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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H02M
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H02M
審判 一部申し立て 2項進歩性  H02M
管理番号 1361440
異議申立番号 異議2019-700342  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-05-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-25 
確定日 2020-02-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6416690号発明「直流電源装置および空気調和機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6416690号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。 特許第6416690号の請求項2ないし4、10ないし12に係る特許を維持する。 特許第6416690号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する 
理由 第1 手続の経緯

特許第6416690号の請求項1ないし12に係る特許についての出願は、平成27年5月13日に出願され、平成30年10月12日にその特許権の設定登録がなされ、同年10月31日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対して2件の特許異議の申立てがなされたものであり、以後の本件に係る手続の概要は以下のとおりである。
平成31年 4月25日 特許異議申立人 角田 朗による請求項1に
係る特許に対する特許異議の申立て
平成31年 4月26日 特許異議申立人 井澤 幹による請求項1な
いし4、10ないし12に係る特許に対する
特許異議の申立て
令和 1年 7月 3日付け 取消理由通知
令和 1年 8月28日 特許権者による訂正請求書の提出
令和 1年 9月 3日 令和1年8月28日付け訂正請求に対する請
求取下書の提出
令和 1年 9月 3日 特許権者による訂正請求書の提出
令和 1年10月 3日 特許異議申立人 角田 朗による意見書の提

令和 1年11月18日付け 取消理由通知(決定の予告)
令和 1年12月27日 特許権者による訂正請求書及び意見書の提出

なお、先にした令和1年9月3日付けの訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否

1.訂正の内容

令和1年12月27日付けの訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、特許第6416690号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし12について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、以下の訂正事項のとおりである(なお、下線は訂正部分を示す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記制御部は、
交流全周期に亘って前記同期整流制御を実施する全波整流動作と、
前記同期整流制御を実施すると共に、前記交流電源の所定位相にて部分的に前記回路短絡制御を実施する部分スイッチング動作と、
交流全周期に亘って前記同期整流制御と前記回路短絡制御とを交互に実施する高速スイッチング動作、のうちいずれかの動作に切り替える、
ことを特徴とする、請求項1に記載の直流電源装置。」と記載されているのを、独立形式に改める。
更に、訂正前の請求項1に記載の「前記交流電源の電圧の極性に同期して」との記載を、「前記交流電源の電圧の極性が切り替わるゼロクロスのタイミングで」に訂正する。
請求項2を直接的または間接的に引用する請求項3ないし9、12についても同様に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項10に「・・ことを特徴とする請求項1に記載の直流電源装置。」と記載されているのを、「・・ことを特徴とする請求項2に記載の直流電源装置。」に訂正する。
請求項10を引用する請求項12についても同様に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項11に「・・ことを特徴とする請求項1に記載の直流電源装置。」と記載されているのを、「・・ことを特徴とする請求項2に記載の直流電源装置。」に訂正する。
請求項11を引用する請求項12についても同様に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項12に「請求項1ないし請求項11のうち何れか1項に記載の直流電源装置を備えた、・・」と記載されているのを、「請求項2ないし請求項11のうち何れか1項に記載の直流電源装置を備えた、・・」に訂正する。

(6)訂正事項6
明細書の段落【0007】の「前記した課題を解決するため、第1の発明では、第1のダイオードのカソードと第1のスイッチング素子の一端とが出力側の正極に接続され、前記第1のダイオードのアノードと第2のダイオードのカソードとが交流電源の一端側に接続され、前記第1のスイッチング素子の他端と第2のスイッチング素子の一端とが前記交流電源の他端側に接続され、前記第2のダイオードのアノードと前記第2のスイッチング素子の他端とが出力側の負極に接続されることによりブリッジ接続される整流回路と、交流電源と前記整流回路との間に設けられるリアクトルと、前記整流回路の出力側に接続され、前記整流回路から印加される電圧を平滑化する平滑コンデンサと、前記交流電源の電圧の極性に同期して前記第1のスイッチング素子と前記第2のスイッチング素子を双方向にスイッチングして負荷に電流を流す同期整流制御を実施すると共に、前記交流電源の半周期間に前記リアクトルを前記交流電源に短絡する回路短絡制御を繰り返し複数回実施する制御部と、を備えることを特徴とする直流電源装置とした。」との記載を、「前記した課題を解決するため、第1の発明では、第1のダイオードのカソードと第1のスイッチング素子の一端とが出力側の正極に接続され、前記第1のダイオードのアノードと第2のダイオードのカソードとが交流電源の一端側に接続され、前記第1のスイッチング素子の他端と第2のスイッチング素子の一端とが前記交流電源の他端側に接続され、前記第2のダイオードのアノードと前記第2のスイッチング素子の他端とが出力側の負極に接続されることによりブリッジ接続される整流回路と、交流電源と前記整流回路との間に設けられるリアクトルと、前記整流回路の出力側に接続され、前記整流回路から印加される電圧を平滑化する平滑コンデンサと、前記交流電源の電圧の極性が切り替わるゼロクロスのタイミングで前記第1のスイッチング素子と前記第2のスイッチング素子を双方向にスイッチングして負荷に電流を流す同期整流制御を実施すると共に、前記交流電源の半周期間に前記リアクトルを前記交流電源に短絡する回路短絡制御を繰り返し複数回実施する制御部と、を備え、前記制御部は、交流全周期に亘って前記同期整流制御を実施する全波整流動作と、前記同期整流制御を実施すると共に、前記交流電源の所定位相にて部分的に前記回路短絡制御を実施する部分スイッチング動作と、交流全周期に亘って前記同期整流制御と前記回路短絡制御とを交互に実施する高速スイッチング動作、のうちいずれかの動作に切り替えることを特徴とする直流電源装置とした。」に訂正する。

(7)訂正事項7
明細書の段落【0008】の「第2の発明では、請求項1に記載の直流電源装置を備えたことを特徴とする空気調和機とした。・・」との記載を、「第2の発明では、請求項2に記載の直流電源装置を備えたことを特徴とする空気調和機とした。・・」に訂正する。

2.訂正の適否についての判断
(1)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし12について、請求項2ないし12は、請求項1を直接または間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1ないし12に対応する訂正後の請求項1ないし12は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否等
ア.訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であリ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

イ.訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2が請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して請求項1の記載を引用しないものとして独立形式の請求項へ改めるとともに、令和1年7月3日付けで通知した取消理由(特許法第36条第6項第2号)で指摘した記載不備を解消するために、「極性に同期して」との記載を「極性が切り替わるゼロクロスのタイミングで」と訂正することにより不明瞭さを正し、訂正後の請求項2に係る発明を明確なものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」、及び第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
そして、訂正事項2は上述のとおり、独立形式の請求項へ改めるだけでなく、明瞭でない記載の釈明を目的として含むものであるところ、本件特許明細書の段落【0027】に「・・なお、MOSFET(Q2)のオン動作開始のタイミングとしては、交流電源電圧Vsの極性が負から正に切り替わるゼロクロスのタイミングから行う。MOSFET(Q2)のオフさせるタイミングとしては、交流電源電圧Vsの極性が正から負に切り替わるタイミングである。」と記載され、段落【0028】に「・・なお、MOSFET(Q2)のオン動作開始のタイミングとしては、交流電源電圧Vsの極性が正から負に切り替わるゼロクロスのタイミングから行う。MOSFET(Q2)のオフさせるタイミングとしては、交流電源電圧Vsの極性が負から正に切り替わるタイミングである。」と記載(なお、下線を付した「Q2」なる記載(2箇所)は、「Q1」の誤記であると認められる。)されていることから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
また、訂正事項2は上述のとおり、独立形式の請求項へ改めるとともに、明瞭でない記載の釈明を目的として訂正前の不明瞭さを正すものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第第6項の規定に適合する。

ウ.訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項10が請求項1を引用するものであったのを、請求項2を引用するようにしたものであり、かかる引用先の変更によって実質的に、訂正前の請求項10に係る発明における「制御部」について、訂正前の請求項2に記載されていた事項である「交流全周期に亘って前記同期整流制御を実施する全波整流動作と、前記同期整流制御を実施すると共に、前記交流電源の所定位相にて部分的に前記回路短絡制御を実施する部分スイッチング動作と、交流全周期に亘って前記同期整流制御と前記回路短絡制御とを交互に実施する高速スイッチング動作、のうちいずれかの動作に切り替える」ものであることの限定を付加するとともに、上記訂正事項2による訂正に伴い、「極性に同期して」との記載を「極性が切り替わるゼロクロスのタイミングで」と訂正して不明瞭さを正すものとなっていることから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、及び第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、訂正事項3は上述のとおり、訂正前の請求項2に記載されていた事項の限定を付加することによって特許請求の範囲を減縮するとともに、明瞭でない記載の釈明を目的として本件特許明細書中の記載に基づいて訂正前の不明瞭さを正すものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

エ.訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項11が請求項1を引用するものであったのを、請求項2を引用するようにしたものであり、かかる引用先の変更によって実質的に、訂正前の請求項11に係る発明における「制御部」について、訂正前の請求項2に記載されていた事項である「交流全周期に亘って前記同期整流制御を実施する全波整流動作と、前記同期整流制御を実施すると共に、前記交流電源の所定位相にて部分的に前記回路短絡制御を実施する部分スイッチング動作と、交流全周期に亘って前記同期整流制御と前記回路短絡制御とを交互に実施する高速スイッチング動作、のうちいずれかの動作に切り替える」ものであることの限定を付加するとともに、上記訂正事項2による訂正に伴い、「極性に同期して」との記載を「極性が切り替わるゼロクロスのタイミングで」と訂正して不明瞭さを正すものとなっていることから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、及び第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、訂正事項4は上述のとおり、訂正前の請求項2に記載されていた事項の限定を付加することによって特許請求の範囲を減縮するとともに、明瞭でない記載の釈明を目的として本件特許明細書中の記載に基づいて訂正前の不明瞭さを正すものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

オ.訂正事項5について
訂正事項5は、上記訂正事項1による訂正に伴い、訂正前の請求項12が請求項1ないし11を引用する記載であったものを、請求項1の引用を削除し、請求項2ないし11を引用する記載として引用請求項を減少させたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

カ.訂正事項6について
訂正事項6は、上記訂正事項1、2による訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であリ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
また、明細書の訂正である訂正事項6に関係する一群の請求項の全て(請求項1ないし12)が訂正請求の対象とされているから、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。

キ.訂正事項7について
訂正事項7は、上記訂正事項1、2、5による訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であリ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
また、明細書の訂正である訂正事項7に関係する一群の請求項の全て(請求項1ないし12)が訂正請求の対象とされているから、訂正事項7は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。

(3)特許出願の際に独立して特許を受けることができること
上記訂正事項1、3ないし5については、「特許請求の範囲の減縮」を目的として含むものであるが、本件においては、訂正前の請求項1ないし4、10ないし12について特許異議の申立てがなされているので、訂正前の請求項1、10ないし12に係る訂正事項1、3ないし5に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
なお、特許異議の申立てがなされていない訂正前の請求項5ないし9については、実質的に上記訂正事項2による訂正に伴い、「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正がなされているだけであるから、これらについても、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3.訂正の適否についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項で準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合する。
よって、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。

第3 当審の判断

1.本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし12に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明12」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定される次のとおりのものである(なお、下線は訂正された箇所を示す。)。
「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
第1のダイオードのカソードと第1のスイッチング素子の一端とが出力側の正極に接続され、前記第1のダイオードのアノードと第2のダイオードのカソードとが交流電源の一端側に接続され、前記第1のスイッチング素子の他端と第2のスイッチング素子の一端とが前記交流電源の他端側に接続され、前記第2のダイオードのアノードと前記第2のスイッチング素子の他端とが出力側の負極に接続されることによりブリッジ接続される整流回路と、
交流電源と前記整流回路との間に設けられるリアクトルと、
前記整流回路の出力側に接続され、前記整流回路から印加される電圧を平滑化する平滑コンデンサと、
前記交流電源の電圧の極性が切り替わるゼロクロスのタイミングで前記第1のスイッチング素子と前記第2のスイッチング素子を双方向にスイッチングして負荷に電流を流す同期整流制御を実施すると共に、前記交流電源の半周期間に前記リアクトルを前記交流電源に短絡する回路短絡制御を繰り返し複数回実施する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
交流全周期に亘って前記同期整流制御を実施する全波整流動作と、
前記同期整流制御を実施すると共に、前記交流電源の所定位相にて部分的に前記回路短絡制御を実施する部分スイッチング動作と、
交流全周期に亘って前記同期整流制御と前記回路短絡制御とを交互に実施する高速スイッチング動作、のうちいずれかの動作に切り替える、
ことを特徴とする直流電源装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記整流回路の出力側の負荷の大きさに応じて、前記全波整流動作と前記部分スイッチング動作と前記高速スイッチング動作のうちいずれかの動作に切り替える、
ことを特徴とする請求項2に記載の直流電源装置。
【請求項4】
前記制御部は、上位装置の運転領域に応じて、前記全波整流動作と前記部分スイッチング動作と前記高速スイッチング動作のうちいずれかの動作に切り替える、
ことを特徴とする請求項2に記載の直流電源装置。
【請求項5】
前記交流電源の一端側の電圧が正極性の場合は、同一のスイッチング周期の中で前記第1のスイッチング素子に設けたデッドタイムに対して、前記第2のスイッチング素子に設けたデッドタイムを相対的に大きくし、前記交流電源の一端側の電圧が負極性の場合は、前記第1のスイッチング素子に設けたデッドタイムに対して、前記第2のスイッチング素子に設けたデッドタイムを相対的に小さくする、
ことを特徴とする請求項2に記載の直流電源装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記第1,第2のスイッチング素子の制御のデッドタイムを前記交流電源の電圧の大きさに応じて変化させる、
ことを特徴とする請求項5に記載の直流電源装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記第1,第2のスイッチング素子の制御のデッドタイムを前記交流電源の電圧位相に応じて変化させる、
ことを特徴とする請求項5に記載の直流電源装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記第1,第2のスイッチング素子の制御のデッドタイムを、電源電圧ゼロクロス付近に対して電源電圧ピーク付近の方が小さくなるように変化させる、
ことを特徴とする請求項5に記載の直流電源装置。
【請求項9】
前記交流電源の一端側の電圧が正極性の場合は、同一のスイッチング周期の中で、前記第2のスイッチング素子の制御にデッドタイムを設けて、前記第1のスイッチング素子の制御には設けず、前記交流電源の一端側の電圧が負極性の場合は、同一のスイッチング周期の中で、前記第1のスイッチング素子側の制御にデッドタイムを設け、前記第2のスイッチング素子側の制御には設けない、
ことを特徴とする請求項2に記載の直流電源装置。
【請求項10】
前記第1,第2のダイオードは、SiC(Silicon Carbide)-ショットキーバリアダイオードまたは整流ダイオードである、
ことを特徴とする請求項2に記載の直流電源装置。
【請求項11】
前記第1,第2のスイッチング素子は、スーパージャンクションMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)またはSiC-MOSFETである、
ことを特徴とする請求項2に記載の直流電源装置。
【請求項12】
請求項2ないし請求項11のうち何れか1項に記載の直流電源装置を備えた、
ことを特徴とする空気調和機。」

2.取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
令和1年7月3日付け取消理由通知に記載した取消理由、及び同年11月18日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1-1)令和1年7月3日付け取消理由通知
請求項1ないし4、10ないし12に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

請求項1において、「前記交流電源の電圧の極性に同期して前記第1のスイッチング素子と前記第2のスイッチング素子を双方向にスイッチングして負荷に電流を流す同期整流制御を実施する・・」とあるが、ここでいう電圧の「極性に同期して」の意味するところが不明確である。
よって、請求項1に係る発明及び請求項1に従属する請求項2ないし4、10ないし12に係る発明は明確なものでない。

(1-2)令和1年11月18日付け取消理由通知(決定の予告)
ア.特許法第29条第1項第3号
請求項1、請求項11、請求項12(ただし、請求項1または11を引用するもの)に係る発明は、下記の引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1、11、12に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
イ.特許法第29条第2項
請求項10、請求項12(ただし、請求項10を引用するもの)に係る発明は、下記の引用例に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項10、12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

引用例:特許第4935251号公報(特許異議申立人 角田 朗が提出した甲第3号証)

(2)引用例の記載事項
引用例(特許第4935251号公報、特許議申立人 角田 朗が提出した甲第3号証)には、「電力変換装置」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【0022】
《発明の実施形態1》
本発明の実施形態1について説明する。図1に示すように、本実施形態の電力変換装置(1)は、整流回路(2)と、コンデンサ回路(3)と、インバータ回路(5)と、制御回路(8)とを備えている。
【0023】
上記整流回路(2)は、リアクトル(L)とスイッチングレグ(leg4)を各1つ備えている。
【0024】
上記スイッチングレグ(leg4)は、2つのスイッチング素子(2a,2b)が直列に設けられている。そして、スイッチングレグ(leg4)は、後述するコンデンサ回路(3)とでブリッジ結線されている。つまり、スイッチングレグ(leg4)がコンデンサ回路(3)と並列に接続され、交流電源である商用電源(10)がスイッチングレグ(leg4)の中間点とコンデンサ回路(3)の中間点との間に接続されている。リアクトル(L)は、商用電源(10)とスイッチングレグ(leg4)の中間点との間に接続されている。整流回路(2)では、商用電源(10)の交流電圧が直流電圧に変換される。
【0025】
上記コンデンサ回路(3)は、2つのコンデンサ(3a,3b)が直列に設けられている。そして、コンデンサ回路(3)は、整流回路(2)で変換された直流電圧を充放電するものである。」

イ.「【0035】
また、制御回路(8)は、商用電源(10)の電源電圧の極性に応じて同期整流するように、整流回路(2)のスイッチング素子(2a,2b)をスイッチングする。例えば、電源電圧の極性が正に切り換わると同時に、スイッチングレグ(leg4)の上アーム側のスイッチング素子(2a)をオンし、電源電圧の極性が負に切り換わると同時に、下アーム側のスイッチング素子(2b)をオンする。ここで、MOS-FETは、スイッチング速度がIGBT等よりも速いため、確実に同期整流の制御を行うことができる。したがって、整流回路(2)における損失低下、且つ、電力変換効率の向上を図ることができる。その結果、電動機(11)の運転効率を一層向上させることができる。
【0036】
また、制御回路(8)は、次の制御を行うように構成してもよい。
【0037】
制御回路(8)は、商用電源(10)の電源半周期の間に、整流回路(2)を
一回または複数回短絡させ(以下、短絡制御という。)、それ以外の期間は上述した同期整流の制御を行うようにする。ここでは、電源極性が正の半周期における制御について説明する。
【0038】
この場合、電源極性が正に切り換わると同時に、上アーム側のスイッチング素子(2a)をオンし、同期整流の制御を行う。そして、オンしてから所定時間が経過すると、オン状態のスイッチング素子(2a)をオフすると共に、下アーム側のスイッチング素子(2b)をオンし、短絡制御を行う。この短絡制御では、正の交流電流がリアクトル(L)、スイッチング素子(2b)、コンデンサ回路(3)の下側のコンデンサ(3b)へ順に流れる。そうすると、電源電圧が短絡し、リアクトル(L)を流れる電流の通電幅が大きくなる。これにより、電源力率が向上する。スイッチング素子(2b)がオンされてから所定時間が経過すると、オン状態のスイッチング素子(2b)をオフすると共に、上アーム側のスイッチング素子(2a)をオンし、再び同期整流の制御を行う。つまり、この制御では、電源極性が正の半周期の間に、同期整流の制御と短絡制御とが交互に行われる。なお、電源極性が負の半周期についても同様の制御が行われる。したがって、このような制御を行うことにより、整流回路(2)の低損失化を図りつつ、電源力率をも向上させることができる。」

ウ.「【0045】
《発明の実施形態2》
本発明の実施形態2について説明する。本実施形態は、図5に示すように、上記実施形態1における整流回路(2)にダイオードレグ(leg5)を追加すると共に、その整流回路(2)とコンデンサ回路(3)との間に新たなスイッチ(7)を設けたものである。ここでは、上記実施形態1と異なる点について説明する。
【0046】
本実施形態の整流回路(2)は、リアクトル(L)とスイッチングレグ(leg4)とダイオードレグ(leg5)を各1つ備えている。ダイオードレグ(leg5)は、2つのダイオード(2c,2d)が直列に設けられている。この整流回路(2)では、スイッチングレグ(leg4)とダイオードレグ(leg5)とがブリッジ結線されている。つまり、商用電源(10)がスイッチングレグ(leg4)の中間点とダイオードレグ(leg5)の中間点との間に接続されている。上記スイッチ(7)は、ダイオードレグ(leg5)の中間点とコンデンサ回路(3)の中間点との間に接続されている。つまり、本実施形態の整流回路(2)は、スイッチ(7)がオン状態になると、倍電圧整流回路に切り換わり、スイッチ(7)がオフ状態になると、全波整流回路に切り換わるように構成されている。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0048】
本実施形態の制御回路(8)は、スイッチ(7)がオン状態およびオフ状態の何れの場合も、上記実施形態2と同様に、商用電源(10)の電源電圧の極性に応じて同期整流するように整流回路(2)のスイッチング素子(2a,2b)をスイッチングする。つまり、倍電圧整流回路および全波整流回路の双方において、同期整流が行われる。したがって、上記実施形態と同様に、損失低下と電力変換効率の向上とを図ることができる。特に、全波整流回路においては、倍電圧整流回路の場合よりも電源電圧を低くできるため、スイッチング損失や電動機(11)の渦電流損失を低減することができる。その結果、電動機(11)の運転効率を一層向上させることができる。
【0049】
なお、本実施形態では、スイッチ(7)をオフにして全波整流回路に切り換えた場合において、上記実施形態2と同様に、電源半周期の間に同期整流の制御と短絡制御とを交互に行うようにしてもよい。その場合も、整流回路(2)の低損失化を図りつつ、電源力率を向上させることができる。」
(なお、段落【0048】及び【0049】中、「上記実施形態2と同様に」なる記載は、「上記実施形態1と同様に」の誤記であると認められる。)

・上記引用例に記載の「電力変換装置」は、上記「ア.」、「ウ.」の記載事項、及び図5によれば、整流回路(2)と、コンデンサ回路(3)と、制御回路(8)とを備え、整流回路(2)は、リアクトル(L)とスイッチングレグ(leg4)とダイオードレグ(leg5)を各1つ備えてなるものである。
そして、スイッチングレグ(leg4)は2つのスイッチング素子(2a,2b)が直列に設けられ、ダイオードレグ(leg5)は2つのダイオード(2c,2d)が直列に設けられてなり、商用電源(10)がスイッチングレグ(leg4)の中間点とダイオードレグ(leg5)の中間点との間に接続されることで、スイッチングレグ(leg4)とダイオードレグ(leg5)とがブリッジ結線されてなるものである。
また、リアクトル(L)は、商用電源(10)とスイッチングレグ(leg4)の中間点との間に接続されている。
・上記「ア.」の段落【0025】の記載事項、及び図5によれば、コンデンサ回路(3)は、整流回路(2)の出力側に設けられ、直列に設けられた2つのコンデンサ(3a,3b)からなり、整流回路(2)で変換された直流電圧を充放電するものである。
・上記「ウ.」の段落【0046】の記載事項によれば、ダイオードレグ(leg5)の中間点とコンデンサ回路(3)の中間点との間に接続されているスイッチ(7)がオフ状態になると、整流回路(2)は全波整流回路に切り換わる構成となっている。
・上記「イ.」、「ウ.」の記載事項によれば、制御回路(8)は、スイッチ(7)をオフにして全波整流回路に切り換えた場合において、商用電源(10)の電源半周期の間に、整流回路(2)を複数回短絡させ、それ以外の期間は同期整流の制御を行って、同期整流の制御と短絡制御とを交互に行うようにしてなるものである。ここで、同期整流の制御は、商用電源(10)の電源電圧の極性が正に切り換わると同時にスイッチングレグ(leg4)の上アーム側のスイッチング素子(2a)をオンし、電源電圧の極性が負に切り換わると同時に下アーム側のスイッチング素子(2b)をオンすることにより行われる。

したがって、特に図5に示される実施形態2に係るものであって、整流回路(2)を全波整流回路に切り換えた場合(スイッチ(7)がオフ状態の場合)に着目し、上記記載事項および図面を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「全波整流回路を構成する整流回路と、コンデンサ回路と、制御回路とを備えた電力変換装置であって、
前記整流回路は、リアクトルと、2つのスイッチング素子が直列に設けられたスイッチングレグと、2つのダイオードが直列に設けられダイオードレグとを各1つ備え、商用電源が前記スイッチングレグの中間点と前記ダイオードレグの中間点との間に接続されることで、前記スイッチングレグと前記ダイオードレグとがブリッジ結線されてなり、また、前記リアクトルは、前記商用電源と前記スイッチングレグの中間点との間に接続され、
前記コンデンサ回路は、前記整流回路の出力側に設けられ、直列に設けられた2つのコンデンサからなり、前記整流回路で変換された直流電圧を充放電するものであり、
前記制御回路は、商用電源の電源電圧の極性が正に切り換わると同時に前記スイッチングレグの上アーム側のスイッチング素子をオンし、電源電圧の極性が負に切り換わると同時に下アーム側のスイッチング素子をオンすることにより同期整流の制御を行うとともに、前記商用電源の電源半周期の間に、前記整流回路を複数回短絡させ、それ以外の期間は前記同期整流の制御を行って、前記同期整流の制御と短絡制御とを交互に行うようにした、電力変換装置。」

(3)取消理由についての当審の判断
(3-1)令和1年7月3日付け取消理由通知に記載した取消理由(特許法第36条第6項第2号)について
上記(1-1)のとおりの記載不備の指摘に対して、本件訂正請求による訂正により、独立形式の記載とされた請求項2において、「前記交流電源の電圧の極性に同期して・・」との記載が、「前記交流電源の電圧の極性が切り替わるゼロクロスのタイミングで・・」と訂正され、訂正前の不明瞭さは正された。

したがって、当審による取消理由で指摘した不備な点は解消され、請求項2及び請求項2に従属する請求項3、4、10ないし12に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。

(3-2)令和1年11月18日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由(特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項)について
本件訂正請求による訂正により、当該取消理由の対象とされた請求項1は削除された。そこで、当該取消理由の対象としなかった請求項2に係る発明について、当該請求項2に従属する請求項に係る発明も含めて検討しておく。
ア.本件発明2について
本件発明2と引用発明を対比する。
(ア)引用発明における「全波整流回路を構成する整流回路と、コンデンサ回路と、制御回路とを備えた電力変換装置であって、前記整流回路は、リアクトルと、2つのスイッチング素子が直列に設けられたスイッチングレグと、2つのダイオードが直列に設けられダイオードレグとを各1つ備え、商用電源が前記スイッチングレグの中間点と前記ダイオードレグの中間点との間に接続されることで、前記スイッチングレグと前記ダイオードレグとがブリッジ結線されてなり、・・」によれば、
引用発明における、直列に設けられてスイッチングレグを構成する「2つのスイッチング素子」が、本件発明2でいう「第1のスイッチング素子」及び「第2のスイッチング素子」に相当し、直列に設けられてダイオードレグを構成する「2つのダイオード」が、本件発明2でいう「第1のダイオード」及び「第2のダイオード」に相当し、また、引用発明における「商用電源」は、本件発明2でいう「交流電源」に相当する。
そして、引用発明のスイッチングレグとダイオードレグとは、商用電源が当該スイッチングレグの中間点と当該ダイオードレグの中間点との間に接続されることでブリッジ結線されてなるものであることから、引用発明における「整流回路」のうちリアクトルを除いた部分、つまりブリッジ結線されてなる「スイッチングレグ」と「ダイオードレグ」からなる部分が、本件発明2でいう「整流回路」に相当するといえる。
したがって、本件発明2と引用発明とは、「第1のダイオードのカソードと第1のスイッチング素子の一端とが出力側の正極に接続され、前記第1のダイオードのアノードと第2のダイオードのカソードとが交流電源の一端側に接続され、前記第1のスイッチング素子の他端と第2のスイッチング素子の一端とが前記交流電源の他端側に接続され、前記第2のダイオードのアノードと前記第2のスイッチング素子の他端とが出力側の負極に接続されることによりブリッジ接続される整流回路と」を備えるものである点で一致する。

(イ)引用発明における「前記整流回路は、リアクトルと、2つのスイッチング素子が直列に設けられたスイッチングレグと、2つのダイオードが直列に設けられダイオードレグとを各1つ備え、・・・・また、前記リアクトルは、前記商用電源と前記スイッチングレグの中間点との間に接続され」によれば、
引用発明における「リアクトル」は、商用電源とスイッチングレグの中間点との間に接続されてなるものであることから、本件発明2でいう「リアクトル」に相当する。
したがって、本件発明2と引用発明とは、「交流電源と前記整流回路との間に設けられるリアクトルと」を備えるものである点で一致する。

(ウ)引用発明における「前記コンデンサ回路は、前記整流回路の出力側に設けられ、直列に設けられた2つのコンデンサからなり、前記整流回路で変換された直流電圧を充放電するものであり」によれば、
引用発明における、コンデンサ回路を構成する直列に設けられた「2つのコンデンサ」は、整流回路で変換、より具体的には全波整流された直流電圧を充放電することによって平滑化するものであるといえることから、本件発明2でいう「平滑コンデンサ」に相当する。
したがって、本件発明2と引用発明とは、「前記整流回路の出力側に接続され、前記整流回路から印加される電圧を平滑化する平滑コンデンサと」を備えるものである点で一致する。

(エ)引用発明における「前記制御回路は、商用電源の電源電圧の極性が正に切り換わると同時に前記スイッチングレグの上アーム側のスイッチング素子をオンし、電源電圧の極性が負に切り換わると同時に下アーム側のスイッチング素子をオンすることにより同期整流の制御を行うとともに、前記商用電源の電源半周期の間に、前記整流回路を複数回短絡させ、それ以外の期間は前記同期整流の制御を行って、前記同期整流の制御と短絡制御とを交互に行うようにした・・」によれば、
(a)引用発明における「同期整流の制御」は、商用電源の電源電圧の極性が正に切り換わると同時に一方のスイッチング素子をオンし、電源電圧の極性が負に切り換わると同時に他方のスイッチング素子をオンするものであるから、本件発明2と同様、電源電圧の極性が切り替わるゼロクロスのタイミングで2つのスイッチング素子を双方向にスイッチングしてなるものであるといえ、本件発明2でいう「同期整流制御」に相当する。
(b)また、引用発明における「短絡制御」は、商用電源の電源半周期の間に、整流回路を複数回短絡させることにより行われるものであることから、本件発明2でいう「回路短絡制御」に相当する。
(c)そして、引用発明における「制御回路」は、同期整流の制御を実施するとともに、電源半周期の間に短絡制御を繰り返し複数回実施するものであるといえることから、本件発明2でいう「制御部」に相当する。
したがって、本件発明2と引用発明とは、「前記交流電源の電圧の極性が切り替わるゼロクロスのタイミングで前記第1のスイッチング素子と前記第2のスイッチング素子を双方向にスイッチングして負荷に電流を流す同期整流制御を実施すると共に、前記交流電源の半周期間に前記リアクトルを前記交流電源に短絡する回路短絡制御を繰り返し複数回実施する制御部と」を備えるものである点で一致する。

(オ)そして、引用発明における「電力変換装置」は、本件発明2と同様、整流回路によって商用電源の交流電圧を直流電圧に変換し、さらにコンデンサ回路によって変換された直流電圧を平滑化して出力するものであることから、本件発明2でいう「直流電源装置」に相当するということができるものである。

よって、本件発明2と引用発明とは、
「第1のダイオードのカソードと第1のスイッチング素子の一端とが出力側の正極に接続され、前記第1のダイオードのアノードと第2のダイオードのカソードとが交流電源の一端側に接続され、前記第1のスイッチング素子の他端と第2のスイッチング素子の一端とが前記交流電源の他端側に接続され、前記第2のダイオードのアノードと前記第2のスイッチング素子の他端とが出力側の負極に接続されることによりブリッジ接続される整流回路と、
交流電源と前記整流回路との間に設けられるリアクトルと、
前記整流回路の出力側に接続され、前記整流回路から印加される電圧を平滑化する平滑コンデンサと、
前記交流電源の電圧の極性が切り替わるゼロクロスのタイミングで前記第1のスイッチング素子と前記第2のスイッチング素子を双方向にスイッチングして負荷に電流を流す同期整流制御を実施すると共に、前記交流電源の半周期間に前記リアクトルを前記交流電源に短絡する回路短絡制御を繰り返し複数回実施する制御部と、
を備える、
ことを特徴とする直流電源装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
制御部について、本件発明2では「交流全周期に亘って前記同期整流制御を実施する全波整流動作と、前記同期整流制御を実施すると共に、前記交流電源の所定位相にて部分的に前記回路短絡制御を実施する部分スイッチング動作と、交流全周期に亘って前記同期整流制御と前記回路短絡制御とを交互に実施する高速スイッチング動作、のうちいずれかの動作に切り替える」ものである旨特定するのに対し、引用発明ではそのような特定を有していない点。

上記のとおり相違点があるから、本件発明2は、引用例に記載された発明ではない。
次に、上記相違点について検討する。
本件発明2の制御部は、交流全周期に亘って同期整流制御を実施する全波整流動作(以下、「全波整流モード」という。)と、同期整流制御を実施すると共に、交流電源の所定位相にて部分的に回路短絡制御を実施する部分スイッチング動作(以下、「部分スイッチングモード」という。)と、交流全周期に亘って同期整流制御と回路短絡制御とを交互に実施する高速スイッチング動作(以下、「高速スイッチングモード」という。)のいずれも同期整流制御の実施を伴うようにした3つのモードを有し、そのうちのいずれかに切り替えることができるものであると解される。
これに対して、引用発明は、制御回路が「・・同期整流の制御を行うとともに、前記商用電源の電源半周期の間に、前記整流回路を複数回短絡させ、それ以外の期間は前記同期整流の制御を行って、前記同期整流の制御と短絡制御とを交互に行う」ようにしているが、かかる制御は、特に「商用電源の電源半周期の間に、整流回路を複数回短絡させ、それ以外の期間は同期整流の制御を行」う旨の記載からみて、本件発明2の「部分スイッチングモード」に相当するといえるものである。そして、引用例の段落【0035】や【0048】には、同期整流の制御のみを行うこと、すなわち本件発明2の「全波整流モード」を実施してもよいことは記載されているものの、「部分スイッチングモード」だけでなく本件発明2の「高速スイッチングモード」に相当するモードも有し、これらを切り替えることができるようにすることまでは記載も示唆もされていない。

なお、特許議申立人 角田 朗は令和1年10月3日付け意見書において、全波整流動作と部分スイッチング動作と高速スイッチング動作のうちのいずれかの動作に切り替えることは、当該意見書とともに提出した甲第4号証(韓国特許出願公開第10-2007-0101476号明細書)に記載されているように本件出願前に周知技術である旨主張している。
確かに上記甲第4号証には、電源電圧を整流するダイオードブリッジ回路(311)、及びスイッチング制御部(320)の信号に応じて直流リンク電流を調節するスイッチング手段(Q1、Q2)を含んで構成されるアクティブフィルタ(310)を有する直流電源供給装置において、運転負荷の大きさに応じて、前記スイッチング手段(Q1、Q2)を停止させる動作モード、所定の運転区間継続して前記スイッチング手段(Q1、Q2)を制御する動作モード、及び所定の運転区間の一部の間、前記前記スイッチング手段(Q1、Q2)を制御する動作モードのうちいずれかに切り替えることが記載(特に段落<31>、<32>、<41>を参照)されているといえる。しかしながら、そもそもいずれの動作モードも同期整流制御の実施を伴うものではなく、本件発明2の「全波整流モード」、「部分スイッチングモード」及び「高速スイッチングモード」に相当するモードを有し、これらを切り替えるようにしているわけではないことから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

したがって、本件発明2は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

イ.本件発明3、4、10ないし12について
本件訂正請求による訂正により、訂正後の請求項3、4、10ないし12はいずれも請求項2を直接または間接的に引用するものとなった。したがって、本件発明3、4、10ないし12は、本件発明2の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明2についての判断と同様の理由により、本件発明3、4、10ないし12は、引用例に記載された発明ではなく、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

よって、請求項3、4、10ないし12に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではなく、また、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでもない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明2ないし4、10ないし12に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由によっては取り消すことはできない。

3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由等について
3-1.特許異議申立人 角田 朗による申立理由について
(1)申立理由の概要
ア.特許法第29条第2項
請求項1に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載の技術事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

甲第1号証:特許第5349636号公報
甲第2号証:特許第4784207号公報

イ.特許法第36条第6項第1号
請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(2)判断
上記申立理由「ア.」及び「イ.」はいずれも請求項1のみに対して申立てられてなるものであるところ、本件訂正請求による訂正により、請求項1は削除され、請求項1に係るこれらの申立てはその対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

3-2.特許異議申立人 井澤 幹による申立理由について
(1)申立理由の概要
ア.特許法第29条第1項第3号
請求項1、11に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1、11に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

イ.特許法第29条第2項
請求項1、11、12に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載の技術事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、
請求項2ないし4に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明、甲第2号証及び甲第3号証にそれぞれ記載の技術事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、
請求項10に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明、甲第2号証及び甲第4号証にそれぞれ記載の技術事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項1ないし4、10ないし12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

甲第1号証:特開2015-61322号公報
甲第2号証:特許第5349636号公報
甲第3号証:特許第3695382号公報
甲第4号証:特許第5743995号公報

(2)甲第1号証の記載事項
特許異議申立人 井澤 幹が提示した甲第1号証(特開2015-61322号公報)には、「電力変換装置」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】
ダイオード部分を有する半導体スイッチング素子であるメインスイッチング素子(34,36)と、前記メインスイッチング素子と相補的にオンオフされることで同期整流動作を実現するように設けられた半導体スイッチング素子であるサブスイッチング素子(33,35)と、を備えた、電力変換回路(13)と、
前記メインスイッチング素子及び前記サブスイッチング素子のオンオフ動作を制御するように設けられた、制御部(14)と、
を備えた、電力変換装置(10)であって、
前記制御部は、
入出力電力に対応する特性値が所定値を超える場合に前記メインスイッチング素子と前記サブスイッチング素子とを相補的にオンオフさせることで前記同期整流動作を実行させ、前記特性値が前記所定値以下である場合に前記メインスイッチング素子又は前記サブスイッチング素子をオフに保持することで前記同期整流動作を停止させるようになっていることを特徴とする、電力変換装置。」

イ.「【0012】
<構成>
図1を参照すると、本発明の一実施形態としての電力変換装置10は、インバータ回路であって、交流電源11から入力された交流電力を直流電力に変換して、変換後の電力を直流負荷12に出力するように構成されている。この電力変換装置10は、電力変換回路13と制御部14とを備えている。【0013】
電力変換回路13には、一対の交流入力端子30a,30b(本発明の「一対の交流入出力端子」に相当する)と、一対の直流出力端子30c,30d(本発明の「一対の直流入出力端子」に相当する)と、が設けられている。そして、電力変換回路13は、一対の交流入力端子30a,30bを介して交流電源11に接続されるとともに、一対の直流出力端子30c,30dを介して直流負荷12に接続されている。
【0014】
電力変換回路13における入力側、すなわち一対の交流入力端子30a,30b側には、フィルタ回路31が設けられている。フィルタ回路31は、リアクトル31a,31bと、コンデンサ31cと、によって構成されている。リアクトル31aは、交流入力端子30aに接続されている。リアクトル31bは、交流入力端子30bに接続されている。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0016】
電力変換回路13における出力側、すなわち一対の直流出力端子30c,30d側には、平滑コンデンサ32、及びスイッチング素子33?36が設けられている。平滑コンデンサ32は、一対の直流出力端子30c,30dの間に設けられている。すなわち、平滑コンデンサ32は、直流出力端子30cに接続された電力ラインと、直流出力端子30dに接続された電力ラインと、を接続(短絡)するように設けられた電力ラインに介装されている。
【0017】
スイッチング素子33?36は、MOSゲート構造を有する半導体スイッチング素子であって、フィルタ回路31と平滑コンデンサ32との間に設けられている。本実施形態においては、スイッチング素子33?36は、いわゆる「パワーMOSFET」であって、その内部に寄生ダイオード成分を有している。以下、スイッチング素子33,34,35及び36における、トランジスタ動作部分をそれぞれスイッチング部分Q1,Q2,Q3及びQ4と称し、寄生ダイオード成分をそれぞれダイオード部分D1,D2,D3及びD4と称することがある。
【0018】
本発明の「第一スイッチング素子」に相当するスイッチング素子33は、Nチャンネル型のMOSFETであって、ドレインが直流出力端子30cに接続されている。本発明の「第二スイッチング素子」に相当するスイッチング素子34は、Nチャンネル型のMOSFETであって、ソースが直流出力端子30dに接続されている。スイッチング素子33のソースは、スイッチング素子34のドレインに接続されている。このようにして、スイッチング素子33及び34は、一対の直流出力端子30c,30d間にて直列接続されている。
【0019】
本発明の「第三スイッチング素子」に相当するスイッチング素子35は、Nチャンネル型のMOSFETであって、ドレインが直流出力端子30cに接続されている。本発明の「第四スイッチング素子」に相当するスイッチング素子36は、Nチャンネル型のMOSFETであって、ソースが直流出力端子30dに接続されている。スイッチング素子35のソースは、スイッチング素子36のドレインに接続されている。このようにして、スイッチング素子35及び36は、一対の直流出力端子30c,30d間にて直列接続されている。また、スイッチング素子33及び34の直列接続体と、スイッチング素子35及び36の直列接続体とが、並列に設けられている。
【0020】
スイッチング素子33とスイッチング素子34との接続部は、フィルタ回路31におけるリアクトル31aを介して、交流入力端子30aに接続されている。同様に、スイッチング素子35とスイッチング素子36との接続部は、フィルタ回路31におけるリアクトル31bを介して、交流入力端子30bに接続されている。
【0021】
本実施形態においては、「メインスイッチング素子」に相当する、下アーム側のスイッチング素子34及び36は、スーパージャンクション構造を有するMOSFETである。これらスイッチング素子34及び36は、一対の直流出力端子30c,30d間の出力電圧である直流電圧が所望値となるようなオンデューティ比でPWM制御されるように設けられている。一方、「サブスイッチング素子」に相当する、上アーム側のスイッチング素子33及び35は、スーパージャンクション構造を有さない通常型(シリコン型あるいはシリコンカーバイド型)のMOSFETである。これらスイッチング素子33及び35は、スイッチング素子34及び36と相補的にオンオフされることで、電力変換回路13にて同期整流動作を実現可能に設けられている。
【0022】
制御部14は、スイッチング素子33?36のオンオフ動作を制御するように設けられている。具体的には、制御部14は、メインコントローラ40と、交流入力電圧センサ47と、直流出力電圧センサ48と、リアクトル電流センサ49と、を備えている。リアクトル電流センサはスイッチング素子Q2の電流センサとスイッチング素子Q4の電流センサで代用されることもある。」

ウ.「【0044】
一方、極性判定部416は、入力電圧Vacの極性に応じて、「0」又は「1」の信号(極性信号)を出力する。この極性信号は、オアゲート421における他方の入力端子に入力される。また、この極性信号がノットゲート423で反転されたものが、オアゲート422における他方の入力端子に入力される。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0046】
オアゲート422の出力及びスイッチング素子36(スイッチング部分Q4)のゲート信号についても、上述と同様であるが、オアゲート421の出力及びスイッチング素子34(スイッチング部分Q2)のゲート信号と半周期ずれたものとなる(図3における「Q4」のタイムチャート参照)。このようにして、下アーム側のスイッチング素子34とスイッチング素子36とが、上述の極性信号に応じて、交互にPWM駆動される。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0049】
同期整流許可信号すなわち「1」が入力された場合、アンドゲート426は、オアゲート421の出力がノットゲート424によって反転されたものに対応する信号を、スイッチング素子33(スイッチング部分Q1)のゲート信号として出力する。この場合、上アーム側のスイッチング素子33は、これと直列に接続された下アーム側のスイッチング素子34と相補的にオンオフされる。これにより、同期整流動作が実現される。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0051】
このように、本実施形態においては、入力電圧Vacの絶対値が所定値Vref以下である場合に、上アーム側のスイッチング素子33(スイッチング部分Q1)及びスイッチング素子35(スイッチング部分Q3)をオフに保持することで、同期整流動作が停止される(図3における1点鎖線の領域参照)。これに対し、比較例としての従来の制御動作においては、入力電圧Vacの大きさにかかわらず常時、同期整流動作が行われる。」

・上記甲第1号証に記載の「電力変換装置」は、上記「ア.」、「イ.」の記載事項、及び図1によれば、交流電源11から入力された交流電力を直流電力に変換して、変換後の電力を直流負荷12に出力するように構成されたものであって、電力変換回路13と、当該電力変換回路13中のスイッチング素子33?36のオンオフ動作を制御する制御部14とを備えてなるものである。
・上記「ア.」、「イ.」の記載事項、及び図1によれば、電力変換回路13におけるスイッチング素子33?36は、寄生ダイオード成分であるダイオード部分を有する半導体スイッチング素子であり、下アーム側のスイッチング素子34とスイッチング素子36からなるメインスイッチング素子と、上アーム側のスイッチング素子33とスイッチング素子35とからなるサブスイッチング素子とで構成されてなるものである。そして、スイッチング素子33及びスイッチング素子34が一対の直流出力端子30c,30d間にて直列接続されるとともに、スイッチング素子35及びスイッチング素子36が一対の直流出力端子30c,30d間にて直列接続されて、2つの直列接続体が並列に設けられ、スイッチング素子33とスイッチング素子34との接続部がリアクトル31aを介して交流入力端子30aに接続され、同様に、スイッチング素子35とスイッチング素子36との接続部がリアクトル31bを介して交流入力端子30bに接続されてなるものである。
・上記「イ.」の段落【0016】、及び図1によれば、電力変換回路13における一対の直流出力端子30c,30d間には平滑コンデンサ32が設けられてなるものである。
・上記「ア.」、「イ.」の段落【0021】、「ウ.」の記載事項、及び図4によれば、上アーム側のサブスイッチング素子は、下アーム側のメインスイッチング素子と交流の入力電圧の極性に応じて相補的にオンオフされることで同期整流動作が行われ、さらに、交流の入力電圧Vacの極性が正の半周期においては、メインスイッチング素子のうちのスイッチング素子36をオン状態とし、スイッチング素子34をPWM駆動してオン・オフのスイッチングを行い、また、極性が負の半周期においては、メインスイッチング素子のうちのスイッチング素子34をオン状態とし、スイッチング素子36をPWM駆動してオン・オフのスイッチングを行うようにしてなるものである。

したがって、特に図4に示される比較例に係るものに着目し、上記記載事項および図面を総合勘案すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「電力変換回路と、当該電力変換回路中のスイッチング素子33?36のオンオフ動作を制御する制御部とを備え、交流電源から入力された交流電力を直流電力に変換して、変換後の電力を直流負荷に出力するように構成された電力変換装置であって、
前記電力変換回路におけるスイッチング素子33?36は、寄生ダイオード成分であるダイオード部分を有する半導体スイッチング素子であり、下アーム側のスイッチング素子34とスイッチング素子36からなるメインスイッチング素子と、上アーム側のスイッチング素子33とスイッチング素子35とからなるサブスイッチング素子とで構成され、前記スイッチング素子33及び前記スイッチング素子34が一対の直流出力端子間に直列接続されるとともに、前記スイッチング素子35及び前記スイッチング素子36が前記一対の直流出力端子間に直列接続されて、2つの直列接続体が並列に設けられ、
前記スイッチング素子33と前記スイッチング素子34との接続部がリアクトル31aを介して交流入力端子30aに接続され、同様に、前記スイッチング素子35と前記スイッチング素子36との接続部がリアクトル31bを介して交流入力端子30bに接続され、
前記一対の直流出力端子間には平滑コンデンサが設けられてなり、
上アーム側の前記サブスイッチング素子は、下アーム側の前記メインスイッチング素子と交流の入力電圧の極性に応じて相補的にオンオフされることで同期整流動作が行われ、さらに、交流の入力電圧の極性が正の半周期においては、メインスイッチング素子のうちのスイッチング素子36をオン状態とし、スイッチング素子34をPWM駆動してオン・オフのスイッチングを行い、また、極性が負の半周期においては、メインスイッチング素子のうちのスイッチング素子34をオン状態とし、スイッチング素子36をPWM駆動してオン・オフのスイッチングを行うようにしてなる、電力変換装置。」

(3)対比・判断
ア.本件発明1について
本件訂正請求による訂正により、請求項1は削除され、請求項1に係る申立てはその対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

イ.本件発明2について
本件発明2と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明における「電力変換回路と・・・を備え、交流電源から入力された交流電力を直流電力に変換して、変換後の電力を直流負荷に出力するように構成された電力変換装置であって、前記電力変換回路におけるスイッチング素子33?36は、寄生ダイオード成分であるダイオード部分を有する半導体スイッチング素子であり、下アーム側のスイッチング素子34とスイッチング素子36からなるメインスイッチング素子と、上アーム側のスイッチング素子33とスイッチング素子35とからなるサブスイッチング素子とで構成され、前記スイッチング素子33及び前記スイッチング素子34が一対の直流出力端子間に直列接続されるとともに、前記スイッチング素子35及び前記スイッチング素子36が前記一対の直流出力端子間に直列接続されて、2つの直列接続体が並列に設けられ、前記スイッチング素子33と前記スイッチング素子34との接続部がリアクトル31aを介して交流入力端子30aに接続され、同様に、前記スイッチング素子35と前記スイッチング素子36との接続部がリアクトル31bを介して交流入力端子30bに接続され」によれば、
甲1発明の「電力変換回路」にあっても、4つのスイッチング素子33?36がブリッジ接続されて「整流回路」を構成しているといえるものであり、「スイッチング素子35」及び「スイッチング素子36」が、それぞれ本件発明2でいう「第1のスイッチング素子」及び「第2のスイッチング素子」に相当するととに、「スイッチング素子33」及び「スイッチング素子34」が、それぞれ本件発明2でいう「第1のダイオード」及び「第2のダイオード」に対応するものであるといえる。
したがって、本件発明2と甲1発明とは、「第1の素子と第1のスイッチング素子の一端とが出力側の正極に接続され、前記第1の素子と第2の素子とが交流電源の一端側に接続され、前記第1のスイッチング素子の他端と第2のスイッチング素子の一端とが前記交流電源の他端側に接続され、前記第2の素子と前記第2のスイッチング素子の他端とが出力側の負極に接続されることによりブリッジ接続される整流回路と」を備えるものである点で共通する。
ただし「第1の素子」及び「第2の素子」が、本件発明2ではそれぞれ「第1のダイオード」及び「第2のダイオード」であって、いずれも「ダイオード」であり、「第1のダイオードのカソード」が出力側の正極に接続され、「第1のダイオードのアノード」と「第2のダイオードのカソード」とが交流電源の一端側に接続され、「第2のダイオードのアノード」が出力側の負極に接続される旨特定するのに対し、甲1発明ではいずれもスイッチング素子である点で相違している。

(イ)甲1発明における「前記スイッチング素子33と前記スイッチング素子34との接続部がリアクトル31aを介して交流入力端子30aに接続され、同様に、前記スイッチング素子35と前記スイッチング素子36との接続部がリアクトル31bを介して交流入力端子30bに接続され」によれば、
甲1発明における「リアクトル31a」は、交流入力端子30aと、スイッチング素子33とスイッチング素子34との接続部の間に設けられ、また、「リアクトル31b」は、交流入力端子30bと、スイッチング素子35とスイッチング素子36との接続部の間に設けられており、これら「リアクトル31a」及び「リアクトル31b」は、交流電源とスイッチング素子33?36により構成される整流回路との間に設けられているといえることから、本件発明2でいう「リアクトル」に相当する。
したがって、本件発明2と甲1発明とは、「交流電源と前記整流回路との間に設けられるリアクトルと」を備えるものである点で一致する。

(ウ)甲1発明における「前記一対の直流出力端子間には平滑コンデンサが設けられてなり」によれば、
甲1発明における「平滑コンデンサ」にあっても、スイッチング素子33?36により構成される整流回路から印加(出力)される電圧を平滑化するためのものであることは自明なことであるから、
本件発明2と甲1発明とは、「前記整流回路の出力側に接続され、前記整流回路から印加される電圧を平滑化する平滑コンデンサと」を備えるものである点で一致する。

(エ)甲1発明における「・・当該電力変換回路中のスイッチング素子33?36のオンオフ動作を制御する制御部とを備え、・・・上アーム側の前記サブスイッチング素子は、下アーム側の前記メインスイッチング素子と交流の入力電圧の極性に応じて相補的にオンオフされることで同期整流動作が行われ、さらに、交流の入力電圧Vacの極性が正の半周期においては、メインスイッチング素子のうちのスイッチング素子36をオン状態とし、スイッチング素子34をPWM駆動してオン・オフのスイッチングを行い、また、極性が負の半周期においては、メインスイッチング素子のうちのスイッチング素子34をオン状態とし、スイッチング素子36をPWM駆動してオン・オフのスイッチングを行うようにしてなる・・」によれば、
(a)甲1発明における「制御部」は、整流回路を構成するスイッチング素子のスイッチング動作を制御するものである点で、本件発明2の「制御部」と共通する。
(b)そして、甲1発明における「同期整流動作」は、本件発明2でいう「同期整流制御」に相当し、甲1発明にあっても、「上アーム側の前記サブスイッチング素子は、下アーム側の前記メインスイッチング素子と交流の入力電圧の極性に応じて相補的にオンオフされる」ものであり、入力電圧の極性が切り替わるタイミングで相補的な、すなわち双方向にオンオフのスイッチングが行われるものであるといえる(甲第1号証の図4も参照)。
(c)さらに、甲1発明においても「交流の入力電圧Vacの極性が正の半周期においては、メインスイッチング素子のうちのスイッチング素子36をオン状態とし、スイッチング素子34をPWM駆動してオン・オフのスイッチングを行い、また、極性が負の半周期においては、メインスイッチング素子のうちのスイッチング素子34をオン状態とし、スイッチング素子36をPWM駆動してオン・オフのスイッチングを行う」ものであるところ、極性が正の半周期においてPWM駆動されるスイッチング素子34がオンとなった際に、リアクトル31a-スイッチング素子34-スイッチング素子36-リアクトル31bの経路で短絡電流が流れ、本件発明2でいう「回路短絡制御」が行われ、同様に、極性が負の半周期においてPWM駆動されるスイッチング素子36がオンになった際に、リアクトル31b-スイッチング素子36-スイッチング素子34-リアクトル31aの経路で短絡電流が流れ、本件発明2でいう「回路短絡制御」が行われるものと認められる。
以上のことから、本件発明2と甲1発明とは、「前記交流電源の電圧の極性が切り替わるゼロクロスのタイミングで所定の複数のスイッチング素子を双方向にスイッチングして負荷に電流を流す同期整流制御を実施すると共に、前記交流電源の半周期間に前記リアクトルを前記交流電源に短絡する回路短絡制御を繰り返し複数回実施する制御部と」を備えるものである点で共通するといえる。
ただし、同期整流制御を実施するために双方向にスイッチングされる「所定の複数のスイッチング素子」が、本件発明2では「第1のスイッチング素子」と「第2のスイッチング素子」の2つのスイッチング素子であるのに対し、甲1発明では、上アーム側のサブスイッチング素子と下アーム側のメインスイッチング素子の計4つのスイッチング素子である点で相違している。
(オ)そして、甲1発明における「電力変換装置」は、本件発明2と同様、交流電源から入力された交流電力を直流電力に変換し、さらに平滑コンデンサによって変換された直流電力を平滑化して出力するものであることから、本件発明2でいう「直流電源装置」に相当するということができるものである。

よって、本件発明2と甲1発明とは、
「第1の素子と第1のスイッチング素子の一端とが出力側の正極に接続され、前記第1の素子と第2の素子とが交流電源の一端側に接続され、前記第1のスイッチング素子の他端と第2のスイッチング素子の一端とが前記交流電源の他端側に接続され、前記第2の素子と前記第2のスイッチング素子の他端とが出力側の負極に接続されることによりブリッジ接続される整流回路と、
交流電源と前記整流回路との間に設けられるリアクトルと、
前記整流回路の出力側に接続され、前記整流回路から印加される電圧を平滑化する平滑コンデンサと、
前記交流電源の電圧の極性が切り替わるゼロクロスのタイミングで所定の複数のスイッチング素子を双方向にスイッチングして負荷に電流を流す同期整流制御を実施すると共に、前記交流電源の半周期間に前記リアクトルを前記交流電源に短絡する回路短絡制御を繰り返し複数回実施する制御部と、
を備える、
ことを特徴とする直流電源装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
ブリッジ接続される整流回路を構成する「第1の素子」及び「第2の素子」が、本件発明2ではそれぞれ「第1のダイオード」及び「第2のダイオード」であって、いずれも「ダイオード」であり、「第1のダイオードのカソード」が出力側の正極に接続され、「第1のダイオードのアノード」と「第2のダイオードのカソード」とが交流電源の一端側に接続され、「第2のダイオードのアノード」が出力側の負極に接続される旨特定するのに対し、甲1発明ではいずれもスイッチング素子である点。

[相違点2]
上記相違点1にも関連して、同期整流制御を実施するために双方向にスイッチングされる「所定の複数のスイッチング素子」が、本件発明2では「第1のスイッチング素子」と「第2のスイッチング素子」の2つのスイッチング素子であるのに対し、甲1発明では、上アーム側のサブスイッチング素子と下アーム側のメインスイッチング素子の計4つのスイッチング素子である点。

[相違点3]
制御部について、本件発明2では「交流全周期に亘って前記同期整流制御を実施する全波整流動作と、前記同期整流制御を実施すると共に、前記交流電源の所定位相にて部分的に前記回路短絡制御を実施する部分スイッチング動作と、交流全周期に亘って前記同期整流制御と前記回路短絡制御とを交互に実施する高速スイッチング動作、のうちいずれかの動作に切り替える」ものである旨特定するのに対し、甲1発明ではそのような特定を有していない点。

上記のとおり相違点があるから、本件発明2は、甲1号証に記載された発明ではない。
次に、まず上記相違点1について検討する。
特許異議申立人 井澤 幹が提示した甲第2号証(特許第5349636号公報)には、ダイオード5、ダイオード6、MOSFET3、及びMOSFET4がブリッジ接続された整流器21が記載(段落【0016】、図1を参照)され、また甲第3号証(特許第3695382号公報)にも同様のことが記載(段落【0080】、図12を参照)されている。
しかしながら、甲1発明は、甲第1号証の【請求項1】にも記載のように、ブリッジ接続される整流回路のうちの下アーム側の「スイッチング素子34」と「スイッチング素子36」とを「メインスイッチング素子」とし、上アーム側の「スイッチング素子33」と「スイッチング素子35」とを「サブスイッチング素子」として構成し、これを相補的にオンオフすることを前提とする発明、すなわち、ブリッジ接続される整流回路を構成する4つの素子がすべてスイッチング素子であることを前提とする発明であり、甲1発明に対して上記甲第2号証や甲第3号証に記載の技術事項を適用し、あえて「スイッチング素子33」及び「スイッチング素子34」に代えてそれぞれ「ダイオード」を用いるようにすべき積極的な動機付けがなく、むしろ阻害要因があるともいえる。
そして、甲1発明において、相違点1に係る構成とすることを導き出すことができない以上、相違点2に係る構成とすることも導き出すことはできない。
よって、上記相違点3について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明、甲第2号証及び甲第3号証にそれぞれ記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ.本件発明3、4、12について
本件訂正請求による訂正により、訂正後の請求項3、4、12はいずれも請求項2を直接または間接的に引用するものとなった。したがって、本件発明3、4、12は、本件発明2の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明2についての判断と同様の理由により、本件発明3、4、12は、甲1発明、甲第2号証及び甲第3号証にそれぞれ記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ.本件発明10について
特許異議申立人 井澤 幹が提示した甲第4号証(特許第5743995号公報)には、段落【0045】に「・・半導体スイッチ3、4、5、6、22は、GaN(窒化ガリウム)、SiC(シリコンカーバイト)、ダイヤモンド等のワイドバンドギャップ半導体で構成されたものとしてもよい。」と記載(なお、かかる記載中、下線を付した「5、6」は、「16、17」の誤記であると解される。)され、ブリッジ接続された整流回路を構成する半導体スイッチ、つまりスイッチング素子をSiCなどのワイドバンドギャップ半導体で構成することが記載されているにすぎない。
そして、本件訂正請求による訂正により、訂正後の請求項10は請求項2を引用するものとなり、本件発明10は、本件発明2の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものとなったことから、上記本件発明2についての判断と同様の理由により、本件発明10は、甲1発明、甲第2号証ないし甲第4号証にそれぞれ記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ.本件発明11について
本件訂正請求による訂正により、訂正後の請求項11は請求項2を引用するものとなった。したがって、少なくとも上記[相違点1]ないし[相違点3]があるから、本件発明11は、甲第1号証に記載された発明ではない。また、本件発明2は、本件発明2の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明2についての判断と同様の理由により、本件発明11は、甲1発明、甲第2号証及び甲第3号証にそれぞれ記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

第4 むすび

以上のとおり、本件発明2ないし4、10ないし12に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件発明2ないし4、10ないし12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件の請求項1に係る特許については訂正により削除され、本件特許の請求項1に対して、特許異議申立人 角田 朗と井澤 幹がした特許異議申立てについてはその対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
直流電源装置および空気調和機
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電圧を直流電圧に変換する直流電源装置および、この直流電源装置を用いた空気調和機に関する。
【背景技術】
【0002】
電車、自動車、空気調和機などには、交流電圧を直流電圧に変換する直流電源装置が搭載されている。そして、直流電源装置から出力される直流電圧をインバータによって所定周波数の交流電圧に変換し、この交流電圧をモータなどの負荷に印加するようになっている。このような直流電源装置は、電力変換効率を高めて省エネルギ化を図ることが求められている。
【0003】
例えば、特許文献1の段落0012には、「交流電源から出力される交流電圧を直流電圧に変換する整流手段と、前記交流電源と前記整流手段との間に接続されたリアクターと、前記整流手段から出力される前記直流電圧を平滑し、並列に負荷が接続される平滑手段と、前記交流電圧を検出する電源電圧検出手段と、前記平滑手段の両端の直流電圧を検出する直流電圧検出手段と、前記電源電圧検出手段によって検出された前記交流電圧(以下、「検出交流電圧」という)、及び前記直流電圧検出手段によって検出された前記直流電圧(以下、「検出直流電圧」という)を受信する制御手段と、を備え、前記整流手段は、整流素子としてMOSFETを有し、前記制御手段は、前記検出交流電圧及び前記検出直流電圧に基づいて、前記MOSFETをON/OFF動作させ、それぞれの前記MOSFETに内蔵された寄生ダイオードに電流が流れ始めたことを検出したときに、そのMOSFETをON動作させ、前記寄生ダイオードに流れる電流が停止したことを検出したときに、そのMOSFETをOFF動作させ、前記MOSFETにおける前記寄生ダイオードに電流が流れ始めたことを検出してから、前記検出交流電圧、前記検出直流電圧及び前記リアクターのインダクタンスに基づいた積分値の算出を開始し、該積分値が0になった場合に、前記寄生ダイオードに流れる電流が停止したものと判断することを特徴とする。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-143154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、直流電源装置には省エネルギ化の他に、電子機器や配電・受電設備の保護といった観点から高調波電流の低減が求められており、そのためには電源力率の改善が必要である。一般的に1次電源側を短絡させて、回路に短絡電流を通流することで力率を改善することが行われる。しかし、短絡回数が1回であると負荷が大きい領域では力率の改善には不十分である。
また、電源力率を改善するためには、単に回路に短絡電流を通流するだけでは足りず、その通流タイミングなどを調整する必要がある。
【0006】
そこで、本発明は、高効率かつ高調波電流の抑制を両立可能な直流電源装置および、この直流電源装置を用いた空気調和機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した課題を解決するため、第1の発明では、第1のダイオードのカソードと第1のスイッチング素子の一端とが出力側の正極に接続され、前記第1のダイオードのアノードと第2のダイオードのカソードとが交流電源の一端側に接続され、前記第1のスイッチング素子の他端と第2のスイッチング素子の一端とが前記交流電源の他端側に接続され、前記第2のダイオードのアノードと前記第2のスイッチング素子の他端とが出力側の負極に接続されることによりブリッジ接続される整流回路と、交流電源と前記整流回路との間に設けられるリアクトルと、前記整流回路の出力側に接続され、前記整流回路から印加される電圧を平滑化する平滑コンデンサと、前記交流電源の電圧の極性が切り替わるゼロクロスのタイミングで前記第1のスイッチング素子と前記第2のスイッチング素子を双方向にスイッチングして負荷に電流を流す同期整流制御を実施すると共に、前記交流電源の半周期間に前記リアクトルを前記交流電源に短絡する回路短絡制御を繰り返し複数回実施する制御部と、を備え、前記制御部は、交流全周期に亘って前記同期整流制御を実施する全波整流動作と、前記同期整流制御を実施すると共に、前記交流電源の所定位相にて部分的に前記回路短絡制御を実施する部分スイッチング動作と、交流全周期に亘って前記同期整流制御と前記回路短絡制御とを交互に実施する高速スイッチング動作、のうちいずれかの動作に切り替えることを特徴とする直流電源装置とした。
【0008】
第2の発明では、請求項2に記載の直流電源装置を備えたことを特徴とする空気調和機とした。
その他の手段については、発明を実施するための形態のなかで説明する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高効率かつ高調波電流の抑制を両立可能な直流電源装置および、この直流電源装置を用いた空気調和機を提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態における直流電源装置を示す概略の構成図である。
【図2】交流電源電圧が正の極性の場合において、全波整流を行ったときに回路に流れる電流経路を示した図である。
【図3】交流電源電圧が負の極性の場合において、全波整流を行ったときに回路に流れる電流経路を示した図である。
【図4】全波整流時における、電源電圧と回路電流とMOSFETの駆動パルスの波形図である。
【図5】交流電源電圧が正の極性の場合において、回路を短絡した場合に回路に流れる電流経路を示した図である。
【図6】交流電源電圧が負の極性の場合において、回路を短絡した場合に回路に流れる電流経路を示した図である。
【図7】短絡電流を通流させた場合における、電源電圧と回路電流とMOSFETの駆動パルスの波形図である。
【図8】高速スイッチングを行った場合の電源電圧と回路電流とMOSFETの駆動パルスの波形図である。
【図9】高速スイッチングを行った場合のMOSFETのデューティの関係を示した図である。
【図10】高速スイッチングを行い、デッドタイムを考慮した場合のMOSFETのデューティの関係を示した図である。
【図11】高速スイッチングを行った場合の交流電源電圧と回路電流の関係を示した図である。
【図12】交流電源電圧が正極性の場合に、リアクトルによる電流位相の遅れ分を考慮した場合のMOSFETのデューティを示した図である。
【図13】交流電源電圧が正極性、かつ、片方のMOSFETにデッドタイムを設けた場合、目標電流に対して通流電流が不足している様子を示した図である。
【図14】交流電源電圧が正極性のとき、両方のMOSFETにデッドタイムを設定した様子を表した図である。
【図15】交流電源電圧が負極性のとき、両方のMOSFETにデッドタイムを設定した様子を表した図である。
【図16】部分スイッチングの概要を説明した図である。
【図17】MOSFETの等価回路を示す図である。
【図18】本実施形態における空気調和機の室内機、室外機、およびリモコンの正面図である。
【図19】負荷の大きさに応じて直流電源装置の動作モードと空気調和機の運転領域を切り替える様子を説明した概要図である。
【図20】変形例における直流電源装置を示す概略の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以降、本発明を実施するための形態を、各図を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る直流電源装置1の構成図である。
図1に示すように、直流電源装置1は、交流電源VSから供給される交流電源電圧Vsを直流電圧Vdに変換し、この直流電圧Vdを負荷H(インバータ、モータなど)に出力するコンバータである。直流電源装置1は、その入力側が交流電源VSに接続され、出力側が負荷Hに接続されている。
直流電源装置1は、リアクトルL1と、平滑コンデンサC1と、ダイオードD1,D2、MOSFET(Q1,Q2)およびシャント抵抗R1,R2を含むブリッジ整流回路10とを備えている。直流電源装置1は更に、ゲイン制御部12と、交流電圧検出部13と、ゼロクロス判定部14と、負荷検出部15と、昇圧比制御部16と、直流電圧検出部17と、コンバータ制御部18とを備えている。
【0012】
ダイオードD1,D2とMOSFET(Q1,Q2)は、ブリッジ接続されている。ダイオードD1のアノードは、ダイオードD2のカソードに接続され、その接続点P1は配線haを介して交流電源VSの一端に接続されている。
【0013】
MOSFET(Q1)のソースは、シャント抵抗R1を介してMOSFET(Q2)のドレインに接続されている。MOSFET(Q1)のソースとシャント抵抗R1との接続点P2は、配線hbを介して交流電源VSの一端に接続されている。
ダイオードD2のアノードは、MOSFET(Q2)のソースに接続されたシャント抵抗R2に接続されている。
MOSFET(Q1)のドレインは、ダイオードD1のカソードに接続されている。
【0014】
また、ダイオードD1のカソードとMOSFET(Q1)のドレインは、配線hcを介して平滑コンデンサC1の正極と負荷Hの一端に接続されている。更にダイオードD2のカソードは配線hdを介して、MOSFET(Q2)のソースはシャント抵抗R2と配線hdを介して、それぞれ平滑コンデンサC1の負極および負荷Hの他端に接続されている。
【0015】
リアクトルL1は配線ha上に、つまり交流電源VSとブリッジ整流回路10との間に設けられている。このリアクトルL1は、交流電源VSから供給される電力をエネルギとして蓄え、更にこのエネルギを放出することで昇圧を行う。
平滑コンデンサC1は、ダイオードD1やMOSFET(Q1)を通して整流された電圧を平滑化して、直流電圧Vdとする。この平滑コンデンサC1は、ブリッジ整流回路10の出力側に接続されており、正極側が配線hcに接続され、負極側が配線hdに接続される。
【0016】
スイッチング素子であるMOSFET(Q1,Q2)は、後記するコンバータ制御部18からの指令によってオン/オフ制御される。スイッチング素子としてMOSFET(Q1,Q2)を用いることで、スイッチングを高速で行うことができ、更に電圧ドロップの小さいMOSFETに電流を流すことで、いわゆる同期整流制御を行うことが可能であり、回路損失を低減できる。
なお、MOSFET(Q1)は、その内部に寄生ダイオードD11を有している。同様に、MOSFET(Q2)は、その内部に寄生ダイオードD21を有している。
【0017】
このMOSFET(Q1,Q2)として、オン抵抗の小さいスーパージャンクションMOSFETを用いることで、導通損失を更に低減することが可能である。ここで、MOSFETの寄生ダイオードには、アクティブ動作時に逆回復電流が発生する。特にスーパージャンクションMOSFETの寄生ダイオードは、通常のMOSFETの寄生ダイオードに対して逆回復電流が大きく、スイッチング損失が大きいという課題がある。そこで、MOSFET(Q1,Q2)として、逆回復時間(trr)が小さいMOSFETを使用することで、スイッチング損失を低減することができる。
【0018】
ダイオードD1,D2はアクティブ動作時においても逆回復電流が発生しないため、その順方向電圧小さいものを選定することが好ましい。例えば、一般的な整流ダイオードや交耐圧のショットキーバリアダイオードを使用することで、回路の導通損失を低減することが可能である。
【0019】
シャント抵抗R1,R2(電流検出部)は、配線ha,hbを介して流れる電流(負荷)を検出するものである。しかし後記する図19に示すように、電流検出部としてトランスを用いてもよく、またはホール素子などを用いてもよい。
【0020】
ゲイン制御部12は、回路電流実効値Isと直流電圧圧縮比aから決定される電流制御ゲインKpを制御する機能を有している。このときKp×Isを所定値に制御することで、交流電源電圧Vsから直流電圧Vdをa倍に昇圧することができる。
【0021】
交流電圧検出部13は、交流電源VSから印加される交流電源電圧Vsを検出するものであり、配線ha,hbに接続されている。交流電圧検出部13は、その検出値をゼロクロス判定部14に出力する。
【0022】
ゼロクロス判定部14は、交流電圧検出部13によって検出される交流電源電圧Vsの値に関して、その正負が切り替わったか、つまり、ゼロクロス点に達したか否かを判定する機能を有している。ゼロクロス判定部14は、交流電源電圧Vsの極性を検出する極性検出部である。例えば、ゼロクロス判定部14は、交流電源電圧Vsが正の期間中にはコンバータ制御部18に‘1’の信号を出力し、交流電源電圧Vsが負の期間中にはコンバータ制御部18に‘0’の信号を出力する。
【0023】
負荷検出部15は、例えばシャント抵抗によって構成され、交流電源VSから流れる電流を検出し、よって負荷Hに供給される電流値(負荷)を検出する機能を有している。なお、負荷Hがモータである場合、負荷検出部15によってモータの回転速度を検出し、この回転速度から電流値(負荷)を推定するようにしてもよい。負荷検出部15は、その検出値を昇圧比制御部16に出力する。
昇圧比制御部16は、負荷検出部15の検出値から直流電圧Vdの昇圧比1/aを選定し、その選定結果をコンバータ制御部18に出力する。そして目標電圧まで直流電圧Vdを昇圧するようにコンバータ制御部18はMOSFET(Q1,Q2)に駆動パルスを出力することで、スイッチング制御を行う。
【0024】
直流電圧検出部17は、平滑コンデンサC1に印加される直流電圧Vdを検出するものであり、その正側が配線hcに接続され、負側が配線hdに接続されている。直流電圧検出部17は、その検出値をコンバータ制御部18に出力する。なお、直流電圧検出部17の検出値は、負荷Hに印加される電圧値が所定の目標値に達しているか否かの判定に用いられる。
【0025】
コンバータ制御部18は、例えば、マイコン(Microcomputer:図示せず)であり、ROM(Read Only Memory)に記憶されたプログラムを読み出してRAM(Random Access Memory)に展開し、CPU(Central Processing Unit)が各種処理を実行するようになっている。コンバータ制御部18は、電流検出部11又はシャント抵抗R1、R2、ゲイン制御部12、ゼロクロス判定部14、昇圧比制御部16、及び直流電圧検出部17から入力される情報に基づいて、MOSFET(Q1,Q2)のオン/オフを制御する。なお、コンバータ制御部18が実行する処理については後記する。
【0026】
直流電源装置1の動作モードとしては、全波整流モード、部分スイッチングモード、高速スイッチングモードの3つを考える。部分スイッチングモード、高速スイッチングモードは、コンバータがアクティブ動作をするモードであり、ブリッジ整流回路10に短絡電流を通流させることで直流電圧Vdの昇圧と力率の改善を行うモードである。以下、各モードにおける直流電源装置1の動作について説明する。
例えばインバータやモータなどの負荷が大きい場合には、直流電圧Vdを昇圧する必要がある。また、負荷が大きくなり、直流電源装置1に流れる電流が大きくなるにしたがって高調波電流も増大してしまう。そのため、高負荷の場合には、部分スイッチングモードまたは高速スイッチングモードで昇圧を行い、高調波電流の低減つまり、電源入力の力率を改善させる必要がある。
【0027】
≪全波整流動作≫
本発明の主目的である高効率動作実現のために、交流電源電圧Vsの極性に応じてMOSFET(Q1,Q2)をスイッチング制御することにより、同期整流制御を行う。
図2は、交流電源電圧Vsが正の極性の場合において、全波整流を行ったときに回路に流れる電流経路を示した図である。
図2において、交流電源電圧Vsが正の半サイクルの期間では、破線矢印で示す向きに電流が流れる。すなわち電流は、交流電源VS→リアクトルL1→ダイオードD1→平滑コンデンサC1→シャント抵抗R2→MOSFET(Q2)→交流電源VSの順に流れる。このとき、MOSFET(Q1)は常時オフ、MOSFET(Q2)は常時オン状態である。仮にMOSFET(Q2)がオン状態で無い場合には、電流はMOSFET(Q2)の寄生ダイオードD21(図1参照)を流れる。しかし通常、MOSFETの寄生ダイオードの特性は悪いため、大きな導通損失が発生してしまう。そこで、MOSFET(Q2)をオンさせて、MOSFET(Q2)のオン抵抗の部分に電流を流すことで、導通損失の低減を図ることが可能である。これが、いわゆる同期整流制御の原理である。なお、MOSFET(Q2)のオン動作開始のタイミングとしては、交流電源電圧Vsの極性が負から正に切り替わるゼロクロスのタイミングから行う。MOSFET(Q2)のオフさせるタイミングとしては、交流電源電圧Vsの極性が正から負に切り替わるタイミングである。
【0028】
図3は、交流電源電圧が負の極性の場合において、全波整流を行ったときに回路に流れる電流経路を示した図である。
図3において、交流電源電圧Vsが負の半サイクルの期間では、破線矢印で示す向きに電流が流れる。すなわち、交流電源VS→シャント抵抗R1→MOSFET(Q1)→平滑コンデンサC1→ダイオードD2→リアクトルL1→交流電源VSの順に電流が流れる。このとき、MOSFET(Q2)は常時オフ、MOSFET(Q1)は常時オン状態である。なお、MOSFET(Q2)のオン動作開始のタイミングとしては、交流電源電圧Vsの極性が正から負に切り替わるゼロクロスのタイミングから行う。MOSFET(Q2)のオフさせるタイミングとしては、交流電源電圧Vsの極性が負から正に切り替わるタイミングである。
以上のように直流電源装置1を動作させることで、高効率動作が可能となる。
【0029】
図4(a)?(d)は、全波整流時における、交流電源電圧Vsと回路電流isとMOSFETの駆動パルスの波形図である。
図4(a)は交流電源電圧Vsの波形を示し、図4(b)は回路電流isの波形を示している。図4(c)はMOSFET(Q1)の駆動パルス波形を示し、図4(d)はMOSFET(Q2)の駆動パルス波形を示している。
図4(a)に示すように交流電源電圧Vsは、略正弦波状の波形である。
図4(c)に示すようにMOSFET(Q1)の駆動パルスは、交流電源電圧Vsの極性が正のときにLレベル、負のときにHレベルとなる。
図4(c)に示すようにMOSFET(Q2)の駆動パルスは、MOSFET(Q1)の駆動パルスとは反転しており、交流電源電圧Vsの極性が正のときにHレベル、負のときにLレベルとなる。
図4(b)に示すように、回路電流isは、交流電源電圧Vsが所定振幅に達した場合に流れる。
以上が、電源電圧の極性に応じて回路短絡動作を行った場合の電流の流れと、MOSFET(Q1,Q2)のスイッチング動作である。次に、高速スイッチング動作について説明する。
【0030】
≪高速スイッチング動作≫
次に直流電圧Vdの昇圧と力率の改善を行う高速スイッチング動作について説明する。
この動作モードでは、あるスイッチング周波数でMOSFET(Q1,Q2)をスイッチング制御して、回路に短絡電流を通流させることで、直流電圧Vdの昇圧と力率の改善を行う。まず、回路を短絡させた場合の動作について説明する。
【0031】
交流電源電圧Vsが正のサイクルで全波整流を行った場合、電流の流れは図2の通りであり、MOSFET(Q1,Q2)の動作については前記した通りである。このとき、図4(b)に示したように、電源電圧に対して回路電流isは歪んでいる。これは、電流が流れるタイミングが交流電源電圧Vsに対して直流電圧Vdが小さくなった場合のみであることと、リアクトルL1の特性から生じるものである。
そこで、複数回に亘って回路に短絡電流を通流させることで、回路電流を正弦波に近づけることで力率の改善を行い、高調波電流を低減する。
【0032】
図5は、電源電圧が正のサイクルでMOSFET(Q1)をオンさせた場合に流れる短絡電流ispの経路を示した図である。
短絡電流ispの経路としては、交流電源VS→リアクトルL1→ダイオードD1→MOSFET(Q1)→シャント抵抗R1→交流電源VS、の順である。このとき、リアクトルL1には、以下の式(1)で表されるエネルギが蓄えられる。このエネルギが平滑コンデンサC1に放出されることで、直流電圧Vdが昇圧される。
【数1】

【0033】
交流電源電圧Vsが負のサイクルで全波整流を行った場合の電流の流れは図5の通りであり、MOSFET(Q1,Q2)の動作については前記の通りである。
図6は、MOSFET(Q2)をオンさせて短絡電流ispを通流させた場合の経路を示した図である。
電流の経路としては、交流電源VS→MOSFET(Q2)→シャント抵抗R2→ダイオードD2→リアクトルL1、の順となる。このときも、前記したようにリアクトルL1にエネルギが蓄えられ、そのエネルギによって直流電圧Vdが昇圧される。
【0034】
図7(a)?(d)は、短絡電流を通流させた場合における、交流電源電圧Vsと回路電流isとMOSFETの駆動パルスの波形図である。
図7(a)は交流電源電圧Vsの波形を示し、図7(b)は回路電流isの波形を示している。図7(c)はMOSFET(Q1)の駆動パルス波形を示し、図7(d)はMOSFET(Q2)の駆動パルス波形を示している。
図7(a)に示すように交流電源電圧Vsは、略正弦波状の波形である。
図7(c)に示すようにMOSFET(Q1)の駆動パルスは、交流電源電圧Vsの極性が正のときにLレベルとなり、更に所定タイミングで2回のHレベルのパルスとなる。交流電源電圧Vsの極性が負のときにHレベルとなり、更に所定タイミングで2回のLレベルのパルスとなる。
図7(c)に示すようにMOSFET(Q2)の駆動パルスは、MOSFET(Q1)の駆動パルスとは反転している。
図7(b)に示すように、回路電流isは、交流電源電圧Vsが正極性かつ、MOSFET(Q1)の駆動パルスがHレベルになったときに立ち上がり、交流電源電圧Vsが負極性かつ、MOSFET(Q2)の駆動パルスがHレベルになったときに立ち上がる。これにより、力率が改善される。
【0035】
図8(a)?(d)は、高速スイッチングを行った場合の交流電源電圧Vsと回路電流isとMOSFETの駆動パルスの波形図である。
図8(a)は交流電源電圧Vsの波形を示し、図8(b)は回路電流isの波形を示している。図8(c)はMOSFET(Q1)の駆動パルス波形を示し、図8(d)はMOSFET(Q2)の駆動パルス波形を示している。
図8(a)に示すように交流電源電圧Vsは、略正弦波状の波形である。
図8(c)に示すようにMOSFET(Q1)の駆動パルスは、交流電源電圧Vsの極性が正のとき、その大きさに応じたオフ・デューティとなる。交流電源電圧Vsの極性が負のとき、その大きさに応じオン・デューティとなる。
図8(c)に示すようにMOSFET(Q2)の駆動パルスは、MOSFET(Q1)の駆動パルスとは反転しており、交流電源電圧Vsの極性が正のとき、その大きさに応じたオン・デューティとなる。交流電源電圧Vsの極性が負のとき、その大きさに応じたオフ・デューティとなる。
図8(b)に示すように、回路電流isは、交流電源電圧Vsと同位相の正弦波状の波形となる。これにより、図7の場合よりも更に力率が改善される。
【0036】
高速スイッチング動作においては、例えば電源電圧が正の極性の場合、回路短絡動作時には、MOSFET(Q1)をオン、MOSFET(Q2)をオフ状態とすることで、短絡電流ispを通流させる。次にMOSFET(Q1)をオフ状態にし、MOSFET(Q2)をオン状態にする。このように、このように短絡動作の有無に応じてMOSFET(Q1,Q2)のオン、オフを切り替えているのは、同期整流を行っているためである。単純に高速スイッチング動作を行うためには、MOSFET(Q2)は常時オフ状態で、MOSFET(Q1)を一定周波数でスイッチング動作を行えばよい。しかし、このとき、MOSFET(Q1)オフ時にMOSFET(Q2)もオフ状態であると、電流はMOSFET(Q2)の寄生ダイオードD22を流れることになる。前記したように、この寄生ダイオードは特性が悪く、電圧ドロップが大きいために、導通損失が大きくなってしまう。そこで本発明では、MOSFET(Q1)オフ時には、MOSFET(Q2)をオン状態にして同期整流を行うことで、導通損失を低減しているのである。
直流電源装置1に流れる回路電流is(瞬時値)は、以下の式(2)で表すことができる。
【数2】

【0037】
さらに、この式(2)を書き換えると、以下の式(3)となる。
【数3】

【0038】
式(4)は、回路電流is(瞬時値)と、回路電流実効値Isとの関係を示すものである。
【数4】

【0039】
式(3)を変形して式(4)を代入すると、以下の式(5)となる。
【数5】

【0040】
昇圧比の逆数を右辺とすると、以下の式(6)となる。
【数6】

【0041】
さらに、MOSFETのデューティdは、式(7)のように表すことが可能である。
【数7】

【0042】
以上より、式(6)に示したKp×Isを制御することで、交流電源電圧Vsの実効値のa倍に昇圧可能であり、そのときのMOSFETのデューティd(通流率)は、式(7)で与えることができる。
【0043】
図9は、電源電圧半サイクル(正の極性)における、MOSFET(Q1)とMOSFET(Q2)の駆動パルスのオン・デューティの関係を示した図である。図9の縦軸はオン・デューティを示し、横軸は正の極性の電源電圧の半サイクル分の時間を示している。
破線で示したMOSFET(Q2)の駆動パルスのオン・デューティは、交流電源電圧Vsと比例している。2点鎖線で示したMOSFET(Q1)の駆動パルスのオン・デューティは、1.0からMOSFET(Q2)の駆動パルスのオン・デューティを減算したものとなる。
図9において、式(7)で示したように、回路電流isが大きくなるほど短絡電流を流すためにスイッチング動作を行うMOSFET(Q1)の駆動パルスのデューティdは小さくなり、逆に回路電流isが小さいほどMOSFET(Q1)の駆動パルスのデューティdは大きくなる。同期整流を行う側のMOSFET(Q1)の駆動パルスのデューティdは、MOSFET(Q2)の駆動パルスのデューティdとは逆特性となる。
【0044】
図10は、電源電圧半サイクル(正の極性)における、デッドタイムを考慮したMOSFET(Q2)の駆動パルスのオン・デューティを実線で追記した図である。図10の縦軸はオン・デューティを示し、横軸は交流電源電圧Vsの正極性の半サイクル分の時間を示している。
このように、所定のデッドタイムを付与すると、MOSFET(Q2)の駆動パルスのデューティは、このデッドタイム分だけ小さくなる。
【0045】
図11は、交流電源電圧Vsの瞬時値vsと、回路電流is(瞬時値)との関係を示した図である。実線は交流電源電圧Vsの瞬時値vsを示し、破線は回路電流isの瞬時値を示している。図11の横軸は正の極性の電源電圧の半サイクル分の時間を示している。
図11に示すように、高速スイッチング制御により、交流電源電圧Vsの瞬時値vsと回路電流is(瞬時値)とは両方とも略正弦波状となり、よって力率を改善することができる。
MOSFET(Q1)のデューティd_(Q1)を、以下の式(8)に示す。
【数8】

【0046】
MOSFET(Q2)のデューティd_(Q2)を、以下の式(9)に示す。
【数9】

【0047】
また、電源電圧と電流の関係をみると、回路電流isは正弦波状に制御されているため、力率は良い状態である。なお、これはリアクトルL1(図1参照)のインダクタンスが小さく電源電圧に対して電流の位相遅れが無い状態を想定している。仮に、リアクトルL1のインダクタンスが大きく、電流位相が電圧位相に対して遅れる場合には、電流位相を考慮してデューティdを設定すればよい。
【0048】
図12は、交流電源電圧Vsが正極性の場合に、リアクトルL1による電流位相の遅れ分を考慮した場合のMOSFET(Q1)のデューティを示した図である。図12の縦軸はMOSFET(Q1)のデューティを示し、横軸は正の極性の電源電圧の半サイクル分の時間を示している。
実線は、リアクトルL1による電流位相の遅れ分を考慮しない場合のMOSFET(Q1)のデューティを示している。破線は、リアクトルL1による電流位相の遅れ分を考慮した場合のMOSFET(Q1)のデューティを示している。このように制御することにより、リアクトルL1のインダクタンスが大きい場合であっても、電流を正弦波状に制御可能である。
【0049】
ブリッジ整流回路10の制御において、MOSFET(Q1)がオンからオフに切り替わり、MOSFET(Q2)がオフからオンに切り替わるタイミングではデッドタイムを設ける必要がある。MOSFET(Q1)がオフからオンに切り替わり、MOSFET(Q2)がオンからオフに切り替わるタイミングも同様である。デッドタイムを設けていない場合には、ブリッジ整流回路10の直流出力側が上下短絡し、最悪の場合、直流電源装置1が破壊するおそれがある。
【0050】
図13(a)?(c)は、交流電源電圧Vsが正のサイクルの場合において、MOSFET(Q1,Q2)それぞれにデッドタイムを設けた場合の回路電流とMOSFET(Q1,Q2)の駆動パルスの関係を示した図である。
図13(a)の回路電流の実線はMOSFET(Q1)にデッドタイムを設けた場合に通流する電流を示している。回路電流の破線は、目標値を示している。
図13(b)はMOSFET(Q1)の駆動パルス波形を示している。破線はデッドタイムを考慮しない場合、実線はデッドタイムを考慮した場合である。周期TはPWM周期を示し、時間tonはオン時間、時間toffはオフ時間を示している。
図13(c)はMOSFET(Q1)の駆動パルス波形を示している。図13(a)?(c)とも横軸は、共通する時間を示している。時間tdはデッドタイムを示している。
【0051】
図13(b)のt0のタイミングにおいて、本来はMOSFET(Q1)の駆動パルス波形において、破線で示す部分までオン・デューティを確保すべきである。しかしMOSFET(Q1)側にもデッドタイムを設けることで、設定されたオン・デューティを確保できない。よって図13(a)に示すように、破線で示す目標電流まで電流を通流させることができていない。
このため、直流電圧Vdを目標値まで昇圧することができない。
【0052】
例えば目標とするデッドタイムを確保するために、交流電源電圧Vsが正極性のとき、MOSFET(Q1)とMOSFET(Q2)のデッドタイムの分担比を考えた場合に、MOSFET(Q1)の分担比を小さくすればするほど、目標電流に近づけることが可能となる。つまり、理想的にはMOSFET(Q2)側にデッドタイムを100%分担させることで、目標電流を通流させることができ、つまりは目標とする直流電圧Vdまで昇圧することが可能である。この内容を図示すると、図14のような関係となる。
【0053】
図14(a),(b)は、交流電源電圧Vsが正極性のとき、MOSFET(Q2)にデッドタイムを設定した様子を表した図である。図14(a)はMOSFET(Q1)の駆動パルスを示し、図14(b)はMOSFET(Q2)の駆動パルスを示している。
ここではMOSFET(Q2)側にデッドタイムを100%分担し、MOSFET(Q1)側はデッドタイムを分担していない。
図14(a)のように、オン時間tonとオフ時間toffとがMOSFET(Q1)の駆動パルスに設定されている。これにより、回路電流isを目標電流に近づけることが可能となる。
図14(b)のように、MOSFET(Q1)の駆動パルスに対して、時間tdのデッドタイムをMOSFET(Q2)の駆動パルスに設けている。これにより、ブリッジ整流回路10の直流出力側の上下短絡を防ぐことができる。
【0054】
また同様に交流電源電圧Vsが負極性のとき、MOSFET(Q1)側にデッドタイムをもたせることで直流電圧Vdを目標値まで昇圧可能である。この内容を図示すると図15のような関係となる。
【0055】
図15(a),(b)は、交流電源電圧Vsが負極性のとき、MOSFET(Q1)にデッドタイムを設定した様子を表した図である。図15(a)はMOSFET(Q1)の駆動パルスを示し、図15(b)はMOSFET(Q2)の駆動パルスを示している。
ここではMOSFET(Q1)側にデッドタイムを100%分担し、MOSFET(Q2)側はデッドタイムを分担していない。
図15(a)のように、MOSFET(Q1)の駆動パルスに対して、時間tdのデッドタイムをMOSFET(Q2)の駆動パルスに設けている。これにより、ブリッジ整流回路10の直流出力側の上下短絡を防ぐことができる。
図15(b)のように、オン時間tonとオフ時間toffとがMOSFET(Q2)の駆動パルスに設定されている。これにより、回路電流isを目標電流に近づけることが可能となる。
【0056】
以上、まとめると本発明の直流電源装置1において、デッドタイムは、交流電源電圧Vsが正の場合には、MOSFET(Q2)側の駆動パルスのデッドタイムの分担に対してMOSFET(Q1)側を小さくし、理想的にはMOSFET(Q2)側にデッドタイムを設定する。交流電源電圧Vsが負の場合には、MOSFET(Q1)の駆動パルスのデッドタイムの分担に対してMOSFET(Q2)側を小さくし、理想的にはMOSFET(Q1)側にデッドタイムを設定する。
【0057】
以上のように、交流電源電圧Vsの極性に合わせてデッドタイムを設定した場合、MOSFET(Q1,Q2)のデューティやオン時間、オフ時間の関係を表すと以下のようになる。
MOSFET(Q1)のオン時間t_(on_Q1)は、以下の式(10)で算出される。ここでTは周期である。
【数10】

【0058】
MOSFET(Q1)のオフ時間t_(off_Q1)は、以下の式(11)で算出される。
【数11】

【0059】
MOSFET(Q2)のオン時間t_(on_Q2)は、以下の式(12)で算出される。ここでtdはデッドタイムである。
【数12】

【0060】
MOSFET(Q2)のオフ時間t_(off_Q2)は、以下の式(13)で算出される。
【数13】

【0061】
MOSFET(Q2)のデューティd_(Q2)は、以下の式(14)で算出される。
【数14】

【0062】
以上のようにデッドタイムを設定することで、直流電圧Vdを目標値まで昇圧しつつ、力率の改善による高調波電流の低減が可能である。更に、本発明の直流電源装置1においては同期整流を行っているため高効率動作も可能である。
【0063】
≪部分スイッチング動作≫
前記したように、高速スイッチング動作を行うことで回路電流isを正弦波に成形することができ、高力率を確保することができる。しかし、スイッチング周波数が大きければ大きいほどスイッチング損失は大きくなる。
回路の入力が大きいほど、高調波電流も増大するので、特に高次の高調波電流の規制値を満足することが難しくなるため、入力電流が大きいほど高力率を確保する必要がある。逆に入力が小さい場合には高調波電流も小さくなるので必要以上に力率を確保する必要が無い場合がある。つまり、言い換えると負荷条件に応じて効率を考慮しつつ最適な力率を確保することで高調波電流を低減すればよいと言える。
そこで、スイッチング損失の増大を抑えつつ、力率を改善する場合には部分スイッチング動作を行えばよい。
【0064】
部分スイッチング動作とは、高速スイッチング動作のように所定周波数で回路を短絡させるのではなく、交流電源電圧Vsの半サイクルの中で、ブリッジ整流回路を繰り返し複数回短絡させることで直流電圧Vdの昇圧と力率の改善を行う動作モードである。高速スイッチング動作の場合と比べてMOSFET(Q1,Q2)のスイッチング回数が少ない分、スイッチング損失の低減が可能である。以下、図16を用いて部分スイッチング動作の説明を行う。
【0065】
図16(a)?(d)は、交流電源電圧Vsが正のサイクルにおける、MOSFET(Q1)の駆動パルスと交流電源電圧Vs、回路電流isの関係を示した図である。
図16(a)は交流電源電圧Vsを示し、図16(b)は回路電流isを示している。図16(c)はMOSFET(Q1)の駆動パルスを示し、図16(d)はMOSFET(Q2)の駆動パルスを示している。
図16(a)に示すように交流電源電圧Vsは、略正弦波状である。
図16(b)の一点鎖線は、理想的な回路電流isを略正弦波状に示している。このとき、最も力率が改善される。
ここで例えば、理想電流上の点P1を考えた場合、この点での傾きをdi(P1)/dtとおく。次に、電流がゼロの状態から、MOSFET(Q1)を時間ton1_Q1に亘ってオンしたときの電流の傾きをdi(ton1_Q1)/dtとおく。さらに時間ton1_Q1に亘ってオンした後、時間toff_Q1に亘ってオフした場合の電流の傾きをdi(toff1_Q1)/dtとおく。このときdi(ton1_Q1)/dtとdi(toff1_Q1)/dtとの平均値が点P1における傾きdi(P1)/dtと等しくなるように制御する。
次に、点P1と同様に、点P2での電流の傾きをdi(P2)/dtとおく。そして、MOSFET(Q1)を時間ton2_Q1に亘ってオンしたときの電流の傾きをdi(ton2_Q1)/dtとおき、時間toff2_Q2に亘ってオフした場合の電流の傾きをdi(toff2_Q2)/dtとおく。点P1の場合と同様に、di(ton2_Q1)/dtとdi(toff2_Q1)/dtの平均値が点P2における傾きdi(P2)/dtと等しくなるようにする。以降これを繰り返していく。このとき、MOSFET(Q1)のスイッチング回数が多いほど、理想的な正弦波に近似することが可能である。
【0066】
図16(d)において、まずMOSFET(Q2)が時間ton1_Q2に亘ってオンとなり、そののち時間toff1_Q2に亘ってオフ状態となる。
図16(c)に示すように、MOSFET(Q2)がオフになったタイミングで、MOSFET(Q1)が時間ton1_Q1に亘ってオン状態になる。そしてMOSFET(Q1)がオフ状態となったタイミングでMOSFET(Q2)が時間ton2_Q2に亘ってオン状態となる。以降、同様にMOSFET(Q1,Q2)は双方でオン、オフを繰り返す。これは、高速スイッチング動作で説明したように、回路短絡動作を行いつつ、同期整流を行っているためである。この部分スイッチング動作においても、MOSFET(Q1,Q2)のオン、オフ切り替わりのタイミングで上下短絡を起こす危険性があるため、高速スイッチング動作の場合と同様にデッドタイムを設けている。つまり、交流電源電圧Vsが正の場合では、MOSFET(Q1)側のデッドタイムの割合をMOSFET(Q2)よりも小さくする。理想的にはMOSFET(Q2)側でデッドタイムを確保する。交流電源電圧Vsが負の場合では、MOSFET(Q2)側のデッドタイムの割合をMOSFET(Q1)よりも小さくする。理想的にはMOSFET(Q1)側でデッドタイムを確保する。このようにデッドタイムを設定することで、高効率動作を行いつつ、力率の改善と直流電圧Vdの昇圧を行うことが可能である。
【0067】
<デッドタイム可変>
これまでの説明では、デッドタイムはある一定の固定値で考えてきた。しかしデッドタイムにある特性をもたせ、場合に応じて変化させてもよい。
図16は、MOSFETのゲート回路の等価回路である。
MOSFETのゲート電圧Vgsは、以下の式(15)の関係がある。
【数15】

【0068】
但し、Eは電源電圧、Cgsはゲート-ソース間容量、Cgdはゲート-ドレイン間容量、Rgはゲート抵抗を示している。また、ゲートの入力容量Cissは、CgdとCgsとの和で表される。
ここで、ゲートの入力容量Cissは、ドレイン-ソース間電圧Vdsが大きくなるほど、容量が小さくなるという特性がある。そのためドレイン-ソース間電圧Vdsが大きいほど早くオンするといえる。本発明の直流電源装置1は、入力電源が交流電源VSであるため、実際にはオンするまでの時間も、この交流電源電圧Vsとともに変化していると考えられる。すなわち、交流電源電圧Vsのゼロクロス付近でのオン時間ton_zeroと、交流電源電圧Vsのピーク付近でのオン時間ton_peakとを比べると、オン時間ton_zeroは、オン時間ton_peakよりも大きい。
【0069】
そこで、より最適にデッドタイムを設定するためには、電源電圧ゼロクロス付近でのデッドタイムに対して、電源電圧ピーク付近でのデッドタイムは小さく設定すればよい。このように設定することで、同期整流期間が増えることになり、損失低減効果をさらに高めることが可能である。
例えばデッドタイムtdを、以下の式(16)のように設定する。
【数16】

【0070】
但し、td0はデッドタイムの最大値、Tはスイッチング周期、tonはオン時間、toffはオフ時間である。
ここで、ton,toffは変化する。デューティで考えた場合、図9に示したように、ゼロクロス付近では100%、電圧ピーク付近では10%以下というように、ピーク付近ほどデューティは小さくなる、つまりtonは小さくなる。よって式(16)に示すように、周期に対してオン時間の割合だけデッドタイムtdを小さくするとよい。交流電源電圧VsとMOSFETの特性を考慮してデッドタイムtdを可変させることで、同期整流期間を増やすことができ、導通損低減効果を更に高めることが可能である。なお、デッドタイムtdの可変方法として式(16)で説明したが、これはあくまで代表的な式であり、別の式や方法でデッドタイムを可変させてもよい。
【0071】
<空気調和機と直流電源装置の動作>
図18は、本実施形態における空気調和機の室内機、室外機、およびリモコンの正面図である。
図18に示すように、空気調和機Aは、いわゆるルームエアコンであり、室内機100と、室外機200と、リモコンReと、不図示の直流電源装置1(図1参照)とを備えている。室内機100と室外機200とは冷媒配管300で接続され、周知の冷媒サイクルによって、室内機100が設置されている室内を空調する。また、室内機100と室外機200とは、通信ケーブル(図示せず)を介して互いに情報を送受信するようになっている。直流電源装置1は、この室内機100と室外機200とに直流電力を供給する。
【0072】
リモコンReは、ユーザによって操作されて、室内機100のリモコン送受信部Qに対して赤外線信号を送信する。この赤外線信号の内容は、運転要求、設定温度の変更、タイマ、運転モードの変更、停止要求などの指令である。空気調和機Aは、これら赤外線信号の指令に基づいて、冷房モード、暖房モード、除湿モードなどの空調運転を行う。また、室内機100は、リモコン送受信部QからリモコンReへ、室温情報、湿度情報、電気代情報などのデータを送信する。
【0073】
空気調和機Aに搭載された直流電源装置1の動作の流れについて説明する。直流電源装置1は、高効率動作と力率の改善による高調波電流の低減と直流電圧Vdの昇圧を行うものである。そして、動作モードとしては前記のように、全波整流動作、高速スイッチング動作、部分スイッチング動作の3つの動作モードを備えている。
【0074】
例えば負荷Hとして空気調和機Aのインバータやモータを考えた場合、負荷が小さく、効率重視の運転が必要であれば、直流電源装置1を全波整流モードで動作させるとよい。
負荷が大きくなり、昇圧と力率の確保とが必要であれば、直流電源装置1に高速スイッチング動作を行わせるとよい。また空気調和機Aの定格運転時のように、負荷としてはそれほど大きくないが昇圧や力率の確保が必要な場合には、部分スイッチング動作を行わせるとよい。
【0075】
図19は、負荷の大きさに応じて直流電源装置1の動作モードと空気調和機Aの運転領域を切り替える様子を説明した概要図である。
定格運転とは、JISC9612に記載された「JISB8615-1 表1(冷房能力試験条件)のT1条件下での運転」のことをいう。具体的にはJISB8615-1の第5項「冷房試験」と第6項「暖房試験」の中に、温度条件が記載されている。
高負荷運転とは、例えば「JIS B 8615-1に記載の過負荷運転条件下での運転」であるが、定格運転よりも更に入力が大きい運転領域であればよい。
中間運転とは、「定格運転の半分の運転能力」のことをいい、JISC9612に記載されている。
負荷に、閾値#1,#2を設けて、かつ機器として空気調和機Aを考えた場合、負荷が小さい中間領域において、直流電源装置1は全波整流を行い、定格運転時には部分スイッチングを行い、必要に応じて高速スイッチングを行う。
定格運転よりも更に負荷が大きい低温暖房運転領域などにおいて、直流電源装置1は高速スイッチングを行い、必要に応じて部分スイッチングを行う。
以上のように、直流電源装置1は、空気調和機Aの運転領域に応じた最適な動作モードに切り替えることで、高効率動作を行いつつ、高調波電流の低減を行うことが可能である。
【0076】
なお、負荷Hがインバータやモータなどの場合、負荷の大きさを決めるパラメータとして、インバータやモータに流れる電流、インバータの変調率、モータの回転速度が考えられる。また、直流電源装置1に通流する回路電流isで負荷Hの大きさを判断してもよい。
例えばまたは負荷の大きさが閾値#1以下ならば、直流電源装置1は全波整流を行い、閾値#1を超えたならば部分スイッチングを行う。または負荷の大きさが閾値#2を超えたならば、直流電源装置1は高速スイッチングを行い、閾値#2を以下ならば部分スイッチングを行う。
以上のように直流電源装置1は、負荷の大きさに応じた最適な動作モードに切り替えることで、高効率動作を行いつつ、高調波電流の低減を行うことが可能である。
【0077】
本実施形態では、MOSFET(Q1,Q2)としてスーパージャンクションMOSFETを使用した例を説明した。このMOSFET(Q1,Q2)としてSiC(Silicon Carbide)-MOSFETを用いることで、更なる高効率動作を実現することが可能である。
【0078】
また、本発明の直流電源装置1を空気調和機Aに備えることで、エネルギ効率(つまり、APF)が高く、また、信頼性の高い空気調和機Aを提供できる。空気調和機以外の機器に本発明の直流電源装置1を搭載しても、高効率で信頼性の高い機器を提供することが可能である。
【0079】
(変形例)
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば上記した実施形態は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【0080】
上記の各構成、機能、処理部、処理手段などは、それらの一部または全部を、例えば集積回路などのハードウェアで実現してもよい。上記の各構成、機能などは、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈して実行することにより、ソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイルなどの情報は、メモリ、ハードディスクなどの記録装置、または、フラッシュメモリカード、DVD(Digital Versatile Disk)などの記録媒体に置くことができる。
【0081】
各実施形態に於いて、制御線や情報線は、説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
例えば図20は、変形例における直流電源装置1Aを示す概略の構成図である。電流検出部11(電流検出部)は、トランスであり、配線hbに設けられており、配線ha,hbを介して流れる電流(負荷)を検出する。本発明は、このように構成してもよい。なお、トランスの代わりに、ホール素子などを用いてもよい。
【符号の説明】
【0082】
1,1A 直流電源装置
10 ブリッジ整流回路 (整流回路)
11 電流検出部
R1,R2 シャント抵抗 (電流検出部)
12 ゲイン制御部
13 交流電圧検出部
14 ゼロクロス判定部 (極性検出部)
15 負荷検出部
16 昇圧比制御部
17 直流電圧検出部
18 コンバータ制御部
Vs 交流電源
C1 平滑コンデンサ
D1,D2 ダイオード
ha,hb,hc,hd 配線
L1 リアクトル
Q1,Q2 MOSFET
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
第1のダイオードのカソードと第1のスイッチング素子の一端とが出力側の正極に接続され、前記第1のダイオードのアノードと第2のダイオードのカソードとが交流電源の一端側に接続され、前記第1のスイッチング素子の他端と第2のスイッチング素子の一端とが前記交流電源の他端側に接続され、前記第2のダイオードのアノードと前記第2のスイッチング素子の他端とが出力側の負極に接続されることによりブリッジ接続される整流回路と、
交流電源と前記整流回路との間に設けられるリアクトルと、
前記整流回路の出力側に接続され、前記整流回路から印加される電圧を平滑化する平滑コンデンサと、
前記交流電源の電圧の極性が切り替わるゼロクロスのタイミングで前記第1のスイッチング素子と前記第2のスイッチング素子を双方向にスイッチングして負荷に電流を流す同期整流制御を実施すると共に、前記交流電源の半周期間に前記リアクトルを前記交流電源に短絡する回路短絡制御を繰り返し複数回実施する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
交流全周期に亘って前記同期整流制御を実施する全波整流動作と、
前記同期整流制御を実施すると共に、前記交流電源の所定位相にて部分的に前記回路短絡制御を実施する部分スイッチング動作と、
交流全周期に亘って前記同期整流制御と前記回路短絡制御とを交互に実施する高速スイッチング動作、のうちいずれかの動作に切り替える、
ことを特徴とする直流電源装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記整流回路の出力側の負荷の大きさに応じて、前記全波整流動作と前記部分スイッチング動作と前記高速スイッチング動作のうちいずれかの動作に切り替える、
ことを特徴とする請求項2に記載の直流電源装置。
【請求項4】
前記制御部は、上位装置の運転領域に応じて、前記全波整流動作と前記部分スイッチング動作と前記高速スイッチング動作のうちいずれかの動作に切り替える、
ことを特徴とする請求項2に記載の直流電源装置。
【請求項5】
前記交流電源の一端側の電圧が正極性の場合は、同一のスイッチング周期の中で前記第1のスイッチング素子に設けたデッドタイムに対して、前記第2のスイッチング素子に設けたデッドタイムを相対的に大きくし、前記交流電源の一端側の電圧が負極性の場合は、前記第1のスイッチング素子に設けたデッドタイムに対して、前記第2のスイッチング素子に設けたデッドタイムを相対的に小さくする、
ことを特徴とする請求項2に記載の直流電源装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記第1,第2のスイッチング素子の制御のデッドタイムを前記交流電源の電圧の大きさに応じて変化させる、
ことを特徴とする請求項5に記載の直流電源装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記第1,第2のスイッチング素子の制御のデッドタイムを前記交流電源の電圧位相に応じて変化させる、
ことを特徴とする請求項5に記載の直流電源装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記第1,第2のスイッチング素子の制御のデッドタイムを、電源電圧ゼロクロス付近に対して電源電圧ピーク付近の方が小さくなるように変化させる、
ことを特徴とする請求項5に記載の直流電源装置。
【請求項9】
前記交流電源の一端側の電圧が正極性の場合は、同一のスイッチング周期の中で、前記第2のスイッチング素子の制御にデッドタイムを設けて、前記第1のスイッチング素子の制御には設けず、前記交流電源の一端側の電圧が負極性の場合は、同一のスイッチング周期の中で、前記第1のスイッチング素子側の制御にデッドタイムを設け、前記第2のスイッチング素子側の制御には設けない、
ことを特徴とする請求項2に記載の直流電源装置。
【請求項10】
前記第1,第2のダイオードは、SiC(Silicon Carbide)-ショットキーバリアダイオードまたは整流ダイオードである、
ことを特徴とする請求項2に記載の直流電源装置。
【請求項11】
前記第1,第2のスイッチング素子は、スーパージャンクションMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)またはSiC-MOSFETである、
ことを特徴とする請求項2に記載の直流電源装置。
【請求項12】
請求項2ないし請求項11のうち何れか1項に記載の直流電源装置を備えた、
ことを特徴とする空気調和機。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-02-12 
出願番号 特願2015-97890(P2015-97890)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (H02M)
P 1 652・ 537- YAA (H02M)
P 1 652・ 113- YAA (H02M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 栗栖 正和  
特許庁審判長 國分 直樹
特許庁審判官 山澤 宏
井上 信一
登録日 2018-10-12 
登録番号 特許第6416690号(P6416690)
権利者 日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社
発明の名称 直流電源装置および空気調和機  
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所  
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所  

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