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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1361387
審判番号 不服2018-15738  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-28 
確定日 2020-04-16 
事件の表示 特願2014-180845「断熱性能算定システム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月21日出願公開、特開2016- 57654〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年9月5日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 2月 1日:拒絶理由通知
平成30年 4月16日:意見書、手続補正書の提出
平成30年 8月31日:拒絶査定
平成30年 9月 4日:拒絶査定の謄本の送達
平成30年11月28日:審判請求書、手続補正書の提出
令和 1年11月 7日:拒絶理由通知(当審)
令和 1年12月26日:意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和1年12月26日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。
なお、本願発明の各構成の符号(A)?(G)は、説明のために当審において付したものであり、以下、「構成A」?「構成G」と称する。

(本願発明)
(A)建物の断熱性能を算定する断熱性能算定システムであって、
(B)算定対象の建物の部位、部位別仕様及び個別情報を特定する住宅プラン情報入力部と、
(C)部位別の仕様とそれに対応する部位別仕様毎の断熱性能に関する部位断熱情報、及び建物毎の個別情報に関する補正情報が予め記憶されたデータベースと、
(D)前記部位及び仕様が決定されると、その部位別仕様に関連付けられた部位断熱情報を前記データベースから抽出する第1抽出手段と、
(E)前記個別情報が決定されると、その個別情報に関連付けられた補正情報を前記データベースから抽出する第2抽出手段と、
(F)前記第1及び第2抽出手段によって抽出された前記部位断熱情報及び補正情報を使って、前記算定対象の建物の断熱性能を示す指標となる外皮平均熱貫流率(U_(A)値)及び冷房期の外皮平均日射熱取得率(η_(A)値)を算定する算定手段とを備え、
(G)前記外皮平均日射熱取得率(ηA値)を算定する際に窓がある場合は、補正情報である日射量補正係数を乗じて算出することを特徴とする
(A)断熱性能算定システム。

第3 当審における拒絶の理由
令和1年11月7日に当審が通知した拒絶理由は、次のとおりのものである。

この出願の請求項1?5に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された引用文献1、2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1.特開2012-108571号公報
引用文献2.木造一戸建て住宅の外皮計算基本講習 テキスト、日本、一般社団法人日本サステナブル建築協会、2014.07.10発行、インターネット: <URL:http://www.jsbc.or.jp/document/files/house_envelope_text.pdf>、全文

第4 引用文献について
1 引用文献1の記載及び引用発明
(1)引用文献1の記載事項
当審の拒絶理由で引用された、本願出願前に頒布された引用文献1(特開2012-108571号公報)には、図面と共に次の事項が記載されている。
なお、下線は強調のために当審で付したものである。

ア「【0001】
本発明は、住宅設計システムに関する。」

イ「【0022】
図1に示すように、住宅設計システム10は、住宅販売会社の管理センタに設けられた管理サーバ11と、住宅販売会社の各支店に設けられ顧客対応時に販売スタッフが操作する支店端末12とにより構成されている。これら管理サーバ11及び各支店端末12はインターネット等の外部通信網を介して接続されており、互いに情報のやりとりが可能となっている。なお、図1では、便宜上、ひとつの支店の支店端末12のみを図示している。
【0023】
管理サーバ11は、住宅設計システム10において各種制御を行うものである。管理サーバ11は、制御部14と、記憶部15とを備えており、例えばパソコン等の端末装置により構成されている。制御部14は、住宅の設計処理や断熱性能の評価処理等、各種処理を行うものである。記憶部15には、設計処理や断熱性能の評価処理等各種処理を実行する制御プログラムと、断熱性能の評価等に必要な各種情報を格納するデータベースとが記憶されている。
【0024】
支店端末12は、制御部17と、操作部18と、表示部19とを備えており、例えばパソコン等の端末装置により構成されている。制御部17は、操作部18及び表示部19と接続されている。
【0025】
操作部18は、住宅設計及び断熱性能の評価を行うのに必要な情報等、各種情報の入力を受け付けるものであり、例えばキーボードやマウス等を備えてなる。本実施形態では、住宅販売会社の支店の販売スタッフが顧客から住宅に関する各種情報を聞き出して、その聞き出した情報を販売スタッフが操作部18に入力する。表示部19は、設計された住宅や断熱性能の評価結果等の各種情報を表示するものであり、例えばディスプレイ等を備えてなる。」

ウ「【0029】
図2に示すように、顧客要求データ取得部21は、住宅Xの設計に関する顧客要求が支店端末12側から入力されると、住宅Xの外観デザイン及び間取りを含む顧客要求を顧客要求データとして取得する。本実施形態では、顧客要求データとして、住宅Xの型式(つまりユニット工法からなるユニット式住宅)、気積B、延べ床面積S等のデータや、住宅Xを構成する各部位の部位データ等を取得する。なお、住宅Xの型式データは、建築工法の異なる複数の住宅型式(例えばユニット工法からなるユニット式住宅や、鉄骨軸組工法からなる鉄骨軸組式住宅等)から選択された選択型式データに相当する。また、部位データには、断熱機能を有する建物外皮の部位(以下、外皮部位Mという)のデータが含まれており、詳しくは屋根M1、外壁M2、開口部M3(詳しくは窓開口部M3a及びドア開口部M3b)、床M4、土間床M5(詳しくは玄関の土間床)等のデータが含まれている。これら各外皮部位Mのデータとしては、外皮部位Mの面積Aを示すデータ、外皮部位Mを構成する各構成部材の大きさや配置等を示すデータ、各構成部材の材料を示すデータ等が含まれている。なおここで、外皮部位Mが断熱機能部位に相当する。また、床M4には、土間床M5が含まれていない。」

エ「【0037】
図3に示すように、断熱性能評価部23において、断熱性能算出部30は、第1設計部22により設計した住宅Xについて断熱性能を算出するものであり、断熱性能評価部23では、同算出部30により算出された断熱性能について評価を行う。ここで、本実施形態では、例えば、断熱性能算出部30において、住宅Xの断熱性能を示す断熱性能指標のひとつである省エネルギ対策等級を算出することとしており、断熱性能評価部23では当該算出された省エネルギ対策等級に基づいて、住宅Xの断熱性能を評価することとしている。そこで、以下では、この断熱性能算出部30による省エネルギ対策等級の算出処理の流れをまず説明する。なお、省エネルギ対策等級の算出は周知の技術を適用することにより実現可能なものであり、以下に示す算出処理に限らず、その他の処理によって省エネルギ対策等級を算出してもよい。
【0038】
なお、断熱性能評価部23における断熱性能の評価は、必ずしも省エネルギ対策等級に基づいて行う必要はなく、後述する熱損失係数Qや夏季日射取得係数μ等その他の断熱性能指標に基づいて行ってもよい。
【0039】
断熱性能算出部30において、断熱特性データベース31は、外皮部位Mにおける断熱特性に関する断熱特性データを格納するものである。断熱特性データベース31には、各外皮部位Mごとに、断熱特性データとして、熱貫流率U、温度差係数H、夏季日射侵入率η等のデータが格納されている。なお、断熱特性データベース31は、管理サーバ11の記憶部15により構築されている。
【0040】
Q値算出部32では、顧客要求データ取得部21により取得した顧客要求データと、断熱特性データベース31に記憶された各外皮部位Mの断熱特性データとに基づいて、住宅Xの熱損失係数(Q値)を算出する。この場合、熱損失係数Qは、以下の(1)式を用いて算出される。」

オ「【0045】
建設地域取得部33は、顧客が住宅Xの建設を希望する建設地域情報を取得する。建設地域は、図6に示すように、I?VIの各地域に区分されている。支店端末12から住宅Xの建設地域が入力されると、その建設地域が管理サーバ11側に送信される。管理サーバ11側において建設地域が受信されると、建設地域取得部33はその受信した建設地域に対応する区分を建設地域情報として取得する。」

カ「【0047】
μ値算出部36では、顧客要求データ取得部21により取得した顧客要求データと、断熱特性データベース31に記憶された各外皮部位Mの断熱特性データとに基づいて、住宅Xの夏季日射取得係数(μ値)を算出する。この場合、夏季日射取得係数μは、以下の(3)式を用いて算出される。
【0048】
μ=住宅Xに侵入する日射量/延べ床面積 …(3)
なおここで、住宅Xに侵入する日射量とは、屋根M1、外壁M2及び開口部M3を通じて住宅Xに侵入する日射量の合計である。
【0049】
より詳細には、夏季日射取得係数μは、以下の(4)式を用いて算出される。
【0050】
μ=Σ(ΣAijηij)vj/S …(4)
ここで、vjは方位jの方位係数、ηijは外皮部位Mi(詳しくは屋根M1、外壁M2、開口部M3が対象)における方位jの夏季日射取得率、Aijは方位jにおける外皮部位Miの面積(但し、屋根M1については水平投影面積)である。
【0051】
つまり、μ値算出部36では、顧客要求データ取得部21により取得した顧客要求データに含まれる屋根M1、外壁M2、開口部M3の各方位ごとの面積Aij及び延べ床面積Sのデータと、断熱特性データベース31に記憶された上記各部位M1?M3の方位ごとの夏季日射侵入率ηijと、方位係数vjとに基づき、夏季日射取得係数μを算出する。なお、方位係数vjは、外皮部位M1?M3の方位と、建設地域取得部33により取得した建設地域情報とに基づいて求められる。具体的には、記憶部15には、方位係数vjについて外皮部位M1?M3の方位jと建設地域I?VIとに対応付けたテーブルが予め記憶されており、μ値算出部36はそのテーブルを用いて方位係数vjを求める。」

(2)引用発明
引用文献1に記載されている事項について検討する。

ア 引用文献1における「μ値算出部36」に関する記載として、段落0047には、「顧客要求データ取得部21により取得した顧客要求データと、断熱特性データベース31に記憶された各外皮部位Mの断熱特性データとに基づいて、住宅Xの夏季日射取得係数(μ値)を算出する。」と記載され、段落0050には、「μ=Σ(ΣAijηij)vj/S …(4) ここで、vjは方位jの方位係数、ηijは外皮部位Mi(詳しくは屋根M1、外壁M2、開口部M3が対象)における方位jの夏季日射取得率、Aijは方位jにおける外皮部位Miの面積(但し、屋根M1については水平投影面積)である。」と記載され、段落0051には、「顧客要求データ取得部21により取得した顧客要求データに含まれる屋根M1、外壁M2、開口部M3の各方位ごとの面積Aij及び延べ床面積Sのデータと、断熱特性データベース31に記憶された上記各部位M1?M3の方位ごとの夏季日射侵入率ηijと、方位係数vjとに基づき、夏季日射取得係数μを算出する。」と記載されている。
ここで、段落0047の「顧客要求データ取得部21により取得した顧客要求データ」は、段落0050の「Aijは方位jにおける外皮部位Miの面積」及び「S」、段落0051の「顧客要求データ取得部21により取得した顧客要求データに含まれる屋根M1、外壁M2、開口部M3の各方位ごとの面積Aij及び延べ床面積Sのデータ」に対応する。
また、段落0047の「断熱特性データベース31に記憶された各外皮部位Mの断熱特性データ」は、段落0050の「ηijは外皮部位Mi(詳しくは屋根M1、外壁M2、開口部M3が対象)における方位jの夏季日射取得率」、段落0051の「断熱特性データベース31に記憶された上記各部位M1?M3の方位ごとの夏季日射侵入率ηij」に対応する。
したがって、段落0047の記載においても、段落0050、0051の記載と同様に、住宅Xの夏季日射取得係数(μ値)を算出するに際して、方位係数vjに基づくものであるといえる。
したがって、引用文献1のμ値算出部36では、顧客要求データ取得部21により取得した顧客要求データと、断熱特性データベース31に記憶された各外皮部位Mの断熱特性データと、方位係数vjに基づいて、住宅Xの夏季日射取得係数(μ値)を算出しているものといえる。

イ 引用文献1の段落0029には、「顧客要求データとして、」「住宅Xを構成する各部位の部位データ等を取得する」こと、「部位データには、」「外皮部位Mの面積Aを示すデータ」が含まれていることが記載されている。
また、段落0051には、「顧客要求データ」に含まれるデータとして、「屋根M1、外壁M2、開口部M3の各方位ごとの面積Aij」のデータを含むことが記載されている。
したがって、引用文献1の「外皮部位Mの面積Aを示すデータ」は、「外皮部位Mの各方位ごとの面積を示すデータ」であるといえる。

ウ まとめ
上記ア、イ及び、上記(1)ア?カに摘記した引用文献1の記載事項から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
なお、引用発明の各構成を、それぞれに付した符号(a)?(n)により、以下、構成a?構成nと称する。

(引用発明)
(a)住宅設計システムであって、
(b)住宅設計システム10は、管理サーバ11と、支店端末12とにより構成され、
(c)管理サーバ11は、制御部14と、記憶部15とを備えており、
(d)制御部14は、断熱性能の評価処理を行うものであり、
(e)記憶部15には、断熱性能の評価等に必要な各種情報を格納するデータベースが記憶され、
(f)支店端末12は、操作部18を備えており、
(g)操作部18は、住宅設計及び断熱性能の評価を行うのに必要な情報の入力を受け付けるものであり、
(h)(h1)住宅Xの設計に関する顧客要求が支店端末12側から入力されると、顧客要求を顧客要求データとして取得し、
(h2)顧客要求データとして、住宅Xを構成する各部位の部位データを取得し、
(h3)部位データには、断熱機能を有する建物外皮の部位(以下、外皮部位Mという)のデータが含まれており、詳しくは屋根M1、外壁M2、開口部M3(詳しくは窓開口部M3a及びドア開口部M3b)、床M4、土間床M5(詳しくは玄関の土間床)等のデータが含まれ、これら各外皮部位Mのデータとしては、外皮部位Mの各方位ごとの面積を示すデータ、外皮部位Mを構成する各構成部材の大きさや配置等を示すデータ、各構成部材の材料を示すデータ等が含まれ、
(i)断熱性能算出部30は、住宅Xについて断熱性能を算出するものであり、断熱性能評価部23では、同算出部30により算出された断熱性能について評価を行い、熱損失係数Qや夏季日射取得係数μ等の断熱性能指標に基づいて行うものであり、
(j)断熱特性データベース31には、各外皮部位Mごとに、断熱特性データとして、熱貫流率U、温度差係数H、夏季日射侵入率η等のデータが格納され、断熱特性データベース31は、管理サーバ11の記憶部15により構築され、
(k)Q値算出部32では、顧客要求データ取得部21により取得した顧客要求データと、断熱特性データベース31に記憶された各外皮部位Mの断熱特性データとに基づいて、住宅Xの熱損失係数(Q値)を算出し、
(l)支店端末12から住宅Xの建設地域が入力され、
(m)μ値算出部36では、顧客要求データ取得部21により取得した顧客要求データと、断熱特性データベース31に記憶された各外皮部位Mの断熱特性データと、方位係数vjとに基づいて、夏季日射取得係数μを算出するものであり、
(n)記憶部15には、方位係数vjについて外皮部位M1?M3の方位jと建設地域I?VIとに対応付けたテーブルが予め記憶されており、μ値算出部36はそのテーブルを用いて方位係数vjを求める
(a)住宅設計システム。

2 引用文献2の記載及び文献2技術
(1)引用文献2の記載事項
当審の拒絶の理由で引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。













































(2)文献2技術
引用文献2に記載されている事項について検討する。

ア 上記(1)アより、引用文献2には、平成25年改正省エネルギー基準に基づく木造一戸建て住宅の外皮計算について記載されているものである。

イ 上記(1)イ、ウより、住宅の改正省エネルギー基準においては、外皮の基準があり、外皮平均熱貫流率(U_(A)値)と冷房期の平均日射熱取得率(η_(A)値)という2つの基準からなるものである。

ウ 上記(1)ウ、エ、オ、クより、外皮平均熱貫流率(U_(A)値)は、部位の熱貫流率(U)×部位の面積(A)×温度差係数(H)で求まる各部位の熱損失量を合計した住宅全体の熱損失量を外皮面積の合計で除算したものである。
ここで、上記(1)ケより、部位の熱貫流率は、部位別仕様登録DBから選ぶことができる。

エ 上記(1)ウ、エ、カ、キ、コより、冷房期の平均日射熱取得率(η_(A)値)は、部位の日射熱取得率(η)×部位の面積(A)×方位係数(νc)で求まる各部位の日射熱取得量を合計した住宅全体の日射熱取得量を外皮面積の合計で除算したものである。
ただし、上記(1)カ、コ、シ、セ、ソより、窓の日射熱取得量は、窓の日射熱取得率(η)×窓の面積(A)×取得日射量補正係数(fc)×方位係数(νc)であるように、取得日射量補正係数(fc)を乗じて補正しなければならないものであり、一例として0.93である。

オ まとめ
上記ア?エに摘記した引用文献2の記載事項から、引用文献2には、次の技術(以下、「文献2技術」という。)が記載されていると認められる。

「平成25年改正省エネルギー基準に基づく木造一戸建て住宅の外皮計算における外皮の基準は、外皮平均熱貫流率(U_(A)値)と冷房期の平均日射熱取得率(η_(A)値)という2つの基準からなり、
外皮平均熱貫流率(U_(A)値)は、部位の熱貫流率(U)×部位の面積(A)×温度差係数(H)で求まる各部位の熱損失量を合計した住宅全体の熱損失量を外皮面積の合計で除算したものであり、部位の熱貫流率は、部位別仕様登録DBから選ぶことができ、
冷房期の平均日射熱取得率(η_(A)値)は、部位の日射熱取得率(η)×部位の面積(A)×方位係数(νc)で求まる各部位の日射熱取得量を合計した住宅全体の日射熱取得量を外皮面積の合計で除算したものであり、
ただし、窓の日射熱取得量は、窓の日射熱取得率(η)×窓の面積(A)×取得日射量補正係数(fc)×方位係数(νc)であるように、取得日射量補正係数(fc)を乗じて補正しなければならないものであり、一例として0.93である
という技術。」

第5 本願発明と引用発明との対比と、一致点・相違点の認定
1 対比
(1)構成Aについて
構成aの「住宅設計システム」は、構成iのように「住宅Xについて断熱性能を算出する」「断熱性能算出部30」を含むシステムであるから、構成Aの「断熱性能を算定する断熱性能算定システム」に相当する。
したがって、引用発明は、構成Aに相当する構成を有している。

(2)構成Bについて
構成f、構成gより、引用発明の「支店端末12」に備えられた「操作部18」は、「住宅設計及び断熱性能の評価を行うのに必要な情報の入力を受け付ける」ものであるから、構成Bの「住宅プラン情報入力部」に相当する。
ここで、支店端末12の操作部18が入力を受け付ける「住宅設計及び断熱性能の評価を行うのに必要な情報」は、構成h1?構成h3、構成lより、「住宅Xの設計に関する」「外皮部位Mの各方位ごとの面積Aを示すデータ、外皮部位Mを構成する各構成部材の大きさや配置等を示すデータ、各構成部材の材料を示すデータ」、「住宅Xの建設地域」を含むものである。
そして、引用発明の「住宅X」は、「住宅設計及び断熱性能の評価を行う」対象となる建物であるから、構成Bの「算定対象の建物」に相当する。
また、引用発明の「外皮部位M」、「各構成部材の材料を示すデータ」は、それぞれ、構成Bの「部位」、「部位別仕様」に相当する。
さらに、引用発明の「外皮部位Mの各方位ごとの面積Aを示すデータ、外皮部位Mを構成する各構成部材の大きさや配置等を示すデータ」や「住宅Xの建設地域」は、住宅Xを設計する際に、顧客の要求に応じて異なるものであるから、構成Bの「個別情報」に相当する。

したがって、引用発明は、構成Bに相当する構成を有している。

(3)構成Cについて
構成jの「断熱特性データベース31」は、「各外皮部位Mごとに、断熱特性データとして、熱貫流率U、温度差係数H、夏季日射侵入率η等のデータが格納され」ているものである。ここで、構成h3より、「これら各外皮部位Mのデータとしては、」「各構成部材の材料を示すデータ」が含まれていること、同じ外皮部位Mであっても、その材料等により断熱特性は異なるものであることから、構成jの「断熱特性データベース31」は、『各外皮部位Mの構成部材の材料を示すデータごとに、断熱特性データが格納されている』ものといえる。
そうすると、引用発明の「構成部材の材料を示すデータ」、「断熱特性データ」は、構成Cの「部位別の仕様」、「部位別仕様毎の断熱性能に関する部位断熱情報」に相当する。

また、構成nの「方位係数vjについて外皮部位M1?M3の方位jと建設地域I?VIとに対応付けたテーブル」に関して、当該テーブルは、外皮部位がどの方位に作られ、建設地域をどこにするかに応じて、方位係数を決定するためのものである。ここで、引用発明の「方位j」、「建設地域I?VI」は、いずれも、顧客の要求に応じて異なるものであるから、構成Cの「個別情報」に相当し、引用発明の「方位係数vj」は、構成Cの「補正情報」に相当する。

さらに、構成jの「断熱特性データベース31」と構成nの「テーブル」は、いずれも、「管理サーバ11の記憶部15」に記憶されているものであるから、引用発明の「管理サーバ11の記憶部15」は、構成Cの「データベース」に相当する。

したがって、構成jの「各外皮部位Mごとに、断熱特性データとして、熱貫流率U、温度差係数H、夏季日射侵入率η等のデータが格納され」ている「断熱特性データベース31」と、構成nの「方位係数vjについて外皮部位M1?M3の方位jと建設地域I?VIとに対応付けたテーブル」が記憶されている「管理サーバ11の記憶部15」は、構成Cの「部位別の仕様とそれに対応する部位別仕様毎の断熱性能に関する部位断熱情報、及び建物毎の個別情報に関する補正情報が予め記憶されたデータベース」に相当する。

したがって、引用発明は、構成Cに相当する構成を有している。

(4)構成Dについて
構成kの「断熱特性データベース31」は、上記(3)でも検討したように『各外皮部位Mの構成部材の材料を示すデータ』を含むものである。
また、「断熱特性データベース31に記憶された各外皮部位Mの断熱特性データ」に基づいて、住宅Xの熱損失係数(Q値)を算出する際には、「断熱特性データベース31に記憶された各外皮部位Mの断熱特性データ」を抽出しているものといえる。
さらに、上記(3)で検討したように、「断熱特性データベース31」は、「管理サーバ11の記憶部15」に記憶されている。
すなわち、引用発明は、各外皮部位Mと構成部材の材料を示すデータが決定されると、各外皮部位Mの断熱特性データを管理サーバ11の記憶部15から抽出するものといえる。
ここで、引用発明の「各外皮部位M」、「構成部材の材料の材料を示すデータ」、「断熱特性データ」、「管理サーバ11の記憶部15」は、それぞれ、構成Dの「部位」、「仕様」、「部位別仕様に関連付けられた部位断熱情報」、「データベース」に相当する。

したがって、引用発明は、構成Dの「第1抽出手段」に相当する構成を有している。

(5)構成Eについて
構成m及び構成nより、引用発明は、外皮部位M1?M3の方位jと建設地域I?VIが決定されると、外皮部位M1?M3の方位jと建設地域I?VIとに対応付けた方位係数vjを管理サーバ11の記憶部15から抽出するものといえる。
ここで、引用発明の「外皮部位M1?M3の方位j」及び「建設地域I?VI」は、ともに、構成Eの「個別情報」に相当し、引用発明の「外皮部位M1?M3の方位jと建設地域I?VIとに対応付けた方位係数vj」、「管理サーバ11の記憶部15」は、構成Eの「個別情報に関連付けられた補正情報」、「データベース」に相当する。

したがって、引用発明は、構成Eの「第2抽出手段」に相当する構成を有している。

(6)構成Fについて
構成kの「Q値算出部32」は、「断熱特性データ」に基づいてQ値を算出し、構成mの「μ値算出部36」は、「断熱特性データと、方位係数vjとに基づいて」μ値を算出するものである。
そして、構成iより、Q値及びμ値は、ともに、「住宅X」の「断熱性能指標」である。
すなわち、構成k及び構成mより、引用発明は、断熱特性データ及び方位計数vjを使って、住宅Xの断熱性能指標であるQ値及びμ値を算定するものといえる。
また、上記(4)及び(5)で検討したように、引用発明は、断熱特性データ及び方位計数vjを抽出する手段を有するものといえる。

したがって、引用発明と構成Fは、「前記第1及び第2抽出手段によって抽出された前記部位断熱情報及び補正情報を使って、前記算定対象の建物の断熱性能を示す指標を算定する算定手段」を備える点で共通する。

しかし、「断熱性能を示す指標」として、構成Fは、「外皮平均熱貫流率(U_(A)値)及び冷房期の外皮平均日射熱取得率(η_(A)値)」であるのに対し、構成fは、「熱損失係数Q」及び「夏季日射取得係数μ」である点で相違する。

(7)構成Gについて
上記(6)で検討したように、「断熱性能を示す指標」として、引用発明は「冷房期の外皮平均日射熱取得率(η_(A)値)」でない点で相違することに起因して、構成Gのように、「前記外皮平均日射熱取得率(η_(A)値)を算定する際に窓がある場合は、補正情報である日射量補正係数を乗じて算出する」ものではない点で相違する。

2 一致点・相違点
以上の検討より、本願発明と引用発明は、以下の点で一致し、また、相違する。

[一致点]
(A)建物の断熱性能を算定する断熱性能算定システムであって、
(B)算定対象の建物の部位、部位別仕様及び個別情報を特定する住宅プラン情報入力部と、
(C)部位別の仕様とそれに対応する部位別仕様毎の断熱性能に関する部位断熱情報、及び建物毎の個別情報に関する補正情報が予め記憶されたデータベースと、
(D)前記部位及び仕様が決定されると、その部位別仕様に関連付けられた部位断熱情報を前記データベースから抽出する第1抽出手段と、
(E)前記個別情報が決定されると、その個別情報に関連付けられた補正情報を前記データベースから抽出する第2抽出手段と、
(F’)前記第1及び第2抽出手段によって抽出された前記部位断熱情報及び補正情報を使って、前記算定対象の建物の断熱性能を示す指標を算定する算定手段とを備えることを特徴とする
(A)断熱性能算定システム。

[相違点]
「断熱性能を示す指標」として、本願発明は、「外皮平均熱貫流率(U_(A)値)及び冷房期の外皮平均日射熱取得率(η_(A)値)」であり、「前記外皮平均日射熱取得率(η_(A)値)を算定する際に窓がある場合は、補正情報である日射量補正係数を乗じて算出する」のに対し、引用発明は、「熱損失係数Q」及び「夏季日射取得係数μ」である点。

第6 判断
上記相違点について判断する。

文献2技術のように、平成25年改正省エネルギー基準に基づく木造一戸建て住宅の外皮計算を行うに際して、外皮平均熱貫流率(U_(A)値)及び冷房期の外皮平均日射熱取得率(η_(A)値)を算出すること、窓の日射熱取得量は、取得日射量補正係数(fc)を乗じて補正することは、出願時に既に知られているものである。
省エネルギー基準が改正する前は、引用発明のように、「断熱性能を示す指標」として、「熱損失係数Q」及び「夏季日射取得係数μ」を使用していたが、省エネルギー基準が改正されたことにより、「断熱性能を示す指標」として、「外皮平均熱貫流率(U_(A)値)及び冷房期の外皮平均日射熱取得率(η_(A)値)」を使用することとなったのであるから、「断熱性能を示す指標」として、引用発明のような「熱損失係数Q」及び「夏季日射取得係数μ」を使用することに代えて、文献2技術のような「外皮平均熱貫流率(U_(A)値)及び冷房期の外皮平均日射熱取得率(η_(A)値)」を使用し、窓がある場合は、取得日射量補正係数(fc)を乗じて補正するようにして、本願発明の構成にすることは、当業者が容易に想到し得るものに過ぎない。

そして、相違点を勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び文献2技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

以上のとおりであるから、本願発明は引用発明及び文献2技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のように、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び文献2技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-02-12 
結審通知日 2020-02-18 
審決日 2020-03-02 
出願番号 特願2014-180845(P2014-180845)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 合田 幸裕松田 直也  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 須田 勝巳
渡辺 努
発明の名称 断熱性能算定システム  
代理人 弁護士法人クレオ国際法律特許事務所  

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