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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 F16K 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 F16K 審判 全部申し立て 2項進歩性 F16K 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 F16K |
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管理番号 | 1361443 |
異議申立番号 | 異議2018-700922 |
総通号数 | 245 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-05-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-11-15 |
確定日 | 2020-02-21 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6340232号発明「複座平衡弁」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6340232号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6340232号の請求項1、3ないし5に係る特許を維持する。 特許第6340232号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6340232号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成26年4月3日に出願され、平成30年5月18日にその特許権の設定登録がされ、平成30年6月6日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 平成30年11月15日提出: 特許異議申立人小川鐵夫による請求項1?5に係る特許に対する特許異議の申立て 平成31年 2月20日付け: 取消理由通知書 平成31年 4月26日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和 元年 5月21日付け: 手続補正指令書(方式) 令和 元年 5月30日 : 特許権者による手続補正書(方式)の提出(平成31年4月26日提出の訂正請求書の補正) 令和 元年 9月27日付け: 取消理由通知書(決定の予告) 令和 元年11月20日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 なお、令和元年6月14日付け通知書(訂正請求があった旨の通知)を特許異議申立人に送付したが、特許異議申立人による意見書の提出はされていない。 第2 訂正の適否 1.訂正の内容 令和元年11月20日にされた訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?5について訂正することを求めるものである。 この訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。下線は訂正箇所を示す。 (1)訂正事項1 本件訂正前特許請求の範囲の請求項1に 「【請求項1】 弁棒と、前記弁棒の軸心方向に離間した位置に取り付けられた第1および第2の弁体と、流体の流出路を形成するホルダと、前記ホルダに設けられて前記第1および第2の弁体のそれぞれにより開閉され、前記流出路への流体の流入を制御する第1および第2の弁座とを有し、 前記第1の弁体は前記第1の弁座の弁口から前記流出路への流体の流入量を制御し、 前記第2の弁体は前記第2の弁座への流体の流入量を制御し、 前記第1の弁体と、対応する前記第1の弁座との間に閉弁時に隙間が設けられている複座平衡弁。」 とあるのを、 「【請求項1】 フロート式スチームトラップに用いられる複座平衡弁であって、 弁棒と、前記弁棒の軸心方向に離間した位置に取り付けられた第1および第2の弁体と、流体の流出路を形成するホルダと、前記ホルダに設けられて前記第1および第2の弁体のそれぞれにより開閉され、前記流出路への流体の流入を制御する第1および第2の弁座とを有し、 前記第1の弁体が前記第2の弁体よりも下方に配置され、 前記第1の弁体は前記第1の弁座の弁口から前記流出路への流体の流入量を制御し、 前記第2の弁体は前記第2の弁座の弁口から前記流出路への流体の流入量を制御し、 下側の前記第1の弁体と、対応する前記第1の弁座との間にのみ閉弁時に隙間が設けられている複座平衡弁。」 と訂正する。 (2)訂正事項2 請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 本件訂正前特許請求の範囲の請求項3に 「【請求項3】 請求項1または2に記載の複座平衡弁において、前記隙間の軸方向寸法Sは、この隙間に連なる弁口の通路面積に等しい仮想円孔の直径をDとしたとき、S/D=1/15?3/10である複座平衡弁。」 とあるのを、 「【請求項3】 請求項1に記載の複座平衡弁において、前記隙間の軸方向寸法Sは、この隙間に連なる弁口の通路面積に等しい仮想円孔の直径をDとしたとき、S/D=1/15?3/10である複座平衡弁。」 と訂正する。 (4)訂正事項4 本件訂正前特許請求の範囲の請求項4に 「【請求項4】 請求項1から3のいずれか一項に記載の複座平衡弁において、前記弁座を形成する弁座部材が前記ホルダの弁座取付孔に嵌合されており、前記弁座部材は前記弁棒を挿通させるカラーと、このカラーから放射状に径方向外方に延びて前記弁座取付孔の内面に接触ないし近接する複数のバー部材とを有し、これら複数のバー部材間の周方向の空間が前記流体の通路を形成している複座平衡弁。」 とあるのを、 「【請求項4】 請求項1または3に記載の複座平衡弁において、弁座部材が、前記ホルダの弁座取付孔に摺動自在に嵌合されており、前記第1および第2の弁体とともに前記弁棒に固定され、前記弁棒の上下運動に連動して前記第1および第2の弁体と一体に移動し、前記弁座部材は前記弁棒を挿通させるカラーと、このカラーから放射状に径方向外方に延びて前記弁座取付孔の内面に接触ないし近接する複数のバー部材とを有し、これら複数のバー部材間の周方向の空間が前記流体の通路を形成している複座平衡弁。」 と訂正する。 (5)訂正事項5 本件訂正前特許請求の範囲の請求項5に 「【請求項5】 蒸気および復水を含んだ流体が上部から流入するトラップ室と、 前記トラップ室の下部に開口し前記復水を排出する排出孔と、 前記トラップ室内に配置されて前記復水の浮力により上下移動するフロートと、 前記トラップ室に配置された請求項1から4のいずれか一項に記載の複座平衡弁とを備え、 前記フロートがその上下移動に連動して前記複座平衡弁の前記弁棒を軸心方向に移動させるように前記弁棒に連結されているフロート式スチームトラップ。」 とあるのを、 「【請求項5】 蒸気および復水を含んだ流体が上部から流入するトラップ室と、 前記トラップ室の下部に開口し前記復水を排出する排出孔と、 前記トラップ室内に配置されて前記復水の浮力により上下移動するフロートと、 前記トラップ室に配置された請求項1,3,4のいずれか一項に記載の複座平衡弁とを備え、 前記フロートがその上下移動に連動して前記複座平衡弁の前記弁棒を軸心方向に移動させるように前記弁棒に連結されているフロート式スチームトラップ。」 と訂正する。 なお、訂正前の請求項1?5は、請求項2?5が、それぞれそれより前の請求項(のいずれか一項)の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項1?5について請求されている。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1 ア.訂正の目的の適否 訂正事項1に係る請求項1についての訂正のうち、「フロート式スチームトラップに用いられる複座平衡弁であって、」という事項を付加する訂正は、本件訂正前の請求項1に記載された「複座平衡弁」の用途を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項1に係る請求項1についての訂正のうち、第1の弁体と第2の弁体の位置関係について、「前記第1の弁体が前記第2の弁体よりも下方に配置され、」という限定を付加し、第1の弁体に「下側の」という限定を付加するとともに、閉弁時の隙間について、この「下側の」第1の弁体と、対応する第1の弁座との間に「のみ」設けられるという限定を付加する訂正は、前記したように限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項1に係る請求項1についての訂正のうち、「前記第2の弁体は前記第2の弁座の弁口から前記流出路への流体の流入量を制御し、」とする訂正は、平成31年2月20日付け取消理由通知書の「●理由3(明確性)について」の(1)で指摘した事項に対応するためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ.新規事項の有無 本件特許の特許請求の範囲、明細書又は図面(以下、「特許明細書等」という。)には、「・・・請求項1から4のいずれか一項に記載の複座平衡弁とを備え、前記フロートがその上下移動に連動して前記複座平衡弁の前記弁棒を軸心方向に移動させるように前記弁棒に連結されているフロート式スチームトラップ。」(特許請求の範囲の【請求項5】、下線は当審で付与した。以下、同様。)、及び「図1は、本発明の一実施形態に係る複座平衡弁2を備えたフロート式スチームトラップを示す縦断面図である。」(明細書の段落【0017】)と記載されているから、訂正事項1に係る請求項1についての訂正のうち、「フロート式スチームトラップに用いられる複座平衡弁であって、」という事項についての訂正は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものである。 また、特許明細書等には、「請求項1に記載の複座平衡弁において、前記第1の弁体が前記第2の弁体よりも下方に配置されている複座平衡弁」(特許請求の範囲の【請求項2】)、「一対の弁体28,29のうちの下方に配置された第1の弁体28と第1の弁座30との間には、閉弁時において所定間隔の隙間38が設けられている。」(明細書の段落【0021】)、及び「トラップ室11内の復水Fの滞留量が少ないときにはフロート22が下方位置に移動するのに伴いレバー21が支点ピン20を支点に図の時計回りに回動し、レバー21の回動により連結ピン24を介して弁棒23が引き上げられて、第2の弁体29が第2の弁座31に着座して閉弁状態を保持する。他方、第1の弁体28は、図2の第2のスペーサ部材51によって設定された隙間38分だけ第1の弁座31から離間しているため、この隙間38から弁口33に流入する流体である復水F2が流出路13を通って常時、フロート式スチームトラップ1から、2次側流体として排出される。」(明細書の段落【0026】)と記載されているから、訂正事項1に係る請求項1についての訂正のうち、「前記第1の弁体が前記第2の弁体よりも下方に配置され、」という事項、及び「下側の前記第1の弁体と、対応する前記第1の弁座との間にのみ閉弁時に隙間が設けられている」という事項についての訂正は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものである。 さらに、特許明細書等には、「一方、第2の弁体29は、ホルダ18の内側に位置して第2の弁座31の弁口34から流出路13への復水F2の流入量を制御する外接型であって、復水F2の圧力を上方から下方の開弁方向に受ける。」(明細書の段落【0020】)と記載されているから、訂正事項1に係る請求項1についての訂正のうち、「前記第2の弁体は前記第2の弁座の弁口から前記流出路への流体の流入量を制御し、」という事項についての訂正は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものである。 そうすると、訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、新規事項の追加に該当しないものである。 ウ.特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1に係る請求項1についての訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。 (2)訂正事項2 訂正事項2に係る請求項2についての訂正は、訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項2に係る請求項2についての訂正が、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。 (3)訂正事項3 訂正事項3に係る請求項3についての訂正は、訂正前の請求項2の削除に伴い、引用する請求項の数を削減するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項3に係る請求項3についての訂正が、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。 (4)訂正事項4 ア.訂正の目的の適否 訂正事項4に係る請求項4についての訂正のうち、「請求項1または3に記載の複座平衡弁において、」とする訂正は、訂正前の請求項2の削除に伴い、引用する請求項の数を削減するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項4に係る請求項4についての訂正のうち、「弁座部材が、前記ホルダの弁座取付孔に摺動自在に嵌合されており、前記第1および第2の弁体とともに前記弁棒に固定され、前記弁棒の上下運動に連動して前記第1および第2の弁体と一体に移動し、」とする訂正は、平成31年2月20日付け取消理由通知書の「●理由3(明確性)について」の(2)で指摘した事項に対応するためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ.新規事項の有無 訂正事項4に係る請求項4についての訂正のうち、「請求項1または3に記載の複座平衡弁において、」とする訂正が、新規事項の追加に該当しないことは明らかである。 また、特許明細書等には、「弁棒23における弁体28,29の各々の取付位置の近傍箇所には、後述する構成を備えた弁座部材41、41が、ホルダ18の弁座取付孔42、43に摺動自在に嵌合した状態で取り付けられている。」(明細書の段落【0023】)、「弁座部材41および第1、第2の弁体28,29は以下のような構成で弁棒23に固定されている。」(明細書の段落【0024】)、「・・・、第1および第2の弁体28,29と上下の弁座部材41、41とが所定の配置に位置決めされて弁棒23に固定されている。弁棒23の上下移動に連動して第1および第2の弁体28,29と上下の弁座部材41、41とが一体に移動する。このとき、各バー部材48の先端部は弁座取付孔42,43の内径面に接触ないし近接した状態で軸方向に移動する。」(明細書の段落【0025】)、及び「さらに、第1および第2の弁体28,29が取り付けられた弁棒23に、ホルダ18の弁座取付孔42に嵌合された弁座部材41が、これのカラー44に弁棒23を挿通させた状態で取り付けられているので、弁開閉時には、弁棒23、弁体28,29および弁座部材41,42が一体に移動する。このとき、弁座部材41,42のカラー44から径方向外方に延びる複数のバー部材48の外方端が、ホルダ18の弁座取付孔42,43の内面に接触ないし近接する状態で移動することにより、弁体28,29は、これと同心状に配置された弁座30,31の中心軸に対しずれないようにセンタリングされながら移動するので、弁体28,29の開閉動作が安定化される。」(明細書の段落【0034】)と記載されているから、訂正事項4に係る請求項4についての訂正のうち、「弁座部材が、前記ホルダの弁座取付孔に摺動自在に嵌合されており、前記第1および第2の弁体とともに前記弁棒に固定され、前記弁棒の上下運動に連動して前記第1および第2の弁体と一体に移動し、」という事項についての訂正は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものである。 そうすると、訂正事項4に係る請求項4についての訂正は、新規事項の追加に該当しないものである。 ウ.特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項4に係る請求項4についての訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。 (5)訂正事項5 訂正事項5に係る請求項5についての訂正は、訂正前の請求項2の削除に伴い、引用する請求項の数を削減するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項5に係る請求項5についての訂正が、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。 3.一群の請求項ごとに訂正を請求することについて 訂正前の請求項2?請求項5は、訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用したものであるから、訂正前の請求項1?請求項5は、特許法施行規則第45条の4に規定する関係を有する一群の請求項を構成する。そして、本件訂正請求は、訂正事項1?訂正事項5により、訂正前の請求項1?請求項5の記載を訂正しようとするものであり、一群の請求項1?請求項5に対して請求されている。 したがって、本件訂正請求は特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 4.小括 前記のとおり、訂正事項1?訂正事項5に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合し、さらに、同法第120条の5第4項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、令和元年11月20日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件特許発明 本件訂正請求により訂正された請求項1,3?5に係る発明(以下、「本件特許発明1」、「本件特許発明3」?「本件特許発明5」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1,3?5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 本件特許発明1 「【請求項1】 フロート式スチームトラップに用いられる複座平衡弁であって、 弁棒と、前記弁棒の軸心方向に離間した位置に取り付けられた第1および第2の弁体と、流体の流出路を形成するホルダと、前記ホルダに設けられて前記第1および第2の弁体のそれぞれにより開閉され、前記流出路への流体の流入を制御する第1および第2の弁座とを有し、 前記第1の弁体が前記第2の弁体よりも下方に配置され、 前記第1の弁体は前記第1の弁座の弁口から前記流出路への流体の流入量を制御し、 前記第2の弁体は前記第2の弁座の弁口から前記流出路への流体の流入量を制御し、 下側の前記第1の弁体と、対応する前記第1の弁座との間にのみ閉弁時に隙間が設けられている複座平衡弁。」 本件特許発明3 「【請求項3】 請求項1に記載の複座平衡弁において、前記隙間の軸方向寸法Sは、この隙間に連なる弁口の通路面積に等しい仮想円孔の直径をDとしたとき、S/D=1/15?3/10である複座平衡弁。」 本件特許発明4 「【請求項4】 請求項1または3に記載の複座平衡弁において、弁座部材が、前記ホルダの弁座取付孔に摺動自在に嵌合されており、前記第1および第2の弁体とともに前記弁棒に固定され、前記弁棒の上下運動に連動して前記第1および第2の弁体と一体に移動し、前記弁座部材は前記弁棒を挿通させるカラーと、このカラーから放射状に径方向外方に延びて前記弁座取付孔の内面に接触ないし近接する複数のバー部材とを有し、これら複数のバー部材間の周方向の空間が前記流体の通路を形成している複座平衡弁。」 本件特許発明5 「【請求項5】 蒸気および復水を含んだ流体が上部から流入するトラップ室と、 前記トラップ室の下部に開口し前記復水を排出する排出孔と、 前記トラップ室内に配置されて前記復水の浮力により上下移動するフロートと、 前記トラップ室に配置された請求項1,3,4のいずれか一項に記載の複座平衡弁とを備え、 前記フロートがその上下移動に連動して前記複座平衡弁の前記弁棒を軸心方向に移動させるように前記弁棒に連結されているフロート式スチームトラップ。」 第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について 1.取消理由の概要 平成31年4月26日に提出され、令和元年5月30日に提出された手続補正書(方式)により補正された訂正請求書でされた訂正請求により訂正された請求項1,3?5に係る特許に対して、当審が令和元年9月27日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (1)(新規性)請求項1に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2(国際公開第2013/137217号(甲第2号証))に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 (2)(進歩性)請求項1及び3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1及び3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 (3)(サポート要件及び明確性)請求項4,5に係る特許は、特許請求の範囲の記載に不備があるため、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 2.引用文献の記載 取消理由通知(決定の予告)において引用した前記引用文献2には以下の事項が記載されている。 (1)「[0009]燃料電池システム1は、燃料電池スタック10と、カソードコンプレッサー20と、カソード供給流路30と、バイパス流路40と、バイパス弁50と、カソードオフガス流路60と、アノードタンク70と、アノード供給流路80と、アノードオフガス流路90と、を含む。」 (2)「[0014]バイパス弁50は、バイパス流路40の途中に設けられる。バイパス弁50は、バイパス流路40を流れるカソードガスの流量を調整する。」 (3)「[0028]バイパス弁50は、ハウジング51と、弁体52と、モーター53と、を含む。このバイパス弁50は、弁体52が、1本のステムシャフト520に2つの傘弁521,522が固設されたダブルポペットタイプである。 [0029]ハウジング51は、内部が、上流室501と、下流室502と、スプリング室503と、に区画されている。上流室501と下流室502とは、ふたつの隔壁(隔壁511及び隔壁512)で区画される。図3では、ふたつの隔壁(隔壁511及び隔壁512)の内側が上流室501である。ふたつの隔壁(隔壁511及び隔壁512)の外側が下流室502である。上流室501は、バイパス流路40の上流側(カソード供給流路側)に接続される。下流室502は、バイパス流路40の下流側(カソードオフガス流路側)に接続される。隔壁511には、孔511aが形成される。隔壁512には、孔512aが形成される。後述のように、本実施形態では、孔512aの周囲がバルブシートであり、そのバルブシートに弁体52の傘弁522が当接する。」 (4)「[0031]弁体52は、ステムシャフト520と、傘弁521と、傘弁522と、スプリングリテーナー523と、を含む。 [0032]傘弁521、傘弁522及びスプリングリテーナー523は、ステムシャフト520に固設される。したがって、ステムシャフト520が軸方向(図3では上下方向)に移動すれば、傘弁521、傘弁522及びスプリングリテーナー523も、ステムシャフト520とともに軸方向に移動する。なお傘弁521と傘弁522との間隔は、隔壁511と隔壁512との間隔よりも短い。そして本実施形態では、図3に示されているように、孔512aの周囲のバルブシートに弁体52の傘弁522が当接した状態(初期状態)で、傘弁521が、孔511aの周囲のバルブシートから離れて上流室501に位置する。ステムシャフト520は、ブッシュ56に挿通される。スプリングリテーナー523は、スプリング54に当接する。」 (5)「[0034]図3に示されるように、初期状態(バイパス弁50の開度が最小の状態;なおこのようにバイパス弁50の開度が最小の状態を適宜「全閉状態」と称する)では、傘弁522はバルブシートに当接し、孔512aは閉塞される。傘弁521はバルブシートに当接しないので、隔壁511と傘弁521との間には隙間があり、孔511aは閉塞されない。」 (6)「[0039]隔壁511と傘弁521との間に隙間があるので、バイパス弁50の上流室501の圧力P1と、下流室502の圧力P2との圧力差に応じて、カソードガス(内部漏洩ガス)が漏洩する。本実施形態では、このカソードガスの漏洩(流れ)によってアノードオフガスの遡行を防止する。このため、このようなアノードガス流量になるように、初期状態における、隔壁511と傘弁521との隙間が設定される。具体的な数値は、実験やシミュレーションなどによって設定される。なお上述のように、スプリング室503から大気連通孔55を介して大気に漏洩するガス(外部漏洩ガス)もあるので、その流量も考慮して設定される。」 (7)「[0046]また本実施形態では、初期状態(バイパス弁50の開度が最小の状態)では、スプリング室503や大気連通孔55から遠い傘弁522はバルブシートに当接し、孔512aが閉塞される。一方、スプリング室503や大気連通孔55に近い傘弁521はバルブシートに当接しないので、隔壁511と傘弁521との間には隙間があり、孔511aは閉塞されない。そのため内部漏洩が生じる。スプリング室503のすぐ近くにはモーター53がある。モーター53が、万一遡行してきたアノードオフガスに晒されると、アノードオフガスに含まれる水蒸気の影響で錆びることも考えられるが、本実施形態のように、スプリング室503や大気連通孔55に近い側から内部漏洩を生じさせることで、カソード供給流路30から分岐したカソードガスが、スプリング室503及び大気連通孔55に流れる流れや、バイパス流路40を流れる流れができるので、モーター53が、アノードオフガスに晒されることを防止できる。またこのように、大気連通孔55に流れる量を考慮して、すなわち、大気連通孔55から大気に漏洩(外部漏洩)する量よりも多くのガスが漏洩(内部漏洩)するように、隔壁511と傘弁521との隙間を設ける。このようにすれば、バイパス流路40の流れを確保でき、アノードオフガスの遡行を防止できるのである。 [0047]また本実施形態では、図3に示されているように、孔512aの周囲のバルブシートに弁体52の傘弁522が当接した状態(初期状態)で、傘弁521が、孔511aの周囲のバルブシートから離れて上流室501に位置する。上流室501は気圧が高いので、その気圧に抗して弁体52を作動させるには、大きなエネルギーが必要であるが、本実施形態の構造であれば、傘弁521及び傘弁522で気圧による力がキャンセルされるため、弁体52を作動させやすい。」 (8)「[0055]たとえば、上記実施形態では、傘弁521と傘弁522との間隔は、隔壁511と隔壁512との間隔よりも短かった。しかしながら、これには限られない。傘弁521と傘弁522との間隔が、隔壁511と隔壁512との間隔よりも長くてもよい。このような構成であれば、初期状態では、孔511aの周囲のバルブシートに弁体52の傘弁521が当接し、傘弁522が、孔512aの周囲のバルブシートから離れて下流室502に位置した状態になる。このような構成も本発明の技術的範囲である。」 (9)記載事項(2)及び(3)によると、ハウジング51には、カソードガスが流れるバイパス流路40の下流側に接続される下流室502が区画されており、また、図3の図示内容によると、この下流室502のバイパス流路40の下流側と接続される箇所は、出口流路を形成しているといえるから、ハウジング51は、カソードガスが流れる出口流路を形成しているといえる。 (10)記載事項(3)及び(4)によると、ハウジング51の隔壁512及び隔壁511に、傘弁522及び傘弁521に対応して、それぞれ形成された孔512aの周囲のバルブシート及び孔511aの周囲のバルブシートを有するといえる。 (11)図3の図示内容によると、傘弁522が傘弁521よりも下方に配置されているといえる。 (12)記載事項(2)、(4)及び(5)によると、ステムシャフト520が軸方向(図3では上下方向)に移動すると、傘弁522及び傘弁521も、ステムシャフト520とともに軸方向に移動することにより、バイパス弁50の開度が変わるといえ、このとき、孔512a及び孔511aからバイパス流路40に流れるカソードガスの流量が調整されることは明らかであるから、傘弁522は孔512aから出口流路へのカソードガスの流量を調整しているといえ、傘弁521は孔511aから出口流路へのカソードガスの流量を調整しているといえる。 (13)記載事項(5)及び(8)によると、初期状態(バイパス弁50の開度が最小の状態)において、孔511aの周囲のバルブシートに傘弁521が当接し、傘弁522が、孔512aの周囲のバルブシートから離れた状態になる態様が開示されており、当該態様においては、下側の傘弁522と、孔512aの周囲のバルブシートとの間にのみバイパス弁50の開度が最小の状態において、隙間が設けられているといえる。 以上の記載事項(1)?(13)によれば、引用文献2には以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 「燃料電池システム1に含まれるバイパス弁50であって、 ステムシャフト520と、前記ステムシャフト520に固設された傘弁522及び傘弁521と、カソードガスが流れる出口流路を形成しているハウジング51と、前記ハウジング51の隔壁512及び隔壁511に、前記傘弁522及び前記傘弁521に対応して、それぞれ形成された孔512aの周囲のバルブシート及び孔511aの周囲のバルブシートとを有し、 前記傘弁522が前記傘弁521よりも下方に配置され、 前記傘弁522は前記孔512aから前記出口流路へのカソードガスの流量を調整し、 前記傘弁521は前記孔511aから前記出口流路へのカソードガスの流量を調整し、 下側の前記傘弁522と、前記孔512aの周囲のバルブシートとの間にのみバイパス弁50の開度が最小の状態において、隙間が設けられているバイパス弁50。」 3.当審の判断 (1)特許法第29条第1項第3号及び第2項について ア.本件特許発明1について (ア)対比 本件特許発明1と引用発明2とを対比すると、引用発明2の「ステムシャフト520」、「傘弁522」、「傘弁521」、「カソードガス」、「出口流路」、「ハウジング51」、「孔512aの周囲のバルブシート」、「孔511aの周囲のバルブシート」、「孔512a」、「孔511a」及び「バイパス弁50の開度が最小の状態」は、それぞれ、本件特許発明1の「弁棒」、「第1の弁体」、「第2の弁体」、「流体」、「流出路」、「ホルダ」、「第1の弁座」、「第2の弁座」、「第1の弁座の弁口」、「第2の弁座の弁口」及び「閉弁時」に相当する。 また、引用文献2の図3の図示内容からみて、引用発明2の傘弁522と傘弁521とは、ステムシャフト520の軸心方向に離間した位置に設けられていることは明らかであるから、引用発明2の「前記ステムシャフト520に固設された傘弁522及び傘弁521」は、本件特許発明1の「前記弁棒の軸心方向に離間した位置に取り付けられた第1および第2の弁体」に相当する。 そして、引用発明2の「カソードガスが流れる出口流路を形成しているハウジング51」は、本件特許発明1の「流体の流出路を形成するホルダ」に相当する。 さらに、引用発明2の「孔512aの周囲のバルブシート」及び「孔511aの周囲のバルブシート」は、傘弁522及び傘弁521が軸方向に移動することにより、傘弁522及び傘弁521との間の開度が変化し、出口流路へ流れるカソードガスの流量を調整するものであるから、引用発明2の「前記ハウジング51の隔壁512及び隔壁511に、前記傘弁522及び前記傘弁521に対応して、それぞれ形成された孔512aの周囲のバルブシート及び孔511aの周囲のバルブシート」は、本件特許発明1の「前記ホルダに設けられて前記第1および第2の弁体のそれぞれにより開閉され、前記流出路への流体の流入を制御する第1および第2の弁座」に相当する。同様に、引用発明2の「前記傘弁522は前記孔512aから前記出口流路へのカソードガスの流量を調整」するという事項、及び「前記傘弁521は前記孔511aから前記出口流路へのカソードガスの流量を調整」するという事項は、それぞれ本件特許発明1の「前記第1の弁体は前記第1の弁座の弁口から前記流出路への流体の流入量を制御」するという事項、及び「前記第2の弁体は前記第2の弁座の弁口から前記流出路への流体の流入量を制御」するという事項に相当する。 また、引用発明2の「下側の前記傘弁522と、前記孔512aの周囲のバルブシートとの間にのみバイパス弁50の開度が最小の状態において、隙間が設けられている」という事項は、本件特許発明1の「下側の前記第1の弁体と、対応する前記第1の弁座との間にのみ閉弁時に隙間が設けられている」という事項に相当する。 そして、引用発明2の「バイパス弁50」は、ステムシャフト520で連結された複数の傘弁522及び傘弁521と、複数の傘弁522及び傘弁521のそれぞれに対応する複数のバルブシートとを有するとともに、引用文献2の段落[0047]の記載(前記2.の記載事項(7)参照。)によると、傘弁522及び傘弁521で気圧による力がキャンセルされるものであるから、本件特許発明1の「複座平衡弁」に相当する。 すると、本件特許発明1と引用発明2とは、 「複座平衡弁であって、 弁棒と、前記弁棒の軸心方向に離間した位置に取り付けられた第1および第2の弁体と、流体の流出路を形成するホルダと、前記ホルダに設けられて前記第1および第2の弁体のそれぞれにより開閉され、前記流出路への流体の流入を制御する第1および第2の弁座とを有し、 前記第1の弁体が前記第2の弁体よりも下方に配置され、 前記第1の弁体は前記第1の弁座の弁口から前記流出路への流体の流入量を制御し、 前記第2の弁体は前記第2の弁座の弁口から前記流出路への流体の流入量を制御し、 下側の前記第1の弁体と、対応する前記第1の弁座との間にのみ閉弁時に隙間が設けられている複座平衡弁。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点1] 複座平衡弁の用途について、本件特許発明1は、「フロート式スチームトラップに用いられる」のに対し、引用発明2は、燃料電池システム1に用いられるものである点。 (イ)判断 以下、前記[相違点1]について検討する。 特許異議申立人が提出した甲第1号証(特開2013-24271号公報)及び甲第3号証(特開2010-242923号公報)の記載も考慮すると、「フロート式スチームトラップに用いられる複座平衡弁」自体は、本件特許の出願前から知られているといえる。しかしながら、引用発明2は、「下側の前記傘弁522と、前記孔512aの周囲のバルブシートとの間にのみバイパス弁50の開度が最小の状態において、隙間が設けられている」が、この隙間は、引用文献2の段落[0039](前記2.の記載事項(6)参照。)及び[0046](前記2.の記載事項(7)参照。)の記載を考慮すると、当該隙間からカソードガスを漏洩させることにより、このカソードガスの流れによってアノードオフガスの遡行を防止するためのものである。すると、引用発明2は、「燃料電池システム1に含まれるバイパス弁50」特有の課題を解決するためのものであって、当業者といえども、このバイパス弁50の構成を、燃料電池システムで用いられるバイパス弁以外の用途に転用することを容易に想到できるものではない。 そして、本件特許発明1は、「フロート式スチームトラップに用いられる複座平衡弁」において、「下側の前記第1の弁体と、対応する前記第1の弁座との間にのみ閉弁時に隙間が設けられている」という発明特定事項を備えることにより、開弁力が小さくて済むという作用効果、及びオリフィスのような部材を別途設ける必要がなくなるので安価になるという作用効果に加えて(本件特許の明細書の段落【0015】参照。)、復水Fが波立っても弁体と弁座との間の隙間から蒸気が排出されないという作用効果を奏する(本件特許の明細書の段落【0032】参照。)ものである。このような作用効果については、「燃料電池システム1」についての引用発明2には、何ら示唆されていないから、引用発明2から当業者が予測できるものではない。 (ウ)まとめ そうすると、本件特許発明1は、引用文献2に記載された発明とはいえず、また、当業者であっても、引用発明2に基づいて、容易に発明をすることができたものではない。 イ.本件特許発明3について 請求項3は請求項1を引用するものであり、本件特許発明3も「フロート式スチームトラップに用いられる複座平衡弁」という発明特定事項を備えるものであるから、本件特許発明1と同じ理由により、本件特許発明3は、引用文献2に記載された発明とはいえず、また、当業者であっても、引用発明2に基づいて、容易に発明をすることができたものではない。 (2)特許法第36条第6項第1号及び第2号について ア.特許法第36条第6項第2号(明確性)について 本件訂正前の請求項4には、「前記弁座部材が前記ホルダの弁座取付孔に嵌合されており、」と記載されていたにもかかわらず、請求項4のこの記載の前や、請求項4が引用する請求項1又は請求項3の記載に「弁座部材」という用語が用いられていなかったため、「前記弁座部材」が前記されたどの部材を意味しているのかが明確でなかったが、本件訂正請求における訂正事項4に係る請求項4についての訂正により、「前記」が削除された。これにより本件特許発明4、及び請求項4を引用する請求項5に係る本件特許発明5は明確なものとなり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たすものである。 イ.特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について 本件訂正請求における訂正事項4に係る請求項4についての訂正により、請求項4の記載が「弁座部材が、前記ホルダの弁座取付孔に摺動自在に嵌合されており、前記第1および第2の弁体とともに前記弁棒に固定され、前記弁棒の上下運動に連動して前記第1および第2の弁体と一体に移動し」とされ、本件特許発明4の弁座部材は、弁棒が上下運動する際、弁棒、第1の弁体及び第2の弁体とともに上下に移動するものであることが明らかとなった。これにより、本件特許発明4は、本件特許の明細書における発明の詳細な説明の記載(段落【0023】?【0024】及び【0034】)と対応するものとなり、発明の詳細な説明に記載したものとなった。 同様に、請求項4を引用する請求項5に係る本件特許発明5は、発明の詳細な説明に記載したものとなった。 したがって、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たすものである。 第5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について 1.甲第1号証に記載された発明に基づく、新規性及び進歩性について (1)引用文献の記載 本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1(特開2013-24271号公報(甲第1号証))には以下の事項が記載されている。 ア.「【0009】 以下、本発明の実施の形態について、図1を参照して説明する。レバーフロート式ドレントラップは、入口1と出口2を有する本体3に蓋体4をボルト5で締結して内部に弁室6を有するケーシングを構成する。弁室6と出口2を連通する第1弁口7及び第2弁口8を有する弁座9を弁室6の下部の本体3に図示しないねじにより取り付ける。入口1は弁室6の下部に開口し、出口2は第1弁口7及び第2弁口8を介して弁室6の下部に開口する。」 イ.「【0010】 弁座9に図示しないねじにより取り付けた支持部材10に揺動軸11を支持し、揺動軸11にレバー12を回転可能に連結する。レバー12の左端部に弁室6内の液位に応じて浮上降下する中空球形のフロート13を連結する。レバー12の揺動軸11の右側に揺動軸10と平行な連結軸14を支持し、連結軸14に連結棒15の上部を回転可能に連結する。連結棒15の下部は弁体16の弁棒17の上端部に支持された揺動軸11と平行な弁軸18に回転可能に連結する。弁体16は第1弁口7を下方の出口2側から開閉する第1弁体19と、第2弁口8を下方の弁室6側から開閉する第2弁体20と、第1弁体19と第2弁体20を連結する弁棒17とから構成する。」 ウ.「【0011】 レバー12が挿入される短管21を支持部材10に溶接することにより弁室6内に固定する。レバー12が短管21の内面下端22に当接することにより第1弁体19及び第2弁体20が弁座9に着座することを防止する。これにより、弁座9と第1弁体19及び第2弁体20の間に弁座9のシール面の全面に渡る常開隙間24, 25を設ける。レバー12が短管21の内面下端22に当接したときの常開開口24, 25の開口面積は蒸気の漏出を防止するために配管系の送気時に発生するドレンを排出しきれない大きさに形成する。また、レバー12が短管21の内面上端23に当接することにより第1弁体19及び第2弁体20が第1弁口7及び第2弁口8を全開した位置から更にレバー12が開弁方向に回転することを防止する。これにより、フロート13が弁室6頂壁に衝突することを防止する。また、短管21の内面下端22と内面上端23に当接するレバー12の部位12a,12bをフロート13の中心13aと揺動軸11の中心11aとの中間12cよりもフロート12側に形成する。これにより、揺動軸11の中心11aから短管21の内面下端22と内面上端23に当接するレバー12の部位12a,12bまでの距離を大きくしてレバー比を小さくすることができ、レバー12の損傷を防止する。」 エ.記載事項ア.及びイ.によると、弁座9に設けられる第1弁口7及び第2弁口8は、それぞれ第1弁体19及び第2弁体20により開閉されるといえる。また、記載事項ウ.及び図1の図示内容によると、弁座9は、第1弁口7及び第2弁口8の周囲にシール面を設けており、前記開閉の際、この第1弁口7及び第2弁口8の周囲のシール面が、それぞれ第1弁体19及び第2弁体20により開閉されるといえる。すると、第2弁口8の周囲のシール面及び第1弁口7の周囲のシール面は、弁座9に設けられて、それぞれ第2弁体20及び第1弁体19により開閉されるといえる。 オ.図1の図示内容によると、第2弁体20が第1弁体19よりも下方に配置されているといえる。 以上の記載事項ア.?オ.によれば、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「レバーフロート式ドレントラップに用いられる装置であって、 弁棒17と、前記弁棒17で連結される第2弁体20及び第1弁体19と、弁室6と出口2を連通する弁座9と、前記弁座9に設けられて、それぞれ前記第2弁体20及び前記第1弁体19により開閉される第2弁口8の周囲のシール面及び第1弁口7の周囲のシール面とを有し、 前記第2弁体20が前記第1弁体19よりも下方に配置され、 前記第2弁体20は前記第2弁口8を下方の弁室6側から開閉し、 前記第1弁体19は前記第1弁口7を下方の出口2側から開閉し、 前記第2弁体20及び前記第1弁体19と弁座9の間に弁座9のシール面の全面に渡る常開隙間25,24を設けた装置。」 (2)本件特許発明1について ア.対比 本件特許発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「レバーフロート式ドレントラップ」、「弁棒17」、「第2弁体20」、「第1弁体19」、「弁座9」、「第2弁口8の周囲のシール面」、「第1弁口7の周囲のシール面」、「第2弁口8」及び「第1弁口7」は、それぞれ、本件特許発明1の「フロート式スチームトラップ」、「弁棒」、「第1の弁体」、「第2の弁体」、「ホルダ」、「第1の弁座」、「第2の弁座」、「第1の弁座の弁口」及び「第2の弁座の弁口」に相当する。 また、引用文献1の図1の図示内容からみて、引用発明1の第2弁体20と第1弁体19とは、弁棒17の軸心方向に離間した位置に設けられていることは明らかであるから、引用発明1の「前記弁棒17で連結される第2弁体20及び第1弁体19」は、本件特許発明1の「前記弁棒の軸心方向に離間した位置に取り付けられた第1および第2の弁体」に相当する。 同様に、引用発明1の「弁室6と出口2を連通する弁座9」は、引用文献1の図1の図示内容からみて、ドレンを出口2から排出する際の流出路を形成する機能も備えているから、本件特許発明1の「流体の流出路を形成するホルダ」に相当する。 そして、引用発明1の「第2弁口8の周囲のシール面」及び「第1弁口7の周囲のシール面」は、それぞれ第2弁体20及び第1弁体19により開閉されて、出口2と連通する弁座9の内部へのドレンの流入を制御するものといえるから、引用発明1の「前記弁座9に設けられて、それぞれ前記第2弁体20及び前記第1弁体19により開閉される第2弁口8の周囲のシール面及び第1弁口7の周囲のシール面」は、本件特許発明1の「前記ホルダに設けられて前記第1および第2の弁体のそれぞれにより開閉され、前記流出路への流体の流入を制御する第1および第2の弁座」に相当する。 引用発明1の「前記第2弁体20は前記第2弁口8を下方の弁室6側から開閉」するという事項、及び「前記第1弁体19は前記第1弁口7を下方の出口2側から開閉」するという事項は、それぞれ第2弁体20又は第1弁体19により、第2弁口8又は第1弁口7から出口2と連通する弁座9の内部へのドレンの流入量を制御するものであるから、本件特許発明1の「前記第1の弁体は前記第1の弁座の弁口から前記流出路への流体の流入量を制御」するという事項、及び「前記第2の弁体は前記第2の弁座の弁口から前記流出路への流体の流入量を制御」するという事項に相当する。 また、引用発明1の「前記第2弁体20及び前記第1弁体19と弁座9の間に弁座9のシール面の全面に渡る常開隙間25,24を設け」るという事項は、第2弁体20と第2弁口8の周囲のシール面との間に、閉弁時であっても常開隙間25を設けるものであるから、本件特許発明1の「下側の前記第1の弁体と、対応する前記第1の弁座との間にのみ閉弁時に隙間が設けられている」という事項と、「下側の前記第1の弁体と、対応する前記第1の弁座との間に閉弁時に隙間が設けられている」点において共通する。 そして、引用発明1の「装置」は、弁棒17で連結された複数の弁体(第2弁体20及び第1弁体19)と、それぞれの弁体に対応する複数の弁座(第2弁口8の周囲のシール面及び第1弁口7の周囲のシール面)とを有するとともに、第1弁体19がドレンから開弁方向の力を受け、第2弁体20がドレンから閉弁方向の力を受けるものであるから、本件特許発明1の「複座平衡弁」に相当する。 すると、本件特許発明1と引用発明1とは、 「フロート式スチームトラップに用いられる複座平衡弁であって、 弁棒と、前記弁棒の軸心方向に離間した位置に取り付けられた第1および第2の弁体と、流体の流出路を形成するホルダと、前記ホルダに設けられて前記第1および第2の弁体のそれぞれにより開閉され、前記流出路への流体の流入を制御する第1および第2の弁座とを有し、 前記第1の弁体が前記第2の弁体よりも下方に配置され、 前記第1の弁体は前記第1の弁座の弁口から前記流出路への流体の流入量を制御し、 前記第2の弁体は前記第2の弁座の弁口から前記流出路への流体の流入量を制御し、 下側の前記第1の弁体と、対応する前記第1の弁座との間に閉弁時に隙間が設けられている複座平衡弁。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点2] 閉弁時の隙間について、本件特許発明1は、下側の第1の弁体と、対応する第1の弁座との間に「のみ」設けられているのに対し、引用発明1は、下側の第2弁体20と、対応する第2弁口8の周囲のシール面との間のみならず、上側の第1弁体19と、対応する第1弁口7の周囲のシール面との間にも設けられている点。 イ.判断 以下、前記[相違点2]について検討する。 引用発明1は、「前記第2弁体20及び前記第1弁体19と弁座9の間に弁座9のシール面の全面に渡る常開隙間25,24を設け」るものであり、この常開隙間25,24の開口面積は、引用文献1の段落【0011】(前記1.(1)の記載事項ウ.参照。)の記載を考慮すると、蒸気の漏出を防止するために配管系の送気時に発生するドレンを排出しきれない大きさに形成されるものであるが、下方に設けられる常開隙間25の開口面積を、上方に設けられる常開隙間24の開口面積よりも大きくする等といった相互の大小関係については、何ら示唆されていない。すると、引用発明1の「前記第2弁体20及び前記第1弁体19と弁座9の間に弁座9のシール面の全面に渡る常開隙間25,24を設け」るという構成において、上側の第1弁体19と、対応する第1弁口7の周囲のシール面との間の常開隙間24を設けないようにし、下側の第2弁体20と、対応する第2弁口8の周囲のシール面との間のみに常開隙間25を設けるようにする動機付けは存在せず、本件特許発明1の[相違点2]に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できるものではない。 そして、本件特許発明1は、「フロート式スチームトラップに用いられる複座平衡弁」において、「下側の前記第1の弁体と、対応する前記第1の弁座との間にのみ閉弁時に隙間が設けられている」という発明特定事項を備えることにより、開弁力が小さくて済むという作用効果、及びオリフィスのような部材を別途設ける必要がなくなるので安価になるという作用効果に加えて(本件特許の明細書の段落【0015】参照。)、復水Fが波立っても弁体と弁座との間の隙間から蒸気が排出されないという作用効果を奏する(本件特許の明細書の段落【0032】参照。)ものである。このような作用効果については、引用発明1には、何ら示唆されていないから、引用発明1から当業者が予測できるものではない。 ウ.まとめ そうすると、本件特許発明1は、引用文献1に記載された発明とはいえず、また、当業者であっても、引用発明1に基づいて、容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件特許発明3?本件特許発明5について 請求項3?5は直接的に又は間接的に請求項1を引用するものであり、本件特許発明3?本件特許発明5も「下側の第1の弁体と、対応する第1の弁座との間にのみ閉弁時に隙間が設けられている」という発明特定事項を備えるものであるから、本件特許発明1と同じ理由により、本件特許発明3?本件特許発明5は、引用文献1に記載された発明とはいえず、また、当業者であっても、引用発明1に基づいて、容易に発明をすることができたものではない。 2.特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号について (1)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について 特許異議申立人は、本件特許発明1は、「前記第1の弁体と、対応する前記第1の弁座との間に閉弁時に隙間が設けられている」ことを特徴とする発明であるが、本件特許発明1は、上下方向に2つ存在する弁体のうち、下方の弁体にのみ閉弁時に隙間が設けられている態様(「態様1」とする。)、上方の弁体にのみ閉弁時に隙間が設けられている態様(「態様2」とする。)、上方および下方の弁体に閉弁時に隙間が設けられている態様(「態様3」とする。)の3つの態様の全てを包含するものであり、このうち態様2では、復水の波立ちの状態によっては、隙間から排出されるのは蒸気であり、復水を排出することができないと考えられるから、本件特許発明1の態様2は、復水の一部を「常時」排出可能にするという本件特許発明が解決しようとする課題を解決できない。したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明の記載が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでなく、本件特許発明3?本件特許発明5についても同様である旨、主張している。 しかしながら、本件訂正請求における訂正事項1に係る請求項1についての訂正により、請求項1の記載が「下側の前記第1の弁体と、対応する前記第1の弁座との間にのみ閉弁時に隙間が設けられている」とされ、特許異議申立人がいうところの態様1に限定された。そうすると、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえ、特許法第36条第4項第1号の要件を満たすものである。 同様に、発明の詳細な説明の記載は、請求項1を直接的に又は間接的に引用する請求項3?請求項5に係る本件特許発明3?本件特許発明5の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえ、特許法第36条第4項第1号の要件を満たすものである。 よって、特許異議申立人の実施可能要件についての主張は、採用することができない。 (2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について 特許異議申立人は、本件特許の明細書の「発明を実施するための形態」の項及び図面には、前記した態様1から態様3までのうち、態様1についてのみ開示されており、態様2及び態様3については何ら開示されていないから、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載した発明でない発明を含み、本件特許発明2?本件特許発明5についても同様である旨、主張している。 しかしながら、本件訂正請求における訂正事項1に係る請求項1についての訂正により、請求項1の記載が「下側の前記第1の弁体と、対応する前記第1の弁座との間にのみ閉弁時に隙間が設けられている」とされ、特許異議申立人がいうところの態様1に限定された。そうすると、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載した発明であるといえる。 同様に、請求項1を直接的に又は間接的に引用する請求項3?請求項5に係る本件特許発明3?本件特許発明5は、発明の詳細な説明に記載した発明であるといえる。 したがって、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たすものである。 よって、特許異議申立人のサポート要件についての主張は、採用することができない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立理由によっては、請求項1、請求項3?請求項5に係る特許を取り消すことはできない。 そして、他に請求項1、請求項3?請求項5に係る特許を取り消す理由を発見しない。 また、本件訂正請求により、請求項2は削除されたため、請求項2に係る特許についての特許異議の申立ては、その対象となる特許が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法135条の規定により、その申立てを却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 フロート式スチームトラップに用いられる複座平衡弁であって、 弁棒と、前記弁棒の軸心方向に離間した位置に取り付けられた第1および第2の弁体と、流体の流出路を形成するホルダと、前記ホルダに設けられて前記第1および第2の弁体のそれぞれにより開閉され、前記流出路への流体の流入を制御する第1および第2の弁座とを有し、 前記第1の弁体が前記第2の弁体よりも下方に配置され、 前記第1の弁体は前記第1の弁座の弁口から前記流出路への流体の流入量を制御し、 前記第2の弁体は前記第2の弁座の弁口から前記流出路への流体の流入量を制御し、 下側の前記第1の弁体と、対応する前記第1の弁座との間にのみ閉弁時に隙間が設けられている複座平衡弁。」 【請求項2】(削除) 【請求項3】 請求項1に記載の複座平衡弁において、前記隙間の軸方向寸法Sは、この隙間に連なる弁口の通路面積に等しい仮想円孔の直径をDとしたとき、S/D=1/15?3/10である複座平衡弁。 【請求項4】 請求項1または3に記載の複座平衡弁において、弁座部材が、前記ホルダの弁座取付孔に摺動自在に嵌合されており、前記第1および第2の弁体とともに前記弁棒に固定され、前記弁棒の上下運動に連動して前記第1および第2の弁体と一体に移動し、前記弁座部材は前記弁棒を挿通させるカラーと、このカラーから放射状に径方向外方に延びて前記弁座取付孔の内面に接触ないし近接する複数のバー部材とを有し、これら複数のバー部材間の周方向の空間が前記流体の通路を形成している複座平衡弁。 【請求項5】 蒸気および復水を含んだ流体が上部から流入するトラップ室と、 前記トラップ室の下部に開口し前記復水を排出する排出孔と、 前記トラップ室内に配置されて前記復水の浮力により上下移動するフロートと、 前記トラップ室に配置された請求項1,3,4のいずれか一項に記載の複座平衡弁とを備え、 前記フロートがその上下移動に連動して前記複座平衡弁の前記弁棒を軸心方向に移動させるように前記弁棒に連結されているフロート式スチームトラップ。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-02-10 |
出願番号 | 特願2014-77007(P2014-77007) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YAA
(F16K)
P 1 651・ 121- YAA (F16K) P 1 651・ 113- YAA (F16K) P 1 651・ 537- YAA (F16K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 北村 一 |
特許庁審判長 |
久保 竜一 |
特許庁審判官 |
佐々木 芳枝 柿崎 拓 |
登録日 | 2018-05-18 |
登録番号 | 特許第6340232号(P6340232) |
権利者 | 株式会社ミヤワキ |
発明の名称 | 複座平衡弁 |
代理人 | 堤 健郎 |
代理人 | 中田 健一 |
代理人 | 金子 大輔 |
代理人 | 中田 健一 |
代理人 | 杉本 修司 |
代理人 | 杉本 修司 |
代理人 | 金子 大輔 |
代理人 | 野田 雅士 |
代理人 | 堤 健郎 |
代理人 | 野田 雅士 |