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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1361413
審判番号 不服2019-4568  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-05 
確定日 2020-04-09 
事件の表示 特願2017-101898「偏光板付き樹脂積層体及びそれを含む表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月 7日出願公開、特開2017-215582〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年5月23日(先の出願に基づく優先権主張 平成28年5月31日)の出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成30年4月20日付け :拒絶理由通知書
平成30年6月21日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年8月21日付け :拒絶理由通知書
平成30年10月26日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年12月28日付け :平成30年10月26日の手続補正につ
いての補正の却下の決定、拒絶査定(以
下「原査定」という。)
平成31年4月5日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成31年4月5日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正
(1) 本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、平成30年6月21日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「(メタ)アクリル樹脂及びフッ化ビニリデン樹脂を樹脂成分として含む中間層と、該中間層の両面に熱可塑性樹脂層と、両方の熱可塑性樹脂層の表面にハードコート層とを有する樹脂積層体(A)、該樹脂積層体(A)の一方のハードコート層側の表面に存在する透明粘着剤(B)、及び該透明粘着剤(B)を介して存在する偏光板(C)を有し、透明粘着剤(B)側に配置されるハードコート層の水接触角は95°以下であり、透明粘着剤(B)と反対側に配置されるハードコート層の水接触角は100°以上である、偏光板付き樹脂積層体。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、下線は補正箇所を示す。
「(メタ)アクリル樹脂及びフッ化ビニリデン樹脂を樹脂成分として含む中間層と、該中間層の両面に熱可塑性樹脂層と、両方の熱可塑性樹脂層の表面にハードコート層とを有する樹脂積層体(A)、該樹脂積層体(A)の一方のハードコート層側の表面に存在する透明粘着剤(B)、及び該透明粘着剤(B)に隣接して存在する偏光板(C)を有し、透明粘着剤(B)側に配置されるハードコート層の水接触角は95°以下であり、透明粘着剤(B)と反対側に配置されるハードコート層の水接触角は100°以上である、偏光板付き樹脂積層体。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された「透明粘着剤(B)」と「偏光板(C)」との関係について「該透明粘着剤(B)を介して存在する偏光板(C)」とされていた事項を「該透明粘着剤(B)に隣接して存在する偏光板(C)」とする事項に限定する補正である。本件補正は、その補正の内容からみて、特許法36条5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものである。そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と、本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は、同一である(【0001】及び【0005】)。そうしてみると、本件補正は、同法17条の2第5項2号に掲げる事項を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正後発明」という。)が、同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1) 本件補正後発明
本件補正後発明は、前記1(2)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された特開2013-244604号公報(以下「引用文献1」という。)は、先の出願前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。なお、引用文献1に付されていた下線は消去し、代わりに、引用発明の認定や判断等に活用した箇所に下線を付した。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチスクリーン方式のディスプレイ用に好適な透明シートに関する。更に、本発明は、上記透明シートを基材として使用した透明導電シート、並びに上記透明シート及び/又は該透明導電シートを備えたタッチスクリーンに関する。」

イ 「【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイをはじめとする各種のディスプレイ装置にはその目的に応じた透明なシートが使用されているが、これら透明なシートの使用例として、例えばタッチスクリーン用導電シート、表面保護シート(ウインドウ用シートとも言われる)などが挙げられる。最近は、その操作性のゆえに静電容量方式のタッチスクリーンを備えたディスプレイが増加しているが、その表面の透明シートとしては、ガラスシートが主に使用されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
ガラスは、表面が硬くて、傷つきにくいことと、その比誘電率が一般的なプラスチックに比べて高いため、静電容量方式のタッチスクリーンを備えたディスプレイの透明シートとして好適である。
【0004】
しかし、ガラスは、切削加工が難しく、割れたときにけがをしやすい、更に一般的なプラスチックに比べて重い、などの問題を抱えているため、プラスチックスシートによる代替が強く求められている。
【0005】
従来からの携帯電話では、ディスプレイ装置のウインドウは文字や画像を表示するためのものであり、操作は別に取り付けられたキーボタンを押すことにより行われていた。近年になり、タッチペンの先で画面上を押しつけることにより操作する方式、すなわち抵抗膜方式のタッチスクリーンが採用されるようになっている。そして、最近では、抵抗膜方式のタッチスクリーンよりも操作性に優れた静電容量方式のタッチスクリーンの使用が増加しつつある。
【0006】
静電容量方式のタッチスクリーンは、指でタッチしたときの微少な電気的変化、すなわち静電容量の変化を捉えて位置を検出する方式であり、指がセンサに直接触れることなく近づくだけで検出可能である。しかし、この方式のタッチスクリーンでは、前述のとおり入力表面にガラスシートのカバーが取り付けられることが多くなっている。
【0007】
このように、ディスプレイを構成する透明シートとしては、ガラスシート、特に強化ガラスシートが使用されることが多いが、切削加工が難しく、割れたときの飛散防止対策も必要となり、コストが高いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011-128754号公報」

ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そのため、各種のディスプレイ用透明シートには、ガラスに比較して軽量且つ加工性に優れている透明なプラスチックスシートの採用が望まれている。タッチスクリーン方式、特に静電容量方式のタッチスクリーンに使用されるディスプレイ用シートでは指などでタッチしたときに信号の授受をスムースに行うために、よりガラスに近い比誘電率の材料が求められている。
【0010】
しかしながら、一般的な透明プラスチックスの比誘電率は2.5?2.8であり、ガラスの比誘電率約7と比較して十分とは言えないのが現状である。
【0011】
そこで、本発明は、タッチスクリーン用の透明シートに求められる、透明性、比誘電率を十分満足し、しかも、ガラスシートに比べて軽量且つ割れにくく、切削加工特性に優れるタッチスクリーン用透明シートを提供することを目的とする。更に、本発明は、上記透明シートを基材として使用した透明導電シート並びに上記透明シート及び/又は該透明導電シートを備えたタッチスクリーンを提供することを目的とする。」

エ 「【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ポリフッ化ビニリデンを含む透明な熱可塑性樹脂からなる層を有する透明シートをタッチスクリーン用の透明シートとして使用することにより、上記目的を達成することができるという知見を得た。
【0013】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次のタッチスクリーン用透明シート、透明導電シート、及びタッチスクリーンを提供するものである。
【0014】
(I) タッチスクリーン用透明シート
(I-1) ポリフッ化ビニリデンを含む透明樹脂組成物層を有するタッチスクリーン用透明シート。
(I-2) 前記タッチスクリーンが、静電容量方式のタッチスクリーンである、(I-1)に記載の透明シート。
(I-3) 前記透明樹脂組成物が、更にメタクリル系樹脂を含む、(I-1)又は(I-2)に記載の透明シート。
(I-4) 前記ポリフッ化ビニリデンを含む透明樹脂組成物層の片面又は両面に積層されたポリフッ化ビニリデンを含まない透明樹脂組成物層を更に有する、(I-1)?(I-3)のいずれかに記載の透明シート。
(I-5) 少なくとも片方の表面に、傷つき防止、反射防止、防眩及び指紋防止からなる群から選択される少なくとも一種の機能を付与するためのコーティング層を有する、(I-1)?(I-4)のいずれかに記載の透明シート。
(I-6) 前記ポリフッ化ビニリデンを含む透明樹脂組成物層におけるポリフッ化ビニリデンの含量が10?90重量%である、(I-1)?(I-5)のいずれかに記載の透明シート。」

オ 「【発明の効果】
【0017】
本発明のタッチスクリーン用透明シートは、タッチスクリーンに求められる、透明性、比誘電率を十分満足するとともに、ガラスシートに比べて軽量且つ割れにくく、切削加工特性に優れる。」

カ 「【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
タッチスクリーン用透明シート
本発明のタッチスクリーン用透明シートは、ポリフッ化ビニリデンを含む透明樹脂組成物層を有することを特徴とする。
・・・(省略)・・・
【0022】
本発明のタッチスクリーン用透明シートの一実施態様としては、上記ポリフッ化ビニリデンを含む透明樹脂組成物層の片面又は両面に、ポリフッ化ビニリデンを含まない透明樹脂組成物層が積層された構成が挙げられる。
【0023】
また、本発明のタッチスクリーン用透明シートの他の実施態様としては、少なくとも片方の表面に、傷つき防止、反射防止、防眩及び指紋防止からなる群から選択される少なくとも一種の機能を付与するためのコーティング層を有する構成が挙げられる。
【0024】
本発明のタッチスクリーン用透明シートには、本発明の効果を奏する範囲で、上記層以外の他の層を追加することもできる。
【0025】
本発明のタッチスクリーン用透明シートの層構造の具体例を図1に示す。ポリフッ化ビニリデンを含む透明樹脂組成物層をa層、ポリフッ化ビニリデンを含まない透明樹脂組成物層をb層、コーティング層をc層と表記した場合、本発明の層構造としては、a層、c層/a層、b層/a層、c層/b層/a層、c層/b層/a層/b層/c層等が挙げられる。
【0026】
本発明のタッチスクリーン用透明シートの厚さは特に制限されるものではなく、ディスプレイの製品使用の求めに応じた最適の厚さを選択することができる。
【0027】
本発明のタッチスクリーン用透明シートの比誘電率は、タッチスクリーンの回路構成により適切な値に設定されることが望ましいが、好ましくは3.0?10.0、より好ましくは4.0?8.0である。
【0028】
以下、本発明のタッチスクリーン用透明シートの各層について説明する。
【0029】
<ポリフッ化ビニリデンを含む透明樹脂組成物層>
本発明におけるポリフッ化ビニリデンとは、フッ化ビニリデン(以下、VDFと略す)のホモポリマーと、VDFのコポリマーとを意味する。「VDFのコポリマー」という用語はVDFをベースにし、少なくとも一種の他のフッ素化モノマーを含むポリマーを意味する。他のフッ素化モノマーは、このフッ素化コモノマーの重合のためのビニル基を含み、このビニル基に直接結合した少なくとも一種のフッ素原子、フルオロアルキル基又はフルオロアルコキシ基を有する化合物の中から選択するのが好ましい。
・・・(省略)・・・
【0031】
本発明のポリフッ化ビニリデンを含む透明樹脂組成物におけるポリフッ化ビニリデン以外の樹脂成分としては、ポリフッ化ビニリデンと混合した状態で、ディスプレイでの使用に必要な透明性を維持できる合成樹脂であれば特に限定されず、例えば、メタクリル系樹脂を例示することができる。
【0032】
本発明におけるメタクリル系樹脂としては、メタクリル酸アルキルエステルの単独重合体、メタクリル酸アルキルエステルと共重合可能な一種以上のモノマーとの共重合体、更に、それらの重合体又は共重合体と相溶性の良いポリマー類又はコポリマー類との混合物などを例示することができる。
【0033】
本発明で使用するメタクリル酸アルキルエステルとしては、メタクリル酸のメチルエステル、エチルエステル、ブチルエステルなどを挙げることができるが、汎用的に生産・供給されているメタクリル酸のメチルエステルが好適である。
【0034】
本発明のポリフッ化ビニリデンを含む透明樹脂組成物層の透明性は高い方が好ましく、少なくともその全光線透過率がISO13468法による測定値として80%以上であることが好ましい。更に85%以上であることが好ましく、より好ましくは88%以上である。また、本発明のポリフッ化ビニリデンを含む透明樹脂組成物層の透明性の指標としては全光線透過率が高いのみならず、ISO13468法によるヘーズの値が低いことが必要となる。ヘーズの測定値として20%以下であることが好ましい。更に15%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以下である。
【0035】
本発明のポリフッ化ビニリデンを含む透明樹脂組成物層の厚さは、好ましくは50?2000μm、より好ましくは100?1000μmである。
【0036】
本発明のポリフッ化ビニリデンを含む透明樹脂組成物層の比誘電率は高い方が好ましいが、タッチスクリーンの回路構成により適切な値に設定されることが望ましい。一般的な透明な樹脂組成物の比誘電率は2.5?2.8であるので、この値より高い値である3.0以上が好ましい。より好ましくは4.0以上のものであるが、タッチスクリーンの回路構成に対応する適切な値に設定されるべきである。
【0037】
本発明のポリフッ化ビニリデンを含む透明樹脂組成物では、ポリフッ化ビニリデンとポリフッ化ビニリデン以外の樹脂成分との混合比率を適切に選ぶことにより、タッチスクリーンの回路構成に対応する適切な値の比誘電率の組成物を得ることができる。すなわち、比誘電率が6.2のポリフッ化ビニリデンと比誘電率が2.5のポリフッ化ビニリデン以外の樹脂成分とを混合することにより、2.5から6.2の間の任意の比誘電率の樹脂組成物を得ることができる。
【0038】
本発明のポリフッ化ビニリデンを含む透明樹脂組成物における、ポリフッ化ビニリデンとポリフッ化ビニリデン以外の樹脂成分との混合比率は上述のとおり任意に選ぶことができるが、例えば、ポリフッ化ビニリデン以外の樹脂成分として、メタクリル樹脂を例に挙げると、ポリフッ化ビニリデン含有量としては、10重量%以上、90重量%以下が好適である。この範囲であると、比誘電率がタッチスクリーンの回路構成に対応する値に対応でき、組成物の透明性の低下の問題もない。
【0039】
本発明のポリフッ化ビニリデンを含む透明樹脂組成物層には、一般的な熱安定剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、着色剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤などの各種添加剤を含有させても良い。
・・・(省略)・・・
【0041】
<ポリフッ化ビニリデンを含まない透明樹脂組成物層>
本発明のポリフッ化ビニリデンを含まない透明樹脂組成物層を構成する樹脂としては、ディスプレイでの使用に必要な透明性を有する樹脂であれば特に限定されないが、例えば以下のものが挙げられる。
【0042】
メタクリル樹脂及びゴム成分で変性されたメタクリル樹脂、ポリスチレン及び衝撃強度を高めるための変性をされたスチレン系樹脂、スチレン-メタクリレート共重合樹脂及び衝撃強度を高めるための変性をされたスチレン-メタクリレート共重合樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合樹脂及び衝撃強度を高めるための変性をされたアクリロニトリル-スチレン共重合樹脂、塩化ビニル樹脂及び衝撃強度を高めるための変性をされた塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等で例示される各種の無延伸及び延伸加工されたポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂。
【0043】
使用する樹脂は、1種単独又は2種以上を混合したもののいずれであっても良い。
【0044】
また、本発明のポリフッ化ビニリデンを含まない透明樹脂組成物層の透明性は、少なくともその全光線透過率がISO13468-1法による測定値として80%以上であることが好ましい。更に85%以上であることが好ましく、より好ましくは88%以上である。
【0045】
本発明のポリフッ化ビニリデンを含まない透明樹脂組成物層の厚さは、好ましくは50?2000μm、より好ましくは100?1000μmである。ここでの厚さは、ポリフッ化ビニリデンを含まない透明樹脂組成物層が2層存在する場合は、1層の厚さを意味する。
【0046】
本発明のポリフッ化ビニリデンを含まない透明樹脂組成物層には、一般的な熱安定剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、着色剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤などの各種添加剤を含有させても良い。
・・・(省略)・・・
【0050】
<コーティング層>
本発明のタッチスクリーン用透明シートの表面に傷つき防止処理、反射防止処理、防眩処理、及び指紋防止処理のいずれか一つ以上を施すことにより、耐傷つき性、反射によるギラツキ性、反射による眩しさ、指で触った時に起こる指紋付着性などを防止することができ、より機能の向上したタッチスクリーン用透明シートとすることができる。
【0051】
本発明のタッチスクリーン用透明シートの少なくとも一方の表面に傷つき防止処理、反射防止処理、防眩処理及び指紋防止処理からなる群から選択される少なくとも一種の機能を付与するためのコーティング層を形成する方法としては、透明シートの表面に直接コーティングを施す方法、ポリフッ化ビニリデンを含む透明樹脂組成物層の少なくとも片面に予めコーティングが施されたポリフッ化ビニリデンを含まない透明樹脂組成物層を積層する方法を挙げることができる。
【0052】
本発明のタッチスクリーン用透明シートの少なくとも一方の表面に傷つき防止処理、反射防止処理、防眩処理及び指紋防止処理からなる群から選択される少なくとも一種を施す方法は、耐傷つき性、反射によるギラツキ性、反射による眩しさ、指で触った時に起こる指紋付着性などを防止することができる方法であれば、何れの方法であっても良い。
【0053】
直接、本発明のタッチスクリーン用透明シートの表面に、傷つき防止処理を施す方法としては、メラミン樹脂系、ウレタン樹脂系、アルキッド樹脂系、フッ素系、多官能アクリレート系、オルガノシリコーン系などのいわゆる有機系の溶液をコーティングし、熱又は活性エネルギー線により硬化させる方法、シリカと多官能アクリレートのハイブリッドよりなる、いわゆる有機・無機ハイブリッドタイプ溶液をコーティングし、熱又は活性エネルギー線により硬化させる方法などいずれも使用できる。
【0054】
コーティングを硬化させる方法としては、上述の通り熱又は活性エネルギー線により硬化させる方法を適用することができるが、硬化時間を短縮するためには、活性エネルギー線により硬化させる方法が好都合である。
【0055】
活性エネルギー線により硬化させる樹脂の例としては、これに限定されるものではないが、例えば、活性エネルギー線硬化型アクリル樹脂が挙げられる。活性エネルギー線硬化型アクリル樹脂は、モノマー、オリゴマー、光重合開始剤、光増感剤、その他成分からなる。上記アクリル樹脂に使用されるモノマーの例としては、1,4-ブタンジオールジア(メタ)クリレート、1,4-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレートなどの2官能(メタ)アクリレート類、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどの3官能(メタ)アクリレート類、及びペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートなどの4官能以上の(メタ)アクリレート類を挙げることができる。
【0056】
上記アクリル樹脂に使用されるオリゴマーの例としては、ポリエステルアクリレート類、エポキシアクリレート類、ウレタンアクリレート類などを挙げることができる。
【0057】
また、ポリエステルアクリレート類のポリエステル部分の例としては、フタル酸やアジピン酸等の二塩基酸とグリコールの縮合物、カプロラクトンの開環重合によって得られたポリオールにアクリル酸を反応させたものなどを挙げることができる。エポキシアクリレート類の例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型のものなどさまざまな分子量のものを挙げることができる。ウレタンアクリレート類に使用されるヒドロキシアクリレートとしては、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートなどを挙げることができる。また、ウレタンアクリレート類に使用されるイソシアネートとしては、脂肪族や脂環族ジイソシアネート、それらの3量体であるイソシアヌレート環を有するポリイソシアネートなどを挙げることができる。
【0058】
なお、上記において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタアクリレートの両者を意味する。
【0059】
上記の活性エネルギー線硬化型樹脂は電子線を照射すれば十分に硬化するが、紫外線を照射して硬化させる場合には、光重合開始剤として、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、チオキサントン類、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ミヒラーベンゾイルベンゾエート、ミヒラーケトン、ジフェニルサルファイド、ジベンジルジサルファイド、ジエチルオキサイド、トリフェニルビイミダゾール、イソプロピル-N,N-ジメチルアミノベンゾエート等、光増感剤として、n-ブチルアミン、トリエチリルアミン、ポリ-n-ブチルホソフィン等を単独又は混合物として用いることが好ましい。光重合開始剤や光増感剤の添加量は、一般に、活性エネルギー線硬硬化型樹脂100重量部に対して、0.1?10重量部程度である。
【0060】
傷つき防止処理層を形成させるための塗料組成物には、上記以外のシラン化合物、溶媒、硬化触媒、濡れ性改良剤、可塑剤、消泡剤、増粘剤等の無機、有機系の各種添加剤を必要に応じて添加することができる。本発明のタッチスクリーン用透明シートの表面に、帯電防止性を付与したり、指紋付着防止又は付着を目立ち難くさせるなどの表面の傷つきを防止すること以外の機能を持たせるため、傷つき防止処理層の組成にそれら機能を付与するために必要な添加剤などを加えることができる。
【0061】
本発明のタッチスクリーン用透明シートの表面にコーティング層を形成する前に、シート表面にコロナ処理、紫外線照射処理、常圧プラズマ処理などを行うことにより、密着性を向上させたり、適切なプライマーをコートした後に、コーティング層を形成することは有効である。
【0062】
本発明のコーティング層の厚さは薄すぎると十分な硬さが出にくくなり、厚すぎると樹脂組成物シートと被膜との弾性率や熱膨張係数などの特性の差により、クラック等が発生し易くなるため、適切に選択する必要がある。有機系架橋樹脂や有機・無機ハイブリッドタイプのコーティング層の厚さは、1?30μm、特に2?8μmが望ましい。この範囲の厚さであれば、十分な硬さが得られる上に、クラック等も発生し難くなる。ここで、コーティング層の厚さは、コーティング層が2層ある場合は、その1層についての厚さを意味する。
【0063】
本発明のタッチスクリーン用透明シートは、タッチスクリーンに求められる、透明性、比誘電率を満足するとともに、ガラスシートにおける問題点である重量を軽減し、且つ割れにくく、切削加工特性に優れる。また、本発明のタッチスクリーン用透明シートは、ガラスシート、特に化学強化ガラスシートをディスプレイパネルとして使用するときの複雑な加工工程を簡略化するとともに、タッチスクリーン製品としてのガラスでの割れやすさ、重量が重いという問題などを解決することができる。
【0064】
透明導電シート
本発明の透明導電シートは、上記透明シート、及び上記透明シートの少なくともの片面形成された透明導電膜を有することを特徴とする。
・・・(省略)・・・
【0073】
タッチスクリーン
本発明の透明シート及び透明導電シートは、ディスプレイパネル面板、タッチスクリーンなどの透明電極として好適に用いることができる。具体的には、本発明の透明シートをタッチスクリーン用ウインドウシートとして、本発明の透明導電シートを抵抗膜方式や静電容量方式のタッチスクリーンの電極基板として用いることができ、このタッチスクリーンを液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの前面に配置することでタッチスクリーン機能を有する表示装置が得られる。
・・・(省略)・・・
【0075】
図3は、本発明の透明シート及び透明導電シートを用いた一般的な静電容量式タッチスクリーンの断面を示す模式図である。図中、3は透明シートによるウインドウシートを、4は光学粘着層を、1は透明導電シートを、5は液晶表示装置をそれぞれ示す。駆動時にはユーザーがウインドウシート上の任意の位置に指を接触させると、透明導電シートを介して、端子位置から接触位置までの距離が検出され、接触位置が検知される仕組みとなる。これにより、パネル上の接触部分の座標を認識し、適切なインターフェース機能が図られるようになっている。」

キ 「【図1】



ク 「【図3】



(3)引用発明
ア 引用文献1の【0025】及び【図1】からは、引用文献1でいう「本発明のタッチスクリーン用透明シート」として、「層構造が、コーティング層/ポリフッ化ビニリデンを含まない透明樹脂組成物層/ポリフッ化ビニリデンを含む透明樹脂組成物層/ポリフッ化ビニリデンを含まない透明樹脂組成物層/コーティング層」であるものを把握することができる。

イ 引用文献1の【0038】の記載からは、「ポリフッ化ビニリデンを含む透明樹脂組成物における、ポリフッ化ビニリデンとポリフッ化ビニリデン以外の樹脂成分との混合比率は任意に選ぶことができるが、ポリフッ化ビニリデン以外の樹脂成分がメタクリル樹脂である場合のポリフッ化ビニリデン含有量としては、10重量%以上、90重量%以下が好適」であるという技術事項を理解することができる。

ウ 引用文献1の【0062】の記載からは、引用文献1でいう「本発明のコーティング層」に関して、「コーティング層の厚さは薄すぎると十分な硬さが出にくくなり、厚すぎるとクラック等が発生し易くなるため、1?30μmが望ましく、この範囲の厚さであれば、十分な硬さが得られる上に、クラック等も発生し難くなる」という技術事項を理解することができる。

エ 引用文献1の【0075】及び【図3】からは、「透明シートによるウインドウシート3、光学粘着層4、透明導電シート1、光学粘着層4、液晶表示装置5が、この順に積層されてなる、静電容量式タッチスクリーン」を把握することができる。ここで、【0075】の「図3は、本発明の透明シート及び透明導電シートを用いた一般的な静電容量式タッチスクリーンの断面を示す模式図である。」という記載からみて、【図3】における「透明シートによるウインドウシート3」とは、上記アで述べた「本発明のタッチスクリーン用透明シート」のことである。

オ 以上ア?エで述べた事項を勘案すると、引用文献1には、次の「タッチスクリーン用透明シート」の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。なお、用語を統一して記載した。

「タッチスクリーン用透明シートによるウインドウシート3、光学粘着層4、透明導電シート1、光学粘着層4、液晶表示装置5が、この順に積層されてなる、静電容量式タッチスクリーンに用いられるタッチスクリーン用透明シートであって、
タッチスクリーン用透明シートは、層構造が、コーティング層/ポリフッ化ビニリデンを含まない透明樹脂組成物層/ポリフッ化ビニリデンを含む透明樹脂組成物層/ポリフッ化ビニリデンを含まない透明樹脂組成物層/コーティング層であり、
ポリフッ化ビニリデンを含む透明樹脂組成物における、ポリフッ化ビニリデンとポリフッ化ビニリデン以外の樹脂成分との混合比率は任意に選ぶことができるが、ポリフッ化ビニリデン以外の樹脂成分がメタクリル樹脂である場合のポリフッ化ビニリデン含有量としては、10重量%以上、90重量%以下が好適であり、
コーティング層の厚さは薄すぎると十分な硬さが出にくくなり、厚すぎるとクラック等が発生し易くなるため、1?30μmが望ましく、この範囲の厚さであれば、十分な硬さが得られる上に、クラック等も発生し難くなる、
タッチスクリーン用透明シート。」

(4)対比
本件補正後発明と引用発明とを対比する。
ア 中間層
「(メタ)アクリル樹脂」における「(メタ)アクリル」とは「アクリル」又は「メタクリル」を意味することが技術常識であるところ、本願においても本願明細書【0013】を参酌すれば、この意味で使われていると認められる。そして、引用発明における「ポリフッ化ビニリデンを含む透明樹脂組成物層」の「ポリフッ化ビニリデンを含む透明樹脂組成物」における「ポリフッ化ビニリデン以外の樹脂成分」として含まれる「メタクリル樹脂」は、本件補正後発明における「(メタ)アクリル樹脂」に相当する。
引用発明における「ポリフッ化ビニリデンを含む透明樹脂組成物層」は、その文言から「ポリフッ化ビニリデン」が含まれると認められる。引用発明における「ポリフッ化ビニリデン」は、フッ化ビニリデンのホモポリマーと、フッ化ビニリデンのコポリマーとを意味する(引用文献1【0029】)と認められる。また、本願明細書【0024】には「樹脂積層体(A)の中間層に含まれるフッ化ビニリデン樹脂としては、フッ化ビニリデンの単独重合体、フッ化ビニリデンと他の単量体との共重合体が挙げられる。」と記載されていることから、本件補正後発明における「フッ化ビニリデン樹脂」は「フッ化ビニリデンの単独重合体、フッ化ビニリデンと他の単量体との共重合体」を意味するものと認められる。そして、ホモポリマーは単独重合体を、コポリマーは共重合体をそれぞれ意味することは技術常識であるから、「引用発明における「ポリフッ化ビニリデン」は、本件補正後発明における「フッ化ビニリデン樹脂」に相当する。
以上より、引用発明における「ポリフッ化ビニリデンを含む透明樹脂組成物層」は、「メタクリル樹脂」及び「ポリフッ化ビニリデン」を樹脂成分として含むものであることから、本件補正後発明における「(メタ)アクリル樹脂及びフッ化ビニリデン樹脂を樹脂成分として含む」という要件を満たしている。
また、引用発明における「ポリフッ化ビニリデンを含む透明樹脂組成物層」は、その層構造から明らかなように、「タッチスクリーン用透明シート」の中間に存在する層である。
したがって、引用発明における「ポリフッ化ビニリデンを含む透明樹脂組成物層」は、本件補正後発明における「中間層」に相当する。

イ 熱可塑性樹脂層
引用発明における「ポリフッ化ビニリデンを含まない透明樹脂組成物層」は、その文言から「ポリフッ化ビニリデンを含まない透明樹脂組成物」による「層」であると認められる。したがって、引用発明の「ポリフッ化ビニリデンを含まない透明樹脂組成物層」と本件補正後発明の「熱可塑性樹脂層」は、「樹脂層」である点で共通する。

ウ ハードコート層
引用発明における「コーティング層」は、その厚さが「薄すぎると十分な硬さが出にくくなり、厚すぎるとクラック等が発生し易くなるため、1?30μmが望ましく」、厚さをこの範囲とすることにより、「十分な硬さが得られる」ものであることから、ハードコート層としての性質を有する。
したがって、引用発明における「コーティング層」は本件補正後発明における「ハードコート層」に相当する。

エ 樹脂積層体(A)
引用発明における「タッチスクリーン用透明シート」は、「層構造が、コーティング層/ポリフッ化ビニリデンを含まない透明樹脂組成物層/ポリフッ化ビニリデンを含む透明樹脂組成物層/ポリフッ化ビニリデンを含まない透明樹脂組成物層/コーティング層」となっていることから、「ポリフッ化ビニリデンを含まない透明樹脂組成物層」は「ポリフッ化ビニリデンを含む透明樹脂組成物層」の両面に設けられ、また、「コーティング層」は「ポリフッ化ビニリデンを含まない透明樹脂組成物層」の両方の表面に設けられていることは明らかである。
したがって、引用発明における「タッチスクリーン用透明シート」は、本件補正後発明における「(メタ)アクリル樹脂及びフッ化ビニリデン樹脂を樹脂成分として含む中間層と、該中間層の両面に熱可塑性樹脂層と、両方の熱可塑性樹脂層の表面にハードコート層とを有する」という積層順の要件を満たしており、本件補正後発明における「樹脂積層体(A)」に相当する。

(5) 一致点及び相違点
ア 一致点
以上のことから、本件補正後発明と引用発明とは、次の構成で一致する。
「(メタ)アクリル樹脂及びフッ化ビニリデン樹脂を樹脂成分として含む中間層と、該中間層の両面に樹脂層と、両方の樹脂層の表面にハードコート層とを有する樹脂積層体(A)」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は、以下の点で相違する、又は、一応、相違する。
(ア)相違点1
本件補正後発明は、「中間層の両面に」有する「樹脂層」における樹脂が「熱可塑性樹脂」であるのに対し、引用発明は、これに対応する樹脂である「ポリフッ化ビニリデンを含まない透明樹脂組成物」が、一応、「熱可塑性樹脂」であると特定されていない点。

(イ)相違点2
本件補正後発明は、「該樹脂積層体(A)の一方のハードコート層側の表面に存在する透明粘着剤(B)、及び該透明粘着剤(B)に隣接して存在する偏光板(C)を有し」た「偏光板付き樹脂積層体」であるのに対して、引用発明は、「タッチスクリーン用透明シートによるウインドウシート3、光学粘着層4、透明導電シート1、光学粘着層4、液晶表示装置5が、この順に積層されてなる、静電容量式タッチスクリーンに用いられるタッチスクリーン用透明シート」である(「液晶表示装置5」が、液晶セルの表面に偏光板を具備することは自明であるから、引用発明におけるタッチスクリーンの積層構造は、「液晶セル」、「偏光板」、「透明導電シート1」、「タッチスクリーン用透明シートによるウインドウシート3」となり、本件補正後発明の積層構造とは異なるものとなっている)点。

(ウ)相違点3
本件補正後発明における「透明粘着剤(B)側に配置されるハードコート層の水接触角」が「95°以下」であるのに対して、引用発明では、そのような特定がなされていない点。

(エ)相違点4
本件補正後発明における「透明粘着剤(B)と反対側に配置されるハードコート層の水接触角」が「100°以上である」のに対して、引用発明では、そのような特定がなされていない点。

(6)判断
ア 相違点1について
引用発明の「ポリフッ化ビニリデンを含まない透明樹脂組成物層」における「ポリフッ化ビニリデンを含まない透明樹脂組成物」として、引用文献1の【0041】及び【0042】によれば、「ディスプレイでの使用に必要な透明性を有する樹脂」として「メタクリル樹脂及びゴム成分で変性されたメタクリル樹脂、ポリスチレン及び衝撃強度を高めるための変性をされたスチレン系樹脂、スチレン-メタクリレート共重合樹脂及び衝撃強度を高めるための変性をされたスチレン-メタクリレート共重合樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合樹脂及び衝撃強度を高めるための変性をされたアクリロニトリル-スチレン共重合樹脂、塩化ビニル樹脂及び衝撃強度を高めるための変性をされた塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等で例示される各種の無延伸及び延伸加工されたポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂」を用いることが示唆されているところ、これらの樹脂は熱可塑性樹脂である。そして、引用発明における「ポリフッ化ビニリデンを含まない透明樹脂組成物層」における「ポリフッ化ビニリデンを含まない透明樹脂組成物」として「熱可塑性樹脂」を採用することは、引用文献1の示唆に従う当業者が自然に採用する構成にすぎない。

イ 相違点2について
引用発明の「タッチスクリーン用透明シートによるウインドウシート3」は、「液晶表示装置5」において用いられるものであるところ、液晶表示装置のタッチスクリーンの積層構造として、偏光板と透明導電シート(タッチセンサ)の積層順が引用発明とは逆のものは、例えば、特開2016-38824号公報の【0015】?【0018】及び【図1】から理解されるように周知技術である(「インナー型」とか「液晶ディスプレイ一体型」などと呼ばれる。)。また、引用発明においてこのような積層順の変更を行うことは、引用文献1の【0064】に記載された態様とは異なるとしても、【0009】?【0011】に記載された目的課題には反しないものであるから、単なる「タッチスクリーン用透明シート」の適用対象の変更にすぎないものと認められる。そして、このようにしてなるものは、「タッチスクリーン用透明シートによるウインドウシート3」と「偏光板」が「光学粘着層4」を介して隣接することとなるから、相違点2に係る本件補正後発明の積層構造を満たすものとなり、また、「偏光板付き樹脂積層体」と称し得るものとなる。

ウ 相違点3について
隣接する層との密着性を向上させるために表面の水接触角を小さくすることは、特開2016-85444号公報【0032】及び特開2015-132691号公報【0081】等に記載されるように周知技術であり、光学フィルムの技術分野において隣接する層との密着性の向上は周知の課題である。
そして、引用発明における「タッチスクリーン用透明シート」についても「ウインドウシート」として用いられるものであることから、「タッチスクリーン用透明シート」の一方の側をタッチスクリーンに密着させることを前提とするものである。
したがって、引用発明における「タッチスクリーン用透明シート」について、密着性を向上させるために、当該周知技術を採用し、「タッチスクリーン用透明シート」のタッチスクリーンに密着させる側の「コーティング層」の水接触角を小さくすることは当業者が容易に想到し得ることである。また、その数値を「95°以下」とすることは適宜なし得る設計事項にすぎない。

エ 相違点4について
水接触角が高いと防汚性が得られることは、特開2005-219223号公報(特許請求の範囲、【0017】)や特開2010-38945号公報(【0029】)等に記載されるように周知技術である。そして、タッチスクリーンにおいて表面の汚れを防止することは周知の課題であり、引用発明における「タッチスクリーン用透明シート」は「ウインドウシート」として用いられるものであるから、タッチスクリーンの表面に設けられるものであるところ、防汚性を得るために当該周知技術を採用し、「タッチスクリーン用透明シート」の表面側の「コーティング層」の水接触角を高くすることは、当業者が容易に想到し得ることである。また、その数値を「100°以上」とすることは、適宜なし得る設計事項にすぎない。

(7)発明の効果について
本願明細書の【0008】には、発明の効果として、「高い誘電率を有しつつ、高温高湿な環境下で長時間使用しても透明性を維持できるため、表示装置の前面板として有用である」と記載されている。この点、引用発明では、「ポリフッ化ビニリデン以外の樹脂成分がメタクリル樹脂である場合のポリフッ化ビニリデン含有量としては、10重量%以上、90重量%以下が好適」とされており、引用文献1の【0038】によれば、この範囲であると「比誘電率がタッチスクリーンの回路構成に対応する値に対応でき、組成物の透明性の低下の問題もない」ものとなる。また、上記(6)ウに記載の周知技術を採用することにより密着性は向上している。これらのことから、本件補正後発明の上記効果は、引用発明に周知技術を採用することにより、当業者が予測することができるものであり、格別なものと認めることはできない。

(8)請求人の主張について
請求人は、審判請求書において「表面側の透明シート3に着目すると、光学粘着層4と液晶表示装置5との間に多くの層が存在するため、光学粘着層4と液晶表示装置5は隣接していません。また、内部に存在する透明シート3’に着目すると、前者の態様ではc層と光学粘着層4’は隣接していませんが、後者の態様ではc層と光学粘着層4’は隣接しており、さらに光学粘着層4’と液晶表示装置5も隣接しています。しかし、後者の態様において透明シート3’の表面側には多くの層が存在するため、透明シート3’は最表面に位置しません。よって、引用文献4には表面の指紋防止や傷つき防止のために水接触角を高くすることが開示されていますが、透明シート3’の光学粘着層4’とは反対側のc層は最表面にないため、当業者は、透明シート3’の該c層表面の水接触角を100℃以上に設定しようとはしません。また、引用文献1には、液晶表示装置5のどの位置に偏光板が配置されるかどうかも開示されていません。従って、引用文献1、4及び5を組み合わせても、本願発明の構成を容易に導き出すことはできません。
・・・(省略)・・・
本願発明は、引用文献1、4及び5からは予測し得ない異質又は顕著な効果を奏します。・・・このような効果は、本願発明の特定の水接触角と層構成との組合せを教示又は示唆する記載はなく、耐久性について何ら開示されていない引用文献1、4及び5からは到底予測し得ない効果です。」と主張する。
しかしながら、前記(6)イに記載のように、タッチスクリーンの積層構造として、偏光板と透明導電シート(タッチセンサ)の積層順が引用発明とは逆のものは周知技術であり、引用発明において当該周知技術を採用することは当業者が容易に想到し得ることである。また、前記(6)ウに記載したように、密着性を向上させるために引用発明に引用文献5(特開2016-85444号公報)等に記載の周知技術を採用することは当業者が容易に想到し得ることである。さらに、前記(6)エに記載したように、防汚性を得るために引用発明に引用文献4(特開2005-219223号公報)等に記載される周知技術を採用することは当業者が容易に想到し得ることである。
また、本件補正後発明が奏する効果についても、前記(7)に記載のように格別なものと認めることはできない。
したがって、請求人の主張を採用することはできない。

(9)小括
本件補正後発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 まとめ
本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記[補正の却下の決定の結論]に記載のとおり、決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年6月21日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?請求項17に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、先の出願前に頒布された特開2013-244604号公報(引用文献1)に記載された発明及び周知技術に基づいて、先の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 引用文献1の記載及び引用発明
引用文献1の記載及び引用発明は、前記「第2」[理由]2(2)及び(3)に記載したとおりである。

4 対比、判断
本願発明は、前記「第2」[理由]2で検討した本件補正後発明から、「透明粘着剤(B)」と「偏光板(C)」との関係について、本件補正後発明が「該透明粘着剤(B)に隣接して存在する偏光板(C)」となっているところ、本願発明では「該透明粘着剤(B)を介して存在する偏光板(C)」となっているものである。これらの関係について検討すると、本願発明における「介して存在する」は、「透明粘着剤(B)」と「偏光板(C)」とが隣接して存在するもの及び何らかの層を含むことなどにより隣接していないものも含んでいると認められることから、本願発明における「介して存在する」は、本件補正後発明における「隣接して存在する」という事項を含むものである(相違点2は、相違点ではなくなる。)。
そうしてみると、本願発明の発明特定事項を全て含んでいる本件補正後発明が、前記「第2」[理由]2に記載したとおり、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-02-04 
結審通知日 2020-02-12 
審決日 2020-02-27 
出願番号 特願2017-101898(P2017-101898)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤岡 善行  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 早川 貴之
井口 猶二
発明の名称 偏光板付き樹脂積層体及びそれを含む表示装置  
代理人 森住 憲一  
代理人 松谷 道子  

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