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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01B
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C01B
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C01B
審判 一部申し立て 2項進歩性  C01B
管理番号 1361499
異議申立番号 異議2019-700679  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-05-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-08-27 
確定日 2020-04-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6482054号発明「金属担持炭素材料およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6482054号の請求項1、4、6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6482054号(以下、「本件」という。)の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成26年3月25日を出願日とし、平成31年2月22日に特許権の設定登録がなされ、同年3月13日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、本件の請求項1?10に係る特許のうちの請求項1、請求項4、請求項6に係る特許に対し、令和1年8月27日付けで特許異議申立人 奥村一正(以下「異議申立人」という。)により甲第1?4号証が添付された特許異議申立書が提出され、同年9月6日付けの手続補正指令書(方式)の指定期間内である、同年同月20日付けで異議申立人より、特許異議申立書の「3 申立て理由」についての、手続補正書が提出され、同年11月22日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である、令和2年1月24日付けで特許権者より乙第1?3号証が添付された意見書が提出され、同年2月12日付けで異議申立人に対して、特許権者の同年1月24日付けの意見書を送付し、当該意見書の記載内容について意見があるかを審尋したところ、その指定期間内である、同年3月9日付けで異議申立人より回答書が提出されたものである。


第2 本件発明
本件の特許請求の範囲の請求項1?10に係る発明は、本件の願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの、請求項1、請求項4、請求項6に係る発明は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
網目状に連結した細孔を有する炭素材料に、FeまたはNiを有する金属粒子が担持された金属担持炭素材料であって、
前記金属粒子が前記細孔内部に担持されており、
透過型電子顕微鏡(TEM)で観察される前記金属粒子の平均粒径が1.2nm未満である、金属担持炭素材料。」
「【請求項4】
X線回折(XRD)で規定される前記金属粒子の平均粒径が1.2nm未満である、請求項1?3のいずれか1項に記載の金属担持炭素材料。」
「【請求項6】
前記金属粒子の担持量は、前記金属担持炭素材料の全量に対して1?7質量%である、請求項1?5のいずれか1項に記載の金属担持炭素材料。」


第3 取消理由通知に記載した取消理由について
1. 取消理由の内容
本件の請求項1、請求項4、請求項6に係る特許に対して、令和1年11月22日付けで特許権者に通知した取消理由(以下、「取消理由1」という。)の内容は、次のとおりである。
(当審注:「…」は記載の省略を表す。以下、同じ。)

ア. 本件の明細書の発明の詳細な説明(以下、単に、「発明の詳細な説明」という。)によれば、水素エネルギーの実用化に向け、多量の水素を吸蔵できる水素吸蔵材料の開発は必要不可欠であり、これまでに水素吸蔵合金、化学水素化物、吸着系材料などの水素吸蔵材料の研究が活発に行なわれてきており、水素吸蔵合金や化学水素化物と比較して吸蔵量が少ないという問題がある、吸着系材料では、近年、物理吸着に加えてスピルオーバーを利用した水素吸蔵方式が注目されているとされている。ここで、スピルオーバーとは、固体表面上に白金などの金属粒子を担持すると、気相中の水素分子が金属に接触して金属の作用により金属表面上で水素原子に解離し、固体表面上に流出する現象であり、流出した水素原子が固体表面に吸着(吸蔵)されるため、水素を分子のまま吸着させる物理吸着と組み合わせて水素吸蔵能を向上させることができると考えられる。しかし、白金は非常に高価で希少な金属であるため、より安価な代替の検討が求められており、また、燃料電池自動車の実用化のためには、より多量の水素を吸蔵できる水素吸蔵材料が必要であり、効率的に原子状水素の吸蔵を進行させうる手段が求められていることから、本発明の課題は、低コストであるとともに、効率的に原子状水素の吸蔵が進行しうる、金属担持炭素材料を提供することであると認められる(【0002】?【0009】)。

イ. そして、発明の詳細な説明によれば、上記ア.に示した本発明の課題は、具体的には、鉄またはニッケルである金属粒子がゼオライト鋳型炭素材料の細孔内部に担持された金属担持ゼオライト鋳型炭素材料であって、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察される前記金属材料の平均粒径が1.2nm未満である、金属担持ゼオライト鋳型炭素材料によって解決できたとされている(【0021】、【0090】?【0127】、【図1】?【図5】)。

ウ. 上記イ.のような金属担持ゼオライト鋳型炭素材料に対して、本件の請求項1に記載されているのは、「網目状に連結した細孔を有する炭素材料に、FeまたはNiを有する金属粒子が担持された金属担持炭素材料であって、前記金属粒子が前記細孔内部に担持されており、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察される前記金属粒子の平均粒径が1.2nm未満である、金属担持炭素材料。」であるから、網目状に連結した細孔を有する炭素材料が、ゼオライト鋳型炭素材料に特定されているわけではなく、ゼオライト鋳型炭素材料以外の網目状に連結した細孔を有する炭素材料も包含している。
しかしながら、発明の詳細な説明全体の記載をみても、網目状に連結した細孔を有する炭素材料として記載されているのは、「ゼオライト鋳型炭素材料2は、直径が0.1?2nmの範囲内にある細孔(ミクロ孔2a)が網目状に連結した構造を有する。」(【0030】)、「ゼオライト鋳型炭素材料などのミクロポーラス炭素材料を用いる場合を説明する。 まず、上記した構造的な特徴を有するミクロポーラス炭素材料を得るためには、構造内部に空孔を有し、この空孔が網目状に連結した構造を有する多孔質材料を鋳型として用いる。…得られるミクロポーラス炭素材料の物性を考慮すると、多孔質材料としてゼオライトを用いることが好ましい。」(【0052】?【0054】)といった記載、すなわち、ゼオライト鋳型炭素材料にとどまり、ゼオライト鋳型炭素材料以外の網目状に連結した細孔を有する炭素材料によって、上記ア.に示した本発明の課題が解決できるまでの開示は見当たらない。
そのため、本件の特許請求の範囲の請求項1に記載されている金属担持炭素材料は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。

エ. よって、本件の請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。
また、本件の請求項4、6に係る特許についても、特許請求の範囲の請求項4、6に記載の金属担持炭素材料は、特許請求の範囲の請求項1に記載の金属担持炭素材料と同様に、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消すべきものである。


2. 当審の判断
ア. 発明の詳細な説明の記載
本件の請求項1、請求項4、請求項6に記載の金属担持炭素材料に係る発明について、発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
(ア) 「【技術分野】
【0001】
本発明は、金属担持炭素材料…に関する。より詳細には、燃料電池用の水素吸蔵材料に好適に適用される金属担持炭素材料…に関する。」

(イ) 「【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料に代わるクリーンなエネルギー源として水素を利用することが注目されている。ところが水素は常温では液化しない気体であるために輸送や貯蔵が難しく、このことが水素利用の大きな障害となっている。そこで、例えば、高圧に圧縮する、低温で液化する、水素吸蔵材料を利用する、等の様々な方法が提案されている。
【0003】
水素エネルギーの実用化に向け、多量の水素を吸蔵できる水素吸蔵材料の開発は必要不可欠であり、これまでに水素吸蔵合金、化学水素化物、吸着系材料などの水素吸蔵材料の研究が活発に行なわれてきた。
【0004】
水素吸蔵合金および化学水素化物は、吸着系材料と比較して吸蔵量が大きく、水素吸蔵能が5重量%を超えるものが得られているものの、水素の放出に加熱が必要であること、
寿命が短いことなどの問題がある。
【0005】
一方、吸着系材料としては、例えば活性炭やカーボンナノチューブをはじめとする炭素材料が挙げられる。吸着系材料では、物理吸着を利用するために水素の吸蔵・放出過程で加熱は不要であるが、水素吸蔵合金や化学水素化物と比較して吸蔵量が少ないという問題がある。そこで近年、物理吸着に加えてスピルオーバーを利用した水素吸蔵方式が注目されている。
【0006】
スピルオーバーとは、固体表面上に白金などの金属粒子を担持すると、気相中の水素分子が金属に接触して金属の作用により金属表面上で水素原子に解離し、固体表面上に流出する現象である。流出した水素原子が固体表面に吸着(吸蔵)されるため、水素を分子のまま吸着させる物理吸着と組み合わせて水素吸蔵能を向上させることができると考えられる。…」

(ウ) 「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、白金は非常に高価で希少な金属であるため、より安価な代替の検討が求められている。また、燃料電池自動車の実用化のためには、より多量の水素を吸蔵できる水素吸蔵材料が必要であり、効率的に原子状水素の吸蔵を進行させうる手段が求められている。
【0009】
そこで本発明は、低コストであるとともに、効率的に原子状水素の吸蔵が進行しうる、金属担持炭素材料を提供することを目的とする。」
(エ) 「【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題に鑑み、鋭意研究を積み重ねた。その過程で、細孔を有する炭素材料に担持される金属を特定の遷移金属とし、金属粒子の平均粒径を所定の値に制御することで課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち本発明は、細孔を有する炭素材料に、Fe、Ni…から選択される1以上の遷移金属を有する金属粒子が担持された金属担持炭素材料であって、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察される前記金属粒子の平均粒径が20nm以下である、金属担持炭素材料である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金属粒子が凝集を起こすことなく分散されて炭素材料に担持されているため、単位重量あたりの金属の比表面積が極めて高くなる。そのため、スピルオーバーを利用して原子状水素を効率的に吸蔵することができる。さらに、白金に代えて所定の遷移金属を用いることで低コスト化を図ることができる。」

(オ) 「【0016】
<金属担持炭素材料>
本発明の一実施形態は、細孔を有する炭素材料に、Fe、Ni…から選択される1以上の遷移金属を有する金属粒子が担持された金属担持炭素材料であって、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察される前記金属粒子の平均粒径が20nm以下である、金属担持炭素材料である。
【0017】
本実施形態の金属担持炭素材料は、白金のような高価で希少な金属を使用しないため、低コスト化を図ることができ、工業化に適する。また、微細な金属粒子が高い分散状態で炭素材料に担持されているため、金属の質量あたりの表面積が大きく、金属の質量活性が向上しうる。そのため、燃料電池などの水素吸蔵材料として、スピルオーバーを利用して原子状水素を効率的に吸蔵することができる。燃料電池の廃熱が利用できる80℃程度の温度条件下では、原子状水素の拡散距離がnmレベルと小さいが、本実施形態の金属担持炭素材料によれば、微細な金属粒子が高い分散状態で、高い粒子密度で担持されるため、容易に炭素材料に吸蔵させることができる。
【0018】
本実施形態による金属担持炭素材料は、担持される金属粒子のTEMで規定される平均粒径が20nm以下である。このようにすることで金属の使用量を低減でき、金属の質量当たりの活性が向上した金属担持炭素材料が得られる。また、上記の特定の遷移金属において、金属粒子の平均粒径を20nm以下とすることで、水素の吸着におけるスピルオーバー活性が得られることが明らかになった。

【0021】
特に好ましくは、本実施形態による金属担持炭素材料は、TEMによって規定される金属粒子の平均粒径が1.2nm未満である。これによって、金属の質量当たりの活性がより向上した金属担持炭素材料が得られうる。TEMによって観察することのできる金属粒子は、およそ1nmまでの粒径を有するものである。そのため、金属粒子の平均粒径が1.2nm未満である場合、担持された金属粒子の粒径をTEMで直接測定することは難しい。しかしながら、1.2nmの細孔を有する炭素材料に金属粒子を担持させて得られた金属担持炭素材料をTEMで観察したときに金属粒子が見えない場合、金属粒子が細孔内に導入されており、その平均粒径は1.2nm未満であると考えられる。この場合、TEMによって規定される金属粒子の平均粒径が1.2nm未満であるとする。

【0023】
好ましくは、本実施形態による金属担持炭素材料は、X線回折(XRD)によって規定される金属粒子の平均粒径が1.2nm未満である。これによって、金属の質量当たりの活性がより向上した金属担持炭素材料が得られうる。…

【0026】
また、後述するように、本実施形態の金属担持炭素材料は、炭素材料として、ゼオライト鋳型炭素材料を用いたものである。ゼオライト鋳型炭素材料は、均一なミクロ孔と高表面積を有するため、物理吸着による水素吸蔵量としては、炭素材料としては最高レベルの水素吸蔵量を示す。そのため、ゼオライト鋳型炭素材料を用いることで、物理吸着による水素吸蔵能と、金属粒子によるスピルオーバーを利用した水素吸蔵能を合わせて利用することができ、より高い水素吸蔵量を示す金属担持炭素材料が得られうる。」

(カ) 「【0027】
(細孔を有する炭素材料)
細孔を有する炭素材料は、金属粒子を担持するための担体として機能する。また、水素やその他のガスを吸着、分離する働きを有する。
【0028】
前記細孔を有する炭素材料としては、遷移金属の粒子を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有しているものであればよく、…例えば、ケッチェンブラック(高導電性カーボンブラック)、(オイル)ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラック等のカーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子(カーボン担体)が挙げられる。しかしながら、物理吸着による水素吸蔵能は表面積が大きいほど高くなるため、水素吸蔵能を高めるためには特にゼオライト鋳型炭素材料(ZTC)のようなミクロポーラス炭素材料が好ましく用いられうる。ZTCは、球面状の細いグラフェンシートが3次元状に規則的につながった構造を有し、超高表面積であるため、水素吸蔵特性に優れる。…
【0029】
図1に、ミクロポーラス炭素材料としてのゼオライト鋳型炭素材料の一例を模式的に示す。ゼオライト鋳型炭素材料2は、ゼオライト1を鋳型として得られた炭素材料である。より詳細には、ゼオライト鋳型炭素材料2の作製には、まず、図1(a)に示すゼオライト1のミクロ孔1aに炭素源である有機化合物を導入した後に加熱処理して図1(b)に示すゼオライト1と炭素との複合体(ゼオライト-炭素複合体)3を調製する。その後にゼオライト1のみを除去することによって、ゼオライト鋳型炭素材料2が得られる(図1(c))。ゼオライト鋳型炭素材料2は、鋳型として用いたゼオライト1の構造的特徴が反映された、3次元の長周期規則構造と内部にミクロ孔2aとを有する。
【0030】
ゼオライト鋳型炭素材料2は、その製造にあたって使用する鋳型である特定の3次元規則構造を有するゼオライト1が備える構造的特徴を反映した多孔性炭素材料である。ゼオライト鋳型炭素材料2は、直径が0.1?2nmの範囲内にある細孔(ミクロ孔2a)が網目状に連結した構造を有する。…」

(キ) 「【0038】
(金属粒子)
本実施形態において、金属粒子は、例えば燃料電池用水素吸蔵材料において、水素ガス層中の水素分子を金属表面上で水素原子に解離させ、炭素材料の表面上に流出させ、吸蔵させる機能を有する。

【0040】
…水素吸蔵特性、安定性、耐熱性などを向上させるために、また、製造コストを低減するために、少なくとも鉄、ニッケル、またはコバルトを含むものが好ましく用いられる。すなわち、金属は、鉄、ニッケル、もしくはコバルトである…。このような金属は、高い活性を発揮できる。…

【0042】
細孔を有する炭素材料に担持されてなる金属粒子の担持量は、金属担持炭素材料の全量に対して、好ましくは0.1?20質量%、より好ましくは1?7質量%である。金属粒子の担持量がかような範囲内の値であると、炭素材料上での金属成分の分散度と性能とのバランスが適切に制御されうる。」

(ク) 「【0051】
(細孔を有する炭素材料と金属錯体とを準備する工程)
(炭素材料)
細孔を有する炭素材料の具体的な形態は上述と同様である。
【0052】
細孔を有する炭素材料の入手経路については特に制限はない。商業的に入手可能な商品を用いてもよいし、自ら調製してもよい。以下、ゼオライト鋳型炭素材料などのミクロポーラス炭素材料を用いる場合を説明する。
【0053】
まず、上記した構造的な特徴を有するミクロポーラス炭素材料を得るためには、構造内部に空孔を有し、この空孔が網目状に連結した構造を有する多孔質材料を鋳型として用いる。そして、この多孔質材料の表面及びミクロ孔内部に加熱条件下で有機化合物を導入し、加熱することによって有機化合物を炭化し、多孔質材料に炭素を堆積させる。有機化合物の炭化・炭素の堆積は、例えば化学気相成長(Chemical Vapor Deposition:CVD)法により行う。次に、鋳型である多孔質材料を除去する。この方法により、ミクロ孔を有するミクロポーラス炭素材料を容易に製造することができる。
【0054】
鋳型として用いる多孔質材料は、ミクロ孔内部に有機化合物が導入できること、CVD法の際に元の構造を安定に保つこと、生成したミクロポーラス炭素材料と分離できることが必要である。このため、例えば多孔質酸化物等の耐熱性に優れ、且つ、酸やアルカリで溶解する材料が望ましい。また、既に述べたように、ミクロポーラス炭素材料は鋳型の形態を転写した状態で合成される。このため、鋳型として用いる多孔質材料は、結晶(構造)が十分に発達し、粒径の揃った構造及び組成が均一な材料であることが望ましい。多孔質材料の備えるべき材料物性と、得られるミクロポーラス炭素材料の物性を考慮すると、多孔質材料としてゼオライトを用いることが好ましい。」

(ケ) 「【実施例】
【0089】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。…
【0090】
<実施例1>
(ZTCの調製)
乾燥したゼオライト(NaY5.5)にフルフリルアルコール(FA)を含浸した。これを、150℃で8時間熱処理してFAを重合させ、PFA/ゼオライト複合体とした。これをN_(2)雰囲気下5℃/分で850℃まで昇温し、次いで700℃で1時間プロピレンCVDを行った。その後N_(2)雰囲気下5℃/分で900℃まで昇温して3時間保持し、炭素/ゼオライト複合体を調製した。最後に、この複合体を47質量%のフッ素水素酸100mlに投入後、5時間攪拌してフッ化水素酸処理し、鋳型であるゼオライトを溶解除去してミクロポーラス炭素材料であるゼオライト鋳型炭素材料(ZTC)を得た。得られた試料のBET比表面積S_(BET)は3600m^(2)/gであった。
【0091】
(フェロセン担持ZTCの調製)
フェロセン(和光純薬工業株式会社製)30mgを、外径6mmの片側を閉じたガラス管Aに入れ、ガラス管の口に石英ウールを詰めた。当該ガラス管Aを、細孔を有する炭素材料として、上記で調製したZTC200mgを入れた大型アンプル管Bに入れた。次に、ZTCの入った大型アンプル管Bを横向きに固定し、管口部分(内径7mm)にフェロセンの入ったガラス管Aを挿入した。オイルポンプを用いて大型アンプル管B内を減圧下(50Pa)としたままZTCの部分のみマントルヒーターを用いて150℃で、6時間真空加熱乾燥した。この際、ガラス管A側に熱が伝わらないよう断熱材を巻きつけてマントルヒーターに蓋をした。ZTCを真空加熱乾燥後、ZTCを放冷させて室温まで戻ったら、真空状態のままガラス管Aを大型アンプル管BのZTCのある側にスライドさせ、アンプル管の柄部分をガスバーナーで熱し封じ切った。
【0092】
次に、ガラス管Aを封入した大型アンプル管Bを、オイルバス中で100℃、12時間保持した。これにより、フェロセンが昇華し、ZTCと接触した。その後、大型アンプル管Bを室温まで自然放冷し、その後空気中で開封し、フェロセンが吸着したZTC(フェロセン担持ZTC、フェロセン/ZTC)を取り出した。
【0093】
同じ操作を2本の大型アンプル管を用いて実施し、計400mgのZTCを用いた試料を調製した。得られたフェロセン担持ZTCは450mgであった。フェロセン導入後の重量増加から計算した鉄の担持量は3.3質量%であった。
【0094】
(熱処理によるフェロセンの還元)
フェロセンのシクロペンタジエニル配位子を取り除き、鉄粒子を担持させるために、N_(2)雰囲気下での熱処理を行った。具体的には、上記で得られたフェロセンが吸着したZTCを、内径30mmの石英フラスコに入れ、まず吸着水を取り除くためにオイルポンプでフラスコ内を真空引きした状態で、5℃/分で100℃まで昇温し、この温度で6時間保持することで試料を乾燥させた。続いてフラスコを室温まで放冷した後、N_(2)ガスを50ml/分で流通させ、5℃/分で600℃まで昇温させ、この温度で1時間の熱処理を行って、Fe担持ZTC(Fe/ZTC)を得た。
【0095】
<実施例2>
実施例1において、フェロセン30mgに代えて、ニッケロセン200mgを用いたこと、昇華させる際の加熱条件を60℃、12時間としたこと以外は実施例1と同様の手順で、ニッケロセン担持ZTC(ニッケロセン/ZTC)を得た。得られたニッケロセン担持ZTCは457mgであった。ニッケロセン導入後の重量増加から計算したニッケルの担持量は3.8質量%であった。
【0096】
次いで、実施例1と同様の手順で、ただし、熱処理によるニッケロセンの還元の前に、5℃/分で60℃まで昇温し、この温度で6時間保持することで試料を乾燥させた。その後、実施例1と同様の手法で、還元の際の熱処理温度を600℃として、ニッケロセンを還元してNi担持ZTC(Ni/ZTC)を得た。
【0097】
<実施例3>
実施例2において、還元の際の熱処理温度を300℃としたことを除いては、実施例2と同様にしてNi担持ZTCを得た。
【0098】
<比較例1:Ptコロイド担持ZTC>
FeまたはNiの金属錯体を用いて金属粒子を担持させたZTCと比較するために、ZTCにPtコロイドを担持させた試料を調製した。
【0099】
具体的には、0.3gの乾燥したZTCを、日本板ガラス社製のPtナノコロイド水溶液(200ppm)50mgと混合し、25℃で15時間撹拌した。その後、得られた混合溶液を45℃で1時間、次いで80℃で1時間、その後150℃で6時間真空乾燥することで、ZTCにPtナノコロイドを担持した。ICPで分析したPt担持量は3.2質量%であった。Ptコロイドの粒子径は1?3nmである。

【0115】
<透過型電子顕微鏡(TEM)観察>
各実施例で調製した金属担持炭素材料についてTEM観察を行った。
【0116】
透過型電子顕微鏡(TEM)観察は、日本電子株式会社製透過型電子顕微鏡JEM-2010を用い、加速電圧200kVにて観察した。TEM観察に際しては、試料にエタノールを少量加えてから超音波処理することで懸濁させ、懸濁液をマイクログリッド(応研商事株式会社製:普及品タイプB)に微量滴下した後、40℃で30分間減圧乾燥し、TEM用観察試料とした。
【0117】
図3A?図3Cに、実施例1?3で得られたFe担持ZTCまたはNi担持ZTCのTEM像をそれぞれ示す。
【0118】
図3Aより、実施例1で得られたFe担持ZTCでは、粒子の存在は観測されず、このことから、粒径が2nm以下の極めて微小なFeまたはFe_(3)O_(4)の粒子、またはクラスターが高分散されていると考えられる。
【0119】
図3Bのように、ニッケロセンを窒素雰囲気下で600℃で1時間熱処理して還元することによって調製した実施例2のNi担持ZTCでは、Niが粒径10?20nmの粒子として観察されている。図3Cのように、還元の際の熱処理温度を300℃とした実施例3のNi担持ZTCでは、粒径4?6nmの粒子が観察されているが、上記のXRDの結果と併せて考慮すると、TEMで観察できない微小な粒子も多く存在するものと考えられる。
【0120】
なお、実施例1?3のいずれも、金属錯体を還元する前の、フェロセン担持ZTC、またはニッケロセン担持ZTCのTEM像においては、金属などの粒子の存在は見られず、ZTCそのもののTEM画像と区別がつかないほどであった(図示せず)。このことからも、フェロセン、またはニッケロセンが、ZTCに高分散していることが確認された。
【0121】
<水素吸脱着測定>
水素吸蔵能の評価は、低圧吸蔵性能測定(?0.1MPa=100kPa)として、高精度自動ガス/蒸気吸着量測定装置(日本ベル株式会社製:BEL SORP MAX)を用いて-20?80℃における水素吸脱着等温線の測定を行った。試料は測定前に100℃で6時間真空加熱乾燥した。空気に暴露した際の水分の吸着を避けるために、試料は測定装置本体で乾燥後、サンプル管を取り外さずにそのまま吸脱着測定を行った。死容積は吸着測定後に測定した。平衡判断条件は500秒間の圧力変化が圧力計の読み値の0.3%以内とした。
【0122】
図4Aに、実施例1で調製したFe担持ZTCの25℃での水素吸脱着等温線を示す。また、図4Bに、実施例2、3で調製したNi担持ZTCの25℃での水素吸脱着等温線を示す。図4A、図4Bにおける点線は、それぞれの試料のαs比表面積S_(αs)に換算したZTCの25℃での水素吸着量(物理吸着量)である。図4中、圧力(kPa)は、水素平衡圧力であり、V(ml(STP)g^(-1))は、単位質量の金属担持炭素材料に吸着したH_(2)の0℃、100000Paの状態に換算した体積を表す。
【0123】
図4Bのように、実施例2および実施例3で調製したNi担持ZTCにおいては、吸着時、低圧側で急激に吸着量が上昇し、化学吸着が起きていることがわかる。その後、圧力に比例した直線的な等温線を示す。この直線的な部分の等温線の勾配は、点線で示す物理吸着量よりも大きい。このことから、Niに解離吸着した水素原子が、ZTC上にスピルオーバーして貯蔵されている可能性があることがわかった。また、脱着時にはヒステリシスを示し、脱着しにくい挙動がみられた。このような水素吸脱着特性は、Pt担持ZTCと同様の挙動である。
【0124】
一方、図4Aに示すように、実施例1で調製したFe担持ZTCでは、また、化学吸着による水素吸着量の増加は観測されず、水素吸着量は圧力の増加に比例して増加した。また、脱着においてヒステリシスはみられず、脱着は可逆的であった。しかしながら、実施例2、3と比較すると吸着量は小さいものの、スピルオーバーによる水素吸着が生じている可能性があることがわかった。
【0125】
図5に、実施例2で調製したNi担持ZTCについて、-20℃、0℃、25℃、50℃、80℃で水素吸脱着測定を行い、各吸着点において求めたスピルオーバーによる水素吸着量のプロットを示す(a)。比較のために、比較例1のPtコロイド担持ZTCについて同様に測定したプロットを示す(b)。
【0126】
ここで、スピルオーバーによる水素吸着量は、各測定点における全水素吸着量から、物理吸着量と、化学吸着量とを差し引いた値とした。化学吸着量は、10kPa以上での測定点から線形近似線を求め、切片の値を化学吸着量とした。
【0127】
図5に示すように、Ptコロイド担持ZTCに比較して、Ni担持ZTCには、明確な温度依存性はみられない。しかしながら、25℃におけるNi担持ZTCのスピルオーバーによる水素吸着量は、同じ温度でのPtコロイド担持ZTCで得られる値と同程度であった。このことから、本発明による金属担持炭素材料によれば、特定の遷移金属の粒子を導入することによって原子状水素の吸蔵が促進されることで、白金のような貴金属を使用することなく、水素吸蔵量が向上しうることが確認された。」

(コ) 「【図1】


【図3A】

【図3B】

【図3C】

【図4A】

【図4B】

【図5】



イ. 特許法第36条第6項第1号に規定する要件についての判断手法
特許法第36条第6項第1号に規定する要件、いわゆる、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明が解決すべき課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるから(知的財産高等裁判所特別部 平成17年(行ケ)第10042号判決参照。)、以下、このような判断手法に従って検討を行うこととする。

ウ. 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比・検討
上記イ.に示した判断手法に従い、上記第2に示した特許請求の範囲の請求項1、請求項4、請求項6(以下、それぞれ、単に、「請求項1」、「請求項4」、「請求項6」ということがある。)の記載と上記ア.に示した発明の詳細な説明の記載とを対比して、請求項1、請求項4、請求項6に記載された本件発明と、発明の詳細な説明の記載に基づき出願時の技術常識に照らして当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲との対応関係を検討することとなるから、まず、発明の詳細な説明の記載に基づき発明の課題を確認し、次に、発明の詳細な説明の記載に基づき出願時の技術常識に照らして当業者が前記本件発明により発明の課題を解決できると認識できるかにつき検討を行うこととする。

(ア) 上記ア.(ア)?(ウ)に示した発明の詳細な説明の記載によれば、上記1.ア.に示したのと同様の検討により、低コストであるとともに、効率的に原子状水素の吸蔵が進行しうる、金属担持炭素材料を提供することが、発明の課題(以下、単に「課題」という。)であると認められる。

(イ) そして、上記ア.(エ)に示した発明の詳細な説明の記載によれば、上記(ア)に示した課題は、細孔を有する炭素材料に担持される金属粒子を特定の遷移金属を有する金属粒子とし、当該金属粒子の平均粒径を所定の値に制御することで解決し得るとの知見に基づいて完成された、細孔を有する炭素材料に、FeまたはNiという特定の遷移金属を有する金属粒子が担持された金属担持炭素材料であって、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察される前記金属粒子の平均粒径が20nm以下である、金属担持炭素材料によって、前記金属粒子が凝集を起こすことなく分散されて炭素材料に担持され、単位重量あたりの金属の比表面積が極めて高くなるため、スピルオーバーを利用して原子状水素を効率的に吸蔵でき、さらに、白金に代えてと特定の遷移金属を用いることで低コスト化できることから、解決できるとされている。

(ウ) 上記(イ)に示した金属担持炭素材料について、発明の詳細な説明には、上記ア.(オ)に示したように、金属の質量当たりの活性がより向上することから、担持される金属粒子のTEMで規定される平均粒径は1.2nm未満であることが特に好ましいが、TEMによって観察することのできる金属粒子は、およそ1nmまでの粒径を有するものであるため、1.2nmの細孔を有する炭素材料に金属粒子を担持させて得られた金属担持炭素材料をTEMで観察したときに金属粒子が見えない場合、金属粒子が細孔内に導入されており、その平均粒径は1.2nm未満であるとすると記載されている。

(エ) 上記(イ)に示した金属担持炭素材料における細孔を有する炭素材料について、発明の詳細な説明には、上記ア.(カ)に示したように、遷移金属の粒子を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有しているものであればよく、例えば、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子(カーボン担体)が挙げられるが、水素吸蔵能を高めるためには特にゼオライト鋳型炭素材料(ZTC)のようなミクロポーラス炭素材料が好ましく用いられるところ、ゼオライト鋳型炭素材料は、上記ア.(コ)の図1に図示したように、細孔(ミクロ孔2a)が網目状に連結した構造を有すると記載されている。

(オ) さらに、発明の詳細な説明には、上記ア.(ク)?(コ)に示したように、網目状に連結した構造を有する、上記(エ)に示したゼオライト鋳型炭素材料を、上記(イ)に示した金属担持炭素材料における、細孔を有する炭素材料として用いた場合についての具体的な説明が記載されている。

(カ) ここで、上記(オ)に示した、ゼオライト鋳型炭素材料を、金属担持炭素材料における、細孔を有する炭素材料として用いた場合についての具体的な説明は、上記ア.(オ)の【0026】の記載によれば、ゼオライト鋳型炭素材料が炭素材料としては最高レベルの水素吸蔵量を示すため、より高い水素吸蔵量を示す金属担持炭素材料が得られうるとの技術的観点を伴って、行われたことであると認められる。

(キ) また、細孔を有する炭素材料に関する、上記ア.(カ)に示した、遷移金属の粒子を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有しているものであればよいという、発明の詳細な説明における記載を考慮すると、上記(カ)に示した技術的観点は、上記(ア)に示した、低コストであるとともに、効率的に原子状水素の吸蔵が進行しうる、金属担持炭素材料を提供するとの課題とは、別異の観点にすぎない。

(ク) 上記(ア)?(キ)の検討によれば、発明の詳細な説明には、低コストであるとともに、効率的に原子状水素の吸蔵が進行しうる、金属担持炭素材料を提供するとの課題は、細孔を有する炭素材料に、FeまたはNiという特定の遷移金属を有する金属粒子が担持された金属担持炭素材料であって、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察される前記金属粒子の平均粒径が20nm以下である、金属担持炭素材料によって解決でき、さらに、金属の質量当たりの活性がより向上することから、金属粒子が細孔内に導入されており、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察される前記金属粒子の平均粒径が1.2nm未満である金属担持炭素材料が特に好ましいということが記載されていると認められる。
してみると、請求項1に記載された発明は、前記課題を解決し得るものとして、発明の詳細な説明に記載されたものである。

(ケ) また、請求項4に記載された発明は、請求項1の記載を引用するものであるが、その発明が有する、「X線回折(XRD)で規定される前記金属粒子の平均粒径が1.2nm未満である」との特定事項について、発明の詳細な説明には、上記ア.(オ)の【0023】に「好ましい」事項として記載されている。
してみると、上記(ク)と同様の検討により、請求項4に記載された発明も、課題を解決し得るものとして、発明の詳細な説明に記載されたものである。

(コ) また、請求項6に記載された発明は、請求項1の記載を引用するものであるが、その発明が有する、「前記金属粒子の担持量は、前記金属担持炭素材料の全量に対して1?7質量%である」との特定事項について、発明の詳細な説明には、上記ア.(キ)に「より好ましい」事項として記載されている。
してみると、上記(ク)と同様の検討により、請求項6に記載された発明も、課題を解決し得るものとして、発明の詳細な説明に記載されたものである。


エ. 補足
(エ-1) 取消理由1に関する異議申立て人の主張について
異議申立人は令和2年3月9日付けの回答書において、請求項1には、金属担持炭素材料における、炭素材料について、「網目状に連結した細孔を有する炭素材料」との特定事項が記載されているが、発明の詳細な説明において、「網目状に連結した細孔を有する炭素材料」として記載されているのは、「ゼオライト鋳型炭素材料」のみであるので、「ゼオライト鋳型炭素材料」以外の「網目状に連結した細孔を有する炭素材料」を包含する請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないし、また、請求項4、請求項6の記載も、請求項1の記載と同様、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない旨主張している。

(エ-2) 検討
請求項1に記載されている、「網目状に連結した細孔を有する炭素材料」との特定事項に関し、発明の詳細な説明において、具体的に記載されているのは、「ゼオライト鋳型炭素材料」のみである。
しかしながら、特許法第36条第6項第1号に規定する要件についての上記イ.に示した判断手法に従った上記ウ.の(ク)の検討と、特許権者の令和2年1月24日付けの意見書に添付された乙第1?3号証に示されている、ゼオライト以外の鋳型炭素材料や活性炭も「網目状に連結した細孔を有する炭素材料」として認識されていたという本件出願時の技術常識とを考慮すると、異議申立人の上記(エ-1)の主張は妥当性を欠いており、理由がないものである。


オ. 小括
上記ウ.?エ.の検討によれば、請求項1、請求項4、請求項6の記載に特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないという記載不備はないから、上記1.に示した取消理由1により、請求項1、請求項4、請求項6に係る特許を取消すことはできない。


第4 申立理由について
1. 申立理由の概要
異議申立人は特許異議申立書において、以下の甲第1?4号証を提出して、以下の申立理由1?4によって、請求項1、請求項4、請求項6に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
(1) 申立理由1
請求項1、請求項4に係る発明は、本件の出願前に公知の甲第1号証に記載された発明(以下、単に「甲1発明」ということがある。)であるので、請求項1、請求項4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである(特許異議申立書第19頁第27行?第23頁第23行)。

(2) 申立理由2
請求項1、請求項4、請求項6に係る発明は甲1発明に基づいて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるので、請求項1、請求項4、請求項6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(特許異議申立書第19頁第27行?第24頁第24行)。

(3) 申立理由3
請求項1、請求項4、請求項6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでないため、請求項1、請求項4、請求項6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(特許異議申立書第24頁第26行?第26頁第17行)。

(4) 申立理由4
請求項1、請求項4、請求項6に係る発明について、発明の詳細な説明の記載は、経済産業省令で当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないため、請求項1、請求項4、請求項6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(特許異議申立書第26頁第18行?末行)。

[異議申立人が提出した証拠方法]
甲第1号証:特開2008-149280号公報
甲第2号証:Daisuke Tashima et.al.,“Evaluation of electric double
layer capacitor using Ketjenblack as conductive
nanofiller ”,Electrochimica Acta, Vol.56(2011),p.8941-
8946
甲第3号証:特開2010-115636号公報
甲第4号証:特開2013-173623号公報


2. 当審の判断
上記1.に示した申立理由1?4のうちの、申立理由3は、上記第3の1.に示した取消理由1と同じものであり、上記第3の2.で検討したとおり、妥当なものとはいえず、申立理由3により、請求項1、請求項4、請求項6に係る特許を取消すことはできない。

そこで、以下では、申立理由1?2、4について順次検討する。
なお、以下では、上記第2に示した請求項1、請求項4、請求項6に係る発明を、それぞれ、「本件発明1」、「本件発明4」、「本件発明6」といい、これらの発明を、まとめて、「本件発明」ということがある。

(1) 申立理由1?2について
ア. 甲第1号証の記載事項、及び、甲1発明
(ア1) 「 【技術分野】
【0001】
本発明は、金属触媒の製造方法およびこの方法によって得られる金属触媒に関する。」

(ア2) 「【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池に用いられる金属触媒電極に関して、研究開発が進められているが、主として用いられる白金触媒は、価格が高いこと及び希少資源であることの問題をかかえている。このため、貴金属触媒の使用量を極力少なくする手法の開発や、鉄、ニッケルといった安価な遷移金属の触媒の開発に期待が持たれている。
【0003】
白金の使用量を少なくする手法として、黒鉛の層間に銅、ニッケルの塩化物をインターカレートし、高温で還元して銅、ニッケルの金属微粒子を層間に埋設させた担体を用いて、白金の触媒活性を高める方法(特許文献1)や、メソ位に置換基を持たないコバルトポルフィリンをカーボンに担持させ、白金の触媒活性を高めた触媒を用いたカソード電極(特許文献2)が知られている。
【0004】
一般的な金属触媒の製造方法としては、主として、触媒となる金属の塩化物等の金属化合物と担体となるカーボン等との混合液を作り、ろ過、乾燥、加熱して担体表面に金属を析出させる方法が取られている。また、触媒活性を高めるには、触媒金属の粒径を小さくし、表面積を大きくする、あるいは触媒金属の担持量を増やすことが必要となる。

【発明が解決しようとする課題】
【0006】
触媒金属の粒径を小さくするためには、核形成の数を増すことが必要となるが、そのために触媒金属のカーボンに対する混合比を増すと、既存の方法では、触媒金属の粒径が大きくなり、触媒としての活性が悪くなる。これらの問題点は、析出した触媒金属がカーボン担体表面を自由に動き回り、互いに凝集して粒成長するために生じる。
【0007】
触媒金属の粒径を小さくするための上記特許文献の方法において、生成された金属粒子の粒径は、特許文献3では実施例1、2とも平均粒径2.5nm、特許文献4では実施例で粒径2.5nm前後、特許文献5では実施例で平均粒径1?2nmと、いずれも1nmより小さくすることは達成できていない。
【0008】
本発明の目的は、担体表面に、触媒としての効率の高い状態、すなわち粒径1nm以下の微小な状態、かつ担持率の高い状態で、触媒金属を担持させる方法を提供することにある。」

(ア3) 「【課題を解決するための手段】

【0016】
本発明の別の視点は、触媒の担体と触媒金属粒子が相互作用する温度以上で触媒金属原料を熱分解して触媒金属粒子を担体表面に析出させ、担体表面に粒径1nm以下の触媒金属粒子が分散して分布した構造を有する金属触媒である。
【0017】
本発明に係る金属触媒において、担体としてカーボン又は二酸化チタンを用いることができる。

【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、担体表面に触媒金属を、触媒としての活性の高い状態、すなわち粒径1nm以下の微小な状態、かつ担持率の高い状態で、担持させることができる。」

(ア4) 「【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明による金属触媒の製造方法においては、環状構造を持つ有機化合物の金属錯体を触媒金属原料とし、析出した金属粒子(原子あるいはクラスター)が、担体表面で相互作用する温度で触媒金属原料を熱分解する。例えば、担体がカーボンであれば、600℃以上であればよい。なお、触媒金属原料の熱分解温度もこれと同程度以上であることが好ましい。それより低温で分解して触媒金属粒子が析出すると、担体と相互作用する前に金属粒子同士が凝集して粒径が増大する可能性があるからである。ただしあまり高温に過ぎても触媒金属原料が飛散し、又は担体と過度に相互作用する可能性がある。カーボン担体では600℃?800℃で良好な結果が得られた。
【0024】
上記熱分解によって、担体表面で析出した金属粒子(原子あるいはクラスター)が、担体表面で担体と相互作用し、くぼみを形成して入り込み、担体表面を自由に動き回れない状態を作り、析出した触媒金属の粒成長を防ぐ。これにより触媒活性が高く、担持率の高い金属触媒を製造することができる。
【0025】
本発明の金属触媒の製造方法においては、始めに、触媒金属原料の溶液を作り、担体(カーボン等)粉末と混ぜて十分攪拌し、ペースト状にする。次に、このペーストを水に分散させることにより触媒金属原料である錯体を担体(カーボン等)上に析出させる。ろ過後、純水で洗浄・乾燥後、窒素雰囲気下で加熱し、金属錯体を分解することにより、粒径1nm以下の金属微粒子が担体(カーボン等)の表面に担持された触媒を得る。
【実施例】
【0026】
次に、本発明の実施例について説明する。始めに、鉄フタロシアニン0.5グラムをピリジン40ミリリットルに溶かし、カーボン粉末0.5グラムと混ぜて12時間攪拌し、ペースト状にした。次に、このペーストを1リットルの水に分散させた。鉄フタロシアニンは非水溶性のためカーボン上に析出した。ろ過後、純水で洗浄し、70℃で乾燥後、窒素雰囲気下で600℃?800℃の範囲内で温度条件を変えて各2時間加熱し、フタロシアニンを分解した。その結果、いずれの条件においても粒径1nm以下の鉄微粒子が担体であるカーボン表面に担持された鉄触媒を得ることができた。なお、鉄フタロシアニン中の鉄はそのほぼ全量がカーボンに担持された。
【0027】
図1を参照して、この反応過程を説明する。図1は、従来法プロセスと本発明プロセスの両方について、カーボン担体表面付近の断面と表面に析出した金属(化合物)を模式的に表わした図である。従来法プロセス(a)においては、触媒金属原料である金属塩化物等1とカーボンを蒸留水とエタノールの混合液中で還流してカーボン担体2上に析出させる(図1(a)(1)参照)。その後100℃以下の低い温度で加熱すると、金属と塩化物等4に分解する(図1(a)(2)参照)。析出した金属粒子(原子又はクラスター)3は、カーボン担体表面にくぼみを作ることなく、互いに凝集し(図1(a)(2)の実線矢印)、粒成長して大きな触媒金属粒子5を形成する(図1(a)(3)参照)。
【0028】
一方、本発明プロセス(b)によれば、触媒金属原料である金属錯体有機化合物6をカーボン担体上に析出させ(図1(b)(1)参照)、高温処理すると有機化合物8と金属粒子7に分解する(図1(b)(2)参照)。十分高温で析出した金属粒子(原子又はクラスター)7がカーボン担体表面でカーボンと相互作用し、担体表面にくぼみ9を形成して金属粒子(原子又はクラスター)7がそのくぼみに入り込む。この結果、析出した金属粒子(原子又はクラスター)7の粒成長が妨げられ、極めて小さな金属粒子(原子又はクラスター)7がカーボン表面に分散して析出した状態が実現する(図1(b)(3)参照)。
【0029】
図2は、上記実施例で得られたカーボン担体粒子の走査透過電子顕微鏡画像と、画像の白線に沿った部分の断面のエネルギー分散型X線分析スペクトルによる元素分析結果である。画像中央に直径100nm程度のカーボン担体粒子があり、白線に沿ったカーボン担体粒子断面のX線分析スペクトルを2種類の折れ線状の黒線で示している。白線の上部の折れ線Aはカーボンの存在比率を示し、白線の下部の折れ線Bは鉄の存在比率を示す図である。白線の右方向がカーボン担体表面側に相当し、これによると、カーボン担体表面近傍にのみ鉄が分布していることがわかる。
【0030】
図3は、上記実施例で得られた、鉄粒子が表面に付着したカーボン担体粒子の高分解能電子顕微鏡画像を示す。縞状に見えるのはカーボン粒子がグラファイト(黒鉛)構造であることを示している。画像中に分散して見える小さな黒点が鉄粒子であり、これによるとその鉄粒子の粒径は1nm以下であることがわかる。」

(ア5) 「【0032】
本発明においては、…担体としてのカーボンはカーボンブラックでも黒鉛でも良く、ナノカーボンでも使用可能である。…」

(ア6) 「【図1】


【図2】

【図3】





(イ) 上記(ア1)によれば、甲第1号証には、金属触媒に関する発明が記載されていると認められる。

(ウ) 上記(ア2)によれば、上記(イ)に示した金属触媒に関する発明は、担体表面に、触媒としての効率の高い状態、すなわち粒径1nm以下の微小な状態、かつ担持率の高い状態で、鉄、ニッケルといった安価な遷移金属を担持した金属触媒を提供することを目的にしていると認められる。

(エ) 上記(ア3)によれば、上記(ウ)に示した目的は、担体としてカーボンと触媒金属粒子が相互作用する温度以上で触媒金属原料を熱分解して触媒金属粒子を担体表面に析出させて、当該担体表面に粒径1nm以下の触媒金属粒子が分散して分布した構造を有する金属触媒によって解決したとされている。

(オ) 上記(ア4)、(ア6)によれば、上記(エ)に示した金属触媒は、具体的には、カーボン粉末表面上に析出させた鉄フタロシアニンを窒素雰囲気下で600?800℃の温度範囲で2時間加熱して、フタロシアニンを分解した結果、析出した粒径1nm以下の鉄微粒子がカーボン粉末表面でカーボンと相互作用し、当該表面にくぼみを形成して当該鉄微粒子がそのくぼみに入り込んだものであると認められる。

(カ) 上記(イ)?(オ)の検討によれば、甲第1号証には、金属触媒に注目すると、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が示されていると認められる。
「粒径1nm以下の鉄微粒子がカーボン担体粒子表面でカーボンと相互作用し、当該担体粒子表面にくぼみを形成して当該鉄微粒子がそのくぼみに入り込んだ金属触媒。」


イ. 本件発明と甲1発明との対比・判断
(イ1) 本件発明1と甲1発明との対比・判断
(イ1-1) 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における、「カーボン担体粒子」、「鉄微粒子」、「金属触媒」は、それぞれ、本件発明1における、「炭素材料」、「FeまたはNiを有する金属粒子」、「金属担持炭素材料」に相当するから、両者は、以下の点で一致し、以下の点で、相違していると認められる。
<一致点>
「炭素材料に、FeまたはNiを有する金属粒子が担持された金属担持炭素材料」の点。

<相違点>
相違点1: 炭素材料について、本件発明1は、「網目状に連結した細孔を有する」との発明特定事項を備えているのに対し、甲1発明は前記の発明特定事項を備えているのか明らかではない点。

相違点2: 金属粒子について、本件発明1は、「細孔内部に担持されており、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察される前記金属粒子の平均粒径が1.2nm未満である」との発明特定事項を備えているのに対し、甲1発明は前記の発明特定事項を備えているのか明らかではない点。

(イ1-2) そこで、まず、上記相違点1につき検討するに、甲1発明における炭素材料について、甲第1号証には、上記ア.(ア4)の【0030】によれば、グラファイト(黒鉛)構造を有することは記載されているものの、その記載からでは、前記炭素材料が網目状に連結した細孔を有するとはいえないし、技術常識に照らしても、前記炭素材料が網目状に連結した細孔を有するとはいえない。
してみると、上記相違点1は実質的な相違点である。

(イ1-3) ところで、上記ア.(ア5)によれば、甲第1号証には、担体としてのカーボンには、カーボンブラックも使用可能である旨の記載がある。
また、カーボンブラックの一種であるアセチレンブラックについて、甲第2号証によれば、一次粒子は孔サイズが20?40nmの多数のメソ孔を含む中空構造を有しているとされている(8942頁右欄下から26?23行、8943頁右欄第1?3行)ところ、このような中空構造は、「網目状に連結した細孔を有する」ことに相当する。
そうすると、甲1発明において、炭素材料として、カーボンブラックの一種であるアセチレンブラックを用いた場合には、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を備えたものとなるところ、前記のとおり、甲第1号証には、カーボンブラックも担体として使用可能である旨の記載があるから、甲1発明において、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を備えるようにすることは、当業者が適宜になし得る技術事項にすぎない。

(イ1-4) 次に、上記相違点2につき検討するに、甲1発明においては、粒径1nm以下の鉄微粒子がカーボン担体粒子表面のくぼみに入り込んでいるが、上記(イ1-2)に示したとおり、カーボン担体粒子は網目状に連結した細孔を有するとはいえないのであるから、金属粒子の平均粒径が1.2nm未満であるものの、その金属粒子が細孔内部に担持されているとはいえない。
してみると、上記相違点2も実質的な相違点である。

(イ1-5) そして、上記ア.(ア4)の【0026】?【0028】によれば、甲1発明における、粒径1nm以下の鉄微粒子が入り込む、カーボン担体粒子表面のくぼみは、カーボン粉末表面上に析出させた鉄フタロシアニンを窒素雰囲気下で600?800℃の温度範囲で2時間加熱した結果、析出した粒径1nm以下の鉄微粒子がカーボン粉末表面でカーボンと相互作用して形成されるが、上記ア.(ア4)の【0029】、上記ア.(ア6)の【図2】によれば、そのくぼみは、カーボン粉末の外表面に形成されるものである。
ここで、上記(イ1-3)に示したとおり、甲第1号証には、カーボンブラックも担体として使用可能である旨の記載があるものの、技術常識に照らし、カーボンブラックであれば、すべからく、網目状に連結した細孔を有するというわけではないことを考慮すると、前記くぼみは炭素材料の外表面に形成されるものだけの開示にとどまる。
すなわち、甲第1号証には、金属粒子を炭素材料の細孔内部に担持することは記載されていないし、示唆もされていない。

(イ1-6) また、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項は、FeまたはNiを有する金属粒子が炭素材料の細孔内部に担持されており、前記金属粒子の平均粒径が1.2nm未満であるという技術事項を意味しているが、当該技術事項に関し、甲第2号証には金属担持炭素材料についての開示は見当たらないし、甲第3号証は粒径20?30nmのNi金属をゼオライト鋳型炭素材料に担持したとの開示にとどまる(【0053】、【0058】?【0059】、【0071】?【0073】)し、甲第4号証にはFeまたはNiを有する金属粒子を炭素材料に担持したとの具体的な開示は見当たらないことからして、甲第2?4号証にも、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項は記載されていないし、示唆もされていない。
また、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項が技術常識であるともいえない。

(イ1-7) 上記(イ1-2)?(イ1-6)の検討によれば、上記相違点2に係る発明特定事項を備える本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、また、甲第1?4号証記載の発明に基づいて、当業者が容易になしえたものともいえない。


(イ2) 本件発明4、6と甲1発明との対比・判断
本件発明4、6は、本件発明1の全ての発明特定事項を備えたものであるから、甲1発明と対比すると、両者は、少なくとも、上記相違点1?2の点で相違している。
そして、上記(イ1-2)?(イ1-6)の検討によれば、上記相違点2に係る発明特定事項を備える本件発明4、6は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、また、甲第1?4号証記載の発明に基づいて、当業者が容易になしえたものともいえない。


ウ. 小括
上記ア.?イ.の検討によれば、本件発明1、4、6は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、また、甲第1?4号証記載の発明に基づいて、当業者が容易になしえたものともいえないから、申立理由1?2は妥当なものとはいえず、それらの申立理由により、請求項1、請求項4、請求項6に係る特許を取消すことはできない。


(2) 申立理由4について
申立理由4について、異議申立人は特許異議申立書において、発明の詳細な説明には、ゼオライト鋳型炭素材料(ZTC)以外の「網目状に連結した細孔を有する炭素材料」を用いて、「透過型電子顕微鏡(TEM)で観察される前記金属粒子の平均粒径が1.2nm未満である」という構成を有する本件発明1、4、6に係る金属担持炭素材料を製造した具体例は全く記載されておらず、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨主張している(特許異議申立書第26頁第18行?末行)。
しかしながら、ゼオライト鋳型炭素材料(ZTC)を用いて本件発明1、4、6の金属担持炭素材料を製造した具体例が記載されている発明の詳細な説明の記載は、当業者であれば、他の網目状に連結した細孔を有する炭素材料を用いた場合にも転用可能な記載であることは自明であり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているから、申立理由4も妥当なものとはいえず、その申立理由により、請求項1、請求項4、請求項6に係る特許を取消すことはできない。


第5 むすび
以上のとおり、取消理由、特許異議の申立理由によっては、請求項1、請求項4、請求項6に係る特許を取り消すことができない。
さらに、他に請求項1、請求項4、請求項6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-03-27 
出願番号 特願2014-62815(P2014-62815)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (C01B)
P 1 652・ 113- Y (C01B)
P 1 652・ 536- Y (C01B)
P 1 652・ 537- Y (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 廣野 知子  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 後藤 政博
小川 進
登録日 2019-02-22 
登録番号 特許第6482054号(P6482054)
権利者 国立大学法人東北大学 日産自動車株式会社
発明の名称 金属担持炭素材料およびその製造方法  
代理人 八田国際特許業務法人  
代理人 八田国際特許業務法人  

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