬化させるとともに,積層体に対して圧力33を加える。…(省略)…以上により,図11Cに示すように,半透過層3上に第2の光学層5が形成され,光学フィルム1が得られる。 …(省略)… 【0108】 <7.第7の実施形態> 第7の実施形態では,日射遮蔽部材を巻き取る,または巻き出すことで,日射遮蔽部材による入射光線の遮蔽量を調整可能な日射遮蔽装置の一例であるロールスクリーン装置について説明する。 【0109】 図22Aは,本発明の第7の実施形態に係るロールスクリーン装置の一構成例を示す斜視図である。図22Aに示すように,日射遮蔽装置であるロールスクリーン装置301は,スクリーン302と,ヘッドボックス303と,芯材304とを備える。ヘッドボックス303は,チェーン205などの操作部を操作することにより,スクリーン302を昇降可能に構成されている。ヘッドボックス303は,その内部にスクリーンを巻き取り,および巻き出すための巻軸を有し,この巻軸に対してスクリーン302の一端が結合されている。また,スクリーン302の他端には芯材304が結合されている。スクリーン302は可撓性を有し,その形状は特に限定されるものではなく,ロールスクリーン装置301を適用する窓材などの形状に応じて選択することが好ましく,例えば矩形状に選ばれる。 【0110】 図22Bは,図22Aに示したB-B線に沿った断面図である。図22Bに示すように,スクリーン302は,基材311と,光学フィルム1とを備え,可撓性を有していることが好ましい。光学フィルム1は,基材211(当合議体注:「基材211」は「基材311」の誤記である。)の両主面のうち,外光を入射させる入射面側(窓材に対向する面側)に設けることが好ましい。光学フィルム1と基材311とは,例えば,接着層または粘着層などの貼合層により貼り合される。なお,スクリーン302の構成はこの例に限定されるものではなく,光学フィルム1をスクリーン302として用いるようにしてもよい。 【0111】 基材311の形状としては,例えば,シート状,フィルム状,および板状などを挙げることができる。基材311としては,ガラス,樹脂材料,紙材,および布材などを用いることができ,可視光を室内などの所定の空間に取り込むことを考慮すると,透明性を有する樹脂材料を用いることが好ましい。ガラス,樹脂材料,紙材,および布材としては,従来ロールスクリーンとして公知のものを用いることができる。光学フィルム1としては,上述の第1?第5の実施形態に係る光学フィルム1のうちの1種,または2種以上を組み合わせて用いることができる。」 エ 図1 オ 図5 カ 図9A,図9B キ 図10 ク 図11 ケ 図22 コ 引用発明 引用文献1の【0109】?【0111】には,「第7の実施形態」として,「ロールスクリーン装置」が記載されている。ここで,【0110】の記載を総合すると,「ロールスクリーン装置」の「スクリーン302は,光学フィルム1と基材311を,接着層または粘着層などの貼合層により貼り合わせることにより製造される」ことが理解できる。また,引用文献1の【0111】には,「スクリーン302」の「基材311」として,「布材」を用いることができること,及び「光学フィルム1」として,【0012】?【0082】に記載された,第1の実施形態のものを用いることができることが記載されている。 以上勘案すると,引用文献1には,次の「ロールスクリーン装置のスクリーン302の製造方法」の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。なお,引用文献1の【0061】に記載の「半透過層」と,【0012】に記載の「反射層3」は同じ物なので,用語を「反射層3」に統一して記載した。 「 ロールスクリーン装置のスクリーン302の製造方法であって, スクリーン302は,基材311と,光学フィルム1とを備え,可撓性を有し,光学フィルム1は,基材311の両主面のうち,外光を入射させる入射面側(窓材に対向する面側)に設けられ,基材311としては,布材などを用いることができ, 光学フィルム1は,凹凸面を有する第1の光学層4と,第1の光学層の凹凸面上に形成された反射層3と,反射層3が形成された凹凸面を埋めるように,反射層3上に形成された第2の光学層5とを備え,また,太陽光などの光が入射する入射面S1と,この入射面S1より入射した光のうち,光学フィルム1を透過した光が出射される出射面S2とを有し,反射層3は,半透過性の反射層であり, 光学フィルム1に入射した太陽光のうち一部の光L_(1)は,入射した方向と同程度の上空方向に指向反射するのに対して,残りの光L_(2)は光学フィルム1を透過し, スクリーン302は,光学フィルム1と基材311を,接着層または粘着層などの貼合層により貼り合わせることにより製造される, ロールスクリーン装置のスクリーン302の製造方法。」 (2) 引用文献2の記載 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2(特開2004-162194号公報)は,先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は,採光性を損なうことなく優れた防視認性を有する織物及びインテリア用品に関するものである。 …(省略)… 【0008】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は,前記従来技術の問題を解消するためになされたものであり,本発明の目的は,採光性を損なうことなく優れた防視認性を有する防視認性織物及びインテリア用品を提供することにある。」 イ 「【0009】 【課題を解決するための手段】 …(省略)… 【0012】 【発明の実施の形態】 以下に本発明を詳細に説明する。 …(省略)… 【0022】 次に,本発明の織物において,カバーファクター(CF)が800?2000である必要がある。 【0023】 ここで,カバーファクター(CF)は表されるものである。 CF=(DWp/1.1)^(1/2)×MWp+(DWf/1.1)^(1/2)×MWf ただし,DWpは経糸総繊度(dtex),MWpは経糸織密度(本/2.54cm),DWfは緯糸総繊度(dtex),MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。 【0024】 該CFが800よりも小さいと,経糸と緯糸とで形成される空隙が大きくなり易くなるため,防視認性が低下し好ましくない。逆に,該CFが2000よりも大きいと採光性が低下するため好ましくない。 …(省略)… 【0026】 本発明の防視認性織物は,前記のマルチフィラメント(A)を経糸又は緯糸に用いて常法の製織方法で製織することができる。 …(省略)… 【0027】 このようにして得られた本発明の防視認性織物において,光透過率が20%以上(より好ましくは30%?70%)であることが好ましい。ここで,光透過率とは,JIS L1055 6.1A法(照度10万lx)によって測定した遮光率を100から引いた値である。該光透過率が20%より小さいと採光性が不十分となる恐れがある。逆に,該光透過率が70%よりも大きいと防視認性が低下する恐れがある。 【0028】 かかる光透過性を有する織物は,前記のマルチフィラメント(A)を経糸又は緯糸に用いて織成した後,染色仕上げ加工時において,防視認性織物が無色または淡色から中色に仕上がるよう染料の種類と使用量を適宜選定することにより,容易に得られる。 …(省略)… 【0031】 本発明の防視認性織物は,適宜縫製された後カーテン,ロールブラインド,パーテイションなどのインテリア用品として好適に用いられる。」 2 対比及び判断 (1) 対比 本願発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。 ア 偏向層 引用発明の「スクリーン302は,光学フィルム1と基材311を,接着層または粘着層などの貼合層により貼り合わせることにより製造される」。また,引用発明の「光学フィルム1」は,「太陽光などの光が入射する入射面S1と,この入射面S1より入射した光のうち,光学フィルム1を透過した光が出射される出射面S2とを有し」,「光学フィルム1に入射した太陽光のうち一部の光L_(1)は,入射した方向と同程度の上空方向に指向反射するのに対して,残りの光L_(2)は光学フィルム1を透過」する。 上記の構成からみて,引用発明の「光学フィルム1」は,「かさなりをなすものの一つ。」(広辞苑6版),すなわち「層」ということができる。また,引用発明の「光学フィルム1」は,対向する「入射面S1」と「出射面S2」とを有し,「入射面S1」から入射した光を「出射面S2」から出射させるものである。 そうしてみると,引用発明の「光学フィルム1」と本願発明の「偏向層」は,「対向する入射面と出射面とを有し,前記入射面から入射した光を」「前記出射面から出射させる」「層」の点で共通する。 イ 色部材 引用発明の「スクリーン302は,光学フィルム1と基材311を,接着層または粘着層などの貼合層により貼り合わせることにより製造される」。また,引用発明の「基材311としては,布材などを用いることができ」る。 上記の構成からみて,引用発明の「布材」は,「光学フィルム1」に積層されたものである。また,技術常識を考慮すると,引用発明の「布材」は,その表面が色を発現する部材である(当合議体注:本願発明の「色」には,「白」のような無彩色も含まれる(本件出願の明細書の【0032】)。)。 そうしてみると,引用発明の「布材」と本願発明の「色部材」は,「層に積層され,その表面が色を発現する色部材」の点で共通する。 ウ 光制御シート 前記アで述べた構成からみて,引用発明の「スクリーン302」は,その「光学フィルム1」の働きにより,光を制御するシートとして機能するものといえる。また,引用発明の「スクリーン302」は,「光学フィルム1」と,「布材」と,を備えるものである。 そうしてみると,引用発明の「スクリーン302」と本願発明の「光制御シート」は,「層と」,「色部材と,を備える光制御シート」の点で共通する。 エ 光制御シートの製造方法 引用発明の「ロールスクリーン装置のスクリーン302の製造方法」において,「スクリーン302は,光学フィルム1と基材311を,接着層または粘着層などの貼合層により貼り合わせることにより製造される」。また,「基材311としては,布材などを用いることができ」る。 上記構成からみて,引用発明の「ロールスクリーン装置のスクリーン302の製造方法」は,「基材311」すなわち「布材」を,「光学フィルム1」に積層する工程を備える。 そうしてみると,引用発明の「ロールスクリーン装置のスクリーン302の製造方法」と本願発明の「光制御シートの製造方法」は,「前記色部材を,前記」「層に積層する工程と」,「を備える,光制御シートの製造方法」の点で共通する。 (2) 一致点及び相違点 ア 一致点 本願発明と引用発明は,次の構成で一致する。 「 対向する入射面と出射面とを有し,前記入射面から入射した光を前記出射面から出射させる層と,前記層に積層され,その表面が色を発現する色部材と,を備える光制御シートの製造方法であって, 前記色部材を,前記層に積層する工程と, を備える,光制御シートの製造方法。」 イ 相違点 本願発明と引用発明は,以下の点で相違する。 (相違点1) 「層」が,本願発明は,前記入射面から入射した光を「偏向して」前記出射面から出射させる「偏向」層であるのに対して,引用発明は,「入射した太陽光のうち一部の光L_(1)は,入射した方向と同程度の上空方向に指向反射するのに対して,残りの光L_(2)は光学フィルム1を透過」する点。 (相違点2) 「光制御シートの製造方法」が,本願発明は,「前記色部材の開口率をx〔%〕とし,前記色部材の表面の明度をyとする座標面において」,「y=-1.4137x+91.447で規定される直線と」,「y=-1.6000x+194.20で規定される直線と,の間の領域に,前記色部材の開口率と明度とが設定される前記色部材,を,開口率及び明度を用いて選択する工程と」,「選択した」前記色部材を,前記偏向層に積層する工程を備えるのに対して,引用発明は,これら工程を備えるとは特定されていない(「布材」を得る工程は不明である)点。 (3) 判断 事案に鑑みて,相違点2について検討する。 引用発明の「スクリーン302は,基材311と,光学フィルム1とを備え」,「基材311としては,布材などを用いることができ」る。そうしてみると,引用発明において,「ロールスクリーン」に適した「布材」を得る工程は,引用発明の「ロールスクリーン装置のスクリーン302の製造方法」,あるいは,それに先立つ設計段階において,内在する工程と認められる。 しかしながら,引用文献1には,「布材としては,従来ロールスクリーンとして公知のものを用いることができる。」(【0111】)と記載されているにとどまり,引用文献1に,その余の記載及び示唆は見当たらない。 ところで,引用文献2には,「採光性を損なうことなく優れた防視認性を有する織物」(【0001】)に関する技術が記載されている。また,この織物は,「適宜縫製された後カーテン,ロールブラインド,パーテイションなどのインテリア用品として好適に用いられる」ものである(【0031】)。 そして,引用文献2の【0022】には,「本発明の織物において,カバーファクター(CF)が800?2000である必要がある。」と記載されている(当合議体注:「カバーファクター」は,織物の評価指標として,周知のものである。)。加えて,引用文献2の【0024】には,その理由として,「該CFが800よりも小さいと,経糸と緯糸とで形成される空隙が大きくなり易くなるため,防視認性が低下し好ましくない。逆に,該CFが2000よりも大きいと採光性が低下するため好ましくない。」と記載されている。 さらに,引用文献2の【0027】には,「このようにして得られた本発明の防視認性織物において,光透過率が20%以上(より好ましくは30%?70%)であることが好ましい。」と記載されているところ,【0028】には,「かかる光透過性を有する織物は,前記のマルチフィラメント(A)を経糸又は緯糸に用いて織成した後,染色仕上げ加工時において,防視認性織物が無色または淡色から中色に仕上がるよう染料の種類と使用量を適宜選定することにより,容易に得られる。」とも記載されている。 しかしながら,カバーファクターに関する上記の記載は,織物の製織方法に関する記載であり,織物を選択する工程に関する記載ではない。また,織物の色の濃さに関する上記の記載は,織物の染色仕上げ加工に関する記載であり,織物を選択する工程に関する記載ではない。 そうしてみると,引用文献2に記載された上記の技術は,引用発明において,相違点2に係る本願発明の構成を採用することを,直ちに動機付けるものとまではいえない。 さらに進んで,引用発明において内在する「布材」を得る工程が,「布材」を選択する工程であり,かつ,引用文献2に記載された上記の技術が,「布材」を選択するに際しても考慮される技術であるとの前提で,検討する。 「布材」を選択する工程において,引用文献2に記載された上記の技術を採用すると,布材のカバーファクター及び色の濃さを考慮して,布材を選択することとなる。これに対して,本願発明の「色部材」を選択する工程は,「開口率及び明度を用いて選択する工程」である。 ここで,「カバーファクター」は,「開口率」と相関関係にあるとしても,布地の種類に左右される量である。また,「色の濃さ」は,「明度」と相関関係にあるとしても,色度に左右される量である。これに対して,本願発明の「開口率」及び「明度」は,布地の種類や色度に左右されない量である。そうしてみると,「カバーファクター」と「開口率」,及び「色の濃さ」と「明度」は,技術的にみて,異なる概念といえる。 したがって,「布材」を,「開口率及び明度を用いて選択する工程」と,「カバーファクター及び色の濃さを用いて選択する工程」とは,製造方法に係る「工程」としてみると,相違するものである。 以上のとおりであるから,仮に,引用発明と引用文献2に記載された技術を組み合わせたとしても,本願発明の構成に到るということはできない。 本件出願の明細書の【0060】及び【0062】には,それぞれ「本件発明者は,生地の全光線透過率が40%以上80%以下であれば,色部材3として採光シート2に組み合わされて使用された際に,好適な採光性能を発揮することができると共にぎらつき感や眩しさを抑制することができることが分かった。」及び「開口率と明度とを調整することによって,全光線透過率が調整可能であり,これら開口率と明度とを適性に調整することによって,全光線透過率を40%以上80%以下の範囲に柔軟に調整可能であることを意味している。」と記載されている。そして,「開口率と明度とを適性(当合議体注:「適性」は「適正」の誤記と考えられる。)に調整することによって,全光線透過率を40%以上80%以下の範囲に柔軟に調整可能である」という効果は,引用発明や,引用文献2に記載された技術からは予測できない効果と考えられる。 (当合議体注:なお,審判請求人も,審判請求書(4)において,「部材の開口率及び明度を用いて採光的に望ましい部材を選択するという思想は,全く新しいものであり,引用文献1?4に記載の事項からは予測し得ないものであると思料する。そして,その効果である,全光線透過率を調整ないし測定せずに採光に関して有益な光制御シートを効率的に提供できるという効果も従来技術からは予測困難な新規有用なものであると思料する。」と主張しているところである。) 引用文献3?引用文献5の記載を検討しても同様である。 (4) 小括 本願発明は,他の相違点について検討するまでもなく,たとえ当業者といえども,引用文献1に記載された技術及び周知技術に基づいて,容易に発明できたものであるということはできない。 第3 原査定について 前記「第2」で述べたとおりであるから,原査定の理由を維持することはできない。 第4 まとめ 以上のとおり,原査定の理由によっては本件出願を拒絶することはできない。 また,他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2020-04-07 |
出願番号 | 特願2016-552095(P2016-552095) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G02B)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 藤岡 善行 |
特許庁審判長 |
里村 利光 |
特許庁審判官 |
河原 正 樋口 信宏 |
発明の名称 | 光制御シート、それを備えるカーテン、及び光制御シートの製造方法 |
代理人 | 中村 行孝 |
代理人 | 永井 浩之 |
代理人 | 金川 良樹 |
代理人 | 朝倉 悟 |
代理人 | 堀田 幸裕 |