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審決分類 |
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 A61L 審判 全部申し立て 2項進歩性 A61L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A61L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A61L 審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) A61L 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 A61L |
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管理番号 | 1361471 |
異議申立番号 | 異議2019-700519 |
総通号数 | 245 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-05-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-07-01 |
確定日 | 2020-03-09 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6451743号発明「揮発性有機物質用消臭剤及びこれを用いた消臭性加工品、並びに揮発性有機物質用消臭剤及び消臭性加工品の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6451743号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕、4、5について訂正することを認める。 特許第6451743号の請求項1?5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6451743号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、2015年(平成27年)10月 5日(優先権主張 平成26年10月31日 日本国(JP))を国際出願日として特許出願され、平成30年12月21日にその請求項1?5に係る発明について特許権の設定登録がされ、平成31年 1月16日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、令和 1年 7月 1日付けで特許異議申立人瀬川 忠世(以下、「申立人」という。)により、甲第1?2号証、参考資料1を添付して特許異議の申立てがされ、同年10月 1日付けで当審より取消理由が通知され、その指定期間内である同年11月28日付けで、特許権者より乙第2号証を添付した意見書(以下、「意見書」という。)の提出並びに乙第1号証を添付した訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、これに対し、申立人に意見を求めたが、期間内に何らの応答もなされなかったものである。 第2 本件訂正請求による訂正の適否 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項からなる(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。 (1)訂正事項1 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に 「揮発性有機物質用消臭剤。」 と記載されているのを、 「沸点が0℃?260℃である揮発性有機物質用消臭剤。」 と訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、3も同様に訂正する。)。 (2)訂正事項2 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に 「zは1?20の正数である。」 と記載されているのを、 「zは吸着水及び結晶水を含む前記ゼオライトに含まれる水の量を表し、かつ1?20の正数である。」 と訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、3も同様に訂正する。)。 (3)訂正事項3 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4に 「揮発性有機物質用消臭剤の製造方法。」 と記載されているのを、 「沸点が0℃?260℃である揮発性有機物質用消臭剤の製造方法。」 と訂正する。 (4)訂正事項4 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4に 「zは1?20の正数である。」 と記載されているのを、 「zは吸着水及び結晶水を含む前記ゼオライトに含まれる水の量を表し、かつ1?20の正数である。」 と訂正する。 (5)訂正事項5 本件訂正前の請求項5に 「式〔1〕で示されるゼオライトを製造後、加工前に該ゼオライトを120℃から250℃の温度で加熱処理して、樹脂、繊維、塗料又はシートに配合することを特徴とする消臭性加工品の製造方法。」 と記載されているのを、 「式〔1〕で示されるゼオライトを製造後、加工前に該ゼオライトを120℃から250℃の温度で加熱処理して、樹脂、繊維、塗料又はシートに配合することを特徴とする消臭性加工品の製造方法。 xNa_(2)O・Al_(2)O_(3)・ySiO_(2)・zH_(2)O 〔1〕 式〔1〕中、xは0.5?5.0の正数であり、yは95?120の正数であり、zは吸着水及び結晶水を含む前記ゼオライトに含まれる水の量を表し、かつ1?20の正数である。」 と訂正する。 本件訂正前の請求項2,3は、いずれも訂正前の請求項1を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?3は一群の請求項であり、本件訂正前の請求項4、5は他の請求項を引用しない独立請求項である。 そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?3〕、4、5を訂正単位とする訂正の請求をするものである。 2 訂正の目的の適否、新規事項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1及び3について (ア)訂正事項1及び3による訂正は、いずれも、「揮発性有機物質」を、「沸点が0℃?260℃である」ものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (イ)そして、願書に添付した明細書の【0014】には、「本発明に係る消臭剤の吸着対象はVOCであり、沸点で0℃?260℃程度の有機物である。」と記載されているから、訂正事項1及び3の訂正は、願書に添付した明細書、又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 (2)訂正事項2及び4について (ア)訂正事項2及び4による訂正は、いずれも、本件訂正前の「式〔1〕」中の「z」が、結晶水の含有割合を意味するのか、ゼオライト表面の微量水(吸着水)の量を意味するのかが不明確であったのを、「吸着水及び結晶水を含む前記ゼオライトに含まれる水の量を表」すものとして、「z」の意味を明らかにするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (イ)そして、願書に添付した明細書の【0051】?【0057】には、以下の記載(A)がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。 (A)「【0051】 2.消臭剤の製造 <比較例1、2、4、5> 水酸化ナトリウムとアルミン酸ナトリウムの混合水溶液と、コロイダルシリカゾル液をテトラプロピルアンモニウムブロマイド(TPABr)に滴下して水性混合物を調製した。なお、各原料の使用量は、表2のモル組成比となるように調整した。得られた水性混合物をオートクレーブに移し、170℃で60時間加熱することで、比較例1、2、4及び5のゼオライトを合成した。 ・・・ 【0054】 得られたゼオライトは、いずれも結晶質粒子であることを粉末X線回析測定の結果から確認した。各組成比1?5の合成母液から得られたゼオライトを比較例1?5とし、その組成を金属含有量の分析で求めたところ、以下のようであった。 比較例1: 2.1Na_(2)O・Al_(2)O_(3)・98SiO_(2)・28H_(2)O 比較例2: 1.5Na_(2)O・Al_(2)O_(3)・113SiO_(2)・44H_(2)O 比較例3: 1.2NH_(4)・0.2Na_(2)O・Al_(2)O_(3)・97SiO_(2)・25H_(2)O 比較例4: 2.6Na_(2)O・Al_(2)O_(3)・42SiO_(2)・20H_(2)O 比較例5: 0.9Na_(2)O・Al_(2)O_(3)・222SiO_(2)・15H_(2)O また、これらゼオライトの粒度分布を測定した結果、表3の通りであった。 ・・・ 【0056】 <実施例1?4> 比較例1及び2のゼオライトを各々120℃で6時間加熱し、実施例1及び実施例2の消臭剤を得た。また、比較例1及び2のゼオライトを各々180℃で3時間加熱し、実施例3及び実施例4の消臭剤を得た。なお、加熱により粒度の変化は確認されなかった。 実施例1: 2.0Na_(2)O・Al_(2)O_(3)・99SiO_(2)・10H_(2)O 実施例2: 1.5Na_(2)O・Al_(2)O_(3)・114SiO_(2)・18H_(2)O 実施例3: 2.2Na_(2)O・Al_(2)O_(3)・98SiO_(2)・9H_(2)O 実施例4: 1.6Na_(2)O・Al_(2)O_(3)・114SiO_(2)・7H_(2)O」 前記(A)によれば、比較例1及び2のゼオライトを各々120℃で6時間加熱し、実施例1及び実施例2の消臭剤を得た場合、比較例1の「28H_(2)O」は実施例1の「10H_(2)O」となり、比較例2の「44H_(2)O」は、実施例2の「18H_(2)O」となるものであり、比較例1及び2のゼオライトを各々180℃で3時間加熱し、実施例3及び実施例4の消臭剤を得た場合、比較例1の「28H_(2)O」は実施例3の「9H_(2)O」となり、比較例2の「44H_(2)O」は実施例4の「7H_(2)O」となるものであり、実施例1?4のゼオライトは、比較例1、2のゼオライトから、前記加熱によって「H_(2)O」の一部が脱水されて得られるものであると解される。 (ウ)また、参考資料1(後記第4参照。)には、以下の記載(B)、(C)がある。 (B)「分析事例の紹介 Na-A型ゼオライトを例として脱水挙動を解析した結果を紹介します。 (1)TG-DTA 脱水挙動を調べるため、TG-DTAで500℃まで測定を行いました。図1に示すように吸熱ピーク(DTA)を伴う脱水による2段の減量が確認されました。室温?250℃の18wt%減量は、細孔内に取り込まれた吸着水、250℃?500℃の3wt%減量は、Naイオンやゼオライト骨格に強く結合した水(結晶水)と考えられます。」(1/1頁6行?11行。当審注:「(1)」は「○内に1」と記載されている。) (C)「 」(1/1頁) 前記(B)、(C)によれば、ゼオライトにおいては、室温?250℃では細孔内に取り込まれた吸着水が脱水され、250℃以上では結晶水が脱水されるという挙動が理解できるものである。 (エ)更に、特許権者が意見書に添付した乙第2号証である、浜田美穂ら,「誘導結合プラズマ発光分光分析及びX線マイクロアナライザーによる含水鉱物の全分析」,BUNSEKI KAGAKU,Vol.31,1982年,p.T61-T64には、以下の記載(D)、(E)がある。 (D)「含水鉱物,特に水を多量に含む沸石類や粘土鉱物は,含水量の個体差が大きく,組成式決定の上で問題となってきた.ことに沸石類ではいわゆるゼオライト水の存在により,組成式の決定にはかなりの問題があった.又,一般にこのような試料では,微少量で全分析を要求されることが多い.そこで誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法による,少量試料を用いたケイ素をも含めた多元素同時分析,及びX線マイクロアナライザー(EPMA)による酸素をも含めた全分析を行い,その結果の比較検討を行った. EPMAは,微小領域の分析法として現在最も広く用いられ,信頼性の高い方法であるが,軽元素については適当な吸収補正法が知られていなかった.著者らは新しい吸収補正法を提案し,軽元素である酸素もよい正確さで定量しうることを示したが^(1)),本研究ではそれを用いて全酸素量より水を定量した.」(T62頁左欄2行?右欄1行) (E)「水については,ICPでは熱分析,EPMAでは酸素の分析値から金属に結合する酸素の値を差し引いて求めたのであるが,それらはかなりよい一致をしている.組成式における両者のわずかな差は,熱分析においては試料の広範囲における平均組成を表す水,又EPMAにおいては電子線照射領域内の水を観察していることに起因していると考えられる.このことは,EPMAにおいては,ミクロンオーダーの微小領域の水を定量できるという利点をも示している.」(T63頁右欄下から5行?T64頁左欄4行) 前記(D)、(E)によれば、含水鉱物に含まれる水の量は、例えばEPMAにより、酸素の分析値から金属に結合する酸素の値を差し引いて求められるのであり、このことは本件特許の優先日における技術常識といえるが、その場合、吸着水の量と結晶水の量とが合わせて求められると推認される。 (オ)そして、前記(イ)によれば、実施例1?4のゼオライトは、比較例1、2のゼオライトから120℃または180℃の加熱によって「H_(2)O」の一部が脱水されて得られるものである一方、前記(ウ)によれば、120℃や180℃の加熱においては、吸着水の一部が脱水され、結晶水は脱水されないから、実施例1?4のゼオライトは、吸着水及び結晶水を含むものとして理解するのが自然なことである。 さらに、前記(エ)によれば、含水鉱物に含まれる水の量をEPMAにより求めることは本件特許の優先日における技術常識といえるが、その場合、吸着水の量と結晶水の量とが合わせて求められると推認されるのであって、このことと、実施例1?4のゼオライトが吸着水及び結晶水を含むものと理解するのが自然なことであることからみれば、本件訂正前の「式〔1〕」中の「z」が「吸着水及び結晶水を含む前記ゼオライトに含まれる水の量を表」すことは、願書に添付した明細書の記載及び技術常識から明らかといえる。 (カ)してみれば、訂正事項2及び4は、願書に添付した明細書、又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正といえ、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 (3)訂正事項5について (ア)訂正事項5による訂正は、本件訂正前の請求項5に「式〔1〕」が記載されておらず、記載が明瞭でなかったのを、「式〔1〕」が記載されるものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (イ)また、願書に添付した明細書の【0010】、【0015】、【0026】には、以下の記載がある。 「【0010】 1.消臭剤 本発明の消臭剤は、下記式〔1〕で示されるゼオライトを含み、前記ゼオライトは、ゼオライトを製造後に120℃以上の温度で加熱処理して得られたものであることを特徴とする。 xNa_(2)O・Al_(2)O_(3)・ySiO_(2)・zH_(2)O 〔1〕 式〔1〕において、xは0.5?5.0の正数であり、yは80?150の正数であり、zは1?20の正数である。 以下に、本発明の構成成分について、具体的に説明する。」 「【0015】 (2)消臭剤の製造方法 本発明の消臭剤の製造方法は、ゼオライトを製造する製造工程(以下、単に「製造工程」ともいう。)と、製造工程で得られたゼオライトを120℃以上の温度で加熱し、式〔1〕で表されるゼオライトを得る加熱工程(以下、単に「加熱工程」ともいう。)と、をこの順に含む。 以下、上記各工程について説明する。」 「【0026】 3.消臭性加工品 本発明の消臭剤は、粉末又は顆粒でそのままカートリッジなどの容器に入れた最終消臭製品として使用でき、室内や室外の悪臭発生源の近傍などに静置しておくことでその効果を発揮することができる。更に、本発明の消臭剤は、以下に詳述するように樹脂、繊維、塗料又はシートなどに配合し、消臭性加工品を製造するために利用できる。消臭性加工品を製造する場合には、加工前にゼオライトを120℃以上の温度で加熱処理し、樹脂、繊維、塗料又はシートなどに配合することが好ましい。加工前にゼオライト表面を活性化しておくことにより、加工後に優れた消臭性能を発現するからである。・・・」 (ウ)そして、前記(イ)によれば、願書に添付した明細書には、本件特許に係る「消臭性加工品の製造方法」は、ゼオライトを製造する製造工程により製造されたゼオライトを120℃以上の温度で加熱処理して得られた、「式〔1〕」で示されるゼオライトを、加工前に120℃以上の温度で加熱処理して樹脂、繊維、塗料又はシートに配合するものであることが記載されているから、「式〔1〕」で示されるゼオライトを製造後、加工前に該ゼオライトを120℃から250℃の温度で加熱処理して、樹脂、繊維、塗料又はシートに配合することが記載されているといえる。 更に、本件訂正前の「式〔1〕」中の「z」が「吸着水及び結晶水を含む前記ゼオライトに含まれる水の量を表」すものであることは、願書に添付した明細書の記載及び技術常識から自明の事項といえることは、前記(2)(オ)に記載のとおりであるから、訂正事項5は、願書に添付した明細書、又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正といえ、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 なお、本件訂正請求においては、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。 3 まとめ したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?3〕、4、5について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 本件訂正が認められることは上記第2に記載のとおりであるので、本件特許の請求項1?5に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明5」といい、まとめて「本件発明」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。 「【請求項1】 下記式〔1〕で示されるゼオライトを含むことを特徴とする沸点が0℃?260℃である揮発性有機物質用消臭剤。 xNa_(2)O・Al_(2)O_(3)・ySiO_(2)・zH_(2)O 〔1〕 式〔1〕中、xは0.5?5.0の正数であり、yは95?120の正数であり、zは吸着水及び結晶水を含む前記ゼオライトに含まれる水の量を表し、かつ1?20の正数である。 【請求項2】 請求項1に記載の揮発性有機物質用消臭剤と、塩基性ガス消臭剤及び硫黄性ガス消臭剤の少なくとも一方とを含有する消臭剤組成物。 【請求項3】 請求項1に記載の揮発性有機物質用消臭剤を含む消臭性加工品。 【請求項4】 ゼオライトを製造する製造工程と、 製造工程で得られたゼオライトを120℃から250℃の温度で加熱し、式〔1〕で表されるゼオライトを得る加熱工程と、をこの順に含むことを特徴とする沸点が0℃?260℃である揮発性有機物質用消臭剤の製造方法。 xNa_(2)O・Al_(2)O_(3)・ySiO_(2)・zH_(2)O 〔1〕 式〔1〕中、xは0.5?5.0の正数であり、yは95?120の正数であり、zは吸着水及び結晶水を含む前記ゼオライトに含まれる水の量を表し、かつ1?20の正数である。 【請求項5】 式〔1〕で示されるゼオライトを製造後、加工前に該ゼオライトを120℃から250℃の温度で加熱処理して、樹脂、繊維、塗料又はシートに配合することを特徴とする消臭性加工品の製造方法。 xNa_(2)O・Al_(2)O_(3)・ySiO_(2)・zH_(2)O 〔1〕 式〔1〕中、xは0.5?5.0の正数であり、yは95?120の正数であり、zは吸着水及び結晶水を含む前記ゼオライトに含まれる水の量を表し、かつ1?20の正数である。」 第4 異議申立理由の概要 申立人は、証拠として甲第1?2号証及び参考資料1を提出し、以下の異議申立理由によって、本件訂正前の請求項1?5に係る発明の特許を取り消すべきものである旨を主張している。 甲第1号証:特開2009-40998号公報 甲第2号証:特開平1-171554号公報 参考資料1:株式会社東ソー分析センタ-,「【技術資料】ゼオライトの加熱脱水解析」,技術レポートNo.T1501,2015.04.06 1 特許法第36条第6項第1号、第2号、第4項第1号について (1)「式〔1〕」について 本件訂正前の請求項1に係る発明の「式〔1〕」中の「H_(2)O」は当然結晶水であり、「z」は結晶水量を示すものであるが、本件特許明細書の記載をみると、「式〔1〕」中の「z」は結晶水量を示していない。 すなわち、本件特許明細書の【0054】には、160℃の加熱で比較例1、2のゼオライトの「H_(2)O」が減少することが記載されているが、参考資料1によれば、160℃の加熱で除去されるのは吸着水であり、結晶水は、250℃以上で脱水されるものであって、160℃程度の加熱では除去されないし、オートクレーブ中、170℃で6時間加熱して得られた比較例1、2のゼオライトの反応条件よりもマイルドな加熱により結晶水が除去されるものではなく、また、本件特許明細書にはゼオライトの水分量をどのように算出したかも記載されていない。 そうすると、「式〔1〕」は、結晶水としての「H_(2)O」の化学組成を示すものではないから、明らかに誤っているので、本件訂正前の請求項1に係る発明は不明確であり、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえないし、発明の詳細な説明が、当業者が本件訂正前の請求項1に係る発明を容易に実施できるように記載されているともいえない。 (2)ゼオライトの骨格構造について (ア)本件訂正前の請求項1に係る発明においては、ゼオライトの結晶骨格構造が特定されておらず、更に、あらゆる揮発性有機物に対して消臭性を示すものとなっているが、ゼオライトが示す吸着性はその結晶構造に形成されている細孔の形態に依存し、「式〔1〕」の化学組成を有しているに過ぎないゼオライトがあらゆる揮発性有機化合物に対して吸着性を示すはずはなく、本件訂正前の請求項1に係る発明は、揮発性有機化合物に対する吸着性を示さないゼオライトまでも包含する。 (イ)更に、本件特許明細書の実施例ではn-ブタン、キシレン、アセトアルデヒドに対する評価はなされているが、実施例で示されている以外の多くの揮発性有機化合物についても吸着性を示すのというのであれば、少なくとも吸着対象の揮発性有機化合物毎に、その結晶骨格構造を特定すべきである。 (ウ)このように、結晶骨格構造が特定されていない点でも、本件訂正前の請求項1に係る発明は不明確であり、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえないし、発明の詳細な説明が、当業者が本件訂正前の請求項1に係る発明を容易に実施できるように記載されているともいえない。 なお、前記(1)、(2)の事項は、本件訂正前の請求項2?6に係る発明についても同様である。 (3)ゼオライトの製造工程について (ア)本件訂正前の請求項4に係る発明におけるゼオライトの製造工程について、一般的にシリカアルミナモル比が95?120の組成を満たすゼオライトを製造するためには、構造規制剤を使用することが必要であり、最終的には、この構造規制剤を分解して細孔を形成するために600℃程度の高温で焼成することが必要である。 そして、本件訂正前の請求項4に係る発明においてゼオライトを120?250℃で加熱するのであれば、既に600℃程度の高温で加熱されたものを更に120?250℃の低温で加熱することとなり、120?250℃で加熱することの技術的意義が理解できない。 本件訂正前の請求項4に係る発明におけるゼオライトは、構造規制剤を使用せずに製造されたゼオライトとも考えられるが、本件特許明細書にはそのようなことは記載されていない。 (イ)したがって、本件訂正前の請求項4に係る発明は不明確であり、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。 このことは、本件訂正前の請求項5に係る発明についても同様である。 (4)実施例においてゼオライトが製造されていないことについて (ア)本件特許明細書の比較例1、2のゼオライトは、構造規制剤(テトラプロピルアンモニウムブロマイド)を用いて調製された水性混合物をオートクレーブ中で170℃、60時間加熱することにより得られているが、比較例1、2では構造規制剤を除去するための焼成が行われておらず、したがってゼオライトに特有の細孔は構造規制剤によって閉じられた状態にあり、吸着サイトとして機能する細孔は形成されていないから、比較例1、2はゼオライトではないことが明白である。 (イ)更に、実施例1?4のゼオライトは、比較例1、2のゼオライトを120℃で6時間、あるいは180℃で3時間加熱することにより得られるのであるから、ここでも構造規制剤を除去する焼成は行われていない。 したがって、実施例1?4も細孔が完全に閉じられており、ゼオライトに特有の細孔は形成されておらず、ゼオライトと称されるものではないことが明白である。 (ウ)したがって、本件特許明細書は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満足していない。 2 特許法第29条第1項第3号または第2項について (ア)本件訂正前の請求項1、4、5に係る発明は、甲第1号証に記載される発明であるから、本件訂正前の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができない。 (イ)本件訂正前の請求項2、3に係る発明は、甲第1号証に記載される発明と実質的に同一であるか、あるいは、甲第2号証の周知技術により当業者が容易に想到し得る発明であるから、本件訂正前の請求項2、3に係る発明は、特許法第29条第1項または第2項の規定により特許を受けることができない。 第5 取消理由の概要 令和 1年10月 1日付け取消理由通知による取消理由の概要は、以下のとおりである。 1 特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について (ア)「式〔1〕」は、ゼオライトの化学組成を示すものであって、通常、「式〔1〕」中の「zH_(2)O」は、結晶水の含有比率を「z」により表すものである。 (イ)そして、本件特許明細書の【0051】?【0056】によれば、本件特許明細書には、120℃で6時間加熱したり180℃で3時間加熱することにより、比較例1、2のゼオライト中の結晶水が減少することが記載されているといえる。 (ウ)ところが、参考資料1によれば、室温?250℃程度の温度においてはNa-A型ゼオライト中の結晶水は失われないのであって、前記(イ)の記載事項は、前記参考資料1の記載事項と合致しない。 (エ)また、本件特許明細書の【0051】によれば、比較例1、2のゼオライトは、オートクレーブ中、170℃で60時間加熱することにより得られたものであるが、実施例1、2のゼオライトは、それらのゼオライトを、更に120℃で6時間加熱することによって得られており、ゼオライトの合成の際の反応温度よりも相当に低温度の加熱により、比較例1、2のゼオライトが有する結晶水が除去されると解釈するのは不合理である。 (オ)更に、本件特許明細書の【0023】の記載は、ゼオライト製造後、加熱処理により、ゼオライト表面の微量水分が減少することをいうものであり、結晶水が減少することをいうものではないから、前記(イ)の記載事項は、前記【0023】の記載事項と合致しない。 (カ)してみると、本件訂正前の請求項1に係る発明の「式〔1〕」中の「z」が結晶水の含有割合を意味するのか、ゼオライト表面の微量水(吸着水)の量を意味するのかが不明確である。 このことは、同様の発明特定事項を有する本件訂正前の請求項4に係る発明、及び、本件訂正前の請求項1、4に係る発明を直接的又は間接的に引用する本件訂正前の請求項2、3、5に係る発明についても同様である。 2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について (ア)本件特許明細書の【0002】?【0006】によれば、本件特許に係る発明は、従来の粉末状吸着剤の、アルデヒド系ガスに特化した吸着剤であること、200℃程度に加熱することで吸着性能が低下し、更に変色すること、耐熱性に劣るため、樹脂への練り込み加工や高温に曝される用途においては十分な消臭性が得られないこと、といった課題を解決するものであり、VOCの吸着性能が高く、樹脂に練り込み加工した場合でも消臭性を発現する消臭剤、及び、これを用いた消臭性加工品、並びに当該消臭剤の製造方法、及び、当該消臭性加工品の製造方法を提供することを目的とするものである。 (イ)ここで、ゼオライトは、様々な結晶骨格構造を有するものであり、その吸着特性は、結晶骨格構造に形成される細孔構造や吸着分子の形や極性等、様々な因子により決定されるものであるが、本件訂正前の請求項1に係る発明においては、「揮発性有機物質用消臭剤」に含まれるゼオライトの化学組成が特定されるのみであり、結晶骨格構造が特定されるものではなく、更に、本件発明1においては、消臭の対象となる「揮発性有機物質」の種類が特定されるものでもない。 そして、ゼオライトの化学組成のみを特定すれば、結晶骨格構造及び「揮発性有機物質」の種類とは無関係に消臭性が発現すると必ずしもいえるものではない。 (ウ)また、本件特許明細書の【0016】には、本件発明に係る「揮発性有機物質用消臭剤」におけるゼオライトは、MFI型合成ハイシリカゼオライトが好ましいことが記載され、【0051】?【0063】によれば、本件特許明細書において実際に消臭効果が得られるとされるゼオライトは、【0051】の製造方法で製造された比較例1、2のゼオライトを、【0056】の加熱処理を施して製造した実施例1?4のもののみであり、消臭効果があるとされる臭気物質は、n-ブタン、キシレン及びアセトアルデヒドのみである。 そして、これらの本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件特許に係る発明においてゼオライトの化学組成のみを特定すれば、結晶骨格構造及び「揮発性有機物質」の種類とは無関係に消臭性が発現することを理解できない。 (エ)なお、訂正前の請求項1に係る発明の「揮発性有機物質用消臭剤」は、「式〔1〕で示されるゼオライトを含む」との発明特定事項を有するものであるが、その消臭作用は、専ら「式〔1〕で示されるゼオライト」により発現するべきものであることからみれば、ゼオライトの結晶骨格構造が特定されるものではなく、消臭の対象となる「揮発性有機物質」の種類が少なくとも「n-ブタン、キシレン及びアセトアルデヒド」であることが特定されない訂正前の請求項1に係る発明は、前記(ア)の課題を解決できないものも包含するものであるから、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。 このことは、同様に、ゼオライトの結晶骨格構造が特定されるものではなく、消臭の対象となる「揮発性有機物質」の種類も特定されない本件訂正前の請求項4に係る発明、及び、本件訂正前の請求項1、4に係る発明を直接的又は間接的に引用する本件訂正前の請求項2、3、5に係る発明についても同様である。 3 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について (1)「z」について (ア)「式〔1〕」中の「z」が結晶水の含有割合を意味するのか、ゼオライト表面の微量水(吸着水)の量を意味するのかが不明確であることは、前記1(カ)に記載のとおりである。 そして、本件特許明細書には、「z」がどのようにして求められるのかも記載されていない。 (イ)してみれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「z」が結晶水の含有割合を意味するとしても、あるいはゼオライト表面の微量水(吸着水)の量を意味するとしても、当該「z」がどのようにして求められるかを理解できず、「式〔1〕」で示されるゼオライトを製造することができないから、発明の詳細な説明が、当業者が本件訂正前の請求項1に係る発明を容易に実施できるように記載されているとはいえない。 (2)構造規制剤について (ア)一般に、シリカアルミナモル比が95?120の組成を満たすゼオライトを製造するためには、構造規制剤を分解して細孔を形成するために600℃程度の高温で焼成することが必要である。 そして、本件特許明細書の【0051】によれば、比較例1、2のゼオライトは、水酸化ナトリウムとアルミン酸ナトリウムの混合水溶液、コロイダルシリカゾル液及びテトラプロピルアンモニウムブロマイドを用いて調整された水性混合物をオートクレーブ中で170℃、60時間加熱することにより得られたものであって、【0016】によれば、テトラプロピルアンモニウムブロマイドは構造規制剤であるが、比較例1、2が多量のH_(2)Oを有していることからみれば、比較例1、2の製造過程で構造規制剤を除去するための焼成が行われていないことは明らかであるから、比較例1、2において、ゼオライトに特有の細孔は構造規制剤により閉じられた状態にあり、吸着サイトとして機能する細孔が形成されていないことは明らかである。 更に、実施例1?4のゼオライトは、比較例1、2のゼオライトを120℃で6時間、あるいは180℃で3時間加熱することにより得られたものであるが、120℃、180℃といった加熱温度は、構造規制剤を分解して細孔を形成する焼成温度である600℃程度の温度と比較して著しく低いから、ここでも構造規制剤を除去するための焼成の焼成が行われているとはいえない。 そうすると、実施例1?4も、構造規制剤により細孔が完全に閉じられており、ゼオライトに特有の細孔が形成されていないことが明らかであるから、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明に係るゼオライトの製造方法を理解することができない。 (イ)なお、ゼオライトの製造の際に、構造規制剤を分解して細孔を形成するために600℃程度の高温で焼成することは当業者にとって自明の事項であって、比較例1、2でも、構造規制剤を除去するための焼成が当然行われているとも解し得る。 (ウ)そして、その場合、オートクレーブ中、170℃で60時間加熱して水熱合成した後、構造規制剤の分解のために600℃程度の高温の焼成を経て得られた比較例1、2のゼオライトを120℃で6時間加熱した実施例1、2、180℃で3時間加熱した実施例3、4のゼオライトは、比較例1、2よりも「H_(2)O」が相当に減少するものとなるものである。 (エ)ところが、ゼオライトの合成の際の反応温度よりも相当に低温度の加熱により、比較例1、2のゼオライトが有する結晶水が除去されると解釈するのは不合理であることは、前記1(エ)に記載のとおりである上、更に600℃程度の高温の焼成を経た比較例1、2のゼオライトにおいて、「H_(2)O」がそれぞれ「28H_(2)O」、「44H_(2)O」含まれていたものが、その後の120℃での6時間の加熱、180℃での3時間の加熱程度で「10H_(2)O」、「18H_(2)O」、「9H_(2)O」、「7H_(2)O」まで減少すると解釈するのは不合理であるから、前記(イ)の場合でも、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件訂正前の請求項1に係る発明のゼオライトの製造方法を理解することができない。 (オ)前記(ア)?(エ)によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件訂正前の請求項1に係る発明に係るゼオライトの製造方法を理解できないから、発明の詳細な説明が、当業者が本件訂正前の請求項1に係る発明を容易に実施できるように記載されているとはいえない。 第6 取消理由についての判断 1 特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について (ア)本件発明1の「式〔1〕」において、「zは吸着水及び結晶水を含む前記ゼオライトに含まれる水の量を表し、かつ1?20の正数である」ものである。 なお、特許権者が訂正請求書に添付した乙第1号証である板橋慶治ら,「ゼオライトの合成とその特性」,東洋曹達研究報告,1985年,第29巻第2号,p.153-159には、以下の記載(F)がある。 (F)「ゼオライトとは結晶性含水アルミノケイ酸塩の総称であり,天然ゼオライトと合成ゼオライトに大別される。その化学組成は一般式M_(2/n)O・Al_(2)O_(3)・xSiO_(2)・yH_(2)O(nは陽イオンMの原子価,xは2以上の数,yは吸着水量を表わす)で表わされる。」 そして、前記(F)によれば、ゼオライトの化学組成式における「H_(2)O」は、吸着水量を表す場合もあるのであって、通常、結晶水の含有比率を表すものということはできない。 (イ)更に、「式〔1〕」において、「z」を「吸着水及び結晶水を含む前記ゼオライトに含まれる水の量を表」すものとしたとき、比較例1、2及び実施例1?4のゼオライトの化学組成式の「H_(2)O」は吸着水を含むものとなるから、本件発明1の「z」についての発明特定事項は、本件特許明細書の【0051】?【0056】の、比較例1、2のゼオライト中の「H_(2)O」の一部が120℃で6時間加熱したり180℃で3時間加熱することにより脱水される旨の記載(前記第2の2(2)(イ)参照。)、参考資料1の、室温?250℃程度の温度においてはNa-A型ゼオライト中の吸着水が脱水され、結晶水は失われない旨の記載(前記第2の2(2)(ウ)参照。)、本件特許明細書の【0023】の、ゼオライト製造後、加熱処理により、ゼオライト表面の微量水分が減少する旨の記載(後記2(ア)(c)参照。)と合致するので、前記第5の1(ウ)?(オ)の不合理は生じない。 (ウ)してみれば、本件発明1の「式〔1〕」における「z」の意味は明確であるので、本件発明1は明確であるというべきであり、このことは、本件発明2?5についても同様である。 したがって、本件特許に係る出願は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合する。 2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について (ア)本件特許明細書には、以下の記載(a)?(c)がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。)。 (a)「【0001】 本発明は、揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds、以下「VOC」と略す)の吸着性能が高く、しかも耐熱性のある無機化合物からなる消臭剤、及びこれを用いた消臭性加工品、並びに消臭剤及び消臭性加工品の製造方法に関する。 ・・・ 【0005】 しかしながら、特許文献1?5に開示されるような粉末状吸着剤は、アルデヒド系ガスに特化した吸着剤であり、200℃程度に加熱することで吸着性能が低下し、更に変色するという問題がある。また、耐熱性に劣るため、樹脂への練り込み加工や高温に曝される用途においては十分な消臭性が得られない。 また、特許文献6に記載の脱臭剤は、VOCの吸着性能や耐熱性が不明である。特許文献7に記載されたゼオライトの耐熱性は不明で、樹脂に練り込み加工した際の消臭性に関する記載はない。更に、特許文献8には、ゼオライトを含有する樹脂成形品が開示されているものの、VOCの消臭性に関する記載はない。 上記特許文献に記載されたゼオライトは、細孔径が数Åの多孔質体であるため同じような大きさのVOCを吸着する能力があることは明らかであるが、樹脂に練り込み加工して使用された事例が少ない。これは、ゼオライトは単に樹脂加工しても消臭性能が低下し、実用性に乏しいためと推測される。 【0006】 本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、VOCの吸着性能が高く、樹脂に練り込み加工した場合でも消臭性を発現する消臭剤、及び、これを用いた消臭性加工品、並びに当該消臭剤の製造方法、及び、当該消臭性加工品の製造方法を提供することである。」 (b)「【0011】 (1)ゼオライト 本発明の消臭剤が含むゼオライトは上記式〔1〕で示される化合物である。上記式〔1〕において、xで示されるNa_(2)Oの比率は、0.5?5.0であり、好ましくは0.7?3.0である。・・・また、VOCの吸着性能の観点から、yで示されるSiO_(2)の比率(SiO_(2)/Al_(2)O_(3)のモル比)は80?150であり、90?130であることが好ましく、より好ましくは95?120である。また、VOCの吸着性能と樹脂成型の際の発泡抑制などから、zで示されるH_(2)Oの比率は1?20であり、より好ましくは3?15である。 ・・・ 【0014】 本発明に係る消臭剤の吸着対象はVOCであり、沸点で0℃?260℃程度の有機物である。具体的には、トルエン、・・・及びジアセチルなどが例示される。」 (c)「【0015】 (2)消臭剤の製造方法 本発明の消臭剤の製造方法は、ゼオライトを製造する製造工程(以下、単に「製造工程」ともいう。)と、製造工程で得られたゼオライトを120℃以上の温度で加熱し、式〔1〕で表されるゼオライトを得る加熱工程(以下、単に「加熱工程」ともいう。)と、をこの順に含む。 以下、上記各工程について説明する。 【0016】 〔製造工程〕 本発明の消臭剤の製造方法は、ゼオライトを製造する製造工程を含む。 製造工程における、ゼオライトの製造方法は、公知の方法を用いることが可能である。 ・・・ また、結晶化剤(構造規制剤)としては、ゼオライトを形成させるのに適した分子サイズと構造とを有するテトラプロピルアンモニウム塩、一般にはテトラプロピルアンモニウムブロマイドが用いられる。他のテトラ低級アルキルアンモニウム塩では、ゼオライトが形成されない。 ・・・ 【0022】 〔加熱工程〕 本発明の消臭剤の製造方法は、製造工程で得られたゼオライトを120℃以上の温度で加熱し、式〔1〕で表されるゼオライトを得る加熱工程を含む。 上記のように製造したゼオライトは、水熱工程を経て合成される疎水性の高い無機粉末であり、そのもの自体は高い耐熱性を有している。しかし、本発明のように加熱処理を行わないと、加工品が優れた消臭性能を発現しない。そのため、製造したゼオライトを使用前に120℃以上の温度で加熱処理する必要がある。・・・高温であるほど短時間でよいが、250℃以上高温にしても大幅な消臭効果の向上はみられないため、加熱温度は250℃以下でよい。 【0023】 ゼオライトを製造後、加熱処理により耐熱性が向上する理由は明らかではないが、ゼオライト表面の微量水分や低分子化合物が減少することにより吸着活性が高まり、優れた消臭性能が発現すると考えられる。 ・・・ 【0026】 3.消臭性加工品 本発明の消臭剤は、粉末又は顆粒でそのままカートリッジなどの容器に入れた最終消臭製品として使用でき、室内や室外の悪臭発生源の近傍などに静置しておくことでその効果を発揮することができる。更に、本発明の消臭剤は、以下に詳述するように樹脂、繊維、塗料又はシートなどに配合し、消臭性加工品を製造するために利用できる。消臭性加工品を製造する場合には、加工前にゼオライトを120℃以上の温度で加熱処理し、樹脂、繊維、塗料又はシートなどに配合することが好ましい。加工前にゼオライト表面を活性化しておくことにより、加工後に優れた消臭性能を発現するからである。・・・」 (イ)前記(ア)(a)によれば、本件発明は、従来の粉末状吸着剤は、アルデヒド系ガスに特化した吸着剤であり、200℃程度に加熱することで吸着性能が低下し、更に変色するという問題があること、また、耐熱性に劣るため、樹脂への練り込み加工や高温に曝される用途においては十分な消臭性が得られないこと、更に、従来のゼオライトは、細孔径が数Åの多孔質体であるため同じような大きさのVOCを吸着する能力があることは明らかであるが、樹脂に練り込み加工して使用された事例が少ないこと、といった課題(以下、「本件課題」という。)を解決するものである。 (ウ)そして、前記(ア)(b)、(c)によれば、本件発明においては、公知の方法で製造されたゼオライトを120℃以上の温度で加熱することによって「式〔1〕」で示されるゼオライトを得るものであって、加熱によりゼオライト表面の微量水分や低分子化合物が減少することにより吸着活性が高まり、本件課題を解決できるものと考えられるものであり、本件発明の消臭剤は、粉末又は顆粒でそのままカートリッジなどの容器に入れた最終消臭製品として使用でき、更に、樹脂、繊維、塗料又はシートなどに配合し、消臭性加工品を製造するために利用できるものである。 (エ)前記(イ)、(ウ)によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、公知の方法で製造されたゼオライトを120℃以上の温度で加熱したものであって、「式〔1〕」で示されるゼオライトを含む「揮発性有機物質用消臭剤」は、樹脂、繊維、塗料又はシートなどに配合した場合でも、細孔径が数Åの多孔質体である従来のゼオライトが吸着するのと同じような大きさのVOCを吸着して、本件課題を解決できることを理解できるから、本件発明1において、ゼオライトの結晶骨格構造が特定されず、また、実施例で消臭効果が確認された揮発性有機物質がn-ブタン、キシレン及びアセトアルデヒドのみであるとしても、本件発明1により本件課題を解決できることを理解できるものである。 (オ)したがって、本件発明1は発明の詳細な説明に記載された発明というべきであり、このことは、本件発明2?5についても同様であるから、本件特許に係る出願は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合する。 3 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について (1)「z」について (ア)本件発明1の「式〔1〕」における「z」の意味は明確であるので、本件発明1は明確であるというべきであり、このことは、本件発明2?5についても同様であることは、前記1(ウ)に記載のとおりである。 (イ)そして、含水鉱物に含まれる水の量は、例えばEPMAにより、酸素の分析値から金属に結合する酸素の値を差し引いて求められるのであり、このことは本件特許の優先日における技術常識といえ、その場合、吸着水の量と結晶水の量とが合わせて求められると推認されることは、前記第2の2(2)(エ)に記載のとおりであるから、当業者は、「吸着水及び結晶水を含む前記ゼオライトに含まれる水の量を表」す「z」は、例えばEPMAにより求められることを理解できるので、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?5に係る発明を容易に実施できるように記載されているというべきである。 (2)構造規制剤について (ア)本件特許明細書の【0051】?【0056】(第2の2(2)(イ)(A)参照。)によれば、比較例1、2のゼオライトは、水酸化ナトリウムとアルミン酸ナトリウムの混合水溶液と、コロイダルシリカゾル液をテトラプロピルアンモニウムブロマイドに滴下して調製した水性混合物を、オートクレーブ中で170℃で60時間加熱することで合成されるものであり、実施例1及び2の消臭剤は、前記比較例1及び2のゼオライトを、各々120℃で6時間加熱して得られるものであり、実施例3及び4の消臭剤は、前記比較例1及び2のゼオライトを各々180℃で3時間加熱して得られるものであり、ここで、前記2(ア)(c)によれば、テトラプロピルアンモニウムブロマイドは構造規制剤であって、実施例1?4の消臭剤は、いずれも、構造規制剤を分解するために600℃程度の高温で焼成したものとはいえない。 そして、その場合、前記第5の3(2)(エ)の不合理は生じない。 (イ)また、本件特許明細書には、更に以下の記載がある。 (d)「【0057】 <比較例6?8> 比較例3?5のゼオライトを180℃で3時間加熱し、比較例6?8の消臭剤を得た。なお、加熱により粒度の変化は確認されなかった。 比較例6: 1.1NH_(4)・0.2Na_(2)O・Al_(2)O_(3)・97SiO_(2)・3H_(2)O 比較例7: 2.6Na_(2)O・Al_(2)O_(3)・43SiO_(2)・14H_(2)O 比較例8: 0.9Na_(2)O・Al_(2)O_(3)・222SiO_(2)・5H_(2)O 得られた消臭剤の消臭容量を表4に示す。 【0058】 【表4】 【0059】 <実施例5?8、比較例9?13> 実施例1の消臭剤2部をポリプロピレン(PP)樹脂100部に配合し、200℃で射出成型することにより厚さ2mmのプレートを成形して評価した(実施例5)。実施例2?4、及び比較例1?4の消臭剤も前記同様にして評価した(実施例6?8、比較例9?12)。また、消臭剤を配合しないものを比較例13とした。なお、実施例6の分散剤は、ステアリン酸マグネシウム0.2部を配合した。結果を表5に示す。 ・・・ 【0061】 <実施例9?12、比較例14?18> 実施例1の消臭剤2部をポリオレフィン系エラストマー100部に配合し、200℃で射出成型することにより厚さ2mmのプレートを成形して評価した(実施例9)。実施例2?4、及び比較例1?4の消臭剤も前記同様にして評価した(実施例10?12、比較例14?17)。また、消臭剤を配合しないものを比較例18とした。なお、実施例10の分散剤は、ステアリン酸マグネシウム0.2部を配合した。結果を表6に示す。 ・・・ 【0063】 実施例の消臭剤は、VOCの吸着性能が高く、しかも樹脂に配合して加工温度200℃で加熱成形した加工品においても消臭効果が発現している。一方、比較例の消臭剤は吸着性能が低く、樹脂に配合し加熱成形した際には、十分な消臭効果が得られない。」 前記(d)によれば、実施例1?4の消臭剤は、比較例のものよりも優れたVOCの吸着性能を有し、樹脂に配合して加工温度200℃で加熱成形した加工品においても消臭効果が発現するものである。 (ウ)前記(イ)によれば、実施例1?4の消臭剤は、優れた吸着性能を有し、樹脂に配合して加工温度200℃で加熱成形した加工品においても消臭効果が発現するのであるから、実施例1?4の消臭剤が、いずれも、構造規制剤を分解するために600℃程度の高温で焼成したものとはいえないとしても、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件課題を解決する本件発明に係る消臭剤の製造方法を理解できると認められ、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?5に係る発明を容易に実施できるように記載されているというべきである。 (3)小括 前記(1)、(2)によれば、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?5に係る発明を容易に実施できるように記載されているというべきであるから、本件特許に係る出願は、特許法第36条第4項第1号の規定に適合する。 4 まとめ 以上のとおりであるから、前記第5の1?3の取消理由はいずれも理由がない。 第7 取消理由通知で採用しなかった異議申立理由についての判断 前記第4の1(1)?(4)の異議申立理由は、前記第5の1?3の取消理由と実質的に同旨であって、前記第6の1?3で検討したのと同様の理由により理由がないので、前記第4の2の異議申立理由について検討する。 1 特許法第29条第1項第3号または第2項について (1)甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載される発明 甲第1号証には以下の記載(1a)?(1e)がある。 (1a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 下記要件(a)、(b)および(c)を充足するプロピレン系ブロック共重合体(A)と、前記プロピレン系ブロック共重合体(A)100重量部に対し、SiO_(2)/Al_(2)O_(3)モル比が10?60であるゼオライト(B)0.01?0.4重量部とを含有するポリプロピレン系樹脂組成物。 要件(a):プロピレン系ブロック共重合体(A)は、重合体成分(I)および重合体成分(II)を含むプロピレン系ブロック共重合体であり、重合体成分(I)は、135℃テトラリン中で測定される極限粘度([η]I)が0.1?1.5(dl/g)であるプロピレン系重合体であり、重合体成分(II)は、エチレンおよび炭素数4?12のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも1種のコモノマーに由来する単位と、プロピレンに由来する単位とを有する共重合体であって、135℃テトラリン中で測定される極限粘度([η]II)が1?20(dl/g)であるプロピレン系共重合体である。 要件(b):重合体成分(II)の、エチレンおよび炭素数4?12のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも1種のコモノマーに由来する単位の含有量が、1?80重量%である。 要件(c):プロピレン系ブロック共重合体(A)の重合体成分(II)含有量が、5?70重量%である。」 (1b)「【0008】 かかる状況の下、本発明の目的は、VOCの放散が抑制され、しかも引張強度に優れたポリプロピレン樹脂成形体、およびかかる成形体の材料として好適な、VOCの放散が抑制され、さらに引張強度、耐衝撃強度および成形加工性にも優れるポリプロピレン樹脂組成物を得ることである。」 (1c)「【0040】 本発明に用いられるゼオライト(B)は、三次元骨格構造を保持した結晶性のアルミノシリケートであり、該ゼオライトのSiO_(2)/Al_(2)O_(3)モル比は10?60である。・・・ 【0041】 ゼオライト(B)は、アルデヒド類等のVOCを捕捉する効率の観点から、好ましくは一般式(I)xM_(2/n)O・Al_(2)O_(3)・ySiO_(2)・zH_(2)O(式中、Mは周期律表のIA及びIIA族元素を示し、nはMの原子価を示し、xは0より大きい数を示し、yは20?60であり、zは該ゼオライトの結晶水の数で0?7を示す。)で表されるゼオライトである。・・・」 (1d)「【実施例】 【0090】 以下、実施例および比較例によって本発明を説明する。実施例および比較例で使用したポリプロピレン樹脂、添加剤を下記に示した。 【0091】 (1)プロピレン系ブロック共重合体(成分(A)) プロピレン系ブロック共重合体(A-1)は特開平7-216017号公報の実施例5に記載の方法によって得られる触媒を用いて、液相-気相重合法によって製造した。 ・・・ 【0092】 (2)ゼオライト(成分(B)) ・・・ (B-6)シルトン[登録商標]MT-100(水澤化学工業(株)製) 化学名:ソジウムアルミノシリケート (一般名:ZSM-5型ゼオライト粉末) 化学式:Na_(2)O・Al_(2)O_(3)・80?120SiO_(2)・nH_(2)O SiO_(2)/Al_(2)O_(3)モル比:110 D50粒子径:3.9μm ・・・ 【0093】 (3)添加剤(成分C) (C-1)カルシウムステアレート:共同薬品(株)製 化学名:ステアリン酸カルシウム 分子量:607 ・・・ 【0094】 (4)有機過酸化物(成分D) (D-1)パーヘキサ[登録商標]25B-10:日本油脂(株)製 10%重量濃度の有機過酸化物と90重量%のポリプロピレンパウダーの混合物」 (1e)「【0096】 実施例1 ・・・ [造粒(溶融混練、濾過)] 得られたプロピレン-(プロピレン-エチレン)ブロック共重合体(A-1)のパウダー100重量部、添加剤C-1、C-2、C-3をそれぞれ0.05重量部、ゼオライト(B-1)0.05重量部、さらに、有機過酸化物(D-1)0.2重量部をミキサーで混合して、更に、得られた混合物を、単軸押出機(田辺プラスチックス(株)製、バレル内径:40mm、スクリュー回転数:100rpm、シリンダー温度:200?210℃)を用いて溶融混練した。この溶融混練物を二軸混練機に移し、該混練機のダイ部入り口にセットした織金網フィルター(50メッシュ、開き目:410μm)で濾過した後にダイ部より押し出した。この押出物を冷水により冷却固化、切断して、ポリプロピレン系樹脂組成物のペレットを得た。また、このときの押出速度は18kg/時間であった。また、このポリプロピレン系樹脂組成物のペレットのMFR(測定温度:230℃)は50.1g/10分であった。 (成形体の製造) この得られたペレットを用いて射出成形体を作成し、VOC放散量を測定した。評価結果を表1に示した。 ・・・ 【0101】 比較例5 0.05重量部のゼオライト(B-1)の代わりに0.4重量部のゼオライト(B-6)を使用した以外は、実施例1と同様に行った。評価結果を表3に示した。 ・・・ 【0106】 【表3】 」 (ア)前記(1a)によれば、甲第1号証には、プロピレン系ブロック共重合体と、前記プロピレン系ブロック共重合体100重量部に対し、SiO_(2)/Al_(2)O_(3)モル比が10?60であるゼオライト0.01?0.4重量部とを含有する「ポリプロピレン系樹脂組成物」が記載されている。 そして、前記(1d)のゼオライト(B-6)に注目すると、甲第1号証には以下の発明が記載されているといえる。 「シルトン[登録商標]MT-100(水澤化学工業(株)製) 化学名:ソジウムアルミノシリケート (一般名:ZSM-5型ゼオライト粉末) 化学式:Na_(2)O・Al_(2)O_(3)・80?120SiO_(2)・nH_(2)O SiO_(2)/Al_(2)O_(3)モル比:110 D50粒子径:3.9μm のゼオライト(B-6)。」(以下、「甲1発明」という。) また、前記(1e)の比較例5に注目すると、甲第1号証には以下の発明が記載されているといえる。 「プロピレン-(プロピレン-エチレン)ブロック共重合体のパウダー100重量部、添加剤、甲1発明のゼオライト(B-6)0.4重量部、さらに、有機過酸化物をミキサーで混合して、得られた混合物を、単軸押出機(田辺プラスチックス(株)製、バレル内径:40mm、スクリュー回転数:100rpm、シリンダー温度:200?210℃)を用いて溶融混練し、この溶融混練物を二軸混練機に移し、該混練機のダイ部入り口にセットした織金網フィルター(50メッシュ、開き目:410μm)で濾過した後にダイ部より押し出し、この押出物を冷水により冷却固化、切断してペレットとした、ポリプロピレン系樹脂組成物。」(以下、「甲1’発明」という。) 「甲1’発明のポリプロピレン系樹脂組成物ペレットを用いて射出成形体とした、成形体。」(以下、「甲1’’発明」という。) (イ)また、「ゼオライト(B-6)」がゼオライトを製造する製造工程により製造されることは明らかであるので、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。 「シルトン[登録商標]MT-100(水澤化学工業(株)製) 化学名:ソジウムアルミノシリケート (一般名:ZSM-5型ゼオライト粉末) 化学式:Na_(2)O・Al_(2)O_(3)・80?120SiO_(2)・nH_(2)O SiO_(2)/Al_(2)O_(3)モル比:110 D50粒子径:3.9μm のゼオライト(B-6)を製造する製造工程を含む、ゼオライト(B-6)の製造方法。」(以下、「甲1’’’発明」という。) 更に、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。 「プロピレン-(プロピレン-エチレン)ブロック共重合体のパウダー100重量部、添加剤、 シルトン[登録商標]MT-100(水澤化学工業(株)製) 化学名:ソジウムアルミノシリケート (一般名:ZSM-5型ゼオライト粉末) 化学式:Na_(2)O・Al_(2)O_(3)・80?120SiO_(2)・nH_(2)O SiO_(2)/Al_(2)O_(3)モル比:110 D50粒子径:3.9μm のゼオライト(B-6)0.4重量部、さらに、有機過酸化物をミキサーで混合して、得られた混合物を、単軸押出機(田辺プラスチックス(株)製、バレル内径:40mm、スクリュー回転数:100rpm、シリンダー温度:200?210℃)を用いて溶融混練し、この溶融混練物を二軸混練機に移し、該混練機のダイ部入り口にセットした織金網フィルター(50メッシュ、開き目:410μm)で濾過した後にダイ部より押し出し、この押出物を冷水により冷却固化、切断して、ポリプロピレン系樹脂組成物のペレットを得た後、この得られたペレットを用いて射出成形体を作成する、成形体の製造方法。」(以下、「甲1’’’’発明」という。) (2)対比・判断 (2-1)本件発明1について ア 対比 (ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「ゼオライト(B-6)」は、本件発明1の「ゼオライト」に相当する。 また、前記(1)(1b)によれば、甲1発明の「ゼオライト(B-6)」は、VOCの放散を抑制しようとするものであるから、「揮発性有機物質用消臭剤」として使用されるものである。 (イ)すると、本件発明1と甲1発明とは、「ゼオライトを含む揮発性有機物質用消臭剤。」の点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1:本件発明1は、「ゼオライト」が「下記式〔1〕で示されるゼオライト xNa_(2)O・Al_(2)O_(3)・ySiO_(2)・zH_(2)O 〔1〕 式〔1〕中、xは0.5?5.0の正数であり、yは95?120の正数であり、zは吸着水及び結晶水を含む前記ゼオライトに含まれる水の量を表し、かつ1?20の正数である。」である、との発明特定事項を有するのに対して、 甲1発明は、「ゼオライト」が 「シルトン[登録商標]MT-100(水澤化学工業(株)製) 化学名:ソジウムアルミノシリケート (一般名:ZSM-5型ゼオライト粉末) 化学式:Na_(2)O・Al_(2)O_(3)・80?120SiO_(2)・nH_(2)O SiO_(2)/Al_(2)O_(3)モル比:110 D50粒子径:3.9μm」 のものである点。 相違点2:本件発明1は、「沸点が0℃?260℃である揮発性有機物質用消臭剤」との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明は前記発明特定事項を有するか否か明らかでない点。 イ 判断 (ア)まず、前記ア(イ)の相違点1について検討すると、甲1発明の「ゼオライト」の「化学式」は、「Na_(2)O・Al_(2)O_(3)・80?120SiO_(2)・nH_(2)O」であって、「xNa_(2)O」の「x」は1であり、「ySiO_(2)」の「y」は80?120であるから、本件発明1の「式〔1〕」と対比した場合、「xは0.5?5.0の正数であり、yは95?120の正数であ」る点で合致するので、甲1発明の「化学式」の「nH_(2)O」の「n」が、本件発明1の「zは吸着水及び結晶水を含む前記ゼオライトに含まれる水の量を表し、かつ1?20の正数である。」ことに合致するか否かについて検討する。 (イ)ここで、前記(1)(1c)によれば、甲第1号証の実施例に係る「ゼオライト」は、アルデヒド類等のVOCを捕捉する効率の観点から、好ましくは一般式(I)xM_(2/n)O・Al_(2)O_(3)・ySiO_(2)・zH_(2)O(式中、Mは周期律表のIA及びIIA族元素を示し、nはMの原子価を示し、xは0より大きい数を示し、yは20?60であり、zは該ゼオライトの結晶水の数で0?7を示す。)で表される「ゼオライト」である。 ところが、前記(1)(1c)の記載は、甲第1号証の実施例に係る「ゼオライト」に関するものであるのに対して、甲1発明の「ゼオライト」は比較例5のものであり、前記(1)(1c)の記載事項がそのまま甲1発明にあてはまるものではないので、前記(1)(1c)の「z」が0?7であるとしても、前記「n」が0?7であるとはいえない。 また、前記(1)(1c)の「z」は「ゼオライト」の結晶水の数をいうのに対して、本件発明1の「式〔1〕」の「z」は「吸着水及び結晶水を含む前記ゼオライトに含まれる水の量を表」すものであり、前記(1)(1c)の「z」と本件発明1の「式〔1〕」の「z」とは、含まれる水の種類が異なっているので、仮に、前記「n」が、前記(1)(1c)の「z」と同様に0?7であるとしても、本件発明1の「zは吸着水及び結晶水を含む前記ゼオライトに含まれる水の量を表し、かつ1?20の正数である。」ことに合致するか否かは明らかでない。 そうすると、甲1発明が、前記相違点1に係る発明特定事項を有するものとはいえないので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲1発明であるとはいえない。 (2-2)本件発明2、3について (ア)本件発明2と甲1’発明とを対比すると、甲1’発明の「ポリプロピレン系樹脂組成物」は、本件発明2の「消臭剤組成物」に相当し、本件発明2は、本件発明1を引用するものであって、前記(2-1)アと同様の理由により、本件発明2と甲1’発明とは、少なくとも前記(2-1)アの相違点1の点で相違する。 そして、甲1発明が、前記相違点1に係る発明特定事項を有するものとはいえないことは、前記(2-1)イ(イ)に記載のとおりであるから、本件発明2が甲1’発明であるとはいえない。 更に、甲第2号証には、前記相違点1に係る発明特定事項について記載も示唆もされるものではないから、本件発明2は、甲1’発明及び甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (イ)本件発明3と甲1’’発明とを対比すると、甲1’’発明の「成形体」は、本件発明3の「消臭剤加工品」に相当し、本件発明3は、本件発明1を引用するものであって、前記(2-1)アと同様の理由により、本件発明3と甲1’’発明とは、少なくとも前記(2-1)アの相違点1の点で相違する。 そして、前記(ア)に記載したのと同様の理由により、本件発明3が甲1’’発明であるとはいえないし、甲1’’発明及び甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない (2-3)本件発明4、5について (ア)本件発明4と甲1’’’発明とを対比すると、甲1’’’発明の「ゼオライト(B-6)の製造方法」は、本件発明4の「揮発性有機物質用消臭剤の製造方法」に相当する。 ここで、本件発明4は、「式〔1〕で示されるゼオライト」を得る工程を含むものである一方、甲1’’’発明は、「ゼオライト(B-6)の製造方法」に係るものであり、前記(2-1)アと同様の理由により、本件発明4と甲1’’’発明とは、少なくとも前記(2-1)ア(イ)の相違点1と同じ点で相違する。 そして、甲1発明が前記相違点1に係る発明特定事項を有するものとはいえないことは、前記(2-1)イ(イ)に記載のとおりであり、同様の理由により、甲1’’’発明も、前記相違点1に係る発明特定事項を有するものとはいえないので、本件発明4が甲1’’’発明であるとはいえない。 (イ)本件発明5と甲1’’’’発明とを対比すると、甲1’’’’発明の「成形体の製造方法」は、本件発明5の「消臭性加工品の製造方法」に相当する。 ここで、本件発明5は、「式〔1〕で示されるゼオライト」を用いるものである一方、甲1’’’’発明は、「ゼオライト(B-6)」を用いるものであり、前記(2-1)(ア)と同様の理由により、本件発明5と甲1’’’’発明とは、少なくとも前記(2-1)アの相違点1と同じ点で相違するが、前記(ア)と同様の理由により、本件発明5が甲1’’’’発明であるとはいえない。 2 まとめ したがって、前記第4の2の申立理由はいずれも理由がない。 第8 むすび 以上のとおり、異議申立書に記載された申立理由及び取消理由通知書で通知された取消理由によっては、本件発明1?5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 下記式〔1〕で示されるゼオライトを含むことを特徴とする沸点が0℃?260℃である揮発性有機物質用消臭剤。 xNa_(2)O・Al_(2)O_(3)・ySiO_(2)・zH_(2)O 〔1〕 式〔1〕中、xは0.5?5.0の正数であり、yは95?120の正数であり、zは吸着水及び結晶水を含む前記ゼオライトに含まれる水の量を表し、かつ1?20の正数である。 【請求項2】 請求項1に記載の揮発性有機物質用消臭剤と、塩基性ガス消臭剤及び硫黄性ガス消臭剤の少なくとも一方とを含有する消臭剤組成物。 【請求項3】 請求項1に記載の揮発性有機物質用消臭剤を含む消臭性加工品。 【請求項4】 ゼオライトを製造する製造工程と、 製造工程で得られたゼオライトを120℃から250℃の温度で加熱し、式〔1〕で表されるゼオライトを得る加熱工程と、をこの順に含むことを特徴とする沸点が0℃?260℃である揮発性有機物質用消臭剤の製造方法。 xNa_(2)O・Al_(2)O_(3)・ySiO_(2)・zH_(2)O 〔1〕 式〔1〕中、xは0.5?5.0の正数であり、yは95?120の正数であり、zは吸着水及び結晶水を含む前記ゼオライトに含まれる水の量を表し、かつ1?20の正数である。 【請求項5】 式〔1〕で示されるゼオライトを製造後、加工前に該ゼオライトを120℃から250℃の温度で加熱処理して、樹脂、繊維、塗料又はシートに配合することを特徴とする消臭性加工品の製造方法。 xNa_(2)O・Al_(2)O_(3)・ySiO_(2)・zH_(2)O 〔1〕 式〔1〕中、xは0.5?5.0の正数であり、yは95?120の正数であり、zは吸着水及び結晶水を含む前記ゼオライトに含まれる水の量を表し、かつ1?20の正数である。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-02-28 |
出願番号 | 特願2016-556459(P2016-556459) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(A61L)
P 1 651・ 851- YAA (A61L) P 1 651・ 841- YAA (A61L) P 1 651・ 536- YAA (A61L) P 1 651・ 113- YAA (A61L) P 1 651・ 537- YAA (A61L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 佐々木 典子 |
特許庁審判長 |
菊地 則義 |
特許庁審判官 |
後藤 政博 金 公彦 |
登録日 | 2018-12-21 |
登録番号 | 特許第6451743号(P6451743) |
権利者 | 東亞合成株式会社 |
発明の名称 | 揮発性有機物質用消臭剤及びこれを用いた消臭性加工品、並びに揮発性有機物質用消臭剤及び消臭性加工品の製造方法 |
代理人 | 特許業務法人太陽国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人太陽国際特許事務所 |