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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:83  A23L
管理番号 1361475
異議申立番号 異議2019-700026  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-05-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-01-17 
確定日 2020-03-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6358950号発明「機能性成分を含有する糖衣層付き固形食品およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6358950号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項 〔1-8〕、〔9-12〕、〔13-21〕について訂正することを認める。 特許第6358950号の請求項1、3ないし14、21に係る特許を維持する。 特許第6358950号の請求項2、15ないし20に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6358950号(以下「本件特許」という。)の請求項1?21に係る特許についての出願は、2013年6月7日(優先権主張2012年6月8日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成30年6月29日にその特許権の設定登録がされ、同年7月18日にその特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1?21に係る発明の特許について、平成31年1月17日に特許異議申立人出川栄一郎(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年3月20日付けで取消理由が通知され、その指定期間内の令和元年5月23日に特許権者より意見書及び訂正請求書の提出がされ、同年5月30日付けで訂正拒絶理由が通知され、同年7月4日に特許権者より意見書の提出がされ、同年9月18日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内の同年11月25日に特許権者より意見書の提出がされ、同年11月29日に訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、令和2年1月6日に申立人より、意見書の提出がなされたものである。

第2 訂正の適否の判断
1 令和元年5月23日の本件訂正請求の内容
本件訂正請求は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?21について訂正すること(以下「本件訂正」という。)を求めるものであり、訂正の内容は以下のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
(1) 訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、
「固形食品を糖衣層が覆う糖衣食品であって、
固形食品が、加熱工程を必要とする固形食品またはゲル化を利用した固形食品であり、
機能性成分が、糖衣層に配合され、固形食品には配合されておらず、
機能性成分が、アミノ酸、ペプチド、ミネラル、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタミンB6、葉酸、ビタミンB12、パントテン酸、ビタミンE、マルトデキストリン、クエン酸、オリゴ糖、コンドロイチン、アミノ糖、クレアチン、補酵素、L-カルニチン、冬虫夏草エキス、カゼインホスホペプチド(CPP)、ポリフェノール、食物繊維、酵素、果汁、コラーゲン、ヒアルロン酸、乳セラミド、植物セラミド、ガルシニアエキス、ガラナ、アスタキサンチンからなる群から選択される1種または2種以上であり、糖衣層にビタミンCを含まない、前記糖衣食品。」とあるのを、
「固形食品を糖衣層が覆う糖衣食品であって、
固形食品が、加熱工程を必要とする固形食品またはゲル化を利用した固形食品であり、
機能性成分として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上が、糖衣層に配合され、固形食品には機能性成分として、アミノ酸、ペプチドおよびアミノ糖のいずれも配合されておらず、
糖衣層が、食用ガム質を含むガム液を用いた糖衣掛けにより形成されており、糖衣層にビタミンCを含まない、前記糖衣食品。」と訂正する。
(2) 訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3) 訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項3に「糖衣層に、2種以上の機能性成分を配合してなる」とあるのを、
「糖衣層に、機能性成分として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される2種以上を配合してなる」と訂正する。
(4) 訂正事項4
訂正前の特許請求の範囲の請求項7に、
「糖衣層が、機能性成分を含む粉体を用いて形成されてなる」とあるのを、
「糖衣層が、機能性成分として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上を含む粉体を用いて形成されてなる」と訂正する。
(5) 訂正事項5
訂正前の特許請求の範囲の請求項3?8において引用する請求項から、請求項2を削除する。
(6) 訂正事項6
訂正前の特許請求の範囲の請求項9に、
「加熱工程を必要とする固形食品またはゲル化を利用した固形食品に対し、機能性成分を含む粉体を供給して、ビタミンCを含まない糖衣層を形成する工程、および、固形食品には機能性成分を配合しないことを含み、
機能性成分が、アミノ酸、ペプチド、ミネラル、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタミンB6、葉酸、ビタミンB12、パントテン酸、ビタミンE、マルトデキストリン、クエン酸、オリゴ糖、コンドロイチン、アミノ糖、クレアチン、補酵素、L-カルニチン、冬虫夏草エキス、カゼインホスホペプチド(CPP)、ポリフェノール、食物繊維、酵素、果汁、コラーゲン、ヒアルロン酸、乳セラミド、植物セラミド、ガルシニアエキス、ガラナ、アスタキサンチンからなる群から選択される1種または2種以上である」とあるのを、
「加熱工程を必要とする固形食品またはゲル化を利用した固形食品に対し、食用ガム質を含むガム液を掛けた後、機能性成分として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上を含む粉体を供給して、ビタミンCを含まない糖衣層を形成する工程を含み、および、固形食品には機能性成分として、アミノ酸、ペプチドおよびアミノ糖のいずれも配合しないことを含む」と訂正する。
(7) 訂正事項7
訂正前の特許請求の範囲の請求項11に、
「機能性成分を含む粉体」とあるのを、
「機能性成分として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上を含む粉体」と訂正する。
(8) 訂正事項8
訂正前の特許請求の範囲の請求項13に、
「固形食品が、加熱工程を必要とする固形食品またはゲル化を利用した固形食品であり、
糖衣層に機能性成分を配合すること、および、固形食品には機能性成分を配合しないことを含み、
機能性成分が、アミノ酸、ペプチド、ミネラル、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタミンB6、葉酸、ビタミンB12、パントテン酸、ビタミンE、マルトデキストリン、クエン酸、オリゴ糖、コンドロイチン、アミノ糖、クレアチン、補酵素、L-カルニチン、冬虫夏草エキス、カゼインホスホペプチド(CPP)、ポリフェノール、食物繊維、酵素、果汁、コラーゲン、ヒアルロン酸、乳セラミド、植物セラミド、ガルシニアエキス、ガラナ、アスタキサンチンからなる群から選択される1種または2種以上である」とあるのを、
「固形食品が、加熱工程を必要とする固形食品またはゲル化を利用した固形食品であり、
糖衣層が、食用ガム質を含むガム液を用いた糖衣掛けにより形成されており、糖衣層に機能性成分として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上を配合すること、および、固形食品には機能性成分として、アミノ酸、ペプチドおよびアミノ糖のいずれも配合しないことを含む」と訂正する。
(9) 訂正事項9
訂正前の特許請求の範囲の請求項14に、
「機能性成分を含む粉体」とあるのを、
「機能性成分として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上を含む粉体」と訂正する。
(10) 訂正事項10
訂正前の特許請求の範囲の請求項15?20を削除する。
(11) 訂正事項11
訂正前の特許請求の範囲の請求項21に、「機能性成分が、アミノ酸および/またはペプチドを含み、」とあるのを、削除する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1
ア 訂正事項1は、「糖衣層に配合され、固形食品には配合され」ない「機能性成分」について、訂正前の「アミノ酸、ペプチド、ミネラル、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタミンB6、葉酸、ビタミンB12、パントテン酸、ビタミンE、マルトデキストリン、クエン酸、オリゴ糖、コンドロイチン、アミノ糖、クレアチン、補酵素、L-カルニチン、冬虫夏草エキス、カゼインホスホペプチド(CPP)、ポリフェノール、食物繊維、酵素、果汁、コラーゲン、ヒアルロン酸、乳セラミド、植物セラミド、ガルシニアエキス、ガラナ、アスタキサンチンからなる群から選択される1種または2種以上」を、訂正後の「アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上」に限定するともに、さらに、「固形食品に」「配合されて」いない「機能性成分」については、当該アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上のうち、「アミノ酸、ペプチドおよびアミノ糖のいずれも配合されておらず」とより限定するものであり、加えて、糖衣層について、「糖衣層が、食用ガム質を含むガム液を用いた糖衣掛けにより形成されており」との限定をするものである。
よって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ そして、本件特許明細書には、以下の事項が記載されている。
「したがって、本発明の課題は、上記の問題点を合理的に解決し、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖などの機能性成分を効率的に摂取できる、菓子類などの固形食品を提供することにある。」(【0006】)
「本発明者らは、上記の課題を解決するため、鋭意研究を重ねる中で、固形食品に対し、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖などの機能性成分を配合した糖衣層を被覆することにより、前記の問題を一挙に解決できることを見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。」(【0007】)
「本発明の一態様において、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖では、メイラード反応が生じるため、固形食品への配合量(含有量)を維持することが非常に困難であり、また、栄養価が高いため、機能性成分として、アミノ酸および/またはペプチドを配合することが好ましい。
また、本発明は、機能性成分を固形食品に配合するに際し、上述の通り、様々な問題点があるため、複数の種類の機能性成分を配合する場合には、特に有効である。」(【0018】)
「本発明における「糖衣食品」とは、糖衣層で被覆された固形食品を意味し、典型的には、糖衣層を噴霧(スプレー)により被覆された固形食品や、回転釜により被覆された固形食品である。
本発明における「固形食品」とは、糖衣層で被覆され得る固形状の食品であれば、とくに限定されないが、典型的には、菓子類や、医療的効果も期待できる栄養補助食品などの加工食品、および果実や種実などの天然食材などが含まれる。
本発明は、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖などの機能性成分の減衰を防止できることから、製造工程で高温になる加工食品をセンターとする固形食品に用いることがとくに有効である。」(【0019】)
「本発明において、固形食品に、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖などの機能性成分を配合してもよいが、メイラード反応を避ける必要がある場合には、かかる成分の配合を控えることが好ましい。
本発明の一態様において、固形食品に、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖などの機能性成分を配合してもよく、メイラード反応が起こりにくくする場合には、機能性成分の種類を選定して限定することがとくに好ましい。」(【0021】)
「<糖衣層の形成用のガム液>
本発明において、糖衣層の形成用のガム液は、糖衣を形成できるものであれば、とくに限定されないが、典型的には、糖質の一部として食用ガム質を含む液体である。」(【0028】)
「ガム液はアミノ酸と接触するものであるから、ガム液に配合する糖質には、メイラード反応を起こさない糖質、すなわち非還元糖を用いることが好ましい。」(【0029】)
「<糖衣層への機能性成分の配合>
糖衣層への機能性成分の配合の方法は、とくに限定されないが、ガム液の投入後の乾燥工程で投入する粉体に、機能性成分の粉末を混ぜて配合すれば、作業性がよくて好ましい。糖衣層の形成に用いられる、すべての粉体に機能性成分を配合することも可能であるが、機能性成分を安定に保持する観点から、糖衣中間層の形成時に、粉体に機能性成分の粉末を加えることが好ましい。
糖衣層は多層で形成されれば、きれいで丈夫であり、機能性成分を散逸させず、確実に保持して、糖衣層付き固形食品の全体のアミノ酸量を、製品の流通、製品の保存中などに、ほとんど減衰しないように調整することができる。」(【0032】)
「本発明は、メイラード反応を抑制・防止することができるので、メイラード反応を起こしやすいアミノ酸、例えば、リシン、ヒスチジン、アルギニンであっても、好適に用いることができる。さらに、メイラード反応を起こしやすい還元末端を持つジペプチド、トリペプチドなどのペプチド、グルコサミンなどのアミノ糖などであっても、好適に用いることができる。したがって(当審注:「しがたって」は、「したがって」の誤記と認めた。)、本発明の一態様において、これらのアミノ酸、ペプチド、アミノ糖などの1種または2種以上を用いることができる。」(【0037】)
「本発明は、固形食品に機能性成分を配合する必要がないため、ゲル化を阻害するような成分、例えば、ミネラル、ポリフェノール、食物繊維などであっても、好適に用いることができる。」(【0038】)
「 〔実施例1〕
アミノ酸含有の糖衣層付き固形食品の調製事例として、糖衣層にアミノ酸を添加した「ソフト糖衣掛けグミ」を製造した。」(【0044】)
「糖衣掛けには、φ900mmの回転釜を使用し、1釜あたりセンター部(固形食品)を約56kg投入して、表3に記載のガム液を掛けた後、クエン酸を投入し、次にグラニュー糖を投入した。グラニュー糖に分散させた表4のアミノ酸組成物を掛け、これを数回で繰り返した。その後、ガム液を掛けてから、グラニュー糖を含む粉体を掛け、これを最終重量まで、数回繰り返し、最後に粉糖を投入した。糖衣掛けグミの重量が1g/粒、すなわち1釜あたり80kgになるように糖衣掛けを実施した。」(【0048】)
「これらの結果から、アミノ酸を糖衣層に含有させることにより、アミノ酸の減衰を抑制することができることが示された。」(【0066】)
これらの記載によると、メイラード反応による問題に対して、機能性成分として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖などの1種または2種以上を糖衣層に配合し、これらを固形食品に配合しないものが記載されており、また、糖衣層が、食用ガム質を用いた糖衣掛けによることも記載されている。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2) 訂正事項2
訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3) 訂正事項3
訂正事項3は、機能性成分について、訂正前の「糖衣層に、2種以上の機能性成分を配合してなる」を、訂正後の「糖衣層に、機能性成分として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される2種以上を配合してなる」として、「アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される2種以上」とより限定するものであるから、訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項3が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは、上記「(1) 訂正事項1 イ」で検討したことと、同様である。
(4) 訂正事項4
訂正事項4は、機能性成分について、訂正前の「糖衣層が、機能性成分を含む粉体を用いて形成されてなる」を、訂正後の「糖衣層が、機能性成分として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上を含む粉体を用いて形成されてなる」として、「アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上」とより限定するものであるから、訂正事項4は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項4が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは、上記「(1) 訂正事項1について イ」で検討したことと、同様である。
(5) 訂正事項5
訂正事項5は、訂正事項2によって請求項2が削除されたことに伴い、引用する請求項において、請求項2を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、かつ、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(6) 訂正事項6
訂正事項6は、訂正前の「機能性成分を含む粉体を供給して、ビタミンCを含まない糖衣層を形成する工程」について、「食用ガム質を含むガム液を掛けた後」に実行される旨の特定を付加するとともに、訂正前の「アミノ酸、ペプチド、ミネラル、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタミンB6、葉酸、ビタミンB12、パントテン酸、ビタミンE、マルトデキストリン、クエン酸、オリゴ糖、コンドロイチン、アミノ糖、クレアチン、補酵素、L-カルニチン、冬虫夏草エキス、カゼインホスホペプチド(CPP)、ポリフェノール、食物繊維、酵素、果汁、コラーゲン、ヒアルロン酸、乳セラミド、植物セラミド、ガルシニアエキス、ガラナ、アスタキサンチンからなる群から選択される1種または2種以上」を、訂正後の「アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上」と限定し、さらに、固形食品に配合しない「機能性成分」について、「アミノ酸、ペプチドおよびアミノ糖のいずれも配合しないこと」とより限定するものであるから、訂正事項6は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項6が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは、上記「(1) 訂正事項1 イ」で検討したことと、同様である。
(7) 訂正事項7
訂正事項7は、訂正前の「機能性成分を含む粉体」について、機能性成分が「アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上」であることを限定するものであるから、訂正事項7は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項7が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは、上記「(1) 訂正事項1 イ」で検討したことと、同様である。
(8) 訂正事項8
訂正事項8は、訂正前の「糖衣層」について、「糖衣層が、食用ガム質を含むガム液を用いた糖衣掛けにより形成されており、」と限定し、糖衣層に配合し、固形食品に配合しない「機能性成分」を、「アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上」と限定するとともに、さらに、固形食品に配合しない「機能性成分」について、「アミノ酸、ペプチドおよびアミノ糖のいずれも配合しないこと」とより限定するものであるから、訂正事項8は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項8が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは、上記「(1) 訂正事項1 イ」で検討したことと、同様である。
(9) 訂正事項9
訂正事項9は、訂正前の「機能性成分」について、訂正後の「アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上」と限定するものであるから、訂正事項9は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項9が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは、上記「(1) 訂正事項1 イ」で検討したことと、同様である。
(10) 訂正事項10
訂正事項10は、請求項15?20を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(11) 訂正事項11
訂正事項11は、訂正事項8により請求項13を訂正したことにともなって、請求項13を引用する請求項21の記載の整合を図るため、訂正前の請求項21の「機能性成分が、アミノ酸および/またはペプチドを含み」を削除するものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項11が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは、請求項13についての訂正事項8をふまえると、明らかである。
(12) 本件訂正は、一群の請求項である、請求項〔1?8〕、〔9?12〕、〔13?21〕について、なされたものである。
(13) なお、申立人は、「本発明の明細書に、糖衣層には配合させる機能性成分と、固形食品には配合されない機能性成分が同種であることしか記載がない場合、糖衣層には3つから選択される1種または2種を配合し、固形食品には、特定の3種が配合されないという態様は、明細書に記載がなく、明細書の記載から自明の事柄でもない」として、本件訂正は、新規事項を導入するものである旨を主張する(令和2年1月6日意見書2ページ)。
しかしながら、本件特許明細書の実施例1において、固形食品に相当するセンターグミの配合組成には、グラニュー糖、還元水飴、D-ソルビトール、ゼラチン、クエン酸、グループフルーツ香料及び色素が記載され(【0045】表2)、「固形食品には機能性成分として、アミノ酸、ペプチドおよびアミノ糖のいずれも配合されておらず」との態様のものといえる。
また、糖衣掛けのガム液は、グラニュー糖(非還元性の糖質)、還元水飴(非還元性の糖質)、アラビアガム、結晶セルロース及び水が記載され(【0047】、表3)、その後、クエン酸、グラニュー糖、アミノ酸を掛けて製造するものである(【0048】)。
そうすると、「機能性成分として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上が、糖衣層に配合され」て、「固形食品には機能性成分として、アミノ酸、ペプチドおよびアミノ糖のいずれも配合されて」いないものは、本件出願当初の明細書に記載されている。
よって、本件訂正が、本件出願当初の明細書及び特許請求の範囲に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるとはいえない。
したがって、上記申立人の上記主張は、採用できない。

3 小括
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕、〔9?12〕、〔13?21〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
本件特許の請求項1?21に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1?21に記載された事項により特定される次のとおりである。以下、本件特許に係る発明を請求項の番号に従って「本件発明1」などともいい、まとめて「本件発明」ともいう。

【請求項1】
固形食品を糖衣層が覆う糖衣食品であって、
固形食品が、加熱工程を必要とする固形食品またはゲル化を利用した固形食品であり、
機能性成分として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上が、糖衣層に配合され、固形食品には機能性成分として、アミノ酸、ペプチドおよびアミノ糖のいずれも配合されておらず、
糖衣層が、食用ガム質を含むガム液を用いた糖衣掛けにより形成されており、糖衣層にビタミンCを含まない、前記糖衣食品。
【請求項2】 (削除)
【請求項3】
糖衣層に、機能性成分として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される2種以上を配合してなる、請求項1に記載の糖衣食品。
【請求項4】
糖衣層および/または固形食品中の糖質が、非還元糖である、請求項1または3に記載の糖衣食品。
【請求項5】
固形食品中にビタミンCを含まない、請求項1、3および4のいずれか一項に記載の糖衣食品。
【請求項6】
糖衣層に、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン酸ナトリウム塩、グルタミン酸、ヒスチジン、リジン塩酸塩、アルギニンおよびプロリンの全てからなる組成物を配合してなる、請求項1および3?5のいずれか一項に記載の糖衣食品。
【請求項7】
糖衣層が、機能性成分として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上を含む粉体を用いて形成されてなる、請求項1および3?6のいずれか一項に記載の糖衣食品。
【請求項8】
固形食品が、グミ、キャンディ、キャラメル、チューイングガムからなる群から選択される、請求項1および3?7のいずれか一項に記載の糖衣食品。
【請求項9】
糖衣食品を製造する方法であって、
加熱工程を必要とする固形食品またはゲル化を利用した固形食品に対し、食用ガム質を含むガム液を掛けた後、機能性成分として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上を含む粉体を供給して、ビタミンCを含まない糖衣層を形成する工程を含み、および、固形食品には機能性成分として、アミノ酸、ペプチドおよびアミノ糖のいずれも配合しないことを含む、前記方法。
【請求項10】
糖衣層を形成する工程が、糖質を含む粉体を供給することをさらに含む、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
機能性成分として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上を含む粉体が、さらに糖質を含む、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
糖衣層を形成する工程が、加熱工程を含まない、請求項9?11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
固形食品を、ビタミンCを含まない糖衣層が覆う糖衣食品において、固形食品および/または機能性成分の性質に影響を与えることなく、機能性成分を配合する方法であって、
固形食品が、加熱工程を必要とする固形食品またはゲル化を利用した固形食品であり、
糖衣層が、食用ガム質を含むガム液を用いた糖衣掛けにより形成されており、糖衣層に機能性成分として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上を配合すること、および、固形食品には機能性成分として、アミノ酸、ペプチドおよびアミノ糖のいずれも配合しないことを含む、前記方法。
【請求項14】
糖衣層を、機能性成分として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上を含む粉体を用いて形成することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】(削除)
【請求項16】(削除)
【請求項17】(削除)
【請求項18】(削除)
【請求項19】(削除)
【請求項20】(削除)
【請求項21】
メイラード反応を防止するための、請求項13または14に記載の方法。

第4 取消理由の概要
1 当審が令和1年9月18日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1) 本件特許の請求項1、4、5、7ないし9、13、14及び20に係る発明は、本件特許の出願(優先日)前に日本国内において、頒布された刊行物(甲第1号証:特開2003-79317号公報)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(2) 本件特許の請求項1ないし21に係る発明は、本件特許の出願(優先日)前に日本国内において、頒布された刊行物(甲第1号証:特開2003-79317号公報)に記載された発明に基いて、その出願(優先日)前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(3) 本件特許は、特許請求の範囲の請求項1ないし21において、「機能性成分」という用語が複数回記載されているが、それらの異同が明瞭でないため、「機能性成分」との記載について不備があるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消すべきものである。
(4) 本件特許は、特許請求の範囲の請求項1ないし21の記載が発明の課題を解決するための手段を反映していないため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消すべきものである。
(5) 本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、本件発明の課題との関係において、当業者が請求項1ないし21に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものといえないため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消すべきものである。

2 刊行物(特許異議申立人が提出した甲第1ないし25号証及び当審が発見した引用文献1。)
(1)甲第1号証:特開2003-79317号公報
(2)甲第2号証:特開2011-182753号公報
(3)甲第3号証:特開2002-45118号公報
(4)甲第4号証:特開2013-111022号公報
(5)甲第5号証:特開2011-234654号公報
(6)甲第6号証:特開平4-316455号公報
(7)甲第7号証:特開2002-165569号公報
(8)甲第8号証:特開2006-141256号公報
(9)甲第9号証:特開2005-73640号公報
(10)甲第10号証:特開平11-221020号公報
(11)甲第11号証:特開2012-135286号公報
(12)甲第12号証:特開2004-113125号公報
(13)甲第13号証:特開2008-154488号公報
(14)甲第14号証:特開2001-48789号公報
(15)甲第15号証:特開2003-310213号公報
(16)甲第16号証:特開2009-142187号公報
(17)甲第17号証:特開2003-221343号公報
(18)甲第18号証:特開2018-138043号公報
(19)甲第19号証:特表2015-514436号公報
(20)甲第20号証:特表2009-517031号公報
(21)甲第21号証:特開2014-204732号公報
(22)甲第22号証:特開2015-109841号公報
(23)甲第23号証:特開2016-195607号公報
(24)甲第24号証:特開2018-23390号公報
(25)甲第25号証:特開2016-34278号公報
(26)引用文献1:特表2012-512630号公報(甲第23号証のファミリー文献)
なお、甲第4、11、18、19及び21ないし25号証は、本件特許の出願(優先日)前に頒布されたものでない。


第5 当審の判断
1 理由(1)及び(2)(特許法第29条第1項3号及び第29条第2項)について
(1) 本件発明1について
ア 甲第1号証
(ア) 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、以下の事項が記載されている(「・・・」は、省略を意味する。)。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 糖成分とゲル化剤を含有するグミ素材を成形し、該グミ素材の表面にトランスグルタミナーゼを適用した後、顆粒を付着させる、グミ菓子の製造方法。
【請求項2】 ゲル化剤がゼラチンとペクチンである請求項1記載のグミ菓子の製造方法。
【請求項3】 トランスグルタミナーゼを、糊剤に溶解させた状態でグミ素材表面に適用する請求項1記載の顆粒を表面に付着させたグミ菓子の製造方法。
【請求項4】 顆粒が球形のゼラチンカプセルである請求項1記載のグミ菓子の製造方法。
【請求項5】 グミ素材の表面にトランスグルタミナーゼの作用により顆粒が付着したグミ菓子。
【請求項6】 顆粒が球形のゼラチンカプセルである請求項5記載のグミ菓子。」
「【0004】
【課題を解決するための手段】一般に、トランスグルタミナーゼを食品中の蛋白質に作用させると、蛋白質分子内のグルタミン残基とリジン残基との間の架橋形成反応を触媒作用してゲル化することは公知である(特公平1-50382号公報)。こうして得られるゲル化物は、非加熱で製造でき、かつ熱安定性に優れているという長所を有する。そこで、このトランスグルタミナーゼをゼラチン含有グミ菓子表面に適用し、そこへ顆粒を付着させると、表面にゲル化層が形成されて顆粒の付着強度が高まることが分かった。さらにこのゲル化層は、温度や湿度の変化によって変形し難いことから、グミ菓子自体の製品安定性をも改良できると考えられ、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、糖成分とゲル化剤を含有するグミ素材を成形し、該グミ素材の表面にトランスグルタミナーゼを適用した後、顆粒を付着させる、グミ菓子の製造方法である。本発明の方法によれば、耐熱性や耐湿性が改良され、さらには摩擦の作用によっても顆粒が表面から剥がれ落ち難いことを特徴とするグミ菓子が製造される。」
「【0006】顆粒を付着させるグミ素材は、主に糖成分とゲル化剤を含有し、これらをゲル化した後、成形されたものである。糖成分は、蔗糖、麦芽糖、ぶどう糖、水飴、およびソルビトールなどの糖アルコールから選択される。グミ菓子の糖濃度は、好ましくは30%?80%の範囲であってよい。ゲル化剤は、動物由来蛋白質であるゼラチン、植物由来の多糖類(例えば、寒天、カラギーナン、ファーセレラン、アルギン酸、グアーガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、アラビアガム、アラビノガラクタン、トラガントガム、ペクチンなど)、または微生物由来の多糖類(プルラン、キサンタンガム、デキストランなど)がいずれも使用できるが、最も好ましくはゼラチンとペクチンを使用する。」
「【0011】上述のようにグミ素材表面にトランスグルタミナーゼを作用させた後、顆粒を適用して、グミ素材表面に顆粒を付着させる。特に好ましくは、トランスグルタミナーゼを溶解させた糊剤がグミ素材表面上で乾固する前に顆粒を付着させる。使用する顆粒は、グミ菓子が互いにくっつくのを防止するのみならず、その中に含まれる香味料によって見た目と味のバラエティを発現し得る。顆粒としては、例えば、芥子の実やゴマなどの焙煎穀粒を含む天然顆粒物;真球度の高い球形顆粒核剤に機能性食品素材がコーティングされた小粒糖衣製品(例えば、フロイント産業株式会社製商品名ノンパレルR);およびゼラチンカプセルなどが使用できる。ゼラチンカプセルの場合、ゼラチンから成るシェルで内容物を内包したものであればよく、内容物は人体に無害のものであれば特に限定されない。ゼラチンカプセルの内容物としては、例えば、ビタミンE、ビタミンA、DHA、EPAなど、およびその他の機能性オイルなどが挙げられる。」
「【0016】
【実施例】以下の実施例により、本発明のグミ菓子製造方法をより詳細に説明するが、以下の実施例は単に例示を目的とするものであり、本発明はこれに限定されない。先ず、以下の組成を用い、図1に示す形状のグミ素材を成形した。
【表1】

次いで、糖濃度約60%の液糖にトランスグルタミナーゼ(味の素株式会社製アクティバシリーズTG-S)を液糖全重量に対する濃度が0、1、5および25(重量%)となるようにそれぞれ添加して、4種の糊剤を調製した。ここで、顆粒(ビタミンEを内包したゼラチンカプセル、直径約1.5mm、森下仁丹株式会社製)は、レボルビングパンで乾燥空気により回転乾燥させておいた。前記グミ素材を各濃度の糊剤に浸け、取り出して、グミ素材表面が糊剤で湿っている間にレボルビングパン中に投入し、顆粒を付着させた。グミ素材表面に均一に顆粒が付着した時点で、グミ素材を目の粗い篩で掬い取り、これを通気穴の開いたトレイに広げて20?30℃で乾燥させてグミ菓子を得た。顆粒付着処理前のグミ素材の重量と、顆粒付着後のグミ菓子の重量を秤量し、以下の式に従って顆粒の付着割合を算出した。結果を表2に示す。
【数1】

【表2】

トランスグルタミナーゼを溶解した糊剤を使用することで、より多くの顆粒をグミ菓子表面に付着できることが分かる。」
(イ) 甲第1号証に記載された発明
特に、段落【0006】、【0011】及び【0016】の記載からすると、以下の「甲1-1発明」が記載されていると認められる。
「糖成分とゼラチンとペクチンと香味料の組成を用いゲル化して成形したグミ素材を、糖濃度約60%の液糖にトランスグルタミナーゼを添加した糊剤に浸け、ビタミンEを内包したゼラチンカプセルである顆粒をグミ素材表面が糊剤で湿っている間に均一に付着させたグミ菓子。」
イ 対比
本件発明1と甲1-1発明とを対比する。
甲1-1発明は、「糖濃度約60%の液糖にトランスグルタミナーゼを添加した糊剤」により「ビタミンEを内包したゼラチンカプセルである顆粒」が「グミ素材表面」に「付着させ」られるものであり、「ビタミンEを内包したゼラチンカプセルである顆粒」及び「糖濃度約60%の液糖」が「グミ素材表面」に糖衣をなすことは明らかであり、甲1-1発明は、本件発明1の「糖衣層」を備えるものである。
また、甲1-1発明の「ビタミンEを内包したゼラチンカプセルである顆粒」及び「糖濃度約60%の液糖」は、ビタミンCが含まれていないから、本件発明1の「糖衣層にビタミンCを含まない」態様に相当する。そして、甲1-1発明の「糖成分とゼラチンとペクチンと香味料の組成を用いゲル化して成形したグミ素材」は、本件発明1の「ゲル化を利用した固形食品」に相当し、甲1-1発明の「グミ菓子」は、本件発明1の「固形食品を糖衣層が覆う糖衣食品」に相当する。
さらに、甲1-1発明の「ビタミンEを内包したゼラチンカプセルである顆粒をグミ素材表面が糊剤で湿っている間に均一に付着させた」態様は、本件発明1の「機能性成分として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上が、糖衣層に配合され」ることと、「機能性成分の1種または2種以上が、糖衣層に配合され」る限りで一致する。
また、甲1-1発明の「糖成分とゼラチンとペクチンと香味料の組成を用いゲル化して成形したグミ素材」は、その組成からみて、機能性成分として、アミノ酸、ペプチドおよびアミノ糖が配合されていないので、本件発明1の「機能性成分として、アミノ酸、ペプチドおよびアミノ糖のいずれも配合されておらず」の構成を有するものである。

そうすると、本件発明1と甲1-1発明とは、
「固形食品を糖衣層が覆う糖衣食品であって、
固形食品が、加熱工程を必要とする固形食品またはゲル化を利用した固形食品であり、
機能性成分の1種または2種以上が、糖衣層に配合され、固形食品には機能性成分として、アミノ酸、ペプチドおよびアミノ糖のいずれもが配合されておらず、
糖衣層にビタミンCを含まない、前記糖衣食品。」
の点で一致し、以下の相違点を有する。

(相違点1)
機能性成分に関して、本件発明1は、「アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上」であるのに対して、甲1-1発明は、「ビタミンE」である点。

(相違点2)
糖衣層について、本件発明1は、「食用ガム質を含むガム液を用いた糖衣掛けにより形成され」たものであるのに対して、甲1-1発明は、「糖濃度約60%の液糖にトランスグルタミナーゼを添加した糊剤」及び「ビタミンEを内包したゼラチンカプセルである顆粒」からなるものである点。

ウ 判断
上記イのとおり、本件発明1は、甲1-1発明と、上記相違点1及び2において、相違していて、上記相違点1及び2は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1-1発明であるとすることはできない。
次に、上記相違点について検討する。
(ア) 相違点1について
甲1-1発明は、トランスグルタミナーゼが有する、「成形されたグミ素材の表面に、トランスグルタミナーゼを作用させた後、顆粒20を付着させる。これによって、グミ素材の表面に存在するゼラチン内のグルタミン残基とリジン残基との架橋形成反応が触媒作用され、例えば図1に示すようにグミ素材10表面にゲル化層30が形成されて顆粒20の付着性が高まるものと考えられる。特に顆粒として、後述のゼラチンカプセルを用いると、トランスグルタミナーゼがグミ素材と同様にゼラチンカプセルのグルタミン残基とリジン残基との架橋形成反応も触媒作用して、グミ素材とゼラチンカプセル間の結合がより強くなるものと考えられる。本発明によれば、従来法のように蒸気によりグミ素材表面を溶かす必要がなく、非加熱で表面改質できる。さらにゲル化層の存在により、グミ菓子の耐熱性や耐湿性も向上する。」(【0008】)という作用機序を用いるものであり、グミ素材に配合しない特定の機能性成分やグミ素材の表面に配合する特定の機能性成分に着目するものではない。
また、甲第1号証には、機能性素材について、顆粒としてゼラチンカプセルの場合に、その内容物として、「ビタミンE、ビタミンA、DHA、EPAなど、およびその他の機能性オイル」が挙げられ、芥子の実やゴマなどの焙煎穀粒を含む天然顆粒物の場合は記載はなく、真球度の高い球形顆粒核剤の場合に機能性食品素材がコーティングされた小粒糖衣製品(例えば、フロイント産業株式会社製商品名ノンパレル^(R))とされるものの(【0011】)、具体的に、「アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上」を示唆するものではない。
もっとも、サプリメントなどの形態で、いわゆるタンパク質を構成するアミノ酸、ペプチドやアミノ糖を機能性成分として食品に配合することは例示するまでもなくよく知られたこと(以下「周知事項1」という。)であり、「アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群」が「機能性成分」といえることも知られていた(例えば、甲第12号証:特開2004-113125号公報の段落【0014】及び【0015】、甲第13号証:特開2008-154488号公報の段落【0016】等、甲第14号証:特開2001-48789号公報の段落【0030】、甲第15号証:特開2003-310213号公報の段落【0033】等、甲第16号証:特開2009-142187号公報の段落【0025】等及び甲第20号証:特表2009-517031号公報の段落【0048】等、参照。以下「周知事項2」という。)。しかし、上記甲第1号証に示される「機能性食品素材がコーティングされた小粒糖衣製品」として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖がコーティングされた小粒糖衣製品までが周知であるとはいえない。
そして、本件発明1は、上記相違点1に係る本件発明1の「機能性成分として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上が、糖衣層に配合され、固形食品には機能性成分として、アミノ酸、ペプチドおよびアミノ糖のいずれも配合されておらず」と特定することによって、加熱工程を含むことが多い固形食品におけるメイラード反応を抑制・防止し、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖の機能性成分の減衰を防止でき(【0006】、【0019】、【0021】)、さらに、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖などの機能性成分を効率的に摂取できる、菓子類などの固形食品を提供できるという(【0006】)効果を奏するものである。
そうすると、甲第1号証に一配合例として示されている甲1-1発明において、上記相違点1に係る本件発明1の構成を採用することが、当業者にとって、容易に想到し得たとすることはできない。
(イ) したがって、本件発明1は、上記相違点2を検討するまでもなく、甲1-1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1-1発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
また、本件発明1は、甲1-1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。
したがって、本件発明1に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。
(2) 本件発明3?8について
本件発明3?8は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるところ、上記(1)のとおり、本件発明1は甲1-1発明ではないし、甲1-1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、本件発明4、5、7、8も、甲1-1発明ではないし、また、本件発明3?8は、甲1-1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
したがって、本件発明3?8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。
(3) 本件発明9について
ア 甲第1号証には、上記(1)で検討した、甲1-1発明の「グミ菓子」について、甲第1号証の段落【0006】、【0011】及び【0016】の記載からすると、「グミ菓子」の製造方法について、以下の「甲1-2発明」が記載されていると認められる。
「糖成分とゼラチンとペクチンと香味料の組成を用いゲル化して成形したグミ素材を、糖濃度約60%の液糖にトランスグルタミナーゼを添加した糊剤に浸け、ビタミンEを内包したゼラチンカプセルである顆粒をグミ素材表面が糊剤で湿っている間に均一に付着させたグミ菓子の製造方法。」
イ 本件発明9と甲1-2発明とを対比する。
甲1-2発明は、「糖濃度約60%の液糖にトランスグルタミナーゼを添加した糊剤」により「ビタミンEを内包したゼラチンカプセルである顆粒」が「グミ素材表面」に「付着させ」られるものであり、「ビタミンEを内包したゼラチンカプセルである顆粒」及び「糖濃度約60%の液糖」が「グミ素材表面」に糖衣をなすことは明らかであり、甲1-2発明は、本件発明9の「糖衣層」を備えるものである。
また、甲1-2発明の「糖濃度約60%の液糖」は、ビタミンCが含まれていないから、本件発明9の「ビタミンCを含まない糖衣層を形成する工程を含」むことは、明らかである。
そして、甲1-2発明の「糖成分とゼラチンとペクチンと香味料の組成を用いゲル化して成形したグミ素材」は、本件発明9の「ゲル化を利用した固形食品」に相当し、甲1-2発明の「グミ菓子」は本件発明9の「糖衣食品」に相当する。
また、甲1-2発明の「顆粒」であるゼラチンカプセルに「ビタミンE」が内包されている態様は、「顆粒」が粉体といえるから、本件発明9の「機能性成分として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上を含む粉体」と、「機能性成分として、1種または2種以上を含む粉体」との限りで一致する。
また、甲1-2発明の「糖成分とゼラチンとペクチンと香味料の組成を用いゲル化して成形したグミ素材」は、その組成からみて、機能性成分として、アミノ酸、ペプチドおよびアミノ糖が配合されていないので、本件発明9の「固形食品には機能性成分として、アミノ酸、ペプチドおよびアミノ糖のいずれも配合しないことを含む」ことに相当する。
さらに、甲1-2発明の「糖濃度約60%の液糖にトランスグルタミナーゼを添加した糊剤」は、酵素が添加されていて、「ビタミンEを内包したゼラチンカプセルである顆粒」とともに本件発明9の「糖衣層」を形成するのであるから、結局、甲1-2発明は、本件発明9の「機能性成分として」「1種または2種以上を含む粉体を供給して、ビタミンCを含まない糖衣層を形成する工程」を有するものである。
また、甲1-2発明の「ビタミンEを内包したゼラチンカプセルである顆粒をグミ素材表面が糊剤で湿っている間に均一に付着させたグミ菓子の製造方法」は、本件発明9の「糖衣食品を製造する方法」に相当する。

そうすると、本件発明9と甲1-2発明とは、
「糖衣食品を製造する方法であって、
加熱工程を必要とする固形食品またはゲル化を利用した固形食品に対し、機能性成分として、1種または2種以上を含む粉体を供給して、ビタミンCを含まない糖衣層を形成する工程を含み、および、固形食品には機能性成分として、アミノ酸、ペプチドおよびアミノ糖のいずれも配合しないことを含む、前記方法。」の点で一致し、以下の相違点を有する。

(相違点3)
機能性成分について、本件発明9は、「アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上」であるのに対して、甲1-2発明は、「ビタミンE」である点。

(相違点4)
糖衣層を形成する工程について、本件発明9は、「固形食品に対し、食用ガム質を含むガム液を掛け」であるのに対して、甲1-2発明は、「糖濃度約60%の液糖にトランスグルタミナーゼを添加した糊剤に浸け、ビタミンEを内包したゼラチンカプセルである顆粒をグミ素材表面が糊剤で湿っている間に均一に付着させ」る点。

ウ 判断
(ア) 相違点3は、相違点1と実質同様であり、その判断も、上記「(1)ウ」で検討したことと同様である。
よって、相違点3は、実質的な相違点であるから、本件発明9は、甲1-2発明とすることはできず、また、相違点3に係る本件発明9の構成を採用することは、当業者であっても容易に想到し得たものとすることはできない。
(イ) したがって、本件発明9は、上記相違点4を検討するまでもなく、甲1-2発明であるとすることはできず、また、甲1-2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 小括
以上のとおり、本件発明9は、甲1-2発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
また、本件発明9は、甲1-2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。
したがって、本件発明9に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。
(4) 本件発明10?12について
本件発明10?12は、本件発明9の発明特定事項をすべて含むものであるから、上記(3)で検討した本件発明9と同様に、本件発明10?12も、甲1-2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件発明10?12に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。
(5) 本件発明13について
ア 甲第1号証には、特に、特に、段落【0006】、【0011】及び【0016】の記載からすると、下の「甲1-3発明」が記載されていると認められる。
「糖成分とゼラチンとペクチンと香味料の組成を用いゲル化して成形したグミ素材を、糖濃度約60%の液糖にトランスグルタミナーゼを添加した糊剤に浸け、ビタミンEを内包したゼラチンカプセルである顆粒をグミ素材表面が糊剤で湿っている間に均一に付着させたグミ菓子のビタミンEを配合する方法。」
イ 本件発明13と甲1-3発明とを対比する。
甲1-3発明は、「糖濃度約60%の液糖にトランスグルタミナーゼを添加した糊剤」により「ビタミンEを内包したゼラチンカプセルである顆粒」が「グミ素材表面」に「付着させ」られるものであり、「ビタミンEを内包したゼラチンカプセル」及び「糖濃度約60%の液糖」が「グミ素材表面」に糖衣をなすことは明らかであり、甲1-3発明は、本件発明13の「糖衣層」を備えるものである。
そして、甲1-3発明の「糖成分とゼラチンとペクチンと香味料の組成でゲル化して成形したグミ素材」は、本件発明13の「ゲル化を利用した固形食品」に相当し、甲1-3発明の「グミ菓子」は、その組成からみて、本件発明13の「固形食品を、ビタミンCを含まない糖衣層が覆う糖衣食品」に相当する。
また、甲1-3発明の「ビタミンE」は、本件発明13の「機能性成分」に相当し、甲1-3発明の「顆粒」であるゼラチンカプセルに「ビタミンE」が内包されている態様は、本件発明13の「糖衣層に機能性成分として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上を配合すること」と、「糖衣層に機能性成分として、1種または2種以上を配合すること」の限りで一致する。
さらに、甲1-3発明の「糖成分とゼラチンとペクチンと香味料の組成を用いゲル化して成形したグミ素材」は、その組成からみて、機能性成分として、アミノ酸、ペプチドおよびアミノ糖が配合されていないので、本件発明13の「固形食品には、機能性成分として、アミノ酸、ペプチドおよびアミノ糖のいずれも配合しない」構成を有するものである。
また、甲1-3発明の「糖濃度約60%の液糖にトランスグルタミナーゼを添加した糊剤」は、酵素が添加されていて、「ビタミンEを内包したゼラチンカプセルである顆粒」とともに本件発明13の「糖衣層」を形成するのであるから、結局、本件発明13の「糖衣層が、食用ガム質を含むガム液を用いた糖衣掛けにより形成されて」いることと、「糖衣層が、形成されて」いる限りで一致する。
そして、甲1-3発明の「グミ菓子のビタミンEを配合する方法」は、「ビタミンE」が「機能性」の成分であるから、本件発明13の「糖衣食品において」「機能性成分を配合する方法」に相当する。

そうすると、本件発明13と甲1-3発明とは、
「固形食品を、ビタミンCを含まない糖衣層が覆う糖衣食品において、機能性成分を配合する方法であって、
固形食品が、加熱工程を必要とする固形食品またはゲル化を利用した固形食品であり、
糖衣層に機能性成分として、1種または2種以上を配合すること、
および、固形食品には機能性成分として、アミノ酸、ペプチドおよびアミノ糖のいずれも配合しないことを含む、前記方法。」の点で一致し、以下の相違点を有する。

(相違点5)
機能性成分について、本件発明13は、「アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上を配合すること」及び「固形食品および/または機能性成分の性質に影響を与えることなく、機能性成分を配合する」こととしているのに対して、甲1-3発明は、「ビタミンE」としている点。

(相違点6)
糖衣層について、本件発明13は、「食用ガム質を含むガム液を用いた糖衣掛けにより形成されており」としているのに対して、甲1-3発明は、「糖濃度約60%の液糖にトランスグルタミナーゼを添加した糊剤に浸け、ビタミンEを内包したゼラチンカプセルである顆粒をグミ素材表面が糊剤で湿っている間に均一に付着させ」るとしている点。

ウ 判断
(ア) 相違点5は、相違点1と実質同様であり、その判断も、上記「(1)ウ」で検討したことと同様である。
よって、相違点5は、実質的な相違点であるから、本件発明13は、甲1-3発明とすることはできず、また、相違点5に係る本件発明13の構成を採用することは、当業者であっても容易に想到し得たものとすることはできない。
(イ) したがって、本件発明13は、上記相違点6を検討するまでもなく、甲1-3発明であるとすることはできず、また、甲1-3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 小括
以上のとおり、本件発明13は、甲1-3発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
また、本件発明13は、甲1-3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。
したがって、本件発明13に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。
(6) 本件発明14、21について
本件発明14、21は、本件発明13の発明特定事項をすべて含むものであるところ、上記(5)のとおり、本件発明13は甲1-3発明ではないし、甲1-3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、本件発明14も、甲1-3発明ではないし、また、本件発明14及び本件発明21も、甲1-3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件発明14及び本件発明21に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。

2 理由(3)(特許法第36条第6項第2号)について
理由(3)は、各請求項に記載された「機能性成分」という用語が複数記載されていることから、それぞれが指すものの異同が明確でなく、発明を不明確としているというものであったが、本件訂正により、糖衣層に配合される機能性成分については、「アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上」、固形食品に配合されない機能性成分については、「アミノ酸、ペプチドおよびアミノ糖のいずれも」と、それぞれ明確に特定されたので、「機能性成分」が指すものが明確となった。
したがって、本件発明1、3?14、21は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものとなった。
よって、本件発明1、3?14、21に係る特許は、特許法第113条第4号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。

3 理由(4)及び(5)(特許法第36条第6項第1号及び第4項第1号)について
(1) 本件特許明細書には、以下の事項が記載されている。
「簡便に使用することができるアミノ酸などの機能性成分入りの固形食品を作ることを試みたが、一般的に固形食品では、どうしても加熱工程を含むことが多く、そうすると、例えば、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖などのアミノ基を有する機能性成分の場合には、これらが糖類と反応して、褐色物質に変化する、所謂、メイラード反応を惹起し、アミノ酸を適正に摂取させることができない、または商品価値を下げてしまうといった問題」(【0006】)
「本発明の課題は、上記の問題点を合理的に解決し、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖などの機能性成分を効率的に摂取できる、菓子類などの固形食品を提供することにある。」(【0006】)
「上記の課題を解決するため、鋭意研究を重ねる中で、固形食品に対し、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖などの機能性成分を配合した糖衣層を被覆することにより、前記の問題を一挙に解決できることを見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。」(【0007】)
「機能性成分を固形食品に配合しないことにより、固形食品の性質に影響を与えることなく、機能性成分を配合した固形食品を提供することができる」(段落【0013】)
(2) 上記(1)の記載された事項を踏まえると、本件発明の主な課題は、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖の機能性成分の場合に、これらが糖類と反応して、メイラード反応を惹起し、アミノ酸を適正に摂取させることができない、または商品価値を下げてしまう問題を解決し、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖などの機能性成分を効率的に摂取できる固形食品を提供することであると認められる。
そして、本件訂正により、各請求項には糖衣層に、「機能性成分として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上」を配合し、「固形食品には機能性成分として、アミノ酸、ペプチドおよびアミノ糖のいずれも配合」しないことが明確に特定された。これにより、固形食品を作る際に加熱工程を含んでも、メイラード反応を惹起する問題は生じず、糖衣層に配合したアミノ酸、ペプチド、アミノ糖等の機能性成分を効率的に摂取できるから、上記課題を解決できるものといえる。
よって、本件発明1、3?14、21は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1、3?14、21を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
(2) なお、申立人は、次の主張をしている。
ア 「本件特許明細書に記載の実施例には、ゼラチンを構成成分とするグミの記載しかない。ここでゼラチンはコラーゲンの分解産物(すなわちコラーゲンペプチド)を含み、メイラード反応を起こすものである(参考資料1 第5ページ 第3段落)。
一方、訂正請求項1では、『固形食品には機能性成分として、アミノ酸、ペプチドおよびアミノ糖のいずれも配合されておらず、』と特定されているが、本件特許明細書段落0017には『ペプチドの具体例としては、ホエイペプチド、大豆ペプチド、コラーゲンペプチドなどが挙げられる。』と記載されているので、訂正後の請求項の記載の固形食品にはゼラチンも含まれていないことになる。
特許権者は、訂正請求項について『本件明細書にも、とりわけ実施例において支持される態様のみに限定するものであります。』と主張しているにもかかわらず、ペプチドを含まない固形食品に係る発明は、実施例に記載されていない。」(令和2年1月6日意見書5ページ)
イ そこで、上記アについて検討する。
参考資料1には、「アミノ酸と糖の混合物に熱をかけると、メイラード反応(アミノカルボニル反応)によって褐色に変化することは良く知られていますが、ゼラチンの場合も、ブドウ糖のようなカルボニル基を含む糖との共存下で、高温の加熱や長期間の保存により、着色したり、不溶化します。」と記載されるのみであり、ゼラチンがコラーゲンペプチドを含むことは記載されていない。また、ゼラチンを分解すればコラーゲンペプチドを生成するとしても、両者を同一視することはできない。
そして、本件明細書の実施例は、ゼラチンを含むが、ペプチドは含まれていない。申立人の主張は、ゼラチンとペプチドとを同一視する主張であるから、これを採用できない。
(3) 以上のとおりであるから、本件発明1、3?14、21は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものであり、また、本件発明1、3?14、21についての発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。
よって、本件発明1、3?14、21に係る特許は、特許法第113条第4号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。

4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1) 特許法第29条第1第3号
申立人は、本件発明3及び12は、本件特許の出願(優先日)前に日本国内において、頒布された刊行物(甲第1号証:特開2003-79317号公報)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである旨を主張する(特許異議申立書33、37ページ)。
しかし、本件発明3は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであり、本件発明12は、本件発明9の発明特定事項を全て含むものであるから、「1(1)」及び「1(3)」で検討したと同様に、本件発明3は、甲1-1発明とすることはできず、また、本件発明12は、甲1-2発明とすることはできない。
(2) 小括
以上のとおり、本件発明3は、甲1-1発明ではなく、本件発明12は、甲1-2発明でないから、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
したがって、本件発明3及び12に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。

第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1、3?14、21に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1、3?14、21に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、上記第2のとおり、本件訂正が認められることにより、請求項2、15?20は削除され、本件特許の請求項2、15?20についての本件特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなった。
よって、本件特許の請求項2、15?20についての本件特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形食品を糖衣層が覆う糖衣食品であって、
固形食品が、加熱工程を必要とする固形食品またはゲル化を利用した固形食品であり、
機能性成分として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上が、糖衣層に配合され、固形食品には機能性成分として、アミノ酸、ペプチドおよびアミノ糖のいずれも配合されておらず、
糖衣層が、食用ガム質を含むガム液を用いた糖衣掛けにより形成されており、糖衣層にビタミンCを含まない、前記糖衣食品。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
糖衣層に、機能性成分として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される2種以上を配合してなる、請求項1に記載の糖衣食品。
【請求項4】
糖衣層および/または固形食品中の糖質が、非還元糖である、請求項1または3に記載の糖衣食品。
【請求項5】
固形食品中にビタミンCを含まない、請求項1、3および4のいずれか一項に記載の糖衣食品。
【請求項6】
糖衣層に、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン酸ナトリウム塩、グルタミン酸、ヒスチジン、リジン塩酸塩、アルギニンおよびプロリンの全てからなる組成物を配合してなる、請求項1および3?5のいずれか一項に記載の糖衣食品。
【請求項7】
糖衣層が、機能性成分として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上を含む粉体を用いて形成されてなる、請求項1および3?6のいずれか一項に記載の糖衣食品。
【請求項8】
固形食品が、グミ、キャンディ、キャラメル、チューイングガムからなる群から選択される、請求項1および3?7のいずれか一項に記載の糖衣食品。
【請求項9】
糖衣食品を製造する方法であって、
加熱工程を必要とする固形食品またはゲル化を利用した固形食品に対し、食用ガム質を含むガム液を掛けた後、機能性成分として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上を含む粉体を供給して、ビタミンCを含まない糖衣層を形成する工程を含み、および、固形食品には機能性成分として、アミノ酸、ペプチドおよびアミノ糖のいずれも配合しないことを含む、前記方法。
【請求項10】
糖衣層を形成する工程が、糖質を含む粉体を供給することをさらに含む、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
機能性成分として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上を含む粉体が、さらに糖質を含む、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
糖衣層を形成する工程が、加熱工程を含まない、請求項9?11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
固形食品を、ビタミンCを含まない糖衣層が覆う糖衣食品において、固形食品および/または機能性成分の性質に影響を与えることなく、機能性成分を配合する方法であって、
固形食品が、加熱工程を必要とする固形食品またはゲル化を利用した固形食品であり、
糖衣層が、食用ガム質を含むガム液を用いた糖衣掛けにより形成されており、糖衣層に機能性成分として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上を配合すること、および、固形食品には機能性成分として、アミノ酸、ペプチドおよびアミノ糖のいずれも配合しないことを含む、前記方法。
【請求項14】
糖衣層を、機能性成分として、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖からなる群から選択される1種または2種以上を含む粉体を用いて形成することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】(削除)
【請求項16】(削除)
【請求項17】(削除)
【請求項18】(削除)
【請求項19】(削除)
【請求項20】(削除)
【請求項21】
メイラード反応を防止するための、請求項13または14に記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-02-26 
出願番号 特願2014-520071(P2014-520071)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A23L)
P 1 651・ 83- YAA (A23L)
P 1 651・ 537- YAA (A23L)
P 1 651・ 536- YAA (A23L)
P 1 651・ 113- YAA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 高山 敏充  
特許庁審判長 松下 聡
特許庁審判官 山崎 勝司
紀本 孝
登録日 2018-06-29 
登録番号 特許第6358950号(P6358950)
権利者 株式会社明治
発明の名称 機能性成分を含有する糖衣層付き固形食品およびその製造方法  
代理人 葛和 清司  
代理人 葛和 清司  

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