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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1361486
異議申立番号 異議2019-700974  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-05-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-29 
確定日 2020-03-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第6519709号発明「熱可塑性樹脂組成物、熱可塑性樹脂組成物の製造方法、成形品及び成形品の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6519709号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第6519709号に係る出願(特願2018-519063号、以下「本願」という。)は、平成30年3月23日(優先権主張:平成29年6月1日、特願2017-109214号)の国際出願日に出願人東レ株式会社(以下「特許権者」ということがある。)によりされたものとみなされる特許出願であり、令和元年5月10日に特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、特許掲載公報が令和元年5月29日に発行されたものである。

2.本件異議申立の趣旨
本件特許につき令和元年11月29日に特許異議申立人千阪実木(以下「申立人」という。)により、「特許第6519709号の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された発明についての特許を取消すべきである。」という趣旨の本件特許異議の申立てがされた。
(よって、本件特許異議の申立ては、特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許であるから、審理の対象外となる請求項はない。)

第2 本件特許の特許請求の範囲に記載された事項
本件特許の特許請求の範囲には、以下のとおりの請求項1ないし8が記載されている。
「【請求項1】
屈折率が1.510以上1.520以下のゴム質重合体(r)存在下において、少なくとも、芳香族ビニル系単量体(a1)と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a2)とを含み、シアン化ビニル系単量体(a3)を実質的に含有しない単量体混合物(a)を、グラフト共重合して得られたグラフト共重合体(A)と、
少なくとも、芳香族ビニル系単量体(b1)と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体(b2)と、シアン化ビニル系単量体(b3)とを含む単量体混合物(b)を、共重合して得られたビニル系共重合体(B)と、を有する熱可塑性樹脂組成物であって、
熱可塑性樹脂組成物のアセトン不溶分(C)が、シアン化ビニル系単量体由来単位を実質的に含有せず、
熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分(D)が、シアン化ビニル系単量体由来単位を含み、かつ、
シアン化ビニル系単量体由来単位の含有量が、アセトン可溶分(D)100質量%に対し、2質量%以上20質量%以下であり、
熱可塑性樹脂組成物のジメチルスルホキシド可溶分(E)が、シアン化ビニル系単量体由来単位を含有し、かつ、
ジメチルスルホキシド可溶分(E)において、3連子の全てがシアン化ビニル系単量体由来単位である割合が、3連子の中央がシアン化ビニル系単量体由来単位である総数に対し、1%未満であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
ゴム質重合体(r)がポリブタジエンであることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
ゴム質重合体(r)の質量平均粒子径が0.15μm以上0.4μm以下であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
屈折率が1.510以上1.520以下のゴム質重合体(r)存在下において、少なくとも、芳香族ビニル系単量体(a1)と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a2)とを含み、シアン化ビニル系単量体(a3)を実質的に含有しない単量体混合物(a)を、グラフト共重合してグラフト共重合体(A)を得る工程と、
少なくとも、芳香族ビニル系単量体(b1)と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体(b2)と、シアン化ビニル系単量体(b3)とを含む単量体混合物(b)を、共重合してビニル系共重合体(B)を得る工程と、
グラフト共重合体(A)とビニル系共重合体(B)とを混合する工程と、を備える熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
熱可塑性樹脂組成物のアセトン不溶分(C)が、シアン化ビニル系単量体由来単位を実質的に含有せず、
熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分(D)が、シアン化ビニル系単量体由来単位を含み、かつ、
シアン化ビニル系単量体由来単位の含有量が、アセトン可溶分(D)100質量%に対し、2質量%以上20質量%以下であり、
熱可塑性樹脂組成物のジメチルスルホキシド可溶分(E)が、シアン化ビニル系単量体由来単位を含有し、かつ、
ジメチルスルホキシド可溶分(E)において、3連子の全てがシアン化ビニル系単量体由来単位である割合が、3連子の中央がシアン化ビニル系単量体由来単位である総数に対し、1%未満であることを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
グラフト共重合体(A)が乳化重合法により製造されることを特徴とする、請求項4に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
ビニル系共重合体(B)が連続塊状重合法または連続溶液重合法により製造されることを特徴とする、請求項4に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られた成形品。
【請求項8】
請求項4から請求項6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法と、
熱可塑性樹脂組成物を成形して成形品を得る工程と、を備える、成形品の製造方法。」
(以下、上記請求項1に記載された事項で特定される発明を「本件発明1」といい、請求項4に記載された事項で特定される発明を「本件発明4」という。)

第3 申立人が主張する取消理由
申立人は、同人が提出した本件異議申立書(以下、「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第3号証を提示し、申立書における申立人の取消理由に係る主張を当審で整理すると、概略、以下の取消理由が存するとしているものと認められる。

取消理由1:本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、いずれも、甲第1号証に記載された発明に基づき、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項を組み合わせることによって、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
取消理由2:本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、いずれも、甲第2号証に記載された発明に基づき、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項を組み合わせることによって、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

・申立人提示の甲号証
甲第1号証:特開2001-226547号公報
甲第2号証:特表2004-502817号公報
甲第3号証:特開昭61-60711号公報
(以下、それぞれ「甲1」ないし「甲3」と略していう。)

第4 当審の判断
当審は、
申立人が主張する上記取消理由1及び2についてはいずれも理由がなく、ほかに各特許を取り消すべき理由も発見できないから、本件の請求項1ないし8に係る発明についての特許はいずれも維持すべきもの、
と判断する。以下、詳述する。

1.各甲号証の記載事項及び記載された発明
上記取消理由1及び2は、いずれも、本件特許が特許法第29条に違反してされたものであることに基づくものであるから、当該理由につき検討するにあたり、申立人が提示した甲1ないし甲3に記載された事項の摘示及び当該事項に基づく各甲号証に係る引用発明の認定を行う。(なお、下線は、元々存在するものを除き、当審が付したものである。)

(1)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明

ア.甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。

(a1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 (I)スチレン系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、および必要に応じて用いられるこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体からなるスチレン-(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の連続相60?90質量%と、(II)ゴム状弾性体、スチレン系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、および必要に応じて用いられるこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体からなるグラフト共重合体の分散相40?10質量%とからなるゴム変性スチレン系樹脂組成物において、分散相の体積平均粒子径が0.3?0.6μmで、トルエン膨潤倍率が3?8倍であり、かつ連続相の重量平均分子量(Mw)とその構成単量体単位から求められる数1式のXが数2式の範囲にあることを特徴とするゴム変性スチレン系樹脂組成物。
【数1】


【数2】


【請求項2】 スチレン-(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の連続相とグラフト共重合体の分散相との屈折率の差が0.005以下であることを特徴とする請求項1記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物。
【請求項3】 グラフト共重合体の分散相が、体積平均粒子径0.3?0.6μmで、かつ標準偏差0.08?0.2μmであることを特徴とする請求項1または請求項2記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物。
【請求項4】 請求項1乃至3のいずれか1項記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物を射出成形してなることを特徴とする射出成形品。」

(a2)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、透明性、耐衝撃性、剛性、表面硬度、および成形加工性に優れたゴム変性スチレン系樹脂組成物、並びに該樹脂組成物を用いて射出成形してなる射出成形品に関するものである。」

(a3)
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】このような現状に鑑み、本発明は、透明性、耐衝撃性、剛性、表面硬度、および成形加工性に優れたゴム変性スチレン系樹脂組成物、並びに該樹脂組成物を用いて射出成形してなる射出成形品を提出するものである。」

(a4)
「【0011】また、本発明のゴム変性スチレン系樹脂組成物の分散相を構成するグラフト共重合体とは、ゴム状弾性体に、スチレン系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、および必要に応じて用いられるこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体からなるスチレン-(メタ)アクリル酸エステル系共重合体がグラフトしてなる共重合体である。
【0012】本発明の連続相および分散相において使用されるスチレン系単量体は、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、エチルスチレン、p-t-ブチルスチレン等を挙げることができるが、好ましくはスチレンである。これらのスチレン系単量体は、単独でもよいが二種以上を併用してもよい。
【0013】本発明で使用される(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート等のメタクリル酸エステル、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、2-メチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、デシルアクリレート等のアクリル酸エステルが挙げられるが、好ましくはメチルメタクリレート、またはn-ブチルアクリレートであり、特に好ましくはメチルメタクリレートである。これらの(メタ)アクリル酸エステル系単量体は単独で用いてもよいが二種以上を併用してもよい。
【0014】さらに、必要に応じて用いられるこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。
【0015】本発明で使用されるゴム状弾性体としては、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、およびスチレン-ブタジエンランダム共重合体等が挙げられる。スチレン-ブタジエンブロック共重合体、あるいはスチレン-ブタジエンランダム共重合体中におけるスチレン量は、60質量%以下であることがゴム変性スチレン系樹脂組成物の良好な耐衝撃性と透明性を得るために好ましい。」

(a5)
「【0016】本発明のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の連続相60?90質量%とグラフト共重合体の分散相40?10質量%からなる。グラフト共重合体10質量%未満では耐衝撃性が不十分であり、40質量%を超えると剛性および表面硬度が劣るために好ましくない。
【0017】なお、連続相と分散相の質量比測定は、ゴム変性スチレン系樹脂組成物(質量をAとする)をメチルエチルケトン(MEK)中で温度23℃で24時間攪拌し、その後遠心分離機でMEKに対する不溶分を分離、真空乾燥したものを質量測定して(質量をBとする)、次の数5式、数6式により求めるものである。
【数5】


【数6】


【0018】さらに、前記グラフト共重合体の分散相は、体積平均粒子径が0.3?0.6μmおよびトルエン膨潤倍率が3?8倍である。体積平均粒子径が0.3μm未満では耐衝撃性が不十分であり、0.6μmを越えると透明性が劣るために好ましくない。また、トルエン膨潤倍率が3倍未満では耐衝撃性が不十分であり、8倍を越えると透明性および表面硬度が劣るために好ましくない。」

(a6)
「【0023】また、本発明のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル系共重合体からなる連続相とグラフト共重合体の分散相との屈折率の差が0.005以下であることが良好な透明性を得るために好ましい。
【0024】但し、グラフト共重合体の屈折率を実測することは難しいため、一般的には組成分析によりポリマーを構成する単量体の組成比を算出することで、グラフト共重合体の屈折率nは次の数10式を用いて計算により屈折率を求めることが出来る。
【数10】


すなわち、グラフト共重合体の組成が、Am単量体、Bm単量体およびCm単量体からなり、かつそれぞれの質量比がX_(A)、X_(B)およびX_(C)からなる場合(但し、質量比でX_(A)+X_(B)+X_(C)=1)、n_(A)はAm単量体からなるポリマーの屈折率、n_(B)はBm単量体からなるポリマーの屈折率、n_(C)はCm単量体からなるポリマーの屈折率を示すものとし、上式数10に代入して計算より求めるものである。」

(a7)
「【0025】なお、連続相のスチレン-(メタ)アクリル酸エステル系共重合体を構成する各単量体の量は、前記した条件を満たせば特に限定されるものではないが、好ましくはスチレン系単量体単位20?70質量%、(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位30?80質量%、および必要に応じて用いられるこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体単位0?10質量%である。
【0026】また、分散相のグラフト共重合体を構成するゴム状弾性体及び各単量体の量は、前記した条件を満たせば特に限定されるものではないが、ゴム状弾性体30?80質量部に、スチレン系単量体単位20?70質量%、(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位30?80質量%、および必要に応じて用いられるこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体単位0?10質量%からなるスチレン-(メタ)アクリル酸エステル系共重合体20?70質量部がグラフトしたグラフト共重合体が好ましく用いられる。
【0027】本発明のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、塊状-懸濁重合法、乳化重合法等の公知技術により製造することができる。また、回分式重合法、連続式重合法のいずれの方法も用いることができる。」

(a8)
「【0030】
【実施例】次に実施例をもって本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0031】まず、原料樹脂の製造から示す。
(イ)スチレン-(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の製造
・・(中略)・・
【0033】参考例3:スチレン-(メタ)アクリル酸エステル系共重合体A-3
容量250リットルのオートクレーブに、純水100kgにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを0.5g、第三リン酸カルシウム250g、スチレン23kg、メチルメタクリレート73kg、アクリロニトリル4kgを入れ、重合開始剤としてt-ブチルパーオキシイソブチレートを100g、t-ドデシルメルカプタン700gを添加し、回転数150rpmの撹拌下に混合液を分散させた。そしてこの混合液を温度90℃で8時間、130℃で2.5時間加熱重合させた。反応終了後、洗浄、脱水後乾燥し、ビーズ状のスチレン-(メタ)アクリル酸エステル系共重合体A-3を得た。
【0034】参考例4:スチレン-(メタ)アクリル酸エステル系共重合体A-4
参考例3において、t-ドデシルメルカプタンを300gに変更した以外はスチレン-(メタ)アクリル酸エステル系共重合体A-3と同様に製造し、ビーズ状のスチレン-(メタ)アクリル酸エステル系共重合体A-4を得た。
【0035】(ロ)ゴム状弾性体ラテックスの製造
・・(中略)・・
【0037】参考例7:ゴム状弾性体ラテックスG-3
容積200リットルのオートクレーブに純水85kg、オレイン酸カリウム1200g、水酸化カリウム200g、過硫酸カリウム50gを加えて撹拌下で均一に溶解した。次いでブタジエン50kg、t-ドデシルメルカプタン100g、ジビニルベンゼン50gを加え、撹拌しながら温度50℃で16時間反応を行って重合を完結し、ゴム状弾性体ラテックスを得た。得られたゴム状弾性体ラテックスをマントンゴーリン式加圧凝集肥大機を利用して、ラテックスを凝集肥大化させ、体積平均粒子径0.35μmのゴム状弾性体ラテックスG-3を得た。
【0038】参考例8:ゴム状弾性体ラテックスG-4
容積200リットルのオートクレーブに純水56kg、オレイン酸カリウム400g、ロジン酸カリウム1200g、炭酸ナトリウム1.2kg、過硫酸カリウム400gを加えて撹拌下で均一に溶解した。次いでブタジエン80kg、t-ドデシルメルカプタン400gを加え、撹拌しながら温度60℃で30時間重合し、さらに70℃に昇温して30時間放置して重合を完結し、体積平均粒子径0.34μmのゴム状弾性体ラテックスG-4を得た。
【0039】参考例9:ゴム状弾性体ラテックスG-5
容積200リットルのオートクレーブに純水64kg、オレイン酸カリウム1680g、ロジン酸カリウム160g、炭酸ナトリウム1.2kg、炭酸水素ナトリウム20g、過硫酸カリウム400gを加えて撹拌下で均一に溶解した。次いでスチレン20kg、ブタジエン60kg、t-ドデシルメルカプタン320gを加え、撹拌しながら55℃で16時間重合し、さらに温度70℃に昇温して8時間放置して重合を完結し、体積平均粒子径0.19μmのゴム状弾性体ラテックスG-5を得た。
【0040】(ハ)グラフト共重合体含有重合体の製造
・・(中略)・・
【0044】参考例14:グラフト共重合体含有重合体B-5
参考例7のゴム状弾性体ラテックスG-3を固形分換算で30kg計量して容積200Lのオートクレーブに移し、純水80kgを加え、攪拌しながら窒素気流下で温度50℃に昇温した。ここに硫酸第一鉄1.25g、エチレンジアミンテトラ酢酸ナトリウム2.5g、ロンガリット100gを溶解した純水2kgを加え、スチレン6.9kg、メチルメタクリレート23.1kg、t-ドデシルメルカプタン60gからなる混合物と、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド120gをオレイン酸カリウム450gを含む純水8kgに分散した溶液とを、別々に6時間かけて連続添加した。添加終了後、温度を70℃に昇温して、さらにジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド30g添加した後2時間放置して重合を終了した。得られた乳化液に酸化防止剤を加え、純水で固形分を15質量%に希釈した後に温度60℃に昇温し、激しく撹拌しながら希硫酸を加えて塩析を行い、その後温度を90℃に昇温して凝固させ、次に脱水、水洗、乾燥して粉末状のグラフト共重合体含有重合体B-5を得た。
【0045】参考例15:グラフト共重合体含有重合体B-6
参考例14において、ゴム状弾性体ラテックスがゴム状弾性体ラテックスG-4に変更された以外は、グラフト共重合体含有重合体B-5と同様に製造し、粉末状のグラフト共重合体含有重合体B-6を得た。
【0046】参考例16:グラフト共重合体含有重合体B-7
参考例14において、ゴム状弾性体ラテックスとしてゴム状弾性体ラテックスG-3が固形換算で15kgとゴム状弾性体ラテックスG-4が固形分換算で15kgとの併用に変更された以外は、グラフト共重合体含有重合体B-5と同様に製造し、粉末状のグラフト共重合体含有重合体B-7を得た。
・・(中略)・・
【0048】実施例および比較例
参考例1?4で製造したスチレン-(メタ)アクリル酸エステル系共重合体および参考例10?17で製造したグラフト共重合体含有重合体を表1、2で示した割合(質量%)で配合してヘンシェルミキサーで混合した後、二軸押出機(東芝機械(株)社製 TEM-35B)でシリンダー温度220℃で溶融混練してペレット化した。得られた試料ペレットを連続相と分散相に分離し、その質量比を表1、2に示した。さらに、分離した連続相の各分析値を表3、4に、分散相の各分析値を表5、6に示した。
【0049】
【表1】


【0050】
【表2】


【0051】
【表3】


【0052】
【表4】


【0053】
【表5】


【0054】
【表6】


【0055】なお、表1?6の測定は以下の方法で行った。
(1)連続相と分散相の質量比の測定
あらかじめ質量測定しておいた試料ペレット(質量をAとする)をメチルエチルケトン(MEK)中で温度23℃で24時間攪拌し、その後遠心分離機でMEKに対する不溶分の分離を実施し、遠心分離操作後30分静置した。遠心分離機の操作条件は次の通りである。
温度:-9℃
回転数:20000rpm
時間:60分
遠心分離させた溶液の上澄み液と沈殿物とを分離し、沈殿物を真空乾燥機で乾燥した後、質量測定して(質量をBとする)次の数11式、数12式により連続相と分散相の質量比を求めた。
【0056】
【数11】


【数12】


【0057】(2)連続相の重量平均分子量測定
前記の遠心分離させた溶液の上澄み液を分取しメタノールを加え、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(連続相)を沈殿させた。この沈殿物を採取し、下記記載のGPC測定条件で測定した。
装置名:SYSTEM-21 Shodex(昭和電工社製)
カラム:PL gel MIXED-Bを3本直列
温度:40℃
検出:示差屈折率
溶媒:テトラハイドロフラン
濃度:2質量%
検量線:標準ポリスチレン(PS)(PL社製)を用いて作製し、重量平均分子量はPS換算値で表した。
【0058】(3)連続相の屈折率測定
先の重量平均分子量測定の前処理と同様の方法でスチレン-(メタ)アクリル酸エステル系共重合体からなる連続相を採取し、充分乾燥した後、プレス成形機により試験片(0.5mm厚み)を作製して、デジタル屈折計RX-2000(ATAGO社製)を用いて、温度25℃で測定した。なお、接触液はヨウ化水銀カリウム飽和水溶液を使用した。
【0059】(4)連続相および分散相の構成単量体単位の測定
先の測定の前処理で得られたスチレン-(メタ)アクリル酸エステル系共重合体からなる連続相(MEK可溶分)とグラフト共重合体からなる分散相(MEK不溶分)とをそれぞれ重クロロホルムに溶解または膨潤させてFT-NMR(日本電子社製FX-90Q型)を用いて、構成単量体単位を求めた。
【0060】(5)分散相の屈折率
あらかじめ構成単量体の単独成分からなるポリマーの屈折率をデジタル屈折計RX-2000(ATAGO社製)を用いて温度25℃で測定し数13式の係数を求め、前記の方法により求めた組成比から次式により求めた。
【数13】


(nは分散相の屈折率、[Bd]、[St]、[MMA]はそれぞれ順にブタジエン、スチレン、メチルメタクリレートの単量体の組成比である。但し[Bd]+[MMA]+[St]=1である)
【0061】(6)分散相の体積平均粒子径および標準偏差
試料ペレット約1gをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)100g中で24時間撹拌し、さらにDMFを加えて適当な濃度になるように希釈し、レーザー回折散乱法粒子径分布測定器(COULTER社LS230型)を使用して測定した。
【0062】また、得られた試料ペレットを用いて、下記の物性測定方法に従い各種物性測定を行った。測定値を表7、8に示した。
【0063】
【表7】


【0064】
【表8】


【0065】(1)アイゾット(Izod)衝撃強度
試料ペレットを東芝機械(株)社製射出成形機(IS-80CNV)を用いて、シリンダー温度220℃で成形し、127×64×6.4mm厚の試験片を作成して、深さ2.54mmのノッチを入れ、ASTM D256に準拠して測定した(単位:J/m)。
【0066】(2)メルトフローレート(MFR)
試料ペレットを用いてJIS K-6874に準拠して、温度220℃、荷重98.07N/cm^(2)の条件で測定した(単位:g/10分)。
【0067】(3)曲げ弾性率
試料ペレットを東芝機械(株)社製射出成形機(IS-80CNV)を用いて、シリンダー温度220℃で成形し、127×64×6.4mm厚の試験片を作成して、ASTM D790に準拠して測定した(単位:MPa)。
【0068】(4)ロックウェル硬度
試料ペレットを東芝機械(株)社製射出成形機(IS-80CNV)を用いて、シリンダー温度220℃で成形し、127×64×6.4mm厚の試験片を作成して、ASTM D785に準拠して測定した(Mスケール)。
【0069】(5)曇度
東芝機械(株)社製射出成形機(IS-50EP)を用いて、試料ペレットをシリンダー温度220℃で成形し、55×90×3mm寸法の角板試験片を作成した。この試験片について、ASTM D1003に準拠して測定した(単位:%)。
【0070】(6)落錘衝撃強度
東芝機械(株)社製射出成形機(IS-80CVN)を用いて、試料ペレットをシリンダー温度220℃で成形し、120×120×2mm寸法の角板試験片を作成した。この試験片について、JIS K-7211に準拠して測定し、結果は50%破壊エネルギーで示した(単位:J)。
【0071】(7)射出成形品の透明性
試料ペレットを東芝機械(株)社製射出成形機(IS-80CNV)を用いて、シリンダー温度220℃、金型温度50℃、成形サイクル19秒(冷却時間10秒)の条件にて枡形の成形品を作成し、目視にて透明性を評価した。
◎・・光沢感があり、透明性良好。
○・・光沢感が若干劣るが、透明性は良好。
△・・部分的にうすく曇った感じがある。
×・・全体的にうすく曇った感じがある。
◎、○を合格と判定した。
【0072】本発明のゴム変性スチレン系樹脂組成物に係わる実施例は、いずれも透明性、耐衝撃性、剛性、表面硬度および成形加工性に優れていたが、本発明の条件に合わないゴム変性スチレン系樹脂組成物に係わる比較例では、透明性、耐衝撃性、剛性、表面硬度および成形加工性のうちいずれかの物性において劣るものであった。」

イ.甲1に記載された発明
甲1には、上記(a1)ないし(a8)の記載事項(特に、摘示(a1)及び(a8)の下線部の記載事項)からみて、
「(I)スチレン系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、および必要に応じて用いられるこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体からなるスチレン-(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の連続相60?90質量%と、(II)ゴム状弾性体、スチレン系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、および必要に応じて用いられるこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体からなるグラフト共重合体の分散相40?10質量%とからなるゴム変性スチレン系樹脂組成物。」
に係る発明(以下「甲1発明1」という。)及び
「(I)スチレン系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、および必要に応じて用いられるこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体からなる単量体混合物を重合してなるスチレン-(メタ)アクリル酸エステル系共重合体を得る工程と、(II)ゴム状弾性体の存在下において、少なくとも、芳香族ビニル系単量体(a1)と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a2)とを含み、および必要に応じて用いられるこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体を含む単量体混合物(a)を、グラフト共重合してなるグラフト共重合体を得る工程と、(III)上記(I)で得られたスチレン-(メタ)アクリル酸エステル系共重合体と(II)で得られたグラフト共重合体とを混合する工程を含むゴム変性スチレン系樹脂組成物の製造方法。」
に係る発明(以下「甲1発明2」という。)がそれぞれ記載されているといえる。

(2)甲2の記載事項及び甲2に記載された発明

ア.甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。

(b1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)共役ジエンゴムラテックス20乃至50重量部、メタクリル酸アルキルエステル化合物またはアクリル酸アルキルエステル化合物10乃至50重量部、芳香族ビニル化合物5乃至25重量部、及びビニルシアン化合物1乃至10重量部の単量体混合物を、乳化重合でグラフト化させることによってグラフト透明樹脂を製造する段階;
ii)メタクリル酸アルキルエステル化合物またはアルキルエステル化合物50乃至75重量部、芳香族ビニル化合物20乃至45重量部、及びビニルシアン化合物1乃至10重量部を塊状重合で共重合させることによってメチルメタクリレート-スチレン-アクリロニトリル(MSAN)共重合体を製造する段階;及び
iii)前記i)段階のグラフト透明樹脂と前記ii)段階のMSAN共重合体をブレンドする段階;
を含む、熱可塑性透明樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記共役ジエンゴムラテックスの屈折率とグラフト化される単量体混合物の屈折率の差が0.004以内である、請求項1に記載の熱可塑性透明樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記共役ジエンゴムラテックスの屈折率とMSAN共重合体の屈折率の差が0.004以内である、請求項1に記載の熱可塑性透明樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記共役ジエンゴムラテックスが脂肪族共役ジエン化合物単独または脂肪族共役ジエン化合物とエチレン系不飽和単量体の混合物である、請求項1に記載の熱可塑性透明樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記共役ジエンゴムラテックスの平均粒子径が2000乃至5000Åであり、ゲル含量が70乃至95%であり、膨潤指数が12乃至30である、請求項1に記載の熱可塑性透明樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記メタクリル酸アルキルエステル化合物またはアクリル酸アルキルエステル化合物がメチルメタクリレートである、請求項1に記載の熱可塑性透明樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記芳香族ビニル化合物がスチレン、α-メチルスチレン、o-エチルスチレン、p-エチルスチレン及びビニルトルエンからなる群から選択される化合物である、請求項1に記載の熱可塑性透明樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記ビニルシアン化合物がアクリロニトリル、メタクリロニトリル、及びエタクリロニトリルからなる群から選択される化合物である、請求項1に記載の熱可塑性透明樹脂の製造方法。
【請求項9】
前記i)段階の乳化重合が乳化剤としてアルキルアリールスルホネート、アルカリメチルアルキル硫酸塩、及びスルホン化されたアルキルエステルの塩からなる群から選択される1種以上の混合物を使用してなる、請求項1に記載の熱可塑性透明樹脂の製造方法。
【請求項10】
前記i)段階の乳化重合とii)段階の塊状重合が、重合開始剤としてクメンヒドロパーオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド、及び過硫酸塩からなる群から選択される1種以上を使用してなる、請求項1に記載の熱可塑性透明樹脂の製造方法。」

(b2)
「【0002】
〔発明の背景〕
〔(a)発明の属する技術分野〕
本発明は熱可塑性透明樹脂の製造方法に係わり、さらに詳しくは、グラフト透明樹脂を乳化重合で製造し、メチルメタクリレート-スチレン-アクリロニトリル(以下、MSANとする)共重合体を塊状重合で製造した後、これらをブレンドして耐湿性、耐衝撃性、自然色性、及び耐熱性が優れており、透明性が極めて優れている熱可塑性透明樹脂を製造する方法に関するものである。」

(b3)
「【0010】
〔発明の要旨〕
従って、本発明は前記従来の技術の問題点を解決するためのものであって、共役ジエンゴムラテックスの屈折率とこれにグラフト化されるメチルメタクリレート、スチレン、アクリロニトリルなどの混合物の屈折率を近似させてグラフト透明樹脂を乳化重合で製造し、グラフト透明樹脂と屈折率が近似しているMSAN共重合体を塊状重合で製造した後、グラフト透明樹脂とMSAN共重合体をブレンドすることにより耐衝撃性、耐薬品性、加工性及び耐湿熱性、自然色性などが優れており、透明性が非常に優れている熱可塑性樹脂を製造することをその目的とする。」

(b4)
「【0019】
この時用いられる単量体混合物の屈折率は透明性に絶対的な影響を与え、この屈折率は単量体の使用量と混合比によって調節される。つまり、ポリブタジエンの屈折率は1.518程度であり、優れた透明性を有するためにはグラフト化される成分全体の屈折率をこれと近似した程度に合わせなければならないので、単量体の使用量と混合比が非常に重要である。この時用いられる各成分の屈折率はメチルメタクリレートが1.49であり、スチレンが1.59、アクリロニトリルが1.518である。
【0020】
また、グラフト透明樹脂とブレンドされるMSAN共重合体の屈折率もグラフト透明樹脂屈折率と殆ど近似するように合わせることによって透明性に優れた熱可塑性透明樹脂を製造することができる。グラフト透明樹脂の製造時にゴムラテックスに単量体各成分を添加する方法は、各成分を一括投入する方法と全量または一部を順次に連続投入する方法を用いることができるが、本発明では一括投入と連続投入方法を調節して使用する複合形態で行う。」

イ.甲2に記載された発明
甲2には、上記記載事項(特に下線部)からみて、
「i)共役ジエンゴムラテックス20乃至50重量部、メタクリル酸アルキルエステル化合物またはアクリル酸アルキルエステル化合物10乃至50重量部、芳香族ビニル化合物5乃至25重量部、及びビニルシアン化合物1乃至10重量部の単量体混合物を、乳化重合でグラフト化させることによって得られるグラフト透明樹脂;及び
ii)メタクリル酸アルキルエステル化合物またはアルキルエステル化合物50乃至75重量部、芳香族ビニル化合物20乃至45重量部、及びビニルシアン化合物1乃至10重量部を塊状重合で共重合させることによって得られるメチルメタクリレート-スチレン-アクリロニトリル(MSAN)共重合体;
をブレンドしてなる熱可塑性透明樹脂。」
に係る発明(以下「甲2発明1」という。)及び
「i)共役ジエンゴムラテックス20乃至50重量部、メタクリル酸アルキルエステル化合物またはアクリル酸アルキルエステル化合物10乃至50重量部、芳香族ビニル化合物5乃至25重量部、及びビニルシアン化合物1乃至10重量部の単量体混合物を、乳化重合でグラフト化させることによってグラフト透明樹脂を得る段階;
ii)メタクリル酸アルキルエステル化合物またはアルキルエステル化合物50乃至75重量部、芳香族ビニル化合物20乃至45重量部、及びビニルシアン化合物1乃至10重量部を塊状重合で共重合させることによってメチルメタクリレート-スチレン-アクリロニトリル(MSAN)共重合体を得る段階;及び
iii)前記i)段階のグラフト透明樹脂と前記ii)段階のMSAN共重合体をブレンドする段階;
を含む、熱可塑性透明樹脂の製造方法。」
に係る発明(以下「甲2発明2」という。)が記載されているといえる。

(3)甲3に記載された事項
甲3には、以下の事項が記載されている。

(c1)
「α-メチルスチレンとアクリロニトリルのコポリマーは、技術的に、たとえばABS型の組成物又は、たとえばABSとポリ塩化ビニル、ポリカーボネートあるいはポリエステルの混合物のような、加熱下の寸法安定性を有する熱可塑性成形組成物の製造のために用いられる。
これらは一般に乳化重合によって製造されるが、その際にはモノマー混合物をラジカル開始剤及び乳化剤含有水相に加えて、40?80℃の温度で重合させる。重合の熱を容易に取り除くことができるために、特に大規模の製造においては、モノマーを数時間にわたって計り入れる。
ここでは“AMS樹脂”と呼ぶことにする加熱下に寸法安定性を有する熱可塑性樹脂に対して適するα-チルスチレン/アクリロニトリル樹脂は、一般に重合した重量で65?80%のα-メチルスチレンと重量で35?20%のアクリロニトリルを含有する。これらの樹脂を通常の乳化重合によって製造する場合には、高率で相互に結合したアクリロニトリル単位(ここではANシーケエンスと記す)を有する生成物が得られる。これらのシーケンスは、コポリマーのガラス転移温度、かくして相当する成形組成物の加熱下の寸法安定性を低下させ、且つ比較的高い加工温度、たとえば240?300℃において、樹脂組成物を強く着色する傾向がある。」(第1頁左下欄下から第2行?第2頁左上欄第5行)

(c2)
「ANシーケンスの量の測定のためには、D.J.T.ヒルら、マクロモレキュル、1982、15、960?66によって記されているように核磁気共鳴吸収を用いた。本発明に対しては、測定を50.3MHzの周波数で行なって、アクリロニトリルのニトリル炭素原子を用いてトライアッド(triad)SAS、AAS+SAA、AAA(S=α-メチルスチレン、A=アクリロニトリル)を測定した。黄化の傾向をほとんど有していない熱的に安定な生成物であるためには、この場合のトライアッドAAAの量が15%未満(上記のトライアッドの合計に対して)でなければならないことが認められた。」(第3頁右下欄第7行?第19行)

2.各取消理由についての検討

(1)取消理由1について

(1-1)本件発明1について

ア.対比
本件発明1と甲1発明1とを対比すると、甲1発明1における「(I)スチレン系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、および必要に応じて用いられるこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体からなるスチレン-(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の連続相」及び「(II)ゴム状弾性体、スチレン系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、および必要に応じて用いられるこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体からなるグラフト共重合体の分散相」は、いずれの「共重合体」においても、「スチレン系単量体」及び「(メタ)アクリル酸エステル系単量体」を必須単量体とし、「必要に応じて用いられるこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体」なる使用及び不使用が任意である単量体を更に含む単量体混合物を重合させた共重合体であって、当該「必要に応じて用いられるこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体」には、(メタ)アクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体も具体的に例示されている(摘示(a4)【0014】)。
してみると、甲1発明1における、前者の「連続相」を構成する「スチレン-(メタ)アクリル酸エステル系共重合体」が、本件発明1における「少なくとも、芳香族ビニル系単量体(b1)と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体(b2)と、シアン化ビニル系単量体(b3)とを含む単量体混合物(b)を、共重合して得られたビニル系共重合体(B)」であり、かつ、後者の「分散相」を構成する「グラフト共重合体」が、本件発明1における「ゴム状弾性体の存在下において、少なくとも、芳香族ビニル系単量体(a1)と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a2)とを含み、シアン化ビニル系単量体(a3)を実質的に含有しない単量体混合物(a)を、グラフト共重合して得られたグラフト共重合体(A)」である態様を包含するものといえる。
さらに、甲1発明1における上記「連続相」と「分散相」とは、メチルエチルケトン(MEK)に対する「可溶分」と「不溶分」との区別によりその量比を決定するものである(摘示(a5)【0017】)ところ、メチルエチルケトンとアセトンとは溶解度パラメーター(SP値)が略同等のいずれもケトン系溶媒であり、樹脂の溶解特性についても略同等であるものと解するのが自然であるから、甲1発明1における上記「連続相」と「分散相」は、本件発明1における「熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分(D)」と「熱可塑性樹脂組成物のアセトン不溶分(C)」にそれぞれ相当するものといえるとともに、甲1発明1おける上記態様の場合において、「連続相」はシアン化ビニル系単量体を含有し、「分散相」はシアン化ビニル系単量体を実質的に含有しないのであるから、本件発明1における「熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分(D)が、シアン化ビニル系単量体由来単位を含み」及び「熱可塑性樹脂組成物のアセトン不溶分(C)が、シアン化ビニル系単量体由来単位を実質的に含有せず」にそれぞれ相当するものといえる。
そして、甲1発明1における「ゴム変性スチレン系樹脂組成物」は、ゴム状弾性体を含むスチレン系共重合体組成物であって、熱可塑性を有することが当業者に自明であるから、本件発明1における「熱可塑性樹脂組成物」に相当するものといえる。
したがって、本件発明1と甲1発明1とは、
「ゴム質重合体(r)存在下において、少なくとも、芳香族ビニル系単量体(a1)と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a2)とを含み、シアン化ビニル系単量体(a3)を実質的に含有しない単量体混合物(a)を、グラフト共重合して得られたグラフト共重合体(A)と、
少なくとも、芳香族ビニル系単量体(b1)と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体(b2)と、シアン化ビニル系単量体(b3)とを含む単量体混合物(b)を、共重合して得られたビニル系共重合体(B)と、を有する熱可塑性樹脂組成物であって、
熱可塑性樹脂組成物のアセトン不溶分(C)が、シアン化ビニル系単量体由来単位を実質的に含有せず、
熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分(D)が、シアン化ビニル系単量体由来単位を含む熱可塑性樹脂組成物。」
で一致し、以下の点で相違する。

相違点a1:「ゴム質重合体(r)」につき、本件発明1では「屈折率が1.510以上1.520以下」であるのに対して、甲1発明1では「ゴム状弾性体」の屈折率につき特定されていない点
相違点a2:「熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分(D)」につき、本件発明1では「シアン化ビニル系単量体由来単位の含有量が、アセトン可溶分(D)100質量%に対し、2質量%以上20質量%以下であ」るのに対して、甲1発明1では「連続相」の「必要に応じて用いられるこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体」の量比につき特定されていない点
相違点a3:本件発明1では「熱可塑性樹脂組成物のジメチルスルホキシド可溶分(E)が、シアン化ビニル系単量体由来単位を含有し、かつ、ジメチルスルホキシド可溶分(E)において、3連子の全てがシアン化ビニル系単量体由来単位である割合が、3連子の中央がシアン化ビニル系単量体由来単位である総数に対し、1%未満である」のに対して、甲1発明1では「熱可塑性樹脂組成物のジメチルスルホキシド可溶分(E)」の存否及びその「可溶分(E)」に係る「3連子の全てがシアン化ビニル系単量体由来単位である割合」につき特定されていない点

イ.検討
事案に鑑み、まず、上記相違点a3につき検討する。
相違点a3につき検討するにあたり、甲3には、65?80重量%のα-メチルスチレンと35?20重量%のアクリロニトリルを含有する「AMS樹脂」なる加熱下に寸法安定性を有する熱可塑性樹脂(組成物)に対して適するα-メチルスチレン/アクリロニトリル樹脂につき通常の乳化重合によって製造する場合には、高率で相互に結合したアクリロニトリル単位(ANシーケエンス)を有する生成物が得られ、このANシーケンスが、コポリマーのガラス転移温度を低下させ、且つ比較的高い加工温度、たとえば240?300℃において、樹脂組成物を強く着色する傾向があること(摘示(c1))並びに当該ANシーケンスの量の測定のためには、核磁気共鳴吸収を用いてアクリロニトリルのニトリル炭素原子を用いてトライアッド(triad)SAS、AAS+SAA、AAA(S=α-メチルスチレン、A=アクリロニトリル)を測定することにより行い、黄化の傾向をほとんど有していない熱的に安定な生成物であるためには、トライアッドAAAの量が15%未満(上記のトライアッドの合計に対して)でなければならないこと(摘示(c2))が開示されてはいる。
しかしながら、甲1には、甲1発明1に係る「ゴム変性スチレン系樹脂組成物」において、アセトン(及びMEK)とはSP値が大きく異なり樹脂の溶解特性についても大きく異なるものと認められるジメチルスルホキシド(DMSO)の可溶分につき含むか否かでさえも記載又は示唆されておらず、当該DMSO可溶分につきトライアッドAAAの量比と同義である「3連子の全てがシアン化ビニル系単量体由来単位である割合が、3連子の中央がシアン化ビニル系単量体由来単位である総数に対」する量比を低減化すべきことを想起させるような記載又は示唆が存するものでもないから、甲1発明1に対して、甲3の開示事項を組み合わせるべき動機となる事項が存するものとは認められない。
してみると、上記相違点a3は、甲1発明1において、当業者であっても適宜なし得ることということはできない。

ウ.小括
したがって、本件発明1は、他の相違点につき検討するまでもなく、甲1発明1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(1-2)本件発明4について

ア.対比
本件発明4と甲1発明2とを対比すると、甲1発明2における「(I)スチレン系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、および必要に応じて用いられるこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体からなる単量体混合物を重合してなるスチレン-(メタ)アクリル酸エステル系共重合体を得る工程」及び「(II)ゴム状弾性体の存在下において、少なくとも、芳香族ビニル系単量体(a1)と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a2)とを含み、シアン化ビニル系単量体(a3)を実質的に含有しない単量体混合物(a)を、グラフト共重合してなるグラフト共重合体を得る工程」は、いずれの「工程」においても、「スチレン系単量体」及び「(メタ)アクリル酸エステル系単量体」を必須単量体とし、「必要に応じて用いられるこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体」なる使用及び不使用が任意である単量体を更に含む単量体混合物を重合しているものであって、当該「必要に応じて用いられるこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体」には、(メタ)アクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体も具体的に例示されている(摘示(a4)【0014】)。
してみると、甲1発明2における、前者の「(I)」の工程では、本件発明4における「少なくとも、芳香族ビニル系単量体(b1)と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体(b2)と、シアン化ビニル系単量体(b3)とを含む単量体混合物(b)を、共重合してビニル系共重合体(B)を得る工程」であり、かつ、後者の「(II)」の工程では、本件発明4における「ゴム質重合体(r)存在下において、少なくとも、芳香族ビニル系単量体(a1)と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a2)とを含み、シアン化ビニル系単量体(a3)を実質的に含有しない単量体混合物(a)を、グラフト共重合してグラフト共重合体(A)を得る工程」である態様を包含するものといえる。
そして、甲1発明2における「(III)上記(I)で得られたスチレン-(メタ)アクリル酸エステル系共重合体と(II)で得られたグラフト共重合体とを混合する工程」は、本件発明4における「グラフト共重合体(A)とビニル系共重合体(B)とを混合する工程」に相当し、また、甲1発明2における「ゴム変性スチレン系樹脂組成物の製造方法」は、当該「ゴム変性スチレン系樹脂組成物」がゴム状弾性体を含むスチレン系共重合体組成物であって、熱可塑性を有することが当業者に自明であるから、本件発明4における「熱可塑性樹脂組成物の製造方法」に相当するものといえる。
したがって、本件発明4と甲1発明2とは、
「ゴム質重合体(r)存在下において、少なくとも、芳香族ビニル系単量体(a1)と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a2)とを含み、シアン化ビニル系単量体(a3)を実質的に含有しない単量体混合物(a)を、グラフト共重合してグラフト共重合体(A)を得る工程と、
少なくとも、芳香族ビニル系単量体(b1)と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体(b2)と、シアン化ビニル系単量体(b3)とを含む単量体混合物(b)を、共重合してビニル系共重合体(B)を得る工程と、
グラフト共重合体(A)とビニル系共重合体(B)とを混合する工程と、を備える熱可塑性樹脂組成物の製造方法。」
で一致し、以下の点で相違する。

相違点a4:「ゴム質重合体(r)」につき、本件発明1では「屈折率が1.510以上1.520以下」であるのに対して、甲1発明1では「ゴム状弾性体」の屈折率につき特定されていない点
相違点a5:製造される「熱可塑性樹脂組成物」につき、本件発明4では「熱可塑性樹脂組成物のアセトン不溶分(C)が、シアン化ビニル系単量体由来単位を実質的に含有せず、熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分(D)が、シアン化ビニル系単量体由来単位を含み、かつ、シアン化ビニル系単量体由来単位の含有量が、アセトン可溶分(D)100質量%に対し、2質量%以上20質量%以下であ」るのに対して、甲1発明2では「ゴム変性スチレン系樹脂組成物」である点
相違点a6:製造される「熱可塑性樹脂組成物」につき、本件発明4では「熱可塑性樹脂組成物のジメチルスルホキシド可溶分(E)が、シアン化ビニル系単量体由来単位を含有し、かつ、ジメチルスルホキシド可溶分(E)において、3連子の全てがシアン化ビニル系単量体由来単位である割合が、3連子の中央がシアン化ビニル系単量体由来単位である総数に対し、1%未満である」のに対して、甲1発明2では「ゴム変性スチレン系樹脂組成物」である点

イ.検討
事案に鑑み、まず、上記相違点a6につき検討する。
相違点a6に係る事項は、上記(1-1)ア.で示した相違点a3に係る事項と実質的に同一の事項であるものと認められる。
してみると、上記(1-1)イ.で相違点a3につき説示した理由と同一の理由により、相違点a6についても、甲1発明2において、当業者が適宜なし得ることであるということはできない。

ウ.小括
したがって、他の相違点につき検討するまでもなく、本件発明4は、甲1発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(1-3)他の請求項に係る発明について
上記(1-1)及び(1-2)でそれぞれ説示したとおり、本件発明1及び4は、いずれも、甲1発明1又は甲1発明2、すなわち甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのであるから、請求項1を引用する請求項2、3、7及び8並びに請求項4を引用する請求項5及び6に記載された発明についても、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものということはできない。

(1-4)取消理由1に係るまとめ
以上のとおり、本件の請求項1ないし8に係る発明は、いずれも、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、取消理由1は理由がない。

(2)取消理由2について

(2-1)本件発明1について

ア.対比
本件発明1と甲2発明1とを対比すると、甲2発明1における「i)共役ジエンゴムラテックス・・、メタクリル酸アルキルエステル化合物またはアクリル酸アルキルエステル化合物・・、芳香族ビニル化合物・・、・・の単量体混合物を、乳化重合でグラフト化させることによって得られるグラフト透明樹脂」は、当該「共役ジエンゴム」、「メタクリル酸アルキルエステル化合物またはアクリル酸アルキルエステル化合物」及び「芳香族ビニル化合物」がそれぞれ本件発明1における「ゴム質重合体(r)」、「(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a2)」及び「芳香族ビニル系単量体(a1)」に相当し、甲2発明1における「単量体混合物」は、「メタクリル酸アルキルエステル化合物またはアクリル酸アルキルエステル化合物」及び「芳香族ビニル化合物」を含む物である限りにおいて、本件発明1における「芳香族ビニル系単量体(a1)と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a2)とを含」む「単量体混合物(a)」に相当するから、本件発明1における「ゴム質重合体(r)存在下において、少なくとも、芳香族ビニル系単量体(a1)と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a2)とを含」む「単量体混合物(a)を、グラフト共重合して得られたグラフト共重合体(A)」に相当する。
また、甲2発明1における「ii)メタクリル酸アルキルエステル化合物またはアルキルエステル化合物・・、芳香族ビニル化合物・・、及びビニルシアン化合物・・を塊状重合で共重合させることによって得られるメチルメタクリレート-スチレン-アクリロニトリル(MSAN)共重合体」は、本件発明1における「少なくとも、芳香族ビニル系単量体(b1)と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体(b2)と、シアン化ビニル系単量体(b3)とを含む単量体混合物(b)を、共重合して得られたビニル系共重合体(B)」に相当する。
そして、甲2発明1の「グラフト透明樹脂;及び・・メチルメタクリレート-スチレン-アクリロニトリル(MSAN)共重合体;をブレンドしてなる熱可塑性透明樹脂」は、「グラフト透明樹脂」及び「メチルメタクリレート-スチレン-アクリロニトリル(MSAN)共重合体」を「ブレンド」した「組成物」であるから、本件発明1における「グラフト共重合体(A)と、・・ビニル系共重合体(B)と、を有する熱可塑性樹脂組成物」に相当する。
したがって、本件発明1と甲2発明1とは、
「ゴム質重合体(r)存在下において、少なくとも、芳香族ビニル系単量体(a1)と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a2)とを含む単量体混合物(a)を、グラフト共重合して得られたグラフト共重合体(A)と、
少なくとも、芳香族ビニル系単量体(b1)と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体(b2)と、シアン化ビニル系単量体(b3)とを含む単量体混合物(b)を、共重合して得られたビニル系共重合体(B)と、を有する熱可塑性樹脂組成物。」
で一致し、以下の点で相違する。

相違点b1:「ゴム質重合体(r)」につき、本件発明1では「屈折率が1.510以上1.520以下」であるのに対して、甲2発明1では「共役ジエンゴム」であり、その屈折率につき特定されていない点
相違点b2:「単量体混合物(a)」につき、本件発明1では「少なくとも、芳香族ビニル系単量体(a1)と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a2)とを含み、シアン化ビニル系単量体(a3)を実質的に含有しない」のに対して、甲2発明1では「共役ジエンゴムラテックス20乃至50重量部、メタクリル酸アルキルエステル化合物またはアクリル酸アルキルエステル化合物10乃至50重量部、芳香族ビニル化合物5乃至25重量部、及びビニルシアン化合物1乃至10重量部の単量体混合物」である点
相違点b3:「熱可塑性樹脂組成物」につき、本件発明1では「熱可塑性樹脂組成物のアセトン不溶分(C)が、シアン化ビニル系単量体由来単位を実質的に含有せず、熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分(D)が、シアン化ビニル系単量体由来単位を含み、かつ、シアン化ビニル系単量体由来単位の含有量が、アセトン可溶分(D)100質量%に対し、2質量%以上20質量%以下であ」るのに対して、甲2発明1では「熱可塑性透明樹脂」である点
相違点b4:「熱可塑性樹脂組成物」につき、本件発明1では「熱可塑性樹脂組成物のジメチルスルホキシド可溶分(E)が、シアン化ビニル系単量体由来単位を含有し、かつ、ジメチルスルホキシド可溶分(E)において、3連子の全てがシアン化ビニル系単量体由来単位である割合が、3連子の中央がシアン化ビニル系単量体由来単位である総数に対し、1%未満である」のに対して、甲2発明1では「熱可塑性透明樹脂」である点

イ.検討
事案に鑑み、まず、上記相違点b2につき検討する。
甲2には、甲2発明1のとおり、「ビニルシアン化合物1乃至10重量部の単量体混合物」をグラフト透明樹脂の製造において使用することが必須の発明特定事項として規定されており、「用いられる単量体混合物の屈折率は透明性に絶対的な影響を与え、この屈折率は単量体の使用量と混合比によって調節される」ものであり、「優れた透明性を有するためにはグラフト化される成分全体の屈折率をこれと近似した程度に合わせなければならないので、単量体の使用量と混合比が非常に重要である」ことが記載されているほどである(摘示(b4)参照)から、甲2発明1において、グラフト重合に使用する単量体混合物として、ビニルシアン化合物、すなわち、シアン化ビニル系単量体を含有しないものを使用することを阻害する要因が存するものとも認められ、当業者が適宜なし得るということはできない。
なお、甲2の記載につき更に検討しても、他の技術(例えば甲1又は甲3に記載された知見等)に基づいて、グラフト重合に使用する単量体混合物として、シアン化ビニル系単量体を含有しないものを使用すべきことを想起させるような記載又は示唆が存するものでもないから、甲2発明1に対して、他の技術を組み合わせるべき動機となる事項が存するものとは認められない。
してみると、上記相違点b2は、甲2発明1において、当業者であっても適宜なし得ることということはできない。

ウ.小括
したがって、本件発明1は、他の相違点につき検討するまでもなく、甲2発明1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(2-2)本件発明4について

ア.対比
本件発明4と甲2発明2とを対比すると、甲2発明2における「i)共役ジエンゴムラテックス・・、メタクリル酸アルキルエステル化合物またはアクリル酸アルキルエステル化合物・・、芳香族ビニル化合物・・、・・の単量体混合物を、乳化重合でグラフト化させることによってグラフト透明樹脂を製造する段階」は、当該「共役ジエンゴム」、「メタクリル酸アルキルエステル化合物またはアクリル酸アルキルエステル化合物」及び「芳香族ビニル化合物」がそれぞれ本件発明4における「ゴム質重合体(r)」、「(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a2)」及び「芳香族ビニル系単量体(a1)」に相当し、甲2発明2における「単量体混合物」は、「メタクリル酸アルキルエステル化合物またはアクリル酸アルキルエステル化合物」及び「芳香族ビニル化合物」を含む物である限りにおいて、本件発明4における「芳香族ビニル系単量体(a1)と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a2)とを含」む「単量体混合物(a)」に相当するから、本件発明4における「ゴム質重合体(r)存在下において、少なくとも、芳香族ビニル系単量体(a1)と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a2)とを含」む「単量体混合物(a)を、グラフト共重合してグラフト共重合体(A)を得る工程」に相当する。
また、甲2発明2における「ii)メタクリル酸アルキルエステル化合物またはアルキルエステル化合物・・、芳香族ビニル化合物・・、及びビニルシアン化合物・・を塊状重合で共重合させることによってメチルメタクリレート-スチレン-アクリロニトリル(MSAN)共重合体を製造する段階」は、本件発明4における「少なくとも、芳香族ビニル系単量体(b1)と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体(b2)と、シアン化ビニル系単量体(b3)とを含む単量体混合物(b)を、共重合してビニル系共重合体(B)を得る工程」に相当する。
そして、甲2発明2における「iii)前記i)段階のグラフト透明樹脂と前記ii)段階のMSAN共重合体をブレンドする段階」は、本件発明4における「グラフト共重合体(A)とビニル系共重合体(B)とを混合する工程」に相当し、また、甲2発明2における「熱可塑性透明樹脂の製造方法」は、当該「熱可塑性透明樹脂」が、「グラフト透明樹脂」及び「メチルメタクリレート-スチレン-アクリロニトリル(MSAN)共重合体」を「ブレンド」した「組成物」であるから、本件発明4における「熱可塑性樹脂組成物の製造方法」に相当するものといえる。
したがって、本件発明4と甲2発明2とは、
「ゴム質重合体(r)存在下において、少なくとも、芳香族ビニル系単量体(a1)と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a2)とを含む単量体混合物(a)を、グラフト共重合してグラフト共重合体(A)を得る工程と、
少なくとも、芳香族ビニル系単量体(b1)と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体(b2)と、シアン化ビニル系単量体(b3)とを含む単量体混合物(b)を、共重合してビニル系共重合体(B)を得る工程と、
グラフト共重合体(A)とビニル系共重合体(B)とを混合する工程と、を備える熱可塑性樹脂組成物の製造方法。」
で一致し、以下の点で相違する。

相違点b5:「ゴム質重合体(r)」につき、本件発明4では「屈折率が1.510以上1.520以下」であるのに対して、甲2発明2では「共役ジエンゴム」の屈折率につき特定されていない点
相違点b6:「単量体混合物(a)」につき、本件発明4では「少なくとも、芳香族ビニル系単量体(a1)と、(メタ)アクリル酸エステル系単量体(a2)とを含み、シアン化ビニル系単量体(a3)を実質的に含有しない」のに対して、甲2発明2では「共役ジエンゴムラテックス20乃至50重量部、メタクリル酸アルキルエステル化合物またはアクリル酸アルキルエステル化合物10乃至50重量部、芳香族ビニル化合物5乃至25重量部、及びビニルシアン化合物1乃至10重量部の単量体混合物」である点
相違点b7:製造される「熱可塑性樹脂組成物」につき、本件発明4では「熱可塑性樹脂組成物のアセトン不溶分(C)が、シアン化ビニル系単量体由来単位を実質的に含有せず、熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分(D)が、シアン化ビニル系単量体由来単位を含み、かつ、シアン化ビニル系単量体由来単位の含有量が、アセトン可溶分(D)100質量%に対し、2質量%以上20質量%以下であ」るのに対して、甲2発明2では「熱可塑性透明樹脂」である点
相違点b8:製造される「熱可塑性樹脂組成物」につき、本件発明4では「熱可塑性樹脂組成物のジメチルスルホキシド可溶分(E)が、シアン化ビニル系単量体由来単位を含有し、かつ、ジメチルスルホキシド可溶分(E)において、3連子の全てがシアン化ビニル系単量体由来単位である割合が、3連子の中央がシアン化ビニル系単量体由来単位である総数に対し、1%未満である」のに対して、甲2発明2では「熱可塑性透明樹脂」である点

イ.検討
事案に鑑み、まず、上記相違点b6につき検討する。
相違点b6に係る事項は、上記(2-1)ア.で示した相違点b2に係る事項と実質的に同一の事項であるものと認められる。
してみると、上記(2-1)イ.で相違点b2につき説示した理由と同一の理由により、相違点b6についても、甲2発明2において、当業者が適宜なし得ることであるということはできない。

ウ.小括
したがって、他の相違点につき検討するまでもなく、本件発明4は、甲2発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(2-3)他の請求項に係る発明について
上記(2-1)及び(2-2)でそれぞれ説示したとおり、本件発明1及び4は、いずれも、甲2発明1又は甲2発明2、すなわち甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのであるから、請求項1を引用する請求項2、3、7及び8並びに請求項4を引用する請求項5及び6に記載された発明についても、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものということはできない。

(2-4)取消理由2に係るまとめ
以上のとおり、本件の請求項1ないし8に係る発明は、いずれも、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、取消理由2は理由がない。

(3)各取消理由に係る検討のまとめ
以上のとおりであるから、申立人が主張する上記各取消理由はいずれも理由がない。

3.当審の判断のまとめ
よって、本件の請求項1ないし8に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条の規定に違反してされたものということはできないから、上記取消理由は理由がなく、本件の請求項1ないし8に係る発明についての特許は、取り消すことができない。

第5 むすび
以上のとおり、本件特許に係る異議申立において特許異議申立人が主張する取消理由は理由がなく、本件の請求項1ないし8に係る発明についての特許は、取り消すことができない。
ほかに、本件の請求項1ないし8に係る発明についての特許を取り消すべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-03-16 
出願番号 特願2018-519063(P2018-519063)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 内田 靖恵  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 武貞 亜弓
橋本 栄和
登録日 2019-05-10 
登録番号 特許第6519709号(P6519709)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 熱可塑性樹脂組成物、熱可塑性樹脂組成物の製造方法、成形品及び成形品の製造方法  
代理人 特許業務法人明成国際特許事務所  
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