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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H05K 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H05K |
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管理番号 | 1361489 |
異議申立番号 | 異議2020-700025 |
総通号数 | 245 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-05-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-01-16 |
確定日 | 2020-04-03 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6544466号発明「電磁波シールドシートおよびプリント配線板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6544466号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6544466号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成30年6月21日の出願であって、令和1年6月28日にその特許権の設定登録がされ、同年7月17日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和2年1月16日に特許異議申立人 千阪実木は、特許異議の申立てを行った。 第2 本件発明 特許第6544466号の請求項1ないし5に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明5」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「 【請求項1】 保護層と金属層と導電性接着剤層とから構成され、 引張破断強度が10?80N/20mmであって、 前記金属層は複数の開口部を有し、前記開口部の下記数式(1)から求められる円径度係数の平均値が0.5以上であって、 かつ金属層の開口率が0.1?20%であることを特徴とする電磁波シールドシート。 【数1】 但し、前記周囲長は、金属層を光学顕微鏡、レーザー顕微鏡、および電子顕微鏡いずれかで観察した画像を読み込み、前記開口部の平面が観察視点に対して垂直な方向になり、全体が確認できる前記開口部を抽出して、当該抽出した前記開口部を二次元に投影したときの外周の長さをいい、前記面積は、前記抽出した前記開口部を二次元に投影したときの外周により画定される領域の広さをいう。 【請求項2】 前記金属層の膜厚は、0.5?5μmであることを特徴とする請求項1記載の電磁波シールドシート。 【請求項3】 前記導電性接着剤層は、熱硬化性樹脂および導電性フィラーを含有し、 導電性接着剤層中の前記導電性フィラーの含有量は、35?90質量%であることを特徴とする請求項1または2記載の電磁波シールドシート。 【請求項4】 請求項1?3いずれか1項記載の電磁波シールドシート、カバーコート層、ならびに信号配線および絶縁性基材を有する配線板を備えることを特徴とするプリント配線板。 【請求項5】 前記信号配線は、信号回路およびグランド回路を有し、 前記グランド回路を露出するために前記カバーコート層にビアが設けられており、 前記ビア面積は、0.008mm^(2)以上、0.8mm^(2)以下であることを特徴とする請求項4記載のプリント配線板。」 第3 申立理由の概要 特許異議申立人は、証拠として、下記の甲第1号証ないし甲第9号証を提出し、本件発明1ないし4は甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、したがって、請求項1ないし4に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるから、請求項1ないし4に係る特許を取り消すべきである旨主張する(以下、「申立理由1」という。)。 また、本件発明1ないし5は、下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は、下記の甲第1号証に記載された発明及び下記の甲第3号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、したがって、請求項1ないし5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1ないし5に係る特許を取り消すべきである旨主張する(以下、「申立理由2」という。)。 記(証拠一覧) 甲第1号証:特開2018-60987号公報 甲第2号証:甲第1号証の図2における開口部の解析方法を説明するための資料 甲第3号証:特開2007-27522号公報 甲第4号証:国際公開2014/010524号 甲第5号証:国際公開2014/077406号 甲第6号証:国際公開2016/088381号 甲第7号証:国際公開2017/111158号 甲第8号証:国際公開2017/164415号 甲第9号証:特開2016-222748号公報 第4 当審の判断 1.申立理由1(特許法第29条第1項第3号)について (1)甲第1号証の記載事項等 甲第1号証(特開2018-60987号公報、公開日平成30年4月12日)には、「電磁波シールドシートおよびプリント配線板」に関して、以下の事項が図面とともに記載されている。(なお、下線は当審で付与した。) ア.「【請求項1】 絶縁層と金属層と導電性接着剤層とから構成され、 前記金属層は、面積0.7?5000μm^(2)の開口部を100?200000個/cm^(2)有し、かつ金属層の開口部において、下記数式(1)から求められるwが0.8?2.2であることを特徴とする電磁波シールドシート。 (以下略) 」 イ.「【0012】 本発明に係る電磁波シールドシート10は、導電性接着剤層1、金属層2、絶縁層3がこの順に積層された積層体からなる。電磁波シールドシート10は、部品(不図示)上に導電性接着剤層1を配置し、接合処理により当該部品と接合することができる。接合処理は、接合できればよいが、熱処理または熱圧着処理が好適である。絶縁層3は、導電性接着剤層1、および金属層2を保護する役割を担い、金属層2より表層側に配置される。金属層2は、絶縁層3と導電性接着剤層1の間に挟持された層であり、主として電磁波をシールドする役割を担う。プリント配線板においては、部品内部の信号配線等から発生する電磁ノイズをシールドしたり、外部からの信号を遮蔽する役割を担う。 金属層2は、面積0.7?5000μm^(2)の開口部4を100?200000個/cm^(2)有し、かつ金属層の開口部において、数式(1)から求められるwが0.8?2.2である。 開口部4は、絶縁層3と導電性接着剤層1が接着している箇所でもあり、ハンダリフロー耐性およびメッキ液耐性を向上させる役割を担う。また、後述するように開口部4と非開口部の面積から計算される開口率を所定の範囲に設定することで、ハンダリフロー耐性及びメッキ液耐性と、高い電磁波シールド性とを両立することができる。」 ウ.「【0015】 開口部の一例を図2に示す。 開口部の形状は例えば、円、楕円、四角、多角形、星形、台形等、必要に応じて各形状を形成することができるが、製造コスト及び膜の強靭性の観点から、円および、楕円が好ましい。」 エ.「【0072】 《プリント配線板》 本発明のプリント配線板は、電磁波シールドシート、カバーコート層、ならびに信号配線とグランド配線とを有する回路パターンおよび絶縁性基材を有する配線板を備えており、電磁波シールドシートが、絶縁層と金属層と導電性接着剤層とから構成され、前記金属層は、面積0.7?5000μm^(2)の開口部を100?200000個/cm^(2)有し、かつ金属層の開口部において、数式(1)から求められるwが0.8?2.2である。」 オ.「【0073】 本発明のプリント配線板において、電磁波シールド層は、絶縁層と金属層と導電性接着剤層とから構成される電磁波シールドシートを熱圧着してなり、 金属層は、面積0.7?5000μm^(2)の開口部を、100?200000個/cm^(2)有しており、かつ金属層の開口部において、数式(1)から求められるwが0.8?2.2である。 配線板は、絶縁性基材の表面に信号配線とグランド配線とを有する回路パターンを有し、 前記配線板上に、信号配線とグランド配線とを絶縁保護し、グランド配線上の少なくとも一部に開口部を有するカバーコート層を形成し、 前記電磁波シールドシートの導電性接着剤層面を、前記カバーコート層上に配置した後、前記電磁波シールドシートを熱圧着し、金属層の開口部内部において、導電性接着剤層と絶縁層とを互いに流入させ開口部の内部で接着させることにより、製造することができる。」 カ.「【0092】 <開口部の分散性(w)の測定> 金属層の開口部が20個程度入るように、レーザー顕微鏡VK-X100(キーエンス社製)を用いて2000倍の倍率で金属層の平面画像を取得した。 一例を挙げると、図2は後述する銅箔15の開口部取得画像である。取得した画像から、画像内の金属層の面積S、開口部の個数nおよび開口部毎の最近隣距離を測定し、数式(2)数式(3)から、平均最近隣距離の期待値と平均最近隣距離を算出し、数式(1)によってwを求めた。」 キ.「【0107】 <導電性接着剤> [導電性接着剤1] 固形分換算で熱硬化性樹脂2を100部、導電性微粒子1を60部、エポキシ化合物を10部、アジリジン化合物を0.5部容器に仕込み、不揮発分濃度が40%になるように混合溶剤(トルエン:イソプロピルアルコール=2:1(重量比))を加えディスパーで10分攪拌して導電性接着剤1を得た。」 ク.「【0111】 [実施例1] 導電性接着剤1をバーコーターで乾燥厚みが10μmになるように剥離性シート上に塗工し、100℃の電気オーブンで2分間乾燥することで導電性接着剤層を得た。 尚、導電性接着剤層のガラス転移温度Tgは-3℃であった。 【0112】 別途、固形分換算で熱硬化性樹脂2を100部、エポキシ化合物10部およびアジリジン硬化剤1部を加えディスパーで10分攪拌することで絶縁性樹脂組成物1を得た。次いで得られた絶縁性樹脂組成物をバーコーターを使用して乾燥厚みが5μmになるように、銅箔1に塗工し、100℃の電気オーブンで2分間乾燥した後、絶縁層に微粘着剥離性シートを張り合わせた。 尚、この絶縁層のガラス転移温度Tgは-5℃であった。 【0113】 次いで、銅箔1の銅キャリアを剥がし、銅箔面に導電性接着剤層を張り合わせることで、「剥離性シート/絶縁層/銅箔1/導電性接着剤層/剥離性シート」からなる電磁波シールドシートを得た。銅箔1と導電性接着剤層の貼り合せは、温度は90℃、圧力は3kgf/cm^(2)で、熱ラミネーターにより貼り合わせた。」 ケ.「【0114】 [実施例2?15、比較例1?3] 実施例1の銅箔1を表1に記載した銅箔2?銅箔17または電解銅箔に変更した以外は、実施例1と同様に行うことで実施例2?15、比較例1?3の電磁波シールドシートをそれぞれ得た。」 コ.「【0119】 得られた電磁波シールドシートを用いて、下記評価を行った。結果を表5?8に示す。 なお、表7および8中の「*ガラス転移温度(Tg)差」とは、導電接着剤層と絶縁層のガラス転移温度(Tg)の温度の差分(℃)である。 *ガラス転移温度(Tg)差=|導電接着剤層のTg-絶縁層のTg|」 サ.「【0128】 <折り曲げ後の接続信頼性> 電磁波シールドシートを幅20mm、長さ50mmの大きさに準備し試料25とした。図10(1)の平面図を示して説明すると電磁波シールドシート25から剥離性シートを剥がし、露出した導電性接着剤層25bを、別に作製したフレキシブルプリント配線板(厚み25μmのポリイミドフィルム21上に、互いに電気的に接続されていない厚み18μmの銅箔回路22A、および銅箔回路22Bが形成されており、銅箔回路22A上に、厚み37.5μmの、直径1.6mmのスルーホール24を有する接着剤付きポリイミドカバーレイ23が積層された配線板)に150℃、2MPa、30分の条件で圧着し、電磁波シールドシートの導電性接着剤層25bおよび絶縁層25aを硬化させることで試料を得た。次いで、試料の絶縁層25a側の剥離性シートを除去し、図10(4)の平面図に示す22A-22B間の初期接続抵抗値を、三菱化学製「ロレスターGP」のBSPプローブを用いて測定した。その後、図10(4)の平面図に示すE-E’に沿って山折りを10回繰り返した後、22A-22B間の折り曲げ後の接続抵抗値を測定した。下記式で算出した値を折り曲げ後の接続信頼性として評価した。なお、図10(2)は、図10(1)のD-D’断面図、図10(3)は図10(1)のC-C’断面図である。同様に図10(5)は、図10(4)のD-D’断面図、図10(6)は図10(4)のC-C’断面図である。折り曲げ後の接続信頼性の評価基準は以下の通りである。折り曲げ後の接続信頼性(%)=折り曲げ後の接続抵抗値/初期接続抵抗値×100 ◎:200%未満 非常に良好な結果である。 ○:200%以上400%未満 良好な結果である。 △:400%以上600%未満 実用上問題ない。 ×:600%以上 実用不可」 シ.「 【表6】 」 ス.「【図1】 」 セ.「【図2】 」 上記ア、イ、エ、及びス(図1)によれば、電磁波シールドシートは、絶縁層と金属層と導電性接着剤層とから構成され、前記絶縁層は前記導電性接着剤層及び前記金属層を保護する役割を担い、前記金属層は開口部を有する。 また、上記カによれば、開口部の面積及び個数は、金属層の開口部が20個程度入るように、レーザー顕微鏡VK-X100(キーエンス社製)を用いて2000倍の倍率で金属層の平面画像を取得し、取得した画像すなわち開口部取得画像から測定する。 ここで、上記カによれば、上記セに示した図2は銅箔15の開口部取得画像であり、上記ケ及びシ(表6)によれば、当該銅箔15を金属層に用いているのは実施例15である。 さらに、上記コ及びシ(表6)によれば、上記実施例15の金属層の開口部面積は157μm^(2)であり、開口部数は123600個/cm^(2)であり、開口率は19.4%である。 そして、特許異議申立人は、特許異議申立書において、上記実施例15の開口率(19.4%)と、上記実施例15の開口部取得画像である図2を解析して算出した円径度係数を基にして、上記申立理由1及び2を主張していることを勘案し、当該実施例15に着目して甲第1号証の上記アないしセの記載を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。 「絶縁層と金属層と導電性接着剤層とから構成され、 前記絶縁層は、前記導電性接着剤層及び前記金属層を保護する役割を担い、 前記金属層は123600個/cm^(2)の開口部を有し、前記開口部の面積は157μm^(2)であって、 前記金属層の開口率が19.4%である電磁波シールドシート。 但し、前記開口部の前記面積及び前記個数は、金属層の開口部が20個程度入るように、レーザー顕微鏡VK-X100(キーエンス社製)を用いて2000倍の倍率で金属層の平面画像を取得し、取得した画像すなわち開口部取得画像から測定する。」 (2)本件発明1について ア.対比・判断 本件発明1と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明の「絶縁層」は、「前記導電性接着剤層及び前記金属層を保護する役割を担」うものであるから、本件発明1の「保護層」に相当する。さらに、甲1発明の「金属層」及び「導電性接着剤層」は、本件発明1の「金属層」及び「導電性接着剤層」にそれぞれ相当する。したがって、甲1発明の絶縁層と金属層と導電性接着剤層とから構成される「電磁波シールドシート」は、本件発明1の保護層と金属層と導電性接着剤層とから構成される「電磁波シールドシート」に相当する。 (イ)甲1発明の「金属層」は「123600個/cm^(2)の開口部を有し」ているから、本件発明1の「金属層」と「複数の開口部を有し」ている点で共通する。また、甲1発明の「金属層の開口率」は「19.4%」であるから、本件発明1の「金属層の開口率」の数値範囲である「0.1?20%」に含まれるものである。 ただし、本件発明1の「開口部」は、「数式(1)から求められる円径度係数の平均値が0.5以上であ」るのに対して、甲1発明においては、「開口部」の円径度係数について特定されていない点で相違する。 (ウ)本件発明1は「引張破断強度が10?80N/20mm」であるのに対して、甲1発明においては、引張破断強度について特定されていない。 以上を総合すると、本件発明1と甲1発明は、 「保護層と金属層と導電性接着剤層とから構成され、 前記金属層は複数の開口部を有し、 前記金属層の開口率が0.1?20%であることを特徴とする電磁波シールドシート。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> 本件発明1においては「引張破断強度が10?80N/20mmであ」るのに対して、甲1発明においてはその旨の特定がない点。 <相違点2> 本件発明1においては、「前記開口部の下記数式(1)から求められる円径度係数の平均値が0.5以上であ」り、ここで上記数式(1)については、「 但し、前記周囲長は、金属層を光学顕微鏡、レーザー顕微鏡、および電子顕微鏡いずれかで観察した画像を読み込み、前記開口部の平面が観察視点に対して垂直な方向になり、全体が確認できる前記開口部を抽出して、当該抽出した前記開口部を二次元に投影したときの外周の長さをいい、前記面積は、前記抽出した前記開口部を二次元に投影したときの外周により画定される領域の広さをいう。」であるのに対して、甲1発明においてはその旨の特定がない点。 したがって、本件発明1と甲1発明は、上記相違点1及び相違点2で相違するから、本件発明1は甲1発明であるということはできない。 イ.特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、特許異議申立書において、 (ア)甲第2号証(甲第1号証の図2における開口部の解析方法を説明するための資料)を提出するとともに、甲第1号証の「図2の開口部4を解析し、本件特許発明1の数式(1)に基づいて計算すると円径度係数は約0.5となる」から、「甲1発明の円径度係数は約0.5であり、甲1発明は、本件特許発明1の構成要件Dを満たす」(当審注:構成要件Dとは、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項のことである。)こと(特許異議申立書第14頁ないし第16頁の「d 本件特許発明1の構成要件Dについて」参照。)、及び、 (イ)本件明細書に記載の実施例14ないし20、実施例21ないし27、比較例1ないし3の特性からみて「電磁波シールドシートの引張破断強度に大きく影響する要素は、金属層の厚さ、開口率、及び円径度係数であ」り、「甲1発明である甲第1号証の実施例15における金属層(銅箔15)の厚さは3μm、開口率は19.4%、円径度係数は上述の通り約0.8であり(【表6】)、これらの値は本件明細書の実施例11の銅箔12(厚さ3μm、開口率19.5%、円径度係数0.7(本件明細書の【表2】))とほぼ同じである」(当審注:上記(ア)で摘記したとおり、特許異議申立人は甲1発明の円径度係数を「約0.5」と算出しているから、上記「円径度係数は上述の通り約0.8であり」という記載は当該算出結果と整合していない。)から、「甲1発明である甲第1号証の実施例15における電磁波シールドシートの引張破断強度は10?80N/20mmである蓋然性が極めて高く、相違点1は実質的な相違点ではない。」こと(特許異議申立書第17頁ないし第19頁の「h 相違点1について」参照。) を主張している。 そこで、まず上記主張(ア)について検討すると、特許異議申立書の第16頁の表には、甲第2号証の図1のNo.1?17の符号が付された開口部の各々について、算出された周囲長(pixel)及び面積(pixel)の値と、それらから算出した各々の円径度係数の値及びそれらの平均値が記載されている。 ここで、上記周囲長の値が有効数字3桁で算出され、上記面積が有効数字4桁で算出されていることを踏まえて、円径度係数及びその平均値を有効数字3桁で計算すると次の表のとおりとなる。 また、特許異議申立人は、円径度係数を計算するために用いる周囲長及び面積をピクセル(pixel)単位で算出しているが、同じピクセル数で表される線分であっても、当該線分が水平又は垂直方向に伸びている場合と、斜め方向に伸びている場合とでは、実際の長さが異なることは技術常識である。すなわち、例えば、ピクセルが正方形である場合、水平方向に3ピクセル並んだ線分の長さを3とすると、斜め45度方向に3ピクセル並んだ線分の長さは3√2となる。そうすると、開口部の周囲を定義するピクセルが全て斜め45度、135度、225度、315度に並んでいる場合には、周囲長は特許異議申立人がピクセル単位で算出した値よりも√2倍長くなり、その結果、数1から求められる円径度係数は√2×√2倍、すなわち2倍も小さな値となる。 そこで、特許異議申立人がピクセル単位の周囲長を算出する際に用いた甲第2号証の図4をみると、水平又は垂直に方向に伸びる線分はごく一部であって、大半が斜め方向に伸びていることから、実際の周囲長及びそれに基づく円径度係数の平均値は、ピクセル単位の周囲長及びそれに基づく円径度係数の平均値(0.470(上記表参照))よりもはるかに小さな値となることは明かである。 してみると、「甲1発明の円径度係数は約0.5であり、甲1発明は、本件特許発明1の構成要件Dを満たす。」という特許異議申立人の主張は、ピクセル単位で算出した周囲長に基づくものであって、実際の周囲長に基づく円径度係数が0.5よりも小さいことは明かであるから、当該主張を採用することはできない。 よって、上記主張(イ)について検討するまでもなく、本件発明1と甲1発明は、相違点を有するから、上記アで説示したとおり、本件発明1は甲1発明であるということはできない。 (3)本件発明2ないし4について 本件発明2ないし4は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明2ないし4は甲1発明であるということはできない。 (4)まとめ 以上のとおり、本件発明1ないし4は、甲1発明であるということはできないから、特許法第29条第1項第3号に該当しない。したがって、請求項1ないし4に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 2.申立理由2(特許法第29条第2項)について (1)甲第1号証の記載事項等 甲第1号証の記載事項等は、上記1.(1)で説示したとおりである。 (2)本件発明1について ア.対比 上記1.(2)アで説示したとおり、本件発明1と甲1発明は、上記相違点1及び相違点2で相違し、その余の点で一致する。 イ.判断 事案に鑑み、まず上記相違点2について検討する。 甲第1号証には「開口部の形状は例えば、円、楕円、四角、多角形、星形、台形等、必要に応じて各形状を形成することができるが、製造コスト及び膜の強靭性の観点から、円および、楕円が好ましい。」(上記1.(1)ウ参照。)のように、開口部の形状は、四角、多角形、星形、台形よりも、円及び楕円が好ましいという記載はあるものの、円径度係数の平均値を0.5以上とする必要があることは記載も示唆もされていない。 また、甲1発明を認定する際の基礎とした実施例15は、上記表6(上記1.(1)シ参照。)からみて、全ての評価項目の評価結果が「◎」であるから、円径度係数をより高いものとする必要性は何ら認められない。 さらに、開口部の円径度係数を調整しようとすれば、金属層全体を作り直すことになり、円径度係数だけでなく、面積や開口率等も甲1発明(又は実施例15)とは異なるものとなるが、甲第1号証の実施例10及び11の開口率が20%を超えている(上記1.(1)シ参照。)ことからみて、円径度係数を調整する際に、19.4%という開口率を維持する必要性も何ら認められない。 そして、特許異議申立人が提出した甲第3号証には、電磁波シールド材の破断強度を2.0kgf/cm(すなわち、約39N/20mm)以上にすることは記載されている(【0007】参照)ものの、金属層の開口部が「円径度係数の平均値が0.5以上」という条件と「開口率が0.1?20%」という条件の両方を満たすようにすることについては、記載も示唆もされていない。なお、特許異議申立人が、本件発明5に関して、ビア径(面積)の通常の範囲を示すために提出した甲第4号証ないし甲第9号証にも、金属層の開口部が「円径度係数の平均値が0.5以上」という条件と「開口率が0.1?20%」という条件の両方を満たすようにすることについては、記載も示唆もされていない。 したがって、上記相違点1について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基づいて、あるいは、甲1発明及び甲第3号証に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (3)本件発明2ないし5について 本件発明2ないし5は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明2ないし5は、甲1発明に基づいて、あるいは、甲1発明及び甲第3号証に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (4)まとめ 以上のとおり、本件発明1ないし5は、甲1発明に基づいて、あるいは、甲1発明及び甲第3号証に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。したがって、請求項1ないし5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-03-25 |
出願番号 | 特願2018-118172(P2018-118172) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(H05K)
P 1 651・ 121- Y (H05K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 齊藤 健一 |
特許庁審判長 |
酒井 朋広 |
特許庁審判官 |
山澤 宏 國分 直樹 |
登録日 | 2019-06-28 |
登録番号 | 特許第6544466号(P6544466) |
権利者 | 東洋インキSCホールディングス株式会社 |
発明の名称 | 電磁波シールドシートおよびプリント配線板 |