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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1361415
審判番号 不服2019-10233  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-02 
確定日 2020-04-09 
事件の表示 特願2016-102911号「遊技機」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月30日出願公開、特開2017-209198号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯の概要
本願は、平成28年5月24日の出願であって、平成30年3月19日付けで拒絶の理由が通知され、平成30年5月17日に意見書及び手続補正書が提出され、平成30年9月20日付けで最後の拒絶の理由が通知され、平成30年11月21日に意見書及び手続補正書が提出されたところ、平成31年4月22日付け(送達日:令和1年5月7日)で、平成30年11月21日付け手続補正が却下されるとともに拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、それに対して、令和1年8月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2 令和1年8月2日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和1年8月2日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正により、平成30年5月17日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1における
「【請求項1】
遊技を行なうことが可能な遊技機であって、
音出力手段と、
異常検出手段と、
少なくとも音量の設定に関する設定画面と異常に関する情報とを表示可能な表示手段と、
前記表示手段の表示を遮る所定位置で、第1状態と第2状態とに変化可能な可動部材と、
前記可動部材が前記第1状態であるときに、第1態様の特定画像を前記表示手段に表示させる制御が可能な表示制御手段とを備え、
前記表示制御手段は、前記可動部材が前記第1状態から前記第2状態に変化したときに、前記特定画像を前記第1態様から第2態様に変化させる制御が可能であり、
前記表示手段は、前記異常に関する情報を前記設定画面よりも優先して表示可能なことを特徴とする遊技機。」は、
審判請求時に提出された手続補正書(令和1年8月2日付け)の特許請求の範囲の請求項1における
「【請求項1】
遊技を行なうことが可能な遊技機であって、
音出力手段と、
異常検出手段と、
少なくとも音量の設定に関する設定画面と異常に関する情報と識別情報画像とを表示可能な表示手段と、
前記表示手段の表示を遮る所定位置と、前記所定位置とは異なる前記表示手段を遮らない特定位置との間を移動可能であり、前記所定位置にて第1状態と第2状態とに変化可能な可動部材と、
前記可動部材が前記第1状態であるときに、前記識別情報画像とは異なる特定画像のうち第1態様の前記特定画像を前記表示手段に表示させる制御が可能な表示制御手段とを備え、
前記表示制御手段は、前記可動部材が前記第1状態から前記第2状態に変化したときに、前記特定画像を前記第1態様から第2態様に変化させる制御が可能であり、
前記表示手段は、前記異常に関する情報を前記設定画面よりも優先して表示可能であり、前記可動部材が前記特定位置から前記所定位置に移動しない場合であっても、前記特定画像を前記表示手段に表示させ、前記特定画像は、前記第1態様と前記第2態様のいずれの態様であったとしても、遊技者が認識可能に表示されることを特徴とする遊技機。」に補正された(下線は、補正箇所を明示するために当審判合議体にて付した。)。

2 補正の適否
2-1 補正の目的及び新規事項について
本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「表示手段」に「表示可能な」内容に関して、本件補正前に「少なくとも音量の設定に関する設定画面と異常に関する情報」とあったものを、「少なくとも音量の設定に関する設定画面と異常に関する情報と識別情報画像」と限定し(以下「補正事項ア」という。)、
また、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「可動部材」に関して、「前記所定位置とは異なる前記表示手段を遮らない特定位置との間を移動可能であ」ると限定し(以下「補正事項イ」という。)、
また、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「特定画像」に関して、「識別情報画像とは異なる」と限定し(以下「補正事項ウ」という。)、
さらに、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「表示手段」に関して、「前記可動部材が前記特定位置から前記所定位置に移動しない場合であっても、前記特定画像を前記表示手段に表示させ、前記特定画像は、前記第1態様と前記第2態様のいずれの態様であったとしても、遊技者が認識可能に表示される」と限定する(以下「補正事項エ」という。)ことを含むものである。
そして、補正後の請求項1に係る発明は、補正前の請求項1に係る発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に該当する。
また、本件補正の補正事項アは、願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。)の段落【0026】、【0028】等の記載に基づくものであり、補正事項イは、当初明細書の段落【0305】?【0306】等の記載に基づくものであり、補正事項ウは、当初明細書の段落【0305】?【0306】等の記載に基づくものであり、補正事項エは、当初明細書の段落【0006】?【0008】、【0324】等の記載に基づくものであり、新規事項を追加するものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。

2-2 独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否かについて、以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、次のとおりのものであると認める(記号A?Iは、分説するため当審判合議体にて付した。)。
「A 遊技を行なうことが可能な遊技機であって、
B 音出力手段と、
C 異常検出手段と、
D 少なくとも音量の設定に関する設定画面と異常に関する情報と識別情報画像とを表示可能な表示手段と、
E 前記表示手段の表示を遮る所定位置と、前記所定位置とは異なる前記表示手段を遮らない特定位置との間を移動可能であり、前記所定位置にて第1状態と第2状態とに変化可能な可動部材と、
F 前記可動部材が前記第1状態であるときに、前記識別情報画像とは異なる特定画像のうち第1態様の前記特定画像を前記表示手段に表示させる制御が可能な表示制御手段とを備え、
G 前記表示制御手段は、前記可動部材が前記第1状態から前記第2状態に変化したときに、前記特定画像を前記第1態様から第2態様に変化させる制御が可能であり、
H 前記表示手段は、前記異常に関する情報を前記設定画面よりも優先して表示可能であり、前記可動部材が前記特定位置から前記所定位置に移動しない場合であっても、前記特定画像を前記表示手段に表示させ、前記特定画像は、前記第1態様と前記第2態様のいずれの態様であったとしても、遊技者が認識可能に表示される
I ことを特徴とする遊技機。」

(2)引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された、本願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に閲覧可能となった特開2015-23921号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は当審判合議体にて付した。以下同じ。)。
ア 記載事項
(ア)「【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0006】本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、演出物を用いた演出により興趣を向上させることができる遊技機を提供することを目的とする。」

(イ)「【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る遊技機を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例】
【0014】
まず、遊技機の一例であるパチンコ遊技機1の全体の構成について説明する。図1は、パチンコ遊技機を正面からみた正面図である。図2は、主基板における回路構成の一例を示すブロック図である。尚、以下の説明において、図1の手前側をパチンコ遊技機1の前方(前面、正面)側、奥側を背面(後方)側として説明する。尚、本実施例におけるパチンコ遊技機1の前面とは、遊技者側からパチンコ遊技機1を見たときに該遊技者と対向する対向面である。尚、本実施例におけるフローチャートの各ステップの説明において、例えば「ステップS1」と記載する箇所を「S1」と略記する場合がある。」

(ウ)「【0020】
遊技盤2における遊技領域の中央付近には、演出表示装置5が設けられている。演出表示装置5は、図11に示すように、遊技に関する画像(例えば、後述する演出図柄や演出用のキャラクタや背景等の画像)を表示可能であるとともに、その後方の領域を前方から視認可能な透過性を有する液晶パネル5aと、該液晶パネル5aの後方位置に設けられ、面発光により液晶パネル5aの背面全域に亘って表示用の光を供給可能なバックライト5bと、液晶パネル5aの後方位置で、かつ、バックライト5bの前方位置に設けられ、後方の領域が視認可能となる第1状態と後方の領域が視認不可能または視認困難となる第2状態とに切替可能な前透過液晶フィルム5cと、バックライト5bの後方位置で、かつ、後述する後役物450の前方位置に設けられ、後方の領域が視認可能となる第1状態と後方の領域が視認不可能または視認困難となる第2状態とに切替可能な後透過液晶フィルム5dと、を有する液晶表示モジュールにて形成されており、該液晶表示モジュールの液晶パネル5aにより表示領域が形成されている。尚、液晶パネル5aは、外光、フロントライト、バックライト5b等の光源により発せられた光を部分的に遮ったり透過させたりすることによって表示を行う所謂透過型液晶パネルである。」

(エ)「【0065】
また、リーチ状態となったことに対応して、演出図柄の変動速度を低下させたり、演出表示装置5の表示領域に演出図柄とは異なるキャラクタ画像(人物等を模した演出画像)を表示させたり、背景画像の表示態様を変化させたり、演出図柄とは異なる動画像を再生表示させたり、演出図柄の変動態様を変化させたりすることで、リーチ状態となる以前とは異なる演出動作が実行される場合がある。このようなキャラクタ画像の表示や背景画像の表示態様の変化、動画像の再生表示、演出図柄の変動態様の変化といった演出動作を、リーチ演出表示(あるいは単にリーチ演出)という。尚、リーチ演出には、演出表示装置5における表示動作のみならず、スピーカ8L,8Rによる音声出力動作や、遊技効果ランプ9などの発光体における点灯動作(点滅動作)などを、リーチ状態となる以前の動作態様とは異なる動作態様とすることが、含まれていてもよい。本実施例では、リーチ演出の一例であるスーパーリーチ演出において、前役物400と後役物450とを用いた後述する特別演出を実行可能とされている。」

(オ)「【0178】
こうした遊技制御メイン処理を実行したCPU103は、CTCからの割込み要求信号を受信して割込み要求を受け付けると、図9のフローチャートに示す遊技制御用タイマ割込み処理を実行する。図9に示す遊技制御用タイマ割込み処理を開始すると、CPU103は、まず、所定のスイッチ処理を実行することにより、スイッチ回路110を介してゲートスイッチ21、第1始動口スイッチ22A、第2始動口スイッチ22B、カウントスイッチ23といった各種スイッチから入力される検出信号の状態を判定する(S11)。続いて、所定のメイン側エラー処理を実行することにより、パチンコ遊技機1の異常診断を行い、その診断結果に応じて必要ならば警告を発生可能とする(S12)。この後、所定の情報出力処理を実行することにより、例えばパチンコ遊技機1の外部に設置されたホール管理用コンピュータに供給される大当り情報、始動情報、確率変動情報などのデータを出力する(S13)。」

(カ)「【0213】
次に、図15?図19に基づいて、演出ユニット300の詳細について説明する。図15は、演出表示装置の構成を示す分解斜視図である。図16は、(A)は演出ユニットが遊技盤の背面に組付けられた状態を示す縦断面図、(B)は(A)の要部拡大図である。図17は、(A)は前役物の昇降動作、(B)は左右スライド動作の態様を示す図である。図18は、(A)は前役物が退避位置にあるとき、(B)は演出位置にあるときにおける前役物との位置関係を示す図である。図19は、演出表示装置の表示態様例を示す説明図であり、(A)は状態A、(B)は状態B、(C)は状態Cを示す。尚、以下においては、パチンコ遊技機1の前面を正面から見たときの上下左右方向を基準として説明する。」





(キ)「【0226】
図16及び図17に示すように、前役物400は、正面視半円形状をなす箱状の装飾可動部401a,401bと、これら装飾可動部401a,401bを支持する支持部402a,402bと、これら左右の支持部402a,402bが連結され前役物400を昇降させる昇降機構403a,403bと、から主に構成されている。
【0227】
装飾可動部401a,401bは、それぞれ正面視半円形状に形成される透光性を有するレンズ部材にて前面が形成され、それぞれの内部には複数の前役物LED404a,404bが配設された前役物LED基板405a,405bが内蔵されており、前役物LED404a,404bからの光がレンズ部材を透して前方に出射されるようになっている。また、装飾可動部401a,401bは、支持部402a,402bそれぞれに対し左右方向に移動可能に設けられており、支持部402a,402bそれぞれに設けられた前役物スライドモータ406a,406b及び図示しない駆動機構を介して、互いの対向面(内側面)が当接する合体位置(図17(A)参照)と、互いの対向面が離間する非合体位置(図17(B)中実線位置参照)と、の間で左右方向にスライド移動可能に設けられている。
・・・
【0229】
よって、前役物400は、前役物昇降モータ411a,411bにより上部プーリ408a,408bが回動して昇降ベルト410a,410bが周回することで、演出表示装置5の表示画面上部に位置する退避位置(図17(A)中2点鎖線位置参照)と、演出表示装置5の表示画面の略中央前方に位置し該表示画面に前後に重畳する演出位置(図17(A)中実線位置参照)と、の間で上下方向に移動可能とされている。本実施例では、前役物400は退避位置、装飾可動部401a,401bは合体位置が駆動初期位置とされており、所定の演出の実行に応じて駆動初期位置から演出位置や非合体位置に移動するようになっている。
【0230】
尚、本実施例では、前役物400は、退避位置において装飾可動部401a,401bや支持部402a,402bの一部が演出表示装置5の表示画面に対し前後に重畳するようになっていたが、装飾可動部401a,401bや支持部402a,402b全体が演出表示装置5の表示画面に対し前後に重畳しない位置まで退避するようにしてもよい。また、昇降機構403a,403bは、上記のようにプーリとベルトからなるものだけでなく、複数のギヤ等、他の機構にて構成されていてもよい。」

(ク)「【0254】
次いで、対決が開始された後(図20(D)参照)、所定期間が経過したとき、前役物400の前役物LED404a,404bを発光するとともに、演出表示装置5の表示画面に後役物450の影を表示させる(図21(E)参照)。つまり、演出制御用マイクロコンピュータは、演出ユニット300を状態Aから状態Cに切替ることで、図21(E’)に示すように、液晶パネル5aの表示画面右上方部にのみ小図柄を縮小表示し、表示画面の右上部以外の領域には画像を表示しないばかりか、前透過液晶フィルム5cを非拡散状態(透明)とする一方、後透過液晶フィルム5dを拡散状態(乳白色)とし、また、後役物LED451の目に対応するLEDのみ点灯して他のLEDを消灯し、後役物バックライト用LED311を点灯して後役物450を後方から照らすることで、後役物450の影(後役物450の輪郭)が後透過液晶フィルム5dの背面に映り込む。
・・・
【0256】
状態Cに切替えてから所定時間が経過したら、演出制御用マイクロコンピュータは、演出ユニット300を再び状態Aに切替え、前役物400を退避位置から演出位置まで下降させるとともに(図21(F)参照)、演出表示装置5の表示画面に小図柄及び背景画像を表示する(図21(F’)参照)。
【0257】
次いで、演出制御用マイクロコンピュータは、状態Aから状態Bに切替え、前役物400の左右の装飾可動部401a,401bを互いに離れたり近づいたりするように左右に往復移動させる、つまり、合体位置と非合体位置との間で往復移動させるとともに(図21(G)参照)、背景画像の左右方向の中央位置を、装飾可動部401a,401bの対向面(内側面)に合わせて左右に移動表示させる(図21(G’)参照)。これにより、装飾可動部401a,401bが背景画像の左右方向の中央部を左右に切り裂いて開くように見せることができるとともに、開かれた部分、つまり、背景画像の非表示領域から液晶パネル5a、前透過液晶フィルム5c、導光板507、後透過液晶フィルム5dを透して後方の後役物450の一部が見えるため、後役物450の出現に対する期待感を高めることが出来る。」





イ 認定事項
(ア)引用文献1には、【0213】に「・・・図17は、(A)は前役物の昇降動作、(B)は左右スライド動作の態様を示す図である。図18は、(A)は前役物が退避位置にあるとき、(B)は演出位置にあるときにおける前役物との位置関係を示す図である。・・・」と記載され、
【0226】に「前役物400は、正面視半円形状をなす箱状の装飾可動部401a,401bと、これら装飾可動部401a,401bを支持する支持部402a,402bと・・・から主に構成されている。」と記載され、
【0227】に「・・・装飾可動部401a,401bは、支持部402a,402bそれぞれに対し左右方向に移動可能に設けられており、・・・互いの対向面(内側面)が当接する合体位置(図17(A)参照)と、互いの対向面が離間する非合体位置(図17(B)中実線位置参照)と、の間で左右方向にスライド移動可能に設けられている。」と記載されている。
また、引用文献1の前役物の昇降動作および左右スライド動作の態様を示す図である【図17】(A)、(B)、前役物が、退避位置にあるときおよび演出位置にあるときにおける前役物との位置関係を示す図である【図18】(A)、(B)には、前役物400の装飾可動部401a,401bが、演出位置において、左右スライド動作を行うことが図示されているものと認められる。
したがって、上記記載内容(【0213】、【0226】?【0227】)および上記図示内容(【図17】?【図18】)からみて、引用文献1には、「前役物400の装飾可動部401a,401bは、演出位置において、支持部402a,402bそれぞれに対し、互いの対向面(内側面)が当接する合体位置と、互いの対向面が離間する非合体位置と、の間で左右方向にスライド移動可能に設けられること」が示されているものと認められる。

(イ)引用文献1には、【0256】に「・・・演出制御用マイクロコンピュータは、演出ユニット300を再び状態Aに切替え、前役物400を退避位置から演出位置まで下降させるとともに(図21(F)参照)、演出表示装置5の表示画面に小図柄及び背景画像を表示する(図21(F’)参照)。」と記載されている。
また、引用文献1のスーパーリーチ演出の一例を示す説明図である【図21】(F’)には、前役物400が演出位置にあり、かつ、装飾可動部401a,401bが当接する合体位置にある状態のときに、演出表示装置5の表示画面に小図柄及び背景画像が表示されていることが図示されている。
したがって、上記記載内容(【0256】)および上記図示内容(【図21】)からみて、引用文献1には、「前役物400を退避位置から演出位置まで下降させて、かつ、装飾可動部401a,401bが当接する合体位置にある状態のときに、演出表示装置5の表示画面に小図柄及び背景画像を表示する演出制御用マイクロコンピュータ」が示されているものと認められる。

上記アの記載事項および上記イの認定事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(a?iは、本件補正発明のA?Iに対応させて付与した。)。
「a パチンコ遊技機1であって(【0014】)、
b スピーカ8L,8R(【0065】)と、
c 所定のメイン側エラー処理を実行することにより、パチンコ遊技機1の異常診断を行い、その診断結果に応じて必要ならば警告を発生可能とするCPU103(【0178】)と、
d 演出図柄を表示可能である演出表示装置5(【0020】)と、
e 前役物400と、
f 前役物400を退避位置から演出位置まで下降させて、かつ、装飾可動部401a,401bが当接する合体位置にある状態のときに、演出表示装置5の表示画面に小図柄及び背景画像を表示する演出制御用マイクロコンピュータ(認定事項(イ))とを備え、
e1 前役物400は、
演出表示装置5の表示画面の略中央前方に位置し該表示画面に前後に重畳する演出位置と、演出表示装置5の表示画面に対し前後に重畳しない退避位置との間で上下方向に移動可能とされ(【0229】?【0230】)、
正面視半円形状をなす箱状の装飾可動部401a,401bと、これら装飾可動部401a,401bを支持する支持部402a,402bと、これら左右の支持部402a,402bが連結され前役物400を昇降させる昇降機構403a,403bと、から主に構成され(【0226】)、
前役物400の装飾可動部401a,401bは、演出位置において、支持部402a,402bのそれぞれに対し、互いの対向面(内側面)が当接する合体位置と、互いの対向面が離間する非合体位置と、の間で左右方向にスライド移動可能に設けられ(認定事項(ア))、
g 演出制御用マイクロコンピュータは、前役物400の左右の装飾可動部401a,401bを互いに離れたり近づいたりするように左右に往復移動させる、つまり、合体位置と非合体位置との間で往復移動させるとともに(図21(G)参照)、背景画像の左右方向の中央位置を、装飾可動部401a,401bの対向面(内側面)に合わせて左右に移動表示させる(図21(G’)参照)ことにより、装飾可動部401a,401bが背景画像の左右方向の中央部を左右に切り裂いて開くように見せることができる(【0257】)
i パチンコ遊技機1。」

(3)引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された、本願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に閲覧可能となった特開2016-86904号公報(以下「引用文献2」という。)には、実施例1を中心として図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 記載事項
(ア)「[実施例1]
【0034】
図1に示すように、遊技機の一種であるパチンコ機50は、縦長の固定外郭保持枠をなす外枠51にて構成の各部を保持する構造である。外枠51の左側上下には、ヒンジ53が設けられており、該ヒンジ53の他方側には図3に記載する内枠70が取り付けられており、内枠70は外枠51に対して開閉可能な構成になっている。前枠52には、板ガラス61が取り外し自在に設けられており、板ガラス61の奥には図2に記載する遊技盤1が内枠70に取り付けられている。」

(イ)「【0130】
次に図32から図34に基づいて、特別図柄の変動中である場合に演出図柄表示装置6で表示される音量設定時の演出態様の一例を説明する。
・・・
【0133】
図34は、音量設定説明表示95の表示中に十字キー69の中ボタン69eを操作した場合の演出態様の一例となっている。
図34(a)は、特別図柄の変動がハズレで終了し、かつ特別図柄の保留記憶がない遊技状態である待機状態を示す。図34(a)に示すように、左演出図柄92が「4」、中演出図柄93が「3」で停止し、右演出図柄94が「5」で停止している。符号106が示す表示には、「音量設定説明表示による信頼度の報知はされません。音量設定説明表示による信頼度の報知を望む場合には、もう一度中ボタンを押してください。」と表示されているため、遊技者は十字キー69の中ボタン69eを操作したことになる。
その後、第1始動口11又は第2始動口12への遊技球の入球があると、特別図柄に対応する左演出図柄92、中演出図柄93及び右演出図柄94が変動を開始し、図34(b)に示すように、左演出図柄92、中演出図柄93及び右演出図柄94が変動中であることを示している。図34(c)に示すように特別図柄が変動を開始して、所定期間が経過しても、音量設定説明表示95の表示態様は変更されることはなく、第1表示態様95aのままである。
その後、図34(d)に示すように、遊技者が十字キ-69の下ボタン69bを操作した場合には、音量が「1」であることを示す音量レベルゲージ表示98が表示される。
・・・
【0135】
図35から図36は、パチンコ機50が異常状態となった場合に、演出図柄表示装置6で表示される警告表示の表示態様の一例を示す。
【0136】
次に、図35は、パチンコ機50が異常状態Aであった場合に演出図柄表示装置6の画面に表示される演出態様の一例を示す。
図35(a)に示すように、左演出図柄92、中演出図柄93、右演出図柄94が変動中である。演出図柄表示装置6の画面の下部右側位置に音量設定説明表示95が表示されている。そして、パチンコ機50が異常状態Aとなった場合には、異常状態Aに属する各異常状態に応じて図35(b)から図35(d)に示す演出表示が表示される。
【0137】
仮に、異常状態Aである磁力検出異常状態の場合には、図35(b)に示すように、警告マークと符号102が示す表示が表示される。符号102が示す表示には、「不正な磁力を検出しました。」と表示されている。演出図柄は変動中である。異常状態Aである電波検出異常状態の場合には、図35(c)に示すように、警告マークと符号102が示す表示が表示される。符号102が示す表示には、「悪質な電波を検出しました。」と表示されている。異常状態Aである振動異常状態の場合には、図35(d)に示すように、警告マークと符号102が示す表示が表示される。符号102が示す表示には、「振動を検出しました。」と表示されている。なお、図35(b)から図35(d)に示すように、パチンコ機50が異常状態Aである場合には、音量設定説明表示95は表示されない構成となっている。また、音量レベルゲージ表示98も表示されない構成となっている。」

上記アの記載事項および図面の図示内容を総合すると、引用文献2には、次の技術事項(以下「引用文献2に記載された技術事項」という。)が記載されていると認められる。
「特別図柄の変動中である場合に、遊技者が十字キ-69の下ボタン69bを操作すると、演出図柄表示装置6に音量レベルゲージ表示98が表示され(【0130】、【0133】)、
パチンコ機50が異常状態Aとなった場合に、異常状態Aに属する各異常状態に応じて、警告マークと「不正な磁力を検出しました。」等の表示が表示され(【0136】?【0137】)、
パチンコ機50が異常状態Aである場合には、音量レベルゲージ表示98が表示されない構成となっている(【0137】)
パチンコ機50(【0034】)。」

(4)対比
本件補正発明と引用発明とを、分説に従い対比する。
(a、i)
引用発明における構成a、iの「パチンコ遊技機1」は、本件補正発明における構成Aの「遊技を行なうことが可能な遊技機」、構成Iの「遊技機」に相当する。

(b)
引用発明における構成bの「スピーカ8L,8R」は、本件補正発明における構成Bの「音出力手段」に相当する。

(c)
引用発明における構成cの「所定のメイン側エラー処理を実行することにより、パチンコ遊技機1の異常診断を行」う「CPU103」は、本件補正発明における構成Cの「異常検出手段」としての機能を有する。

(d)
引用発明における「演出図柄」は、本件補正発明における「識別情報画像」に相当する。
また、引用発明における「演出表示装置5」が、「演出図柄」以外の予告演出や、他の情報等を表示可能なものであることは明らかである。
したがって、引用発明における構成dの「演出図柄を表示可能である演出表示装置5」と、本件補正発明における構成Dの「少なくとも音量の設定に関する設定画面と異常に関する情報と識別情報画像とを表示可能な表示手段」とは、「少なくとも識別情報画像」「を表示可能な表示手段」である点で共通する。

(e、e1)
引用発明における「演出表示装置5の表示画面の略中央前方に位置し該表示画面に前後に重畳する演出位置」、「演出表示装置5の表示画面に対し前後に重畳しない退避位置」、「上下方向に移動可能とされ」ることは、それぞれ、本件補正発明における「表示手段の表示を遮る所定位置」、「所定位置とは異なる表示手段を遮らない特定位置」、「移動可能であ」ることに相当する。
そして、引用発明における「装飾可動部401a,401b」が「互いの対向面(内側面)が当接する合体位置」にある状態、「装飾可動部401a,401b」が「互いの対向面が離間する非合体位置」にある状態、「左右方向にスライド移動可能」なことは、それぞれ、本件補正発明における「第1状態」、「第2状態」、「変化可能」なことに相当する。
したがって、引用発明における構成e、e1の「演出表示装置5の表示画面の略中央前方に位置し該表示画面に前後に重畳する演出位置と、演出表示装置5の表示画面に対し前後に重畳しない退避位置との間で上下方向に移動可能とされ」、「演出位置において、支持部402a,402bのそれぞれに対し、互いの対向面(内側面)が当接する合体位置と、互いの対向面が離間する非合体位置と、の間で左右方向にスライド移動可能に設けられ」た「装飾可動部401a,401b」を有する「前役物400」は、本件補正発明における構成Eの「表示手段の表示を遮る所定位置と、所定位置とは異なる表示手段を遮らない特定位置との間を移動可能であり、所定位置にて第1状態と第2状態とに変化可能な可動部材」に相当する。

(f)
上記(e、e1)より、引用発明における「装飾可動部401a,401bが当接する合体位置にある状態」にある「前役物400」は、本件補正発明における「第1状態である」「可動部材」に相当する。
そして、引用発明における「背景画像」は、「演出図柄」と異なる画像であることは当業者において明らかであるから、本件補正発明における「識別情報画像とは異なる特定画像のうち第1態様の特定画像」に相当する。
したがって、引用発明における構成fの「前役物400を退避位置から演出位置まで下降させて、かつ、装飾可動部401a,401bが当接する合体位置にある状態のときに、演出表示装置5の表示画面に小図柄及び背景画像を表示する演出制御用マイクロコンピュータ」は、本件補正発明における「可動部材が第1状態であるときに、識別情報画像とは異なる特定画像のうち第1態様の特定画像を表示手段に表示させる制御が可能な表示制御手段」に相当する。

(g)
引用発明における「前役物400の左右の装飾可動部401a,401b」が「互いに」「近づ」いた状態である「合体位置」にある状態は、上記(e、e1)より、本件補正発明における「第1状態」に相当する。
そして、引用発明における「前役物400の左右の装飾可動部401a,401b」が「互いに」「離れ」た状態である「非合体位置」にある状態は、上記(e、e1)より、本件補正発明における「第2状態」に相当する。
また、引用発明における「合体位置と非合体位置との間で往復移動させる」ことは、本件補正発明における「変化」することに相当する。
さらに、引用発明における「背景画像の左右方向の中央位置を、装飾可動部401a,401bの対向面(内側面)に合わせて左右に移動表示させる(図21(G’)参照)ことにより、装飾可動部401a,401bが背景画像の左右方向の中央部を左右に切り裂いて開くように見せ」ることは、「背景画像」がある態様から異なる態様に変化することであるといえるから、本件補正発明における「特定画像を第1態様から第2態様に変化させる」ことに相当する。
したがって、引用発明における構成gの「前役物400の左右の装飾可動部401a,401bを互いに離れたり近づいたりするように左右に往復移動させる、つまり、合体位置と非合体位置との間で往復移動させるとともに、背景画像の左右方向の中央位置を、装飾可動部401a,401bの対向面(内側面)に合わせて左右に移動表示させることにより、装飾可動部401a,401bが背景画像の左右方向の中央部を左右に切り裂いて開くように見せることができる」「演出制御用マイクロコンピュータ」は、本件補正発明における構成Gの「可動部材が第1状態から第2状態に変化したときに、特定画像を第1態様から第2態様に変化させる制御が可能であ」る「表示制御手段」に相当する。

上記(a、i)?(g)によれば、本件補正発明と引用発明は、
「A 遊技を行なうことが可能な遊技機であって、
B 音出力手段と、
C 異常検出手段と、
D’少なくとも識別情報画像を表示可能な表示手段と、
E 前記表示手段の表示を遮る所定位置と、前記所定位置とは異なる前記表示手段を遮らない特定位置との間を移動可能であり、前記所定位置にて第1状態と第2状態とに変化可能な可動部材と、
F 前記可動部材が前記第1状態であるときに、前記識別情報画像とは異なる特定画像のうち第1態様の前記特定画像を前記表示手段に表示させる制御が可能な表示制御手段とを備え、
G 前記表示制御手段は、前記可動部材が前記第1状態から前記第2状態に変化したときに、前記特定画像を前記第1態様から第2態様に変化させる制御が可能である
I 遊技機。」の点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1](構成D、H)
少なくとも識別情報画像を表示可能な表示手段に関して、本件補正発明は、音量の設定に関する設定画面と異常に関する情報とを表示可能であるとともに、異常に関する情報を設定画面よりも優先して表示可能であるのに対して、引用発明は、「異常診断」「の診断結果に応じて必要ならば警告を発生可能」であるが、音量の設定に関する設定画面と異常に関する情報とを表示可能であること、かつ、異常に関する情報を設定画面よりも優先して表示可能であることが特定されていない点。

[相違点2](構成H)
表示手段に関して、本件補正発明は、可動部材が特定位置から所定位置に移動しない場合であっても、特定画像を表示手段に表示させ、特定画像は、第1態様と第2態様のいずれの態様であったとしても、遊技者が認識可能に表示されるのに対して、引用発明は、そのような構成を備えることが特定されていない点。

(5)当審判合議体の判断
ア 相違点1について
引用発明は、構成cより、「異常診断」「の診断結果に応じて必要ならば警告を発生可能」なものである、すなわち、引用発明の「パチンコ遊技機1」は、異常が発生したことを報知可能なものである。

ここで、引用文献2に記載された技術事項と本件補正発明の構成D、Hとを対比する。
引用文献2に記載された技術事項の
「音量レベルゲージ表示98」、
「警告マーク」と「不正な磁力を検出しました。」等、
「特別図柄」、
「演出図柄表示装置6」、
「パチンコ機50が異常状態Aとなった場合に、異常状態Aに属する各異常状態に応じて、警告マークと「不正な磁力を検出しました。」等の表示が表示され」、かつ、「パチンコ機50が異常状態Aである場合には、音量レベルゲージ表示98が表示されない構成となっている」ことは、それぞれ、
本件補正発明の
「音量の設定に関する設定画面」、
「異常に関する情報」、
「識別情報画像」、
「表示手段」、
「異常に関する情報を前記設定画面よりも優先して表示可能であ」ることに相当する。
したがって、引用文献2に記載された技術事項は、上記相違点1に係る本件補正発明の構成の「音量の設定に関する設定画面と異常に関する情報とを表示可能」であるとともに、「異常に関する情報を設定画面よりも優先して表示可能である」「表示手段」に相当する。

そして、引用発明と引用文献2に記載された技術事項とは、異常が発生したことを報知可能な遊技機である点で共通する。
また、遊技機の技術分野において、異常の発生を表示すること、音量の設定画面を表示することは、ともに慣用手段にすぎず、さらに、音量の設定に関する設定画面を表示している際に、異常が発生した場合、異常の程度に応じて、音量の設定に関する設定画面よりも異常の発生を優先して表示させる必要のあることは、引用文献2に記載された技術事項のほか、特開2016-55082号公報の【0272】、【0296】、【0352】の記載事項からみて、本願出願前に周知の技術的課題であるといえる。
よって、引用発明に引用文献2に記載された技術事項を適用して、「異常診断」の結果、異常が発生した判定された際の警告を「演出表示装置5」での情報表示により行うとともに、「演出表示装置5」に「スピーカ8L,8R」の音量レベルゲージ表示を可能とし、さらに、異常表示を音量レベルゲージ表示に優先して行うことで、上記相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

イ 相違点2について
遊技機の技術分野において、故障等の発生により、可動部材が退避位置から演出位置に移動しない場合であっても、故障等の発生がなく、可動部材が退避位置から演出位置に移動する場合であっても、可動部材の形状に対応する画像を含む所定画像を表示手段に表示させることは、本願出願前に周知の技術事項である(例えば、特開2009-268729号公報の【0070】に「画像表示部20には可動演出体24の作動に同期して可動アーム23、可動演出体24に対応する部分を除いて演出画像27を表示するようにしているが、可動アーム23、可動演出体24の裏側に対応する部分にも、可動アーム23、可動演出体24の形状に対応する演出画像を表示するようにしてもよい。このようにすれば、駆動手段35の故障等により可動演出体24が退避位置から作動しなくなった場合にも、演出画像27との整合性を保つことができる。」と記載され、
特開2007-202639号公報の【0130】?【0131】に「また、可動物112を作動させる駆動機構が故障していない場合には、CPU281は、・・・該可動物112の先端部分が、液晶表示器52に表示される右列の仮停止図柄「6」に重なる位置まで移動させる。また、演出表示基板260のCPU261は、所定の色に発光した可動物112を表す映像可動物121を、遊技者側から見て移動する可動物112に重なるように液晶表示器52に表示する。そして、この映像可動物121の先端部分が、液晶表示器52に表示される右列の仮停止図柄「6」に重なる位置まで移動表示された場合には、該仮停止図柄「6」がパンチを受けて破壊される状態を表示する。・・・一方、図34(E2)に示すように、可動物112を作動させる駆動機構が故障した場合には、可動物112は、原点位置で所定の色に発光する。また、演出表示基板260のCPU261は、所定の色に発光した可動物112を表す映像可動物121を、可動物112が動く予定だった移動経路上に重なるように液晶表示器52に表示する。そして、この映像可動物121の先端部分が、液晶表示器52に表示される右列の仮停止図柄「6」に重なる位置まで移動表示された場合には、該仮停止図柄「6」がパンチを受けて破壊される状態を表示する。
これにより、可動物112を作動させる駆動機構が故障した場合でも、映像可動物121が仮停止図柄「6」をパンチで破壊するように見せることが可能となる。」と記載されている。以下「周知の技術事項」という。)。
そして、引用発明において、「前役物400」は、「昇降機構403a,403b」により「昇降」されるものであるから、「昇降機構403a,403b」が故障することは十分想定される。
また、引用発明と上記周知の技術事項とは、演出位置と退避位置との間を移動可能な可動役物を備え、可動役物が演出位置にある場合、可動役物に対応する演出画像を表示手段に表示する遊技機である点で共通する。
したがって、引用発明に上記周知の技術事項を適用して、「前役物400」の「昇降機構403a,403b」が故障等により退避位置から演出位置に移動しない場合であっても、故障等の発生がなく、「前役物400」が退避位置から演出位置に移動する場合であっても、「前役物400」の形状に対応する画像を含む、「背景画像の左右方向の中央位置を」「左右に移動表示させ」る画像(上記(4)(f)および(g)で検討したとおり、本件補正発明の「特定画像」に相当する。)を「演出表示装置5」に表示させることは、当業者が容易になし得たものであり、その際に、「中央位置」が「左右に移動表示させ」る「背景画像」は、「前役物400」に遮られることはないため、遊技者に認識可能に表示されることは明らかである。
よって、引用発明に上記周知の技術事項を適用して、上記相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは当業者が容易になし得たものである。

ウ 請求人の主張について
請求人は、令和1年8月2日付け審判請求書において、以下のように主張している。
なお、請求人の主張中の「引用文献1」は、補正却下の際に新たに引用された引用文献(特開2001-137461号公報)を指すものであるが、審決において認定した引用発明が記載された引用文献1は、最初の拒絶理由通知および最後の拒絶理由通知において引用した引用文献1(特開2015-23921号公報)であって、両者は異なる。
「 3.本願発明が特許されるべき理由
・・・
(2)本願発明と引用文献に記載された発明との比較
請求項1に係る発明と引用文献1に記載された発明とを比較すると、少なくとも、今回補正した「前記表示手段は、前記異常に関する情報を前記設定画面よりも優先して表示可能であり、前記可動部材が前記特定位置から前記所定位置に移動しない場合であっても、前記特定画像を前記表示手段に表示させ、前記特定画像は、前記第1態様と前記第2態様のいずれの態様であったとしても、遊技者が認識可能に表示される」という構成要素が大きく異なる。
すなわち、請求項1に係る発明では、可動部材が第1状態から第2状態に変化する場合、特定画像の態様も第1態様から第2態様に変化し、可動部材が移動しない場合であっても特定画像は第1態様から第2態様に変化するため、[0282]段落に記載の通り、可動部材に不具合が生じ動作することができなくても特定画像の変化により演出結果を報知することが可能となり遊技者に誤った報知をすることなく、遊技者は正確に認識可能となる効果を有する。
これに対して、引用文献1に記載の遊技機は[0027]?[0054]図1、図6、図10、図11、図12、に記載の通り、可動部材が可動してから引っ込んだのちに星図柄98が表示されるものであり、本願発明の様に可動部材が移動しない場合であっても画像を表示するものではなく構成が大きく異なり相違する。」

そこで、請求人の上記主張について検討する。
まず、請求人の上記主張において、「大きく異なる構成要素」とされる構成は、本件補正発明の構成Hに該当し、当該構成Hの前半部分については、上記「ア 相違点1について」において検討したとおり、引用文献2に記載された技術事項が備える構成であり、引用発明に引用文献2に記載された技術事項を適用することにより当業者が容易になし得たものであり、また、当該構成Hの後半部分については、「イ 相違点2について」において検討したとおり、引用発明に上記周知の技術事項を適用することにより当業者が容易になし得たものである。

次に、請求人が主張する本件補正発明が奏するとする「可動部材に不具合が生じ動作することができなくても特定画像の変化により演出結果を報知することが可能となり遊技者に誤った報知をすることなく、遊技者は正確に認識可能となる効果」について検討する。
本件補正発明は、構成Gにおいて、「特定画像を第1態様から第2態様に変化させる制御が可能であ」ることを特定するが、特定画像の変化させることによって演出結果を報知することまでを特定するものでない。
したがって、本件補正発明が、遊技者が演出結果を認識可能となる効果を奏する旨の請求人の上記主張は、特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって、採用することはできない。

よって、請求人の上記主張は、いずれも採用することができない。

エ 小括
本件補正発明により奏される効果は、当業者が、引用発明、引用文献2に記載された技術事項、および、上記周知の技術事項から予測し得た効果の範囲内のものであって、格別なものではない。
よって、本件補正発明は、引用発明、引用文献2に記載された技術事項、および、上記周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

(6)まとめ
上記(1)?(5)より、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たさないものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成30年5月17日付け手続補正書の請求項1に記載された、次のとおりのものと認める。
「A 遊技を行なうことが可能な遊技機であって、
B 音出力手段と、
C 異常検出手段と、
D1 少なくとも音量の設定に関する設定画面と異常に関する情報とを表示可能な表示手段と、
E1 前記表示手段の表示を遮る所定位置で、第1状態と第2状態とに変化可能な可動部材と、
F1 前記可動部材が前記第1状態であるときに、第1態様の特定画像を前記表示手段に表示させる制御が可能な表示制御手段とを備え、
G 前記表示制御手段は、前記可動部材が前記第1状態から前記第2状態に変化したときに、前記特定画像を前記第1態様から第2態様に変化させる制御が可能であり、
H1 前記表示手段は、前記異常に関する情報を前記設定画面よりも優先して表示可能な
I ことを特徴とする遊技機。」

2 原査定の拒絶の理由
(進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1?2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開2015-23921号公報
2.特開2016-86904号公報

3 引用文献に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された引用文献1の記載事項、および、引用発明の認定については、前記「第2[理由] 2 2-2(2)引用文献1」に記載したとおりであり、また、同様に引用文献2として引用された引用文献2の記載事項、および、引用文献2に記載された技術事項の認定については、前記「第2[理由] 2 2-2(3)引用文献2」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記「第2[理由] 2 2-2(1)」で検討した本件補正発明から、「表示手段」に「表示可能な」内容に関して、「少なくとも音量の設定に関する設定画面と異常に関する情報と識別情報画像」とあったものを、「少なくとも音量の設定に関する設定画面と異常に関する情報」との限定を省き、「可動部材」に関して、「前記所定位置とは異なる前記表示手段を遮らない特定位置との間を移動可能であ」るとの限定を省き、「特定画像」に関して、「識別情報画像とは異なる」との限定を省き、さらに、「表示手段」に関して、「前記可動部材が前記特定位置から前記所定位置に移動しない場合であっても、前記特定画像を前記表示手段に表示させ、前記特定画像は、前記第1態様と前記第2態様のいずれの態様であったとしても、遊技者が認識可能に表示される」との限定を省くものである。
そうすると、本件補正発明は本願発明の特定事項をすべて含み、さらに他の構成を付加したものであって、本願発明と引用発明とを対比したときの相違点は、前記「第2[理由] 2 2-2(4)対比」における検討内容からみて、構成D1、H1の表示手段に関して、前記相違点1で相違し、その余の点において一致する。

そして、前記相違点1についての判断は、前記「第2[理由] 2 2-2(5)当審判合議体の判断 ア 相違点1について」における検討内容と同様である。
よって、本願発明は、引用発明に引用文献2に記載された技術事項を適用することにより、当業者が容易になし得たものである。

5 むすび
上記1?4より、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-02-05 
結審通知日 2020-02-12 
審決日 2020-02-26 
出願番号 特願2016-102911(P2016-102911)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A63F)
P 1 8・ 121- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 永田 美佐  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 長崎 洋一
▲高▼橋 祐介
発明の名称 遊技機  

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