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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B23K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B23K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B23K
管理番号 1361508
異議申立番号 異議2019-700500  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-05-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-06-24 
確定日 2020-04-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第6444953号発明「フラックス組成物およびソルダペースト」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6444953号の請求項1?6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6444953号の請求項1?6に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成28年 8月31日(優先権主張 平成27年 9月30日)の出願であって、平成30年12月 7日にその特許権の設定登録がされ、同年12月26日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和1年 6月24日に特許異議申立人 吉仲正(以下、「申立人A」という。)により、また、同年 6月26日に特許異議申立人 中谷浩美(以下、「申立人B」という。)により、それぞれ特許異議の申立てがされ、同年10月18日付けで取消理由が通知され、同年12月 4日付け期間延長請求書に基づいて延長された指定期間内である令和2年 1月20日に特許権者から意見書が提出され、同年 3月18日に特許権者との面接審理が行われ、同年 3月23日に特許権者から上申書が提出されたものである。

第2 特許異議の申立てについて
1 本件特許発明
特許第6444953号の請求項1?6に係る発明(以下、「本件特許発明1?6」といい、総称して「本件特許発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
(A)ロジン系樹脂と、(B)溶剤と、(C)活性剤と、(D)チクソ剤とを含み、
前記チクソ剤(D)は、(D-1)脂肪酸ポリアマイド構造を有し当該脂肪酸が炭素数12から22の長鎖アルキル基を有するチクソ剤を含み、
前記チクソ剤(D-1)は、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析法(加熱炉昇温速度:20℃/分)による揮発最大ピーク値の検出温度が450℃から480℃であり、
前記チクソ剤(D-1)は、ターレンVA-79(共栄社化学(株)製)であることを特徴とするフラックス組成物。
【請求項2】
(E)アミン系化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載のフラックス組成物。
【請求項3】
(F)酸化防止剤を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフラックス組成物。
【請求項4】
前記チクソ剤(D-1)の配合量は、フラックス組成物全量に対して1重量%から10重量%であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のフラックス組成物。
【請求項5】
前記活性剤(C)は、臭素および塩素が単独で900ppm以下のものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のフラックス組成物。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のフラックス組成物と、はんだ合金粉末とを含むことを特徴とするソルダペースト。」

2 異議申立理由の概要
(1)申立人Aは、証拠方法として、後記する甲第1?12号証(以下、「甲第A1?A12号証」という。)を提出し、以下の理由により、請求項1?6に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

ア 申立理由1
(ア)申立理由1-1(取消理由として不採用)
本件特許発明1?4、6は、甲第A1?A3号証に記載された発明、又は甲第A1?A3号証並びに甲第A10号証の1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(イ)申立理由1-2(取消理由として不採用)
本件特許発明5は、甲第A1?A3号証に記載された発明、又は甲第A1?A3号証並びに甲第A10号証の1?3及び甲第A11号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

イ 申立理由2
(ア)申立理由2-1(取消理由として不採用)
本件特許発明1?4、6は、甲第A2?A4号証に記載された発明、又は甲第A2?A4号証並びに甲第A10号証の1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(イ)申立理由2-2(取消理由として不採用)
本件特許発明5は、甲第A2?A4号証に記載された発明、又は甲第A2?A4号証並びに甲第A10号証の1?3及び甲第A11号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

ウ 申立理由3
(ア)申立理由3-1(取消理由として不採用)
本件特許発明1、4、6は、甲第A1、A2、A4?A6号証に記載された発明、又は甲第A1、A2、A4?A6号証並びに甲第A10号証の1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(イ)申立理由3-2(取消理由として不採用)
本件特許発明2、3は、甲第A1、A2、A4、A5号証に記載された発明、又は甲第A1、A2、A4、A5号証並びに甲A第10号証の1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(ウ)申立理由3-3(取消理由として不採用)
本件特許発明5は、甲第A1、A2、A4?A6号証に記載された発明、又は甲第A1、A2、A4?A6号証並びに甲第A10号証の1?3及び甲第A11号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

<証拠方法>
甲第A1号証:特開2013-169557号公報
甲第A2号証:ターレンVA-79のパンフレット(共栄社化学株式会社 2012年3月発行)
甲第A3号証:特開2013-173819号公報
甲第A4号証:特開2015-123491号公報
甲第A5号証:特開2002-361484号公報
甲第A6号証:特開2015-080814号公報
甲第A7号証:Pb-FREE SOLDER PASTE TLFシリーズ LFSOLDER TLF-401-11(株式会社タムラ製作所 2003年7月発行)
甲第A8号証の1:「LFSOLDER GP-213-167」のカタログ(2014年9月発行)
甲第A8号証の2:「TAMURA GP-213-167」のウェブサイト(「概括」のタブ)
(http://www.hapoin.com/jp/lowsilver/gp-213-167.htm)
甲第A8号証の3:「TAMURA GP-213-167」のウェブサイト(「パラメータ」のタブ)
(http://www.hapoin.com/jp/lowsilver/gp-213-167.htm)
甲第A8号証の4:「LFSOLDER GP-211-167」のカタログ(2011年11月発行)
甲第A8号証の5:「TAMURA GP-211-167」のウェブサイト(「概括」のタブ)
(http://www.hapoin.com/jp/lowsilver/gp-211-167.htm)
甲第A8号証の6:「TAMURA GP-211-167」のウェブサイト(「パラメータ」のタブ)
(http://www.hapoin.com/jp/lowsilver/gp-211-167.htm)
甲第A9号証:本件特許に係る出願の平成30年10月16日付け意見書
甲第A10号証の1:特開2015-193725号公報
甲第A10号証の2:特開2013-66939号公報
甲第A10号証の3:WO2008/072654A1
甲第A11号証:「ハロゲンフリーの定義」のウェブサイト
(https://eudirective.net/kisei/harogen.html)
甲第A12号証:「TLF-204&GP シリーズ」のウェブサイト
(https://www.tamura-ss.co.jp/jp/products/electronic_chemicals/category/soldapaste/tlf_204-gp.html)

(2)また、申立人Bは、証拠方法として、後記する甲第1?5号証(以下、「甲第B1?B5号証」という。)を提出し、以下の理由により、請求項1?6に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

ア 申立理由4(取消理由として一部採用)
本件特許発明1?6は、特許を受けようとする発明が明確でないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

イ 申立理由5(取消理由として一部採用)
請求項1?6に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

<証拠方法>
甲第B1号証:ターレンVA-79 パンフレット(共栄社化学株式会社 平成24年3月発行)
甲第B2号証:群馬県立産業技術センター試験等結果通知書(群馬県立産業技術センター 令和元年6月11日付け)
甲第B3号証:実験報告書(1)(内田幸子 令和1年4月5日、8日(測定日))
甲第B4号証:実験報告書(2)(内田幸子 令和1年4月9日(測定日))
甲第B5号証:実験報告書(3)(内田幸子 令和1年4月9日(測定日))

3 取消理由通知に記載した取消理由の概要
請求項1?6に係る特許に対して、当審が令和1年10月18日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(1)取消理由1(明確性要件)
ア 本件特許発明1の「熱分解ガスクロマトグラフ質量分析法(加熱炉昇温速度:20℃/分)による揮発最大ピーク値の検出温度が450℃から480℃であ」るとの特定(特定事項A)については、発明の詳細な説明の記載を参照しても、その「揮発最大ピーク値の検出温度」が、どのような流速の条件下で測定されたものかを理解できない。

イ また、本件特許発明1の「ターレンVA-79(共栄社化学(株)製)」という商品名を用いた特定(特定事項B)によっては、本件特許発明1の「チクソ剤(D-1)」の技術的範囲が変動する可能性を否定できず、その組成や構造等を明確に把握することは困難である。

ウ 上記ア、イのとおりであるから、本件特許発明1?6は、明確でない。

エ よって、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(2)取消理由2(実施可能要件)
ア 本件特許発明1?6は、発明特定事項である「前記チクソ剤(D-1)は、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析法(加熱炉昇温速度:20℃/分)による揮発最大ピーク値の検出温度が450℃から480℃であ」ることと、「前記チクソ剤(D-1)は、ターレンVA-79(共栄社化学(株)製)である」ことの意味するところを明確に把握できないことから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載、及び出願時の技術常識を参照しても、本件特許発明1?6をどのように実施するかを理解できず、その実施のためには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要するといえる。

イ したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明1?6について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

ウ よって、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

4 本件特許に係る出願の願書に添付した明細書及び図面(以下、「本件明細書等」という。)の記載事項
本件明細書等には、以下の記載がある。

(1)「【0001】
本発明は、プリント配線板やシリコンウエハといった基板上に形成された電極と電子部品等とをはんだ付けする際に使用されるフラックス組成物およびこれを用いたソルダペーストに関する。」

(2)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
はんだ付け性向上のため、フラックス組成物には活性剤の配合が求められる。しかし上述の通り、活性剤がフラックス残渣に残存するとフラックス残渣の絶縁抵抗の低下を引き起こす虞がある。
【0007】
本発明は上記課題を解決するものであり、活性剤の配合量を減量させることなくフラックス残渣の絶縁抵抗の低下を抑制することのできるフラックス組成物およびこれを用いたソルダペーストに関する。」

(3)「【0019】
1.フラックス組成物
本実施形態のフラックス組成物は、(A)ロジン系樹脂と、(B)溶剤と、(C)活性剤、(D)チクソ剤とを含む。
【0020】
(A)ロジン系樹脂
本実施形態のフラックス組成物に用いられるロジン系樹脂(A)としては、例えばトール油ロジン、ガムロジン、ウッドロジン等のロジン、およびロジンを重合化、水添化、不均一化、アクリル化、マレイン化、エステル化、およびフェノール付加反応等を行ったロジン誘導体、変性ロジン樹脂等が挙げられる。これらの中でも特にフラックス組成物の活性化向上の観点から水添ロジンが好ましく用いられる。またこれらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
【0021】
前記ロジン系樹脂(A)の配合量は、フラックス組成物全量に対して5重量%から60重量%であることが好ましい。
【0022】
(B)溶剤
本実施形態のフラックス組成物に用いられる溶剤(B)としては、例えばジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、ヘキシルジグリコール、1,5-ペンタンジオール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、グリコールエーテル、2-エチルヘキシルジグリコール、オクタンジオール、フェニルグリコール、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、イソプロピルアルコール、エタノール、アセトン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等が挙げられる。なお、これらの中でも特に沸点170℃以上の溶剤が好ましく用いられる。またこれらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
前記溶剤(B)の配合量は、フラックス組成物全量に対して10重量%から60重量%であることが好ましい。
【0023】
(C)活性剤
本実施形態に係るフラックス組成物に用いられる活性剤(C)としては、例えば有機酸、有機ハロゲン化合物、有機酸塩、有機アミン塩等が挙げられる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。なお、活性剤(C)として臭素および塩素が単独で900ppm以下のものが好ましく用いられる。
【0024】
前記有機酸としては、例えばモノカルボン酸、ジカルボン酸、その他の有機酸等が挙げられる。
前記モノカルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、プチリック酸、バレリック酸、カプロン酸、エナント酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸、グリコール酸等が挙げられる。
また前記ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、ジグリコール酸等が挙げられる。
更にその他の有機酸としては、ダイマー酸、レブリン酸、乳酸、アクリル酸、安息香酸、サリチル酸、アニス酸、クエン酸、ピコリン酸等が挙げられる。
なお、これらの中でも特にソルダペーストの良好な濡れ性、加熱ダレ性を得る目的で、ピコリン酸が好ましく用いられる。
【0025】
前記有機ハロゲン化合物としては、例えばジブロモブテンジオール、ジブロモコハク酸、5-ブロモ安息香酸、5-ブロモニコチン酸、5-ブロモフタル酸等が挙げられる。
【0026】
前記活性剤(C)の配合量は、フラックス組成物全量に対して1重量%から20重量%であることが好ましい。より好ましい前記配合量は1重量%から15重量%であり、特に好ましくは1重量%から10重量%である。前記活性剤(C)の配合量をこの範囲内とすることで、はんだボール発生のおよびフラックス残渣の絶縁抵抗低下を抑制することができる。」

(4)「【0027】
(D)チクソ剤
本実施形態のフラックス組成物には、チクソ剤(D)として(D-1)脂肪酸ポリアマイド構造を有し当該脂肪酸が炭素数12から22の長鎖アルキル基を有するチクソ剤を含めることが好ましい。なお当該長鎖アルキル基は直鎖状のもの、分岐状のもののいずれも用いることができる。また前記長鎖アルキル基は繰り返しにより炭素-炭素結合で長鎖に繋がったものでも良い。
前記脂肪酸を構成する炭素数12から22の長鎖のアルキル基は疎水性が高く、且つ当該脂肪酸はアミド結合により高重合化されて脂肪酸ポリアマイド構造となっているため、より高い疎水性を有する。そのため、このようなチクソ剤(D-1)は、フラックス組成物に配合された場合に、これを用いて形成されるフラックス残渣と空気の界面に疎水性の膜を形成することができ、これによりフラックス残渣の空気中の水分の吸湿が抑制されるものと推測される。
【0028】
なお、当該チクソ剤(D-1)は、ガスクロマトグラフ質量分析法(昇温速度:20℃/分)による揮発ピーク値の検出温度が450℃から480℃であることが好ましい。
【0029】
本実施形態のフラックス組成物は、このようなチクソ剤(D-1)を含有させることにより、活性剤の配合量を減量させることなくフラックス残渣の絶縁抵抗の低下を抑制することができる。
【0030】
なお本実施形態において、前記チクソ剤(D-1)の揮発ピーク値は、以下の測定条件にて、熱分解ガスクロマトグラフ分析法を用いて測定される。
(試料)
前記チクソ剤(D-1) 0.3mg
(熱分解)
熱分解装置:マルチショットパイロライザー EGA/PY-3030D(フロンティア・ラボ社製)
熱分析条件:(発生ガス分析)
熱分解条件:炉温度40?700℃(1分間保持)、インターフェース温度320℃(ガスクロマトグラフ質量分析)
ガスクロマトグラフ質量分析装置:JMS-Q1050GC(日本電子(株)製)
ガスクロマトグラフ条件
キャピラリーチューブ:Ultra ALLOY不活性化金属キャピラリーチューブ
型番 UADTM-2.5N(フロンティア・ラボ社製)
キャリアガス:ヘリウム
注入口温度:320℃
カラム温度:350℃(34分間保持)
スプリット比:1/50
質量分析条件
イオン源温度 300℃
GCインターフェース温度 320℃
検出器電圧 -1000volt
イオン化電流 50μA
イオン化エネルギー 70eV
サイクルタイム 300msec
質量範囲 m/z 10?500
【0031】
前記チクソ剤(D-1)としては、例えばターレンVAシリーズ(共栄社化学(株)製)が好ましく用いられる。
また上記測定条件下で測定した場合のガスクロマトグラフが図1に示すものとなるものが、前記チクソ剤(D-1)として特に好ましく用いられる。なお、これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
【0032】
前記チクソ剤(D-1)の配合量は、フラックス組成物全量に対して1重量%から10重量%が好ましい。更に好ましいその配合量は、フラックス組成物全量に対して3重量%から6重量%である。
【0033】
また前記チクソ剤(D)には、前記チクソ剤(D-1)以外のその他のチクソ剤、例えばヒマシ油、水素添加ヒマシ油、脂肪酸アマイド類、オキシ脂肪酸類等を併せて使用することができる。またこれらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
前記チクソ剤(D)として前記チクソ剤(D-1)とその他のチクソ剤とを併用する場合、前記チクソ剤全量の配合量はフラックス組成物全量に対して3重量%から15重量%であることが好ましい。」

(5)「【実施例】
【0048】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳述する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
表1に記載の各成分を混練し、各フラックス組成物を得た。そしてこれら各フラックス組成物11.50重量%と、Sn-3Ag-0.5Cuはんだ合金粉末(平均粒径28μm)88.50重量%とを混合し、実施例1および2、並びに比較例1および2に係る各ソルダペーストを作製した。
なお、特に記載のない限り、表1に記載の数値は重量%を意味するものとする。
【0050】
また実施例(1および2)、並びに比較例1および2に用いたチクソ剤を以下の測定条件にて熱分解ガスクロマトグラフ分析法を用いて測定した。そのガスクロマトグラフを図2に示す。
(試料)
0.3mg
(熱分解)
熱分解装置:マルチショットパイロライザー EGA/PY-3030D(フロンティア・ラボ社製)
熱分析条件:(発生ガス分析)
熱分解条件:炉温度40?700℃(1分間保持)、インターフェース温度320℃
(ガスクロマトグラフ質量分析)
ガスクロマトグラフ質量分析装置:JMS-Q1050GC(日本電子(株)製)
ガスクロマトグラフ条件
キャピラリーチューブ:Ultra ALLOY不活性化金属キャピラリーチューブ 型番 UADTM-2.5N(フロンティア・ラボ社製)
キャリアガス:ヘリウム
注入口温度:320℃
カラム温度:350℃(34分間保持)
スプリット比:1/50
質量分析条件
イオン源温度 300℃
GCインターフェース温度 320℃
検出器電圧 -1000volt
イオン化電流 50μA
イオン化エネルギー 70eV
サイクルタイム 300msec
質量範囲 m/z 10?500」

(6)「【表1】

※1 荒川化学工業(株) 水添酸変性ロジン
※2 共栄社化学(株)製 チクソ剤(高級脂肪酸ビスアマイド)
※3 BASFジャパン(株)製 ヒンダードフェノール系酸化防止剤」

(7)「【図1】



(8)「【図2】



5 甲号証の記載事項及び甲号証記載の発明
(1)甲第A1号証の記載事項及び甲第A1号証記載の発明
ア 本件特許に係る出願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第A1号証には、以下の記載がある(なお、下線は当審が付したものであり、「・・・」は記載の省略を意味する。以下、同様。)。

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器のプリント配線基板に部品を実装するはんだ組成物(いわゆるソルダーペースト)およびその製造方法、並びに、このはんだ組成物を用いて電子部品を実装したプリント配線基板に関する。」

(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のソルダーペーストにおいては、はんだ粉末に防錆剤コーティングや、金属メッキを施すために、煩雑な作業が必要となり、製造コストの点で問題がある。また、特許文献2に記載のソルダーペーストでは、はんだ付性および保存安定性を両立させることはできなかった。
【0005】
そこで、本発明は、はんだ付性および保存安定性に優れるはんだ組成物およびその製造方法、並びに、前記はんだ組成物を用いたプリント配線基板を提供することを目的とする。」

(ウ)「【0010】
まず、本発明のはんだ組成物について説明する。
本発明のはんだ組成物は、以下説明するはんだ粉末およびビヒクルを含有するものである。なお、ビヒクルとは、ロジン系樹脂、溶剤、有機酸およびイミダゾール化合物を含有するものである。・・・」

(エ)「【0033】
[実施例1]
ロジン系樹脂A(商品名「KE-604」、荒川工業社製)20質量%、ロジン系樹脂B(商品名「フォーラルAX」、Eastman Chemical社製)15質量%、溶剤A(ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル)33質量%、チクソ剤A(高級脂肪酸ポリアマイド、商品名「ターレンATX-1146」、共栄社化学社製)5質量%、チクソ剤B(脂肪酸アマイド、商品名「スリパックスH」、日本化成社製)2質量%、不飽和脂肪酸(オレイン酸、みどり化学社製)5質量%、および2-メチルイミダゾール(四国化成社製)20質量%を容器に投入し、らいかい機を用いて混練して第一ビヒクルを得た。
一方、ロジン系樹脂A20質量%、ロジン系樹脂B15質量%、溶剤A40質量%、チクソ剤A5質量%、チクソ剤B2質量%、酸化防止剤(商品名「ANOX20」、味の素ファインテクノ社製)4質量%、有機酸A(ダイマー酸、商品名「UNIDYME14」、ARIZONA CHEMICAL社製)6質量%、および有機酸B(ジグリコール酸、みどり化学社製)8質量%を容器に投入し、らいかい機を用いて混練して第二ビヒクルを得た。
その後、得られた第一ビヒクル5.5質量%、およびはんだ粉末88.4質量%(平均粒子径:28μm、はんだの融点:217?224℃、はんだの組成:Sn/1.0Ag/0.7Cu)を容器に投入し、混練機にて低速(9rpm)で10分間混練することで予備ペーストを得た。さらに、得られた予備ペーストに、得られた第二ビヒクル5.5質量%を投入し、混練機にて低速(9rpm)で10分間混練し、その後、高速(24rpm)で40分間混練した。混練後のペーストに、溶剤B(ヘキシルジグリコール)0.6質量%をさらに添加して、粘度調整を行い、はんだ組成物を得た。」

(オ)「【0038】
<はんだ組成物の評価>
はんだ組成物の評価(保存安定性、ぬれ性、加熱時のだれ性、QFNボイド、ピン間ボール)を以下のような方法で評価または測定した。得られた結果を表1に示す。
(1)保存安定性
はんだ組成物を室温(25℃)で2?3時間放置する。はんだ組成物の容器の蓋をあけ、スパチュラで空気の混入を避けるようにして丁寧に1?2分間かき混ぜたものを試料とする。その後、試料をスパイラル型粘度計(マルコム社製、PCU-II型)にセットして、回転数を10rpm、温度を25℃にして、6分間ローターを回転させる。そして、一旦回転を停止させ、温度調整した後に、回転数を10rpmに調整し、3分後の粘度値を読み取る。また、この時の試料の性状を確認する。製造直後と同様に滑らかな性状を維持している場合には「○」と判定し、流動性が大幅に低下し、ボソボソになった場合には「×」と判定する。
なお、はんだ組成物を30℃の恒温槽に入れて14日経過した後の試料についても、上記と同様の評価を行う。
(2)ぬれ性
清浄した3種の基板(銅板、ニッケル板および黄銅板)を準備する。厚さ0.2mmで、直径6.5mmの穴が空いたメタルマスクを使用し、基板上にはんだ組成物を印刷して試験板とする。そして、はんだバスをはんだ融点より50℃高い温度に設定する(誤差は3℃以内)。はんだバス上で試験板を加熱し、はんだ組成物が溶けはじめてから5秒間加熱後、試験板を水平にして取り出す。試験板を冷却した後、広がりの度合を以下の基準に基づいて判定する。
1:はんだ組成物から溶融したはんだが、試験板をぬらし、ペーストを塗布した面積以上に広がった状態である。
2:はんだ組成物を塗布した部分は全ては、はんだでぬれた状態である。
3:はんだ組成物を塗布した部分の大半は、はんだでぬれた状態である。
4:試験板は、はんだがぬれた様子はなく、溶融したはんだは一つ以上のはんだボールとなった状態である。
【0039】
(3)加熱時のだれ性
清浄したセラミック基板(サンユインダストリアル製:25mm×50mm×0.8mm)を準備する。3.0mm×1.5mmのパターン孔を有し、それを0.1mmから1.2mmまで0.1mmステップで配置しているパターン孔を有する厚み0.2mm(誤差は0.001mm以内)のメタルマスクを使用し、このセラミック基板上にはんだ組成物を印刷して試験板とする。そして、170℃に加熱された炉中に試験板を入れ、1分間加熱する。加熱後の試験板を観察し、パターン孔のうち、印刷されたはんだ組成物が一体にならない最小間隔を測定する。
(4)QFNボイド
0.5mmピッチのQFN(Quad Flatpack No Lead)パターンの銅配線基板に、0.12mm厚のメタルマスクを使用して、はんだ組成物を印刷し、リフロー炉(タムラ製作所「TNR25-53PH」)ではんだ組成物を溶解させて、はんだ付けを行ったものを試験板とする。ここでのリフロー条件は、プリヒート温度が150?180℃(60秒)で、温度220℃以上の時間が50秒間で、ピーク温度が245℃である。得られた試験板を、X線計測機(島津製作所社製「SMX-160E」)を使用して観察し、0.5mmピッチのQFNの下面に発生したボイドの占有面積(ボイドの発生した面積/QFNの面積)を測定する。
(5)ピン間ボール
0.8mmピッチのQFP(Quad Flat Package)パターンの銅配線基板に、0.12mm厚のメタルマスクを使用してはんだ組成物を印刷し、リフロー炉ではんだ組成物を溶解させて、はんだ付けを行ったものを試験板とする。ここでのリフロー条件は、プリヒート温度が150?180℃(60秒)で、温度220℃以上の時間が50秒間で、ピーク温度が245℃である。得られた試験板を拡大鏡にて観察し、0.8mmピッチのQFPランドの間隔に発生したはんだボールの数を測定する。」

(カ)「【表1】



(キ)「【0041】
表1に示す結果からも明らかなように、本発明のはんだ組成物(実施例1?5)は、保存安定性に優れることが確認された。また、本発明のはんだ組成物(実施例1?5)は、ぬれ性、加熱時のだれ性、QFNボイド、ピン間ボールの評価にも優れ、はんだ付性に優れることが確認された。」

イ 上記ア(ア)?(キ)を総合勘案し、特に実施例1の「第二ビヒクル」に着目すると、甲第A1号証には、次の発明が記載されていると認める。

「ロジン系樹脂A(商品名「KE-604」、荒川工業社製)20質量%、ロジン系樹脂B(商品名「フォーラルAX」、Eastman Chemical社製)15質量%、溶剤A(ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル)40質量%、チクソ剤A(高級脂肪酸ポリアマイド、商品名「ターレンATX-1146」、共栄社化学社製)5質量%、チクソ剤B2(脂肪酸アマイド、商品名「スリパックスH」、日本化成社製)2質量%、酸化防止剤(商品名「ANOX20」、味の素ファインテクノ社製)4質量%、有機酸A(ダイマー酸、商品名「UNIDYME14」、ARIZONA CHEMICAL社製)6質量%、および有機酸B(ジグリコール酸、みどり化学社製)8質量%を容器に投入し、らいかい機を用いて混練して得た第二ビヒクル。」(以下、「甲A1発明」という。)

(2)甲第A2号証の記載事項及び甲第A2号証記載の発明
ア 本件特許に係る出願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第A2号証には、以下の記載がある。なお、甲第B1号証は、甲第A2号証と同一の証拠であり、同様の記載がある。

(ア)「「ターレンVA-79」(高融点ポリアマイドワックスパウダー)
【特徴】
・・・
・ターレンVA-79は溶融温度が高いため、高温時のダレ防止効果を発揮します。その為、ハンダペーストでは、実装(リフロー)温度が高い鉛フリーハンダペーストでも、高い耐熱性示すチクソ剤として利用可能です。」

(イ)「【性状】
主成分 : 高級脂肪酸ポリアマイド
・・・」

イ 上記ア(ア)?(イ)を総合勘案すると、甲第A2号証には、次の発明が記載されていると認める。

「主成分として高級脂肪酸ポリアマイドを含む、高い耐熱性を示すターレンVA-79をチクソ剤として利用した鉛フリーハンダペースト。」(以下、「甲A2発明」という。)

(3)甲第A3号証の記載事項
本件特許に係る出願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第A3号証には、以下の記載がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだボールを有するパッケージ部品の接合方法に用いる熱硬化性樹脂組成物に関する。」

イ 「【0025】
本発明に用いるチクソ剤としては、公知のチクソ剤を適宜用いることができる。このようなチクソ剤としては、例えば、脂肪酸アマイド、水添ヒマシ油が挙げられる。これらの中でも、パッケージ部品のはんだボールに熱硬化性樹脂組成物を付着させ、当該部品を接合用ランド上に搭載した際の付着性の観点から、脂肪酸アマイドが好ましい。
【0026】
前記チクソ剤の含有量としては、熱硬化性樹脂組成物100質量%に対して、0.5質量%以上10質量%以下であることが好ましく、1質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。チクソ剤の含有量が前記下限未満では、チクソ性が得られず、パッケージ部品のはんだボールを樹脂組成物膜中に浸漬した際、熱硬化性樹脂組成物が十分付着しないばかりか、接合用ランド上に搭載した際の当該部品の付着力も低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、熱硬化性樹脂組成物がはんだボール上に濡れ広がりにくくなり、硬化膜の絶縁信頼性が低下する傾向にある。」

ウ 「【実施例】
【0036】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例および比較例にて用いた材料を以下に示す。
エポキシ樹脂A:ビスフェノールA型エポキシ樹脂、商品名「EPICLON EXA-830LVP」、ADEKA社製
エポキシ樹脂B:グリシジルエステル型エポキシ樹脂、商品名「ARALDITE CY-184」、HUNTSMAN社製
エポキシ樹脂C:ダイマー酸型半固形エポキシ樹脂、商品名「jER872」、三菱化学社製
エポキシ樹脂D:ナフタレン型エポキシ樹脂、商品名「EPICLON HP-4032D」、DIC社製
単官能グリシジル基含有化合物:フェニルグリシジルエーテル、商品名「デナコール EX-141」、ナガセエレックス社製
エポキシ樹脂硬化剤:2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、商品名「キュアゾール2P4MHZ」、四国化成社製
チクソ剤:高級脂肪酸ポリアマイド、商品名「ターレンVA-79」、共栄社化学社製
有機酸:アジピン酸、関東電化工業社製
界面活性剤:商品名「BYK361N」、ビックケミージャパン社製
消泡剤:商品名「フローレンAC-303」、共栄社化学社製」

(4)甲第A4号証の記載事項及び甲第A4号証記載の発明
ア 本件特許に係る出願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第A4号証には、以下の記載がある。

(ア)「【請求項1】
(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(C)溶剤および(D)アミン系化合物を含有するフラックスと、(E)はんだ粉末とを含有し、
前記(A)成分は、(A1)軟化点が100℃以下の低軟化点ロジン系樹脂を含有する
ことを特徴とするはんだ組成物。」

(イ)「【0006】
すなわち、本発明は、スズメッキなどが施された鋼板などのはんだぬれ性を、はんだ組成物の組成の観点から改良した技術であり、本発明の目的は、スズメッキへのはんだぬれ性が優れ、かつはんだ付け部分での腐食を十分に抑制できるはんだ組成物を提供することにある。」

(ウ)「【0011】
本発明のはんだ組成物は、以下説明するフラックスと、以下説明する(E)はんだ粉末とを含有するものである。
【0012】
[フラックス]
本発明に用いるフラックスは、はんだ組成物における前記(E)成分以外の成分であり、(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、(C)溶剤および(D)酸化防止剤を含有するものである。
【0013】
前記フラックスの配合量は、はんだ組成物100質量%に対して、5質量%以上35質量%以下であることが好ましく、7質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、8質量%以上13質量%以下であることが特に好ましい。フラックスの配合量が5質量%未満の場合(はんだ粉末の含有量が95質量%を超える場合)には、バインダーとしてのフラックスが足りないため、フラックスとはんだ粉末とを混合しにくくなる傾向にあり、他方、フラックスの含有量が35質量%を超える場合(はんだ粉末の含有量が65質量%未満の場合)には、得られるはんだ組成物を用いた場合に、十分なはんだ接合を形成できにくくなる傾向にある。
【0014】
[(A)成分]
本発明に用いる(A)ロジン系樹脂としては、ロジン類およびロジン系変性樹脂が挙げられる。ロジン類としては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、水素添加ロジンおよびこれらの誘導体などが挙げられる。ロジン系変性樹脂としては、ディールス・アルダー反応の反応成分となり得る前記ロジン類の不飽和有機酸変性樹脂((メタ)アクリル酸などの脂肪族の不飽和一塩基酸、フマル酸、マレイン酸等のα,β-不飽和カルボン酸などの脂肪族不飽和二塩基酸、桂皮酸などの芳香族環を有する不飽和カルボン酸等の変性樹脂)およびこれらの変性物などのアビエチン酸、並びに、これらの変性物を主成分とするものなどが挙げられる。これらのロジン系樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0015】
本発明において、前記(A)成分は、(A1)軟化点が100℃以下の低軟化点ロジン系樹脂を含有することが必要である。このような(A1)成分としては、前記(A)成分のうち、軟化点が100℃以下の低軟化点ロジン系樹脂が挙げられる。また、はんだぬれ性の観点からは、前記低軟化点ロジン系樹脂の軟化点は、90℃以下であることが好ましく、85℃以下であることがより好ましい。なお、軟化点は、環球法により測定できる。
本発明において、前記(A)成分は、(A2)軟化点が100℃超の高軟化点ロジン系樹脂を含有することが好ましい。このような(A2)成分としては、前記(A)成分のうち、軟化点が100℃超の高軟化点ロジン系樹脂が挙げられる。また、印刷性などの観点からは、前記高軟化点ロジン系樹脂の軟化点は、110℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましい。
なお、前記(A)成分の軟化点を調整する手段としては、ロジンの重合度合を調整することや(重合度合が高くなるほど、軟化点が高くなる傾向にある)、ロジンの変性方法を変更することや(例えば、アクリル酸やマレイン酸により変性することで、軟化点が高くなる傾向にある)、ロジンの分子量を調整することや(分子量が高くなるほど、軟化点が高くなる傾向にある)、ロジンに水素化反応を施すことや、ロジンにエステル化反応またはエステル交換反応を施すことなどが挙げられる。
前記(A1)成分の配合量は、前記(A1)成分および前記(A2)成分の合計量100質量部に対して、10質量部以上35質量部以下であることが好ましく、15質量部以上25質量部以下であることがより好ましい。
【0016】
前記(A)成分の配合量は、フラックス100質量%に対して、30質量%以上70質量%以下であることが好ましく、40質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。(A)成分の配合量が前記下限未満では、はんだ付ランドの銅箔面などの酸化を防止してその表面に溶融はんだをぬれやすくする、いわゆるはんだ付性が低下し、はんだボールが生じやすくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、フラックス残さ量が多くなる傾向にある。
【0017】
[(B)成分]
本発明に用いる(B)活性剤としては、有機酸、非解離性のハロゲン化化合物からなる非解離型活性剤、アミン系活性剤などが挙げられる。これらの活性剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。なお、これらの中でも、環境対策の観点や、はんだ付け部分での腐食を抑制するという観点からは、有機酸、アミン系活性剤(ハロゲンを含有しないもの)を用いることが好ましい。
前記有機酸としては、モノカルボン酸、ジカルボン酸などの他に、その他の有機酸が挙げられる。
モノカルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ブチリック酸、バレリック酸、カプロン酸、エナント酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸、グリコール酸などが挙げられる。
ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、ジグリコール酸などが挙げられる。
その他の有機酸としては、ダイマー酸、レブリン酸、乳酸、アクリル酸、安息香酸、サリチル酸、アニス酸、クエン酸、ピコリン酸などが挙げられる。
【0018】
前記アミン系活性剤としては、アミン類(エチレンジアミンなどのポリアミンなど)、アミン塩類(トリメチロールアミン、シクロヘキシルアミン、ジエチルアミンなどのアミンやアミノアルコールなどの有機酸塩や無機酸塩(塩酸、硫酸、臭化水素酸など))、アミノ酸類(グリシン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、バリンなど)、アミド系化合物などが挙げられる。具体的には、ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩、シクロヘキシルアミン臭化水素酸塩、ジエチルアミン塩(塩酸塩、コハク酸塩、アジピン酸塩、セバシン酸塩など)、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、これらのアミンの臭化水素酸塩などが挙げられる。
【0019】
前記(B)成分の配合量としては、フラックス100質量%に対して、1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、2質量%以上6質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上5.5質量%以下であることが特に好ましい。(B)成分の配合量が前記下限未満では、はんだボールが生じやすくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、フラックスの絶縁性が低下する傾向にある。
【0020】
[(C)成分]
本発明に用いる(C)溶剤としては、公知の溶剤を適宜用いることができる。このような溶剤としては、沸点170℃以上の水溶性溶剤を用いることが好ましい。
このような溶剤としては、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、ヘキシルジグリコール、1,5-ペンタンジオール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、2-エチルヘキシルジグリコール、オクタンジオール、フェニルグリコール、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテルが挙げられる。これらの溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
前記(C)成分の配合量は、フラックス100質量%に対して、10質量%以上50質量%以下であることが好ましく、20質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。溶剤の配合量が前記範囲内であれば、得られるはんだ組成物の粘度を適正な範囲に適宜調整できる。
【0022】
[(D)成分]
本発明に用いる(D)アミン系化合物としては、例えば、イミダゾール化合物、トリアゾール化合物が挙げられる。これらのアミン系化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
イミダゾール化合物としては、ベンゾイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール(2E4MZ)、2-ウンデシルイミダゾールなどが挙げられる。
トリアゾール化合物としては、ベンゾトリアゾール、1H-ベンゾトリアゾール-1-メタノール、1-メチル-1H-ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
【0023】
前記(D)成分の配合量は、フラックス100質量%に対して、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上2質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上1質量%以下であることが特に好ましい。(D)成分の配合量が前記下限未満では、はんだの未溶融や基板ランドへの不ぬれが発生しやすくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られるはんだ組成物の保存安定性が低下する傾向にある。
【0024】
[他の成分]
本発明に用いるフラックスには、前記(A)成分、前記(B)成分、前記(C)成分および前記(D)成分の他に、必要に応じて、チクソ剤やその他の添加剤、更には、その他の樹脂を加えることができる。その他の添加剤としては、酸化防止剤、消泡剤、改質剤、つや消し剤、発泡剤などが挙げられる。その他の樹脂としては、アクリル系樹脂などが挙げられる。
【0025】
本発明に用いるチクソ剤としては、硬化ひまし油、アミド類、カオリン、コロイダルシリカ、有機ベントナイト、ガラスフリットなどが挙げられる。これらのチクソ剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
前記チクソ剤の配合量は、フラックス100質量%に対して、1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、2質量%以上6質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上5質量%以下であることが特に好ましい。配合量が前記下限未満では、チクソ性が得られず、ダレが生じやすくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、チクソ性が高すぎて、塗布不良となりやすい傾向にある。
【0027】
[(E)はんだ粉末]
本発明に用いる(E)はんだ粉末は、無鉛のはんだ粉末のみからなることが好ましいが、有鉛のはんだ粉末であってもよい。このはんだ粉末におけるはんだ合金としては、スズを主成分とする合金が好ましい。また、この合金の第二元素としては、銀、銅、亜鉛、ビスマス、アンチモンなどが挙げられる。さらに、この合金には、必要に応じて他の元素(第三元素以降)を添加してもよい。他の元素としては、銅、銀、ビスマス、アンチモン、アルミニウム、インジウムなどが挙げられる。
無鉛のはんだ粉末としては、具体的には、Sn/Ag、Sn/Ag/Cu、Sn/Cu、Sn/Ag/Bi、Sn/Bi、Sn/Ag/Cu/Bi、Sn/Sbや、Sn/Zn/Bi、Sn/Zn、Sn/Zn/Al、Sn/Ag/Bi/In、Sn/Ag/Cu/Bi/In/Sb、In/Agなどが挙げられる。
【0028】
前記はんだ粉末の平均粒子径は、1μm以上40μm以下であることが好ましく、10μm以上35μm以下であることがより好ましく、15μm以上25μm以下であることが特に好ましい。平均粒子径が上記範囲内であれば、はんだ付けランドのピッチの狭くなってきている最近のプリント配線基板にも対応できる。なお、平均粒子径は、動的光散乱式の粒子径測定装置により測定できる。」

(エ)「【実施例】
【0033】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例および比較例にて用いた材料を以下に示す。
((A2)成分)
ロジン系樹脂A:水添酸変性ロジン(軟化点:130℃)
ロジン系樹脂B:重合ロジン(軟化点:140℃)
ロジン系樹脂C:マレイン酸変性ロジン(軟化点:148℃)
((A1)成分)
ロジン系樹脂D:水添ロジンエステル(軟化点:85℃)
((B)成分)
活性剤:スベリン酸
((C)成分)
溶剤:ヘキシルジグリコール
((D)成分)
アミン系化合物:商品名「キュアゾール2E4MZ」、四国化成社製
((E)成分)
はんだ粉末:平均粒子径28μm、はんだ融点217?224℃、はんだ組成Sn98.3質量%/Ag1.0質量%/Cu0.7重量%
(他の成分)
チクソ剤:脂肪酸アマイド(脂肪酸アミド)、商品名「スリパックスH」、日本化成社製
酸化防止剤:ヒンダントフェノール系酸化防止剤、商品名「イルガノックス245」、チバ・ジャパン社製
【0034】
[実施例1]
ロジン系樹脂A26質量部、ロジン系樹脂B15質量部、ロジン系樹脂D10質量部、活性剤5質量部、溶剤35質量部、アミン化合物1質量部、チクソ剤4質量部および消泡剤4質量部を容器に投入し、らいかい機を用いて混合してフラックスを得た。
その後、得られたフラックス11.4質量%およびはんだ粉末88.6質量%(合計で100質量%)を容器に投入し、混練機にて混合することではんだ組成物を調製した。」

(オ)「【0036】
<はんだ組成物の評価>
はんだ組成物の評価(加熱時のダレ幅、腐食試験、スズメッキ基板へのぬれ広がり)を以下のような方法で行った。得られた結果を表1に示す。
(1)加熱時のダレ幅
セラミック基板(大きさ:25mm×25mm、厚み:0.6mm)を準備する。直径3mmφの円形のパターン孔を3つ有する厚み0.2mmのメタルマスクを使用し、このセラミック基板上にはんだ組成物を印刷して試験板とした。ここで、印刷後のペーストの直径(L_(1))を測定する。その後、170℃に加熱された炉中にこの試験板を入れ、1分間加熱した。そして、加熱後のペーストの直径(L_(2))を測定した。加熱後のペーストの直径(L_(2))から印刷後のペーストの直径(L_(1))を引いて、加熱時のダレ幅(L_(2)-L_(1))(単位:mm)を算出した。
(2)腐食試験
JIS Z 3284(1994)に記載の方法に準じて、腐食試験を行う。すなわち、酸化被膜を除去したリン脱酸銅板(大きさ:50mm×50mm、厚み:0.5mm)を準備する。なお、この試験では、2枚のリン脱酸銅板を使用する。図1に示すように、リン脱酸銅板の両端5mmの部分でコの字型に曲げたものを第一基板Aとし、両端6mmの部分をコの字型に曲げたものを第二基板Bとした。第二基板Bに、直径6.5mmφの円形のパターン孔を4つ有する厚み0.2mmのメタルマスクを使用し、はんだ組成物Pを印刷した。この第二基板Bに第一基板Aを被せて試験片とする。試験片を温度235±2℃に調節されたホットプレートに載せ、はんだ溶融後5秒間保持した。かかる試験片を3組作成し、1組は室温保管しブランク基板とする。残りの2組は温度40℃、相対湿度90%に設定した恒温恒湿槽内に投入し、96時間放置して、試験後の試験片を得た。試験後の試験片と、ブランク基板とを比較し、第一基板Aおよび第二基板Bでの残さの変色および残さをIPAで洗浄し、銅の変色がないか目視で確認を行い、以下の基準に基づいて、銅箔の変色を評価した。
○:残さおよび銅の変色が無い。
△:残さの変色はあるが、銅面は変色していない。
×:残さの変色があり、銅面が変色している。
(3)スズメッキ基板へのぬれ広がり
無電解スズメッキを施した銅板(大きさ:30mm×30mm、厚み:0.5mm)に、はんだ組成物を0.30gになるように乗せ、その後ホットプレートで、はんだの液相線温度(融点)より50℃高い温度にて30秒間加熱する。その後、ホットプレートから取り出した試験片を室温まで冷却する。そして、マイクロメーターで広がったはんだの高さ(H)を測定し、広がり率(Sr)を下記式(F1)より求める。
Sr=(D-H)/D×100 ・・・(F1)
D=1.24V^(1/3) ・・・(F2)
Sr:広がり率(%)
H:広がったはんだの高さ(mm)
D:試験に用いたはんだを球とみなした場合の直径(mm)
V:試験に用いたはんだの質量/密度」

(カ)「【表1】



(キ)「【0038】
表1に示す結果からも明らかなように、本発明のはんだ組成物を用いた場合(実施例1?3)には、スズメッキへのはんだぬれ性が優れ、かつはんだ付け部分での腐食を十分に抑制できることが確認された。なお、本発明のはんだ組成物は、加熱時のダレ幅が比較的に大きい傾向にあり、それによりはんだ溶融時のスズメッキへのはんだぬれ性が向上したことが確認された。
これに対し、はんだ組成物の組成において、(A1)成分を含まない場合(比較例1?6)には、スズメッキ基板へのぬれ広がりが不十分であり、しかもはんだ付け部分での腐食を十分に抑制できないことが分かった。」

イ 上記ア(ア)?(キ)を総合勘案し、特に、実施例1に着目すると、甲第A4号証には、次の発明が記載されていると認める。

「ロジン系樹脂A[水添酸変性ロジン(軟化点:130℃)]26質量部、ロジン系樹脂B[重合ロジン(軟化点:140℃)]15質量部、ロジン系樹脂D[水添ロジンエステル(軟化点:85℃)]10質量部、活性剤(スベリン酸)5質量部、溶剤(ヘキシルジグリコール)35質量部、アミン化合物(商品名「キュアゾール2E4MZ」、四国化成社製)1質量部、チクソ剤[脂肪酸アマイド(脂肪酸アミド)、商品名「スリパックスH」、日本化成社製]4質量部および消泡剤4質量部を容器に投入し、らいかい機を用いて混合して得たフラックス。」(以下、「甲A4発明」という。)

(5)甲第A5号証の記載事項
本件特許に係る出願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第A5号証には、以下の記載がある。

ア 「【0010】
【発明の実施の形態】
ソルダペーストは、ハンダ粉末とフラックスとの混合物である。フラックスは、一般的には、ハンダ粉末を可塑化するためのベース樹脂、ハンダ表面を活性化するための活性剤、チキソ(チキソトロープ)剤、溶剤などの成分により構成され、ハンダの種類に応じて酸化防止剤や防錆剤等の添加剤を配合するなど、組成が工夫される。」

イ 「【0023】
チキソ剤としては、例えば、硬化ひまし油、水添ひまし油、蜜ロウ、カルナバワックス、ステアリン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸エチレンビスアミドなどを使用することができる。チキソ剤の配合割合は、フラックス全体の1?10重量%とするのが好ましい。」

ウ 「【0042】
【発明の効果】
本発明によれば、亜鉛及び錫を含有するハンダ合金の粉末を使用したソルダペーストの金メッキやパラジウムメッキ処理を施した部材に対する濡れ性が、銅板等に対する濡れ性と同程度まで改善されるため、種々の部材に対して等しく良好な濡れ性を発揮し、しかも保存安定性に優れたソルダペーストを提供することができる。」

(6)甲第A6号証の記載事項
本件特許に係る出願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第A6号証には、以下の記載がある。

ア 「【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、はんだ接合時の濡れ性に優れ、かつ、接合後の洗浄が不要なはんだ用フラックス、および、このはんだ用フラックスを用いたはんだペーストを、容易に提供することができるため、その工業的意義はきわめて大きい。」

イ 「【0019】
1.はんだ用フラックス
本発明のはんだ用フラックスは、フラックス主成分を35質量%以上70質量%未満、活性剤を5質量%以上30質量%未満、不飽和脂肪酸アミドを5質量%以上15質量%未満含み、フラックス主成分が、ロジン、変性ロジン、アビエチン酸および変性アビエチン酸の群から選択される少なくとも1種であり、酸価が100mgKOH/g以上230mgKOH/g未満であることを特徴とする。このようなはんだ用フラックスを用いた場合、接合時の濡れ性を改善し、また、フラックス残渣の発生を抑制することができるため、接合後の洗浄作業が不要になる。」

ウ 「【0033】
また、本発明のはんだ用フラックスでは、はんだペーストとした際のレオロジーコントロール剤として、カオリン、タルク、シリカ、アエロジル、有機ベントナイト、硬化ひまし油などのチクソ剤を使用することができる。」

(7)甲第A10の1?3号証の記載事項
本件特許に係る出願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第A10の1?3号証には、以下の記載がある。

ア 甲第A10の1号証の記載事項
(ア)「【0001】
本発明は、配線基板同士の接続や、電子部品と配線基板との接続に用いる異方性導電性接着剤およびそれを用いたプリント配線基板に関する。」

(イ)「【0052】
[実施例1]
マレイミド化合物A20質量部、(メタ)アクリレート化合物A20質量部、(メタ)アクリレート化合物B15質量部および活性剤A2質量部を容器に投入する(なお、必要に応じて、予め、マレイミド化合物Aなどを(メタ)アクリレート化合物Aなどに溶解させてもよい)。その後、チクソ剤A2質量部を容器に投入し、攪拌機にて予備混合した後、3本ロールを用いて室温にて混合し分散させて樹脂組成物を得た。
その後、得られた樹脂組成物59質量部に対し、ラジカル重合開始剤3質量部およびはんだ粉末22質量部を容器に投入し、混練機にて2時間混合することで異方性導電性接着剤を調製した。
次に、リジット基板(ライン幅:100μm、ピッチ:200μm、銅厚:18μm、電極:銅電極に水溶性プリフラックス処理(タムラ製作所社製))上に、得られた異方性導電性ペーストをディスペンサーにて塗布した(厚み:0.2mm)。そして、塗布後の異方性導電性接着剤上に、フレキ基板(ライン幅:100μm、ピッチ:200μm、銅厚:12μm、電極:銅電極に金メッキ処理(Cu/Ni/Au))を配置し、熱圧着装置(アドバンセル社製)を用いて、温度150℃、圧力1.0MPa、圧着時間6秒の条件で、フレキ基板をリジット基板に熱圧着して、フレキ基板付のリジット基板(評価基板)を作製した。」

(ウ)「【0054】
<異方性導電性接着剤の評価>
異方性導電性接着剤の評価(硬化性、接着強度、絶縁性、耐湿性)を以下のような方法で行った。実施例について得られた結果を表1に示す。比較例について得られた結果を表2に示す。
・・・
(3)絶縁性
評価基板の櫛形回路の部分に、ハイレジスタントメーター(Agilent社製)を用いて、15Vの電圧を印加した時の絶縁抵抗値(単位:Ω)を測定した。絶縁性は、以下の基準に従って評価した。
○:絶縁抵抗値が1.0×10^(10)Ω以上である。
△:絶縁抵抗値が1.0×10^(8)Ω以上1.0×10^(10)Ω未満である。
×:絶縁抵抗値が1.0×10^(8)Ω未満である。
・・・」

(エ)「【表1】



イ 甲第A10の2号証の記載事項
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、回路基板に対して回路部品等をはんだ接続する際に使用されるはんだ付け用フラックスおよびはんだペースト組成物に関する。」

(イ)「【0035】
(製造例1)
イソオクチルアクリレート40重量部、ラウリルメタクリレート35重量部、ブチルアクリレート10重量部およびメタクリル酸15重量部からなるモノマー成分を、溶液重合法で重合して、熱可塑性アクリル樹脂Aを得た。
この熱可塑性アクリル樹脂Aは、ガラス転移温度(Tg)が-55℃、酸価が100mgKOH/g、平均分子量が約7000であった。
【0036】
(製造例2)
2-エチルヘキシルアクリレート50重量部、ブチルアクリレート37重量部およびアクリル酸13重量部からなるモノマー成分を、溶液重合法で重合して、熱可塑性アクリル樹脂Bを得た。
この熱可塑性アクリル樹脂Bは、ガラス転移温度(Tg)が-60℃、酸価が100mgKOH/g、平均分子量が約6000であった。
【0037】
(製造例3)
イソオクチルアクリレート75重量部、ブチルアクリレート17重量部およびメタクリル酸8重量部からなるモノマー成分を、溶液重合法で重合して、熱可塑性アクリル樹脂Cを得た。
この熱可塑性アクリル樹脂Cは、ガラス転移温度(Tg)が-70℃、酸価が50mgKOH/g、平均分子量が約8000であった。
【0038】
(製造例4)
イソオクチルアクリレート57重量部、エチルアクリレート32重量部およびアクリル酸11重量部からなるモノマー成分を、溶液重合法で重合して、熱可塑性アクリル樹脂Dを得た。
この熱可塑性アクリル樹脂Dは、ガラス転移温度(Tg)が-54℃、酸価が85mgKOH/g、平均分子量が約5000であった。
【0039】
(製造例5)
2-エチルヘキシルアクリレート50重量部、イソステアリルアクリレート40重量部およびメタクリル酸10重量部からなるモノマー成分を、溶液重合法で重合して、熱可塑性アクリル樹脂Eを得た。
この熱可塑性アクリル樹脂Eは、ガラス転移温度(Tg)が-46℃、酸価が100mgKOH/g、平均分子量が約7500であった。
【0040】
(製造例6)
イソオクチルアクリレート56重量部、n-ブチルメタクリレート39重量部およびアクリル酸5重量部からなるモノマー成分を、溶液重合法で重合して、熱可塑性アクリル樹脂Fを得た。
この熱可塑性アクリル樹脂Fは、ガラス転移温度(Tg)が-46℃、酸価が54mgKOH/g、平均分子量が約8500であった。
【0041】
(参考例1?4および比較例1、2)
ベース樹脂として上記各製造例で得られたアクリル樹脂A、B、Eおよびホルミル化ロジンのうちの1種以上と、活性剤としてアジピン酸およびアニリン臭化水素酸塩と、溶剤としてイソプロピルアルコールまたはブチルカルビトールとを、それぞれ表1に示す配合組成で混合し、均一になるように充分に熱を加えて溶解、拡散させ、フラックスをそれぞれ得た。
得られた各フラックスを用いて、はんだ付け性試験、残渣亀裂試験、絶縁抵抗試験および腐食試験を行った。結果を表1に示す。」

(ウ)「【表1】



ウ 甲第A10の3号証の記載事項
(ア)「技術分野
[0001] 本発明は、プリント基板に電子部品を搭載した後、鉛フリーはんだを用いてフローソ ルダリング法によりはんだ付けする際に使用されるポストフラックスとして好適なはんだ付け用フラックスに関する。本発明のフラックスは、はんだ付け後にフラックス残渣を洗浄する必要性がない、無洗浄型であり、かつ錫含有量の高い錫基合金である鉛フリーはんだによるはんだ付けで問題となっていたウイスカ発生を防止することができる。」

(イ)「[0066] 3.フラックス残渣の絶縁抵抗試験
JIS Z 3197に準じて試験を行った。市販の180 X 180mmサイズのCuランドのプリント基板に、試験するフラックスを0.2ml塗布し、フローソルダリング用自動はんだ付け装置を用いて、100℃での予備加熱のみを大気雰囲気中で実施した。その後、プリント基板を温度85℃、湿度85%の大気雰囲気の恒温・恒湿槽に入れ、初期値として3時間後と、168時間後に、基板絶縁部の絶縁抵抗を測定した。」

(ウ)「[表1]



(8)甲第B2号証の記載事項
ア 「



イ 「



ウ 「



(9)甲第B3号証の記載事項
ア 「



イ 「



ウ 「



エ 「



オ 「



カ 「



(10)甲第B4号証の記載事項
ア 「



(11)甲第B5号証の記載事項
ア 「




6 当審の判断
(1)取消理由について
当審は、特許権者が令和2年 1月20日に提出した意見書、及び同じく特許権者が令和 2年3月23日に提出した上申書を踏まえて検討した結果、令和1年10月18日付け取消理由通知で通知した取消理由1(明確性要件)、及び取消理由2(実施可能要件)は解消したと判断したところ、その理由は以下のとおりである。

ア 取消理由1(明確性要件)について
(ア)特定事項A(「前記チクソ剤(D-1)は、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析法(加熱炉昇温速度:20℃/分)による揮発最大ピーク値の検出温度が450℃から480℃であ」る点)について

a.特許権者は、令和2年 1月20日に提出した意見書の「5(3)ア 特定事項Aについて」において、
(a)(i)申立人Bが提出した甲第B2号証には、「線速度を140cm/sec」としたことが記載されておらず、その結果からも当該線速度が読み取れないこと、
(ii)同じく甲第B3号証から甲第B5号証には、甲第B2号証のような試験等結果通知書が添付されておらず、甲第B3号証から甲第B5号証に開示された情報からは、これらの分析が甲第B2号証と同じ条件で行われたかどうか読み取れないこと、
(iii)甲第B5号証からは、流量を「2.0mL/min」で行ったかどうか読み取れないこと、
(iv)甲第B3号証にある熱分解ガスクロマトグラフ質量分析を行ったターレンVA-79の[1]から[6]についてはそもそもロット番号等の情報が明記されていないこと、
等を根拠にして、甲第B3号証から同第B5号証の記載内容からは、「流量の違いが揮発最大ピーク値の検出温度に影響を及ぼすか否か」が明りょうでないと主張する(第3頁下から8行?第5頁下から9行)とともに、
(b)特許権者において行った「流量を1.0mL/minとした場合と2.0mL/minとした場合」についての「熱分解ガスクロマトグラフ質量分析」の結果を「実験報告書」(乙第1号証)として提出し、「乙第1号証からも分かるように、流量1.0mL/minの条件下で熱分解ガスクロマトグラフ質量分析を行った場合、その揮発最大ピーク値の検出温度は459℃となり、本件特許の請求項1に規定する『450℃から480℃』内にあることが分かります。また、流量2.0mL/minの条件下で熱分解ガスクロマトグラフ質量分析を行った場合、その揮発最大ピーク値の検出温度は461℃となり、『450℃から480℃』内にあることが分かります。また両者の差は2℃程度であり、ほぼ差はありません。」と主張し(第5頁下から9行?第6頁第17行)、さらに、
(c)熱分解ガスクロマトグラフ質量分析の原理からも、揮発最大ピーク値の検出温度において、流量の違いはその結果にほぼ影響を及ぼすものではない(第6頁下から8行?第8頁下から6行)、
と主張している。

b.なお、上記乙第1号証の「実験報告書」には、以下の記載がある。
(a)「3 分析対象試料
『ターレンVA-79(Lot.9103046)』共栄社化学株式会社」

(b)「4 分析装置
(1)熱分解装置:マルチショットパイロライザー EGA/PY-3030D(フロンティア・ラボ(株)製)
(2)ガスクロマトグラフ質量分析装置:JMS-Q1050GC(日本電子(株)製)」

(c)「5 測定条件
(1)熱分解条件:炉温度40?700℃(1分間保持)、インターフェース温度320℃
(2)ガスクロマトグラフ条件
[1]キャピラリ-チューブ:Ultra ALLOY不活性化金属キャピラリ-チューブ 型番 UADTM-2.5N(2.5m×0.15mmID、フロンティア・ラボ(株)製)
[2]試料量:0.3mg
[3]キャリアガス:ヘリウム
[4]評価キャリアガス流量:1mL/minおよび2mL/min
[5]注入口温度:320℃
[6]カラム温度:350℃(34分間保持)
[7]スプリット比:1/50
(3)質量分析条件
[1]イオン源温度 300℃
[2]GCインターフェース温度 320℃
[3]検出器電圧 -1000volt
[4]イオン化電流 50μA
[5]イオン化エネルギー 70eV
[6]サイクルタイム 300msec
[7]質量範囲 m/z 10?500」

(d)「6 実験結果
図1に流量1mL/minにおける熱分解ガスクロマトグラフ質量分析法を用いて測定したクロマトグラム(TIC)を示す。
図2に流量2mL/minにおける熱分解ガスクロマトグラフ質量分析法を用いて測定したクロマトグラム(TIC)を示す。
なお、各図内に、アジレント・テクノロジー(株)提供の『圧力/流量カリキュレータ ソフトウェア』により求めた平均線速度値を記載する。」

(e)「図1:流量1mL/minにおけるターレンVA-79のTIC



(f)「図2:流量1mL/minにおけるターレンVA-79のTIC



(g)「7 まとめ
ターレンVA-79についてキャリアガス流量を変え、熱分解ガスクロマトグラフィーにて分析したところ、揮発最大ピーク値の温度の差異は殆どなく、いずれも450℃から480℃の範囲に含まれることが確認された。」

c.そこで、上記a.(a)?(c)の各主張について検討する。
(a)甲第B2号証(「群馬県立産業技術センター試験等結果報告書(ターレンVA-79分析)及び別添資料1?2(EGAサーモグラム)」には、試験を行った際のヘリウムの「線速度」ないし「流量」が読み取れるような記載は見当たらない。また、甲第B3号証及び甲第B4号証には、甲第B2号証の「試験等結果報告書」のような資料は添付されておらず、特に、どのような「線速度」ないし「流量」の条件下で測定されたものかは不明である。
さらに、甲第B5号証には、「ターレンVA-79 流速:2.0mL」との記載はあるものの、この記載のみから流量を「2.0mL/min」で行ったとは断定できない。
加えて、甲第B3号証の記載からは、分析対象とした「ターレンVA-79」のロット番号等の情報は不明である。
そうすると、これらの点を根拠にして、甲第B3号証から同第B5号証の記載内容からは、「流量の違いが揮発最大ピーク値の検出温度に影響を及ぼすか否か」は不明であるという、上記a.(a)の主張は、十分是認できるものといえる。

(b)次に、上記a.(b)の主張に関し、乙第1号証の内容について検討するに、上記b.(b)の「分析装置」、及び(c)の「測定条件」は、後者に「[4]評価キャリアガス流量:1mL/minおよび2mL/min」の条件が付加されている点を除けば、本件明細書等の【0030】及び【0050】に記載されている装置、条件と一致するものである。
そして、上記b.(d)?(f)のとおり、乙第1号証の記載では、分析対象試料である「ターレンVA-79(Lot.9103046)共栄社化学株式会社」に対して、上記「分析装置」及び上記「測定条件」の下で分析した結果は、流量を「1.0mL/min」とした場合と、「2.0mL/min」とした場合とで、「450℃から480℃」の温度範囲内のほぼ同じ「揮発最大ピーク値の検出温度」を示している。
そうすると、「流量1.0mL/minの条件下で熱分解ガスクロマトグラフ質量分析を行った場合、その揮発最大ピーク値の検出温度は459℃となり、本件特許の請求項1に規定する『450℃から480℃』内にあることが分かります。また、流量2.0mL/minの条件下で熱分解ガスクロマトグラフ質量分析を行った場合、その揮発最大ピーク値の検出温度は461℃となり、『450℃から480℃』内にあることが分かります。また両者の差は2℃程度であり、ほぼ差」がないという、上記a.(b)の主張も、十分是認できるものといえる。

(c)さらに、本件明細書等の【0030】及び【0050】に記載される「熱分解装置:マルチショットパイロライザー EGA/PY-3030D(フロンティア・ラボ社製)」の取扱説明書である乙第2号証によれば、発生ガス分析用のキャピラリ-チューブの長さは「2.5m」であるため(5.2発生ガス分析(EGA)による分析例(5-3頁)参照)、当該キャピラリ-チューブ内を流れるキャリアガスの移動時間は、流量が1mL/minの場合と2mL/minの場合とで高々約0.8秒の差しかなく、上記流量の差が揮発最大ピーク値の検出温度の結果にほぼ影響を及ぼすものではないという、上記a.(c)の主張も、十分是認できるものといえる。

(d)以上のとおり、特許権者が、令和2年 1月20日に提出した意見書においてした「5(3)ア 特定事項Aについて」に係る上記a.(a)?(c)の各主張は、いずれも十分是認できるものであるから、揮発物質が分析装置内を流れる流速が特定されていなくても、「ターレンVA-79」の熱分解ガスクロマトグラフ質量分析を行って得た「揮発最大ピーク値の検出温度」の値を一義的に定めることはできるといえる。

(e)したがって、本件発明1の特定事項Aの「熱分解ガスクロマトグラフ質量分析法(加熱炉昇温速度:20℃/分)による揮発最大ピーク値の検出温度が450℃から480℃であ」るとの特定については、揮発物質が分析装置内を流れる流速が特定されていなくても、その「揮発最大ピーク値の検出温度」について、明確に把握できるものである。

(イ)特定事項B(「前記チクソ剤(D-1)は、ターレンVA-79(共栄社化学(株)製)である」点)について
a.特許権者は、令和2年 3月23日に提出した上申書において、
(i)ターレンVA-79のみならず、ターレンVA-79を使用した組成物については、各種法令に則り、化学物質の物理化学的性質や危険性・有害性及び取扱いに関する情報を記載した文書である「安全データシート(Safety Data Sheet:SDS)」(乙第10号証)が作成・提供されていること、
(ii)フラックス組成物、ソルダ-ペーストといった電子部品材料に関しては、IEC規格、UL規格、EN規格等の国際または国家規格が存在するとともに、各国における材料に対する法令規制の存在、及び個々の団体規格における材料開示の規定の存在等に対応するため、必要に応じて使用する電子材料の成分等の情報を提供する必要があること、
(iii)ソルダーペーストの一部の材料変更は、取引慣行上、納入先の顧客との間で締結される品質保証契約の変更として、顧客への告知と承認を求めるのが通例であること、
(iv)実際に、ターレンはその性質によって多くの製品名(型番)があり(乙第14号証)、「組成や構造に改良が加えられ、他の組成や構造のものに変わった」場合には、製品名・型番が変更されるものと理解できること、
を根拠として、特定事項Bによって本件発明1の「チクソ剤(D-1)」を明確に把握することは可能であると主張している(上記上申書第2頁第10行?第5頁下から7行)。

b.そこで、上記a.の主張について検討するに、上記a.(i)?(iv)の各事情を総合的に考慮すれば、本件発明1の特定事項Bが「ターレンVA-79(共栄社化学(株)製)」という商品名を用いて特定しているものではあるが、本件発明1の「チクソ剤(D-1)」の組成や構造等を明確に把握することはできるし、その技術的範囲が変動する可能性は極めて低いといえる。

(ウ)取消理由1についての結語
上記(ア)c.(e)、及び上記(イ)b.のとおり、本件発明1及び請求項1を引用する本件発明2?6は、明確であるから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

イ 取消理由2(実施可能要件)について
(ア)上記ア(ウ)のとおり、本件発明1及び請求項1を引用する本件発明2?6は、発明特定事項である「前記チクソ剤(D-1)は、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析法(加熱炉昇温速度:20℃/分)による揮発最大ピーク値の検出温度が450℃から480℃であ」ることと、「前記チクソ剤(D-1)は、ターレンVA-79(共栄社化学(株)製)である」ことの意味するところを明確に把握できるものといえることから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載、及び出願時の技術常識を参照することにより、本件発明1?6を実施することは可能である。

(イ)したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1?6について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものであるから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

(2)取消理由としなかった異議申立理由について
ア 申立理由1(甲第A1号証を主引用例としたもの)について
(ア)本件発明1について
a.本件発明1と甲A1発明との対比
(a)本件発明1と甲A1発明とを対比すると、甲A1発明の「ロジン系樹脂A」、「ロジン系樹脂B」は、本件発明1の「(A)ロジン系樹脂」に相当し、以下、同様に、甲A1発明の「溶剤A」は、本件発明1の「(B)溶剤」に相当し、甲A1発明の「有機酸A」及び「有機酸B」は、本件発明1の「(C)活性剤」に相当し、甲A1発明の「第2ビヒクル」は、本件発明1の「フラックス組成物」に相当する。

(b)また、本件発明1の「チクソ剤(D)」と甲A1発明の「チクソ剤A(高級脂肪酸ポリアマイド、商品名「ターレンATX-1146」、共栄社化学社製)」とは、脂肪酸ポリアマイド構造を有するチクソ剤である点で一致する。

(c)そうすると、本件発明1と甲A1発明とは、次の点で一致する。
<一致点1>
「(A)ロジン系樹脂と、(B)溶剤と、(C)活性剤と、(D)チクソ剤とを含み、
前記チクソ剤(D)は、脂肪酸ポリアマイド構造を有するチクソ剤を含むフラックス組成物。」

(d)一方で、本件発明1と甲A1発明とは、次の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1の「チクソ剤(D)」が、「脂肪酸が炭素数12から22の長鎖アルキル基を有するもの」であって、かつ「熱分解ガスクロマトグラフ質量分析法(加熱炉昇温速度:20℃/分)による揮発最大ピーク値の検出温度が450℃から480℃であ」り、しかも、「ターレンVA-79(共栄社化学(株)製)である」のに対して、甲A1発明の「チクソ剤」は、「高級脂肪酸ポリアマイド、商品名『ターレンATX-1146』、共栄社化学社製)」である点

b.相違点についての判断
そこで、上記相違点1について検討する。
(a)甲第A2号証の上記5(2)の記載、及び甲第A3号証の上記5(3)ウの記載からすると、「ターレンVA-79(共栄社化学(株)製)」は、本件特許に係る出願の優先権主張の日前に既に周知のチクソ剤であったとはいえる。

(b)事案に鑑み、本件発明1の奏する効果が、甲A1発明、及び甲第A2号証、甲第A3号証に記載された上記(a)の周知事項から予測可能なものか否かについて、以下検討する。

i.本件明細書等の【0027】、【表1】、【図2】の記載(上記4(4)、(6)、(8)参照)等を参照すれば、本件発明1に係る「フラックス組成物」が「チクソ剤」として、「脂肪酸が炭素数12から22の長鎖アルキル基を有するもの」であって、かつ「熱分解ガスクロマトグラフ質量分析法(加熱炉昇温速度:20℃/分)による揮発最大ピーク値の検出温度が450℃から480℃であ」り、しかも、「ターレンVA-79(共栄社化学(株)製)である」ものを採用して含有することにより、「活性剤の配合量を減量させることなくフラックス残渣の絶縁抵抗の低下を抑制することができる」との効果を奏するといえる。

ii.一方で、甲A1発明の奏する効果については、甲第A1号証の【0005】、【0038】、【0039】、【表1】及び【0041】の記載(上記5(1)ア(イ)、(オ)、(カ)、(キ)参照)からして、はんだ組成物の「保存安定性」と、「ぬれ性」、「加熱時のだれ性」、「QFNボイド」、及び「ピン間ボール」から評価される「はんだ付け性」のみが問題とされており、フラックス残渣の絶縁抵抗の低下を抑制できるか否かは考慮されていない。

iii.同様に、上記5(2)、(3)のとおり、甲第A2号証、甲第A3号証には、はんだ付け性や耐熱性の観点から「ターレンVA-79」をチクソ剤として使用することについての記載はあるものの、フラックス残渣の絶縁抵抗の低下を抑制できることについての記載は見当たらない。

iv.また、甲第10の1?3号証の記載(上記5(7)ア?ウ)を参照しても、フラックス残渣の絶縁抵抗の低下を抑制できることについての記載は見当たらない。

v.上記i.?iv.からすると、本件発明1の「活性剤の配合量を減量させることなくフラックス残渣の絶縁抵抗の低下を抑制することができる」との効果は、甲A1発明、及び甲A2号証、甲第A3号証に記載された上記(a)の周知事項、並びに甲第A10の1?3号証に記載された事項から予測可能なものとはいえず、顕著な効果であるといえる。

(c)したがって、本件発明1は、甲A1発明、及び甲第A2号証、甲第A3号証に記載された周知事項、並びに甲第A10の1?3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)本件発明2?6について
本件発明2?6は、本件発明1に対してさらに技術的事項を追加したものであるから、上記(ア)に示した理由と同様の理由により、甲A1発明、及び甲第A2号証、甲第A3号証に記載された周知事項、並びに甲第A10の1?3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ)小括
よって、本件発明1?6は、甲A1発明、及び甲第A2号証、甲第A3号証に記載された周知事項、並びに甲第A10の1?3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。

イ 申立理由2(甲第A4号証を主引用例としたもの)について
(ア)本件発明1について
a.本件発明1と甲A4発明との対比
(a)本件発明1と甲A4発明とを対比すると、甲A4発明の「ロジン系樹脂A」、「ロジン系樹脂B」は、本件発明1の「(A)ロジン系樹脂」に相当し、以下、同様に、甲A4発明の「溶剤」は、本件発明1の「(B)溶剤」に相当し、甲A4発明の「活性剤」は、本件発明1の「(C)活性剤」に相当し、甲A4発明の「フラックス」は、本件発明1の「フラックス組成物」に相当する。

(b)また、本件発明1の「チクソ剤(D)」と甲A4発明の「チクソ剤[脂肪酸アマイド(脂肪酸アミド)、商品名「スリパックスH」、日本化成社製]」とは、脂肪酸ポリアマイド構造を有するチクソ剤である点で一致する。

(c)そうすると、本件発明1と甲A4発明とは、次の点で一致する。
<一致点2>
「(A)ロジン系樹脂と、(B)溶剤と、(C)活性剤と、(D)チクソ剤とを含み、
前記チクソ剤(D)は、脂肪酸ポリアマイド構造を有するチクソ剤を含むフラックス組成物。」

(d)一方で、本件発明1と甲A4発明とは、次の点で相違する。
<相違点2>
本件発明1の「チクソ剤(D)」が、「脂肪酸が炭素数12から22の長鎖アルキル基を有するもの」であって、かつ「熱分解ガスクロマトグラフ質量分析法(加熱炉昇温速度:20℃/分)による揮発最大ピーク値の検出温度が450℃から480℃であ」り、しかも、「ターレンVA-79(共栄社化学(株)製)である」のに対して、甲A4発明の「チクソ剤」は、「脂肪酸アマイド(脂肪酸アミド)、商品名「スリパックスH」、日本化成社製」である点

b.相違点についての判断
そこで、上記相違点2について検討する。
(a)甲A4発明の奏する効果については、甲第A4号証の【0006】、【0036】、【表1】、及び【0038】の記載(上記5(4)ア(イ)、(オ)、(カ)、(キ)参照)からして、はんだ組成物の「はんだぬれ性」とはんだ付け部分での腐食の抑制のみが問題とされており、フラックス残渣の絶縁抵抗の低下を抑制できるか否かは考慮されていない。

(b)そして、その余の点については、上記ア(ア)b.(a)、(b)と同様であるから、本件発明1の「活性剤の配合量を減量させることなくフラックス残渣の絶縁抵抗の低下を抑制することができる」との効果は、甲A4発明、及び甲A2号証、甲第A3号証に記載された周知事項、並びに甲第A10の1?3号証に記載された事項から予測可能なものとはいえず、顕著な効果であるといえる。

(c)したがって、本件発明1は、甲A4発明、及び甲第A2号証、甲第A3号証に記載された周知事項、並びに甲第A10の1?3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)本件発明2?6について
本件発明2?6は、本件発明1に対してさらに技術的事項を追加したものであるから、上記(ア)に示した理由と同様の理由により、甲A4発明、及び甲第A2号証、甲第A3号証に記載された周知事項、並びに甲第A10の1?3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ)小括
よって、本件発明1?6は、甲A4発明、及び甲第A2号証、甲第A3号証に記載された周知事項、並びに甲第A10の1?3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。

ウ 申立理由3(甲第A2号証を主引用例としたもの)について
(ア)本件発明1について
a.本件発明1と甲A2発明との対比
(a)本件発明1と甲A2発明とを対比すると、甲A2発明のチクソ剤として利用される「主成分として高級脂肪酸ポリアマイドを含む、高い耐熱性を示すターレンVA-79」は、共栄社化学(株)製のものであり、また、本件明細書等の【0050】、【0051】、及び【表2】の記載からして、当該「ターレンVA-79」は、「熱分解ガスクロマトグラフ質量分析法(加熱炉昇温速度:20℃/分)による揮発最大ピーク値の検出温度が「450℃から480℃」の範囲にあるものと認められることから、本件発明1の「脂肪酸が炭素数12から22の長鎖アルキル基を有するもの」であって、かつ「熱分解ガスクロマトグラフ質量分析法(加熱炉昇温速度:20℃/分)による揮発最大ピーク値の検出温度が450℃から480℃であ」り、しかも、「ターレンVA-79(共栄社化学(株)製)である」「チクソ剤(D)」に相当する。

(b)本件発明1の「フラックス組成物」と、甲A2発明の「鉛フリーハンダペースト」とは、はんだ付けする際に使用される材料である点で共通する。

(c)そうすると、本件発明1と甲A2発明とは、次の点で一致する。
<一致点3>
「チクソ剤を含む、はんだ付けする際に使用される材料であって、上記チクソ剤が、脂肪酸が炭素数12から22の長鎖アルキル基を有するものであって、かつ熱分解ガスクロマトグラフ質量分析法(加熱炉昇温速度:20℃/分)による揮発最大ピーク値の検出温度が450℃から480℃であり、しかも、「ターレンVA-79(共栄社化学(株)製)である材料。」

(d)一方で、本件発明1と甲A2発明とは、次の点で相違する。
<相違点3>
本件発明1は、チクソ剤に加えて、「(A)ロジン系樹脂」、「(B)溶剤」、及び「(C)活性剤」を含む「フラックス組成物」であるのに対して、甲A2発明は、「鉛フリーハンダペースト」であって、「(A)ロジン系樹脂」、「(B)溶剤」、及び「(C)活性剤」を含むものであるか否か不明な点

b.相違点についての判断
そこで、上記相違点3について検討する。
(a)甲第A1号証の【0010】、【0033】の記載(上記5(1)ア(ウ)、(エ)参照)、甲第A4号証の【0012】、【0033】、【0034】の記載(上記5(4)ア(ウ)、(エ)参照)、甲第A5号証の【0010】、【0023】、【0042】の記載(上記5(5)参照)、及び甲第A6号証の【0016】、【0019】、【0033】の記載(上記5(6)参照)からすると、フラックス組成物として、ロジン系樹脂、溶剤、活性剤、及びチクソ剤を含むものは、本件特許に係る出願の優先権主張の日前に既に周知のものであったとはいえる。

(b)事案に鑑み、本件発明1の奏する効果が、甲A2発明、及び甲第A1号証、甲第A4?6号証に記載された上記(a)の周知事項から予測可能なものか否かについて、以下検討する。

i.甲A2発明の奏する効果については、甲第A2号証の記載からして、高々「高い耐熱性を示す」ことがいえるのみで、フラックス残渣の絶縁抵抗の低下を抑制できるか否かは不明である。

ii.また、上記ア(ア)b.(b)ii、及び上記イ(ア)b.(a)のとおり、甲第A1号証、甲第A4号証の記載からは、フラックス残渣の絶縁抵抗の低下を抑制できるか否かは考慮されていないと認められる。

iii.加えて、甲第A5号証、甲第A6号証、及び甲第10の1?3号証の記載(上記5(7)ア?ウ)を参照しても、フラックス残渣の絶縁抵抗の低下を抑制できることについての記載は見当たらない。

iv.上記i.?iii.からすると、本件発明1の「活性剤の配合量を減量させることなくフラックス残渣の絶縁抵抗の低下を抑制することができる」との効果は、甲A2発明、及び甲第A1号証、甲第A4?6号証に記載された上記(a)の周知事項、並びに甲第A10の1?3号証に記載された事項から予測可能なものとはいえず、顕著な効果であるといえる。

(c)したがって、本件発明1は、甲A2発明、及び甲第A1号証、甲第A4?6号証に記載された周知事項、並びに甲第A10の1?3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)本件発明2?6について
本件発明2?6は、本件発明1に対してさらに技術的事項を追加したものであるから、上記(ア)に示した理由と同様の理由により、甲A2発明、及び甲第A1号証、甲第A4?6号証に記載された周知事項、並びに甲第A10の1?3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ)小括
よって、本件発明1?6は、甲A2発明、及び甲第A1号証、甲第A4?6号証に記載された周知事項、並びに甲第A10の1?3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。

エ なお、甲第A7号証、甲第A8号証の1?6、甲第A9号証、甲第A11号証、及び甲第A12号証のいずれを参照しても、本件発明1?6の進歩性を否定し得る記載事項は見当たらない。

7 むすび
以上のとおりであるから、当審の取消理由及び異議申立理由によっては、本件請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-04-08 
出願番号 特願2016-170341(P2016-170341)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (B23K)
P 1 651・ 121- Y (B23K)
P 1 651・ 536- Y (B23K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 神野 将志  
特許庁審判長 中澤 登
特許庁審判官 粟野 正明
土屋 知久
登録日 2018-12-07 
登録番号 特許第6444953号(P6444953)
権利者 株式会社タムラ製作所
発明の名称 フラックス組成物およびソルダペースト  
代理人 太田 洋子  
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