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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
管理番号 1362302
異議申立番号 異議2019-700501  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-06-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-06-24 
確定日 2020-03-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6445992号発明「ショウガオール類が富化されたショウガ加工物の製造方法およびショウガオール類の富化方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6445992号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕、5について訂正することを認める。 特許第6445992号の請求項1、2、5に係る特許を維持する。 特許第6445992号の請求項3、4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6445992号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成27年8月12日に出願された特願2015-159640号の一部を、平成28年3月30日に新たな特許出願としたものであって、平成30年12月7日にその特許権の設定登録がされ、同年同月26日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、令和元年6月24日に特許異議申立人佐藤武史(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。
令和元年 9月 3日付け:取消理由通知
同年11月 5日 :訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
同年12月27日 :意見書の提出(申立人)

2.訂正請求について
(1)本件訂正
以下、令和元年11月5日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。

(2)本件訂正の内容
本件訂正は、特許第6445992号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?5について訂正することを求めるものであり、その訂正の具体的な内容は、以下のとおりである。
なお、以下において、隅付き括弧は「[ ]」と表記した。
ア 訂正事項1 請求項1、2に係る訂正
特許請求の範囲の請求項1に「原料であるショウガを冷凍処理する冷凍工程と、」と記載されているのを、「ショウガオール類が富化されたショウガ加工物(但し、ショウガ以外の成分を含むものを除く。)の製造方法であって、原料であるショウガを冷凍処理する冷凍工程と、」に訂正する。
請求項1を引用する請求項2も同様に訂正する。

イ 訂正事項2 請求項1、2に係る訂正
特許請求の範囲の請求項1に「冷凍工程後のショウガを、水蒸気共存下、温度100℃以上150℃以下の条件で加熱処理する蒸気加熱工程と、を有する」と記載されているのを、「冷凍工程後のショウガを、水蒸気共存下、温度110℃以上130℃以下であり、圧力が0.13MPa以上0.30MPa以下である条件で加熱処理する蒸気加熱工程と、蒸気加熱工程後のショウガを乾燥する乾燥工程と、を有する」に訂正する。
請求項1を引用する請求項2も同様に訂正する。

ウ 訂正事項3 請求項3に係る訂正
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

エ 訂正事項4 請求項4に係る訂正
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

オ 訂正事項5 請求項5に係る訂正
特許請求の範囲の請求項5に「ショウガオール類の富化方法。」と記載されているのを、「ショウガオール類の富化方法(但し、ショウガ以外の成分を含むものを除く。)。」に訂正する。

カ 訂正事項6 請求項5に係る訂正
特許請求の範囲の請求項5に「冷凍処理されたショウガを、水蒸気共存下、温度100℃以上150℃以下の条件で加熱処理し、」と記載されているのを、「冷凍処理されたショウガを、水蒸気共存下、温度110℃以上130℃以下であり、圧力が0.13MPa以上0.30MPa以下である条件で加熱処理し、さらに蒸気加熱工程後のショウガを乾燥する工程を有する」に訂正する。

なお、訂正事項1?4に係る訂正前の請求項1?4について、請求項2?4は請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあり、訂正後の請求項1、2は訂正事項1、2によって直接又は連動して訂正され、訂正後の請求項3、4は訂正事項3、4によって削除される。また、訂正事項5、6に係る訂正前の請求項5は独立形式の請求項であるところ、訂正後も独立形式の請求項5に訂正される。よって、本件訂正は、それぞれ一群をなす請求項〔1?4〕、5について請求されたものである。

(3)訂正の適否についての判断
ア 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(ア)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた「ショウガオール類が富化されたショウガ加工物の製造方法」から、ショウガ加工物が「ショウガ以外の成分を含むもの」である場合を除くことにより、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1は、令和元年9月3日付け取消理由通知の理由III(サポート要件)の「(1)ショウガ以外の成分について」において、「本件明細書には、本件発明1の『ショウガ加工物の製造方法』において、ショウガ以外の成分を使用できることは特段記載されていない」こと、及び「『ショウガ以外の成分を使用しないこと』が特定されていない本件発明1は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超える」ことを指摘したことを踏まえて、本件明細書にもともと記載されていなかった態様である、ショウガ加工物が「ショウガ以外の成分を含むもの」である場合を請求項1から明示的に除外するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
さらに、訂正事項1は、請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
加えて、請求項1を引用する請求項2も同様に訂正される。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(イ)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項1に記載されていた「冷凍工程後のショウガを、水蒸気共存下、温度100℃以上150℃以下の条件で加熱処理する蒸気加熱工程」について、訂正前の請求項4及び段落0035等に記載されていた事項に基づいて「蒸気加熱工程後のショウガを乾燥する乾燥工程」を有するという発明特定事項、及び訂正前の請求項3及び段落0030等に記載されていた事項に基づいて「圧力が0.13MPa以上0.30MPa以下」で加熱処理するという発明特定事項を直列的に付加することにより、特許請求の範囲を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項2は、請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
さらに、請求項1を引用する請求項2も同様に訂正される。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(ウ)訂正事項2、3について
訂正事項3、4は、それぞれ請求項3、4を削除する訂正であるから、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項3、4は、いずれも請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項3、4は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(エ)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項5に記載されていた「ショウガオール類の富化方法。」から、「ショウガ以外の成分を使用する態様」を除くことにより、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項5は、令和元年9月3日付け取消理由通知の理由III(サポート要件)の「(1)ショウガ以外の成分について」において、「本件発明1と同様の記載を含む本件発明5についても、『ショウガ以外の成分を使用しないこと』は特定されていないから、本件発明1と同様の理由により、・・・発明の詳細な説明に実質的に記載されたものとすることができない」と指摘したことを踏まえて、本件明細書にもともと記載されていなかった態様である、「ショウガ以外の成分を使用する態様」を明示的に請求項5から除外するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
さらに、訂正事項5は、請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(オ)訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の請求項5に記載されていた「冷凍工程後のショウガを、水蒸気共存下、温度100℃以上150℃以下の条件で加熱処理」するという発明特定事項について、訂正前の請求項4及び段落0035等に記載されていた事項に基づいて「さらに蒸気加熱工程後のショウガを乾燥する工程を有する」という発明特定事項、及び訂正前の請求項3及び段落0030に記載されていた事項に基づいて「圧力が0.13MPa以上0.30MPa以下である条件」で加熱処理するという発明特定事項を直列的に付加することにより、特許請求の範囲を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項6は、請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

イ 独立特許要件について
本件においては、訂正前のすべての請求項1?5に対して特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1?5に係る訂正事項1?6については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

ウ 小括
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、訂正後の請求項〔1?4〕、5について訂正することを認める。

3.本件発明について
本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明5」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「[請求項1]
ショウガオール類が富化されたショウガ加工物(但し、ショウガ以外の成分を含むものを除く。)の製造方法であって、
原料であるショウガを冷凍処理する冷凍工程と、
冷凍工程後のショウガを、水蒸気共存下、温度110℃以上130℃以下であり、圧力が0.13MPa以上0.30MPa以下である条件で加熱処理する蒸気加熱工程と、
蒸気加熱工程後のショウガを乾燥する乾燥工程と、
を有することを特徴とするショウガオール類が富化されたショウガ加工物の製造方法。
[請求項2]
前記冷凍工程における温度が、-10℃以下である請求項1に記載のショウガ加工物の製造方法。
[請求項3](削除)
[請求項4](削除)
[請求項5]
冷凍処理されたショウガを、水蒸気共存下、温度110℃以上130℃以下であり、圧力が0.13MPa以上0.30MPa以下である条件で加熱処理し、さらに蒸気加熱工程後のショウガを乾燥する工程を有するショウガに含まれるジンゲロール類をショウガオール類へ変換するショウガオール類の富化方法(但し、ショウガ以外の成分を含むものを除く。)。」


4.取消理由の概要
本件訂正前の請求項1?5に係る特許に対して令和元年9月3日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)理由I(新規性)
本件訂正前の請求項1?3、5に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)理由II(進歩性)
(2-1)引用文献1を主引用例とする場合
本件訂正前の請求項1?3、5に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明及び周知の技術的事項(引用文献2?6)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2-2)引用文献7を主引用例とする場合
本件訂正前の請求項1?5に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献7に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明及び周知の技術的事項(引用文献1?6)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(3)理由III(サポート要件)
本件特許は、本件訂正前の特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件訂正前の請求項1?5に係る発明についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(3-1)ショウガ以外の成分について
(3-2)蒸気加熱工程の条件について

<引用文献等一覧>
1.marilin36, "オモニ・(当審注:塗りつぶされた五芒星を「・」と表記した。)スペアリブと大根のカムジャタン", クックパッド, レシピID:1398040, [online], 2011年3月31日, [検索日 2019年6月21日], <URL:https://cookpad.com/recipe/1398040>(甲第1号証)
2.特開2004-254988号公報(甲第2号証)
3.特開2003-52535号公報(甲第3号証)
4.マツジョン, "・(当審注:塗りつぶされた五芒星を「・」と表記した。)「電子レンジ圧力鍋」の実力は??温度と調理時間", ブログ「家と子供と、今日のおじさん(仮)」, [online], 2012年11月9日, [検索日 2019年6月21日], <URL:https://glink.blog.fc2.com/blog-entry-704.html>(甲第4号証)
5.特開2009-47400号公報(甲第5号証)
6.特開平7-155132号公報(甲第6号証)
7.株式会社oricon ME, "いつでもポカポカ冷え対策に! 生姜パウダーお手軽レシピ", 「eltha」レシピ, [online], 2013年11月29日, [検索日 2019年6月21日], <URL:https://beauty.oricon.co.jp/special/100048/>(甲第7号証)

5.取消理由通知に記載した取消理由についての判断
(1)理由I(新規性)及び理由II(進歩性)について
ア 引用文献及びその記載事項
引用文献1?7は、上記4.「取消理由の概要」の<引用文献等一覧>に記載した文献である。
(i)引用文献1に記載された事項
引用文献1には、以下の事項が記載されている。
(1-1)「オモニ・(当審注:塗りつぶされた五芒星を「・」と表記した。)スペアリブと大根のカムジャタン
・・・
材料(5人分)
・・・
新鮮冷凍生姜・・・大2かけ(丸ごと)」(第1頁上段)

(1-2)「1 (当審注:写真を省略した。)
スペアリブは圧力鍋に油を引かずに焼き付けて、焦げ目をつける。(旨みが逃げない)
2 (当審注:写真を省略した。)
肉が焼けたら、上から大根・人参・にんにく・生姜を投入。
水・ヌクマムを加えて蓋をし蒸気が出たら1分加圧。」(第1頁中段)

(ii)引用文献2に記載された事項
引用文献2には、以下の事項が記載されている。
(2-1)「[請求項1]・・・電気圧力鍋。」

(2-2)「[0079]
その結果、やがて圧力鍋の温度が目標とする圧力制御温度130℃に近付き、高圧状態(2気圧付近)になる。」

(iii)引用文献3に記載された事項
引用文献3には、以下の事項が記載されている。
(3-1)「[請求項1]・・・電磁調理器用圧力容器。」

(3-2)「[0025]本実施例では・・・圧力鍋1内の圧力は大気圧の約2倍になり、常圧と比べて高速で調理を行うことができる。なお、・・・110℃?140℃程度が適している。」

(iv)引用文献4に記載された事項
引用文献4には、以下の事項が記載されている。
(4-1)「先日、スーパーで、面白い調理器具を発見しました。電子レンジで調理ができる、圧力鍋です。・・・材質はプラスチックのようですが、詳細は不明です。」(第1頁中段?下から2行)

(4-2)「1)の圧力と温度の関係は、『アントワンの式(Antoine equation)』で表されます・・・。この式を図示したのが、下図1です。
(当審注:図1を省略した。)
一般の圧力鍋、および電子レンジ圧力鍋の調理中の圧力は、次の通りです。・・・
a)電子レンジ圧力鍋 :0.127MPa
b)一般の圧力鍋(低圧モード):0.17MPa
c)一般の圧力鍋(高圧モード):0.20MPa
d)普通の鍋(圧力鍋でない ):0.10MPa
・・・約1気圧≒0.1MPaです。0.1MPa+動作圧力(圧力調整部が働く圧力)が、圧力鍋の中の圧力になります。
図1には、各圧力鍋の調理時の圧力を示しました。この図から、各圧力鍋の調理温度が分かります。
a)電子レンジ圧力鍋 :約107℃
b)一般の圧力鍋(低圧モード):約116℃
c)一般の圧力鍋(高圧モード):約120℃
d)普通の鍋(圧力鍋でない ):約100℃
・・・電子レンジ圧力鍋の調理は、どれくらい早い?
温度の差は僅かだなあ、と思うかもしれません。しかし、少しの温度の差が、煮えのスピードに大きな影響を与えます。このことが、圧力鍋の調理が早い秘密なのです。」(第2頁中段?下から6行)

(v)引用文献5に記載された事項
引用文献5には、以下の事項が記載されている。
(5-1)「[0058]生鮮食品の冷凍温度は、-20℃冷凍庫では長時間冷凍となり、・・・芯部に-20℃が到達するまでに・・・表面水分蒸散・・・内部生態液水分の浸透圧細胞外漏洩、及び氷結晶の肥大化・・・、本発明によって瞬間的冷凍加工の後で-20℃冷凍保管倉庫に保管すれば、企業メリットは大きい。」

(vi)引用文献6に記載された事項
引用文献6には、以下の事項が記載されている。
(6-1)「[請求項2] 生ショウガを脱皮し、必要により適当な大きさにカットしてから、粉砕し、容器に充填、密封した後、-5°C?-40°Cで10日間以上冷凍保存することを特徴とする請求項1記載の粉砕生ショウガの製造方法。」

(6-2)「[0001]
[産業上の利用分野]本発明は、粉砕生ショウガの製造方法に関するものであり、さらに詳細には、加熱処理をせずに生菌数を減少させた粉砕生ショウガの製造方法に関するものである。」

(6-3)「[0011]続いて、上記容器を冷凍庫などに入れて粉砕生ショウガを冷凍保存する。冷凍に際しては、生ショウガの品質を損なわないようにするために、急速冷凍することが好ましい。また、冷凍温度は-5°C?-40°Cにすることが好ましく、さらに好ましくは-10°C?-40°Cがよい。さらに、保存期間は10日間以上が好ましく、さらに好ましくは30日間以上がよい。」

(vii)引用文献7に記載された事項
引用文献7には、以下の事項が記載されている。
(7-1)「体がポカポカと温まるショウガパワー。近ごろは冬に近づくとショウガを使った商品が続々と発売されています。生のショウガに多数含まれる『ジンゲロール』は殺菌対策として重宝されていますが、これからの季節に大活躍するのが、ショウガを加熱することで増える『ショウガオール』です。
さらに注目を集めているのが蒸しショウガ。ショウガを蒸し、乾燥させることで『ショウガオール』が増加。さらに、脂肪燃焼をサポートするためダイエットにも良いと言われているのです。
この蒸しショウガを粉末状のふりかけにすれば、さまざまな料理に使えてとっても便利!漢方で買うとそこそこ値段がはりますが、自分で作るならショウガ代&光熱費のみで済んじゃうのです。『とはいえ手間がかかるのは面倒』という方のために、シリコンスチーマーを使った簡単レシピを紹介します。」(第1頁左下欄)

(7-2)「ショウガの保存方法
・・・
長期保存をしたいときは、すりおろして冷凍するのが良いでしょう。」(第1頁末行?第2頁6行)

(7-3)「ショウガパウダーの作り方
・・・いつでもどこでも持ち歩ける素敵な方法が、パウダーにしたもの。『蒸して干す』とさらにショウガパワーがUP! そんなショウガパウダーの作り方をご紹介します。
・・・
[2]スライスしたショウガを蒸す。
シリコンスチーマーを使うと簡単です。スチーマーにスライスしたショウガを並べ電子レンジで約10?15分加熱。甘い香りがしてきたら完了の合図。
・・・
[3]天日干し、もしくは室内乾燥をさせる。
蒸しあがったショウガを重ならないように並べて干す。天日干しなら1日、室内干しなら1週間くらいで完成! 乾燥が充分ではないとカビが生えやすくなるので、カリッとするまで干しましょう。」(第2頁7行?下から4行)

イ 引用文献に記載された発明
(ア)引用文献1に記載された発明
引用文献1には、「オモニ・(当審注:塗りつぶされた五芒星を「・」と表記した。)スペアリブと大根のカムジャタン」という料理のレシピが記載されており(摘記1-1)、材料(5人分)の一つとして「新鮮冷凍生姜・・・大2かけ(丸ごと)」を用いること(摘記1-1)、及び調理の第1工程で、「スペアリブ」を「圧力鍋に油を引かずに焼き付けて、焦げ目をつけ」、第2工程で、「肉が焼けたら、上から大根・人参・にんにく・生姜を投入」し、「水・ヌクマムを加えて蓋をし蒸気が出たら1分加圧」すること(摘記1-2)が記載されている。
ここで、第1工程及び第2工程においては、圧力鍋は、肉が焼けるように加熱されていることが明らかであり、また、第2工程により、生姜は他の材料とともに圧力鍋で加工されているといえるから、引用文献1には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「新鮮冷凍生姜を、加熱された圧力鍋に投入し、水・ヌクマムを加えて蓋をし蒸気が出たら1分加圧及び加熱する工程を有する、生姜加工物の製造方法。」(以下、「引用発明1」という。)
また、同様の理由により、引用文献1には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「新鮮冷凍生姜を、加熱された圧力鍋に投入し、水・ヌクマムを加えて蓋をし蒸気が出たら1分加圧及び加熱する工程を有する、生姜の加熱処理方法。」(以下、「引用発明1’」という。)

(イ)引用文献7に記載された発明
引用文献7には、「蒸しショウガを粉末状のふりかけにす」るための、「シリコンスチーマーを使った・・・レシピ」が記載されており(摘記7-1)、「ショウガパウダーの作り方」の第2工程において、「スチーマーにスライスしたショウガを並べ電子レンジで約10?15分加熱」すること、及び第3工程において、「蒸しあがったショウガを重ならないように並べて干す。天日干しなら1日、室内干しなら1週間くらい」を行うこと(摘記7-3)が記載されている。また、第2工程の写真(当審注:摘記を省略した。)から、電子レンジ内に配置されたシリコンスチーマーには蓋がされていることが看取される。
ここで、上記第2工程及び第3工程により、ショウガは加工されているといえる。また、引用文献7(摘記7-1)に、「生のショウガに・・・ジンゲロール」が含まれ、「ショウガを加熱することで・・・ショウガオール」が増えること、及び「ショウガを蒸し、乾燥させることで『ショウガオール』が増加」することが記載されているように、ショウガを加熱することで、加熱前のショウガに含まれるジンゲロールがショウガオールに変換され、ショウガオールが増えることは、本件特許に係る出願の出願前に周知の技術的事項であるから、上記レシピにおける加熱工程においても、加熱前のショウガに含まれるジンゲロールがショウガオールに変換され、ショウガオールが増加しているといえる。
そうすると、引用文献7には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「シリコンスチーマーにスライスしたショウガを並べ、蓋をして、電子レンジで約10?15分加熱する工程、及び蒸しあがったショウガを重ならないように並べて、天日干し又は室内干しする工程を有する、ショウガオールが増加したショウガ加工物の製造方法。」(以下、「引用発明7」という。)
また、同様の理由により、引用文献7には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「シリコンスチーマーにスライスしたショウガを並べ、蓋をして、電子レンジで約10?15分加熱する工程を有する、ショウガに含まれるジンゲロールをショウガオールに変換し、ショウガオールを増加させる方法。」(以下、「引用発明7’」という。)

ウ 理由I(新規性)及び理由II(進歩性):引用文献1を主引用例とする場合の判断
(ア)本件発明1について
(ア-1)本件訂正について
上記2.(3)ア(イ)「訂正事項2について」に記載したとおり、本件訂正後の本件発明1は、訂正前の請求項4等に記載されていた「蒸気加熱工程後のショウガを乾燥する乾燥工程」という発明特定事項を含むものである。
ここで、取消理由通知に記載した「理由I(新規性)」及び「理由II(進歩性):引用文献1を主引用例とする場合」のいずれの取消理由も、本件訂正前の請求項4を対象とするものではなかったから、本件訂正後の本件発明1は、上記のいずれの取消理由によっても取り消すことができない。
なお、特許異議申立書に記載された甲第1号証(引用文献1)に基づく取消理由も、訂正前の請求項4を対象としていない。また、申立人は、令和元年12月27日に意見書を提出しているが、本件発明1について、引用発明1(甲第1号証)に基づく主張はしていない。

(ア-2)本件発明1と引用発明1との対比
念のため、本件発明1と引用発明1とを具体的に対比すると、引用発明1における「新鮮冷凍生姜」、「蒸気」、「加熱」及び「生姜加工物の製造方法」は、それぞれ本件発明1における「冷凍工程後のショウガ」、「水蒸気」、「加熱」及び「ショウガ加工物の製造方法」に相当する。また、引用発明1における「蒸気が出た」状態での「加熱」は、本願発明1における「水蒸気共存下、加熱処理する蒸気加熱」に相当する。
そうすると、両者は、
「ショウガ加工物の製造方法であって、冷凍工程後のショウガを、水蒸気共存下、加熱処理する蒸気加熱工程を有する、ショウガ加工物の製造方法。」の点で一致し、
相違点1:ショウガ加工物が、本件発明1においては「ショウガオール類が富化された」ものであることが特定されているのに対し、引用発明1においてはそのように特定されていない点、
相違点2:ショウガ加工物が、本件発明1においては「但し、ショウガ以外の成分を含むものを除く」ものであることが特定されているのに対し、引用発明1においては「ヌクマム」が加えられている点、
相違点3:本件発明1は「原料であるショウガを冷凍処理する冷凍工程」を有するのに対し、引用発明1はそのような工程を明示的に含んでいない点、
相違点4:加熱処理の温度の条件が、本件発明1は「110℃以上130℃以下」であるのに対し、引用発明1においては温度が明らかでない点、
相違点5:加熱処理の圧力の条件が、本件発明1は「0.13MPa以上0.30MPa以下」であるのに対し、引用発明1においては圧力が明らかでない点、
相違点6:本件発明1は「蒸気加熱工程後のショウガを乾燥する乾燥工程」を有するのに対し、引用発明1は乾燥工程を有さない点、
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

(ア-3)相違点について
相違点6に係る「蒸気加熱工程後のショウガを乾燥する乾燥工程」という発明特定事項は、上記5.(1)ウ(ア)(ア-1)「本件訂正について」に記載したとおり、本件訂正前の請求項4等に記載されていた発明特定事項である。そして、相違点1?5と合わせて検討しても、相違点6を含む本件発明1については、取消理由通知に記載した「理由I(新規性)」及び「理由II(進歩性):引用文献1を主引用例とする場合」のいずれの取消理由によっても取り消すことはできない。

(ア-4)本件発明1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1は、取消理由通知に記載した「理由I(新規性)」及び「理由II(進歩性):引用文献1を主引用例とする場合」のいずれの取消理由によっても取り消すことができない。

(イ)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項をすべて含むとともに、さらなる発明特定事項により限定された発明である。
そうすると、本件発明2も実質的に上記相違点6に係る発明特定事項を含むものであるから、本件発明1と同様の理由により、取消理由通知に記載した「理由I(新規性)」及び「理由II(進歩性):引用文献1を主引用例とする場合」のいずれの取消理由によっても取り消すことができない。

(ウ)本件発明5について
(ウ-1)本件訂正について
上記2.(3)ア(オ)「訂正事項6について」に記載したとおり、本件訂正後の本件発明5は、訂正前の請求項4等に記載されていた「蒸気加熱工程後のショウガを乾燥する乾燥工程」という発明特定事項を含むものである。
ここで、取消理由通知に記載した「理由I(新規性)」及び「理由II(進歩性):引用文献1を主引用例とする場合」のいずれの取消理由も、本件訂正前の請求項4を対象とするものではなかったところ、本件訂正により実質的に訂正前の請求項4に記載されていた発明特定事項を含むこととなった本件発明5についても、実質的に「理由I(新規性)」及び「理由II(進歩性):引用文献1を主引用例とする場合」の取消理由の対象外であったと解することができるから、本件訂正後の本件発明5は、上記のいずれの取消理由によっても取り消すことができない。
なお、申立人は、令和元年12月27日に意見書を提出しているが、本件発明5について、引用発明1’(甲第1号証)に基づく主張はしていない。

(ウ-2)本件発明5と引用発明1’との対比
念のため、本件発明5と引用発明1’とを、上記5.(1)ウ(ア)(ア-2)「本件発明1と引用発明1との対比」を踏まえて具体的に対比すると、両者は、
「冷凍処理されたショウガを、水蒸気共存下、加熱処理する方法。」の点で一致し、
相違点7:加熱処理の温度の条件が、本件発明5は「110℃以上130℃以下」であるのに対し、引用発明1’においては温度が明らかでない点、
相違点8:加熱処理の圧力の条件が、本件発明5は「0.13MPa以上0.30MPa以下」であるのに対し、引用発明1’においては圧力が明らかでない点、
相違点9:本件発明5は「蒸気加熱工程後のショウガを乾燥する工程を有する」のに対し、引用発明1’は乾燥工程を有さない点、
相違点10:本件発明5は「ショウガに含まれるジンゲロール類をショウガオール類へ変換するショウガオール類の富化方法」であるのに対し、引用発明1’においてはそのように特定されていない点、
相違点11:本件発明5においては「但し、ショウガ以外の成分を使用する態様を除く」ことが特定されているのに対し、引用発明1’においては「ヌクマム」を加えている点、
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

(ウ-3)相違点について
相違点9に係る「蒸気加熱工程後のショウガを乾燥する工程を有する」という発明特定事項は、上記5.(1)ウ(ウ)(ウ-1)「本件訂正について」に記載したとおり、本件訂正前の請求項4等に記載されていた発明特定事項である。そして、相違点7、8、10、11と合わせて検討しても、相違点9を含む本件発明5については、取消理由通知に記載した「理由I(新規性)」及び「理由II(進歩性):引用文献1を主引用例とする場合」のいずれの取消理由によっても取り消すことはできない。

(ウ-4)本件発明5についてのまとめ
以上のとおり、本件発明5は、取消理由通知に記載した「理由I(新規性)」及び「理由II(進歩性):引用文献1を主引用例とする場合」のいずれの取消理由によっても取り消すことができない。

(エ)理由I(新規性)及び理由II(進歩性):引用文献1を主引用例とする場合のまとめ
したがって、取消理由通知に記載した理由I(新規性)及び理由II(進歩性):引用文献1を主引用例とする場合についての取消理由により、本件請求項1、2、5に係る特許を取り消すことはできない。

エ 理由II(進歩性):引用文献7を主引用例とする場合の判断
(ア)本件発明1について
(ア-1)本件発明1と引用発明7との対比
本件発明1と引用発明7とを対比すると、引用発明7における「スライスしたショウガ」、「加熱」、「蒸しあがったショウガを重ならないように並べて、天日干し又は室内干しする工程」、「ショウガオールが増加」及び「ショウガ加工物の製造方法」は、それぞれ本件発明1における「ショウガ」、「加熱」、「加熱工程後のショウガを乾燥する乾燥工程」、「ショウガオール類が富化された」及び「ショウガ加工物の製造方法」に相当する。
また、引用発明7においては、ショウガ以外の原料は使用されておらず、製造されるショウガ加工物はショウガ以外の成分を含まないから、本件発明1の「但し、ショウガ以外の成分を含むものを除く」という要件を満たすものである。
そうすると、両者は、
「ショウガオール類が富化されたショウガ加工物(但し、ショウガ以外の成分を含むものを除く。)の製造方法であって、ショウガを、加熱処理する加熱工程と、加熱工程後のショウガを乾燥する乾燥工程と、を有する、ショウガオール類が富化されたショウガ加工物の製造方法。」の点で一致し、
相違点12:本件発明1は、「原料であるショウガを冷凍処理する冷凍工程」を有し、「冷凍工程後のショウガ」を加熱処理するのに対し、引用発明7はそのような工程を含んでいない点、
相違点13:加熱処理の温度の条件が、本件発明1は「110℃以上130℃以下」であるのに対し、引用発明7においては温度が明らかでない点、
相違点14:加熱処理の圧力の条件が、本件発明1は「0.13MPa以上0.30MPa以下」であるのに対し、引用発明7においては圧力が明らかでない点、
相違点15:加熱処理が、本件発明1は「水蒸気共存下」で行われる「蒸気加熱工程」であるのに対し、引用発明7においては水蒸気共存下で行われるのか明らかでない点、
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

(ア-2)相違点12について
引用文献7(摘記7-2)には、「ショウガの保存方法」について「長期保存したいときは、すりおろして冷凍するのが良い」ことが記載され、また、引用文献1(摘記1-1)には、調理の材料として「新鮮冷凍生姜」を用いることが記載されているから、ショウガを材料として用いる調理において、「原料であるショウガを冷凍処理する冷凍工程」を経た「冷凍工程後のショウガ」を用いることは、本件特許に係る出願の出願前に一般的に行われていたことといえる。
しかし、後記5.(1)エ(ア)(ア-5)「本件発明1の効果について」に記載のとおり、「原料であるショウガを冷凍処理する冷凍工程」を経た「冷凍工程後のショウガ」を用いることと、所定の温度及び圧力で蒸気加熱処理することとの組合せにより、「従来の冷凍処理を行わずに蒸気加熱処理を行った場合と比較して、ジンゲロール類からのショウガオール類への変換効率が各段に向上し、生産性良くショウガオール類が富化されたショウガ加工物を製造することができる(本件明細書の[0019])という効果が得られることは、引用文献7、引用文献1及びその他の引用文献のいずれにも記載も示唆もされておらず、当業者が予測し得たこととも認められない。

(ア-3)相違点13及び14について
引用発明7における「シリコンスチーマー」は、蓋をした状態で電子レンジで加熱することができ、それによって内容物を「蒸しあ」げることができる調理器具であるから、「電子レンジ圧力鍋」の一種であるといえるところ、引用文献4(摘記4-1、4-2)には、「電子レンジ圧力鍋」を用いる調理の際の温度及び圧力について、「約107℃」及び「0.127MPa」であることが記載されている。これらの温度及び圧力は、いずれも本件発明1における「110℃以上130℃以下」及び「0.13MPa以上0.30MPa以下」と異なるから、相違点13及び14は実質的な相違点である。
ここで、引用文献4(摘記4-1、4-2)には、「電子レンジ圧力鍋」を用いる調理の際の温度(「約107℃」)及び圧力(「0.127MPa」)と、圧力鍋を用いる調理の際の温度(「約116℃」(低圧モード)又は「約120℃」(高圧モード))及び圧力(「0.17MPa」(低圧モード)又は「0.20MPa」(高圧モード))が並記され、また、「温度の差は僅か」ながらも、「少しの温度の差が、煮えのスピードに大きな影響を与え」、「圧力鍋の調理が早い」ことが記載されている。
そうすると、温度及び圧力の観点に限って検討すると、引用発明7における「シリコンスチーマー」に代えて一般的な圧力鍋を用いること、及びそれにより上記相違点13及び14に係る「110℃以上130℃以下」及び「0.13MPa以上0.30MPa以下」の加熱温度を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとも解し得る。
しかし、後記5.(1)エ(ア)(ア-5)「本件発明1の効果について」に記載のとおり、「原料であるショウガを冷凍処理する冷凍工程」を経た「冷凍工程後のショウガ」を用いることと、所定の温度及び圧力で蒸気加熱処理することとの組合せにより、「従来の冷凍処理を行わずに蒸気加熱処理を行った場合と比較して、ジンゲロール類からのショウガオール類への変換効率が各段に向上し、生産性良くショウガオール類が富化されたショウガ加工物を製造することができる(本件明細書の[0019])という効果が得られることは、引用文献7、引用文献4及びその他の引用文献のいずれにも記載も示唆もされておらず、当業者が予測し得たこととも認められない。

(ア-4)相違点15について
上記5.(1)エ(ア-3)「相違点13及び14について」に記載したとおり、引用発明7における「シリコンスチーマー」は、蓋をした状態で電子レンジで加熱することができ、それによって内容物を「蒸しあ」げることができる調理器具であるから、引用発明7における「シリコンスチーマー」による加熱は、「水蒸気共存下」で行われる「蒸気加熱工程」に相当するといえる。
よって、相違点15は実質的な相違点ではない。

(ア-5)本件発明1の効果について
本件訂正により、本件発明1における蒸気加熱工程が、「温度110℃以上130℃以下」であり、「圧力が0.13MPa以上0.30MPa以下」で行われることが特定された。
訂正後の温度範囲は、本件明細書の[0029]に、「よりショウガオール類への変換速度を高めることができる点で、好ましくは110℃以上130℃である」と記載された好ましい温度範囲であり、訂正後の圧力範囲は、本件明細書の[0030]に、「よりショウガオール類への変換速度を高めることができる点で、好ましくは0.13MPa以上である。圧力上限としては、本発明の効果を損なわない範囲で決定され、好ましくは0.3MPa以下である」と記載された好ましい圧力範囲である。
そして、本件明細書の[0046]?[0052]に記載された実施例1(冷凍処理を施したショウガを原料とし、水蒸気共存下、121℃、0.15MPaで5時間蒸気加熱処理した場合)、比較例1(冷凍処理のみを施した場合)及び比較例2(冷凍処理を行わず、水蒸気共存下、121℃、0.15?0.2MPaで15粉時間加熱処理した場合)の実験データを参照すると、実施例1の6-ショウガオールの含有量(3.21mg/g)及び割合(6-ショウガオール/6-ジンゲオール=1.82)は、比較例1の含有量(0.03mg/g)及び割合(0.04)並びに比較例2の含有量(1.45mg/g)及び割合(0.20)より大きくなっているから、本件発明1に特定される冷凍処理と蒸気加熱処理とを組み合わせることにより、ショウガオールの含有量及び割合が多いショウガ加工物を製造することができることを理解できる。
また、本件明細書の[0053]?[0059]に記載された参考例1(発酵液中に常温で24時間保持して得た発酵ショウガを、蒸し器に入れ、30℃?78℃で合計400時間熟成した場合)と、上記実施例1(冷凍工程及び蒸気加熱工程の合計時間で20時間処理した場合)の実験データを参照すると、参考例1の6-ショウガオールの含有量(3.09mg/g)は、長時間を要したにもかかわらず、実施例1の含有量(3.21mg/g)に届かなかったことが読み取れるから、本件発明1に特定される冷凍処理と蒸気加熱処理とを組み合わせることにより、従来の発酵液を使用する製造方法で得られるショウガ加工物と同等以上の6-ショウガオールを含有するショウガ加工物を短時間で製造することができることを理解できる。
そうすると、当業者は、本件明細書の記載に基づいて、冷凍処理を施したショウガを原料とすることと、実施例1の温度及び圧力を中心とする上記[0029]?[0030]に記載された好ましい範囲、すなわち本件発明1に特定されている温度及び圧力の熱処理との組合せにより、「従来の冷凍処理を行わずに蒸気加熱処理を行った場合と比較して、ジンゲロール類からのショウガオール類への変換効率が各段に向上し、生産性良くショウガオール類が富化されたショウガ加工物を製造することができる(本件明細書の[0019])という効果が得られると理解することができる。
このような効果は、引用文献1?7のいずれにも記載も示唆もされておらず、また、冷凍処理と特定の温度及び圧力の蒸気加熱工程との組合せにより上記の効果が得られることが、本件特許に係る出願の出願日前に周知の技術的事項であったとも認められない。
よって、本件訂正後の本件発明1は、引用文献1?7から予測し得ない顕著な効果ないし異質の効果を有するものと認められる。

(ア-6)申立人の主張について
申立人は、令和元年12月27日に提出した意見書(5?6頁)において、新たな証拠(甲第8号証、甲第13号証、甲第14号証等)を引用し、「ショウガに含まれるショウガオールの富化方法に係る技術分野において、本件特許に係る出願前に、冷凍ショウガを加熱することで優れたショウガオールの富化効果が得られることは周知であった。そして、生ショウガに比して冷凍ショウガがショウガオール及びジンゲロールを多く含むこと、冷凍ショウガをオートクレーブで蒸気加熱することにより、ジンゲロールのショウガオールへの変換が最も効率よく行われることも知られていた。よって、・・・引用文献7に記載の発明において、これらの周知・公知技術を適用・・・することは当業者にとって容易である。また、その構成による効果も甲13及び甲14の記載から予測し得る範囲に過ぎない。」と主張している。
しかし、上記意見書とともに提出された新たな証拠に基づく主張は、実質的に特許異議申立書に記載されていなかった新たな理由及び証拠の提示に当たるものと認められ、また、上記2.「訂正請求について」に記載した本件訂正の内容を踏まえると、訂正により追加された事項についての見解など訂正の内容に付随して生じる理由について主張するものとも認められないから、採用することができない。
なお、上記5.(1)エ(ア)(ア-5)「本件発明1の効果について」に記載したとおり、本件発明1に特定される冷凍処理と、温度及び圧力範囲が具体的に特定された蒸気加熱工程との組合せ、及びそのような具体的な組合せにより上記の効果が得られることは、本件特許に係る出願の出願日前に周知の技術的事項であったとは認められない。

(ア-7)本件発明1についてのまとめ
よって、本件発明1は、引用発明7及び周知の技術的事項(引用文献1?6等)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

(イ)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項をすべて含むとともに、さらなる発明特定事項により限定された発明である。
そうすると、本件発明2も本件発明1と同様の理由により、引用発明7及び周知の技術的事項(引用文献1?6等)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

(ウ)本件発明5について
(ウ-1)本件発明5と引用発明7’との対比
上記5.(1)エ(ア)(ア-1)「本件発明1と引用発明7との対比」を踏まえて、本件発明5と引用発明7’とを対比すると、両者は、
「ショウガを、加熱処理し、さらに加熱工程後のショウガを乾燥する工程を有するショウガに含まれるジンゲロール類をショウガオール類へ変換するショウガオールの富化方法(但し、ショウガ以外の成分を使用する態様を除く。)。」の点で一致し、
相違点16:ショウガが、本件発明5においては「冷凍処理された」ものであるのに対し、引用発明7’はそのように特定されていない点、
相違点17:加熱処理の温度の条件が、本件発明5は「110℃以上130℃以下」であるのに対し、引用発明7’においては温度が明らかでない点、
相違点18:加熱処理の圧力の条件が、本件発明5は「0.13MPa以上0.30MPa以下」であるのに対し、引用発明7’においては圧力が明らかでない点、
相違点19:加熱処理が、本件発明5は「水蒸気共存下」で行われるのに対し、引用発明7’においては水蒸気共存下で行われるのか明らかでない点、
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

(ウ-2)相違点16?19について
相違点16?19は、実質的に上記5.(1)エ(ア)(ア-1)「本件発明1と引用発明7との対比」に記載した相違点12?15に対応するから、同(ア-2)「相違点12について」?同(ア-4)「相違点15について」と同様である。
そして、同(ア-5)「本件発明1の効果について」?同(ア-6)「申立人の主張について」における検討を踏まえると、本件訂正後の本件発明5は、引用文献1?7から予測し得ない顕著な効果ないし異質の効果を有するものと認められる。

(ウ-3)本件発明5についてのまとめ
よって、本件発明5は、引用発明7’及び周知の技術的事項(引用文献1?6等)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

(エ)理由II(進歩性):引用文献7を主引用例とする場合のまとめ
以上のとおり、本件発明1、2、5は、いずれも引用発明7及び周知の技術的事項(引用文献1?6)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、取消理由通知に記載した理由II(進歩性):引用文献7を主引用例とする場合についての取消理由により、本件請求項1、2、5に係る特許を取り消すことはできない。

(2)理由III(サポート要件)について
ア ショウガ以外の成分について
(ア)本件発明の課題
本件明細書の[0008]には、「ショウガの中に含まれるジンゲロール類をショウガオール類に変換し、ショウガオール類を富化させる方法が検討されてきた」ことが記載され、[0009]?[0013]には従来技術及びその課題が記載されているところ、具体的には、[0009]には、「特許文献1の方法ではトルエン等の有機溶剤を使用しているため、ヒトへの安全性の面が懸念される」こと、[0012]には、「特許文献2?4で開示されたショウガオール類の富化方法は、有機溶媒を使用しないため、ヒトへの安全性に優れる方法であるが、原料としてショウガ以外にも、乳酸(特許文献2)、クエン酸等の有機酸(特許文献3)、発酵液(特許文献4)等のショウガ以外の成分を必須とする・・・ため・・・ショウガ以外の成分の風味によってショウガ本来の風味が損なわれるというおそれがあった」こと、[0013]には、「さらに特許文献2,3の方法では・・・抽出工程が必須となり、抽出工程によっては高コストになる一因となっていた」こと、及び「特許文献4の方法では、ショウガをそのまま原料として使用できるが、ジンゲロール類からのショウガオール類への変換に十分な加熱時間として120時間?500時間加熱する必要があった。そのため、加熱のための時間が長くなり、生産性や製造コストの面で改善の余地があった」ことが記載されている。そして、[0014]には、「かかる状況下、本発明の目的は、ショウガの風味を損ねることなく、ジンゲロール類をショウガオール類に変換する製造時間が短縮でき、生産効率が改善されたショウガオール類が富化されたショウガ加工物の製造方法を提供することにある」ことが記載されている。
これらの記載及び請求項の記載を参酌すると、本件発明1?4は、「ショウガの風味を損ねることなく、ジンゲロール類をショウガオール類に変換する製造時間が短縮でき、生産効率が改善されたショウガオール類が富化されたショウガ加工物の製造方法を提供する」ことを課題とするものといえる。また、本件発明5は、「ショウガの風味を損ねることなく、ジンゲロール類をショウガオール類に変換する製造時間が短縮でき、生産効率が改善されたショウガオール類の富化方法を提供する」ことを課題とするものといえる。
そして、本件発明の課題のうち、「ショウガの風味を損ねることなく」という課題には、上記[0012]の記載を参酌すると、「ショウガ以外の成分の風味によってショウガ本来の風味が損なわれ」ないことが含まれていると理解することができ、また、「ショウガオール類が富化された」及び「ショウガオール類の富化」という課題には、[0009]?[0013]に記載された従来技術を代替できる程度、すなわち、従来技術と同等程度にショウガオール類が富化されることが含まれていると理解することができる。

(イ)本件発明1について
本件発明1は、上記3.「本件発明について」に記載した特許請求の範囲の請求項1に記載された発明特定事項により特定される「ショウガ加工物の製造方法」の発明であり、本件訂正により、製造されるショウガ加工物が「但し、ショウガ以外の成分を含むものを除く。」ものであること等が特定された。

(ウ)本件明細書の記載について
上記[0012]の記載等を参酌すると、一般に、「ショウガ加工物の製造方法」において、「ショウガ以外の成分」を使用する場合は、「ショウガ以外の成分の風味によってショウガ本来の風味が損なわれ」るおそれがあるが、本件発明1においては、ショウガ加工物が「但し、ショウガ以外の成分を含むものを除く。」ものであることが特定されているから、ショウガ本来の風味が損なわれるものではないと理解することができる。

(エ)本件発明1についてのまとめ
よって、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明において、当業者が上記課題のうち、「ショウガの風味を損ねることなく」の点を解決し得ると認識できるものである。また、上記5.(1)エ(ア)(ア-5)「本件発明1の効果について」における検討を踏まえると、当業者は、本件発明1がさらに「ジンゲロール類をショウガオール類に変換する製造時間が短縮でき、生産効率が改善されたショウガオール類が富化されたショウガ加工物の製造方法を提供する」という課題も解決し得ると認識できるものである。よって、本件発明1は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。

(オ)本件発明2、5について
本件発明1を引用する本件発明2、及び本件発明1と同様の発明特定事項を含む本件発明5についても、本件発明1と同様の理由により、当業者が上記課題を解決し得ると認識できるものであるから、いずれも特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。

イ 蒸気加熱工程の条件について
(ア)本件発明の課題
本件発明の課題は、上記5.(2)ア(ア)「本件発明の課題」に記載したとおりである。

(イ)本件発明1について
本件発明1は、上記3.「本件発明について」に記載した特許請求の範囲の請求項1に記載された発明特定事項により特定される「ショウガ加工物の製造方法」の発明であり、本件訂正により、加熱処理の温度及び圧力の条件が「110℃以上130℃以下」及び「0.13MPa以上0.30MPa以下」であること等が特定された。

(ウ)本件明細書の記載について
上記5.(1)エ(ア)(ア-5)「本件発明1の効果について」における検討を踏まえると、当業者は、本件明細書の記載に基づいて、冷凍処理を施したショウガを原料とすることと、実施例1の温度及び圧力を中心とする上記[0029]?[0030]に記載された好ましい範囲、すなわち本件発明1に特定されている温度及び圧力の熱処理との組合せにより、「従来の冷凍処理を行わずに蒸気加熱処理を行った場合と比較して、ジンゲロール類からのショウガオール類への変換効率が各段に向上し、生産性良くショウガオール類が富化されたショウガ加工物を製造することができる(本件明細書の[0019])という効果が得られると理解することができる。

(エ)本件発明1についてのまとめ
よって、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明において、当業者が上記課題を解決し得ると認識できるものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。

(オ)本件発明2、5について
本件発明1を引用する本件発明2、及び本件発明1と同様の発明特定事項を含む本件発明5についても、本件発明1と同様の理由により、当業者が上記課題を解決し得ると認識できるものであるから、いずれも特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。

ウ 申立人の主張について
(ア)加熱処理の時間について
申立人は、令和元年12月27日に提出した意見書(6頁)において、「(1)本件請求項1、2及び5においては、加熱処理の時間が規定されていない。・・・加熱処理の時間が短い場合、例えば、加熱処理時間が1分の場合においても、比較例よりもショウガオールが富化されているのかについて、出願時の技術常識に照らしても当業者は理解できない。」と主張している。
しかし、本件明細書の[0031]に、「例えば10分の短時間でもショウガオール類の富化効果自体は認められる」と記載されているように、本件明細書に記載された実施例及び比較例の実験データ等を参照すると、本件発明1における冷凍処理を施したショウガを原料とすることと、特定の温度及び圧力の熱処理との組合せが、6-ジンゲロールから6-ショウガオールへの変換効率の向上をもたらす本質であると理解することができるから、本件発明1、2、5において加熱処理の時間が特定されていないことをもって、上記課題が解決されない範囲を含むとまではいえない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。

(イ)冷凍処理と蒸気加熱処理との組合せについて
申立人は上記意見書(7頁)において、「(3)本件明細書の実施例1において、冷凍後、5時間の蒸気加熱処理に対し、比較例2においては蒸気加熱処理を15分間しか行っていない・・・。また参考例1と実施例1とでは温度等の加熱条件が大きく異なる・・・。これらのことから、本件明細書には、冷凍処理と蒸気加熱処理との組み合わせによる効果が明確に示されているとすらいえない。」と主張している。
しかし、本件明細書の[0031]に、「例えば10分の短時間でもショウガオール類の富化効果自体は認められるが、製品として十分な量のショウガオール類を得るためには、好ましくは5時間以上である。」と記載されているように、本件明細書の実施例1等の実験データは、6-ジンゲロールから6-ショウガオールへの変換効率の向上をもたらす本質は、本件発明1における冷凍処理を施したショウガを原料とすることと、特定の温度及び圧力の熱処理との組合せにあると解して矛盾するものではなく、実施例1における5時間以上という加熱時間は、6-ショウガオールの量に応じて適宜に設定される副次的な要件と解することができるものである。
よって、申立人の主張を採用することはできない。

(ウ)新たな証拠に基づく主張について
申立人は上記意見書(6?8頁)において、新たな証拠(甲第8号証、甲第13号証、甲第14号証、甲第15号証等)を引用し、「訂正後の請求項1・・・の構成、及び・・・製造時間を短縮できるという効果は本件特許に係る出願前に公知である。
従って、本件特許権者が、従来技術に対し本件発明1、2及び5が新規性及び進歩性を有し、且つ・・・サポート要件を満たす旨を主張しようとするのっであれば、訂正後の請求項1、2及び5の構成要件では足りないことは明らかである。」等と主張している。
しかし、上記意見書とともに提出された新たな証拠に基づく主張は、実質的に特許異議申立書に記載されていなかった新たな「従来技術」に基づく理由及び証拠の提示に当たるものと認められ、また、上記2.「訂正請求について」に記載した本件訂正の内容を踏まえると、訂正により追加された事項についての見解など訂正の内容に付随して生じる理由について主張するものとも認められないから、採用することができない。
なお、上記5.(1)エ(ア)(ア-5)「本件発明1の効果について」に記載したとおり、本件発明1に特定される冷凍処理と、温度及び圧力範囲が具体的に特定された蒸気加熱工程との組合せ、及びそのような具体的な組合せにより上記の効果が得られることは、本件特許に係る出願の出願日前に周知の技術的事項であったとは認められない。

エ 理由III(サポート要件)のまとめ
以上のとおり、本件発明1、2、5は、いずれも当業者が上記課題を解決し得ると認識できるものであり、発明の詳細な説明に実質的に記載されたものということができるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。
よって、取消理由通知に記載した理由III(サポート要件)の取消理由により、本件請求項1、2、5に係る特許を取り消すことはできない。

6.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人が申し立てた特許異議申立理由は、取消理由通知に記載した理由I(新規性)、理由II(進歩性:引用文献1を主引用例とする場合、引用文献7を主引用例とする場合)及び理由III(サポート要件)の取消理由に相当するから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はない。

7.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由のいずれによっても、本件請求項1、2及び5に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1、2及び5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件請求項3及び4に係る特許は訂正により削除され、本件特許の請求項3及び4に係る特許異議の申立ては対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショウガオール類が富化されたショウガ加工物(但し、ショウガ以外の成分を含むものを除く。)の製造方法であって、
原料であるショウガを冷凍処理する冷凍工程と、
冷凍工程後のショウガを、水蒸気共存下、温度110℃以上130℃以下であり、圧力が0.13MPa以上0.30MPa以下である条件で加熱処理する蒸気加熱工程と、
蒸気加熱工程後のショウガを乾燥する乾燥工程と、
を有することを特徴とするショウガオール類が富化されたショウガ加工物の製造方法。
【請求項2】
前記冷凍工程における温度が、-10℃以下である請求項1に記載のショウガ加工物の製造方法。
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
冷凍処理されたショウガを、水蒸気共存下、温度110℃以上130℃以下であり、圧力が0.13MPa以上0.30MPa以下である条件で加熱処理し、さらに蒸気加熱工程後のショウガを乾燥する工程を有するショウガに含まれるジンゲロール類をショウガオール類へ変換するショウガオール類の富化方法(但し、ショウガ以外の成分を使用する態様を除く。)。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-03-02 
出願番号 特願2016-68879(P2016-68879)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A23L)
P 1 651・ 113- YAA (A23L)
P 1 651・ 537- YAA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 川口 裕美子  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 天野 宏樹
齊藤 真由美
登録日 2018-12-07 
登録番号 特許第6445992号(P6445992)
権利者 株式会社エヌ・エル・エー
発明の名称 ショウガオール類が富化されたショウガ加工物の製造方法およびショウガオール類の富化方法  
代理人 森 博  
代理人 森 博  

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