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審決分類 審判 全部申し立て 特29条特許要件(新規)  C23C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C23C
管理番号 1361502
異議申立番号 異議2019-700890  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-05-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-08 
確定日 2020-04-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第6510844号発明「表面処理方法、表面処理装置およびアルミニウム表面処理材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6510844号の請求項1?4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6510844号(以下「本件特許」という。)の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成27年3月20日の出願であって、平成31年4月12日にその特許権の設定登録がされ、令和1年5月8日に特許掲載公報が発行され、その後、同年11月8日にその請求項4に係る特許に対し、特許異議申立人である藤江桂子(以下「申立人1」という。)により特許異議の申立てがされ、同年同月同日にその請求項1?4(全請求項)に係る特許に対し、特許異議申立人である作田渚(以下「申立人2」という。)により特許異議の申立てがされ、当審により令和2年1月20日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年3月18日に意見書(以下「意見書」という。)が特許権者から提出されたものである。


第2 本件発明
本件特許の請求項1?4に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、請求項の順に「本件発明1」?「本件発明4」といい、これらをまとめて「本件発明」ということがあり、さらに、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

「【請求項1】
自動車パネル用のアルミニウム材料の表面処理方法であって、
フッ化チタン化合物およびフッ化ジルコニウム化合物の少なくとも1種を含有する処理液をアルミニウム材料の表面に塗布し皮膜を形成する処理液塗布工程と、
前記処理液塗布工程において形成した前記皮膜を乾燥する乾燥工程と、
前記乾燥工程において乾燥した前記皮膜を30?80℃の水で水洗する水洗工程と、を含み、
前記処理液塗布工程において、金属チタン換算量と金属ジルコニウム換算量の合計の塗布量が3?25mg/m^(2)となるように前記アルミニウム材料の表面に前記処理液を塗布し、
前記水洗工程において、前記皮膜の表面における「フッ素換算量/金属チタン換算量と金属ジルコニウム換算量との和」を3.4以下とすることを特徴とする表面処理方法。
【請求項2】
自動車パネル用のアルミニウム材料の表面処理装置であって、
フッ化チタン化合物およびフッ化ジルコニウム化合物の少なくとも1種を含有する処理液をアルミニウム材料の表面に塗布し皮膜を形成する処理液塗布装置と、
前記処理液塗布装置によって形成した前記皮膜を乾燥する乾燥装置と、
前記乾燥装置によって乾燥した前記皮膜を30?80℃の水で水洗する水洗装置と、を備え、
前記処理液塗布装置によって、金属チタン換算量と金属ジルコニウム換算量の合計の塗布量が3?25mg/m^(2)となるように前記アルミニウム材料の表面に前記処理液を塗布し、
前記水洗装置によって、前記皮膜の表面における「フッ素換算量/金属チタン換算量と金属ジルコニウム換算量との和」を3.4以下とすることを特徴とする表面処理装置。
【請求項3】
前記アルミニウム材料がアルミニウム板であり、前記アルミニウム板を通板させながら前記処理液塗布装置、前記乾燥装置、及び前記水洗装置による処理が行われることを特徴とする請求項2に記載の表面処理装置。
【請求項4】
自動車パネル用のアルミニウム表面処理材料であって、
アルミニウム材料と、前記アルミニウム材料の表面に形成されたチタンおよびジルコニウムの少なくとも1種を含有する皮膜と、を備え、
前記皮膜は、金属チタン換算量と金属ジルコニウム換算量との合計量が3?17mg/m^(2)であるとともに、前記皮膜の表面における「フッ素換算量/金属チタン換算量と金属ジルコニウム換算量との和」が3.4以下であることを特徴とするアルミニウム表面処理材料。」


第3 取消理由の概要
当審において、本件発明1?4に対して令和2年1月20日付けで通知した取消理由は、申立人2が申し立てた特許法第36条第6項第2号の規定による明確性要件違反の一部(異議申立書の6頁下から4行?7頁8行(3.(4)イのイ(2)))を採用したものであって、本件発明の発明特定事項である「フッ素換算量/金属チタン換算量と金属ジルコニウム換算量との和」について、XPS測定による前記換算量の測定条件が十分に特定されていないから、本件発明は明確でないことをその概要とするものである。


第4 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由について
当審は、特許権者が提出した意見書及び乙第1号証を踏まえて検討した結果、本件発明1?4についての明確性要件違反による取消理由はないと判断したところ、その理由は以下のとおりである。

(1)意見書における主張
特許権者が意見書とともに提出した乙第1号証(「INSTRUCTIONS JPS-9010MC 光電子分光装置」、1998年、日本電子株式会社)に基づく主張(意見書の2頁下から5行?7頁1行)は、以下のとおりである。なお、意見書の記載中、「XPS」について「XSP」との誤記、「JPS-9010MC 光電子分光装置」について「JSP-9010MC 光電子分光装置」との誤記があるところ、それぞれ正して摘示した。

「(3-1)実際に測定した具体的な条件について
(a)XPS測定に供したサンプル
まず、XPS測定に供したサンプルは、本件明細書の段落0060に従って作製したサンプル(アルミニウム表面処理材料)を用いました。なお、サンプルに対して当該段落0060に記載の室温乾燥処理を施した後、測定を実施するまでに、特別な処理(例えば、表面の研磨等)は一切施していません。
そして、サンプルの測定部分については、本件明細書の段落0061のとおり、幅方向中央部である「センター」部分です。また、前述のとおり、室温乾燥処理を施してから測定を実施するまでにサンプルに対して研磨等の処理を施していないことから明らかなように、皮膜の表面(最表面)を測定対象としています。

(b)XPS測定の条件
XPS測定は、日本電子株式会社製の「JPS-9010MC 光電子分光装置」(以下、適宜「本装置」とします)を用いて実施しました。
そして、XPS測定の条件は、本装置に付属の取扱説明書である「INSTRUCTIONS JPS-9010MC 光電子分光装置」(乙第1号証)に基づいて、以下の条件を設定しました。

X線源 :単色化X線源(AlKα )
加速電圧 :10kV
エミッション電流 :10mA
積算時間(取り込み時間) :100ms
ステップ電圧 :0.1eV
パスエネルギー :30eV

(3-2)「当該条件が通常のもの」について
(a)X線源
乙第1号証の「2.1.1 スペクトル分解能と感度」には、本装置で測定を実施する際に採用するX線源について、以下の記載があります。



このように、本件での実際の測定条件である「X線源:単色化X線源(AlKα)」は、取扱説明書に記載されている通常のものです。

なお、乙第1号証の「2.1.1 スペクトル分解能と感度」には、X線源としてAlKαの他に、MgKαも記載されていますが、当業者であれば、対象となる測定元素に応じて精度の良い結果が得られるX線源(本件ではAlKα)を選択することは可能です。

(b)X線源の加速電圧とエミッション電流
乙第1号証の「2.1.2 X線源」には、本装置を使用する際のX線源の加速電圧とエミッション電流について、以下の記載があります。



また、乙第1号証の「5.3.5 測定条件の設定」にも、本装置を使用する際のX線源の加速電圧とエミッション電流について、以下の記載があります。



このように、本件での実際の測定条件である「加速電圧:10kV」と「エミッション電流:10mA」とは、取扱説明書に記載されている通常のものです。

なお、乙第1号証の「5.3.5 測定条件の設定」の以下の記載のとおり、当業者であれば、最大ピークが10万cps以下となるように、特定範囲内(8?12kV、2.5?50mA)から10kVと10mAというX線源の出力(加速電圧、エミッション電流)を設定するのは可能です。



(c)積算時間(取り込み時間)
乙第1号証の「5.3.5 測定条件の設定」には、本装置を使用する際の1データ点当たりの積算時間について、以下の記載があります。



このように、本件での実際の測定条件である「積算時間(取り込み時間):100ms」は、取扱説明書に記載されている通常のものです。

なお、積算時間(取り込み時間)については、当業者であれば、計数値のオーバーフローを防ぐように、特定範囲内(10?1000ms)から100msを 設定するのは可能です。

(d)ステップ電圧とパスエネルギー
乙第1号証の「4.4.4 ANALYZER POWER SUPPLYユニット」には、本装置を使用する際のパスエネルギーについて、以下の記載があります。



また、乙第1号証の「5.3.5 測定条件の設定」には、本装置を使用する際のステップ電圧(SW値)とパスエネルギー(ES値)との関係について以下の記載があります。



このように、本件での実際の測定条件である「ステップ電圧:0.1eV」と 「パスエネルギー:30eV」とは、取扱説明書に記載されている通常のものです。

なお、乙第1号証の前記摘出部分の記載のとおり、当業者であれば、最大ピークが10万cps以下になるように、パスエネルギーを5種類の中から選択し、このパスエネルギー(ES値)に応じたステップ電圧(SW値)を前記表に基づいて設定するのは可能です。」

(2)取消理由通知における明確性要件違反についての当審の判断
上記(1)の「(3-1)」に示された日本電子株式会社製「JPS-9010MC 光電子分光装置」による本件発明におけるXPS測定の条件は、同「(3-2)」に示されたとおり、当該装置の取扱説明書である乙第1号証に記載されている条件の範囲内であって、通常用いられている条件の範囲内であるといえるから、本件発明の発明特定事項である「フッ素換算量/金属チタン換算量と金属ジルコニウム換算量との和」について、XPS測定による前記換算量の測定条件が十分に特定されていないとは認められず、本件発明は明確である。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
当審が取消理由通知において採用しなかった申立人1による本件発明4に対する特許法第29条第1項柱書の規定違反(当審注:申立人1の異議申立書においては「特許法第29条柱書」とされているのを当審が正した。以下同様である。)及びサポート要件違反、申立人2による本件発明1?4に対する上記1以外の明確性要件違反及びサポート要件違反についての判断は、以下のとおりである。

(1)本件明細書の記載について
本件明細書には、以下の記載がある。なお、下線は当審が付与したものである。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化チタン化合物およびフッ化ジルコニウム化合物の少なくとも1種を含有する処理液によるアルミニウム材料の表面処理方法、その表面処理方法で用いられる表面処理装置、および、その表面処理方法により得られ、自動車、船舶、航空機等の車両用、特に自動車用パネルに好適に使用されるアルミニウム表面処理材料に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車産業では、近年、CO_(2)排出規制等の地球環境問題から、部材の軽量化による燃費の向上が求められている。アルミニウム材料は、比重が鉄材料の約1/3と軽いため、今まで鉄材料が使用されていた部分に軽量化が求められて置き換わる材料として注目されている。アルミニウム材料としては、Al-Mg系合金、Al-Mg-Si系合金がその特性に応じて使用されている。
【0003】
特に、電食の抑制、接合の容易性または剛性の観点から、アルミニウム材料と鉄材料とを併用する場合、アルミニウム材料の接着耐久性を向上させる必要がある。従来、接着耐久性を向上させる技術としては、チタンおよびジルコウニムを含有する処理液によりアルミニウム材料の表面に皮膜を形成させる表面処理方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、金属材料の接着剤塗布前処理方法が提案されている。そして、特許文献1の接着剤塗布前処理方法は、アルミニウム系基材からなる被処理物をジルコニウムフッ素錯体および/またはチタンフッ素錯体を含有する化成処理液により処理する工程(I)と、シランカップリング剤の加水分解重縮合物を含有する表面処理液を塗布する工程(II)とからなる。
【0005】
特許文献2には、無濯ぎ法でアルミニウム合金の表面に無クロム化成被覆を形成する方法が提案されている。そして、特許文献2の無クロム化成被覆を形成する方法は、所定の有機皮膜形成剤を含有する溶液とアルミニウム合金の表面を接触させ、1?40秒の接触時間の後、濯ぎをせずに、50?125℃の温度で表面の溶液を乾燥させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-152267号公報
【特許文献2】特表平9-511548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アルミニウム材料の表面に皮膜を形成する表面処理方法としては、特許文献1に記載されているような、アルミニウム材料の表面に処理液を噴霧する方法(以下、適宜「噴霧方法」という)や、アルミニウム材料を処理液に浸漬する方法(以下、適宜「浸漬方法」という)、そして、特許文献2に記載されているような、アルミニウム材料の表面にコーター等を使用して処理液を塗布する方法(以下、適宜「塗布方法」という)が存在する。
【0008】
本発明者らが、特許文献1、2に記載されている従来の噴霧方法、浸漬方法、塗布方法について詳細に検討したところ、それぞれの表面処理方法について以下のような問題点が存在することがわかった。
【0009】
まず、塗布方法については、アルミニウム材料の表面に処理液を塗布した後、処理液を乾燥させていることから、アルミニウム材料と処理液との反応により発生するフッ化アルミニウムや、処理液中の未反応分のフッ素化合物が、皮膜の表面に偏析してしまう。その結果、皮膜の表面に偏析したフッ素化合物が、接着耐久性(特に、湿潤環境下での接着耐久性)を低下させてしまう。
これに対し、噴霧方法や浸漬方法については、噴霧処理や浸漬処理によってアルミニウム材料の表面に付着した余分な処理液を水洗した後、処理液を乾燥させることから、皮膜の表面におけるフッ素化合物の偏析がほとんど見られない。
【0010】
しかしながら、噴霧方法や浸漬方法については、アルミニウム材料の表面への処理液の当たり方、処理液の滞留する状態等により、アルミニウム材料の表面の場所ごとに皮膜量が変化し易く、アルミニウム材料の幅方向において皮膜量の均一性を確保することが難しい。特に、アルミニウム材料としてある程度の幅を有するコイル状のアルミニウム板を対象とする場合、幅方向端部と幅方向中央部において皮膜量が多くなり易く、端部と中央部との間の部分(例えば、端部から幅方向内側に100mmの部分)において皮膜量が少なくなり易い。加えて、皮膜に含まれるチタンやジルコニウムの量(以下、適宜「チタン皮膜量」、「ジルコニウム皮膜量」という)は、塗装処理前に施されるリン酸亜鉛処理に影響を及ぼしてしまうことから、アルミニウム材料の幅方向における皮膜量の不均一という事態が、最終的には、塗装ムラを引き起こす要因にもなる。
【0011】
そこで、本発明は、前記問題を解決すべく創案されたもので、その課題は、アルミニウム材料の幅方向における皮膜量の均一性を確保しつつ、優れた接着耐久性を有する皮膜をアルミニウム材料の表面に形成できる表面処理方法および表面処理装置を提供することにある。また、本発明の課題は、優れた接着耐久性を有するアルミニウム表面処理材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明に係る表面処理方法は、自動車パネル用のアルミニウム材料の表面処理方法であって、フッ化チタン化合物およびフッ化ジルコニウム化合物の少なくとも1種を含有する処理液をアルミニウム材料の表面に塗布し皮膜を形成する処理液塗布工程と、前記処理液塗布工程において形成した前記皮膜を乾燥する乾燥工程と、前記乾燥工程において乾燥した前記皮膜を30?80℃の水で水洗する水洗工程と、を含み、前記処理液塗布工程において、金属チタン換算量と金属ジルコニウム換算量の合計の塗布量が3?25mg/m^(2)となるように前記アルミニウム材料の表面に前記処理液を塗布し、前記水洗工程において、前記皮膜の表面における「フッ素換算量/金属チタン換算量と金属ジルコニウム換算量との和」を3.4以下とすることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る表面処理方法は、所定の処理液をアルミニウム材料の表面に塗布することにより皮膜を形成させていることから、噴霧方法や浸漬方法により皮膜を形成させる表面処理方法と比較し、アルミニウム材料の幅方向における皮膜量の均一性を向上させることができる。
また、本発明に係る表面処理方法は、アルミニウム材料の表面に形成させた皮膜を乾燥させた後に、所定の温度の水で水洗することにより、皮膜の表面に偏析したフッ素化合物を除去することができる。その結果、皮膜が形成されたアルミニウム材料に接着対象を接着させるに際して、皮膜の表面に接着耐久性を低下させるフッ素化合物が存在しなくなるため、皮膜が優れた接着耐久性を発揮することとなる。
さらに、本発明に係る表面処理方法は、チタンとジルコニウムの合計の塗布量が所定の範囲となるように処理液を塗布していることから、チタン皮膜量やジルコニウム皮膜量が多過ぎることに起因する接着耐久性の低下(皮膜の脆弱化)を防止することができる。
【0014】
本発明に係る表面処理装置は、自動車パネル用のアルミニウム材料の表面処理装置であって、フッ化チタン化合物およびフッ化ジルコニウム化合物の少なくとも1種を含有する処理液をアルミニウム材料の表面に塗布し皮膜を形成する処理液塗布装置と、前記処理液塗布装置によって形成した前記皮膜を乾燥する乾燥装置と、前記乾燥装置によって乾燥した前記皮膜を30?80℃の水で水洗する水洗装置と、を備え、前記処理液塗布装置によって、金属チタン換算量と金属ジルコニウム換算量の合計の塗布量が3?25mg/m^(2)となるように前記アルミニウム材料の表面に前記処理液を塗布し、前記水洗装置によって、前記皮膜の表面における「フッ素換算量/金属チタン換算量と金属ジルコニウム換算量との和」を3.4以下とすることを特徴とする。
また、本発明に係る表面処理装置は、前記アルミニウム材料がアルミニウム板であり、前記アルミニウム板を通板させながら前記処理液塗布装置、前記乾燥装置、及び前記水洗装置による処理が行われることが好ましい。
【0015】
本発明に係る表面処理装置は、処理液塗布装置によって所定の処理液をアルミニウム材料の表面に塗布することにより皮膜を形成させていることから、噴霧方法や浸漬方法により皮膜を形成させる表面処理装置と比較し、アルミニウム材料の幅方向における皮膜量の均一性を向上させることができる。
また、本発明に係る表面処理装置は、アルミニウム材料の表面に形成させた皮膜を乾燥装置によって乾燥させた後に、水洗装置によって所定の温度の水で水洗することにより、皮膜の表面に偏析したフッ素化合物を除去することができる。その結果、皮膜が形成されたアルミニウム材料に接着対象を接着させるに際して、皮膜の表面に接着耐久性を低下させるフッ素化合物が存在しなくなるため、皮膜が優れた接着耐久性を発揮することとなる。
また、本発明に係る表面処理装置は、チタンとジルコニウムの合計の塗布量が所定の範囲となるように処理液を塗布していることから、チタン皮膜量やジルコニウム皮膜量が多過ぎることに起因する接着耐久性の低下(皮膜の脆弱化)を防止することができる。
【0016】
本発明に係るアルミニウム表面処理材料は、自動車パネル用のアルミニウム表面処理材料であって、アルミニウム材料と、前記アルミニウム材料の表面に形成されたチタンおよびジルコニウムの少なくとも1種を含有する皮膜と、を備え、前記皮膜は、金属チタン換算量と金属ジルコニウム換算量との合計量が3?17mg/m^(2)であるとともに、前記皮膜の表面における「フッ素換算量/金属チタン換算量と金属ジルコニウム換算量との和」が3.4以下であることを特徴とする。
【0017】
本発明のアルミニウム表面処理材料は、アルミニウム材料の表面に形成された皮膜が、所定のチタン皮膜量およびジルコニウム皮膜量であることによって、皮膜の接着耐久性が向上する。」

「【0021】
(処理液塗布装置)
処理液塗布装置11は、搬入ロール20によって搬入されるアルミニウム材料1の表面に、処理液を塗布する装置である。そして、処理液塗布装置11では、アルミニウム材料1の表面に皮膜2(乾燥前の皮膜2)が形成される。
ここで「塗布」とは、アルミニウム材料1の表面に処理液をこすりつける、または、なすりつけるという処理であり、アルミニウム材料1の表面に処理液を噴霧したり、アルミニウム材料1を処理液に浸漬させたりするような処理を除外するものである。
処理液塗布装置11は、アルミニウム材料1の表面に対して処理液を塗布できる装置であればよく、例えば、図2に示すようなロールコーターであってもよいし、従来公知のバーコーター、ダイコーターといった各種コーター(塗工機)であってもよい。
そして、処理液塗布装置11によってアルミニウム材料1の表面に処理液を塗布するにあたり、チタンとジルコニウムの合計の塗布量が3?25mg/m^(2)となるように塗布する。なお、チタンとジルコニウムの合計の塗布量、処理液の濃度、処理液の塗布量については、後記する本発明の表面処理方法で説明する。」

「【0039】
(水洗工程)
水洗工程S7は、乾燥工程S6において乾燥した皮膜2を30?80℃の水で水洗する工程である。
そして、水洗工程S7において、乾燥工程S6の後の皮膜2の表面に偏析したフッ素化合物(アルミニウム材料1と処理液との反応により発生するフッ化アルミニウムや、処理液中の未反応分のフッ素化合物)が水によって洗い流される。その結果、アルミニウム材料1の表面に形成された皮膜1が優れた接着耐久性を発揮することとなる。
水洗工程S7における水洗処理は、皮膜2の表面に水洗処理を施すことができる処理であればよく、例えば、アルミニウム表面処理材料3の上下に配置された噴射ノズルから噴射される水によって皮膜2を洗浄する処理であってもよく、浸漬槽に貯められた水にアルミニウム表面処理材料3を潜らせるといった処理であってもよい。
【0040】
水洗工程S7で使用する水の温度は、30?80℃である。水の温度が30℃未満であると、皮膜2の表面に偏析するフッ素化合物を十分に除去することができない。一方、水の温度が80℃を超えると、皮膜2の表面に偏析するフッ素化合物の除去の効果が飽和する。
なお、水洗工程S7における水洗処理の時間については、特に限定されないが、2?120秒であればよい。」

「【実施例】
【0052】
[実施例1]
次に、本発明の表面処理方法およびアルミニウム表面処理材料について、本発明の要件を満たす実施例と、本発明の要件を満たさない比較例と、を対比させて具体的に説明する。
実施例1では、表面処理方法の種類が、皮膜に与える影響について確認した。
【0053】
まず、JIS規定の6016系合金を用いて、厚さが1.0mmで幅が1000mmのアルミニウム板を作製した。このアルミニウム板をアルカリ脱脂、水洗し、次いで酸洗浄、水洗した。
【0054】
アルミニウム表面処理材料(No.1)については、酸洗浄後に水洗したアルミニウム板の表面に対して、フッ化チタン化合物としてフルオロチタネート酸を6g/L、フッ化ジルコニウム化合物としてフルオロジルコネート酸を6g/L含有する処理液(温度25℃、1mL/m^(2))を塗布した。その後、110℃、30秒の乾燥処理を行った後、60℃の水で15秒間の水洗処理を行い、室温乾燥を行うことで、アルミニウム表面処理材料(No.1)を作製した。
一方、アルミニウム表面処理材料(No.2)については、酸洗浄後に水洗したアルミニウム板の表面に対して、フッ化チタン化合物としてフルオロチタネート酸を150ppm、フッ化ジルコニウム化合物としてフルオロジルコネート酸を250ppm含有する処理液(50℃)を3秒間噴霧した。その後、60℃の水で3秒間の水洗処理を行った後、110℃、30秒の乾燥処理を行うことで、アルミニウム表面処理材料(No.2)を作製した。
【0055】
作製したアルミニウム表面処理材(No.1、No.2)の表面に形成された皮膜について、幅方向端部である「エッジ(1)、エッジ(2)」、「エッジ(1)から幅方向内側に100mmの位置」、「エッジ(2)から幅方向内側に100mmの位置」、幅方向中央部である「センター」におけるチタン皮膜量およびジルコニウム皮膜量を、蛍光X線(XRF)により測定した。その結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示すように、実施例であるアルミニウム表面処理材料(No.1)は、表面処理方法が「塗布」であったため、「エッジ(1)、エッジ(2)」、「エッジ(1)から幅方向内側に100mmの位置」、「エッジ(2)から幅方向内側に100mmの位置」、「センター」におけるチタン皮膜量およびジルコニウム皮膜量が同じであった。つまり、幅方向における皮膜量の均一性を確保することができていた。
一方、比較例であるアルミニウム表面処理材料(No.2)は、表面処理方法が「スプレー(噴霧)」であったため、各場所におけるチタン皮膜量およびジルコニウム皮膜量にばらつきがあった。つまり、幅方向における皮膜量の均一性に劣っていた。
【0058】
[実施例2]
実施例2では、水洗処理で使用する水の温度が、皮膜に与える影響について確認した。
【0059】
まず、JIS規定の6016系合金を用いて、厚さが1.0mmのアルミニウム板を作製した。このアルミニウム板をアルカリ脱脂、水洗し、次いで酸洗浄、水洗した。
【0060】
アルミニウム表面処理材料(No.3?12)については、酸洗浄後に水洗したアルミニウム板の表面に対して、フッ化チタン化合物としてフルオロチタネート酸を6g/L、フッ化ジルコニウム化合物としてフルオロジルコネート酸を6g/L含有する処理液(温度25℃、1mL/m^(2))を塗布した。その後、110℃、30秒の乾燥処理を行った後、所定の温度の水で所定時間の水洗処理を行い、室温乾燥を行うことで、アルミニウム表面処理材料(No.3?12)を作製した。
一方、アルミニウム表面処理材料(No.13)については、酸洗浄後に水洗したアルミニウム板の表面に対して、フッ化チタン化合物としてフルオロチタネート酸を150ppm、フッ化ジルコニウム化合物としてフルオロジルコネート酸を250ppm含有する処理液(50℃)を3秒間噴霧した。その後、25℃の水で60秒間の水洗処理を行った後、室温乾燥を行うことで、アルミニウム表面処理材料(No.13)を作製した。
【0061】
作製したアルミニウム表面処理材(No.3?13)の表面に形成された皮膜について、幅方向中央部である「センター」におけるチタン皮膜量およびジルコニウム皮膜量を、蛍光X線(XRF)により測定した。
また、作製したアルミニウム表面処理材(No.3?13)の表面に形成された皮膜の表面のフッ素換算量、金属チタン換算量、および金属ジルコニウム換算量の重量パーセント濃度をX線光電子分光(XPS)で測定し、皮膜の表面における「フッ素換算量」と「金属チタン換算量と金属ジルコニウム換算量の和」との比(=「フッ素換算量」/「金属チタン換算量と金属ジルコニウム換算量の和」、表中および以下では「表面F/(Ti+Zr)」とする)を算出した。
【0062】
【表2】

【0063】
表2に示すように、実施例であるアルミニウム表面処理材料(No.3?8)は、水洗処理に使用した水の温度が所定の範囲内であったため、「表面F/(Ti+Zr)」が低下していた。つまり、皮膜の表面のフッ素化合物が除去されていた。
なお、実施例であるアルミニウム表面処理材料(No.3?8)は、水洗処理を行っていないアルミニウム表面処理材料(No.12)と比較すると明らかなように、皮膜量の減少は確認できなかった。
【0064】
一方、比較例であるアルミニウム表面処理材料(No.9?12)は、水洗処理に使用した水の温度が所定の値よりも低かったため、または、水洗処理自体を行っていなかったため、「表面F/(Ti+Zr)」がほとんど低下していなかった。
なお、参考例であるアルミニウム表面処理材料(No.13)は、表面処理方法が「スプレー(噴霧)」であったため、「表面F/(Ti+Zr)」が低下していた。」

「【0065】
[実施例3]
実施例3では、「表面F/(Ti+Zr)」と「接着耐久性」との関係について確認した。
【0066】
実施例2において作製したアルミニウム表面処理材(No.8、12、13)を用いて、図4に示すような下側試験片31と上側試験片33とを接着剤32を介して接合した接着試験体34(No.14、15、16)を作製した。この接着試験体34を用いて、以下の接着耐久性試験を行った。接着試験体34の具体的な作製方法は、次のとおりである。
【0067】
図4に示すように、下側試験片31と上側試験片33とを、熱硬化型エポキシ樹脂系接着剤32によりラップ長10mm(接着面積:25mm×10mm)となるように重ね合わせ貼り付けた。このとき、接着剤32の厚さが250μmとなるようにガラスビーズ(粒径250μm)を接着剤32に添加して調節した。その後、170℃×20分で焼付、硬化させた。その後、室温で24時間静置して接着試験体34とした。
【0068】
(接着耐久性試験)
作製した接着試験体34を中性塩水噴霧中で14日間保持した後、下側および上側試験片31、33の未接着の部位を掴み、10mm/minの速度でせん断引張り試験を行った。そして、接着試験体34の破壊形態の観察および接着強度の算出を以下の手順で行い、接着耐久性を評価した。
なお、各接着試験体34は3本ずつ作製し、以下の凝集破壊率および接着強度は3本の平均値とした。
【0069】
(接着耐久性試験:破壊形態)
引張り試験後の接着試験体34の剥離状態を観察し、接着剤32の内部での破壊を凝集破壊、下側試験片31と接着剤32との界面、および、上側試験片33と接着剤32との界面での剥離を界面破壊とし、下式(1)で破壊形態の指標としての凝集破壊率を算出した。
凝集破壊率(%)=100-{(下側試験片31の界面剥離面積/下側試験片31の接着面積)×100+(上側試験片33の界面剥離面積/上側試験片33の接着面積)×100)}・・・(1)
また、破壊形態の評価基準は、凝集破壊率が90%未満を不良「×」、90%以上を良好「○」とした。その結果を表3に示す。
【0070】
(接着耐久性試験:接着強度)
引張り試験時に得られた応力-ひずみ線図から、破断時の最大応力を接着面積で除した値を接着強度とした。その結果を表3に示す。
【0071】
【表3】

【0072】
表3に示すように、実施例であるアルミニウム表面処理材(No.8)で作製した接着試験体(No.14)は、乾燥処理の後に所定の水洗処理を行っていたことから、「表面F/(Ti+Zr)」が減少し、その結果、破壊形態が良好となるとともに、接着強度も高い値となった。つまり、乾燥処理の後の所定の水洗処理により「表面F/(Ti+Zr)」を減少させることによって、接着耐久性が優れたものとなることが確認できた。
なお、実施例であるアルミニウム表面処理材料(No.8)で作製した接着試験体(No.14)は、表面処理方法が「スプレー(噴霧)」であるアルミニウム表面処理材料(No.13)で作製した接着試験体(No.16)と比較すると、接着強度が同程度となった。
【0073】
一方、比較例であるアルミニウム表面処理材料(No.12)で作製した接着試験体(No.15)は、乾燥処理の後に水洗処理を行っていなかったことから、「表面F/(Ti+Zr)」の値が高く、破壊形態が不良となるとともに、接着試験体(No.14、16)と比較して接着強度が低い値となった。」

(2)特許法第29条第1項柱書の規定違反について
申立人1は、異議申立書の2頁11行?5頁7行([理由1])において、本件明細書の【0007】、【0009】、【0010】、【0012】及び【0021】によれば、本件発明は「塗布方法」による表面処理を用いて、「幅方向における皮膜量の均一性」を実現するものであるのに、本件発明4は、「塗布方法」以外の「噴霧方法」や「浸漬方法」の表面処理を含むものであって、本件明細書の【0056】及び【0057】からも明らかなように、「スプレー」(噴霧方法)により処理された比較例2は皮膜量の均一性に劣っていることから、本件発明4は、すべての課題を解決しておらず、「発明」の範囲を逸脱している旨主張している。

しかしながら、特許法第29条第1項柱書は、産業上利用することができる発明をした者がその発明について特許を受けることができることを規定しているものであって、特許法における「発明」は、第2条第1項において、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義されており、この定義にいう「発明」に該当しないものに対しては特許が付与されず(以下「発明該当性」という。)、また、この定義にいう「発明」に該当するものであっても、特許法の目的が産業の発達にあることから(第1条)、特許を受けようとする発明は、産業上利用することができる発明でなければならない(以下「産業上の利用可能性」という。)ものである。
そこで、申立人1の主張をみるに、発明がすべての課題を解決しているか否かと、当該発明についての発明該当性及び産業上の利用可能性の有無とに直接の関係があるとは認められない。

よって、申立人1の上記主張を採用することはできない。

したがって、本件発明4は、特許法第29条第1項柱書の規定に適合するものである。

(3)サポート要件違反について
ア 本件発明が解決しようとする課題について
本件発明が解決しようとする課題について、本件明細書の【0011】の記載から、本件発明1?3は、「アルミニウム材料の幅方向における皮膜量の均一性を確保しつつ、優れた接着耐久性を有する皮膜をアルミニウム材料の表面に形成できる表面処理方法および表面処理装置を提供すること」を課題(以下「本件発明1?3課題」という。)とし、本件発明4は、「優れた接着耐久性を有するアルミニウム表面処理材料を提供すること」を課題(以下「本件発明4課題」という。)とするものと認められる(以下、両課題をまとめて「本件課題」という。)。

イ 「表面F/(Ti+Zr)」の値について
申立人2は、異議申立書の6頁12?23行(3.(4)イのイ(1))において、本件明細書の【0065】?【0073】には、「フッ素換算量/金属チタン換算量と金属ジルコニウム換算量との和」に対応する「表面F/(Ti+Zr)」の値が0.8では接着耐久性評価が良好であった点の記載はあるが、「表面F/(Ti+Zr)」の値が0.8より大きく3.4以下の範囲については、接着耐久性評価が良好なものが得られたとの記載はないため、本件発明1?4の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、本件発明1?4は、発明の詳細な説明に記載したものでない旨主張している。

しかしながら、本件明細書の【0013】及び【0015】には、「皮膜の表面に偏析したフッ素化合物を除去すること」で、「皮膜が形成されたアルミニウム材料に接着対象を接着させるに際して、皮膜の表面に接着耐久性を低下させるフッ素化合物が存在しなくなるため、皮膜が優れた接着耐久性を発揮する」こと、同【0063】には、「表面F/(Ti+Zr)」の低下は、「皮膜の表面のフッ素化合物が除去」を意味すること、さらに、同【0062】の【表2】における実施例No.3の「表面F/(Ti+Zr)」は「3.4」となることが記載されているから、同【0071】の【表3】における比較例No.15の「表面F/(Ti+Zr)」は「8.0」で接着強度は低いが、出願時の技術常識に照らして、「表面F/(Ti+Zr)」を3.4以下まで低下させれば、「優れた接着耐久性を有する皮膜」となることが理解でき、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認めることができる。

よって、申立人2の上記主張を採用することはできない。

ウ 「アルミニウム材料」の種類について
申立人2は、異議申立書の7頁9?16行及び22行?最終行(3.(4)イのイ(3))において、本件発明は、アルミニウム材料の合金の種類の限定はなく、あらゆる合金の種類のアルミニウム材料を用いた態様を含むが、アルミニウム材料の合金の種類により、処理液による処理濃度、処理温度、処理時間等の処理条件が全く同じにはならないことは技術常識であり、処理条件によって「金属チタン換算量と金属ジルコニウム換算量の合計の塗布量」が変動するものであって、本件明細書の【0052】?【0079】には、6000系合金を用いた場合における特定の処理条件しか実際に確認されておらず、上記塗布量は、優れた接着耐久性を有するアルミニウム表面処理材料を得ることという本件発明の課題と密接に関連するところ、6000系合金以外の他のアルミニウム材料を用いた際に、かかる課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例が記載されていないから、6000系合金以外の他のアルミニウム材料を用いる態様を含む本件特許発明1?4に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、本件発明1?4は、発明の詳細な説明に記載したものでない旨主張している。

しかしながら、申立人2が主張する「アルミニウム材料の合金の種類により、処理液による処理濃度、処理温度、処理時間等の処理条件が全く同じにはならないことは技術常識」であることの具体的根拠は、異議申立書において何ら示されていない。
仮に、当該技術常識があるとしても、本件発明1?4において特定されているのは、「金属チタン換算量と金属ジルコニウム換算量の合計の塗布量が3?25mg/m^(2)となるように」又は「金属チタン換算量と金属ジルコニウム換算量との合計量が3?17mg/m^(2)である」として、塗布後の値であって、いかなる合金の種類のアルミニウム材料であっても、これらの範囲となるように皮膜を形成することによって、優れた接着耐久性を有する皮膜を形成するという本件課題を解決できるものと理解できる。

よって、申立人2の上記主張を採用することはできない。

エ 「アルミニウム材料」の幅について
申立人2は、異議申立書の8頁1行?14行(3.(4)イのイ(4))において、本件発明1?4では、「アルミニウム材料」の幅が限定されていないため、無限大の幅までを含むが、本件明細【0052】?【0057】には、幅が1000mmのアルミニウム板を用いた際における幅方向の皮膜量の均一性しか確認がなされておらず、表面処理方法が「塗布」であっても、アルミニウム板の幅が大きくなれば、幅方向における皮膜量のバラツキが大きくなり、皮膜量の均一性が低下することが容易に理解されるところ、幅が1000mmを超えるアルミニウム板を用いた場合に、どのように表面処理すれば、アルミニウム材料の幅方向における皮膜量の均一性を確保することが出来るのか不明であって、無限大の幅までを含むあらゆる幅の「アルミニウム材料」についてまで、アルミニウム材料の幅方向における皮膜量の均一性を確保するという課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例が記載されておらず、本件発明1?4に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、本件発明1?4は、発明の詳細な説明に記載したものでない旨主張している。

しかしながら、本件明細書の【0010】に「噴霧方法や浸漬方法については、アルミニウム材料の表面への処理液の当たり方、処理液の滞留する状態等により、アルミニウム材料の表面の場所ごとに皮膜量が変化し易く、アルミニウム材料の幅方向において皮膜量の均一性を確保することが難しい。特に、アルミニウム材料としてある程度の幅を有するコイル状のアルミニウム板を対象とする場合、幅方向端部と幅方向中央部において皮膜量が多くなり易く、端部と中央部との間の部分(例えば、端部から幅方向内側に100mmの部分)において皮膜量が少なくなり易い。」と記載されており、ある程度の幅を有する場合に、例えば端部から幅方向内側に100mmの部分において皮膜量が少なくなり易いことから、アルミニウム板の幅が1000mmを超える場合も、同様に端部と中央部との間の部分で皮膜量が少なくなるといえ、その場合も、塗布によって幅方向における皮膜量の均一性を確保するという本件発明1?3課題を解決できると理解されるから、本件発明1?3は、発明の詳細な説明に記載したものである。

また、本件発明4について、本件発明4課題は、優れた接着耐久性を有するアルミニウム表面処理材料を提供するというものであるところ、上記イ及びウのとおり、(a)「表面F/(Ti+Zr)」の値を所定値以下とすること及び(b)「金属チタン換算量と金属ジルコニウム換算量との合計量」を所定範囲とすることにより、優れた接着耐久性を有する皮膜を形成できるものであり、いかなる幅のアルミニウム材料であっても、前記(a)及び(b)を満たす皮膜を形成することによって、本件発明4課題を解決できると理解されるから、本件発明4は、発明の詳細な説明に記載したものである。

よって、申立人2の上記主張を採用することはできない。

オ 本件発明4における皮膜量の均一性について
申立人1は、異議申立書の5頁8?21行([理由2])において、特許権者が認識している「発明」の範囲は、「嘖霧方法」と「浸漬方法」を除外して、「塗布方法」に限定した表面処理によって得られる「物」であり、このことは、「スプレー」(嘖霧方法)により表面処理されたアルミニウム表面処理材料(No.2)が、比較例として示されていること(本件明細書の【0056】?【0057】)からも明らかであるから、本件発明4は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである旨主張している。
また、申立人2は、異議申立書の8頁下から5行?9頁3行及び9頁6?11行(3.(4)イのイ(6))において、本件明細書の【0071】の【表3】には、本件発明4の構成要件を全て満たすNo.16に係るアルミニウム表面処理材が記載されており、当該No.16に係るアルミニウム表面処理材は、表面処理方法がスプレーであるから、アルミニウム材料の幅方向における皮膜量の均一性を確保できない態様を含んでおり、この態様については、アルミニウム材料の幅方向における皮膜量の均一性を確保するという課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例が記載されていないから、本件発明4の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、本件発明4は、発明の詳細な説明に記載したものではない旨主張している。

しかしながら、本件発明4のサポート要件適合性について、上記エのとおり、本件発明4課題は、優れた接着耐久性を有するアルミニウム表面処理材料を提供するというものであるところ、上記イ及びウのとおり、(a)「表面F/(Ti+Zr)」の値を所定値以下とすること及び(b)「金属チタン換算量と金属ジルコニウム換算量との合計量」を所定範囲とすることにより、優れた接着耐久性を有する皮膜を形成できるものであり、前記(a)及び(b)を満たす皮膜を形成することによって、本件発明4課題を解決できると理解されるから、本件発明4は、発明の詳細な説明に記載したものである。

よって、申立人1及び2の上記主張を採用することはできない。

カ サポート要件違反についての小括
したがって、本件発明1?4は、発明の詳細な説明に記載したものである。

(4)明確性要件違反について
ア 「アルミニウム材料」の種類について
申立人2は、異議申立書の7頁9?21行(3.(4)イのイ(3))において、本件発明は、アルミニウム材料の合金の種類の限定はなく、あらゆる合金の種類のアルミニウム材料を用いた態様を含むが、アルミニウム材料の合金の種類により、処理液による処理濃度、処理温度、処理時間等の処理条件が全く同じにはならないことは技術常識であり、処理条件によって「金属チタン換算量と金属ジルコニウム換算量の合計の塗布量」が変動するところ、本件明細書の【0052】?【0079】には、6000系合金を用いた場合における特定の処理条件しか実際に確認されておらず、6000系合金以外の他のアルミニウム材料を用いた際に、どのような処理条件による処理液によって処理すれば、「金属チタン換算量と金属ジルコニウム換算量の合計の逢布量が3?25mg/m^(2)となるように前記アルミニウム材料の表面に前記処理液を塗布」できるのか不明であるから、本件発明1?3は明確ではない旨主張している。

しかしながら、上記(3)ウと同様に、申立人2が主張する「アルミニウム材料の合金の種類により、処理液による処理濃度 、処理温度、処理時間等の処理条件が全く同じにはならないことは技術常識」であることの具体的根拠は、異議申立書において何ら示されていない。
仮に、当該技術常識があるとしても、6000系合金以外の他のアルミニウム材料を用いた際に、どのような処理条件による処理液によって処理すれば、「金属チタン換算量と金属ジルコニウム換算量の合計の逢布量が3?25mg/m^(2)となるように前記アルミニウム材料の表面に前記処理液を塗布」できるかは、当業者であれば、技術常識に基づいて定め得るものと認められる。

よって、申立人2の上記主張を採用することはできない。

イ 「塗布」について
申立人2は、異議申立書の8頁15?21行(3.(4)イのイ(5))において、本件発明1?3では「処理液をアルミニウム材料の表面に塗布し」との記載があるところ、「塗布」は技術用語として明確であり、一般的に「塗布」にはスプレ一塗布、噴霧による塗布等の態様が含まれるが、本件明細書の【0021】では、「塗布」が処理液の嘖霧を含まない点、また、【0052】?【0079】では、スプレー塗布による例が実施例とされていない点が記載されており、そうすると、スプレー塗布、嘖霧による塗布が除かれていない本件発明1?3は明確でない旨を主張している。

しかしながら、同【0021】には、「ここで「塗布」とは、アルミニウム材料1の表面に処理液をこすりつける、または、なすりつけるという処理であり、アルミニウム材料1の表面に処理液を噴霧したり、アルミニウム材料1を処理液に浸漬させたりするような処理を除外するものである。」と記載されており、本件発明1?3における「塗布」の定義が明細書中で明らかにされているといえる。

よって、申立人2の上記主張を採用することはできない。

ウ 本件発明4における皮膜量の均一性について
申立人2は、異議申立書の8頁下から5行?9頁5行(3.(4)イのイ(6))において、本件明細書の【0071】の【表3】には、本件発明4の構成要件を全て満たすNo.16に係るアルミニウム表面処理材が記載されており、当該No.16 に係るアルミニウム表面処理材は、表面処理方法がスプレーであるから、アルミニウム材料の幅方向における皮膜量の均一性を確保できない態様を含んでおり、そうすると、本件発明4は、アルミニウム材料の幅方向における皮膜量の均一性を確保するという課題を解決できない態様を含むから、明確でない旨を主張している。

しかしながら、発明が解決しようとする課題と発明が明確であるか否かとに直接の関係はなく、本件発明4をみても、不明確な発明特定事項は認められず、本件発明4は明確である。

よって、申立人2の上記主張を採用することはできない。

明確性要件違反についての小括
したがって、本件発明1?4は、明確である。


第6 むすび
以上のとおりであるから、請求項1?4に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-04-02 
出願番号 特願2015-57282(P2015-57282)
審決分類 P 1 651・ 1- Y (C23C)
P 1 651・ 537- Y (C23C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 一宮 里枝國方 康伸  
特許庁審判長 粟野 正明
特許庁審判官 亀ヶ谷 明久
平塚 政宏
登録日 2019-04-12 
登録番号 特許第6510844号(P6510844)
権利者 株式会社神戸製鋼所
発明の名称 表面処理方法、表面処理装置およびアルミニウム表面処理材料  
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所  
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