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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1361404
審判番号 不服2018-12171  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-11 
確定日 2020-04-09 
事件の表示 特願2016- 76811「発光装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月12日出願公開、特開2017-188592〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年4月6日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 2月 2日付け:拒絶理由通知(同年同月6日発送)
平成30年 4月 3日 :手続補正、意見書の提出
同年 6月 5日 :拒絶査定(同年同月12日謄本送達)
同年 9月11日 :審判請求
令和 元年10月11日付け:拒絶理由通知(同年同月15日発送)
同年12月11日 :意見書の提出

第2 本願発明
平成30年4月3日の手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
青色発光する発光素子と、
前記発光素子に接合された第1主面と、前記第1主面の反対側の第2主面と、を有する透光性部材と、を備え、
前記透光性部材が、透光性の母材と、前記母材中に含有され前記発光素子の光を吸収して発光する波長変換物質と、を有し、
前記波長変換物質が、前記母材中において前記第1主面側に偏在しており、且つ、
赤色発光する第2蛍光体と、前記第2蛍光体より前記第1主面側に偏在した緑色乃至黄色発光する第1蛍光体と、を含み、
前記第2蛍光体が、マンガン賦活フッ化物蛍光体である発光装置。」

第3 拒絶の理由
令和元年10月11日付けで当審が通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)は、次のとおりのものである。

この出願の請求項1?14に係る発明は、引用例1?5に記載された事項を参酌して、引用文献6または7に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献
1.特開2015-198146号公報
2.国際公開第2014/122881号
3.米国特許出願公開第2016/0081142号明細書
4.特開2011-202148号公報
5.特表2013-533363号公報
6.特開2010-251621号公報
7.米国特許出願公開第2015/0364659号明細書

第4 刊行物の記載及び引用発明
1 引用例6:特開2010-251621号公報
(1)引用例6の記載
当審拒絶理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2010-251621号公報(以下「引用例6」という。)には、図とともに、以下の記載がある(下線は当審で付加。以下同様。)。
ア「【0001】
本発明は、LED(発光ダイオード)素子、LD(レーザダイオード)素子などの半導体発光素子と、波長変換手段である蛍光体とを組み合わせて構成した、多色発光する半導体発光装置に関するものであり、とりわけ、少なくとも2種類の蛍光体を用いることによって少なくとも2色の成分光を含む多色光を発生させる半導体発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
・・・(中略)・・・
【0004】
三原色光を含む白色光を発生させる半導体発光装置の設計上の制約のひとつとして、青色光や近紫外光で励起可能な高効率の赤色蛍光体の種類が比較的限られていることが挙げられる。
かかる状況の下、半導体発光装置に適した高効率赤色蛍光体として期待されるのが、Mn^(4+)で付活されたフルオロ錯体蛍光体である。この蛍光体は比較的古くから知られているが(特許文献2)、青色波長領域(430nm?480nm)に励起スペクトルのピークを有するという性質から、青色LED素子を励起光源とする半導体発光装置に好適な赤色蛍光体として再び注目され始めている(特許文献3)。
【先行技術文献】
・・・(中略)・・・
【0006】
ところで、フルオロ錯体蛍光体はフッ素を多く含む化学構造に起因して、蛍光体の中では最も低い屈折率を有する部類に属する。
・・・(中略)・・・
本明細書においては、このような1.40未満の屈折率を有するフルオロ錯体蛍光体を、「低屈折率フルオロ錯体蛍光体」と定義することにする。
【0007】
一方、フルオロ錯体蛍光体以外の蛍光体は、
・・・(中略)・・・
などを母体としている。そのため、その殆ど全てが1.60よりも高い屈折率を有しているといってよい(例えば、特許文献4、特許文献5)。プラスチックの屈折率(nD)がだいたい1.4?1.6の範囲内であることからすると、フルオロ錯体蛍光体以外の蛍光体の殆どは、封止材用の樹脂よりも高い屈折率を有しているといえる。
【0008】
上記のように、異常ともいえる低屈折率を有するフルオロ錯体系の低屈折率蛍光体と、それ以外の通常の蛍光体とを組み合わせて用いる場合、従来一般に行われているように、これらを混合して封止材中に分散させたのでは、高演色性かつ高輝度の半導体発光装置を得ることができない。
なぜなら、まず、屈折率が通常の蛍光体に近い封止材を用いた場合には、低屈折率蛍光体と封止材との屈折率差が大きくなるために、封止材側から低屈折率蛍光体の表面に入射する励起光が該表面で強く反射される。よって、低屈折率蛍光体を十分に励起させることができないため、各蛍光体から生じる光のバランスが取れた演色性の高い発光装置が得られない。
また、その反対に、屈折率が低屈折率蛍光体に近い封止材を用いた場合には、通常の蛍光体と封止材との屈折率差が大きくなるために、通常の蛍光体において生じる光が当該蛍光体粒子中に強くトラップされ、その結果、発光装置の演色性や輝度が低下する。また、低屈折率蛍光体を励起させるための光も、通常の蛍光体の粒子内部にトラップされるので、低屈折率蛍光体の励起も不十分となる。
【0009】
そこで、本発明は、低屈折率フルオロ錯体蛍光体と、それ以外の通常の蛍光体とを組み合わせて、高演色性かつ高輝度の半導体発光装置を構成するための方法を提供することを、目的とする。」

イ「【0010】
上記課題を解決する手段として、本発明の一実施形態に係る次の半導体発光装置を提供する:
低屈折率フルオロ錯体蛍光体である第1蛍光体を第1透明封止材で封止してなる第1発光組成物と、前記第1透明封止材よりも高い屈折率を有する第2蛍光体を、前記第1封止材よりも高屈折率かつ前記第2蛍光体と同等以下の屈折率を有する第2透明封止材で封止してなる第2発光組成物と、前記第1蛍光体および第2蛍光体を直接的または間接的に励起するための光源である半導体発光素子と、を少なくとも備える半導体発光装置。
【0011】
本発明に係る上記半導体発光装置においては、第1蛍光体を封止する第1透明封止材の屈折率と、第1蛍光体よりも高屈折率の第2蛍光体の屈折率と、その第2蛍光体を封止する第2透明封止材の屈折率との関係を、〔第1透明封止材の屈折率〕<〔第2透明封止材
の屈折率〕<〔第2蛍光体の屈折率〕とすることにより、第1発光組成物と第2発光組成物のそれぞれにおいて、蛍光体と透明封止材との屈折率差の低減を図っている。その結果、第1発光組成物においては、第1蛍光体の表面における励起光の反射が抑制されるので、第1蛍光体の励起不十分に起因する演色性低下の問題が改善される。また、第2発光組成物においては、第2蛍光体粒子中に光が強くトラップされる傾向が抑制されるので、発光装置の輝度や演色性が改善されることになる。
【0012】
・・・(中略)・・・
【0017】
本発明に係る上記半導体発光装置において、好ましくは、第2蛍光体から放出される光が第1発光組成物を通して発光装置外に取り出されるように、第1発光組成物および第2発光組成物を配置することができる。そうすることによって、第2蛍光体が配置された部位から外部に向かって、光の伝播経路を構成する封止材の屈折率が段階的に低くなる屈折率傾斜構造が形成されるために、第2蛍光体から放出される光の外部取出し効率が高くなる。
より好ましくは、第1発光組成物と第2発光組成物との間に、第1透明封止材と第2透明封止材の中間の屈折率を有する透明材料からなる光伝播層を介在させると、この効果が更に増強される。」

ウ「【0019】
(実施形態1)
図1に、本発明の実施形態1に係る半導体発光装置の断面を模式的に示す。この図に示す半導体発光装置10は、パッケージ11に設けられた凹部の底面上に固定された青色LED素子12と、その上に空間13を介して配置された、緑色発光組成物からなる緑色発光層14と、その上に積層された、赤色発光組成物からなる赤色発光層15とを備えている。
【0020】
・・・(中略)・・・
【0021】
空間13は空洞とすることもできるが、その一部(例えば、青色LED素子12を取り囲む部分)を透光性の充填材で充填してもよく、好ましくは、その全部を透光性の充填材で充填する。充填材の材料には、蛍光体の封止材(後述する)と同じものを用いることができる。
【0022】
緑色発光層14は、緑色蛍光体の粉末を封止材中に分散させてなる緑色発光組成物からなる層状構造体である。緑色発光層14の形成は、別途工程で緑色発光組成物を膜状に成形して硬化させたものを、パッケージ11の凹部内に固定する方法で行ってもよいし、あるいは、パッケージ11の凹部内に未硬化の緑色発光組成物を注ぎ込んだ後、これを硬化させる方法で行ってもよい。
・・・(中略)・・・
【0024】
緑色発光層14において緑色蛍光体を封止する封止材には、赤色発光層15に用いる赤色蛍光体用の封止材よりも高屈折率の透明材料を用いる。
・・・(中略)・・・
【0025】
赤色発光層15は、赤色蛍光体の粉末を封止材中に分散させてなる赤色発光組成物からなる層状構造体である。赤色発光層15の形成は、別途工程で赤色発光組成物を膜状に成形して硬化させたものを、パッケージ11の凹部内に固定する方法で行うことができる。この場合、その別途工程にて緑色発光層14と赤色発光層15とを積層させたものを予め形成することもできる。他の実施形態では、パッケージ11の凹部内に未硬化の赤色発光組成物を注ぎ込んだ後、これを硬化させて赤色発光層15を形成することもできる。
【0026】
赤色発光層15に分散させる赤色蛍光体は、Mnで付活された低屈折率フルオロ錯体蛍光体であり、例えば、K_(2)SiF_(6):Mnである。K_(2)SiF_(6):Mnにおいて、Kの一部または全部は、Li、Na、NH4から選ばれる一種以上で置換されていてもよい。付活元素はMn(マンガン)が100%であることが望ましいが、付活元素の全量に対し10モル%未満の範囲でTi、Zr、Ge、Sn、Al、Ga、B、In、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Nb、Mo、Ru、Ag、Zn、Mgなどを含んでいてもよい。付活元素は、母体結晶中でSiが占めるべきサイトの0.5%?10%を占めていることが望ましい。また、Siサイトの10%以下が付活元素以外の元素で置換されていてもよい。また、母体結晶に、格子間位置を占める金属元素を添加することもできる。
・・・(中略)・・・
【0028】
赤色発光層15において赤色蛍光体を封止する封止材は、緑色発光層14で用いられる封止材より低屈折率のものであればよいが、好ましくは、1.41以下の屈折率を有するものを用いる。具体例として、東レ・ダウコーニング株式会社製のシリコーン樹脂(製品名:JCR 6101 UP、屈折率:1.41)が挙げられる。(後略)
【0029】
・・・(中略)・・・
【0031】
緑色発光層14と赤色発光層15の積層の順序は限定されるものではないが、半導体発光装置10のように、青色LED素子12側に緑色発光層14を配置すると、緑色発光層14で生じる緑色光が赤色発光層15を通して外部に取り出される構成となるため、この緑色光の外部取出し効率が良好なものとなる。なぜなら、この緑色光が外部に出るまでの伝播経路は、緑色発光層14および赤色発光層15にそれぞれ含まれる封止材により構成されるが、前者に含まれる封止材の屈折率が後者に含まれる封止材の屈折率よりも高いからである。詳しく言えば、緑色光の発生部位から外部に向かって、この光が通過する媒質の屈折率が段階的に低くなる屈折率傾斜構造が形成されているからである。
半導体発光装置10においては、緑色光だけではなく、青色LED素子12から放出され、いずれの層でも吸収されずに発光装置外に取り出される青色光についても、同様の理由で外部取出し効率が良好なものとなる。


エ 図1は以下のものである。


オ ここで、前記ウにおける、「赤色発光層15において赤色蛍光体を封止する封止材」が、「緑色発光層14において緑色蛍光体を封止する封止材」と同様に、透明材料であることは明らかである。

(2)引用発明6
以上から、引用例6には次の発明(以下「引用発明6」という。)が記載されているものと認められる。
「半導体発光装置10であって、
パッケージ11に設けられた凹部の底面上に固定された青色LED素子12と、その上に空間13を介して配置された、緑色発光組成物からなる緑色発光層14と、その上に積層された、赤色発光組成物からなる赤色発光層15とを備えており、
空間13は、その全部を透光性の充填材で充填され、
緑色発光層14は、緑色蛍光体の粉末を封止材中に分散させてなる緑色発光組成物からなる層状構造体であって、緑色発光層14において緑色蛍光体を封止する封止材には、赤色発光層15に用いる赤色蛍光体用の封止材よりも高屈折率の透明材料が用いられ、
赤色発光層15は、赤色蛍光体の粉末を封止材中に分散させてなる赤色発光組成物からなる層状構造体であって、赤色発光層15に分散させる赤色蛍光体は、Mnで付活された低屈折率フルオロ錯体蛍光体であり、例えば、K_(2)SiF_(6):Mnであり、赤色発光層15において赤色蛍光体を封止する封止材は、緑色発光層14で用いられる封止材より低屈折率の透明材料であればよく、
青色LED素子12側に緑色発光層14を配置することで、緑色発光層14で生じる緑色光が赤色発光層15を通して外部に取り出される構成となるため、この緑色光の外部取出し効率が良好なものである、
半導体発光装置10。」

2 引用例7:米国特許出願公開第2015/0364659号明細書
(1)引用例7の記載
当審拒絶理由に引用され、本願の出願前に外国において頒布された刊行物である、米国特許出願公開第2015/0364659号明細書(以下「引用例7」という。)には、図とともに、以下の記載がある(日本語訳は引用例7のファミリー文献である特表2017-520917号公報を参考に当審で作成した。以下同様。)。

ア「[0001] Red-emitting phosphors based on complex fluoride materials activated by Mn^(4+)、 such as those described in U.S. Pat. No. 7、358、542、 U.S. Pat. No. 7、497、973、 and U.S. Pat. No. 7、648、649、 can be utilized in combination with yellow/green emitting phosphors such as YAG:Ce or other garnet compositions to achieve warm white light (CCTs<5000 K on the blackbody locus、 color rendering index (CRI)>80) from a blue LED、 equivalent to that produced by current fluorescent、 incandescent and halogen lamps. These materials absorb blue light strongly and efficiently emit between about 610-635 nm with little deep red/NIR emission. Therefore、 luminous efficacy is maximized compared to red phosphors that have significant emission in the deeper red where eye sensitivity is poor. Quantum efficiency can exceed 85% under blue (440-460 nm) excitation.

[0002] While the efficacy and CRI of lighting systems using Mn4+ doped fluoride hosts can be quite high、 one potential limitation is their susceptibility to degradation under use conditions. It is possible to reduce this degradation using post-synthesis processing steps、 as described in U.S. Pat. No. 8、252、613. However、 development of alternative methods for improving stability of the materials is desirable.

[0003] Briefly、 in one aspect、 the present invention relates to a process for fabricating a LED lighting apparatus including disposing a composite coating on a surface of a LED chip. The composite coating includes first composite layer having a manganese doped phosphor of formula I and a first binder、 and a second composite layer having a second phosphor composition and a second binder. The first binder、 the second binder or both comprise a poly(meth)acrylate.
Ax[MFy]:Mn^(4+) (I)

[0004] Wherein

[0005] A is Li、 Na、 K、 Rb、 Cs、 or a combination thereof;

[0006] M is Si、 Ge、 Sn、 Ti、 Zr、 Al、 Ga、 In、 Sc、 Hf、 Y、 La、 Nb、 Ta、 Bi、 Gd、 or a combination thereof;

[0007] x is the absolute value of the charge of the [MFy] ion;

[0008] y is 5、 6 or 7.

[0009] In another aspect、 a LED lighting apparatus according to the present invention includes a composite coating disposed on a LED chip. The composite coating includes first composite layer having a manganese doped phosphor of formula I and a first binder、 and a second composite layer having a second phosphor composition and a second binder. The first binder、 the second binder or both comprise a poly(meth)acrylate.」

(日本語訳:
【0001】
Mn^(4+)で賦活した錯フッ化物材料に基づく赤色発光蛍光体(例えば、米国特許第7358542号明細書、米国特許第7497973号明細書及び米国特許第7648649号明細書に記載のもの)を、黄色/緑色発光蛍光体(例えば、YAG:Ce又は他のガーネット組成物)と組合せて使用することにより、現在の蛍光灯、白熱電球及びハロゲンランプによってつくられるものと同等の温白色光(黒体軌跡においてCCT<5000K、演色評価数(CRI)>80)を、青色LEDから実現することが可能である。これらの材料は青色光を強く吸収するとともに、約610?635nmにおいて効率的に発光し、深紅ないし近赤外線(NIR)をほとんど放射しない。したがって、視覚によって知覚されにくい深紅寄りの赤色を多く放射する赤色蛍光体に比べ、視感度効率が最大化される。量子効率は青色光(440?460nm)励起下で85%を超えることが可能である。
【0002】
Mn^(4+)ドープフッ化物ホスト材料を用いた照明システムは効率及びCRIをかなり高くできるが、ひとつの限界は、使用条件下において劣化しやすいことである。この劣化は、米国特許第8252613号明細書に記載されるような合成後の処理工程を用いて低減することが可能である。しかし、材料の安定性を向上させる代替的な方法の開発が望まれている。
【0003】
簡潔に言えば、一態様では、本発明はLEDチップの表面に複合皮膜を堆積する工程を含む、LED照明装置の製造方法に関する。複合皮膜は、式Iのマンガンドープ蛍光体と第1のバインダとを有する第1の複合層と、第2の蛍光体組成物と第2のバインダとを有する第2の複合層とを含む。第1のバインダと第2のバインダの一方又は両方は、ポリ(メタ)アクリレートを含む。
Ax[MFy]:Mn^(4+) (I)
【0004】
式中、
【0005】
AはLi、Na、K、Rb、Cs又はそれらの組合せであり、
【0006】
MはSi、Ge、Sn、Ti、Zr、Al、Ga、In、Sc、Hf、Y、La、Nb、Ta、Bi、Gd又はそれらの組合せであり、
【0007】
xは[MFy]イオンの電荷の絶対値であり、
【0008】
yは5、6又は7である。
【0009】
別の態様では、本発明に係るLED照明装置は、LEDチップ上に設けられた複合皮膜を含む。複合皮膜は、式Iのマンガンドープ蛍光体と第1のバインダとを有する第1の複合層と、第2の蛍光体組成物と第2のバインダとを有する第2の複合層とを含む。第1のバインダと第2のバインダの一方又は両方は、ポリ(メタ)アクリレートを含む。)

イ「[0019]A cross sectional view of a lighting apparatus or light emitting assembly or lamp 10 according to one embodiment of the present invention is shown in FIG. 1 . Lighting apparatus 10 includes a semiconductor radiation source、 shown as light emitting diode (LED) chip 12 、 and leads 14 electrically attached to the LED chip. The leads 14 may be thin wires supported by a thicker lead frame(s) 16 or the leads may be self-supported electrodes and the lead frame may be omitted. The leads 14 provide current to the LED chip 12 and thus cause it to emit radiation.
[0020]The lamp may include any semiconductor blue or UV light source that is capable of producing white light when its emitted radiation is directed onto the phosphor. In one embodiment、 the semiconductor light source is a blue emitting LED doped with various impurities. In one embodiment、 the LED may contain at least one semiconductor layer comprising GaN、 ZnSe、 or SiC. In particular、 the semiconductor light source may be a blue emitting LED semiconductor diode based on a nitride compound semiconductor of formula In_(i)Ga_(j)Al_(k)N (where 0≦i; 0≦j; 0≦k; and i+j+k=1) having an emission wavelength greater than about 250 nm and less than about 550 nm. More particularly、 the LED chip 12 ( FIG. 1 ) may be a near-UV or blue emitting LED having a peak emission wavelength from about 400 to about 500 nm. Such LED semiconductors are known in the art. The radiation source is described herein as a LED for convenience. However、 as used herein、 the term is meant to encompass all semiconductor radiation sources including、 e.g.、 semiconductor laser diodes. Further、 although the general discussion of the exemplary structures of the invention discussed herein is directed toward inorganic LED based light sources、 it should be understood that the LED chip may be replaced by another radiation source unless otherwise noted and that any reference to semiconductor、 semiconductor LED、 or LED chip is merely representative of any appropriate radiation source、 including、 but not limited to、 organic light emitting diodes.

[0021]In lighting apparatus 10 、 a composite coating 22 is disposed on a surface of LED chip 12 . The composite coating 22 includes a first composite layer and a second composite layer、 each composite layer having at least one phosphor composition. In one instance、 the phosphor compositions are radiationally coupled to the LED chip 12 . Radiationally coupled means that the elements are associated with each other so that the radiation from one is transmitted to the other. For example、 the composite coating 22 is disposed on the LED chip 12 such as a radiation from LED chip 12 is transmitted to the phosphors、 and the phosphors emit radiation of different wavelengths.

[0022]In a particular embodiment、 the LED chip 12 is a blue LED、 and the first composite layer includes the red line emitting phosphor of formula I and the second composite layer includes a yellow-green phosphor such as a cerium-doped yttrium aluminum garnet、 Ce:YAG. The blue light emitted by the LED chip 12 mixes with the red and yellow-green light emitted respectively by the phosphors of the first composite layer and the second composite layer、 and the resulting emission (indicated by arrow 24 ) appears as white light.

[0023]LED chip 12 may be enclosed by an encapsulant material 20 . The encapsulant material 20 may be a low temperature glass、 or a thermoplastic or thermoset polymer or resin as is known in the art、 for example、 a silicone or epoxy resin. LED chip 12 and encapsulant material 20 may be encapsulated within a shell 18 . Both the shell 18 and the encapsulant 20 should be transparent to allow white light 24 to be transmitted through those elements. In some embodiments、 the encapsulant material may form the shell 18 . In addition、 scattering particles may be embedded in the encapsulant material. The scattering particles may be、 for example、 alumina or titania. The scattering particles effectively scatter the directional light emitted from the LED chip、 preferably with a negligible amount of absorption.

[0024]In an alternate embodiment、 the lamp 10 may only include an encapsulant material without an outer shell 18 . The LED chip 1 may be supported、 for example、 by the lead frame 16 、 by the self-supporting electrodes、 the bottom of shell 18 or by a pedestal (not shown) mounted to shell 18 or to the lead frame.

[0025]The manganese (Mn^(4+))-doped phosphor of formula I is a red line emitting manganese (Mn^(4+))-doped complex fluoride phosphor. In the context of the present invention、 the term "complex fluoride material or phosphor"、 means a coordination compound、 containing at least one coordination center、 surrounded by fluoride ions acting as ligands、 and charge-compensated by counter ions as necessary. In one example、 K_(2)SiF_(6):Mn^(4+)、 the coordination center is Si and the counterion is K. Complex fluorides are occasionally written down as a combination of simple、 binary fluorides but such a representation does not indicate the coordination number for the ligands around the coordination center. The square brackets (occasionally omitted for simplicity) indicate that the complex ion they encompass is a new chemical species、 different from the simple fluoride ion. The activator ion (Mn^(4+)) also acts as a coordination center、 substituting part of the centers of the host lattice、 for example、 Si. The host lattice (including the counter ions) may further modify the excitation and emission properties of the activator ion.」

(日本語訳:
【0019】
本発明の一実施形態に係る照明装置又は発光アセンブリ又はランプ10の断面図を図1に示す。照明装置10は、発光ダイオード(LED)チップ12として示されている半導体放射源と、LEDチップ12に電気的に取り付けられたリード線14とを備えている。リード線14は、(1つ以上の)太いリードフレーム16によって支持される細い電線でもいいし、自己支持型の電極にしてリードフレームを省略してもよい。リード線14はLEDチップ12に電流を供給してLEDチップ12を発光させる。
【0020】
ランプ10は、発せられた放射が蛍光体に向けられたときに白色光を生成できる任意の青色もしくはUV半導体光源を含みうる。一実施形態では、半導体光源はさまざまな不純物をドープした青色発光LEDである。一実施形態では、LEDは、GaN、ZnSe又はSiCを含有する1以上の半導体層を含みうる。特に、半導体光源は、式In_(i)Ga_(j)Al_(k)N(0≦i;0≦j;0≦k、かつi+j+k=1である)の窒化物化合物半導体をベースとし、約250nm超かつ約550nm未満の発光波長を有する、青色発光LED半導体ダイオードでありうる。さらに具体的には、LEDチップ12(図1)は、約400?約500nmのピーク発光波長を有する近UVもしくは青色発光LEDでありうる。そのようなLED半導体は当該技術分野において知られている。本明細書において、放射源は便宜上、LEDとして説明する。しかし、本明細書において、この語は例えば半導体レーザダイオードを含むあらゆる半導体放射源を包含するものとする。また、本明細書において論じる本発明の例示的な構造に関する概論は、無機LEDをベースとする光源を対象としているが、別段の記載がないかぎりLEDチップは別の放射源によって置換されうること、並びに半導体、半導体LED又はLEDチップに対するあらゆる言及は、任意の適切な放射源(有機発光ダイオードを含むが、これには限定されない)を代表しているにすぎないことを理解するべきである。
【0021】
照明装置10において、LEDチップ12の表面に複合皮膜22が設けられている。複合皮膜22は第1の複合層と第2の複合層とを備え、各複合層は少なくとも1種類の蛍光体組成物を有する。一例において、蛍光体組成物はLEDチップ12に放射結合される。「放射結合される」とは、片方からの放射が他方に伝達されるように要素どうしが互いに関連づけられていることを意味する。例えば、複合皮膜22は、LEDチップ12からの放射が蛍光体に伝達されるように、かつそれらの蛍光体が波長の異なる放射を発するように、LEDチップ12上に設けられる。
【0022】
ある特定の実施形態では、LEDチップ12は青色LEDであり、第1の複合層は赤線を発する式Iの蛍光体を含有し、第2の複合層は黄緑色蛍光体(例えば、セリウムドープイットリウムアルミニウムガーネット、Ce:YAG)を含有する。LEDチップ12によって発せられた青色光は、第1の複合層及び第2の複合層の蛍光体によってそれぞれ発せられた赤色光及び黄緑色の光と混合され、得られる放射光(矢印24で示す)は白色光に見える。
【0023】
LEDチップ12は封止材20によって包囲されうる。封止材20は、当該技術分野で知られている低温ガラス又は熱可塑性もしくは熱硬化性のポリマー又は樹脂(例えば、シリコーン又はエポキシ樹脂)でありうる。LEDチップ12及び封止材20はシェル18内に封止されうる。シェル18及び封止材20は、白色光24がこれらの要素を透過できるよう、ともに透明とするべきである。いくつかの実施形態では、封止材20はシェル18を形成しうる。また、封止材には散乱用粒子を埋め込んでもよい。散乱用粒子は、例えば、アルミナ又はチタニアでありうる。散乱用粒子はLEDチップから発せられた指向性の光を、好ましくは無視できる吸収量で効果的に散乱する。
【0024】
代替的な実施形態では、ランプ10は外側のシェル18を含まずに封止材20のみを含みうる。LEDチップ12は、例えば、リードフレーム16によって、自己支持型の電極によって、シェル18の底面によって又はシェル18もしくはリードフレーム16に装架される台座(図示せず)によって支持されうる。
【0025】
マンガン(Mn^(4+))ドープ式Iの蛍光体は、赤線を発するマンガン(Mn^(4+))ドープ錯フッ化物蛍光体である。本発明の文脈において、「錯フッ化物材料又は蛍光体」の語は、1以上の配位中心を含み、それが配位子として働くフッ化物イオンに包囲され、かつ必要に応じて対イオンによって電荷補償される配位化合物を意味する。一例として、K_(2)SiF_(6):Mn^(4+)は配位中心がSi、対イオンがKである。錯フッ化物は単純な二元フッ化物の組合せとして書かれることもあるが、かかる表現は配位中心を取り囲む配位子の配位数を示さない。角括弧(簡単のために省略されることもある)は、括弧内の錯イオンが上記単純なフッ化物イオンとは別の新たな化学種であることを示す。賦活剤イオン(Mn4+)も配位中心として作用し、ホスト格子の中心(例えば、Si)の一部と置き換わる。ホスト格子(対イオンを含む)は、さらに賦活剤イオンの励起及び発光特性を変更しうる。)

ウ「[0038]FIG. 2 is a cross section view of a composite coating 22 (also referred to as "laminate") showing that composite coating 22 is composed of at least two layer; a first composite layer 34 and the second composite layer 36 . The first composite layer 34 includes a manganese doped phosphor of formula I and a first binder. The second composite layer 36 includes a second phosphor (an additional phosphor) and a second binder. The second phosphor is a phosphor composition that emits a radiation which produces white light in combination with the emissions of the first composite layer 34 and the LED chip 12 ( FIG. 1 )、 which are described in detail below.

[0039]In one embodiment、 a phosphor composition is interspersed in a binder material within a composite layer. The phosphor composition may be mixed with a binder material (or a binder) to form a composite phosphor material、 which can be subsequently pressed to form a composite layer or film. The composite phosphor material may include the phosphor composition in the form of powder、 and the binder material as a matrix. The matrix or the binder material may be an encapsulant material. Suitable examples of the binder materials may be a low temperature glass、 or a thermoplastic or thermoset polymer or a resin as is known in the art、 for example、 a silicone or epoxy resin.

[0040]In one embodiment、 the phosphor of formula I is mixed with a first binder and the mixture is heated and pressed to form the first composite layer 34 . In one embodiment、 the second phosphor is mixed with a second binder; and then heated and pressed to form the second composite layer 36 . Both the first binder and the second binder should be transparent to the light emitted from the LED and the phosphors.

(後略)」
(日本語訳:
【0038】
図2は複合皮膜22(「積層体」ともいう)の断面図であり、複合皮膜22が2以上の層(すなわち、第1の複合層34及び第2の複合層36)で構成されることを示している。第1の複合層34は、式Iのマンガンドープ蛍光体と、第1のバインダとを含む。第2の複合層36は、第2の蛍光体(追加的な蛍光体)と第2のバインダとを含む。第2の蛍光体は放射を発する蛍光体組成物であって、その放射は、第1の複合層34及びLEDチップ12(図1)(詳細は後述する)の放射光と組み合わされて白色光を生成する。
【0039】
一実施形態では、蛍光体組成物は複合層内のバインダ材料中に散在する。蛍光体組成物はバインダ材料(又はバインダ)と混合されて複合蛍光体材料を形成しうる。これを後にプレスすることによって複合層又はフィルムを形成することができる。複合蛍光体材料は、粉末形態の蛍光体組成物とマトリックスとしてのバインダ材料とを含みうる。マトリックスないしバインダ材料は封止材でありうる。バインダ材料の好適な例として、当該技術分野で知られている低温ガラス又は熱可塑性もしくは熱硬化性のポリマー又は樹脂(例えば、シリコーン又はエポキシ樹脂)が挙げられうる。
【0040】
一実施形態では、式Iの蛍光体を第1のバインダと混合し、加熱及びプレスして第1の複合層34を形成する。一実施形態では、第2の蛍光体を第2のバインダと混合した後、加熱及びプレスして第2の複合層36を形成する。第1のバインダ及び第2のバインダはともに、LED及び蛍光体から発せられる光に対して透明とするべきである。)

エ「[0048]In addition、 the light emission can further be tuned by controlling the location (closer or farther from the LED chip 12 ) of the first phosphor and the second phosphor. FIGS. 3A and 3B show cross sectional views through LED chip 12 having the composite coating 22 disposed on the chip 12 、 depicting two configurations. In FIG. 3A 、 the composite coating 22 is disposed on the LED chip 12 such as to place the first composite layer 34 containing manganese doped phosphor of formula I、 close (adjacent) to the LED chip 12 . That is、 in this configuration、 the composite coating 22 is disposed on the LED chip 12 with the first composite layer 34 side disposed on the chip. In FIG. 3B 、 the composite coating 22 is disposed on the LED chip 12 with the second composite layer 36 disposed adjacent (down) to the LED chip 12 、 and the first composite layer 34 side (containing PFS) farther from the LED chip 12 . For example、 FIG. 4 and Table 1 show spectral characteristics of the two LED-based lamps、 one having PFS-containing layer side disposed on the chip (PFS down) and another having YAG-containing layer side disposed on the chip (YAG down). These exemplary lamps and corresponding results are described in detail below in the example section.」
(日本語訳:
【0048】
また、第1の蛍光体及び第2の蛍光体の位置(どちらがLEDチップ12により近いか又は遠いか)を制御することによっても発光の調節が行える。図3A及び図3Bは、LEDチップ12上に複合皮膜22が設けられたLEDチップ12の断面図であり、2つの構成を示している。図3Aでは、複合皮膜22は、式Iのマンガンドープ蛍光体を含有する第1の複合層34がLEDチップ12の近くに(隣接して)あるようにLEDチップ12上に設けられている。すなわち、この構成において、第1の複合層34の側がLEDチップ12上に配置されるように複合皮膜22がLEDチップ12上に設けられる。図3Bでは、複合皮膜22は、第2の複合層36がLEDチップ12に隣接して(下側に)配置され、第1の複合層34の側(PFSを含有)がLEDチップ12から離れて配置されるように、LEDチップ12上に設けられている。例えば、図4と表1は、LEDを利用する2つのランプのスペクトル特性を示す。2つのランプのうち、1つはPFS含有層の側がチップ上に配置され(PFSが下側)、もう1つはYAG含有層の側がチップ上に配置される(YAGが下側)。これらの例示的なランプ並びに対応する結果については下の実施例の箇所で詳細に説明する。)

オ ここで、図3は次のものである。


(2)引用発明7
以上から、引用例7には、図3Bに記載されたものに注目すると、次の発明(以下「引用発明7」という。)が記載されているものと認められる。
「照明装置10であって、
発光ダイオード(LED)チップ12と、LEDチップ12に電気的に取り付けられたリード線14とを備えており、LEDチップ12の表面に複合皮膜22が設けられており、
LEDチップ12は青色LEDであり、
複合皮膜22は第1の複合層と第2の複合層とを備え、
第1の複合層は、赤線を発する、Ax[MFy]:Mn^(4+) (I)
(式中、
AはLi、Na、K、Rb、Cs又はそれらの組合せであり、
MはSi、Ge、Sn、Ti、Zr、Al、Ga、In、Sc、Hf、Y、La、Nb、Ta、Bi、Gd又はそれらの組合せであり、
xは[MFy]イオンの電荷の絶対値であり、
yは5、6又は7である。)
の蛍光体を含有し、当該蛍光体は第1の複合層内の第1のバインダ材料中に散在し、
第2の複合層は、黄緑色蛍光体(例えば、セリウムドープイットリウムアルミニウムガーネット、Ce:YAG)を含有し、当該蛍光体は第2の複合層内の第2のバインダ材料中に散在し、
LEDチップ12によって発せられた青色光は、第1の複合層及び第2の複合層の蛍光体によってそれぞれ発せられた赤色光及び黄緑色の光と混合され、得られる放射光は白色光に見えるものであり、
バインダ材料は、低温ガラス又は熱可塑性もしくは熱硬化性のポリマー又は樹脂(例えば、シリコーン又はエポキシ樹脂)であり、
複合皮膜22は、第2の複合層がLEDチップ12に隣接して(下側に)配置され、第1の複合層34の側(式Iのマンガンドープ蛍光体を含有)がLEDチップ12から離れて配置されるように、LEDチップ12上に設けられているところ、
第1の蛍光体及び第2の蛍光体の位置(どちらがLEDチップ12により近いか又は遠いか)を制御することによって発光の調節が行えるものである、
照明装置10。」

3 引用例5:特表2013-533363号公報
(1)引用例5の記載
当審拒絶理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特表2013-533363号公報(以下「引用例5」という。)には、図とともに、以下の記載がある。
ア「【0007】
多数の白色光用途では、線発光スペクトルを有する蛍光体(例えばY_(2)O_(3):Eu^(3+))は、対象となる相関色温度(CCT)域(例えば3000?6500K)で、許容できる演色評価数(CRI)値(例えば80?86)で発光効率(LER)を最大にするので、赤色成分として好まれる。これらのEu^(3+)をドープした赤色蛍光灯蛍光体は、蛍光体による散乱のために、近紫外(370?420nm)光をほとんど吸収せず、許容されない光損失をもたらすので、紫外 LEDランプで正常に使用することはできない。現在、マンガン(Mn^(4+))をドープした複合フッ化物系のある等級の蛍光体は、300nm?520nmの波長範囲に主要放射ピークを有することにより、LEDランプで使用することができる。これらのフッ化物蛍光体は、通常、高い量子効率を有し、狭い赤色線放射は、暖かい白色光で使用する可能性をもたらす。暖かい白色LED(CCT<4500K)は、高いCRI(>80)を有し、高いルーメン当量も有する。
【0008】
しかし、これらのフッ化物蛍光体は湿気の影響を受けやすく、高温(約60℃超)高湿条件下で劣化する。蛍光体は、MnF_(6)^(-2)イオンが二酸化マンガン水和物に加水分解されることにより、茶色になることが多く、これが、これらの蛍光体の輝度の著しい劣化につながる。」

イ「【0021】
本発明の一実施形態では、湿気防止を有する蛍光体材料が提供される。マンガンドープフッ化物蛍光体の個別粒子は、湿気により誘発される劣化に対する耐性を向上させるために、マンガンを含まないフッ化物蛍光体材料の層によってカプセル封入される。言い換えれば、蛍光体材料は、コア-シェル構造を有することができる。マンガンドープフッ化物蛍光体のコア粒子(「コア蛍光体」とも呼ばれる)の実質的にすべてを、マンガンを含有しないフッ化物の薄い保護層(「シェル蛍光体」とも呼ばれる)で被覆する。有利には、この薄い保護層は、コア粒子と比較して、高温高湿条件下での劣化が著しく少なく、それによって大気中からの吸湿の影響からコア粒子を保護する。好ましい実施形態では、あらゆる粒子を保護シェル層で被覆する。しかし、少数の粒子が処理条件下で完全に被覆されない場合、蛍光体の総合特性は、ほとんどの用途で悪影響を受けない。」

ウ「【0031】
上記で説明したように、マンガンドープフッ化物蛍光体、典型的には、湿気の影響を非常に受けやすく、高温高湿条件下で劣化する。本発明は、有利には、マンガンドープフッ化物蛍光体をこのような環境で使用する潜在的な能力を提供する。その上、これらの蛍光体は、カプセル封入のために、LEDパッケージ内の任意の構成要素と不必要に反応する可能性が低い。マンガンドープフッ化物蛍光体のこれらのカプセル封入粒子は、LED照明における高いルーメン当量と高いCRI値の組合せも実現することができる。さらに、本質的に耐湿性であるので、フッ化物蛍光体は、前述のように、照明装置の構成要素の気密封止パッケージの必要性を最小にすることができる。」

(2)引用例5に記載された事項
上記(1)の各記載から、引用例5には、次の事項が記載されているといえる。
ア マンガン(Mn^(4+))をドープした複合フッ化物系の蛍光体は、湿気の影響を受けやすく、高温(約60℃超)高湿条件下で劣化すること。
イ 湿気により誘発される劣化に対する耐性を向上させるために、マンガンドープフッ化物蛍光体の個別粒子を、マンガンを含まないフッ化物蛍光体材料の層によってカプセル封入すること。

4 引用例3:米国特許出願公開第2016/0081142号明細書
(1)引用例3の記載
当審拒絶理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、米国特許出願公開第2016/0081142号明細書(以下「引用例3」という。)には、図とともに、以下の記載がある(日本語訳は引用例3のファミリー文献である特開2016-58614号公報を参考に当審で作成した。)。
ア 「[0005]A semiconductor light emitting element、 such as a light emitting diode (LED)、 is widely utilized as a highly efficient、 space-saving light source in various lighting apparatuses for lighting applications、 display applications、 etc.

[0006]A COB (chip on board) light emitting apparatus (a light emitting module) in which an LED mounted on a substrate is sealed with a phosphor-containing resin、 and a light emitting apparatus using a packaged SMD (surface mount device) light emitting element are also known (see Japanese Unexamined Patent Application Publication No. 2011-146640、 for example).

SUMMARY OF THE INVENTION

[0007]In such a light emitting apparatus as described above、 phosphor degrades in use、 ending up with shifting the chromaticity of the light emitting apparatus.」

(日本語訳:
【0005】
発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)等の半導体発光素子は、高効率で省スペースな光源として照明用途またはディスプレイ用途等の各種の照明装置に広く利用されている。
【0006】
また、基板に実装されたLEDを蛍光体含有樹脂で封止したCOB(Chip On Board)型の発光装置(発光モジュール)や、パッケージ化されたSMD(Surface Mount Device)型の発光素子を用いた発光装置が知られている(例えば、特開2011-146640号公報参照)。
発明の概要
【0007】
上記のような発光装置では、使用によって蛍光体が劣化し、色度がシフトしてしまうことが課題である。)

イ 「[0045]Light emitting apparatus 10 includes sealing member 13 having a three-layer structure. Sealing member 13 、 specifically、 includes first sealing layer 13 a、 second sealing layer 13 b、 and phosphor layer 13 c.
・・・(中略)・・・
[0048]First sealing layer 13 a seals bonding wires 17 、 in addition to LED chips 12 . In other words、 first sealing layer 13 a serves to protect LED chips 12 and bonding wires 17 from refuse、 moisture、 external force、 etc. First sealing layer 13 a serves to reduce effects of heat、 generated by LED chips 12 emitting light、 on phosphor layer 13 c.」

(日本語訳:
【0045】
発光装置10は、封止部材13が3層構造であることが特徴である。封止部材13は、具体的には、第一封止層13aと、第二封止層13bと、蛍光体層13cとを備える。
・・・(中略)・・・
【0048】
第一封止層13aは、LEDチップ12に加えて、ボンディングワイヤ17を封止している。つまり、第一封止層13aは、LEDチップ12及びボンディングワイヤ17を塵芥、水分、外力等から保護する機能を有する。また、第一封止層13aは、LEDチップ12が発光することにより生じる熱の、蛍光体層13cへの影響を低減する機能を有する。)

ウ ここで、図4は次のものである。


(2)引用例3に記載された事項
上記(1)の各記載から、引用例3には、次の事項が記載されているといえる。
ア LEDを蛍光体含有樹脂で封止した発光装置においては、使用によって蛍光体が劣化し、色度がシフトしてしまうことが課題であり、これに対して、LEDチップ12が発光することにより生じる熱の、蛍光体層13cへの影響を低減させること。

第5 対比・判断
1 引用発明6との対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明6とを対比する。
ア 引用発明6の「青色LED素子12」は、本願発明の「青色発光する発光素子」に相当する。

イ 引用発明6における、「青色LED素子12」「の上に空間13を介して配置された、緑色発光組成物からなる緑色発光層14と、その上に積層された、赤色発光組成物からなる赤色発光層15」は、それぞれ「層状構造体」であるから、これらを合わせたものが、「青色LED素子12」側の面(すなわち、本願発明の「第1主面」)とその反対側の面(すなわち、本願発明の「第2主面」)を有し、また、「緑色発光層14」及び「赤色発光層15」が、いずれも「透明材料」である「封止材」からなることから、透光性であることも明らかである。よって、引用発明6の「緑色発光組成物からなる緑色発光層14と、その上に積層された、赤色発光組成物からなる赤色発光層15」は、本願発明の「第1主面と、前記第1主面の反対側の第2主面と、を有する透光性部材」に相当する。さらに、引用発明6においては、「空間13は、その全部を透光性の充填材で充填され」ることから、「青色LED素子12」「の上に空間13を介して配置された、緑色発光組成物からなる緑色発光層14と、その上に積層された、赤色発光組成物からなる赤色発光層15」は、本願発明の「前記発光素子に接合された第1主面と、前記第1主面の反対側の第2主面と、を有する透光性部材」に相当する。

ウ 引用発明6の「緑色蛍光体」及び「赤色蛍光体」は、それぞれ、本願発明の「第1蛍光体」及び「第2蛍光体」に相当する。

エ 引用発明6においては、「緑色蛍光体」及び「赤色蛍光体」が、「青色LED素子12」の光を吸収して波長変換した光を発することは明らかであるから、引用発明6の、「緑色発光層14は、緑色蛍光体の粉末を封止材中に分散させてなる緑色発光組成物からな」り、「赤色発光層15は、赤色蛍光体の粉末を封止材中に分散させてなる赤色発光組成物からな」り、また各「封止材」が「透明材料」である構成は、本願発明の「前記透光性部材が、透光性の母材と、前記母材中に含有され前記発光素子の光を吸収して発光する波長変換物質と、を有」することに相当する。

オ 引用発明6は、「青色LED素子12」「の上に空間13を介して配置された、緑色発光組成物からなる緑色発光層14と、その上に積層された、赤色発光組成物からなる赤色発光層15とを備えて」いるから、赤色蛍光体より「青色LED素子12」側に、緑色蛍光体が偏在していることは明らかである。よって、引用発明6の当該構成は、本願発明の「赤色発光する第2蛍光体と、前記第2蛍光体より前記第1主面側に偏在した緑色乃至黄色発光する第1蛍光体と、を含」むことに相当する。

カ 引用発明6の「赤色発光層15に分散させる赤色蛍光体は、Mnで付活された低屈折率フルオロ錯体蛍光体であり、例えば、K_(2)SiF_(6):Mnであ」ることは、本願発明の「前記第2蛍光体が、マンガン賦活フッ化物蛍光体である」ことに相当する。

キ 引用発明6の「半導体発光装置10」は、本願発明の「発光装置」に相当する。

ク したがって、本願発明と引用発明6は、次の点で一致する。
「青色発光する発光素子と、
前記発光素子に接合された第1主面と、前記第1主面の反対側の第2主面と、を有する透光性部材と、を備え、
前記透光性部材が、透光性の母材と、前記母材中に含有され前記発光素子の光を吸収して発光する波長変換物質と、を有し、
赤色発光する第2蛍光体と、前記第2蛍光体より前記第1主面側に偏在した緑色乃至黄色発光する第1蛍光体と、を含み、
前記第2蛍光体が、マンガン賦活フッ化物蛍光体である発光装置。」

ケ 一方、両者は次の点で相違する。
≪相違点1≫
本願発明は「前記波長変換物質が、前記母材中において前記第1主面側に偏在して」いるとの構成を備えるのに対し、引用発明6は当該構成を備えない点。

(2)判断
上記相違点1について検討する。
ア 前記第4 3(2)アのとおり、引用例5には、マンガン(Mn^(4+))をドープした複合フッ化物系の蛍光体は、湿気の影響を受けやすく、高温(約60℃超)高湿条件下で劣化することが記載されており、当該記載事項に照らせば、引用発明6の「青色LED素子12と、その上に空間13を介して配置された、緑色発光組成物からなる緑色発光層14と、その上に積層された、赤色発光組成物からなる赤色発光層15」との構成においては、「赤色発光層15」が「青色LED素子12」とは反対側の外部環境に面することから、「赤色発光層15」に分散された「Mnで付活された低屈折率フルオロ錯体蛍光体であり、例えば、K_(2)SiF_(6):Mn」が、湿気の影響により劣化する恐れがあることは明らかである。

イ 一方、蛍光体層表面に樹脂層が配置されるような構成は、次の(ア)?(ウ)に示す引用例1、3及び4に記載されているように周知であり、当該構成により、蛍光体が外部の湿気から保護されることは、引用例1、3及び4の各記載からも明らかである。
よって、引用発明6において、マンガン賦活フッ化珪酸カリウム蛍光体の外部環境からの隔離のため、前記周知構成を採用して、相違点1にかかる構成を備えることは当業者が適宜になし得たことである。
したがって、本願発明は、引用例1、3?5に記載された事項を参酌して、引用発明6に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

(ア)引用例1:特開2015-198146号公報
当審拒絶理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2015-198146号公報には、図とともに、以下の記載がある。
「【0005】
このため近年では、第2の手法に代わる第3の手法として、蛍光体含有樹脂を樹脂シートで挟み込んだものや、蛍光体含有樹脂をシート形状に加工した蛍光体含有シートを用いて、青色LEDにより色変換する手法が注目を集めている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0006】
蛍光体は、酸素や水蒸気に対して脆弱なものもある。例えば、SrGa2S4:Eu、CaS:Eu、SrS:Eu等の硫化物蛍光体は、シャープな発光スペクトルを有するために広色域な色再現が可能な優れた蛍光体材料であり、(Ba、Sr)_(3)SiO_(5):Euは、高輝度な橙色発光蛍光体材料であるが、高温高湿環境下においては水蒸気により劣化し易い。
【0007】
これらの蛍光体を使用する場合は、水蒸気を遮蔽する為の何らかの手段が必要となる。白色LEDにおいて、これらの蛍光体を採用することは困難であるが、第3の手法の場合は、蛍光層を水蒸気バリア層で覆う等により対策をとることが可能である。例として、蛍光体含有樹脂上に珪素化合物等の保護層を設ける手法(特許文献3参照)や、蛍光体含有樹脂の表面に水蒸気バリア層を形成する手法(特許文献4、5参照)が提案されている。
【0008】
また、端部からの水分侵入防止策としては、図10に示すようなパウチ構造の蛍光体シート105が挙げられる。
この蛍光体シート105では、蛍光層123を第1の支持層101と第2の支持層102とで挟持し、さらに、第1の支持層101と第2の支持層102との外側を、それぞれ第1の水蒸気バリア層121と第2の水蒸気バリア層122とで挟持し、封止樹脂103で封止するものであり、層数が多く作製が容易ではない。
【0009】
また、図11に示すようなパウチ構造の蛍光体シート106もある。
この蛍光体シート106では、蛍光層123を第1の水蒸気バリア層121と第2の水蒸気バリア層122とで挟持し、第1の水蒸気バリア層121と第2の水蒸気バリア層122との外側に、第1、第2の封止層131、132との縁を、蛍光層123を挟持した第1、第2の水蒸気バリア層121、122の外側に位置させ、第1、第2の封止層131、132を、第1、第2の水蒸気バリア層121、122に貼付すると共に、第1、第2の水蒸気バリア層121、122の外側で、第1の封止層131と第2の封止層132とを貼付している。
【0010】
この蛍光体シート106では、第1の封止層131と第2の封止層132によって閉塞された空間内に蛍光層123と、蛍光層123を挟持した第1、第2の水蒸気バリア層121、122とを配置するものであり、作製が容易である。
【0011】
上記封止層としては、透明なアルミ蒸着テープが有力であり、他にシリカ蒸着されたPET(Polyethylene terephthalate)などの水蒸気透過率が1g/m^(2)/day(40℃/90%RH)以下のもの等が挙げられる。」

(イ)引用例3:米国特許出願公開第2016/0081142号明細書
前記第4 4 で示した引用例3には、さらに以下の記載がある。
「[0049]Next、 second sealing layer 13 b is described. Second sealing layer 13 b is disposed above first sealing layer 13 a. Second sealing layer 13 b comprises a translucent resin material and very little yellow phosphor 14 . Second sealing layer 13 b is free of filler 18 . Second sealing layer 13 b included in sealing member 13 is in contact with the atmosphere、 serving to reduce effects of moisture、 contained in the atmosphere、 on phosphor layer 13 c.
・・・(中略)・・・
[0053][Effects]

[0054]It is contemplated that the primary reasons for the degradation of yellow phosphor 14 as described above in connection with conventional technology are the heat generated by LED chips 12 emitting light、 and moisture in the atmosphere.

[0055]Here、 as described above、 phosphor layer 13 c in which yellow phosphor particles 14 are closely packed is disposed between first sealing layer 13 a and second sealing layer 13 b in light emitting apparatus 10 . In other words、 phosphor layer 13 c is disposed distant from LED chips 12 and the atmosphere. Thus、 in light emitting apparatus 10 、 first sealing layer 13 a reduces the effects of the heat、 generated by LED chips 12 emitting light、 on phosphor layer 13 c、 and second sealing layer 13 b reduces the effects of moisture in the atmosphere on phosphor layer 13 c.

[0056]In other words、 light emitting apparatus 10 suppresses degradation yellow phosphor 14 included in phosphor layer 13 c、 i.e.、 suppresses shifting of chromaticity of yellow phosphor 14 due to use (energization).」

(日本語訳:
次に、第二封止層13bについて説明する。第二封止層13bは、第一封止層13aの上方に設けられた封止層である。第二封止層13bは、透光性樹脂材料からなり、黄色蛍光体14は、ほとんど存在しない。また、第二封止層13bは、フィラー18を含有しない。第二封止層13bは、封止部材13のうち大気に接触する部分であり、大気に含まれる湿気の、蛍光体層13cへの影響を低減する機能を有する。
・・・(中略)・・・
[効果等]
背景技術で述べた黄色蛍光体14の劣化は、LEDチップ12が発光することにより生じる熱、及び、大気中に含まれる湿気の2つが主要因であると考えられる。
ここで、発光装置10においては、上述のように、黄色蛍光体14が密集した蛍光体層13cが、第一封止層13aと第二封止層13bとに挟まれている。言い換えれば、蛍光体層13cは、LEDチップ12及び大気から離れたところに配置されている。よって、発光装置10においては、第一封止層13aによって、LEDチップ12が発光することにより生じる熱の蛍光体層13cへの影響を低減することができ、第二封止層13bによって大気に含まれる湿気の蛍光体層13cへの影響を低減することができる。
つまり、発光装置10においては、蛍光体層13cに含まれる黄色蛍光体14の劣化、すなわち、使用(通電)による色度のシフトが抑制される。)

(ウ)引用例4:特開2011-202148号公報
当審拒絶理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2011-202148号公報には、図とともに、以下の記載がある。
「【0054】
図2および図3に示すように、波長変換部材10Aは、光透過性部材13と、半導体微粒子蛍光体14とを主として備えている。半導体微粒子蛍光体14は、波長変換部材10Aの内部に導入された励起光100を吸収してこれを波長変換することで異なる波長の光を発光するものであり、主として半導体微結晶粒子からなる部材である。当該半導体微粒子蛍光体14は、波長変換部材10Aの内部において分散して位置している。一方、光透過性部材13は、半導体微粒子蛍光体14を分散配置させた状態で封止するためのものであり、波長変換部材10Aに導入された励起光100および半導体微粒子蛍光体14から発せされる光を吸収しない部材からなる。
【0055】
より詳細には、光透過性部材13としては、好ましくは、水分や酸素を透過しない材料にて構成されていることが好ましい。このように構成すれば、光透過性部材13によって波長変換部材10Aの内部への水分や酸素の進入が防止できるため、半導体微粒子蛍光体14が水分や酸素により影響を受けることを緩和することができ、半導体微粒子蛍光体14の耐久性を向上させることができる。」

2 引用発明7との対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明7とを対比する。
ア 引用発明7において、「LEDチップ12は青色LEDであ」るから、当該「LEDチップ12」は、本願発明の「青色発光する発光素子」に相当する。

イ 引用発明7においては、「LEDチップ12の表面に複合皮膜22が設けられ」ているところ、「複合皮膜22は第1の複合層と第2の複合層とを備え、」「第1の複合層は、赤線を発する、(・・・(中略)・・・)蛍光体を含有し、当該蛍光体は第1の複合層内の第1のバインダ材料中に散在し、」「第2の複合層は、黄緑色蛍光体(・・・(中略)・・・)を含有し、当該蛍光体は第2の複合層内の第2のバインダ材料中に散在し、」さらに「バインダ材料は、低温ガラス又は熱可塑性もしくは熱硬化性のポリマー又は樹脂(例えば、シリコーン又はエポキシ樹脂)であ」るところ、「第1のバインダ材料」および「第2のバインダ材料」のいずれもが、光取り出しのために透光性であることは明らかである。それゆえ、透光性のバインダ材料からなる「複合被膜22」は透光性であるといえ、また、LEDチップ12の表面に設けられた「複合被膜22」が、LEDチップ12に接合する面と、その反対側の面を備えることも明らかであるから、引用発明7における「LEDチップ12の表面に複合皮膜22」は、本願発明の「前記発光素子に接合された第1主面と、前記第1主面の反対側の第2主面と、を有する透光性部材」に相当する。

ウ 引用発明7の、「複合皮膜22は第1の複合層と第2の複合層とを備え、」「第1の複合層は、赤線を発する、(・・・(中略)・・・)蛍光体を含有し、当該蛍光体は第1の複合層内の第1のバインダ材料中に散在し、」「第2の複合層は、黄緑色蛍光体(・・・(中略)・・・)を含有し、当該蛍光体は第2の複合層内の第2のバインダ材料中に散在し」ている構成は、本願発明の「前記透光性部材が、透光性の母材と、前記母材中に含有され前記発光素子の光を吸収して発光する波長変換物質と、を有」することに相当する。

エ 引用発明7における、「式Iのマンガンドープ蛍光体」は「赤線を発する」蛍光体であるから、本願発明の「赤色発光する第1蛍光体」に相当する。また、引用発明7の「黄緑色蛍光体」は、本願発明の「緑色乃至黄色発光する第1蛍光体」に相当する。そして、引用発明7の「複合皮膜22は、第2の複合層がLEDチップ12に隣接して(下側に)配置され、第1の複合層34の側(式Iのマンガンドープ蛍光体を含有)がLEDチップ12から離れて配置されるように、LEDチップ12上に設けられている」構成は、本願発明の「赤色発光する第2蛍光体と、前記第2蛍光体より前記第1主面側に偏在した緑色乃至黄色発光する第1蛍光体」との構成に相当する。

オ 引用発明7の、
「赤線を発する、Ax[MFy]:Mn^(4+) (I)
(式中、
AはLi、Na、K、Rb、Cs又はそれらの組合せであり、
MはSi、Ge、Sn、Ti、Zr、Al、Ga、In、Sc、Hf、Y、La、Nb、Ta、Bi、Gd又はそれらの組合せであり、
xは[MFy]イオンの電荷の絶対値であり、
yは5、6又は7である。)
の蛍光体」は、
本願発明の「マンガン賦活フッ化物蛍光体」に相当する。

カ 引用発明7の「照明装置10」は、本願発明の「発光装置」に相当する。

キ したがって、本願発明と引用発明7は、次の点で一致する。
「青色発光する発光素子と、
前記発光素子に接合された第1主面と、前記第1主面の反対側の第2主面と、を有する透光性部材と、を備え、
前記透光性部材が、透光性の母材と、前記母材中に含有され前記発光素子の光を吸収して発光する波長変換物質と、を有し、
赤色発光する第2蛍光体と、前記第2蛍光体より前記第1主面側に偏在した緑色乃至黄色発光する第1蛍光体と、を含み、
前記第2蛍光体が、マンガン賦活フッ化物蛍光体である発光装置。」

ク 一方、両者は次の点で相違する。
≪相違点2≫
本願発明は「前記波長変換物質が、前記母材中において前記第1主面側に偏在して」いるとの構成を備えるのに対し、引用発明7は当該構成を備えない点。

(2)判断
上記相違点2について検討する。
ア 相違点2は、相違点1と同じく、「前記波長変換物質が、前記母材中において前記第1主面側に偏在して」いるとの構成を備えないということである。

イ そして、引用発明7においては、「複合皮膜22は、第2の複合層がLEDチップ12に隣接して(下側に)配置され、第1の複合層34の側(式Iのマンガンドープ蛍光体を含有)がLEDチップ12から離れて配置されるように、LEDチップ12上に設けられている」から、引用発明6と同じく、第1の複合層34が外部環境に面することになる。
それゆえ、引用発明6と同様に、第1の複合層34に含まれる式Iのマンガンドープ蛍光体が、湿気の影響により劣化する恐れがあることは明らかである。

ウ したがって、前記1(2)イに記載した理由と同様の理由により、引用発明7において、「式Iのマンガンドープ蛍光体」の外部環境からの隔離のため、蛍光体層表面に樹脂層が配置されるような前記周知の構成を採用して、相違点2にかかる構成を備えることは当業者が適宜になし得たことである。
オ よって、本願発明は、引用例1、3?5に記載された事項を参酌して、引用発明7に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

3 請求人の主張について
ア 請求人は、令和元年12月11日に提出した意見書において、概ね以下の(ア)?(ウ)を主張する。
(ア)本願明細書においては、マンガン賦活フッ化物蛍光体への過度の光照射を抑制することが、マンガン賦活フッ化物蛍光体の劣化を抑制する、と説明しているが、この点については、いずれの引用例にも示唆がない。
(イ)第2蛍光体(マンガン賦活フッ化物蛍光体)を第1蛍光体(緑色乃至黄色蛍光体)よりも発光素子の第1主面側に偏在させた参考例1は、第1蛍光体と第2蛍光体とを均一に分散させた比較例1よりも、大きな色度変化を示しており、単に実施例1と参考例1とを比較した場合、実施例1が優れているというだけではなく、参考例1は、比較例1よりも悪くなっている。
(ウ)実施例1も参考例1も、母材からなる第3シートが最も外側に位置しているため、引用例5の教示によれば、これら2つの試料にこのような効果の差異が生じることは予期できず、この予期せぬような特性の劣化を招き得る第1蛍光体および第2蛍光体の配置を除外することを、引用例1-7は教示していないから、マンガン賦活フッ化物蛍光体である第2蛍光体より緑色乃至黄色発光する第1蛍光体を、発光素子に接合された第1主面側に偏在させる請求項1に係る発明は、引用例1-7に対して進歩性を有している。


(ア)しかし、前記前記1(2)及び前記2(2)のとおり、当業者は、各引用発明において、蛍光体の劣化を防ぐために、各相違点にかかる構成を備えることは容易になしえたものであり、ここで、前記蛍光体の劣化が防がれたことに伴い、色度の変化が抑えられることは当然に予測できることである。そして、当該色度の変化の抑制の程度は、上記アで主張される効果と変わるものではない。すなわち、引用発明6および引用発明7のいずれもが、本願発明の「前記波長変換物質が」「赤色発光する第2蛍光体と、前記第2蛍光体より前記第1主面側に偏在した緑色乃至黄色発光する第1蛍光体と、を含み」との構成に相当する構成を備えるからである。
(イ)さらに、上記ア(イ)の主張における、「参考例1は、比較例1よりも悪くなっている」ということは、本願明細書に記載されておらず、本願明細書の記載から明らかなことともいえない。
(ウ)よって、前記アの主張は採用できない。

ウ なお、以下の(ア)および(イ)の点からみても、前記アの主張は採用できない。
(ア)本願明細書の段落【0014】に記載された、赤色蛍光体であるK_(2)SiF_(6):Mnを、LEDに対して比較的離れた位置に配置することで、輝度飽和を抑制する技術は、次の刊行物Aに示すとおり、本願の出願時にすでに公知となっていた技術であり、格別なものとはいえない。
刊行物A:特開2012-199539号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2012-199539号公報には、図とともに、以下の記載がある。
「【0067】
<第1実施例>
(発光装置の全体構成)
図1は、本実施例に係る発光装置1の概略構成を示す斜視図であり、図2は発光装置1を模式的に示す平面図である。また、図3は図2中のIII-III線に沿う発光装置1の概略断面図であり、図4は発光装置1を後述の照明装置に適用した場合の電気回路構成を示す回路図である。
・・・(中略)・・・
【0150】
(第10変形例)
第10変形例としては、第1LEDチップ3及び第2LEDチップ4に近紫外LEDチップを用い、第1蛍光体14に帯域幅が広い赤色光を発する赤色蛍光体である第1の赤色蛍光体を用い、第2蛍光体16に緑色蛍光体及び青色蛍光体を混合したものを用い、共通蛍光体22に青色蛍光体及び帯域幅が狭い赤色光を発する赤色蛍光体である第2の赤色蛍光体を混合したものを用いる。
・・・(中略)・・・
【0152】
ここで、発する赤色光の帯域幅が狭い第2の赤色蛍光体は、発する赤色光の帯域幅が広い第1の赤色蛍光体に比べて、一般に発光効率が高い。本実施例では、第1LEDチップ3及び第2LEDチップ4と共通蛍光部材21との間の距離は、第1蛍光部材12や第2蛍光部材13との間の距離よりも遠い。従って、第1LEDチップ3及び第2LEDチップ4によって発せられて、共通蛍光部材21に入射する光の密度は低下するので、第2の赤色蛍光体における輝度飽和の発生を良好に抑制することができる。よって、帯域幅が狭い第2の赤色蛍光体を用いない場合や、第2の赤色蛍光体を第1蛍光部材12や第2蛍光部材13の蛍光体として用いた場合に比べて、高い効率で、共通発光面21aから白色光を放射させることができる。
・・・(中略)・・・
【0155】
そして、( ・・・(中略)・・・ )また、「帯域幅が狭い赤色光」を発する赤色蛍光体は、例えば、(La,Y)_(2)O_(2)S:Eu、K_(2)SiF_(6):Mn、及び3.5MgO・0.5MgF_(2)・GeO_(2):Mn^(4+)である。」

(イ)引用発明6は、「青色LED素子12側に緑色発光層14を配置することで、緑色発光層14で生じる緑色光が赤色発光層15を通して外部に取り出される構成となるため、この緑色光の外部取出し効率が良好なものである」構成を備えるものであり、青色LED素子12側に赤色発光層15を配置する構成は、引用例6には記載されていない。すなわち、引用例6については、「青色LED素子12側に赤色発光層15を配置する」構成は除外されているといえるから、前記ア(ウ)の該当主張は当たらない。

4 小括
よって、本願発明は、引用例1、3?5に記載された事項を参酌して、引用発明6または引用発明7に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-02-06 
結審通知日 2020-02-12 
審決日 2020-02-26 
出願番号 特願2016-76811(P2016-76811)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小濱 健太  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 近藤 幸浩
山村 浩
発明の名称 発光装置  
代理人 奥田 誠司  

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