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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C22C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C22C
管理番号 1361485
異議申立番号 異議2019-701060  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-05-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-12-25 
確定日 2020-03-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第6539352号発明「真空ろう付け用の複層ろう付けシート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6539352号の請求項1?17に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6539352号(請求項の数17。以下,「本件特許」という。)は,2016年(平成28年)2月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理:2015年(平成27年)2月26日,米国(US))を国際出願日とする特許出願(特願2017-545287号)に係るものであって,令和1年6月14日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は,令和1年7月3日である。)。
その後,令和1年12月25日に,本件特許の請求項1?17に係る特許に対して,特許異議申立人である黒野美穂(以下,「申立人」という。)により,特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?17に係る発明は,本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」等という。また,本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

【請求項1】
複層シート材料であって,
0.1?2.0重量%のSiと,最大0.7重量%のFeと,0.1?2.0重量%のCuと,0.8?1.8重量%のMnと,0.05?1.2重量%のMgと,最大0.10重量%のCrと,最大0.10重量%のZnと,0.10?0.20重量%のTi及び0.10?0.20重量%のZrの一種又は二種と,を含み,残部Al及び不純物である3XXXアルミニウム合金からなるコア層と,
前記コア層の第1の側に接合された5XXXアルミニウム合金からなる第1中間ライナー層と,
前記第1中間ライナー層の遠位側である,前記コア層の第2の側に接合された5XXXアルミニウム合金からなる第2中間ライナー層と,
前記第1中間ラーナー層の前記コア層遠位側に接合された4XXXアルミニウム合金からなる第1ろう付け層と,
前記第2中間ライナー層の前記コア層遠位側に接合された4XXXアルミニウム合金からなる第2ろう付け層と,を含み,
前記第1ろう付け層が0.16?2.5重量%のMgを含み,前記第2ろう付け層が0.1?2.5重量%のMgを含み,前記第1ろう付け層及び前記第2ろう付け層は,最大0.2重量%のZnを含んでおり,
前記第1中間ライナー層及び前記第2中間ライナー層が,0.1?0.40重量%のSiと,0.1?0.5重量%のFeと,最大0.05重量%のCuと,最大0.3重量%のMnと,0.1?1.10重量%のMgと,最大0.05重量%のCrと,最大0.05重量%のZnと,0.01?0.2重量%のTiと,を含み,残部アルミニウム及び不純物であるアルミニウム合金から形成される,複層シート材料。
【請求項2】
複層シート材料であって,
0.05?2.0重量%のSiと,最大0.7重量%のFeと,0.1?2.0重量%のCuと,0.8?1.6重量%のMnと,0.05?1.2重量%のMgと,最大0.10重量%のCrと,最大0.10重量%のZnと,0.10?0.20重量%のTi及び0.10?0.20重量%のZrの一種又は二種と,を含み,残部Al及び不純物である3XXXアルミニウム合金からなるコア層と,
前記コア層の第1の側に接合された5XXXアルミニウム合金からなる第1中間ライナー層と,
前記第1中間ライナー層の遠位側である,前記コア層の第2の側に接合された5XXXアルミニウム合金からなる第2中間ライナー層と,
前記第1中間ラーナー層の前記コア層遠位側に接合された4XXXアルミニウム合金からなる第1ろう付け層と,
前記第2中間ライナー層の前記コア層遠位側に接合された4XXXアルミニウム合金からなる第2ろう付け層と,を含み,
前記第1ろう付け層及び前記第2ろう付け層が,最大0.2重量%のZnを含み,
前記第1中間ライナー層及び前記第2中間ライナー層が,0.1?0.40重量%のSiと,0.1?0.5重量%のFeと,最大0.05重量%のCuと,最大0.3重量%のMnと,0.1?1.10重量%のMgと,最大0.05重量%のCrと,最大0.05重量%のZnと,0.01?0.2重量%のTiと,を含み,残部アルミニウム及び不純物であるアルミニウム合金から形成される,複層シート材料。
【請求項3】
複層シート材料であって,
0.1?2.0重量%のSiと,最大0.7重量%のFeと,0.1?2.0重量%のCuと,0.8?1.8重量%のMnと,0.05?1.2重量%のMgと,最大0.10重量%のCrと,最大0.10重量%のZnと,0.10?0.20重量%のTi及び0.10?0.20重量%のZrの一種又は二種と,を含み,残部Al及び不純物である3XXXアルミニウム合金からなるコア層と
前記コア層の第1の側に接合された5XXXアルミニウム合金からなる第1中間ライナー層と,
前記第1中間ライナー層の遠位側である,前記コア層の第2の側に接合された5XXXアルミニウム合金からなる第2中間ライナー層と,
前記第1中間ラーナー層の前記コア層遠位側に接合された4XXXアルミニウム合金からなる第1ろう付け層と,
前記第2中間ライナー層の前記コア層遠位側に接合された4XXXアルミニウム合金からなる第2ろう付け層と,を含み,
前記第1ろう付け層及び前記第2ろう付け層が,最大0.2重量%のZnを含み,
前記第1中間ライナー層及び前記第2中間ライナー層が,0.1?0.40重量%のSiと,0.1?0.5重量%のFeと,最大0.05重量%のCuと,最大0.3重量%のMnと,0.1?1.10重量%のMgと,最大0.05重量%のCrと,最大0.05重量%のZnと,0.01?0.08重量%のTiと,を含み,残部アルミニウム及び不純物であるアルミニウム合金から形成される,複層シート材料。
【請求項4】
第2ろう付け層は,0.16?2.5重量%のMgを有する,請求項1の複層シート材料。
【請求項5】
コア層は,0.1?1.0重量%のSiと,最大0.6重量%のFeと,0.3?0.8重量%のCuと,1.0?1.6重量%のMnと,0.1?0.6重量%のMgと,最大0.03重量%のCrと,最大0.05重量%のZnと,0.1?0.2重量%のTiと,を含み,残部Al及び不純物である,請求項2の複層シート材料。
【請求項6】
コア層は,0.05?0.1重量%のSiと,0.1?0.2重量%のFeと,0.4?0.6重量%のCuと,1.0?1.3重量%のMnと,0.1?0.3重量%のMgと,0.002?0.006重量%のCrと,0.01?0.02重量%のZnと,0.15?0.18重量%のTiと,を含む,請求項2の複層シート材料。
【請求項7】
コア層は,0.5?0.9重量%のSiと,0.3?0.7重量%のFeと,0.4?0.7重量%のCuと,1.0?1.5重量%のMnと,0.2?0.5重量%のMgと,を含む,請求項5の複層シート材料。
【請求項8】
Znは不純物の量を超えない量で存在する,請求項1乃至3の何れかの複層シート材料。
【請求項9】
中間ライナー層の少なくとも1つは,0.2?0.4重量%のSiと,0.1?0.2重量%のFeと,0.01?0.04重量%のCuと,0.01?0.05重量%のMnと,0.3?0.5重量%のMgと,0.01?0.04重量%のCrと,0.01?0.04重量%のZnと,0.02?0.08重量%のTiと,を含む,請求項3の複層シート材料。
【請求項10】
中間ライナー層の少なくとも1つは,0.1?0.18重量%のSiと,0.13?0.2重量%のFeと,0.001?0.01重量%のCuと,0.001?0.005重量%のMnと,0.4?0.7重量%のMgと,0.001?0.006重量%のZnと,0.01?0.02重量%のTiと,を含む,請求項3の複層シート材料。
【請求項11】
中間ライナー層の少なくとも1つは,0.1?0.18重量%のSiと,0.13?0.2重量%のFeと,0.001?0.003重量%のCuと,0.001?0.005重量%のMnと,0.5?1.05重量%のMgと,0.001?0.005重量%のZnと,0.01?0.02重量%のTiと,を含む,請求項3の複層シート材料。
【請求項12】
第1ろう付け層は,9.0?11.0重量%のSiと,最大1.0重量%のFeと,0.1?0.3重量%のCuと,最大0.20重量%のMnと,0.5?2.5重量%のMgと,最大0.05重量%のZnと,を含み,残部Al及び不純物である,請求項1の複層シート材料。
【請求項13】
第2ろう付け層は,11.5?12.5重量%のSiと,0.1?0.3重量%のFeと,0.1?0.3重量%のCuと,0.01?0.1重量%のMnと,0.1?0.2重量%のMgと,0.001?0.01重量%のCrと,0.01?0.05重量%のZnと,0.01?0.02重量%のTiと,を含み,残部Al及び不純物である,請求項1の複層シート材料。
【請求項14】
第2ろう付け層は,11.5?12.5重量%のSiと,0.1?0.3重量%のFeと,0.1?0.3重量%のCuと,0.01?0.1重量%のMnと,0.1?0.2重量%のMgと,0.001?0.01重量%のCrと,0.01?0.05重量%のZnと,0.01?0.02重量%のTiと,を含み,残部Al及び不純物である,請求項12の複層シート材料。
【請求項15】
第1ろう付け層及び第2ろう付け層は,請求項14の第1ろう付け層及び第2ろう付け層である,請求項6の複層シート材料。
【請求項16】
第1ろう付け層及び第2ろう付け層は,請求項14の第1ろう付け層及び第2のろう付け層である,請求項7の複層シート材料。
【請求項17】
複層シート材料であって,
0.1?2.0重量%のSiと,最大0.7重量%のFeと,0.1?2.0重量%のCuと,0.8?1.8重量%のMnと,0.05?1.2重量%のMgと,最大0.10重量%のCrと,最大0.10重量%のZnと,0.10?0.20重量%のTi及び0.10?0.20重量%のZrの一種又は二種と,を含み,残部Al及び不純物である3XXXアルミニウム合金からなるコア層と,
前記コア層の第1の側に接合された5XXXアルミニウム合金からなる第1中間ライナー層と,
前記第1中間ライナー層の遠位側である,前記コア層の第2の側に接合された5XXXアルミニウム合金からなる第2中間ライナー層と,
前記第1中間ラーナー層の前記コア層遠位側に接合された4XXXアルミニウム合金からなる第1ろう付け層と,
前記第2中間ライナー層の前記コア層遠位側に接合された4XXXアルミニウム合金からなる第2ろう付け層と,を含み,
前記第1ろう付け層及び前記第2ろう付け層が,最大0.2重量%のZnを含み,
前記第1中間ライナー層及び前記第2中間ライナー層が,0.1?0.40重量%のSiと,0.1?0.5重量%のFeと,最大0.05重量%のCuと,最大0.3重量%のMnと,0.1?1.10重量%のMgと,最大0.05重量%のCrと,最大0.05重量%のZnと,0.01?0.2重量%のTiと,を含み,残部アルミニウム及び不純物であるアルミニウム合金から形成され,
前記第1及び前記第2のろう付け層のクラッド比は8?18%であり,前記第1及び前記第2の中間ライナー層のクラッド比は8?18%である,複層シート材料。

第3 特許異議の申立ての理由の概要
本件特許の請求項1?17に係る特許は,下記(1)?(4)のとおり,特許法113条2号及び4号に該当する。証拠方法として,下記(5)の甲第1号証?甲第3号証(以下,単に「甲1」等という。)を提出する。
(1)申立理由1(新規性)
本件発明2,3及び5?11は,甲1に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項2,3及び5?11に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(2)申立理由2(進歩性)
本件発明1?17は,甲1に記載された発明並びに甲1?3に記載された事項及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1?17に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(3)申立理由3(サポート要件)
本件発明1?11及び17については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではないから,本件特許の請求項1?11及び17に係る特許は,同法113条4号に該当する。
(4)申立理由4(明確性要件)
本件発明1?11及び17については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合するものではないから,本件特許の請求項1?11及び17に係る特許は,同法113条4号に該当する。
(5)証拠方法
・甲1 特表2011-520032号公報
・甲2 特開2000-225461号公報
・甲3 特開2001-269794号公報

第4 当審の判断
以下に述べるように,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?17に係る特許を取り消すことはできない。

1 申立理由1(新規性),申立理由2(進歩性)
(1)甲1に記載された発明
甲1の記載(請求項2,【0004】,【0067】,【0068】)によれば,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。

「第1のアルミニウム合金のコア層と,コア層の各側に配置される第2のアルミニウム合金の2層のバリア層と,各バリア層上に配置されるろう付クラッドと,を具える,ろう付用サンドイッチ材であって,
前記第1のアルミニウム合金が,重量%において,0.8?2%のMn,1.0%以下のMg,0.3?1.5%のSi,0.3%以下のTi,0.3%以下のCr,0.3%以下のZr,1.3%以下のCu,0.5%以下のZn,0.2%以下のIn,0.1%以下のSn及び0.7%以下の(Fe+Ni)を含有し,残部がAl及び0.05%以下の各々の不可避的不純物からなるコア層を構成し,
前記第2のアルミニウム合金が,重量%において,0.2%以下の(Mn+Cr),1.0%以下のMg,1.5%以下のSi,0.3%以下のTi,0.2%以下のZr,0.3%以下のCu,0.5%以下のZn,0.2%以下のIn,0.1%以下のSn及び1.5%以下の(Fe+Ni)を含有し,残部がAl及び0.05%以下の各々の不可避的不純物からなるバリア層を構成し,
ろう付クラッドが,高いシリコン含有量の合金である,5?12重量%のシリコン含有量を有する4XXX合金からなる,サンドイッチ材。」(以下,「甲1発明」という。)

(2)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「第1のアルミニウム合金のコア層」は,本件発明2における「アルミニウム合金からなるコア層」」に相当する。
甲1発明における「コア層の各側に配置される第2のアルミニウム合金の2層のバリア層」は,本件発明2における「前記コア層の第1の側に接合された」「アルミニウム合金からなる第1中間ライナー層」と,「前記第1中間ライナー層の遠位側である,前記コア層の第2の側に接合された」「アルミニウム合金からなる第2中間ライナー層」に相当する。
甲1発明における「高いシリコン含有量の合金である,5?12重量%のシリコン含有量を有する4XXX合金からなる」「各バリア層上に配置されるろう付クラッド」は,本件発明2における「前記第1中間ラーナー層の前記コア層遠位側に接合された4XXXアルミニウム合金からなる第1ろう付け層」と,「前記第2中間ライナー層の前記コア層遠位側に接合された4XXXアルミニウム合金からなる第2ろう付け層」に相当する。
甲1発明における「ろう付用サンドイッチ材」は,本件発明2における「複層シート材料」に相当する。
以上によれば,本件発明2と甲1発明とは,
「複層シート材料であって,
アルミニウム合金からなるコア層と,
前記コア層の第1の側に接合されたアルミニウム合金からなる第1中間ライナー層と,
前記第1中間ライナー層の遠位側である,前記コア層の第2の側に接合されたアルミニウム合金からなる第2中間ライナー層と,
前記第1中間ラーナー層の前記コア層遠位側に接合された4XXXアルミニウム合金からなる第1ろう付け層と,
前記第2中間ライナー層の前記コア層遠位側に接合された4XXXアルミニウム合金からなる第2ろう付け層と,を含み,
前記第1中間ライナー層及び前記第2中間ライナー層が,アルミニウム合金から形成される,複層シート材料。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点1
本件発明2では,コア層を構成するアルミニウム合金が,「0.05?2.0重量%のSiと,最大0.7重量%のFeと,0.1?2.0重量%のCuと,0.8?1.6重量%のMnと,0.05?1.2重量%のMgと,最大0.10重量%のCrと,最大0.10重量%のZnと,0.10?0.20重量%のTi及び0.10?0.20重量%のZrの一種又は二種と,を含み,残部Al及び不純物」である「3XXXアルミニウム合金」であるのに対して,甲1発明では,「重量%において,0.8?2%のMn,1.0%以下のMg,0.3?1.5%のSi,0.3%以下のTi,0.3%以下のCr,0.3%以下のZr,1.3%以下のCu,0.5%以下のZn,0.2%以下のIn,0.1%以下のSn及び0.7%以下の(Fe+Ni)を含有し,残部がAl及び0.05%以下の各々の不可避的不純物」である「第1のアルミニウム合金」である点。
・相違点2
本件発明2では,第1中間ライナー層及び第2中間ライナー層を構成するアルミニウム合金が,「0.1?0.40重量%のSiと,0.1?0.5重量%のFeと,最大0.05重量%のCuと,最大0.3重量%のMnと,0.1?1.10重量%のMgと,最大0.05重量%のCrと,最大0.05重量%のZnと,0.01?0.2重量%のTiと,を含み,残部アルミニウム及び不純物」である「5XXXアルミニウム合金」であるのに対して,甲1発明では,「重量%において,0.2%以下の(Mn+Cr),1.0%以下のMg,1.5%以下のSi,0.3%以下のTi,0.2%以下のZr,0.3%以下のCu,0.5%以下のZn,0.2%以下のIn,0.1%以下のSn及び1.5%以下の(Fe+Ni)を含有し,残部がAl及び0.05%以下の各々の不可避的不純物」である「第2のアルミニウム合金」である点。
・相違点3
本件発明2では,第1ろう付け層及び第2ろう付け層が,「最大0.2重量%のZn」を含むのに対して,甲1発明では,Znを含むかどうか不明であり,その含有量も不明である点。

イ 相違点1及び2の検討
事案に鑑み,相違点1及び2をまとめて検討する。
(ア)まず,相違点1及び2が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
a 本件明細書の記載(【0003】,【0053】?【0057】)によれば,本件発明2は,真空ろう付けプロセスにおいて,ろう付け炉の亜鉛汚染を回避するとともに,強度,耐食性,良好なロール圧接特性,良好なろう付け性,良好なエロージョン挙動をもたらす複層シート材料を提供するとの課題を解決するために,コア層,第1中間ライナー層及び第2中間ライナー層(以下,まとめて「中間ライナー層」という。),第1ろう付け層及び第2ろう付け層を含む複層シート材料において,コア層を構成するアルミニウム合金を,所定の組成を有する「3XXXアルミニウム合金」とするとともに,中間ライナー層を構成するアルミニウム合金を,所定の組成を有する「5XXXアルミニウム合金」とするものである。そして,それにより,真空ろう付けプロセスにおいて,ろう付け炉の亜鉛汚染を回避できるとともに,強度,耐食性,良好なロール圧接特性,良好なろう付け性,良好なエロージョン挙動をもたらす複層シート材料を提供できるという効果を奏するものである。
一方,甲1の記載(【0004】,【0006】,【0008】,【0009】,【0012】,【0016】)によれば,甲1発明は,ろう付金属からコアへのシリコンの浸透を減少させるとともに,低温及び高温におけるクリープ強度及び疲労強度を示すろう付用サンドイッチ材を提供するとの課題を解決するために,コア層,バリア層,ろう付クラッドを具えるろう付用サンドイッチ材において,コア層を構成するアルミニウム合金を,所定の組成を有する「第1のアルミニウム合金」とするとともに,バリア層を構成するアルミニウム合金を,所定の組成を有する「第2のアルミニウム合金」とするものである。そして,それにより,ろう付金属からコアへのシリコンの浸透を減少できるとともに,低温及び高温におけるクリープ強度及び疲労強度を示すろう付用サンドイッチ材を提供できるという効果を奏するものである。
以上のとおり,本件発明2と甲1発明とは,コア層及び中間ライナー層(バリア層)を構成する各アルミニウム合金の組成を特定することの技術的意義が異なるものである。

b(a)本件発明2におけるコア層を構成するアルミニウム合金と,甲1発明におけるコア層を構成するアルミニウム合金は,いずれも,成分としてSi,Fe,Cu,Mn,Mg,Cr,Zn,Ti,Zrを特定するものであるが,甲1発明は,上記成分のほかに,さらにIn,Sn,Niを特定するものである。
(b)甲1発明におけるコア層を構成するアルミニウム合金に含まれる成分のうち,Si,Mnは,含有量の下限値が特定されていることから,必須成分と解されるが,Si,Mn以外の成分については,含有量の上限値のみが特定されており,下限値が特定されていないこと,特にCu,Mg,Cr,Zn,In,Sn,Niについては,含まれない場合があること(甲1の表1及び表3における「コア合金」を参照)から,いずれも任意成分であると解される。
そうすると,甲1発明におけるコア層を構成するアルミニウム合金は,必須成分であるSi,Mn以外の,各種の任意成分の含有の有無の組み合わせにより,様々な組成のアルミニウム合金(例えば,必須成分であるSi,Mnのほかに,任意成分のいずれも含まないものや,任意成分のいずれか1種以上を含むもの,等)を包含するものといえる。
これに対して,本件発明2におけるコア層を構成するアルミニウム合金は,必須成分として,Si,Mnのほかに,少なくともCu,Mgを含むものであるが,In,Sn,Niを含むことを特定するものではない。
すなわち,本件発明2におけるコア層を構成するアルミニウム合金は,含まれる成分の種類の点では,甲1発明におけるコア層を構成するアルミニウム合金において,各種の任意成分のうち,少なくともCu,Mgを必須成分として含み,In,Sn,Niを含まないものに限定したものといえる。
(c)また,甲1発明におけるコア層を構成するアルミニウム合金に含まれる成分のうち,少なくともCr,Zn,Ti,Zrについては,含有量の上限値が,本件発明2で特定される上限値を超えるものである。
すなわち,本件発明2におけるコア層を構成するアルミニウム合金は,少なくとも上記各成分の含有量の点では,甲1発明におけるコア層を構成するアルミニウム合金において,より狭い範囲に限定したものといえる。
(d)以上のとおり,本件発明2におけるコア層を構成するアルミニウム合金は,含まれる成分の種類の点でも,各成分の含有量の点でも,甲1発明におけるコア層を構成するアルミニウム合金をより限定したものといえる。

c 上記bで述べたことは,以下に述べるように,中間ライナー層(バリア層)を構成するアルミニウム合金についても,当てはまるものである。
(a)本件発明2における中間ライナー層を構成するアルミニウム合金と,甲1発明におけるバリア層を構成するアルミニウム合金は,いずれも,成分としてSi,Fe,Cu,Mn,Mg,Cr,Zn,Tiを特定するものであるが,甲1発明は,上記成分のほかに,さらにZr,In,Sn,Niを特定するものである。
(b)甲1発明におけるバリア層を構成するアルミニウム合金に含まれる成分については,含有量の上限値のみが特定されており,下限値が特定されていないこと,特にCu,Mg,Cr,Zn,In,Sn,Niについては,含まれない場合があること(甲1の表1及び表3における「バリア層」を参照)から,いずれも任意成分であると解される。
そうすると,甲1発明におけるバリア層を構成するアルミニウム合金は,各種の任意成分の含有の有無の組み合わせにより,様々な組成のアルミニウム合金を包含するものといえる。
これに対して,本件発明2における中間ライナー層を構成するアルミニウム合金は,必須成分として,少なくともMgを含むものであるが,In,Sn,Niを含むことを特定するものではない。
すなわち,本件発明2における中間ライナー層を構成するアルミニウム合金は,含まれる成分の種類の点では,甲1発明におけるバリア層を構成するアルミニウム合金において,各種の任意成分のうち,少なくともMgを必須成分として含み,In,Sn,Niを含まないものに限定したものといえる。
(c)また,甲1発明におけるバリア層を構成するアルミニウム合金に含まれる成分のうち,少なくともSi,Fe,Cu,Cr,Zn,Tiについては,含有量の上限値が,本件発明2で特定される上限値を超えるものである。
すなわち,本件発明2における中間ライナー層を構成するアルミニウム合金は,少なくとも上記各成分の含有量の点では,甲1発明におけるバリア層を構成するアルミニウム合金において,より狭い範囲に限定したものといえる。
(d)以上のとおり,本件発明2における中間ライナー層を構成するアルミニウム合金は,含まれる成分の種類の点でも,各成分の含有量の点でも,甲1発明におけるバリア層を構成するアルミニウム合金をより限定したものといえる。

d そして,甲1には,本件発明2におけるコア層及び中間ライナー層を構成する各アルミニウム合金の組成を同時に満たす具体例(実施例)は記載されていない。

e そうすると,上記b,cのとおり,本件発明2におけるコア層及び中間ライナー層を構成する各アルミニウム合金は,含まれる成分の種類の点でも,各成分の含有量の点でも,甲1発明におけるコア層及びバリア層を構成する各アルミニウム合金をより限定したものといえる。
しかしながら,上記aのとおり,本件発明2と甲1発明とは,コア層及び中間ライナー層(バリア層)を構成する各アルミニウム合金の組成を特定することの技術的意義が異なること,また,上記dのとおり,甲1には,本件発明2におけるコア層及び中間ライナー層を構成する各アルミニウム合金の組成を同時に満たす具体例(実施例)が記載されていないことも踏まえると,甲1には,コア層及びバリア層を構成する各アルミニウム合金として,含まれる成分の種類の点でも,各成分の含有量の点でも,甲1発明をより限定した,相違点1及び2に係る所定の組成を有する「3XXXアルミニウム合金」及び「5XXXアルミニウム合金」が記載されているということはできない。
以上によれば,相違点1及び2は実質的な相違点である。
したがって,相違点3について検討するまでもなく,本件発明2は,甲1に記載された発明であるとはいえない。

(イ)次に,相違点1及び2の容易想到性について検討する。
上記(ア)aで述べたとおり,本件発明2と甲1発明とは,コア層及び中間ライナー層(バリア層)を構成する各アルミニウム合金の組成を特定することの技術的意義が異なるものである。
甲1のほか,甲2や甲3にも,甲1発明におけるコア層及びバリア層を構成する各アルミニウム合金として,含まれる成分の種類の点でも,各成分の含有量の点でも,甲1発明をより限定した,相違点1及び2に係る所定の組成を有する「3XXXアルミニウム合金」及び「5XXXアルミニウム合金」を用いることを動機付ける記載は見当たらず,また,そのようなことが技術常識(周知技術)であるともいえない。
そして,本件発明2は,上記(ア)aのとおり,真空ろう付けプロセスにおいて,ろう付け炉の亜鉛汚染を回避できるとともに,強度,耐食性,良好なロール圧接特性,良好なろう付け性,良好なエロージョン挙動をもたらす複層シート材料を提供できるという,当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである。
そうすると,甲1発明において,コア層及びバリア層を構成する各アルミニウム合金として,相違点1及び2に係る所定の組成を有する「3XXXアルミニウム合金」及び「5XXXアルミニウム合金」を用いることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,相違点3について検討するまでもなく,本件発明2は,甲1に記載された発明並びに甲1?3に記載された事項及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 小括
以上のとおり,本件発明2は,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明並びに甲1?3に記載された事項及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明3について
本件発明3と甲1発明とを対比すると,上記(2)アと同様に,両者は,コア層及び中間ライナー層(バリア層)を構成する各アルミニウム合金の組成の点で少なくとも相違するところ,この相違点については,上記(2)イで述べたのと同様の理由により,実質的な相違点であり,また,当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,本件発明3は,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明並びに甲1?3に記載された事項及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比すると,上記(2)アと同様に,両者は,コア層及び中間ライナー層(バリア層)を構成する各アルミニウム合金の組成の点で少なくとも相違するところ,この相違点については,上記(2)イで述べたのと同様の理由により,実質的な相違点であり,また,当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明並びに甲1?3に記載された事項及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)本件発明17について
本件発明17と甲1発明とを対比すると,上記(2)アと同様に,両者は,コア層及び中間ライナー層(バリア層)を構成する各アルミニウム合金の組成の点で少なくとも相違するところ,この相違点については,上記(2)イで述べたのと同様の理由により,実質的な相違点であり,また,当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,本件発明17は,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明並びに甲1?3に記載された事項及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6)本件発明4?16について
本件発明4?16は,本件発明1?3のいずれかを直接又は間接的に引用するものであるが,上記(2)?(4)で述べたとおり,本件発明1?3が,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明並びに甲1?3に記載された事項及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明4?16についても同様に,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明並びに甲1?3に記載された事項及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(7)まとめ
以上のとおり,本件発明2,3及び5?11は,いずれも,甲1に記載された発明であるとはいえない。
また,本件発明1?17は,いずれも,甲1に記載された発明並びに甲1?3に記載された事項及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,申立理由1(新規性),申立理由2(進歩性)によっては,本件特許の請求項1?17に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由3(サポート要件)
(1)申立人は,本件発明1の課題は,良好なろう付け性を得ることを含むものであり,ろう付け性には,ろう付け層の化学成分が直接的に影響するところ,本件発明1における第1ろう付け層及び第2ろう付け層の化学成分は,オープン形式で規定されているため,本件発明1に係る複層シート材料は,請求項1で規定されていない合金元素を制限なく添加できると解されるが,実際に本件明細書に開示された両者の化学成分の範囲は限られた範囲に絞られており,具体的開示のない合金元素を不可避的不純物以上に含有させても課題が解決できるか否かは,当業者であっても予測が困難であるから,ろう付け層の化学成分が無制限に広がる範囲を含む本件発明1は,発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであり,本件発明1はサポート要件を満たしていないと主張する。また,本件発明2?11及び17についても同様に主張する。(申立書44?46頁)

(2)しかしながら,本件発明1における第1ろう付け層及び第2ろう付け層は,請求項1に記載されるとおり,「4XXXアルミニウム合金」からなるものであるから,請求項1に規定されるMg及びZn以外の合金元素を含むとしても,「4XXXアルミニウム合金」において通常含まれる合金元素に限られると解されるものであり,何らの制限なく様々な合金元素を含むことが許容されるものではない。そして,「4XXXアルミニウム合金」からなるろう付け層であれば,その化学成分に応じて,相応の良好なろう付け性が得られることは,当業者であれば理解することができる。
そうすると,本件発明1における第1ろう付け層及び第2ろう付け層の化学成分が,オープン形式で規定されているとしても,そうであるからといって,本件発明1がサポート要件を満たしていないなどということはできない。また,本件発明2?11及び17についても同様である。
よって,申立人の主張は,採用することができない。

(3)したがって,申立理由3(サポート要件)によっては,本件特許の請求項1?11及び17に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立理由4(明確性要件)
(1)申立人は,本件明細書の【0057】の記載を参酌すれば,本件発明1におけるろう材としては,「0.3?2.5重量%のMgを含むあらゆる4xxx合金」を採用することができると解されるが,本件特許の出願時の技術常識によれば,「あらゆる4xxx合金」には,Siの含有量が少なく,ろう付けには適さないとされている4006合金や4007合金等の合金も含まれることになり,このような合金からなるろう付け層を採用した場合も,本件発明1の範囲に本当に入るのか否かは,実験結果も何も示されていない状態では,当業者でも理解できないから,本件発明1は,明確性要件を満たしていないと主張する。また,本件発明2?11及び17についても同様に主張する。(申立書46頁)
しかしながら,本件発明1における第1ろう付け層及び第2ろう付け層は,請求項1に記載されるとおり,「4XXXアルミニウム合金」からなる「ろう付け層」であるから,ろう付けに適用できる「4XXXアルミニウム合金」であれば採用できるものと解され,その意味は明確である。また,本件発明2?11及び17についても同様である。
よって,申立人の主張は,採用することができない。

(2)申立人は,本件発明8では,Znの含有量が「Znは不純物の量を超えない量で存在する」と規定されているが,本件発明8の従属元である本件発明1?3においては,複層シート材料を構成するコア層,第1中間ライナー層,第2中間ライナー層,第1ろう付け層及び第2ろう付け層のいずれにもZnが含まれ得るものであるところ,いずれの層のZnの含有量が「不純物の量を超えない量」であるのか,何ら記載されておらず,明確ではないと主張するとともに,本件明細書の記載を精査しても,「不純物の量を超えない量」がいかなる量であるのかは記載されておらず,出願時の技術常識を加味しても明らかとはいえないと主張する。(申立書46?47頁)
しかしながら,請求項1?3を引用する請求項8の記載からみて,複層シート材料を構成するコア層,第1中間ライナー層,第2中間ライナー層,第1ろう付け層及び第2ろう付け層のいずれの層についても,「Znは不純物の量を超えない量で存在する」ことを意味していることは,明らかである。また,「不純物の量」が具体的にどの程度の量であるのかは,アルミニウム合金の公的な規格を参照すれば,当業者にとって明らかであるから,「不純物の量を超えない量」についても,具体的にどの程度の量であるのかは,当業者にとって明らかである。
以上によれば,本件発明8は明確である。
よって,申立人の主張は,採用することができない。

(3)したがって,申立理由4(明確性要件)によっては,本件特許の請求項1?11及び17に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおり,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?17に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1?17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-03-17 
出願番号 特願2017-545287(P2017-545287)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C22C)
P 1 651・ 537- Y (C22C)
P 1 651・ 113- Y (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 陽一  
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 中澤 登
井上 猛
登録日 2019-06-14 
登録番号 特許第6539352号(P6539352)
権利者 アーコニック インコーポレイテッド
発明の名称 真空ろう付け用の複層ろう付けシート  
代理人 特許業務法人 丸山国際特許事務所  
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