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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  E21B
管理番号 1361402
審判番号 無効2018-800120  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-09-28 
確定日 2020-04-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第3694724号発明「立坑構築機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第3694724号(以下「本件特許」という。)の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の特許を無効とすることを求める事件であって、手続の経緯は、以下のとおりである。

平成13年 6月 8日 本件出願(特願2001-174863号)
平成14年12月18日 本件公開(特開2002-364281号)
平成17年 7月 8日 設定登録(特許第3694724号)
平成30年 9月28日 本件無効審判請求
平成31年 1月 4日 被請求人より審判請求答弁書受付け
平成31年 1月21日 審理事項通知書(起案日)
平成31年 1月28日 請求人より手続補正書(以下、「審判請求書補
正書」という。)提出
平成31年 2月12日 請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成31年 2月28日 被請求人より口頭審理陳述要領書受付け
平成31年 3月13日 口頭審理
平成31年 3月27日 被請求人より上申書提出
平成31年 4月10日 請求人より上申書提出


第2 本件発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1の記載により特定される、次のとおりのものと認められる(以下の分説は、審決で行った。)。

「【請求項1】
[A]ベースフレームに昇降且つ回動可能に支持され、
[B]円筒状部材の外周部に着脱される把持機構と、
[C]この把持機構を駆動する回転駆動装置とを備えた立坑構築機において、
[D] 前記ベースフレームは組立可能に複数に分割された分割フレームを備え、
[E]前記把持機構は、それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する複数に分割された円弧状ベアリング片を備えていることを特徴とする
[F]立坑構築機。」


第3 請求人の主張及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
請求人は、特許第3694724号における特許請求の範囲の請求項1に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠として甲第1号証ないし甲第5号証(枝番含む)を提出して、無効理由を主張した。
なお、請求人が平成31年1月28日付けで提出した審判請求書補正書については、甲第1号証が主引用例であり、甲第2号証から甲第4号証(枝番含む)が副引用例または周知技術であるという点を変えることなく、本件発明の各構成要件との対比を補足したものである。そのため、当該審判請求書補正書については、第1回口頭審理調書記載のとおり、審判請求書に記載の請求の理由の要旨を変更するものではない。また、甲第5号証は、本件発明について、仮にバンド部材に関して減縮を行う訂正請求がされた場合を想定して提出がされたものであり(審判請求書第7頁下から4行?最終行、同第18頁第10行?第20頁第23行、及び、審判請求書補正書第7頁下から4行?最終行、同第9頁第20行?第22行参照)、訂正請求がなされなかった本件発明について主張する無効理由の証拠ではない。
そのため、請求人が主張する無効理由は、口頭審理において、第1回口頭審理調書記載のとおりに、以下のように整理された。

[無効理由]
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明(主引用発明)、及び甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明若しくは甲第4号証の1?4に記載された周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

2 証拠方法
甲第1号証: 特開平9-203038号公報
甲第2号証: 特開昭59-55988号公報
甲第3号証: 特開平2-190599号公報
甲第4号証の1: 実用新案登録第2521914号公報
(平成9年1月8日発行)
甲第4号証の2: 実願昭63-167245号(実開平2-87118
号)のマイクロフィルム
甲第4号証の3: 実願昭62-195170号(実開平1-98917
号)のマイクロフィルム
甲第4号証の4: 実願昭62-159111号(実開平1-65925
号)のマイクロフィルム
甲第5号証: 特開平11-303559号公報

3 請求人の具体的な主張
(1)甲第1号証に記載されている発明について
甲第1号証には、以下の発明が記載されている。
[a]立坑構築機において、把持機構がベースフレームに昇降かつ回動可能に支持されており、
[b]円筒状部材(ケーシング)の外周部に着脱される把持機構があり、
[c]この把持機構を駆動する回転駆動装置としての油圧モータを備え、
[d]前記ベースフレームはフランジを介して組立可能に複数に分割された分割フレームを備えているが、
[e]前記把持機構は、環状の歯車付きベアリングを備えるが、それぞれの両端部をフランジで各々接続して環状の歯車付きベアリングを構築しておらず、また、環状の歯車付ベアリングは複数に分割された円弧状ベアリング片を備えていない、
[f]立坑構築機。
(審判請求書補正書第6頁第4行?第17行、同第10頁第6行?第13頁最終行)

(2)本件発明と甲第1号証に記載された発明の対比について
甲第1号証における上記構成a?d及びfは、本件発明における構成A?D及びFに相当する。
甲第1号証に記載された発明と本件発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

[一致点]
[A]ベースフレームに昇降且つ回動可能に支持され、
[B]円筒状部材の外周部に着脱される把持機構と、
[C]この把持機構を駆動する回転駆動装置とを備えた立坑構築機において、
[D]前記ベースフレームは組立可能に複数に分割された分割フレームを備え、
[E’]把持機構が環状の歯車付ベアリングを備えている、
[F]立坑構築機。

[相違点]
本件発明は、構成要件Eとして、「前記把持機構は、それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する複数に分割された円弧状ベアリング片を備えている」のに対し、
甲第1号証に記載された発明は、把持機構が環状の歯車付ベアリングを備えているものの、歯車付ベアリングは複数に分割された円弧状ベアリング片を備えておらず、また円弧状ベアリングの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構築するようには構成されていない点。(審判請求書補正書第6頁第18行?第7頁第6行、同第10頁第6行?第14頁第14行)

(3)相違点の評価について
ア 甲第2号証に基いて
甲第2号証には、【2 特許請求の範囲】【(1)】に、「複数個の等分割され、締付拡大可能に取り付けられた円形状の割クランプと、この割クランプの内側に割クランプに対応して複数個に等分割され、締付拡大可能に取り付けられた円形状の第1割ライナーと、この第1ライナーの各割素子に固着され、第1ライナーの各割素子に対応して固着された各ラツク歯車素子の両端部の少なくとも1個の歯は他の歯より歯高が低く形成された、ほぼ円形状のラツク歯車と」(第1頁左側)等と記載され、また【3 発明の詳細な説明】に、「締付ジヤツキ5によるクランプ3の締め付けによつて、ライナー4は各ライナー素子がくつついた最小径から」(第2頁右下欄19行目以下)等と記載されている。
つまり、甲第2号証では、円形状の割クランプ及び第1ライナー(把持機構)が複数個に等分割されているところ(第1ライナーについては分割されたものを各ライナー素子という、図3では4つの円弧状に分割している)、各ライナー素子は各々、ラツク歯車(本件発明の歯車付ベアリングに該当)を備えていること、各ライナー素子が接続され円形状のライナーを構成する場合があること、及び、それに伴いラツク歯車も環状のラツク歯車を構成すること等が開示されている。
よって、甲第2号証には、本件発明の構成要件Eである「前記把持機構は、それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構築する複数に分割された円弧状ベアリング片を備えている」構成が開示されている。
そして、甲第2号証は、オールケーシング工法用回転式ボーリングマシンに関するものであり、地中にパイプを回転しながら打設する技術として立坑構築機と共通し、相互に変換可能な技術である。また、甲第2号証は、本件発明の構成要件A,B,C,Dに対応する構成も有しており、甲第1号証に記載された発明と構成上の共通点がある。さらに、甲第2号証には、「本発明マシンは小さな力で施工が可能になつたことから小型化され、山岳地帯、搬入困難な場所、狭くて従来機械では施工不能な場所でも、本機は分解搬入可能であり」(第3頁左下欄17行?20行)とも記載されており、機械が大型化するに伴う輸送時や施工時の問題を解決するという点で、甲第1号証に記載された発明と課題の共通性がある。
したがって、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証に記載された発明を適用する動機付けはあり、当業者であれば、両者を組み合わせて、本件発明は容易に発明することができたものである(審判請求書補正書第14頁第17行?第19頁第22行、同第23頁第21行?第24頁第8行、同第25頁第11行?最終行、及び、平成31年2月12日付け口頭審理陳述要領書第2頁第22行?第5頁下から5行、同第11頁第3行?第14頁第8行、同第17頁下から10行?第18頁第12行)。

イ 甲第3号証に基いて
甲第3号証には、【3.発明の詳細な説明】【課題を解決するための手段】に、「この発明の旋回座軸受の製造方法は、一つの環状部材を半径方向に切断することにより複数の弧状の軌道部材を構成し、」(3頁左下5行目以下)等と記載されており、一つの環状ベアリング(環状部材)が複数の円弧状のベアリング片で構成されることが開示されている。
また、甲第3号証には、【3.発明の詳細な説明】【課題を解決するための手段】に、「第1図はこの発明の旋回座軸受の軌道輪の第1実施例を軸方向からみた図であり、この軌道輪は、真円の一部をなす略半円弧状で、外周に外歯歯車1cを有する一方の軌道部材1と、この一方の軌道部材1と同一の真円の一部をなす略半円弧状で、外周に上記外歯歯車1cと共に一つの歯車をなす外歯歯車2cを有する他方の軌道部材2と、上記一方の軌道部材1の端面1a,1bと他方の軌道部材2の端面2a,2bの互いに対向する端面1a,2a間および端面1b,2b間に夫々配置され、上記一対の軌道部材1,2と共に一つの上記真円をなす板状のスペーサ3,4と、このスペーサ3,4とその両側に位置する上記軌道部材1,2の3者にまたがるように嵌合され、軸心に平行な2本づつ計4本の円柱形のピン5,5および6,6とからなっている。」(4頁左上18行目以下)等と記載されており、ベアリングは歯車付ベアリングであること、及び、該ベアリングが複数の円弧状の歯車付ベアリング片(軌道部材)で構成されていることが開示されている。
さらに、甲第3号証は、トンネル掘進機のカッターヘッド用軸受や超大型建設機械のターンテーブル用軸受(1頁右欄9行目以下)に関するものであるから、把持機構等が存在することは前提であって省略されているものと解される。
よって、甲第3号証には、本件発明の構成要件Eである「前記把持機構は、それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構築する複数に分割された円弧状ベアリング片を備えている」構成が開示されている。
そして、甲第3号証は、甲第1号証と同じ技術分野に属し、機械が大型化しても輸送や修理等の取扱を容易とするために分割可能とする点で、解決しようとする課題も甲第1号証に記載された発明と類似している。
したがって、甲第1号証に記載された発明に甲第3号証に記載された発明を適用する動機付けはあり、当業者であれば、両者を組み合わせて、本件発明は容易に発明することができたものである(審判請求書補正書第19頁第23行?第21頁第2行、同第24頁第9行?最終行、同第26頁第1行?第12行、及び、平成31年2月12日付け口頭審理陳述要領書第5頁下から4行?第7頁第4行、同第14頁第9行?第15頁第4行)。

ウ 甲第4号証に基いて
甲第4号証の1は「大型転がり軸受」に関するものであり、【実用新案登録請求の範囲】【請求項1】には、「外輪および内輪のそれぞれを軸心に直角な平面に沿って分割して一対の分割外輪と一対の分割内輪とを形成し」との記載があり、環状ベアリングを円弧状に分割する分割ベアリングに関する技術が開示されている。
甲第4号証の2も「大型転がり軸受」に関するものであり、【実用新案登録請求の範囲】【(1)】には、「外輪と内輪のそれぞれを、軸心に直角な平面に沿って分割して一対の分割外輪と一対の分割内輪とを形成し」との記載があり、分割ベアリングに関する技術が開示されている。
甲第4号証の3は「複合円筒ころ軸受」に関するものであり、【実用新案登録請求の範囲】【(1)】には、「外周に環状の嵌合部を有する内輪と、内周に上記内輪の嵌合部に嵌合する環状の嵌合部を有する外輪と、上記内輪の嵌合部と上記外輪の嵌合部との軸方向に対向する面の間に配置される保持器に保持された2組のスラストころと、・・・ラジアルころとを備えた複合円筒ころ軸受であって、上記内輪は、軸に垂直な平面で分割される第一内輪部と第二内輪部とを少なくとも有し、」との記載があり、環状ベアリングを半円状(円弧状)に分割する分割ベアリングに関する技術が開示されている。
甲第4号証の4も「大型転がり軸受」に関するものであり、【実用新案登録請求の範囲】には、「前記外輪および内輪を軸心に直角な平面と、軸心に沿う平面に沿って分割して複数の外輪セグメントおよび複数の内輪セグメントを設け」との記載があり、環状ベアリングを複数の円弧状ベアリング片に分割する分割ベアリングに関する技術が開示されている。
このように、本件特許出願当時以前には既に、分割ベアリングの技術そのものが周知の技術であり、本件特許の構成要件Eの技術そのものが、各種の技術分野で周知であった。
また、甲第4号証の1?4に示される分割ベアリングは、機械が大型化しても輸送や修理等の取扱を容易とするために分割可能とする点で、解決しようとする課題も甲第1号証に記載された発明と類似している。
そのため、甲第1号証に記載された発明に、甲第4号証の1?4に示される周知技術を適用する動機付けはあり、当業者であれば、両者を組み合わせて、本件発明は容易に発明することができたものである(審判請求書補正書第21頁第3行?第22頁下から4行、同第25頁第1行?第10行、同第26頁第13行?第22行、及び、平成31年2月12日付け口頭審理陳述要領書第7頁第5行?第16行、同第15頁第5行?第16頁第13行)。

エ 本件発明の「環状の歯車付ベアリング」及び「円弧状ベアリング片」について
被請求人は、本件発明は標準的なベアリングを使用するものであり、構成要件Eに係る「環状の歯車付ベアリング」は、内輪、外輪、内輪と外輪の間に配置される球体からなる一般的な環状の歯車付ベアリングであると主張している。しかしながら、「標準的なベアリングを使用」「一般的な環状の歯車付ベアリング」といった技術用語は、本件発明を特定する請求項1の記載になく、請求項の記載を離れた技術限定により、本件発明と甲第2号証等との差違を主張することはできない。
また、被請求人は、本件特許の構成要件Eに係る「円弧状ベアリング片」も、内輪、外輪、内輪と外輪の間に配置される球体がそれぞれバラバラではなく、円弧状に一体としてなるものであると主張している。しかしながら、本件発明における「環状の歯車付ベアリング」やそれを構成する「複数に分割された円弧状ベアリング片」について、内輪、外輪、内輪と外輪の間に配置される球体がそれぞれバラバラではなく円弧状に一体としてなる等の記載は、明細書のどこにも存在しないから、被請求人の当該主張は失当である。また、そのことをさておくとしても、甲第2号証でもライナー素子やクランプは分割可能であり、使用時には円弧状に一体に組み立てているし、ライナー素子とクランプとの間にボールを介在しているから、甲第2号証の当該構成は、本件発明において「円弧状に一体とする」構成とも、何ら相違点がない。
さらに、被請求人は、本件特許の構成要件Eに係る「環状の歯車付ベアリング」は、ベアリング片とベアリング片を組み立てて使う場合、接合面同士に隙間がなく転動体がこぼれないものである旨を主張し、その点で本件特許の構成要件Eに係る構成と、ケーシングチユーブをクランプするために各ライナー素子同士が離れた状態で回転可能である甲第2号証の構成とは、相違すると主張している。しかしながら、甲第2号証では、最小径のチユーブの場合は、各ライナー素子の端部同士をくっつけてクランプすることができることをわざわざ記載しており、このことは分割されたライナー素子(ベアリング片)を環状に組み立てる際に端部同士を接続して環状(歯車付ベアリング)とすると同じであるから、本件発明の構成要件Eと軌を一にする構成である(平成31年4月10日付け上申書第2頁第7行?第3頁第23行)。


第4 被請求人の主張
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人の無効理由に対して、本件発明は当業者といえども甲第1号証ないし甲第4号証から容易に発明できたものではない旨を主張している。

2 被請求人の具体的な主張
ア 本件発明の特徴について
本件発明は、立坑構築機の大型化に伴う輸送時の問題点を解決するために、内輪と外輪の間に多数の転動体を有する標準的なベアリングを用いて、輸送時には幅方向の寸法を狭くすることができ、かつ使用時において回転を安定させることを解決課題とする発明であり、「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する複数の円弧状ベアリング片」を備えているので、環状の歯車付ベアリングを分割することで幅方向の寸法を狭くすることができると共に、標準的なベアリングを使用して装置を安価に構成することができ、また、接続後は環状の歯車付ベアリングとなるので回転を安定させることができる。
ベアリング(軸受)とは、内輪・外輪・転動体で構成されており、内輪と外輪の間の空間を転動体単体が自転しながら公転するものである。このような基本構造であるがゆえに、仮に、ベアリングを、その中心軸を含む平面で分割し、円弧状のベアリング片とした場合、そのベアリング片とベアリング片を組み立てて使う際、接合面同士に隙間があると転動体がこぼれてしまい、ベアリングとしての機能を発揮することができなくなる。
本件発明における「両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する複数に分割された円弧状ベアリング片」の「円弧状ベアリング片」は、端部を接続するだけで、精度よく通常使用されている環状の歯車付ベアリングとならなければならないものであるから、ベアリングの構成部材である、「内輪、外輪、内輪と外輪の間に配置される転動体」がそれぞれバラバラでは無く、「円弧状に」一体の部材として組み立てられたものである。
このような構成であるからこそ、現場でベアリングを外輪、内輪、転動体等々を組み合わせて構築する手間が省け、円弧状ベアリング片21、22の端部を分解するだけで、搬送可能なサイズにして搬送できるし、また接続することで直ちに歯車付ベアリングとしての使用が可能になる(審判請求答弁書第3頁第10行?第4頁第14行、平成31年2月28日受付け口頭審理陳述要領書第3頁第11行?第7頁第1行、平成31年3月27日付け上申書第3頁第17行?第6頁第4行)。

イ 各甲号証について
(ア)甲第1号証について
甲第1号証における旋回ベアリング6は、円形のままであり、旋回ベアリング6を分解することについては、記載も示唆もない。またそれゆえに、甲第1号証から本件発明に至る動機付けもない(審判請求答弁書第5頁第6行?第6頁第3行)。

(イ)甲第2号証について
甲第2号証に記載の技術は、本件特許の明細書において【従来技術】として認識しているものと同じで、分断されたパーツの間に隙間が形成されており、この部分で不連続となるため、標準的なベアリングとは異なる。
甲第2号証に記載された発明は、種々の径のケーシングチユーブに対応することができるように、ケーシングチユーブに接するライナー素子等を複数に分割し、締め付け拡大可能にしたものであり、仮に、各ライナーを一番縮めてライナー素子の端部同士がくっつく状態となったとしても、本件発明のように、「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する」ものではない。しかも、各ライナーを一番縮めてライナー素子の端部同士がくっつく状態ではケーシングチユーブをクランプすることができず、ケーシングチユーブをクランプするには隙間があることが最低条件であり、このことからも、「それぞれの両端部を各々接続」した状態で使用することを想定したものでない。
すなわち、甲第2号証には、「分割された、ライナー素子とクランプ、及び、ライナー素子の端部がくつついた状態まで縮めることができること」が記載されているだけであって、「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する」ことは記載もまた示唆もされていない。
また、甲第1号証に記載の発明に甲第2号証に記載の発明を組み合わせる動機付けはない。そして、仮に両者を組み合わせたとしても、本件発明の構成には至らないとともに、本件発明の効果である、環状の歯車付ベアリングを分割することで幅方向の寸法を狭くすることができると共に、標準的なベアリングを使用して装置を安価に構成することができ、また、接続後は環状の歯車付ベアリングとなるので回転を安定させることができる、という効果を奏することもできない。
(審判請求答弁書第6頁第4行?第16行、平成31年2月28日受付け口頭審理陳述要領書第7頁下から3行?第9頁第17行、平成31年3月27日付け上申書第3頁第4行?第15行、第6頁第5行?第11頁第3行)。

(ウ)甲第3号証及び甲第4号証について
甲第3号証記載の発明は、弧状の軌道部材であって、環状部材を半径方向に切断したものであり「環状のベアリングが複数の円弧状のベアリング片で構成される」ものではない。ベアリングは外輪、ボール(転動体)、内輪が組み合わさったものであり、環状部材や弧状の軌道部材だけではベアリングとは言わない。
甲第3号証では、内輪は軸に垂直な平面で3分割され、それを、軸を含む平面で2分割し、合計6個の部材とし、第1内輪部、第2内輪部、第3内輪部の半径方向の分割面の位相を互いに90°ずらして一体に分離可能に結合し内輪として組み立てられている。また、外輪は軸に垂直な平面で2分割し、それを、軸を含む平面で2分割し、合計4個の部材とし、第1外輪部、第2外輪部の半径方向の分割面の位相を互いに90°ずらして一体に分離可能に結合し外輪として組み立てている。このように、内輪、外輪はそれぞれの複数の分割パーツより構成され、それぞれのパーツは位相が90度ずらして結合されており、内輪、外輪をそれぞれ円弧状にすることはできず、ましてや外輪と内輪と転動体を組み立てて円弧状にすることは到底できない。
甲第4号証の1でも、内輪、外輪は複数の分割パーツにより構成され、それぞれのパーツが位相を90度ずらして結合されており、複数の部材で構成された内輪、外輪を円弧状に形成したものでなく、結合位置を90度ずらしているから円弧状にすることはできない。以上は、甲4号証の2乃至4も共通している。
以上より、甲第3号証及び甲第4号証には、本件発明の構成要件【E】である「前記把持機構は、それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する複数に分割された円弧状ベアリング片」が記載も示唆もされていない(審判請求答弁書第6頁第17行?第9頁下から5行、平成31年2月28日受付口頭審理陳述要領書第9頁18行?第23頁第3行)。
)

ウ 小括
このように、甲第1号証ないし甲第4号証には、本件発明の構成要件Eが開示されておらず、本件発明は当業者といえども甲第1号証ないし甲第4号証から容易に想到できたものではない(審判請求答弁書第10頁第3行?第12行)。


第5 当審の判断
1 甲各号証に記載された発明又は事項について
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第1号証には、次の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。

(ア)【請求項1】
「【請求項1】ジャッキにより水平に保持されるベースフレームに、スラストシリンダにより昇降自在に取付けられた昇降フレームと、
該昇降フレームに旋回ベアリングを介して回転自在に取付けられ、昇降フレームに取付けられた油圧モータにより回転または揺動される回転リングと、
該回転リング上に取付けられたケーシング掴み用バンド装置とを備えたケーシングドライバにおいて、
前記昇降フレームを、前記旋回ベアリングの取付座を分断するように、複数個のフレームに分割したことを特徴とするケーシングドライバの昇降フレーム。」

(イ)段落【0001】
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、建築、土木の基礎工事に使用する大口径鋼管杭あるいは鋼管類(以下これらをケーシングと称す)の圧入、引抜きを行うための回転式ケーシングドライバにおける昇降フレームに関する。」

(ウ)段落【0004】-【0007】
「【0004】このようなケーシングドライバにおいて、近年における建造物の高層化等に伴い、ケーシングの径も大きくなり、大型のものは、各構成部品ごとに分割輸送せざるを得なくなっている。構成部品のうち、昇降フレームは、さらに大型化すると単体では輸送できず、昇降フレームを複数のフレームに分割して輸送することが行われる。
【0005】この昇降フレームにおいて、回転リングの回転駆動用の油圧モータが昇降フレーム外周部に位置する場合、旋回ベアリングの外輪に回転リングに取付けられ、内輪が昇降フレームに取付けられている。そして、昇降フレームの分割は、内輪の取付座を避け、ケーシングを通すための昇降フレーム内周の円形開口部は非分割として、その円形開口部を含む中間分割フレームと、そのほかの分割フレームとに3分割し、現場において組立、分解を行う構成を有している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】近年の建造物の高層化、杭支持力増大の要求に伴うケーシングの径の増大により、従来構造による円形開口部を有する中間分割フレームのサイズおよび重量が大となっており、このため、輸送が容易ではなく、またこのような従来の昇降フレームの分割構造を踏襲することが、ケーシングドライバの大型化の妨げになるという問題点があった。
【0007】本発明は、上述のような問題点に鑑み、ケーシングドライバを大型化しても昇降フレームを小さく分割でき、輸送が容易になると共に、ケーシングドライバのさらなる大型化が図れる構造の昇降フレームを提供することを目的とする。」

(エ)段落【0021】-【0030】
「【0021】
【発明の実施の形態】図1(A)、(B)はそれぞれ本発明による昇降フレームの一実施例を示す平面図および側面図、図2、図3はそれぞれ図1の昇降フレームを備えたケーシングドライバの側面図および平面図であり、図2、図3に示すように、ケーシングドライバ1は、4隅のジャッキ2により水平に保持されるベースフレーム3を備え、該ベースフレーム3は4隅に縦ガイドフレーム3a?3dを有する方形枠状をなすものであり、フランジ3eで分割される。4は前記縦ガイドフレーム3a?3dに沿って昇降自在に取付けられた昇降フレームであり、該昇降フレーム4は、前記ベースフレーム3と該昇降フレーム4との間に取付けられた複数本のスラストシリンダ5により昇降される。
【0022】前記昇降フレーム4には、旋回ベアリング6を介して回転リング7が取付けられる。図3のE-E拡大断面図である図4(A)に示すように、前記昇降フレーム4の上面の内周側に旋回ベアリング6の取付座4aを固着しており、該取付座4aの上面には、旋回ベアリング6の内輪6aが固定される取付座面4bが形成され、該内輪6aは、ボルト9により取付座4aに固定される。旋回ベアリング6の外輪6bは外歯歯車6cを有し、図1(A)、(B)に示すように、該外歯歯車6cが、昇降フレーム4に取付けられた油圧モータ10の出力歯車11に噛合し、油圧モータ10の回転により、外輪6bが回転する。図4(A)に示すように、外輪6b上に回転リング7がボルト12により固定されて取付けられる。
【0023】図2、図3に示すように、回転リング7上には、ケーシング13を掴むためのバンド装置14が取付けられる。該バンド装置14は、回転リング7に固定された略半円状の固定バンド14aと、該固定バンド14aの両端に枢着軸15、16を中心として開閉自在に取付けられた一対の可動バンド14b、14cと、これらの可動バンド14b、14cの先端間に両端をピン17、18により連結して取付けたバンド開閉用の油圧式バンドシリンダ14dとからなる。
【0024】前記ガイドフレーム3a?3dはそれぞれ2つのガイド面a、bを持つ。一方のガイド面aは回転反力を受ける面であり、回転リング7の回転円の接線方向に対し、ほぼ垂直をなすように設けられている。他方のガイド面bは、昇降フレーム4の水平方向のふらつきを押さえ、安定的に支持するものである。そして、昇降フレーム4には前記ガイドフレーム3a?3dの各面a、bにそれぞれ摺動する面を有している。
【0025】次に本発明による昇降フレーム4の分割構造について説明する。本発明においては、図4(A)に示した旋回ベアリング6の取付座4aを分断するように、昇降フレーム4を分割フレーム21?24に分割する。このように、昇降フレームを取付座4aを分断するように分割すれば、取付座を分断しない分割構造を採用した場合のように、中央開口部を含む分割フレームのサイズが昇降フレーム4の取付座4aの外径に比例して大きくなることを防止できる。
【0026】本実施例においては、図1ないし図3に示すように、相対する両端部に回転リング7を回転させる油圧モータ10が取付けられ、昇降フレーム4を、油圧モータ10が取付けられた端部分割フレーム21、22と、これらの間の左右の中間分割フレーム23、24とに4分割しており、このような分割構造にすれば、分割箇所が油圧モータ10から離れた箇所となり、分割が容易であり、かつ組立も容易となる上、これらは対称形に構成でき、端部分割フレーム21と22は同形に構成でき、中間分割フレーム23、24も同形に構成できるため、製造も容易となると共に、バランスも良好となる。
【0027】上述のように取付座4aを分断する分割構造にした場合、旋回ベアリング6の取付座4aの凹凸が発生すると、旋回ベアリング6が変形し、強度不足を招いたり、スムーズな旋回が妨げられたりするおそれがある。本実施例においては、このような不具合を無くすための構造を有している。すなわち、端部分割フレーム21、22の中間分割フレーム23、24との分断部は、図1(B)、図2、図4(B)に示すように、外側から見て階段状をなすように形成する。そして、その分断箇所の端部分割フレーム21、22側の上半部に、上方および外方に突出した縦フランジdを、端面の縦部材の外周部によって形成する。同様に、分断箇所の端部分割フレーム21、22側下半部に、下方および外方に突出した縦フランジfを、端面縦部材の外周部によって形成する。また、端部分割フレーム21、22の水平部には、図4(B)のF-F断面図である図4(C)に一方の端部分割フレーム22について代表して示すように、該端部分割フレーム22外周側、内周側の縦部材22a、22bの中間水平部上面に固着した水平部材29の端部を外方および内方に突出させて水平フランジhを形成する。
【0028】中間分割フレーム23、24の回転リング7の接線方向の両端部は、端部分割フレーム21、22の端部に合致する逆階段状の形状を有し、かつ前記縦フランジd、fおよび水平フランジhに対向し当接させる縦フランジc、eおよび水平フランジgを有する。図4(C)に示すように、水平フランジgは、図4(C)に一方の中間分割フレーム23について代表して示すように、外周側および内周側の縦部材23a、23bの中間水平部の下面に固着した水平部材28の端部を外方および内方に突出させることにより形成する。
【0029】前記中間分割フレーム23、24および端部分割フレーム21、22は、図4(B)に示すように、中間分割フレーム23、24の縦フランジc、eを端部分割フレーム21、22の縦フランジd、fに合わせ、かつ中間分割フレーム23、24の水平フランジgを端部分割フレーム21、22の水平フランジhに載せ、それぞれ横ボルト25、縦ボルト26により締結する。図4(B)、(C)に示すように、これらのボルト25、26は、裏面に設けたナット27に螺合して締め付けることにより締結する。
【0030】上記分割構造をとる場合、取付座4aはそれぞれの分割フレーム21?24上に固着されるが、各分割フレーム21?24の取付座4aを固着する部分にはフランジc、dは無い。」

(オ)【図1】-【図3】
図1から図3には、次の図示がある。

【図1】


【図2】


【図3】


イ 甲第1号証の記載が示す技術的事項
上記ア(オ)に摘記した【図2】及び【図3】より、甲第1号証において、ケーシング13は円筒状であることが、見て取れる。
また、上記ア(オ)に摘記した【図1】?【図3】より、甲第1号証において、旋回ベアリング6、回転リング7及びバンド装置14はケーシング13の外周を囲み、そのうちバンド装置14はケーシング13の外周を掴むことが、見て取れる。

ウ 甲1発明の認定
上記ア及びイを踏まえると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

(甲1発明)
「大口径鋼管杭あるいは鋼管類であるケーシング13の圧入、引抜きを行うための回転式ケーシングドライバであり、
方形枠状をなし、4隅に縦ガイドフレーム3a?3dを有し、フランジ3eで分割されるベースフレーム3、
ベースフレーム3に取付けられたスラストシリンダ5により、縦ガイドフレーム3a?3dに沿って昇降自在に取付けられた昇降フレーム4、
昇降フレーム4に、旋回ベアリング6を介して取付けられた回転リング7、及び、回転リング7上に取付けられたバンド装置14、
昇降フレーム4に取付けられ、旋回ベアリング6の外歯歯車6cに噛合する出力歯車11を有し、旋回ベアリング6の外輪6bを回転する油圧モータ10、を備え、
昇降フレーム4は、上面の内周側に旋回ベアリング6の内輪6aをボルトにより固定する取付座4aを有し、旋回ベアリング6の取付座4aを分断するように、油圧モータ10が取付けられた端部分割フレーム21、22と、これらの間の左右の中間分割フレーム23、24とに4分割され、中間分割フレーム23、24および端部分割フレーム21、22は、それぞれ横ボルト25、縦ボルト26により締結されており、
旋回ベアリング6、回転リング7、及びバンド装置14は、円筒状のケーシング13の外周を囲み、このうちバンド装置14は円筒状のケーシング13の外周を掴む、
回転式ケーシングドライバ。」

(2)甲第2号証
ア 甲第2号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第2号証には、次の事項が記載されている。

(ア)発明の詳細な説明(第1頁右欄第15行-第3頁右下欄第7行)
「本発明は、種々の径のケーシングチユーブに対応することができる現場打杭に使用されるオールケーシング工法用回転式ボーリングマシンに関するものである。
現場打杭のための孔の掘削には多くの工法が開発され、使用されている。従来のオールケーシング工法用ボーリングマシンは大型で、かつ騒音、振動等で公害上の問題も発生している。そればかりか、施工上の問題として、杭垂直精度、鉄筋カゴの片寄り、コンクリート打設時の不均等などがあり、コスト面でも割高となっていた。
そこで、本発明の目的は、種々のケーシングチユーブに適用することができ、掘削排土およびケーシングチユーブの回転両操作を同時に行うことができ、低騒音で、精度の高い杭を形成することができるオールケーシング工法用回転式ボーリングマシンを提供しようとするものである。
本発明によれば、複数個の等分割され、締付拡大可能に取り付けられた円形状の割クランプと、この割クランプの内側に割クランプに対応して複数個に等分割され、締付拡大可能に取り付けられた円形状の第1割ライナーと、この第1ライナーの各割素子に固着され、第1ライナーの各割素子に対応して固着された各ラツク歯車素子の両端部の少なくとも1個の歯は他の歯より歯高が低く形成された、ほぼ円形状のラツク歯車と、このラツク歯車に少なくとも1個は前記歯高の低い歯以外の歯に噛合するよう配置された2個の歯車と、この2個の歯車を駆動する駆動源とでボーリングマシンを構成することにより、上記目的を達成することができる。第1ライナーの最小径より小さいケーシングチユーブを適用しようとする場合には、第1ライナーの内側に適当な径の第2ライナーを取り付けて用いることができる。
以下、本発明のオールケーシング工法用回転式ボーリングマシンを添付図面に示す好適実施例につき詳細に説明する。
本発明のボーリングマシンは、第1図の側面図および第2図の平面図に示すように、操作部1およびクランプ部2より成る。本発明は主としてクランプ部2であるので、操作部1の説明は省略する。
クランプ部2は、第3図に線図的に示すように、数個に等分割された(図では4個)割クランプ3、割クランプに対応してその内側に取り付けられたライナー4、所定のケーシングチユーブ(図示せず)を中央部に固定するために割クランプ3およびライナー4を締め付けるためのジヤツキ5、ライナー4に固着された割ラツク歯車6を具え、ラツク歯車6は後に詳述する操作部1のギアボツクス7により回転駆動される。
クランプ3はジヨイントピン8により互いに連結されている。ラツク歯車6は、第3図からわかるように、クランプと同様に分割して構成され、ギアボツクス7中の二つの歯車9により常時駆動され、これらの歯車9は他の歯車10および11を介して、油圧モータのような駆動源12に連結されている。ラツク歯車6は4個で構成されているが、これらのラツク歯車を2個の歯車9で駆動するのは次の理由による。ラツク歯車6は分割されているから、一つのラツク歯車から他のラツク歯車への遷移部分に歯車6がさしかかつた時には、駆動力が伝達されない恐れがある。そこで、少なくとも1つの歯車9がラツク歯車6の遷移部分ではない部分に位置するようにする必要があるからである。
また、各ラツク歯車6の両末端部における少なくとも1個の歯13は、他の歯14に比してその歯高を減じておく。これにより、歯車9がラツク歯車6の遷移部分にかかつた時においても、噛み合いをスムースにいかせることができるのである(第3図参照)。分割されたラツク歯車6の各素子間には、その間の間隙を一定にするため硬質ゴム等を介挿しておくのが良い。
第2図のIV-IV線での断面図である第4図に示すように、ライナー4にはラツク歯車6が固着され、ラツク歯車6は歯車9に作動的に連結されている。一方、ライナー4とクランプ3とは垂直方向および水平方向において、それぞれスチールボールのような回転支承部材15により回転可能に支承され、歯車9がクランプに回転可能に取り付けられている。ライナー4とクランプ3との間に異物が侵入しないよう、上部には防護板16が設置される。
締付ジヤツキ5によるクランプ3の締め付けによつて、ライナー4は各ライナー素子がくつついた最小径から各ライナー素子が離れたより大きい径までの種々の径のケーシングチユーブをクランプすることができる。上記最小径より小さな径のケーシングチユーブをライナー4にクランプしようとする場合には、第1ライナー4上に第2ライナー17取付用の手段18を取り付けて、所定のケーシングチユーブを常法通りセツトすることができる。
次に、本発明のオールケーシング工法用回転式ボーリングマシンの作動につき簡単に説明する。
クレーン等で吊り上げた所要径のケーシングチユーブをライナー4の内側に入れ、締付ジヤツキ5によりクランプ3およびライナー4を締めつけてケーシングチユーブを固定する。駆動源12の作動により歯車11,10,9を介してラツク歯車6を回転させることにより、ライナー4に固定されたケーシングチユーブを回転させる。ケーシングチユーブを土中に押入する時には、押入引抜用ジヤツキ19により荷重をかけることもできる。チユーブの回転によりチユーブは土中に押入することができる。所定量押入したら、チユーブのやや上方をライナー4により再び前述したようにしてチヤツクし、押入操作を繰り返す。押入操作時、チユーブは単に回転しているたけで、チユーブ孔には障害物はないから、ハンマグラブを用いてチユーブ内の排土を回転中に行うことができる。すなわち、チユーブの押入と排土を同時に行うことができる。ケーシングチユーブの引抜は逆回転により同様の操作で行うことができる。
ケーシングチユーブの回転は、ラツク歯車6と2つの歯車9により行われ、ラツク歯車6の遷移部分においても、ラツク歯車には歯高の低い部分が設けであるから、ラツク歯車6と少なくとも1個の歯車9とが確実に噛合して、一時的に駆動力が低下するようなことはなく、回転駆動力は常に所要量与えられる。
なお、ライナー4の最小径より小さい径のケーシングチユーブをセツトすることが必要な場合には、第1ライナー4に適当な取付手段18を取り付け、これに第2ライナー17をセツトし、第2ライナーにケーシングチユーブを上述した手順でクランプすれば良い。
本発明の回転式ボーリングマシンは、従来のものに比して次のような多くの利点を有する。
(1)従来の回転式のもののように反転揺動式ではなく、回転式としているから、小さな力で大口径の杭まで施工可能である。
(2)回転式としたことにより、ケーシングチユーブの押込力が小さく(自重+回転力)、かつケーシングチユーブ自体の回転のため垂直精度は抜群のものとなった。
(3)コンクリート打設中はケーシングチユーブを回転しながら引抜を行うために、鉄筋カゴの片寄りがなくなり、コンクリートの不均等がなく、均一したコンクリート打設ができ、杭の信頼度が大幅に向上した。
(4)本発明マシンは小さな力で施工が可能になつたことから小型化され、山岳地帯、搬入困難な場所、狭くて従来機械では施工不能な場所でも、本機は分解搬入が可能であり、本機に簡易ヤグラを組み立てることができるので、クレーン等の吊り上げ機がなくとも施工可能である。
(5)また、パワージヤツキにて施工する場合ウエイトが必要であるが、本機では不必要であり、かつ硬質地盤等掘削不能とされた地盤でも、特製刃先とケーシングチユーブの回転力上昇により掘削が可能となる。」

(イ)第1図-第4図
第1図から第4図には、次の図示がある。





第3図


イ 甲2発明の認定
上記ア(ア)?(イ)を踏まえると、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲2発明)
「種々の径のケーシングチユーブに対応することができる現場打杭に使用されるオールケーシング工法用回転式ボーリングマシンであり、
操作部1およびクランプ部2より成り、
クランプ部2は、複数個に等分割され、締付拡大可能に取り付けられた円形状の割クランプ3、割クランプ3の内側に割クランプ3に対応して複数個に等分割され、締付拡大可能に取り付けられた円形状の割ライナー4、割ライナー4の各ライナー素子に固着され、操作部1のギアボツクス7により回転駆動されるほぼ円形状の割ラツク歯車6、所定のケーシングチユーブを中央部に固定するために割クランプ3および割ライナー4を締め付けるための締付ジヤツキ5、を具え、
割ライナー4と割クランプ3とは、スチールボールのような回転支承部材15により回転可能に支承されており、
割ライナー4は、締付ジヤツキ5によるクランプ3の締め付けによつて、各ライナー素子がくつついた最小径から各ライナー素子が離れたより大きい径までの種々の径のケーシングチユーブをクランプすることができ、割ライナー4の最小径より小さい径のケーシングチユーブをセツトすることが必要な場合には、割ライナー4に第2ライナー17をセツトして、第2ライナーにケーシングチユーブをクランプし、
作動時には、所要径のケーシングチユーブを割ライナー4の内側に入れ、締付ジヤツキ5により割クランプ3および割ライナー4を締めつけてケーシングチユーブを固定し、駆動源12の作動により割ラツク歯車6を回転させることにより、割ライナー4に固定されたケーシングチユーブを回転させ、ケーシングチユーブを土中に押入する時には、押入引抜用ジヤツキ19により荷重をかけることができ、所定量押入したら、ケーシングチユーブのやや上方を割ライナー4により再びチヤツクし、押入操作を繰り返す、
小さな力で施工が可能になったことから小型化され、搬入困難な場所でも分解搬入が可能である、
オールケーシング工法用回転式ボーリングマシン。」

(3)甲第3号証
ア 甲第3号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第3号証には、次の事項が記載されている。

(ア)産業上の利用分野、及び従来の技術(第1頁右欄第8行-第2頁左下欄第15行)
「<産業上の利用分野>
この発明はトンネル掘進機のカッターヘッド用軸受や超大型建設機械のターンテーブル用軸受等の大型の軸受に用いられる分割可能な軌道輪およびその製造方法に関する。
<従来の技術>
大型の旋回座軸受の軌道輪は、超大型品の製作を可能ならしめるために、また輸送時や修理等の取り扱いが容易なように、分割可能に設けられる。
以前、出願人はこのような旋回座軸受の軌道輪を適用した旋回座軸受として第10図に示すものを提案した(実願昭62-195170号)。この旋回座軸受は、外周に環状の嵌合部101を有する内輪102と内周に上記内輪102の嵌合部101に嵌合する環状の嵌合部103を有する外輪104とを備え、上記内輪102の嵌合部101と上記外輪104の嵌合部103との軸方向に対向する面105と面106の間および面107と面108との間に配置される保持器109および保持器110に保持された2組のスラストころ111および112と、上記内輪102と外輪104の対向する周面113と周面114の間に配置される保持器115に保持されるラジアルころ116とを介して上記内輪102と外輪104とを互いに旋回可能に支持するものであった。そして、上記内輪102は、軸に垂直な平面で分割される第1内輪部102aと第2内輪部102bと第3内輪部102cを有し、この第1,2,3内輪部102a,102b,102cは、第11図に示すように、夫々上記軸を含む平面で2つ(102a-1,102a-2、l02b-1,102b-2、102c-1、l02c-2)に分割され、上記第1内輪部102a、第2内輪部102bおよび第3内輪部102cは半径方向の分割面の位相を互いに90°ずらして、第10図に示すように、一体に分離可能に結合され、また上記外輪104は、軸に垂直な平面で分割される第1外輪部104aと第2外輪部104bを有し、この第1外輪部104aと第2外輪部104bは、第12図に示すように、夫々上記軸を含む平面で2つ(104a-1,104a-2,104b-1,104a-2)に分割され、上記第1外輪部104aと第2外輪部104bは、半径方向の分割面の位相を互いに90°ずらして一体に分離可能に結合されるものであった。また、上記保持器109,110および115も、夫々軸を含む平面で分割されていた。そして、上記第1,2,3内輪部102a,102b,l02cや第1,2外輪部104a,104b等の製作は、目的とする形状に後の加工代を加えた第13図に示すような一つの環状部材120を鍛造等により製作し、次いで、この環状部材120を、第14図に示すように、半径方向に切断して複数の弧状の軌道部材121,122を構成し、次いで、複数の上記軌道部材121,122の各端面121a,122aを仕上げ、次いで、この複数の弧状の軌道部材121,122を第15図に示すように、対応する端面121a,122aを夫々一致させて再び環状に組み立て最後に、この環状に一体に組み立てたものに一体加工により旋削や研削を施して目的とする真円形状に加工することにより行なわれていた。また、上記複数の弧状の軌道部材121,122を個々に別々に真円の一部をなすように加工し、これを環状に組み立てることによっても行なわれていた。そして、必要とする軌道面の硬度を得るために行う高周波焼入れ等の熱処理は、例えば切断前の環状部材120の状態において行なわれていた。そして、上記切断においては大きな切断代(第14図中t参照)を要した。」

(イ)解決しようとする課題、及び課題を解決するための手段(第2頁左下欄第16行-第3頁左下欄第12行)
「<発明が解決しようとする課題>
しかしながら、上記従来の旋回座軸受の軌道輪は、その製造に際し、上述のように切断工程において大きな切断代tを必要とするため、切断後の2つの弧状の軌道部材121,122を対応する端面121a,122aを夫々一致させて環状に組み立てると、これらの軌道部材は、第15図に示すように、もはや円にはならず楕円のような形状になってしまい、このため、次に続く真円加工、つまり旋削加工や研削加工が偏肉加工になってしまい、加工が困難になると共に、取り代(第16図中領域h参照)が大きくなり、また必要とする真円度等の精度を得ることが困難であると言う問題があった。また、このように真円に加工するために偏肉加工が避けられないため、切断前の環状部付の段階で高周波焼入れを行った場合においては、第16図に示すように、上記高周波焼入れによりほぼ表面から均一の深さに至るまで形成された軌道部材の焼入れ硬化層qが、上記偏肉加工(図中領域hが削られ真円の加工面iが形成される)により、ある所は深く(図中j点参照)またあるところは浅く(図中k点参照)というように、不均一に削り取られ、上記真円加工により形成される軌道輪の周面下に均一な深さの焼入れ硬化層を確保することができないという問題があった。また上記弧状の軌道部材121,122に別々に真円加工を施すのでは、加工における芯出しが困難等、加工そのものが困難であると共に、一体加工のように精度の高い加工を行うのが困難であるという問題があった。また、切断後に偏肉加工にならないように予め切断代を加えたような形状の環状部材を切断して製造することも可能であるが、この場合には楕円鍛造という特殊な技術を必要とした。
また、上記従来の軌道輪は、軌道輪を構成する弧状の軌道部材121,122の互いに当接する端面121a,122aを単に軸を含む平面で構成するようにしているので、真円加工のための組み立てや軌道輪完成後の修理、運搬後等の組み立てに際し、軌道部材121,122間の互いの位置決め(第17図中矢印参照)が容易に行えないという問題があった。
そこで、この発明の目的は、その製造に際し楕円鍛造のような特殊な技術を必要とせず、また環状に一体に組み立てた後に行う旋削や研削加工が従来のように偏肉加工になることはなく、したがって、容易にかつ精度高く真円に製造することができると共に、切断前に熱処理を行った場合においてもその熱処理層を加工面下に均一に残すことができる分割可能な旋回座軸受の軌道輪を提供することにある。
また、この発明の目的は、環状の組み立てに際し、容易かつ正確に環状に位置決めすることができる旋回座軸受の軌道輪を提供することにある。
また、この発明の目的は、容易にかつ精度高く真円に製造することのできる旋回座軸受の軌道輪の製造方法を提供することにある。
<課題を解決するための手段>
上記目的を達成するため、この発明の旋回座軸受の軌道輪は、一つの環状部材を半径方向に切断することにより構成された複数の弧状の軌道部材と、上記軌道部材の対向する端面間に挿入され、上記環状部材が切り欠かれた部分に相当するスペーサとを環状に組み立ててなる。
また、上記スペーサには軸方向に延び周方向両側に開口を有する穴が設けられ、上記穴には周方向両側に上記開口より突出する係合部を有する嵌合部材が嵌合され、上記軌道部材の上記端面には上記係合部に係合可能な係合凹部が設けられている。
また、この発明の旋回座軸受の製造方法は、一つの環状部材を半径方向に切断することにより複数の弧状の軌道部材を構成し、次いで上記複数の軌道部材の対向する端面間に上記環状部材の切断に際し切り欠かれた部分に相当するスペーサを挿入して環状に一体に組み立て、次いでこの一体に組み立てられた状態の上記軌道部材およびスペーサに真円加工を行うことを特徴としている。」

(ウ)第1実施例の軌道輪、及びこれを用いた旋回座軸受の外輪について(第4頁左上欄第15行-第7頁左下欄第9行)
「<実施例>
以下、この発明を図示の実施例により詳細に説明する。
第1図はこの発明の旋回座軸受の軌道輪の第1実施例を軸方向からみた図であり、この軌道輪は、真円の一部をなす略半円弧状で、外周に外歯歯車1cを有する一方の軌道部材1と、この一方の軌道部材1と同一の真円の一部をなす略半円弧状で、外周に上記外歯歯車1cと共に一つの歯車をなす外歯歯車2cを有する他方の軌道部材2と、上記一方の軌道部材1の端面1a,1bと他方の軌道部材2の端面2a,2bの互いに対向する端面1a,2a問および端面1b,2b間に夫々配置され、上記一対の軌道部材1,2と共に一つの上記真円をなす板状のスペーサ3,4と、このスペーサ3,4とその両側に位置する上記軌道部材1,2の3者にまたがるように嵌合され、軸心に平行な2本づつ計4本の円柱形のピン5,5および6,6とからなっている。そして、図示のように環状に組み立てられている(詳細は後述)。この軌道輪は後述する2つの連結輪と共に旋回座軸受の外輪を構成する。
上記軌道部材1,2は夫々、一つの環状部材を直径方の一つの平面に沿って一定の切断代(図中w参照)で切断して得られる2つの略半円弧状をしており、上記各端面1a,lb,2a,2bは軸心に平行な平面で形成されている。ここでは互いに対向する上記端面1a,2aおよび端面1b,2bは同一形状(第2図参照)をしており、また端面1a,2aと端面1b,2bとは夫々互いに対称な形状をしている。そして、上記軌道部材1,2は各端面1a,1b,2a,2bの径方向所定の位置に、上記ピン5の一部およびピン6の一部に嵌合し、内面が円筒面で形成される軸方向の係合溝7および8(第2図参照)を夫々有している。そして、上記ピン5,6と位相が90°ずれた周方向位置に軸方向の円穴9および円穴10を有している。これらの軌道部材1,2は、外歯歯車1c,2c部分を除いて両者とし第3図に示す径方向の断面形状を有している。そして、これらの軌道部材1,2は、その内周面の軸方向一端および他端に夫々、上記一端側および他端側に一方を開放する断面略矩形の半弧状の溝11および12を有している。上記溝11および12の軸心に直角な面11aおよび面12aにより、2組のスラストころ13,14が夫々転動する一方の軌道面15および他方の軌道面16(第1図参照)の大部分が形成され、また、内周面17により、ラジアルころ18が転動する軌道面19の大部分が形成される。そして、上記面11a,12aおよび17には、表面から一定深さにまで至る焼き入れ層(図示を省略)が形成されている。なお、20および21は断面矩形の略半弧状の嵌合溝であり、軌道輪の組み立てに際し、これら嵌合溝20,21には夫々、第3図中想像線aおよび想像線bで示す断面略矩形の略半円弧状の連結部材22,23が、その嵌合部を介して、上記従来と同様(第11図参考)上記軌道部材と軸心回りの位相を90度ずらした状態で、かつ2つの軌道部材1,2にまたがって、嵌合される。
一方、上記2つのスペーサ3,4はここでは同形をしており、これらは、第4図に示すように、上記2つの軌道部材1,2の互いに対向する端面1a,2aまたは2a,2b(第2図参照)に一致する互いに平行な両端面3a,3aまたは4a,4aを有し、第5図に示すように上記切断代wに等しい厚みを有する略板状をしている。そして第1図に示すように、上記一方のスペーサ3はその両端面3a,3aを上記端面1a,2aに完全に一致させた状態で、また他方のスペーサ4はその両端面4a,4aを上記端面1b,2b完全に一致させた状態で軌道部材1,2間に挿入されている。そして、この第1図の状態で、スペーサ3,4の一方の面3b,4bは軌道部材1,2の上記面11a,11aと共に一つの上記軌道面15を形成し、また他方の面3c,4cは軌道部材1,2の上記面12a,12aと共に上記軌道面16を形成し、内周面3d,4dは軌道部材1,2の上記内周面17,17と共に上記軌道面19を形成している。また、同様に、これらスペーサ3,4の嵌合溝3e,4e(第5図参照)は、軌道部材1,2の上記嵌合溝20,20と共に一つの環状の嵌合溝を、また、嵌合溝3f,4fは上記嵌合溝21,21と共に一つの環状の嵌合溝を形成している。なお、上記外歯歯車1c,2cは、第1図に示すように、このスペーサ3,4と軌道部材1,2との当接部が歯底に位置し、歯面には位置しないように設けられる。このため、上記2つの軌道部材1,2の外歯歯車1c,2cにより形成される歯車はその歯数が偶数になるよう選ばれる。
第4,5図に示すように、上記スペーサ3,4は、軸方向一端側および他端側に夫々、両端面3a,3aまたは4a,4aに開口(第4,5図中24a,25a参照)する軸方向の穴24および穴25を有している。この穴24および穴25は、軌道部材1,2とスペーサ3,4とを第1図に示す環状の状態に保持したまま、上記互いに対向する端面1a,2aまたは1b,2bに設けた上記係合溝7,7および、8,8と一体加工で軸方向の円穴加工を行うことにより設けられる。詳しくは、上記穴24と一方の軌道部材1側の係合溝7と他方の軌道部材2側の係合溝7とは、第1図に示す環状の状態でスペーサ3また4の上記厚みw方向の略中央かつ径方向所定の位置を中心として、軸方向に一定深さまで上記スペーサ3,4の上記厚みwよりも大径の穴をキリ加工することにより一体加工で設けられる。そして、上記穴25,一方の軌道部材1側の係合溝8および他方の軌道部材2側の係合溝8も同様にして設けられる。
第1図に示すように、軸方向一端側において2つの係合溝7,7とスペーサ3の穴24により形成される一方の円穴28と、同様にして形成されるスペーサ4側の他方の円穴29とには上記ピン5が夫々密に嵌合してある。また同様に、軸方向他端側において2つの係合溝8,8とスペーサ3の穴24により形成される一方の円穴30と、同様にして形成される他方の円穴31とには上記ピン6が夫々嵌合しである。これらのピン5,6の上記開口24a,24aおよび上記開口25a,25aから突出し上記係合溝7または8に嵌合する突出部分5a,5aまたは6a,6a(第5図参照)が係合突起として作用する。そして、上記2つの軌道部材1,2は、スペーサ3,4の周方向両側における係合溝7,8とスペーサ3,4の端面3aおよび4aより突出した上記ピン5の突出部分5a,6aとの係合により、第1図中矢印で示す方向に互いに位置決めされている。そして、周方向は、スペーサ3の両端面3a,3aと軌道部材1,2の上記対向する端面1a,2aとの当接およびスペーサ4の両端面4a,4aと軌道部材1,2の上記端面1b,2bとの当接により位置決めされている。
上記ピン5は上記係合溝7および穴24の深さよりら適宜な寸法だけ長く設けられており、また上記ピン6も上記係合溝8および穴25の深さよりも適宜な寸法だけ長く設けられている。そして、上記各円穴28,29,30,31から夫々軸方向に突出している。また、軌道部材1,2の上記ピンと90°位相がずれた上記穴9,10にもピン5,6が夫々一部が突出した状態で嵌合してある(第6図参照、ただし第6図では軸方向上記他端側は図示の一端側と同様であるので図示を省略してある)。
環状に組まれ、ピン5,6を夫々突出させた状態の軌道輪には、上記半円弧状の連結部材22,22と2つのスペーサ40,41とを備えた環状の連結輪42を、上述のように軌道輪と位相を90°ずらした状態で図中矢印で示すように互いに当接するまで押し進め、第7図に示すように、上記スペーサ3,4部分の上記円穴28,29に嵌合したピン5,5を連結部材22,22の弧の中央に設けた穴22a,22aに夫々嵌合する一方、上記穴9,9に嵌合したピン5,5を連結輪の上記スペーサ40,41部分に形成される円穴43,44に嵌合している。そして、上記軌道輪に対してこの連結輪42を位置決めし、この連結輪42と上記軌道輪とを周方向適宜な位置において、図示を省略した複数のボルトにより軸方向に連結して、上記軌道輪を一体に組み立てている。(他端側つまり第3図に示す連結部材23を備えた連結輪は上記と同様であるので図示を省略)。
上記構成の軌道部材1,2およびスペーサ3,4は、以下のようにして作られる。すなわち、まず、目的とする断面形状(第2図参照)に必要とする加工代を加えた断面形状の真円の環状部材を例えば鍛造により製造する。そして、この環状部材に高周波焼入れを施し、表面から一定深さにまで至る焼入れ層を形成する。次いで、この環状部材を直径方向の一つの平面に沿って一定の切断代(第1図中w参照)で2つに切断する。そして、この切断により得られる2つの略半円弧状の部材、すなわち2つの軌道部材1,2の両端面1a,1b,2a,2bを上記環状部材の軸心に平行な平面に仕上げる。一方、上記環状部材とは別に、上記切断代wに加工代を加えた厚みを有し、上記環状部材とほぼ同じ断面形状を有すると共に上記端面1a,2aおよび1b,2bとほぼ等しい両端面形状を有する2つの板状部材を製造する。そして、この2つ板状部材、つまりスペーサ3,4の上記環状部材の焼き入れ層を形成した面に対応する面に同じく高周波焼き入れを施し、次いで、この2つのスペーサ3,4を夫々上記切断代wに等しい厚さまで研削等により仕上げる。次いで、この2つのスペーサ3,4と上記2つの軌道部材1,2を互いの端面を一致させた状態で環状に組み立てる。そして、治具等により一体に保持する。このとき、上記2つの軌道部材1,2が、その切断により切り欠かれた部分に相当する上記スペーサ1,2を周方向に密にはさんで組み立てられるため、組み立てたものは、従来のように楕円状になったりせず、切断前の上記環状部材に等しい真円形状となる。このため、後に続く旋削や研削加工に際し、この旋削や研削加工が従来のように偏肉加工とはならない。次いで、上述のようにスペーサ3,4と2つの軌道部材1,2に一体加工により軸方向の円穴加工を施し、スペーサに上記穴24,25を設けると共に、軌道輪1,2に上記係合溝7,7および8,8を設ける(直径方向反対側も同じ)。そして、これにより形成される上記円穴28,29および30,31に夫々同径の上記ピン5,5および6,6を嵌合する。これにより、次に続く旋削時等に上記軌道部材1,2およびスペーサ3,4が互いに径方向にずれるのが防がれる。次いで、この環状に保持された部材に真円加工、つまり、旋削や研削加工を施し、これにより上記3つの軌道面15,16,19等を仕上げると共に、さらに外周面に歯切り加工を施して、この環状に保持された部材を、第3図に示す最終断面形状を有し外周に歯車を有するする真円形状に仕上げる。ただし、上記歯切り加工はスペーサ3,4と軌道部材1,2との4つの当接面が歯面にかからないように行なわれる。このようにして、第1図に示す軌道輪が作られる。上記旋削や研削が偏肉加工とはならないため、この軌道輪は容易かつ精度良く作られる。そして、上記軌道面15,16,19下には均一な厚みの焼き入れ層が残される。この軌道輪は、製造に際し、従来の楕円状の部材を真円に削るときの偏肉加工ように大きく削る必要がない。したがって、同じ大きさの軌道部材を得るのに、従来に比べて小さい環状部材から作ることができる。
上記連結輪42も軌道輪と同様にして製造される。そして、軌道輪と連結輪42とを第7図のように互いの位相を90°ずらして同軸に重ねた状態で、連結輪42の連結部材22の上記穴22aは、軌道部材1,2の上記係合溝7,7とスペーサ3の上記穴24と共に一体加工される(スペーサ4側も同様)。また、連結部材22,22の係合溝22b,22bとスペーサ40の穴40aは軌道部材1の上記穴9と一体加工される(他端側の連結輪ら同様)。
上記軌道輪の組み立ては、例えば、定盤等の上にて以下のように行なう。すなわち、まず、一方の軌道部材1の係合溝7,7に、ピン5,5を夫々密に嵌合した状態のスペーサ3,4の周方向一方の開口24a,24a(第5図参照)より突出した上記ピン5,5の突出部分5a,5aを嵌合させ、これにより、上記一方の軌道部材1に対して2つのスペーサ3,4を周方向および径方向に位置決めする。次いで、この位置の決まった上記スペーサ3,4の周方向他方の開口24a,24aから突出した突出部分5a,5aに他方の軌道部材2の係合溝を嵌合させ、上記スペーサ3,4に対して他方の軌道部材2を位置決めする。これにより第1図に示すように、スペーサ3の両端面3a,3aと軌道部材1,2の端面1a,2aとが、また、スペーサ4の両端面4a,4aと軌道部材1,2の端面1b,2bとが完全に一致させられる。ピン6側も上述のピン5側の手順に同期して同様に行なわれる。これにより、上記3つの軌道面15,16,19および歯車がスペーサ3,4と軌道部材1,2との当接部でずれたりすることなく正確に形成される。このように、この軌道輪は容易にかつ正確に真円状に組み立てることができる。そしてこの組み立てられた軌道輪は、軌道輪1,2の上記穴9,9および10,10にに夫々ピン5および6を夫々密に嵌合した後、位相を90°ずらした軸方向一方の連結輪42および軸方向他方の連結輪を介して、分解可能に一体に固定される(第3図および第7図参照)。スペーサ3,4は夫々ピン5,6を介して軌道部材1,2に堅固に支持されるため、スペーサ3,4にスラストころ13,14やラジアルころ18を介してスラスト荷重やラジアル荷重が作用しても軌道輪の軸心に対して傾いたり、また軸方向や径方向にずれたりすることはない。
このように、この軌道輪は容易かつ精度よく製造することができる。そして、切断前に高周波焼き入れをした場合においては、均一な厚さの焼き入れ層を軌道面下等に残すことができる。
また、この軌道輪によれば、組み立てに際し、容易にかつ正確に軌道部材1,2とスペーサ3,4の端面どうしを互いに一致させて、精度よく真円状に組み立てることができる。したがって、軌道面15,16,19等を正確な一つの平面や円筒面に形成することができる。しかも、修理等のため分解しても、容易かつ正確に再び組み立てることができる。したがって、この軌道輪を適用した旋回座軸受は、従来と同様に小さい部品に分解して容易にはこべ、しかも従来に比べて容易かつ精度よく組み立てることができる。」

(エ)第2実施例の軌道輪、及びこれを用いた旋回座軸受の内輪について(第7頁左下欄第10行-第8頁左下欄第10行)
「第8図はこの発明の旋回座軸受の軌道輪の第2実施例の要部を軸方向からみた図であり、41,42は夫々第3図中想像線cで示す径方向の断面形状をした略半円弧状の軌道部材、43はスペーサ(第9図参照)、45はピンである。そしてこれらは、端面41a,42a間に上記スペーサ43を挾んで、第1図と同様に環状に組み立てられている。そして、この軌道輪は、第3図に示すように、外周に、上記第1実施例の軌道輪の上記軌道面16と互いに軸方向に一定の間隙を保って対向し、スラストころ14が転動する軌道面46と、上記第1実施例の軌道輪の上記軌道面19と径方向に一定の間隙を保って対向し、ラジアルころ18が転動する軸方向の軌道面48とを有している。
上記軌道部材41,42および2つのスペーサ43は上記第1実施例の軌道部材1,2およびスペーサ3,4と同様にして作られている。そして、上記軌道部材41,42には夫々軸方向に延びる係合溝47,47が、また上記スペーサ43には周方向両側に開口(第9図中49a参照)する軸方向の穴49が、一体加工により形成されている(図示を省略した直径方向反対側も同じ)。そして、一方の軌道部材41の係合溝47と他方の軌道部材42の係合溝47とスペーサ43の上記穴49により形成される円穴50にピン45が嵌合されている。そしてこれにより、上記2つの軌道部材41,42と2つのスペーサ43とは、上記ピン45の上記周方向両側の開口49aより突出したの突出部分45a,45aを介して夫々、互いに位置決めされ各端面か正確に一致している。
上記軌道部材41,42およびスペーサ43の軸方向一方の端面には、上記3者にまたがるように、略直角方向に延びる矩形で軸方向に一定の深さ(第9図中d参照)を有する凹部51が設けてあり(直径方向反対側も同じ)、この凹部51の中心は上記円穴50の中心にほぼ一致している。そしてその径方向の幅Wは上記円穴50すなわちピンの径45より大きい。上記ピン45の端面は円穴50に嵌合された状態で上記凹部51の底面51aとほぼ一致している(第9図参照)。上記凹部51の一部を構成する軌道部材41,42の凹部41a,42aの略中央には夫々軸方向のねじ穴52,52が設けてあり、上記凹部51にこれに嵌合可能な略矩形で上記深さdにほぼ等しい厚さを有する図示しない連結板を嵌装し、次いでこの連結板の一端側を上記一方の軌道部材41側のねじ穴52に螺着すると共にこの連結板の他端側を他方の軌道部材42側の上記ねじ穴52に螺着することにより、上記2つの軌道部材41,42は、スペーサ43を図示のように周方向に挾みかつ円穴49にピン45を夫々嵌合した状態で、正確に真円をなして環状に一体に連結される。そして上記ピン45は上記連結板により抜け止めされる。なお、軌道輪の軸方向反対側の他方の端面にも、上記凹部と同様の2つのねじ穴を有する凹部53が軌道部材とスペーサにまたがるようにもうけてあり、この凹部53内に上記と同様に連結板を螺着することにより、軸方向他方の端面側においても連結することができるようになっている。連結板による連結部分以外の作用、効果は上記第1実施例と同様である。
なお、この軌道輪は第3図中想像線eで示す軌道輪と共に旋回座軸受の内輪を構成し、これらは互いに位相を90°ずらした状態で一体にボルト等により組み立てられる(第6,7図参照)。
上記実施例では軌道輪の軸心に対称な2箇所の周方向位置に1つずつ計2つのスペーサ3,4あるいはスペーサ43,43を設けるようにし、これに応じて軌道部材1,2あるいは軌道部材41,42を一つの環状部材を軸心に関して対称な2箇所の周方向位置で切断したように半円弧状に構成するようにしたが、スペーサを設ける周方向位置は上記周方向位置に限らず、また設けるスペーサの数も2つに限らず、これらスペーサを設ける周方向位置やスペーサの数は、輸送車両の能力、作業性および軌道輪全体の大きさや重量等を考慮にいれて、例えば120°毎に3つというように適宜に決定される。そして、軌道部材も、上記スペーサを設ける周方向位置およびスペーサを設ける数に応じて一つの環状部材を切断したように、構成される。なお、このことは、連結輪にも言える。」

(オ)従来技術に関する図面
上記(ア)に摘記した従来技術に関して、第10図、第11図、及び第12図には、次の図示がある。


(カ)実施例に関する図面
上記(ウ)及び(エ)に摘記した実施例について、第3図、第6図、第7図、第8図には、以下の図示がある。


イ 甲第3号証に記載された技術的事項
(ア)従来技術として
第10図は、甲第3号証が従来技術とする旋回座軸受を示しており、上記アの(ア)に摘記した説明も参照すれば、同図から、旋回座軸受は内輪102、外輪104、内輪102と外輪104の間に配置されるスラストころ111,112及びラジアルころ116を備え、内輪102と外輪104とが互いに旋回可能に支持されることが見て取れる。
第11図は、第10図の旋回座軸受の内輪102を示しており、上記アの(ア)に摘記した説明も参照すれば、同図から、内輪102は、軸に垂直な平面で分割される第1内輪部102aと第2内輪部102bと第3内輪部102cとが、夫々上記軸を含む平面で2つの弧状の軌道部材102a-1,102a-2、及びl02b-1,102b-2、並びに102c-1、l02c-2に分割され、上記第1内輪部102a、第2内輪部102bおよび第3内輪部102cが、半径方向の分割面の位相を互いに90°ずらして、一体に分離可能に結合されることが見て取れる。また、同図から、内輪102は、歯車状の凹凸21a及び21bを有することが、見て取れる。
第12図は、第10図の旋回座軸受の外輪104を示しており、上記アの(ア)に摘記した説明も参照すれば、同図から、外輪104は、軸に垂直な平面で分割される第1外輪部104aと第2外輪部104bを有し、この第1外輪部104aと第2外輪部104bは、夫々上記軸を含む平面で2つの弧状の軌道部材104a-1,104a-2、及び104b-1,104b-2に分割され、上記第1外輪部104aと第2外輪部104bは、半径方向の分割面の位相を互いに90°ずらして一体に分離可能に結合されることが、見て取れる。

(イ)解決しようとする課題、及び課題解決手段について
上記ア(イ)の摘記より、甲第3号証において解決しようとする課題は、上記(ア)の第1,2,3内輪部102a,102b,l02cや第1,2外輪部104a,104b等を製作する際に、一つの環状部材を鍛造等により製作し、次いで、この環状部材を半径方向に切断して複数の弧状の軌道部材を構成する場合、切断において大きな切断代を要するため、弧状の軌道部材を環状に組み立てても楕円のような形状になってしまい、真円とするための加工が困難になる、というものであると理解できる。
また、当該課題を解決するために、甲第3号証が示す課題解決手段は、上記ア(イ)の摘記より、一つの環状部材を半径方向に切断することにより構成された複数の弧状の軌道部材と、上記軌道部材の対向する端面間に挿入され、上記環状部材が切り欠かれた部分に相当するスペーサとを環状に組み立てて、旋回座軸受の軌道輪を構成する、という手段であると理解できる。

(ウ)実施例として
上記ア(ウ)に摘記した甲第3号証の第1実施例は、旋回座軸受の軌道輪であり、外周に外歯歯車1cを有する略半円弧状の軌道部材1、軌道部材1と対をなし、外周に外歯歯車2cを有する略半円弧状の軌道部材2、軌道部材1と2の端面間に配置され、軌道部材1,2と共に一つの真円をなす板状のスペーサ3,4からなる軌道輪(以下、「軌道輪1,2,3,4」という。)である。
上記ア(エ)に摘記した甲第3号証の第2実施例は、やはり旋回座軸受の軌道輪であり、略半円弧状の軌道部材41,42、及び軌道部材41,42の端面間のスペーサ43により、環状に組み立てられる軌道輪(以下、第3図の図番cを付して、「軌道輪c」という。)である。
甲第3号証の各実施例の軌道輪と、旋回座軸受との関係について整理する。甲第3号証には、まず第1実施例の軌道輪1,2,3,4と、2つの連結輪とにより、旋回座軸受の外輪が構成されることが示されている(第4頁右上欄第14-15行、及び第3図の図番1,2及び22,23を参照)。また甲第3号証には、第2実施例の軌道輪cと、もう一つの軌道輪(以下、第3図の図番を付して「軌道輪e」という。)とにより、旋回座軸受の内輪が構成されることが示されている(第7頁左下欄第10行-第14行、第8頁第11行-第14行、及び第3図の図番c及びeを参照)。そして甲第3号証には、前述した外輪、内輪、及び、内輪と外輪の間に存在するスラストころ13,14及びラジアルころ18により、旋回座軸受が構成されることが、示されている(第4頁右上欄第14-15行、同頁左下欄第10行-同頁右下欄第2行、第7頁左下欄第10行-同頁右下欄第3行、及び第3図を参照)。
甲第3号証が示す、旋回座軸受の外輪について整理する。上記ア(ウ)の摘記並びに第6図及び第7図から、甲第3号証における旋回座軸受の外輪は、
・軌道輪1,2,3,4と、
・軌道輪1,2,3,4と軸心回りの位相を90度ずらした状態で、かつ2つの軌道部材1,2にまたがって軸方向に嵌合される、略半円弧状の連結部材22,22及びスペーサ40,41からなる環状の連結輪と、
・軌道輪1,2,3,4と軸心回りの位相を90度ずらした状態で、連結部材22,22の反対側で、2つの軌道部材1,2にまたがって軸方向に嵌合される、略半円弧状の連結部材23,23及びスペーサからなる環状の連結輪と、
により構成されると認められる。
甲第3号証が示す旋回座軸受の内輪について整理する。上記ア(エ)の摘記並びに第3図及び第8図から、甲第3号証における旋回座軸受の内輪は、 ・軌道輪cと、
・軌道輪cに対して互いに位相を90度ずらした状態で、軸方向に一体にボルト等により組み立てられる軌道輪eと、
により構成されると認められる。

ウ 甲第3号証に記載された発明
上記ア及びイより、甲第3号証には、従来技術として、及び実施例として、各々次の発明(以下、各々を「甲3発明の1」、「甲3発明の2」といい、両者を併せて「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

[甲3発明の1]
「内輪102、外輪104、内輪102と外輪104の間に配置されるスラストころ111,112及びラジアルころ116を備え、内輪102と外輪104とが互いに旋回可能に支持される旋回座軸受であり、
内輪102は、軸に垂直な平面で分割される第1内輪部102aと第2内輪部102bと第3内輪部102cとが、夫々上記軸を含む平面で2つの弧状の軌道部材102a-1,102a-2、及びl02b-1,102b-2、並びに102c-1、l02c-2に分割され、上記第1内輪部102a、第2内輪部102bおよび第3内輪部102cが、半径方向の分割面の位相を互いに90°ずらして、一体に分離可能に結合されており、内輪102は、歯車状の凹凸21a及び21bを有しており、
外輪104は、軸に垂直な平面で分割される第1外輪部104aと第2外輪部104bを有し、この第1外輪部104aと第2外輪部104bは、夫々上記軸を含む平面で2つの弧状の軌道部材104a-1,104a-2、及び104b-1,104b-2に分割され、上記第1外輪部104aと第2外輪部104bは、半径方向の分割面の位相を互いに90°ずらして一体に分離可能に結合されている、
旋回座軸受。」

[甲3発明の2]
「外輪、内輪、及び、内輪と外輪の間に存在するスラストころ13,14及びラジアルころ18により構成される旋回座軸受であり、
外輪は、
外周に外歯歯車1cを有する略半円弧状の軌道部材1、軌道部材1と対をなし、外周に外歯歯車2cを有する略半円弧状の軌道部材2、軌道部材1と2の端面間に配置され、軌道部材1,2と共に一つの真円をなす板状のスペーサ3,4からなる軌道輪1,2,3,4と、
軌道輪1,2,3,4と軸心回りの位相を90度ずらした状態で、かつ2つの軌道部材1,2にまたがって軸方向に嵌合される、略半円弧状の連結部材22,22及びスペーサ40,41からなる環状の連結輪と、
軌道輪1,2,3,4と軸心回りの位相を90度ずらした状態で、連結部材22,22の反対側で、2つの軌道部材1,2にまたがって軸方向に嵌合される、略半円弧状の連結部材23,23及びスペーサからなる環状の連結輪と、により構成され、
内輪は、
略半円弧状の軌道部材41,42、及び軌道部材41,42の端面間のスペーサ43により、環状に組み立てられる軌道輪cと、
軌道輪cに対して互いに位相を90度ずらした状態で軸方向に一体にボルト等により組み立てられる軌道輪eとにより構成される、
旋回座軸受。」

(4)甲第4号証の1について
ア 甲第4号証の1に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第4号証の1には、次の事項が記載されている。

(ア)産業上の利用分野、及び従来の技術について(第2欄第8行-第4欄第25行)
「〔産業上の利用分野〕
この考案は、大型転がり軸受に係り、さらに詳しくは、スラスト荷重、ラジアル荷重およびモーメント荷重を支持することができるセグメント構造式の大型転がり軸受に関するものである。
〔従来の技術〕
一般に、クレーンやパラボラアンテナの回転部あるいは、トンネル掘削機のカッタヘッド支持部には、スラスト荷重、ラジアル荷重およびモーメント荷重を支持することができるきわめて大型の転がり軸受が組込まれている。
大型転がり軸受は、普通、第10図に示すように、外輪20と内輪21との間に主のスラスト荷重を受けるスラストころ22とその反力を支持するスラストころ23およびラジアル荷重を支持するラジアルころ24を組込んだ構成とされている。
そして、スラストころ22、23およびラジアルころ24の組込みを可能とするため、内輪21を軸心に直交する平面に沿って分割し、その分割によって形成された一対の分割内輪a_(1)、a_(2)を締付ボルト25で結合してある。
ところで、上記の転がり軸受は、外輪20および一対の分割内輪a_(1)、a_(2)がリング状であるため、転がり軸受が超大型化すると輸送することができなくなる。
このような問題を解決するため、本件出願人は、輸送の容易な大型の転がり軸受を既に提案している(実開平1-65925号公報参照)。
上記転がり軸受は、第6図乃至第8図に示すように、外輪ORと、内輪IRと、その内輪間に組込まれた一対のスラストころ1、2およびラジアル3から形成されている。
外輪ORおよび内輪IRは、軸心に直交する平面に沿って2分割され、その分割によって形成された一対の分割外輪OR_(1)、OR_(2)および一対の分割内輪IR_(1)、IR_(2)は、軸心を含む平面に沿って2分割され、その分割によって、4個の外輪セグメントOR_(1S)、OR_(2S)および4個の内輪セグメントIR_(1S)、IR_(2S)が形成されている。
一対の分割外輪OR_(1)、OR_(2)のうち、一方の分割外輪OR_(1)を形成する外輪セグメントOR_(1S)の突き合わせ面F_(1)は、第6図に示すように、他方の分割外輪OR_(2)を形成する外輪セグメントOR_(2S)の突き合わせ面F_(2)に対して周方向に90°位置がずれ、軸方向で対向する外輪セグメントOR_(1S)、OR_(2S)の対向面における一方に第7図に示すように、ピン孔4を形成し、他方にノックピン5を設け、そのノックピン5をピン孔4に挿入して軸方向で対向する外輪セグメントOR_(1S)、OR_(2S)を位置決めしている。そして、軸方向で対向する外輪セグメントOR_(1S)、OR_(2S)の一方にボルト挿入孔6を形成し、他方にねじ孔7を設け、上記ボルト挿入孔6からねじ孔7にねじ込む締付ボルト8の締付けによって軸方向で対向する外輪セグメントOR_(1S)、OR_(2S)を互いに結合している。
また、一対の分割内輪IR_(1)、IR_(2)も上記一対の分割外輪OR_(1)、OR_(2)S同様に、一方の分割内輪IR_(1)を形成する内輪セグメントIR_(1S)の突き合わせ面F_(3)は第6図に示すように、他方分割内輪IR_(2)を形成する内輪セグメントIR_(2S)の突き合わせ面F_(4)に対して周方向に90°位置がずれ、軸方向で対向する内輪セグメントIR_(1S)、IR_(2S)の対向面における一方に、第8図に示すようにピン孔9を形成し、他方にはノックピン10を設け、そのノックピン10をピン孔9に挿入して軸方向で対向する内輪セグメントIR_(1S)、IR_(2S)を位置合わせしている。また、軸方向で対向する内輪セグメントIR_(1S)、IR_(2S)の一方に第7図に示すように、ボルト挿入孔11を形成し、他方にねじ孔12を設け、上記ボルト挿入孔11からねじ孔12にねじ込んだ締付けによって軸方向で対向する内輪セグメントIR_(1S)、IR_(2S)を互に結合している。
上記の構成から成る転がり軸受においては、締付ボルト8、13を取り外すことによって、外輪ORおよび内輪IRのそれぞれを、複数の外輪セグメントOR_(1S)、OR_(2S)および内輪セグメントIR_(1S)、IR_(2S)に分解することができるため、転がり軸受が超大型化してもきわめて容易に搬送することがでできる。また、一方の分割外輪(OR_(1))の外輪セグメント(OR_(1S))および分割内輪(IR_(1))の内輪セグメント(IR_(1S))の突き合わせ面を他方の分割外輪(OR_(2))の外輪セグメント(OR_(2S))および分割内輪(IR_(2))の内輪セグメント(IR_(2S))の突き合わせ面に対して周方向に位置をずらし、軸方向で対向する外輪セグメント(OR_(1S))、(OR_(2S))および内輪セグメント(IR_(1S))、(IR_(2S))を締結ボルト8で連結したことにより、分割外輪(OR_(1))、(OR_(2))および分割内輪(IR_(1))、(IR_(2))が外輪セグメント(OR_(1S))、(OR_(2S))および内輪セグメント(IR_(1S))、(IR_(2S))の突き合わせ面で軸方向に折れ曲がらず、剛性の高い大型転がり軸受を得ることができるという特徴を有する。」

(イ)実施例について(第5欄第7行-第6欄第24行)
「〔実施例〕
以下、この考案の実施例を第1図乃至第5図に基づいて説明する。
なお、先に述べた第6図乃至第8図の従来の転がり軸受と同一の部品には同一の符号を付して説明を省略する。
第3図に示すように、円形に組合わされて分割外輪OR_(1)を形成する2個の外輪セグメントOR_(1S)および分割外輪OR_(2)を形成する2個の外輪セグメントOR_(2S)の突き合わせ面F_(1)、F_(2)における一方には、位置決め用の突部14が設けられ、他方には上記突部14が嵌る凹部15が形成されている。
上記突部14として、ここでは、第4図に示すように、ピンを用い、そのピンを外輪セグメントOR_(1S)の突き合わせ面F1に形成した軸方向の溝16に挿入してねじ止めによる手段を介して取付けているが、突部14はこれに限定されるものではない。その突部14の形状に応じて凹部15を適切な形状を採るようにする。
また、第5図に示すように、円形に組合わされて分割内輪IR_(1)を形成する2個の内輪セグメントIR_(1S)および分割内輪IR_(2)を形成する2個の内輪セグメントIR_(2S)の突き合わせ面F_(3)、F_(4)も上記と同様に、一方に位置決め用の突部14が設けられ、他方に凹部15が設けられている。
上記のように、外輪セグメントOR_(1S)、OR_(2S)の突き合わせ面F_(1)、F_(2)に突部14と凹部15を設けたことにより、その突部14が凹部15に嵌るようにして外輪セグメントOR_(1S)、OR_(2S)を円形に組合わせることにより、外輪セグメントOR_(1S)、OR_(2S)の突き合わせ面F_(1)、F_(2)が半径方向のずれるのを防止することができ、真円の分割外輪OR_(1)、OR_(2)を形成することができる。
また、分割内輪IR_(1)、IR_(2)についても、上記と同様に、突部14を凹部15を嵌め合わせて内輪セグメントIR_(1S)、IR_(2S)を円形に組み合わせるのである。
なお、外輪ORの組立てに際しては、上記のようにして円形に形成した2個の分割外輪OR_(1)、OR_(2)を軸方向に重ね合わせてノックピン5をピン孔4に挿入し、締付ボルト8の締付けによって2個の分割外輪OR_(1)、OR_(2)を軸方向に結合する。この場合、一方の分割外輪OR_(1)の外輪セグメントOR_(1S)の突き合わせ面F_(1)が、他方の分割外輪OR_(2)の外輪セグメントOR_(2S)の突き合わせ面F_(2)に対して周方向に90°位置がずれるようにする。
また、内輪IRの組立てに際しても上記と同様にする。
〔考案の効果〕
以上のように、この考案においては、外輪および内輪を複数の外輪セグメントおよび複数の内輪セグメントに分解することができるため、輸送が容易である。
また、一方の分割外輪の外輪セグメントおよび一方の分割内輪の内輪セグメントの突き合わせ面を他方の分割外輪の外輪セグメントおよび他方の分割内輪の突き合わせ面に対して周方向に位置をずらし、軸方向で対向する外輪セグメントおよび内輪セグメントをノックピンとピン孔の嵌合により位置決めして締付ボルトで連結したことにより、外輪と内輪とをきわめて容易に組立てることができると共に、剛性の高い外輪と内輪とを形成することができる。
さらに、外輪セグメントおよび内輪セグメントの突き合わせ面の一方に設けた突部を他方に形成した凹部に嵌合することにより、突き合わせ面が半径方向にずれず、真円度の高い外輪および内輪を得ることができる。」

(エ)図面
第1図-第3図、第5図には、それぞれ以下の図示がある。

イ 甲第4号証の1に記載された技術的事項
上記アより、甲第4号証の1には、従来技術及び実施例に共通した、以下の技術的事項が記載されている。
外輪ORと、内輪IRと、その内輪間に組込まれたスラストころ1、2およびラジアルころ3から形成される転がり軸受において、
外輪ORおよび内輪IRは、軸心に直交する平面に沿って2分割され、その分割によって形成された一対の分割外輪OR_(1)、OR_(2)および一対の分割内輪IR_(1)、IR_(2)は、軸心を含む平面に沿って2分割され、その分割によって、4個の外輪セグメントOR_(1S)、OR_(2S)および4個の内輪セグメントIR_(1S)、IR_(2S)が形成されており、
一対の分割外輪OR_(1)、OR_(2)は、一方の分割外輪OR_(1)を形成する外輪セグメントOR_(1S)の突き合わせ面F_(1)が他方の分割外輪OR_(2)を形成する外輪セグメントOR_(2S)の突き合わせ面F_(2)に対して周方向に90°位置がずれた状態で、軸方向に重ね合わせて結合され、
一対の分割内輪IR_(1)、IR_(2)も、一方の分割内輪IR_(1)を形成する内輪セグメントIR_(1S)の突き合わせ面F_(3)が他方の分割内輪IR_(2)を形成する内輪セグメントIR_(2S)の突き合わせ面F_(4)に対して周方向に90°位置がずれれた状態で、軸方向に重ね合わせて結合された、
転がり軸受。

(5)甲第4号証の2について
ア 甲第4号証の2に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第4号証の2は、甲第4号証の1の実用新案登録について、出願時の願書に添付された明細書及び図面の内容を示すマイクロフィルムである。
甲第4号証の2には、実用新案登録請求の範囲、及び第1図、第3図、第5図に、以下の記載及び図示がある。
「2.実用新案登録請求の範囲
(1)外輪と内輪との間に転動体を組込んだ大型転がり軸受において、前記外輪と内輪のそれぞれを、軸心に直角な平面に沿って分割して一対の分割外輪と一対の分割内輪とを形成し、その分割外輪と分割内輪のそれぞれを軸心を含む平面に沿って分割して複数の外輪セグメントと複数の内輪セグメントを形成し、前記一方分割外輪の外輪セグメントの突き合わせ面および一方分割内輪の内輪セグメントの突き合わせ面を、他方分割外輪の外輪セグメントの突き合わせ面および他方分割内輪の内輪セグメントの突き合わせ面に対して周方向に位置をずらし、軸方向で対向する外輪セグメントおよび内輪セグメントを締付ボルトで互に連結した大型転がり軸受において、円形に組合わされた外輪セグメントおよび内輪セグメントの突き合わせ面における一方に突部を設け、他方に上記突部が嵌る凹部を形成したことを特徴とする大型転がり軸受。」

また甲第4号証の2には、同実用新案の登録公報である甲第4号証の1について、上記(4)に整理したと同様の事項が記載されている。

(6)甲第4号証の3について
ア 甲第4号証の3に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第4号証の3は、甲第3号証が従来技術として言及する文献である。
甲第4号証の3には、実用新案登録請求の範囲、及び第1図?第3図に、以下の記載及び図示がある。
「2.実用新案登録請求の範囲
(1)外周に環状の嵌合部を有する内輪と、内周に上記内輪の嵌合部に嵌合する環状の嵌合部を有する外輪と、上記内輪の嵌合部と上記外輪の嵌合部との軸方向に対向する面の間に配置される保持器に保持された2組のスラストころと、上記内輪と外輪の対向する周面の間に配置される保持器に保持されるラジアルころとを備えた複合円筒ころ軸受であって、
上記内輪は、軸に垂直な平面で分割される第一内輪部と第二内輪部とを少なくとも有し、上記第一内輪部と第二内輪部は、夫々上記軸を含む平面で少なくとも2つに分割され、上記第一内輪部および第二内輪部は、半径方向の分割面の位相を互いにずらして一体に分離可能に結合され、
上記外輪は、軸に垂直な平面で分割される少なくとも第1外輪部と第2外輪部を有し、上記第1外輪部と第2外輪部は夫々上記軸を含む平面で少なくとも2つに分割され、上記第1外輪部と第2外輪部は、半径方向の分割面の位相を互いにずらして一体に分離可能に結合され、
上記内輪部の内周または外輪部の外周にはギヤが形成され、上記ギヤが形成された内輪部または外輪部を少なくとも2つに分割する上記軸を含む平面は、上記ギヤの歯底を通り、
上記スラストころを保持する各保持器は、夫々軸を含む平面で分割され、
上記ラジアルころを保持する保持器は、軸を含む平面で分割されていることを特徴とする複合円筒ころ軸受。」

なお、第1図?第3図は、上記(3)ア(オ)に示した甲第3号証の第10図?第12図と同じである。また、甲第4号証の3には、上記(3)イ(ア)において、甲第3号証が示す従来技術について整理したと略同様の技術的事項が示されている。

(7)甲第4号証の4について
ア 甲第4号証の4に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第4号証の4は、甲第4号証の1が従来技術として言及する文献である。
甲第4号証の4には、実用新案登録請求の範囲、及び第1図、第5図、第6図に、以下の記載及び図示がある。
「2.実用新案登録請求の範囲
外輪とその内側に組込んだ内輪とを備え、その両輪間に転動体を組込んだ大型転がり軸受において、前記外輪および内輪を軸心に直角な平面と、軸心に沿う平面に沿って分割して複数の外輪セグメントおよび複数の内輪セグメントを設け、その外輪セグメントおよび内輪セグメントを軸方向に並ぶ外輪セグメントおよび内輪セグメントに対して周方向に位置をずらし、軸方向に並ぶ外輪セグメントおよび内輪セグメントを締付ボルトで連結したことを特徴とする大型転がり軸受。」

また、甲第4号証の4には、上記(4)において、甲第4号証の1が示す従来技術について整理したと同様の事項が記載されている。


2 無効理由(甲1発明及び甲2発明又は甲3発明若しくは周知技術に基く進歩性欠如)について
(1)本件発明と甲1発明との対比
本件発明と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「ベースフレーム3」は、本件発明における「ベースフレーム」に相当する。甲1発明における「ケーシング13」は、「円筒状」であるから、本件発明における「円筒状部材」に相当する。
甲1発明における「旋回ベアリング6、回転リング7、及びバンド装置14」は、「ベースフレーム3に取付けられたスラストシリンダ5により、縦ガイドフレーム3a?3dに沿って昇降自在に取付けられた昇降フレーム4」に取付けられているから、昇降フレーム4を介して、ベースフレーム3に対して「昇降自在」に支持されている。また、甲1発明における「旋回ベアリング6、回転リング7、及びバンド装置14」は、「旋回ベアリング6」の「内輪6a」が「昇降フレーム4」の「取付座4a」に固定されたうえで、「旋回ベアリング6」の「外輪6b」が回転することに伴い、「回転リング7」及び「回転リング7上に取付けられたバンド装置14」が回転するから、回転を可能とするための固定部分である「旋回ベアリング6」の「内輪6a」を含めて、「旋回ベアリング6」が取付けられた「昇降フレーム4」及び当該「昇降フレーム4」が取付けられた「ベースフレーム3」に対して、回転が可能な機構を構成している。さらに、甲1発明における「旋回ベアリング6、回転リング7、及びバンド装置14」は、円筒状のケーシング13の外周を囲んでいるとともに、バンド装置14により、円筒状のケーシング13の外周を「掴む」機構を構成している。これらのことから、甲1発明における「旋回ベアリング6、回転リング7、及びバンド装置14」は、本件発明における「ベースフレームに昇降且つ回動可能に支持され、円筒状部材の外周部に着脱される把持機構」に相当する。
甲1発明における「油圧モータ10」は、出力歯車11により、旋回ベアリング6の外輪6bを回転し、もって旋回ベアリング6に取付けられた回転リング7及びバンド装置14にも回転を与えるから、本件発明における「この把持機構を駆動する回転駆動装置」に相当する。
甲1発明における「ケーシング13」は、「大口径鋼管杭あるいは鋼管類」であり、甲1発明における「回転式ケーシングドライバ」が大口径の鋼管である「ケーシング13」を回転して圧入する場合には、圧入された該ケーシング13の内部の土砂を除去すれば立坑が形成可能であり、その点において本件明細書の段落【0001】に記載される「鋼管等を回転して圧入する立坑構築機」と相違がない。そのため、甲1発明の「回転式ケーシングドライバ」は、本件発明における「立坑構築機」に相当する。
甲1発明において、「ベースフレーム3」が「フランジ3eで分割される」構成は、本件発明において、「ベースフレームは組立可能に複数に分割された分割フレームを備え」る構成に相当する。
そうすると、本件発明と甲1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「[A]ベースフレームに昇降且つ回動可能に支持され、
[B]円筒状部材の外周部に着脱される把持機構と、
[C]この把持機構を駆動する回転駆動装置とを備えた立坑構築機において、
[D] 前記ベースフレームは組立可能に複数に分割された分割フレームを備えた、
[F]立坑構築機。」

<相違点>
本件発明では、「把持機構は、それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する複数に分割された円弧状ベアリング片を備えている」のに対し、
甲1発明では、「旋回ベアリング6」が「外歯歯車6c」を有し、また「昇降フレーム4」が「旋回ベアリング6」を固定する「取付座4a」を分断するように「分割」されるものの、「旋回ベアリング6」自体は分割されないとともに、「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する複数に分割された円弧状ベアリング片」は備えていない点。

(2)判断
上記相違点について検討する。
ア 相違点に係る本件発明の構成の技術的意義について
(ア)本件明細書の記載
本件明細書には、以下の記載がある。
a 従来の技術
「【0002】
【従来の技術】
従来より、鋼管等を回転させ、所定位置に圧入する立坑構築機は多数使用されている。立坑の施工を行うには、立坑構築機をトラック等の運搬手段により保管場所から施工場所まで運搬することが必要である。装置の輸送に一般道路を使用する場合、現行の道路交通法では運搬物の幅を3200mm以内に収めなければならず、立坑構築機の外形をこれに合わせようとすると鋼管等の直径を2500mm以下にする必要がある。
【0003】
近年においては、使用する鋼管の直径が大型化しており、直径が2500mmを超えるものが要求される場合もある。図6に示すように、例えば、特開2000-073371号公報に記載されている鋼管類圧入引抜き装置70は、上フレーム71及び下フレーム72を油圧シリンダ74によって上下に相対移動可能に設けられている。また、上フレーム71の上部には、回転体73を配置されている。
【0004】
上、下フレーム71、72は、コ字状の上、下フレーム片75、76の両端部を連結部材77、78でそれぞれ接続して矩形枠状に形成されている。回転体73は、中心角が180度より小さい円弧状歯車片79、80を隙間をあけて対向配置している。また、円弧状歯車片79、80は、上フレーム辺75に2台ずつ設けられ同期回転する小歯車81?84にそれぞれ噛合している。
【0005】
かかる構成によって、各円弧状歯車片79、80に固定された図示しない複数のC形バンドを鋼管(図示せず)の外周に締め付けて固定して、その鋼管と共に回転することができる。また、上、下フレーム71、72及び回転体73は、幅方向に縮幅し、運搬時の幅を狭くすることができる。」

b 発明が解決しようとする課題
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、この従来の装置においては、円弧状歯車片79、80は、使用時に各両端部を当接させず、その間に隙間85、86を有して配置されている。従って、装置の使用時に、円弧状歯車片79、80は上、下フレーム71、72に対して相対的に回動することになるが、このときの円弧状歯車片79、80の支持方法が開示されていない。
【0007】
内輪と外輪の間に多数の転動体を有するベアリングは、支持部材として一般的なものであるが、ベアリングを部分的に切断し、端部を当接させない状態で回転させると、内部の転動体が端部からこぼれ落ちてしまうので、使用することができない。すなわち、鋼管類圧入引抜き装置70においては、内輪と外輪の間に多数の転動体を有する一般的なベアリングは使用できないため、特殊なガイドを用いた保持方法となる。この場合には、前述した特殊なガイドを精度良く調整して設けることが必要になり、また、機構が大変複雑なものになると考えられる。
【0008】
また、円弧状歯車片79、80が隙間85、86を移動するときにはガイドがない状態になるので、円弧状歯車片79、80の端部が隙間85、86を通過する度に回転状態が不安定になるという問題があった。
【0009】
そこで本発明が解決しようとする課題は、幅方向の寸法を狭くすることができ、標準的なベアリングを用いて回転を安定させることができる立坑構築機を提供することにある。」

c 課題を解決するための手段
「【0010】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するため、本発明の立坑構築機は、ベースフレームに昇降且つ回動可能に支持され、円筒状部材の外周部に着脱される把持機構と、この把持機構を駆動する回転駆動装置とを備えた立坑構築機において、前記ベースフレームは組立可能に複数に分割された分割フレームを備え、前記把持機構は、それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する複数に分割された円弧状ベアリング片を備えている。
【0011】
円筒状部材には、例えば、鋼管や鉄筋コンクリートを用いた管材を用いることができる。円弧状ベアリングは隙間なく接続して環状の歯車付ベアリングを構成し、内輪及び外輪の間に配置された球やころ等の転動体がこぼれ落ちない構造になっている。かかる構成によって、分割して幅方向の寸法を狭くすることができると共に、標準的なベアリングを使用して回転を安定させることができる。
【0012】
また、前記ベースフレーム及び前記歯車付ベアリングをそれぞれ二分割し、各前記円弧状ベアリング片を、対応する前記分割フレームにそれぞれ支持させ、この分割フレームに、前記円弧状ベアリング片をそれぞれ異なる高さに昇降可能な昇降シリンダと、対向する前記分割フレームを接続して伸縮可能な水平シリンダとを設けることも可能である。
【0013】
ベースフレーム及び歯車付ベアリングは、それぞれ前後方向に切断して分割することが好ましい。組立状態から幅狭状態に形態を変えるときには、まず、昇降シリンダを操作して、円弧状ベアリング片を異なる高さに配置し、次いで、水平シリンダを操作してロッドを縮めて両側の分割フレームを近接させる。
かかる構成によって、各部材を一体的に保持した状態で簡単に幅を狭くすることができる。
【0014】
また、前記ベースフレームに、走行台車を連結することも可能である。
走行台車を連結することによって、回転による反力を走行台車で受けることができると共に、走行台車に設けたクレーン等の吊下手段で吊り下げて移動できるという利点がある。
【0015】
さらに、前記回転駆動装置を複数台設け、前記歯車付ベアリングに歯合する前記回転駆動装置の各ピニオンを、一のピニオンの中心と他のピニオンの中心を結ぶ直線が前記歯車付ベアリングの中心位置を避けるように配置することも可能である。ピニオンが歯車付ベアリングを中心として対向する位置に同時に当接することがなくなるので、強度が弱くなる円弧状ベアリング片の接続部分の2カ所に同時に動力を伝達することを避け、装置を安定して駆動することができる。」

d 発明の効果
「【0028】
【発明の効果】
本発明によれば次の効果を奏する。
(1)それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する複数の円弧状ベアリング片を備えているので、分割して幅方向の寸法を狭くすることができると共に、標準的なベアリングを使用して装置を安価に構成することができ、また回転を安定させることができる。
(2)ベースフレーム及び歯車付ベアリングをそれぞれ二分割し、分割フレームに、円弧状ベアリング片をそれぞれ異なる高さに昇降可能な昇降シリンダと、対向する前記分割フレームを接続して伸縮可能な水平シリンダとを設けるので、装置全体を一体的に形成した状態で簡単に幅を狭くすることができる。
(3)ベースフレームに、走行台車を連結するので、回転による反力を受けることができると共に、走行台車のクレーンで吊り下げて移動できる。
(4)各ピニオンの位置をずらして配置しているので、ピニオンが、強度が弱くなる円弧状ベアリング片の接続部分の2カ所に同時に動力を伝達することを避け、装置を安定して駆動することができる。」

(イ)本件明細書の開示
上記(ア)の記載事項によれば、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の相違点に係る「環状の歯車付ベアリング」及び「円弧状ベアリング片」に関し、次のような開示があることが認められる。
a 内輪と外輪の間に多数の転動体を有するベアリングは、支持部材として一般的なものであるが、運搬時の幅を狭くするためベアリングを部分的に切断し、端部を当接させず隙間を有した状態で回転させると、内部の転動体が端部からこぼれ落ちてしまい、これを防ぐには機構が大変複雑なものとなる。また、ベアリングの円弧状歯車片が隙間を移動するときには、回転が不安定となる(段落【0005】-【0008】)。
b 本件発明では、それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する複数に分割された円弧状ベアリング片を備えたことにより、円弧状ベアリング片が隙間なく接続して環状の歯車付ベアリングを構成する。そのため、標準的なベアリングを使用しながら、分割して幅方向の寸法を狭くすることができるとともに、環状の歯車付ベアリングにおいて内輪及び外輪の間に配置された転動体がこぼれ落ちることがなく、回転を安定させることができる(段落【0010】-【0011】及び【0028】)。

(ウ)相違点に係る「環状の歯車付ベアリング」及び「円弧状ベアリング片」
上記(イ)の開示をふまえて、本件発明の構成について検討すると、本件発明の「環状の歯車付ベアリング」は、「ベアリング」という語が用いられていることから、通常のベアリングが有する内輪と外輪及び転動体のうち、例えば内輪のみ、あるいは外輪のみといった一部の構成要素のみを指す趣旨ではなく、ベアリングの全体を指すものと解される。また、「環状の歯車付ベアリング」は、円弧状ベアリング片の「それぞれの両端部を各々接続して環状」に構成されるものであるから、少なくとも内輪と外輪との間に配置された転動体がこぼれ落ちることがなく、また回転が不安定となることがないよう、隙間なく環状に構成されたベアリングであると解される。そして、本件発明における「円弧状ベアリング片」は、「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する」ように、「複数に分割」された「円弧状」の「ベアリング片」であるから、当該「円弧状ベアリング片」の「それぞれの両端部を各々接続」すれば「環状の歯車付ベアリング」を構成するように、「環状の歯車付ベアリング」が「円弧状」に分割された「ベアリング片」であると解される。

イ 甲2発明に基く検討
(ア)甲2発明が有する構成
甲2発明は、現場打杭に使用されるオールケーシング工法用回転式ボーリングマシンであり、上記1(2)イに認定したとおり、クランプ部2が「複数個に等分割され、締付拡大可能に取り付けられた円形状の割クランプ3、割クランプ3の内側に割クランプ3に対応して複数個に等分割され、締付拡大可能に取り付けられた円形状の割ライナー4、割ライナー4の各ライナー素子に固着され、操作部1のギアボックス7により回転駆動されるほぼ円形状の割ラツク歯車6、所定のケーシングチユーブを中央部に固定するために割クランプ3および割ライナー4を締め付けるための締付ジヤツキ5、を具え、割ライナー4と割クランプ3とは、スチールボールのような回転支承部材15により回転可能に支承され」た構成を有している。
甲2発明の当該構成では、「回転支承部材15により回転可能に支承」された円形状の「割ライナー4と割クランプ3」が、「複数個に等分割」されており、また割ライナー4には「割ラツク歯車6」が設けられているから、当該構成を上記相違点に係る本件発明の構成である、「把持機構は、それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する複数に分割された円弧状ベアリング片を備えている」構成と対比すると、両者は、把持機構が有する歯車付ベアリングが複数に分割されている、という限度において共通する。
しかしながら、甲2発明において、割ライナー4及び割クランプ3は、種々の径のケーシングチユーブをクランプするために「締付拡大可能」に分割されたものであるから、クランプ時の締付及び拡大のための隙間を有して機能するものであり、分割された割ライナー4及び割クランプ3の各素子は、「それぞれの両端部を各々接続」して「環状の歯車付きベアリングを構成」するものではない。それゆえに、甲2発明における分割された割ライナー4及び割クランプ3の各素子は、「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付きベアリングを構成」する、「複数に分割された円弧状ベアリング片」に相当するものではない。
これに関して、甲第2号証には、「ライナー4は各ライナー素子がくつついた最小径から各ライナー素子が離れたより大きい径までの種々の径のケーシングチユーブをクランプすることができる。」(上記1(2)ア(ア)参照)との記載も存在するから、仮に甲2発明において、各ライナー素子がくっついた最小径とちょうど同径のケーシングチユーブをクランプさせた場合には、各ライナー素子4の端部同士が当接する状態が生じ得ると解される。けれども甲2発明において、各ライナー素子の端部同士が当接した状態に至ると、ケーシングチユーブを締付ける力が、当接したライナー素子の端部間が押し合う反発力で相殺されるから、ケーシングチユーブをクランプする機能が損なわれることは力学的に明らかである。その一方で、甲2発明では、「割ライナー4の最小径より小さい径のケーシングチユーブをセツトすることが必要な場合には、割ライナー4に第2ライナー17をセツトして、第2ライナーにケーシングチユーブをクランプ」すればよいから、実際に割ライナー4の端部同士が当接する最小径と同じ径のケーシングチユーブをクランプする場合には、第2ライナー17を介在させることにより、割ライナー4の端部同士が当接せずクランプ機能が失われない状態で、割ライナー4及び割クランプ3を使用するものと考えられる。
以上のことからすれば、甲2発明における「割ライナー4及び割クランプ3」は、両端部が隙間を有して「締付拡大可能」な状態で機能するものであり、本件発明におけるように「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成」するものではない。そして、甲2発明において、仮に割ライナー4の最小径と同径のケーシングチユーブを、第2ライナーを介在させることなくクランプさせれば、クランプ機能が減殺されるのと引き替えに割ライナー4の端部同士が当接する状態が生じ得るとしても、かように例外的な状況で端部同士が当接する場合があることをもって、甲2発明における割ライナー4及び割クランプ3が、本件発明における「それぞれの両端部を各々接続」して「環状の歯車付ベアリングを構成」する「複数に分割された円弧状ベアリング片」に相当するということはできない。
したがって、甲2発明は、相違点に係る本件発明の構成に相当する構成を有していない。

(イ)甲1発明に甲2発明を適用する動機付け、及び阻害要因
甲1発明は、「昇降フレーム4」については、旋回ベアリング6の取付座4aを分断するように分割する一方、甲第1号証中のその余の記載を検討しても、「旋回ベアリング6」自体を分割することは一切記載されていない。そのため、甲第1号証において、旋回ベアリング6自体をさらに分割する積極的な動機や示唆があるということはできない。
また、甲1発明は、「昇降フレーム4」を旋回ベアリング6の「取付座4a」を分断するように分割する構成を有するが、分割された「中間分割フレーム23、24および端部分割フレーム21、22」は、「それぞれ横ボルト25、縦ボルト26により締結」されるから、各分割フレームを締結した昇降フレーム4が備える「取付座4a」のサイズは一定のものであり、種々の径の旋回ベアリング6を固定できるよう拡大や縮小が可能なものではないと解される。
その一方、甲2発明が有する割ライナー4及び割クランプ3は、種々の径のケーシングチユーブをクランプするために締付拡大可能なものであり、回転駆動される割ライナー4、及び割ライナー4を回転可能に支承する側の割クランプ3の両者ともが、締付ジヤツキ5の動作によってその径を変更するものである。このような甲2発明の割ライナー4及び割クランプ3を、旋回ベアリング6の径の変更に対応するための構成を有さない甲1発明における「昇降フレーム4」上の「取付座4a」にそのまま取り付けることはできず、甲1発明に甲2発明を組み合わせるためには、甲1発明において採用した分割可能な「昇降フレーム4」及び「取付座4a」の構成自体を改変する必要が生じると解されるから、甲1発明に甲2発明を組み合わせることには、阻害要因がある。
したがって、甲1発明において甲2発明を組み合わせる積極的な動機付けはなく、また甲1発明に甲2発明を組み合わせることには、阻害要因がある。

(ウ)小括
以上のとおり、甲2発明は、相違点に係る本件発明の構成に相当する構成を有しておらず、甲1発明に甲2発明を組み合せても、相違点に係る本件発明の構成に至るものではない。
また、甲1発明において甲2発明を組み合わせる積極的な動機付けはないとともに、甲1発明における分割可能な昇降フレーム4に、旋回ベアリング6に代えて、甲2発明の種々の径のケーシングチユーブをクランプするために締付拡大可能に分割された割ライナー4及び割クランプ3を組み合わせることには、阻害要因がある。
よって、本件発明は、甲1発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 甲3発明に基く検討
甲3発明は、上記1(3)ウに認定したとおり、旋回座軸受として、「内輪102は、軸に垂直な平面で分割される第1内輪部102aと第2内輪部102bと第3内輪部102cとが、夫々上記軸を含む平面で2つの弧状の軌道部材102a-1,102a-2、及びl02b-1,102b-2、並びに102c-1、l02c-2に分割され、上記第1内輪部102a、第2内輪部102bおよび第3内輪部102cが、半径方向の分割面の位相を互いに90°ずらして、一体に分離可能に結合され」ており、また「外輪104は、軸に垂直な平面で分割される第1外輪部104aと第2外輪部104bを有し、この第1外輪部104aと第2外輪部104bは、夫々上記軸を含む平面で2つの弧状の軌道部材104a-1,104a-2、及び104b-1,104b-2に分割され、上記第1外輪部104aと第2外輪部104bは、半径方向の分割面の位相を互いに90°ずらして一体に分離可能に結合されている」構成(甲3発明の1)、
あるいは、
「外輪は、外周に外歯歯車1cを有する略半円弧状の軌道部材1、軌道部材1と対をなし、外周に外歯歯車2cを有する略半円弧状の軌道部材2、軌道部材1と2の端面間に配置され、軌道部材1,2と共に一つの真円をなす板状のスペーサ3,4からなる軌道輪1,2,3,4と、軌道輪1,2,3,4と軸心回りの位相を90度ずらした状態で、かつ2つの軌道部材1,2にまたがって軸方向に嵌合される、略半円弧状の連結部材22,22及びスペーサ40,41からなる環状の連結輪と、軌道輪1,2,3,4と軸心回りの位相を90度ずらした状態で、連結部材22,22の反対側で、2つの軌道部材1,2にまたがって軸方向に嵌合される、略半円弧状の連結部材23,23及びスペーサからなる環状の連結輪と、により構成」され、また「内輪は、略半円弧状の軌道部材41,42、及び軌道部材41,42の端面間のスペーサ43により、環状に組み立てられる軌道輪cと、軌道輪cに対して互いに位相を90度ずらした状態で軸方向に一体にボルト等により組み立てられる軌道輪eとにより構成」される構成(甲3発明の2)、を有している。
甲3発明の上記構成では、旋回座軸受の内輪を構成する、軸方向に積層された第1内輪部102a、第2内輪部102b及び第3内輪部102cの各々、あるいは、軌道輪c及び軌道輪eの各々は、2つの弧状の部材または略半円弧状の部材とスペーサとに分割される。また、旋回座軸受の外輪を構成する、軸方向に積層された第1外輪部104a及び第2外輪部104bの各々、あるいは、軌道輪1,2,3,4及び2つの環状の連結輪の各々は、2つの弧状の部材または略半円弧状の部材とスペーサとに分割される。
しかしながら、甲3発明において、2つの弧状の部材、または略半円弧状の部材とスペーサの、それぞれの両端部を各々接続して環状に構成されるのは、旋回座軸受の外輪を軸方向に分割した、「第1外輪部104a」、「第2外輪部104b」、あるいは「軌道輪1,2,3,4」、「連結部材22,22及びスペーサ40,41からなる環状の連結輪」、「連結部材23,23及びスペーサからなる環状の連結輪」の各々、または、旋回座軸受の外輪を軸方向に分割した、「第1内輪部102a」、「第2内輪部102b」、「第3内輪部102c 」、あるいは「軌道輪c」、「軌道輪e」の各々であるところ、これらはいずれも旋回座軸受の外輪または内輪のうちの一部分を構成する部材にとどまり、本件発明における「環状の歯車付ベアリング」には相当しない。そのため、甲3発明において、外輪または内輪のうちの一部分を構成する2つの弧状の部材、または略半円弧状の部材とスペーサは、いずれも本件発明における「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する複数に分割された円弧状ベアリング片」には相当しない。
一方で、甲3発明における旋回座軸受は、内輪、外輪、及び内輪と外輪との間に配置されるスラストころ及びラジアルころを有し、内輪または外輪が歯車状の部材または外歯歯車を有するから、全体として「環状の歯車付ベアリング」と言うことができ、その限度において本件発明と共通する。しかしながら、甲3発明では、内輪または外輪を構成する軸方向に積層された部材が、いずれも軸心回りの位相を90度ずらして結合されているから、内輪または外輪を構成する各層について見れば円弧状の部材のそれぞれの両端部を各々接続して環状になるよう分割されていても、これらの層を積層して構成された内輪、あるいは外輪は、「それぞれの両端部を各々接続」して環状の内輪あるいは環状の外輪を構成する、複数の円弧状の部材に分割されるものではない。また、甲3発明において、内輪と外輪とが組み合わさった旋回座軸受も、「それぞれの両端部を各々接続」して「環状の歯車付ベアリング」を構成する「円弧状ベアリング片」に分割されるものではない。
以上のことから、甲3発明は、旋回座軸受が有する軸方向に積層された内輪または外輪の各層が有する弧状または略半円弧状の部材に着目して検討しても、また旋回座軸受の全体に着目して検討しても、本件発明における、「把持機構は、それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する複数に分割された円弧状ベアリング片を備えている」という構成に相当する構成を、有していない。
したがって、甲3発明は、相違点に係る本件発明の構成に相当する構成を有しておらず、甲1発明に甲3発明を組み合せても、相違点に係る本件発明の構成に至るものではない。
また、上記イ(イ)に検討したとおり、甲1発明において、旋回ベアリング6自体をさらに分割する積極的な動機付けもない。
よって、本件発明は、甲1発明及び甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 周知技術に基く検討
甲第4号証の1は、上記1(4)イに認定したとおり、転がり軸受において、外輪ORが軸心に直交する平面に沿って2分割され、その分割によって形成された一対の分割外輪OR1とOR2が、各々軸心を含む平面によって外輪セグメントに2分割され、2個の分割外輪OR1とOR2とが、分割された外輪セグメントの突き合わせ面が周方向に90°ずれた状態で軸方向に重ね合わせて結合され、内輪IRも外輪ORと同様に組み立てられる、という技術的事項が記載されている。
当該技術的事項では、上記ウにおいて甲3発明について検討したと同様に、外輪ORを構成する軸方向積層部材の各々、及び内輪IRを構成する軸方向積層部材の各々は、円弧状に分割され得るものの、これらの各層を積層して構成された外輪OR自体、及び内輪IR自体は、分割面を90°ずらして積層しているために円弧状に分割することができないものである。そして、外輪ORと内輪IRとを組み合わせた転がり軸受自体も、それぞれの両端部を各々接続すれば環状の歯車付ベアリングを構成するような複数の円弧状の部材には分割することができないものである。
したがって、甲第4号証の1に示される技術的事項は、相違点に係る本件発明の構成を開示あるいは示唆するものではない。
甲第4号証の2?4に記載される技術的事項も、上記1(5)?(7)に示したとおり、甲3発明または甲第4号証の1に記載される技術的事項と同様に、相違点に係る本件発明の構成を開示あるいは示唆するものではない。
また、上記イ(イ)に検討したとおり、甲1発明において、旋回ベアリング6自体をさらに分割する積極的な動機付けもない。
よって、仮に甲第4号証の1ないし4に示される技術的事項が周知技術であったとしても、本件発明は、甲1発明及び当該周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ まとめ
以上のとおりであるから、本件発明は、甲1発明及び甲2発明又は甲3発明若しくは周知技術(甲第4号証の1?4)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に該当しない。

(3)請求人の主張について
審判請求人は、本件発明における「環状の歯車付ベアリング」について、一般的なベアリングである等の限定はクレームに記載されておらず、また本件発明における「それぞれの両端部を接続して各々接続して環状の歯車付ベアリング」及び当該「環状の歯車付ベアリング」を構成する「複数に分割された円弧状ベアリング片」について、明細書を見ても、内輪、外輪、内輪と外輪の間に配置される球体がバラバラでなく「円弧状に」一体としてなるなどの記載はないから、その点について本件発明の構成と甲第2号証等との間に相違はない旨を主張している(平成31年4月10日付け上申書第2頁第7行?第26行)。
また審判請求人は、甲第2号証は、ケーシングチユーブの大小に対してクランプできることを開示しており、その中で最小径のチユーブの場合は、各ライナー素子の端部同士をくっつけてクランプすることができることをわざわざ記載しているから、この記載の中には、各ライナー素子の端部同士をくっつけるという技術思想が開示されており、本件発明における構成要件Eと相違はない旨を主張している(平成31年4月10日付け上申書第3頁第1行?第23行)
しかしながら、本件発明における「環状の歯車付ベアリング」について、「ベアリング」という語が使われていることから、通常のベアリングが有する内輪と外輪及び転動体のうち、例えば内輪のみ、あるいは外輪のみといった一部の構成要素のみを指す趣旨ではなく、ベアリングの全体を指すものと解すべきことは、上記(2)ア(イ)及び(ウ)に説示したとおりである。また、本件発明における「円弧状ベアリング片」についても、当該「円弧状ベアリング片」の「それぞれの両端部を各々接続」すれば「環状の歯車付ベアリング」を構成するように、「環状の歯車付ベアリング」が「円弧状」に分割された「ベアリング片」であると解すべきことは、上記(2)ア(ウ)に説示したとおりである。そして、甲第3号証及び甲第4号証が、そのような本件発明の構成要件Eに係る構成を開示あるいは示唆するものではないことは、上記(2)ウ及びエに判断したとおりである。
また、甲第2号証に関して、甲2発明の割ライナー4及び割クランプ3が、両端部が隙間を有して締付拡大可能な状態で機能するものであり、本件発明におけるように「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成」するものでないことは、上記(2)イに判断したとおりである。そして、甲2発明において、クランプ機能が減殺されるのと引き替えに割ライナー4の端部同士が当接する状況が例外的に生じ得ることをもって、割ライナー4及び割クランプ3を、本件発明の「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付きベアリングを構成」する「複数に分割された円弧状ベアリング片」に相当すると言うことはできないことも、上記(2)イに判断したとおりである。
したがって、請求人の主張について検討しても、甲1発明との相違点に係る本件発明の構成は、甲第2号証ないし甲第4号証に記載されておらず、本件発明は上記(2)に判断したとおり、請求人が主張する無効理由によって無効とすることができない。


第7 むすび
以上のとおりであるから、本件発明について、請求人の主張する無効理由には無効とする理由がないから、その特許は無効とすべきものではない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-05-28 
結審通知日 2019-05-30 
審決日 2019-06-13 
出願番号 特願2001-174863(P2001-174863)
審決分類 P 1 123・ 121- Y (E21B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 深田 高義  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 井上 博之
有家 秀郎
登録日 2005-07-08 
登録番号 特許第3694724号(P3694724)
発明の名称 立坑構築機  
代理人 利光 洋  
代理人 遠坂 啓太  
代理人 加藤 久  
代理人 松尾 憲一郎  
代理人 市川 泰央  
代理人 市川 泰央  
代理人 今中 崇之  
代理人 南瀬 透  
代理人 今中 崇之  
代理人 利光 洋  
代理人 松尾 憲一郎  

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