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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E04F
管理番号 1362006
審判番号 不服2019-2373  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-21 
確定日 2020-04-30 
事件の表示 特願2016- 95332「基材の表面仕上げ方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月 4日出願公開、特開2016-138448〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年3月3日に出願した特願2011-46655号の一部を平成28年5月11日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年 5月18日付け :拒絶理由通知書
(平成29年 5月23日発送)
平成29年 6月20日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年11月22日付け :拒絶理由通知書
(平成29年11月28日発送)
平成30年 1月11日 :意見書の提出
平成30年 5月23日付け :拒絶理由通知書
(平成30年 5月29日発送)
平成30年 7月 6日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年11月19日付け :補正却下の決定(平成30年7月6日
付け手続補正書による補正を却下)、
拒絶査定
(平成30年11月27日発送)
平成31年 2月21日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 1年10月31日付け :拒絶理由通知書
(令和 1年11月 5日発送)
令和 1年12月26日 :意見書、手続補正書の提出


第2 本願発明
以下、令和1年12月26日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲、明細書及び図面に基いて審理する。
本願の請求項1ないし11に係る発明(以下、「本願発明1」等という。)は、上記手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
基材の表面に流動状態のセルフレベリング材を打設して前記表面に1層のみのセルフレベリング材層を形成するセルフレベリング材層形成工程と、
前記セルフレベリング材の硬化後に、前記セルフレベリング材層の表面に目地状模様の溝部を目地切りカッターで刻設する目地状模様刻設工程と、を有し、
前記目地状模様刻設工程では、前記溝部が前記基材に到達しないように前記セルフレベリング材層に前記溝部を刻設し、
前記基材は、現場にてセメント流動物が打設されて形成されている床部であることを特徴とする基材の表面仕上げ方法。

【請求項2】
基材の表面に流動状態のセルフレベリング材を打設して前記表面に1層のみのセルフレベリング材層を形成するセルフレベリング材層形成工程と、
前記セルフレベリング材の硬化後に、前記セルフレベリング材層の表面に目地状模様の溝部を目地切りカッターで刻設する目地状模様刻設工程と、を有し、
前記目地状模様刻設工程では、前記溝部が前記基材に到達しないように前記セルフレベリング材層に前記溝部を刻設し、
前記セルフレベリング材層を、模擬すべきタイル色の塗料で塗装する塗装工程を有することを特徴とする基材の表面仕上げ方法。

【請求項3】
請求項2に記載の基材の表面仕上げ方法であって、
前記塗装工程では、前記溝部をマスキングテープにより覆ってマスキングしつつ塗料を塗ることを特徴とする基材の表面仕上げ方法。

【請求項4】
請求項2に記載の基材の表面仕上げ方法であって、
前記塗装工程では、前記溝部をマスキングしつつ塗料を塗り、
前記マスキングは、前記溝部にプレート部材を差し込むことでなされることを特徴とする基材の表面仕上げ方法。

【請求項5】
基材の表面に流動状態のセルフレベリング材を打設して前記表面に1層のみのセルフレベリング材層を形成するセルフレベリング材層形成工程と、
前記セルフレベリング材の硬化後に、前記セルフレベリング材層の表面に目地状模様の溝部を目地切りカッターで刻設する目地状模様刻設工程と、を有し、
前記目地状模様刻設工程では、前記溝部が前記基材に到達しないように前記セルフレベリング材層に前記溝部を刻設し、
前記セルフレベリング材を前記基材の表面に打設する前に、前記セルフレベリング材は、模擬すべきタイル色に予め着色されていることを特徴とする基材の表面仕上げ方法。

【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の基材の表面仕上げ方法であって、
前記セルフレベリング材を前記基材の表面に打設する前に、前記表面に、前記基材と前記セルフレベリング材との接着性を増進する表面処理を施す表面処理工程を有することを特徴とする基材の表面仕上げ方法。

【請求項7】
請求項6に記載の基材の表面仕上げ方法であって、
前記表面処理工程では、前記表面処理として、前記基材の表面にセルフレベリング材用プライマーを塗布することを特徴とする基材の表面仕上げ方法。

【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の基材の表面仕上げ方法であって、
前記目地状模様は、格子状模様であることを特徴とする基材の表面仕上げ方法。

【請求項9】
請求項1乃至7のいずれかに記載の基材の表面仕上げ方法であって、
前記目地状模様は、格子状模様を除く多角形又は円形であることを特徴とする基材の表面仕上げ方法。

【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の基材の表面仕上げ方法であって、
前記セルフレベリング材が硬化してなるセルフレベリング材層の表面に、表面含浸材又はクリヤ塗料を塗布することを特徴とする基材の表面仕上げ方法。

【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかに記載の基材の表面仕上げ方法であって、
前記溝部に目地材を充填する充填工程を有し、
前記充填工程では、前記セルフレベリング材層のタイル相当部分よりも前記目地材がへこんで、前記溝部の縁部が前記目地材でおおわれないように、前記目地材の充填がなされることを特徴とする基材の表面仕上げ方法。」


第3 当審拒絶理由の概要
当審が通知した拒絶理由の概要は、整理すると以下のとおりである。

1 明確性
令和1年12月26日付け手続補正書による補正前(平成31年2月21日付け手続補正書による補正後)の本願請求項3ないし4,及び6ないし11に係る発明は、明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2 進歩性
令和1年12月26日付け手続補正書による補正前(平成31年2月21日付け手続補正書による補正後)の本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

請求項1ないし2及び5; 引用文献1及び引用文献2
請求項3及び4; 引用文献1ないし3
請求項6ないし9; 引用文献1ないし4
請求項10; 引用文献1ないし6
請求項11; 引用文献1ないし7

<引用文献等一覧>
・引用文献1 特開平8-216126号公報
・引用文献2 特開2004-181736号公報
・引用文献3 特開平10-99776号公報
・引用文献4 特開平5-148988号公報
・引用文献5 特開昭61-137947号公報
・引用文献6 特開平7-3975号公報
・引用文献7 実願平1-110185号(実開平3-50144号)の
マイクロフィルム
・参考文献 特開平7-172895号公報


第4 引用文献の記載事項、引用文献に記載された発明
事案に鑑み、当審による拒絶の理由で引用した引用文献1、引用文献2、、引用文献4、引用文献5、引用文献7、及び参考文献の記載を確認する。

1 引用文献1
(1)記載事項
引用文献1(特開平8-216126号公報)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審決で付した。以下、同様。)。

ア 明細書
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、土木、建築等の分野の擁壁や建築物の壁材、床材等として好適に使用される凹凸模様を有するコンクリート板の製法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年環境との調和、景観、美観等を高めるために、擁壁、壁、床、天井等に動植物模様や幾何学的模様等の凹凸模様を有するコンクリート板を用いて装飾した構築物が増えつつある。また装飾コンクリート構築物の施工にあたっては、施工方法の合理化に伴って予め工場で製作された凹凸模様を有するコンクリート板を使用して現場施工する方法が多く採用されている。従来、凹凸模様を有するコンクリート板は、型枠にコンクリート材料を打設した後、凸部をコテで軽く押さえてほぼ平坦にし、表面にブリージング水がなくなるまで放置した後左官がコンクリート押さえをし、養生、硬化後にあるいは一度コンクリート板を製造した後に再度型枠を組み、表面を左官がモルタル仕上げした後、エンボス型枠をセットして養生し、脱型する方法で製造されている。
【0003】しかしながら、この方法は熟練した左官職人を必要とする、大量生産においては職人の確保等に問題がある、品質ムラを避けることが困難である、製造に長時間要する等の難点がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上述した問題点を解消できる凹凸模様を有するコンクリート板の製法を提供することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、型枠にコンクリート材料を打設し、表面にブリージング水がなくなるまで放置した後、セルフレベリング材をコンクリート打設面に流し込み、セルフレベリング材の硬化前に、凹凸模様形成用型枠で流し込み面を型押してセルフレベリング材を硬化させ、脱型することを特徴とする凹凸模様を有するコンクリート板の製法に関する。
【0006】また本発明は、型枠にコンクリート材料を打設し、表面にブリージング水がなくなるまで放置した後、100?300mmのフロー値を有するセメント系セルフレベリング材をコンクリート打設面に流し込み、セルフレベリング材の硬化前に、凹凸模様形成用型枠で流し込み面を型押してセルフレベリング材を硬化させ、脱型することを特徴とする凹凸模様を有するコンクリート板の製法に関する。
【0007】型枠にコンクリート材料を打設し、表面にブリージング水がなくなるまで放置した後、100?300mmのフロー値を有するセメント系セルフレベリング材をコンクリート打設面に流し込み、セルフレベリング材の硬化前に、流し込み面に模様形成材料を付着させ、凹凸模様形成用型枠で流し込み面を型押してセルフレベリング材を硬化させ、脱型することを特徴とする凹凸模様を有するコンクリート板の製法に関する。
【0008】本発明の凹凸模様を有するコンクリート板の製法を図を参照して詳細に説明する。
【0009】図1は、本発明の凹凸模様を有するコンクリート板の製造工程を説明するための概略工程の断面図で、図2は、本発明の凹凸模様を有するコンクリート板の1例を示す斜視図である。
【0010】型枠1にコンクリート材料2を打設する(図1a)。型枠1の材質は金属、木、合成樹脂等特に制限されない。コンクリート材料2は一般にはセメント、粗骨材、細骨材等を水と混合したものが使用される。打設後、表面にブリージング水がなくなるまで放置する。
【0011】次いでセルフレベリング材3をコンクリート打設面に流し込む(図1b)。本発明においては、従来のように打設したコンクリートの左官によるコンクリート押さえ作業や硬化、養生作業を行う必要はなく、打設面のブリージング水がなくなり次第、従来の左官によるモルタル仕上げに代えてセルフレベリング材3をコンクリート打設面に流し込むだけでよいので、省力化、工程時間の短縮等をはかることができ、品質の安定した製品の製造が可能になる
またセルフレベリング材3を流し込むとき着色剤を含むセルフレベリング材をを使用すると、少ない着色剤の使用量でカラフルな凹凸模様を有するコンクリート板を製造することができる。
【0012】セルフレベリング材3は、100?300mmのフロー値、好ましくは150?250mmのフロー値を有するものが好適に使用される。なおフロー値は、日本建築学会規格JASS15Mー103「セルフレベリング材の品質基準」に記載の方法により測定される値を意味する。フロー値が100よりも小さいとセルフレベリング材3の層を形成させるときの面精度が悪くなり、また300よりも大きいとセルフレベリング材3の流動性が増大し作業性、平滑性はよくなるが水の量が多くなるため強度低下や水浮き等が生じるので適当ではない。
【0013】セルフレベリング材3の層の厚みは、下地コンクリートの不陸精度によっても若干異なるが、4?25mm、好ましくは6?20mmが好適である。
【0014】セルフレベリング材3としては、それ自体公知のセメント系セルフレベリング材、セラミック系セルフレベリング材、石膏系セルフレベリング材等が使用されるが、機械的強度、下地コンクリートとの接着性等の面でセメント系セルフレベリング材が好適に使用される。セメント系セルフレベリング材は、一般にセメント、砂、水を主成分とし、混和材や流動化剤、増粘剤、消泡剤、収縮低減剤等の混和剤が適宜添加混合されている。
【0015】セルフレベリング材3をコンクリート打設面に流し込んだ後、セルフレベリング材3の硬化前に、凹凸模様形成用型枠4で流し込み面を型押してセルフレベリング材3を硬化させる(図1c)。セルフレベリング材3の硬化前に、流し込み面に大理石、御影石、黒曜石、花崗岩等の天然石や着色人口石の粉粒状物等の模様形成材料をふりかけたりで付着させ、凹凸模様形成用型枠4で流し込み面を型押してセルフレベリング材3を硬化させると、装飾された商品価値の高い凹凸模様を有するコンクリート板を安価に効率よく製造することができる。セルフレベリング材3の硬化は、大気中に放置して気中養生で硬化させても、気中養生と蒸気養生を行って硬化させてもよい。図1及び2には凹凸模様形成用型枠4として、格子状の型枠を用い、格子模様を形成させた例を示したが、型枠の形状は特に制限されず、形成させる模様も動植物模様、幾何学的模様、抽象的模様等特に制限されない。
【0016】セルフレベリング材を硬化させた後、型枠1及び凹凸模様形成用型枠4の脱型(図1d)を行うと、凹凸模様5を有するコンクリート板が得られる。」

イ 図面の記載
図1及び図2には、それぞれ次の図示がある。


上記図1及び図2より、セルフレベリング材3は1層のみである様子、及び、形成される凹凸模様5の凹部は、コンクリート材料2まで到達しない様子が、看て取れる。

(2)記載された発明
上記(1)より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「建築物の壁材、床材等として好適に使用される凹凸模様5を有するコンクリート板の製法であって、
製造工程として、
型枠1にコンクリート材料2を打設する工程、
表面にブリージング水がなくなるまで放置したコンクリート材料2のコンクリート打設面に、従来の左官によるモルタル仕上げに代えて流し込むだけでよい、セルフレベリング材3を流し込む工程、
セルフレベリング材3の硬化前に、凹凸模様形成用型枠4で流し込み面を型押してセルフレベリング材3を硬化させる工程、
セルフレベリング材を硬化させた後、凹凸模様形成用型枠4の脱型を行う工程、
を有し、
従来、コンクリート板の表面を左官がモルタル仕上げした後、エンボス型枠をセットして、脱型する製造方法に比較して、熟練した左官職人を必要とせず、品質の安定した製造が可能であり、
セルフレベリング材3は1層のみであり、形成される凹凸模様5の凹部は、コンクリート材料2まで到達せず、
セルフレベリング材3を流し込むとき着色剤を含むセルフレベリング材3を使用することで、少ない着色剤の使用量でカラフルな凹凸模様5としてもよく、
形成させる凹凸模様5は、格子模様とする、
凹凸模様5を有するコンクリート板の製法。」

2 引用文献2
(1)記載事項
引用文献2(特開2004-181736号公報)には、図面とともに以下の記載がある。

ア 明細書
(ア)発明の属する技術分野、従来の技術、解決しようとする課題
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、表面が打ち放し仕上げ調になっているプレキャストコンクリート板(以下、PC板と称する)を製造するための方法及びそれに用いる型材に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば鉄筋コンクリート造の建物の外装及び内装仕上げの際、デザイン上の要望等により、内外の壁部などをコンクリート打ち放し仕上げにする場合がある。このような場合、従来では、施工現場で配筋して型枠を組み、このとき型枠内に棒状部材を取り付けて化粧目地が形成されるようにし、その後コンクリートを打設してコンクリートが所定の強度に達してから脱型し、コンクリート体表面に残っている型枠組立用のプラスチックコーンの跡の窪み内に突出しているセパレータの端部に錆が発生するのを防止するため、窪み内に防水モルタル等を埋め、コンクリート打ち放し仕上げとしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら上述した従来のコンクリート打ち放し仕上げ方法によると、施工現場においてコンクリート体の構築を行なうため、コンクリート体にじゃんかや巣などが発生しやすく、コンクリート打ち放し仕上げの美観を損ねてしまう虞がある。これを防ぐには施工計画を綿密に行い、細心の注意を払って施工を行なう必要があり、このため施工に手間がかかるので工期が長くなり、また工期の長期化に伴いコストが上昇してしまうという問題を生じる。さらに、型枠内に棒状部材を取り付けて化粧目地が形成されるようにする従来の方法によると、型材となる棒状部材の取り付けが面倒であり、コストが高くならざるを得ない等の問題点も有している。
【0004】
また、コンクリート体表面に形成されている窪み内を防水モルタルで埋める防錆処理の作業が必要であるため、施工コストが高くなってしまうという問題点も有している。上述したのと同種の問題は、PC板のみならず、モルタル板、窯業板、グラスファイバーレインフォースドコンクリート(本明細書中においてはGRCと称することがある)板において打ち放し仕上げ調表面を得ようとする場合にも生じている。
【0005】
本発明の目的は、従来技術における上述の問題点を解決することができる打ち放し仕上げ調面を有するプレキャストコンクリート板の製造方法及びそれに用いる型材を提供することにある。」

(イ)実施形態の一例
「【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態の一例につき詳細に説明する。
【0014】
図1は本発明の方法により外側表面が打ち放し仕上げ調面となるように製造されたPC板の一例を示す斜視図である。PC板1のコンクリート本体2の外側表面2Aには、コンクリートパネルによる打ち継ぎ跡を模した4本の溝21?24が化粧目地として形成されていると共に、木コン跡を模した複数のへこみ部25が形成されており、これにより外側表面2Aがコンクリート打ち放し仕上げ調面を呈している。
【0015】
本実施の形態では、4本の溝21?24は、コンクリート本体2の外側表面2Aを4つの小さい四角形領域に分別しており、複数の凹部25はコンクリート本体2の四等分された外側表面2Aにそれぞれ9個ずつ、合計36個形成されている。
【0016】
次に、図1に示したPC板1の製造方法の一実施形態について説明する。
【0017】
先ず最初に、図2に示されるように、PC板製造工場内等において、鋼板等から成り水平状態に設けられている基台A上に側面型枠3を設置する。側面型枠3は、4つの型枠部材31?34を図示の如く連結して中空型枠に組み立てたもので、型枠部材31?34のそれぞれは、リブ状の鋼板によって補強されている。型枠部材31に設けられている2組の孔35、35、及び36、36は、後の工程で吊り金具の端部を挿入するためのものである。なお、本実施の形態では鋼板により構成されている側面型枠3が用いられているが、これに限定されることなく、ベニヤ板等を用いて構成された型枠等を用いることもできる。側面型枠3の設置後、側面型枠3の内側であって基台Aの表面上にマット状型材4を敷設する。マット状型材4はコンクリート打ち放し仕上げ調面を形成するための型材である。
【0018】
図3は、マット状型材4の断面を示すもので、マット状型材4は鋼板を加工して、溝21に対応する凸条41を目地型として一体に形成したマット状の部材であり、マット状型材4の表面4Aには図1の凹部25に対応する多数のコーン型材5が接着、ねじ止め等の適宜の手段によりしっかりと取り付けられている。コーン型材5もまた、コンクリート打ち放し仕上げ調面を形成するための型材である。図3では、凸条41のみしか示されていないが、他の凸条42?44も凸条41と同様にしてマット状型材4に一体に形成されている。」

(ウ)他の実施の形態
【0029】
図7は、本発明の他の実施の形態を説明するための工程図である。図7に示した実施の形態は、コンクリート本体2の外側表面2Aを削切してコンクリート打ち放し仕上げ調面にしようとするものである。先ず、図7の(A)に示されるように、外側表面2Aが平坦となっているコンクリート本体2を用意する。次に、外側表面2Aに転写シートSHを貼り付ける(図7の(B))。転写シートSHは、外側表面2Aに施すべき切削加工のため加工位置を示す位置決めマーク、例えば加工形状の輪郭線その他適宜のマーク等、を印刷してあるもので、その転写シートSHの転写面を外側表面2Aに密着させて所要の転写を行い、コンクリート本体2の外側表面2Aに位置決めマークを転写した状態とする(図7の(C))。
【0030】
しかる後、ドリル等の電動工具類を用い、又は水あるいは砂等の細粒物の噴射によりコンクリート本体2の外側表面2Aを転写された位置決めマークに従って切削し、溝41と凹部25とを形成する。この結果、コンクリート本体2の外側表面2Aを、図1に示されるのと同様のコンクリート打ち放し仕上げ調面とすることができる。」

(エ)別の実施の形態
「【0034】
図8は、本発明の別の実施の形態を示す工程図である。図8に示した実施の形態では、先ずコンクリート本体2を用意し(図8の(A))、次にコンクリート本体2の外側表面2Aの上に比較的薄い厚さの上部層100を形成する(図8の(B))。上部層100は、例えば、モルタルを薄く塗ることで形成するのが好ましいが、上部層100の材質はモルタルに限定されず、コンクリート、GRC、等の適宜の材料を用いることができる。上部層100としてコンクリート本体2よりも軟らかい材料を用いれば切削が簡単となる。
【0035】
そして、図8の(C)に示すように、上部層100を切削加工し、溝41及び凹部25を形成することにより、上部層100の表面100Aを打ち放し仕上げ調面とすることができる。この場合、切削の方法、及びマーキング方法については図7について説明した技術をそのまま適用できることは明かである。」

イ 図面の記載
図8には、次の図示がある。


上記ア(イ)の段落【0018】における「溝21に対応する凸条41を目地型として」との記載より、図8における溝に付された図番「41」は、「21」の誤記と認める。
図8より、上層部100は1層のみであり、上層部100に形成される溝21及び凹部25は、コンクリート本体2の外側表面2Aまで到達しない様子が、看て取れる。

(2)記載された発明
上記(1)ア(イ)の段落【0014】に記載される「へこみ部25」は、段落【0015】に記載される「凹部25」と同じであることが明らかである。
上記(1)ア(イ)の段落【0018】における「溝21に対応する凸条41を目地型として」との記載より、上記(1)ア(ウ)及び(エ)の段落【0030】及び【0035】に記載される「溝41」は、上記(1)イの図8における図番41の誤記と同様、「溝21」の誤記と認める。
上記(1)ア(イ)の「実施形態の一例」、上記(1)ア(ウ)の「他の実施の形態」、上記(1)ア(エ)の「別の実施の形態」は、いずれも溝21及び凹部25を有するコンクリート打ち放し仕上げ調面を形成するものであること、及び、上記(1)ア(エ)の「別の実施の形態」では、上記(1)ア(ウ)の「他の実施の形態」の切削の方法を適用することに着目すると、上記(1)より、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「化粧目地の溝21及び木コン跡を模した凹部25を有するコンクリート打ち放し仕上げ調面を形成する方法において、
溝21に対応する目地型としての凸条41を有し、凹部25に対応するコーン型材を取り付けた、マット状型材4を使用することにより、化粧目地の溝21及び凹部25を形成する、
あるいは、
コンクリート本体2の外側表面2Aに位置決めマークを転写し、ドリル等の電動工具類を用い、コンクリート本体2の外側表面2Aを転写された位置決めマークに従って切削し、化粧目地の溝21及び凹部25を形成する、
あるいは、
コンクリート本体2の外側表面2Aの上に、例えばモルタルを薄く塗ることで、コンクリート本体2より切削が簡単となる、比較的薄い厚さの1層のみの上部層100を形成し、位置決めマークに従ってドリル等の電動工具類を用い、上部層100を切削加工して、コンクリート本体2の外側表面2Aまで到達しない、化粧目地の溝21及び凹部25を形成する、
方法。」

3 引用文献4
引用文献4(特開平5-148988号公報)には、図面とともに以下の記載がある。
「【0002】
【従来の技術】表面をコテで均すことなく水平な床面を容易に形成できる材料として、クリンカ-石膏系又はクリンカ-石膏-スラグ系等のセルフレベリング材があり、近年その需要が増大している。このセルフレベリング材を施工する場合、新築工事における一般下地においては、接着強度と下地からの気泡を防止するために、アクリル系のプライマーを塗布することが行われている。」

4 引用文献5
引用文献5(特開昭61-137947号公報)には、図面とともに以下の記載がある。
(第1頁右欄第4行-第16行)
「(従来の技術)
従来、レンガ積み、タイル貼り等の凹凸ある幾何学模様を壁、床面等に形成する方法として、工場で製造されたレンガ、タイル、天然石等を左官方法により貼り付ける方法が採られてきた。また最近ではレンガ積み、タイル貼り等の目地模様を残して打抜いた目地枠を予め壁面、床面等に貼着し、該目地枠に囲まれた空間部分または全面に無機質湿式左官材料または有機質仕上材を塗り込み(スプレーガン施工を含む)、該材料が適当な強度を発現した後に、目地枠を取外すことにより凹凸のある幾何学模様を形成する施工方法が用いられるようになつて来ている。」

5 引用文献7
引用文献7(実願平1-110185号(実開平3-50144号)のマイクロフィルム)には、図面とともに以下の記載がある。
(明細書第1頁第13行-第16行)
「近年、新感覚のデザインの壁として、表面加工された方形状の無機質系建築用板材を壁材として使用するタイル調またはレンガ調の壁面構造が注目されている。」

6 参考文献
参考文献(特開平7-172895号公報)には、図面とともに以下の記載がある。
「【0002】
【従来の技術】従来より、建築物の床仕上げは、セメントモルタル塗りが一般的である。床のセメントモルタル塗りは、金ごてを用いて屈んだ姿勢で塗り付けていく作業であるため、大変な労力と熟練とを要するものである。特に、コンクリート打設直後の雨による叩かれ(雨だたき)の補修には、雨だたき部分の除去、コンクリート表面の粉塵の除去、下地処理、凹部の大きい部分の補修、凹部の小さい部分の補修、表面仕上げ、という各工程を経る必要がある。そして、この各工程は窮屈な姿勢での作業が多いために、近年の高齢化が進んでいる技能労働者にとっては大変な重労働である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】そこで、最近では作業を簡便して軽労働化にするために流動性を高めた床材であるセルフレベリング材(=SL材)が開発され、使用実績が増加している。・・・(後略)・・・・。」


第5 対比・判断
事案に鑑み、本願発明5について、対比・判断を行う。

1 対比
本願発明5と引用発明1とを対比する。
引用発明1における「表面にブリージング水がなくなるまで放置した」後の「コンクリート材料2」は、表面に付加される「セルフレベリング材3」により形成される「凹凸模様5」に対する基礎となる部分であるとともに、表面の「凹凸模様5」と合わせて「壁材、床材等」を構成するものであるから、本願発明5における「基材」に相当する。また、引用発明1における「コンクリート材料2のコンクリート打設面」は、本願発明5における「基材の表面」に相当する。
引用発明1における「セルフレベリング材3」は、本願発明5における「セルフレベリング材」に相当する。
引用発明1において、「コンクリート材料2のコンクリート打設面」に「流し込む」段階の「セルフレベリング材3」は、流動状態であることが明らかであるとともに、当該「セルフレベリング材3」を「流し込む」ことは、最終的には硬化して固体となる物体を流し込むことから、打設ということができる。また、引用発明1において、「セルフレベリング材3」が「1層のみ」で「凹凸模様5」を形成することを勘案すると、引用発明1における「コンクリート材料2のコンクリート打設面に、従来の左官によるモルタル仕上げに代えて流し込むだけでよい、セルフレベリング材3を流し込む工程」は、本願発明5における「基材の表面に流動状態のセルフレベリング材を打設して前記表面に1層のみのセルフレベリング材層を形成するセルフレベリング材層形成工程」に相当する。
引用発明1において、「凹凸模様5」の「凹」の部分は、本願発明5における「溝部」に相当する。また、引用発明1における「凹凸模様5」の「凹」の部分は、「凸」の部分から見て部材間の隙間のように見える部分であるから、目地状の部分と言うことができ、当該凹の部分を含む引用発明1における「凹凸模様5」は、本願発明5における「目地状模様」に相当する。そのため、引用発明1における「セルフレベリング材3の硬化前に、凹凸模様形成用型枠4で流し込み面を型押してセルフレベリング材3を硬化させる工程」及び「セルフレベリング材を硬化させた後、凹凸模様形成用型枠4の脱型を行う工程」の両工程と、本願発明5における「前記セルフレベリング材の硬化後に、前記セルフレベリング材層の表面に目地状模様の溝部を目地切りカッターで刻設する目地状模様刻設工程」とは、「前記セルフレベリング材層の表面に目地状模様を形成する工程」という点で共通する。
引用発明1において、「セルフレベリング材3の硬化前に、凹凸模様形成用型枠4で流し込み面を型押してセルフレベリング材3を硬化させる工程」及び「セルフレベリング材を硬化させた後、凹凸模様形成用型枠4の脱型を行う工程」を経て「形成される凹凸模様5の凹部」が、「コンクリート材料2まで到達」しないことと、本願発明5において、「前記目地状模様刻設工程では、前記溝部が前記基材に到達しないように前記セルフレベリング材層に前記溝部を刻設」する点とは、「前記目地状模様を形成する工程では、前記溝部が前記基材に到達しないように前記セルフレベリング材層に前記溝部を形成」する点で、共通する。
引用発明1は、「カラフルな凹凸模様5」とするために、「セルフレベリング材3を流し込むとき着色剤を含むセルフレベリング材を使用する」構成を有するところ、流し込むときに着色剤を含むセルフレベリング材を使用するということは、流し込まれるセルフレベリング材3は予め着色剤により着色されているということができるから、引用発明1における当該構成と、本願発明5における「前記セルフレベリング材を前記基材の表面に打設する前に、前記セルフレベリング材は、模擬すべきタイル色に予め着色されている」構成とは、「前記セルフレベリング材を前記基材の表面に打設する前に、前記セルフレベリング材は、予め着色されている」という点で共通する。
引用発明1における「凹凸模様5を有するコンクリート板の製法」は、形成される「凹凸模様5」に着目すれば、「コンクリート材料2」の表面の模様を仕上げる方法と言うことができるから、本願発明5における「基材の表面仕上げ方法」に相当する。

以上を整理すると、引用発明1と本願発明5とは、
「基材の表面に流動状態のセルフレベリング材を打設して前記表面に1層のみのセルフレベリング材層を形成するセルフレベリング材層形成工程と、
前記セルフレベリング材層の表面に目地状模様を形成する工程と、を有し、
前記目地状模様を形成する工程では、前記溝部が前記基材に到達しないように前記セルフレベリング材層に前記溝部を形成し、
前記セルフレベリング材を前記基材の表面に打設する前に、前記セルフレベリング材は、予め着色されている
基材の表面仕上げ方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
セルフレベリング材層の表面に目地状模様を形成する工程に関し、
本願発明5では、「前記セルフレベリング材の硬化後に、前記セルフレベリング材層の表面に目地状模様の溝部を目地切りカッターで刻設する目地状模様刻設工程」であるのに対し、
引用発明1では、セルフレベリング材3の硬化前に、凹凸模様形成用型枠4で流し込み面を型押ししており、「硬化後」に「目地切りカッター」で「溝部」を「刻設」する手法を採っていない点。

<相違点2>
予め着色されるセルフレベリング材の色に関し、
本願発明5では、「模擬すべきタイル色」と特定されているのに対し、
引用発明1では、形成する格子模様を、カラフルな凹凸模様とするものの、着色の色が「模擬すべきタイル色」とは特定されていない点。

2 判断
(1)相違点1
上記相違点1について検討する。
引用発明1において、凹凸模様5を形作る際に「凹凸模様形成用型枠4」が用いられている点は、引用文献1中で言及される「エンボス型枠」を用いた従来技術と同様であり、引用発明1における主要な改善点は、左官によるモルタル仕上げが必要な従来のモルタルに代えて、流し込むだけでよいセルフレベリング材3を用いることで、左官によるモルタル仕上げを省いた点であると解される。
なお、この理解は、引用文献1の段落【0003】における
「しかしながら、この方法は熟練した左官職人を必要とする、大量生産においては職人の確保等に問題がある、品質ムラを避けることが困難である、製造に長時間要する等の難点がある。」
との記載、及び、段落【0021】における
「【発明の効果】本発明によると、コンクリート材料打設後のコンクリート押さえ、養生、モルタル仕上げの工程をなくすことができ、また熟練した左官職人を必要とせずに短時間で品質の安定した凹凸模様を有するコンクリート板を効率よく、大量生産することができる。」
との記載において、モルタル仕上げに必要な「熟練した左官職人」を必要とすることが問題点とされ、モルタル仕上げの工程、及びモルタル仕上げに先立つコンクリート押さえ、養生といった工程をなくすことができることが効果とされていることとも、整合する。
そして、上記第4の2(2)に認定した引用発明2が、コンクリート打ち放し調面をなす化粧目地の溝21を形成するに際して、「溝21に対応する目地型としての凸条41」を形成した「マット状型材を使用する」選択肢と、「コンクリート本体2の外側表面2Aの上」に形成した「比較的薄い厚さの上部層100」を、「ドリル等の電動工具類」を用いて「切削加工」により形成する選択肢とを有するように、表面に目地状模様を形成するうえで、硬化前の材料に型材により目地状の溝を形成することに代えて、硬化後の材料の表面に目地状の溝を切削加工する手法を採ることは、周知技術である。
引用発明1において、「型枠」を用いて凹凸模様を形作する、従来技術を踏襲した工程の部分を、当該工程の周知の代案である、硬化後の材料の表面に電動工具により目地状の溝を切削する工程とし、上記相違点1に係る本願発明5における「前記セルフレベリング材の硬化後に、前記セルフレベリング材層の表面に目地状模様の溝部」を「刻設」する構成に相当する構成とすることは、当業者であれば容易に想到できた事項であり、その際に目地状の溝を形成する電動工具として、上記相違点1に係る本願発明5における「目地切りカッター」に相当する工具を選択することは、設計事項程度である。
そして、そうしたことによる効果も、引用発明1、及び、「型材」による目地状の溝の形成と「切削加工」による目地状の溝の形成という、互いに代案となる周知の手法とから、事前に予測される範囲を超えるものではない。
したがって、引用発明1において、上記相違点1に係る本願発明5の構成に至ることは、引用文献2に示される周知技術に基いて、当業者であれば容易に想到できた事項である。

(2)相違点2
上記相違点2について検討する。
引用発明1における「カラフル」な「格子模様」である「凹凸模様」の凸部は、凹部によって区分された小片が表面に配列されたような様子を呈するから、独立した小片であるタイルが表面に配列された様子を模擬するような模様と言うことができる。
また、上記第4の4に摘記した引用文献5、及び上記第4の5に摘記した引用文献7の記載にも示されるように、凹凸ある幾何学模様を付した壁面あるいは方形状の表面加工された壁材を、タイル貼りの模様あるいはタイル調のものとすることは、従来から通常行われてきた事項であることを勘案すると、引用発明1において、形成される「格子模様」である「凹凸模様」を「カラフルな」ものとする「セルフレベリング材3」の着色は、当該カラフルな色が何色であるにせよ、当該格子模様の凹凸が模擬するタイルの色と、実質的に相違しないと解される。
そのため、相違点2は、一応の相違点として検討したが、実質的な相違点でない。
また、仮に何らかの相違があったとしても、引用発明1において、「格子模様」である「カラフルな凹凸模様」を、格子の凹凸によってタイルを模擬するものとし、もって当該カラフルな凹凸模様を構成するセルフレベリング材3の色を、本願発明5における「模擬すべきタイル色」に相当するものとすることは、当業者であれば適宜になし得た設計事項程度である。
そのため、相違点2は、仮に実質的な相違点であったとしても、当業者が適宜になし得た設計事項程度である。
したがって、相違点2は、一応の相違点として検討したが、実質的な相違点でないか、仮に相違点としても設計事項程度である。

(3)小括
以上のとおり、本願発明5は、引用発明1、及び引用文献2に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 請求人の主張について
(1)平成30年1月11日付け意見書における主張について
ア 主張
請求人は、平成30年1月11日付け意見書において、引用発明1と本願発明5との上記相違点1と同様の相違点について、当業者であっても容易に想到できたものではない旨を、以下のように主張している(同意見書中第1頁「(2)意見」の第2段落2行目?第3頁第11行)。
「すなわち、引用文献1に記載された凹凸模様の形成手法、つまり、セルフレベリング材の硬化前に凹凸模様形成型枠で流し込み面を型押しする手法を、セルフレベリング材の硬化後に目地切りカッターにより模様を形成する手法に改変することが容易であるとの見解を示しております。しかしながら、かかる論理付けは、引用文献1の技術思想を無視した、引用文献1に基づく組み合わせとは決して言えない『後知恵』と思量します。
先ず、引用文献1の請求項1は、以下のようになっております。
「【請求項1】型枠にコンクリート材料を打設し、表面にブリージング水がなくなるまで放置した後、セルフレベリング材をコンクリート打設面に流し込み、セルフレベリング材の硬化前に、凹凸模様形成用型枠で流し込み面を型押してセルフレベリング材を硬化させ、脱型することを特徴とする凹凸模様を有するコンクリート板の製法。」
このように、「セルフレベリング材の硬化前に凹凸模様形成型枠で流し込み面を型押しする手法」は、請求項1(メインクレーム)に記載されたものであり、したがって、引用文献1の技術的思想において欠くことのできない手法(中核となる手順)となっております。
そして、引用文献1の目的(作用効果)については、段落【0021】に記載があります。「【発明の効果】本発明によると、コンクリート材料打設後のコンクリート押さえ、養生、モルタル仕上げの工程をなくすことができ、また熟練した左官職人を必要とせずに短時間で品質の安定した凹凸模様を有するコンクリート板を効率よく、大量生産することができる。」
また、段落【0003】には、以下の記載があります。
「しかしながら、この方法は熟練した左官職人を必要とする、大量生産においては職人の確保等に問題がある、品質ムラを避けることが困難である、製造に長時間要する等の難点がある。」
このように、引用文献1の目指す所は、凹凸模様を有するコンクリート板の製造手法を単純化して、熟練者でなくても安定品質の当該コンクリート板を作成できるようにする(延いては、熟練者を確保する必要がないので大量生産できる)ことであります。そして、かかる目的は、セルフレベリング材の導入と凹凸模様形成型枠による型押しの組み合わせで実現可能となっております。つまり、固まっていないセルフレベリング材に凹凸模様形成型枠を挿入する手法を採れば、凹凸模様形成型枠さえ熟練者にしっかりと作らせておけば、非熟練者であっても安定品質の凹凸模様を有するコンクリート板を大量に作ることができます。引用文献1の技術的思想(発想)は、正にかかる点に立脚したものであります。
そして、引用文献1を読むことにより当該引用文献1の技術的思想を理解した当業者が、「セルフレベリング材の硬化前に凹凸模様形成型枠で流し込み面を型押しする手法」を「セルフレベリング材3の硬化後に目地切りカッターにより模様を形成する手法」に改変する発想に至るとは到底思えません。このような改変行為は、引用文献1の目的に反し、引用文献1の技術的思想を完全否定するものであり、改変に際し阻害要因を有することは明らかです。
つまり、目地切りカッターにより模様を形成する手法を行うに当たっては、当然一つ一つの外装パネルに対して個別に丁寧に刻設作業を行わなければならないので、製造手法が単純化されておらず、安定品質の外装パネルを大量生産するということにはなりません。特に、請求項2や段落【0053】に記載があるように、溝部が基材に到達しないように溝部の刻設を行う場合には、細心の注意が要求され、熟練の技術が必要となります。
以上で説明したように、引用文献1と本願発明の技術的思想(目的)の方向性は全く異なるものであります。引用文献1の目的は、製造手法を単純化して、熟練者でなくても安定品質のコンクリート板を作成できるようにすることにあります。これに対し、本願発明の目地切りカッターによる刻設の狙いは、(熟練の技術は必要とするものの、)前回の意見書で説明致しました通り、エッジの効いた溝を形成することにより陰影を高める(タイル張りの質感を醸し出す)ことにあり、引用文献1では、このような効果を生じさせることはできません。
つまり、本願発明は、「セルフレベリング材の硬化後に、セルフレベリング材層の表面に目地状模様の溝部を目地切りカッターで刻設する」のであり、このことにより、以下の優位性が生じます。先ず、セルフレベリング材を用いることにより、セルフレベリング材の硬化後には、自然に平滑な平面が得られます。そして、かかる平滑な平面に対し、目地切りカッターで刻設するので、エッジの効いた溝、つまり、溝の隅部が直角で鋭くなった溝が形成されることとなります。また、セルフレベリング材は粒度の細かい骨材が使用されていることから、カッターによる目地刻設時にカッターと骨材との引っ掛かりによる角部の角欠けが生じにくく、溝部の縁部を角張らせることが可能となり、陰影を高める(タイル張りの質感を醸し出す)ことができます(段落【0041】を参照願います)。一方、引用文献1においては、セメント系材料が軟らかい状態で凹凸の形成を行うので、当該文献では、エッジの効いた溝を形成できず、陰影を高める効果は生じません。
そして、前述した通り、引用文献1の技術的思想を鑑みると、引用文献1を改変して本願発明に想到するのは阻害要因が存在します。
審査官殿のご見解、すなわち、引用文献1を主引例とし、引用文献2、3を参考にして当業者がこの主引例を改変することにより本発明に想到するのは容易であるとのご見解は、本願発明を知った上でのご判断であり、後知恵であるものと思量します。本願発明を全く知らない当業者が、引用文献1を基礎として本願発明に到達できるとは到底思えません。」

イ 検討
上記請求人の主張について検討する。
上記2(1)に指摘したとおり、引用発明1において、凹凸模様5を形作る際に「凹凸模様形成用型枠4」が用いられている点は、引用文献1中で言及される「エンボス型枠」を用いた従来技術と同様であり、引用発明1における主要な改善点は、左官によるモルタル仕上げが必要な従来のモルタルに代えて、流し込むだけでよいセルフレベリング材3を用いることで、左官によるモルタル仕上げを省いた点であると解される。この点については、請求人が上記意見書中で参照する引用文献1の段落【0003】及び段落【0021】の記載を検討しても、変更すべき事情はない。
なお、この理解は、例えば上記第4の3に摘記した引用文献4の段落【0002】に、「表面をコテで均すことなく水平な床面を容易に形成できる材料として、クリンカ-石膏系又はクリンカ-石膏-スラグ系等のセルフレベリング材があり、近年その需要が増大している。」と記載され、例えば上記第4の6に摘記した参考文献の段落【0002】-【0003】に、「従来より、建築物の床仕上げは、セメントモルタル塗りが一般的である。床のセメントモルタル塗りは、金ごてを用いて屈んだ姿勢で塗り付けていく作業であるため、大変な労力と熟練とを要するものである。特に、コンクリート打設直後の雨による叩かれ(雨だたき)の補修には、雨だたき部分の除去、コンクリート表面の粉塵の除去、下地処理、凹部の大きい部分の補修、凹部の小さい部分の補修、表面仕上げ、という各工程を経る必要がある。そして、この各工程は窮屈な姿勢での作業が多いために、近年の高齢化が進んでいる技能労働者にとっては大変な重労働である。・・・(中略)・・・そこで、最近では作業を簡便して軽労働化にするために流動性を高めた床材であるセルフレベリング材(=SL材)が開発され、使用実績が増加している。」と記載されるように、「セルフレベリング材」は、コテによる塗り付け・均しの作業を省けるという点で利点を有するものである、という技術常識とも、整合するものである。
そして、引用発明1は、セルフレベリング材を用いることにより、従来は熟練した左官が行っていたモルタル仕上げを不要とすることで、「熟練した左官職人を必要とする」という課題を解決しているから、引用発明1において、引用文献1中で言及される「エンボス型枠」を用いた従来技術と同様の手法を踏襲した、凹凸模様5を形作る際に「凹凸模様形成用型枠4」を用いている点を、当該手法の周知の代案であった、材料が硬化した後に表面を切削する、という手法に置き換えることが、引用文献1の思想を完全否定するものである旨をいう、上記請求人の主張は、妥当なものとして採用することができない。
また、引用発明1における「セルフレベリング材3」は、流し込むだけで足りるという流動特性から、コンクリートのような粗粒材料を含まないと解され、通常は引用発明2における「上層部100」と同様に、コンクリート本体より「切削が簡単」な特性を有すると予測される。
そのため、請求人が主張する上記相違点1に係る構成による効果も、引用文献1及び引用文献2にも示される互いに代案となる周知の手法から、事前に予測できる範囲を超える顕著なものということはできない。
したがって、請求人の上記主張を検討しても、上記2(1)の判断を覆すべき事情を見いだせない。

(2)令和1年12月26日付け意見書における主張について
ア 主張
また請求人は、令和1年12月26日付け意見書を提出し、引用発明1において上記相違点1に係る本願発明5の構成に至ることは、当業者といえども容易でないことを、次のように主張している(同意見書第5頁第11行-第34行)。
「ア)-1 引用文献1は、従来技術として「エンボス型枠」で「凹凸模様を有するコンクリート板」を製造する技術の「大量生産」における問題点を指摘し、その解決策として「セルフレベリング材の硬化前に、凹凸模様形成用型枠で型押し」するものであります。 引用文献1を見た当業者は、あくまで「型枠」による「型押し」を『前提』とした場合の、従来技術の「課題」と本件発明の「解決策」を対比するものであって、当該『前提』を変えて、両者を対比するものではありません。
そして、引用文献1を見た当業者は、当該『前提』を変えて、従来技術の「課題」と「カッター刻設」による本件発明の「変更策」を対比することは、いわば、当該従来技術の「課題」に、新たに「目地型枠の課題」を混在させて、本来の当該従来技術の「課題」が「埋没」してしまうものであり、想いが及ばない(容易に想到しない)ものであります。
よって、引用文献1において「凹凸模様形成用型枠で型押し」は必須要件であり、「カッター刻設」に変更することは阻害要因があります。
ア)-2 さらに、引用文献1を本願発明に変更するためには、「硬化前」を「硬化後」に変える「第一変更」と、「型枠目地」を「カッター目地」に変える「第二変更」と、「2段階の変更」を必要とするものであり、これは、当業者であっても、もはや「容易に想到」とは言えません。
ア)-3 また、引用文献1を本願発明に変更するためには、いわゆる「型枠による湿式工法」を「カッター刻設による乾式工法」に変更することであり、「職人の変更」、「工程の変更」等の変更が多岐に及び当業者の観点からの「阻害要因」が存在します。
引用文献1の「硬化前の材料に型枠により目地状の溝を形成」は湿式工法であり、「硬化後の材料の表面に目地状の溝を切削加工」は乾式工法です。両者は、仕上がり面の意匠性、施工手順・工期等の施工性が極めて異なる、相反する技術思想であり、「互いに代案」ではありません。」

イ 検討
上記「ア)-1」の請求人の主張について、検討する。
引用発明1においては、上記(1)イで指摘したとおり、セルフレベリング材を用いることにより、従来は熟練した左官が行っていたモルタル仕上げを不要とすることで、「熟練した左官職人を必要とする」という課題を解決しているから、引用文献1中で言及される従来技術と同様の手法を踏襲した、凹凸模様5を形作る際に「凹凸模様形成用型枠4」を用いている点を変更しても、当該課題の解決が妨げられたり、解決しようとした課題が前提から変わってしまうものではない。そのため、これに反する請求人の主張は失当である。
上記「ア)-2」及び「ア)-3」の請求人の主張について、検討する。
上記第4の2(2)に認定した引用発明2が、コンクリート打ち放し調面をなす化粧目地の溝21を形成するに際して、「溝21に対応する目地型としての凸条41」を形成した「マット状型材を使用する」選択肢と、「コンクリート本体2の外側表面2Aの上」に形成した「比較的薄い厚さの上部層100」を、「ドリル等の電動工具類」を用いて「切削加工」により形成する選択肢とを有するように、表面に目地状模様を形成するうえで、硬化前の材料に型材により目地状の溝を形成する手法と、硬化後の材料の表面に目地状の溝を切削加工する手法とは、互いに周知の代案としていずれも選択可能とされているものであるから、当該2つの選択肢の変更は、請求人が主張するような複数の段階の変更を重ねなければ到達し得ないものではなく、また相反する技術思想でもない。そのため、これに反する請求人の主張も、失当である。

(3)小括
以上のとおり、請求人の主張を検討しても、上記2の判断を覆すべき事情を見出すことはできない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明5は、引用発明1、及び引用文献2に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2020-02-28 
結審通知日 2020-03-03 
審決日 2020-03-16 
出願番号 特願2016-95332(P2016-95332)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (E04F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西村 隆  
特許庁審判長 小林 俊久
特許庁審判官 西田 秀彦
有家 秀郎
発明の名称 基材の表面仕上げ方法  
代理人 一色国際特許業務法人  

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