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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 特174条1項  H01L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
管理番号 1361479
異議申立番号 異議2019-700597  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-05-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-07-30 
確定日 2020-03-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6459402号発明「先供給型アンダーフィル材、電子部品装置及び電子部品装置の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6459402号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第6459402号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6459402号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成26年10月31日に出願され、平成31年1月11日にその特許権の設定登録がされ、平成31年1月30日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和1年7月30日に特許異議申立人御園貴美代により特許異議の申立てがされ、当審は、令和1年10月8日(起案日)に取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和1年12月4日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、特許異議申立人御園貴美代は、令和2年1月15日に意見書を提出した。

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。

ア 訂正事項1
請求項1に係る「ラジカル重合性化合物、ラジカル重合開始剤、及び無機充填材を含有し、前記ラジカル重合性化合物は、官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物と、官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物とを含み、前記官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物が脂環を有する(メタ)アクリレート化合物を含む、先供給型アンダーフィル材。」を、
「ラジカル重合性化合物、ラジカル重合開始剤、及び無機充填材を含有し、前記ラジカル重合性化合物は、官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物と、官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物とを含み、 前記官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物が脂環を有する(メタ)アクリレート化合物を含み、
前記官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物は、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(β-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのトリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート(メタ)アクリレート、及びウレタン(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種を含む、先供給型アンダーフィル材。」に訂正する(請求項1を引用する請求項2?6についても同様に訂正する。)。

本件訂正請求は、一群の請求項〔1?6〕に対して請求されたものである。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的の適否
訂正前の請求項1に係る特許発明では、「官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物」について、含有することのみを規定していた。
これに対して、訂正事項1は、請求項1において、「官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物」が、「ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(β-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのトリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート(メタ)アクリレート、及びウレタン(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種を含む」と限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)新規事項の有無
a 明細書には、以下のように記載されている(審決注:下線は合議体が付加した。)。
「【0034】
ラジカル重合性化合物としての(メタ)アクリレート化合物は、特に限定されるものではなく、従来から公知の(メタ)アクリレート化合物を用いることができる。本発明においては、(メタ)アクリレート化合物を1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上の(メタ)アクリレート化合物を併用する場合の(メタ)アクリレート化合物の組み合せについては特に限定はなく、一分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイル基を含む多官能(メタ)アクリレート化合物の少なくとも1種と、一分子中に1個の(メタ)アクリロイル基を含む単官能(メタ)アクリレート化合物の少なくとも1種とを併用することが好ましい。」
「【0036】
多官能(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメチロールジアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリス(β-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのトリアクリレート、ポリカーボネートアクリレート、ウレタンアクリレート、及び上記の多官能アクリレート化合物が有するアクリロイル基をメタクリロイル基に置換した多官能メタクリレート化合物が挙げられる。」
「【0048】
本発明では、応力緩和性に優れ、接着力がより向上する観点から、官能基当量が100?1300であるラジカル重合性化合物を1種以上含むことが好ましく、官能基当量が250?1300であるラジカル重合性化合物を1種以上含むことがより好ましく、官能基当量が250?800であるラジカル重合性化合物を1種以上含むことが更に好ましく、中温領域における熱安定性及び接着力の観点から官能基当量が300?700であるラジカル重合性化合物を1種以上含むことが特に好ましい。」

b 上記の段落【0036】に列記の多官能(メタ)アクリレート化合物のうち、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートは、いずれも官能基数が2で、分子量はエチレングリコールとピロプレングリコールの重合度nによって異なるが、「官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物」が含まれ、ウレタン(メタ)アクリレートは、「官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物」であると認められる(必要であれば、後記3(3)アa(a)の新中村化学工業株式会社のホームページの製品一覧の「光硬化性モノマー・オリゴマー」を参照。)。
そうすると、明細書には、ラジカル重合性化合物の(メタ)アクリレート化合物として、官能基当量が250?1300であるポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、及びウレタン(メタ)アクリレートが、具体的に開示されている。

c そして、当該官能基当量が250?1300であるポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、及びウレタン(メタ)アクリレートは、「ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(β-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのトリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート(メタ)アクリレート、及びウレタン(メタ)アクリレートからなる群」より選択されるものに該当するから、訂正後の請求項1で特定されている、「官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物は、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(β-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのトリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート(メタ)アクリレート、及びウレタン(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種」であるといえる。

d したがって、訂正事項1は、「官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物」を下位概念化する訂正であって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるといえるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(ウ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、訂正後の請求項1に係る発明及び訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2?6に係る発明の技術的範囲を狭めるものであるにとどまり、それらのカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。

3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし6に係る発明((以下、順に「本件発明1」ないし「本件発明6」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
ラジカル重合性化合物、ラジカル重合開始剤、及び無機充填材を含有し、前記ラジカル重合性化合物は、官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物と、官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物とを含み、前記官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物が脂環を有する(メタ)アクリレート化合物を含み、
前記官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物は、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(β-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのトリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート(メタ)アクリレート、及びウレタン(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種を含む、先供給型アンダーフィル材。
【請求項2】
前記官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物と、前記官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物との質量比が、1:1?1:10である、請求項1に記載の先供給型アンダーフィル材。
【請求項3】
先供給型アンダーフィル材の1mgを、縦7mm、横7mm、厚み625μmの大きさで表面にSiN層を有する半導体素子の前記SiN層上に供給し、前記半導体素子を260℃の熱板上にて10秒間加熱し冷却した後で、供給した前記先供給型アンダーフィル材が前記半導体素子に付着している、請求項1又は請求項2に記載の先供給型アンダーフィル材。
【請求項4】
前記ラジカル重合開始剤が、フェニル基を有する化合物を含む、請求項1?請求項3のいずれか一項に記載の先供給型アンダーフィル材。
【請求項5】
電子部品と配線基板とを接合部を介して電気的に接合することで電子部品装置を製造する電子部品装置の製造方法であり、
前記電子部品における前記配線基板と対向する側の面及び前記配線基板における前記電子部品と対向する側の面からなる群より選択される少なくとも一方の面に、請求項1?請求項4のいずれか一項に記載の先供給型アンダーフィル材を供給する供給工程と、
前記電子部品と前記配線基板とを接合部を介して接合し、かつ前記先供給型アンダーフィル材を硬化する接合工程と、を含む、電子部品装置の製造方法。
【請求項6】
電子部品と、
前記電子部品と対向して配置され、前記電子部品に接合部を介して電気的に接合される配線基板と、
前記電子部品と前記配線基板との間に配置される、請求項1?請求項4のいずれか1項に記載の先供給型アンダーフィル材の硬化物と、
を有する、電子部品装置。」

4 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし6に係る特許に対して、当審が令和1年10月8日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
ア(新規性)請求項1、2、4?6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された文献1(甲第1号証:国際公開第2014/010258号)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するから、請求項1、2、4?6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

イ(進歩性)請求項1?6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された文献1(甲第1号証:国際公開第2014/010258号)又は文献2(国際公開第2013/066597号(甲第4号証:特表2015-503220号公報のファミリ文献))に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)引用文献の記載
ア 文献1の記載と引用発明A
文献1(甲第1号証:国際公開第2014/010258号)には、以下のように記載されている。

「技術分野
[0001] 本発明は、半導体封止用アクリル樹脂組成物とそれを用いた半導体装置およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、封止樹脂を回路基板へ先に供給する方法によってリフロー時に電気的接続と封止樹脂の硬化を同時に行うフリップチップ実装に使用される半導体封止用アクリル樹脂組成物とそれを用いた半導体装置およびその製造方法に関する。」

「[0008] このような問題を解決するために、近年では、リフロー処理の前に予め封止樹脂を回路基板に供給しておく先供給方式が注目を集めてきている。
[0009] この先供給方式では、熱圧着により回路基板に半導体チップを接合する前に、予め、回路基板に封止樹脂を塗布などによって供給した後に、半導体チップを搭載する。そしてこれらをリフロー処理することにより、電極間の接合と併せて、熱圧着時の加熱により封止樹脂を硬化させる。
・・・(略)・・・
[0019] 本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、封止樹脂を回路基板へ先に供給する方法によって熱圧着時に電気的接続と封止樹脂の硬化を同時に行うフリップチップ実装において、硬化された封止樹脂中にボイドが残りにくく、かつ、はんだの濡れ性に優れた半導体封止用アクリル樹脂組成物とそれを用いた半導体装置およびその製造方法を提供することを課題としている。」

「発明の効果
[0029] 本発明の半導体封止用アクリル樹脂組成物とそれを用いた半導体装置およびその製造方法によれば、封止樹脂を回路基板へ先に供給する方法によってリフロー時に電気的接続と封止樹脂の硬化を同時に行うフリップチップ実装において、硬化された封止樹脂中にボイドが残りにくく、かつ、はんだの濡れ性に優れている。」

「発明を実施するための形態
[0031] 以下に、本発明を詳細に説明する。
[0032] 本発明の半導体封止用アクリル樹脂組成物には、常温で液状の熱硬化性アクリル樹脂が配合される。
[0033] 熱硬化性アクリル樹脂を使用し、ラジカル反応によって硬化することにより、封止樹脂中でのボイドの発生を抑制できる。
[0034] なお、ここで「常温で液状」とは、大気圧下での5?28℃の温度範囲、特に室温18℃において流動性を持つことを意味する。
[0035] 熱硬化性アクリル樹脂に使用される成分としては、耐熱性を確保する点を考慮すると、2個以上の(メタ)アクリロイル基を持つ化合物が好ましく、2?6個の(メタ)アクリロイル基を持つ化合物がより好ましく、2個の(メタ)アクリロイル基を持つ化合物がさらに好ましい。
[0036] 2個の(メタ)アクリロイル基を持つ化合物としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ダイマージオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
[0037] また、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
[0038] また、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジンクジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジエタノールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジアルキルアルコールジ(メタ)アクリレート、ジメタノールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
[0039] また、ビスフェノールA、ビスフェノールFまたはビスフェノールAD1モルとグリシジルアクリレート2モルとの反応物、ビスフェノールA、ビスフェノールFまたはビスフェノールAD1モルとグリシジルメタクリレート2モルとの反応物などが挙げられる。
[0040] また、2個以上の(メタ)アクリロイル基を持つ化合物として、次式(I)または(II)で表わされる架橋多環構造を有する(メタ)アクリレートが好ましい。この架橋多環構造を有する(メタ)アクリレートを用いると、耐熱性に優れた硬化物を得ることができる。
[0041]
[化1] ・・・(略)・・・(I)
(式中、R^(1 )およびR^(2 )はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を示し、aは1または2であり、bは0または1である。)
[0042][化2]
・・・(略)・・・
このような架橋多環構造を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、前記式(I)のaが1、bが0であるジシクロペンタジエン骨格を有する(メタ)アクリレート、前記式(II)のcが1であるパーヒドロ-1,4:5,8-ジメタノナフタレン骨格を有する(メタ)アクリレート、前記式(II)のcが0であるノルボルナン骨格を有する(メタ)アクリレート、前記式(I)のR^(1 )およびR^(2 )が水素原子であり、a=1、b=0であるジシクロペンタジエニルジアクリレート(トリシクロデカンジメタノールジアクリレート)、前記式(II)の・・・などが挙げられる。中でも、ジシクロペンタジエニルジアクリレートおよびノルボルナンジメチロールジアクリレートが好ましい。
[0043] また、2個以上の(メタ)アクリロイル基を持つ化合物として、次式(III)または(IV)で表わされる、ビスフェノール骨格にアルキレンオキサイドが付加された構造を有するジ(メタ)アクリレートが好ましい。このビスフェノール骨格にアルキレンオキサイドが付加された構造を有するジ(メタ)アクリレートを用いると、耐熱性および密着性に優れた硬化物を得ることができる。
・・・(略)・・・
[0045]
[化4]
・・・(略)・・・
このようなビスフェノール骨格にアルキレンオキサイドが付加された構造を有するジ(メタ)アクリレートとしては、例えば、・・・(略)・・・などのEO変性ビスフェノールA型ジ(メタ)アクリレート(n=2?20)、・・・(略)・・・などが挙げられる。
[0046] また、2個以上の(メタ)アクリロイル基を持つ化合物としては、エポキシ(メタ)アクリレートが好ましい。エポキシ(メタ)アクリレートを用いると、後述のエポキシ樹脂を併用する際に反応性、耐熱性、および密着性に優れた硬化物を得ることができる。
・・・(略)・・・
[0048] エポキシ(メタ)アクリレートとして、例えば、25℃で固体または粘度10Pa・s以上の液体である、次式で表わされるビスフェノールA型エポキシアクリレートを好ましく用いることができる。
[0049][化5]
・・・(略)・・・(V)
・・・(略)・・・
[0050] その他、3個以上の(メタ)アクリロイル基を持つ化合物としては、例えば、・・・(略)・・・などが挙げられる。
[0051]
熱硬化性アクリル樹脂における好ましい配合の一例は、熱硬化性アクリル樹脂の全量に対して架橋多環構造を有する(メタ)アクリレート10?50質量%、ビスフェノール骨格にアルキレンオキサイドが付加された構造を有するジ(メタ)アクリレート3?20質量%、エポキシ(メタ)アクリレート5?30質量%の範囲内である。」

「実施例
[0126] 以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
[0127] 表1および表2に示す配合成分として、以下のものを用いた。
(熱硬化性アクリル樹脂)
・EO変性ビスフェノールA型ジアクリレート、オキシエチレン基数30
・トリシクロデカンジメタノールジアクリレート
・ビスフェノールA型エポキシアクリレート
(ラジカル開始剤)
・・・(略)・・・」

「請求の範囲
[請求項1] 回路基板の電極パッドを有する面に封止樹脂を供給した後、半導体チップのバンプ電極と前記回路基板の電極パッドとの位置を合わせて前記半導体チップを配置し加熱することにより、前記半導体チップと前記回路基板との電気的接続および前記封止樹脂の硬化を同時に行う際に、前記封止樹脂として使用される半導体封止用アクリル樹脂組成物であって、常温で液状の熱硬化性アクリル樹脂、前記熱硬化性アクリル樹脂のラジカル開始剤、活性剤、および無機充填剤を含有することを特徴とする半導体封止用アクリル樹脂組成物。」

したがって、文献1には、以下の発明(以下「引用発明a」という。)が記載されていると認められる。

「回路基板の電極パッドを有する面に封止樹脂を供給した後、半導体チップのバンプ電極と前記回路基板の電極パッドとの位置を合わせて前記半導体チップを配置し加熱することにより、前記半導体チップと前記回路基板との電気的接続および前記封止樹脂の硬化を同時に行う際に、前記封止樹脂として使用される半導体封止用アクリル樹脂組成物であって、
常温で液状の熱硬化性アクリル樹脂、前記熱硬化性アクリル樹脂のラジカル開始剤、活性剤、および無機充填剤を含有し、
熱硬化性アクリル樹脂に使用される成分としては、2個以上の(メタ)アクリロイル基を持つ化合物が好ましく、
2個の(メタ)アクリロイル基を持つ化合物としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ダイマージオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレートなどが挙げられ、また、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられ、また、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジンクジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジエタノールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジアルキルアルコールジ(メタ)アクリレート、ジメタノールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレートなどが挙げられ、また、ビスフェノールA、ビスフェノールFまたはビスフェノールAD1モルとグリシジルアクリレート2モルとの反応物、ビスフェノールA、ビスフェノールFまたはビスフェノールAD1モルとグリシジルメタクリレート2モルとの反応物などが挙げられ、
2個以上の(メタ)アクリロイル基を持つ化合物として、次式(I)または(II)で表わされる架橋多環構造を有する(メタ)アクリレートが好ましく、中でも、ジシクロペンタジエニルジアクリレート(トリシクロデカンジメタノールジアクリレート)が好ましく、
また、2個以上の(メタ)アクリロイル基を持つ化合物として、次式(III)または(IV)で表わされる、ビスフェノール骨格にアルキレンオキサイドが付加された構造を有するジ(メタ)アクリレートが好ましく、例えば、EO変性ビスフェノールA型ジ(メタ)アクリレート(n=2?20)などが挙げられ、
また、2個以上の(メタ)アクリロイル基を持つ化合物としては、エポキシ(メタ)アクリレートが好ましく、式(V)で表わされるビスフェノールA型エポキシアクリレートを好ましく用いることができる、半導体封止用アクリル樹脂組成物。」

イ 文献2の記載と引用発明b
文献2(国際公開第2013/066597号(甲第4号証:特表2015-503220号公報のファミリ文献))には、以下のように記載されている(ファミリ文献の対応箇所も摘記した。)。

「[0002] The present invention relates to an adhesivecomposition usable for a pre-applied application in flip chip mounting ofsemiconductor chips, an electronic component with adhesive layer and anelectronic device using the adhesive composition, and a production methodthereof.
・・・(略)・・・
SUMMARY OF THE INVENTION
[0009] The present invention provides an adhesive compositionthat solves the problems in using the conventional adhesives described above,and that increases productivity of an electronic device. Furthermore, thepresent invention provides an electronic component with an adhesive layerproduced by using the adhesive composition, an electronic device produced byusing the electronic component, and a production method thereof.
[0010] The present invention relates to an adhesivecomposition for a pre-applied underfill sealant comprising (a) a radicalpolymerizable monomer having one or more functional groups selected from thegroup consisting of vinyl group, maleimide group, acryloyl group, methacryloylgroup and allyl group; (b) a polymer having a polar group, (c) a filler, and(d) a thermal radical initiator.」
(「【0002】
本発明は、半導体チップのフリップチップ実装においてプリアプライド用途に使用可能な接着剤組成物、該接着剤組成物を用いた接着剤層付き電子部品および電子デバイス、ならびにこれらの製造方法に関する。
・・・(略)・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来の接着剤を用いたときの上記問題点を解決し、電子デバイスの生産性を向上させる接着剤組成物を提供する。さらに、該接着剤組成物を用いて製造された接着剤層付き電子部品、その電子部品を用いて製造した電子デバイス、およびこれらの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、(a)ビニル基、マレイミド基、アクリロイル基、メタクリロイル基およびアリル基からなる群から選ばれる1以上の官能基を有するラジカル重合性モノマーと、(b)極性基を有するポリマーと、(c)フィラーと、(d)熱ラジカル開始剤とを含むプリアプライドアンダーフィル材用接着剤組成物に関する。」)

「[0026] The adhesive composition of the present inventioncan be B-staged and used as a pre- applied underfill sealant in the flip chiptechnique. The adhesive composition of the present invention has a short curingtime, a high elastic modulus, a low linear expansion coefficient, a high dieshear strength and suppressed generation of voids. [0027] The present invention is characterized in that theadhesive composition is used for pre- applied application in producing anelectronic component and comprises at least, (a) a radical polymerizablemonomer, (b) a polymer having a polar group, (c) a filler, and (d) a thermalradical initiator. Hereinafter, each component will be explained.
[0028] Radical Polymerizable Monomer (a).
[0029] The radical polymerizable monomer contained in theadhesive composition of the present invention has one or more functional groupsselected from the group consisting of vinyl group, maleimide group, acryloylgroup, methacryloyl group and allyl group. While the number of functionalgroups per the radical polymerizable monomer is not limited particularly, abifunctional radical polymerizable monomer may be preferably used. The radicalpolymerizable monomer may be used alone or in combination of two or moremonomers. In addition to a bifunctional radical polymerizable monomer, amonofunctional radical polymerizable monomer and/or a radical polymerizablemonomer having three or more functional groups may be used as necessary. Forexample, the adhesive composition of the present invention preferably comprises50 % or more, more preferably 60 % or more, further preferably 70 % or more ofa bifunctional radical polymerizable monomer, and as necessary a radicalpolymerizable monomer having three or more functional groups and/or amonofunctional radical polymerizable monomer.
[0030] While the amount of a radical polymerizablemonomer may be arbitrarily adjusted depending on other compounds contained inthe adhesive composition, production conditions, and end use applications ofthe adhesive composition, for example, it is preferably 1 to 50 % by weight, morepreferably 5 to 30 % by weight based on the total weight of the adhesivecomposition. When the amount of a radical polymerizable monomer is too low, theelastic modulus of the adhesive after curing likely becomes too low, and theadhesiveness likely becomes too low.
[0031] The radical polymerizable monomer used in thepresent invention may include, but is not limited to, for example, thefollowing compounds.
[0032] Exemplary compounds having a monofunctional(meth)acryloyl group include phenylphenol acrylate, methoxypolyethyleneacrylate, acryloyloxyethyl succinate, fatty acid acrylate,methacryloyloxyethylphthalic acid, phenoxyethylene glycol methacrylate, fattyacid methacrylate, β-carboxyethyl acrylate, isobornyl acrylate, isobutylacrylate, t-butyl acrylate, hydroxyethyl acrylate, hydroxypropyl acrylate,dihydrocyclopentadiethyl acrylate, cyclohexyl methacrylate, t-butylmethacrylate, dimethylaminoethyl methacrylate, diethylaminoethyl methacrylate,t-butylaminoethyl methacrylate, 4-hydroxybutyl acrylate, tetrahydrofurfurylacrylate, benzyl acrylate, ethylcarbitol acrylate, phenoxyethyl acrylate,methoxytriethylene glycol acrylate.
[0033] Exemplary compounds having two or more(meth)acryloyl groups include hexanediol dimethacrylate, hydroxyacryloyloxypropylmethacrylate, hexanediol diacrylate, urethane acrylate, epoxyacrylate,bisphenol A-type epoxyacrylate, modified epoxyacrylate, fatty acid- modifiedepoxyacrylate, amine-modified bisphenol A-type epoxyacrylate, allylmethacrylate, ethylene glycol dimethacrylate, diethylene glycol dimethacrylate,ethoxylated bisphenol A dimethacrylate, tricyclodecanedimethanoldimethacrylate, glycerin dimethacrylate, polypropylene glycol diacrylate,propoxylated ethoxylated bisphenol A diacrylate, 9,9-bis(4-(2-acryloyloxyethoxy)phenyl)fluorene, tricyclodecane diacrylate, dipropylene glycol diacrylate,polypropylene glycol diacrylate, PO-modified neopentyl glycol diacrylate,tricyclodecanedimethanol diacrylate, 1,12-dodecanediol dimethacrylate,trimethylolpropane trimethacrylate, dipentaerythritol polyacrylate,dipentaerythritol hexaacrylate, trimethylolpropane triacrylate,trimethylolpropane ethoxy triacrylate, polyether triacrylate, glycerin propoxytriacrylate, pentaerythritol tetraacrylate, pentaerythritolethoxy tetraacrylate,ditrimethylolpropane tetraacrylate, monopentaerythritol acrylate,dipentaerythritol acrylate, tripentaerythritol acrylate, polypentaerythritolacrylate.
[0034] A compound having an allyl group is allyl glycidylether.
[0035] A compound having a vinyl group is vinylformamide,
[0036] Exemplary compounds having maleimide group include4,4'-diphenyl- methanebismaleimide, m-phenylenebismaleimide, bisphenol Adiphenyl ether bismaleimide,3,3'-dimethyl-5,5'-diethyl-4,4'-diphenylmethanebismaleimide, 4-methyl-l,3-phenylenebismaleimide,1,6'-bismaleimide-(2,2,4-trimethyl)hexane and the like.
[0037] Among these, particularly preferably, a monomerhaving two or more acryloyl groups and/or methacryloyl groups is contained inthe adhesive composition.」
(「【0023】
本発明の接着剤組成物は、Bステージ化することができ、フリップチップ工法においてプリアプライドアンダーフィル材として用いることができる。本発明の接着剤組成物は、硬化時間が短く、弾性率が高く、線膨張係数が低く、ダイシェア強度が高く、ボイドが発生しにくい。
【0024】
本発明は、電子部品の製造に用いられるプリアプライド用接着剤組成物であり、少なくとも(a)ラジカル重合性モノマーと、(b)極性基を有するポリマーと、(c)フィラーと、(d)熱ラジカル開始剤とを含むことを特徴とする。以下、各成分について説明する。
【0025】
(a)ラジカル重合性モノマー
【0026】
本発明の接着剤組成物に含まれるラジカル重合性モノマーは、ビニル基、マレイミド基、アクリロイル基、メタクリロイル基およびアリル基からなる群から選ばれる1以上の官能基を有する。ラジカル重合性モノマーあたりの官能基数は、特に限定はされないが、2官能のラジカル重合性モノマーを用いることが好ましい。ラジカル重合性モノマーは1種類のみ用いても、2種類以上を併用してもよい。2官能のラジカル重合性モノマーに加えて、必要に応じて、単官能ラジカル重合性モノマーおよび/または3以上の官能基を有するラジカル重合性モノマーを用いてもよい。たとえば、本発明の接着剤組成物は、2官能ラジカル重合性モノマーを好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上含み、必要に応じて3以上の官能基を有するラジカル重合性モノマー、および/または、単官能ラジカル重合性モノマーを含む。
【0027】
ラジカル重合性モノマーの配合量は、接着剤組成物に含まれる他の化合物、製造条件、および接着剤組成物の用途により適宜調整できるが、例えば、接着剤組成物の全重量に対し、1?50重量%が好ましく、5?30重量%がより好ましい。ラジカル重合性モノマーの量が少なすぎると硬化後の接着剤の弾性率が非常に低くなりやすく、接着剤の接着性が非常に低くなりやすい。
【0028】
本発明に用いることができるラジカル重合性モノマーとしては、限定はされないが、例えば、以下の化合物が挙げられる。
【0029】
単官能の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、フェニルフェノールアクリレート、メトキシポリエチレンアクリレート、アクリロイルオキシエチルサクシネート、脂肪酸アクリレート、メタクリロイロキシエチルフタル酸、フェノキシエチレングリコールメタクリレート、脂肪酸メタクリレート、β-カルボキシエチルアクリレート、イソボルニルアクリレート、イソブチルアクリレート、ターシャリーブチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ジヒドロシクロペンタジエチルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ターシャリーブチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ターシャリーブチルアミノエチルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ベンジルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレートが挙げられる。
【0030】
2以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、ヘキサンジオールジメタクリレート、ヒドロキシアクリロイロキシプロピルメタクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ビスフェノールA型エポキシアクリレート、変性エポキシアクリレート、脂肪酸変性エポキシアクリレート、アミン変性ビスフェノールAタイプエポキシアクリレート、アリルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、9,9-ビス(4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル)フルオレン、トリシクロデカンジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、PO変性ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、1,12-ドデカンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ジペンタエリストールポリアクリレート、ジペンタエリストールヘキサアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリアクリレート、ポリエーテルトリアクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、モノペンタエリスリトールアクリレート、ジペンタエリスリトールアクリレート、トリペンタエリスリトールアクリレート、ポリペンタエリスリトールアクリレートが挙げられる。
【0031】
アリル基を有する化合物は、アリルグリシジルエーテルである。
【0032】
ビニル基を有する化合物としては、ビニルホルムアミドである。
【0033】
マレイミド基を有する化合物としては、4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、m-フェニレンビスマレイミド、ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、1,6’-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン等が挙げられる。
【0034】
これらの中で、特に2以上のアクリロイル基および/またはメタクリロイル基を有するモノマーが含まれることが好ましい。」)

「[0049] Filler (c).
[0050] Theadhesive composition of the present invention comprises a filler. By comprisinga filler, an adhesive having a low coefficient of linear expansion and anexcellent dimensional stability, and improved flame retardancy, can beobtained. As the filler, an insulating inorganic filler or a conductiveinorganic filler may be selected depending on the end use application of theadhesive composition. An insulating inorganic filler includes silicon dioxide,calcium silicate, aluminum hydroxide, magnesium hydroxide, calcium carbonate,magnesium carbonate, magnesium oxide, aluminum nitride, boron nitride and thelike, and particularly preferably silicon dioxide. A conductive inorganicfiller is, for example, metal or carbon black.」
(「【0046】
(c)フィラー
【0047】
本発明の接着剤組成物はフィラーを含む。フィラーを配合することにより、線膨張係数が低くて寸法安定性に優れ、かつ、難燃性が改善された接着剤を得ることができる。フィラーは、接着剤組成物の用途に応じて絶縁性無機フィラーまたは導電性無機フィラーのいずれかを選択することができる。絶縁性無機フィラーとしては、二酸化珪素、珪酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素等が挙げられ、特に二酸化珪素が好ましい。導電性無機フィラーとしては、金属やカーボンブラックが挙げられる。」)

「[0057] The thermal radical initiator includes, withoutany particular limitation, for example, diisobutyl peroxide, cumylperoxyneodecanoate, di-n-propyl peroxycarbonate, diisopropyl peroxycarbonate,di-sec-butyl peroxycarbonate, 1,1,3,3-tetramethylbutylperoxyneodecanoate,di(4-t-butylcyclohexyl) peroxydicarbonate, di(2-ethylhexyl) peroxydicarbonate,t-hexyl peroxyneodecanoate, t-butyl peroxyneodecanoate, t-butylperoxyneoheptanoate, t-hexyl peroxypivalate, t-butyl peroxypivalate,di(3,5,5-trimethylhexanoyl) peroxide, dilauroyl peroxide, 1,1,3,3-tetramethylbutylperoxy-2-ethylhexanoate,disuccinic acid peroxide, 2,5-dimethyl-2,5-di(2- ethylhexanoylperoxy)hexane,t-hexylperoxy-2-ethylhexanoate, di(4-methylbenzoyl) peroxide, t-butylperoxy-2-ethylhexanoate, dibenzoyl peroxide,l,l-di(t-butylperoxy)-2-methylcyclohexane,1,1-di(t-hexyl-peroxy)-3,3,5-trimethylcyclohexane, 1,1-di(t-hexylperoxy)-cyclohexane,1,1-di(t-butylperoxy)cyclohexane, 2,2-di(4,4-di-(t-butylperoxy)-cyclohexyl)propane,t- hexylperoxyisopropyl monocarbonate, t-butylperoxymaleic acid,t-butylperoxy-3,5,5-trimethyl hexanoate, t-butylperoxy laurate,t-butylperoxy-isopropyl monocarbonate, t-butylperoxy 2- ethylhexylmonocarbonate, t-hexyl peroxy-benzoate,2,5-di-methyl-2,5-di(benzoylperoxy)hexane,t-butyl peroxyacetate, 2,2-di(t-butylperoxy)butane, t-butylperoxybenzoate, n-butyl-4,4-di-(t- butylperoxy)-valerate,di(2-t-butylperoxyisopropyl)benzene, dicumyl peroxide, di-t-hexyl peroxide,2,5-dimethyl-2,5-di(t-butylperoxy)hexane-3, t-butylcumyl peroxide, di-t-butylperoxide, p-menthane hydroperoxide, 2,5-dimethyl-2,5-di(t-butylperoxy)hexane,3,5-diisopropylbenzene hydroperoxide, 1,1,3,3-tetramethylbutyl hydroperoxide,cumene hydroperoxide, t-butyl hydroperoxide, 2,3-dimethyl-2,3-diphenylbutaneand the like. These organic peroxides are available for purchase from AkzoNobel N.V., GEO Specialty Chemicals, Inc., Arkema Inc., NOF Co., Kayaku AkzoCo., Ltd. and the like. These may be used solely or in a combination with twoor more ones.」
(「【0054】
熱ラジカル開始剤としては、特に限定はされないが、例えば、ジイソブチルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカノエート、ジ-n-プロピルパーオキシカーボネート、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカルボネート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシピバレート、ジ(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジコハク酸パーオキサイド、2,5-ジメチルー2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t-ヘキシルパーオキシー2-エチルヘキサノエート、ジ(4-メチルベンゾイル)パーオキサイド、t-ブチルパーオキシー2-エチルヘキサノエート、ジベンゾイルパーオキサイド、1,1ージ(t-ブチルパーオキシ)-2-メチルシクロヘキサン、1,1-ジ(t-ヘキシル-パーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)-シクロヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ジ(4,4-ジ-(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキシル)プロパン、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシ-イソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5-ジ-メチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)へキサン、t-ブチルパーオキシアセテート、2,2-ジ(t-ブチルパーオキシ)ブタン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、n-ブチル-4,4-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ヴァレレート、ジ(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン,ジクミルパーオキサイド、ジーt-ヘキシルパーオキサイド、2,5-ジメチルー2,5ージ(t-ブチルパーオキシ)へキサン-3、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、p-メンタンヒドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)へキサン、3,5-ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、t-ブチルヒドロパーオキサイド、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン等が挙げられる。これらの有機過酸化物は、アクゾノーベル株式社、ゲオスペシャリティケミカルズ社、アルケマ株式会社、日油株式会社、化薬アクゾ株式会社等から購入できる。これらは、単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。」)

「CLAIMS
1. An adhesivecomposition for a pre-applied underfill sealant comprising:
(a) a radicalpolymerizable monomer having one or more functional groups selected from thegroup consisting of vinyl group, maleimide group, acryloyl group, methacryloylgroup and allyl group,
(b) a polymerhaving a polar group,
(c) a filler,and
(d) a thermalradical initiator.」
(「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ビニル基、マレイミド基、アクリロイル基、メタクリロイル基およびアリル基からなる群から選ばれる1以上の官能基を有するラジカル重合性モノマーと、
(b)極性基を有するポリマーと、
(c)フィラーと、
(d)熱ラジカル開始剤と、
を含むプリアプライドアンダーフィル材用の接着剤組成物。」)

文献2には、請求項1の記載も参酌すると、以下の発明(以下「引用発明b」という。)が記載されていると認められる。

「(a)ビニル基、マレイミド基、アクリロイル基、メタクリロイル基およびアリル基からなる群から選ばれる1以上の官能基を有するラジカル重合性モノマーと、
(b)極性基を有するポリマーと、
(c)フィラーと、
(d)熱ラジカル開始剤と、
を含むプリアプライドアンダーフィル材用の接着剤組成物であって、
ラジカル重合性モノマーあたりの官能基数は、特に限定はされないが、2官能のラジカル重合性モノマーを用いることが好ましく、
ラジカル重合性モノマーは1種類のみ用いても、2種類以上を併用してもよく、
2官能のラジカル重合性モノマーに加えて、必要に応じて、単官能ラジカル重合性モノマーおよび/または3以上の官能基を有するラジカル重合性モノマーを用いてもよく、
2以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、ヘキサンジオールジメタクリレート、ヒドロキシアクリロイロキシプロピルメタクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ビスフェノールA型エポキシアクリレート、変性エポキシアクリレート、脂肪酸変性エポキシアクリレート、アミン変性ビスフェノールAタイプエポキシアクリレート、アリルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、9,9-ビス(4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル)フルオレン、トリシクロデカンジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、PO変性ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、1,12-ドデカンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ジペンタエリストールポリアクリレート、ジペンタエリストールヘキサアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリアクリレート、ポリエーテルトリアクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、モノペンタエリスリトールアクリレート、ジペンタエリスリトールアクリレート、トリペンタエリスリトールアクリレート、ポリペンタエリスリトールアクリレートが挙げられ、
特に2以上のアクリロイル基および/またはメタクリロイル基を有するモノマーが含まれることが好ましく、
フィラーとして、絶縁性無機フィラーまたは導電性無機フィラーのいずれかを含む、プリアプライドアンダーフィル材用の接着剤組成物。」

(3)当審の判断
新規性(特許法第29条第1項第3号)について
(ア)本件発明1について
a 本件発明1と引用発明aとを対比する。
(a)引用発明aのアクリル樹脂組成物は、「回路基板の電極パッドを有する面に封止樹脂を供給した後、半導体チップのバンプ電極と前記回路基板の電極パッドとの位置を合わせて前記半導体チップを配置し加熱することにより、前記半導体チップと前記回路基板との電気的接続および前記封止樹脂の硬化を同時に行う際に、前記封止樹脂として使用される」ものであるから、本件発明1の「先供給型アンダーフィル材」に相当する。

(b)引用発明aにおいて、「熱硬化性アクリル樹脂に使用される成分」として挙げられている化合物のうち、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート(CAS No.1680-21-3)、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ジシクロペンタジエニルジアクリレート(トリシクロデカンジメタノールジアクリレート)は、それぞれ順に、分子量が、198.22、226、214.22、258.27、286.32、302.32、304であり(必要であれば、https://www.Chmeicalbook.com、ダイセル・オルネクス株式会社のホームページ「アクリレートモノマー」「ウレタンアクリレート」、新中村化学工業株式会社ホームページの製品一覧の「光硬化性モノマー・オリゴマー」などを参照。)、いずれも官能基数が2のラジカル重合性化合物であるから、官能基当量は250未満である。これらのうち、ジシクロペンタジエニルジアクリレート(トリシクロデカンジメタノールジアクリレート)は脂環を有し、それ以外は脂環を有さない。
また、上記の化合物のうち、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートは、いずれも官能基数が2のラジカル重合性化合物であり、分子量はエチレングリコールとプロピレングリコールの重合度nにより異なり、例えば、ポリエチレングリコールジアクリレートの場合、n=4は分子量が308、n=9は分子量が509、n=14は分子量が708であるから、官能基当量が250未満のものと250?1300のものとが含まれる。
したがって、本件発明1と引用発明aとは、「ラジカル重合性化合物」を含有し、「前記ラジカル重合性化合物は、官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物と、官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物とのいずれか又は両者を含むものであってもよく、前記官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物が脂環を有する(メタ)アクリレート化合物を含むものであってもよい」点で共通する。

(c)また、引用発明aの「ラジカル開始剤」、「無機充填剤」は、それぞれ本件発明1の「ラジカル重合開始剤」、「無機充填材」に相当する。

(d)したがって、本件発明1と引用発明aとの一致点と相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「ラジカル重合性化合物、ラジカル重合開始剤、及び無機充填材を含有し、前記ラジカル重合性化合物は、官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物と、官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物とのいずれか又は両者を含むものであってもよく、前記官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物が脂環を有する(メタ)アクリレート化合物を含むものであってもよい、先供給型アンダーフィル材。」
<相違点>
<相違点1>
ラジカル重合性化合物について、本件発明1は、「官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物と、官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物」とを含み、「前記官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物が脂環を有する(メタ)アクリレート化合物」を含み、「前記官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物は、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(β-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのトリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート(メタ)アクリレート、及びウレタン(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種」を含むのに対し、引用発明aでは、「熱硬化性アクリル樹脂に使用される成分」について、本件発明1の上記のような特定はなされていない点。

b そうすると、本件発明1が引用発明aであるということも、文献1に記載された発明であるということもできない。

(イ)本件発明2、4?6について
本件発明2、4?6は、本件発明1を引用する発明であり、本件発明1と同一の構成を備えるものであるから、本件発明1と同じ理由により、本件発明2、4?6が引用発明aであるということも、文献1に記載された発明であるということもできない。

進歩性(特許法第29条第2項)について(その1)
(ア)本件発明1について
a 本件発明1と引用発明aとを対比すると、一致点と相違点は、上記ア(ア)a(d)のとおりである。

b 次に、上記ア(ア)a(d)の相違点について検討する。
(a)まず、<相違点1>における、本件発明1では、ラジカル重合性化合物は、「官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物と、官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物」とを含み、「前記官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物が脂環を有する(メタ)アクリレート化合物」を含むのに対し、引用発明aでは、「熱硬化性アクリル樹脂に使用される成分」について、そのような特定はなされていない点(以下、「相違点1-1」という。)について検討する。

引用発明aにおいて、「熱硬化性アクリル樹脂に使用される成分としては、2個以上の(メタ)アクリロイル基を持つ化合物が好ましく」、「2個の(メタ)アクリロイル基を持つ化合物」として、多数の化合物が挙げられており、「2個以上の(メタ)アクリロイル基を持つ化合物」として、「次式(I)または(II)で表わされる架橋多環構造を有する(メタ)アクリレートが好ましく」、また、「次式(III)または(IV)で表わされる、ビスフェノール骨格にアルキレンオキサイドが付加された構造を有するジ(メタ)アクリレートが好まし」いものである。

そして、上記ア(ア)a(b)で検討したように、引用発明aにおいて挙げられた多数の化合物には、官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物と、官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物とが含まれるものの、このような例示された多数の化合物から、官能基当量が250?1300のものと250未満のものとを選択し、更に、官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物として脂環を有するもの、例えば、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(審決注:「トリシクロデカンジメチロールジアクリレート」の別名)を選択する動機付けはない。
したがって、引用発明aにおいて、熱硬化性アクリル樹脂に使用される成分として、相違点1-1に係る本件発明1の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことでない。

(b)次に、<相違点1>における、本件発明1では、「前記官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物は、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(β-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのトリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート(メタ)アクリレート、及びウレタン(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種」を含むのに対し、引用発明aでは、「熱硬化性アクリル樹脂に使用される成分」について、そのような特定はなされていない点(以下、「相違点1-2」という。)について検討する。

上記ア(ア)a(b)で検討したように、引用発明aにおいて挙げられた多数の化合物には、官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物が含まれるものの、このような例示された多数の化合物から、官能基当量が250?1300のもので、かつ、本件発明1に含まれるもの、例えば、ポリエチレングリコールジアクリレート又はポリプロピレングリコールジアクリレートを選択し、更に、ポリエチレングリコールジアクリレート又はポリプロピレングリコールジアクリレートであって、官能基当量が250?1300ものを選択する動機付けはない。
したがって、引用発明aにおいて、熱硬化性アクリル樹脂に使用される成分として、相違点1-2に係る本件発明1の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことでない。

(c)そして、本件発明1によれば、高温領域での硬化反応の速度が速く、一方で中温領域においては優れた熱安定性を有して反応の開始が抑制され、且つ硬化収縮が抑えられる先供給型アンダーフィル材が提供されるとの格別の効果を奏するものであるから、仮に、引用発明aにおいて、相違点1-1及び相違点1-2に係る本件発明1の構成を採用し得たとしても、その結果として、上記の格別な効果を得られることを、当業者が予測し得たとは到底認められない。

c したがって、本件発明1は、引用発明aに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)本件発明2?6について
本件発明2?6は本件発明1を引用する発明であり、本件発明2?6も、本件発明1と同一の構成を備えるものであるから、本件発明1と同じ理由により、本件発明1は、引用発明aに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

進歩性(特許法第29条第2項)について(その2)
(ア)本件発明1について
a 本件発明1と引用発明bとを対比する。
(a)引用発明bの「ラジカル重合性モノマー」、「熱ラジカル開始剤」、「プリアプライドアンダーフィル材用の接着剤組成物」は、それぞれ、本件発明1の「ラジカル重合性化合物」、「ラジカル重合開始剤」、「先供給型アンダーフィル材」に相当する。

(b)引用発明bにおいて、「ラジカル重合性モノマーは1種類のみ用いても、2種類以上を併用してもよく、2官能のラジカル重合性モノマーに加えて、必要に応じて、単官能ラジカル重合性モノマーおよび/または3以上の官能基を有するラジカル重合性モノマーを用いてもよく」、「2以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物」としては、多数の(メタ)アクリレート化合物が挙げられており、例えば、2以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、ウレタンアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ジペンタエリストールヘキサアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレートなど、が挙げられ、このうち、ウレタンアクリレートは、官能基当量が250?1300であり、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ジペンタエリストールヘキサアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレートは、官能基当量が250未満であり、ポリプロピレングリコールジアクリレートの官能基当量は、ポリピロピレングリコールの重合度により異なり、官能基当量が250未満のものと250?1300のものとが含まれる(必要であれば、https://www.Chmeicalbook.com、ダイセル・オルネクス株式会社のホームページ「アクリレートモノマー」「ウレタンアクリレート」、新中村化学工業株式会社ホームページの製品一覧の「光硬化性モノマー・オリゴマー」などを参照。)。
したがって、本件発明1と引用発明bとは、「ラジカル重合性化合物」を含有し、「前記ラジカル重合性化合物は、官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物と、官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物とのいずれか又は両者を含むものであってもよい」点で共通する。

(c)引用発明bにおいて、フィラーは、「絶縁性無機フィラーまたは導電性無機フィラーのいずれかを含み、絶縁性無機フィラーとしては特に二酸化珪素が好ましい」であるから、本件発明1の「無機充填材」に相当する。

(d)そうすると、本件発明1と引用発明bとの一致点と相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「ラジカル重合性化合物、ラジカル重合開始剤、及び無機充填材を含有し、前記ラジカル重合性化合物は、官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物と、官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物とのいずれか又は両者を含むものであってもよい、先供給型アンダーフィル材。」
<相違点>
<相違点2>
ラジカル重合性化合物について、本件発明1は、「官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物と、官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物」とを含み、「前記官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物が脂環を有する(メタ)アクリレート化合物」を含み、「前記官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物は、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(β-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのトリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート(メタ)アクリレート、及びウレタン(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種」を含むのに対し、引用発明bでは、「ラジカル重合性モノマー」について、本件発明1の上記のような特定はなされていない点。

b 上記相違点について検討する。
(a)まず、<相違点2>における、本件発明1では、ラジカル重合性化合物は、「官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物と、官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物」とを含み、「前記官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物が脂環を有する(メタ)アクリレート化合物」を含むのに対し、引用発明bでは、「ラジカル重合性モノマー」について、そのような特定はなされていない点(以下、「相違点2-1」という。)について検討する。

引用発明bにおいて、「ラジカル重合性モノマーあたりの官能基数は、特に限定はされないが、2官能のラジカル重合性モノマーを用いることが好ましく、ラジカル重合性モノマーは1種類のみ用いても、2種類以上を併用してもよく、2官能のラジカル重合性モノマーに加えて、必要に応じて、単官能ラジカル重合性モノマーおよび/または3以上の官能基を有するラジカル重合性モノマーを用いてもよく」、「2以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物」として、多数の化合物が挙げられている。

そして、上記ア(ア)a(b)で検討したように、引用発明bにおいて挙げられた多数のラジカル重合性モノマーには、官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物と、官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物とが含まれるものの、このような例示された多数のラジカル重合性モノマーから、官能基当量が250?1300のものと250未満のものとを選択し、更に、官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物として脂環を有するもの、例えば、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(審決注:「トリシクロデカンジメチロールジアクリレート」の別名)を選択する動機付けはない。
したがって、引用発明bにおいて、ラジカル重合性モノマーとして、相違点2-1に係る本件発明1の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことでない。

(b)次に、<相違点2>における、本件発明1では、「前記官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物は、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(β-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのトリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート(メタ)アクリレート、及びウレタン(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種」を含むのに対し、引用発明bでは、「ラジカル重合性モノマー」について、そのような特定はなされていない点(以下、「相違点2-2」という。)について検討する。

上記ア(ア)a(b)で検討したように、引用発明bにおいて挙げられた多数のラジカル重合性モノマーには、官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物が含まれるものの、このような例示された多数のラジカル重合性モノマーから、官能基当量が250?1300のもので、かつ、本件発明1に含まれるもの、例えば、ウレタンアクリレートを選択するか、あるいは、ポリプロピレングリコールジアクリレートを選択し、更に、ポリプロピレングリコールジアクリレートを選択した場合は、官能基当量が250?1300ものを選択する動機付けはない。
したがって、引用発明bにおいて、熱硬化性アクリル樹脂に使用される成分として、相違点2-2に係る本件発明1の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことでない。

(c)そして、本件発明1によれば、高温領域での硬化反応の速度が速く、一方で中温領域においては優れた熱安定性を有して反応の開始が抑制され、且つ硬化収縮が抑えられる先供給型アンダーフィル材が提供されるとの格別の効果を奏するものであるから、仮に、引用発明bにおいて、相違点2-1及び相違点2-2に係る本件発明1の構成を採用し得たとしても、その結果として、上記の格別な効果を得られることを、当業者が予測し得たとは到底認められない。

c したがって、本件発明1は、引用発明bに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)本件発明2?6について
本件発明2?6は本件発明1を引用する発明であり、本件発明2?6も、本件発明1と同一の構成を備えるものであるから、本件発明1と同じ理由により、本件発明2?6は、引用発明bに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 特許異議申立人の意見について
(ア)特許異議申立人御園貴美代は、文献1には、訂正の請求により追加された請求項1の「前記官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物は、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(β-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのトリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート(メタ)アクリレート、及びウレタン(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種」(以下、特定(メタ)アクリレート化合物と称する。)に該当する、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、・・・、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、・・・トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート(段落0037)等が開示されている。これらの特定(メタ)アクリレート化合物は、当然に、(メタ)アクリレート化合物として選択可能な成分として例示されたものであるのだから、文献1において、上述したアクリル系モノマーを選択し、実施例に開示された成分と組み合わせる動機づけが存在しないとはいえない旨を主張する。

しかしながら、上記ア(ア)a(b)で検討したとおり、上記の「1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、・・・、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、・・・トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート(段落0037)等」には、官能基当量が250?1300のものと、250未満のものとが含まれ、官能基当量が250?1300の化合物は、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートであって、重合度が所定のもののみであるから、熱硬化性アクリル樹脂に使用される成分として、例示された多数の化合物から、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートを選択し、更に、官能基当量が250?1300のものを選択する動機付けがあるとはいえない。
よって、本件請求項1に係る発明は、文献1が開示する発明から、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

(イ)また、特許異議申立人御園貴美代は、同様に、文献2には特定(メタ)アクリレート化合物に該当する、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート(審決注:文献2の段落[0033]には、開示なし。)、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート(段落0030)、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート(段落0031)等が開示されている。これらの特定(メタ)アクリレート化合物は、当然に、アクリル系モノマーとして配合可能な成分として例示されたものであるのだから、文献2において、上述したアクリル系モノマーを選択し、実施例に開示された成分と組み合わせる動機づけが存在しないとはいえない旨を主張する。

しかしながら、上記ア(ア)a(b)で検討したとおり、上記の「ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート」は、官能基当量が250未満であるから、文献2において、熱硬化性アクリル樹脂に使用される成分として、例示された多数の化合物から、上述したアクリル系モノマーを選択したとしても、本件発明1に想到することはできない。
よって、本件請求項1に係る発明は、文献2が開示する発明から、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第17条の2第3項について
特許異議申立人御園貴美代は、特許異議申立書16?20頁において、平成30年7月9日付けの手続補正により、「前記官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物が脂環を有する(メタ)アクリレート化合物を含む」ことが規定されたが、本件特許明細書の実施例の開示から、「前記官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物が脂環を有する(メタ)アクリレート化合物を含む」という構成を導けるとは到底認められることではなく、また、仮に本件特許明細書の全ての記載を参照する場合、段落0053の開示を参照したとしても、明細書全体の記載から、「脂環を有する(メタ)アクリレート化合物」という構成を導くことは不可能であり、また、本件特許明細書の段落0049、0050等を参照したとしても、(官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物が)「脂環を有する(メタ)アクリレート化合物」について、出願当初の明細書等に記載されているに等しい事項であると認めることができない旨を主張している。
しかしながら、出願当初の明細書の段落【0036】には、多官能(メタ)アクリレート化合物として、「トリシクロデカンジメチロールジアクリレート」が挙げられており(2(2)ア(イ)を参照。)、段落【0171】には、実施例1?9に使用した成分として、「・アクリレート2:A-DCP(新中村鉱業(株)、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、官能基当量:169」が開示されている。トリシクロデカンジメチロールジアクリレート(別名トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート)は、脂環を有することが技術常識である。
したがって、「前記官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物が脂環を有する(メタ)アクリレート化合物を含む」という構成は、出願当初の明細書等に記載されているに等しい事項であるから、平成30年7月9日付けの手続補正による補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。
したがって、特許異議申立人御園喜美代のかかる主張は、採用することができない。

(2)特許法第29条第1項第3号について
・本件発明3について
特許異議申立人御園貴美代は、特許異議申立書20頁(4-4-1-3)において、本件特許明細書の段落0027、0135の記載等を参照すれば、「無機充填材」、「官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレートを少なくとも1種」を含む等の点で本件特許発明1の規定を満たす甲1発明は、本件特許発明3の規定を当然に満たすものと判断できる旨を主張している。
しかしながら、上記4(3)ア(ア)aで検討したとおり、本件発明1と引用発明a(文献1(甲第1号証)に記載された発明)とを対比すると、<相違点1>があり、本件発明3は、本件発明1を引用する発明であり、本件発明1と同一の構成を備えるものであるから、本件発明1と同じ理由により、本件発明3が引用発明aであるということも、文献1に記載された発明であるということもできない。
したがって、特許異議申立人御園喜美代のかかる主張は、採用することができない。

(3)特許法第29条第2項について(その3)(甲2発明との対比について)
特許異議申立人御園貴美代は、特許異議申立書において、以下のように主張している。
「(4-2-2) 甲第2号証
甲第2号証(特開201 1-037981号公報)の実施例1、9、10には、(メタ)アクリレート化合物として、官能基当量224.3である化合物A11(ターシャリブチルシクロヘキシルメタクリレート){官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物、且つ、脂環を有する(メタ)アクリレート化合物に該当}、官能基当量が約800である化合物A21 (ウレタンジメタクリレート化合物){官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物、に該当}、官能基当量が500である化合物A24 (ポリカーボネートジメタクリレート化合物){官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物、に該当}、及び、官能基当量が127である化合物A31(1, 6-ヘキサンジオールジメタクリレート){官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物、に該当}、ラジカル重合開始剤として、ジクミルパーオキサイド、無機充填材として、充填材(B)(フレーク状銀粉)、
等を含有する組成物が開示されている。
・・・(略)・・・
したがって、甲第2号証(特に、実施例9)には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が開示されている。
A. 「ラジカル重合性化合物」を含み。
B. 「ラジカル重合開始剤」を含み、
C. 「無機充填材」含み、
A1.「前記ラジカル重合性化合物は、官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物」を含み、
A2.「官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物」を含み、
A3.「前記官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物が脂環を有する(メタ)アクリレート化合物」を含み、
E. 「前記官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物と、前記官能基当量が250未満の(メク)アクリレート化合物との質量比が、1:1?1:10」であり、
G. 「前記ラジカル重合開始剤が、フェニル基を有する化合物を含む」こと」(異議申立書12?14頁)

「(4-4-2-2)本件特許発明1と甲2発明との対比
(4-4-2-1)本件特許発明1について
本件特許発明1について、甲2発明が「先供給型アンダーフィル材」に特定されていない点で甲2発明と本件特許発明1とは相違する。しかしながら、甲2発明は、「弾性率が低く低応力性に優れ、接着特性が良好でリフロー剥離耐性に優れる」(段落0009)ものであるから、このような樹脂組成物を、先供給型アンダーフィル材用とすることは容易である。
従って、本件特許発明1は、甲2発明に基づいて進歩性を有しない。」(異議申立書22頁)

しかしながら、本件発明1は、「先供給方式では、中温においては熱安定性が要求され、高温領域では速硬化性は要求されるという、相反する特性が求められる。」(本件特許明細書段落【0011】)、「そこで、本発明は、高温領域の硬化速度が速く、一方で中温領域では優れた熱安定を有して反応の開始が抑制され、且つ硬化収縮が抑えられる先供給型アンダーフィル材、並びにそれを用いる電子部品装置の製造方法及び電子部品装置を提供することを目的とする。」(同段落【0012】)ものであるところ、一方、甲第2号証に記載の発明は、「先供給型アンダーフィル材」に特定されていないから、当業者であっても、甲第2号証に記載の発明において、樹脂組成物を先供給型アンダーフィル材とする動機付けはない。
また、本件発明1によれば、高温領域での硬化反応の速度が速く、一方で中温領域においては優れた熱安定性を有して反応の開始が抑制され、且つ硬化収縮が抑えられる先供給型アンダーフィル材が提供されるとの、当業者が予測し得ない格別の効果を奏するものである。
したがって、本件特許発明1?6は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。

よって、特許異議申立人御園喜美代のかかる主張は、採用することができない。

(4)特許法第29条第2項について(その4)(甲3発明との対比について)
特許異議申立人御園貴美代は、特許異議申立書において、以下のように主張している。
「(4-2-3) 甲第3号証
甲第3号証(特開2009-164500号公報)の実施例2、4には、(メタ)アクリレート化合物として、官能基当量約500と推定されるホリカーボネートジアクリレート(審決注)「ポリカーボネートアクリレート」は誤記と認定した。){官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物、に該当}、官能基当量226である2-メタクリロイロキシエチルコハク酸 {官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物に該当}、官能基当量1 98である1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート{官能基当量が 250未満の(メタ)アクリレート化合物、且つ、脂環を有する(メタ)アクリレート化合物に該当}、官能基当量100強と推定されるプロピルジメタクリレート{官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物に該当}、ラジカル重合開始剤として、1-ジ(tert?ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(パーヘキサCS)、無機充填材として、銀粉
等を含有する組成物が開示されている。
・・・(略)・・・
したがって、甲第3号証(特に、実施例4)には、以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が開示されている。
A. 「ラジカル重合性化合物」を含み、
B. 「ラジカル重合開始剤」を含み、
C. 「無機充填材」含み、
A1.「前記ラジカル重合性化合物は、官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物」を含み、
A2.「官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物」を含み、
A3.「前記官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物が脂環を有する(メタ)アクリレート化合物」を含み、
E. 「前記官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物と、前記官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物との質量比が、1:1?1:10」であること。」(特許異議申立書14?15頁)

「 (4-4-2-3)本件特許発明1-6と甲3発明との対比
(4-4-2-3-1)本件特許発明1について
本件特許発明1について、甲3発明が「先供給型アンダーフィル材」に特定されていない点で甲3発明と本件特許発明1とは相違する。しかしながら、甲3発明は、「鉛フリー半田に用いられるような260℃の半田リフロー処理によっても耐半田クラック性に優れた接着剤層)(段落0007)を提供するものであるから、このような樹脂組成物を、先供給型アンダーフィル材用とすることは容易である。
従って、本件特許発明1は、甲3発明に基づいて進歩性を有しない。」(同23頁)

しかしながら、本件発明1は、「先供給方式では、中温においては熱安定性が要求され、高温領域では速硬化性は要求されるという、相反する特性が求められる。」(本件特許明細書段落【0011】)、「そこで、本発明は、高温領域の硬化速度が速く、一方で中温領域では優れた熱安定を有して反応の開始が抑制され、且つ硬化収縮が抑えられる先供給型アンダーフィル材、並びにそれを用いる電子部品装置の製造方法及び電子部品装置を提供することを目的とする。」(同段落【0012】)ものであるところ、一方、甲第3号証に記載の発明は、「先供給型アンダーフィル材」に特定されていないから、当業者であっても、甲第3号証に記載の発明において、樹脂組成物を先供給型アンダーフィル材とする動機付けはない。
また、本件発明1によれば、高温領域での硬化反応の速度が速く、一方で中温領域においては優れた熱安定性を有して反応の開始が抑制され、且つ硬化収縮が抑えられる先供給型アンダーフィル材が提供されるとの、当業者が予測し得ない格別の効果を奏するものである。
したがって、本件特許発明1?6は、甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。

よって、特許異議申立人御園喜美代のかかる主張は、採用することができない。

(5)特許法第36条第6項第1号について
ア 特許異議申立人御園貴美代は、特許異議申立書において、以下のように主張している。
「(4-5-1)サポート要件違反(特許法第36条第6項第1号違反)
(4-5-1-1)本件特許発明1について
本件特許発明1は、以下の構成要件を含む。
A1.前記ラジカル重合性化合物は、官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物と、
A2.官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物とを含み、
A3.前記官能基当量が250未満の(メク)アクリレート化合物が脂環を有する(メタ)アクリレート化合物を含む

しかしながら、本件特許明細書の実施例には、「官能基当量が250未満である(メタ)アクリレート化合物」としては、「トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、官能基当量:155」(アクリレート2)および「トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、官能基当量:169」(アクリレート3)が開示されているのみである。従って、「官能基当量が250未満である(メタ)アクリレート化合物」について、「官能基当量が250未満」とする官能基当量全ての範囲において発明の効果を奏するとは理解できず、また、当該官能基当量を満たす全ての構造の(メク)アクリレート化合物が発明の効果を奏するとは理解できない。
更に、本件特許明細書の実施例において、「脂環を有する(メタ)アクリレート化合物」は、「トリシクロデカンジメタノールジアクリレート」、「トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート」のみが開示されている。これらは、アクリレートとメタアクリレートという点で類似する化合物であり、「脂環」構造を有する(メタ)アクリレート化合物として、実質的に唯1つの化合物を開示しているのみといえる。また、明細書の全ての段落を参照しても、「脂環を有する(メク)アクリレート化合物」がどのように発明の効果を奏するかについては開示されていない。従って、「トリシクロデカンジメタノールジアクリレート」、「トリシクロデカンジメタノールジメククリレート」以外の全ての「脂環を有する(メタ)アクリレート化合物」が発明の効果を奏するとは理解できない。
なお、前述したように、本件特許権者が本件特許発明1の効果として指摘している段落0050は、単に、『分子内に長鎖の側鎖又は枝分れした嵩高い側鎖を有する』構造(「その骨格は特定するものではない」とまで記載されている。)によって本件特許発明の効果が得られることを開示するのみであり、「脂環」構造であるか否かとは無関係な記載である。従って、この段落0050を参照しても、「脂環」構造を有する(メタ)アクリレート化合物を使用した場合の作用機序やその効果について理解することはできないことを付言する。
また、本件特許明細書の実施例には、「官能基当量が250?1300である(メタ)アクリレート化合物」としては、(ウレタンアクリレート、官能基当量:650)」(アクリレート1)という1つの化合物が開示されているのみである。従って、「官能基当量が250?1300である(メタ)アクリレート化合物」について、「官能基当量が250?1300」とする官能基当量全ての範囲において発明の効果を奏するとは理解できず、また、当該官能基当量を満たす全ての構造の(メタ)アクリレート化合物が発明の効果を奏するとは理解できない。
また、本件特許明細書の段落0053には、「官能基当量が250?1300である(メク)アクリレート化合物は、官能基当量が250未満である(メタ)アクリレート化合物と併用することが好ましい。」との記載かおる。しかしながら、「官能基当量が250?1300である(メタ)アクリレート化合物」を「官能基当量が250未満である(メク)アクリレート化合物と併用」した場合に、どのような作用機序によって発明の効果が得られるかについてか何ら開示されていない。そのため、「官能基当量が250?1300である(メタ)アクリレート化合物」を「官能基当量が250未満である(メタ)アクリレート化合物と併用」することが、文言上明細書に記載されているにしても、上述した(ウレタンアクリレート、官能基当量:650)」(アクリレート1)と、「トリシクロデカンジメタノールジアクリレート」及び/又は「トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート」と、の組み合わせ以外についてまで、発明の効果を奏するとは理解できない。

更に、上述したように、「官能基当量が250?1300である(メク)アクリレート化合物」を「官能基当量が250未満である(メク)アクリレート化合物と併用」した場合に、どのような作用機序によって発明の効果が得られるかについてか何ら開示されていない。そのため、「官能基当量が250未満の(メク)アクリレート化合物」を、微量又は大量に含有させた場合でも(実施例で具体的に開示されていない範囲の含有量とした場合でも)、発明の効果を奏するとは理解できない。
以上説明したように、本件特許発明1はサポート要件を満たしているとはいえない。
また、本件特許発明1を引用する本件特許発明2-6も同様に、サポート要件を満たすとはいえない。」(特許異議申立書24?26頁)

イ(ア)本件発明1?6の課題について
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、本願発明の課題は、「高温領域の硬化速度が速く、一方で中温領域では優れた熱安定を有して反応の開始が抑制され、且つ硬化収縮が抑えられる先供給型アンダーフィル材、並びにそれを用いる電子部品装置の製造方法及び電子部品装置を提供すること」にあると理解される。

(イ)発明の詳細な説明について
本件特許明細書には、以下のように記載されている。
「【0048】
本発明では、応力緩和性に優れ、接着力がより向上する観点から、官能基当量が100?1300であるラジカル重合性化合物を1種以上含むことが好ましく、官能基当量が250?1300であるラジカル重合性化合物を1種以上含むことがより好ましく、官能基当量が250?800であるラジカル重合性化合物を1種以上含むことが更に好ましく、中温領域における熱安定性及び接着力の観点から官能基当量が300?700であるラジカル重合性化合物を1種以上含むことが特に好ましい。
【0049】
一般的に、官能基当量の数値が高いほど、硬化反応によって形成された架橋構造は疎になり応力緩和性は向上するが、熱時の接着性は応力緩和性とトレードオフの関係にあるため、低下する傾向にある。また官能基数が少ない場合も同様である。応力緩和性と優れた接着性を両立する観点から、ラジカル重合性化合物の官能基数は1以上であることが好ましく、2又は3であることがより好ましい。これにより、応力緩和に優れ、且つ優れた接着性を有する先供給型熱硬化アンダーフィル材が得ることができる。
【0050】
ここで、官能基当量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定された1分子の重量平均分子量を不飽和二重結合の数で割ったものと定義する。その範囲に収まる分子であればその骨格は特定するものではない。官能基当量が上記の範囲内であるラジカル重合性化合物は、例えば、末端に官能基を有し、かつ、分子内に長鎖の主鎖を有する化合物、及び分子内に長鎖の側鎖又は枝分れした嵩高い側鎖を有する化合物が挙げられる。官能基当量が上記数値範囲内にあるラジカル重合性化合物を用いた場合、光又は熱による硬化反応によって形成された架橋構造が疎になる。末端に官能基を有し、かつ、分子内に長鎖の主鎖を有する化合物を用いた場合、官能基が末端にあるため反応点間が長くなり、これにより形成された架橋構造では応力が緩和される傾向にある。また、長い側鎖、嵩高い側鎖が存在することで、それらの周りに空間が生じ、形成された架橋構造において密な部分と疎な部分が生じる。これにより応力が緩和される傾向にある。このため、官能基当量が100?1300であるラジカル重合性化合物を含む先供給型アンダーフィル材は、応力緩和性に優れ、接着力がより向上する。」
「【0053】
官能基当量が250?1300である(メタ)アクリレート化合物は、官能基当量が250未満である(メタ)アクリレート化合物と併用することが好ましい。官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物と、官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物との質量比(官能基当量250?1300の(メタ)アクリレート化合物:官能基当量250未満の(メタ)アクリレート化合物)は、1:1?1:10であることが好ましく、1:2?1:9であることがより好ましく、3:7?1:4が更に好ましい。」
「【0170】
[実施例1?9及び比較例1?2]
実施例及び比較例に使用した成分は以下の通りである。尚、表1及び2中、「-」は、その成分を含有しないことを意味する。
【0171】
・アクリレート1:UA-4200(新中村化学工業(株)、ウレタンアクリレート、官能基当量:650)
・アクリレート2:A-DCP(新中村化学工業(株)、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、官能基当量:155)
・メタクリレート3:DCP(新中村化学工業(株)、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、官能基当量:169)」

(ウ)判断
発明の詳細な説明には、実施例として、「官能基当量が250?1300である(メタ)アクリレート化合物」としてのアクリレート1と、「官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物」であって、「脂環を有する(メタ)アクリレート化合物」としてのアクリレート2及びメタクリレート3を含む先供給型アンダーフィル材が記載されている。
そして、本件の出願時の技術常識に照らして、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート及びトリシクロデカンジメタノールジメタクリレートが脂環を有することは自明な事項である。

一方、本件特許明細書段落【0048】?【0050】、【0053】の記載を勘案すると、「官能基当量が250?1300である(メタ)アクリレート化合物」は、応力緩和性に優れ、接着力がより向上するところ、「官能基当量が250未満である(メタ)アクリレート化合物」は、官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物よりも熱時の接着性が高いと理解できるから、本件発明1において、「官能基当量が250?1300である(メタ)アクリレート化合物」に、「官能基当量が250未満である(メタ)アクリレート化合物」を併用することにより、熱時の接着性をより優れたものとする、すなわち、高温領域の硬化速度を速くすることができると理解できる。

そうすると、本件発明1?6に含有される実施例以外の態様においても、前記発明の課題を解決できるといえると考えるべきである。
すなわち、発明の詳細な説明の記載から、本件発明1?6において特定される範囲においてまで、本件発明1?6の課題が解決されることを、発明の詳細な説明の記載及び本願の出願時の技術常識からは理解することができる。
したがって、特許請求の範囲の請求項1?6の記載は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件の出願時の技術常識に照らして、当業者が本件特許明細書に記載された本件発明1?6の課題を解決できると認識できる範囲を超えておらず、サポート要件に適合するというべきであり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

よって、特許異議申立人御園喜美代のかかる主張は、採用することができない。

(4)特許法第36条第4項第1号について
ア 特許異議申立人御園貴美代は、特許異議申立書において、以下のように主張している。
「(4-5-2) 実施可能要件違反(特許法第36条第4項第1号違反)
本件特許発明3は、「先供給型アンダーフィル材の1mgを、縦7mm、横7mm、厚み625μmの大きさで表面にSiN層を有する半導体素子の前記SiN層上に供給し、前記半導体素子を260での熱板上にて10秒間加熱し冷却した後で、供給した前記先供給型アンダーフィル材が前記半導体素子に付着している」ものである。
しかし、本件特許明細書には、本件特許発明3に係る説明として、段落0135にて「本発明の先供給型アンダーフィル材において、より付着性を高める方策としては、無機充填材の含有率を調整して硬化収縮を抑えること、ラジカル重合性化合物にエポキシ基、水酸基、カルボキシ基、アミノ基等の官能基を導入して被着体への接着性を高めること、ラジカル重合性化合物の官能基当量を大きくすること、などが挙げられる。特に官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレートを少なくとも1種含むことで更にその付着力が向上し、半導体素子からの脱離がより困難となる傾向がある。」との記載が存在する。
しかしながら、この段落0135には、これらに開示された要素をどのような範囲とすれば、本件特許発明3の物性を満たすかについて何ら開示されていない。従って、この段落0135を参照したとしても、どのような先供給型アンダーフィル材とすれば上記物性を達成できるのかを理解できない。
したがって、本件特許発明3は、その明細書等に実施可能に記載されておらず、実施可能要件を満たすとはいえず、この本件特許発明3を引用する本件特許発明4?6も同様に、実施可能要件を満たすとはいえない。」(特許異議申立書27頁)

イ しかしながら、本件特許明細書の段落【0169】?【0193】には、【実施例】について記載されており、実施例1?9に使用した成分及び含有量が開示されている。無機充填剤についても、段落【0176】に、「・無機充填材:平均粒子径0.5μm、最大粒子径5μmでメタクリレートシランカップリング処理(3-メタクリロキシプロピル基を有するシランカップリング剤により処理)された球状シリカ((株)アドマテックス社、商品名:SE-2050-SMJ)」と記載されており、【表1】にその含有割合(質量%)が示されている。
したがって、実施例のような、先供給型アンダーフィル材とすれば、本件発明3の物性を達成できることを理解できる。
よって、特許異議申立人御園喜美代のかかる主張は、採用することができない。

6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性化合物、ラジカル重合開始剤、及び無機充填材を含有し、前記ラジカル重合性化合物は、官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物と、官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物とを含み、前記官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物が脂環を有する(メタ)アクリレート化合物を含み、
前記官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物は、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(β-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのトリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート(メタ)アクリレート、及びウレタン(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種を含む、先供給型アンダーフィル材。
【請求項2】
前記官能基当量が250?1300の(メタ)アクリレート化合物と、前記官能基当量が250未満の(メタ)アクリレート化合物との質量比が、1:1?1:10である、請求項1に記載の先供給型アンダーフィル材。
【請求項3】
先供給型アンダーフィル材の1mgを、縦7mm、横7mm、厚み625μmの大きさで表面にSiN層を有する半導体素子の前記SiN層上に供給し、前記半導体素子を260℃の熱板上にて10秒間加熱し冷却した後で、供給した前記先供給型アンダーフィル材が前記半導体素子に付着している、請求項1又は請求項2に記載の先供給型アンダーフィル材。
【請求項4】
前記ラジカル重合開始剤が、フェニル基を有する化合物を含む、請求項1?請求項3のいずれか一項に記載の先供給型アンダーフィル材。
【請求項5】
電子部品と配線基板とを接合部を介して電気的に接合することで電子部品装置を製造する電子部品装置の製造方法であり、
前記電子部品における前記配線基板と対向する側の面及び前記配線基板における前記電子部品と対向する側の面からなる群より選択される少なくとも一方の面に、請求項1?請求項4のいずれか一項に記載の先供給型アンダーフィル材を供給する供給工程と、
前記電子部品と前記配線基板とを接合部を介して接合し、かつ前記先供給型アンダーフィル材を硬化する接合工程と、を含む、電子部品装置の製造方法。
【請求項6】
電子部品と、
前記電子部品と対向して配置され、前記電子部品に接合部を介して電気的に接合される配線基板と、
前記電子部品と前記配線基板との間に配置される、請求項1?請求項4のいずれか1項に記載の先供給型アンダーフィル材の硬化物と、
を有する、電子部品装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-03-05 
出願番号 特願2014-222957(P2014-222957)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01L)
P 1 651・ 536- YAA (H01L)
P 1 651・ 113- YAA (H01L)
P 1 651・ 537- YAA (H01L)
P 1 651・ 55- YAA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 堀江 義隆  
特許庁審判長 加藤 浩一
特許庁審判官 恩田 春香
小田 浩
登録日 2019-01-11 
登録番号 特許第6459402号(P6459402)
権利者 日立化成株式会社
発明の名称 先供給型アンダーフィル材、電子部品装置及び電子部品装置の製造方法  
代理人 石井 豪  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  

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