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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01B
管理番号 1361365
審判番号 不服2019-1788  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-08 
確定日 2020-04-06 
事件の表示 特願2016-180246「鉄道車両用絶縁電線」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 3月22日出願公開、特開2018- 45885〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成28年9月15日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 3月 1日付け :拒絶理由通知書
平成30年 5月 2日 :意見書,手続補正書の提出
平成30年 7月13日付け :拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
平成30年 8月31日 :意見書,手続補正書の提出
平成30年11月 5日付け :平成30年8月31日の手続補正に
ついての補正の却下の決定,
拒絶査定(原査定)
平成31年 2月 8日 :審判請求書,手続補正書の提出

第2 平成31年2月8日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成31年2月8日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正後の,平成31年2月8日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-3の記載は次のとおりである。(下線部は,補正箇所である。以下,この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正後の請求項」という。)
「 【請求項1】
導体と,
前記導体の外周上に配置された被覆層と,
を有し,
前記被覆層は,
前記導体の外周上に配置され導電剤を含み1×10^(9)Ωcm以下の体積抵抗率を有するポリマ組成物(A)で形成された半導電層と,
前記半導電層の外周上に配置され1×10^(16)Ωcm以上の体積抵抗率を有するポリマ組成物(B)で形成された高電気絶縁層と,
少なくとも前記高電気絶縁層の外周上に配置され難燃剤を含むポリマ組成物(C)で形成された難燃層と,
を有し,
前記高電気絶縁層および前記半導電層の厚さは,それぞれ,前記難燃層の厚さよりも薄く,
前記ポリマ組成物(A)のベースポリマはポリオレフィン樹脂である鉄道車両用絶縁電線。
【請求項2】
前記高電気絶縁層の厚さは,前記難燃層の厚さの1/2以下である請求項1に記載の鉄道車両用絶縁電線。
【請求項3】
前記半導電層の厚さは,前記難燃層の厚さの1/2以下である請求項1または2に記載の鉄道車両用絶縁電線。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,平成30年5月2日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-18の記載は次のとおりである。(以下,この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正前の請求項」という。)
「 【請求項1】
導体と,
前記導体の外周上に配置された被覆層と,
を有し,
前記被覆層は,
前記導体の外周上に配置され導電剤を含み1×10^(9)Ωcm以下の体積抵抗率を有するポリマ組成物(A)で形成された半導電層と,
前記半導電層の外周上に配置され1×10^(16)Ωcm以上の体積抵抗率を有するポリマ組成物(B)で形成された高電気絶縁層と,
少なくとも前記高電気絶縁層の外周上に配置され難燃剤を含むポリマ組成物(C)で形成された難燃層と,
を有し,
前記高電気絶縁層および前記半導電層の厚さは,それぞれ,前記難燃層の厚さよりも薄く,
前記ポリマ組成物(A)のベースポリマはポリオレフィン樹脂である絶縁電線。
【請求項2】
前記高電気絶縁層の厚さは,前記難燃層の厚さの1/2以下である請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記半導電層の厚さは,前記難燃層の厚さの1/2以下である請求項1または2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記半導電層の厚さと前記高電気絶縁層の厚さとの和は,前記難燃層の厚さの2/3以下である請求項1?3のいずれか1つに記載の絶縁電線。
【請求項5】
前記高電気絶縁層は,前記高電気絶縁層と前記難燃層との積層部分の厚さ方向に印加される電圧の80%以上を分担する請求項1?4のいずれか1つに記載の絶縁電線。
【請求項6】
前記ポリマ組成物(B)は,1×10^(17)Ωcm以上の体積抵抗率を有する請求項1?5のいずれか1つに記載の絶縁電線。
【請求項7】
前記高電気絶縁層を形成する前記ポリマ組成物(B)の体積抵抗率は,前記難燃層を形成する前記ポリマ組成物(C)の体積抵抗率の10倍以上である請求項1?6のいずれか1つに記載の絶縁電線。
【請求項8】
前記絶縁電線の外径は,7mm以下である請求項1?7のいずれか1つに記載の絶縁電線。
【請求項9】
前記半導電層の厚さは,0.10mm以下である請求項1?8のいずれか1つに記載の絶縁電線。
【請求項10】
前記高電気絶縁層の厚さは,0.15mm以下である請求項1?9のいずれか1つに記載の絶縁電線。
【請求項11】
前記難燃層の厚さは,0.30mm以下である請求項1?10のいずれか1つに記載の絶縁電線。
【請求項12】
前記半導電層は,前記導体の直上に配置されている請求項1?11のいずれか1つに記載の絶縁電線。
【請求項13】
前記高電気絶縁層は,前記半導電層の直上に配置されている請求項1?12のいずれか1つに記載の絶縁電線。
【請求項14】
前記難燃層は,さらに,前記半導電層と前記高電気絶縁層との間に配置されている請求項1?13のいずれか1つに記載の絶縁電線。
【請求項15】
前記難燃層は,前記高電気絶縁層の直上に配置されている請求項1?14のいずれか1つに記載の絶縁電線。
【請求項16】
前記難燃層は,前記絶縁電線の最外層である請求項1?15のいずれか1つに記載の絶縁電線。
【請求項17】
前記導体は,複数本の素線が撚り合された撚線である請求項1?16のいずれか1つに記載の絶縁電線。
【請求項18】
前記難燃層は,前記ポリマ組成物(C)が1×10^(13)Ωcm以上の体積抵抗率を有する電気絶縁層である請求項1?17のいずれか1つに記載の絶縁電線。」

2 補正の適否
本件補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされており,特許法第17条の2第3項の規定に適合している。
また,本件補正は,特別な技術的特徴を変更(シフト補正)しようとするものではなく,特許法第17条の2第4項の規定に適合している。

2-1 目的要件
本件補正は上記「1 本件補正について(補正の内容)」のとおり,本件審判の請求と同時にする補正であり,特許請求の範囲について補正をしようとするものであるから,本件補正が,特許法第17条の2第5項の規定を満たすものであるか否か,すなわち,本件補正が,特許法第17条の2第5項に規定する請求項の削除,特許請求の範囲の減縮(特許法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る),誤記の訂正,或いは,明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由を示す事項についてするものに限る)の何れかを目的としたものであるかについて,以下に検討する。

(1)補正前の請求項と補正後の請求項とを比較すると,補正後の請求項1-3はそれぞれ,補正前の請求項1-3に対応することは明らかである。

(2)よって,本件補正は,下記の補正事項1-3よりなるものである。
ア 補正事項1
補正前の請求項1の
「前記ポリマ組成物(A)のベースポリマはポリオレフィン樹脂である絶縁電線」との記載を,
補正後の請求項1の「前記ポリマ組成物(A)のベースポリマはポリオレフィン樹脂である鉄道車両用絶縁電線」との記載に変更する補正。

イ 補正事項2
補正前の請求項2,3の「絶縁電線」との記載を,請求項1の補正に対応して,「鉄道車両用絶縁電線」との記載に変更する補正。

ウ 補正事項3
補正前の請求項4-18を削除する補正。

(3)補正事項1,2について
補正前の請求項1の「絶縁電線」を「鉄道車両用絶縁電線」に変更する本件補正は,補正前の請求項1の発明特定事項である「絶縁電線」について限定的に減縮することを目的とするものである。
また,本件補正によっても,補正前の請求項に記載された発明とその補正後の請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であることは明らかである。

(4)小括
したがって,上記補正事項1,2は特許請求の範囲の減縮(限定的減縮)を目的とするものであり,また,上記補正事項3は請求項の削除を目的とするものであるから,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮,及び同条同項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当するといえることから,特許法第17条の2第5項の規定に適合するものである。

2-2 独立特許要件
以上のように,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする上記補正事項1,2を含むものである。
そこで,補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は,平成31年2月8日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲,明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。
「 【請求項1】
導体と,
前記導体の外周上に配置された被覆層と,
を有し,
前記被覆層は,
前記導体の外周上に配置され導電剤を含み1×10^(9)Ωcm以下の体積抵抗率を有するポリマ組成物(A)で形成された半導電層と,
前記半導電層の外周上に配置され1×10^(16)Ωcm以上の体積抵抗率を有するポリマ組成物(B)で形成された高電気絶縁層と,
少なくとも前記高電気絶縁層の外周上に配置され難燃剤を含むポリマ組成物(C)で形成された難燃層と,
を有し,
前記高電気絶縁層および前記半導電層の厚さは,それぞれ,前記難燃層の厚さよりも薄く,
前記ポリマ組成物(A)のベースポリマはポリオレフィン樹脂である鉄道車両用絶縁電線。」

(2)引用例
(2-1)引用例1に記載されている技術的事項および引用発明
ア 本願出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり,原審の拒絶査定の理由である平成30年7月13日付けの拒絶理由通知において引用された,特開平2-165516号公報(平成2年6月26日出願公開,以下,「引用例1」という。)には,以下の技術的事項が記載されている。(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

A 「(産業上の利用分野)
本発明はテレビジョン受像機の高圧リード線や,電子機器類の高圧配線等に使用する直流高圧電線に関するものである。」(第1頁左下欄17-20行)

B 「(解決しようとする課題)
上述した従来構造の高圧電線は,初期破壊電圧値は300KV程度と非常に高い値を示しているが,長期使用中に著しい破壊電圧の低下をもたらす。
このため,比較的使用条件が電気的に緩やかな場合には問題がなかったが,最近ではテレビジョン受像機での多機能化が進み,高圧電線に対する電気的な使用条件が厳しくなり,アースと高圧電線間が著しく接近するといった設計が行われるようになってきた。このため,長期使用中での破壊電圧値の低下が,電気的破壊につながる危険性が著しく高いものとなり,その改善が必要となった。」(第2頁左上欄4-17行)

C 「(課題を解決するための手段)
本発明は上述の問題点を解消し,長期使用中の破壊電圧の低下を防いだ直流用高圧電線を提供するもので,その特徴は,導体上にポリオレフィン樹脂にカーボンブラックを10重量%以上添加しその絶縁抵抗値が10^(10)Ω・cm以下である樹脂組成物層を,その上に軟化温度が105℃以上のポリエチレンを主体とする組成物による絶縁層を,さらにその上にエチレン又はメタルメタクリレートと酢酸ビニル,塩化ビニルの三元共重合体及び塩素化ポリエチレン,塩化ビニルの二元共重合体を主体とした組成物による難燃性保護被覆層を順次設けて成り,上記いずれの層も架橋されていることにある。
第1図は本発明の直流用高圧電線の具体例の横断面図である。
図面において,(1)は導体,(2)は導体(1)上に設けたポリエチレンの如きポリオレフィン樹脂にカーボンブラックを10重量%以上添加し,その絶縁抵抗値が10^(10)Ω・cm以下である樹脂組成物層であり,(3)は該層(2)の上に設けた軟化温度が105℃以上のポリエチレンを主体とした組成物による絶縁層である。(4)は上記絶縁層(3)上に設けたエチレン又はメタルメタクリレートと酢酸ビニル,塩化ビニルの三元共重合体及び塩素化ポリエチレン,塩化ビニルの二元共重合体を主体とした組成物による難燃性保護被覆層である。」(第2頁左上欄18-同頁左下欄4行)

D 「(作用)
本願発明者等は,従来の高圧絶縁電線が長期使用中に破壊電圧が低下するのを防止する手段として,絶縁材料であるポリエチレン層の熱劣化防止等について検討したが,有効な改善はできなかった。
さらに鋭意研究を重ねた結果,導体(1)とポリエチレンの絶縁層(2)の間にカーボンブラックを添加したポリオレフィンの樹脂組成物(3)を設けることにより,長期使用中における破壊電圧の低下を防ぐことができることを見出した。」(第2頁左下欄14行-同頁右下欄4行)

E 「(実施例)
直径が0.813mm銅線上に,エチレン-エチルアクリレート共重合体にアセチレンブラックを50重量部添加した絶縁抵抗値5×10^(4)Ω・cmのカーボン添加樹脂組成物層を0.1mmの厚さで押出し被覆した。その上に,融点が120℃の高密度ポリエチレンを外径が2.813mmになるように押出し被覆して絶縁層を形成し,さらにその上に,エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体,メチルメタクリレート-酢酸ビニル共重合体,及び塩素化ポリエチレン-塩化ビニル共重合体を主体とする樹脂組成物を外径が5.813mmとなるように押出し被覆した。しかる後,2MeVの電子線を15Mrad照射して前記被覆層を架橋せしめ本発明の直流用高圧電線を製作した。
上記直流用高圧電線を長さ3mに切断した試料5本を,100℃の恒温槽中で0日,3日,7日,10日間加熱した後,水槽中で電線の水中部分が約1mとなるようにセットし,水側をアースとして導体に直流の正電圧を約10KV/秒で課電し,破壊電圧を測定した。」(第3頁左上欄6行-同頁右上欄6行)

F 「 第1図



イ ここで,引用例1に記載されている事項を検討する。
(ア)上記Aの「本発明はテレビジョン受像機の高圧リード線や,電子機器類の高圧配線等に使用する直流高圧電線に関するものである。」との記載,上記Cの「第1図は本発明の直流用高圧電線の具体例の横断面図である。」との記載,上記Fの第1図の記載からすると,引用例1には,“テレビジョン受像機等の電子機器類に使用する直流高圧電線”が記載されていると解される。

(イ)上記Cの「図面において,(1)は導体,(2)は導体(1)上に設けたポリエチレンの如きポリオレフィン樹脂にカーボンブラックを10重量%以上添加し,その絶縁抵抗値が10^(10)Ω・cm以下である樹脂組成物層であり,(3)は該層(2)の上に設けた軟化温度が105℃以上のポリエチレンを主体とした組成物による絶縁層である。(4)は上記絶縁層(3)上に設けたエチレン又はメタルメタクリレートと酢酸ビニル,塩化ビニルの三元共重合体及び塩素化ポリエチレン,塩化ビニルの二元共重合体を主体とした組成物による難燃性保護被覆層である。」との記載,上記Dの「さらに鋭意研究を重ねた結果,導体(1)とポリエチレンの絶縁層(2)の間にカーボンブラックを添加したポリオレフィンの樹脂組成物(3)を設けることにより,長期使用中における破壊電圧の低下を防ぐことができることを見出した。」との記載,上記Fの第1図の記載からすると,引用例1には,上記(ア)で検討した“テレビジョン受像機等の電子機器類に使用する直流高圧電線”は,
“導体(1)と,
前記導体(1)上に設けたポリエチレンの如きポリオレフィン樹脂にカーボンブラックを10重量%以上添加し,その絶縁抵抗値が10^(10)Ω・cm以下である樹脂組成物層(2)と,
前記樹脂組成物層(2)の上に設けた軟化温度が105℃以上のポリエチレンを主体とした組成物による絶縁層(3)と,
前記絶縁層(3)上に設けたエチレン又はメタルメタクリレートと酢酸ビニル,塩化ビニルの三元共重合体及び塩素化ポリエチレン,塩化ビニルの二元共重合体を主体とした組成物による難燃性保護被覆層(4)と,を有”することが記載されていると解される。

(ウ)上記Eの「直径が0.813mm銅線上に,エチレン-エチルアクリレート共重合体にアセチレンブラックを50重量部添加した絶縁抵抗値5×10^(4)Ω・cmのカーボン添加樹脂組成物層を0.1mmの厚さで押出し被覆した。その上に,融点が120℃の高密度ポリエチレンを外径が2.813mmになるように押出し被覆して絶縁層を形成し,さらにその上に,エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体,メチルメタクリレート-酢酸ビニル共重合体,及び塩素化ポリエチレン-塩化ビニル共重合体を主体とする樹脂組成物を外径が5.813mmとなるように押出し被覆した。」との記載からすると,導体(1)の直径:0.813mm,カーボン添加樹脂組成物層(2)の厚さ:0.1mm,絶縁層(3)の外径:2.813mm,難燃性保護被覆層4の外径:5.813mmであること,すなわち,絶縁層(3)の厚さ,カーボン添加樹脂組成物層(2)の厚さ,難燃性保護被覆層(4)の厚さが,それぞれ0.9mm,0.1mm,1.5mmである,「直流高圧電線」の実施例が記載されていると認められる。
そうすると,引用例1には,
“前記絶縁層(3)の厚さ,前記樹脂組成物層(2)の厚さ,前記難燃性保護被覆層(4)の厚さが,それぞれ0.9mm,0.1mm,1.5mmである実施例を含む”,“テレビジョン受像機等の電子機器類に使用する直流高圧電線”が記載されていると解される。

ウ 以上,(ア)-(ウ)で示した事項から,引用例1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
「導体(1)と,
前記導体(1)上に設けたポリエチレンの如きポリオレフィン樹脂にカーボンブラックを10重量%以上添加し,その絶縁抵抗値が10^(10)Ω・cm以下である樹脂組成物層(2)と,
前記樹脂組成物層(2)の上に設けた軟化温度が105℃以上のポリエチレンを主体とした組成物による絶縁層(3)と,
前記絶縁層(3)上に設けたエチレン又はメタルメタクリレートと酢酸ビニル,塩化ビニルの三元共重合体及び塩素化ポリエチレン,塩化ビニルの二元共重合体を主体とした組成物による難燃性保護被覆層(4)と,を有し,
前記絶縁層(3)の厚さ,前記樹脂組成物層(2)の厚さ,前記難燃性保護被覆層(4)の厚さが,それぞれ0.9mm,0.1mm,1.5mmである実施例を含む,
テレビジョン受像機等の電子機器類に使用する直流高圧電線。」

(2-2)参考文献2に記載されている技術的事項

本願出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,特開平8-84303号公報(平成8年3月26日出願公開,以下,「参考文献2」という。)には,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

G 「【0020】図2に,電車における本発明の移動体映像サービスシステムの構成を示す。走行する電車の各車両21内には複数のTVモニタ2が搭載されており,車両21等に設けられた映像出力装置3より信号ケーブル22を介してサービス映像情報を送ることができる。車両制御装置23は,電車の運転を制御するものであって,電車の現在の停車駅を認識することができる。本発明にあっては車両制御装置23が,電車を停止するときに停車駅の情報をスーパーインポーズ装置7に出力するようになっている。スーパーインポーズ装置7は,映像出力装置3と信号ケーブル22との間に挿入されており,停車駅の情報を文字情報で表し,サービス映像情報に合成することができる。
【0021】電車の走行中は映像出力装置3より信号ケーブル22を介して各車両21の各TVモニタ2にサービス映像情報が送られ,映像サービスを行うことができる。電車が各駅に停止するとき,車両制御装置23が停車駅の情報をスーパーインポーズ装置7に出力する。スーパーインポーズ装置7は停車駅の情報を文字情報で表し,サービス映像情報に合成する。これにより,各TVモニタ2に停車駅が表示される。乗客がサービス映像に注意を奪われ,案内放送を聞き逃している場合でも,停車駅が表示されるので,乗り過ごしが防止される。」

上記Gの記載からすると,参考文献2には,
「電車の車両21内において,映像出力装置3より各車両21の各TVモニタ2にサービス映像情報を送信するための信号ケーブル22」が記載されているものと認められる。

(2-3)参考文献3に記載されている技術的事項

本願出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,特開2001-312238号公報(平成13年11月9日出願公開,以下,「参考文献3」という。)には,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

H 「【0025】
【発明の実施の形態】図1に,鉄道線路を運転する車両1を複数台(実際は10台前後が多い)連ねた列車2を示している。ここでは,主に地下内の鉄道線路を運転する地下鉄の場合を示すが,地上の鉄道線路を常に運転する電車等の列車でもよい。又,鉄道線路を運転する車両だけでなく,複数台の車両を連ねて路上を運転するトロリーバス等の列車でもよい。
【0026】前記進行方向最後尾に位置する車両(先頭車両でもよい)1の後端の車掌室(先頭車両では運転室)内に画像(動画)再生手段の一例であるフラッシュメモリーカード再生機(ICカード再生機とも言う)3を取り付け,図2に示すように,前記後尾車両1及び前記各車両1の上側左右壁面の8箇所(左右の開閉ドアの上側に位置する8箇所)の他,各車両1,1間の連絡扉の上側壁面に動画像を映し出すための映像手段としての液晶テレビ4を取り付け,これら液晶テレビ4,4同士をケーブル5により接続し,前記フラッシュメモリーカード再生機3とこれから最短距離に位置する液晶テレビ4とをケーブル5により接続すると共に,図3にも示すように,車両1,1間の液晶テレビ4,4同士をケーブル5により接続して,フラッシュメモリーカード再生機3からの再生される映像を全車両の液晶テレビ4に映し出すことができるように構成している。図2では,前記フラッシュメモリーカード再生機3を後尾車両1だけでなく,先頭車両1の運転室内にも設けた場合を示しており,一方のフラッシュメモリーカード再生機3が故障等の場合でも,他方のフラッシュメモリーカード再生機3から液晶テレビ4に動画像を映し出すことができるようにしている。又,前記フラッシュメモリーカード再生機3を先頭車両1や後尾車両1以外の特定の車両1に設けてもよい。図2及び図3に示す6は,フラッシュメモリーカード再生機3から再生される映像を補償するための増幅器であり,又,図1?図3に示す7は,前車両1から後車両1へ伝送される画像信号を補償するための補償器である。前記ケーブル5としては,同軸ケーブルの他,光ケーブル等から構成してもよい。」

上記Hの記載からすると,引用例3には,
「鉄道車両に取り付けられた複数の液晶テレビ4同士を,車両内あるいは車両間で接続するためのケーブル5」が記載されているものと認められる。

(3)対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「直流高圧電線」は本件補正発明の「鉄道車両用絶縁電線」に対応する。
引用発明の「直流高圧電線」は,「テレビジョン受像機等の電子機器類に使用する」ものであり,「絶縁層(3)」を有するところ,上記Dの「長期使用中における破壊電圧の低下を防ぐことができることを見出した。」との記載からすると,引用発明の「直流高圧電線」は“絶縁電線”の一態様であるといえる。
そうすると,引用発明の「テレビジョン受像機等の電子機器類に使用する直流高圧電線」と,本件補正発明の「鉄道車両用絶縁電線」とは,後記する点で一応相違するものの,“絶縁電線”である点で一致するといえる。

(イ)引用発明の「導体(1)」は本件補正発明の「導体」に相当することは明らかであり,引用発明の「樹脂組成物層(2)」は「導体(1)」上に設けられ,「絶縁層(3)」は「樹脂組成物層(2)」上に設けられ,「難燃性保護被覆層(4)」は「絶縁層(3)」上に設けられることから,引用発明の「樹脂組成物層(2)」と「絶縁層(3)」と「難燃性保護被覆層(4)」とを合わせたものは,本件補正発明の「被覆層」に対応するといえる。

(ウ)引用発明の「樹脂組成物層(2)」は本件補正発明の「半導電層」に対応する。引用発明の「樹脂組成物層(2)」は,「導体(1)上に設けたポリエチレンの如きポリオレフィン樹脂にカーボンブラックを10重量%以上添加し,その絶縁抵抗値が10^(10)Ω・cm以下である」ところ,「導体(1)」の“外周上に配置され”,「ポリオレフィン樹脂」を“ベースポリマ”とする“ポリマ組成物”で形成されているといえる。また,引用発明の「樹脂組成物層(2)」は,「ポリオレフィン樹脂」に「カーボンブラック」が添加され,「カーボンブラック」は“導電剤”であることは明らかであり,「その絶縁抵抗値が10^(10)Ω・cm以下」であるから,“1×10^(9)Ωcm以下の体積抵抗率を有する”ともいえる。
そうすると,本件補正発明の「半導電層」は「導体の外周上に配置され導電剤を含み1×10^(9)Ωcm以下の体積抵抗率を有するポリマ組成物(A)で形成され」,「ポリマ組成物(A)のベースポリマはポリオレフィン樹脂である」ことから,引用発明の「樹脂組成物層(2)」は本件補正発明の「半導電層」に相当するといえる。

(エ)引用発明の「絶縁層(3)」は本件補正発明の「高電気絶縁層」に対応する。引用発明の「絶縁層(3)」は,「樹脂組成物層(2)の上に設けた軟化温度が105℃以上のポリエチレンを主体とした組成物」からなるところ,「樹脂組成物層(2)」の“外周上に配置され”,「ポリエチレン」は“ポリマ組成物”であるといえる。
そうすると,引用発明の「絶縁層(3)」と,本件補正発明の「半導電層の外周上に配置され1×10^(16)Ωcm以上の体積抵抗率を有するポリマ組成物(B)で形成された高電気絶縁層」とは,後記する点で一応相違するものの,“半導電層の外周上に配置され,ポリマ組成物(B)で形成された高電気絶縁層”である点で一致するといえる。

(オ)引用発明の「難燃性保護被覆層(4)」は本件補正発明の「難燃層」に対応する。引用発明の「難燃性保護被覆層(4)」は,「絶縁層(3)上に設けたエチレン又はメタルメタクリレートと酢酸ビニル,塩化ビニルの三元共重合体及び塩素化ポリエチレン,塩化ビニルの二元共重合体を主体とした組成物」からなるところ,「絶縁層(3)」の“外周上に配置され”,「エチレン又はメタルメタクリレートと酢酸ビニル,塩化ビニルの三元共重合体及び塩素化ポリエチレン,塩化ビニルの二元共重合体を主体とした組成物」は“ポリマ組成物”であるといえる。
そうすると,引用発明の「難燃性保護被覆層(4)」と,本件補正発明の「少なくとも前記高電気絶縁層の外周上に配置され難燃剤を含むポリマ組成物(C)で形成された難燃層」とは,後記する点で一応相違するものの,“少なくとも前記高電気絶縁層の外周上に配置され,ポリマ組成物(C)で形成された難燃層”である点で一致するといえる。

(カ)引用発明の「直流高圧電線」は,「前記絶縁層(3)の厚さ,前記樹脂組成物層(2)の厚さ,前記難燃性保護被覆層(4)の厚さが,それぞれ0.9mm,0.1mm,1.5mmである実施例を含む,」ところ,上記(ウ)-(オ)の検討より,引用発明の「樹脂組成物層(2)」,「絶縁層(3)」,「難燃性保護被覆層(4)」は,それぞれ本件補正発明の「半導電層」,「高電気絶縁層」,「難燃層」に対応することから,引用発明では,“前記高電気絶縁層および前記半導電層の厚さは,それぞれ,前記難燃層の厚さよりも薄”いといえる。

イ 以上から,本件補正発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,以下の点で相違する。

<一致点>
「導体と,
前記導体の外周上に配置された被覆層と,
を有し,
前記被覆層は,
前記導体の外周上に配置され導電剤を含み1×10^(9)Ωcm以下の体積抵抗率を有するポリマ組成物(A)で形成された半導電層と,
前記半導電層の外周上に配置され,ポリマ組成物(B)で形成された高電気絶縁層と,
少なくとも前記高電気絶縁層の外周上に配置され,ポリマ組成物(C)で形成された難燃層と,
を有し,
前記高電気絶縁層および前記半導電層の厚さは,それぞれ,前記難燃層の厚さよりも薄く,
前記ポリマ組成物(A)のベースポリマはポリオレフィン樹脂である絶縁電線。」

<相違点1>
本件補正発明は「鉄道車両用絶縁電線」であるのに対して,引用発明は「テレビジョン受像機等の電子機器類に使用する直流高圧電線」である点。

<相違点2>
高電気絶縁層に関し,本件補正発明の「高電気絶縁層」を形成するポリマ組成物(B)は「1×10^(16)Ωcm以上の体積抵抗率を有する」のに対して,引用発明の「絶縁層(3)」を形成するポリエチレンを主体とした組成物の体積抵抗率は特定されていない点。

<相違点3>
難燃層に関し,本件補正発明の「難燃層」を形成するポリマ組成物(C)は「難燃剤」を含むのに対して,引用発明の「難燃性保護被覆層(4)」を形成する組成物が難燃剤を含むことは言及されていない点。

(4)当審の判断

上記相違点1-3について検討する。

ア 相違点1について
引用発明の「直流高圧電線」は,「テレビジョン受像機等の電子機器類に使用する」ものであり,「絶縁層(3)」を有するところ,引用例1の上記Dの「長期使用中における破壊電圧の低下を防ぐことができることを見出した。」との記載からすると,引用発明の「直流高圧電線」は長期使用中における破壊電圧の低下を防ぐことを目的とした絶縁電線であるといえる。
一方,本件補正発明で特定される「鉄道車両用絶縁電線」については,本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0005】の「本発明の一目的は,絶縁電線において,高い絶縁性および高い難燃性を得るとともに細径化を図ることができる技術を提供することである。」との記載,段落【0021】の「このような電線構造が好ましく適用される細径の絶縁電線として,例えば,外径(直径)が7mm以下のものが想定される。絶縁電線の絶縁性は,例えば,後述のような直流安定性試験で評価される。絶縁電線の難燃性は,例えば,後述のようなVFT試験やVTFT試験で評価される。絶縁電線の用途は特に限定されないが,例えば,鉄道車両用途や,自動車用途や,医療用途等が挙げられる。」との記載からすると,高い絶縁性および高い難燃性を得るとともに細径化を図ることを目的として構成されていると解され,鉄道車両用に特有の構成を備えるものではなく,絶縁電線のいくつかの用途の中から,単に鉄道車両用に限定したものであると認められる。
そうすると,絶縁電線が鉄道車両において用いられることは周知の事項であるから,上記相違点1では,本件補正発明と引用発明とは実質的に相違するものではない。

なお,仮に上記相違点1が実質的な相違点であった場合について,念のため以下で検討をする。

引用発明の「直流高圧電線」は長期使用中における破壊電圧の低下を防ぐことを目的とした絶縁電線であるといえ,テレビジョン受像機等の電子機器類に使用するものであると認められる。
ここで,電子機器間を接続するケーブルの用途を検討すると,鉄道車両用の表示装置間を接続する電線(ケーブル)が,例えば,参考文献2(上記Gを参照),参考文献3(上記Hを参照)に記載されるように当該技術分野において周知であり,長期使用中における破壊電圧の低下を防ぐことを目的とした絶縁電線を鉄道車両用として構成することは格別の困難性を必要とするものではない。
そうすると,引用発明の直流高圧電線を鉄道車両用とすることには動機があると認められるから,引用発明の直流高圧電線を鉄道車両用絶縁電線とすること,すなわち,上記相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
引用発明の「絶縁層(3)」は「軟化温度が105℃以上」のポリマ組成物(B)で形成されるといえ,引用発明の「絶縁層(3)」のポリマ組成物(B)の体積抵抗率は,その絶縁性を発揮する比較的高い範囲において設計的事項である。
また,絶縁電線の高電気絶縁層を形成するポリマ組成物の体積抵抗率を1×10^(16)Ωcm以上とすることの臨界的意義は認めることができない。
そうすると,引用発明において,絶縁層(3)を,体積抵抗率が1×10^(16)Ωcm以上のポリマ組成物により形成すること,すなわち,上記相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 相違点3について
引用発明の「難燃性保護被覆層(4)」は「絶縁層(3)上に設けたエチレン又はメタルメタクリレートと酢酸ビニル,塩化ビニルの三元共重合体及び塩素化ポリエチレン,塩化ビニルの二元共重合体を主体とした組成物」からなることから,ポリマ組成物(C)で形成されるといえ,また,難燃性を有することは明らかである。
そして,絶縁電線の難燃層をポリマ組成物で形成する場合に,難燃剤をポリマ組成物に添加して難燃層を形成することは,本願出願前には当該技術分野における周知慣用の技術であり,引用発明の「難燃性保護被覆層(4)」を難燃性のあるものに形成するために,ポリマ組成物として,難燃剤を含むものを選択することの動機付けはあったといえる。
そうすると,引用発明において,難燃性保護被覆層(4)を,難燃剤を含むポリマ組成物により形成すること,すなわち,上記相違点3に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

エ 小括
上記で検討したごとく,相違点1-3に係る構成は当業者が容易に想到し得たものであり,そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本件補正発明の奏する作用効果は,上記引用発明及び当該技術分野の周知技術の奏する作用効果から予測される範囲のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。
したがって,本件補正発明は,上記引用発明及び,参考文献2,3に記載の当該技術分野の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3 補正却下の決定のむすび

よって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって,上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明
平成31年2月8日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,平成30年5月2日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-18に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,その請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
導体と,
前記導体の外周上に配置された被覆層と,
を有し,
前記被覆層は,
前記導体の外周上に配置され導電剤を含み1×10^(9)Ωcm以下の体積抵抗率を有するポリマ組成物(A)で形成された半導電層と,
前記半導電層の外周上に配置され1×10^(16)Ωcm以上の体積抵抗率を有するポリマ組成物(B)で形成された高電気絶縁層と,
少なくとも前記高電気絶縁層の外周上に配置され難燃剤を含むポリマ組成物(C)で形成された難燃層と,
を有し,
前記高電気絶縁層および前記半導電層の厚さは,それぞれ,前記難燃層の厚さよりも薄く,
前記ポリマ組成物(A)のベースポリマはポリオレフィン樹脂である絶縁電線。」

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由(平成30年7月13日付け最後の拒絶理由)は,この出願の請求項1-18に係る発明は,本願出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用例1: 特開平2-165516号公報

3 引用例に記載されている技術的事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された,引用発明は,前記「第2 平成31年2月8日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「2 補正の適否」の「2-2 独立特許要件」の「(2)引用例」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は,前記「第2 平成31年2月8日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「2 補正の適否」の「2-2 独立特許要件」で検討した本件補正発明の発明特定事項である「鉄道車両用絶縁電線」から,「鉄道車両用」との限定事項を削除したものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が,前記「第2 平成31年2月8日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「2 補正の適否」の「2-2 独立特許要件」の「(2)引用例」-「(4)当審の判断」に記載したとおり,引用発明,参考文献2,3に記載の当該技術分野の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,上記限定事項を省いた本願発明も同様の理由により,引用発明,参考文献2,3に記載の当該技術分野の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 審判請求書における請求人の主張について

審判請求書において,請求人は,
「このことを換言すれば,引用文献1は,鉄道車両用の絶縁電線に求められる電気特性(直流安定性)に関する評価が一切なされておらず,引用文献1に記載の電線は鉄道車両用の絶縁電線に求められる電気特性(直流安定性)を実証するものではなく,更に,引用文献1は難燃性についての具体的な評価がなされていないことから,鉄道車両用の絶縁電線に求められる難燃性(VFT,VTFT)を実証するものでもありません。
よって,引用文献1に記載の発明から,本願発明の構成が鉄道車両用に求められる電気特性(直流安定性)及び難燃性(VFT,VTFT)を有するのか計り知ることができません。
以上のことから,引用文献1に係る発明は,テレビジョン受像機の高圧リード線等に関する発明であり,鉄道車両用途に関する電線ではなく,かつ,引用文献1に係る発明は,本願発明の構成が鉄道車両に求められる電気特性(直流安定性)及び難燃性(VFT,VTFT)を実現しうることについて何ら実証するものではない以上,高絶縁性,高難燃性及び細径化を両立する鉄道車両用絶縁電線の開発に従事する当業者がテレビジョン受像機の高圧リード線等に関する引用文献1に記載の発明に基づいて本願発明の構成に容易に想到しうるとするには些か無理があるものと思料致します。」
旨の主張をしている。

そこで,上記請求人の主張について検討すると,引用発明の「直流高圧電線」が鉄道車両用に求められる電気特性(直流安定性)及び難燃性(VFT,VTFT)を実証するものではないとしても,長期使用中における破壊電圧の低下を防ぐことを目的とした絶縁電線であるといえ,テレビジョン受像機での使用に限定されるものではないことから,引用発明の直流高圧電線を,長期使用中における破壊電圧の低下を防ぐことが必要な,すなわち,高い絶縁性能が要求される鉄道車両用とすることには阻害要因はなく,むしろ動機があるといえる。
そして,鉄道車両用の表示装置間を接続する電線(ケーブル)が,例えば,参考文献2(上記Gを参照),参考文献3(上記Hを参照)に記載されるように当該技術分野において周知であり,長期使用中における破壊電圧の低下を防ぐことを目的とした絶縁電線を鉄道車両用として構成することは,絶縁電線に精通した当業者であれば適宜なし得たものである。
加えて,本願発明は,絶縁電線を単に「鉄道車両用」と限定するものであり,鉄道車両に求められる電気特性(直流安定性)及び難燃性(VFT,VTFT)を特定するものではなく,絶縁電線を「鉄道車両用」と限定することで,「高電気絶縁層」や「難燃層」が引用発明の「絶縁層(3)」,「難燃性保護被覆層(4)」と顕著に相違するものと認めることはできない。

よって,請求人の主張は採用することができない。

第5 むすび

以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2020-01-29 
結審通知日 2020-01-30 
審決日 2020-02-17 
出願番号 特願2016-180246(P2016-180246)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01B)
P 1 8・ 575- Z (H01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神田 太郎  
特許庁審判長 加藤 浩一
特許庁審判官 小田 浩
辻本 泰隆
発明の名称 鉄道車両用絶縁電線  

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