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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1362210
審判番号 不服2019-4723  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-09 
確定日 2020-05-14 
事件の表示 特願2014- 11689「反射防止フィルムおよびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月11日出願公開、特開2014-167620〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2014-011689号は、平成26年1月24日(先の出願に基づく優先権主張 平成25年1月29日)を出願日とする出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。

平成29年9月22日付け:拒絶理由通知書
平成29年12月1日付け:手続補正書、意見書
平成30年5月24日付け:拒絶理由通知書
平成30年7月27日付け:手続補正書、意見書
平成30年12月26日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成31年4月9日付け:審判請求書

2 本願発明
本件出願の請求項1?7に係る発明は、それぞれ、平成30年7月27日にされた手続補正後の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、次のものである。(以下「本願発明」という。)
「 【請求項1】
基材と、該基材側から順に、中屈折率層と、高屈折率層と、低屈折率層とを有し、
該高屈折率層の厚みが、10nm?25nmであり、
該基材の屈折率n_(S)、該中屈折率層の屈折率n_(M)および該高屈折率層の屈折率n_(H)が下記式(1)を満足し、
反射色相が、CIE-Lab表色系において、0≦a^(*)≦15、-20≦b^(*)≦0である、
反射防止フィルム:

ここで、基材の屈折率n_(S)、中屈折率層の屈折率n_(M)および高屈折率層の屈折率n_(H)はn_(H)>n_(M)>n_(S)の関係を有する。」
(以下、便宜上、反射色相に関する上記2つの不等式をまとめて「式(2)」という。)

3 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は、(進歩性)本件出願の請求項1?7に係る発明は、その優先権主張の基礎となる先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2001-281415号公報(以下「引用文献7」という。)及び特開2008-3122号公報(以下「引用文献9」という。)及び特開2004-98420号公報(以下「引用文献10」という。))に記載された事項に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
(当合議体注:引用文献7は主引用例であり、引用文献9及び10は周知技術を示す文献として用いたものである。)

第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明等
(1)引用文献7の記載
原査定の拒絶の理由において引用された、引用文献7は、本件優先権主張の基礎となる先の出願前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【請求項1】 基材と、当該基材上に形成された反射防止層とを備え、
上記反射防止層は、基材上に形成され無機微粒子が樹脂材料中に分散されてなる第1の構成層と、
第1の構成層上に形成され無機酸化物、無機窒化物又は無機酸窒化物からなる第2の構成層と、
第2の構成層上に形成され無機酸化物又は無機フッ化物からなる第3の構成層とを少なくとも有することを特徴とする反射防止フィルタ。
【請求項2】 上記第1の構成層は、屈折率が1.6?1.9の範囲であり、
上記第2の構成層は、屈折率が1.9?2.8の範囲であり、
上記第3の構成層は、屈折率が1.3?1.6の範囲であることを特徴とする請求項1記載の反射防止フィルタ。
【請求項3】 上記第1の構成層は、光波長550nmにおける光学的膜厚が1/4波長以上であり、
上記第2の構成層は、光波長550nmにおける光学的膜厚が1/4波長以下であることを特徴とする請求項1記載の反射防止フィルタ。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、反射防止フィルタ及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】透明材料を通じて物を見る場合、反射光が強く、反射像が明瞭であることは煩わしく、例えば眼鏡用レンズではゴースト、フレアなどと呼ばれる反射像を生じて眼に不快感を与えたりする。またルッキンググラスなどではガラス面上の反射した光のために内容物が判然としないという問題が生ずる。
・・・
【0004】例えば、単層被膜においては基材より低屈折率の物質を光学的膜厚を対象とする光波長の1/4ないしはその奇数倍に選択することが極小の反射率すなわち極大の透過率を与えることが知られている。
【0005】ここで光学的膜厚とは、被膜形成材料の屈折率と当該被膜の膜厚の積で与えられるものである。さらに複数層の反射防止膜の形成が可能であり、この場合の膜厚の選択に関して、いくつかの提案がされている(光学技術コンタクト Vol.9,No.8,第17項(1971)).表示装置のパネル面は、外光や証明光が画面内に映り込んで画像が見えにくくなる場合があり、このような表面反射を抑制するため、表示面に反射防止膜が設けられることが多い。」

ウ 「【0006】
【発明が解決しようとする課題】反射防止膜の具体例としては、特開平6-056478号公報には、第1層として中屈折率層、第2層として高屈折率層、第3層として低屈折率層で全ての光学的膜厚をλ/4とする構成が開示されているが、第1層の屈折率が1.43?1.46と定義されている。この構成では、3層構成において第1層の屈折率が基材の屈折率より低くなることから、可視光領域での反射特性はV字型となり、広い波長範囲で低反射を得ることができない。
【0007】また、特開平7-225302号公報の請求項11では、第1層としてハードコート層に埋め込まれて一体化した高屈折超微粒子層が形成され、第2層として低屈折率層を形成した構成が開示されているが、前例と同様、この構成での可視光領域での反射特性は一般的に「Vコート」「Wコート」と呼ばれる特性となり、広い波長範囲で十分な低反射を得ることができない。
・・・
【0009】本発明は、上述したような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、最小限の層数で優れた低反射特性を有する表示装置用反射防止フィルタ及びその製造方法を提供することを目的とする。」

エ 「【0010】
【課題を解決するための手段】本発明の反射防止フィルタは、基材と、当該基材上に形成された反射防止層を備え、上記反射防止層は、基材上に形成され無機微粒子が樹脂材料中に分散されてなる第1の構成層と、第1の構成層上に形成され無機酸化物、無機窒化物又は無機酸窒化物からなる第2の構成層と、第2の構成層上に形成され無機酸化物又は無機フッ化物からなる第3の構成層とを少なくとも有することを特徴とする。
【0011】上述したような本発明に係る反射防止フィルタでは、第1の構成層が、無機微粒子が樹脂材料中に分散されてなるので、中間屈折率膜が容易にかつ安価に形成される。また、この反射防止フィルタでは、第2の構成層以降が、無機酸化物、無機窒化物、無機酸窒化物又は無機フッ化物からなるので、膜厚制御性及び面内の膜厚均一性に優れた低反射性膜となる。」

オ 「【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0015】本実施の形態に係る反射防止フィルタ1は、図1に示すように、透明基材2と、透明基材2上に形成された反射防止層3と、反射防止層3上に形成された保護層4とから構成される。
・・・
【0019】また、上記のようなプラスチックフィルム基材表面は、特公昭50-28092号公報、特公昭50-28446号公報、特公昭51-24368号公報、特開昭52-112698号公報、特公昭57-2735号公報に開示されるようなハードコートなどの被覆材料で被覆されていることが好ましい。後述する無機物からなる反射防止層3の下層に存在するこのハードコートによって、付着性、硬度、耐薬品性、耐久性、染色性などの諸物性を向上させることができる。ハードコートの膜厚は、通常3?20μm程度である。
【0020】反射防止層3は、透明基材側から順に積層された第1の反射防止膜5と、第2の反射防止膜6と、第3の反射防止膜7とから構成される。そして、第1の反射防止膜5は、屈折率が1.6?1.9の範囲の中屈折率層であり、第2の反射防止膜6は、屈折率が1.9?2.8の範囲の高屈折率層であり、第3の反射防止膜7は、屈折率が1.3?1.6の範囲の低屈折率層である。
・・・
【0022】具体的な作製方法については後述するが、第1の反射防止膜5を湿式塗布法で形成することにより、PVD法やCVD法では得られにくい中間屈折率膜を容易にかつ安価に形成することが可能となる。また、第2層目以降の第2の反射防止膜6及び第3の反射防止膜7をPVD法又はCVD法で形成することで、膜厚制御が容易となるほか、面内の膜厚均一性に優れた低反射性膜を安定に形成することができる。」

カ 「【0040】上述したような種々の方法により形成される第1の反射防止膜5の膜厚としては、可視光領域において広範囲な低反射特性を得るため、光学的な膜厚がλ/4前後であることが好ましい。なお、第2層目以降の成膜速度のより遅いPVD/CVD法による合計膜厚を薄くするために、第1の反射防止膜5の光学的な膜厚をλ/4よりやや厚くする方が、生産性を上げることができるため産業上好ましい。
【0041】以上、説明したような湿式塗布法により第1の反射防止膜5を形成することで、PVD法やCVD法では得られにくい中間屈折率膜を容易にかつ安価に形成ことが可能となる。
・・・
【0055】さらに、本発明の実施の形態として、図5に示すように、上述の接着剤8と酸化バリア層9との両者を具備した反射防止フィルム1も、本発明の一形態として好ましく例示することができる。」

キ 「【0056】上述したような本発明の反射防止フィルタ1は、例えば陰極線管等、各種表示装置の表示部のフェース・プレートの表面側に、透明基材2側を接着剤層を介して貼り付けられて用いられる。もしくは、透明基材2が表示装置のフェース・プレート自身であってもよい。そして、本発明の反射防止フィルタ1が貼り付けられた表示装置においては、反射防止特性が良好で実用に適したものとなる。
【0057】しかし、本発明の反射防止フィルム1はこれに限定されるものではなく、反射防止機能を付与するものとして、各種用途に用いられる場合にも適用可能である。」

ク 「【0058】
【実施例】以下、本発明の効果を確認するために行った実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0059】基材として厚さ100μmの透明なポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いた。このPETフィルムの片面には、予め表面硬度を確保するためのハードコート処理が施されている。
【0060】次に、特開平6-056478号公報に開示されているのと同様に、2.8gのアンチモンドープ酸化錫微粉末(粒径5?10nm)と0.3g(SiO_(2)換算)ポリエーテル変性シリコーンオイルと196.4gの水とを混合して、均一な分散液とし、グラビアコート法により上記基材上に塗布し、その後50℃で3分間乾燥させ、屈折率1.75、膜厚79nmの第1の反射防止膜を形成した。
【0061】次に、第1の反射防止膜上に、スパッタリング法により、誘電体のTiO_(2)を厚さ115nmに被着させて第2の反射防止膜を形成した。されに、第2の反射防止膜上に、スパッタリング法により、誘電体のSiO_(2)を厚さ93nmに被着させて第3の反射防止膜を形成して反射防止フィルタを完成した。なお、この反射防止フィルタは、光学的な膜厚が第1の反射防止膜側から順にλ/4、λ/2、λ/4となる設計とした。
【0062】〈実施例2〉まず、膜厚を110nmとしたこと以外は、実施例1と同様にして第1の反射防止膜を形成した。
【0063】次に、第1の反射防止膜上に、スパッタリング法により、誘電体のTiO_(2)を厚さ12nmに被着させて第2の反射防止膜を形成した。さらに、第2の反射防止膜上に、スパッタリング法により、誘電体のSiO_(2)を厚さ107nmに被着させて第3の反射防止膜を形成して反射防止フィルタを完成した。
・・・
【0070】そして、以上のようにして作製された反射防止フィルタについて、計算機によるシュミレーションを行い、表面反射(視感反射率)、反射率が1%以下になる波長範囲を算出した。なお、このときの反射防止膜の構成材料の光学的屈折率としては、表1に示す数値を用いた。」

ケ 「【0071】
【表1】

【0072】各実施例及び比較例の反射防止フィルタについて、計算機によるシュミレーション結果を表2に示す。また、実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2の反射防止フィルタの反射特性を図6乃至図9に示す。
【0073】
【表2】

【0074】表2及び図6乃至図9から明らかなように、反射防止層の第1層目を湿式塗布法により形成し、第2及び第3層目をPVD法により形成した実施例1及び実施例2の反射防止フィルタは、3層とも湿式塗布法により形成した比較例1の反射防止フィルタ、及び3層ともPVD法により形成した比較例2の反射防止フィルタと比較して、表面反射が小さく、また、反射率が1%以下になる波長領域も広く、優れた反射防止機能を有していることがわかる。
【0075】また、実施例2では、第1層目の光学的膜厚をλ/4よりやや厚く、かつ第2層目の光学的膜厚をλ/4以下(137.5nm)として反射防止フィルタを作製した。この実施例2の反射防止フィルタは、反射特性は実施例1の反射防止フィルタにやや劣るが、成膜速度の遅いPVD法で成膜する第2層と第3層の合計膜厚を208nmから119nmへ薄くすることができ、製造コストが安くできるため、産業上より好ましいと言える。
【0076】また、比較例1のように、3層とも塗布法で反射防止層を形成すると、安価に製造できるものの、高屈折率材料に最適なものがないため、反射防止特性が劣り、かつ塗布膜厚の精度が低いために大面積への形成には難がある。
【0077】また、比較例2のように、3層ともPVD法で反射防止層を形成すると、中屈折材料に最適なものがないため反射防止特性が劣り、または同じ低反射特性を得るためにはより多くの層構造が必要となる。さらに、膜厚制御には不満がなく大面積への成膜も可能であるが、成膜速度が遅いために成膜コストが高くなってしまう。
【0078】以上のように、反射防止層の第1層を塗布法で、第2層目以降をPVD/CVD法で成膜することにより、より少ない総数で、優れた特性の反射防止膜を、広い面積へ、安価に安定して形成することができることがわかった。」

コ 「【0079】
【発明の効果】本発明では、PVD/CVD法による高精度な成膜との組み合わせにより、大面積へ安定して高品質の低反射膜を形成できる。またPVD/CVD法の成膜速度が遅いという欠点を改善でき、安価に低反射膜を形成できる。
【0080】従って、本発明では、中屈折率層及び高屈折率率層として材料を選択でき、最小限の総数で優れた低反射特性を有する反射防止フィルタを実現することができる。」

サ 上記図6及び図7は、それぞれ以下のものである。
図6:

図7:

(2)引用文献7に記載された発明
引用文献7には、「本発明」の具体的な用途についての記載(上記(1)キ参照。特に段落【0056】)に引き続き、実施例1及び2として具体的な反射防止フィルタが記載され、各実施例に係るフィルタの反射特性が図6及び図7に示されている。また、引用文献7の段落【0062】の記載から、実施例2は、実施例1のフィルタの一部の構成を変更したものであることが理解できる。
以上総合すると、引用文献7には、実施例1及び2それぞれに対応する次の発明(以下、「引用発明7-1」及び「引用発明7-2」という。)が記載されている。

ア 引用発明7-1(実施例1)
「基材として厚さ100μmの透明なポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用い、このポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの片面には、予め表面硬度を確保するためのハードコート処理が施されており、
次に、2.8gのアンチモンドープ酸化錫微粉末(粒径5?10nm)と0.3g(SiO_(2)換算)ポリエーテル変性シリコーンオイルと196.4gの水とを混合して、均一な分散液とし、グラビアコート法により基材上に塗布し、その後50℃で3分間乾燥させ、屈折率1.75、膜厚79nmの第1の反射防止膜を形成し、
次に、第1の反射防止膜上に、スパッタリング法により、誘電体のTiO_(2)を厚さ115nmに被着させて第2の反射防止膜を形成し、さらに、第2の反射防止膜上に、スパッタリング法により、誘電体のSiO_(2)を厚さ93nmに被着させて第3の反射防止膜を形成して完成した、反射防止フィルタ。」

イ 引用発明7-2
「膜厚を110nmとしたこと以外は、実施例1と同様にして第1の反射防止膜を形成し、
次に、第1の反射防止膜上に、スパッタリング法により、誘電体のTiO_(2)を厚さ12nmに被着させて第2の反射防止膜を形成し、さらに、第2の反射防止膜上に、スパッタリング法により、誘電体のSiO_(2)を厚さ107nmに被着させて第3の反射防止膜を形成し完成した、反射防止フィルタであって、
作製された反射防止フィルタについて、表面反射(視感反射率)、反射率が1%以下になる波長範囲を算出し、このときの反射防止膜の構成材料の光学的屈折率としては、以下の表1に示す数値を用い、
さらに、以下の図7に示される反射特性を有するものであり、
例えば陰極線管等、各種表示装置の表示部のフェース・プレートの表面側に、透明基材2側を接着剤層を介して貼り付けられて用いられ、貼り付けられた表示装置においては、反射防止特性が良好で実用に適したものとなる、反射防止フィルタ。

表1:


図7:



2 対比及び判断
(1)対比
本願発明と引用発明7-2とを対比する。
ア 反射防止フィルム
引用発明7-2の「反射防止フィルタ」は、「膜厚を110nmとしたこと以外は、実施例1と同様にして第1の反射防止膜を形成し」たものであるから、「基材として厚さ100μmの透明なポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用い・・・次に・・・第1の反射防止膜を形成し」、「次に・・・第2の反射防止膜を形成し、さらに・・・第3の反射防止膜を形成し」たものである。
以上の製造工程からみて、引用発明7-2の「反射防止フィルタ」は、反射防止性能を具備する、フィルム形状のものといえる。
したがって、引用発明7-2の「反射防止フィルタ」は、本願発明の「反射防止フィルム」に相当する。

イ 中屈折率層
引用発明7-2の「反射防止フィルタ」は、前記アで述べた製造工程によって得られるものである。そうしてみると、引用発明7-2の「第1の反射防止膜」は、「重なりをなすものの一つ。」(広辞苑6版)、すなわち「層」ということができる。
また、引用発明7-2の「第1の反射防止膜」、「第2の反射防止膜」及び「第3の反射防止膜」の屈折率は、それぞれ、「1.75」、「2.47?2.34」及び「1.46?1.45」である。そうしてみると、引用発明7-2の「第1の反射防止膜」は、他の層との比較において、「中屈折率」のものといえる。
したがって、引用発明7-2の「第1の反射防止膜」は、本願発明の「中屈折率層」に相当する。

ウ 高屈折率層
前記イと同様に対比すると、引用発明7-2の「第2の反射防止膜」は、本願発明の「高屈折率層」に相当する。
加えて、引用発明7-2の「第2の反射防止膜」が「厚さ12nm」であることを考慮すると、引用発明7-2の「第2の反射防止膜」は、本願発明の「高屈折率層」における「厚みが、10nm?25nmであり」という要件を満たす。

エ 低屈折率層
前記イと同様に対比すると、引用発明7-2の「第3の反射防止膜」は、本願発明の「低屈折率層」に相当する。

オ 基材
引用発明7-2の「反射防止フィルタ」は、「膜厚を100nmとした以外は、実施例1と同様にして第1の反射防止膜を形成し」たものであるから、「基材として厚さ100μmの透明なポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用い、このPETフィルムの片面には、予め表面硬度を確保するためのハードコート処理が施され」たものである(以下「ハードコート処理が施されたPETフィルム」という。)。また、引用発明7-2の「反射防止フィルタ」の製造工程は、前記アで述べたとおりである。
そうしてみると、引用発明7-2の「ハードコート処理が施されたPETフィルム」は、本願発明の「基材」に相当する。

カ 反射防止フィルム
上記ア?オによれば、引用発明7-2の「反射防止フィルタ」は、本願発明の「反射防止フィルム」における、「基材と、該基材側から順に、中屈折率層と、高屈折率層と、低屈折率層とを有し」という要件を満たす。

(2)一致点及び相違点
上記(1)によれば、本願発明と引用発明7-2は、
「基材と、該基材側から順に、中屈折率層と、高屈折率層と、低屈折率層とを有し、
該高屈折率層の厚みが、10nm?25nmである、
反射防止フィルム。」である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
本願発明は、「基材の屈折率n_(S)、中屈折率層の屈折率n_(M)および高屈折率層の屈折率n_(H)は、n_(H)>n_(M)>n_(S)の関係を有する」とともに、「該基材の屈折率n_(S)、該中屈折率層の屈折率n_(M)および該高屈折率層の屈折率n_(H)が下記式(1)を満足」するのに対して、引用発明7-2は、この要件が満足されるのか、一応、明らかではない点。
(当合議体注:下記式(1)は、次のとおりである。)

[相違点2]
本願発明は、「反射色相が、CIE-Lab表色系において、0≦a^(*)≦15、-20≦b^(*)≦0である」のに対して、引用発明7-2は、この要件が満足されているのか、明らかではない点。

(3)判断
ア 相違点1について
引用発明7-2の「第1の反射防止膜」及び「第2の反射防止膜」の屈折率は、それぞれ、「1.75」及び「2.47?2.34」である。
そうしてみると、引用発明7-2の「ハードコート処理されたPETフィルム」の屈折率が、1.38以上1.75未満であれば、引用発明7-2は、相違点1に係る式(1)及び屈折率の大小関係を満たすこととなる。また、引用発明7-2の「図7に示される反射特性」からみて、引用発明7-2の「ハードコート処理されたPETフィルム」の屈折率は、約1.6である(1.38未満や1.75以上の値では、「図7に示される反射特性」から、かけ離れたものとなる。)。
したがって、引用発明7-2は、相違点1に係る本願発明の要件を満たすものであり、相違点1は実質的な相違点ではない。
なお、「図7に示される反射特性」は、「計算機によるシミュレーション結果」(【0070】)である。しかしながら、当業者ならば、引用文献7から、引用発明7-2を把握可能である。少なくとも、引用発明7-2を具体化する当業者ならば、「ハードコート処理されたPETフィルム」の屈折率を、「図7に示される反射特性」と同様の形状となるように、約1.6に近づけるように設計することは容易になし得る事項である。

イ 相違点2について
反射防止フィルム等において、反射色相を無色とすることは周知の課題(例えば、引用文献9の【0039】等参照。)であることから、反射色相を無色(a^(*)=0、b^(*)=0)とすることは、当業者であれば普通に設定し得る事項である。また、このような理解は、引用文献7の【0006】や【0007】に記載された課題、【0040】の第1文に記載の事項、及び引用発明7-2の「陰極線管等、各種表示装置の表示部のフェース・プレートの表面側に、透明基材2側を接着剤層を介して貼り付けられて用いられ、貼り付けられた表示装置においては、反射防止特性が良好で実用に適したもの」という構成にも適うものである。
加えて、反射防止フィルム等における反射色相を、本願発明において特定されている、「0≦a^(*)≦15、-20≦b^(*)≦0」程度の値とすることも周知(例えば、引用文献9の【0051】の実施例1、引用文献10の【0046】や【請求項2】等参照。)である。
そうしてみると、引用発明7-2においても、反射色相を「0≦a^(*)≦15、-20≦b^(*)≦0」とする周知の手法を採用してみることは、当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項といえる。そして、引用文献7の【0075】の記載に接した当業者であれば、実施例1を実施例2に変更した時と同様の手法、すなわち、各層の屈折率を維持しつつ、反射特性と製造コストとを比較考量しながら、各層の膜厚を調整する手法を、とりあえずは試みると考えられる。この場合、後述するように、引用発明7-2の反射色相が式(2)を満足する蓋然性は高く、仮に満足していなかったとしても、式(2)で特性される数値範囲から大きく外れるものではないことから、反射色相の目標値として式(2)の条件を満たすように膜厚調整をしても、引用発明7-2が、本願発明の「高屈折率層の厚みが、10nm?25nmであり」という要件から外れるほどの調整が必要となるものではないと認められる。
すなわち、相違点2に係る、反射色相の要件は、「0≦a^(*)≦15、-20≦b^(*)≦0」というものであるから、ある程度、赤(0≦a^(*)≦15)や青(-20≦b^(*)≦0)に視認されても構わないものである。
これに対して、引用発明7-2の「反射防止フィルタ」は、黄?緑(500?595nm程度)の反射率よりも、青?青緑(435nm?500nm)や橙?赤(595nm?750nm程度)の反射率の方が高いとしても、その程度は高々2%程度である。
そうしてみると、引用発明7-2それ自体が、相違点2に係る本願発明の要件を満たしている蓋然性が高いと認められるから、上記のとおり、反射色相を無色にするという周知の課題に基づいて、引用発明7-2の各層の膜厚を微調整した当業者が、相違点2に係る本願発明の要件を満たすものとすることもまた、容易になし得る事項といえる。

(4)発明の効果
本件出願の明細書の段落【0009】には、発明の効果について次の記載がある。
「本発明によれば、特定の樹脂組成物を用いてウェットプロセス(塗布および硬化)により中屈折率層を形成し、かつ、基材、中屈折率層および高屈折率層の屈折率が上記式(1)を満足するように最適化されていることにより、高屈折率層の厚みを従来に比べて格段に薄くしつつ、広帯域において優れた反射性能(低反射性)を有し、かつニュートラルに近い優れた反射色相を有する反射防止フィルムを得ることができる。加えて、本発明によれば、ウェットプロセスを用いることにより、および、高屈折率層の厚みを薄くすることができることにより、高生産性かつ低コストの製造方法を実現することができる。」
しかしながら、これらの効果は、引用発明7-2も奏する効果であるか、引用文献9ないし10から当業者が予測し得る範囲内のものである。

(5)審判請求人の主張
請求人は、審判請求書の2頁下から3行から3頁20行において、「引用文献7は、反射防止フィルムの反射色相を開示も示唆もしていません。・・・引用文献7は、本願の如く、低い視感反射率を得つつ、さらに、反射光の色付き低減をも実現するという技術的思想を開示していません。
拒絶査定においては、本願で規定する反射色相は、引用文献9および10に記載されているとされています。しかしながら、引用文献9および10においては、反射防止フィルムを設計する思想が、引用文献7(ならびに、本願発明および引用文献8)とは全く異なります。引用文献9には、高屈折率層を配置して、当該高屈折率層を最適化するという技術的思想が存在しません。また、引用文献10においては、プラズマCVD法等の乾式法で、中屈折率層を形成しています。このように、引用文献9および10の反射防止フィルムは、引用文献7(ならびに、本願発明および引用文献8)とは異なる技術的思想をもとに設計され、引用文献7に記載の反射防止フィルムとは全く異なる構成を有します。したがって、引用文献7と、引用文献9または10とを組み合わせることはできず・・・」などと主張する。
しかしながら、拒絶査定は、反射色相を、本願発明の要件を満たす程度に無色とすることが周知であることを、引用文献9及び10を例示しつつ、「反射色相を0≦a^(*)≦15、-20≦b^(*)≦0とする周知の手法を引用文献7に対しても採用してみることは、当業者であれば適宜なし得る事項に過ぎない」と説示するものであり、その結論に誤りはない。

(6)小括
本願発明は、引用文献7に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(7)備考
前記(3)で述べたとおりであるから、本願発明は、引用発明7-2と同一であるということもできる。そうしてみると、本願発明は、審査において通知された拒絶の理由(平成30年5月24日付け拒絶理由通知書の理由1)のとおり、引用文献7に記載された発明であるということもできる。

第3 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2020-03-16 
結審通知日 2020-03-17 
審決日 2020-03-31 
出願番号 特願2014-11689(P2014-11689)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池田 博一  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 早川 貴之
里村 利光
発明の名称 反射防止フィルムおよびその製造方法  
代理人 籾井 孝文  

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