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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1362212
審判番号 不服2019-5489  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-24 
確定日 2020-05-14 
事件の表示 特願2014-207601「電磁波シールド材」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月12日出願公開、特開2016- 76664〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年10月8日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年6月21日付け:拒絶理由通知書
平成30年8月6日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年1月28日付け:拒絶査定
平成31年4月24日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 平成31年4月24日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成31年4月24日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。

「 少なくとも3枚の金属箔が絶縁層を介して積層された構造を有する電磁波シールド材であって、
各金属箔の厚みが20?50μmであり、各絶縁層の厚みが7?20μmであり、金属箔の合計厚みが50?150μmであり、シールド材の全体の厚みが70?200μmである電磁波シールド材。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成30年8月6日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「 少なくとも3枚の金属箔が絶縁層を介して積層された構造を有する電磁波シールド材であって、
金属箔の合計厚みが50?150μmであり、シールド材の全体の厚みが70?200μmである電磁波シールド材。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「金属箔」、「絶縁層」について、それぞれ「各金属箔の厚みが20?50μmであり」、「各絶縁層の厚みが7?20μmであり」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記「1 (1)」に記載したとおりのものである。

(2)引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-243292号公報(以下「引用文献1」という。)には、「電波又は磁波のシールド」に関して、図面とともに、次の記載がある。なお、下線は当審で付与した。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電波又は磁波のシールド(電磁波シールド)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、電磁波対策として一般的に使用されている電波又は磁波のシールドとしては、次の如き構成が知られている。
【0003】1)厚さが1ミリ以上ある鉄、銅、アルミニウム等の単独またはその合金を使用した壁材。
2) 導電性のある金属を対象物の内面又は外面にメッキし、溶射し又は蒸着したもの。
3) 炭素繊維、金属繊維を不織布、織布に単独でまたは混紡にして導電性布としたもの。
4) 導電性素材の鉄、ニッケル、銅、コバルト、アルミニウム、金、銀などの単独またはそれらの化合物や混合物を、単独又はプラスチックに混入して成型品にしたり、塗料に配合して塗装したもの。
【0004】ところが、一般的に電磁波シールド材として市場において使用されているものの大半は、導電性を利用した電波シールドを主眼としたものであり、磁波シールド性は非常に低い。そして、電波のみならず高周波や磁波を遮蔽するには、例えば3ミリ程度の厚みのある鉄板やアルミニウム板を使用する必要がある。しかし、このように厚い板をシールドとして用いると、施工が困難で価格的にも非常に高価なものとなるといった問題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】かかる従来の実情に鑑みて、本発明は、磁波及び高周波の電波をシールドすることが可能で、薄く形成でき、しかも経済性に優れた電波又は磁波のシールドを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明に係る電波又は磁波のシールドの特徴は、一対の導電層を設け、これら導電層の間に絶縁層を設けてなることにある。
【0007】本発明に係る電波又は磁波のシールドの他の特徴は、絶縁層を一対設け、これら一対の絶縁層の間に他の導電層をさらに設けてなることにある。」

イ 「【0013】
【発明の実施の形態】次に、添付図面を参照しながら、本発明をさらに詳しく説明する。図1は、本発明にかかる電波又は磁波のシールド1aの一例を示す断面図である。この電波又は磁波のシールド1aは、導電層たる一対のアルミニウム箔11a,12aを設け、これら導電層11a,12aの間に絶縁層たるポリエチレンテレフタートフィルム(以下、単に「PET」と称する。)13aを設けてなる。アルミニウム箔11a,12aの厚さは15ミクロン程度、PETの厚さは25ミクロン程度であるが、これら各層の厚さはこの値に限定されず、適宜変更が可能である。
【0014】本実施形態では、各層に箔又はフィルムを用いているが、本発明における各層は蒸着薄膜、金属メッキや塗膜等で構成してもよい。なお、使用する各層の材質に応じて積層に使用する手段は特に限定されるものではないが、一般的には接着剤や粘着剤を用いた積層方法が使用できる。また、各層を形成する基材そのもの又はそれらの表面に融着性樹脂を加工したものを使用した場合は、加熱圧着による積層方法が使用できる。本実施形態では各層の接着剤として例えばポリエステルー-イソシアネート架橋型の接着剤を用いているが、その他、この積層に使用できる接着剤や粘着剤としてはアクリル系、エステル系、エポキシ系、ウレタン系、シリコン系、ゴム系、オレフィン系、アミド系、メラミン系、ビニルエーテル系やさらには天然物系のデンプン、カゼイン、にかわ等を用いてもよい。
【0015】導電層11a,12aとしては、アルミニウム箔の他、一般に使用される銅、アルミニウム、鋼、亜鉛又はニッケルなどの金属箔、炭素を配合したフィルム状物、炭素繊維を用いた織物、メッシュ状又は不織布、導電素材を配合した導電性塗料より得られた塗膜が使用できる可能性がある。一方、絶縁層13aとしては、ゴム、プラスチック、セラミックなどの素材を用いたフィルム又は塗料から得られた塗膜を用いることができる。」

ウ 「【0023】本発明の第一実施例で使用する基本構成は、上記図1の第一実施形態に示した電波又は磁波のシールド1aである。試験対象となる試料は、次の表1に示す通りであり、比較例として3mm厚のアルミニウム板を用いている。同表において、「高Al」とは純度99.99%以上の高純度アルミニウム箔、「低Al」とは純度99.3%以上の低純度アルミニウム箔、「PET]とは上述のポリエチレンテレフタートフィルムを意味する。試料A1のみPETを介在させずに2枚の高純度アルミニウム箔を重ねている。」

エ 「【0029】本発明の第二実施例で使用する基本構成は、上記図1の第一実施形態に示した電波又は磁波のシールド1a(試料B1)の他、3層のアルミニウム層間にPETを介在させたもの(試料B2)を用いている。試料Bは、換言すると、一対の導電層の間に一対の絶縁層を設け、さらにこの一対の絶縁層の間に他の導電層を設けた構成となっている。試験対象となる試料は、次の表4に示す通りである。なお、本実施例では、PETと低Alをあらかじめ貼り合わせた材料を用いている。
【0030】
【表4】
発信側 受信側
試料B1 PET/低Al/低Al/PET
試料B2 PET/低Al/PET/低Al
試料B3 PET/低Al/PET/低Al/PET/低Al
【0031】かかる3つの試料と3mm厚のアルミニウム板とを用いた測定結果のうち、電波シールド性に関する結果を次の表5及び図9に、磁波シールド性に関する結果を次の表6及び図10にそれぞれ示す。
【0032】
【表5】


【0033】
【表6】


【0034】表5より、一対の箔間にPETを介在させた試料B2の構成は、300MHz?1GHzの高周波領域において、PETを介在させない試料B1よりも顕著な電波シールド性の向上が確認された。また、表6より、PETを介在させた試料B2の構成は、10MHz?1GHzの領域において、PETを介在させない試料B1よりも顕著な磁波シールド性の向上が確認された。特に、PETを介在させた3層構造の試料B3は、1MHz?1GHzの領域においては、電波シールド性に関し3mmアルミニウム板に近似又はこれを越える磁波シールド性を発揮し、10MHz?1GHzの領域においては、磁波シールド性に関し3mmアルミニウム板に近似又はこれを越える磁波シールド性を発揮することが確認された。」

・上記エによれば、試料B3は、PET、低Al、PET、低Al、PET、低Alがこの順に積層されているものである。
・上記イによれば、PETは絶縁層となるものである。
・上記ウによれば、低Alとは低純度アルミニウム箔を意味するものである。
・上記エの段落【0034】の「1MHz?1GHzの領域においては、電波シールド性に関し3mmアルミニウム板に近似又はこれを越える磁波シールド性を発揮し、10MHz?1GHzの領域においては、磁波シールド性に関し3mmアルミニウム板に近似又はこれを越える磁波シールド性を発揮することが確認された。」との記載は、「1MHz?1GHzの領域においては、電波シールド性に関し3mmアルミニウム板に近似又はこれを越える電波シールド性を発揮し、10MHz?1GHzの領域においては、磁波シールド性に関し3mmアルミニウム板に近似又はこれを越える磁波シールド性を発揮することが確認された。」との記載の誤記であることが明らかである(下線は当審で付与した)。したがって、上記エによれば、試料B3は電波シールド性及び磁波シールド性を発揮するものである。

そうすると、電波又は磁波のシールドとして試料B3を用いた実施例に着目し、上記摘示事項および図面を総合勘案すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「PET、低純度アルミニウム箔、PET、低純度アルミニウム箔、PET、低純度アルミニウム箔がこの順に積層されている試料B3であって、PETは絶縁層となるものであり、電波シールド性及び磁波シールド性を発揮する電波又は磁波のシールドに用いる試料B3。」

(3)対比
そこで、本件補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「電波シールド性及び磁波シールド性を発揮する電波又は磁波のシールドに用いる試料B3」は、本件補正発明の「電磁波シールド材」に相当する。

イ 引用発明の「低純度アルミニウム箔」、「絶縁層となるものであ」る「PET」は、それぞれ本件補正発明の「金属箔」、「絶縁層」に相当する。

ウ 引用発明の「試料B3」は、「PET、低純度アルミニウム箔、PET、低純度アルミニウム箔、PET、低純度アルミニウム箔がこの順に積層されている」ものであるから、少なくとも3枚の低純度アルミニウム箔がPETを介して積層された構造を有するものである。
したがって、引用発明の「試料B3」が「PET、低純度アルミニウム箔、PET、低純度アルミニウム箔、PET、低純度アルミニウム箔がこの順に積層されている」ものであることは、本件補正発明の「電磁波シールド材」が「少なくとも3枚の金属箔が絶縁層を介して積層された構造を有する」ことに相当する。

エ 各金属箔の厚みについて、本件補正発明は「20?50μm」であるのに対し、引用発明ではその旨の特定はなされていない。

オ 各絶縁層の厚みについて、本件補正発明は「7?20μm」であるのに対し、引用発明ではその旨の特定はなされていない。

カ 金属箔の合計厚みについて、本件補正発明は「50?150μm」であるのに対し、引用発明ではその旨の特定はなされていない。

キ シールド材の全体の厚みについて、本件補正発明は「70?200μm」であるのに対し、引用発明ではその旨の特定はなされていない。

そうすると、本件補正発明と引用発明とは、
「 少なくとも3枚の金属箔が絶縁層を介して積層された構造を有する電磁波シールド材。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
各金属箔の厚みについて、本件補正発明は「20?50μm」であるのに対し、引用発明ではその旨の特定はなされていない点。

<相違点2>
各絶縁層の厚みについて、本件補正発明は「7?20μm」であるのに対し、引用発明ではその旨の特定はなされていない点。

<相違点3>
金属箔の合計厚みについて、本件補正発明は「50?150μm」であるのに対し、引用発明ではその旨の特定はなされていない点。

<相違点4>
シールド材の全体の厚みについて、本件補正発明は「70?200μm」であるのに対し、引用発明ではその旨の特定はなされていない点。

(4)判断
ア 相違点1ないし4について
引用文献1の段落【0013】には、「アルミニウム箔11a,12aの厚さは15ミクロン程度、PETの厚さは25ミクロン程度であるが、これら各層の厚さはこの値に限定されず、適宜変更が可能である。」(上記「(2)イ」を参照。)と記載されている。ここで、「ミクロン」が「μm」を意味することは技術常識である。
そして、引用文献1には、試験対象とした「試料B3」におけるアルミニウム箔の厚みに関する明示が他にないことを考慮すると、引用発明の「試料B3」における各アルミニウム箔の厚みを、段落【0013】の記載にしたがって、15μm程度、又は15μmから適宜変更した値とし、かつ各PETの厚みを、段落【0013】の記載にしたがって、25μm程度、又は25μmから適宜変更した値とすることは、当業者が当然になし得たことである。
ここで、引用文献1の段落【0005】には、「磁波及び高周波の電波をシールドすることが可能で、薄く形成でき、しかも経済性に優れた電波又は磁波のシールドを提供することを目的とする」(上記「(2)ア」を参照。)と記載されているから、引用発明は、「電磁波シールド性を向上させること」や「シールドを薄く形成すること」を意図したものであるといえる。そして、引用発明において、各アルミニウム箔の厚みや、各PETの厚みを変更すると、シールド全体の電磁波シールド性やシールド全体の厚みが変わり得ることは当業者にとって明らかであるから、引用発明において、各アルミニウム箔の厚みを15μmから具体的にどのような値に変更し、各PETの厚みを25μmから具体的にどのような値に変更するかは、必要とされる「シールド全体の電磁波シールド性」及び「シールド全体の薄さ」を勘案して、当業者が適宜選択し得る範囲内のことである。したがって、引用発明において、シールド全体の電磁波シールド性をより高めるために、各アルミニウム箔の厚みを15μmよりも大きくし、例えば20μmとして相違点1に係る構成とするとともに、シールド全体の厚みが必要以上に大きくならないようにするために、各PETの厚みを25μmよりも小さくし、例えば20μmとして相違点2に係る構成とすることは、当業者が適宜なし得たことである。
さらに、引用発明において、各アルミニウム箔の厚みを20μmとするとともに各PETの厚みを20μmとする場合、3枚のアルミニウム箔の合計厚みが50?150μmの範囲内となって相違点3に係る構成となり、全体の厚みが70?200μmとなって相違点4に係る構成となることは明らかである。
よって、引用発明において、相違点1ないし4に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 審判請求人の主張について
(ア)相違点1について
審判請求人は、平成31年4月24日に提出された審判請求書において、相違点1に関して「引用文献1には、アルミニウム箔の厚さは適宜変更が可能であることが示唆されている。しかしながら引用文献1には電磁波シールド効果及び優れた成形加工性を有する電磁波シールド材を低コストで得るという観点で“一枚当たりの金属箔の厚み”を制御するという技術的思想は開示されていない。引用文献1には、全体の層厚を抑制するという技術的思想(引用文献1の段落0012)や、価格及び加工性の点でアルミニウム箔を使用するという技術的思想(段落0010)は開示されているが、これらは“一枚当たりの金属箔の厚み”を制御するという技術的思想とは異なる。」と主張している(下線は当審で付与した。)。
しかしながら、引用文献1の段落【0004】に「電波のみならず高周波や磁波を遮蔽するには、例えば3ミリ程度の厚みのある鉄板やアルミニウム板を使用する必要がある。しかし、このように厚い板をシールドとして用いると、施工が困難で価格的にも非常に高価なものとなるといった問題があった。」(上記「(2)ア」を参照。)と記載されているように、シールドを構成する金属箔の厚みを大きくすることにより電磁波シールド効果が高まる一方で、施工性や価格、すなわち成形加工性やコストが悪化することは当然のことである。このことは、引用発明における「一枚当たりのアルミニウム箔」の厚みについても同様であり、一枚当たりのアルミニウム箔の厚みを大きくすることにより電磁波シールド効果が高まる一方で、成形加工性や経済性が悪化することは、当業者にとって明らかである。したがって、引用発明において、一枚当たりのアルミニウム箔の厚みを「適宜変更した値とする」にあたり、電磁波シールド効果、成形加工性及びコストを勘案して厚みを決定することは当業者が当然になし得たことである。
また、各金属箔の厚みを「20?50μm」とすることについて、本願の発明の詳細な説明を参照すると、段落【0027】に「本発明に係る電磁波シールド材に使用する金属箔の厚みは、一枚当たり4μm以上であることが好ましい。4μm未満だと金属箔の延性が著しく低下し、シールド材の成形加工性が不十分となる場合がある。また、一枚当たりの箔の厚みが4μm未満だと優れた電磁波シールド効果を得るために多数の金属箔を積層する必要が出てくるため、製造コストが上昇するという問題も生じる。このような観点から、金属箔の厚みは一枚当たり10μm以上であることがより好ましく、15μm以上であることが更により好ましく、20μm以上であることが更により好ましく、25μm以上であることが更により好ましく、30μm以上であることが更により好ましい。一方で、一枚当たりの箔の厚みが50μmを超えても成形加工性を悪化させることから、箔の厚みは一枚当たり50μm以下であることが好ましく、45μm以下であることがより好ましく、40μm以下であることが更により好ましい。」と記載されている(下線は当審で付与した。)。そうすると、「20μm以上」との記載は単に「好ましい」値の範囲の一例として示されたものにすぎず、各金属箔の厚みが「20μm以上」であるか否かが、電磁波シールド効果、成形加工性、コストについて当業者が予測し得ない顕著な効果の有無を決定づけるものであるとはいえない。
さらに、段落【0041】-【0047】及び図2-8に記載された【実施例】を参照しても、本件補正発明のように各金属箔の厚みを「20?50μm」とすることによる有利性については、図7の(b)と(e)との比較から、「低周波領域においては各銅箔の厚みが大きい(e)の磁界シールド効果が優れていた」(【0045】)という、当業者が当然に予測できる効果が把握できるのみであるから、各金属箔の厚みが「20?50μm」である本件補正発明が、各金属箔の厚みが「20?50μm」ではない場合に比べて、電磁波シールド効果、成形加工性、コストについて当業者が予測し得ない顕著な効果を有するとは認められない。
よって、審判請求人の上記主張を採用することができない。

(イ)相違点2について
審判請求人は、平成31年4月24日に提出された審判請求書において、相違点2に関して「引用文献1には、PETの厚さは適宜変更が可能であることが示唆されている。しかしながら引用文献1には(伸び)破断歪に優れた電磁波シールド材を得るという観点で“一枚当たりの絶縁層の厚み”を制御するという技術的思想はない。」と主張している(下線は当審で付与した。)。
しかしながら、各絶縁層の厚みを「7?20μm」とすることについて、本願の発明の詳細な説明を参照すると、段落【0034】に「絶縁層の厚みは特に制限されないが、一枚当たりの厚みが7μmより薄いとシールド材の(伸び)破断歪が低下する傾向にあることから、絶縁層の一枚当たりの厚みは7μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。一方、一枚当たりの厚みが25μmを超えてもシールド材の(伸び)破断歪が低下する傾向にある。そこで、絶縁層の一枚当たりの厚みは25μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。」と記載されているのみである(下線は当審で付与した。)。そうすると、「20μm以下」との記載は単に「好ましい」値の範囲の一例として示されたものにすぎず、各絶縁層の厚みが「20μm以下」であるか否かが、(伸び)破断歪について当業者が予測し得ない顕著な効果の有無を決定づけるものであるとはいえない。
また、段落【0041】-【0047】及び図2-8に記載された【実施例】を参照すると、絶縁層として「厚さ12μmのPETフィルム」を用いたものしか開示されていない上に、「シールド材の(伸び)破断歪」の測定結果も示されていない。そうすると、発明の詳細な説明を参照しても、絶縁層の厚さが「7?20μm」である本件補正発明が、絶縁層の厚さが「7?20μm」ではない場合に比べてシールド材の(伸び)破断歪が高くなるという効果を有するものであるとする根拠は何ら示されていない。
さらに、本件補正発明のような「少なくとも3枚の金属箔が絶縁層を介して積層された構造を有する電磁波シールド材」において、どのような場合に「シールド材の(伸び)破断歪」が最適値となるかは、「各絶縁層の厚み」のみによって決まるものではなく、「各絶縁層の材料」や「金属箔及び絶縁層の層数」等によって変わり得るものであると認められる。しかしながら、本願補正発明では、「絶縁層」の材料は特定されていないし、「金属箔」が「少なくとも3枚」であるとの特定はあるものの「金属箔」及び「絶縁層」それぞれの具体的な層数は特定されていない。したがって、本願補正発明に含まれる全ての「電磁波シールド材」が、各絶縁層の厚みを「7?20μm」としない場合に比べて必ず「シールド材の(伸び)破断歪」が高くなるとは限らない。
以上のとおりであるから、発明の詳細な説明を参照しても、各絶縁層の厚みを「7?20μm」とすると、直ちに「シールド材の(伸び)破断歪に優れた電磁波シールド材」が得られることになると認めることはできない。そして、本願補正発明には「各絶縁層の厚みが7?20μmであ」るとの特定がなされているのみで、「(伸び)破断歪に優れた電磁波シールド材」であるとの特定はなされていないから、本願補正発明には「(伸び)破断歪に優れた電磁波シールド材を得るという観点で“一枚当たりの絶縁層の厚み”を制御するという技術的思想」が反映されているとはいえない。
よって、審判請求人の上記主張は請求項の記載に基づくものではなく、採用することができない。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成31年4月24日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年8月6日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記「第2 [理由]1 (2)」に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし10に係る発明は、その出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明又は下記の引用文献2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開平11-243292号公報
引用文献2:特開2003-60387号公報

3 引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項及び引用発明は、上記「第2 [理由]2 (2)」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、上記「第2 [理由]2」で検討した本件補正発明から、「各金属箔の厚みが20?50μmであり、各絶縁層の厚みが7?20μmであり」との限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記「第2 [理由]2 (3)及び(4)」に記載したとおり、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2020-03-13 
結審通知日 2020-03-17 
審決日 2020-03-30 
出願番号 特願2014-207601(P2014-207601)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 梅本 章子  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 須原 宏光
宮本 秀一
発明の名称 電磁波シールド材  
代理人 アクシス国際特許業務法人  

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