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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01H
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01H
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01H
管理番号 1362304
異議申立番号 異議2019-700021  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-06-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-01-17 
確定日 2020-03-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6359698号発明「揺動スイッチ装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6359698号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6359698号の請求項1に係る特許を維持する。 特許第6359698号の請求項2ないし4に係る特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6359698号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成29年2月7日に特許出願され、平成30年6月29日にその特許権の設定登録がされ、同年7月18日に特許掲載公報の発行がされ、その後、平成31年1月17日にその特許について、特許異議申立人上山みち子(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年4月16日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和1年6月21日に特許権者により意見書及び訂正請求書が提出され、同年8月20日に異議申立人により意見書が提出され、同年10月23日付けで取消理由<決定の予告>通知され、その指定期間内である同年12月23日に特許権者により意見書及び訂正請求書が提出されたものである。

第2 訂正の適否の判断
1 訂正の内容
令和1年12月23日の訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下のとおりである。
なお、本件訂正請求により、令和1年6月21日の訂正の請求は取り下げられたものとみなされる。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を、次のとおりに訂正する。(下線は特許権者が付した。)
「有底筒状に形成され、操作を受ける操作ノブと、
前記操作ノブによって導通遮断される接点を有したボデーであって、前記操作ノブの筒内へと突出され、かつ前記操作ノブを揺動可能に支持する支持部を有したボデーと、
前記ボデーの支持部において前記操作ノブと対向する面または前記操作ノブにおいて前記ボデーと対向する面から、他方の部材に向けて突出する軸部と、他方の部材に設けられ、前記軸部が嵌合する軸受部とを有した支持構造と、
前記ボデーの支持部において前記操作ノブと対向する面の一部分から、他方の部材に向けて突出し、前記軸部とは別に設けられた突部と、
を備え、
前記突部は、前記操作ノブの揺動軸線を挟み込むように前記揺動軸線の両側に配置され、前記支持部の延出方向に沿って連続して設けられた突条である揺動スイッチ装置。」

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を、削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を、削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を、削除する。

2 訂正の目的の可否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の有無及び一群の請求項
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「突部」に関する特定事項である「前記ボデーの支持部において前記操作ノブと対向する面の一部分または前記操作ノブにおいて前記ボデーと対向する面の一部分から、他方の部材に向けて突出し、」から、択一的な記載の一方である「または前記操作ノブにおいて前記ボデーと対向する面の一部分」を削除するものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1は、訂正前の請求項1に「前記突部は、前記操作ノブの揺動軸線を挟み込むように前記揺動軸線の両側に配置され、前記支持部の延出方向に沿って連続して設けられた突条である」との特定事項を付加するものでもあり、これも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正前の請求項3には「前記突部は、前記操作ノブの揺動軸線の両側に配置される」との記載があり、訂正前の請求項4には「前記突部の各々は、前記支持部の延出方向に沿って連続して設けられた突条である」との記載があり、図面の【図1】及び【図3】からは、突部20が操作ノブ3の揺動軸線CLを挟み込むように揺動軸線CLの両側に配置された態様が見て取れるので、訂正事項1は、訂正前の特許請求の範囲又は図面の記載に基づいており、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
さらに、訂正事項1は、請求項1の特定事項を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(2)訂正事項2ないし4
訂正事項2ないし4は、請求項を削除するものでもあり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項2ないし4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
さらに、訂正事項2ないし4は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(3)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし4について、訂正前の請求項2ないし4は訂正前の請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであるから、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して記載が訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1ないし4は一群の請求項であるから、訂正前の請求項1ないし4に係る訂正である訂正事項1ないし4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対して請求されたものである。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
有底筒状に形成され、操作を受ける操作ノブと、
前記操作ノブによって導通遮断される接点を有したボデーであって、前記操作ノブの筒内へと突出され、かつ前記操作ノブを揺動可能に支持する支持部を有したボデーと、
前記ボデーの支持部において前記操作ノブと対向する面または前記操作ノブにおいて前記ボデーと対向する面から、他方の部材に向けて突出する軸部と、他方の部材に設けられ、前記軸部が嵌合する軸受部とを有した支持構造と、
前記ボデーの支持部において前記操作ノブと対向する面の一部分から、他方の部材に向けて突出し、前記軸部とは別に設けられた突部と、
を備え、
前記突部は、前記操作ノブの揺動軸線を挟み込むように前記揺動軸線の両側に配置され、前記支持部の延出方向に沿って連続して設けられた突条である揺動スイッチ装置。」

第4 取消理由の概要
1 平成31年4月16日付け取消理由通知書について
平成31年4月16日付け取消理由通知書(以下、単に「取消理由通知書」という。)で通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)本件特許の請求項1、3に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の引用文献1又は2に記載された発明であり、また、本件特許の請求項2、4に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、本件特許は取り消すべきものである。
(2)本件特許の請求項1、3に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の引用文献1又は2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件特許の請求項2、4に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許は取り消すべきものである。

2 令和1年10月23日付け取消理由通知書<決定の予告>について
令和1年10月23日付け取消理由通知書<決定の予告>で通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)本件特許の請求項2に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の引用文献1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、本件特許は取り消すべきものである。
(2)本件特許の請求項2に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許は取り消すべきものである。
(3)請求項3および4の記載は明確でなく、本件の請求項3及び4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。


引用文献1:特許第3998174号公報(異議申立人の甲第1号証)
引用文献2:特開2013-178973号公報(異議申立人の甲第2号証)

第5 引用文献等の記載
1 引用文献1の記載及び引用発明1
取消理由通知書で引用した特許第3998174号公報(引用文献1)には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同様。)
(1)「【0026】
【発明の実施の形態】
(第1参考例)
図1は本発明の第1参考例に係るスイッチとして、例えば自動車用のパワーウインドウスイッチ1の斜視図を示している。このパワーウインドウスイッチ1は、例えば自動車の運転席、助手席、後席等の窓に備えられるものである。そして、パワーウインドウスイッチ1は、例えば自動車の運転席、助手席、後席等のドアのアームレストやドアの車室側に設置されている。尚、後述する各部位、部材の位置、方向は添付した図面における方向を示すものであり、上下左右前後の向きは自動車用パワーウインドウスイッチ1の自動車への取付状態で変わるものであり、図示に限定されるものではない。以下、添付した図面の図示した任意の状態を基準として、本参考例を説明する。
【0027】
図1のように、前記パワーウインドウスイッチ1は、上ケースとしてのスイッチケース3のノブ取付部5にスイッチノブ7が揺動操作可能に軸支されている。」

(2)「【0032】
図2,図3のように、前記ノブ取付部5には、側壁19、中壁21にボス部23が突設されている。前記スイッチノブ7には、側壁25と中壁27とに嵌合孔29が設けられている。このスイッチノブ7の嵌合孔29が前記ノブ取付部5のボス部23に嵌合して、スイッチノブ7はノブ取付部5に揺動自在に軸支されている。この軸支により前記スイッチノブ7は、前記ノブ取付部5に対して揺動操作可能となっている。
【0033】
前記スイッチケース3には、下ケースを構成するターミナルブロック31が係脱自在に取り付けられている。この取付は、スイッチケース3に設けられた係合窓33にターミナルブロック31の係合突起35が係合することによって行われている。
【0034】
前記ターミナルブロック31は、端子及び固定接点に導通した導電板37を絶縁樹脂でインサート成形したものである。このターミナルブロック31には、収容壁部39が設けられている。この収容壁部39は、中壁41によって左右部に区画されている。
【0035】
前記収容壁部39の中壁41の左側(図3において前記収容壁部39の左側)には上昇用の接点が収容され、同右側には下降用の接点が収容されている。前記収容壁部39の底壁43には、固定接点45a,45b、固定当接部47a(上昇用は図示省略)、支点兼用固定接点48a,48bが固定支持されている。」

(3)「【0042】
前記可動片69a,69bの端縁には、節度溝92が設けられている。この節度溝92は、前記スチールボール75の弾接移動に際し節度を与え、スイッチノブ7の操作に節度感を付与すると共に、スチールボール75が圧接することで、可動片69a,69b、スライダ67,及びスイッチノブ7を中立位置へ自動復帰させる節度面である。前記節度溝92は、中央にV字状にカットされた斜面93と、その前後に若干傾斜が緩くなった斜面95,97とによって形成されている。前記スライダ67の各スチールボール75は、前記可動片69a,69bの節度溝92上を移動して該可動片69a,69bを揺動させ、前記各可動接点89を前記固定接点45a,45bに接離させる構成となっている。」

(4)上記記載事項(1)の「上ケースとしてのスイッチケース3のノブ取付部5にスイッチノブ7が揺動操作可能に軸支されている。」(段落【0027】)との記載、上記記載事項(2)の「前記スイッチケース3には、下ケースを構成するターミナルブロック31が係脱自在に取り付けられている。」(段落【0033】)、「このターミナルブロック31には、収容壁部39が設けられている。」(段落【0034】)、「前記収容壁部39の底壁43には、固定接点45a,45b、固定当接部47a(上昇用は図示省略)、支点兼用固定接点48a,48bが固定支持されている。」(段落【0035】)との記載及び上記記載事項(3)の「69a,69bの節度溝92上を移動して該可動片69a,69bを揺動させ、前記各可動接点89を前記固定接点45a,45bに接離させる構成となっている。」(段落【0042】)との記載から、上ケースとしてのスイッチケース3と下ケースを構成するターミナルブロック31からなるケースは、可動接点89及び固定接点45a、45bとノブ取り付け部5を有することが把握できる。

(5)引用文献1の【図1】、【図3】、【図4】、【図6】?【図8】から、スイッチノブ7は有底筒状に形成されており、ノブ取り付け部5はスイッチノブ7の筒内へと突出されていることが見て取れる。

(6)引用文献1の【図3】、【図6】?【図8】から、スイッチノブ7には突出部が設けられており、当該突出部は、スイッチノブ7においてノブ取り付け部5と対向する面の一部分からノブ取り付け部5に向けて突出し、スイッチノブ7の揺動中心C1の両側に配置されており、各々がノブ取り付け部5のスイッチケース3からの延出方向に沿って連続して設けられた突条であることが見て取れる。(特許異議申立書の第12?13ページの図面に記載された「突出部」参照。)

上記記載事項、認定事項及び図示内容を総合し、本件発明1の記載振りに則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明1]
「有底筒状に形成され、揺動操作可能なスイッチノブ7と、
前記スイッチノブ7によって相互に接離する可動接点89及び固定接点45a、45bを有したケースであって、前記スイッチノブ7の筒内へと突出され、かつ前記スイッチノブ7を揺動操作可能に軸支するノブ取り付け部5を有したケースと、
前記ケースのノブ取り付け部5において前記スイッチノブ7と対向する面から、スイッチノブ7に向けて突出するボス部23と、スイッチノブ7に設けられ、前記ボス部23が嵌合する嵌合孔29とを有した揺動自在に軸支する構造と、
前記スイッチノブ7において前記ノブ取り付け部5と対向する面の一部分から、ノブ取り付け部5に向けて突出した突出部と、
を備えるパワーウインドウスイッチ1であって、
前記突出部は、前記スイッチノブ7の揺動中心C1の両側に配置され、
前記突出部の各々は、前記ノブ取り付け部5の延出方向に沿って連続して設けられた突条である、パワーウインドウスイッチ1。」

2 引用文献2の記載及び引用発明2
取消理由通知書で引用した特開2013-178973号公報(引用文献2)には、次の事項が記載されている。
(1)「【0026】
スイッチ装置100の容器10は、図1に示すように、ケース10aとカバー10bから構成されている。ケース10aの下側は開口していて、カバー10bを嵌め合わせることにより塞がれる。容器10内には、基板11、ライトガイド12、およびストライカ5が収納される。
【0027】
基板11には、複数の固定接点7a?7e、LED(発光ダイオード)13、およびその他のスイッチやコネクタなどの電子部品(図示省略)が実装され、これらによって電気回路が形成されている。ストライカ5には、図9に示すように、板ばねから成る複数の可動接点6a?6cが設けられている。」

(2)「【0029】
容器10の上部には、矩形枠状の筒2、22がケース10aと一体で設けられている。筒22の外側面に設けられた各軸22j(図1?図3)を、ドアロックスイッチDの操作ノブ21の側面に設けられた各孔21g(図1、図2、および図4)に嵌め込む。すると、図1?図4に示すように、操作ノブ21が、筒22の上端の開口を塞ぎ、筒22に軸22jで揺動可能に支持される。
【0030】
筒2の内側面に設けられた各軸2j(図1、図5、および図6)を、ウインドウスイッチWの操作ノブ1の内側に設けられた各孔1g(図5)に嵌め込む。すると、図5および図7などに示すように、操作ノブ1が、筒2の上端の開口2aを塞ぎ、筒2に軸2jで揺動可能に支持される。すなわち、操作ノブ1が筒2に上側から覆い被さるように取り付けられる。」

(3)「【0033】
操作ノブ1を、図7(a)および図9(a)に示す中立状態から、図7(b)?(e)および図9(b)、(c)に示すように軸2jを中心に揺動操作すると、レバー8が傾斜して、ストライカ5を小円筒部2tの外周面に沿って回動させる。これにより、ストライカ5に設けられた可動接点6a?6cが基板11上を摺動して、固定接点7a?7eに対して接離する。すなわち、操作ノブ1を揺動操作することにより、可動接点6a?6cと固定接点7a?7eが開閉(OFF・ON)する。」

(4)「【0040】
操作ノブ1の揺動面に対して平行な筒2の側壁2m、2hの外側面には、図6に示すように、横幅に渡って凸部2nが設けられている。この凸部2nにより、図5に示すように、筒2の側壁2m、2hとこれに対向する操作ノブ1の側壁1m、1hとは、該筒2の側壁2m、2hの横幅に渡って線状に接している。また、筒2の側壁2m、2hと操作ノブ1の側壁1m、1hの間には、防水用のグリスが塗布されている(図示省略)。」

(5)「【0044】
また、上記実施形態では、操作ノブ1の揺動面に対して平行な筒2の側壁2m、2hと操作ノブ1の側壁1m、1hとが、凸部2nにより側壁2m、2hの横幅に渡って線状に接している。このため、筒2の側壁2m、2hと操作ノブ1の側壁1m、1hとの間を通って、筒2の上端の開口2aへ到る
水の浸入も遮断することができる。」

(6)引用文献2の【図5】、【図7】から、操作ノブ1は有底筒状に形成されており、容器10の上部の筒2は操作ノブ1の筒内へと突出されていることが見て取れる。

(7)引用文献2の【図5】、【図6】から、筒2の凸部2nは、操作ノブ1に向けて突出し、軸2jとは別に設けられており、操作ノブ1の揺動軸線の両側に配置されていることが見て取れる。また、筒2の内側面は、操作ノブ1と対向する面であることも見て取れる。

上記記載事項及び図示内容を総合し、本件発明1の記載振りに則って整理すると、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明2]
「有底筒状に形成され、揺動操作される操作ノブ1と、
前記操作ノブ1によって開閉される可動接点6a?6c及び固定接点7a?7eを有した容器10であって、前記操作ノブ1の筒内へと突出され、かつ前記操作ノブ1を揺動可能に支持する筒2を有した容器10と、
前記容器10の筒2において筒2の内側面から、前記操作ノブ1に向けて突出する軸2jと、前記操作ノブ1に設けられ、前記軸2jが嵌め込まれる孔1gとを有した揺動可能に支持する構造と、
前記容器10の筒2において側壁2m、2hの外側面から、前記操作ノブ1に向けて突出し、前記軸2jとは別に設けられた凸部2nと、を備えるスイッチ装置100であって、
前記凸部2nは、側壁2m、2hの横幅に渡って設けられているスイッチ装置100。」

3 その他の文献の記載
(1)異議申立人の令和1年8月20日付け意見書(以下、「意見書」という。)に添付された特許第4390686号公報(甲第3号証の1)の【図1】からは、揺動軸線の片側に配置され、ノブ支持部6の延出方向に沿って連続して設けられた突条が見て取れる。

(2)意見書に添付された特許第4464882号公報(甲第3号証の2)の【図1】からは、揺動軸線の片側に配置され、上部ハウジング3の壁部3aの延出方向に沿って連続して設けられた突条が見て取れる。

(3)意見書に添付された特開2007-35571号公報(甲第3号証の3)の【図2】からは、揺動軸線と交差するように配置され、筒4及び筒5の延出方向に沿って連続して設けられた突条が見て取れる。

(4)意見書に添付された特許第4286794号公報(甲第3号証の4)の【図1】、【図6】、【図7】及び【図11】からは、揺動軸線と交差するように配置され、筒部7の延出方向に沿って連続して設けられた突条が見て取れる。

(5)意見書に添付された特開2010-199015号公報(甲第3号証の5)の【図3】、【図10】【図12】からは、揺動軸線と交差するように配置され、筒部1cの延出方向に沿って連続して設けられた突条が見て取れる。

第6 判断
1 取消理由通知書に記載した取消理由について
(1)引用発明1に基づく検討
本件発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「揺動操作可能なスイッチノブ7」は本件発明1の「操作を受ける操作ノブ」に相当し、以下同様に、「相互に接離する可動接点89及び固定接点45a、45b」は「導通遮断される接点」に、「ケース」は「ボデー」に、「揺動操作可能に軸支するノブ取り付け部5」は「揺動可能に支持する支持部」に、「スイッチノブ7と対向する面」は「操作ノブと対向する面」に、「スイッチノブ7に向けて突出するボス部23」は「他方の部材に向けて突出する軸部」に、「嵌合孔29」は「軸受部」に、「揺動自在に軸支する構造」は「支持構造」に、「パワーウインドウスイッチ1」は「揺動スイッチ装置」にそれぞれ相当する。

そして、本件発明1は「軸部」に関して、「前記ボデーの支持部において前記操作ノブと対向する面または前記操作ノブにおいて前記ボデーと対向する面から、」突出するとの択一的な構成となっており、上述の相当関係を踏まえれば、引用発明1は本件発明1の「軸部」に関する上記の構成を備えているといえる。

したがって、本件発明1と引用発明1とは
「有底筒状に形成され、操作を受ける操作ノブと、
前記操作ノブによって導通遮断される接点を有したボデーであって、前記操作ノブの筒内へと突出され、かつ前記操作ノブを揺動可能に支持する支持部を有したボデーと、
前記ボデーの支持部において前記操作ノブと対向する面または前記操作ノブにおいて前記ボデーと対向する面から、他方の部材に向けて突出する軸部と、他方の部材に設けられ、前記軸部が嵌合する軸受部とを有した支持構造と、
を備える揺動スイッチ装置。」の点で一致し、以下の相違点1で相違する。

[相違点1]
本件発明1は「前記ボデーの支持部において前記操作ノブと対向する面の一部分から、他方の部材に向けて突出し、前記軸部とは別に設けられた突部」を備え、「前記突部は、前記操作ノブの揺動軸線を挟み込むように前記揺動軸線の両側に配置され、前記支持部の延出方向に沿って連続して設けられた突条である」と特定されているのに対し、引用発明1は「前記スイッチノブ7において前記ノブ取り付け部5と対向する面の一部分から、ノブ取り付け部5に向けて突出した突出部」を備え、「前記突出部は、前記スイッチノブ7の揺動中心C1の両側に配置され、前記突出部の各々は、前記ノブ取り付け部5の延出方向に沿って連続して設けられた突条である」点。

以下、相違点1について検討する。

引用文献2には、筒2の側壁2m、2hの外側面に横幅に渡って凸部2nを設け、操作ノブの側壁1m、1hとの間の水の侵入を遮断すること(特に段落【0044】参照。)が記載されている。
しかしながら、引用文献2の凸部2nは、「支持部の延出方向に沿って連続して設けられた突条」ではないので、引用発明1に適用しても、相違点1に係る本件発明1の構成とすることはできない。
また、引用文献2及び甲第3号証の1?5に、支持部側に突部を設ける配置は記載されているものの、その配置を引用発明1の突出部に適用する動機付けはない。
結局、引用発明1を、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、引用文献2及び甲第3号証の1?5に基いて当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
そして、本件発明1は、上記相違点1に係る本件発明1の構成により、「操作ノブ3とスイッチ本体部2とにおける嵌合部の剛性を高める必要がないので、スイッチ本体部2及び操作ノブ3の嵌合部に作用する嵌合荷重を小さくすることができる。」(本件の明細書段落【0042】参照。)との効果を奏する。
そうであれば、本件発明1は、引用発明1でなく、また、引用発明1並びに引用文献2及び甲第3号証の1?5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(2)引用発明2に基づく検討
本件発明1と引用発明2とを対比すると、少なくとも次の相違点1’で相違する。
[相違点1’]
本件発明1は「前記突部は、前記操作ノブの揺動軸線を挟み込むように前記揺動軸線の両側に配置され、前記支持部の延出方向に沿って連続して設けられた突条である」のに対し、引用発明2は「前記凸部2nは、側壁2m、2hの横幅に渡って設けられている」点。

以下、相違点1’について検討する。

引用発明2の凸部2nは、側壁2m、2hの横幅に渡って設けられ、操作ノブ1の側壁1m、1hと線状に接して水の侵入を遮断する構成となっており、この凸部2nを、側壁2m、2hの延出方向に沿って設けられる構成に変更した場合、水の侵入を遮断し得ないことは自明である。
そうすると、引用文献1や甲第3号証の1?5に、突部を支持部の延出方向に沿って連続して設ける構成が記載されているとしても、そのような構成を引用発明2に適用して、凸部2nを側壁2m、2hの延出方向に沿って連続して設ける構成に変更し、相違点1’に係る本件発明1の構成とすることには、阻害要因があるといえる。
そうであれば、本件発明1は、引用発明2でなく、また、引用発明2並びに引用文献1及び甲第3号証の1?5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)小括
したがって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は同法第29条第2項の規定に違反してされたものでないから、同法第113条第2項に該当しないので、取り消すことができない。

第6 取消理由通知書に記載していない意見書の主張について
異議申立人は意見書において、本件発明1の「前記ボデーの支持部において前記操作ノブと対向する面の一部分から、他方の部材に向けて突出し、前記軸部とは別に設けられた突部」の「他方の部材」が何を意味するのか不明である旨主張する。

しかしながら「前記ボデーの支持部において前記操作ノブと対向する面の一部分から、他方の部材に向けて突出し、前記軸部とは別に設けられた突部」との記載には「ボデー」と「操作ノブ」の2つの部材が記載されており、一方が「ボデー」であれば、他方が「操作ノブ」であることは明らかであるところ、「前記ボデーの支持部において前記操作ノブと対向する面の一部分から、」は「ボデー」についての記載であるから、この記載に続く「他方の部材」が「操作ノブ」であることは理解できる。

したがって、請求項1の「他方の部材」が「操作ノブ」を意味することは明確であるから、異議申立人のかかる主張は、採用することができない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項2ないし4に係る特許は、上記のとおり、本件訂正請求により削除された。これにより、異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項2ないし4に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状に形成され、操作を受ける操作ノブと、
前記操作ノブによって導通遮断される接点を有したボデーであって、前記操作ノブの筒内へと突出され、かつ前記操作ノブを揺動可能に支持する支持部を有したボデーと、
前記ボデーの支持部において前記操作ノブと対向する面または前記操作ノブにおいて前記ボデーと対向する面から、他方の部材に向けて突出する軸部と、他方の部材に設けられ、前記軸部が嵌合する軸受部とを有した支持構造と、
前記ボデーの支持部において前記操作ノブと対向する面の一部分から、他方の部材に向けて突出し、前記軸部とは別に設けられた突部と、
を備え、
前記突部は、前記操作ノブの揺動軸線を挟み込むように前記揺動軸線の両側に配置され、前記支持部の延出方向に沿って連続して設けられた突条である揺動スイッチ装置。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-03-03 
出願番号 特願2017-20398(P2017-20398)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (H01H)
P 1 651・ 121- YAA (H01H)
P 1 651・ 537- YAA (H01H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山下 寿信  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 尾崎 和寛
内田 博之
登録日 2018-06-29 
登録番号 特許第6359698号(P6359698)
権利者 株式会社東海理化電機製作所
発明の名称 揺動スイッチ装置  
代理人 野見山 孝  
代理人 平田 忠雄  
代理人 特許業務法人平田国際特許事務所  
代理人 平田 忠雄  
代理人 野見山 孝  
代理人 特許業務法人平田国際特許事務所  

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