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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06Q
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06Q
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06Q
管理番号 1362116
審判番号 不服2018-8187  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-14 
確定日 2020-05-07 
事件の表示 特願2015-524406「プッシュに基づく推奨」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 1月30日国際公開、WO2014/018580、平成27年11月 5日国内公表、特表2015-531913〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)7月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年7月26日、米国)を国際出願とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 7月11日 補正書の提出
平成29年 7月 6日付 拒絶理由通知
平成29年10月 6日 意見書の提出
平成30年 2月 9日付 拒絶査定
平成30年 6月14日 審判請求書の提出
令和 1年 7月31日付 当審の拒絶理由


第2 本願発明
本願請求項1乃至20に係る発明は、平成28年7月11日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1乃至20に記載された事項により特定された発明であるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
推奨をユーザーにプッシュするための方法であって、
ユーザーに関連する誘起イベントを特定するステップと、
前記誘起イベントに対応する1または複数の提案エンティティを決定するステップであって、前記1または複数の提案エンティティは、第1提案エンティティと第2提案エンティティを含み、前記第1提案エンティティは、第1の要因に関連する第1の順位を有し、前記第2提案エンティティは、前記第1の要因に関連する第2の順位を有し、前記第1提案エンティティは、第2の要因に関連する第3の順位を有し、前記第2提案エンティティは、前記第2の要因に関連する第4の順位を有し、前記第1の順位は前記第2の順位よりも低く、前記第3の順位は前記第4の順位よりも高い、ステップと、
前記誘起イベントに関連する観察データーから得られた1または複数の制約に基づいてエンティティ選択判断基準モデルを構築するステップと、
前記エンティティ選択判断基準モデルを前記1または複数の提案エンティティに適用して、前記誘起イベントに対する推奨を作成するステップであって、前記推奨は、前記第1の順位が前記第2の順位よりも低く前記第3の順位が前記第4の順位よりも高いことに基づいて、前記第2提案エンティティではなく前記第1提案エンティティを含む、ステップと、
前記推奨を前記ユーザーに関連するデバイスにプッシュするステップと、
を含む方法。」


第3 当審が通知した拒絶理由の概要
当審が通知した拒絶理由の概要は次のとおりである。

理由1(サポート要件)
本件出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

理由2(明確性)
本件出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

理由3(新規性)
本件出願の請求項1、2、7、10、15、17、19及び20に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

理由4(進歩性)
本件出願の請求項1乃至20に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2006-185189号公報


第4 当審の判断
1 理由1(サポート要件)について
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを比較し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が優先権主張の基準日当時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲ものであるか否かを検討して判断するのが相当である。
そのため、以下で、特許請求の範囲の請求項1に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であるかを検討する。

請求項1には、
「前記誘起イベントに対応する1または複数の提案エンティティを決定するステップであって、前記1または複数の提案エンティティは、第1提案エンティティと第2提案エンティティを含み、前記第1提案エンティティは、第1の要因に関連する第1の順位を有し、前記第2提案エンティティは、前記第1の要因に関連する第2の順位を有し、前記第1提案エンティティは、第2の要因に関連する第3の順位を有し、前記第2提案エンティティは、前記第2の要因に関連する第4の順位を有し、前記第1の順位は前記第2の順位よりも低く、前記第3の順位は前記第4の順位よりも高い、ステップ」、及び、
「前記エンティティ選択判断基準モデルを前記1または複数の提案エンティティに適用して、前記誘起イベントに対する推奨を作成するステップであって、前記推奨は、前記第1の順位が前記第2の順位よりも低く前記第3の順位が前記第4の順位よりも高いことに基づいて、前記第2提案エンティティではなく前記第1提案エンティティを含む、ステップ」
が記載されている。

該記載によれば、
請求項1に係る発明の「前記誘起イベントに対応する1または複数の提案エンティティを決定するステップ」で決定された「第1の提案エンティティ」は、「第1の要因」に関連する「第1の順位」及び「第2の要因」に関連する「第3の順位」を有し、同「第2の提案エンティティ」は、「第1の要因」に関連する「第2の順位」及び「第2の要因」に関連する「第4の順位」を有する、すなわち、「第1の提案エンティティ」及び「第2の提案エンティティ」のそれぞれは「第1の要因」及び「第2の要因」のそれぞれに関連して順位付けがなされ、
同「エンティティ選択判断基準モデル」によって作成された「誘起イベントに対する推奨」は、「前記第1の順位が前記第2の順位よりも低く前記第3の順位が前記第4の順位よりも高いことに基づいて」行われる
ものであると認められる。

これに対して、本願明細書の発明の詳細な説明には、
ア 「誘起イベントに対応する1つ以上の提案エンティティ(suggested entities)を決定することができる。一例では、被観察ユーザー行動に関連する金曜日の郵便局訪問誘起イベントに応答して(例えば、ユーザーは通常金曜日の仕事後に郵便局を訪問する)、1箇所以上の郵便局を1つ以上の提案エンティティとして決定することができる。他の例では、被観察ユーザー行動に関連する通話誘起イベントに応答して(例えば、ユーザーは通常火曜日の午後彼の妹に電話する)、ユーザーが彼の妹に電話するとよい1つ以上の通話時刻(call time)を1つ以上の提案エンティティとして決定することができる。」(段落【0004】)

イ 「エンティティ選択判断基準モデルは、誘起イベントに対する推奨を作成するために、1つ以上の提案エンティティに適用することができる。一例では、都合要因(convenience factor)(例えば、ユーザーは通常、仕事場に最も近い郵便局ではなく、仕事場から自宅までの経路に沿って便利な場所にある郵便局を訪問する)、価格要因(例えば、ユーザーは特売中の切手(stamp)を購入するためには2マイルまでは遠回りしてもよい)、時間要因(例えば、ユーザーは、閉店前に第1郵便局には到達できるが、第2郵便局には到達できないかもしれない)、ユーザー趣向要因(例えば、ショッピング・プラザに近い郵便局を訪問する方を好む)、および/またはエンティティ選択判断基準モデルから得られるその他の要因というような、種々の要因に基づいて、ユーザーは1つ以上の提案エンティティを順位付けることができる。推奨は、1つ以上の提案エンティティから選択された提案エンティティを含むことができる。このように、ユーザーに関連するデバイスに推奨をプッシュすることができる。尚、一例では、ユーザーの要請なしに、推奨をプッシュできることは認めることができよう。例えば、金曜日の仕事後に切手を購入するという以前のユーザー行動に基づいて、ユーザーが明示的に郵便局を検索することなく、および/または郵便局を訪問するためのイベントまたは備忘録を設定することなく、特定の郵便局の推奨をユーザーにプッシュすることができる。」(段落【0006】)

ウ 「106において、誘起イベントに対応する1つ以上の提案エンティティを決定することができる。例えば、位置、業務(business)、時刻(人に電話するための提案時刻)、運転経路、広告、一連のイベント等を、1つ以上の提案エンティティとして決定することができる。一例では、108において、誘起イベントに関連する観察データーから得られる1つ以上の制約に基づいて、エンティティ選択判断基準モデルを構築してもよい。他の例では、既定のエンティティ選択判断基準モデルを、108において、エンティティ選択判断基準モデルとして特定してもよい(例えば、既定のエンティティ選択判断基準モデルは、オフラインでというように、経時的な1人以上のユーザーの被観察ユーザー行動に基づいて、非同期に生成することもできる)。エンティティ選択判断基準モデルの一例では、1人以上のユーザーの行動を集計して、制約を生成する(generate)のでもよい(例えば、自宅近くでアイスクリームを購入する方を好むユーザーに基づいて、自宅間距離制約を生成してもよい)。他の例では、1人以上のユーザーのユーザー趣向を集計して、制約を生成するのでもよい(例えば、特定銘柄の穀類が特売であるとき、ユーザーはその穀類を購入することを優先する、ユーザーが午前中に業務電話をかけることを優先する、マッピング・アプリケーションのユーザーは、通常、彼らの経路に沿って便利な場所にあるガソリン・スタンドよりも単に数セントしか安くないガソリンを求めて遠回りはしない等)。他の例では、実世界値に基づいて制約を生成するのでもよい(例えば、郵便局の閉店時刻に基づいて時間制約を生成してもよい、現在の交通状態に基づいて道順制約を生成してもよい、ユーザーが持っているクーポンに基づいて価格制約を生成してもよい等)。このように、エンティティ選択判断基準モデルは、天候制約、ガソリン制約、交通制約、会員制約、価格制約、クーポン制約、営業時間制約、ユーザー趣向制約、目的地距離制約、駐車場/目的地制約、時間制約、および/または被観察行動制約等のような、1つ以上の制約から構築することもできる。」(段落【0013】)

エ 「110において、エンティティ選択判断基準モデルを1つ以上の提案エンティティに適用して、誘起イベントに対する推奨を作成することができる。この推奨は、1つ以上の提案エンティティから選択した提案エンティティを含むことができる。一例では、エンティティ選択判断基準モデルから得られる種々の要因に基づいて、1つ以上の提案エンティティを順位付けしてもよい(例えば、要因は、エンティティ選択判断基準モデルを生成するために使用された1つ以上の制約に対応してもよい)。例えば、1つ以上の提案エンティティは、都合要因(例えば、ある店は、ユーザーの現在地からどの位近くにその店が位置するかではなく、ユーザーの運転経路に沿ってどの位便利に位置するかに基づいて順位付けるのでもよく、そうしないと、運転者の現在の運転経路から遠回りする結果になる場合もある)、価格要因(例えば、運転者の現在の運転経路からの遠回りを必要とするが価格が低い第1の店は、第1の店がユーザーにとって容認可能な遠回り閾値以内にある場合、価格がもっと高い第2の店よりも高く順位付けることができる)、時間要因(例えば、ユーザーが到着する時刻までに閉店するかもしれない店には、比較的低い順位を指定するとよい)、および/または種々の他の要因に基づいて、順位付けすることができる。このように、推奨を作成することができる。」(段落【0014】)

オ 「推奨コンポーネント210は、誘起イベントに対応する1つ以上の提案エンティティを決定するように構成することができる。例えば、推奨コンポーネントは、1箇所以上の郵便局(post office branches)、1箇所以上の食料品店、1箇所以上のガソリン・スタンド、および/または1組のエンティティ214内からの他の提案エンティティを選択することができる。推奨コンポーネント210は、誘起イベントに関連する観察データー208から得られる1つ以上制約に基づいて、エンティティ選択判断基準モデル220を特定する(例えば、既に構築されているエンティティ選択判断基準モデルをエンティティ選択判断基準モデル220として特定する)、および/または構築する(新たなエンティティ選択判断基準モデルをエンティティ選択判断基準モデル220として構築する)ように構成することもできる。一例では、食料品店および/または郵便局が、ユーザーが到着できる時刻までは営業していなければならないことを、時間制約が指定してもよい(例えば、位置および時刻データー206に基づいて)。他の例では、郵便局は通常食料品店よりも早く閉店するので、順序制約が、食料品店よりも前に郵便局を訪問すべきことを指定してもよい(例えば、業務終了時刻のような実世界値に基づいて)。他の例では、都合制約(convenience constraint)が、遠回りすることに無関心を表すユーザーに基づいて、郵便局が自宅までの運転経路に沿って便利に位置しなければならないことを指定してもよい(例えば、以前の被観察行動204に基づいて)。他の例では、ユーザーは溶けるのを避けるために通常自宅の近くでアイスクリームを購入するので、目的地距離制約が、食料品店はユーザーの自宅から10分以内に位置すべきことを指定してもよい(例えば、以前の被観察行動204に基づいて)。このように、観察データー208から種々の制約を得ることができ、エンティティ選択判断基準モデル220を構築するために使用することができる。」(段落【0017】)

カ 「推奨コンポーネント210は、エンティティ選択判断基準モデル220を1つ以上の提案エンティティに適用して、誘起イベントに対して推奨216を作成するように構成することができる。推奨216は、1つ以上の提案エンティティから選択された提案エンティティ(例えば、第1提案エンティティ222、第2提案エンティティ224、および/または図示しない他の提案エンティティ)を含むことができる。例えば、推奨216は、ユーザーの自宅までの運転経路に沿って便利に位置する特定の郵便局がもうすぐ閉まることを明示する第1提案エンティティ222を含んでもよい。推奨216は、郵便局が閉まる前にユーザーが切手を購入する(例えば、以前の被観察行動204から特定されるように、ユーザーが金曜日の仕事後に規則的に行う)ことができるように、郵便局にユーザーを誘導するために道順を指示することができる。推奨216は、溶けるのを避けるためにユーザーが自宅近くでアイスクリームを購入する(例えば、以前の被観察行動204から特定されるように、ユーザーが金曜日の仕事後に規則的に行う)ことができるように、特定の食料品店がユーザーの自宅近くに位置することを明示する第2提案エンティティ224を含んでもよい。推奨コンポーネント210は、プッシュ時刻(例えば、仕事が終わる1時間前)にユーザーのデバイス218に推奨216をプッシュすることができ、推奨216に従うのに適した時刻をユーザーに指示することができる。」(段落【0018】)

キ 「推奨コンポーネント310は、誘起イベントに対応する1つ以上の提案エンティティを決定するように構成することができる。例えば、推奨コンポーネントは、1組のエンティティ314内から1つ以上の食料品店(例えば、ユーザーが会員になっていない第1食料品店322、ユーザーが会員になっている第2食料品店322、および/または誘起イベントに関連があるかもしれない他の食料品店)を選択することができる。推奨コンポーネント310は、誘起イベントに関連する観察データー308から得られた1つ以上の制約に基づいて、エンティティ選択判断基準モデル320を特定する(例えば、既に構築されているエンティティ選択判断基準モデルをエンティティ選択判断基準モデル320として特定する)、および/または構築する(新たなエンティティ選択判断基準モデルをエンティティ選択判断基準モデル320として構築する)ように構成することもできる。一例では、会員制約が、第2食料品店306の割引会員になっていることを指定するのでもよく、これはソーシャル・ネットワーク・データー304から得られたのでもよい。都合制約は、食料の買い物のときはもっと安い価格を得るために5分遠回りすることを厭わないことを指定するのでもよい。このように、種々の制約を観察データー308から得ることができ、エンティティ選択判断基準モデル320を構築するために使用することができる。」(段落【0020】)

ク 「推奨コンポーネント310は、エンティティ選択判断基準モデル320を1つ以上の提案エンティティに適用して、誘起イベントに対する推奨316を作成するように構成することができる。推奨316は、1つ以上の提案エンティティから選択された提案エンティティを含むことができる。例えば、推奨316は、ユーザーが第2食料品店306の会員になっており、第2食料品店がユーザーの本来の経路(例えば、本来の経路324)から5分未満の遠回りであるので、第2食料品店306を含むことができる。推奨316は、第2食料品店306を含むことができるが、第1食料品店322を含んではならない。何故なら、ユーザーが第2食料品店306の会員になっていることに基づいて、第2食料品店306を第1食料品店322よりも相対的に高く順位付けることができるからである(例えば、第1食料品店の方が本来の経路324に沿ってもっと便利に位置するとしても)。推奨コンポーネント310は、推奨316をユーザーのデバイス318にプッシュすることができる。」(段落【0021】)

ケ 「推奨コンポーネント410は、誘起イベントに対応する1つ以上の提案エンティティを決定するように構成することができる。例えば、推奨コンポーネントは、1組のエンティティ414の中から1つ以上の提案通話時刻を選択するのでもよい。推奨コンポーネント410は、誘起イベントに関連する観察データー408から得られた1つ以上の制約に基づいて、エンティティ選択判断基準モデル420を特定する(例えば、既に構築されているエンティティ選択判断基準モデルをエンティティ選択判断基準モデル320として特定する)、および/または構築する(新たなエンティティ選択判断基準モデルをエンティティ選択判断基準モデル320として構築する)ように構成することもできる。一例では、予定立案制約(scheduling constraint)が、妹は火曜日の午後に予定されている約束があるが、火曜日の夕方は空いていることを明示するのでもよい(例えば、カレンダー402に基づいて)。このように、種々の制約を観察データー408から得ることができ、エンティティ選択判断基準モデル420を構築するために使用することができる。」(段落【0023】)

コ 「推奨コンポーネント410は、エンティティ選択判断基準モデル420を1つ以上の提案エンティティに適用して、誘起イベントに対する推奨416を作成するように構成することができる。推奨416は、1つ以上の提案エンティティから選択された提案エンティティを含むことができる。例えば、推奨416は、ユーザーの妹に連絡が取れる(available)ときにユーザーが妹に電話できるように、提案夕方通話時間406を含むのでもよい。推奨コンポーネント410は、推奨416をユーザーのデバイス418にプッシュすることができる。」(段落【0024】)

サ 「図5は、推奨504をユーザーにプッシュするように構成されたシステム500の一例を示す。システム500は、誘起イベントに基づいて推奨504をユーザーのデバイス506にプッシュするように構成された推奨コンポーネント502を含むことができる(例えば、現在の日付けが金曜日であり、ユーザーはボブに電話し、トリッシュに電話して、遊園地に行く準備をすることになっている)。例えば、推奨コンポーネント502は、ユーザーはボブに電話し(例えば、カレンダーの見出しに基づいて)、トリッシュに電話し(例えば、金曜日にトリッシュに電話したという以前のユーザー行動に基づいて)、そして金曜日に銀行に立ち寄る(例えば、ユーザーがこの週末に遊園地に行くために現金が必要になることを示す電子メールに基づいて)ことを決定することができる。このように、推奨コンポーネント502は、ボブに対する1つ以上の提案通話時間、トリッシュに対する1つ以上の提案通話時間、1つ以上の銀行等というような、誘起イベントに対応する1つ以上の提案エンティティを決定することができる。」(段落【0025】)

シ「推奨コンポーネント502は、観察データーから得られた1つ以上の制約に基づいて、エンティティ選択判断基準モデルを構築することができる(例えば、ユーザーの以前の電話行動に基づいて、ユーザーが通常午前中に電話をかける方を好むというユーザー趣向制約、ユーザーはトリッシュとの通話に準備するために30分必要とするという第1時間制約、ユーザーとボブとの間における以前の電話行動に基づいて、ユーザーはボブと1時間電話するという第2時間制約、銀行が閉まる前にユーザーが銀行に到着するための営業時間制約等)。このように、推奨コンポーネント502はエンティティ選択判断基準モデルを1つ以上の提案エンティティに適用して、推奨504を作成することができる。例えば、推奨コンポーネント504は、ボブは9:00前は忙しいのでボブに9:30に電話することをユーザーに推奨する第1提案エンティティ、ユーザーが通話に十分に準備する時間が取れるようにトリッシュに11:00に電話することをユーザーに推奨する第2提案エンティティ510(例えば、ユーザーは準備するのに30分必要であり、ボブとの通話は通常1時間かかる)、および/またはユーザーが自宅までの運転経路に沿って便利に位置する特定の銀行に到着することができるように、4:00までには仕事場から出発することをユーザーに推奨する第3提案エンティティ512を含むことができる。このように、推奨506は、一連のイベント(例えば、通話、銀行訪問等)を含むことができる。推奨504をユーザーのデバイス506にプッシュすることができる。」(段落【0026】)

ス 「図6は、推奨604をユーザーにプッシュするように構成されたシステム600の一例を示す。システム600は、誘起イベント(例えば、天候のような実世界値の変化)に基づいて推奨604をユーザーのデバイス606にプッシュするように構成された推奨コンポーネント602を含むことができる。例えば、推奨コンポーネント602は、天候は85°F晴れであり、ユーザーはプール(water park)で泳ぐことに興味があると判定することができる。このように、推奨コンポーネント602は、1つ以上のプールというような、誘起イベントに対応する1つ以上の提案エンティティを決定することができる。」(段落【0027】)

セ 「推奨コンポーネント602は、観察データーから得られた1つ以上の制約(例えば、位置制約、クーポン制約等)に基づいて、エンティティ選択判断基準モデルを構築することができる。推奨コンポーネント602は、エンティティ選択判断基準モデルを1つ以上の提案エンティティに適用して、推奨604を作成することができる。例えば、推奨604は、ユーザーがクーポンを有するプールをユーザーが訪問することを推奨する第1提案エンティティを含むのでもよい。このように、推奨604は、このプールへの道順、クーポンを含む電子メールへのリンク、および/または他の情報を含むことができる。推奨604をユーザーのデバイス606にプッシュすることができる。」(段落【0028】)

ソ 「図7は、推奨704をユーザーにプッシュするように構成されたシステム700の一例を示す。システム700は、誘起イベント(例えば、ユーザーの車両におけるガソリン量)に基づいて、推奨704をユーザーのデバイス706にプッシュするように構成された推奨コンポーネント702を含むことができる。例えば、推奨コンポーネント702は、車両におけるガソリン量が10%未満であると判定するのでもよい。このように、推奨コンポーネント702は、1つ以上のガソリン・スタンドというような、誘起イベントに対応する1つ以上の提案エンティティを決定することができる。 」(段落【0029】)

タ 「推奨コンポーネント702は、観察データーから得られた1つ以上の制約(例えば、位置制約、価格制約、遠回り制約等)に基づいて、エンティティ選択判断基準モデルを構築することができる。例えば、ユーザーは通常ガソリンで25セント以上節約するためには5分以下の遠回りを厭わないかもしれない。推奨コンポーネント702は、エンティティ選択判断基準モデルを1つ以上の提案エンティティに適用して、推奨704を作成することができる。例えば、推奨704は、本来の運転経路よりは5分以内の遠回りになるが、本来の運転経路に沿ってもっと便利に位置すると考えられるガソリン・スタンドよりも30セント安いガソリンを有する第1ガソリン・スタンドを推奨する第1提案エンティティ708を含むことができる。このように、推奨704は、ユーザーを第1ガソリン・スタンドに誘導することができる新たな経路をユーザーのために含むことができる。推奨704をユーザーのデバイス706にプッシュすることができる。」(段落【0030】)
との事項が記載されている。

上記の摘記事項イにおける「種々の要因に基づいて、ユーザーは1つ以上の提案エンティティを順位付けることができる。」、及び、上記の摘記事項エにおける「エンティティ選択判断基準モデルから得られる種々の要因に基づいて、1つ以上の提案エンティティを順位付けしてもよい(例えば、要因は、エンティティ選択判断基準モデルを生成するために使用された1つ以上の制約に対応してもよい)。例えば、1つ以上の提案エンティティは、都合要因(例えば、ある店は、ユーザーの現在地からどの位近くにその店が位置するかではなく、ユーザーの運転経路に沿ってどの位便利に位置するかに基づいて順位付けるのでもよく、そうしないと、運転者の現在の運転経路から遠回りする結果になる場合もある)、価格要因(例えば、運転者の現在の運転経路からの遠回りを必要とするが価格が低い第1の店は、第1の店がユーザーにとって容認可能な遠回り閾値以内にある場合、価格がもっと高い第2の店よりも高く順位付けることができる)、時間要因(例えば、ユーザーが到着する時刻までに閉店するかもしれない店には、比較的低い順位を指定するとよい)、および/または種々の他の要因に基づいて、順位付けすることができる。」との記載を参酌しても、種々の要因に基づいて提案エンティティが順位付けられるということが開示されているとは解されるものの、種々の要因に基づくそれぞれの順位がそれぞれの提案エンティティに付けられる、すなわち、「第1の提案エンティティ」は「第1の要因」に関連する「第1の順位」及び「第2の要因」に関連する「第3の順位」を有し、「第2の提案エンティティ」は「第1の要因」に関連する「第2の順位」及び「第2の要因」に関連する「第4の順位」を有することまでが開示されているとは認められない。
更に、「順位」とは「ある基準に従ってものを並べたときの、それぞれの位置・地位。」(株式会社岩波書店「広辞苑第六版」)との意味に解することが一般的であるところ、上記摘記事項オ?タに対応する図2?図7の実施例では、「時間制約」や「目的地距離制約」などの制約は、当該制約となる条件を超えると推奨対象が外されており、ある基準に従ってものを並べたときの位置・地位に相当するものではないことに鑑みると、これらの実施例は、複数の要因のそれぞれで提案エンティティに対する順位付けは行われていないと考えるのが妥当である。
そして、決定された提案エンティティのぞれぞれに、複数の要因に関連する順位が付けられるということは、本願の優先権主張の基準日当時の技術常識であるとも認められない。
以上のとおりであるから、上記摘記事項ア?タ及び優先権主張の基準日当時の技術常識を参酌しても、「前記誘起イベントに対応する1または複数の提案エンティティを決定するステップ」で決定された「第1の提案エンティティ」及び「第2の提案エンティティ」が「第1の要因」及び「第2の要因」のぞれぞれに関連する順位を有していることは記載されていないとともに、「エンティティ選択判断基準モデル」によって作成された「誘起イベントに対する推奨」が「前記第1の順位が前記第2の順位よりも低く前記第3の順位が前記第4の順位よりも高いことに基づいて」行われていることは記載されていない。
よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許法36条6項1号の規定により特許を受けることができない。


2 理由2(明確性)について
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そのため、本願発明に係る特許請求の範囲の請求項1の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かについて、検討する。

請求項1には、
「前記エンティティ選択判断基準モデルを前記1または複数の提案エンティティに適用して、前記誘起イベントに対する推奨を作成するステップであって、前記推奨は、前記第1の順位が前記第2の順位よりも低く前記第3の順位が前記第4の順位よりも高いことに基づいて、前記第2提案エンティティではなく前記第1提案エンティティを含む、ステップ」
との事項が記載されている。
しかしながら、上記の記載では、「エンティティ選択基準モデル」が「第1提案エンティティ」を選択したという選択結果に至るまでの判断内容が不明である。
すなわち、請求項1の上記の記載によれば、
ア 「第2の要因」に関連する「第3の順位」を有することで他の要因や他の順位にかかわらずに「第1提案エンティティ」が選択される
イ 「第2の要因」に関連する「第4の順位」を有することで他の要因や他の順位にかかわらずに「第2提案エンティティ」が選択されない
ウ それぞれの「提案エンティティ」におけるそれぞれの「要因」に関連する順位の差の大きい方を「第2の要因」、小さい方を「第1の要因」とし、「第2の要因」に関連する「第3の順位」が「第1の要因」に関連する「第1の順位」と「第2の順位」との順位差よりも大きな順位差をもって「第4の順位」よりも大きいことを理由にして「第1の提案エンティティ」が選択される
エ 「第1の要因」の順位にかかわらず、「第2の要因」の順位のみに基づいて「第1の提案エンティティ」が選択される
オ 「第2の要因」を「第1の要因」に優先し、何らかの重み付けの結果、「第1の提案エンティティ」が選択される
など、上記記載では選択のための判断内容が無数に考えられる。
してみると、「エンティティ選択基準モデル」とは、「第1の順位」、「第2の順位」、「第3の順位」及び「第4の順位」に基づいた如何なる内容の判断を行うモデルであるのかが不明確であって、当該「エンティティ選択判断基準モデル」との事項が示す技術範囲が定まらない。
また、本願の明細書及び図面の記載を参酌しても、「順位」とは「ある基準に従ってものを並べたときの、それぞれの位置・地位。」(株式会社岩波書店「広辞苑第六版」)との意味に解することが一般的であるところ、上記の摘記事項オ?タに対応する図2?図7の実施例では、「時間制約」や「目的地距離制約」などの制約の条件を超えると推奨対象から外され、ある基準に従ってものを並べたときの位置・地位に相当するものではないことに鑑みると、当該実施例は、複数の要因のそれぞれで提案エンティティに対する順位付けを行い、その順位に基づいて提案エンティティが選択される実施例が開示されているとは認められない。
このため、「前記第1の順位が前記第2の順位よりも低く前記第3の順位が前記第4の順位よりも高いことに基づいて」「推奨」することに関する記載がなく、如何なる内容の判断が行われるのかは不明である。
以上のことから、「エンティティ選択基準モデル」が如何なる内容の判断を行うモデルであるのかが明確でなく、本願発明に係る特許請求の範囲の記載は第三者の利益を不当に害するといえる。
よって、請求項1に係る発明は明確でなく、特許法36条6項2号の規定により特許を受けることができない。


3 理由3(新規性)について
(1)引用文献
当審の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザの属性、嗜好、履歴、状況などの条件に応じて、ユーザに提案するための適切なコンテンツの選択や機器制御などのユーザ支援を行うユーザ支援装置及びユーザ支援方法に関する。なお、本明細書では、ユーザ支援とは、主に、ユーザが快適となること(快適性)、ユーザが安全であること(安全性)、ユーザにとって便利であること(利便性)、環境に良いこと(環境性)の4つの要因に鑑みて、ユーザの動作や行動、意思決定などの支援を行ったり、ユーザが使用している機器制御動作の支援を行ったりすることを指す。」

イ 「【0049】
図1に示すユーザ支援装置100は、推定部101、イベント判別部102、状況検出部103、履歴格納部104、ユーザ嗜好格納部(ユーザモデル格納部)105、戦略決定部106、戦略アルゴリズム格納部107、ユーザ操作入力部108、推定結果出力部109、状態決定部110、状態格納部111、タイマ112を有している。
【0050】
推定部101は、任意の推定方法によって所定のイベントに対して、任意の推定方法によって、適切な動作を行うための推定結果を演算する推定機能を有している。また、イベント判別部102は、何らかのイベントが発生した場合に、そのイベントが、推定及びユーザへの推定結果の提案を行うべきイベント(対象イベント)であるか否かを判別する機能を有している。なお、対象イベントとなり得るイベントは様々であり、例えば、ユーザによる所定の入力操作、所定のセンサによるユーザの動作検出、所定の時刻などにより発生するイベントが挙げられる。」

ウ 「【0052】
また、履歴格納部104は、推定部101における推定動作の履歴を格納する機能を有している。具体的には、履歴格納部104には、推定部101の推定結果、ユーザ状況、ユーザが入力した情報やユーザの行動監視結果から得られる正解データと、そのときの条件などが格納される。なお、履歴格納部104には、ユーザの詳細な履歴が格納されてもよく、また、例えば、所定のレストランに行った回数などのように、ユーザの履歴が頻度として格納されてもよい。
【0053】
また、ユーザ嗜好格納部105は、ユーザの嗜好に係る情報を格納する機能を有している。なお、このユーザの嗜好に係る情報は、例えば、ユーザの好きなアーティストや色などのユーザの好みを表す情報であり、あらかじめユーザから初期値として入力された嗜好情報や、実際の推定結果に対する満足度などの推定過程において徐々に学習されていく嗜好情報などである。特に、後者の学習によって把握される嗜好情報は、履歴格納部104に格納される履歴情報とみなすことも可能であるが、ここでは、便宜上、履歴情報と嗜好情報とを分けて説明を行う。
【0054】
また、戦略決定部106は、対象イベントに基づいて、どの推定方法(あるいは、どの推定方法の組み合わせ)によって推定を行うかなどの戦略(推定戦略)を決定する機能を有しており、戦略アルゴリズム格納部107は、戦略決定部106によって選択される戦略に係るアルゴリズムを格納する機能を有している。なお、戦略決定部106によって決定される推定モデルは、所定の推定戦略に基づいて選択される。推定モデルの具体例に関しては、推定戦略の説明と共に後述する。」

エ 「【0091】
次に、上述の推定戦略について説明する。推定戦略とは、推定部101における推定方法(あるいは、推定部101が利用する推定モデル)であり、本発明では、例えば、提案状態において再提案を行う場合に、推定戦略を変更したり、提案待機状態において、複数の推定戦略の中から最適な推定戦略を探索したりするようにしている。以下、推定戦略として利用可能な例について説明する。
【0092】
推定戦略は、例えば、推定部101における推定方法や推定モデルを指すものであり、推定戦略としては、例えば、以下に説明する「ランダムな属性変更」、「探索的変更」、「確度の高い属性を固定した属性変更」、「確度の低い属性変更」、「推定モデルの変更」、「クラスタリング手法におけるクラスタの変更」などが挙げられる。すなわち、図3のステップS309や図4のステップS406における推定戦略の変更は、上記のような推定戦略を変更することによって、異なる推定戦略による推定結果の導出を図っている。
【0093】
例えば、上記の「ランダムな属性変更」とは、先に使用した推定戦略で設定した属性(例えば、昼食を取るための場所を提案する場合には、和食、洋食、中華などのジャンル、1500円未満、1500円以上2500円未満、2500円以上3500円未満、3500円以上などの平均予算の範囲などの様々な条件)をランダムに変更する手法であり、結果的に、先の推定結果とは全く異なる推定結果の導出を可能とする手法である。
【0094】
また、例えば、上記の「探索的変更」とは、属性の変更によるユーザの反応を考慮して、より良い属性変更の態様を探索しながら、属性変更を行う手法である。具体的には、例えば、順番のある属性(例えば、上記の例では、平均予算の範囲)に関して、まず、中間の値やユーザが選択する傾向の高い値(例えば、1500円以上2500円未満)を最初に選択して推定及び提案を行う。そして、この推定結果が了承されない場合には、続いて、どちらかの方向(例えば、1500円未満)に外れた属性に変更して推定を行って再提案し、例えば、満足度の入力などのユーザの反応に従って、属性の変更に係る方向が適切であったか否かを判定する。この判定の結果、次に推定を行う場合には、属性の変更に係る方向を考慮して、適切な方向に属性の変更を行ったうえで、推定結果を導き出し、再提案を行うことが可能となる。
【0095】
また、例えば、上記の「確度の高い属性を固定した属性変更」とは、ユーザ嗜好情報などから、変更すべきではない属性(確度の高い属性)を判別したうえで、この確度の高い属性に関しては固定し、その他の属性を変更する手法である。具体的には、再提案を行う場合、例えば、ユーザが和食を好んでいることが分かっていれば、ジャンルに関しては和食に固定したうえで、その他の属性の変更を行い、再度、推定を行う手法である。なお、変更するその他の属性に関しては、上述の「ランダムな属性変更」に係る手法、又は「探索的変更」に係る手法によって、属性変更を行ってもよい。
【0096】
また、例えば、上記の「確度の低い属性変更」とは、ユーザの状況などによって大きく変更する可能性がある属性(確度の低い属性)を判別し、特に、この確度の低い属性に関して、変更を行ったうえで、再度、推定及び再提案を行う手法である。具体的には、再提案を行う場合、例えば、ユーザが食事のジャンルに関して大きく変わる傾向にある(あるいは、ほとんど気にしていない)ことが分かっていれば、ジャンルという属性を大きく変えて、再度、推定を行う手法である。なお、その他の属性に関しては、上述の「ランダムな属性変更」、「探索的変更」、「確度の高い属性を固定した属性変更」などを組み合わせて属性変更を行うことも可能である。
【0097】
また、例えば、上記の「推定モデルの変更」とは、ベイジアンネットワークなどの推定モデル(ユーザモデル)を利用した推定を行う際に、再提案を行う場合に、推定モデルを変更したうえで、再度、推定を行う手法である。すなわち、この手法では、ベイジアンネットワークで利用する推定モデルの変更を行うことによって、推定で使用されるユーザ嗜好情報の変更が行われる。」

(2)引用発明
上記(1)の摘記事項によると、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

ユーザの属性、嗜好、履歴、状況などの条件に応じて、ユーザに提案するための適切なコンテンツの選択や機器制御などのユーザ支援を行うユーザ支援方法であって(段落【0001】)、
ユーザ支援装置100は、推定部101、イベント判別部102、状況検出部103、履歴格納部104、ユーザ嗜好格納部(ユーザモデル格納部)105、戦略決定部106、戦略アルゴリズム格納部107、ユーザ操作入力部108、推定結果出力部109、状態決定部110、状態格納部111、タイマ112を有し(段落【0049】)、
イベント判別部102は、何らかのイベントが発生した場合に、そのイベントが、推定及びユーザへの推定結果の提案を行うべきイベント(対象イベント)であるか否かを判別する機能を有し、対象イベントとなり得るイベントは様々であり、例えば、ユーザによる所定の入力操作、所定のセンサによるユーザの動作検出、所定の時刻などにより発生するイベントが挙げられ(段落【0050】)、
履歴格納部104は、推定部101における推定動作の履歴を格納する機能を有し、具体的には、履歴格納部104には、推定部101の推定結果、ユーザ状況、ユーザが入力した情報やユーザの行動監視結果から得られる正解データと、そのときの条件などが格納され、履歴格納部104には、ユーザの詳細な履歴が格納されてもよく、また、例えば、所定のレストランに行った回数などのように、ユーザの履歴が頻度として格納されてもよく(段落【0052】)、
ユーザ嗜好格納部105は、ユーザの嗜好に係る情報を格納する機能を有し、このユーザの嗜好に係る情報は、例えば、ユーザの好きなアーティストや色などのユーザの好みを表す情報であり、あらかじめユーザから初期値として入力された嗜好情報や、実際の推定結果に対する満足度などの推定過程において徐々に学習されていく嗜好情報などであり(段落【0053】)、
戦略決定部106は、対象イベントに基づいて、どの推定方法(あるいは、どの推定方法の組み合わせ)によって推定を行うかなどの戦略(推定戦略)を決定する機能を有しており、戦略アルゴリズム格納部107は、戦略決定部106によって選択される戦略に係るアルゴリズムを格納する機能を有し、(段落【0092】、【0095】)
昼食を取るための場所を提案する場合には、和食、洋食、中華などのジャンル、1500円未満、1500円以上2500円未満、2500円以上3500円未満、3500円以上などの順番のある属性である平均予算の範囲などの様々な条件において(段落【0093】、【0094】)、
ユーザが和食を好んでいることが分かっていれば、ジャンルに関しては和食に固定したうえで、その他の属性の変更を行い、再度、推定を行って、ユーザーに対して再提案を行う手法(段落【0095】)

(3)対比
ア 本願発明の「推奨をユーザーにプッシュするための方法」について
引用発明は、「ユーザの属性、嗜好、履歴、状況などの条件に応じて、ユーザに提案するための適切なコンテンツの選択や機器制御などのユーザ支援を行うユーザ支援方法」であるから、ユーザに提案されるコンテンツは「推奨」であり、提案されたコンテンツはがユーザにプッシュされると考えるのが妥当であって、引用発明は「推奨をユーザーにプッシュするための方法」であるといえる。

イ 本願発明の「ユーザーに関連する誘起イベントを特定するステップ」について
引用発明の「イベント判別部102」は、「何らかのイベントが発生した場合に、そのイベントが、推定及びユーザへの推定結果の提案を行うべきイベント(対象イベント)であるか否かを判別する機能を有し」ているから、引用発明は、「ユーザーに関連する誘起イベントを特定するステップ」を含んでいるといえる。

ウ 本願発明の「前記誘起イベントに関連する観察データーから得られた1または複数の制約に基づいてエンティティ選択判断基準モデルを構築するステップ」について
本願明細書の段落【0005】には、
「誘起イベントに関連する観察データーから得られる1つ以上の制約に基づいて、エンティティ選択判断基準モデルを構築することもできる。エンティティ選択判断基準モデルは、天候の制約(例えば、晴天日に基づいて、ドライブイン映画館を推奨することができる)、ガソリンの制約(例えば、車両のガソリンが少ないことに基づいて、近くの(local)ガソリン・スタンドを推奨することができる)、交通の制約(現在の交通状態に基づいて、新たな経路を推奨することができる)、会員の制約(例えば、ユーザーが会員証を有する店を推奨することができる)、価格の制約(例えば、遠回りが容認できて特売をやっている店を推奨することができる)、クーポンの制約、営業時間の制約、目的地までの距離の制約(例えば、単に現在の位置までの距離の制約とは反対)、ユーザー趣向の制約(例えば、ユーザーは通常特定の食料品スーパーにある店を好む)、被観察行動の制約(例えば、ユーザーは午前中に仕事の電話をかけることを好む)、および/または種々の他の制約に基づくことができる。尚、一例では、エンティティ選択判断基準モデルが予め定められていてもよい(例えば、誘起イベントの特定の前に定められる)。例えば、エンティティ選択判断基準モデルがオフラインで(例えば、リアル・タイムでまたは実行中の代わりに)構築されてもよい。例えば、エンティティ選択判断基準モデルが、1人以上のユーザーの行動を監視している間に非同期で構築されてもよい。したがって、誘起イベントの特定時に、エンティティ選択判断基準モデルが、推奨を作成する際に利用可能にする(例えば、既に構築済み)ことができる。」
と記載されており、該記載を参酌すると、本願発明の「誘起イベントに関連する観察データーから得られる1つ以上の制約」には、「ユーザーは通常特定の食料品スーパーにある店を好む」という事項が含まれると認められる。
これに対して、引用発明の「戦略決定部106によって決定される推定モデル」は、所定の推定戦略に基づいて選択されるものであって、その推定戦略としては、「確度の高い属性を固定した属性変更」が挙げられ、該「確度の高い属性を固定した属性変更」とは、ユーザ嗜好情報などから、変更すべきではない属性(確度の高い属性)を判別したうえで、この確度の高い属性に関しては固定し、その他の属性を変更する手法である。
ここで、本願発明の「誘起イベントに関連する観察データーから得られる1つ以上の制約」は、上記のとおり、「ユーザーは通常特定の食料品スーパーにある店を好む」という事項が含まれるところ、これはユーザの嗜好に他ならない。
そして、「推定戦略」はユーザへの提案を判断する際に用いる基準モデルであるといえるから、「エンティティ選択判断基準モデル」に相当する。
してみると、引用発明は、「前記誘起イベントに関連する観察データーから得られた1または複数の制約に基づいてエンティティ選択判断基準モデルを構築するステップ」を含んでいるといえる。

エ 「前記誘起イベントに対応する1または複数の提案エンティティを決定するステップであって、前記1または複数の提案エンティティは、第1提案エンティティと第2提案エンティティを含み、前記第1提案エンティティは、第1の要因に関連する第1の順位を有し、前記第2提案エンティティは、前記第1の要因に関連する第2の順位を有し、前記第1提案エンティティは、第2の要因に関連する第3の順位を有し、前記第2提案エンティティは、前記第2の要因に関連する第4の順位を有し、前記第1の順位は前記第2の順位よりも低く、前記第3の順位は前記第4の順位よりも高い、ステップ」、及び、「前記エンティティ選択判断基準モデルを前記1または複数の提案エンティティに適用して、前記誘起イベントに対する推奨を作成するステップであって、前記推奨は、前記第1の順位が前記第2の順位よりも低く前記第3の順位が前記第4の順位よりも高いことに基づいて、前記第2提案エンティティではなく前記第1提案エンティティを含む、ステップ」について
引用発明では、「平均予算の範囲」に関する順番、及び、「ジャンル」に関するユーザの好み、という2つの要因について読み取ることができるとともに、例えば、「1500円以上2500円未満」の「和食」との提案がユーザに了承されなかった場合は、「1500円以上2500円未満」からどちらかの方向に外れた平均予算の範囲、例えば、「1500円未満」の「和食」が再提案されることを読み取ることができることから、引用発明における「平均予算の範囲」に関する順番が本願発明の「第1の要因」に、引用発明における「ジャンル」に関するユーザの好みが本願発明の「第2の要因」に対応し、引用発明における「1500円未満」の順位が本願発明の「第1の順位」に、引用発明における「1500円以上2500円未満」の順位が本願発明の「第2の順位」に、引用発明における「和食」の順位が本願発明の「第3の順位」に、引用発明における「洋食又は中華」の順位が本願発明の「第4の順位」に対応し、上記再提案である「1500円未満」の「和食」が「第1提案エンティティ」に対応し、「1500円以上2500円未満」の「洋食又は中華」が「第2の提案エンティティ」に対応する。
してみると、引用発明は、「前記誘起イベントに対応する1または複数の提案エンティティを決定するステップであって、前記1または複数の提案エンティティは、第1提案エンティティと第2提案エンティティを含み、前記第1提案エンティティは、第1の要因に関連する第1の順位を有し、前記第2提案エンティティは、前記第1の要因に関連する第2の順位を有し、前記第1提案エンティティは、第2の要因に関連する第3の順位を有し、前記第2提案エンティティは、前記第2の要因に関連する第4の順位を有し、前記第1の順位は前記第2の順位よりも低く、前記第3の順位は前記第4の順位よりも高い、ステップ」を含み、「前記エンティティ選択判断基準モデルを前記1または複数の提案エンティティに適用して、前記誘起イベントに対する推奨を作成するステップであって、前記推奨は、前記第1の順位が前記第2の順位よりも低く前記第3の順位が前記第4の順位よりも高いことに基づいて、前記第2提案エンティティではなく前記第1提案エンティティを含む、ステップ」を含んでいるといえる。

オ 本願発明の「前記推奨を前記ユーザーに関連するデバイスにプッシュするステップ」について
引用発明におけるユーザへの提案は、ユーザに関連するデバイスを介して行われることは明らかであるから、引用発明は「前記推奨を前記ユーザーに関連するデバイスにプッシュするステップ」を含んでいるといえる。

カ 上記ア?オによれば、引用発明は本願発明のすべての要件を含んでおり、本願発明と引用発明とは実質的に同一発明であるといえる。

(4)小活
以上のとおり、本願発明は引用文献1に記載された発明であると認められることから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。


4 理由4(進歩性)について
(1)引用文献及び引用発明
引用文献1には、上記3(1)に摘記した事項、及び、上記3(2)で認定した引用発明が記載されていると認められる。

(2)判断
上記3(3)で検討したとおり、引用発明は本願発明のすべての要件を含んでいると認められ、仮に相違があったとしても、その差異は表現上の差異又は微差にすぎない。
このため、引用発明に基づいて、本願発明のごとく構成することに格別な技術的な困難性は認められないとともに、奏する作用についても格別ものとは認められないことから、本願発明は引用発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものであるといえる。

(3)小活
以上のとおり、本願発明は引用発明に基づいてに基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。


第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法36条6項第1号(理由1)及び同項2号(理由2)、同法29条1項3号(理由3)、並びに、同条2項(理由4)の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-12-02 
結審通知日 2019-12-04 
審決日 2019-12-17 
出願番号 特願2015-524406(P2015-524406)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (G06Q)
P 1 8・ 121- WZ (G06Q)
P 1 8・ 537- WZ (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関 博文  
特許庁審判長 渡邊 聡
特許庁審判官 石川 正二
佐藤 聡史
発明の名称 プッシュに基づく推奨  
代理人 山本 修  
代理人 大房 直樹  
代理人 小野 新次郎  
代理人 宮前 徹  
代理人 中西 基晴  

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