• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 C08G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C08G
管理番号 1361349
審判番号 不服2019-3147  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-03-06 
確定日 2020-04-08 
事件の表示 特願2015-549649「チオール硬化弾性エポキシ樹脂」拒絶査定不服審判事件〔平成26年6月26日国際公開,WO2014/100245,平成28年1月21日国内公表,特表2016-501970〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成25年12月18日(パリ条約による優先権主張:平成24年12月21日(US)米国)を国際出願日とする外国語でされた国際特許出願であって,平成27年8月13日に手続補正書が提出され,平成29年12月7日付けで拒絶理由通知がされ,平成30年6月6日に意見書及び手続補正書が提出され,同年10月26日付けで拒絶査定がされ,これに対して,平成31年3月6日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定
1 補正の却下の決定の結論
平成31年3月6日に提出された手続補正書による手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

2 補正の却下の決定の理由
(1)本件補正の内容
ア 本件補正前の請求項1の記載は,以下のとおりである(平成30年6月6日に提出された手続補正書を参照。)。
「【請求項1】
弾性ポリマーを形成するためのプロセスであって,
a)1)少なくとも2000の分子量および少なくとも400のエポキシド等価重量を有する直鎖または分枝ポリエーテル鎖を有する少なくとも1つのポリエポキシド末端ポリエーテルであって,エポキシ反応基および少なくとも3,500の平均分子量を有するポリエーテルとエポキシ樹脂との反応によって形成される,ポリエポキシド末端ポリエーテル,
2)少なくとも2つのチオール基および最大500のチオール基当たり等価重量を有する少なくとも1つのポリチオール化合物を含有する硬化剤,ならびに
3)少なくとも1つの塩基触媒,を含有する反応混合物を形成し,
b)前記反応混合物を硬化させて,前記高分子エラストマーを形成する,
プロセス。」

イ 本件補正後の請求項1の記載は,以下のとおりである(下線は,補正箇所を示す。)。
「【請求項1】
弾性ポリマーを形成するためのプロセスであって,
a)1)少なくとも2000の分子量および少なくとも400のエポキシド等価重量を有する直鎖または分枝ポリエーテル鎖を有する少なくとも1つのポリエポキシド末端ポリエーテルであって,エポキシ反応基および少なくとも3,500の重量平均分子量を有するポリエーテルとエポキシ樹脂との反応によって形成される,ポリエポキシド末端ポリエーテル,
2)少なくとも2つのチオール基および最大500のチオール基当たり等価重量を有する少なくとも1つのポリチオール化合物を含有する硬化剤,ならびに
3)少なくとも1つの塩基触媒,を含有する反応混合物を形成し,
b)前記反応混合物を硬化させて,前記弾性ポリマーを形成する,
プロセス。」

ウ 本件補正は,上記のとおり,本件補正前の請求項1におけるポリエポキシド末端ポリエーテルを形成するために用いられるポリエーテルについて,当該ポリエーテルが有する「平均分子量」を「重量平均分子量」とする補正事項を含むものである。

(2)本件補正の適否についての当審の判断
ア 本件補正前の請求項1における「平均分子量」は,重量平均分子量,数平均分子量,それ以外の平均分子量のいずれであるのかを特定しないものである。

イ 一方,本願の国際出願日における国際特許出願の明細書の翻訳文及び請求の範囲の翻訳文(以下,「翻訳文等」という。)には,以下の記載がある。
(ア)本願の国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文
「【請求項1】
弾性ポリマーを形成するためのプロセスであって,a)1)少なくとも2000の分子量,少なくとも2つのエポキシド基,および少なくとも400のエポキシド等価重量を有する直鎖または分枝ポリエーテル鎖を有する少なくとも1つのポリエポキシド末端ポリエーテル,2)少なくとも2つのチオール基および最大500のチオール基当たり等価重量を有する少なくとも1つのポリチオール化合物を含有する硬化剤,ならびに3)少なくとも1つの塩基触媒,を含有する反応混合物を形成し,b)前記反応混合物を硬化させて,前記高分子エラストマーを形成する,プロセス。
・・・
【請求項7】
前記エポキシ末端ポリエーテルは,エポキシ反応基を有するポリエーテルとエポキシ樹脂との反応において形成される,請求項1?6のいずれかに記載のプロセス。
【請求項8】
前記ポリエーテルは,アミン末端である,請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記ポリエーテルは,4000?8000の平均分子量を有する,請求項7または8に記載のプロセス。」

(イ)本願の国際出願日における国際特許出願の明細書の翻訳文
「【0005】
本発明は,一態様では,弾性ポリマーを形成するためのプロセスであって,a)1)少なくとも2000g/モルの分子量,分子当たり平均で少なくとも2つのエポキシド基,および少なくとも400g/モルのエポキシド等価重量を有する直鎖または分枝ポリエーテル鎖を有する少なくとも1つのポリエポキシド末端ポリエーテル,2)少なくとも2つのチオール基および最大500g/モルのチオール基当たり等価重量を有する少なくとも1つのポリチオール化合物を含有する硬化剤,ならびに3)少なくとも1つの塩基触媒,を含有する反応混合物を形成し,b)反応混合物を硬化させて,高分子エラストマーを形成する,プロセスである。
・・・
【0008】
本発明では,エポキシ末端ポリエーテルは,エポキシ反応基を有するポリエーテルとエポキシ樹脂との反応によって形成される。ポリエーテルは,好ましくはアミン末端である。概して,ポリエーテルは,少なくとも3,500,好ましくは少なくとも4000,最大30,000,好ましくは最大12,000,またより好ましくは最大8,000の平均分子量を有するであろう。ポリエーテルは,C_(2)?C_(8)アルキレンオキシドのポリマーであってもよく,また好都合には,アルキレンオキシドを2?6個の活性水素原子を有する開始剤に添加することによって調製される。更なる実施形態では,ポリエーテルは,エチレンオキシド,1,2-プロピレンオキシド,1,2-ブチレンオキシド,2-3,ブチレンオキシド,テトラメチレンオキシド,およびそれらの混合物などの,2?4個の炭素原子を含有する1つ以上のアルキレンオキシドのポリマーである。アルキレンオキシドの混合物を使用してポリエーテルを作製する場合,酸化物は,ランダムまたはブロックコポリマーを形成するためにランダムにまたは連続的に重合されてもよい。幾つかの実施形態では,ポリエーテルは,1,2-プロピレンオキシドおよびエチレンオキシドのポリマーであり,エチレンオキシドは,酸化物の重量の30未満,25未満,20未満,または15未満の重量パーセントを構成する。一実施形態では,ポリエーテルポリオールは,ポリ(オキシプロピレン)ホモポリマーである。開始剤に対するアルキレンオキシドの重合のための触媒作用は,アニオン性かまたはカチオン性かのいずれかであることができる。アルキレンオキシドの重合に一般的に使用される触媒としては,KOH,CsOH,三フッ化ホウ素,亜鉛ヘキサシアノコバルテートなどの二重シアン化物錯体(DMC)触媒,または四級ホスファゼニウム化合物が挙げられる。
・・・
【0011】
市販されているポリオキシアルキレンアミンの例としては,Huntsman Corporation製のJEFFAMINE(商標)D-4000およびJEFFAMINE(商標)T-5000ポリエーテルアミンが挙げられる。
・・・
【0065】
実施例1?6
A.エポキシ末端プレポリマーの生成:
49.6kgの180等価重量のビスフェノールA(DER(商標)383液体エポキシ樹脂ジグリシジルエーテルThe Dow Chemical Companyから入手可能)を,52.3kgの5000分子量のアミン末端グリセリン開始ポリ(プロピレンオキシド)(Jeffamine(商標)T5000,Huntsman Corp.から入手可能,アミン水素等価重量=952g/モル)と混合する。混合物を,脱気し,窒素下で3時間125℃で加熱する。結果として得られる生成物は,25℃で90,000cPsの粘度を有し,また412g/モルのエポキシ等価重量を有する粘性液体である。生成物は,エポキシ樹脂とのアミン末端ポリエーテルの反応生成物に対応する約70重量%のエポキシ末端ポリエーテル,および約30重量%の未反応の液体エポキシ樹脂を含有する混合物である。」

ウ(ア)以上の翻訳文等の記載によれば,翻訳文等には,少なくとも2000(2000g/モル)の分子量を有する少なくとも1つのポリエポキシド末端ポリエーテルが記載され(請求項1,【0005】),上記エポキシ末端ポリエーテル(ポリエポキシド末端ポリエーテル)は,エポキシ反応基を有するポリエーテルとエポキシ樹脂との反応において形成されるものであることが記載されている(請求項7,【0008】)。
また,翻訳文等には,上記ポリエーテルは,好ましくは,アミン末端であり,C_(2)?C_(8)アルキレンオキシドのポリマーであってもよく,少なくとも3,500,好ましくは少なくとも4000,最大30,000,好ましくは最大12,000,またより好ましくは最大8,000の平均分子量を有することが記載され(請求項8,9,【0008】),市販されているポリオキシアルキレンアミンの例として,Huntsman Corporation製のJEFFAMINE(商標)D-4000及びJEFFAMINE(商標)T-5000ポリエーテルアミンが記載され(【0011】),実施例では,5000分子量のアミン末端グリセリン開始ポリ(プロピレンオキシド)であるJeffamine(商標)T5000を用いて,エポキシ末端ポリエーテルを生成したことが記載されている(【0065】)。
(イ)上記のとおり,翻訳文等には,エポキシ末端ポリエーテルを形成するために用いられるポリエーテルの平均分子量について記載されているが,その平均分子量が,重量平均分子量,数平均分子量,それ以外の平均分子量のいずれを意味するものであるのかについては,何ら記載されていない。また,エポキシ末端ポリエーテルを形成するために用いられるポリエーテルの平均分子量として,通常,重量平均分子量が用いられる,との技術常識があるわけでもない。
そして,翻訳文等には,上記ポリエーテル(ポリオキシアルキレンアミン)の市販品として,「Jeffamine(商標)T5000」が記載されているが,「5000分子量」と記載されるのみであり,また,下記aの参考資料1にも,「JEFFAMINE^(○R)」の「T-5000」について,「MW」(approximate molecular weight(審決注:およその分子量))が「5000」であることが記載されるのみである。
上記「Jeffamine(商標)T5000」の平均分子量については,重量平均分子量が用いられる場合(例えば,下記bの参考文献1【0035】)と,数平均分子量が用いられる場合(例えば,下記aの参考資料2,3(参考資料4も参照))のいずれもがあり,また,「Jeffamine(商標)T5000」以外の,各種の「Jeffamine(商標)」についても同様であるから(例えば,下記aの参考資料2,3(参考資料4も参照),下記bの参考文献1【0035】,参考文献3【0035】,参考文献4【0023】,【0143】,参考文献5【0012】,参考文献6【0021】),「Jeffamine(商標)T5000」の平均分子量として,通常,重量平均分子量が用いられるということもできない。
そうすると,翻訳文等に記載される,エポキシ末端ポリエーテルを形成するために用いられるポリエーテルの平均分子量が,重量平均分子量,数平均分子量,それ以外の平均分子量のいずれを意味するものであるのかは,不明というほかない。
以上によれば,翻訳文等には,本件補正前の請求項1における「平均分子量」が,「重量平均分子量」を意味するものであることが記載されているとはいえず,また,そのことが翻訳文等に記載した事項から自明の事項とも認められない。

a 平成30年6月6日に請求人が提出した意見書に添付された参考資料
・参考資料1 HUNTSMANのウェブページ[令和1年10月30日検索]


・参考資料2 "Secondary Structure-Induced Micro- and Macrophase Separation in Rod-Coil Polypeptide Diblock, Triblock, and Star-Block Copolymers", Macromolecules, 2010, vol.43(2), p.1093-1100
「Experimental Part
Materials. l-Glutamic acid γ-benzyl ester (Fluka, ≧99.0%), triphosgene (Aldrich, 98%), N,N-dimethylformamide (DMF) (Sigma-Aldrich, ≧99.8%, over molecular sieve), methylene chloride (DCM) (Acros, 99.99%), and methanol (Fluka, 99.8%) were used as received. Ethyl acetate (Sigma-Aldrich, ≧99.9%) and cyclohexane (Sigma-Aldrich, ≧99.9%) were dried and distilled over CaH_(2) (Fluka, >97.0%) at normal pressure. Mono-, di-, and triamine-terminated poly(propylene oxide)-based macroinitiators Jeffamine M-2005, D-2000, D-4000, T-3000, and T-5000 (Jeffamines), with approximate number average molecular masses of 2000, 2000, 4000, 3000, and 5000 g・mol^(-1), respectively, were kindly provided by Huntsman Corporation and degassed before use.」(審決注:下線は,当審で付加した。)(1093頁右欄下から4行?1094頁左欄10行)

・参考資料3 "Synthesis and Characterization of New Polyurea Elastomers by Sol/Gel Chemistry", Macromolecular Chemistry and Physics, 2010, vol.211, p.1712-1721
「Experimental Part
Materials
The three linear diamino-terminated polyetheramines AD-400,AD-2000 and AD-4000 (jeffamine D-400, Mn=400Da; jeffamine D-2000, Mn=2000Da; jeffamine D-4000, Mn=4000Da), the three star-like triamino-terminated polyetheramines AT-403, AT-3000 and AT-5000 (jeffamine T-403, Mn=440Da; jeffamine T-3000, Mn=3000Da; jeffamine T-5000, Mn=5000Da) were supplied by Huntsman International LLC. The triisocyanate crosslinker BHI-100 (Basonat HI-100, Mn=505Da) was provided by BASF SE. All chemicals were used as recieved.・・・」(審決注:下線は,当審で付加した。「Mn」は,上部にバーが付いたものである。)(1713頁右欄1?11行)

・参考資料4 山田信夫,「分子量分布表示法」[令和1年10月31日検索]


b 拒絶査定で引用された参考文献
・参考文献1 特開平6-16768号公報
「【0035】実施例中に用いた用語は,下記の意味である。
D-230:約230の重量平均分子量を有するポリオキシプロピレンジアミン(Texaco Chemical Co., Inc. のJeffamine D-230)
D-2000:約2,000の重量平均分子量を有するポリオキシプロピレンジアミン(Texaco Chemical Co., Inc. のJeffamine D-2000)
・・・
T-403:トリメチロールプロパンを開始剤に用いて製造される,約440の重量平均分子量を有するポリオキシプロピレントリアミン(Texaco Chemical Co., Inc. のJeffamine T-403)
T-5000:グリセリンを開始剤に用いて製造される,約5,000の重量平均分子量を有するポリオキシプロピレントリアミン(Texaco Chemical Co., Inc. のJeffamine T-5000)
・・・」

・参考文献3 特開2012-219115号公報
「【0035】
実施例1
非変性ポリアミノ化合物(A)であるイソホロンジアミン及びポリオキシプロピレンジアミン(JEFFAMINE(登録商標)D-230,重量平均分子量230)と,合成例1で得たフェネチル化ポリアミノ化合物(B-1)を10:63:27の質量比で混合し,エポキシ樹脂硬化剤(i)を得た。該エポキシ樹脂硬化剤(i)の粘度は,13mPa・s(30℃)であった。
・・・」

・参考文献4 特開2010-270312号公報
「【0023】
・・・アルキルエーテルの重量平均分子量(以下,MWともいう)は,500以上10000以下であることが好ましい。アルキルエーテルの重量平均分子量とは,GPCでポリエチレングリコールを基準として測定される重量平均分子量を指す。」
「【0143】
[自己分散型顔料分散液37]
分散液1を30g分取した後,分取した分散液1中にDMT-MMを0.29g加え,ジグリコールアミンに代えてMwが600のポリオキシアルキレンアミン(JEFFAMINE M-600(別名:XTJ-505,HUNTSMAN製))を5.46g加えた以外は自己分散型顔料分散液1の製造方法と同様の操作を行った。・・・」

・参考文献5 特表2005-504134号公報
「【0012】
得られる化合物が湿潤剤に溶解可能であり,かつ,カーボンブラック表面の酸ハライド基と反応性であるモノ-アミン末端化合物も用いられる。このような化合物は,約500?約2500の範囲の重量平均分子量を有するアルコキシ-末端ジェフアミン(Jeffamine)ポリアルキレングリコール,メトキシ-末端ジェフアミンポリエチレングリコール,メトキシ-末端ジェフアミンポリプロピレングリコール及びメトキシ-末端ジェフアミンポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールのコポリマーを含むが,これらに限定されるものではない。ジェフアミン化合物は,ポリエーテル主鎖の末端に結合し“ポリエーテルアミン”と言われる第1アミノ基を含有する。ポリエーテル主鎖は,プロピレンオキサイド(PO),エチレンオキサイド(EO)又はPO/EO混合物のいずれかに基づく。このようなアミン-末端化合物は,第1アミン又は第2アミンである。」

・参考文献6 特開平6-27715号公報
「【0021】
【比較例1】・・・次いで,150gの得られた混合物を,700mlの1.0%タイロース(TYLOSE ,登録商標) 水溶液と0.005%のドデシル硫酸ナトリウムを含有する2リットルの反応容器に移し,得られた混合物を10,000rpmで操作するブリンクマン(Brinkmann) ポリトロンを用いて2分間均質化し,その後,シリンジポンプを用いて,12.8gのジェファミン D-400(JEFFAMINE D-400,登録商標)(重量平均分子量400)と2.6gのダイテックA(DYTEK A,登録商標)を30分に亘ってゆっくり加えた。・・・」

エ 以上のとおりであるから,上記補正事項は,翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものであり,翻訳文等に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえない。
したがって,本件補正は,特許法17条の2第3項(同法184条の12第2項参照)の規定に違反するものであり,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明(審理の対象となる発明)
本件補正は,上記のとおり却下されたので,審理の対象となる発明は,平成30年6月6日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
弾性ポリマーを形成するためのプロセスであって,
a)1)少なくとも2000の分子量および少なくとも400のエポキシド等価重量を有する直鎖または分枝ポリエーテル鎖を有する少なくとも1つのポリエポキシド末端ポリエーテルであって,エポキシ反応基および少なくとも3,500の平均分子量を有するポリエーテルとエポキシ樹脂との反応によって形成される,ポリエポキシド末端ポリエーテル,
2)少なくとも2つのチオール基および最大500のチオール基当たり等価重量を有する少なくとも1つのポリチオール化合物を含有する硬化剤,ならびに
3)少なくとも1つの塩基触媒,を含有する反応混合物を形成し,
b)前記反応混合物を硬化させて,前記高分子エラストマーを形成する,
プロセス。
【請求項2】
前記反応混合物は,100重量部の構成成分1)当たり,10?150重量部の4)分子当たり平均少なくとも1.5のエポキシド基および最大250のエポキシ等価重量を有するエポキシ樹脂をさらに含有する,請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂4)は,ポリフェノールのポリグリシジルエーテルを含む,請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂4)は,最大250のエポキシド等価重量を有する脂肪族エポキシ樹脂を含む,請求項1?3に記載のプロセス。
【請求項5】
エポキシ基当量当たり,0.1?1.5当量のチオール基が提供される,請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記反応混合物は,100重量部の構成成分1)当たり,10?150重量部の5)チオール-エン反応に関与することが可能な少なくとも2つの炭素-炭素二重結合を有し,かかる炭素-炭素二重結合当たり最大250の重量を有する,ポリエン化合物をさらに含有する,請求項4に記載のプロセス。
【請求項7】
前記ポリエーテルは,4000?8000の平均分子量を有する,請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
前記ポリエーテルは,1,2-プロピレンオキシドおよびエチレンオキシドのポリ(オキシプロピレン)ホモポリマーまたはコポリマーであり,前記エチレンオキシドは,前記1,2-プロピレンオキシドおよびエチレンオキシドのコポリマーの重量の20重量パーセント未満を構成する,請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記反応混合物は,周囲温度で硬化される,請求項1に記載のプロセス。
【請求項10】
前記反応混合物は,最大60℃の温度で硬化される,請求項1に記載のプロセス。」

第4 原査定の概要
1 理由1(明確性要件)
本願は,特許請求の範囲の記載(請求項1?10の記載)が下記の点で,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。

請求項1には「少なくとも3,500の平均分子量を有するポリエーテル」と記載されているが,該「平均分子量」が数平均分子量を意味するのか重量平均分子量を意味するのかそれら以外の平均分子量を意味するのか把握できない。そして,これら平均分子量は必ずしも同じ値になるとは限らない(一義的に定まらない)ことから,一義的に定まらないパラメータで規定されたポリエーテルを必須とする請求項1に係る発明もまた一義的に定まらない。
請求項1の「少なくとも2000の分子量」,請求項7の「平均分子量」についても同様である。
よって,請求項1?10に係る発明は明確ではない。

第5 当審の判断
以下に述べるように,本願の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2号に適合するものではないから,本願は,拒絶すべきものである。

1 明確性要件について
特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は,仮に,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者の利益が不当に害されることがあり得るので,そのような不都合な結果を防止することにある。そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
以下,検討する。

2 検討
(1)請求項1について
ア 請求項1には,「エポキシ反応基および少なくとも3,500の平均分子量を有するポリエーテルとエポキシ樹脂との反応によって形成される,ポリエポキシド末端ポリエーテル」と記載されている。
請求項1における上記記載は,ポリエポキシド末端ポリエーテルを形成するために用いられるポリエーテルについて,当該ポリエーテルが有する「平均分子量」が,「少なくとも3,500」であることを特定するものと解される。
しかしながら,上記「平均分子量」は,重量平均分子量,数平均分子量,それ以外の平均分子量のいずれであるのかを特定しないものであり,その意味が明らかでない。
イ そこで,本願明細書(本願の国際出願日における国際特許出願の明細書の翻訳文)の記載を参酌すると,本願明細書には,上記第2の2(2)イ(イ)のとおりの記載があるところ,上記第2の2(2)ウで検討したとおり,本願明細書には,請求項1における「平均分子量」が,重量平均分子量,数平均分子量,それ以外の平均分子量のいずれを意味するものであるのかについては,何ら記載されていない。また,エポキシ末端ポリエーテルを形成するために用いられるポリエーテルの平均分子量として,通常,重量平均分子量,数平均分子量,それ以外の平均分子量のいずれかが用いられる,との技術常識があるわけでもない。
そして,上記第2の2(2)ウで述べたとおり,本願明細書には,上記ポリエーテル(ポリオキシアルキレンアミン)の市販品として,「Jeffamine(商標)T5000」が記載されているが,「5000分子量」と記載されるのみであり,また,参考資料1にも,「JEFFAMINE^(○R)」の「T-5000」について,「MW」(approximate molecular weight
(審決注:およその分子量))が「5000」であることが記載されるのみである。
上記「Jeffamine(商標)T5000」の平均分子量については,重量平均分子量が用いられる場合と,数平均分子量が用いられる場合のいずれもがあり,また,「Jeffamine(商標)T5000」以外の,各種の「Jeffamine(商標)」についても同様であることは,上記第2の2(2)ウのとおりであるから,「Jeffamine(商標)T5000」の平均分子量として,通常,重量平均分子量が用いられるとか,通常,数平均分子量が用いられるなどということもできない。
そうすると,本願明細書に記載される,エポキシ末端ポリエーテルを形成するために用いられるポリエーテルの平均分子量が,重量平均分子量,数平均分子量,それ以外の平均分子量のいずれを意味するものであるのかは,不明というほかない。
以上によれば,本願明細書の記載を参酌したとしても,請求項1における「平均分子量」が,重量平均分子量,数平均分子量,それ以外の平均分子量のいずれを意味するものであるのかは,明らかではない。
請求人は,参考資料2?4を示し,JEFFAMINE(商標)T-5000等の市販のポリオキシアルキレンアミンの平均分子量が,数平均分子量に基づくものであることは,当業者に公知であり,当業者であれば,ポリエーテル分野において平均分子量としては数平均分子量が使われ,他の平均分子量と疑義が生じないことを理解すると主張するが(平成30年6月6日に提出された意見書2頁),各種のJEFFAMINE(商標)の平均分子量については,重量平均分子量が用いられる場合と,数平均分子量が用いられる場合のいずれもがあることは,上記のとおりであるから,請求人の主張は採用できない。
ウ そして,請求項1における「平均分子量」について,重量平均分子量,数平均分子量,それ以外の平均分子量のいずれを意味すると解するかによって,対象となるポリエーテルの範囲が異なるものとなる。例えば,重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)については,重合体の分子量分布はMw/Mn>1(すなわち,Mw>Mn)であることが知られており,このことは,エポキシ樹脂等の製造に用いられるポリエーテルについても同様であるところ(例えば,下記(ア)の参考文献7,9(参考文献8も参照)),Mnが3500未満であるポリエーテルでも,Mwは3500を超える場合があるから,平均分子量を,重量平均分子量,数平均分子量のいずれを意味すると解するかによって,対象となるポリエーテルの範囲が異なるものとなる。
この点,請求人は,市販のポリエーテルポリオールは,多分散性(Mw/Mn)が1に非常に近いものに調製されているので,数平均分子量と重量平均分子量はほぼ同じ値となると主張するが(平成30年6月6日に提出された意見書2頁),請求項1における「ポリエーテル」は,「エポキシ反応基および少なくとも3,500の平均分子量を有するポリエーテル」と特定されるのみであり,Mw/Mnが1に非常に近いものに限定されているわけではなく,また,請求人が指摘する市販のポリエーテルポリオールに限定されたものでもなく,それ以外のポリエーテルも包含するものであるから,請求人の主張は,特許請求の範囲の記載に基づく主張ではなく,採用できない。

(ア)拒絶査定で引用された参考文献
・参考文献7 国際公開第2011/043349号
「[0007] ポリエーテルポリオール,ポリエステルエーテルポリオール等のポリエーテル類は,分子量分布が狭くて低粘度であることが,取り扱い性の点で好ましい。
しかしながら,従来のポリエーテル類の製造方法で得られる生成物は分子量分布が充分に狭いとは言えず,さらなる技術の進歩が求められていた。」

・参考文献8 特開平7-25982号公報
「【0024】(実施例1)製造実施例1で得られたモノイソシアネート化合物(1)26gにポリテトラメチレングリコール(水酸基価56.0,PTMG2000,三菱化成工業社製)200gを加え,80℃で4時間反応させた。IRにより,特徴的なNCOの吸収スペクトルがなくなることで,反応終了とした。
【0025】このようにして,下記式で示されるウレタン変性ポキシ樹脂(A)を得た。得られた樹脂は,粘度50Pa・s(50℃),エポキシ当量1217であった。
・・・」

・参考文献9 特開2010-174053号公報
「【0039】
・・・
比較例2
比較ポリエーテルポリオール(P-2’):PTMG(三菱化学製「PTMG2000」)〔水酸基価=56.1,Mn=1730,Mw=3450,Mw/Mn=2.0〕
・・・」

エ そうすると,上記のとおり,本願明細書の記載を参酌したとしても,請求項1における「平均分子量」が,重量平均分子量,数平均分子量,それ以外の平均分子量のいずれを意味するものであるのかは,明らかではなく,また,このことは,当業者の出願当時における技術常識を踏まえても変わるものではない以上,「少なくとも3,500」の上記「平均分子量」を有するポリエーテルについても,その対象となるポリエーテルの範囲が明確に特定されているということはできないから,特許請求の範囲の請求項1の記載は,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるといえる。
したがって,請求項1に係る発明は,明確ではない。

オ また,請求項1には,「少なくとも2000の分子量および少なくとも400のエポキシド等価重量を有する直鎖または分枝ポリエーテル鎖を有する少なくとも1つのポリエポキシド末端ポリエーテル」と記載されているが,「ポリエポキシド末端ポリエーテル」は,重合体である以上,低分子化合物のように分子量が一に定まるとは考え難く,ここでいう「分子量」は,「平均分子量」の意味と解するのが自然である。
そうすると,請求項1に記載される「少なくとも2000の分子量」「を有する」「少なくとも1つのポリエポキシド末端ポリエーテル」についても,上記ア?エと同様であり,上記ア?エで述べたのと同様の理由により,請求項1に係る発明は,明確ではない。

(2)請求項7について
請求項7に記載される「前記ポリエーテルは,4000?8000の平均分子量を有する」についても,請求項1の場合と同様であり,請求項1について述べたのと同様の理由により,請求項7に係る発明は,明確ではない。

(3)請求項2?6及び8?10について
請求項2?6及び8?10は,請求項1又は7を直接又は間接的に引用するものであるが,これらの請求項についても,請求項1の場合と同様であり,請求項1について述べたのと同様の理由により,請求項2?6及び8?10に係る発明は,明確ではない。

3 まとめ
以上のとおりであるから,本願の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2号に適合するものではない。

第6 むすび
以上のとおり,本願の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2号に適合するものではないから,本願は,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-11-06 
結審通知日 2019-11-12 
審決日 2019-11-25 
出願番号 特願2015-549649(P2015-549649)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C08G)
P 1 8・ 561- Z (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大久保 智之  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 井上 猛
武貞 亜弓
発明の名称 チオール硬化弾性エポキシ樹脂  
代理人 片山 英二  
代理人 大森 規雄  
代理人 小林 浩  
代理人 鈴木 康仁  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ