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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B29C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B29C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B29C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B29C
管理番号 1361462
異議申立番号 異議2019-700419  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-05-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-05-23 
確定日 2020-03-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6428241号発明「立体造形用粉末材料、及び立体造形用セット、並びに、立体造形物の製造方法及び製造装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6428241号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?11〕について訂正することを認める。 特許第6428241号の請求項1、2及び5?11に係る特許を維持する。 特許第6428241号の請求項3及び4に係る特許についての本件特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯及び本件発明
特許第6428241号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、平成26年12月18日を出願日とする特許出願に係るものであって、平成30年11月9日に特許権の設定登録(請求項の数11)がされ、同年11月28日に特許掲載公報が発行された。
その後、特許異議申立人 エボニック デグサ ゲーエムベーハー(以下、「申立人」という。)により、令和1年5月24日付け(受理日は令和1年5月27日)で、請求項1?11に係る本件特許について、特許異議申立書が提出された。
令和1年7月31日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年10月3日に、特許権者から意見書及び訂正請求書の提出があった。
令和1年10月30日付けで申立人に対して特許法第120条の5第5項の規定に基づく通知を行ったものの、申立人から何らの応答はなされなかった。

第2 訂正の適否についての判断
1.請求の趣旨
令和1年10月3日に特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、「特許第6428241号の明細書及び特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1乃至11について訂正することを求める」ことを請求の趣旨とするものである。

2.訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所を分かりやすく対比するために、当審において下線を付与した。

(1)訂正事項1
請求項1に
「前記樹脂として、下記一般式1で示される官能基を有する樹脂を含む」と記載されているのを、「前記樹脂が、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミドーアクリル共重合体であり、前記樹脂の平均重合度が300?2000である」に訂正し、請求項1に「[一般式1]・・・いずれかを表す。」と記載されているのを削除する。
請求項1の記載を引用する請求項2、5?11も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
請求項2に、「前記一般式1で示される官能基を有する水溶性樹脂」と記載されているのを、「水溶性樹脂」に訂正する。
請求項2の記載を引用する請求項5?11も同様に訂正する。

(3)訂正事項3
請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
請求項4を削除する。

(5)訂正事項5
請求項5に、「請求項1から4」と記載されているのを、「請求項1から2」に訂正する。

(6)訂正事項6
請求項6に、「請求項1から5」と記載されているのを、「請求項1、2及び5」に訂正する。

(7)訂正事項7
請求項7に、「下記一般式1で示される官能基」と記載されているのを、「ダイアセトンアクリルアミド基」に訂正し、「[一般式1]・・・いずれかを表す。」と記載されているのを削除する。
請求項7を引用する請求項8も同様に訂正する。

(8)訂正事項8
請求項8に、「前記一般式1で示される官能基を有する水溶性樹脂」と記載されているのを、「水溶性樹脂」に訂正する。

(9)訂正事項9
請求項9に、「請求項1から5」と記載されているのを、「請求項1、2及び5」に訂正する。
請求項9の記載を引用する請求項10も同様に訂正する。

(10)訂正事項10
請求項11に、「請求項1から5」と記載されているのを、「請求項1、2及び5」に訂正する。

(11)訂正事項11
明細書の【0006】に、「前記樹脂として、下記一般式1で示される官能基を有する樹脂」と記載されているのを、「前記樹脂として、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体」に訂正し、「[一般式1]・・・いずれかを表す。」を削除する。

(12)訂正事項12
明細書の【0010】に、「前記一般式1で示される官能基を有する樹脂であり、前記一般式1で示される官能基を有する樹脂が好ましく、前記一般式1で示される官能基を有するポリビニルアルコール(PVA)がより好ましく、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールが特に好ましい」と記載されているのを、「前記ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体である」に訂正する。

(13)訂正事項13
明細書の【0016】に、「下記一般式1で示される官能基を有する樹脂」と記載されているのを、「ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体」に訂正し、「「一般式1]・・・であることが好ましい。」を削除する。

(14)訂正事項14
明細書の【0017】に、「前記一般式1で示される官能基を有する樹脂」と記載されているのを、「前記ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体」に訂正する。

(15)訂正事項15
明細書の【0018】に、「前記一般式1で示される官能基を有する樹脂」と記載されているのを、「前記ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体」に訂正する。

(16)訂正事項16
明細書の【0019】に、「前記一般式1で示される官能基を有する樹脂」と記載されているのを、「前記ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体」に訂正し、「例えば、前記一般式1で示される官能基を有するモノマー」と記載されているのを、「例えばジアセトンアクリルアミド」に訂正する。

(17)訂正事項17
明細書の【0020】に、「前記一般式1で示される官能基を有するモノマーとしては、例えば、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド、ジアセトンアクリレート、ジアセトンメタクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、立体造形物の強度向上効果が大きい点から、ジアセトンアクリルアミドが好ましい。」と記載されているのを、「立体造形物の強度向上効果が大きい点から、前記ジアセトンアクリルアミドは好ましい。」に訂正する。

(18)訂正事項18
明細書の【0021】に、「前記樹脂としては、前記一般式1で示される官能基を有する水溶性樹脂が好ましく、前記一般式1で示される官能基を有するポリビニルアルコールがより好ましく、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールが特に好ましい。」と記載されているのを、「前記樹脂としては、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールが特に好ましい。」に訂正する。

(19)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?11は、訂正請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前の請求項1?11は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。そして、訂正事項1?10は、訂正前の一群の請求項1?11に対するものである。また、明細書の訂正に係る訂正事項11?18は、訂正事項1?10に対応するものであるから、同様に訂正前の一群の請求項1?11に対するものである。
よって、本件訂正請求は、一群の請求項〔1?11〕に対して請求されたものである。

3.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1、2及び8について
訂正事項1は、「一般式1で示される官能基を有する樹脂」を「ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミドーアクリル共重合体であり、前記樹脂の平均重合度が300?2000」のものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2は、請求項1を引用する請求項2において、「前記一般式1で示される官能基を有する水溶性樹脂」と記載されているのを、「水溶性樹脂」に訂正することで、実質的に訂正後の請求項1に記載されている特定の樹脂に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
さらに、訂正事項8は、請求項1を直接あるいは間接的に引用する請求項1、2、5を引用する請求項6、7をさらに引用する請求項8において、請求項1等で「前記一般式1で示される官能基を有する水溶性樹脂」を「ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミドーアクリル共重合体であり、前記樹脂の平均重合度が300?2000」の樹脂に限定したことことを受けて同様に「水溶性樹脂」に訂正することで、実質的に訂正後の請求項1等に記載されている特定の樹脂に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1、2及び8は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、単に「本件特許明細書等」ともいう。)の【0018】、【0020】?【0023】、【0096】の表1及び表2の実施例1?20に基づく訂正であるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
訂正後の請求項1を直接あるいは間接的に引用する請求項2、5?11についての訂正、訂正後の請求項2を直接あるいは間接的に引用する請求項5?11についての訂正も同様である。

(2)訂正事項3及び4による訂正について
訂正事項3は、請求項3を削除するものであるし、訂正事項4は、請求項4を削除するものであるから、これらはいずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、これらの訂正は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項5、6、9及び10による訂正について
訂正事項5、6、9及び10は、いずれも、訂正事項3及び4による訂正によって訂正前の請求項3及び4が削除されたことに伴い、引用請求項を、請求項3及び4を含まないようにする訂正であるから、これらは、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるし、また、これらは特許請求の範囲の減縮を目的とするものにも該当する。そして、訂正事項5、6、9及び10による訂正は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項7による訂正について
訂正事項7は、「下記一般式1で示される官能基」を「ダイアセトンアクリルアミド基」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項7は、本件特許明細書等の【0021】に基づく訂正であるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
訂正後の請求項7を引用する請求項8についての訂正も同様である。

(5)訂正事項11?18による訂正について
訂正事項11?18は、上記訂正事項1?10に係る訂正に伴い、明細書の【0006】、【0010】、【0016】?【0021】の記載を、訂正後の請求項1?11の記載に整合させる訂正であるので、いずれも、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項11?18については、本件特許明細書等の【0018】、【0020】?【0023】、【0096】の表1及び表2の実施例1?20に記載されていた事項であるから、訂正事項11?18は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(6)まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?11〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?11に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、請求項の数字に合わせて、請求項1、2、5?11に係る発明を「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明5」?「本件発明11」とい、これらを併せて「本件発明」という。)。

「【請求項1】
基材粒子を樹脂で被覆した立体造形用粉末材料において、
前記樹脂が、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体であり、前記樹脂の平均重合度が300?2000であることを特徴とする立体造形用粉末材料。
【請求項2】
前記樹脂が、水溶性樹脂である請求項1に記載の立体造形用粉末材料。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記樹脂の平均重合度が、500?1,700である請求項1から2のいずれかに記載の立体造形用粉末材料。
【請求項6】
請求項1、2及び5のいずれかに記載の立体造形用粉末材料と、基材粒子を被覆する樹脂を溶解可能な溶媒を含む溶解液と、を有することを特徴とする立体造形用セット。
【請求項7】
前記溶解液が、ダイアセトンアクリルアミド基と架橋反応する化合物を含有する請求項6に記載の立体造形用セット。
【請求項8】
前記樹脂が、水溶性樹脂であり、前記溶媒として水を含む、請求項6から7のいずれかに記載の立体造形用セット。
【請求項9】
請求項1、2及び5のいずれかに記載の立体造形用粉末材料を使用し、支持体上に立体造形用粉末材料層を形成する粉末材料層形成工程と、
前記立体造形用粉末材料層の所定領域に、前記樹脂を溶解する溶媒を含む溶解液を付与して該領域を硬化させる粉末材料層硬化工程と、
を少なくとも繰り返すことで立体造形物を製造することを特徴とする立体造形物の製造方法。
【請求項10】
前記付与が、インクジェット吐出方式により行われる請求項9に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項11】
支持体上に、請求項1、2及び5のいずれかに記載の立体造形用粉末材料の層を形成する粉末材料層形成手段と、
前記立体造形用粉末材料層の所定領域を硬化させるために、前記樹脂を溶解する溶媒を含む溶解液を付与する溶解液付与手段と、
を有することを特徴とする立体造形物の製造装置。」

第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要
1.特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由
本件特許時の請求項1?11に係る発明に対して、申立人が申立てていた特許異議の申立ての理由は、概略、これらの請求項に係る発明についての本件特許は、次の(1)?(6)のとおりの申立理由により、取り消されるべきものであるというものである。また、申立人は、特許異議申立書(以下、単に「申立書」という。)に添付して、証拠方法として、下記(7)の甲第1号証?甲第4号証(以下、「甲1」等という。)を提出した。

(1)申立理由1(甲1に基づく新規性)
本件特許の請求項1?4に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)申立理由2(甲1を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1?4に係る発明は、甲1に記載された発明に基づいて、また、請求項5に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2に記載の事項に基づいて、請求項6に係る発明は、甲1に記載された発明及び周知技術(甲3、甲4)に基づいて、請求項7?8に係る発明は、甲1に記載された発明並びに甲3及び甲4に記載された事項に基づいて、請求項9?11に係る発明は、甲1に記載された発明及び周知技術(甲3、甲4)に基づいて、それぞれ、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1?11に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件特許の請求項1?11に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)申立理由3(甲2に基づく新規性)
本件特許の請求項1?5に係る発明は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(4)申立理由4(甲2を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1?5に係る発明は、甲2に記載された発明に基づいて、また、請求項6に係る発明は、甲2に記載された発明及び周知技術(甲3、甲4)に基づいて、請求項7?8に係る発明は、甲2に記載された発明並びに甲3及び甲4に記載された事項に基づいて、請求項9?11に係る発明は、甲2に記載された発明及び周知技術(甲3、甲4)に基づいて、それぞれ、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1?11に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件特許の請求項1?11に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(5)申立理由5(サポート要件)
請求項1?11に係る本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(6)申立理由6(実施可能要件)
請求項1?11に係る本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(7)証拠方法
・甲1:特表2010-523801号公報
・甲2:特開2012-251092号公報
・甲3:特開2004-330743号公報
・甲4:特開2010-228316号公報

2.取消理由
当審合議体が令和1年7月31日付けで通知した取消理由は、概略、以下のとおりである。
<取消理由>(サポート要件)
請求項1?11に係る本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである

第5 当審合議体の判断
上記第4 2.の取消理由は、申立人が主張する申立理由5と同旨であるから、取消理由は、特許異議の申立ての理由に包含される。したがって、以下の当審合議体の判断では、特許異議の申立ての理由についての判断を記載する。なお、本件訂正により請求項3及び4は削除された。

1.申立理由1(甲1に基づく新規性)及び申立理由2(甲1を主引用文献とする進歩性)について

(1)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
ア 甲1には、以下の記載がある。(なお、下線は当審が付した。以下同様である。)

「【請求項1】
a)アニオンが式(I)
【化1】
PF_(n)R^(x)_(6-n)^((-)) (I)
(式中、n=1から6の整数であり、
R^(x)=置換もしくは非置換のC_(1-6)-アルキルまたは置換もしくは非置換のアリールもしくはヘテロアリール)
により定義されるフルオロホスフェートである、スルホニウム塩からなる群から選択される少なくとも1つのカチオン性光開始剤(A);および
b)(A)とは異なる少なくとも1つのカチオン性光開始剤(B)
を含み、(B)に対する(A)の重量比が0.1よりも大きいことを特徴とする、光開始剤組成物。
・・・
【請求項16】
請求項1-15の少なくともいずれかに記載の光開始剤組成物を含む光硬化型組成物。
【請求項17】
カチオン硬化型成分を含むことを特徴とする、請求項16に記載の光硬化型組成物。
・・・
【請求項20】
ラジカル硬化型成分を更に含むことを特徴とする、請求項16-19の少なくともいずれかに記載の光硬化型組成物。
・・・
【請求項27】
(a’)請求項16-25の少なくともいずれかに記載の光硬化型組成物の液滴を基材上の標的とされた位置に塗布する段階;
(b’)液滴を電磁的放射に露光して、露光領域中の液滴を硬化する段階;
(c’)段階(a’)および(b’)を充分な回数繰り返して、三次元物品を作る段階
を含んでなる、インクジェット印刷により三次元物品を製造するための方法。
【請求項28】
基材が紙、テキスタイル、タイル、印刷版、壁紙、プラスチック、粉末、ペーストまたは液体または液体である既に部分硬化した樹脂である反応性樹脂からなる群から選択されることを特徴とする、請求項27に記載の方法。」
(なお、請求項1において式(I)の右端の上付き文字の「(-)」は、原文では○の中に「-」が記載されているが、この決定中では表記できないため、「(-)」と表記した。以下、同様である。

「【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、異なる熱安定性の少なくとも2種のカチオン性光開始剤を輻射線硬化型組成物中に含む光開始剤組成物に関する。これは、液体組成物の熱安定性と硬化樹脂の機械的性能の有利な折衷を提供する。
【0015】
本発明の目的は、先行技術に開示されている光硬化型組成物に付随する問題を克服する光開始剤組成物を提供することである。本発明による光開始剤組成物は、安定剤を必要とせずに光硬化型組成物の熱安定性を改善する。更には、液体樹脂の反応性または最終部品の性能を失わずに粘度安定化が達成される。このように、本発明の光開始剤組成物は、反応性と熱安定性の有利な折衷案を実証する光硬化型組成物を提供する。」

「【0226】
あるいは、本発明の光硬化型組成物を粉末上に堆積することが可能である。粉末を基材の上に薄層として塗布し、光硬化型組成物を所望の場所で所望のパターンで粉末上にインクジェット堆積し得る。次に、光硬化型組成物を電磁的な放射に露光することにより、このパターンを硬化し得る。次に、粉末の更なる層を第1の層の頂部上に配置し、この工程を繰り返して、三次元物品を作る。三次元物品を作った後いかなる粉末も除去し得る。液体光硬化型組成物が進入しなかった粉末を除去した後、三次元物品に対して最終加熱および/または放射硬化を加える。この光硬化型組成物は、好ましくは粉末と完全に一体化されて、元の粉末粒子の間に実質的にボイドが残らず、高強度の部品を特にもたらす。」

イ 請求項1を引用する請求項16を引用する請求項17を引用する請求項20を引用する請求項27を引用する請求項28、及び、明細書の【0226】の記載を整理すると、特に、請求項27のインクジェット印刷により三次元物品を製造するための方法に使用される基材として請求項28に粉末が記載されていることから、甲1には、三次元物品を製造するための基材として、次のとおりの発明が記載されていると認められる。

「以下のインクジェット印刷による三次元物品の製造方法に使用される基材粉末。
インクジェット印刷による三次元物品の製造方法が、
(a)基材の上に基材である粉末を薄層として塗布する段階、
(b)光硬化型組成物を所望のパターンとなるように粉末層の標的とされた位置にインクジェット印刷により塗布する段階、
(c)下記の光硬化型組成物を電磁的な放射に露光することにより、このパターンを硬化する段階、
(a)?(c)段階を繰り返して、三次元物品を作る段階
を含み、
光硬化型組成物が、
a)アニオンが式(I)
PF_(n)R^(x)_(6-n)^((-)) (I)
(式中、n=1から6の整数であり、
R^(x)=置換もしくは非置換のC_(1-6)-アルキルまたは置換もしくは非置換のアリールもしくはヘテロアリール)により定義されるフルオロホスフェートである、スルホニウム塩からなる群から選択される少なくとも1つのカチオン性光開始剤(A);および
b)(A)とは異なる少なくとも1つのカチオン性光開始剤(B)
を含み、(B)に対する(A)の重量比が0.1よりも大きい光開始剤組成物を含む光硬化型組成物であって、カチオン硬化型成分を含み、更に、ラジカル硬化型成分を含む光硬化型組成物である。」
(以下「甲1粉末発明」という。)

「三次元物品を製造するための基材である粉末を使用して、インクジェット印刷により三次元物品を製造するための方法であって、
(a)基材である粉末を薄層として塗布する段階、
(b)光硬化型組成物を所望のパターンとなるように粉末層の標的とされた位置にインクジェット印刷により塗布する段階、
(c)下記の光硬化型組成物を電磁的な放射に露光することにより、このパターンを硬化する段階、
(a)?(c)段階を繰り返して、三次元物品を作る段階
を含む、三次元物品を製造する方法。

光硬化型組成物が、
a)アニオンが式(I)
PF_(n)R^(x)_(6-n)^((-)) (I)
(式中、n=1から6の整数であり、
R^(x)=置換もしくは非置換のC_(1-6)-アルキルまたは置換もしくは非置換のアリールもしくはヘテロアリール)により定義されるフルオロホスフェートである、スルホニウム塩からなる群から選択される少なくとも1つのカチオン性光開始剤(A);および
b)(A)とは異なる少なくとも1つのカチオン性光開始剤(B)
を含み、(B)に対する(A)の重量比が0.1よりも大きい光開始剤組成物を含む光硬化型組成物であって、 カチオン硬化型成分を含み、更に、ラジカル硬化型成分を含む光硬化型組成物である。」
(以下「甲1製法発明」という。)

ウ さらに、請求項27の製造方法を実施するための装置として、以下の構成を備えた装置の発明が開示されているといえる。

「基材である粉末を使用して、インクジェット印刷により三次元物品を製造するための装置であって、
粉末である基材の薄層を塗布する手段、
光硬化型組成物を所望のパターンとなるように粉末層の標的とされた位置にインクジェット印刷により塗布する手段、
光硬化型組成物を電磁的な放射に露光することにより、このパターンを硬化する手段、
を有する三次元物品の製造装置。」(以下「甲1装置発明」という。)

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1粉末発明とを対比する。
甲1粉末発明の「インクジェット印刷による三次元物品の製造方法に使用される基材粉末」は、本件発明1の「立体造形用粉末材料」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1粉末発明とは、以下の点で一致し、以下の相違点1で相違する。
<一致点>
立体造形用粉末材料。
<相違点1>
立体造形用粉末材料が、本件発明1では、「基材粒子をダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体であり、前記樹脂の平均重合度が300?2000である樹脂で被覆した」ものであるのに対し、甲1粉末発明では、基材粉末そのものであり、当該粉末を樹脂で被覆していない点。

新規性について
上述のとおり、本件発明1と甲1粉末発明とは、上記相違点1で相違しており、また、上記相違点1は実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1粉末発明、つまり、甲1に記載された発明であるということはできない。

進歩性について
相違点1について検討する。
甲1全体の記載をみても、甲1粉末発明の基剤粉末を樹脂で被覆したものとする点の記載はない。
そして、申立人が提出した甲2には、後述の2.(1)で指摘するとおりの記載がある。
また、甲4には、
「【請求項1】
下記(i)?(v)の工程を含むことを特徴とする、表面層を有する三次元造形物の製造方法。
(i)支持体上に粉末材料を所定の厚さを有する層に形成する層形成工程、
(ii)造形対象物を平行な断面で切断した断面形状になるように前記層における粉末材料を結合剤により結合させる結合工程、
(iii)(i)及び(ii)の工程を順次繰り返すことによって三次元造形物を作製する作製工程、
(iv)作製された三次元造形物の表面を、(1)エチレン性不飽和化合物、及び、(2)光重合開始剤、を含有する光硬化性組成物により被覆する被覆工程、及び、(v)被覆した光硬化性組成物を光硬化する硬化工程」
と記載されている。
しかしながら、甲2及び甲4には、三次元造形に使用される粉末を、樹脂で被覆することは記載されていない。

一方、甲3には、以下の記載があり、三次元造形の製造に使用される粉末材料であって、粉末材料粒子の表面を、「樹脂」に相当する接着剤粒子で被覆する形態のものが記載されている。

「【請求項1】
支持体上に接着剤粒子を含む粉末材料を所定の厚さを有する層に形成する工程、および、造形対象物を平行な断面で切断した断面形状になるように粉末材料層を結合剤により結合させる工程を順次繰り返す工程を含む三次元造形物の製造方法において、前記接着剤が結合剤に可溶であり、油溶性染料と疎水性ポリマーを含む着色微粒子水分散物を含有する結合剤を使用することを特徴とする三次元造形物の製造方法。」

「【0030】
接着剤粒子は、1種類を単独使用しても、2種以上を混合使用しても良い。また、接着剤は粉末材料と複合粒子となっていてもよい。複合粒子の一形態としては、粉末材料粒子の表面を接着剤が被覆する形態がある。」

しかしながら、甲1は、インクジェット印刷により三次元物品を製造するための方法に用いられる光硬化性組成物の改良に係る発明に関するものであり、光硬化性組成物を、異なる熱安定性の少なくとも2種のカチオン性光開始剤を輻射線硬化型組成物中に含むものとすることで、光硬化樹脂の機械的性能を失うことなく、光硬化型組成物の熱安定性が改善される点に特徴を有するものである(上記(1)アの【0014】及び【0015】)。
そうすると、甲3に、三次元物品を製造するための粉末材料として、接着剤(樹脂)で被覆した粉末材料を使用したものが記載されているとしても、当該粉末材料は、これに当該接着剤を溶解させることができる結合材を所定の形状となるように付与して三次元物品を製造する技術に関するものであるから、この技術を、インクジェット印刷により所定の光硬化性組成物を付与することで基剤粉末を結合して三次元物品を製造する技術に関する甲1粉末発明の基剤粉末に適用することを、当業者が動機付けられるとはいえない。
以上のとおり、甲1の他の記載及び甲2?4の記載を参酌しても、甲1粉末発明において、三次元物品の製造に用いられる基材粉末に変えて、樹脂で被覆した構造のものを採用することが当業者にとって容易であったとはいえない。

また、甲2には、成形体の製造に使用されるビニルアルコール系重合体が記載され、共重合可能な他のモノマーとしてジアセトンアクリルアミドがあること(後述の2.(1)アの【0010】?【0011】参照。)、重合度のさらに好ましい範囲が700?3000の範囲であることも記載されている(同【0017】)が、後述のとおり、当該樹脂は、立体造形用粉末材料として使用されるものではないし、甲2には、ビニルアルコール系重合体と共重合可能な他のモノマーとして、ジアセトンアクリルアミド以外のモノマーが数多く列記されており、また、好ましい例がエチレンービニルアルコールであるとされている(同【0012】)。
そうすると、当業者は、甲2を参酌したとしても、立体造形用粉末に使用される材料である甲1粉末発明の粉末基材を、本件発明1で特定されるようなジアセトンアクリルアミドを共重合したポリビニルアルコールであって、所定の重合度を有するものとすることを動機付けられるとはいえないし、まして、粉末基材の被覆する樹脂としてかかる材料を採用することを動機付けられるともいえない。
すなわち、当業者は、甲1?4の記載を参酌しても、甲1粉末発明を、相違点1に係る構成を備えたものとすることを動機付けられるとはいえない。

一方、本件発明1においては、本件発明1で特定される特定の樹脂で被覆された立体造形用粉末材料であることにより、薄層に載置させた前記立体造形用粉末材料に対し、溶解液を付与することで基材粒子を被覆する樹脂が溶解し、基材粒子同士が接着し、当該粉末材料層が硬化するという簡易な方法の繰り返しにより 複雑な立体(三次元(3D))形状を維持するのに充分な強度を有する立体造形物を製造できる(【0007】、【0045】)という効果が奏される。
そして、この効果はいずれの証拠からも予測できない効果である。

よって、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲1?4に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明2、5?8について
本件発明2及び5は、請求項1を引用する請求項に係るものであって、本件発明2及び5は、甲1粉末発明と、少なくとも上記相違点1の点で相違している。
そして、甲1粉末発明と少なくとも上記相違点1で相違する本件発明2も、上記(2)イで記載したと同様の理由によって、甲1に記載された発明であるということはできない。
また、甲1粉末発明と少なくとも上記相違点1で相違する本件発明2及び5は、上記(2)ウで記載したと同様の理由によって、甲1に記載された発明及び甲1?4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
さらに、本件発明6?8は、請求項1、2及び5のいずれかに記載の立体造形用粉末材料を含有する立体造形用セットであり、本件発明1の発明特定事項を全て含んでいる。
そして、本件発明6?8は、甲1粉末発明と、少なくとも上記相違点1の点で相違している。
そうすると、甲1粉末発明と少なくとも上記相違点1で相違する本件発明6?8も、上記(2)ウで記載したと同様の理由によって、甲1に記載された発明及び甲1?4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明9について
ア 対比
上記(2)アにおける本件発明1と甲1粉末発明との対比を踏まえて、本件発明4と甲1製法発明とを対比する。
(ア)甲1製法発明において、粉末を薄層として塗布する場合に、塗布が何らかの支持体上で行われることは自明であるから、甲1製法発明の「(a)基材である粉末を薄層として塗布する段階」は、本件発明9の「支持体上に立体造形用粉末材料層を形成する粉末材料層形成工程」に相当する。
(イ)甲1製法発明の「(c)下記の光硬化型組成物を電磁的な放射に露光することにより、このパターンを硬化する段階」は、本件発明9の「立体造形用粉末材料層の所定領域を硬化させる粉末材料層硬化工程」に相当する。
(ウ)甲1製法発明の「(a)?(c)段階を繰り返して、三次元物品を作る段階」は、本件発明9の「繰り返すことで立体造形物を製造すること」に相当する。
そうすると、本件発明9と甲1製法発明とは、以下の点で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
立体造形用粉末材料を使用し、支持体上に立体造形用粉末材料層を形成する粉末材料層形成工程と、
前記立体造形用粉末材料層の所定領域を硬化させる粉末材料層硬化工程と、
を少なくとも繰り返すことで立体造形物を製造する立体造形物の製造方法。
<相違点2>
立体造形用粉末材料が、本件発明9では、「基材粒子をダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体であり、前記樹脂の平均重合度が300?2000である樹脂で被覆した」ものであるのに対し、甲1製法発明では、基材粉末そのものであり、当該粉末を樹脂で被覆していない点。
<相違点3>
立体造形用粉末材料層の所定領域の硬化工程が、本件発明9では、「樹脂を溶解する溶媒を含む溶解液を付与して該領域を硬化させる」ことで行われるのに対して、甲1製法発明では「(b)光硬化型組成物を所望のパターンとなるように粉末層の標的とされた位置にインクジェット印刷により塗布する段階」、及び「(c)光硬化型組成物を電磁的な放射に露光することにより、このパターンを硬化する段階」により行われる点。

進歩性について
相違点2は、上記(2)アで記載した相違点1と同じであり、上記(2)ウで記載したとおりの理由によって、甲1?甲4を参酌しても、甲1製法発明において、基材粉末を、本件発明1の相違点2に係る構成を備えたものにすることを当業者が容易になし得たとはいえない。
また、相違点3については、上記(2)ウで説示したとおり、甲1は、インクジェット印刷により三次元物品を製造するための方法に用いられる光硬化性組成物の改良に係る発明に関するものであるから、所定の造形物とするために行われる「光硬化型組成物を所望のパターンとなるように粉末層の標的とされた位置にインクジェット印刷により塗布する段階」に変えて、「樹脂を溶解する溶媒を含む溶解液を付与して該領域を硬化させる」ものとすることを当業者は動機付けられない。甲2?4の記載を参酌しても同様である。
そうすると、甲1製法発明において、立体造形用粉末材料層の所定領域の硬化工程を、「樹脂を溶解する溶媒を含む溶解液を付与して該領域を硬化させる」ものとして、相違点3に係る本件発明9の構成を備えたものとすることは当業者が容易になし得たこととはいえない。
一方、本件発明9では、上記(2)ウで記載したとおり、申立人が提出したいずれの証拠からも予測できない効果を奏する。

よって、本件発明9は、甲1に記載された発明及び甲1?4に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)本件発明10について
本件発明10は、請求項9を引用する請求項に係るものであって、本件発明10は、甲1製法発明と、少なくとも上記相違点2及び3の点で相違している。
そして、本件発明10も、上記(4)イで記載したと同様の理由によって、甲1に記載された発明及び甲1?4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(6)本件発明11について
ア 対比
上記(2)アにおける本件発明1と甲1粉末発明との対比、及び、上記(4)アにおける本件発明9と甲1製法発明との対比を踏まえて、本件発明11と甲1装置発明とを対比すると、本件発明11と甲1装置発明とは、以下の点で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
支持体上に、立体造形用粉末材料の層を形成する粉末材料層形成手段と、
前記立体造形用粉末材料層の所定領域を硬化させるための手段と、
を有する立体造形物の製造装置。
<相違点4>
立体造形用粉末材料が、本件発明11では、「基材粒子をダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体であり、前記樹脂の平均重合度が300?2000である樹脂で被覆した」ものであるのに対し、甲1装置発明では、基材粉末そのものであり、当該粉末を樹脂で被覆していない点。
<相違点5>
立体造形用粉末材料層の所定領域の硬化手段が、本件発明11では、「樹脂を溶解する溶媒を含む溶解液を付与する溶解液付与手段」であるのに対して、甲1装置発明では「光硬化型組成物を所望のパターンとなるように粉末層の標的とされた位置にインクジェット印刷により塗布する手段」、及び「光硬化型組成物を電磁的な放射に露光することにより、このパターンを硬化する手段」である点。

進歩性について
相違点4は、上記(2)アで記載した相違点1と同じであり、上記(2)ウで記載したとおりの理由によって、当業者は、甲1?甲4を参酌しても、甲1装置発明において、基材粉末を、本件発明1の相違点4に係る構成を備えたものにすることを容易になし得たとはいえない。
また、相違点5は、上記(4)アに記載した相違点3と対応するものであり、上記(4)イで説示したとおり、インクジェット印刷により三次元物品を製造するための方法に用いられる光硬化性組成物の改良に係る発明に関する甲1装置発明において、所定の造形物とするための効果手段である「光硬化型組成物を所望のパターンとなるように粉末層の標的とされた位置にインクジェット印刷により塗布する手段」を、「樹脂を溶解する溶媒を含む溶解液を付与する溶解液付与手段」に変更することを当業者は動機付けられない。
そうすると、甲1装置発明を、相違点5に係る本件発明11の構成を備えたものとすることは当業者が容易になし得たこととはいえない。
一方、本件発明11の装置を使用して三次元物品を製造することにより、上記(2)ウで記載したとおり、申立人が提出したいずれの証拠からも予測できない効果が奏される。

よって、本件発明11は、甲1に記載された発明及び甲1?4に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2.申立理由3(甲2に基づく新規性)及び申立理由4(甲2を主引用文献とする進歩性)について

(1)甲2の記載事項及び甲2に記載された発明
ア 甲2には、以下の記載がある。
「【請求項1】
ビニルアルコール系重合体(A)、および、コアとシェルとがそれぞれ互いに異なる高分子から構成されるコア-シェル型構造を有する多分岐性高分子(B)を含む、ビニルアルコール系重合体組成物。」

「【0010】
本発明において使用されるビニルアルコール系重合体(A)は、ビニルアルコール単位を繰り返し単位に有する重合体である限り、その構造に特に制限はなく、例えば、酢酸ビニルに代表されるビニルエステルを重合して得られるビニルエステル系重合体を酸性物質またはアルカリ性物質の存在下にけん化して得られる重合体などが挙げられる。
【0011】
上記のビニルエステル系重合体は、ビニルエステルの単独重合体であってもよいが、ビニルエステルとそれ以外の他のモノマーとが共重合した共重合体であってもよい。当該他のモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン等の炭素数2?20のオレフィン;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニルなどが挙げられ、ビニルエステル系重合体はこれらの他のモノマーの1種または2種以上に由来する構成単位を含むことができる。ビニルエステル系重合体を構成する全構成単位に対する上記他のモノマーに由来する構成単位の割合は、当該他のモノマーの種類にもよるが、60モル%以下であることが好ましく、50モル%以下であることがより好ましく、25モル%以下、さらには15モル%以下であってもよい。
【0012】
ビニルアルコール系重合体(A)の好ましい例としては、エチレン-ビニルアルコール共重合体が挙げられる。エチレン-ビニルアルコール共重合体はエチレン単位とビニルアルコール単位を主たる繰り返し単位とする重合体であり、上記のビニルエステル系重合体を得る際に他のモノマーとしてエチレンを用いることにより製造することができる。」

「【0017】
ビニルアルコール系重合体(A)の重合度は、得られるビニルアルコール系重合体組成物の用途などにもよるが、その耐久性などの観点から、JIS K6726-1994に規定されるポリビニルアルコール試験方法に準じて測定される平均重合度として、好ましくは200?8000の範囲内であり、より好ましくは500?5000の範囲内であり、さらに好ましくは700?3000の範囲内である。」

「【0025】
本発明のビニルアルコール系重合体組成物は、それを成形してなる成形体の形態で各種用途に使用することができる。ビニルアルコール系重合体組成物の成形方法に特に制限はなく、使用されるビニルアルコール系重合体(A)の種類などに応じて適宜選択することができるが、例えば、押出成形、射出成形等の溶融成形法や、キャスト成形などを採用することができる。成形体の形状に特に制限はなく、例えば、フィルム、シート、板、ベルト、チューブ、各種立体形状などの他、各種成形品を製造するためのペレット、フレーク、粉末などの形態にすることもできる。」

イ 上記記載、特に、請求項1及び【0025】によれば、甲2には、以下の発明が記載されているといえる。
「ビニルアルコール系重合体(A)、および、コアとシェルとがそれぞれ互いに異なる高分子から構成されるコア-シェル型構造を有する多分岐性高分子(B)を含むビニルアルコール系重合体組成物からなる、成形品を製造するための粉末材料。」
(以下「甲2粉末発明」という。)

「甲2粉末発明の粉末材料を用いて、成形品を製造する方法。」(以下「甲2製法発明」という。)

ウ また、成形品の製造には何らかの製造装置が使用されること、また、当該製造装置が材料である粉末の供給手段を備えることは当業者に自明であるから、甲2には、以下の発明も実質的に開示されているといえる。
「甲2粉末発明の粉末材料供給手段を有する、成形品製造装置」(以下「甲2装置発明」という。)

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2粉末発明とを対比する。
甲2粉末発明の「ビニルアルコール系重合体(A)、および、コアとシェルとがそれぞれ互いに異なる高分子から構成されるコア-シェル型構造を有する多分岐性高分子(B)を含むビニルアルコール系重合体組成物からなる粉末材料」は、本件発明1の「粉末材料」に相当するし、甲2粉末発明の粉末材料は「成形品を製造するため」のものであるから、これは、本件発明1の「造形用」といえる。
なお、本件発明で特定される「立体造形用」とは、本件特許明細書の【0002】に「従来の成形型を利用した造形物の作製方法に代わり、近年、オンデマンドで、更に複雑で微細な立体造形物が作製可能な三次元(3D)プリンターを使用した積層造形方法が提案されている。特に、金属や無機化合物で構成される立体造形物の場合には粉末積層方法が用いられる。」と記載されているとおり、三次元プリンターを使用した積層造形方法に用いられる粉末材料」を意図するものと認められ、押出成形や射出成形技術で製造される成形品の製造原料は、立体形状ではあっても、本件発明の「立体造形用」にはあたらないと認められる。

そうすると、本件発明1と甲2粉末発明とは、以下の点で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
造形用の粉末材料。
<相違点6>
造形用の粉末材料が、本件発明1では「立体造形用」であるのに対して、甲2粉末発明の粉末材料は立体形状の成形品を製造するためのものであるが、立体造形用とは特定されていない点。
<相違点7>
造形用の粉末材料が、本件発明1では、「基材粒子をダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体であり、前記樹脂の平均重合度が300?2000である樹脂で被覆した」ものであるのに対し、甲2粉末発明では、粉末は樹脂で被覆されていない点。

新規性について
上述のとおり、本件発明1と甲2粉末発明とは、上記相違点6及び7で相違しており、また、上記相違点6及び7は実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲2粉末発明、つまり、甲2に記載された発明であるということはできない。

進歩性について
相違点について検討する。
事案に鑑み相違点6及び7を併せて検討する。
甲2には、粉末を樹脂で被覆することも、被覆樹脂として、本件発明1で特定される特定の樹脂を採用することも記載されていない。上記1.(2)ウで記載したとおり、甲2?4のうち、甲3には、三次元造形の製造に使用される粉末材料であって、「樹脂」に相当する接着剤粒子が被覆されている形態のものも記載されているが、当該樹脂として、本件発明1で特定される特定の樹脂を採用することは記載されていない。そして、甲2には、上記1.(2)ウで記載したとおり、成形体の製造に使用されるビニルアルコール系重合体として、ジアセトンアクリルアミドを共重合したものも言及されており(上記(1)アの【0010】?【0011】)、重合度のさらに好ましい範囲が700?3000の範囲であることも記載されている(同【0017】)が、これは、甲3に記載されるような立体造形による三次元造形物の製造方法に用いられる樹脂についてのものではないし、ましてや、立体造形における基材粉末を被覆する樹脂についてのものでもない。その上、甲2には、ビニルアルコール系重合体と共重合可能な他のモノマーとして、ジアセトンアクリルアミド以外のモノマーが数多く列記されており、また、好ましい例がエチレンービニルアルコールであるとされている(同【0012】)。
そうすると、甲2及び甲3を参酌した当業者であっても、甲2粉末発明の粉末材料を、立体造形用のものとし、さらに、その表面を本件発明1で特定される樹脂で被覆したものとすることを動機付けられるとはいえない。
すなわち、当業者は、甲1?4の記載を参酌しても、甲2粉末発明を、相違点6及び7に係る本件発明1の構成を備えたものとすることを動機付けられるとはいえない。

一方、本件発明1においては、本件発明1で特定される特定の樹脂で被覆された立体造形用粉末材料であることにより、上記1.(2)ウで記載したとおり、薄層に載置させた前記立体造形用粉末材料に対し、溶解液を付与することで基材粒子を被覆する樹脂が溶解し、基材粒子同士が接着し、当該粉末材料層が硬化するという簡易な方法の繰り返しにより複雑な立体(三次元(3D))形状を維持するのに充分な強度を有する立体造形物を製造できる(【0007】、【0045】)といういずれの証拠からも予測できない効果が奏される。

よって、本件発明1は、甲2に記載された発明及び甲1?4に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 申立人は、コア-シェル型構造を有する多分岐性高分子(B)は、本件特許の「基材粒子」に相当し、ビニルアルコール系重合体(A)は、本件特許の「樹脂」に相当し、成形体を得るための粉末は、本件特許の「立体造形用粉末材料」に相当すると主張する(申立書の17頁)。
しかしながら、甲2の【0006】から明らかなとおり、(B)は可塑剤であり、(A)中により均一に分散することが望ましいことは明らかであって、その添加量も請求項7に記載のように(A)100に対して、せいぜい10質量部までであり、(B)が粉末基材を構成し得る形態であるかも不明である。(なお、実施例では、溶媒に溶解した(A)に(B)を添加して組成物から溶媒を飛ばしてフィルムを製造している。)
そして、仮に、組成物中において、(A)により(B)が被覆された粉体形状となっていると解した場合であっても上述のとおり、甲2の【0011】には、共重合成分として種々のコモノマーが記載されているのであり、本件発明1で特定される樹脂を選択する動機付けがあるとまではいえないし、ましてや、可塑剤である(B)を甲3に示されるような立体造形における三次元造形物の主体をなす粉末材料として採用することを当業者が想定することはありえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

(3)本件発明2、5?8について
本件発明2及び5は、請求項1を引用する請求項に係るものであって、本件発明2及び5は、甲2粉末発明と、少なくとも上記相違点6及び7の点で相違している。
そして、本件発明2?5も、上記(2)イで記載したと同様の理由によって、甲2に記載された発明であるということはできないし、また、上記(2)ウで記載したと同様の理由によって、甲2に記載された発明及び甲1?4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
さらに、本件発明6?8は、請求項1、2及び5のいずれかに記載の立体造形用粉末材料を含有する立体造形用セットであり、本件発明1の発明特定事項を全て含んでいる。
そして、本件発明6?8は、甲2粉末発明と、少なくとも上記相違点6及び7の点で相違している。
そうすると、本件発明6?8も、上記(2)ウで記載したと同様の理由によって、甲2に記載された発明及び甲1?4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(4)本件発明9について
ア 対比
上記(2)アにおける本件発明1と甲2粉末発明との対比を踏まえて、本件発明9と甲2製法発明とを対比すると、本件発明9と甲2製法発明とは、以下の点で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
造形用の粉末材料を使用する造形物の製造方法。
<相違点8>
造形用の粉末材料が、本件発明9では「立体造形用」であるのに対して、甲2製法発明の粉末材料は立体形状の成形品を製造するためのものであるが、立体造形用とは特定されていない点。
<相違点9>
造形用の粉末材料が、本件発明9では、「基材粒子をダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体であり、前記樹脂の平均重合度が300?2000である樹脂で被覆した」ものであるのに対し、甲2製法発明では、粉末材料は樹脂で被覆されていない点。
<相違点10>
造形物の製造方法について、本件発明9では、「立体造形用粉末材料を使用し、支持体上に立体造形用粉末材料層を形成する粉末材料層形成工程と、前記立体造形用粉末材料層の所定領域を硬化させる粉末材料層硬化工程と、を少なくとも繰り返す」という特定の工程を有することが特定されているのに対して、甲2製法発明では「立体形状の成形品を製造する」と特定されるのみで、製造方法を上記特定の製造工程を有するものとすることは特定されていない点。

進歩性について
相違点8、9は、上記(2)アで記載した相違点6、7と同じであり、上記(2)ウで記載したとおりの理由によって、当業者は、甲1?甲4を参酌しても、甲2製法発明において、粉末を、本件発明9の相違点8及び9に係る構成を備えたものにすることを容易に動機付けられるとはいえない。
一方、本件発明9では、上記(2)ウで記載したとおり、申立人が提出したいずれの証拠からも予測できない効果を奏する。

そうすると、相違点10について検討するまでもなく、本件発明9は、甲2に記載された発明及び甲1?4に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)本件発明10について
本件発明10は、請求項9を引用する請求項に係るものであって、本件発明9は、甲2製法発明と、少なくとも上記相違点8?10の点で相違している。
したがって、本件発明10も、上記(4)イで記載したと同様の理由によって、甲2に記載された発明及び甲1?4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(6)本件発明11について
ア 対比
上記(2)アにおける本件発明1と甲1粉末発明との対比、及び、上記(4)アにおける本件発明9と甲2製法発明との対比を踏まえて、本件発明11と甲2装置発明とを対比すると、両者は、少なくとも、造形用粉末材料を使用する製造装置であるといえるから、以下の点で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
造形用粉末材料を使用する造形物の製造装置。
<相違点11>
造形物の製造装置が、本件発明11では「立体造形用」であるのに対して、甲2装置発明は立体造形用とは特定されていない点。
<相違点12>
造形物の製造装置に使用される造形用粉末材料が、本件発明11では「基材粒子をダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体であり、前記樹脂の平均重合度が300?2000である樹脂で被覆した粉末材料」であるのに対して、甲2装置発明では、粉末材料であって、上記樹脂で被覆した粉末材料ではない点。
<相違点13>
造形物の製造装置が、本件発明11では、「支持体上に造形用粉末材料の層を形成する粉末材料層形成手段」と、「前記造形用粉末材料層の所定領域を硬化させるために、前記樹脂を溶解する溶媒を含む溶解液を付与する溶解液付与手段」とを有するものであるのに対し、甲1装置発明の装置はかかる手段を有するものではない点。

進歩性について
相違点11、12は、上記(2)アで記載した相違点6、7にそれぞれ対応するものであり、相違点11及び12については、上記(2)ウで記載したと同様の理由によって、当業者は、甲1?甲4を参酌しても、甲2装置発明において、基材粉末を、本件発明11の相違点11及び12に係る構成を備えたものにすることを動機付けられるとはいえない。
一方、本件発明11の、請求項1に特定される特定の樹脂で被覆された立体造形用粉末材料を使用し、請求項11で特定される立体造形物製造装置を使用することで、簡易な製造方法により複雑な立体(三次元)形状を維持するのに充分な強度を有する立体造形物を製造できる(【0007】、【0045】)といういずれの証拠からも予測できない効果が奏される。

よって、相違点13について検討するまでもなく、本件発明11は、甲2に記載された発明及び甲1?4に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3.申立理由5(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。

(2)本件発明が解決しようとする課題について
本件発明が解決しようとする課題に関し、本件特許明細書の【0003】には、背景技術として、「水溶解性の低い樹脂で被覆した粉末粒子を立体造形用粉末材料として用い、含水率45%以下の溶解液を使用することが提案されており・・・、前記樹脂の一例としてポリビニルアルコール(PVA)が開示されている。また、基材粒子を樹脂で被覆した立体造形用粉末材料と、被覆した樹脂を溶解し固着させる溶解液とを使用することが提案されており・・・、前記樹脂としてポリスチレン、前記溶解液としてリモネンが開示されている。」と記載され、また、【0004】には、「しかしながら、前記提案の技術は、・・・複雑な形状の立体造形物を維持するのに充分な強度が得られていない。」と、【0005】には、「本発明は、複雑な立体(三次元(3D))形状を維持するのに充分な強度を有する立体造形物を製造できる立体造形用粉末材料を提供することを目的とする。」と記載されている。
そして、これらの本件特許明細書の記載によれば、本件発明は、従来既知の、PVA樹脂やスチレン樹脂で被覆した立体造形用粉末材料を使用した場合には、複雑な形状の立体造形物を維持するのに充分な強度が得られていなかった問題を解決するものであり、本件発明が解決しようとする課題は、「複雑な立体(三次元(3D))形状を維持するのに充分な強度を有する立体造形物を製造できる立体造形用粉末材料(本件発明1、2、5)、立体造形用セット(本件発明6?8)、立体造形物の製造方法(本件発明9?10)及び立体造形物の製造装置(本件発明11)を提供すること」であると認められる。(以下、本件発明1?11が解決しようとする課題をまとめて、「本件発明の課題」という。)

(3)サポート要件についての検討
ア 本件発明1、2、5?11について
本件発明1、2、5?11は、上記第3の請求項1、2、5?11に記載のとおりであり、本件発明1、2及び5は、「ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体」であって「平均重合度が300?2000」である樹脂で基材粒子を被覆した立体造形用粉末材料に関するものである。
また、本件発明6?8は、本件発明1の立体造形用粉末材料と基材粒子を被覆する樹脂を溶解可能な溶媒を含む溶解液とを有する立体造形用セットに関するものであり、本件発明9?10は、本件発明1の立体造形用粉末材料を使用し、支持体上に立体造形用粉末材料層を形成する粉末材料層形成工程と、前記立体造形用粉末材料層の所定領域に、前記樹脂を溶解する溶媒を含む溶解液を付与して該領域を硬化させる粉末材料層硬化工程と、を少なくとも繰り返すことで立体造形物を製造する立体造形物の製造方法に関するものであり、本件発明11は、支持体上に、本件発明1の立体造形用粉末材料の層を形成する粉末材料層形成手段と、前記立体造形用粉末材料層の所定領域を硬化させるために、前記樹脂を溶解する溶媒を含む溶解液を付与する溶解液付与手段と、を有する立体造形物の製造装置に関するものである。
そこで、本件発明1、2、5?11が、本件特許明細書の記載により本件発明の課題を解決できるといえるかについて検討する。

本件発明の課題解決手段に関し、本件特許明細書の発明の詳細な説明(【0062】?【0098】の実施例、特に【0096】の表1及び表2並びに【0018】)には、立体造形用粉末材料として、基材粒子を被覆する樹脂として、平均重合度300?2000のダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(実施例1?9及び12?20)、あるいは、ダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体(実施例10?11)であるものを使用し、本件発明11に特定される装置を使用して、本件発明9で特定される製造方法に従い、基材粒子を被覆する樹脂を溶解可能な溶媒を含む溶解液を付与して立体造形用粉末材料層を硬化させることで得られた立体造形物が、被覆樹脂が無変性のPVA(ポリビニルアルコール)である場合よりも曲げ応力(強度)の点で優れることが示されている。
そうすると、当該記載から、当業者は、基材粒子を被覆する樹脂が、平均重合度300?2000のダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール、あるいは、平均重合度300?2000のダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体である場合には、本件発明の課題が解決できることを理解できる。
以上のとおり、本件発明1、2、5?11は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるので、特許請求の範囲の記載は、サポート要件を満足するといえる。

イ よって、申立理由5には理由がない。

4.申立理由6(実施可能要件)について
訂正により、本件発明1等において立体造形に使用される粉末材料が、基材粒子をダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体であり、平均重合度が300?2000である樹脂で被覆してなるものであることが明らかとなった。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明(【0062】?【0098】の実施例、特に【0096】の表1及び表2並びに【0018】)には、立体造形用粉末材料として、基材粒子を被覆する樹脂が、市販品である、平均重合度300?2000のダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(実施例1?9及び12?20)、あるいは、ダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体(実施例10?11)であるものを使用し、本件発明11に特定される構成を備えた、【0056】?【0058】及び図1に記載の粉末積層造形装置を使用して、本件発明9で特定される製造方法に従って、基材粒子を被覆する樹脂を溶解可能な溶媒を含む溶解液を付与して立体造形用粉末材料層を硬化させることにより、立体造形物を製造したことが記載されているし、当該製造方法で製造された立体造形物が使用可能であることは当業者に自明である。
そうすると、当業者は、発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件発明1、2、5?11を、過度の試行錯誤を要することなく実施することができるといえる。
よって、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満足する。

第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1、2、5?11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、2、5?11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件訂正により本件特許の請求項3及び4が削除された結果、請求項3及び4に係る特許についての本件特許異議の申立ては対象を欠くこととなったため、特許法120条の8第1項において準用する同法135条の規定により、請求項3及び4に係る特許についての本件特許異議の申立ては却下する。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
立体造形用粉末材料、及び立体造形用セット、並びに、立体造形物の製造方法及び製造装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体造形用粉末材料、及び立体造形用セット、並びに、立体造形物の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の成形型を利用した造形物の作製方法に代わり、近年、オンデマンドで、更に複雑で微細な立体造形物が作製可能な三次元(3D)プリンターを使用した積層造形方法が提案されている。特に、金属や無機化合物で構成される立体造形物の場合には粉末積層方法が用いられる。
前記粉末積層方法の一つとして、金属や無機化合物等の立体造形用粉末材料を積層し、各層毎もしくは複数層毎に、前記立体造形用粉末材料を溶解し、粉末同士を接着させるための溶解液を決まったパターンで付与して立体造形物を作製する方法が挙げられる。
【0003】
前記粉末積層方法により作製された立体造形物は積層された粉末材料層から取り出し、必要に応じて焼結等の後処理が必要なため、それに耐えることができる強度が必要である。
前記強度を得る方法としては、例えば、水溶解性の低い樹脂で被覆した粉末粒子を立体造形用粉末材料として用い、含水率45%以下の溶解液を使用することが提案されており(特許文献1参照)、前記樹脂の一例としてポリビニルアルコール(PVA)が開示されている。
また、基材粒子を樹脂で被覆した立体造形用粉末材料と、被覆した樹脂を溶解し固着させる溶解液とを使用することが提案されており(特許文献2参照)、前記樹脂としてポリスチレン、前記溶解液としてリモネンが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記提案の技術は、いずれも複雑な形状の立体造形物を維持するのに充分な強度が得られていない。また、前記溶解液が溶剤を多く含有するため、安全性に問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、複雑な立体(三次元(3D))形状を維持するのに充分な強度を有する立体造形物を製造できる立体造形用粉末材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段としての本発明の立体造形用粉末材料は、基材粒子を樹脂で被覆した立体造形用粉末材料において、
前記樹脂として、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決することができ、複雑な立体(三次元(3D))形状を維持するのに充分な強度を有する立体造形物を製造できる立体造形用粉末材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明の粉末積層造形装置の一例を示す概略図である。
【図2】図2は、本発明の粉末積層造形装置の他の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(立体造形用粉末材料)
本発明の立体造形用粉末材料は、樹脂で被覆された基材粒子を含み、更に必要に応じてその他の成分等を含んでなる。
【0010】
本発明においては、前記立体造形用粉末材料における基材粒子を被覆する樹脂が、前記ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体である。このような樹脂で前記基材粒子を被覆してなる立体造形用粉末材料を用いて製造された立体造形物の強度を格段に向上させることができる。
従来の立体造形用粉末材料で使用されていた無変性(完全けん化)ポリビニルアルコールは結晶性が高いため、樹脂の硬度は高いが、柔軟性が低く、立体造形物を形成した際に、曲げ応力に対する抵抗が小さく破壊されやすいという問題がある。
これに対して、前記一般式1で示される官能基を有する水溶性樹脂、特にダイアセトンアクリルアミド基を導入したダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールは、ポリビニルアルコールの結晶性がやや低下し柔軟性が向上すると共に、親水性が高くなり、基材粒子の表面への接着力が向上する。
【0011】
また、前記樹脂の平均重合度を500?1,700の範囲とすることにより、立体造形物の強度が高まるので好ましい。更に、前記樹脂として平均重合度が500?1,700のダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールを用いると立体造形物の強度が更に高まるのでより好ましい。
また、前記ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールにおけるダイアセトンアクリルアミド基は架橋剤と反応できるため、前記溶解液中に架橋剤を併用すると、樹脂間で架橋構造が形成され、樹脂自体の強度がより向上する。
以上により、前記立体造形用粉末材料を用いて製造される立体造形物の強度を従来に比べて格段に向上させることができる。
【0012】
<基材粒子>
前記基材粒子の材質としては、例えば、金属、セラミックス、カーボン、ポリマー、木材、生体親和材料などが挙げられる。これらの中でも、高強度な立体造形物を得る観点から、最終的に焼結処理が可能な金属、セラミックスなどが好ましい。
前記金属としては、例えば、ステンレス(SUS)鋼、鉄、銅、チタン、銀などが挙げられ、ステンレス(SUS)鋼が好ましい。前記ステンレス(SUS)鋼としては、例えば、SUS316Lなどが挙げられる。
前記セラミックスとしては、例えば、金属酸化物などが挙げられ、具体的には、シリカ(SiO_(2))、アルミナ(Al_(2)O_(3))、ジルコニア(ZrO_(2))、チタニア(TiO_(2))などが挙げられる。
前記カーボンとしては、例えば、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレンなどが挙げられる。
前記ポリマーとしては、例えば、水に不溶な公知の樹脂などが挙げられる。
前記木材としては、例えば、ウッドチップ、セルロースなどが挙げられる。
前記生体親和材料としては、例えば、ポリ乳酸、リン酸カルシウムなどが挙げられる。
これらの材料は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0013】
前記基材粒子として、これらの材料で形成された市販品を使用することができる。前記市販品としては、例えば、SUS316L(山陽特殊製鋼株式会社製、PSS316L)、SiO_(2)(株式会社トクヤマ製、エクセリカSE-15K)、AlO_(2)(大明化学工業株式会社製、タイミクロンTM-5D)、ZrO_(2)(東ソー株式会社製、TZ-B53)などが挙げられる。
なお、前記基材粒子としては、前記樹脂との親和性を高める目的等から、公知の表面(改質)処理がされていてもよい。
【0014】
前記基材粒子の体積平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、0.1μm以上500μm以下が好ましく、5μm以上300μm以下がより好ましく、15μm以上250μm以下が更に好ましい。
前記体積平均粒径が、0.1μm以上500μm以下であると、立体造形物の製造効率に優れ、取扱性やハンドリング性が良好である。前記体積平均粒径が、500μm以下であると、前記立体造形用粉末材料を用いて薄層を形成した際に、該薄層における該立体造形用粉末材料の充填率が向上し、得られる立体造形物に空隙等が生じ難い。
前記基材粒子の体積平均粒径は、公知の粒径測定装置、例えば、マイクロトラックHRA(日機装株式会社製)、などを用いて、公知の方法に従って測定することができる。
前記基材粒子の粒度分布としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0015】
前記基材粒子の外形、表面積、円形度、流動性、濡れ性等については、目的に応じて適宜選択することができる。
【0016】
<樹脂>
前記基材粒子を被覆する樹脂として、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体を含む。
【0017】
前記ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体は、後述する溶解液により溶解する。
本発明において、前記樹脂の溶解性は、例えば、30℃の溶解液を構成する溶媒100gに前記樹脂を1g混合して攪拌したとき、その90質量%以上が溶解することを意味する。
【0018】
前記ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体の平均重合度は、立体造形物の強度の点から、300?2,000が好ましく、500?1,700がより好ましい。
前記平均重合度が300?2,000の範囲において、立体造形物の強度を高くすることができる。
【0019】
前記ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体としては、特に制限はなく、公知の方法で合成することができ、例えばジアセトンアクリルアミド、及び必要に応じて他のモノマーを溶剤に溶解させ、窒素雰囲気下、重合開始剤を用いて重合し、必要に応じて、けん化等の処理を行うことにより合成することができる。
【0020】
立体造形物の強度向上効果が大きい点から、前記ジアセトンアクリルアミドは好ましい。
【0021】
前記樹脂としては、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールが特に好ましい。
【0022】
前記ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールは、下記一般式2で示される構造を有する水溶性の樹脂である。
[一般式2]
【化3】

前記一般式2において、xは1mol%?15mol%が好ましく、2mol%?10mol%がより好ましい。yは85mol%?99mol%が好ましい。zは0mol%?24mol%が好ましい。
【0023】
前記ダイアセトンアクリルミド変性ポリビニルアルコールとしては、市販品を用いることができ、前記市販品としては、例えば、日本酢ビニルポバール株式会社製のD-PVAシリーズである、DF-03(平均重合度300)、DF-05(平均重合度500)、DF-17(平均重合度1,700)、DF-20(平均重合度2,000)などが挙げられる。
前記ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール以外の前記一般式1で示される官能基を有する樹脂としては、例えば、ダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体などが挙げられる。前記ダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体としては、市販品を用いることができ、前記市販品としては、例えば、互応化学株式会社製のプラスサイズL-9504B、プラスサイズL-6466などが挙げられる。
【0024】
前記一般式1で示される官能基を有する樹脂は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲において前記一般式1で示される官能基を有する樹脂以外の公知の樹脂を用いることができる。
【0025】
前記樹脂の被覆厚みとしては、平均厚みで、5nm以上500nm以下が好ましく、50nm以上300nm以下がより好ましく、100nm以上200nm以下が更に好ましい。
前記被覆厚みが5nm以上500nm以下の範囲において、立体造形物の強度と焼結時の寸法精度が向上する。
前記被覆厚みは、例えば、前記立体造形用粉末材料をアクリル樹脂等に包埋した後、エッチング等を行って前記基材粒子の表面を露出させた後、走査型トンネル顕微鏡STM、原子間力顕微鏡AFM、走査型電子顕微鏡SEMなどを用いることにより、測定することができる。
具体的には、前記被覆厚みは、前記立体造形用粉末材料の表面をエメリー紙で研磨を行った後、水を含ませた布で表面を軽く磨き樹脂部位を溶解し、観察用サンプルを作製する。次に、電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)にて表面に露出する、基材部と樹脂部の境界部を観察し、前記樹脂部表面と前記境界部位との長さを被覆厚みとして測定する。次いで、測定箇所10箇所の平均値を求め、これを被覆厚み(平均厚み)とする。
【0026】
前記基材粒子の表面の被覆率(面積率)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、15%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、80%以上が特に好ましい。前記被覆率が高い方が成形体の強度が向上する。
前記被覆率は、例えば、前記立体造形用粉末材料の写真を観察し、二次元の写真に写る該立体造形用粉末材料について、前記基材粒子の表面の全面積に対する、前記樹脂で被覆された部分の面積の割合(%)の平均値を算出して求められる。
【0027】
<その他の成分>
前記立体造形用粉末材料が含み得る公知のその他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、流動化剤、フィラー、レベリング剤、焼結助剤、界面活性剤などが挙げられる。
前記立体造形用粉末材料が、前記流動化剤を含むと前記立体造形用粉末材料による層等を容易にかつ効率よく形成し得る点で好ましく、前記フィラーを含むと得られる硬化物(立体造形物、焼結用硬化物)に空隙等が生じ難くなる点で好ましく、前記レベリング剤を含むと該立体造形用粉末材料の濡れ性が向上し、ハンドリング等が容易になる点で好ましく、前記焼結助剤を含むと、得られた硬化物(立体造形物、焼結用硬化物)につき焼結処理を行う場合において、より低温での焼結が可能となる点で好ましい。
【0028】
-樹脂の被覆方法-
本発明の立体造形用粉末材料は、前記基材粒子の表面に樹脂を被覆させることで得られる。
前記被覆方法としては、特に制限はなく、公知の被覆方法に従って被覆することができ、例えば、転動流動コーティング法、スプレードライ法、撹拌混合添加法、ディッピング法、ニーダーコート法などが挙げられる。これらの中でも、被覆膜を綺麗にコーティングできる点から、転動流動コーティング法が好ましい。
【0029】
-立体造形用粉末材料の物性等-
前記立体造形用粉末材料の体積平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、3μm以上250μm以下が好ましく、3μm以上200μm以下がより好ましく、5μm以上150μm以下が更に好ましく、10μm以上85μm以下が特に好ましい。
前記体積平均粒径が3μm以上であると、粉末材料の流動性が向上し、粉末材料層が形成しやすく積層層表面の平滑性が向上するため、立体造形物の製造効率の向上、取り扱いやハンドリング性が向上すると共に寸法精度が向上する傾向にある。また、前記体積平均粒径が250μm以下であると、粉末材料同士の空間の大きさが小さくなるため、造形物の空隙率が小さくなり、強度の向上に寄与する。したがって、体積平均粒径3μm以上250μm以下が、寸法精度と強度を両立させるのに好ましい範囲となる。
前記立体造形用粉末材料の体積平均粒径は、公知の粒径測定装置、例えば、マイクロトラックHRA(日機装株式会社製)、などを用いて、公知の方法に従って測定することができる。
前記立体造形用粉末材料の粒度分布としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0030】
本発明の立体造形用粉末材料は、各種の成形物、構造物の簡便かつ効率的な製造に好適に用いることができ、後述する本発明の立体造形用セット、本発明の立体造形物の製造方法、及び本発明の立体造形物の製造装置に特に好適に用いることができる。
【0031】
(立体造形用セット)
本発明の立体造形用セットは、本発明の前記立体造形用粉末材料と、基材粒子を被覆する樹脂を溶解可能な溶媒を含む溶解液とを有し、更に必要に応じてその他の成分等を有してなる。
【0032】
<溶解液>
前記溶解液は、前記基材粒子を被覆する樹脂を溶解可能な溶媒を含有し、架橋剤を含有することが好ましく、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
【0033】
-溶媒-
前記溶媒としては、前記基材粒子を被覆する樹脂を溶解可能なものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、エタノール等のアルコール、エーテル、ケトンなどの水性媒体、脂肪族炭化水素、グリコールエーテル等のエーテル系溶剤、酢酸エチル等のエステル系溶剤、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、高級アルコールなどが挙げられる。これらの中でも、水が好ましい。
前記水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水などを用いることができる。
前記溶解液の溶媒として水を用いると、溶媒が乾燥しても、溶解液の増粘が生じることが回避され、インクジェット方式に用いた場合にも吐出不良を生じることなく使用できることから好ましい。
【0034】
-架橋剤-
前記立体造形用粉末材料に前記溶解液が付与されることで、前記溶解液中の溶媒により前記立体造形用粉末材料中の樹脂が溶解し、溶媒である水が乾燥することで基材粒子同士が接着し、立体造形物が形成される。その際、前記溶解液中に架橋剤が含有されていると前記樹脂との架橋構造が形成され、立体造形物の強度が更に向上する。
前記架橋剤は、前記一般式1で示される官能基と架橋反応するものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジルコニア系架橋剤、チタン系架橋剤、水溶性有機架橋剤、キレート剤、ジヒドラジド化合物などが挙げられる。
前記ジルコニア系架橋剤としては、例えば、塩化ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウムなどが挙げられる。
前記チタン系架橋剤としては、例えば、チタンアシレート、チタンアルコキシドなどが挙げられる。
前記水溶性有機架橋剤としては、例えば、カルボジイミド基含有化合物、ビスビニルスルホン化合物などが挙げられる。
前記キレート剤としては、例えば、有機チタンキレート、有機ジルコニアキレートなどが挙げられる。
前記ジヒドラジド化合物としては、例えば、アジピン酸ジヒドラジドなどが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、炭酸ジルコニウムアンモニウムが好ましい。
【0035】
前記架橋剤の含有量(濃度)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記樹脂100質量部に対して、0.1質量部(質量%)?50質量部(質量%)となる濃度が好ましく、0.5質量部(質量%)?40質量部(質量%)となる濃度がより好ましく、1質量部(質量%)?35質量部(質量%)となる濃度が特に好ましい。
【0036】
-その他の成分-
前記その他の成分としては、例えば、流動性調整剤、界面活性剤、保存剤、防腐剤、安定化剤、pH調整剤、水溶性溶剤、湿潤剤などを含有することが可能である。
【0037】
本発明の立体造形用セットは、前記溶解液の安全性が高く、充分な強度を有する各種の成形物、構造物の製造に好適に用いることができ、後述する本発明の立体造形物の製造方法、本発明の立体造形物の製造装置、及び本発明で得られる立体造形物に特に好適に用いることができる。
【0038】
<立体造形物>
本発明で得られる立体造形物は、本発明の前記立体造形用粉末材料に前記溶解液を付与して得られた硬化物、及び、本発明の前記立体造形用セットを用い、前記立体造形用セットにおける前記立体造形用粉末材料に前記溶解液を付与して得られた硬化物のいずれかであって、焼結を行って成形物(立体造形物の焼結体)を製造するための焼結用硬化物として用いられる。
【0039】
前記立体造形物は、前記立体造形用粉末材料に前記溶解液を付与しただけで得られたものであるが、充分な強度を有する。前記立体造形物においては、前記基材粒子が密に(高充填率で)存在し、前記樹脂は前記基材粒子同士の周囲に極僅かだけ存在するため、その後に焼結等して成形物(焼結体)を得たとき、接着剤等を用いた従来の粉末乃至粒子の硬化物とは異なり、有機物成分の揮発(脱脂)量が少なくできるため、不要な空隙(脱脂痕)等は存在せず、外観の美麗な成形物(焼結体)が得られる。
前記立体造形物の強度としては、例えば、表面を擦っても型崩れ等が生じることがない程度であり、ノズル口径2mm、エアー圧力0.3MPaのエアーガンを用いて、距離5cmよりエアーブロー処理をしても割れ等が生じることがない程度である。
【0040】
(立体造形物の製造方法及び立体造形物の製造装置)
本発明の立体造形物の製造方法は、粉末材料層形成工程と、粉末材料層硬化工程とを含み、更に必要に応じて焼結工程等のその他の工程を含む。
前記粉末材料層形成工程と、前記粉末材料層硬化工程とを繰り返すことで立体造形物を製造することを特徴とする。
本発明の立体造形物の製造装置は、粉末材料層形成手段と、溶解液付与手段とを有し、粉末材料収容部と、溶解液収容部とを有することが好ましく、更に必要に応じて溶解液供給手段や焼結手段等のその他の手段を有してなる。
【0041】
-粉末材料層形成工程及び粉末材料層形成手段-
前記粉末材料層形成工程は、本発明の前記立体造形用粉末材料を使用し、支持体上に立体造形用粉末材料層を形成する工程である。
前記粉末材料層形成手段は、支持体上に、本発明の前記立体造形用粉末材料の層を形成する手段である。
【0042】
--支持体--
前記支持体としては、前記立体造形用粉末材料を載置することができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記立体造形用粉末材料の載置面を有する台、特開2000-328106号公報の図1に記載の装置におけるベースプレート、などが挙げられる。
前記支持体の表面、即ち、前記立体造形用粉末材料を載置する載置面としては、例えば、平滑面であってもよいし、粗面であってもよく、また、平面であってもよいし、曲面であってもよいが、前記立体造形用粉末材料における前記樹脂が溶解した際に、前記樹脂との親和性が低いことが好ましい。
前記載置面と、溶解した前記樹脂との親和性が、前記基材粒子と、溶解した前記樹脂との親和性よりも低いと、得られた立体造形物を前記載置面から取り外すことが容易である点で好ましい。
【0043】
--粉末材料層の形成--
前記立体造形用粉末材料を前記支持体上に配置させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、薄層に配置させる方法としては、特許第3607300号公報に記載の選択的レーザー焼結方法に用いられる、公知のカウンター回転機構(カウンターローラー)などを用いる方法、前記立体造形用粉末材料をブラシ、ローラ、ブレード等の部材を用いて薄層に拡げる方法、前記立体造形用粉末材料の表面を押圧部材を用いて押圧して薄層に拡げる方法、公知の粉末積層造形装置を用いる方法、などが好適に挙げられる。
【0044】
前記カウンター回転機構(カウンターローラー)、前記ブラシ乃至ブレード、前記押圧部材などを用いて、前記支持体上に前記立体造形用粉末材料を薄層に載置させるには、例えば、以下のようにして行うことができる。
即ち、外枠(「型」、「中空シリンダー」、「筒状構造体」などと称されることもある)内に、前記外枠の内壁に摺動しながら昇降可能に配置された前記支持体上に前記立体造形用粉末材料を、前記カウンター回転機構(カウンターローラー)、前記ブラシ、ローラ又はブレード、前記押圧部材などを用いて載置させる。このとき、前記支持体として、前記外枠内を昇降可能なものを用いる場合には、前記支持体を前記外枠の上端開口部よりも少しだけ下方の位置に配し、即ち、前記立体造形用粉末材料層の厚み分だけ下方に位置させておき、前記支持体上に前記立体造形用粉末材料を載置させる。以上により、前記立体造形用粉末材料を前記支持体上に薄層に載置させることができる。
【0045】
なお、このようにして薄層に載置させた前記立体造形用粉末材料に対し、前記溶解液を付与すると、前記溶解液中の溶媒により前記立体造形用粉末材料中の前記基材粒子を被覆する樹脂が溶解し、溶媒である水が乾燥することで基材粒子同士が接着し、当該層が硬化する(前記粉末材料層硬化工程)。
ここで得られた薄層の硬化物上に、上記と同様にして、前記立体造形用粉末材料を薄層に載置させ、前記薄層に載置された該立体造形用粉末材料(層)に対し、前記溶解液を作用させると、前記基材粒子を被覆する樹脂が溶解し、硬化が生じる。このときの硬化は、該薄層に載置された前記立体造形用粉末材料(層)においてのみならず、その下に存在する、先に硬化して得られた前記薄層の硬化物との間でも生じる。その結果、前記薄層に載置された前記立体造形用粉末材料(層)の約2層分の厚みを有する硬化物(立体造形物)が得られる。
【0046】
また、前記立体造形用粉末材料を前記支持体上に薄層に載置させるには、前記公知の粉末積層造形装置を用いて自動的にかつ簡便に行うこともできる。前記粉末積層造形装置は、一般に、前記立体造形用粉末材料を積層するためのリコーターと、前記立体造形用粉末材料を前記支持体上に供給するための可動式供給槽と、前記立体造形用粉末材料を薄層に載置し、積層するための可動式成形槽とを備える。前記粉末積層造形装置においては、前記供給槽を上昇させるか、前記成形槽を下降させるか、又はその両方によって、常に前記供給槽の表面は前記成形槽の表面よりもわずかに上昇させることができ、前記供給槽側から前記リコーターを用いて前記立体造形用粉末材料を薄層に配置させることができ、該リコーターを繰り返し移動させることにより、薄層の立体造形用粉末材料を積層させることができる。
【0047】
前記立体造形用粉末材料層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、一層当たりの平均厚みで、30μm以上500μm以下が好ましく、60μm以上300μm以下がより好ましい。
前記厚みが、30μm以上であると、前記立体造形用粉末材料に前記溶解液を付与して形成した立体造形用粉末材料(層)による硬化物(立体造形物)の強度が充分であり、その後の焼結等の処理乃至取扱い時に型崩れ等の問題が生じることがない、500μm以下であると、前記立体造形用粉末材料に前記溶解液を付与して形成した立体造形用粉末材料(層)による硬化物(立体造形物)の寸法精度が向上する。
なお、前記平均厚みは、特に制限はなく、公知の方法に従って測定することができる。
【0048】
-粉末材料層硬化工程及び溶解液付与手段-
前記粉末材料層硬化工程は、前記粉末材料層形成工程で形成した立体造形用粉末材料層の所定領域に、前記樹脂を溶解する溶媒を含む溶解液を付与して該領域を硬化させる工程である。
前記溶解液付与手段は、前記粉末材料層形成手段により形成された立体造形用粉末材料層の所定領域を硬化させるために、前記基材粒子を被覆する樹脂を溶解する溶媒を含む溶解液を付与する手段である。
【0049】
前記溶解液の前記粉末材料層への付与の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ディスペンサ方式、スプレー方式、インクジェット方式などが挙げられる。なお、これらの方式を実施するには公知の装置を前記溶解液付与手段として好適に使用することができる。
これらの中でも、前記ディスペンサ方式は、液滴の定量性に優れるが、塗布面積が狭くなり、前記スプレー方式は、簡便に微細な吐出物を形成でき、塗布面積が広く、塗布性に優れるが、液滴の定量性が悪く、スプレー流による粉末材料の飛散が発生する。このため、本発明においては、前記インクジェット方式が特に好ましい。前記インクジェット方式は、前記スプレー方式に比べ、液滴の定量性が良く、前記ディスペンサ方式に比べ、塗布面積が広くできる利点があり、複雑な立体形状を精度良くかつ効率よく形成し得る点で好ましい。
【0050】
前記インクジェット法による場合、前記溶解液付与手段は、前記インクジェット法により前記溶解液を前記粉末材料層に付与可能なノズルを有する。なお、前記ノズルとしては、公知のインクジェットプリンターにおけるノズル(吐出ヘッド)を好適に使用することができ、また、前記インクジェットプリンターを前記溶解液付与手段として好適に使用することができる。なお、前記インクジェットプリンターとしては、例えば、株式会社リコー製のSG7100、などが好適に挙げられる。前記インクジェットプリンターは、ヘッド部から一度に滴下できる溶解液量が多く、塗布面積が広いため、塗布の高速化を図ることができる点で好ましい。
本発明においては、前記溶解液を精度良くしかも高効率に付与可能な前記インクジェットプリンターを用いた場合においても、前記溶解液が、粒子等の固形物や、樹脂等の高分子の高粘度材料を含有しないため、前記ノズル乃至そのヘッドにおいて目詰り等が発生せず、腐食等を生じさせることもなく、また、前記立体造形用粉末材料層に付与(吐出)された際、前記立体造形用粉末材料における前記樹脂に効率良く浸透可能であるため、立体造形物の製造効率に優れ、しかも樹脂等の高分子成分が付与されることがないため、予定外の体積増加等を生じることがなく、寸法精度の良い硬化物が容易にかつ短時間で効率よく得られる点で有利である。
【0051】
なお、前記溶解液において前記架橋剤はpH調整剤としても機能し得る。前記溶解液のpHとしては、前記インクジェット法で前記溶解液を前記立体造形用粉末材料層に付与する場合には、用いるノズルのノズルヘッド部分の腐食や目詰り防止の観点からは、5(弱酸性)?12(塩基性)が好ましく、8?10(弱塩基性)がより好ましい。前記pHの調整のために公知のpH調整剤を使用してもよい。
【0052】
-粉末材料収容部-
前記粉末材料収容部は、前記立体造形用粉末材料が収容された部材であり、その大きさ、形状、材質などについては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、貯留槽、袋、カートリッジ、タンクなどが挙げられる。
【0053】
-溶解液収容部-
前記溶解液収容部は、前記溶解液が収容された部材であり、その大きさ、形状、材質などについては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、貯留槽、袋、カートリッジ、タンクなどが挙げられる。
【0054】
-その他の工程及びその他の手段-
前記その他の工程としては、例えば、乾燥工程、焼結工程、表面保護処理工程、塗装工程などが挙げられる。
前記その他の手段としては、例えば、乾燥手段、焼結手段、表面保護処理手段、塗装手段などが挙げられる。
【0055】
前記乾燥工程は、前記粉末材料層硬化工程において得られた硬化物(立体造形物)を乾燥させる工程である。前記乾燥工程において、前記硬化物中に含まれる水分のみならず、有機物を除去(脱脂)してもよい。前記乾燥手段としては、例えば、公知の乾燥機などが挙げられる。
前記焼結工程は、前記粉末材料層硬化工程において形成した硬化物(立体造形物)を焼結する工程である。前記焼結工程を行うことにより、前記硬化物を一体化された金属乃至セラミックスの成形物(立体造形物の焼結体)とすることができる。前記焼結手段としては、例えば、公知の焼結炉などが挙げられる。
前記表面保護処理工程は、前記粉末材料層硬化工程において形成した硬化物(立体造形物)に保護層を形成等する工程である。前記表面保護処理工程を行うことにより、前記硬化物(立体造形物)を例えばそのまま使用等することができる耐久性等を該硬化物(立体造形物)の表面に与えることができる。前記保護層の具体例としては、耐水性層、耐候性層、耐光性層、断熱性層、光沢層などが挙げられる。前記表面保護処理手段としては、公知の表面保護処理装置、例えば、スプレー装置、コーティング装置などが挙げられる。
前記塗装工程は、前記粉末材料層硬化工程において形成した硬化物(立体造形物)に塗装を行う工程である。前記塗装工程を行うことにより、前記硬化物(立体造形物)を所望の色に着色させることができる。前記塗装手段としては、公知の塗装装置、例えば、スプレー、ローラ、刷毛等による塗装装置などが挙げられる。
【0056】
ここで、図1に本発明の粉末積層造形装置の一例を示す。この図1の粉末積層造形装置は、造形側粉末貯留槽1と供給側粉末貯留槽2とを有し、これらの粉末貯留槽は、それぞれ上下に移動可能なステージ3を有し、該ステージ3上に立体造形用粉末材料を載置し、立体造形用粉末材料からなる薄層を形成する。
造形側粉末貯留槽1の上には、前記粉末貯留槽内の立体造形用粉末材料に向けて溶解液4を吐出するインクジェットヘッド5を有し、更に、供給側粉末貯留槽2から造形側粉末貯留槽1に立体造形用粉末材料を供給すると共に、造形側粉末貯留槽1の立体造形用粉末材料(層)表面を均す、均し機構6(以下、リコーターということがある)を有する。
【0057】
造形側粉末貯留槽1の立体造形用粉末材料層上にインクジェットヘッド5から溶解液4を滴下する。このとき、溶解液4を滴下する位置は、最終的に造形したい立体形状を複数の平面層にスライスした二次元画像データ(スライスデータ)により決定される。
一層分の描画が終了した後、供給側粉末貯留槽2のステージ3を上げ、造形側粉末貯留槽1のステージ3を下げる。その差分の立体造形用粉末材料を、前記均し機構6によって、造形側粉末貯留槽1へと移動させる。
【0058】
このようにして、先に描画した立体造形用粉末材料層表面上に、新たな立体造形用粉末材料層が一層形成される。このときの立体造形用粉末材料層一層の厚みは、数十μm以上100μm以下程度である。
前記新たに形成された立体造形用粉末材料層上に、更に二層目のスライスデータに基づく描画を行い、この一連のプロセスを繰り返して立体造形物を得、図示しない加熱手段で加熱乾燥させることで立体造形物が得られる。
【0059】
図2に、本発明の粉末積層造形装置の他の一例を示す。図2の粉末積層造形装置は、原理的には図1と同じものであるが、立体造形用粉末材料の供給機構が異なる。即ち、供給側粉末貯留槽2は、造形側粉末貯留槽1の上方に配されている。一層目の描画が終了すると、造形側粉末貯留槽1のステージ3が所定量降下し、供給側粉末貯留槽2が移動しながら、所定量の立体造形用粉末材料を造形側粉末貯留槽1に落下させ、新たな立体造形用粉末材料層を形成する。その後、均し機構6で、立体造形用粉末材料層を圧縮し、かさ密度を上げると共に、立体造形用粉末材料層の高さを均一に均す。
図2に示す構成の粉末積層造形装置によれば、2つの粉末貯留槽を平面的に並べる図1の構成に比べて、装置をコンパクトにできる。
【0060】
以上の本発明の立体造形物の製造方法及び製造装置により、安全性が高く複雑な立体(三次元(3D))形状の立体造形物を、本発明の前記立体造形用粉末材料又は本発明の前記立体造形用セットを用いて簡便かつ効率良く、焼結等の前に型崩れが生じることなく、充分な強度を有し寸法精度良く製造することができる。
こうして得られた立体造形物及びその焼結体は、充分な強度を有し、寸法精度に優れ、微細な凹凸、曲面なども再現できるので、美的外観にも優れ、高品質であり、各種用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0062】
(実施例1)
<立体造形用粉末材料1の作製>
-コート液1の調製-
ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-03、平均重合度:300)6質量部に、イオン交換水114質量部を混合し、ウォーターバス中で80℃に加熱しながら、スリーワンモーター(新東科学株式会社製、BL600)を用いて1時間攪拌し、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールを溶解させることで5質量%のダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール水溶液120質量部を作製した。こうして得られた調製液をコート液1とした。
【0063】
-コート液1の基材表面へのコーティング-
市販のコーティング装置(パウレック社製、MP-01)を用いて、基材粒子としてステンレス鋼(SUS316L)粉(山陽特殊製鋼株式会社製、PSS316L、体積平均粒径41μm)100質量部に対し、被覆厚みが200nmになるように、下記コーティング条件で前記コート液1をコーティングし、体積平均粒径が43μm(評価装置:日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)の立体造形用粉末材料1を得た。なお、被覆厚みは、以下のようにして測定した。
【0064】
<被覆厚み>
被覆厚みは、前記立体造形用粉末材料1の表面をエメリー紙で研磨を行った後、水を含ませた布で表面を軽く磨き樹脂部位を溶解し、観察用サンプルを作製した。次に、電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)にて表面に露出した、基材部と樹脂部の境界部を観察し、前記樹脂部表面と前記境界部位との長さを被覆厚みとして測定した。測定箇所10箇所の平均値を求め、これを被覆厚み(平均厚み)とした。
【0065】
<コーティング条件>
・スプレー設定
ノズル型式 970
ノズル口径 1.2mm
コート液吐出圧力 4.7Pa・s
コート液吐出速度 3g/min
アトマイズ空気量 50NL/min
・ローター設定
ローター型式 M-1
回転速度 60rpm
回転数 400%
・気流設定
給気温度 80℃
給気風量 0.8m^(3)/min
バグフィルター払落し圧 0.2MPa
バグフィルター払落し時間 0.3秒間
バグフィルターインターバル 5秒間
・コーティング時間 80分間
【0066】
<溶解液1の作製>
水70質量部と、流動性調整剤として3-メチル-1,3-ブタンジオール(東京化成工業株式会社製)30質量部とを混合攪拌し、溶解液1を得た。
【0067】
(実施例1)
得られた前記立体造形用粉末材料1と、前記溶解液1と、サイズ(長さ70mm×巾12mm)の形状印刷パターンを用いて、立体造形物1を以下のようにして製造した。
【0068】
(1)まず、図1に示したような公知の粉末積層装置を用いて、供給側粉末貯留槽から造形側粉末貯留槽に前記立体造形用粉末材料1を移送させ、前記支持体上に平均厚みが100μmの立体造形用粉末材料1による薄層を形成した。
【0069】
(2)次に、形成した立体造形用粉末材料1による薄層の表面に、前記溶解液1を、公知のインクジェット吐出ヘッドのノズルから付与(吐出)し、前記ポリビニルアルコールを前記溶解液1に含まれる水に溶かし、前記ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールを前記溶解液1に含まれる水に溶かし、基材粒子同士を接着させた。
【0070】
(3)次に、上記(1)及び(2)の操作を繰返し、立体造形用粉末材料1による薄層を順次積層し、平均厚み3mmの積層した立体造形物を得た。その後、乾燥機を用いて、50℃で4時間、次いで100℃にて12時間乾燥する乾燥工程を行い、立体造形物1を得た。
得られた立体造形物1に対し、エアーブローにより余分な前記立体造形用粉末材料を除去したところ、型崩れを生ずることはなかった。
【0071】
得られた立体造形物1について、以下のようにして、曲げ応力を測定した。これらの結果を表2に示した。
【0072】
<曲げ応力>
強度(硬度)を測定する装置である株式会社島津製作所製のオートグラフAGS-Jと、3点曲げ試験治具(プラスティック)を用いて3点曲げ応力を測定することで、立体造形物1の曲げ応力(強度)を測定し、下記基準に従って曲げ応力を評価した。
[評価基準]
A・・・8.0MPa以上
B・・・5.0MPa以上8.0MPa未満
C・・・3.0MPa以上5.0MPa未満
D・・・3.0MPa未満
【0073】
(4)上記(3)で得られた立体造形物1について、乾燥機を用いて、窒素雰囲気下、500℃まで3時間58分間をかけて昇温し、次いで、400℃に4時間維持した後、4時間かけて30℃まで昇温させて、脱脂工程を行い、更に、焼結炉内で真空条件、1,400℃で焼結処理を行った。その結果、表面が美麗な立体造形物1(焼結体)が得られた。この焼結体は完全に一体化されたステンレス構造体(金属塊)であり、硬質の床に叩きつけても全く破損等が生じなかった。
【0074】
(実施例2)
実施例1において、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-03、平均重合度:300)を、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-05、平均重合度:500)に変更した以外は、実施例1と同様にして、立体造形物を製造し、実施例1と同様に曲げ応力を測定した。結果を表2に示した。
【0075】
(実施例3)
実施例1において、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-03、平均重合度:300)を、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-17、平均重合度:1,700)に変更した以外は、実施例1と同様にして、立体造形物を製造し、実施例1と同様に曲げ応力を測定した。結果を表2に示した。
【0076】
(実施例4)
実施例1において、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-03、平均重合度:300)を、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-20、平均重合度:2,000)に変更した以外は、実施例1と同様にして、立体造形物を製造し、実施例1と同様に曲げ応力を測定した。結果を表2に示した。
【0077】
(実施例5)
実施例1において、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-03、平均重合度:300)を、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-05、平均重合度:500)に変更し、基材粒子のステンレス鋼(SUS316L)粉(山陽特殊製鋼株式会社製、PSS316L、体積平均粒径41μm)を、シリカ粒子(エクセリカSE-15K、株式会社トクヤマ製、体積平均粒径24μm)に変更した以外は、実施例1と同様にして、立体造形物を製造し、実施例1と同様に曲げ応力を測定した。結果を表2に示した。
【0078】
(実施例6)
実施例1において、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-03、平均重合度:300)を、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-05、平均重合度:500)に変更し、基材粒子のステンレス鋼(SUS316L)粉(山陽特殊製鋼株式会社製、PSS316L、体積平均粒径41μm)を、アルミナ粒子(タイミクロンTM-5D、大明化学工業株式会社製、体積平均粒径0.3μm)に変更した以外は、実施例1と同様にして、立体造形物を製造し、実施例1と同様に曲げ応力を測定した。結果を表2に示した。
【0079】
(実施例7)
実施例1において、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-03、平均重合度:300)を、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-05、平均重合度:500)に変更し、溶解液1を、以下の<溶解液2の作製>で作製した溶解液2に代えた以外は、実施例1と同様にして、立体造形物を製造し、実施例1と同様に曲げ応力を測定した。結果を表2に示した。
<溶解液2の作製>
水70質量部と、流動性調整剤として3-メチル-1,3-ブタンジオール(東京化成工業株式会社製)30質量部に、架橋剤として炭酸ジルコニウムアンモニウム塩(第一稀元素化学工業株式会社製、AC20)0.1質量部を添加し、混合攪拌して、溶解液2を作製した。
【0080】
(実施例8)
実施例1において、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-03、平均重合度:300)を、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-05、平均重合度:500)に変更し、溶解液1を、以下の<溶解液3の作製>で作製した溶解液3に代えた以外は、実施例1と同様にして、立体造形物を製造し、実施例1と同様に曲げ応力を測定した。結果を表2に示した。
<溶解液3の作製>
水70質量部と、流動性調整剤として3-メチル-1,3-ブタンジオール(東京化成工業株式会社製)30質量部に、架橋剤としてグリオキシル酸エステル(日本合成化学工業株式会社製、Safelink SPM-02)0.1質量部を添加し、混合攪拌して、溶解液3を作製した。
【0081】
(実施例9)
実施例1において、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-03、平均重合度:300)を、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-05、平均重合度:500)に変更し、溶解液1を、以下の<溶解液4の作製>で作製した溶解液4に代えた以外は、実施例1と同様にして、立体造形物を製造し、実施例1と同様に曲げ応力を測定した。結果を表2に示した。
<溶解液4の作製>
水70質量部と、流動性調整剤として3-メチル-1,3-ブタンジオール(東京化成工業株式会社製)30質量部に、架橋剤としてアジピン酸ジヒドラジド(日本ヒドラジン工業株式会社製、ADH)0.1質量部を添加し、混合攪拌して、溶解液4を作製した。
【0082】
(実施例10)
実施例1において、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-03、平均重合度:300)を、ダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体(互応化学株式会社製、プラスサイズL-6466)に変更した以外は、実施例1と同様にして、立体造形物を製造し、実施例1と同様に曲げ応力を測定した。結果を表2に示した。
【0083】
(実施例11)
実施例7において、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-03、平均重合度:300)を、ダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体(互応化学株式会社製、プラスサイズL-6466)に変更した以外は、実施例7と同様にして、立体造形物を製造し、実施例1と同様に曲げ応力を測定した。結果を表2に示した。
【0084】
(実施例12)
実施例1において、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-03、平均重合度:300)を、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-05、平均重合度:500)に変更し、コーティング時間を2分間に調整した以外は、実施例1と同様にして、立体造形物を製造し、実施例1と同様に曲げ応力を測定した。結果を表2に示した。
【0085】
(実施例13)
実施例1において、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-03、平均重合度:300)を、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-05、平均重合度:500)に変更し、コーティング時間を40分間に調整した以外は、実施例1と同様にして、立体造形物を製造し、実施例1と同様に曲げ応力を測定した。結果を表2に示した。
【0086】
(実施例14)
実施例1において、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-03、平均重合度:300)を、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-05、平均重合度:500)に変更し、コーティング時間を200分間に調整した以外は、実施例1と同様にして、立体造形物を製造し、実施例1と同様に曲げ応力を測定した。結果を表2に示した。
【0087】
(実施例15)
実施例1において、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-03、平均重合度:300)を、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-05、平均重合度:500)に変更し、基材をステンレス鋼[SUS316L(PSS316L-10μ(体積平均粒径9μm))、山陽特殊製鋼株式会社製]に変更し、立体造形用粉末を作製した後、前記立体造形用粉末を音波式ふるい振とう器SW-20A(筒井理化学器機株式会社製)にて、分級し、篩目開き5μ通過した粉末を収集した。収集した粉末を立体造形用粉末材料11とした。
得られた立体造形用粉末材料11を使用し、実施例1と同様にして、立体造形物を製造し、実施例1と同様に曲げ応力を測定した。結果を表2に示した。
【0088】
(実施例16)
実施例1において、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-03、平均重合度:300)を、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-05、平均重合度:500)に変更し、基材をステンレス鋼[SUS316L(PSS316L-10μ(体積平均粒径9μm))、山陽特殊製鋼株式会社製]に変更し、立体造形粉末を作製した後、前記立体造形粉末を音波式ふるい振とう器SW-20A(筒井理化学器機株式会社製)にて、分級し、篩目開き10μm通過した粉末を収集した。収集した粉末を立体造形用粉末材料12とした。
得られた立体造形用粉末材料12を使用し、実施例1と同様にして、立体造形物を製造し、実施例1と同様に曲げ応力を測定した。結果を表2に示した。
【0089】
(実施例17)
実施例1において、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-03、平均重合度:300)を、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-05、平均重合度:500)に変更し、基材をステンレス鋼[SUS316L(PSS316L-10μ(体積平均粒径9μm))、山陽特殊製鋼株式会社製]に変更した以外は、実施例1と同様にして、立体造形物を製造し、実施例1と同様に曲げ応力を測定した。結果を表2に示した。
【0090】
(実施例18)
実施例1において、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-03、平均重合度:300)を、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-05、平均重合度:500)に変更し、基材をステンレス鋼[SUS316L(PSS316L-20μ(体積平均粒径15μm))、山陽特殊製鋼株式会社製]に変更した以外は、実施例1と同様にして、立体造形物を製造し、実施例1と同様に曲げ応力を測定した。結果を表2に示した。
【0091】
(実施例19)
実施例1において、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-03、平均重合度:300)を、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-05、平均重合度:500)に変更し、基材をステンレス鋼[SUS316L(PSS316L-105μ/+53μ(体積平均粒径80μm))、山陽特殊製鋼株式会社製]に変更した以外は、実施例1と同様にして、立体造形物を製造し、実施例1と同様に曲げ応力を測定した。結果を表2に示した。
【0092】
(実施例20)
実施例1において、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-03、平均重合度:300)を、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-05、平均重合度:500)に変更し、基材をステンレス鋼[SUS316L(PSS316L-210μ/+63μ(体積平均粒径140μm))、山陽特殊製鋼株式会社製]に変更した以外は、実施例1と同様にして、立体造形物を製造し、実施例1と同様に曲げ応力を測定した。結果を表2に示した。
【0093】
(比較例1)
実施例1において、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール株式会社製、DF-03、平均重合度:300)を、完全けん化ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、KL105、平均重合度:500)に変更した以外は、実施例1と同様にして、立体造形物を製造し、実施例1と同様に曲げ応力を測定した。結果を表2に示した。
【0094】
(比較例2)
比較例1において、基材粒子のステンレス鋼(SUS316L)粉(山陽特殊製鋼株式会社製、PSS316L、体積平均粒径41μm)を、シリカ粒子(エクセリカSE-15K、株式会社トクヤマ製、体積平均粒径24μm)に変更した以外は、比較例1と同様にして、立体造形物を製造し、実施例1と同様に曲げ応力を測定した。結果を表2に示した。
【0095】
(比較例3)
比較例1において、基材粒子のステンレス鋼(SUS316L)粉(山陽特殊製鋼株式会社製、PSS316L、体積平均粒径41μm)を、アルミナ粒子(タイミクロンTM-5D、大明化学工業株式会社製、体積平均粒径0.3μm)に変更した以外は、比較例1と同様にして、立体造形物を製造し、実施例1と同様に曲げ応力を測定した。結果を表2に示した。
【0096】
【表1】

【表2】

【0097】
本発明の態様は、例えば、以下のとおりである。
<1> 基材粒子を樹脂で被覆した立体造形用粉末材料において、
前記樹脂として、下記一般式1で示される官能基を有する樹脂を含むことを特徴とする立体造形用粉末材料である。
[一般式1]
【化4】

ただし、前記一般式1中、A_(1)は、O及びNHのいずれかを示す。R_(1)、R_(2)、及びR_(3)は、CH_(3)、C_(2)H_(5)、C_(3)H_(7)、及びC_(4)H_(9)のいずれかを表す。
<2> 前記樹脂が、前記一般式1で示される官能基を有する水溶性樹脂である前記<1>に記載の立体造形用粉末材料である。
<3> 前記樹脂が、前記一般式1で示される官能基を有するポリビニルアルコールである前記<1>から<2>のいずれかに記載の立体造形用粉末材料である。
<4> 前記樹脂が、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールである前記<3>に記載の立体造形用粉末材料である。
<5> 前記樹脂の平均重合度が、500?1,700である前記<1>から<4>のいずれかに記載の立体造形用粉末材料である。
<6> 前記<1>から<5>のいずれかに記載の立体造形用粉末材料と、基材粒子を被覆する樹脂を溶解可能な溶媒を含む溶解液と、を有することを特徴とする立体造形用セットである。
<7> 前記溶解液が、下記一般式1で示される官能基と架橋反応する化合物を含有する前記<6>に記載の立体造形用セットである。
[一般式1]
【化5】

ただし、前記一般式1中、A_(1)は、O及びNHのいずれかを表す。R_(1)、R_(2)、及びR_(3)は、CH_(3)、C_(2)H_(5)、C_(3)H_(7)、及びC_(4)H_(9)のいずれかを表す。
<8> 前記樹脂が、前記一般式1で示される官能基を有する水溶性樹脂であり、前記溶媒として水を含む、前記<6>から<7>のいずれかに記載の立体造形用セットである。
<9> 前記<1>から<5>のいずれかに記載の立体造形用粉末材料を使用し、支持体上に立体造形用粉末材料層を形成する粉末材料層形成工程と、
前記立体造形用粉末材料層の所定領域に、前記樹脂を溶解する溶媒を含む溶解液を付与して該領域を硬化させる粉末材料層硬化工程と、
を少なくとも繰り返すことで立体造形物を製造することを特徴とする立体造形物の製造方法である。
<10> 前記付与が、インクジェット吐出方式により行われる前記<9>に記載の立体造形物の製造方法である。
<11> 支持体上に、前記<1>から<5>のいずれかに記載の立体造形用粉末材料の層を形成する粉末材料層形成手段と、
前記立体造形用粉末材料層の所定領域を硬化させるために、前記樹脂を溶解する溶媒を含む溶解液を付与する溶解液付与手段と、
を有することを特徴とする立体造形物の製造装置である。
【符号の説明】
【0098】
1 造形側粉末貯留槽
2 供給側粉末貯留槽
3 ステージ
4 溶解液
5 インクジェットヘッド
6 均し機構
【先行技術文献】
【特許文献】
【0099】
【特許文献1】特表2006-521264号公報
【特許文献2】特開2005-297325号公報
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材粒子を樹脂で被覆した立体造形用粉末材料において、
前記樹脂が、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体であり、前記樹脂の平均重合度が300?2000であることを特徴とする立体造形用粉末材料。
【請求項2】
前記樹脂が、水溶性樹脂である請求項1に記載の立体造形用粉末材料。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記樹脂の平均重合度が、500?1,700である請求項1から2のいずれかに記載の立体造形用粉末材料。
【請求項6】
請求項1、2及び5のいずれかに記載の立体造形用粉末材料と、基材粒子を被覆する樹脂を溶解可能な溶媒を含む溶解液と、を有することを特徴とする立体造形用セット。
【請求項7】
前記溶解液が、ダイアセトンアクリルアミド基と架橋反応する化合物を含有する請求項6に記載の立体造形用セット。
【請求項8】
前記樹脂が、水溶性樹脂であり、前記溶媒として水を含む、請求項6から7のいずれかに記載の立体造形用セット。
【請求項9】
請求項1、2及び5のいずれかに記載の立体造形用粉末材料を使用し、支持体上に立体造形用粉末材料層を形成する粉末材料層形成工程と、
前記立体造形用粉末材料層の所定領域に、前記樹脂を溶解する溶媒を含む溶解液を付与して該領域を硬化させる粉末材料層硬化工程と、
を少なくとも繰り返すことで立体造形物を製造することを特徴とする立体造形物の製造方法。
【請求項10】
前記付与が、インクジェット吐出方式により行われる請求項9に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項11】
支持体上に、請求項1、2及び5のいずれかに記載の立体造形用粉末材料の層を形成する粉末材料層形成手段と、
前記立体造形用粉末材料層の所定領域を硬化させるために、前記樹脂を溶解する溶媒を含む溶解液を付与する溶解液付与手段と、
を有することを特徴とする立体造形物の製造装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-02-25 
出願番号 特願2014-256069(P2014-256069)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B29C)
P 1 651・ 536- YAA (B29C)
P 1 651・ 537- YAA (B29C)
P 1 651・ 113- YAA (B29C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 辰己 雅夫  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 大島 祥吾
渕野 留香
登録日 2018-11-09 
登録番号 特許第6428241号(P6428241)
権利者 株式会社リコー
発明の名称 立体造形用粉末材料、及び立体造形用セット、並びに、立体造形物の製造方法及び製造装置  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 廣田 浩一  
代理人 廣田 浩一  
代理人 篠 良一  

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