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審判番号(事件番号) データベース 権利
異議2019700526 審決 特許
異議2020700150 審決 特許

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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12M
審判 全部申し立て 2項進歩性  C12M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C12M
管理番号 1362334
異議申立番号 異議2019-700525  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-06-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-07-04 
確定日 2020-03-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6447787号発明「細胞培養基材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6447787号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6447787号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6447787号の請求項1?5に係る特許(以下、「本件特許」ということがある。)についての出願は、平成29年12月12日(国内優先権主張 平成28年12月22日)を国際出願日とする出願であって、平成30年12月14日にその特許権の設定登録がされ、平成31年1月9日に特許掲載公報が発行された。その後の手続は以下のとおりである。
令和1年 7月 4日付け 特許異議申立人 山田 宏基(以下、「申立 人」という。)により特許異議の申立て
同年10月28日付け 取消理由通知
同年12月20日付け 特許権者より意見書の提出及び訂正の請求
令和2年 2月 7日付け 申立人より意見書の提出

第2 訂正請求について
1 訂正請求の趣旨及び訂正の内容
特許権者が令和1年12月20日付け訂正請求書により請求する訂正は、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?5について訂正することを求めるものである。
その請求の内容は、請求項1?5からなる一群の請求項に係る訂正であって、以下のとおりのものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「下限臨界溶解温度を有するセグメントと、疎水性セグメントとのブロックポリマーを含有する細胞培養基材であって」と記載されているのを、「下限臨界溶解温度を有するセグメントと、疎水性セグメントとのブロックポリマーを含有する細胞培養基材であって、ブロックポリマーが精密ラジカル重合で製造されるポリマーであって」と訂正する。請求項1を引用する請求項2?5も同様に訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1における「下限臨界溶解温度を有するセグメントと、疎水性セグメントとのブロックポリマーを含有する細胞培養基材であって」と記載されているのを、「下限臨界溶解温度を有するセグメントと、疎水性セグメントとのブロックポリマーを含有する細胞培養基材であって、ブロックポリマーが精密ラジカル重合で製造されるポリマーであって」と訂正することにより、下限臨界溶解温度を有するセグメントと疎水性セグメントとのブロックポリマーが精密ラジカル重合で製造されたものであることを限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
請求項1を引用する請求項2?5も、当該訂正により、下限臨界溶解温度を有するセグメントと疎水性セグメントとのブロックポリマーを限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

(2)新規事項の追加の有無
訂正事項1は、願書に添付した明細書中の発明の詳細な説明、【0038】段落の「ブロックポリマーの製造方法は、特に制限されず、公知の方法を採用することができる。このうち、精密ラジカル重合であることが好ましく、」なる記載から導き出される事項であるから、訂正事項1に係る訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

(3)特許請求の範囲の実質拡張・変更の有無
訂正事項1は、下限臨界溶解温度を有するセグメントと疎水性セグメントとのブロックポリマーという発明特定事項の範囲をより限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(4)訂正請求についての結論
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
特許第6447787号の請求項1?5の特許に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、特許第6447787号の請求項1?5の特許に係る発明を、その請求項に付された番号順に、「本件特許発明1」等ということがある。また、これらをまとめて「本件特許発明」ということがある。)

「【請求項1】
下限臨界溶解温度を有するセグメントと、疎水性セグメントとのブロックポリマーを含有する細胞培養基材であって、ブロックポリマーが精密ラジカル重合で製造されるポリマーであって、該下限臨界溶解温度を有するセグメントの重合度が400-10000であることを特徴とする細胞培養基材。
【請求項2】
前記疎水性セグメントが、下記式(1)で表されるモノマーを重合して得られるものである、請求項1に記載の細胞培養基材。
【化1】

・・・(1)
(上記式(1)中、R^(1)は水素原子またはメチル基であり、R^(2)はフェニル基、アルキル炭素数1?8のカルボキシアルキル基、アラルキル炭素数7?8のカルボキシアラルキル基、下記式(2)で表される基、下記式(3)で表される基のうちのいずれか1つを表す。
【化2】

・・・(2)
(上記式(2)において、nは2または3を表し、R^(3)は炭素数1?3のアルキル基を表す。)
【化3】

・・・(3)
(上記式(2)において、R^(4)およびR^(5)は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1?6のアルキル基を表し、R^(4)およびR^(5)の合計炭素数が5以上であることを表す。))
【請求項3】
支持体上に積層されたことを特徴とする、請求項1から2のいずれかに記載の細胞培養基材。
【請求項4】
平均膜厚が1000nm以下である、請求項3に記載の細胞培養基材。
【請求項5】
支持体と請求項1?4のいずれかに記載の細胞培養基材とを有する細胞培養器材。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の要旨
取消理由1(明確性)本件特許発明1?5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

2 取消理由の具体的内容
本件特許発明1には、下限臨界溶解温度を有するセグメントの重合度が400-10000であることが特定されている。
発明の詳細な説明には、「本発明のブロックポリマーにおいて、前記下限臨界溶解温度を有するセグメントの重合度は、400-10000である。」(【0027】)ことは記載されているが、重合度の算出方法については記載されていない。また、実施例には、下限臨界温度ポリマーの重合度が実施例1で5000、比較例1で315であることが記載されている(【表1】)が、重合度の算出方法、測定方法については記載されていない。
そこで<合成例1>の記載から、重合度を算出すると、下限臨界溶解温度を有するセグメントである、N-イソプロピルアクリルアミドを含むセグメントは、N-イソプロピルアクリルアミド10.53gのうち99%(NIPAMのコンバージョン)と、ブチルアクリレート0.59gのうち19%(反応終了後のブチルアクリレートのコンバージョン100%から、第1の反応液におけるブチルアクリレートのコンバージョン81%を除した)とから成ると認められる。
ブロックポリマーの数平均分子量をMn,下限臨界溶解温度を有するセグメントのモノマーの分子量をM1、ブロックポリマーにおける下限臨界溶解温度を有するセグメントの割合(重量%)をRとすると、下限臨界溶解温度セグメントの重合度は次の式で算出される。
(式)(下限臨界溶解温度セグメントの重合度)=((R/100)×Mn)/M1
ブロックポリマー全体に対する下限臨界溶解温度を有するセグメントの割合は、(0.59×19%+10.53×99%)/(0.59×100%+10.53×99%)で95.7重量%であり、ブロックポリマー全体の分子量は、Mn=220000、N-イソプロピルアクリルアミドの分子量は113.16で、ブチルアクリレートの分子量は、128.2である。
下限臨界溶解温度セグメントは、N-イソプロピルアクリルアミドとブチルアクリレートが共重合しているとしても、N-イソプロピルアクリルアミドの分子量の方が小さく、N-イソプロピルアクリルアミドの含有量の方が多いので、仮に、M1を113.16として計算しても、(下限臨界溶解温度セグメントの重合度)は、1860になり、ブチルアクリレートが共重合するとこれより少ない重合度と見積もられる。この値は、【表1】の5000とは大きく異なっており、本件特許における重合度の算出方法が不明である。
<比較例1>についても同様に計算すると、ブロックポリマー全体に対する下限臨界溶解温度を有するセグメントの割合は、(1.92×12%+6.12×100%)/(1.92×100%+6.12×100%)で79.0重量%であり、同様に仮にM1を113.16として計算しても(下限臨界溶解温度セグメントの重合度)は多くても237である。この値は、【表1】の315とは大きく異なっており、本件特許における重合度の算出方法が不明である。
したがって、本件特許発明1は、ブロックポリマーの重合度で発明を特定しているが、発明の詳細な説明を参照しても、ブロックポリマーの重合度の算出方法が不明であり、どのようなポリマーが本件特許発明に含まれるのか明確に理解できない。
本件特許発明1を引用する本件特許発明2?5に係る発明についても同様である。

3 取消理由通知についての当審の判断
取消理由通知は、要するに、本件実施例1、比較例1でブロックポリマーの重合度が5000、315と記載されているが、その算出のための計算方法が不明であるから、本件特許発明が明確でないというものである。
本件特許発明のポリマーは、精密ラジカル重合を用いて製造されており、開始剤と連鎖移動剤であるRAFT剤を用いているが、特許権者が令和1年12月20日付けで提出した乙第3号証である特開2017-160429号公報には、連鎖移動剤を用いたラジカル重合において、重合度を求める際に、「・・・直鎖状高分子の「重合度」は、重合反応の為に溶解したモノマーの総モル量を連鎖移動剤のモル量で除した理論重合度にモノマーの高分子への転化率を掛けることで求めた。」(【0052】段落)との記載があり、連鎖移動剤を用いたラジカル重合で得られたポリマーでは、この計算方法である、以下式(以下、「式B」ということがある。)を用いることができると理解できる。
(式B)(下限臨界溶解温度セグメントの重合度)=(重合反応の為に溶解したモノマーの総モル量)×(モノマーの高分子への転化率)/(連鎖移動剤のモル量)
これにより、本件実施例1、比較例1の重合度を計算すると、
まず、実施例1のポリマーについて、下限臨界溶解温度を有するセグメントの為に用いられたモノマーは、Nイソプロピルアクリルアミド(分子量113.16)10.53g/113.16モルと、ブチルアクリレート(分子量128.2)0.59g/128.2モルであり、Nイソプロピルアクリルアミドの転化率(コンバージョン率)は99%、ブチルアクリレートの転化率は100%-81%で19%であるから、それぞれのモル数にこの割合を掛けて、下限臨界溶解温度を有するセグメントに含まれる総モル数は、0.093モルである。
これを、用いたRAFT剤である2-(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)プロパン酸(分子量350)のモル数、0.0065g/350で除すと、重合度は5008となる。
同様に比較例1のポリマーについても計算すると、325であり、これらは、本件特許の発明の詳細な説明【0062】段落、【表1】に記載された値である5000、315と近い値であるから、本件実施例1及び比較例1では式Bで重合度が算出されたものと認められる。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明、実施例で開示された重合度について、その計算方法が式Bであると理解することができるから、本件特許発明1は明確である。
本件特許発明1を引用する本件特許発明2?5についても同様に、明確である。

<申立人の主張について>
申立人は、令和2年2月7日付け意見書において、概略以下のとおり主張する。

「(3-1)重合度の算出方法に起因する明確性欠如
(イ)式Bが当業者にとって通常の知識とはいえない。
(ロ)本件特許の実施例では、理論的に重合反応が進んでおらず、式Bを用いることは妥当でない。
(ハ)式Bは本件明細書で特定されておらず、発明が明確でない。
(ニ)本件明細書には、ブロックポリマーの製造方法は限定されないと記載されておらず、一般的な方法である取消理由通知に記載の(式)で重合度を計算すべきである。
(ホ)式Bを用いて、モノマーの総モル数を開始剤のモル数で除しても、本件合成例1、比較例1の重合度は算出できない。
(へ)乙第2号証と式Bとの関係が不明である。
(ト)乙第3号証は、特別な重合度の計算方法である式Bを用いているから、計算方法が明記されているのであって、本件特許の重合度が乙3号証のものと同一であるとする理由はない。
(3-2)訂正の請求に付随して生じた明確性欠如
「ブロックポリマーが精密ラジカル重合で製造されるポリマーであって」と記載することは、プロダクト・バイ・プロセスクレームに該当し、物としてどのように相違するのか理解できない。また、精密ラジカル重合は一般的でなくどのような重合を「精密ラジカル重合」と称するのか理解できない。」

(3-1)重合度の算出方法に起因する明確性欠如について
上述のとおり、乙第3号証に記載されているように、RAFT剤を用いるラジカル重合において、重合度算出の計算方法に式Bを用いることは周知であったと認められる。また、ポリマーの重合が理論どおりに進まないことは技術常識であり、本件の実施例1、比較例1で採用された重合度算出の計算方法は簡便に重合度を見積もる方法であると認められる。そして、重合度の算出に周知の計算方法を選んで用いることは当業者が通常行うところ、上記本件特許発明1の訂正で明らかとなったように本件特許発明のポリマーは精密ラジカル重合で得られたものであるから、重合度算出の計算方法として、式Bを用いることにも一定の合理性がある。
周知の方法である式Bを用いることで、本件特許の発明の詳細な説明に記載された重合度の値を確認できることから、本件特許発明が不明確であるとまではいえない。

(3-2)訂正の請求に付随して生じた明確性欠如について
「精密ラジカル重合」について、本件特許の発明の詳細な説明【0038】段落には、「ブロックポリマーの製造方法は、特に制限されず、公知の方法を採用することができる。このうち、精密ラジカル重合であることが好ましく、可逆的付加-開裂連鎖移動(RAFT)重合、原子移動ラジカル重合(ATRP)、ニトロキシド媒介重合(NMP)であることがより好ましく、RAFT重合であることがさらに好ましい。」と記載されており、本件特許の合成例でもRAFT剤を用いたラジカル重合が行われているところ、精密ラジカル重合は、分子量分布の狭いポリマーを得られるラジカル重合であって、例えば、RAFT剤を用いる重合方法であることは当業者が明確に理解できるといえる。
そして、重合方法でポリマーが特定されている点について、「精密ラジカル重合で製造される」ことを特定することで、ポリマーが通常のラジカル重合で得られるポリマーより分子量分布の狭いポリマーを意図していることは明らかといえるし、そのような分子量分布を構造や特性で表現することは、非実際的であると認められるから、重合方法でポリマーを特定することで本件特許発明のポリマーが物として不明確であるとはいえない。
したがって、上記訂正をもって本件特許発明が不明確となったということはできない。

よって、本件特許発明1?5は、申立人の意見を考慮しても、取消理由1によって取り消すべきものではない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
以下では、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について述べる。

1 新規性について
(1)申立人の主張
申立人は、甲第1号証(特開2015-211665号公報)を提示し、甲第1号証には、「0189段落に、NIPAM及びC2-SFAのABA型トリブロック共重合体が示されており、0189?0192及び0194段落に、NIPAMブロックの数平均分子量の総量が55,700であることが記載されており、0170?0175及び0195段落に、細胞培養基材として評価を行っていることが示されている」さらに、「甲第2号証(株式会社高分子刊行会、「高分子辞典」第1版、1985年2月25日発行)の97頁に記載の重合度の算出方法を参照し、NIPAMブロックの重合度が492であるから、本件特許発明1、3?5は、甲第1号証に記載された発明であり、本件特許発明1、3?5は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである」旨、主張している。

(2)判断
甲第1号証には、申立人が主張するとおり、
「NIPAM(ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)及びC2-SFA((パーフルオロエチル)メチルアクリレート)のABA型トリブロック共重合体を、細胞培養器材の培養面に溶媒キャスト法により製膜して得られた細胞培養器材」について記載されている。
ここで、甲第1号証のポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)は本件特許発明1の下限臨界溶解温度を有するセグメントに相当し、甲第1号証の(パーフルオロエチル)メチルアクリレートは本件特許発明1の疎水性セグメントに相当する。
したがって、本件特許発明1と甲第1号証に記載された発明とは、
「下限臨界融解温度を有するセグメントと、疎水性セグメントとのブロックポリマーを含有する細胞培養基材」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)
本件特許発明1では、「下限臨界融解温度を有するセグメントの重合度が400-10000であること」が特定されているが、甲第1号証には、そのような特定がない点。

相違点について検討する。
甲第1号証には、実施例38として、「NIPAM及びC2-SFAのABA型トリブロック共重合体[P(NIPAM-block-C2-SFA-block-NIPAM)]を調製した。」(【0189】段落)、「(1) P(NIPAM)の調製 実施例37(1)と同様の方法にて重合を行い、数平均分子量24,300、重量平均分子量29,700、分子量分布1.22のP(NIPAM)を得た。」(【0190】段落)、 「P(NIPAM-block-C2-SFA)の調製 投入したP(NIPAM)の量を4.46 gから4.86 gに変更すること以外は実施例37(2)と同様の方法にて重合を行った。その結果、数平均分子量51,500、重量平均分子量80,400、分子量分布1.56のP(NIPAM-block-C2-SFA)を得た。」(【0191】段落)、「白色固体を1H-NMR、GPCにて評価したところ数平均分子量82,900、重量平均分子量115,000、分子量分布1.39のP(NIPAM-block-C2-SFA-block-NIPAM)であることを確認した。」(【0194】段落)との記載がある。
そうすると、甲第1号証に記載のABA型トリブロックのAに相当するポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)ブロックの分子量は、それぞれ24,300、31,400であり、重合度はポリマーの分子量をそれぞれN-イソプロピルアクリルアミドの分子量である113.16で除して、215、277である。
申立人は、ABAブロックポリマーのAブロックの重合度を併せて計算する(215+277=492)ことで、重合度400以上のポリマーとなっていると主張するが、本件特許の発明の詳細な説明【0037】段落の記載を参照しても、下限臨界溶解温度を有するセグメントをAとしていることから、Aブロック1つの重合度が400以上であると解されるし、ABAブロックポリマーの2つのブロックの重合度を合計して計算することが通常であるとの技術常識があるともいえない。
よって、甲第1号証には、下限臨界融解温度を有するセグメントが400-10000であることが記載されておらず、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明と同一ではない。
本件特許発明2?5についても、下限臨界融解温度を有するセグメントの重合度については同様であるから、甲第1号証に記載された発明と同一ではない。

(3)小括
よって、申立人の主張する本件特許発明1及び3?5が特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるとする申立理由は、理由がない。

2 進歩性について
(1)申立人の主張
申立人は、甲第1号証を提示し、「仮に、重合度が甲第1号証に開示されていないとしても、本件特許発明1と甲第1号証との相違点は数値限定のみであり、限定された数値範囲内の全ての部分で有利な効果があるとは言えないため、本件特許発明1は甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものである」また、「細胞培養基材において、積層する層の厚さを1?200nmとすることは甲第3号証に記載されているから、本件特許発明4は甲第1号証及び周知技術(甲第3号証)に基づいて当業者が容易になし得たものである」旨主張する。

(2)判断
甲第1号証には、上記の通り実施例において、ABAブロックポリマーとしてAの重合度がそれぞれ215、277と見積もられるものが開示されているが、発明の詳細な説明を参照しても、重合度を調整することや、重合度をより大きくすることについて記載も示唆もされていない。
一方、本件特許発明は、下限臨界溶解温度を有するセグメントの重合度を400以上とすることで、剥離性が向上するという効果を有するものである。
よって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件特許発明4についても、上記相違点が存在する以上、同様に、甲第1号証に記載された発明及び周知技術(甲第3号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)小括
よって、申立人の主張する本件特許発明1及び4が特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとする申立理由は、理由がない。

3 サポート要件について
(1)申立人の主張
申立人は、「本件特許発明1?5では、臨界溶解温度セグメントの重合度が400-10000であるとし、これにより培養後の細胞を生存させたまま剥離させ回収することが可能になったとしているが、所望の効果が示されているのは、重合度5000の実施例1のみであり、重合度315の比較例1では課題を解決できていないから、発明の詳細な説明には重合度400-10000の全範囲にわたって課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明がされていない」旨主張している。

(2)判断
本件特許発明の解決しようとする課題は、「動物細胞が高効率で培養可能であり、かつ培養後の細胞を生存させたまま剥離させ回収することが可能な細胞培養基材を提供すること」にある。(【0005】)
本件特許の発明の詳細な説明には、課題を解決する手段として、「本発明のブロックポリマーにおいて、前記下限臨界溶解温度を有するセグメントの重合度は、400-10000である。」ことが記載されており(【0027】)、実施例において、重合度が5000、315のポリマーが実際に作成されている(実施例1、比較例1)ことから、下限臨界溶解温度を有するセグメントの重合度が400-10000程度のポリマーは当業者に作成可能と認められる。また、比較例として開示されている下限臨界溶解温度を有するセグメントの重合度が315のポリマーにおいても、動物細胞の培養性に優れると共に、一定の細胞の剥離性を有していることから、重合度がより大きいポリマーにおいては、剥離性の効果を有することが推認でき、重合度が400以上のポリマーであれば、「動物細胞が高効率で培養可能であり、かつ培養後の細胞を生存させたまま剥離させ回収することが可能な細胞培養基材を提供する」という課題が解決できることが理解できる。
したがって、本件特許発明1?5は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものとは認められない。

(3)小括
よって、申立人の主張する本件特許発明1?5が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないものであるとする申立理由は、理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法第114条第4項の規定により、本件請求項1?5に係る特許について、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下限臨界溶解温度を有するセグメントと、疎水性セグメントとのブロックポリマーを含有する細胞培養基材であって、ブロックポリマーが精密ラジカル重合で製造されるポリマーであって、該下限臨界溶解温度を有するセグメントの重合度が400-10000であることを特徴とする細胞培養基材。
【請求項2】
前記疎水性セグメントが、下記式(1)で表されるモノマーを重合して得られるものである、請求項1に記載の細胞培養基材。
【化1】

(上記式(1)中、R^(1)は水素原子またはメチル基であり、R^(2)はフェニル基、アルキル炭素数1?8のカルボキシアルキル基、アラルキル炭素数7?8のカルボキシアラルキル基、下記式(2)で表される基、下記式(3)で表される基のうちのいずれか1つを表す。
【化2】

(上記式(2)において、nは2または3を表し、R^(3)は炭素数1?3のアルキル基を表す。)
【化3】


(上記式(2)において、R^(4)およびR^(5)は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1?6のアルキル基を表し、R^(4)およびR^(5)の合計炭素数が5以上であることを表す。))
【請求項3】
支持体上に積層されたことを特徴とする、請求項1から2のいずれかに記載の細胞培養基材。
【請求項4】
平均膜厚が1000nm以下である、請求項3に記載の細胞培養基材。
【請求項5】
支持体と請求項1?4のいずれかに記載の細胞培養基材とを有する細胞培養器材。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-03-18 
出願番号 特願2018-535908(P2018-535908)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C12M)
P 1 651・ 121- YAA (C12M)
P 1 651・ 537- YAA (C12M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松原 寛子  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 松岡 徹
田村 聖子
登録日 2018-12-14 
登録番号 特許第6447787号(P6447787)
権利者 DIC株式会社
発明の名称 細胞培養基材  
代理人 根岸 真  
代理人 根岸 真  
代理人 岩本 明洋  
代理人 小川 眞治  
代理人 大野 孝幸  
代理人 小川 眞治  
代理人 岩本 明洋  
代理人 大野 孝幸  
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