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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1361242
審判番号 不服2019-4903  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-12 
確定日 2020-04-02 
事件の表示 特願2017-237149「防眩フィルム並びにその製造方法及び用途」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 6月27日出願公開、特開2019-105695〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
特願2017-237149号(以下、「本件出願」という。)は、平成29年12月11日を出願日とする特許出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成30年12月 5日付け:拒絶理由通知書
平成31年 1月22日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 1月31日付け:拒絶査定(以下、「原査定」という。)
平成31年 4月12日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 平成31年4月12日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成31年4月12日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
(1) 本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前、すなわち、平成31年1月22日付けの手続補正書による補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「視感度反射率が2?3.8%であり、かつ透過像鮮明度が25?80%である防眩フィルム。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「透明基材層と、この透明基材層の少なくとも一方の面に形成された防眩層とを含み、前記防眩層が、1種以上のポリマー成分及び1種以上の硬化樹脂前駆体成分を含む硬化性組成物の硬化物である防眩フィルムであって、
前記硬化樹脂前駆体成分が、シリカナノ粒子及び/又はフッ素原子を含み、
視感度反射率が2?3.8%であり、かつ0.5mm幅の光学櫛を使用した透過像鮮明度が25?80%である防眩フィルム。」

2 補正の適否について
本件補正は、[A]本件補正前の請求項1に記載された「防眩フィルム」について、本件出願の出願当初の特許請求の範囲の請求項3、請求項7、本件出願の出願当初の明細書の【0010】等の記載に基づいて、「透明基材層と、この透明基材層の少なくとも一方の面に形成された防眩層とを含み、前記防眩層が、1種以上のポリマー成分及び1種以上の硬化樹脂前駆体成分を含む硬化性組成物の硬化物であって」、「前記硬化樹脂前駆体成分が、シリカナノ粒子及び/又はフッ素原子を含」むものに限定するとともに、[B]本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「透過像鮮明度」について、【0019】に基づいて、「0.5mm幅の光学櫛を使用した」ものであるものに限定するものである。そして、本件補正前の請求項1に記載される発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である(【0001】及び【0006】?【0008】)。
なお、本件補正は、(請求項1の記載を引用する)請求項3の記載を引用する請求項7に記載された発明を、上記[B]の点において減縮して請求項1に記載された発明としたものとも解することも可能であるが、いずれにせよ、本件補正は、同条第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合するとともに、同条第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正後発明」という。)が、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1) 本件補正後発明
本件補正後発明は、上記1(2)に記載したとおりのものである。

(2) 引用文献及び引用発明
ア 引用文献15の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用文献15として引用され、本願出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2010-66470号公報(以下、同じく「引用文献15」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は合議体が付したものである。以下、同様。)。

(ア) 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータ、ワードプロセッサ、テレビ、携帯電話、モバイル電子機器などの各種ディスプレイ(液晶ディスプレイなど)に好適に使用できる防眩性フィルムおよびその製造方法、ならびに前記防眩性フィルムを備えた表示装置に関する。より詳細には環状オレフィン系ポリマーで構成された透明な基材フィルムに防眩層が形成されたフィルムおよびその製造方法、ならびに前記防眩性フィルムを備えた表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、無機ELディスプレイ、FED(フィールドエミッションディスプレイ)などの各種ディスプレイの開発が進んでいる。特に、液晶ディスプレイは、薄型化が進み、据え置き型テレビ(TV)用途やモバイル用途の表示装置としてめざましい進歩を遂げ、急速に普及が進んでいる。
・・・略・・・
【0003】
これらのディスプレイにおいて、画質を重視するテレビやモニタなどの用途、外光の強い屋外で使用される携帯電話、デジタルカメラ、ビデオカメラ、カーナビゲーションシステムなどのモバイル用途では、外光の映り込みを防止する処理が表面に施されるのが通例である。その手法の一つに防眩処理(アンチグレア処理)があり、例えば、液晶ディスプレイの表面には防眩処理がなされている場合が多く見られる。防眩処理は、表面に微細な凹凸構造を形成することにより、表面反射光を散乱し、映り込み像をぼかす効果を有する。従って、防眩層では、クリアな反射防止膜とは異なり、鑑賞者、背景の形が映り込むといったことがないため、反射光が映像の邪魔をしにくい。
・・・略・・・
【0005】
しかし、これらの防眩層は、防眩性付与のためのフィルム表面の凹凸によって表面での光の散乱が大きくなり、本来黒色に見える部分に散乱光が混入して白っぽくなる。また、アンチグレア層内に存在する屈折率の異なる微粒子による散乱に起因してヘーズ(内部ヘーズ)が発生し、フィルムとしての全体ヘーズが上がり、表示が全体的に白味を帯び、コントラストの低下を招く。さらに、微粒子が凝集し易いため、表面の凹凸構造を制御することが困難であるとともに、表面の凹凸構造の設計の自由度が制約される。また、微粒子の凝集によりムラなどが生じ、外観不良となりやすい。
【0006】
一方、光学用透明フィルムとして、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムや特に液晶用偏光板保護フィルムとして酢酸セルロースフィルム(TACフィルム)が多く用いられているが、近年、透明性、耐熱性、耐湿性、複屈折性に優れた材料として環状オレフィン系ポリマーを用いた光学用透明フィルムの用途が広がっている。しかし、環状オレフィン系ポリマーの成形品は、一般的に表面の濡れ性が悪く、他の部材との接着性や表面に別の機能を与えるためのコート剤との密着性が劣るという課題がある。
【0007】
環状オレフィン系ポリマーフィルムに対する密着性の改良について、・・・略・・・例えば、特開平5-306378号公報(特許文献4)には、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂で形成された成形品の表面に、単官能アクリレートモノマー、2または3官能アクリレートモノマー、4官能以上のアクリレートモノマー、及び光重合開始剤から成る紫外線硬化性組成物を塗布し、紫外線照射し、コート層(ハードコート層)を形成することが記載され、長鎖脂肪族単官能アクリレートモノマー、脂環式単官能アクリレートモノマー及び脂環式2官能アクリレートモノマーから選択されたモノマーを40重量%以上含有する紫外線硬化性組成物も記載されている。
・・・略・・・しかし、これらのハードコート剤では防眩性を付与できない。
【0008】
内部ヘーズが少ない防眩性フィルムとして、特開2006-106290号公報(特許文献7)には、防眩層と、この防眩層の少なくとも一方の面に形成された低屈折率の樹脂層とで構成された防眩性フィルムであって、前記防眩層が、表面に凹凸構造を有しており、全ヘーズが1?30%、内部ヘーズが0?1%である防眩性フィルム、および透明支持体上に、防眩層及び低屈折率の樹脂層が順次形成された防眩性フィルムが開示されている。この文献には、少なくとも1つのポリマーと少なくとも一つの硬化性樹脂前駆体とを含む塗布液を塗布し、塗膜から溶媒が蒸発する過程で、スピノーダル分解により相分離させ、樹脂前駆体を硬化させることにより、規則性を有する相分離構造及びその相分離構造に対応した表面凹凸構造を有する防眩層を形成できること、このような防眩性フィルムを表示装置に装着すると、文字ボケが生じないクリアな画質が得られると同時に、白っぽさや白浮き(白滲み)のない良好な防眩効果が得られることが記載されている。特許文献7には、透明支持体の樹脂として、環状ポリオレフィン系樹脂が例示されている。
・・・略・・・しかし、環状オレフィン系ポリマーの透明フィルムに対する防眩層の密着性については記載がない。
・・・略・・・
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、環状オレフィン系ポリマーフィルムに対する密着性の高い防眩層を備えた防眩性フィルム、およびその製造方法、並びに前記防眩性フィルムを備えた表示装置を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、環状オレフィン系ポリマーの特色である高い透明性を維持しつつ、基材フィルムに対して高い密着性を有するとともにハードコート層として機能する防眩層が形成された防眩性フィルム、およびその製造方法、並びに前記防眩性フィルムを備えた表示装置を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、外光の映り込みやぎらつきが抑制された黒味のある鮮明な画像を表示できる防眩性フィルム、およびその製造方法、並びに前記防眩性フィルムを備えた表示装置を提供することにある。
【0013】
本発明の別の目的は、微粒子による表面凹凸形状を利用しなくても、表面に微細で規則的な凹凸構造を形成でき、防眩性に優れた防眩性フィルム及びその製造方法、並びに前記防眩性フィルムを備えた表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、環状オレフィン系ポリマーで構成された基材フィルム上に、脂環式炭化水素環又は橋架環式炭化水素環を有する(メタ)アクリレートを硬化性成分として含む硬化性組成物を塗布し、相分離可能な複数の成分を含み、かつ少なくとも1つの成分が硬化性成分である硬化性組成物(例えば、少なくとも1つのポリマー成分と少なくとも1つの硬化性樹脂前駆体とを含む組成物)を均一に溶解した溶液を塗布し、この塗布層から溶媒を蒸発させて相分離させ、その後前記硬化性成分を硬化すると、基材フィルムに規則性を有する相分離構造及びその相構造に対応した表面凹凸構造を有する防眩層を高い密着力で形成できることを見いだし、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明の防眩性フィルムは、環状オレフィン系ポリマーで構成された基材フィルムと、密着層を介して、この基材フィルムに形成された防眩層とを有する防眩性フィルムであって、前記密着層が、脂環式炭化水素環を有するモノ又はジ(メタ)アクリレート及び橋架環式炭化水素環を有するモノ又はジ(メタ)アクリレートから選択された少なくとも一種の硬化性成分を含む硬化性組成物の硬化層で形成され、前記防眩層が、相分離可能な複数の成分を含み、かつ少なくとも1つの成分が硬化性成分である硬化性樹脂組成物の硬化層で形成され、かつ相分離構造を有するとともに、表面に凹凸構造を有する。
【0016】
密着層を形成する硬化性組成物は、前記硬化性成分として橋架環式炭化水素環を有するジ(メタ)アクリレート(トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレートなど)を含んでいてもよい。上記硬化性成分(例えば、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート)の割合は、密着層を形成する硬化性組成物の硬化性成分(光重合性基を有する活性エネルギー線硬化性樹脂前駆体など)全体に対して30重量%以上の割合であってもよい。さらに、密着層を形成する硬化性組成物は、さらにセルロース誘導体を含んでいてもよい。例えば、密着層は、脂環式炭化水素環又は橋架環式炭化水素環を有する(メタ)アクリレート(トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレートなど)と、セルロースエステル類とで形成されていてもよい。
【0017】
防眩層は、硬化性成分としての複数の光重合性基を有する活性エネルギー線硬化性樹脂前駆体と、少なくとも1つのポリマー成分とで構成してもよく、前記硬化性樹脂前駆体及びポリマー成分のうち少なくとも2つの成分が液相からの相分離による相分離構造を有しているとともに、前記硬化性樹脂前駆体が硬化していてもよい。硬化性樹脂前駆体は、複数の(メタ)アクリロイル基を有する多官能性(メタ)アクリレートを含み、ポリマー成分が、セルロース誘導体と、(メタ)アクリロイル基を有するポリマー成分とを含んでいてもよい。また、ポリマー成分は、複数のポリマー(例えば、セルロース誘導体と、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂など)で構成でき、通常、セルロース誘導体と、(メタ)アクリロイル基を有するポリマー成分とを含んでいてもよい。複数のポリマー成分のうち、少なくとも1つのポリマー成分は、硬化性樹脂前駆体の硬化反応に関与する官能基(例えば、(メタ)アクリロイル基などの重合性基)を有していてもよい。例えば、防眩層は、多官能性(メタ)アクリレートと、セルロースエステル類と、側鎖に(メタ)アクリロイル基を有するポリマー成分とで形成されていてもよい。
【0018】
防眩性フィルムは、入射光を等方的に透過して散乱し、かつ散乱光強度の極大値を示す散乱角が0.1?10°であり、全光線透過率が80?100%であってもよい。また、防眩性フィルムは、全ヘーズが1?25%、内部ヘーズが0?1%、0.5mm幅の光学櫛を用いた写像性測定器で測定した透過像鮮明度が25?75%であってもよい。このような防眩性フィルムにおいて、防眩層は高い硬度を有し、ハードコート性(又は耐擦傷性)を備えているとともに、高い密着力で基材フィルムに密着している。例えば、防眩層は、碁盤目剥離試験による碁盤目の残存率90%以上であってもよく、鉛筆硬度H以上であってもよい。なお、防眩層では、硬化性樹脂前駆体の硬化により、規則的又は周期的な相分離構造を固定化してもよい。また、前記防眩層は、例えば、活性エネルギー線(紫外線、電子線など)、熱などにより硬化していてもよい。
【0019】
本発明の防眩性フィルムは、環状オレフィン系ポリマーで構成された基材フィルム上に、脂環式炭化水素環を有するモノ又はジ(メタ)アクリレート及び橋架環式炭化水素環を有するモノ又はジ(メタ)アクリレートから選択された少なくとも一種の硬化性成分を含む硬化性組成物の第1の塗布液を塗布する工程と、相分離可能な複数の成分を含み、かつ少なくとも1つの成分が硬化性成分である硬化性樹脂組成物と溶媒とを含む第2の塗布液を塗布する工程と、前記溶媒の蒸発に伴う相分離により相分離構造を形成させる工程と、前記組成物中の硬化性成分を硬化させる工程とを経ることにより製造でき、前記硬化により相分離構造を有するとともに、表面に凹凸構造を有する防眩層を形成できる。なお、基材フィルムには、硬化した密着層を形成した後、相分離構造を有する防眩層を形成してもよく、第1の塗布液と第2の塗布液とを順次塗布し、第2の塗布液による相分離構造を形成した後、塗膜を硬化させて密着層及び防眩層を形成してもよい。
【0020】
前記製造方法において、橋架環式炭化水素環を有するジ(メタ)アクリレート(トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレートなど)と、セルロース誘導体と、光重合開始剤と、これらの成分を可溶な溶媒とを含む第1の塗布液を塗布し、複数の(メタ)アクリロイル基を有する多官能性(メタ)アクリレートと、セルロース誘導体と、(メタ)アクリロイル基を有するポリマー成分と、光重合開始剤と、これらの成分を可溶な溶媒とを含む第2の塗布液を塗布し、相分離により相分離構造を形成し、光照射して密着層及び防眩層を形成してもよい。なお、必要であれば、基材フィルムをコロナ放電処理し、塗布液を塗布してもよいが、本発明では、基材フィルムを表面処理しなくても高い密着力で防眩層を形成できる。このため、基材フィルムを表面処理することなく第1の塗布液及び第2の塗布液を塗布し、硬化層(密着層及び防眩層)を形成することにより防眩性フィルムを製造できる。
【0021】
前記防眩性フィルムは単一のフィルムの形態で表示面への外光の映り込みを有効に防止できる。そのため、本発明は、前記防眩性フィルムを備えた表示装置、例えば、液晶表示装置、陰極管表示装置、プラズマディスプレイ、及びタッチパネル式入力装置から選択された表示装置なども包含する。
【0022】
なお、本明細書において、メタクリル酸系単量体及びアクリル酸系単量体を総称して「(メタ)アクリル酸」「(メタ)アクリレート」という場合がある。また、「硬化性成分」「硬化性樹脂前駆体」は単量体又はオリゴマーを意味し、分子量の大きな「ポリマー成分」と区別される。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、所定の密着層を介して基材フィルムに防眩層を形成するため、環状オレフィン系ポリマーで構成された基材フィルムに対して密着性の高い防眩層を形成でき、防眩層の構成成分の選択の幅を拡げることができる。また、環状オレフィン系ポリマーの特色である高い透明性を維持しつつ、基材フィルムに対して高い密着性で防眩層を形成できる。しかも、硬化した防眩層が相分離構造と表面の凹凸構造とを有するため、ハードコート性、反射防止性および防眩性を単一の塗膜で両立できる。また、防眩性に優れているため、外光の映り込みやぎらつきを抑制でき、かつ外光下でも黒味のある鮮明な画像(明室コントラストの高い画像)を表示できる。さらに、微粒子による表面凹凸形状を利用しなくても、表面に微細で規則的な凹凸構造を形成でき、防眩性に優れている。」

(イ) 「【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
[防眩性フィルム]
防眩性フィルムは、環状オレフィン系ポリマーで構成された基材フィルムと、この基材フィルムの少なくとも一方の面に形成された密着層と、この密着層に形成された防眩層とで構成されている。前記密着層は脂環式炭化水素環又は橋架け環式炭化水素環を有する(メタ)アクリレートを含む硬化性組成物の硬化層で形成されており、上記防眩層は、硬度の高い相分離構造を有する被膜を形成するため、相分離可能な複数の成分を含む硬化性樹脂組成物で形成されている。さらに、防眩層の内部には相分離構造を有しており、防眩層の最表層には凹凸構造が形成されており、外部からの入射光を散乱反射させ外光の映り込みやぎらつきを防止する。
【0025】
[基材フィルム]
環状オレフィン系ポリマーは公知のポリマーであり、ノルボルネン系単量体の重合体、ノルボルネン系単量体と共重合性単量体(オレフィン系単量体など)との共重合体(COC)、ノルボルネン系単量体の重合体の水素添加物(COP)、これらの重合体の変性物などが例示できる。環状オレフィン系ポリマーは、透明性が高く複屈折も小さい。
・・・略・・・
【0030】
環状オレフィン系ポリマーは、商品名「TOPAS」(ポリプラスチックス(株)製)、・・・略・・・などから容易に入手できる。
・・・略・・・
【0032】
・・・略・・・なお、高い透明性を維持するため、基材フィルムは、通常、透明性に悪影響を及ぼす添加剤、例えば、充填剤を含んでいない場合が多い。
・・・略・・・
【0033】
・・・略・・・基材フィルムの厚みは、例えば、5?2000μm、好ましくは15?1000μm、さらに好ましくは20?500μm(例えば、50?250μm)程度の範囲から選択できる。
・・・略・・・
【0035】
[密着層]
前記密着層を形成する硬化性組成物の硬化性成分は、熱硬化性成分であってもよく活性エネルギー線硬化性成分(光硬化性成分)であってもよい。好ましい硬化性成分は活性エネルギー線の照射により硬化する光硬化性成分である。前記密着層を形成する硬化性組成物の硬化性成分は、脂環式炭化水素環又は橋架環式炭化水素環を有する(メタ)アクリレート(以下、単に第1の硬化性成分という場合がある)を含んでいる。このような第1の硬化性成分としては、例えば、脂環式炭化水素環を有する(メタ)アクリレート[シクロアルキル(メタ)アクリレート(シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレートなどのC_(5-12)シクロアルキル(メタ)アクリレートなど);橋架環式炭化水素環を有する(メタ)アクリレート(トリシクロ[5,2,1,0^(2,6)]デカニル(メタ)アクリレート、・・・略・・・など);脂環式炭化水素環を有するジ(メタ)アクリレート・・・略・・・;橋架環式炭化水素環を有するジ(メタ)アクリレート[トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート(ジメチロールジシクロペンタンジ(メタ)アクリレート)、・・・略・・・など]などが例示できる。・・・略・・・これらの硬化性成分を用いると、環状オレフィン系ポリマーで構成された基材フィルムに対する密着性を大きく向上できるとともに、透明性の高い密着層を形成できる。そのため、防眩層を形成する成分の選択に制限がなくなり、広範囲の防眩層の成分を使用できる。
【0036】
前記第1の硬化性成分のうち脂環式炭化水素環又は橋架環式炭化水素環を有するジ(メタ)アクリレート、特に橋架環式炭化水素環を有するジ(メタ)アクリレート(なかでもトリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート(ジメチロールジシクロペンタンジ(メタ)アクリレート))が好ましい。
【0037】
硬化性組成物は、さらに第2の硬化性成分(熱硬化性成分又は光硬化性成分、特に光硬化性成分)を含んでいてもよい。このような硬化性成分としては、単官能性単量体・・・略・・・、少なくとも2つの重合性不飽和結合を有する多官能性単量体[エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、・・・略・・・トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、・・・略・・・ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、・・・略・・・ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの3?6個程度の重合性不飽和結合を有する多官能性単量体]が例示できる。
・・・略・・・
【0039】
・・・略・・・さらに、耐擦傷性などの耐性を向上させるため、光硬化性化合物は、分子中に複数(好ましくは2?10個、さらに好ましくは2?6個程度)の重合性不飽和結合((メタ)アクリロイル基など)を有する単量体(多官能性(メタ)アクリレートなど)であるのが好ましい。なお、光硬化性化合物においてはアクリロイル基を有する化合物が好ましい。
・・・略・・・
【0041】
硬化性組成物は、硬化性成分の種類に応じて、硬化剤と組み合わせて用いてもよい。・・・略・・・光硬化性成分は光重合開始剤と組み合わせて用いてもよい。
・・・略・・・
【0044】
密着層を形成する硬化性組成物は、さらにセルロース誘導体(セルロースエステル類、セルロースカーバメート類、セルロースエーテル類など)を含んでいてもよい。セルロースエステル類としては、例えば、脂肪族アシルエステル(セルロースC_(1-6)アルキルカルボニルエステル、例えば、セルロースジアセテート、セルローストリアセテートなどのセルロースアセテート;セルロースプロピオネート、・・・略・・・が例示でき、酢酸・硝酸セルロースエステルなどの混合酸エステルであってもよい。・・・略・・・セルロース誘導体(セルロースエステル類)は硬化性成分(第1の硬化性成分など)との相溶性が高いだけでなく、塗工性を向上でき、均一な塗膜を形成できる。
【0045】
好ましいセルロース誘導体は、セルロースエステル類、特にセルロースアセテートプロピオネートなどのセルロースC_(1-6)アルキルカルボニルエステルである。
・・・略・・・
【0048】
密着層の厚みは、例えば、0.1?50μm程度の範囲から選択でき、通常、1?35μm、好ましくは5?30μm、さらに好ましくは10?25μm程度であってもよい。なお、硬化性組成物の硬化層で形成された密着層は、厚みが大きくても、高い密着性及び透明性を有する。そのため、光学的特性を損なうことなく、防眩性に優れた防眩性フィルムを得ることができる。
【0049】
[防眩層]
本発明では、防眩層を相分離可能な複数の成分を含み、かつ少なくとも1つの成分が硬化性成分である硬化性樹脂組成物の硬化層で形成している。そのため、防眩層は高い耐擦傷性(ハードコート性)を示す。
【0050】
前記防眩層を形成する硬化性樹脂組成物は、相分離可能であり、かつ硬化可能な複数の成分を含み、かつ少なくとも1つの成分が硬化性成分であればよく、硬化性成分は熱硬化性であってもよく活性エネルギー線硬化性であってもよい。また、硬化性成分はモノマー、オリゴマーであってもよい。好ましい硬化性成分は、相分離構造を容易に固定できる活性エネルギー線硬化性成分である。さらに、好ましい硬化性成分は、少なくとも硬化性樹脂前駆体を含み、この前駆体は硬化又は架橋により樹脂(架橋樹脂などの硬質で強靱な樹脂など)を形成可能である。硬化性樹脂組成物は、通常、少なくとも1つの硬化性樹脂前駆体(複数の光重合性基を有する硬化性樹脂前駆体(特に、活性エネルギー線硬化性樹脂前駆体))と、少なくとも1つのポリマー成分(1又は複数のポリマー成分)とを含んでいる。また、少なくとも1つのポリマー成分は硬化性樹脂前駆体と反応可能な反応性基を主鎖又は側鎖に有していてもよい。
【0051】
(1)硬化性樹脂前駆体
硬化性成分としての硬化性樹脂前駆体は、熱や活性エネルギー線(紫外線や電子線など)などにより反応する官能基を有する化合物であり、熱や活性エネルギー線などにより硬化又は架橋して樹脂(特に硬化又は架橋樹脂)を形成する。
【0052】
前記樹脂前駆体としては、例えば、・・・略・・・活性光線(紫外線など)により硬化可能な光硬化性化合物(光硬化性モノマー、オリゴマー、プレポリマーなどの紫外線硬化性化合物など)などが例示でき、光硬化性化合物は、EB(電子線)硬化性化合物などであってもよい。なお、光硬化性化合物(光硬化性モノマー、オリゴマーや低分子量であってもよい光硬化性樹脂など)を、単に「光硬化性樹脂」という場合がある。硬化性樹脂前駆体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
・・・略・・・
【0054】
硬化性成分としては、前記密着層で記載の硬化性成分と同様の単量体、オリゴマー又は樹脂、例えば、単官能性単量体[C_(1-16)アルキル(メタ)アクリレート、脂環式炭化水素環を有する(メタ)アクリレート、橋架環式炭化水素環を有する(メタ)アクリレート]、グリシジル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ビニル系単量体など]、少なくとも2つの重合性不飽和結合を有する多官能性単量体[アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;(ポリ)アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;シ脂環式炭化水素環を有するジ(メタ)アクリレート;橋架環式炭化水素環を有するジ(メタ)アクリレート;3?6個程度の重合性不飽和結合を有する多官能性単量体]、オリゴマー又は樹脂[エポキシ(メタ)アクリレート、(ポリ)ウレタン(メタ)アクリレートなど]などが例示できる。
【0055】
好ましい硬化性樹脂前駆体は、短時間で硬化できる光硬化性成分、例えば、紫外線硬化性成分(モノマー、オリゴマーや低分子量樹脂など)、EB硬化性成分である。さらに、耐擦傷性などの耐性を向上させるため、光硬化性成分は、複数の光重合性基を有する活性エネルギー線硬化性樹脂前駆体、例えば、分子中に複数(好ましくは2?10個、さらに好ましくは2?6個、特に3?6個程度)の重合性不飽和結合((メタ)アクリロイル基など)を有する単量体(多官能性(メタ)アクリレートなど)であるのが好ましい。なお、光硬化性成分はアクリロイル基を有する化合物が好ましい。
【0056】
硬化性成分(又は硬化性樹脂前駆体)として、防眩層の硬度を高めるため、3乃至6官能性(メタ)アクリレート、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリ(2-ヒドロキシエトキシメチル)プロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどを用いる場合が多い。
・・・略・・・
【0057】
硬化性樹脂前駆体は、前記密着層を形成する硬化性組成物と同様に、硬化性成分の種類に応じて、硬化剤(光重合開始剤など)、硬化促進剤、架橋剤、熱重合禁止剤などを含んでいてもよく、光重合開始剤としては前記例示の光重合開始剤が前記と同様の割合で使用できる。
【0058】
(2)ポリマー成分
ポリマー成分としては、通常、熱可塑性樹脂が使用できる。熱可塑性樹脂としては、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、・・・略・・・セルロース誘導体(セルロースエステル類、セルロースカーバメート類、セルロースエーテル類など)・・・略・・・などが例示できる。これらのポリマー成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
・・・略・・・
【0069】
好ましい熱可塑性樹脂としては、例えば、成形性又は製膜性、透明性や耐候性の高い樹脂、例えば、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース誘導体(セルロースエステル類など)が挙げられる。前記熱可塑性樹脂としては、通常、非結晶性であり、かつ有機溶媒(特に複数のポリマーや硬化性化合物を溶解可能な共通溶媒)に可溶な樹脂が使用される。
・・・略・・・
【0071】
特に、本発明の樹脂組成物(又は複数のポリマー成分の組合せ)において、ポリマー成分として、少なくともセルロース誘導体(セルロースエステル類など)を用いるのが好ましい。セルロース誘導体(セルロースエステル類など)は、半合成高分子であり、他の樹脂や硬化性樹脂前駆体と溶解挙動が異なる。そのため、セルロース誘導体を含む樹脂組成物を用いると、非常に良好な相分離性を有する。なかでも、少なくともセルロースエステル類(例えば、セルロースアセテート(セルロースジアセテート、セルローストリアセテートなど)、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロースC_(2-4)アルキルカルボニルエステル類)を用いるのが好ましい。
【0072】
前記ポリマー成分として、硬化反応に関与する官能基(硬化性前駆体と反応可能な官能基)を主鎖又は側鎖に有するポリマー成分(又は熱可塑性樹脂)を用いることもできる。前記官能基は、共重合や共縮合などにより主鎖に導入されてもよいが、通常、側鎖に導入される。硬化した防眩層の耐擦傷性の観点から、複数のポリマー成分のうち、少なくとも一つのポリマー成分は硬化性樹脂前駆体と反応可能な官能基を側鎖に有するポリマー成分であるのが好ましい。このような官能基は、前記樹脂前駆体の縮合性又は反応性官能基、重合性基であってもよい。これらの官能基のうち重合性基(ビニル、プロペニル、イソプロペニル基などのC_(2-3)アルケニル基、(メタ)アクリロイル基など、特に(メタ)アクリロイル基)が好ましい。このような官能基を有するポリマー成分は、硬化性樹脂前駆体の硬化又は架橋に伴って、防眩層において硬化又は架橋していてもよい。
・・・略・・・
【0077】
前記官能基含有ポリマー成分、例えば、(メタ)アクリル系樹脂のカルボキシル基の一部に重合性不飽和基を導入したポリマーは、例えば、「サイクロマーP」などとしてダイセル化学工業(株)から入手できる。なお、サイクロマーPは、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体のカルボキシル基の一部に、3,4-エポキシシクロヘキセニルメチルアクリレートのエポキシ基を反応させて、側鎖に光重合性不飽和基を導入した(メタ)アクリル系ポリマーである。
・・・略・・・
【0083】
(3)添加剤
本発明の硬化性樹脂組成物(又は防眩層)には、必要に応じてレベリング剤、防汚剤・・・略・・・を添加してもよい。これら添加剤の添加割合は、防眩層を構成する成分全体に対して0.05?5重量%、好ましくは0.1?3重量%程度である。
【0084】
レベリング剤としては、シリコーン系化合物、フッ素系化合物などが例示される。これらのレベリング剤のなかには、防汚剤やすべり向上剤としての性質を兼ね備えている成分もある。これらの添加剤は防眩層の最表面付近に偏析して存在することが好ましい。また、硬化性樹脂前駆体との反応性に関しては、硬化性樹脂前駆体との反応性を有していてもよく、有していなくてもよいが、効果の持続性の点から、硬化性樹脂前駆体と反応し硬化又は架橋樹脂の一部として存在するのが好ましい。反応性官能基を有する添加剤としては、例えば、重合性不飽和基を有するシリコーン含有化合物(ダイセル・サイテック(株)製「EB1360」)、重合性不飽和基を有するフッ素系化合物(OMNOVASOLUTIONS社製「POLYFOX3320」)などが例示できる。これらの成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
・・・略・・・
【0087】
(4)相分離
防眩層は、硬化性樹脂組成物の硬化層で形成され、相分離構造を有している。この相分離構造は、塗膜系において、少なくとも1つの前記硬化性樹脂前駆体及び少なくとも1つのポリマー成分のうち、少なくとも2つの成分の相分離(これらの成分を含む液相からの相分離)により形成できる。相分離は、通常、加工温度付近(塗膜形成過程又は成膜温度)で形成される。相分離する成分の組み合わせは、例えば、(a)複数のポリマー成分同士が互いに非相溶で相分離する組み合わせ、(b)硬化性樹脂前駆体と1又は複数のポリマー成分とが非相溶で相分離する組み合わせや、(c)複数の硬化性樹脂前駆体同士が互いに非相溶で相分離する組み合わせなどが挙げられる。相分離には、通常、前記(a)複数のポリマー成分同士の組み合わせ、(b)硬化性樹脂前駆体とポリマー成分との組み合わせが利用され、特に(a)複数のポリマー成分同士の組み合わせが好ましい。なお、複数のポリマー成分を用いる場合、硬化性樹脂前駆体は、少なくとも1つのポリマー成分と相溶性を有していてもよい。
【0088】
例えば、前記組み合わせ(a)において、互いに非相溶な複数のポリマーを、例えば、第1のポリマーと第2のポリマーとで構成する場合、硬化性樹脂前駆体は、第1のポリマー及び第2のポリマーのうち少なくともいずれか一方のポリマー成分と相溶してもよく、両方のポリマー成分と相溶してもよい。両方のポリマー成分に相溶する場合、第1のポリマー及び硬化性樹脂前駆体を主成分とした混合物と、第2のポリマー及び硬化性樹脂前駆体を主成分とした混合物との少なくとも二相に相分離してもよい。前記組み合わせ(b)において、ポリマー成分として複数のポリマー成分を用いてもよく、複数のポリマー成分を用いる場合、少なくとも1つのポリマー成分が硬化性樹脂前駆体に対して非相溶であればよく、他のポリマー成分は前記樹脂前駆体と相溶してもよい。さらに、前記組み合わせ(b)において、硬化性樹脂前駆体は、互いに非相溶な複数のポリマー成分のうち、少なくとも1つのポリマー成分と相溶であってもよい。
【0089】
なお、相分離性は、各成分(硬化性樹脂前駆体及びポリマー成分)に対する良溶媒を用いて均一溶液を調製し、溶媒を徐々に蒸発させる過程で、残存固形分が白濁するか否かを目視にて確認することにより簡便に判定できる。
【0090】
さらに、硬化又は架橋した防眩層において、通常、相分離した樹脂成分は互いに屈折率が異なる。例えば、ポリマー成分と、硬化性樹脂前駆体の硬化又は架橋樹脂とは互いに屈折率が異なる。また、複数のポリマー成分(第1のポリマーと第2のポリマー)の屈折率も互いに異なる。本発明では、相分離した樹脂成分の屈折率の差(ポリマー成分と、硬化性樹脂前駆体の硬化又は架橋樹脂との屈折率の差、複数のポリマー(第1のポリマーと第2のポリマー)の屈折率の差)は、例えば、0?0.06、好ましくは0.0001?0.05、さらに好ましくは0.001?0.04程度であってもよい。このような屈折率差のポリマー成分および硬化性樹脂前駆体を選択することにより、相分離したドメインも同様な屈折率差とすることができる。特に、ドメインからの内部散乱を抑制し、内部ヘーズを低減でき、黒味の画像を実現できる。
【0091】
本発明では、防眩層内部での相分離に伴って、防眩層の表面に凹凸構造を形成でき、硬化性樹脂前駆体の硬化により、相分離構造を固定化し、ハードコート層としての防眩層を形成できる。すなわち、表面の凹凸形状(内部の相分離構造によって隆起した表面の凹凸形状)は、活性光線(紫外線、電子線など)や熱線などにより最終的に硬化し、相分離構造が固定化された硬化樹脂を形成する。そのため、防眩層(ハードコート膜)に耐擦傷性を付与でき、耐久性を向上できる。
【0092】
防眩層の厚みは、例えば、0.3?50μm(例えば、1?40μm)、好ましくは5?30μm程度であってもよく、通常、7?25μm(例えば、10?20μm)程度である。
【0093】
[防眩性フィルムの製造方法]
防眩性フィルムは、前記基材フィルム上に、密着層を形成する前記硬化性組成物の第1の塗布液を塗布する工程と、相分離可能な複数の成分を含み、かつ少なくとも1つの成分が硬化性成分である硬化性樹脂組成物と溶媒とを含む第2の塗布液を塗布する工程と、前記溶媒の蒸発に伴う相分離により相分離構造を形成させる工程と、前記各組成物中の硬化性成分を硬化させる工程を経ることにより製造でき、相分離構造を有するとともに、表面に凹凸構造を有する防眩層は、密着層により基材フィルムに密着している。なお、本発明では、前記第1の塗布液を用いるため、表面処理することなく基材フィルムに第1の塗布液及び第2の塗布液を塗布しても、密着性の高い硬化塗膜を形成できる。また、基材フィルムに第1の塗布液を塗布し硬化性成分を硬化させて密着層を形成した後、硬化した密着層に第2の塗布液を塗布して硬化性成分を硬化させることにより防眩層を形成してもよく、基材フィルムに第1の塗布液と第2の塗布液とを順次塗布し、硬化性成分を硬化して密着層及び防眩層を形成してもよい。第1の塗布液と第2の塗布液とを順次塗布する場合、第1の塗布液は乾燥させることなく又は乾燥させた後、第2の塗布液を塗布してもよい。
【0094】
第1の塗布液に関し、少なくとも前記第1の硬化性成分(トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレートなど)を含む硬化性組成物を第1の塗布液として使用してもよく、硬化性組成物と、硬化性組成物の成分を可溶な溶媒とを含む塗布剤(例えば、少なくとも前記第1の硬化性成分と、セルロース誘導体と、光重合開始剤と、これらの成分を可溶な溶媒とを含むコーティング剤)を第1の塗布液として使用してもよい。なお、溶媒としては、例えば、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン・・・略・・・など)、・・・略・・・アルコール類(・・・略・・・ブタノール・・・・略・・・など)・・・略・・・などが例示できる。これらの溶媒は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0095】
第2の塗布液としては、複数の光重合性基を有する硬化性樹脂前駆体と、少なくとも1つのポリマー成分と、溶媒とを含む塗布液(特に、複数の(メタ)アクリロイル基を有する多官能性(メタ)アクリレートと、セルロース誘導体と、(メタ)アクリロイル基を有するポリマー成分と、光重合開始剤と、前記多官能性(メタ)アクリレートポリマー成分および光重合開始剤を可溶な溶媒とを含む塗布液)を用いる場合が多い。相分離は、硬化性樹脂組成物と溶媒とを含む液相(液体組成物)から、前記溶媒の蒸発過程で発生させることができる(湿式相分離法)。
【0096】
湿式相分離法においては、系の状態は溶媒の蒸発に伴い時々刻々と変化する非平衡状態の連続であり、相分離過程の構造形成を理論的に取り扱うことは困難である。しかし、文献「Macromolecules,17巻,2812(1984)」には、溶媒存在下における基本的な相分離過程は、2種の高分子間に対する相分離理論で示されるものと同様の挙動を示すことが書かれている。すなわち、湿式相分離法においても、相分離のモードとして、スピノーダル分解と核生成の2つがあることが考えられる。スピノーダル分解による相分離の特徴は、系全体に均一な密度揺らぎが発生することにより、相対的に位置が揃った相分離構造を形成する点である。一方、核生成による相分離では、密度揺らぎが不均一に発生し、ランダムな相分離構造を形成する。形成される相分離構造が制御されているという点において、スピノーダル分解による相分離が好ましい。相分離がいずれのモードで発生し進行するかは、組成と状態変化(例えば、温度変化や、湿式相分離法の場合、溶媒濃度)とで表される相図で示される。通常、スピノーダル分解による相分離の方が核生成による相分離と比べて発現領域が広い。
【0097】
スピノーダル分解による相分離では、発生した密度ゆらぎは、相分離の進行に伴って共連続相構造を形成し、さらに相分離が進行すると、連続相が自らの表面張力により非連続化し、液滴相構造(球状、真球状、円盤状、楕円体状、長方体状などの独立相の海島構造)となる。従って、相分離の程度によって、共連続相構造と液滴相構造との中間的構造(上記共連続相から液滴相に移行する過程の相構造)も形成できる。本発明において、防眩層中の相分離構造は、海島構造(液滴相構造、又は一方の相が独立または孤立した相構造)、共連続相構造(又は網目構造)であってもよく、共連続相構造と液滴相構造とが混在した中間的構造であってもよい。これらの相分離構造により、溶媒乾燥後に防眩層の表面に微細な凹凸を形成できる。
【0098】
前記相分離構造において、表面凹凸構造を形成し、かつ表面硬度を高める点からは、少なくとも島状ドメインを有する液滴相構造であるのが有利である。なお、ポリマー成分と前記前駆体(又は硬化樹脂)とで構成された相分離構造が海島構造である場合、ポリマー成分が海相を形成してもよいが、表面硬度の観点から、ポリマー成分が島状ドメインを形成するのが好ましい。なお、島状ドメインの形成により、乾燥後には防眩層の表面に微細な凹凸を形成できる。本発明では、島状ドメインが異形状(楕円体状、長方体状などの長形状など)であってもよい。また、ドメインの平面形状は、不定形、多角形、円形、楕円形などであってもよい。さらに、これらの島状ドメインは独立していてもよく、部分的に結合して連なったドメインを形成してもよい。 表面凹凸構造におけるドメイン間の平均距離[隣接する凸部の頂部間(ドメイン間)のピッチ]は5?200μm(例えば、10?175μm)程度の範囲から選択でき、例えば、10?150μm、好ましくは15?100μm程度であってもよい。また、ドメインの平均径は、例えば、3?100μm、好ましくは5?50μm、さらに好ましくは8?30μm(特に10?25μm)程度であってもよい。
【0099】
湿式相分離において、溶媒は、硬化性樹脂前駆体及びポリマー成分の種類及び溶解性に応じて選択でき、混合溶媒の場合、少なくとも1つの溶媒は固形分又は不揮発成分(硬化性樹脂前駆体及びポリマー成分、反応開始剤、その他添加剤)を均一に溶解できる溶媒であればよい。溶媒としては、前記第1の塗布液と同様の溶媒、例えば、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン・・・略・・・など)・・・略・・・アルコール類(・・・略・・・1-メトキシ-2-プロパノール、ブタノール・・・略・・・など)・・・略・・・などが例示できる。これらの溶媒は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
・・・略・・・
【0102】
前記第2の塗布液を流延又は塗布した後、溶媒を蒸発させることにより相分離を誘起することができる。また、溶媒の蒸発を伴う相分離(スピノーダル分解など)により、相分離構造のドメイン間の平均距離に規則性又は周期性を付与できる。溶媒蒸発の温度(乾燥温度)は、特に制限されないが、溶媒の沸点よりも低い温度、例えば、溶媒の沸点と蒸発温度(乾燥温度)との差が、100℃以内、好ましくは70℃以内、さらに好ましくは50℃以内の範囲で選択するのが好ましい。溶媒の蒸発は、通常、乾燥、例えば、溶媒の沸点に応じて、30?150℃、好ましくは40?120℃、さらに好ましくは50?90℃程度の温度で乾燥させることにより行うことができる。
【0103】
密着層及び防眩層は、塗膜中の少なくとも前記硬化性成分(硬化性樹脂前駆体など)を熱や活性光線などを利用して硬化させることにより形成できる。好ましい態様では、塗膜中の光硬化性成分を光照射により硬化させる。光照射は、光硬化性成分などの種類に応じて選択でき、通常、紫外線、電子線などが利用できる。汎用的な露光源は、通常、紫外線照射装置である。なお、光照射は、必要であれば、窒素ガス、二酸化炭素などの不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。硬化性成分(硬化性樹脂前駆体など)の硬化により、基材フィルムに緊密に密着した密着層を形成できるとともに、防眩層では相分離構造は固定化でき、通常、規則的又は周期的な平均相間距離を有する相分離構造を形成できる。
【0104】
(5)低屈折率層
前記防眩層の少なくとも一方の面には低屈折率層を積層してもよい。低屈折率層を形成することにより、光学部材などにおいて、低屈折率層を最表面となるように配設した場合などに、外部からの光(外部光源など)が、防眩性フィルムの表面で反射するのを有効に防止できる。
・・・略・・・
【0111】
[防眩性フィルム]
本発明の防眩性フィルムは透明性が高く、全光線透過率は、例えば、80?100%、好ましくは85?100%、特に90?100%程度である。また、本発明の防眩性フィルムは、ヘーズが小さく、例えば、防眩性フィルムのヘーズは1?25%、好ましくは2?25%、さらに好ましくは6?20%程度である。本発明の防眩性フィルムは、特に内部ヘーズが小さい。すなわち、相分離によって表面に凹凸形状を形成した防眩層は、微粒子を分散して表面凹凸形状を形成する方法と異なり、層の内部で散乱を引き起こす微粒子を防眩層内に含まない。そのため、層の内部におけるヘーズ(層の内部で散乱を引き起こす内部ヘーズ)は低く、例えば、0?2%(例えば、0?1.5%)程度の範囲から選択でき、通常、0?1%(例えば、0.1?0.8%、好ましくは0.2?0.7%)程度である。なお、内部ヘーズは、透明樹脂層をコートして防眩層の表面凹凸を平坦化するか、透明粘着層を介して平滑な透明フィルムと防眩層の表面凹凸を貼り合わせたフィルムについてヘーズを測定することにより評価できる。
【0112】
全光線透過率及びヘーズは、JIS K7136に準拠して、日本電色工業(株)製、NDH-5000Wヘーズメーターを用いて測定できる。
【0113】
本発明の防眩性フィルムは、0.5mm幅の光学櫛を用いた写像性測定器で測定したとき、透過像鮮明度が25?75%、好ましくは28?73%(例えば、30?70%)程度であり、35?75%(例えば、40?65%)程度の防眩性フィルムも得られる。このような防眩性フィルムでは、映り込みの輪郭を十分ぼかすことができるため、高い防眩性を付与できる。透過像鮮明度が高すぎると、強い外光が防眩層を透過し、表示装置中の鏡面反射性層(例えば、液晶セルの場合、上部電極のガラス面及びセル内部の上部電極の導電面)から散乱されずに反射し、その反射光をあまり散乱せずに透過する。従って、透過像鮮明度が高い(例えば、75%を越える)の防眩性フィルムでは、要望される映り込み防止は達成できない。一方、透過像鮮明度が小さすぎると、前記の映り込みは防止できるが、画像の鮮明さが低下する。なお、透過像鮮明度が75%以下であっても、防眩性フィルムは、所定のヘーズ(特に前記ヘーズ値)を有するのが有用である。すなわち、曇り度の尺度であるヘーズと透過像鮮明度とが前記範囲にすることにより、外景の映り込みを効果的に防止できる。
【0114】
透過像鮮明度とは、フィルムを透過した光のボケや歪みを定量化する尺度である。透過像鮮明度は、フィルムからの透過光を移動する光学櫛を通して測定し、光学櫛の明暗部の光量により値を算出する。すなわち、フィルムが透過光をぼやかす場合、光学櫛上に結像されるスリットの像は太くなるため、透過部での光量は100%以下となり、一方、不透過部では光が漏れるため0%以上となる。透過像鮮明度の値Cは光学櫛の透明部の透過光最大値Mと不透明部の透過光最小値mから次式により定義される。
【0115】
C(%)=[(M-m)/(M+m)]×100
すなわち、Cの値が100%に近づく程、防眩性フィルムによる像のボケが小さい[参考文献;須賀、三田村,塗装技術,1985年7月号]。
【0116】
前記透過像鮮明度測定の測定装置としては、スガ試験機(株)製写像性測定器ICM-1Tが使用でき、光学櫛としては0.125?2mm幅の光学櫛を用いることができる。
【0117】
さらに、本発明の防眩性フィルムは、相分離構造において、ドメインの平均相間距離は実質的に規則性又は周期性を有している。そのため、防眩性フィルムに入射して透過する光は、相間平均距離(又は表面凹凸構造の周期性)に対応した散乱(例えば、ブラッグ反射)により、直進透過光とは離れた特定角度に散乱光極大を示す。すなわち、本発明の防眩性フィルムは、入射光を等方的に透過して散乱又は拡散するものの、散乱光(透過散乱光)は、散乱中心からシフトした散乱角、例えば、0.1?10°、好ましくは0.2?5°、特に、0.5?3°で光強度の極大値を示す。散乱光強度の極大値は、散乱光強度の角度分布プロファイルにおいてピーク状に分離していてもよく、ショルダー状ピークであったり、平坦状ピークである場合も極大値を有するとみなすことができる。
【0118】
なお、防眩性フィルムを透過した光の角度分布は、図1に示すように、He-Neレーザなどのレーザ光源1と、ゴニオメーターに設置した光受光器4を備えた測定装置を用いて測定できる。なお、この例では、レーザ光源1からのレーザ光をNDフィルタ2を介して試料3に照射し、試料からの散乱光を、レーザ光の光路に対して散乱角度θで変角可能であり、かつ光電子増幅管を備えた検出器(光受光器)4により検出し、散乱強度と散乱角度θとの関係を測定している。このような装置として、レーザ光散乱自動測定装置(ネオアーク(株)製)を利用できる。
【0119】
本発明の防眩性フィルムは、密着層を介して、基材フィルムに対して高い密着力で防眩層が密着している。密着性は、防眩層の上からカッターにより2mm間隔で縦方向及び横方向にそれぞれ6本の切れ目を入れて2mm角四方の碁盤目25個を形成し、セロハン粘着テープ(ニチバン(株)製)を密着させて、手で急速に引っ張り、剥離しなかった碁盤目の数で評価することができる。このような碁盤目剥離試験において、本発明の防眩性フィルムは、碁盤目の残存率が90%以上(例えば、90?100%、特に96?100%程度)である。
【0120】
本発明の防眩性フィルムの防眩層は、硬度が高く、傷つき防止機能を有している。すなわち、荷重を500gとし、JIS K5400に従い表面硬度(鉛筆硬度)を測定すると、防眩層の鉛筆硬度は、H以上(例えば、H?3H程度)である。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の防眩性フィルムにおいて、防眩層の表面には、前記相分離構造に対応した多数の微細な凹凸構造が形成されているため、表面反射による外景の映り込みを抑制し、防眩性を高めることができる。また、防眩層の硬度も高くハードコート層として機能させることもできる。特に、本発明による防眩層は、防眩性が高いだけでなく透過像の鮮明性も高い。そのため、本発明の防眩性フィルムは防眩性と光散乱性が必要とされる種々の用途、例えば、光学部材や、液晶表示装置などの表示装置の光学要素(光学部材)として有用である。また、基材フィルムとして環状オレフィン系ポリマーを用いているため、防眩性フィルムは、そのまま光学部材として用いてもよく、光学要素(例えば、偏光板、位相差板、導光板などの光路内に配設される種々の光学要素)と組み合わせて光学部材を形成してもよい。すなわち、光学要素の少なくとも一方の光路面に前記防眩性フィルムを配設又は積層してもよい。例えば、光学要素(偏光板、位相差板など)の少なくとも一方の面(光路面)に防眩性フィルムを積層して光学部材(積層光学部材)を形成してもよく、導光板の出射面に防眩性フィルムを配設又は積層してもよい。
【0122】
本発明の防眩性フィルムの防眩層には耐擦傷性が付与されているため、光学要素又は表示装置の最表層の傷つき防止フィルム(保護フィルム)としても機能させることができる。液晶表示では、偏光板が最表層に配設されるケースが多い。そのため、本発明の防眩性フィルムは、偏光板を構成する2枚の保護フィルムのうち少なくとも一方の保護フィルムに代えて、防眩性フィルムを用いた積層体(光学部材)、すなわち、偏光板の少なくとも一方の面に防眩性フィルムが積層された積層体(光学部材)として利用するのに適している。このような光学部材(特に偏光板と防眩性フィルムとの積層体など)は、液晶表示装置、特に、高精細又は高精彩液晶ディスプレイなどの大型液晶表示装置での映り込みを有効に防止でき。また、指やペン型入力機器を用いて表示画面に触れることにより入力信号を発生させるタッチパネル用途にも、耐擦傷性が付与された防眩性フィルムが積層された積層体(光学部材)を利用するのに適している。
【0123】
本発明の防眩性フィルムは、テレビジョン(TV)用途では、黒色が引き締まったコントラスト感の強いテレビジョン(TV)用途に特に好適に使用される。」

(ウ) 「【実施例】
【0126】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0127】
[環状オレフィン系ポリマーフィルムの作製]
環状オレフィン系ポリマー(ポリプラスチックス(株)製、商品名「TOPAS」グレード6013S-04)を用い、Tダイ付き押出機にて温度270℃で溶融させ、引き取り速度20m/分で100℃の冷却ロール上に溶融押出して、幅800mm、厚み100μmのフィルムを得た。
【0128】
[第1の塗布液の調製と密着層(透明コート層)の形成]
下記表1に示すアクリル系紫外線硬化モノマー58.2重量部を、メチルエチルケトン(MEK)/1-ブタノール=8/2(重量比)の混合溶媒40.0重量部に溶解した。この溶液に、セルロースアセテートプロピオネート(アセチル化度=2.5%、プロピオニル化度=46%、ポリスチレン換算数平均分子量75000;イーストマン製、CAP-482-20)1.8重量部、および光開始剤として、イルガキュア184およびイルガキュア907(チバスペシャルティーケミカルズ製)をそれぞれ0.9重量部溶解させ、第1の塗布液1?6を調製した。
【0129】
なお、アクリル系紫外線硬化モノマーとしては、ジメチロールジシクロペンタンジアクリレート;ダイセル・サイテック(株)製、IRR214K)(当合議体注:「ジメチロールジシクロペンタンジアクリレート;ダイセル・サイテック(株)製、IRR214K)」における「;」は、「(」の誤記である。)、ペンタエリスリトールトリアクリレート(ダイセル・サイテック(株)製、PETIA)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(ダイセル・サイテック(株)製、DPHA)、トリメチロールプロパントリアクリレート(ダイセル・サイテック(株)製、TMPTA)を用いた。調製した第1の塗布液1?6の配合組成は表1に示す通りである。
【0130】
第1の塗布液1?6を、それぞれ、ワイヤーバー#28を用いて環状オレフィン系ポリマーフィルム(1)上に塗布した後、70℃の防爆オーブン内で30秒間放置し、溶媒を蒸発させた。その後、コートフィルムを紫外線照射装置(ウシオ電機(株)製高圧水銀ランプ、紫外線照射量;800mJ/cm^(2))に通して紫外線照射して硬化処理し、密着層1?6を形成した。
【0131】
第1の塗布液1?6の組成とともに、密着層の膜厚及びフィルムのヘーズを表1に示す。
【0132】
【表1】

【0133】
[第2の塗布液(防眩層用コート溶液)の調製]
第2の塗布液A
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(ダイセル・サイテック(株)製、DPHA)28.3重量部、側鎖に重合性不飽和基を有するアクリル樹脂[(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体のカルボキシル基の一部に、3,4-エポキシシクロヘキセニルメチルアクリレートを付加させた化合物;ダイセル化学工業(株)製、ACAZ321M、固形分44重量%、1-メトキシ-2-プロパノール(MMPG)溶液]16.0重量部、セルロースアセテートプロピオネート(アセチル化度=2.5%、プロピオニル化度=46%、ポリスチレン換算数平均分子量75000;イーストマン製、CAP-482-20)1.7重量部を、メチルエチルケトン(MEK)39.1重量部、1-ブタノール11.2重量部、1-メトキシ-2-プロパノール(MMPG)3.8重量部の混合溶媒に溶解した。この溶液に、光開始剤として、イルガキュア184およびイルガキュア907(チバスペシャルティーケミカルズ製)をそれぞれ0.5重量部、防汚剤としてフッ素含有重合性化合物(OmnovaSolutions社製:Polyfox3320)を0.2重量部溶解させ、第2の塗布液Aを調製した。
【0134】
第2の塗布液B
トリメチロールプロパントリアクリレート(ダイセル・サイテック(株)製、TMPTA)38.0重量部、側鎖に重合性不飽和基を有するアクリル樹脂[(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体のカルボキシル基の一部に、3,4-エポキシシクロヘキセニルメチルアクリレートを付加させた化合物;ダイセル化学工業(株)製、ACAZ321M、固形分44重量%、1-メトキシ-2-プロパノール(MMPG)溶液]14.6重量部、セルロースアセテートプロピオネート(アセチル化度=2.5%、プロピオニル化度=46%、ポリスチレン換算数平均分子量75000;イーストマン製、CAP-482-20)1.6重量部を、メチルエチルケトン(MEK)35.1重量部、1-ブタノール10.8重量部の混合溶媒に溶解した。この溶液に、光開始剤として、イルガキュア184およびイルガキュア907(チバスペシャルティーケミカルズ製)を各0.5重量部、実施例1で用いた防汚剤を0.1重量部溶解させ、第2の塗布液Bを調製した。
【0135】
第2の塗布液C
トリメチロールプロパントリアクリレート(ダイセル・サイテック(株)製、TMPTA)30.1重量部をメチルエチルケトン(MEK)52.0重量部、1-メトキシ-2-プロパノール(MMPG)13.0重量部に溶解し、平均粒子径4μmのポリスチレンビーズ4.9重量部を添加した。この溶液に、光開始剤として、イルガキュア184およびイルガキュア907(チバスペシャルティーケミカルズ製)をそれぞれ0.5重量部溶解させ、第2の塗布液Cを調製した。
【0136】
実施例1
密着層1上に、第2の塗布液Aを、ワイヤーバー#24を用いて塗布した後、50℃の防爆オーブン内で25秒間放置し、溶媒を蒸発させた。その後、コートフィルムを紫外線照射装置(ウシオ電機(株)製高圧水銀ランプ、紫外線照射量;800mJ/cm^(2))に通して紫外線硬化処理を行い、ハードコート性および表面凹凸構造を有する防眩層を形成した。コート層全体の厚み(密着層+防眩層)は32μmであった。
【0137】
実施例1で得られた防眩性フィルムの透過光散乱測定結果を図2に示す。この図は、横軸の散乱角度(図1におけるθ;すなわち0度は透過直進光を示す)に対して、縦軸は散乱光強度(相対強度測定のため単位はない)をプロットしたものである。図から明らかなように散乱角度1.1°付近に散乱光にピーク極大が見られる。
【0138】
実施例1で得られた防眩性フィルムの表面をレーザー顕微鏡で観察した結果を図3に示す。凸部は独立した島状或いはそれらが部分的に結合して連なった構造に形成されており、かつ視野内で偏りなく均一に存在している様子がみてとれる。この凹凸構造の平均的な周期が、図2における散乱光の極大に対応しているものと考えられる。
【0139】
実施例2
密着層2上に、第2の塗布液Aを、ワイヤーバー#24を用いて塗布した後、50℃の防爆オーブン内で25秒間放置し、溶媒を蒸発させた。その後、コートフィルムを実施例1と同様にして紫外線硬化処理を行い、ハードコート性および表面凹凸構造を有する防眩層を形成した。コート層全体の厚み(密着層+防眩層)は34μmであった。
【0140】
実施例3
密着層3上に、第2の塗布液Aを、ワイヤーバー#24を用いて塗布した後、50℃の防爆オーブン内で25秒間放置し、溶媒を蒸発させた。その後、コートフィルムを実施例1と同様にして紫外線硬化処理を行い、ハードコート性および表面凹凸構造を有する防眩層を形成した。コート層全体の厚み(密着層+防眩層)は33μmであった。
【0141】
実施例4
密着層4上に、第2の塗布液Aを、ワイヤーバー#24を用いて塗布した後、50℃の防爆オーブン内で25秒間放置し、溶媒を蒸発させた。その後、コートフィルムを実施例1と同様にして紫外線硬化処理を行い、ハードコート性および表面凹凸構造を有する防眩層を形成した。コート層全体の厚み(密着層+防眩層)は34μmであった。
【0142】
実施例5
密着層5上に、第2の塗布液Aを、ワイヤーバー#24を用いて塗布した後、50℃の防爆オーブン内で25秒間放置し、溶媒を蒸発させた。その後、コートフィルムを実施例1と同様にして紫外線硬化処理を行い、ハードコート性および表面凹凸構造を有する防眩層を形成した。コート層全体の厚み(密着層+防眩層)は33μmであった。
【0143】
実施例6
密着層6上に、第2の塗布液Aを、ワイヤーバー#24を用いて塗布した後、50℃の防爆オーブン内で25秒間放置し、溶媒を蒸発させた。その後、コートフィルムを実施例1と同様にして紫外線硬化処理を行い、ハードコート性および表面凹凸構造を有する防眩層を形成した。コート層全体の厚み(密着層+防眩層)は33μmであった。
【0144】
実施例7
密着層5上に、第2の塗布液Bを、ワイヤーバー#28を用いて塗布した後、70℃の防爆オーブン内で20秒間放置し、溶媒を蒸発させた。その後、コートフィルムを実施例1と同様にして紫外線硬化処理を行い、ハードコート性および表面凹凸構造を有する防眩層を形成した。コート層全体の厚み(密着層+防眩層)は36μmであった。
【0145】
実施例8
密着層6上に、第2の塗布液Bを、ワイヤーバー#30を用いて塗布した後、70℃の防爆オーブン内で20秒間放置し、溶媒を蒸発させた。その後、コートフィルムを実施例1と同様にして紫外線硬化処理を行い、ハードコート性および表面凹凸構造を有する防眩層を形成した。コート層全体の厚み(密着層+防眩層)は38μmであった。
【0146】
実施例8で得られた防眩性フィルムの透過光散乱測定結果を図2に示す。図から明らかなように散乱角度0.7°付近に散乱光にピーク極大が見られる。
【0147】
防眩性フィルムの表面をレーザー顕微鏡で観察した結果を図4に示す。凸部は独立した島状に形成されており、かつ視野内で偏りなく均一に存在している様子がみてとれる。この凹凸構造の平均的な周期が、図2における散乱光の極大に対応しているものと考えられる。
・・・略・・・
【0150】
実施例1?8および比較例1?2で得られた防眩性フィルムについて、以下のようにして、全光線透過率、ヘーズ、内部ヘーズ、透過像鮮明度、透過散乱光強度の極大を示すピーク角度、塗膜密着性、鉛筆硬度を測定した。また、以下のようにして、液晶表示装置に実装して防眩性などを評価した。
【0151】
[ヘーズおよび全光線透過率測定]
日本電色(株)製 ヘーズメーター(商品名「NDH-5000W」)を用いて測定した。全体ヘーズの測定は、防眩性フィルム単体で、防眩層側を受光器側に配置し測定した。
【0152】
内部ヘーズの測定は、防眩性フィルムの防眩層側に透明両面粘着糊(厚み約25μm)を貼り、その上に基材フィルムとして用いた環状オレフィン系ポリマーフィルム(1)を貼り合わせて、表面凹凸をなくした状態でヘーズ測定を行った。
【0153】
[透過像鮮明度測定]
写像測定器(スガ試験機(株)製、商品名「ICM-1T」)を用いて、光学櫛(櫛歯の幅=0.5mm)を用いて、JIS K7105に基づいて測定した。
【0154】
[透過散乱光強度測定]
防眩性フィルムを透過した光の角度分布は、図1に示すような光源にHe-Neレーザーを用いゴニオメーターに設置した光受光器を備えた測定装置(レーザ光散乱自動測定装置:ネオアーク(株)製)を用いて測定した。透過散乱光強度のピークの判定としては、散乱光強度の角度分布プロファイルにおいて、ピーク状に分離、ショルダー状ピーク、平坦状ピークである場合も極大値とみなして、その角度をピーク角度とした。
【0155】
[塗膜密着性評価方法]
塗膜密着性は、防眩層の上からカッターにより2mm間隔で縦方向及び横方向にそれぞれ6本の切れ目を入れて2mm角四方の碁盤目25個を作製し、セロハン粘着テープ(ニチバン(株)製)を密着させ、手で急速に引っ張り、剥離しなかった碁盤目の数で評価した。
【0156】
[鉛筆硬度測定]
硬度はJIS K5400に従って評価した。但し、荷重は500gとした。
【0157】
[実装評価]
液晶表示装置(シャープ(株)製「アクオスLC20AX5」)を使用し実装評価を行なった。なお、表層側偏光板はクリアタイプの偏光板に貼り替え、その上に実施例1?8及び比較例1?2の防眩性フィルムを透明両面粘着糊で貼りつけ、以下の基準で目視にて評価した。
【0158】
(防眩性)
蛍光管がむき出しの蛍光灯をパネル表面に反射させて、蛍光管の輪郭がぼかされているかどうかを目視で観察し、以下の基準で評価した。
【0159】
◎:蛍光灯の輪郭が全く映り込まない
○:蛍光灯の輪郭の映り込みはわずかに認められるが、気にならないレベルである
△:蛍光灯の輪郭の映り込みが認められ、気になるレベルである
×:強く蛍光灯の輪郭が映り込み、非常に気になる
【0160】
(黒味)
明室環境において、黒表示をしたとき、表面が黒く感じるかどうかを目視で観察し、以下の基準で評価した。
【0161】
◎:表面が非常に黒く感じる
○:表面が黒く感じる
△:表面があまり黒く感じない
×:表面が殆ど黒く感じない
【0162】
(ギラツキ)
外光が映り込まない環境において、液晶の表示を緑表示とし、液晶パネルとの距離約50cmの位置にて目視で観察し、以下の基準で評価した。
【0163】
◎:ギラツキを全く感じない
○:ギラツキを感じない
△:ギラツキをわずかに感じる
×:ギラツキを感じる
結果を表2に示す。
【0164】
【表2】

【0165】
表2から明らかなように、実施例1?8の防眩性フィルムは、塗膜密着性にも優れ、高い鉛筆硬度を有するだけではなく、相分離による均一な凹凸構造のため、防眩性に有効な反射光特性を有し、実装評価においても優れた特性を有している。これに対して、比較例1の防眩性フィルムは、相分離型防眩層が形成されているため、光学特性は優れているが、塗膜密着性が極めて低い。また、比較例2の防眩性フィルムは微粒子による凹凸形成であり、内部ヘーズのため実装評価において黒味に劣り、凹凸に粗密があるためギラツキがやや認められる。
【図面の簡単な説明】
【0166】
【図1】図1は透過散乱光特性(透過散乱光の角度分布)を測定するための装置を示す概略図である。
【図2】図2は実施例1及び実施例8で得られた防眩性フィルムの透過散乱光の角度分布を測定した結果を示すグラフである。
【図3】図3は実施例1で得られた防眩性フィルムの表面凹凸形状を示すレーザー反射顕微鏡写真である。
【図4】図4は実施例8で得られた防眩性フィルムの表面凹凸形状を示すレーザー反射顕微鏡写真である。」

(エ) 「【図1】



(オ) 「【図2】



(カ) 「【図3】



(キ) 「
【図4】



イ 引用発明1
引用文献15には、「実施例5」で得られた「防眩性フィルム」の発明として、以下のものが記載されているものと認められる(以下、「引用発明1」という。)。(当合議体注:「全体ヘーズ」を「ヘーズ」に統一して記載している。)

「厚み100μmの環状オレフィン系ポリマーフィルムを作製し、
ジメチロールジシクロペンタンジアクリレート(IRR214K)及びトリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)の組成(重量割合)を5対5としたアクリル系紫外線硬化モノマー58.2重量部を、メチルエチルケトン(MEK)/1-ブタノール=8/2(重量比)の混合溶媒40.0重量部に溶解し、この溶液に、セルロースアセテートプロピオネート1.8重量部、および光開始剤として、イルガキュア184およびイルガキュア907をそれぞれ0.9重量部溶解させ、第1の塗布液5を調製し、
第1の塗布液5を、環状オレフィン系ポリマーフィルム上に塗布した後、70℃の防爆オーブン内で30秒間放置し、溶媒を蒸発させ、その後、紫外線照射して硬化処理して、密着層5を形成し、
ここで、密着層5の厚みは19μm、密着層5を形成した環状オレフィン系ポリマーフィルムのヘーズは0.1%であり、
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)28.3重量部、側鎖に重合性不飽和基を有するアクリル樹脂[(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体のカルボキシル基の一部に、3,4-エポキシシクロヘキセニルメチルアクリレートを付加させた化合物、固形分44重量%、1-メトキシ-2-プロパノール(MMPG)溶液]16.0重量部、セルロースアセテートプロピオネート1.7重量部を、メチルエチルケトン(MEK)39.1重量部、1-ブタノール11.2重量部、1-メトキシ-2-プロパノール(MMPG)3.8重量部の混合溶媒に溶解し、この溶液に、光開始剤として、イルガキュア184及びイルガキュア907をそれぞれ0.5重量部、防汚剤としてフッ素含有重合性化合物(OmnovaSolutions社製:Polyfox3320)を0.2重量部溶解させて、第2の塗布液Aを調製し、
密着層5上に、第2の塗布液Aを、塗布した後、50℃の防爆オーブン内で25秒間放置し、溶媒を蒸発させ、その後、紫外線照射装置(ウシオ電機(株)製高圧水銀ランプ、紫外線照射量;800mJ/cm^(2))に通して紫外線硬化処理を行い、ハードコート性および表面凹凸構造を有する防眩層を形成して、得られた防眩性フィルムであって、
層全体の厚み(密着層+防眩層)は33μmであり、
全光線透過率が90.4%、ヘーズが7.5%、内部ヘーズが0.3%、透過鮮明度が54%、透過散乱光強度の極大を示すピーク角度が1.2°、塗膜密着特性が25/25、鉛筆硬度が2H、防眩性が◎、黒味が◎、ギラツキが◎である、防眩性フィルム。
ここで、全光線透過率、ヘーズ、内部ヘーズ、透過像鮮明度、透過散乱光強度の極大を示すピーク角度、塗膜密着性、鉛筆硬度、防眩性、黒味、ギラツキは、以下の測定、評価方法によるもの。
全光線透過率、ヘーズ及び内部ヘーズの測定
日本電色(株)製ヘーズメーター(商品名「NDH-5000W」)を用い、ヘーズの測定は、防眩性フィルム単体で、防眩層側を受光器側に配置し測定し、内部ヘーズの測定は、防眩性フィルムの防眩層側に透明両面粘着糊(厚み約25μm)を貼り、その上に基材フィルムとして用いた環状オレフィン系ポリマーフィルムを貼り合わせて、表面凹凸をなくした状態でヘーズ測定を行った。
透過像鮮明度の測定
写像測定器(スガ試験機(株)製、商品名「ICM-1T」)を用いて、光学櫛(櫛歯の幅=0.5mm)を用いて、JIS K7105に基づいて測定した。
透過散乱光強度の極大を示すピーク角度の測定
防眩性フィルムを透過した光の角度分布を、光源にHe-Neレーザーを用いゴニオメーターに設置した光受光器を備えた測定装置(レーザ光散乱自動測定装置:ネオアーク(株)製)を用いて測定し、透過散乱光強度のピークの判定としては、散乱光強度の角度分布プロファイルにおいて、ピーク状に分離、ショルダー状ピーク、平坦状ピークである場合も極大値とみなして、その角度をピーク角度とした。
塗膜密着性の測定
塗膜密着性は、防眩層の上からカッターにより2mm間隔で縦方向及び横方向にそれぞれ6本の切れ目を入れて2mm角四方の碁盤目25個を作製し、セロハン粘着テープ(ニチバン(株)製)を密着させ、手で急速に引っ張り、剥離しなかった碁盤目の数で評価した。
鉛筆硬度の測定
鉛筆硬度はJIS K5400に従って評価し、荷重は500gとした。
防眩性、黒味及びギラツキの評価方法
液晶表示装置(シャープ(株)製「アクオスLC20AX5」)を使用し、表層側偏光板はクリアタイプの偏光板に貼り替え、その上に防眩性フィルムを透明両面粘着糊で貼りつけ、
防眩性は、蛍光管がむき出しの蛍光灯をパネル表面に反射させて、蛍光管の輪郭がぼかされているかどうかを目視で観察し、以下の基準で評価した。
◎:蛍光灯の輪郭が全く映り込まない
○:蛍光灯の輪郭の映り込みはわずかに認められるが、気にならないレベルである
△:蛍光灯の輪郭の映り込みが認められ、気になるレベルである
×:強く蛍光灯の輪郭が映り込み、非常に気になる
黒味は、明室環境において、黒表示をしたとき、表面が黒く感じるかどうかを目視で観察し、以下の基準で評価した。
◎:表面が非常に黒く感じる
○:表面が黒く感じる
△:表面があまり黒く感じない
×:表面が殆ど黒く感じない
ギラツキは、外光が映り込まない環境において、液晶の表示を緑表示とし、液晶パネルとの距離約50cmの位置にて目視で観察し、以下の基準で評価した。
◎:ギラツキを全く感じない
○:ギラツキを感じない
△:ギラツキをわずかに感じる
×:ギラツキを感じる」

ウ 引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用文献3として引用され、本願出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2014-6448号公報(以下、同じく「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。

(ア) 「【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子又は精密機器の表示部において、表示装置と組み合わせて用いられる光学フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ(LCD)は、テレビ(TV)用途又は動画表示用途で、表示装置として目覚ましい進歩を遂げ、急速に普及が進んでいる。
・・・略・・・
【0003】
これらのディスプレイにおいて、画質を重視するテレビやモニタなどの用途、外光の強い屋外で使用されるビデオカメラなどの用途では、外光の映り込みを防止する処理が表面に施されるのが通例である。その手法の一つに防眩処理があり、例えば、通常、液晶ディスプレイの表面には防眩処理がなされている。防眩処理は、表面に微細な凹凸構造を形成することにより、表面反射光を散乱し、映り込み像をぼかす効果を発現させる処理であり、通常、LCDには、このような処理をした防眩性フィルムが配設されている。
【0004】
また、LCDと並んで、近年、普及が進んでいるプラズマディスプレイパネル(PDP)において、優れた透過画像を表示でき、かつ優れた防眩性を有する防眩性フィルムとして、特開2009-265143号公報(特許文献1)には、透明フィルムと、この透明フィルムの上に形成されるハードコート層からなる防眩性フィルムであって、前記ハードコート層中に(a)一次粒径が40?200nmのシリカ微粒子と(b)一次粒径が1?30nmのシリカ微粒子とバインダーとを含み、かつシリカ微粒子凝集構造を含み、前記防眩性フィルムのハードコート層側表面の中心線平均粗さRaが0.05?0.3μm、凹凸周期λaが40?200μm、前記防眩性フィルムのヘイズ値が0.1?3.0%である防眩性フィルムが開示されている。この文献には、シリカ微粒子の含有量は、フィルム重量の0.05?30%(特に0.2?25%)と記載されている。
・・・略・・・
【0005】
しかし、この防眩性シートでは、シリカ微粒子の割合が多いため、ハードコート層の機械的特性が低下する。また、多量のシリカ微粒子を凝集させるため、凝集剤が必要であり、ブリードアウトの原因となる。さらに、防眩性も充分ではなく、強い光が映り込む環境下で視認性を向上するのは困難である。
・・・略・・・
【0007】
しかし、この防眩性フィルムでは、エンボス板の調製が困難である上に、製造工程が煩雑であり、生産性が低い。さらに、防眩性も充分ではなく、強い光が映り込む環境下で視認性を向上するのは困難である。
・・・略・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、生産性が高く、防眩性に優れた光学フィルム及びその製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、映り込みを抑制でき、視認性に優れた光学フィルム及びその製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、耐擦傷性及び機械的特性にも優れた光学フィルム及びその製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、凝集剤などのブリードアウトが抑制された光学フィルム及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、透明フィルムの上に形成されたハードコート層の表面に、硬化性樹脂前駆体及びナノファイバーを含む硬化性組成物の硬化物で微細な凹凸構造を形成することにより、防眩性に優れた光学フィルム(特に防眩フィルム)を高い生産性で製造できることを見いだし、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の光学フィルムは、透明フィルムと、この透明フィルムの上に形成されたハードコート層とを含む光学フィルムであって、前記ハードコート層が、硬化性樹脂前駆体及びナノファイバーを含む硬化性組成物の硬化物で形成され、かつ前記ハードコート層の表面に、凹凸の平均間隔Sm5?40μm及び十点平均粗さRz0.8?2.5μmの凹凸構造が形成されている。
【0015】
本発明の光学フィルムは、反射散乱光プロファイルにおける散乱角0°の散乱光強度(I_(0))に対する散乱角10°の散乱光強度(I_(10))の比(I_(10)/I_(0))が0.05?0.7、散乱角0°の散乱光強度(I_(0))に対する散乱角20°の散乱光強度(I_(20))の比(I_(20)/I_(0))が0.01?0.5の範囲にあってもよい。また、反射散乱光プロファイルにおける散乱角5°の散乱光強度(I_(5))に対する散乱角15°の散乱光強度(I_(15))の比(I_(15)/I_(5))は0.3?0.8、散乱角5°の散乱光強度(I_(5))に対する散乱角20°の散乱光強度(I_(20))の比(I_(20)/I_(5))は0.2?0.6、散乱角5°の散乱光強度(I_(5))に対する散乱角30°の散乱光強度(I_(30))の比(I_(30)/I_(5))は0.15?0.4の範囲にあってもよい。さらに、視感度反射率Yは4%以下であってもよい。
【0016】
本発明の光学フィルムにおいて、前記ナノファイバーはセルロースナノファイバーであってもよい。前記硬化性組成物は、さらに無機ナノ粒子(特に金属酸化物粒子)を含んでいてもよい。前記硬化性樹脂前駆体は、ケイ素含有多官能(メタ)アクリレートを含んでいてもよい。前記ナノファイバーの割合は、硬化性樹脂前駆体100重量部に対して0.01?3重量部程度であってもよい。前記硬化性組成物は、さらにエチレン性不飽和結合を有さない高分子(特にセルロース誘導体)を含んでいてもよい。前記ハードコート層は凝集剤を実質的に含有しなくてもよい。前記ナノファイバーは10?500nmの平均繊維径及び1?20μmの平均繊維長を有していてもよい。
【0017】
本発明には、透明フィルムの上に、ハードコート層を形成するための塗工液を塗布し、乾燥後、活性エネルギー線を照射して硬化する前記光学フィルムの製造方法も含まれる。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、透明フィルムの上に形成されたハードコート層の表面が、硬化性樹脂前駆体及びナノファイバーを含む硬化性組成物の硬化物で形成された微細な凹凸構造を有するため、防眩性に優れた光学フィルムが高い生産性で得られる。特に、この光学フィルムは、細かい凹凸を有する表面の形状により反射率を低下できるとともに、反射散乱光を散乱角15°以上の広角側に散乱させることにより散乱角0?5°付近の散乱光強度が低いため、映り込みを抑制でき、視認性に優れており、強い光が映り込む環境下でも視認性に優れたディスプレイの表示が得られる。すなわち、周辺の環境が変化した場合でも安定した表示の視認性が得られるため、カーナビゲーション用ディスプレイ、スマートフォン、タブレットパーソナルコンピュータ(PC)等のディスプレイ表面として最適である。また、蛍光灯や窓等の強い光が映りこむような環境下に設置されても映り込みがほとんどないため、PCモニターやテレビを含む各種のディスプレイの表面シートとしても適している。
【0019】
また、ハードコート層を硬化性樹脂前駆体及びナノファイバーを含む硬化性組成物の硬化物で形成されているため、耐擦傷性及び機械的特性も向上できる。さらに、凝集剤を配合することなく、優れた光学特性を発現する凹凸構造を形成できるため、凝集剤などのブリードアウトが抑制された光学フィルムが得られる。」

(イ) 「【発明を実施するための形態】
【0020】
[ハードコート層]
本発明の光学フィルムは、透明フィルムの上に形成されたハードコート層を含む。このハードコート層は、硬化性樹脂前駆体及びナノファイバーを含む硬化性組成物の硬化物で形成されており、表面に微細な凹凸構造を有している。
【0021】
(ハードコート層の表面構造)
具体的には、表面の凹凸構造は、凹凸の平均間隔Smが5?40μmであり、好ましくは8?38μm、さらに好ましくは10?35μm(特に12?32μm)程度であってもよい。Smが小さすぎると、防眩性が低下し、映り込みも発生し易く、Smが大きすぎると、ギラツキが発生し易くなる。
【0022】
前記凹凸構造の十点平均粗さRzは0.8?2.5μmであり、好ましくは0.85?2.3μm、さらに好ましくは0.9?2μm(特に1?1.8μm)程度であってもよい。Rzが小さすぎると、防眩性が低下し、映り込みも発生し易く、Rzが大きすぎると、画像の鮮明性が低下し、製造も困難となる。
【0023】
本発明では、Smが小さいにも拘わらず、比較的大きなRzを有しているため、反射率を低下できるとともに、反射散乱光を広角側に散乱できるため、映り込みを抑制でき、視認性に優れており、強い光が映り込む環境下でも視認性を向上できる。
【0024】
なお、本発明では、これらの凹凸の平均間隔Sm及び十点平均粗さRzは、JIS B0601に準拠した方法で測定できる。
【0025】
(硬化性組成物)
表面に前記凹凸構造が形成されたハードコート層は、透明で、かつ硬質な材料で形成されていればよく、光学特性及び機械的特性に優れたハードコート層を簡便に製造できる点から、硬化性樹脂前駆体及びナノファイバーを含む硬化性組成物の硬化物で形成されている。硬化性組成物の硬化物で形成されることにより耐擦傷性などの機械的特性を向上できるともに、ナノファイバーを含有することにより、光学特性を損なうことなく、簡便な方法で、前記凹凸構造を形成できる。
【0026】
(A)硬化性樹脂前駆体
硬化性樹脂前駆体としては、熱や活性エネルギー線(紫外線や電子線など)などにより反応する官能基を有する化合物であり、熱や活性エネルギー線などにより硬化又は架橋して樹脂(特に硬化又は架橋樹脂)を形成可能な種々の硬化性化合物が使用できる。前記樹脂前駆体としては、例えば、熱硬化性化合物又は樹脂・・・略・・・、活性光線(紫外線など)により硬化可能な光硬化性化合物(光硬化性モノマー、オリゴマーなどの紫外線硬化性化合物など)などが例示でき、光硬化性化合物は、EB(電子線)硬化性化合物などであってもよい。なお、光硬化性モノマー、オリゴマーや低分子量であってもよい光硬化性樹脂などの光硬化性化合物を、単に「光硬化性樹脂」という場合がある。
【0027】
光硬化性化合物には、例えば、単量体、オリゴマー(又は樹脂、特に低分子量樹脂)が含まれる。単量体は、例えば、1つの重合性基を有する単官能単量体と、少なくとも2つの重合性基を有する多官能単量体とに分類できる。
【0028】
単官能単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルなどの(メタ)アクリル系単量体、ビニルピロリドンなどのビニル系単量体、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレートなどの橋架環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0029】
多官能単量体には、2?8程度の重合性基を有する多官能単量体が含まれ、2官能単量体としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、・・・略・・・などが挙げられる。
【0030】
3?8官能単量体としては、例えば、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0031】
オリゴマー又は樹脂としては、ビスフェノールA-アルキレンオキサイド付加体の(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート(ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレート、・・・略・・・、シリコーン(メタ)アクリレートなどが例示できる。・・・略・・・これらの光硬化性化合物は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0032】
また、硬化性樹脂前駆体は、ヘイズを抑制できるとともに、屈折率も調整でき、視認性も向上できる点から、前記ケイ素非含有硬化性樹脂前駆体(特にケイ素非含有多官能(メタ)アクリレート)に加えて、ケイ素含有多官能(メタ)アクリレートを含んでいてもよい。
【0033】
ケイ素含有多官能(メタ)アクリレートとしては、シリコーン(メタ)アクリレートが汎用される。シリコーン(メタ)アクリレートは、通常、オルガノシロキサン単位[-Si(R)_(2)-O-](基Rは置換基を示す)を有しており、Si原子(又はオルガノシロキサン単位)の数は、1分子中に1以上(例えば、1?30、好ましくは1?20、さらに好ましくは1?15程度)であってもよい。また、(メタ)アクリロイル基の数は、1分子中に2以上(例えば、2?20、好ましくは2?15、さらに好ましくは2?10程度)であってもよい。
【0034】
シリコーン(メタ)アクリレートは、モノマーであってもよく、オリゴマー(又はプレポリマー)であってもよく、モノマー及びオリゴマーを組み合わせて使用してもよい。また、オリゴマー(プレポリマー)は、複数の(-Si-O)結合を有するポリシロキサン系オリゴマーであってもよく、加水分解縮合性基(例えば、メトキシ、エトキシなどのC_(1-4)アルコキシ基、塩素原子などのハロゲン原子など)を有するシリコーン(メタ)アクリレートモノマーの加水分解縮合による2量体、3量体などの多量体であってもよい。
【0035】
代表的なシリコーン(メタ)アクリレートとしては、1分子中に1つのSi原子を有するシリコーンモノ乃至テトラ(メタ)アクリレート、1分子中に2つのSi原子を有するシリコーンテトラ乃至ヘキサ(メタ)アクリレートなどが例示できる。
【0036】
これらのシリコーン(メタ)アクリレートのうち、1分子中に複数(例えば、2?10個、好ましくは3?8個、さらに好ましくは4?7個程度)の(メタ)アクリロイル基と、1又は複数(例えば、1?20個、好ましくは1?10個、さらに好ましくは1?6個程度)のSi原子を有するシリコーン(メタ)アクリレート成分[例えば、シリコーンジ乃至ヘキサ(メタ)アクリレート、好ましくはシリコーントリ乃至ヘキサ(メタ)アクリレート]が好ましい。なお、シリコーンジ(メタ)アクリレートは、商品名「EBECRYL350」(ダイセル・サイテック(株)製)などとして入手でき、シリコーンヘキサ(メタ)アクリレートは、商品名「EBECRYL1360」(ダイセル・サイテック(株)製)などとして入手できる。
【0037】
さらに、硬化性樹脂前駆体は、ハードコート層の強度を向上する点などから、フッ素原子を含有する硬化性化合物を含んでいてもよい。フッ素原子を含有する前駆体(フッ素含有硬化性化合物)としては、前記単量体及びオリゴマーのフッ化物、例えば、フッ化アルキル(メタ)アクリレート[例えば、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレートやトリフルオロエチル(メタ)アクリレートなど]、フッ化(ポリ)オキシアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート[例えば、フルオロエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、フルオロプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなど]、フッ素含有エポキシ樹脂、フッ素含有ウレタン系樹脂などが挙げられる。
【0038】
好ましい硬化性樹脂前駆体は、短時間で硬化できる光硬化性化合物、例えば、紫外線硬化性化合物(モノマー、オリゴマーや低分子量であってもよい樹脂など)、EB硬化性化合物である。特に、実用的に有利な樹脂前駆体は、紫外線硬化性樹脂である。さらに、耐擦傷性を向上させるため、光硬化性樹脂は、2官能以上(好ましくは2?10官能、さらに好ましくは3?8官能程度)の光硬化性化合物、特に、多官能(メタ)アクリレート、例えば、3官能以上(特に4?8官能)の(メタ)アクリレート(例えば、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなど)を含むのが好ましい。特に、5?7官能(メタ)アクリレートと、2?4官能(メタ)アクリレート[特に、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどの3?4官能(メタ)アクリレート]とを組み合わせてもよく、両者の割合(重量比)は、例えば、前者/後者=100/0?1/99、好ましくは90/10?10/90、さらに好ましくは80/20?20/80程度であり、微細な凹凸を形成し易い点から、例えば、90/10?50/50(特に80/20?60/40)程度であってもよい。
・・・略・・・
【0041】
硬化性樹脂前駆体は、その種類に応じて、硬化剤を含んでいてもよい。例えば、・・・略・・・光硬化性樹脂では光重合開始剤を含んでいてもよい。
・・・略・・・
【0043】
(B)ナノファイバー
ナノファイバーは、無機繊維であってもよいが、調製し易い点などから、有機繊維が好ましい。有機繊維としては、天然繊維(例えば、セルロース、シルク、羊毛繊維など)、再生繊維(例えば、タンパク質又はポリペプチド繊維、アルギン酸繊維など)、瀝青炭質繊維(ピッチ系繊維など)、合成繊維(熱硬化性樹脂繊維、熱可塑性樹脂繊維など)などが挙げられる。これらの有機繊維のうち、繊維長が短いナノファイバーを調製し易い点から、セルロース繊維が好ましい。
【0044】
セルロースナノファイバーとしては、例えば、β-1,4-グルカン構造を有する多糖類で形成されている限り、特に制限されず、高等植物由来のセルロース繊維[例えば、木材繊維(針葉樹、広葉樹などの木材パルプなど)、竹繊維、サトウキビ繊維、種子毛繊維(コットンリンター、ボンバックス綿、カポックなど)、・・・略・・などが挙げられる。これらのセルロースナノファイバーは、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0045】
これらのセルロースナノファイバーのうち、生産性が高く、適度な繊維径及び繊維長を有する点から、植物由来のセルロース繊維、例えば、木材繊維(針葉樹、広葉樹などの木材パルプなど)や種子毛繊維(コットンリンターパルプなど)などのパルプ由来のセルロース繊維が好ましい。
【0046】
ナノファイバー(特にセルロースナノファイバー)の平均繊維径は、ナノメータサイズであれば特に限定されないが、例えば、10?500nmであり、好ましくは30?400nm、さらに好ましくは50?300nm(特に100?250nm)程度である。平均繊維径が小さすぎると、凹凸構造を形成するのが困難となる。平均繊維径が大きすぎると、微細な凹凸構造を形成するのが困難となる。本発明では、粒径の大きな粒子を用いることなく、ナノメータサイズのファイバーを用いて特定の条件で製造することにより、微細な凹凸構造を形成できる。
【0047】
さらに、繊維径分布の標準偏差は、均一な凹凸構造を形成できる点から、例えば、80nm以下(例えば、1?80nm)、好ましくは3?50nm、さらに好ましくは5?40nm(特に10?30nm)程度であってもよいさらに、最大繊維径も500nm未満であってもよく、例えば、30?400nm、好ましくは40?300nm、さらに好ましくは50?200nm程度であってもよい。
・・・略・・・
【0049】
ナノファイバー(特にセルロースナノファイバー)の平均繊維長は0.1?30μm程度であり、例えば、0.5?20μm(例えば、1?20μm)、好ましくは1?10μm、さらに好ましくは2?8μm(特に2.5?6μm)程度である。平均繊維長が小さすぎると、凹凸構造を形成するのが困難となる。平均繊維長が大きすぎると、凹凸構造が大きくなり過ぎて、反射率が高くなる。
【0050】
さらに、平均繊維径に対する平均繊維長の比(平均繊維長/平均繊維径)(平均アスペクト比)は2?100程度であり、例えば、3?50、好ましくは5?30、さらに好ましくは10?25(特に10?20)程度である。本発明では、このように、ナノサイズの平均径を有するとともに、比較的短い繊維長及び低いアスペクト比を有するナノファイバーを用いることにより、微細な凹凸構造を形成できる。
・・・略・・・
【0052】
ナノファイバーの横断面形状(繊維の長手方向に垂直な断面形状)は、特に限定されないが、セルロースナノファイバーの場合、バクテリアセルロースのような異方形状(扁平形状)であってもよいが、植物由来のナノファイバーの場合、通常、略等方形状である。略等方形状としては、例えば、真円形状、正多角形状などであり、略円形状の場合、短径に対する長径の比(平均アスペクト比)は、例えば、1?2、好ましくは1?1.5、さらに好ましくは1?1.3(特に1?1.2)程度である。
・・・略・・・
【0054】
ナノファイバー(特にセルロースナノファイバー)の割合は、硬化性樹脂前駆体100重量部に対して、例えば、0.1?4重量部程度の範囲から選択できるが、光学特性を低下させず、微細な凹凸構造を形成できる点から、例えば、0.2?3重量部、好ましくは0.5?2.5重量部、さらに好ましくは1?2.3重量部程度である。ナノファイバーの割合が少なすぎると、凹凸構造を形成するのが困難となる。ナノファイバーの割合が多すぎると、光学特性が低下する。
【0055】
(C)エチレン性不飽和結合を有さない高分子
硬化性組成物は、柔軟性などの機械的特性を向上させるために、さらに硬化性樹脂前駆体の硬化反応に関与するエチレン性不飽和結合を有さない高分子を含んでいてもよい。
【0056】
このような高分子としては、例えば、オレフィン系樹脂、・・・略・・・セルロース誘導体・・・略・・・などが例示できる。これらの高分子は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0057】
これらの高分子のうち、スチレン系樹脂・・・略・・・セルロース誘導体などが汎用されるが、透明性及び耐熱性に優れるとともに、柔軟性などの機械的特性も向上できる点から、セルロース誘導体が好ましい。
【0058】
セルロース誘導体には、セルロースエステル類、セルロースエーテル類、セルロースカーバメート類が含まれる。
【0059】
セルロースエステル類としては、例えば、脂肪族有機酸エステル(セルロースジアセテート、セルローストリアセテートなどのセルロースアセテート;セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのC_(2-6)アシレートなど)・・・略・・・などが例示できる。
・・・略・・・
【0061】
これらのセルロース誘導体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのセルロース誘導体のうち、・・・略・・・セルロースアセテートプロピオネート・・・略・・・などのセルロースC_(2-6)アシレートが好ましい。なかでも、溶剤のへの溶解性が高く、塗工液の調製がし易い上に、少量の添加によって塗工液の粘度調節が容易にできるとともに、塗工液でのセルロースナノファイバーの凝集を抑制し、保存安定性を高めるため、・・・略・・セルロースアセテートプロピオネート・・・略・・・セルロースC_(2-4)アシレート(特に、セルロースアセテートプロピオネートなどのセルロースアセテートC_(3-4)アシレート)が好ましい。
【0062】
前記高分子の割合は、硬化性樹脂前駆体100重量部に対して、例えば、0.01?30重量部、好ましくは0.05?20重量部(例えば、0.1?5重量部)、さらに好ましくは0.2?3重量部(特に0.3?2重量部)程度である。前記高分子の割合は、ナノファイバー100重量部に対して、例えば、5?200重量部、好ましくは10?100重量部、さらに好ましくは20?70重量部程度である。本発明では、前記高分子の割合を調整することにより、ハードコート性と機械的特性とのバランスを調整でき、この範囲にあると、両者のバランスに優れる。
【0063】
(D)無機粒子
硬化性組成物は、透明性などの光学特性を改良する点などから、さらに無機粒子を含んでいてもよい。
【0064】
無機粒子の形状としては、特に制限されず、例えば、球状、楕円体状、多角体形(多角錘状、正方体状、直方体状など)、板状、棒状、不定形状などが挙げられる。これらの形状のうち、光学特性などの点から、略球状などの等方形状が好ましい。
【0065】
無機粒子の平均一次粒径は、1?60nm(例えば、1?50nm)、好ましくは2?30nm、さらに好ましくは3?15nm(特に5?10nm)程度である。無機粒子の平均粒径が小さすぎると、ヘイズや反射率を低減する効果が低下する。無機粒子の平均粒径が大きすぎると、表面の凹凸構造に影響を与え、光学特性が低下する。
【0066】
無機粒子としては、例えば、金属単体、金属酸化物、金属硫酸塩、金属珪酸塩、金属リン酸塩、金属炭酸塩、金属水酸化物、ケイ素化合物、フッ素化合物、天然鉱物などが挙げられる。無機粒子は、カップリング剤(チタンカップリング剤、シランカップリング剤)により表面処理されていてもよい。これらの無機粒子は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの無機粒子のうち、透明性などの点から、酸化チタンなどの金属酸化物粒子、酸化ケイ素などのケイ素化合物粒子、フッ化マグネシウムなどのフッ素化合物粒子などが好ましく、ヘイズを抑制でき、耐擦傷性にも優れる点から、金属酸化物粒子が特に好ましい。さらに、金属酸化物粒子は、低屈折率層などとの密着性も向上できる。
【0067】
金属酸化物粒子を構成する金属酸化物としては、例えば、周期表第4A族金属酸化物(例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウムなど)、第5A族金属酸化物(酸化バナジウムなど)・・・略・・・第4B族金属酸化物(酸化錫など)、第5B族金属酸化物(酸化アンチモンなど)などが挙げられる。
【0068】
これらの金属酸化物粒子は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの金属酸化物粒子のうち、アンチモン、錫、亜鉛を含む金属酸化物、例えば、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン含有酸化錫(アンチモンドープ酸化錫)、酸化錫、酸化亜鉛などが好ましく、アンチモン含有酸化錫、酸化アンチモン、酸化錫及び酸化亜鉛からなる群から選択された少なくとも一種で構成された微粒子(特にアンチモン含有酸化錫粒子(ATO粒子))が特に好ましい。
・・・略・・・
【0070】
無機粒子の割合は、硬化性樹脂前駆体100重量部に対して、例えば、0.01?10重量部、好ましくは0.1?5重量部、さらに好ましくは0.5?3重量部(特に0.8?2重量部)程度である。無機粒子の割合は、ナノファイバー100重量部に対して、例えば、10?200重量部、好ましくは20?150重量部、さらに好ましくは30?100重量部程度である。無機粒子の割合が少なすぎると、光学特性の改良効果が小さい。無機粒子の割合が多すぎると、機械的特性が低下するとともに、防眩性が弱まる。
【0071】
(E)他の添加剤
硬化性組成物は、重合開始剤を含んでいてもよい。重合開始剤は、・・・略・・・光重合開始剤(光ラジカル発生剤)であってもよい。好ましい重合開始剤は、光重合開始剤である。
・・・略・・・
【0072】
溶媒は、前記硬化性樹脂前駆体及び前記高分子の種類及び溶解性に応じて選択でき、少なくとも固形分(硬化性樹脂前駆体、前記高分子、反応開始剤、その他添加剤)を均一に溶解できる溶媒であればよい。そのような溶媒としては、例えば、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン・・・略・・・など)、水、アルコール類(・・・略・・・ブタノール・・・略・・・など)、セロソルブ類(・・・略・・・プロピレングリコールモノメチルエーテル(1-メトキシ-2-プロパノール)など)・・・略・・・など)などが例示できる。これらの溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用でき、混合溶媒であってもよい。
・・・略・・・
【0075】
硬化性組成物には、ハードコート層の光学特性を損なわない範囲で、慣用の添加剤・・・略・・・が含まれていてもよい。
【0076】
特に、硬化性組成物は、凝集剤を用いることなく、凹凸構造を形成でき、光学特性などの点から、実質的に凝集剤・・・略・・・を含有していない組成物が好ましい。
・・・略・・・
【0078】
ハードコート層の厚みは、例えば、0.5?30μm、好ましくは1?25μm、さらに好ましくは3?20μm(特に5?15μm)程度である。
【0079】
[透明フィルム]
透明フィルム(又は基材フィルム)としては、ガラス、セラミックスの他、樹脂シートが例示できる。透明フィルムを構成する樹脂としては、前記ハードコート層と同様の樹脂が使用できる。好ましい透明フィルムとしては、透明性ポリマーフィルム、例えば、セルロース誘導体[セルローストリアセテート(TAC)、セルロースジアセテートなどのセルロースアセテートなど]・・・略・・・などで形成されたフィルムが挙げられる。
・・・略・・・
【0081】
光学的に等方性の透明フィルムには、ガラス、未延伸又は延伸プラスチックシート又はフィルムが例示でき、例えば、ポリエステル(PET、PBTなど)、セルロース誘導体類、特に、セルロースエステル類(セルロースジアセテート、セルローストリアセテートなどのセルロースアセテート・・・略・・・など)などで形成されたシート又はフィルムが好ましい。特に、ハードコート層の熱可塑性樹脂としてセルロース誘導体を使用した場合、透明フィルムとしてセルロース誘導体で構成されたフィルムを用いると、両者の密着性も向上できる。
【0082】
透明フィルムの厚みは、例えば、5?2000μm、好ましくは15?1000μm、さらに好ましくは20?500μm程度の範囲から選択できる。
【0083】
[光学フィルム]
本発明の光学フィルムは、前記ハードコート層を有することにより、反射散乱光を散乱角15°以上の広角側に散乱させることにより散乱角0?5°付近の散乱光強度が低いため、映り込みを抑制でき、視認性に優れている。
【0084】
すなわち、本発明の光学フィルムにおいて、反射散乱光プロファイルにおける散乱角0°の散乱光強度(I_(0))に対する散乱角10°の散乱光強度(I_(10))の比(I_(10)/I_(0))は、例えば、0.05?0.7、好ましくは0.08?0.65、さらに好ましくは0.1?0.6程度である。
【0085】
散乱角0°の散乱光強度(I_(0))に対する散乱角20°の散乱光強度(I_(20))の比(I_(20)/I_(0))は、例えば、0.01?0.5、好ましくは0.04?0.45、さらに好ましくは0.1?0.42程度である。
【0086】
散乱角5°の散乱光強度(I_(5))に対する散乱角15°の散乱光強度(I_(15))の比(I_(15)/I_(5))は、例えば、0.3?0.8、好ましくは0.4?0.7、さらに好ましくは0.45?0.65程度である。
【0087】
散乱角5°の散乱光強度(I_(5))に対する散乱角20°の散乱光強度(I_(20))の比(I_(20)/I_(5))は、例えば、0.2?0.6、好ましくは0.3?0.5、さらに好ましくは0.35?0.48程度である。
【0088】
散乱角5°の散乱光強度(I_(5))に対する散乱角30°の散乱光強度(I_(30))の比(I_(30)/I_(5))は、例えば、0.15?0.4、好ましくは0.18?0.35、さらに好ましくは0.2?0.32程度である。
【0089】
本発明の光学フィルムは、微細な凹凸構造を有し、反射率を低下できるため、映り込みを抑制できる。すなわち、反射率(視感度反射率Y)は5%以下であってもよく、例えば、4%以下(例えば、3.5%以下)、好ましくは1?3.5%、さらに好ましくは1.5?3%(特に2?3%)程度であってもよい。
【0090】
本発明の光学フィルムは、高い防眩性を有するにも拘わらず、高い透明性も有しており、JIS K7136に準拠した全光線透過率は、例えば、80%以上であってもよく、例えば、85?99%、好ましくは90?98%、さらに好ましくは92?97%(特に93?96%)程度である。
【0091】
本発明の光学フィルムは、JIS K7136に準拠したヘイズは、例えば、10?80%、好ましくは20?75%、さらに好ましくは30?70%程度であってもよい。
【0092】
本発明の光学フィルムの透過像鮮明度は、0.125mm幅の光学櫛を使用した場合、すなわち、光学櫛幅0.125mmの透過像鮮明度は、例えば、1?30%、好ましくは2?20%、さらに好ましくは3?15%程度である。
【0093】
光学櫛幅0.25mmの透過像鮮明度は、例えば、1?30%、好ましくは2?20%、さらに好ましくは3?15%程度である。
【0094】
光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度は、例えば、1?30%、好ましくは2?20%、さらに好ましくは3?15%程度である。
【0095】
光学櫛幅1mmの透過像鮮明度は、例えば、2?40%、好ましくは3?30%、さらに好ましくは5?20%程度である。
【0096】
光学櫛幅2mmの透過像鮮明度は、例えば、2?60%、好ましくは3?50%、さらに好ましくは5?40%程度である。
【0097】
透過像鮮明度とは、膜を透過した光のボケや歪みを定量化する尺度である。透過像鮮明度は、膜からの透過光を移動する光学櫛を通して測定し、光学櫛の明暗部の光量により値を算出する。すなわち、膜が透過光をぼやかす場合、光学櫛上に結像されるスリットの像は太くなるため、透過部での光量は100%以下となり、一方、不透過部では光が漏れるため0%以上となる。透過像鮮明度の値Cは光学櫛の透明部の透過光最大値Mと不透明部の透過光最小値mから次式により定義される。
【0098】
C(%)=[(M-m)/(M+m)]×100
【0099】
すなわち、Cの値が100%に近づく程、透明導電性膜による像のボケが小さい[参考文献;須賀、三田村,塗装技術,1985年7月号]。
【0100】
本発明の光学フィルム(特に、防眩フィルムとして利用される光学フィルム)は、ハードコート層の上に、表面反射率を下げるために、さらに低屈折率層を形成してもよい。低屈折率層を前記ハードコート層の上に積層することにより、液晶表示装置などの表示装置において、低屈折率層を最表面となるように配設した場合などに、外部からの光(外部光源など)が、光学フィルムの表面で反射するのを有効に防止できる。
【0101】
[光学フィルムの製造方法]
本発明の光学フィルムは、ハードコート層の表面に前記凹凸構造を形成できる限り、特に限定されず、慣用の方法を利用できる。ハードコート層が硬化性組成物の硬化物で形成されている場合、本発明の光学フィルムは、透明フィルムの上に、硬化性組成物を含む塗工液を塗布し、乾燥後、活性エネルギー線を照射して硬化することにより得ることができる。
【0102】
塗工液は、通常、前記硬化性樹脂前駆体とナノファイバーと溶媒と必要に応じてエチレン性不飽和結合を有さない高分子や無機粒子とを含む混合液(特に均一溶液などの液状組成物)で構成されている。好ましい態様では、前記混合液として、光硬化性化合物と、セルロースナノファイバーと、セルロース誘導体と、金属酸化物粒子と、光重合開始剤と、前記光硬化性化合物及びセルロース誘導体を可溶な溶媒とを含む組成物が使用される。本発明では、セルロースナノファイバーを塗工液中で、慣用の方法により均一に分散するのが好ましく、例えば、塗工液を超音波で処理してもよい。
【0103】
混合液中の溶質(硬化性樹脂前駆体、ナノファイバー、前記高分子、無機粒子、反応開始剤、その他添加剤)の濃度は、流延性やコーティング性などを損なわない範囲で選択でき、例えば、1?80重量%、好ましくは5?60重量%、さらに好ましくは15?50重量%程度である。
・・・略・・・
【0106】
前記混合液を流延又は塗布した後、溶媒を蒸発させる。溶媒の蒸発は、通常、例えば、溶媒の沸点に応じて、30?200℃程度の範囲から選択できるが、本発明では、ハードコート層の表面に特定の凹凸構造を形成するために、乾燥温度が重要であり、硬化性樹脂前駆体の種類により選択できるが、例えば、80℃以下(例えば、20?75℃)、好ましくは30?70℃、さらに好ましくは40?60℃(特に45?60℃)程度である。乾燥温度が高すぎると、粘度低下により高い凹凸構造を形成するのが困難である。
【0107】
本発明では、塗工液が凝集剤を含有していないにも拘わらず、塗工液中に分散したナノファイバーが硬化性組成物の硬化とともに適度に凝集し、核となって樹脂成分が隆起し、表面に微細な凹凸構造を形成すると推定できる。
【0108】
このような凹凸構造が形成されたハードコート層は、活性光線(紫外線、電子線など)や熱などにより最終的に硬化し、硬化樹脂を形成する。前駆体の硬化は、硬化性樹脂前駆体の種類に応じて、加熱、光照射などを組合せてもよい。これらのうち、特定の凹凸構造を形成し易い点から、光照射が好ましい。光照射は、光硬化成分などの種類に応じて選択でき、通常、紫外線、電子線などが利用できる。」

(ウ) 「【実施例】
【0114】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。実施例及び比較例で得られた透明導電性膜を以下の項目で評価した。
【0115】
[ヘイズ及び全光線透過率(TPP)]
ヘイズメーター(日本電色(株)製、商品名「NDH-5000W」)を用いて、JIS K7136に準拠して測定した。
【0116】
[透過像(写像)鮮明度]
光学フィルムの写像鮮明度を、写像測定器(スガ試験機(株)製、商品名「ICM-1T」)を用いて、JIS K7105に基づき、フィルムの製膜方向と光学櫛の櫛歯の方向とが平行になるようにフィルムを設置して測定を行った。写像測定器の光学櫛のうち、0.125?2mm幅の光学櫛における写像鮮明度を測定した。
【0117】
[反射率(視感度反射率Y)]
光学フィルムの透明フィルム側に黒フィルムを貼り合わせ、積分球反射強度測定装置((株)日立ハイテクノロジーズ製、U-3300)を用いて、積分反射率(視感度換算)を測定した。
【0118】
[散乱強度]
測定サンプルの透明フィルム側に黒フィルムを貼り合わせ、光散乱測定装置((株)村上色彩技術研究所製「変角光度計GP-200」)を用いて反射散乱光を測定した。入射光角度をフィルムの法線から-10°として、5mm径に絞られた白色光源をフィルムへ入射し、受光機を変角して表面反射散乱光を測定した。なお、受光角度は、反射光が0°を中心に略対称となるように、フィルム法線から10°の位置を0°とした。
【0119】
[凹凸の平均間隔Sm、十点平均粗さRz]
JIS B0601に準拠して、非接触表面形状測定システム((株)菱化システム製「VertScan2.0」を用いて、凹凸の平均間隔Sm、十点平均粗さRzを測定した。
【0120】
[鉛筆硬度]
JIS K5400に準拠し、荷重4.9Nで鉛筆硬度を測定した。
【0121】
[映り込みの評価]
表示面における映り込みの判定は、得られた光学フィルムの透明フィルム側に黒フィルムを貼り合わせ、蛍光灯の光を映り込ませ、目視にて以下の基準で評価した。
【0122】
◎:蛍光灯の存在が確認できない
○:蛍光灯の存在がわずかに確認できる
×:蛍光灯の存在がはっきりと確認できる。
【0123】
[ギラツキの評価]
表示面におけるギラツキの判定は、6.4型XGA液晶ディスプレイ(画素数1024×768)上に、得られた光学フィルムを配設し、白表示として目視にて以下の基準で評価した。なお、用いたLCDディスプレイの表層側偏光板は、クリアタイプの偏光板であった。
【0124】
◎:ギラツキが感じられない
○:ギラツキが僅かに感じられる
×:ギラツキが感じられる。
【0125】
[塗工液の調製]
(ハードコート層塗工液:SNC-1)
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(ダイセル・サイテック(株)製「DPHA」、屈折率1.51)70重量部、ペンタエリスリトールトリアクリレート(ダイセル・サイテック(株)製「PETIA」、屈折率1.51)30重量部及びセルロースプロピオネートアセテート(イーストマン社製「CAP-482-20」、アセチル化度=2.5%、プロピオニル化度=46%、ポリスチレン換算数平均分子量75,000)1.0重量部を、2-ブタノン(MEK)290重量部、1-メトキシ-2-プロパノール(MMPG)185重量部および1-ブタノール(BuOH)25重量部の混合液に溶解した。この溶液に、光重合開始剤A(チバ・ジャパン(株)製「イルガキュア184」)2重量部及び光重合開始剤B(チバ・ジャパン(株)製「イルガキュア907」)1重量部を加えて溶解した。さらに、この溶液に、セルロースナノファイバー((株)ダイセル製、平均繊維径約200nm、平均繊維長さ約5μm、2重量%のイソプロパノール分散液)を100重量部加え、30分間超音波をかけて分散を行い、ハードコート層塗工液:SNC-1を調製した。
【0126】
(ハードコート層塗工液:SNC-2)
さらにATO粒子[日揮触媒化成(株)製「ELCOM SH-1212ATV」、粒径8nm、20重量%のアルコール(エタノール/イソプロパノール=80/20(重量比)の混合溶媒)分散液]を5重量部添加する以外はSNC-1と同様にしてハードコート層用塗工液:SNC-2を調製した。
【0127】
(ハードコート層塗工液:SNC-3)
さらにシリコーンアクリレート(六官能シリコーン含有アクリル系UV硬化モノマー、ダイセルサイテック(株)製「EBECRYL1360」)を0.02重量部添加する以外はSNC-2と同様にしてハードコート層用塗工液:SNC-3を調製した。
【0128】
(ハードコート層塗工液:SNC-4)
シリコーンアクリレートの添加量を0.05重量部に変更する以外はSNC-3と同様にしてハードコート層用塗工液:SNC-4を調製した。
【0129】
(ハードコート層塗工液:SNC-5)
シリコーンアクリレートの添加量を0.2重量部に変更する以外はSNC-3と同様にしてハードコート層用塗工液:SNC-5を調製した。
【0130】
(ハードコート層塗工液:SNC-6)
さらにシリコーンアクリレート0.02重量部を添加する以外はSNC-1と同様にしてハードコート層用塗工液:SNC-6を調製した。
【0131】
(ハードコート層塗工液:SNC-7)
ATO粒子の添加量を2.5重量部に変更する以外はSNC-6と同様にしてハードコート層用塗工液:SNC-7を調製した。
【0132】
(ハードコート層塗工液:SNC-8)
さらにATO粒子5重量部及びシリコーンアクリレート0.1重量部を添加する以外はSNC-1と同様にしてハードコート層用塗工液:SNC-8を調製した。
【0133】
(ハードコート層塗工液:SNC-9)
さらにATO粒子6重量部及びシリコーンアクリレート0.1重量部を添加する以外はSNC-1と同様にしてハードコート層用塗工液:SNC-9を調製した。
【0134】
(ハードコート層塗工液:SNC-10)
セルロースナノファイバーの添加量を90重量部に変更する以外はSNC-2と同様にしてハードコート層用塗工液:SNC-10を調製した・・・略・・・
・・・略・・・
【0138】
実施例1
透明フィルムとして、トリアセチルセルロールフィルム(富士フイルム(株)製「TAC」、厚み80μm)を用い、このフィルムの上に、ハードコート層塗工液SNC-1をバーコーター#18を用いて塗工した後、50℃で1分間乾燥させた。塗工フィルムを紫外線照射装置(ウシオ電機(株)製、高圧水銀ランプ、紫外線照射量:800mJ/cm^(2))に通して、紫外線硬化処理を行い、ハードコート性及び表面凹凸構造を有する層を形成した。得られた光学フィルムにおけるハードコート層の厚みは約8μmであった。
【0139】
実施例2?10及び比較例1?3
ハードコート層塗工液SNC-1の代わりに、ハードコート層塗工液SNC-2?10、AG1?3を用いる以外は、実施例1と同様にして光学フィルムを作製した。なお、ハードコート層の厚みは、実施例2?10が約7μm、比較例1?3が約6μmであった。
【0140】
実施例及び比較例で得られた光学フィルムについて、各種特性を測定した結果を表1?3に示す。
【0141】
【表1】

【0142】
【表2】

【0143】
【表3】

【0144】
表1?3の結果から明らかなように、実施例の光学フィルムは、光学特性及び機械的特性に優れる。一方、比較例の光学フィルムは、光学特性が低い。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明の光学フィルムは、種々の表示装置、例えば、液晶表示(LCD)装置・・・略・・・タッチパネル付き表示装置などの表示装置に利用される光学フィルムとして利用できる。
【0146】
これらのうち、本発明の光学フィルムは、PCモニターやテレビを含む各種のディスプレイに有用であり、周辺の環境に影響されずに防眩性を発揮できるため、カーナビゲーション用ディスプレイ、スマートフォン、タブレットパーソナルコンピュータ(PC)等のディスプレイ及びタッチパネル付き表示装置の防眩フィルムとして特に有用である。」

エ 引用発明2
引用文献3には、「実施例8」の「防眩性に優れた光学フィルム」(【0009】)の発明として、以下のものが記載されていると認められる(以下、「引用発明2」という。)。(当合議体注:「散乱強度」を「散乱光強度」に統一して記載している。)

「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)70重量部、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETIA)30重量部及びセルロースプロピオネートアセテート(アセチル化度=2.5%、プロピオニル化度=46%、ポリスチレン換算数平均分子量75,000)1.0重量部を、2-ブタノン(MEK)290重量部、1-メトキシ-2-プロパノール(MMPG)185重量部および1-ブタノール(BuOH)25重量部の混合液に溶解し、この溶液に、光重合開始剤A(イルガキュア184)2重量部及び光重合開始剤B(イルガキュア907)1重量部を加えて溶解し、さらに、この溶液に、セルロースナノファイバー(平均繊維径約200nm、平均繊維長さ約5μm、2重量%のイソプロパノール分散液)100重量部、アンチモン含有酸化錫粒子(ATO粒子)[粒径8nm、20重量%のアルコール(エタノール/イソプロパノール=80/20(重量比)の混合溶媒)分散液]5重量部及びシリコーンアクリレート(六官能シリコーン含有アクリル系UV硬化モノマー、EBECRYL1360)0.1重量部を加え、30分間超音波をかけて分散を行い、ハードコート層塗工液(SNC-8)を調製し、
透明フィルムとして、トリアセチルセルロールフィルム(「TAC」、厚み80μm)を用い、このフィルムの上に、ハードコート層塗工液(SNC-8)を塗工した後、50℃で1分間乾燥させ、紫外線硬化処理を行い、ハードコート性及び表面凹凸構造を有する層を形成して、得られた防眩性に優れた光学フィルムであって、
光学フィルムにおけるハードコート層の厚みは約7μmであり、
光学フィルムのヘイズは48.02%、全光線透過率(TPP)は94.11%、光学櫛の幅が0.125mm、0.25mm、0.5mm、1mm及び2mmの時の透過像鮮明度は、それぞれ、21.7%、20.7%、20.6%、22.5%及び37.6%、反射率(視感度反射率Y)は2.76%であり、
散乱角0°の散乱光強度I_(0)、散乱角5°の散乱光強度I_(5)、散乱角10°の散乱光強度I_(10)、散乱角15°の散乱光強度I_(15)、散乱角20°の散乱光強度I_(20)、散乱角30°の散乱光強度I_(30)、I_(10)/I_(5)、I_(15)/I_(5)、I_(20)/I_(5)、I_(30)/I_(5)、I_(10)/I_(0)、I_(20)/I_(0)及びI_(30)/I_(0)は、それぞれ、3.628、2.624、2.063、1.564、1.217、0.704、0.786、0.596、0.464、0.268、0.569、0.335及び0.194であり、
凹凸の平均間隔Sm(μm)は9.55μm、十点平均粗さRz(μm)は0.8870μm、鉛筆硬度は2H、映り込みは◎、ギラツキは◎である、防眩性に優れた光学フィルム。
ここで、ヘイズ、全光線透過率(TPP)、透過像鮮明度、反射率(視感度反射率Y)、散乱光強度、凹凸の平均間隔Sm、十点平均粗さRz、鉛筆硬度、映り込み及びギラツキは、以下の測定、評価方法によるもの。
ヘイズ及び全光線透過率(TPP)の測定
ヘイズメーター(日本電色(株)製、商品名「NDH-5000W」)を用いて、JIS K7136に準拠して測定した。
透過像鮮明度の測定
光学フィルムの写像鮮明度を、写像測定器(スガ試験機(株)製、商品名「ICM-1T」)を用いて、JIS K7105に基づき、フィルムの製膜方向と光学櫛の櫛歯の方向とが平行になるようにフィルムを設置して測定を行った。写像測定器の光学櫛のうち、0.125?2mm幅の光学櫛における写像鮮明度を測定した。
反射率(視感度反射率Y)の測定
光学フィルムの透明フィルム側に黒フィルムを貼り合わせ、積分球反射強度測定装置((株)日立ハイテクノロジーズ製、U-3300)を用いて、積分反射率(視感度換算)を測定した。
散乱光強度の測定
測定サンプルの透明フィルム側に黒フィルムを貼り合わせ、光散乱測定装置((株)村上色彩技術研究所製「変角光度計GP-200」)を用いて反射散乱光を測定した。入射光角度をフィルムの法線から-10°として、5mm径に絞られた白色光源をフィルムへ入射し、受光機を変角して表面反射散乱光を測定した。なお、受光角度は、反射光が0°を中心に略対称となるように、フィルム法線から10°の位置を0°とした。
凹凸の平均間隔Sm及び十点平均粗さRzの測定
JIS B0601に準拠して、非接触表面形状測定システム((株)菱化システム製「VertScan2.0」を用いて、凹凸の平均間隔Sm、十点平均粗さRzを測定した。
鉛筆硬度の測定
JIS K5400に準拠し、荷重4.9Nで鉛筆硬度を測定した。
映り込みの評価方法
得られた光学フィルムの透明フィルム側に黒フィルムを貼り合わせ、蛍光灯の光を映り込ませ、目視にて以下の基準で評価した。
◎:蛍光灯の存在が確認できない
○:蛍光灯の存在がわずかに確認できる
×:蛍光灯の存在がはっきりと確認できる
ギラツキの評価方法
6.4型XGA液晶ディスプレイ(画素数1024×768)上に、得られた光学フィルムを配設し、白表示として目視にて以下の基準で評価した。なお、用いたLCDディスプレイの表層側偏光板は、クリアタイプの偏光板であった。
◎:ギラツキが感じられない
○:ギラツキが僅かに感じられる
×:ギラツキが感じられる」

(3) 引用発明1を主引用発明とする場合
ア 対比
本件補正後発明と引用発明1とを対比すると以下のとおりである。
(ア) 「透明基材層」について
引用発明1の「防眩性フィルム」の製造工程は、上記(2)イに示したとおりである。
引用発明1の製造工程からみて、引用発明1の「防眩性フィルム」は、「環状オレフィン系ポリマーフィルム」と、「密着層5」と、「防眩層」とがこの順で重なりをなすように形成・積層されたものと把握することができる。
そうすると、引用発明1の「環状オレフィン系ポリマーフィルム」は、層であるということができる。
また、「厚み100μm」の「環状オレフィン系ポリマーフィルム」が透明といえることは、技術常識から明らかなことである(引用文献15の【0025】の「環状オレフィン系ポリマーは、透明性が高く複屈折も小さい。」との記載からも確認できる。あるいは、引用発明1の「環状オレフィン系ポリマーフィルム」を含む「防眩性フィルム」の「全光線透過率が90.4%」であることからも確認できる。)。
さらに、「環状オレフィン系ポリマーフィルム」、「密着層5」及び「防眩層」の積層構造、並びに、引用発明1の「防眩性フィルム」の製造工程からみて、引用発明1の「環状オレフィン系ポリマーフィルム」は、「防眩性フィルム」における「基材」としての機能を有すると理解できる。
そうしてみると、引用発明1の「環状オレフィン系ポリマーフィルム」は、本件補正後発明の「透明基材層」に相当する。

(イ) 「ポリマー成分」、「硬化樹脂前駆体成分」、「硬化性組成物」及び「防眩層」について
a 上記アで示した積層構造からみて、引用発明1においては、「環状オレフィン系ポリマーフィルム」の「密着層5」が形成された側の面に、「密着層5」を介して、「防眩層」が形成されているということができる。

b また、引用発明1の「防眩層」は「第2の塗布液A」の硬化物であるところ、引用発明1の「第2の塗布液A」は、[A]ポリマーとして、「側鎖に重合性不飽和基を有するアクリル樹脂[(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体のカルボキシル基の一部に、3,4-エポキシシクロヘキセニルメチルアクリレートを付加させた化合物]」及び「セルロースアセテートプロピオネート」を含み、また、[B]硬化樹脂前駆体成分として、「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)」及び「フッ素含有重合性化合物(OmnovaSolutions社製:Polyfox3320)」を含むから、硬化性組成物といえる。加えて、引用発明1の「第2の塗布液A」に、硬化樹脂前駆体成分として含まれる「フッ素含有重合性化合物(OmnovaSolutions社製:Polyfox3320)」は、その名称から明らかなとおり、フッ素原子を含むものである。

c そうすると、上記a及びbより、引用発明1の「防眩層」及び「第2の塗布液A」は、それぞれ本件補正後発明の「防眩層」及び「硬化性組成物」に相当する。
また、引用発明1の「第2の塗布液A」は、本件補正後発明の「硬化性組成物」における、「前記硬化樹脂前駆体成分が、シリカナノ粒子及び/又はフッ素原子を含み」との要件を具備する。加えて、引用発明1の「防眩層」は、本件補正後発明の「防眩層」における、「この透明基材層の少なくとも一方の面に形成された」との要件、及び、「1種以上のポリマー成分及び1種以上の硬化樹脂前駆体成分を含む硬化性組成物の硬化物である」との要件を具備する。

(ウ) あるいは、引用発明1の「密着層5」と「防眩層」とが積層された構造を、本件補正後発明の「防眩層」に対応させて対比しても、同様である。

(エ) 「防眩フィルム」について
上記(ア)?(ウ)からみて、引用発明1の「防眩性フィルム」は、本件補正後発明の「防眩フィルム」に相当する。また、引用発明1の「防眩性フィルム」は、本件補正後発明の「防眩フィルム」の「透明基材層と、この透明基材層の少なくとも一方の面に形成された防眩層とを含み、前記防眩層が、1種以上のポリマー成分及び1種以上の硬化樹脂前駆体成分を含む硬化性組成物の硬化物である」との要件を具備する。

(オ) 「透過像鮮明度」について
a 引用発明1の「防眩性フィルム」の「透過像鮮明度」は「54%」である。
また、引用発明1の「透過像鮮明度」は、「写像測定器(スガ試験機(株)製、商品名「ICM-1T」)を用いて、光学櫛(櫛歯の幅=0.5mm)を用いて、JIS K7105に基づいて測定した」ものである。
そうすると、引用発明1の「透過像鮮明度」は、「0.5mm」「幅」の「光学櫛を用いて」「測定」したものである。

b 上記aより、引用発明1の「透過像鮮明度」は、本件補正後発明の「0.5mm幅の光学櫛を使用した透過像鮮明度」に対応するということができる。
そうすると、引用発明1の「防眩性フィルム」は、本件補正後発明の「防眩フィルム」における、「0.5mm幅の光学櫛を使用した透過像鮮明度が25?80%である」との要件を具備する。

(カ) 以上の対比結果を踏まえると、本件補正後発明と引用発明1とは、
「透明基材層と、この透明基材層の少なくとも一方の面に形成された防眩層とを含み、前記防眩層が、1種以上のポリマー成分及び1種以上の硬化樹脂前駆体成分を含む硬化性組成物の硬化物である防眩フィルムであって、
前記硬化樹脂前駆体成分が、シリカナノ粒子及び/又はフッ素原子を含み、
0.5mm幅の光学櫛を使用した透過像鮮明度が25?80%である防眩フィルム。」である点において一致し、以下の点で相違する。

(相違点1-1)
本件補正後発明は、「視感度反射率が2?3.8%であ」るのに対して、
引用発明1は、「視感度反射率」が不明である点。

イ 判断
相違点1-1について検討する。
(ア) 引用文献15における「発明」は、
従来の微粒子を分散させた防眩性フィルムにおいては、「微粒子が凝集し易いため、表面の凹凸構造を制御することが困難であるとともに、表面の凹凸構造の設計の自由度が制約される」(【0005】)ことや、透明性、耐熱性、耐湿性、複屈折性に優れた材料として環状オレフィン系ポリマーを用いた光学用透明フィルムの密着性が劣る(【0006】)ということを従来技術の問題点とし、「環状オレフィン系ポリマーフィルムに対する密着性の高い防眩層を備えた防眩性フィルム」「を提供すること」(【0010】)、「外光の映り込みやぎらつきが抑制された黒味のある鮮明な画像を表示できる防眩性フィルム」「を提供すること」(【0012】)、「微粒子による表面凹凸形状を利用しなくても、表面に微細で規則的な凹凸構造を形成でき、防眩性に優れた防眩性フィルム」「を提供する」(【0013】)ことを、「発明が解決しようとする課題」とするものである。
そして、引用文献15における「発明」は、
「環状オレフィン系ポリマーで構成された基材フィルム上に、脂環式炭化水素環又は橋架環式炭化水素環を有する(メタ)アクリレートを硬化性成分として含む硬化性組成物を塗布し、相分離可能な複数の成分を含み、かつ少なくとも1つの成分が硬化性成分である硬化性組成物(例えば、少なくとも1つのポリマー成分と少なくとも1つの硬化性樹脂前駆体とを含む組成物)を均一に溶解した溶液を塗布し、この塗布層から溶媒を蒸発させて相分離させ、その後前記硬化性成分を硬化すると、基材フィルムに規則性を有する相分離構造及びその相構造に対応した表面凹凸構造を有する防眩層を高い密着力で形成」すること(【0014】)、
「環状オレフィン系ポリマーで構成された基材フィルムと、密着層を介して、この基材フィルムに形成された防眩層とを有する防眩性フィルム」であって、「密着層が、脂環式炭化水素環を有するモノ又はジ(メタ)アクリレート及び橋架環式炭化水素環を有するモノ又はジ(メタ)アクリレートから選択された少なくとも一種の硬化性成分を含む硬化性組成物の硬化層で形成され」、「防眩層が、相分離可能な複数の成分を含み、かつ少なくとも1つの成分が硬化性成分である硬化性樹脂組成物の硬化層で形成され、かつ相分離構造を有するとともに、表面に凹凸構造を有する」ものとすること(【0015】)、
「防眩性フィルムは、入射光を等方的に透過して散乱し、かつ散乱光強度の極大値を示す散乱角が0.1?10°であり、全光線透過率が80?100%であってもよい」、「防眩性フィルムは、全ヘーズが1?25%、内部ヘーズが0?1%、0.5mm幅の光学櫛を用いた写像性測定器で測定した透過像鮮明度が25?75%であってもよい」ものとすること(【0018】)などを、「課題を解決するための手段」とするものである。
さらに、引用文献15における「発明」は、「本発明では、所定の密着層を介して基材フィルムに防眩層を形成するため、環状オレフィン系ポリマーで構成された基材フィルムに対して密着性の高い防眩層を形成でき、防眩層の構成成分の選択の幅を拡げることができる」、「硬化した防眩層が相分離構造と表面の凹凸構造とを有するため、ハードコート性、反射防止性および防眩性を単一の塗膜で両立できる」、「防眩性に優れているため、外光の映り込みやぎらつきを抑制でき、かつ外光下でも黒味のある鮮明な画像(明室コントラストの高い画像)を表示できる」、「微粒子による表面凹凸形状を利用しなくても、表面に微細で規則的な凹凸構造を形成でき、防眩性に優れている」(【0023】)」ことを「発明の効果」とするものである。

また、引用文献15には、【発明を実施するための最良の形態】として、
「防眩性フィルム」について、「防眩層の内部には相分離構造を有しており、防眩層の最表層には凹凸構造が形成されており、外部からの入射光を散乱反射させ外光の映り込みやぎらつきを防止する」こと(【0024】)、
「これらの硬化性成分を用いると、環状オレフィン系ポリマーで構成された基材フィルムに対する密着性を大きく向上できるとともに、透明性の高い密着層を形成できる。そのため、防眩層を形成する成分の選択に制限がなくなり、広範囲の防眩層の成分を使用できる」こと(【0035】)、
「湿式相分離法においても、相分離のモードとして、スピノーダル分解と核生成の2つがあることが考えられる。スピノーダル分解による相分離の特徴は、系全体に均一な密度揺らぎが発生することにより、相対的に位置が揃った相分離構造を形成する点である。一方、核生成による相分離では、密度揺らぎが不均一に発生し、ランダムな相分離構造を形成する。形成される相分離構造が制御されているという点において、スピノーダル分解による相分離が好ましい」こと(【0096】)、
「スピノーダル分解による相分離では、発生した密度ゆらぎは、相分離の進行に伴って共連続相構造を形成し、さらに相分離が進行すると、連続相が自らの表面張力により非連続化し、液滴相構造(球状、真球状、円盤状、楕円体状、長方体状などの独立相の海島構造)となる」、「従って、相分離の程度によって、共連続相構造と液滴相構造との中間的構造(上記共連続相から液滴相に移行する過程の相構造)も形成できる」こと、「本発明において、防眩層中の相分離構造は、海島構造(液滴相構造、又は一方の相が独立または孤立した相構造)、共連続相構造(又は網目構造)であってもよく、共連続相構造と液滴相構造とが混在した中間的構造であってもよ」く、「これらの相分離構造により、溶媒乾燥後に防眩層の表面に微細な凹凸を形成できる」こと(【0097】)、
「前記第2の塗布液を流延又は塗布した後、溶媒を蒸発させることにより相分離を誘起することができる。また、溶媒の蒸発を伴う相分離(スピノーダル分解など)により、相分離構造のドメイン間の平均距離に規則性又は周期性を付与できる」こと(【0102】)
「前記防眩層の少なくとも一方の面には低屈折率層を積層してもよ」く」、「低屈折率層を形成することにより、光学部材などにおいて、低屈折率層を最表面となるように配設した場合などに、外部からの光(外部光源など)が、防眩性フィルムの表面で反射するのを有効に防止できる」こと(【0104】)、
「本発明の防眩性フィルムは、0.5mm幅の光学櫛を用いた写像性測定器で測定したとき、透過像鮮明度が25?75%、好ましくは28?73%(例えば、30?70%)程度であり、35?75%(例えば、40?65%)程度の防眩性フィルムも得られ」、「このような防眩性フィルムでは、映り込みの輪郭を十分ぼかすことができるため、高い防眩性を付与でき」ること、「透過像鮮明度が75%以下であっても、防眩性フィルムは、所定のヘーズ(特に前記ヘーズ値)を有するのが有用であ」り、「曇り度の尺度であるヘーズと透過像鮮明度とが前記範囲にすることにより、外景の映り込みを効果的に防止できる」こと(【0113】)が記載され、
【産業上の利用可能性】として、
「本発明の防眩性フィルムにおいて、防眩層の表面には、前記相分離構造に対応した多数の微細な凹凸構造が形成されているため、表面反射による外景の映り込みを抑制し、防眩性を高めることができる」こと(【0121】)が記載されている。

(イ) ここで、防眩(性)フィルム(「アンチグレア(AG)フィルム」ともいう。)は、外部光源からの外光を散乱反射させて外部光源などの外光の映り込みを抑制するために設けられるものであるから、外部光源などの映り込みを抑制する観点から、防眩(性)フィルム表面の視感度反射率(特性)として、低いものが求められることは技術常識である。
例えば、引用文献3(請求項4、【0015】、【0018】、【0023】、【0089】、【0117】、【0141】【表1】等)には、防眩フィルムにおいて、表面に微細な凹凸構造を設けることにより、反射率を低下できるため映り込みを抑制できること、「視感度反射率Y」は、5%以下であってもよく、例えば、4%以下(例えば、3.5%以下)、好ましくは1?3.5%、さらに好ましくは1.5?3%(特に2?3%)程度であってもよいことや、実施例1?10として、「反射率(視感度反射率Y)」を2.42?3.91%とすることが記載され、特開2012-252038号公報(【0090】、【0091】、【0121】、【0151】【表1】等)には、防眩フィルムにおいて、視感度換算の表面反射率が、10%以下であってもよく、例えば、1?10%、好ましくは2?8%、さらに好ましくは3?5%程度であってもよいことや、実施例12?19として、視感度換算の反射率を3.0?3.5とすることが記載され、特開2012-103702号公報(【0035】、【0036】(「反射Y値」について【0014】)、【図1】等。)には、従来の防眩性を有するアンチグレア光学積層体(AG)の「反射Y値」(「視感反射率」)が1.0?4.5%程度であることが記載されている(当合議体注:「視感度(補正)反射率」とは、「JIS Z8701」に基づいて、測定された各波長の分光反射率を視感度(人間の眼の色感覚、網膜の色知覚細胞の感度の感受度)により補正・換算することにより求められたものである(例えば、特開2004-285412号公報の【0013】、【0014】、特開2010-107543号公報の【0026】、国際公開第2008/038511号の[0043]、特開2012-234028号公報の【0113】等を参照。)。)

(ウ) あるいは、引用発明1の防眩性フィルムにおいて、外部光源など外光の映り込みを防ぐためには、防眩フィルム表面の「視感度反射率」が低いことが望ましいことは、引用文献15の【0023】、【0024】、【0104】、【0121】(上記(ア)で挙げた各段落の下線を参照。)等の記載に接した当業者が容易に把握できることである。

(エ) 上記(ア)の各記載に接した当業者は、引用発明1の防眩性フィルムは、透明性、透過像鮮明度、密着性、防眩性(「蛍光灯が全く映り込まない」「◎」の評価)、黒味、ぎらつきなど特性・評価に優れたものであるだけでなく、防眩層の構成成分の選択の幅が広く、スピノーダル分解による相分離構造・状態の制御が容易であり、相分離構造に対応する防眩層の表面の微細な凹凸構造の設計自由度が高いものであると理解することができる(上記(ア)の【0005】、【0013】、【0023】、【0035】、【0096】、【0097】、【0102】の各記載の下線参照。)。
そうすると、引用発明1の「防眩性フィルム」の具体化、応用に際し、視感度反射率にも着目し、視感度反射率を、防眩層表面での反射による外部光源など外光の映り込みの抑制に関連する特性(値)とし、視感度反射率が低い防眩層表面の微細な凹凸構造設計となるよう、全光線透過率(90.4%)、ヘーズ(7.5%)、内部ヘーズ(0.3%)、透過像鮮明度(54%)、透過散乱光強度の極大を示すピーク角度(1.4°)などの各特性(値)や防眩性、黒味、ぎらつきなどの評価を概ね維持しながら、引用発明1の防眩層におけるスピノーダル分解による相分離条件及びその相分離構造に対応する防眩層の表面の微細な凹凸構造の状態を制御(例えば、防眩層の組成(比)、防眩層における相分離の程度、ドメインの形状、凹凸構造の形状や距離の制御等)して、視感度反射率が低い、例えば2?3.8%の範囲内の値となる設計・構造とすることは、上記(ア)及び(ウ)の引用文献15の各記載・示唆や上記(イ)の技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たことである。
あるいは、防眩性フィルムの特性として視感度反射率をも考慮した設計を行う際に、引用発明1において、0.5mm幅の光学櫛を使用した透過像鮮明度が、「54%」から変化することがあったとしても、25?80%の範囲を超えるほど大きく変化することはない。
あるいは、防眩性フィルムの特性として視感度反射率をも考慮した上記設計を行う際に、全光線透過率、ヘーズ、内部ヘーズ、透過像鮮明度、透過散乱光強度の極大を示すピーク角度などの各特性(値)や防眩性、黒味、ぎらつきなどの評価が変わることがあるとしても、引用文献15の【0018】、【0113】等の記載に基づき、全光線透過率が80?100%、ヘーズが1?25%、内部ヘーズが0?1%度、0.5mm幅の光学櫛を用いた透過像鮮明度が25?75%(あるいは40?65%程度)、透過散乱光強度の極大を示すピーク角度が0.1?10°などの範囲内に収まるように配慮しつつ(上記ア(カ)において一致点とした構成を相違点とすることなく)、視感度反射率が低い、例えば2?3.8%の範囲内の値となる設計・構造とすることは、上記(ア)及び(ウ)の引用文献15の各記載・示唆や上記(イ)の技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たことである。

(オ) 平成31年4月12日提出の審判請求書における請求人の主張について
a 請求人は、審判請求書の【本願発明が特許されるべき理由】の「(a)本願発明の説明」において、
「(ii)補正後の独立形式請求項1の発明の特色は、ポリマー成分及び硬化樹脂前駆体成分を含む硬化性組成物の硬化物で形成された防眩層を含む防眩フィルムにおいて、前記硬化樹脂線躯体成分が、シリカナノ粒子及び/又はフッ素原子を含み、かつ視感度反射率及び透過像鮮明度を、それぞれ2?3.8%及び25?80%の範囲に調整されている点にあります。」、「そして、本願発明では『反射防止性と防眩性と透明性とを充足できる。また、高い透明性を維持しながら、用途に応じた防眩性を容易に調整できる。さらに、特定の硬化性組成物を湿式スピノーダル分解することにより、画像の視認性と透明性と防眩性とをいずれも充足できる』」という効果が得られます(発明の効果の欄)。」、
また、請求人は、審判請求書の「(c)本願発明と引用文献の発明との対比」において、引用文献15について、
「引用文献には、シリカナノ粒子及び/又はフッ素原子を含む特定の硬化性組成物で形成された防眩層を有し、かつ視感度反射率が2?3.8%であり、かつ透過像鮮明度が25?80%である防眩フィルムについては何ら開示も示唆もされていません。」、「すなわち、出願人は、今般の手続補正により、本願発明の防眩フィルムをシリカナノ粒子及び/又はフッ素原子を含む特定の硬化性組成物で防眩層が形成された防眩フィルムに限定しました。本願発明の特徴は、先の意見書でも詳述しましたように、視感度反射率及び透過像鮮明度を特定の範囲に調整することにより、トレードオフの関係にある反射防止性と防眩性と視認性と密接な透明性との両立に成功したことにあります。これに対して、引用文献には、先の意見書でも詳述しましたように、このような困難な課題を克服した防眩フィルムは記載されていません。さらに、引用文献には、このような特性を発現させる観点から、防眩層を特定の硬化性組成物で形成し、シリカナノ粒子及び/又はフッ素原子を含有させることについても記載されていません。」、「引用文献15には、実施例において、防眩層用コート溶液にフッ素含有重合性化合物が添加されています。しかし、引用文献15では、フッ素含有重合性化合物は、防汚剤やすべり向上剤としての性質を兼ね備えていてもよいレベリング剤として配合されているにすぎません。レベリング剤は表面を平滑にするために配合される添加剤であり、防汚剤、すべり向上剤も同様に表面での平滑性と大きく関係し、光学機能とは無関係でわり、前述のように、表面平滑性は防眩性とは相反する目的であります。さらに、引用文献15には、視感度反射率も記載されていませんので、引用文献15から、シリカナノ粒子及び/又はフッ素原子と特定の視感度反射率及び透過像鮮明度との組み合わせを容易に導き出すことはできません。」、「すなわち、いずれの引用文献にも、シリカナノ粒子及び/又はフッ素原子と、視感度反射率2?3.8%と、透過像鮮明度25?80%との組み合わせの技術的意義は記載されていません。」、「従って、本願発明の構成は引用文献の発明と異なるだけでなく、引用文献から本願発明の構成を予測することは困難であります。」、「そして、本願発明では引用文献からは予測もできない顕著な(又は異質の)効果が得られます。すなわち、本願発明では、シリカナノ粒子及び/又はフッ素原子を含む特定の硬化性組成物で形成された防眩層を有し、かつ視感度反射率2?3.8%及び透過像鮮明度25?80%に調整されていますので、反射防止性と防眩性と透明性とを充足できます。そのため、比較的に精細度が高い小型又は中型スクリーンの表示装置において、画像の視認性と透明性と防眩性とをいずれも充足できます。このような本願発明の効果は、シリカナノ粒子及び/又はフッ素原子と特定の視感度反射率及び透過像鮮明度との組み合わせの意義について記載されていない引用文献から容易に予測できません。」との主張を行っている。
さらに、請求人は「出願人は、引用文献15の実施例と本願発明との違いを明確にするため、以下の実験を行いました。」、「すなわち、引用文献15に記載の方法で、引用文献15に記載の実施例1?8に記載の防眩性フィルムを製造し、本願明細書の実施例に記載の評価を行ないました。・・・略・・・上記表の結果から明らかなように、引用文献15の実施例では、いずれの実施例においても視感度反射率が3.8%を大きく上回っており、反射光がはっきり見えるという反射感の強い結果となっています。すなわち、引用文献15の実施例では、反射防止性と防眩性と透明性とを充足できていません。これらの結果からも、本願発明の効果がトレードオフの関係にある困難な課題を解決した顕著な効果であることがご理解頂けると思われます。」、「以上のように、本願発明と引用文献の発明とは、発明の目的、構成及び作用効果のいずれの点においても大きく相違します。従って、本願発明は、前記引用文献に基づいて当業者が容易に想到することはできません。」旨主張している。

b しかしながら、引用発明1の防眩性フィルムの「硬化樹脂前駆体成分が」「フッ素原子を含」むものであることは、上記アおいて既に述べたとおりである。
また、防眩性フィルムにおいて、映り込みを抑制するために、視感度反射率を低くすることは当業者の技術常識であって、引用文献15の記載・示唆に基づき、引用発明1において、全光線透過率、透過像鮮明度、防眩性(映り込み)等の各特性(値)・評価を維持しながら(あるいは、好ましい範囲内に収まるようにしながら)、相分離構造及び防眩層の表面の微細な凹凸構造を制御して、視感度反射率が2?3.8%の範囲内の低い値となる設計・構造として、相違点1-1に係る本件補正後発明1の構成とすることが当業者にとって容易であることも、上記(ア)?(エ)において述べたとおりである。(引用発明1に対応する)引用文献15の実施例5の防眩性フィルム、あるいは他の実施例の防眩性フィルムの視感度反射率が「2?3.8%」を満たさないものであったとしても同様である。
そして、請求人が主張する、「反射防止性と防眩性と透明性とを充足できる」、「高い透明性を維持しながら、用途に応じた防眩性を容易に調整できる」、「特定の硬化性組成物を湿式スピノーダル分解することにより、画像の視認性と透明性と防眩性とをいずれも充足できる」との本件補正後発明の作用・効果や、「視感度反射率及び透過像鮮明度を特定の範囲に調整することにより、トレードオフの関係にある反射防止性と防眩性と視認性と密接な透明性との両立に成功した」、「比較的に精細度が高い小型又は中型スクリーンの表示装置において、画像の視認性と透明性と防眩性とをいずれも充足できます」との本件補正後発明の特徴については、引用文献15の各記載・示唆や技術常識に基づき、(引用発明1の防眩性フィルムの小型あるいは中型の表示装置への適用を考える)当業者が期待する、あるいは予測し得る効果であって、格別なもの、顕著・異質なものではない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本件補正後発明は、引用発明1、引用文献15に記載された事項及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4) 引用文献15に記載された他の実施例を主引用発明とする場合
上記(3)においては、引用文献15の「実施例5」に基づいて、引用発明1を認定して、検討したが、これに替えて、引用文献15の「実施例1」?「実施例4」、「実施例6」?「実施例8」のいずれかの実施例(引用文献15の【0164】【表2】の各特性・評価参照。)に基づいて、主引用発明を認定して、検討しても同様である。

(5) 引用発明2を主引用発明とする場合
ア 対比
本件補正後発明と引用発明2とを対比すると以下のとおりである。
(ア) 「透明基材層」について
引用発明2の「防眩性に優れた光学フィルム」の製造工程は、上記(2)エに示したとおりである。
引用発明2の製造工程からみて、引用発明2の「防眩性に優れた光学フィルム」は、「トリアセチルセルロールフィルム」と、「ハードコート層」とが重なりをなすように形成・積層されたものと把握することができる。
そうすると、引用発明2の「トリアセチルセルロールフィルム」は、層であるということができる。
また、「厚み80μm」の「トリアセチルセルロールフィルム」は「透明」である。
さらに、「トリアセチルセルロールフィルム」と「ハードコート層」の積層構造、及び、引用発明2の製造工程からみて、引用発明2の「トリアセチルセルロールフィルム」は、「防眩性に優れた光学フィルム」における基材としての機能を有すると理解できる。
そうしてみると、引用発明2の「トリアセチルセルロールフィルム」は、本件補正後発明の「透明基材層」に相当する。

(イ) 「ポリマー成分」、「硬化樹脂前躯体成分」、「硬化性組成物」及び「防眩層」について
a 引用発明2の製造工程からみて、引用発明2の「ハードコート層」は、「ハードコート層塗工液(SNC-8)」の硬化物であるところ、引用発明2の「ハードコート層塗工液(SNC-8)」は、[A]ポリマーとして、「セルロースプロピオネートアセテート」を含み、また、[B]硬化樹脂前駆体成分として、「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)」、「ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETIA)」及び「シリコーンアクリレート(六官能シリコーン含有アクリル系UV硬化モノマー、EBECRYL1360)」を含むから、硬化性組成物といえる。

b 上記(ア)の引用発明2の積層構造及び上記aより、引用発明2の「ハードコート層」及び「「ハードコート層塗工液(SNC-8)」は、それぞれ本件補正後発明の「防眩層」及び「硬化性組成物」に相当する。
また、引用発明2の「ハードコート層」は、本件補正後発明の「防眩層」における、「この透明基材層の少なくとも一方の面に形成された」との要件、及び、「1種以上のポリマー成分及び1種以上の硬化樹脂前駆体成分を含む硬化性組成物の硬化物である」との要件を具備する。

(ウ) 「防眩フィルム」について
上記(ア)と(イ)より、引用発明2の「防眩性に優れた光学フィルム」は、本件補正後発明の「防眩フィルム」に相当する。
また、引用発明2の「防眩性に優れた光学フィルム」は、本件補正後発明の「防眩フィルム」の「透明基材層と、この透明基材層の少なくとも一方の面に形成された防眩層とを含み、前記防眩層が、1種以上のポリマー成分及び1種以上の硬化樹脂前駆体成分を含む硬化性組成物の硬化物である」との要件を具備する。

(エ) 「視感度反射率」について
a 引用発明2の「反射率(視感度反射率Y)は2.76%であ」る。
また、引用発明2の「反射率(視感度反射率Y)」は、「光学フィルムの透明フィルム側に黒フィルムを貼り合わせ、積分球反射強度測定装置((株)日立ハイテクノロジーズ製、U-3300)を用いて、積分反射率(視感度換算)を測定した」ものである。
ここで、技術常識から、引用発明2の「反射率(視感度反射率Y)」は、積分球反射強度測定装置を用いて各波長における(分光)反射率を測定し、得られた反射率に「視感度」換算(補正)を行って得られたものと理解できる。

b 上記aより、引用発明2の「反射率(視感度反射率Y)」は、本件補正後発明の「視感度反射率」に相当する。
そうすると、引用発明2の「防眩性に優れた光学フィルム」は、本件補正後発明の「防眩フィルム」における、「視感度反射率が2?3.8%であ」るとの要件を具備する。

(オ) 以上の対比結果を踏まえると、本件補正後発明と引用発明2とは、
「透明基材層と、この透明基材層の少なくとも一方の面に形成された防眩層とを含み、前記防眩層が、1種以上のポリマー成分及び1種以上の硬化樹脂前駆体成分を含む硬化性組成物の硬化物である防眩フィルムであって、
視感度反射率が2?3.8%である防眩フィルム。」である点において一致し、以下の点で相違する。

(相違点2-1)
本件補正後発明は、「前記硬化樹脂前駆体成分が、シリカナノ粒子及び/又はフッ素原子を含」んでいるのに対して、
引用発明2は、そのような構成を有していない点。

(相違点2-2)
本件補正後発明は、「0.5mm幅の光学櫛を使用した透過像鮮明度が25?80%である」のに対して、
引用発明2は、同じ測定を行った時、「20.6%」である点。

イ 判断
(ア) 相違点2-1について
a 引用文献3の【0063】?【0068】には、【発明を実施するための形態】として、「ハードコート層」を構成する「硬化性組成物」に「(A)硬化性樹脂前駆体」、「(B)ナノファイバー」、「(C)エチレン不飽和結合を有さない高分子」とともに含まれ得る「(D)無機粒子」について、「硬化性組成物は、透明性などの光学特性を改良する点などから、さらに無機粒子を含んでいてもよい」こと(【0063】)、「無機粒子の平均一次粒径は、1?60nm(例えば、1?50nm)、好ましくは2?30nm、さらに好ましくは3?15nm(特に5?10nm)程度であ」り、「無機粒子の平均粒径が小さすぎると、ヘイズや反射率を低減する効果が低下」し、「無機粒子の平均粒径が大きすぎると、表面の凹凸構造に影響を与え、光学特性が低下する」こと(【0065】)、「無機粒子としては、例えば、金属単体、金属酸化物、金属硫酸塩、金属珪酸塩、金属リン酸塩、金属炭酸塩、金属水酸化物、ケイ素化合物、フッ素化合物、天然鉱物などが挙げられ」、「これらの無機粒子は、単独で又は二種以上組み合わせて使用でき」、「これらの無機粒子のうち、透明性などの点から、酸化チタンなどの金属酸化物粒子、酸化ケイ素などのケイ素化合物粒子、フッ化マグネシウムなどのフッ素化合物粒子などが好ましく、ヘイズを抑制でき、耐擦傷性にも優れる点から、金属酸化物粒子が特に好ましく、さらに、金属酸化物粒子は、低屈折率層などとの密着性も向上できる」こと(【0066】)、「金属酸化物粒子のうち」、「特にアンチモン含有酸化錫粒子(ATO粒子)」「が特に好ましい」こと(【0068】)が記載・示唆されている。

b 引用発明2の製造工程からみて、引用発明2の「ハードコート層塗工液(SNC-8)」は、「粒径8nm」の「アンチモン含有酸化錫粒子(ATO粒子)」を含むものである。
上記aの「(D)無機粒子」についての記載から、引用発明2の「粒径8nm」の「アンチモン含有酸化錫粒子(ATO粒子)」は、「(D)無機粒子」の「金属酸化物粒子」に対応するものであって、透明性の点、ヘイズや反射率を低減する効果の点、表面の凹凸構造に影響を与えず光学特性が低下しない点、耐擦傷性の点、低屈折率層との密着性の向上の点で特に好ましいものと理解される。
一方、上記aによれば、光学特性を改良する「(D)無機粒子」としては、透明性などの点からは、金属酸化物粒子意の他に、酸化ケイ素も使用できること、あるいは、無機粒子を二種以上組み合わせて使用できることが理解できるところ、引用発明2の「ヘーズ」や「耐擦傷性」等の特性(値)が、「粒径8nm」の「ATO粒子」のみに依存するものではないことは当業者にとって明らかなことである(例えば、引用文献3の【0126】?【0130】及び【0141】【表1】によれば、「ハードコート層塗工液」に「ATO粒子」を含まない実施例1、6の防眩性フィルムが、引用発明2と同じ鉛筆硬度(2H)を示すことが分かる。さらに、「ATO粒子」を含まない実施例6が、「ATO粒子」を含む引用発明2よりも低いヘーズ、あるいは、「ATO粒子」を含む実施例2?5、7が、「ATO粒子」を含まない実施例6よりも高いヘーズを示すことが分かる。)。
また、引用発明2は「低屈折率層」を有するものでもないから、低屈折率層との密着性が必須とされるものでもない。
そうすると、引用発明2において、上記aの記載・示唆に基づき、「(D)無機粒子」として、「粒径8nm」の「ATO粒子」に替えて、透明性やヘーズや反射率を低減する効果の点で好ましい、例えば、粒径が3?15nm(あるいは5?10nm)程度の酸化ケイ素粒子(ナノシリカ粒子)を用いることとし、「ハードコート層塗工液」に粒径が3?15nm(あるいは5?10nm)程度のナノシリカ粒子が含まれるように、DPHA(硬化樹脂前駆体成分)、PETIA(硬化樹脂前駆体成分)あるいはその両方が当該ナノシリカ粒子を含む構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
あるいは、引用発明2において、上記aの記載・示唆に基づき、「(D)無機粒子」として、「ATO粒子」と、透明性や、ヘーズや反射率を低減する効果などの点で好ましい、例えば、粒径が3?15nm(あるいは5?10m)程度のナノシリカ粒子との二種を組み合わせて用いることとし、「ハードコート層塗工液」にナノシリカ粒子が含まれるよう、DPHA(硬化樹脂前駆体成分)、PETIA(硬化樹脂前駆体成分)あるいはその両方がナノシリカ粒子を含む構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
あるいは、引用発明2において、「DPHA」、「PETIA」、「セルロースプロピオネートアセテート」及び「ナノシリカ粒子」を含む「ハードコート層塗工液」(あるいは、「DPHA」、「PETIA」、「セルロースプロピオネートアセテート」、「ATO粒子」及び「ナノシリカ粒子」を含む「ハードコート層塗工液」)を塗工、乾燥、紫外線硬化させて形成した「ハードコート層」(防眩層)は、物の発明の構成として、上記相違点2-1に係る本件補正後発明の構成を備えることとなる。

c あるいは、引用文献3の【0037】の「(A)硬化性樹脂前駆体」についての、「硬化性樹脂前駆体は、ハードコート層の強度を向上する点などから、フッ素原子を含有する硬化性化合物を含んでいてもよい」、「フッ素原子を含有する前駆体(フッ素含有硬化性化合物)としては、前記単量体及びオリゴマーのフッ化物、例えば、フッ化アルキル(メタ)アクリレート[例えば、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレートやトリフルオロエチル(メタ)アクリレートなど]、フッ化(ポリ)オキシアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート[例えば、フルオロエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、フルオロプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなど]、フッ素含有エポキシ樹脂、フッ素含有ウレタン系樹脂などが挙げられる」との記載・示唆に基づき、引用発明2において、ハードコート層の強度を向上させるために、「ハードコート層塗工液」が、硬化樹脂前駆体成分として、「DPHA」、「PETIA」の他に、「フッ素原子を含有する硬化性化合物」を含む構成として、上記相違点2-1に係る本件補正後発明の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

d そして、上記bの上記相違点2-1に係る設計変更を行ったとしても、粒径が3?15nm(あるいは5?10nm)程度のナノシリカ粒子は、ヘイズや反射率を増加させることはなく、また、表面の凹凸構造に影響を与えず、光学特性を低下させることもないから(引用文献3の【0065】)、引用発明2のヘイズ、全光線透過率、透過像鮮明度、反射率(視感度反射率Y)、散乱強度、Sm、Rz、鉛筆硬度、映り込み、ギラツキなどの特性・評価が大きくは変わることはない(例えば、反射率(視感度反射率Y)が、「2?3.8%」を超えるほど変化しない。)。
あるいは、引用発明2において、上記b、あるいは上記cの設計変更を行う際、ヘイズ、全光線透過率、透過像鮮明度、反射率(視感度反射率Y)、散乱強度、Sm、Rzなどの特性・評価が大きく変わることがないように考慮しつつ(上記ア(オ)において一致点とした構成を相違点とすることなく)、上記設計変更を行うことは、当業者であれば容易になし得たことである。
してみると、引用発明2において、上記相違点2-1に係る本件補正後発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(イ) 相違点2-2について
a 引用文献3における「発明」は、生産性が高く、防眩性に優れた光学フィルムを提供すること(【0009】)、映り込みを抑制でき、視認性に優れた光学フィルムを提供すること(【0010】)、耐擦傷性及び機械的特性にも優れた光学フィルムを提供すること(【0011】)を発明が解決しようとする課題とするものである。
また、引用文献3における「発明」は、
「ハードコート層が、硬化性樹脂前駆体及びナノファイバーを含む硬化性組成物の硬化物で形成され、かつ前記ハードコート層の表面に、凹凸の平均間隔Sm5?40μm及び十点平均粗さRz0.8?2.5μmの凹凸構造が形成されている」こと(【0014】)、「比(I_(10)/I_(0))」を「0.05?0.7」、「比(I_(20)/I_(0))」を「0.01?0.5」、「比(I_(15)/I_(5))」を「0.3?0.8」、「比(I_(20)/I_(5))」を「0.2?0.6」、「比(I_(30)/I_(5))」を「0.15?0.4」の範囲とすること(【0015】)、「視感度反射率Y」を「4%以下」とすること(【0015】)を「課題を解決するための手段」とするものである。
また、引用文献3の「発明」は、「光学フィルムは、細かい凹凸を有する表面の形状により反射率を低下できるとともに、反射散乱光を散乱角15°以上の広角側に散乱させることにより散乱角0?5°付近の散乱光強度が低いため、映り込みを抑制でき、視認性に優れており、強い光が映り込む環境下でも視認性に優れたディスプレイの表示が得られる」こと(【0018】)を「発明の効果」とするものである。

また、引用文献3には、「発明を実施するための形態」として、
「ハードコート層の表面構造」について、「表面の凹凸構造は、凹凸の平均間隔Smが5?40μmであり、好ましくは8?38μm、さらに好ましくは10?35μm(特に12?32μm)程度であってもよい。Smが小さすぎると、防眩性が低下し、映り込みも発生し易く、Smが大きすぎると、ギラツキが発生し易くなる」こと(【0021】)、「凹凸構造の十点平均粗さRzは0.8?2.5μmであり、好ましくは0.85?2.3μm、さらに好ましくは0.9?2μm(特に1?1.8μm)程度であってもよ」く、「Rzが小さすぎると、防眩性が低下し、映り込みも発生し易く、Rzが大きすぎると、画像の鮮明性が低下し、製造も困難となる」こと(【0022】)、「本発明では、Smが小さいにも拘わらず、比較的大きなRzを有しているため、反射率を低下できるとともに、反射散乱光を広角側に散乱できるため、映り込みを抑制でき、視認性に優れており、強い光が映り込む環境下でも視認性を向上できる」こと(【0023】)が記載され、
「光学フィルム」について、「本発明の光学フィルムは、前記ハードコート層を有することにより、反射散乱光を散乱角15°以上の広角側に散乱させることにより散乱角0?5°付近の散乱光強度が低いため、映り込みを抑制でき、視認性に優れている」こと(【0083】)、「比(I_(10)/I_(0))は、例えば、0.05?0.7、好ましくは0.08?0.65、さらに好ましくは0.1?0.6程度である」こと(【0084】)、「比(I_(20)/I_(0))は、例えば、0.01?0.5、好ましくは0.04?0.45、さらに好ましくは0.1?0.42程度である」こと(【0085】)、「比(I_(15)/I_(5))は、例えば、0.3?0.8、好ましくは0.4?0.7、さらに好ましくは0.45?0.65程度である」こと(【0086】)、「比(I_(20)/I_(5))は、例えば、0.2?0.6、好ましくは0.3?0.5、さらに好ましくは0.35?0.48程度である」こと(【0087】)、「比(I_(30)/I_(5))は、例えば、0.15?0.4、好ましくは0.18?0.35、さらに好ましくは0.2?0.32程度である」こと(【0088】)が記載され、
「光学フィルム」の「反射率(視感度反射率Y)」及び「反射率(視感度反射率Y)」について、「本発明の光学フィルムは、微細な凹凸構造を有し、反射率を低下できるため、映り込みを抑制でき」、「反射率(視感度反射率Y)は5%以下であってもよく、例えば、4%以下(例えば、3.5%以下)、好ましくは1?3.5%、さらに好ましくは1.5?3%(特に2?3%)程度であってもよい」こと(【0089】)が記載され、
「光学フィルム」の「全光線透過率」について、「例えば、80%以上であってもよく、例えば、85?99%、好ましくは90?98%、さらに好ましくは92?97%(特に93?96%)程度である」こと(【0090】)、
「光学フィルム」の「ヘイズ」について、「例えば、10?80%、好ましくは20?75%、さらに好ましくは30?70%程度であってもよい」こと(【0091】)、
「光学フィルムの透過像鮮明度」について、「光学櫛幅0.125mmの透過像鮮明度は、例えば、1?30%、好ましくは2?20%、さらに好ましくは3?15%程度である」こと(【0092】)、「光学櫛幅0.25mmの透過像鮮明度は、例えば、1?30%、好ましくは2?20%、さらに好ましくは3?15%程度である」こと(【0093】)、「光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度は、例えば、1?30%、好ましくは2?20%、さらに好ましくは3?15%程度である」こと(【0094】)、「光学櫛幅1mmの透過像鮮明度は、例えば、2?40%、好ましくは3?30%、さらに好ましくは5?20%程度であること(【0095】)、「光学櫛幅2mmの透過像鮮明度は、例えば、2?60%、好ましくは3?50%、さらに好ましくは5?40%程度である」こと(【0095】)が、それぞれ記載されている。

b 引用文献3の上記aの【0094】の記載によれば、「光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度」は、「例えば、1?30%」、「好ましくは2?20%」、「さらに好ましくは3?15%程度」である。
引用発明2の具体化・応用にあたり透過像鮮明度の設計変更・調整を試みることは当業者にとって通常の事項であるところ、上記の【0094】の記載・示唆を参考にして、引用発明2において、ハードコート層表面の微細な凹凸の形状を制御することにより、「光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度」を、例示されている「1?30%」の範囲の上限付近の25?30%の値、例えば25%とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
そして、上記設計変更を行ったとしても、引用発明2のヘイズ、全光線透過率、(光学櫛幅が0.5mm以外の)透過像鮮明度、視感度反射率Yなどの特性・評価は大きくは変わらない(例えば、視感度反射率Yが「2?3.8%」の範囲外となるほどには大きく変化しない。)。あるいは、ヘイズ、全光線透過率、光学櫛幅が0.5mm以外の透過像鮮明度、視感度反射率Yなどの特性・評価が大きく変わることがないよう考慮しつつ、上記設計変更を行うことは、当業者であれば容易になし得たことである。
あるいは、上記設計変更を行った結果(、あるいは、上記設計変更に加えて、上記2-1に係る設計変更を行った結果)、引用発明2において、ヘイズ、全光線透過率、光学櫛幅が0.5mm以外の透過像鮮明度、視感度反射率Y、I_(0)、I_(5)、I_(10)、I_(15)、I_(20)、I_(30)、I_(10)/I_(5)、I_(15)/I_(5)、I_(20)/I_(5)、I_(30)/I_(5)、I_(10)/I_(0)、I_(20)/I_(0、)I_(30)/I_(0)、Sm、Rzなどの特性・評価が変化するとしても、上記aで挙げた引用文献3の「課題を解決するための手段」や「発明を実施するための形態」の各パラメータの例示あるいは好適な数値範囲の記載に基づいて、ヘイズ、全光線透過率、光学櫛幅が0.5mm以外の透過像鮮明度、反射率(視感度反射率Y)、I_(10)/I_(0)、I_(20)/I_(0)、I_(15)/I_(5)、I_(20)/I_(5)、I_(30)/I_(5)、Sm、Rzなどが各々好ましい範囲内(例えば、視感度反射率Yについては、特に好ましい2?3%程度(【0089】))のものとなるようにしつつ(上記ア(オ)において一致点とした構成を相違点とすることなく)、「光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度」を25?30%の値、例えば25%とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

(ウ) 上記相違点2-1と相違点2-2をまとめて検討したとしても同様であり、引用発明2において、上記相違点2-1及び2-2に係る本件補正後発明の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

(エ) 平成31年4月12日提出の審判請求書における請求人の主張について
a 引用文献3を主引用例とする拒絶の理由に関し、請求人は、審判請求書の【本願発明が特許されるべき理由】の「(c)本願発明と引用文献の発明との対比」において、「引用文献3には、無機粒子として、ナノメータサイズのケイ素化合物粒子、フッ素化合物粒子が記載されています。しかし、引用文献3では、金属酸化物粒子が特に好ましいと記載され、実施例では、金属酸化物粒子であるATO粒子のみが使用されており、ケイ素化合物粒子、フッ素化合物粒子は使用されていません。さらに、今般の手続補正により、本願発明の透過像鮮明度の光学櫛の幅を0.5mmに特定しましたので、透過像鮮明度における引用文献3との相違点も明確になりました。そのため、先の意見書でも述べましたように、引用文献3に基づいて、本願発明の特性の組み合わせを調整するのは困難であると思われます。」旨主張している。
また、平成31年 1月22日付けの意見書において、引用文献3を主引用例とする拒絶の理由に関し、請求人は、「(3-2)本願発明と引用文献の発明との対比」において、「文献3には、1?30%の透過像鮮明度が記載されていますが、実施例の透過像鮮明度は3.2?20.6%であります。文献3では、透過像鮮明度の最も好ましい範囲も3?15%と記載されていますので、文献3の透過像鮮明度を25%以上の範囲に調整する動機付けは低いと思われます。また、文献3の実施例のハードコート層の組成では、本願発明で使用される成分とは大きく特性の異なるセルロースナノファイバーを含有させることを特徴としており、本願明細書の実施例で配合されているシリカナノ粒子及び/又はフッ素原子、シリコーンアクリレート、ウレタンアクリレート、PMMAビーズは配合されていませんので、この点からも、文献3に基づいて、本願発明の特性の組み合わせを調整するのは困難であると思われます。」旨主張している。

b しかしながら、引用発明2において、引用文献3の記載・示唆に基づき、硬化樹脂前駆体成分がシリカナノ粒子、あるいは、フッ素原子を含む構成とすること、0.5mm幅の光学櫛を使用した透過像鮮明度が25?30%である構成とすることが、当業者が容易になし得たものであることは、上記(ア)?(ウ)において既に述べたとおりである。また、引用文献3に、透過像鮮明度の最も好ましい範囲として3?15%が記載されているとしても、1?30%との例示に基づいて、その上限付近、例えば25%の透過像鮮明度の設計を試みることは、当業者にとって容易になし得たことである。

c 審判請求書における請求人が主張する本件補正後発明の特徴や効果についても、上記(3)イ(オ)において既に述べたとおりであり、引用文献3や引用文献15の各記載・示唆や技術常識に基づき、当業者が期待する、あるいは予測し得る効果であって、格別なもの、顕著・異質なものではない。

d したがって、請求人の主張を採用することはできない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本件補正後発明は、引用発明2、引用文献3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 本件補正についてのむすび
上記2のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件発明について
1 本件発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記「第2」[理由]1(1)に記載したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
本件発明の原査定の拒絶の理由は、概略以下のとおりである。
「理由2(進歩性)
本件発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開2016-122140号公報
引用文献2:特開2009-157234号公報
引用文献3:特開2014-6448号公報
引用文献4:特開2016-33659号公報
引用文献5:特開2010-122560号公報
引用文献6:国際公開第2008/020612号
引用文献7:特開2008-225195号公報
引用文献8:特開2010-61044号公報
引用文献9:特開2012-103702号公報
引用文献10:特開2014-194551号公報
引用文献11:特開2017-21293号公報
引用文献12:特開2014-98771号公報
引用文献13:特開2017-146620号公報
引用文献14:特開2013-15797号公報
引用文献15:特開2010-66470号公報
引用文献16:米国特許出願公開第2011/003093号明細書
(当合議体注:引用文献1?16のそれぞれが主引用例である。)
理由3(明確性)
本件出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」

3 引用文献及び引用発明
引用文献15の記載、引用発明1、引用文献3の記載及び引用発明2は、前記「第2」[理由]2(2)ア?エに記載したとおりである。

4 対比及び判断
本件発明は、前記「第2」[理由]2(1)で検討した本件補正後発明から、「防眩フィルム」について、「透明基材層と、この透明基材層の少なくとも一方の面に形成された防眩層とを含み、前記防眩層が、1種以上のポリマー成分及び1種以上の硬化樹脂前駆体成分を含む硬化性組成物の硬化物であって」、「前記硬化樹脂前駆体成分が、シリカナノ粒子及び/又はフッ素原子を含」むとの発明特定事項を削除するとともに、「透過像鮮明度」について、「0.5mm幅の光学櫛を使用した」との限定を削除したものである。
そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を限定した本件補正後発明が、前記「第2」[理由]2(3)(あるいは、2(4))に記載した理由により、引用発明1(あるいは、引用文献15に記載された発明)、引用文献15に記載された事項及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるところ、前記「第2」[理由]2(3)(あるいは、2(4))に記載した理由と同じ理由により、本件発明は、引用発明1(あるいは、引用文献15に記載された発明)、引用文献15に記載された事項及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
あるいは、本件発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を限定した本件補正後発明が、前記「第2」[理由]2(5)に記載した理由により、引用発明2、引用文献3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるところ、前記「第2」[理由]2(5)に記載した理由と同じ理由により、相違点2-1に係る構成が削除された発明は、引用発明2及び引用文献3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第4 むすび
以上のとおり、本件発明は、引用文献15に記載された発明、引用文献15に記載された事項及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
あるいは、本件発明は、引用文献3に記載された発明及び引用文献3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、他の請求項について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-01-28 
結審通知日 2020-02-04 
審決日 2020-02-17 
出願番号 特願2017-237149(P2017-237149)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉川 陽吾  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 河原 正
井口 猶二
発明の名称 防眩フィルム並びにその製造方法及び用途  
代理人 鍬田 充生  
代理人 阪中 浩  

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