ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B27K 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 B27K 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 B27K 審判 全部申し立て 2項進歩性 B27K |
---|---|
管理番号 | 1362359 |
異議申立番号 | 異議2019-700221 |
総通号数 | 246 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-06-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-03-19 |
確定日 | 2020-04-03 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6393499号発明「表面処理木材、及び表面処理木材の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6393499号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、〔2?3〕について訂正することを認める。 特許第6393499号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6393499号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成26年4月3日に出願され、平成30年8月31日にその特許権の設定登録がされ、平成30年9月19日に特許掲載公報が発行されたものである。 その特許について、平成31年3月19日に、特許異議申立人 堀田泰三(以下、「申立人」という。)により、請求項1ないし3に対して特許異議の申立て(以下、「申立」という。)がされた。 その後の経緯は、以下のとおりである。 令和1年 6月26日(発送日):取消理由通知 令和1年 8月22日: 意見書の提出及び訂正の請求 (以下、「1次訂正請求」という。) 令和1年10月 3日: 申立人による意見書の提出 令和1年10月24日(発送日):取消理由通知(決定の予告) 令和1年12月10日: 意見書の提出及び訂正の請求 (以下、「本件訂正請求」という。) 令和2年 2月26日: 申立人による意見書の提出 なお、1次訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 令和1年12月10日付け訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、以下のとおりである。なお、訂正される請求項の記載を引用する訂正後請求項についても同様に訂正する旨の付記は、当審が括弧書きで付した。また、訂正箇所を示す下線は、訂正特許請求の範囲及び訂正明細書における下線と、当審が整合させた。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、 「不燃化処理された木材の表面に前記木材と架橋する下地処理剤が塗布されていると共に前記下地処理剤が前記表面の仮導管で形成された凹部に充填されている、表面処理木材。」 と記載されているものを、 「不燃化処理されると共に表面の仮導管で形成された全ての凹部から不燃化処理の薬剤が全て除去された木材の前記表面に前記木材と架橋する下地処理剤が塗布され、前記凹部に前記下地処理剤が充填されている、表面処理木材。」 に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に、 「不燃化処理された木材の表面及び前記表面の仮導管で形成された凹部に充填された薬剤を液体で除去する除去工程と、前記除去工程の後に前記木材と架橋する下地処理剤を前記表面に塗布し、前記凹部に前記下地処理剤を充填する塗布工程と、を備える表面処理木材の製造方法。」 と記載されているものを、 「不燃化処理された木材の表面及び前記表面の仮導管で形成された凹部に充填された不燃化処理の薬剤を液体で全て除去する除去工程と、前記除去工程の後に前記木材と架橋する下地処理剤を前記表面に塗布し、前記凹部に前記下地処理剤を充填する塗布工程と、を備える表面処理木材の製造方法。」 に訂正する(請求項2の記載を引用する訂正後請求項3も同様に訂正する)。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に、 「前記除去工程は、前記液体に前記木材を予め定められた時間浸漬する浸漬工程、前記液体を湿潤させた湿潤部材で前記木材の前記表面を拭く拭工程、前記液体を湿潤させた湿潤部材で前記木材の前記表面を予め定められた時間被覆する被覆工程、前記木材に予め定められた時間前記液体を掛流す掛流工程、の一つ又は複数を組み合わせた工程である、請求項2に記載の表面処理木材の製造方法。」 と記載されているものを、 「前記除去工程は、前記液体に前記木材を1時間浸漬する浸漬工程、前記液体を湿潤させた湿潤部材で前記木材の前記表面を1時間被覆する被覆工程、の一つ又は二つを組み合わせた工程である、請求項2に記載の表面処理木材の製造方法。」 に訂正する。 (4)訂正事項4 明細書の段落【0009】に記載された「請求項1の発明」を、「第一態様」に訂正する。 (5)訂正事項5 明細書の段落【0010】に記載された「請求項1に記載の発明」を、「第一態様」に訂正する。 (6)訂正事項6 明細書の段落【0017】に記載された「請求項2の発明」を、「第二態様」に訂正する。 (7)訂正事項7 明細書の段落【0018】に記載された「請求項2に記載の発明」を、「第二態様」に訂正する。 (8)訂正事項8 明細書の段落【0019】に記載された「請求項3の発明」を、「第三態様」に訂正する。 (9)訂正事項9 明細書の段落【0020】に記載された「請求項3に記載の発明」を、「第三態様」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1において、「下地処理材」が「充填」されている、木材の表面の仮導管で形成された「凹部」について、「全て」の凹部から「不燃化処理の薬剤が全て除去」されたことを追加して特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 また、訂正事項1に関して、明細書の段落【0029】には、「薬剤20としては、周知の難燃化処理材や不燃化処理材を用いることができる。」と記載され、また段落【0048】には、「また、第二表面処理木材40の表面14の凹部17から薬剤20が除去されているので、凹部17に下地処理剤60が充填され、下地処理剤60が架橋する面積が増える。」と記載されているから、「下地処理材」が「充填」される木材の表面の仮導管で形成された「凹部」について、「不燃化処理の薬剤が除去」されたものとすることで、下地処理剤が木材表面の凹部に架橋する面積を増やす発明は、明細書又は図面に記載されていたということができる。そして、明細書から前述のとおり、木材表面の凹部から不燃化処理の薬剤を除去することで、木材表面の凹部において下地処理剤が架橋する面積を増やす、という技術思想が読み取れることに加えて、図1及び図3には、木材表面の仮導管16で形成された全ての凹部17から、全ての薬剤20が取り除かれた様子が示されていることを併せて考慮すれば、訂正事項1において、木材表面の仮導管で形成された「全ての凹部」から、不燃化処理の薬剤を「全て」除去すると特定した点も、明細書又は図面に記載されたすべての事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、同法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定にも適合するものである。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、訂正前の請求項2において、「除去工程」において「除去」される、「表面の仮導管で形成された凹部に充填された薬剤」について、「不燃化処理の」薬剤であることを追加して特定するとともに、表面の仮導管で形成された凹部から当該薬剤を「全て」除去することを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 また、訂正事項2に関して、明細書の段落【0029】には、「薬剤20としては、周知の難燃化処理材や不燃化処理材を用いることができる。」と記載され、また段落【0048】には、「また、第二表面処理木材40の表面14の凹部17から薬剤20が除去されているので、凹部17に下地処理剤60が充填され、下地処理剤60が架橋する面積が増える。」と記載されているから、「除去」される「凹部に充填された薬剤」について、「不燃化処理の」薬剤とする発明は、明細書又は図面に記載されていたということができる。そして、明細書の段落【0048】における当該記載からは、木材表面の凹部から不燃化処理の薬剤を除去することで、木材表面の凹部において下地処理剤が架橋する面積を増やす、という技術思想が読み取れるとともに、図1及び図3には、木材表面の仮導管16で形成された全ての凹部17から、全ての薬剤20が取り除かれた様子が示されていることを併せて考慮すれば、訂正事項2において、木材表面の仮導管で形成された凹部から、不燃化処理の薬剤を「全て」除去すると特定した点も、明細書又は図面に記載されたすべての事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。 したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、同法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定にも適合するものである。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、訂正前の請求項3において、「除去工程」における選択肢の中から、「前記液体を湿潤させた湿潤部材で前記木材の前記表面を拭く拭工程」及び「前記木材に予め定められた時間前記液体を掛流す掛流工程」を削除することで、選択肢を限定するとともに、「除去工程」の選択肢として残る「浸漬工程」及び「被覆工程」について、訂正前の「予め定められた時間」を「1時間」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 また、訂正事項3における選択肢である「浸漬工程」及び「被覆工程」は、いずれも訂正前の請求項3が有していたものであるとともに、「浸漬工程」及び「被覆工程」の時間を1時間とすることは、明細書の段落【0035】及び【0037】に記載されていたから、訂正事項3は、特許請求の範囲及び明細書に記載されていた範囲内での訂正ということができる。 したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、同法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定にも適合するものである。 (4)訂正事項4ないし9について 訂正事項4ないし9は、上記訂正事項1ないし3に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の請求項1ないし3における記載と、明細書の発明の詳細な説明の記載との間に、不整合が生じることを防ぐとともに、発明の詳細な説明における表記の統一を図るための訂正である。 そのため、請求項1に関する明細書の段落【0009】及び【0010】の記載を訂正する訂正事項4及び5、請求項2に関する明細書の段落【0017】及び【0018】の記載を訂正する訂正事項6及び7、請求項3に関する明細書の段落【0019】及び【0020】の記載を訂正する訂正事項8及び9は、いずれも明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認めることができる。そしてこの訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 したがって、訂正事項4ないし9は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、同法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定にも適合するものである。 (5)一群の請求項、及び独立特許要件について 訂正前の請求項1?3について、請求項3は請求項2を引用しているから、訂正事項2によって記載が訂正される請求項2に連動して訂正がされるものである。そのため、請求項1?3のうち、請求項2?3は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に該当する。 訂正事項1は、訂正前の請求項1について、限定を行い、訂正後の請求項1とするものである。 訂正事項2ないし3は、一群の請求項である訂正前の請求項2?3について、限定を行い、訂正後の請求項2?3とするものである。 また、訂正事項4ないし5は、訂正事項1による訂正がされた請求項1について、明細書の記載を特許請求の範囲の記載と整合させるものであり、訂正事項6ないし9は、訂正事項2ないし3による訂正がされた請求項2?3について、明細書の記載を特許請求の範囲の記載と整合させるものである。 すなわち、訂正事項1ないし9の訂正は、請求項1、及び一群の請求項[2?3]に対して請求されたものである。 そして、本件においては、訂正前の請求項1?3について特許異議の申立てがされているから、訂正事項1ないし9の訂正は、いずれも特許異議の申立てがされている請求項に係る訂正であり、訂正事項1ないし3により特許請求の範囲の限定的減縮が行われていても、訂正後の請求項1ないし3に係る発明について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 (6)申立人の意見書における主張について ア 訂正事項1について 申立人は、令和2年2月26日付け意見書において、訂正事項1において特定した「全て」とはどの程度をいうのか不明確であり、また明細書に記載される1時間の除去処理で必ずしも「全て」の除去ができるとは限らず、「全て」という特定について甲1発明との相違に関する特許権者の説明に説得性がなく、また除去の程度を「全て」とすることに技術的な意義がないから、訂正事項1は特許法第120条の5第2項ただし書第1号の規定に違反する旨を主張している(同意見書第1頁?第3頁;「3 意見の内容(1)請求項1について」)。 しかしながら、訂正事項1は、上記(1)に示したとおり、訂正前の請求項1において、「下地処理材」が「充填」されている、木材の表面の仮導管で形成された「凹部」について、「全て」の凹部から「不燃化処理の薬剤が全て除去」されたことを追加して特定するものであるから、訂正前の請求項1における「凹部」、及び該「凹部」からの「薬剤」の「除去」の程度をいずれも限定していると判断できる。これに反して、訂正事項1が、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮にあたらない旨をいう、異議申立人の主張は、採用することができない。 イ 訂正事項2について また申立人は、同意見書において、訂正事項2について、訂正事項1に関して主張したと同じ理由で「全て」という特定事項に技術的意義がないから、訂正事項2も特許法第120条の5第2項ただし書第1号の規定に違反する旨を主張している(同意見書第3頁;「3 意見の内容(2)請求項2について」)。 しかしながら、訂正事項2は、上記(2)に示したとおり、訂正前の請求項2においては特定されていなかった除去される薬剤の種類を、「不燃化処理の」薬剤と限定し、また訂正前の請求項2においては特定されていなかった当該除去の程度を、「全て」と限定していることが、明らかである。これに反して、訂正事項2が、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮にあたらない旨をいう、異議申立人の主張は、採用することができない。 ウ 訂正事項3について また申立人は、同意見書において、訂正事項3について、訂正事項3により特定された「1時間」という処理時間によって、必ず凹部から全ての薬剤が除去されるとは限らないから、訂正事項3における「1時間」という時間の特定には技術的意義がなく、そのため訂正事項3も特許法第120条の5第2項ただし書第1号の規定に違反する旨を主張している(同意見書第3頁?第4頁;「3 意見の内容(3)請求項3について」)。 しかしながら、訂正事項3は、上記(3)に示したとおり、訂正前の請求項3における「除去工程」における選択肢を限定するとともに、訂正前の請求項3においては具体的に特定されていなかった「除去工程」における処理時間を「1時間」と限定したものである。これに反して、訂正事項3が、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮にあたらない旨をいう、異議申立人の主張は、採用することができない。 3 小括 以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1,[2?3]について訂正を認める。 第3 本件訂正発明 本件訂正請求により訂正された請求項1ないし3に係る発明(以下、各々を「本件訂正発明1」等といい、請求項1ないし3に係る発明をまとめて「本件訂正発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 本件訂正発明1 「【請求項1】 不燃化処理されると共に表面の仮導管で形成された全ての凹部から不燃化処理の薬剤が全て除去された木材の前記表面に前記木材と架橋する下地処理剤が塗布され、前記凹部に前記下地処理剤が充填されている、表面処理木材。」 本件訂正発明2 「【請求項2】 不燃化処理された木材の表面及び前記表面の仮導管で形成された凹部に充填された不燃化処理の薬剤を液体で全て除去する除去工程と、 前記除去工程の後に前記木材と架橋する下地処理剤を前記表面に塗布し、前記凹部に前記下地処理剤を充填する塗布工程と、 を備える表面処理木材の製造方法。」 本件訂正発明3 「【請求項3】 前記除去工程は、 前記液体に前記木材を1時間浸漬する浸漬工程、 前記液体を湿潤させた湿潤部材で前記木材の前記表面を1時間被覆する被覆工程、 の一つ又は二つを組み合わせた工程である、 請求項2に記載の表面処理木材の製造方法。」 第4 証拠一覧、異議申立理由の概要、及び取消理由の概要、及び証拠の記載 1 証拠一覧 本件異議申立において提出された証拠は、以下のとおりである。 甲第1号証: 特開平2-162001号公報 甲第2号証: 特開2007-90839号公報 甲第3号証: 為広重雄他、「塗装」、木材工業、 Vol.18,No.11,第24-28頁、 1963年11月1日(発行)、 社団法人 日本木材加工技術協会 甲第4号証: 国土交通省 新耐火防火構造・材料等便覧 認定番号NM-1496,認証番号NM-1520, 認証番号NM-1521 (認定年月日 平成19年1月9日、 平成19年1月24日、平成19年1月24日) 甲第5号証: 福島和彦他、木質の形成 第2版 バイオマス科学への招待、第53頁、 2011年10月30日(発行)、海青社 甲第6号証: 特開2006-205653号公報 甲第7号証: 木下啓吾他、「第9章 塗料の選択と塗装工程(その 2)-木材では-」、色材協会誌、 Vol.69,No.5,第327-342頁, 平成8年5月20日(発行)、 社団法人 色材協会 甲第8号証: 今関英雅、「道管と仮道管について」、 みんなのひろば 植物Q&A、 2007年5月7日(インターネット回答日)、 (https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=1245key=道管と仮道管target=full) 甲第9号証: 今関英雅、「インドゴム、アカギ、トマトの道管、 仮道管について」、みんなのひろば 植物Q&A、 2006年11月28日(インターネット回答日)、 (https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=1113target=numberkey=1113) 甲第10号証: 佐伯浩、走査電子顕微鏡図説 木材の構造、 第26-27,32-33,42-43頁、 昭和57年8月1日(発行)、 社団法人 日本林業技術協会 甲第11号証: 原田浩他、木材の構造、第26-31頁、 昭和60年9月10日(発行)、文永堂出版株式会社 甲第12号証: 島地謙他、木材の組織、第111-113頁、 1976年4月5日(発行)、森北出版株式会社 甲第13号証: 上原徹、「木材の表面処理」、木材工業、 Vol.43,No.495,第2-8頁、 昭和63年6月1日(発行)、 社団法人 日本木材加工技術協会 甲第14号証: 上原徹他、 「連続コロナ放電処理による木材の接着性改良」、 木材学会誌 Vol.33,No.10, 第777-784頁、1987年 甲第15号証: 柳原榮一、「表面処理と接着」、日本ゴム協会誌、 Vol.65,No.2,第70-78頁、 平成4年2月15日(発行)、 社団法人 日本ゴム協会 甲第16号証: 白崎文雄、「品質管理の進め方(1)」、 色材、Vol.26,No.2、第37-43頁, 昭和28年、社団法人 色材協会 参考資料1: 特開昭63-317302号公報 (申立人が令和1年10月3日付け意見書に添えて提出) 2 異議申立理由、及び取消理由の要旨 (1)申立人による異議申立理由 申立人による異議申立理由の要旨は、次のとおりである。 ア(進歩性) 本件特許の請求項1ないし2に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明,並びに甲第2号証ないし甲第4号証に記載される周知事項、並びに甲第5号証ないし甲第12号証に記載の周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 本件特許の請求項3に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明,及び甲第13号証ないし甲第16号証に記載された事項、並びに甲第2号証ないし甲第4号証に記載される周知事項、並びに甲第5号証ないし甲第12号証に記載の周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 イ(明確性) 本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、発明が明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、その発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 ウ(実施可能要件) 本件明細書の発明の詳細な説明は、本件特許の請求項1ないし3に係る発明について、当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に記載をしているものとはいえず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、その発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)先の取消理由(決定の予告)の要旨 当審が令和1年10月24日(発送日)に特許権者に通知した、先の取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。 (進歩性) 1次訂正請求後の本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 3 証拠の記載 (1)甲第1号証 ア 甲第1号証の記載 甲第1号証には、図面と共に次の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。以下、同様。)。 (ア)第1頁右欄第2-5行 「木材の改質方法として、不溶性不燃性無機物を木材中に含ませることにより、難燃性(防火性),寸法安定性,防腐・防虫性,力学的強度,表面硬度等を付与する方法が研究、開発されている。」 (イ)第3頁右上欄第11行-第4頁左上欄第4行 「〔発明が解決しようとする課題〕 ところが、上記処理の結果得られる改質木材中には、水酸基等の親水基が多く残っているため、木材の耐水性、特に耐汚染性の点で問題が生じる場合があり、また、吸水による寸法変化等の問題もあって、さらなる改善が求められていた。 こうした事情に鑑み、この発明は、難燃性、力学的強度、防腐・防虫性等の各種特性が維持されつつ、耐水性、特に耐汚染性、および寸法安定性が向上された改質木材を製造する方法を提供することを課題とする。 〔課題を解決するための手段〕 上記課題を解決するため、この発明は、改質しようとする原料木材に対し、混合することにより不溶性不燃性無機物を生じさせるカチオン含有処理液とアニオン含有処理液の組み合わせのうちの一方を含浸させたのちに他方を含浸させて木材組織内に前記不溶性不燃性無機物を生成・定着させる改質木材の製法であって、前記不溶性不燃性無機物の生成・定着が行われたのちの木材に対し、さらにカップリング剤処理液を含浸させるようにする。 上記カップリング剤は、チタン系,アルミニウム系およびシラン系のうちの少なくとも1種であることが好ましい。 〔作 用〕 カップリング剤は、一般に、1分子中に親水基と疎水基を持っており、たとえば、分子鎖の一端に親水基が、他端に疎水基が位置している。無機物による処理が行われた後の木材にこのカップリング剤処理を施すと、カップリング剤分子の親水基と無機成分や木材成分の親水基とが結び付き、カップリング剤分子のもう一方の端にある疎水基が外部に向かうように配列する。その結果、木材に撥水性が発現し、水分のしみ込みが抑制されて吸水による寸法変化が少なくなり、また、液体により汚染されにくくなる等の耐水性が向上する。他方、水が木材内に浸透しても内部で化学吸着されにくいため、乾きやすくなる。さらに、用いられるカップリング剤にリンや硫黄といった難燃成分が含まれていれば、得られる改質木材全体の難燃性も一層改善される。 〔実 施 例〕 この発明に用いられる改質のための原料木材としては特に限定はされず、原木丸太,製材品,スライス単板,合板等が例示できる。それらの樹種等についても何ら限定されることはない。 木材中に生成させて木材組織内に分散・定着させる不溶性不燃性無機物としては、特に限定はされないが、たとえばホウ酸塩,リン酸塩およびリン酸水素塩,炭酸塩,硫酸塩および硫酸水素塩,ケイ酸塩,硝酸塩,水酸化物,フッ化物,臭化物等が挙げられる。これらの無機物は、2種以上が木材中に共存されるようであってもよい。」 (ウ)第5頁左上欄第15行-同頁左下欄第11行 「以上の含浸処理により、木材内に不溶性不燃性無機物を生成・定着させた後、必要に応じては溶脱処理を施して木材中に残されている可溶性の未反応イオンや副生成物等を除去したり、水洗等を行って木材表層部に生成した不溶性不燃性無機物を除去したりしてもよい。木材内に残される上記可溶性成分は、吸水,吸湿量が多く、また、その種類によっては潮解性を示す場合もあるので、これらがあまり多量に残存すると、木材の吸水、吸湿性が高くなりすぎてしまう。すると、建材用途等として不適当になってしまう恐れもあるので、溶脱処理によりこれらを除去して木材の耐水性や耐候性を高めることができるのである。この溶脱処理は、後処理浴を設けて水中に長時間浸漬したり、流水中に放置して洗浄したりして行われる。また、改質木材の外観、すなわち木質感という点に関しては、処理後、乾燥させられると、木材表面に生成した不溶性不燃性無機物が析出して木材全体が白く粉をふいたようになって、外観が損なわれるという恐れもあるため、処理後の木材を洗浄して外観を保つことも有効である。 以上が無機物の含浸処理であるが、この発明では、次に、カップリング剤処理液の含浸をも行うようにする。ここで、カップリング剤には水溶性のものと非水溶性(非水性)のものとがあり、前者の水溶性カップリング剤の場合は、主として上記溶脱処理後の木材に対しそのまま通用することが好ましいが、後者の非水性(有機溶媒系)カップリング剤の場合は、上記溶脱処理後の木材をいったん乾燥したのち適用することが好ましい。 カップリング剤としては、特に限定はされず、通常用いられているものを単独で、あるいは複数種を併せて使用できる。具体的には、たとえば、チタン系,アルミニウム系あるいはシラン系のものを用いることが好ましい。また、木材の難燃化の点から、分子中にPやS等の難燃成分を含んでいることが一層好ましい。」 (エ)第6頁右上欄第11行-左下欄第14行 「上記カップリング剤の含浸方法は、特に限定はされず、通常の常圧下での浸漬含浸、塗布含浸等の他、減圧下あるいは加圧下で含浸を行って、内部への浸透を促進するようにしてもよい。また、カップリング剤処理液を加温して含浸させることもできる。 こうしてカップリング剤による処理が行われた後、乾燥して、改質木材が得られる。 次に、この発明におけるさらに詳しい実施例について、比較例と併せて説明するが、この発明にかかる改質木材の製法が、下記一実施例に限定されるものではないことは言うまでもない。 -実施例- ベイマツ材の2mm厚スライス単板を30mmHg以下に減圧して1時間保持したのち注水して、木材が完全に水に浸ったところで常圧に開放し、室温でそのまま24時間放置して飽水状態とした。 得られた飽水単板を第1表に示した第1浴中に6時間浸漬し、続いて第2浴中に24時間浸漬して、木材中に不溶性不燃性無機物を生成・定着させた。 上記処理木材を、必要に応じては110℃,4時間の乾燥処理を施した後、カップリング剤処理液からなる第3浴中に24時間浸漬した。」 (オ)第8頁左上欄第12行-右上欄第11行 「〔発明の効果〕 この発明にかかる改質木材の製法によれば、カップリング剤による処理が行われることにより、木材に撥水性が付与され、耐水性、特に耐汚染性が向上する。また、水が木材内に浸透しても内部で化学吸着されにくいため、いったん濡れても乾燥しやすくなるとともに、吸水することによる寸法変化が少なくなり、寸法安定性にも一層優れた改質木材が得られる。加えて、用いられるカップリング剤にリンや硫黄といった難燃成分が含まれていれば、得られる改質木材全体の難燃性もさらに改善される。 他方、カップリング剤の使用量は微量であり、従来の無機物処理により付与された改質木材の性能はそのまま保持される。したがって、上記のように耐水性および寸法安定性等が一層向上するとともに、無機物の作用による優れた難燃性,防腐・防虫性,力学的強度等を有し、外観的にも良好な改質木材が得られ、これは、建材等として最適な、高度な性能を備えている。」 イ 甲第1号証に記載された発明の認定 甲第1号証には、上記アを踏まえると、物の発明及び製造方法の発明として、それぞれ次の発明(以下、「甲1物発明」及び「甲1製法発明」という。)が記載されていると認められる。 (ア)甲1物発明 「木材の組織内に、含浸処理により、不溶性不燃性無機物を生成・定着させて難燃性(防火性)を付与した後、 木材中に残されている可溶性の未反応イオンや副生成物等を溶脱処理によって除去するとともに、木材表層部に生成した不溶性不燃性無機物を水洗等によって除去するために、 溶脱処理を目的として該木材を水中に長時間浸漬したり、流水中に放置して洗浄したりし、及び/又は、木材表層部に生成した不溶性不燃性無機物を除去する目的で水洗等を行い、 処理後に乾燥させても、木材表面に生成した不溶性不燃性無機物が析出して木材全体が白く粉をふいたようになって、外観が損なわれるという恐れがないように洗浄し、木材の耐水性や耐候性を高め外観を保ったうえで、 改質木材中には、水酸基等の親水基が多く残っていることによる、木材の耐水性、耐汚染性、吸水による寸法変化等の問題に対処するために、 1分子中に親水基と疎水基を持っているカップリング剤分子を木材に塗布含浸して、カップリング剤分子の親水基と木材成分の親水基とが結び付き、カップリング剤分子のもう一方の端にある疎水基が外部に向かうように配列させて、耐水性及び寸法安定性を一層向上させた、改質木材であって、 木材としてベイマツ材のスライス単板を用い、カップリング剤としてシラン系カップリング剤を用いた、 改質木材。」 (イ)甲1製法発明 「木材の組織内に、含浸処理により、不溶性不燃性無機物を生成・定着させて難燃性(防火性)を付与した後、 木材中に残されている可溶性の未反応イオンや副生成物等を溶脱処理によって除去するとともに、木材表層部に生成した不溶性不燃性無機物を水洗等によって除去するために、 溶脱処理を目的として該木材を水中に長時間浸漬したり、流水中に放置して洗浄したりし、及び/又は、木材表層部に生成した不溶性不燃性無機物を除去する目的で水洗等を行い、 処理後に乾燥させても、木材表面に生成した不溶性不燃性無機物が析出して木材全体が白く粉をふいたようになって、外観が損なわれるという恐れがないように洗浄し、木材の耐水性や耐候性を高め外観を保ったうえで、 改質木材中には、水酸基等の親水基が多く残っていることによる、木材の耐水性、耐汚染性、吸水による寸法変化等の問題に対処するために、 1分子中に親水基と疎水基を持っているカップリング剤分子を木材に塗布含浸して、カップリング剤分子の親水基と木材成分の親水基とが結び付き、カップリング剤分子のもう一方の端にある疎水基が外部に向かうように配列させて、耐水性及び寸法安定性を一層向上させた、改質木材の製造方法であって、 木材としてベイマツ材のスライス単板を用い、カップリング剤としてシラン系カップリング剤を用いた、 改質木材の製造方法。」 (2)甲第2号証 ア 甲第2号証の記載 甲第2号証には、図面と共に次の事項が記載されている。 (ア)段落【0020】-【0022】 「【0020】 本発明においては、高濃度でホウ素系化合物を含有する水溶液を耐火処理剤として、木質材に含浸させ、この木質材を乾燥した後に、シランカップリング剤及び樹脂系塗料の塗布、及び/または、シランカップリング剤及び樹脂系接着剤による接着を行うことで、ホウ素化合物の溶脱性が改善され、その結果、屋外のような雨水の接触する環境で使用した場合も、良好な耐火性、防虫性を達成することができる。 【0021】 また、本発明により、高濃度でホウ素系化合物を含有する耐火木質材を、高い接着強度で接合することが可能となり、その結果、様々な用途に利用可能な、有用な耐火性の建築材を得ることが可能となる。 【0022】 また、本発明の耐火処理剤によって、様々な耐火性処理物を製造することが可能となる。」 (イ)段落【0023】-【0024】 「【発明を実施するための最良の形態】 【0023】 本発明で使用する木質材は、木材、竹、モミ殻、藺草、藁、麻、綿等の植物体に由来する角材、板、丸棒、薄板(ラミナ)、チップ、繊維、粉体、あるいはこれらを加工した物品である。本発明にて開示するホウ素含有水溶液を含浸、乾燥して耐火木質材として使用する場合には、角材、板、丸棒が好適に使用される。 【0024】 また、木質材に対して本発明にて開示するホウ素含有水溶液を含浸、乾燥し、更にこれらを本発明の接着方法により接着を行う場合は、ホウ素含有水溶液を含浸する木質材としては、好適には、薄板(ラミナ)、チップ、繊維、粉体が使用され、その結果得られる建築材は、耐火性の集成材、合板、LVL、OSB、パーティクルボード、ファイバーボード、MDF(中密度繊維板)などである。こうした方法で得られる建築材は、薄板(ラミナ)、チップ、繊維、粉体等の注入の容易な木質材において多量のホウ素含有水溶液が注入されており、これによって高い耐火性能が付与されている。また、更にこれらの建築材に、切断、穴開け、塗装等の加工を施すことで、建材としての広範な利用が可能となる。」 (ウ)段落【0033】-【0035】 「【0033】 上記の方法で製造された乾燥された耐火木質材への塗装は、木質材に含まれるホウ素系化合物が雨水等によって溶脱することを抑制する目的で実施される。 【0034】 本発明の塗装方法には、大きく分けて以下の2つの方法がある。 1.木質材表面にシランカップリング剤を塗布し、その後、更にその上に、樹脂系塗料を塗布する方法。 2.シランカップリング剤と樹脂系塗料を前もって混合し、これを木質材表面に塗布する方法。 【0035】 本発明の意図するところは、木質材表面を、シランカップリング剤と樹脂系塗料の双方で保護することであり、そのための代表的な方法は塗布であるが、その他に吹き付け処理、浸漬処理、加圧あるいは減圧を用いる注入処理なども組み合わせて実施することが可能である。このような組み合わせ方法としては、例えば、シランカップリング剤の溶液中に耐火木質材を浸漬した後、この木質材を溶液から取り出して乾燥し、更に、樹脂系塗料を吹き付ける方法などが挙げられる。」 (エ)段落【0040】-【0041】 「【0040】 前記の方法で製造された乾燥された耐火木質材、あるいは、上記の方法でシランカップリング剤と樹脂系塗料を組み合わせて塗装した耐火木質材を接着することで、有用な大きさ、長さ、厚さを有する建築材が製造される。こうした建築材は、ホウ素系化合物の溶脱が接着層によって抑制されているため、環境安全性の面からも、また、耐火性能の面からも極めて有用である。 【0041】 本発明において実施される、耐火木質材への接着剤の塗布方法は、大きく分けて以下の2つの方法がある。 1.木質材接着面にシランカップリング剤を塗布し、その後、更にその上に、あるいは、この接着面と張り合わせられるもう一方の木質材接着面に、樹脂系接着剤を塗布する方法。 2.シランカップリング剤と樹脂系接着剤を前もって混合し、これを木質材接着面に塗布する方法。」 (オ)段落【0065】-【0069】 「【実施例3】 【0065】 オルトホウ酸粉末80kgに水と20%苛性ソーダ水溶液を加えて攪拌し、pH7.0の清澄な水溶液を得た。こうして得られたホウ素含有水溶液でのホウ素元素の含有量は、4.7%であった。 【0066】 このホウ素含有水溶液を用いて、厚さ3mm、縦300mm×横300mm、 含水率7%のラジアータパイン単板に対する含浸処理を行った。浸漬処理は、浸漬した状態で0.1kg/cm^(2)にて30分間減圧処理し、更に、浸漬した状態で8kg/cm^(2)にて30分間加圧処理することで実施した。含浸処理後の単板をホウ素含有水溶液から取り出し、35℃で1週間の乾燥を行い、含水率7%の耐火処理単板を得た。 【0067】 つぎに、70℃の熱水50kgに、オルトホウ酸粉末5kgとホウ砂(Na_(2)B_(4)O_(7)・10H_(2)O)粉末2kgを加えて攪拌溶解した後、室温まで冷却して得た溶液97重量部に対して、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン3重量部を混合し、10分間攪拌することで、シランカップリング剤を含む清澄な溶液を得た。この溶液を上記の耐火処理単板の接着面の片面当たり250g/m^(2)の量で、接着面の両面に塗布して乾燥した。更に、この接着面に、株式会社オーシカ製のフェノール樹脂D-120を4kg、小麦粉を0.3kg、炭酸カルシウムを0.3kg、炭酸ナトリウムを0.05kg、水を0.2kg使用して混合して得られるフェノール樹脂系接着剤を、接着面の片面当たり200g/m^(2)の量で、接着面の両面に塗布し、張り合わせて9プライのLVLを構成し、ここに130℃、12kg/cm^(2)の条件でホットプレスを20分間実施することで接着を行った。 【0068】 更に、対照とするため、シランカップリング剤溶液を用いず、他は同じ条件でLVLを製造した。これらのLVLにおいて、構造用単板積層材の日本農林規格(第3条構造用単板積層材の規格「接着の程度」)に準拠して試験行ったところ、シランカップリング剤とフェノール樹脂系接着剤の双方を用いて製造したLVLは、浸漬剥離試験と煮沸剥離試験の双方において剥離を生じず良好な接着性を示したが、対照のフェノール樹脂系接着剤のみを用いて製造したLVLでは浸漬剥離試験にて剥離率13%でラミナの剥離が認められた。 【0069】 また、ここで得られた、シランカップリング剤とフェノール樹脂系接着剤の双方を用いて製造したLVLから、100mm×100mmの大きさで試験片を切り出し、これを用いて実施例1記載の方法で燃焼試験を行ったところ、本材が不燃材に相当する耐火性を有することが示された。」 イ 甲第2号証に記載された発明の認定 甲第2号証には、上記アを踏まえると、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 「木質材に対してホウ素含有水溶液を含浸、乾燥して高い耐火性能を付与した耐火木質材に対して、 塗装を行う場合には、耐火木質材表面にシランカップリング剤を塗布し、その後、更にその上に、樹脂系塗料を塗布し、接着を行う場合には、耐火木質材接着面にシランカップリング剤を塗布し、その後、更にその上に、あるいは、この接着面と張り合わせられるもう一方の木質材接着面に、樹脂系接着剤を塗布することで、木質材表面を、シランカップリング剤と樹脂系塗料の双方で保護するとともに、良好な耐火性、防虫性を達成すること、及び高い接着強度で接合することを可能とする方法であり、 ラジアータパイン単板を接着する場合には、ホウ素含有水溶液を用いて含浸処理を行った耐火処理単板の、接着面の両面に、シランカップリング剤を含む溶液を塗布して乾燥し、更にこの接着面に、フェノール樹脂系接着剤を塗布して張り合わせ接着を行うことで、シランカップリング剤溶液を用いずフェノール樹脂系接着剤のみを用いて製造したより、剥離を生じず良好な接着性を得る、 耐火木質材の塗装又は接着方法。」 (3)甲第3号証 甲第3号証には、次の事項が記載されている。 ア 第26頁左欄第12-13行 「また、塗膜が木材表面に付着する機構は,木材と木材との接着機構に類似が多い。」 (4)甲第4号証 甲第4号証には、図面と共に次の事項が記載されている。 ア 認定番号NM-1496 「認定区分 防火材料 不燃材料 ・・・・(中略)・・・・・ 構造方法又は建築材料の名称 両面樹脂塗装/含水ほう酸塩・無機りん酸塩系薬剤処理/スギ材 ・・・・(中略)・・・・・ 認定年月日 平成19年1月9日」 イ 認定番号NM-1520 「認定区分 防火材料 不燃材料 ・・・・(中略)・・・・・ 構造方法又は建築材料の名称 両面ウレタン樹脂系塗装/無機りん酸・窒素系薬剤処理/すぎ板 ・・・・(中略)・・・・・ 認定年月日 平成19年1月24日」 ウ 認定番号NM-1521 「認定区分 防火材料 不燃材料 ・・・・(中略)・・・・・ 構造方法又は建築材料の名称 両面ウレタン樹脂系塗装/無機りん酸・窒素系薬剤処理/すぎ板 ・・・・(中略)・・・・・ 認定年月日 平成19年1月24日」 (5)甲第5号証 甲第5号証には、次の事項が記載されている。 ア 第53頁第1-7行 「1.7 針葉樹材の組織構造 針葉樹材の構成要素は、仮道管、ストランド仮道管(strandtracheid)、軸方向柔細胞、放射仮道管、放射柔細胞、エピセリウム細胞(epithelialcell)である。このうちすべての針葉樹に共通して備わる構成要素は、仮道管と放射柔細胞の2種類である。仮道管は体積比で材の90%以上を占め、その構造や配列が針葉樹材の物性を大きく支配する。針葉樹材には固有の特徴的な外見を示す樹種もあるが、広葉樹材に比べると変化は乏しい。」 (6)甲第6号証 甲第6号証には、次の事項が記載されている。 「【0009】 樹脂を含浸するための「木材」は、特に限定されるものではないが、家屋等の建造物や家具等に用いられる木材を意味し、杉材や松材等の針葉樹木材であっても、栂材、楓材、樺材、ブナ材等の広葉樹木材であってもよい。具体的には杉材や松材が好適であるが、これに限られるものではなく栂材、楓材、樺材、ブナ材等にも好適に適用できる。杉材等の針葉樹の場合は仮導管に、また栂材等の広葉樹の場合は導管に水溶性セルロース系高分子誘導体を含浸させる。ここで、「仮導管」とは、針葉樹における水吸上げのための細管であり、「導管栂とは、広葉樹における水吸上げのための細管である。 ・・・・(中略)・・・・ 【0011】 また、必要により、これら水溶性セルロース系高分子誘導体に難燃剤、着色剤、酸化防止剤、抗微生物剤、殺虫剤、忌避剤、紫外線保護剤等を添加してもよい。しかし、本発明本来の目的を達成するためには、これら配合剤は最低限の配合量とすることが好ましい。 難燃剤としては、例えば、燐酸アンモニウム、硼酸亜鉛、有機燐酸エステル、有機ハロゲン化合物等を挙げることができる。」 (7)甲第7号証 甲第7号証には、次の事項が記載されている。 ア 第327頁左欄第18-20行 「針葉樹は組織的に道管がなく仮道管と呼ばれる細胞よりなり、用途には家具や建築用がある。」 (8)甲第8号証 甲第8号証には、次の事項が記載されている。 「・・・・仮道管は長い、両端が尖った紡錘形をし、二次細胞壁が厚くてリグニン化した死んだ細胞で中身はありません。・・・・(中略)・・・・。特に、針葉樹では道管はなく仮道管だけが水の通路となっています。・・・・(中略)・・・・。」 (9)甲第9号証 甲第9号証には、次の事項が記載されている。 「・・・・道管(道管要素)と仮道管(仮道管要素)の分布に関するご質問ですが、一般に道管は被子植物、仮道管はシダ植物、裸子植物にあるとされています。しかし、もう少し正確な表現をとるならば、裸子植物、特に針葉樹には道管はなく仮道管のみですが、同じ裸子植物でもマオウなど、シダ植物のイワヒバ属やトクサ属などは道管要素も持っています。・・・・(中略)・・・・。」 (10)甲第10号証 甲第10号証には、次の事項が記載されている。 ア 第26頁 「7 カラマツ<マツ科> ・・・・(中略)・・・・ カラマツ材の特徴として,年輪内の早材から晩材への移行がきわめて急である。横断面に見られるように,仮道管は直径の減少とともに急に厚壁化し,典型的な晩材仮道管となる[7-1,7-6]。・・・・(中略)・・・・。」 イ 第32頁 「10 スギ<スギ科> ・・・・(中略)・・・・ 年輪内の早材から晩材への移行は急で,横断面で仮道管は放射方向直径が減少して偏平になるととともに厚壁となり,高密度な晩材層を形成する[10-1,10-2,10-6]。・・・・(中略)・・・・。」 ウ 第42頁 「14 ヒノキ<ヒノキ科> ・・・・(中略)・・・・ 年輪内の早材から晩材への移行は緩やかで,横断面を見ると仮道管は徐々に放射方向直径を減少し,・・・・・(中略)・・・厚壁とならないので晩材幅はきわめて狭い[14-1,14-11]。・・・・(中略)・・・・。」 (11)甲第11号証 甲第11号証には、次の事項が記載されている。 ア 第27頁 「針葉樹材を構成する細胞は,表5の通りである。 ・・・・(中略)・・・・ 表の中で,仮道管と放射柔細胞はすべての針葉樹材に存在するが,その他の細胞は樹種によってあるものとないものがある。・・・・(中略)・・・・。 3.仮道管 仮道管(tracheid)は,針葉樹材の通水要素で,水の通導と樹体の支持の2作用を受け持つ。・・・・(中略)・・・・。」 (12)甲第12号証 甲第12号証には、次の事項が記載されている。 ア 第112頁 「7.1.2 軸方向に配列する組織および細胞 a)軸方向仮道管 i)仮道管 前述したように針葉樹材を構成する要素のうち,圧倒的な比率を占めるもので,最も主要な要素である(表7.1参照)。・・・・(中略)・・・・。」 (13)甲第13号証 甲第13号証には、次の事項が記載されている。 ア 第251頁右欄第6-14行 「4.湿潤性 木材の湿潤性に最も影響するものは抽出成分(ヤニ)である。塗料,接着剤および着色剤などを木材に塗布する場合,それらと木材間の湿潤性が良くないと,塗膜の付着障害,接着剥離および着色むらなどの原因となる。このような場合の対処法として,以下の項目が研究されている。 I.有機溶媒あるいはアルカリ水溶液を含んだ布で木材を拭う^(17,18))。・・・・(中略)・・・・。」 (14)甲第14号証 甲第14号証には、次の事項が記載されている。 ア 第777頁左欄第1-4行 「1.緒言 木材の中でも比較的接着性の良くない樹種については有機溶剤による抽出やアルカリ水溶液を含んだ布で拭くなどの前処理が研究されてきた^(1))。・・・・(中略)・・・・。」 (15)甲第15号証 甲第15号証には、次の事項が記載されている。 ア 第70頁左欄第23行-第71頁左欄第12行 「金属やプラスチックをはじめとして,多くの材料の表面を微視的に見れば,その表面には吸着したガスや水,更には加工時に用いた油や離型剤など多くの異物が存在している。 これらの異物はいずれも”接着”には阻害要因として働くものであり,表1にまとめて示した。 ・・・・(中略)・・・・。 したがって,良好な接着接合をするには,材料の表面に存在する阻害要因を取り除くことが必要であり,表2に示したような手法が必要とする接着強さのレベルに応じて行われている。 最初に行われている洗浄は表面に付着している汚染物を水や有機溶剤を用いて取り除くものであるが,最近ではプラズマやオゾンなどの活性ガスを用いて行うことも検討されている^(4))。洗浄液に浸せきする場合には,超音波を併用するのが一般的である。 ・・・・(中略)・・・・。 プライマーは接着剤と材料との間にあって,接着性の向上をはかるもので,シランカップリング剤など多くのものが実用されている。」 (16)甲第16号証 甲第16号証には、次の事項が記載されている。 ア 第39頁右欄第30-32行 「このように,あらゆる作業に対して,作業標準をきめるなら,後は,この作業標準を忠実に守らせることが,品質管理になる。・・・・(中略)・・・・。」 (17)参考資料1 参考資料1には、次の事項が記載されている。 ア 第3頁左上欄第14行-左下欄第4行 「この処理装置を用い、たとえば、つぎのようにして木材の処理を行う。処理すべき木材2を処理槽1内に置き、ポンプ3を用いて貯蔵タンク4より処理槽1にカチオン含有処理液20を導入する。所定の処理時間、処理温度で、木材2へのカチオン含有処理液20の含浸を行ったのち、カチオン含有処理液20を元の貯蔵タンク4に返送する。カチオン含有処理液あるいはアニオン処理液による処理温度は、処理の効率を上げるため、50?95℃とするのがよい。処理液を加温する場合は、処理槽1あるいは貯蔵タンク4,5に、処理液を加温する加温手段を設けるようにすると非常に便利である。カチオン含有処理液2の含浸のあと、処理槽lの内壁面に付着したカチオン含有処理液20を除くため、貯蔵タンク6内の水22を処理槽1内に導入して、貯蔵タンク6内を水洗するようにするのが好ましい。つぎに、ポンプ3を用いて貯蔵タンク5より処理槽1にアニオン含有処理液21を導入する。木材2にアニオン含有処理液21を含浸させ、木材2中でカチオン含有処理液20とアニオン含有処理液21とを反応させて不溶性不燃性無機物を生成させる。このあと、アニオン含有処理液21を元の貯蔵タンク5に返送する。最後に、処理槽lの内壁面に付着したアニオン含有処理液21を除くため、貯蔵タンク6内の水22を処理槽l内に導入して、貯蔵タンク6内を水洗するようにするのが好ましい。このようにして処理した木材を乾燥等して、改質木材を得る。処理液の含浸はカチオン含有処理液およびアニオン含有処理液のいずれを先にするようであってもよい。」 イ 第3頁左下欄第15行-右下欄第4行 「この発明にかかる改質木材の製法においては、前記のように、木材を処理槽中に置いて、処理槽にカチオン含有処理液およびアニオン含有処理液を供給するようにしているので、処理液の含浸のために木材を移動させる必要がない。このため、改質木材の製造を自動化することが容易にでき、製造コストを低減することが容易にできるようになる。また、木材を移動させる間に木材から処理液の滴が落ちて、処理液による汚染や腐食の問題が生じるといったことも起こらないのである。」 ウ 第3頁右下欄下から2行-第4頁右上欄第1行 「(実施例1) ブナ材の2mm厚ロータリー単板を飽水状態にして、第1図に示されている処理装置の処理槽l内に置き、まず、第1回処理を行った。バルブ8,10を開(残りのバルブは閉)にして、ポンプ3により貯蔵タンク4内のカチオン含有処理液20を処理槽1に導入し、50℃で24時間の含浸を行った。バルブ9,13を開にして、ポンプ3により処理槽1内のカチオン含有処理液20を貯蔵タンク4に返送した。この第1回処理で用いたカチオン含有処理液中に含まれている薬剤およびその濃度は、第1表に示されている通りである。つぎに、バルブ8,12を開にして、ポンプ3により貯蔵タンク6内の水22を処理槽1に導入し、5分間、単板2と処理槽l内を水洗した。水洗終了後、バルブ9,15を開にして、処理槽l内の水洗水を廃水処理装置7に送った。このあと、第1回処理に準じ、単板2にアニオン含有処理液21を含浸させ、水洗を行って、第2回処理を行った。この第2回処理で用いたアニオン含有処理液中に含まれている薬剤およびその濃度は、第1表に示されている通りである。第1回および第2回処理のあと、乾燥を行って改質木材を得た。」 第5 判断 上記第3のとおり、本件訂正請求による訂正は全て認められたので、以下では、本件訂正発明1ないし3について、判断する。 1 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について (1)本件訂正発明1 ア 対比 本件訂正発明1と甲1物発明とを対比する。 (ア)不燃化処理、仮導管、薬剤について 甲1物発明における「木材」は、本件訂正発明1における「木材」に相当し、甲1物発明における「木材の組織内に、含浸処理により、不溶性不燃性無機物を生成・定着させて難燃性(防火性)を付与」する処理は、本件訂正発明1における「不燃化処理」に相当する。 甲1物発明において「木材」として使用する「ベイマツ」は、針葉樹であり、針葉樹が仮導管を有することは、上記第4の2(5)?(12)における甲第5号証ないし甲第12号証の記載からも示されるとおり、技術常識である。そのため、甲1物発明における「ベイマツ」は、本件訂正発明1における「表面の仮導管で形成」された「凹部」に相当する構成を有している。 甲1物発明における「不溶性不燃性無機物」は、「難燃性(防火性)を付与」する機能を有する化合物であるから、本件訂正発明1における「不燃化処理の薬剤」に相当する。甲1物発明において、針葉樹である「ベイマツ」の「木材表層部に生成」する「不溶性不燃性無機物」は、ベイマツが有する「表面の仮導管」の箇所にも生成すると解され、当該箇所に生成する「不溶性不燃性無機物」は、本件訂正発明1において、「除去」される前に「表面の仮導管で形成され」た「凹部」に存在する、「不燃化処理の薬剤」に相当する。 (イ)不燃化処理の薬剤の除去について 甲1物発明における「溶脱処理を目的として該木材を水中に長時間浸漬したり、流水中に放置して洗浄したり」する構成と、本件訂正発明1における「全ての凹部」から「不燃化処理の薬剤が全て除去」される構成とについて対比する。甲1物発明における「木材表層部に生成した不溶性不燃性無機物」は、「水洗等によって除去」し得るものであるとともに、甲1物発明における「木材を水中に長時間浸漬したり、流水中に放置して洗浄したり」する処理は、「水洗」の一形態であり、また「木材中に残されている可溶性の未反応イオンや副生成物等」を除去するだけ十分な時間実施される処理であるから、「溶脱処理」の目的を有するとしても、「木材表層部に生成した不溶性不燃性無機物」を除去する作用を併せ持つ処理であり、当該処理によって、ベイマツの「表面の仮導管」の箇所も含めて、「木材表面に生成」した「水洗等によって除去」し得る「不溶性不燃性無機物」は、所定の程度まで「除去」されると解される。また、甲1物発明における「木材を水中に長時間浸漬したり、流水中に放置して洗浄したり」する処理を、本件訂正発明1に係る「凹部」から「不燃化処理の薬剤」を「除去」する処理の例として、明細書の段落【0035】に記載される、「(浸漬処理)図4に示すように、水槽100の液体(水)Mの中に、木材10を予め定めた時間(例えば、1時間)浸漬して取り出す。」という処理と比べても、除去がどの程度まで行われるかという点をひとまず措くとして、処理内容自体には特段の相違はない。そのため、甲1物発明において、「溶脱処理を目的として該木材を水中に長時間浸漬したり、流水中に放置して洗浄したり」した後の、仮導管の箇所を含むベイマツの表面と、本件訂正発明1における「表面の仮導管で形成された全ての凹部から不燃化処理の薬剤が全て除去された木材の前記表面」とは、「全て」の凹部から不燃化処理の薬剤が「全て」除去されているかという点を措くとして、「表面の仮導管で形成された凹部から不燃化処理の薬剤が除去された木材の前記表面」という点で共通する。 次に、甲1物発明における「木材表層部に生成した不溶性不燃性無機物を除去する目的で水洗等を行」う構成と、本件訂正発明1における「全ての凹部」から「不燃化処理の薬剤が全て除去」される構成とについて対比する。甲1物発明において、「木材表層部に生成した不溶性不燃性無機物を除去する目的で水洗等を行」う処理は、「水洗等」の一形態である「溶脱処理を目的として該木材を水中に長時間浸漬したり、流水中に放置して洗浄したり」する処理と兼用又は併用されるにせよ、あるいは「木材表層部に生成した不溶性不燃性無機物を除去する目的で水洗等を行」う処理のみが単独で行われるにせよ、処理の終了後には「処理後に乾燥させても、木材表面に生成した不溶性不燃性無機物が析出して木材全体が白く粉をふいたようになって、外観が損なわれるという恐れがない」状態となるまで、実施されると解される。そして、木材がベイマツの場合、表面に露出した「仮導管」の箇所に「木材表層部に生成した不溶性不燃性無機物」が残っていれば、当該露出した「仮導管」の箇所に残る「不溶性不燃性無機物」が木材表面で視認されるとともに、「処理後」の「乾燥」によりさらに「不溶性不燃性無機物が析出」することも考慮して「外観が損なわれるという恐れ」がない状態まで「水洗等」を行うからには、当該「水洗等」を終えたベイマツでは、表面の仮導管の箇所についても、「生成した不溶性不燃性無機物」は、視認の恐れがない程度まで「除去」されていると解される。そのため、甲1物発明において、「木材表層部に生成した不溶性不燃性無機物を除去する目的で水洗等を行」った後の、仮導管の箇所を含むベイマツの表面と、本件訂正発明1における「表面の仮導管で形成された全ての凹部から不燃化処理の薬剤が全て除去された木材の前記表面」とも、「全て」の凹部から不燃化処理の薬剤が「全て」除去されているかという点を措くとして、「表面の仮導管で形成された凹部から不燃化処理の薬剤が除去された木材の前記表面」という点で共通する。 したがって、甲1物発明において、「溶脱処理を目的として該木材を水中に長時間浸漬したり、流水中に放置して洗浄したりし、及び/又は、木材表層部に生成した不溶性不燃性無機物を除去する目的で水洗等を行い、処理後に乾燥させても、木材表面に生成した不溶性不燃性無機物が析出して木材全体が白く粉をふいたようになって、外観が損なわれるという恐れがないように洗浄し、木材の耐水性や耐候性を高め外観を保ったうえで」、カップリング剤分子の塗布含浸が行われる前の「ベイマツ」の、仮導管の箇所を含む表面は、「溶脱処理を目的として該木材を水中に長時間浸漬したり、流水中に放置して洗浄したり」する処理と「木材表層部に生成した不溶性不燃性無機物を除去する目的で水洗等を行」う処理との一方のみを行う場合、あるいは両方の処理を行う場合の、いずれの場合であっても、本件訂正発明1における「表面の仮導管で形成された全ての凹部から不燃化処理の薬剤が全て除去された木材の前記表面」と、「全て」の凹部から不燃化処理の薬剤が「全て」除去されているかという点を措くとして、「表面の仮導管で形成された凹部から不燃化処理の薬剤が除去された木材の前記表面」という点で共通する。 (ウ)処理剤の塗布等について 甲1物発明における「シラン系カップリング剤」は、「1分子中に親水基と疎水基を持って」おり、「カップリング剤分子の親水基と木材成分の親水基とが結び付き、カップリング剤分子のもう一方の端にある疎水基が外部に向かうように配列」するものであるから、本件訂正発明1における「木材と架橋する下地処理剤」とは、「木材と架橋する処理剤」という点で共通する。 甲1物発明において、「シラン系カップリング剤」の「カップリング剤分子を木材に塗布含浸」することは、本件訂正発明1において、「木材の前記表面」に、前記木材と架橋する下地処理剤が「塗布」されることに相当する。 また、甲1物発明において、「シラン系カップリング剤」の「カップリング剤分子」の「木材」への「塗布含浸」は、「木材中に残されている可溶性の未反応イオンや副生成物等を溶脱処理によって除去するとともに、木材表層部に生成した不溶性不燃性無機物を水洗等によって除去するために、溶脱処理を目的として該木材を水中に長時間浸漬したり、流水中に放置して洗浄したりし、及び/又は、木材表層部に生成した不溶性不燃性無機物を除去する目的で水洗等を行い、処理後に乾燥させても、木材表面に生成した不溶性不燃性無機物が析出して木材全体が白く粉をふいたようになって、外観が損なわれるという恐れがないように洗浄し、木材の耐水性や耐候性を高め外観を保ったうえで」行われるから、「シラン系カップリング剤」は、上記(イ)に対比した本件訂正発明1との共通点である、「表面の仮導管で形成」された「凹部」であり「不燃化処理の薬剤が除去」された「凹部」にも、入り込むと解される。このことと、本件訂正発明1において「前記凹部に前記下地処理剤が充填されている」こととは、「前記凹部に前記処理剤が充填されている」という点で共通する。 (エ)表面処理木材について 甲1物発明における「改質木材」は、「シラン系カップリング剤」の「塗布含浸」が行われているから、木材の表面に対する処理も行われていると言うことができ、この点で本件訂正発明1における「表面処理木材」に相当する。 (オ)小括 上記(ア)?(エ)より、甲1物発明と本件訂正発明1とは、以下の点で一致する。 「不燃化処理されると共に表面の仮導管で形成された凹部から不燃化処理の薬剤が除去された木材の前記表面に前記木材と架橋する処理剤が塗布され、前記凹部に前記処理剤が充填されている、表面処理木材。」 一方、両者は、次の点で相違する。 (相違点1) 処理剤による処理、及びそれに先立つ不燃化処理の薬剤の除去について、 本件訂正発明1では、木材表面の仮導管で形成された「全ての」凹部から、不燃化処理の薬剤が「全て」除去されるとともに、そのうえで塗布され凹部に充填される処理剤が「下地処理剤」であると特定されているのに対し、 甲1物発明では、木材表層部に生成した不溶性不燃性無機物を「全ての」凹部から「全て」除去し、シラン系カップリング剤による処理を、「下地処理剤」の処理とすることが特定されていない点。 イ 判断 上記相違点1について検討する。 上記第4の2(2)イに示した甲2発明は、耐火性能を付与した耐火木質材の塗装又は接着性を改善するために、耐火木質材表面にシランカップリング剤を塗布し、その後更にその上に、樹脂系塗料又は樹脂系接着剤を塗布する構成を有しており、シランカップリング剤を樹脂系塗料による塗装又は樹脂系接着剤による接着のための下地処理として塗布している。そのため、甲2発明は、上記相違点1に係る本件訂正発明1の構成のうち、「下地処理剤」の処理に相当する構成を有している。 ここで、甲1物発明では、「改質木材中には、水酸基等の親水基が多く残っていることによる、木材の耐水性、耐汚染性、吸水による寸法変化等の問題に対処するため」にシラン系カップリング剤を塗布しており、耐水性、耐汚染性、吸水による寸法変化は「親水基」と結びつきやすい水の影響を念頭に置いていると解されるところ、甲2発明において「シランカップリング剤」と「樹脂系塗料」とを併用する場合の、「木質材表面を、シランカップリング剤と樹脂系塗料の双方で保護する」という目的は、甲1物発明における「親水基が多く残っていること」に対する対処という目的と整合する。 また、甲1物発明では、「親水基が多く残っていること」に対処するシラン系カップリング剤の塗布は、「親水基」と結びつきやすい水の影響を念頭に置いていると解されるため、シラン系カップリング剤が「親水基」と結びつくことで撥水性を生じるとしても、甲2発明が用いる「樹脂系塗料」あるいは「樹脂系接着剤」の使用を阻害するような事情を見いだすことはできない。 そのため、難燃性(防火性)を付与した改質木材の表面にシラン系カップリング剤を塗布含浸している甲1物発明において、当該シラン系カップリング剤を樹脂系塗料による塗装又は樹脂系接着剤による接着性を改善する機能を有するものとして用いる甲2発明を勘案して、樹脂系塗料又は樹脂系接着剤のための下地処理を兼ねてシラン系カップリング剤を塗布することとし、もって相違点1に係る本件訂正発明1のうち、処理剤を「下地処理剤」とする構成に至ることについては、動機付けがあるということもできる。 しかしながら、甲1物発明において、シラン系カップリング剤を、さらにその上に樹脂系塗料の塗布又は樹脂系接着剤による接着を行うための下地処理とする場合には、当該下地処理が行われる木材表面自体は塗料又は接着物の下に隠れることとなるから、甲1物発明における「外観が損なわれる」という観点から、不溶性不燃性無機物を全て除去するまで表面の洗浄を徹底する動機付けはなくなる。また、甲1物発明における溶脱処理については、木材を長時間水中に浸漬したり流水中に放置する処理であることに伴い、上記ア(イ)に示したとおり、木材表面の不溶性不燃性無機物もある程度除去されると解されるものの、溶脱処理自体は木材中に残されている可溶性の未反応イオンや副生成物の除去を目的とする処理であるから、木材表面の不溶性不燃性無機物が全て除去されるまで溶脱処理を行う動機付けはない。 したがって、甲1物発明において、木材表面の仮導管で形成された全ての凹部から不燃化処理の薬剤を全て除去して、下地処理剤の塗布及び凹部への充填を行うという、上記相違点1に係る本件訂正発明1の構成に至ることは、当業者にとって動機付けがあったと言うことができず、甲2発明に基いて当業者が容易に想到できたということはできない。 したがって、本件訂正発明1は、甲1物発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件訂正発明1に係る特許は、先の取消理由通知(決定の予告)に記載した理由によって取り消されるべきものではない。 (2)本件訂正発明2 ア 対比 本件訂正発明2と甲1製法発明とを対比する。 (ア)不燃化処理、仮導管、薬剤について 甲1製法発明において、「木材の組織内に、含浸処理により、不溶性不燃性無機物を生成・定着させて難燃性(防火性)を付与」する処理は、本件訂正発明2における「不燃化処理」に相当し、甲1製法発明において当該処理をした後の木材は、本件訂正発明2における「不燃化処理された木材」に相当する。 甲1製法発明における「ベイマツ」は、針葉樹であり、針葉樹が仮導管を有することは、上記第4の2(5)?(12)における甲第5号証ないし甲第12号証の記載からも示されるとおり、技術常識である。そのため、甲1製法発明の「ベイマツ」は、本件訂正発明2における「表面の仮導管で形成された凹部」に相当する構成を有している。 甲1製法発明における「不溶性不燃性無機物」は、「難燃性(防火性)を付与」する機能を有する化合物であるから、本件訂正発明2における「不燃化処理の薬剤」に相当する。甲1製法発明において、針葉樹である「ベイマツ」の「木材表層部に生成」する「不溶性不燃性無機物」は、ベイマツが有する「表面の仮導管」の箇所も含めた表層部で生成すると解されるから、当該「木材表層部」のうち「表面の仮導管」を除く箇所、及び「表面の仮導管」の箇所に生成した「不溶性不燃性無機物」は、それぞれ本件訂正発明2における、「不燃化処理された木材の表面」の「不燃化処理の薬剤」、及び「前記表面の仮導管で形成された凹部に充填され」た「不燃化処理の薬剤」に相当する。 (イ)除去工程について 甲1製法発明における「溶脱処理を目的として該木材を水中に長時間浸漬したり、流水中に放置して洗浄したり」する処理と、本件訂正発明2における「不燃化処理の薬剤を液体で全て除去する除去工程」とについて対比する。甲1製法発明における「木材表層部に生成した不溶性不燃性無機物」は、「水洗等によって除去」し得るものであるとともに、甲1製法発明における「木材を水中に長時間浸漬したり、流水中に放置して洗浄したり」する処理は、「水洗」の一形態であり、また「木材中に残されている可溶性の未反応イオンや副生成物等」を除去するだけ十分な時間実施される処理であるから、「溶脱処理」の目的を有するとしても、「木材表層部に生成した不溶性不燃性無機物」を除去する作用を併せ持つ処理であり、当該処理によって、ベイマツの「表面の仮導管」の箇所も含めて、「木材表面に生成」した「水洗等によって除去」し得る「不溶性不燃性無機物」は、所定の程度まで「除去」されると解される。また、本件訂正発明2に係る「除去工程」の例として明細書の段落【0035】に記載される、「(浸漬処理)図4に示すように、水槽100の液体(水)Mの中に、木材10を予め定めた時間(例えば、1時間)浸漬して取り出す。」という処理と比べても、処理内容自体として特段の相違はない。そのため、甲1製法発明における「溶脱処理を目的として該木材を水中に長時間浸漬したり、流水中に放置して洗浄したり」する処理と、本件訂正発明2における「木材の表面及び前記表面の仮導管で形成された凹部に充填された不燃化処理の薬剤を液体で全て除去する除去工程」とは、不燃化処理の薬剤が「全て」除去されるかという点を措くとして、「木材の表面及び前記表面の仮導管で形成された凹部に充填された不燃化処理の薬剤を液体で除去する除去工程」という点で共通する。 次に、甲1製法発明における「木材表層部に生成した不溶性不燃性無機物を除去する目的で水洗等を行」う処理と、本件訂正発明2における「不燃化処理の薬剤を液体で除去する除去工程」とについて対比する。甲1製法発明において、「木材表層部に生成した不溶性不燃性無機物を除去する目的で水洗等を行」う処理は、「水洗等」の一形態である「溶脱処理を目的として該木材を水中に長時間浸漬したり、流水中に放置して洗浄したり」する処理と兼用又は併用されるにせよ、あるいは「木材表層部に生成した不溶性不燃性無機物を除去する目的で水洗等を行」う処理のみが単独で行われるにせよ、処理の終了後には「処理後に乾燥させても、木材表面に生成した不溶性不燃性無機物が析出して木材全体が白く粉をふいたようになって、外観が損なわれるという恐れがない」状態となるまで、実施されると解される。そして、木材がベイマツの場合、表面に露出した「仮導管」の箇所に「木材表層部に生成した不溶性不燃性無機物」が残っていれば、当該露出した「仮導管」の箇所に残る「不溶性不燃性無機物」が木材表面で視認される恐れがあるとともに、甲1製法発明においては「処理後」の「乾燥」によりさらに「不溶性不燃性無機物が析出」することも考慮して「外観が損なわれるという恐れ」がない状態まで「水洗等」を行うことからすれば、甲1製法発明において、当該「水洗等」を終えたベイマツでは、表面の仮導管の箇所についても、「生成した不溶性不燃性無機物」は視認の恐れがない程度まで「除去」されていると解される。そのため、甲1製法発明において、「木材表層部に生成した不溶性不燃性無機物を除去する目的で水洗等を行」う処理も、本件訂正発明2における「木材の表面及び前記表面の仮導管で形成された凹部に充填された不燃化処理の薬剤を液体で全て除去する除去工程」とは、不燃化処理の薬剤が「全て」除去されるかという点を措くとして、「木材の表面及び前記表面の仮導管で形成された凹部に充填された不燃化処理の薬剤を液体で除去する除去工程」という点で共通する。 したがって、甲1製法発明において、「溶脱処理を目的として該木材を水中に長時間浸漬したり、流水中に放置して洗浄したりし、及び/又は、木材表層部に生成した不溶性不燃性無機物を除去する目的で水洗等を行い、処理後に乾燥させても、木材表面に生成した不溶性不燃性無機物が析出して木材全体が白く粉をふいたようになって、外観が損なわれるという恐れがないように洗浄し、木材の耐水性や耐候性を高め外観を保」つ処理は、「溶脱処理を目的として該木材を水中に長時間浸漬したり、流水中に放置して洗浄したり」する処理と「木材表層部に生成した不溶性不燃性無機物を除去する目的で水洗等を行」う処理との一方のみを行う場合、あるいは両方の処理を行う場合の、いずれの場合であっても、本件訂正発明2における「木材の表面及び前記表面の仮導管で形成された凹部に充填された不燃化処理の薬剤を液体で全て除去する除去工程」とは、「木材の表面及び前記表面の仮導管で形成された凹部に充填された不燃化処理の薬剤を液体で除去する除去工程」という点で共通する。 (ウ)処理剤の塗布等について 甲1製法発明における「シラン系カップリング剤」は、「1分子中に親水基と疎水基を持って」おり、「カップリング剤分子の親水基と木材成分の親水基とが結び付き、カップリング剤分子のもう一方の端にある疎水基が外部に向かうように配列」するものであるから、本件訂正発明2における「木材と架橋する下地処理剤」とは、「木材と架橋する処理剤」という点で共通する。 甲1製法発明において、「シラン系カップリング剤」の「カップリング剤分子」の「木材」への「塗布含浸」が、「木材中に残されている可溶性の未反応イオンや副生成物等を溶脱処理によって除去するとともに、木材表層部に生成した不溶性不燃性無機物を水洗等によって除去するために、溶脱処理を目的として該木材を水中に長時間浸漬したり、流水中に放置して洗浄したりし、及び/又は、木材表層部に生成した不溶性不燃性無機物を除去する目的で水洗等を行い、処理後に乾燥させても、木材表面に生成した不溶性不燃性無機物が析出して木材全体が白く粉をふいたようになって、外観が損なわれるという恐れがないように洗浄し、木材の耐水性や耐候性を高め外観を保ったうえで」行われることは、本件訂正発明2において、上記(イ)に対比した「前記除去工程」の「後」に塗布等が行われることに相当する。また、甲1製法発明において、「シラン系カップリング剤」の「カップリング剤分子」の「木材」への「塗布含浸」が、「木材中に残されている可溶性の未反応イオンや副生成物等を溶脱処理によって除去するとともに、木材表層部に生成した不溶性不燃性無機物を水洗等によって除去するために、溶脱処理を目的として該木材を水中に長時間浸漬したり、流水中に放置して洗浄したりし、及び/又は、木材表層部に生成した不溶性不燃性無機物を除去する目的で水洗等を行い、処理後に乾燥させても、木材表面に生成した不溶性不燃性無機物が析出して木材全体が白く粉をふいたようになって、外観が損なわれるという恐れがないように洗浄し、木材の耐水性や耐候性を高め外観を保ったうえで」行われると、「シラン系カップリング剤」は木材の「表面」に「塗布」されるとともに、ベイマツの「表面の仮導管」の箇所で、「不溶性不燃性無機物」が「除去」された箇所にも入り込むと解される。このことを勘案すると、甲1製法発明における「シラン系カップリング剤」の「カップリング剤分子」の「木材」への「塗布含浸」と、本件訂正発明2における「前記木材と架橋する下地処理剤を前記表面に塗布し、前記凹部に前記下地処理剤を充填する塗布工程」とは、「前記木材と架橋する処理剤を前記表面に塗布し、前記凹部に前記処理剤を充填する塗布工程」という点で共通する。 (エ)表面処理木材について 甲1製法発明における「改質木材の製造方法」は、「シラン系カップリング剤」の「塗布含浸」が行われているから、木材の表面に対する処理も行われていると言うことができ、この点で本件訂正発明2における「表面処理木材の製造方法」に相当する。 (オ)小括 上記(ア)?(エ)より、甲1製法発明と本件訂正発明2とは、以下の点で一致する。 「不燃化処理された木材の表面及び前記表面の仮導管で形成された凹部に充填された不燃化処理の薬剤を液体で除去する除去工程と、 前記除去工程の後に前記木材と架橋する処理剤を前記表面に塗布し、前記凹部に前記処理剤を充填する塗布工程と、 を備える表面処理木材の製造方法。」 一方、両者は、次の点で相違する。 (相違点2) 除去工程における除去、その後の塗布工程について、 本件訂正発明2では、木材の表面及び木材表面の仮導管で形成された凹部に充填された不燃化処理の薬剤を「全て」除去するとともに、塗布工程において「下地処理剤」の処理がされることが特定されているのに対し、 甲1製法発明では、不燃化処理の薬剤を木材表面及び木材表面の仮導管で形成された凹部から「全て」除去することは特定されておらず、またその後に行われるシラン系カップリング剤による処理も、「下地」処理として行われることが特定されていない点。 イ 判断 上記相違点2について検討する。 上記(1)イにおいて、本件訂正発明1と甲1物発明との相違点1について検討したと同様に、甲1製法発明において、木材表面及び木材表面の仮導管で形成された凹部から、不燃化処理の薬剤を全て除去して、下地処理剤の塗布及び凹部への充填を行うという、上記相違点2に係る本件訂正発明2の構成に至ることは、当業者にとって動機付けがあったと言うことができず、甲2発明に基いて当業者が容易に想到できたということはできない。 したがって、本件訂正発明2は、甲1製法発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件訂正発明2に係る特許は、先の取消理由通知(決定の予告)に記載した理由によって取り消されるべきものではない。 (3)本件訂正発明3 本件訂正発明3は、本件訂正発明2の構成を全て有したうえで、さらに限定を付加したものであるところ、上記(2)で判断したとおり、甲1製法発明を主引用発明として、本件訂正発明2が有する相違点2に係る構成に至ることは、甲2発明に基いて、当業者が容易に想到できたものではない。 したがって、本件訂正発明3における限定事項について検討することを要さず、本件訂正発明3は、甲1製法発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件訂正発明3に係る特許は、先の取消理由通知(決定の予告)に記載した理由によって取り消されるべきものではない。 2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1)進歩性 申立人は申立書において、本件特許の請求項1ないし2に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明,並びに甲第2号証ないし甲第4号証に記載される周知事項、並びに甲第5号証ないし甲第12号証に記載の周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張している。また、申立人は申立書において、本件特許の請求項3に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明,及び甲第13号証ないし甲第16号証に記載された事項、並びに甲第2号証ないし甲第4号証に記載される周知事項、並びに甲第5号証ないし甲第12号証に記載の周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張している。 しかしながら、本件訂正は全て認められたとともに、本件訂正発明1ないし3は、上記1に示したとおり、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 そして、甲第3号証ないし甲第16号証には、上記第4の3(3)?(16)に摘記した事項が記載されているが、これらはいずれも木材と塗膜との付着に関する一般論、あるいは木材の仮導管に関する一般的な説明、又は接着に先立つ洗浄についての一般論、若しくは品質管理に関する一般論にとどまる。そのため、これら甲第3号証ないし甲第16号証の記載を併せて考慮したとしても、甲1物発明において、木材表面の仮導管で形成された全ての凹部から不燃化処理の薬剤を全て除去して、下地処理剤の塗布及び凹部への充填を行うという、上記相違点1に係る本件訂正発明1の構成に至ること、あるいは、甲1製法発明において、木材の表面及び木材表面の仮導管で形成された凹部に充填された不燃化処理の薬剤を「全て」除去するとともに、塗布工程において「下地処理剤」の処理を行うという、上記相違点2に係る本件訂正発明2の構成に至ることを、開示あるいは示唆するものではない。 なお、申立人が令和1年10月3日付け意見書に添えて提出した参考資料1には、上記第4の3(17)に摘記した事項が記載されているが、参考資料1は同じ処理槽で異なる2液によって木材を処理する際に、第1回処理と第2回処理との間で水洗を行うことを示すものであるから、参考資料1についても、上記相違点1に係る本件訂正発明1の構成及び上記相違点2に係る本件訂正発明2の構成を示唆するものではない。 したがって、本件訂正発明1ないし3は、申立人が申立てる進歩性欠如の理由により、取り消されるべきものではない。 (2)明確性 ア 「仮導管」と「木材」 申立人は申立書において、「仮導管」とは針葉樹に形成されることが技術常識であるところ、本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、針葉樹であることを特定することなく、「仮導管」で形成された「凹部」が表面に存在する木材について記載しているから、広葉樹も含めた全ての木材に仮導管が存在するかのような記載となっており、発明が不明確である旨を主張している。 本件訂正は全て認められたところ、本件訂正発明1ないし3においても「仮導管」で形成された「凹部」が表面に存在する木材に関するから、この点で発明が不明確であるか否かを判断する。 本件訂正発明1ないし3が、「仮導管」で形成された「凹部」が表面に存在する木材に関する発明の特定を行っている以上、表面に「仮導管」で形成された「凹部」が存在する木材について発明を特定していることは明らかであり、一部の木材に仮導管が存在しないからといって発明が不明確となるものではない。 したがって、本件訂正発明1ないし3は、申立人が申し立てる点で発明が不明確なものではない。 イ プロダクトバイプロセスクレーム 申立人は申立書において、本件特許の請求項1に係る発明は、「表面処理木材」という物の発明でありながら、「塗布されている」「充填されている」といった製造方法による特定を含んでおり、しかも物の構造又は特性により直接特定することが不可能であるか実際的ではないような事情もないから、発明が不明確である旨を申立てている。 本件訂正は全て認められたところ、本件訂正発明1においても「塗布され」及び「充填されている」という記載は存在するから、この点で発明が不明確であるか否かを判断する。 本件訂正発明1において、「下地処理剤が塗布され」及び「前記凹部に前記下地処理剤が充填されている」という記載は存在するが、当該記載は本件訂正発明1の「表面処理木材」について、「下地処理剤」が「塗布」されているという状態、及び「下地処理剤」が「凹部」に「充填」されているという状態を特定しているから、当該記載によって本件訂正発明1の「表面処理木材」の構造が不明確となるものではない。 したがって、本件訂正発明1は、申立人が申し立てる点で発明が不明確なものではない。 ウ 予め定められた時間 申立人は申立書において、本件特許の請求項3に係る発明は、「予め定められた時間」という除去工程における処理時間について、処理時間が不明確であるから発明が不明確である旨を申立てている。 本件訂正は全て認められたところ、本件訂正発明3は除去工程における処理時間を「1時間」としており、本件訂正発明3が引用する本件訂正発明2では、不燃化処理の薬剤を液体で「全て」除去すると特定されている。 そのため、本件訂正発明3においては、除去工程は不燃化処理の薬剤を「全て」除去し、かつ「1時間」という処理時間で当該除去を行うことが明確であり、申立人が申立てる点で発明が不明確なものではない。 (3)実施可能要件 申立人は申立書において、本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、針葉樹であることを特定することなく、「仮導管」で形成された「凹部」が表面に存在する木材について記載しているから、「仮導管」が形成されない広葉樹を含んだ全ての木材を対象としているところ、発明の詳細な説明には「仮導管」が形成されない木材について発明を実施できる程度の明確かつ十分な記載がされていないから、発明の詳細な説明は本件特許の請求項1ないし3に係る発明について実施可能要件に違反する旨を申立てている。 本件訂正は全て認められたところ、本件訂正発明1ないし3においても「仮導管」で形成された「凹部」が表面に存在する木材に関するから、申立人が申立てる実施可能要件違反があるかについて判断する。 本件訂正発明1ないし3が、「仮導管」で形成された「凹部」が表面に存在する木材に関する発明の特定を行っている以上、本件訂正発明1ないし3は、申立人が申立てるように、仮導管が形成されない木材まで対象としているものではない。 したがって、本件訂正発明1ないし3に関して、本件明細書の発明の詳細な説明に、申立人が申立てる実施可能要件違反はない。 3 申立人による意見書における主張について 申立人は、令和2年2月26日付け意見書において、本件訂正により特定した「全て」とはどの程度をいうのか不明確であり、また除去の程度を「全て」とすることに技術的な意義がないことを主張したうえで(同意見書第1頁?第4頁;「3 意見の内容(1)」?「(3)」)、本件訂正発明1ないし3には取消理由通知書に記載された取消理由が依然として存在する旨を主張している(同意見書第4頁「(4)まとめ」)。 しかしながら、本件訂正発明1ないし3において、表面の不燃化処理の薬剤が「全て」除去されると特定されているからには、木材の表面及び表面の凹部からは不燃化処理の薬剤が全て除去されることが明らかであり、この点について本件訂正発明1ないし3が新たに不明確となっているものではない。また、上記1(1)及び(2)に判断したとおり、甲1物発明及び甲1製法発明において、溶脱処理を目的とした水洗によって表面の不燃化処理の薬剤を全て除去する動機付けはなく、また外観を保つための水洗によって表面の不燃化処理の薬剤を全て除去するとともに下地処理剤の塗布及び凹部への充填を行う動機付けもないから、本件訂正発明1ないし3は、先の取消理由通知(決定の予告)に記載した理由によって取り消されるべきものではない。 したがって、申立人の当該主張を考慮しても、本件訂正発明1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 第6 むすび 以上のとおり、本件訂正は全て認められるとともに、本件訂正発明1ないし3に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。 また、他に本件訂正発明1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 表面処理木材、及び表面処理木材の製造方法 【技術分野】 【0001】 本発明は、表面処理木材、及び表面処理木材の製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 特許文献1には、木材を乾燥する乾燥工程と、木材を減圧する減圧工程と、減圧状態で木材に不燃化処理剤を含浸させる減圧含浸工程と、加圧状態で木材に不燃化処理剤を含浸させる加圧含浸工程と、をそれぞれ複数回含む不燃木材の製造方法が開示されている。 【0003】 特許文献2には、木材に難燃薬剤を含浸し、その後、該木材表面にアルコキシ金属塩系塗料を塗布することを特徴とする不燃木材の製造方法が開示されている。 【0004】 特許文献3には、難燃化薬剤・準不燃化薬剤・不燃化薬剤によって処理された難燃化木材・準不燃化木材・不燃化木材に関する技術が開示されている。 【0005】 特許文献4には、難燃薬剤を実質的に含まない木材で構成された表面層と、該表面層に隣接した内側の難燃薬剤を注入処理した難燃薬剤注入層と、を備えた耐火集成材に関する技術が開示されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0006】 【特許文献1】 特開2003-221412号公報 【特許文献2】 特開2006-231652号公報 【特許文献3】 特開2012-081603号公報 【特許文献4】 特開2008-031743号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 ここで、難燃化木材、準不燃化木材、及び不燃化木材などの不燃化処理された木材は、処理されていない非不燃化木材と比較し、接着性や塗装の付着性が劣る。 【0008】 本発明は、上記事実を鑑み、不燃化処理された木材の接着性の向上又は塗装の付着性の向上が課題である。 【課題を解決するための手段】 【0009】 第一態様は、不燃化処理された木材の表面に前記木材と架橋する下地処理剤が塗布されていると共に前記下地処理剤が前記表面の仮導管で形成された凹部に充填されている、表面処理木材である。 【0010】 第一態様では、不燃化処理された木材の表面に該木材と架橋する下地処理剤が塗布されていると共に下地処理剤が表面の仮導管で形成された凹部に充填されているので、木材の接着性が向上する又は塗装の付着性が向上する。 【0017】 第二態様は、不燃化処理された木材の表面及び前記表面の仮導管で形成された凹部に充填された薬剤を液体で除去する除去工程と、前記除去工程の後に前記木材と架橋する下地処理剤を前記表面に塗布し、前記凹部に前記下地処理剤を充填する塗布工程と、を備える表面処理木材の製造方法である。 【0018】 第二態様では、不燃化処理された木材の表面及び該表面の仮導管で形成された凹部に充填された薬剤を液体で除去した表面に木材と架橋する下地処理剤を塗布し、凹部に下地処理剤を充填することで、下地処理剤が架橋する表面積が増加する。よって、薬剤を液体で除去していない表面に下地処理剤を塗布する場合と比較し、木材の接着性が向上する又は塗装の付着性が向上する。 【0019】 第三態様は、前記除去工程は、前記液体に前記木材を予め定められた時間浸漬する浸漬工程、前記液体を湿潤させた湿潤部材で前記木材の前記表面を拭く拭工程、前記液体を湿潤させた湿潤部材で前記木材の前記表面を予め定められた時間被覆する被覆工程、前記木材に予め定められた時間前記液体を掛流す掛流工程と、の一つ又は複数を組み合わせた工程である、請求項2に記載の表面処理剤の製造方法である。 【0020】 第三態様では、簡単な方法で、薬剤が液体で効果的に除去される。 【0021】 ここで、不燃性能に関して政令で定める技術的水準に適合する建築材料には、不燃材料、準不燃材料、難燃材料の3ランクがある。上記、「不燃化処理された木材」とは、これらの不燃材料、準不燃材料、及び難燃材料をいずれも含むものである。また、「不燃化処理」とは、木材に薬剤を含浸させる等して不燃性能を向上させる処理全般を指し、「不燃化処理された木材」には、不燃化木材、準不燃化木材、及び難燃化木材以外も含まれる。別の観点から説明すると、薬剤を用いて不燃性能が向上する処理が行われた木材であればよい。 【発明の効果】 【0022】 本発明によれば、不燃化処理された木材の接着性が向上する又は塗装の付着性が向上する。 【図面の簡単な説明】 【0023】 【図1】第一表面処理木材に接着剤を塗布した状態を模式的に示す断面図である。 【図2】不燃化処理された木材を模式的に示す断面図である。 【図3】第二表面処理木材を模式的に示す断面図である。 【図4】浸漬処理を説明する斜視図である。 【図5】拭処理を説明する斜視図である。 【図6】被覆処理を説明する斜視図である。 【図7】掛流処理を説明する斜視図である。 【図8】塗布処理を説明する斜視図である。 【図9】第二表面処理材に接着剤を塗布した状態を模式的に示す断面図である。 【図10】第三表面処理木材に接着剤を塗布した状態を模式的に示す断面図である。 【図11】接着性の向上効果の確認実験の結果を説明するためグラフである。 【発明を実施するための形態】 【0024】 <実施形態> 本発明の一実施形態にかかる表面処理木材について説明する。 【0025】 図1に示す本実施形態の第一表面処理木材50は、難燃化木材、準不燃化木材、及び不燃化木材などの不燃化処理された木材10の表面14の薬剤20(図2を参照)が液体で除去され、下地処理剤(プライマー)60が塗布され接着面62Aとなる下地処理剤層62が形成されている。なお、図中の第二表面処理木材40については、後述する。 【0026】 [木材] 本実施形態の不燃化処理された木材10について説明する。 【0027】 不燃性能に関して政令で定める技術的水準に適合する建築材料には、不燃材料、準不燃材料、難燃材料の三つのランクがある。本実施形態の「不燃化処理された木材10」とは、これらの不燃材料、準不燃材料、及び難燃材料をいずれも含むものである。また、「不燃化処理」とは、木材に薬剤を含浸させる等して不燃性能を向上させる処理全般を指し、本実施形態の木材10には、不燃材料、準不燃材料、及び難燃材料以外の木材も含まれる。つまり、本実施形態の木材10には、これらよりも不燃性能が低い木材及びこれらよりも不燃性能が高い木材が含まれる。別の観点から説明すると、薬剤を用いて不燃性能が向上する処理が行われた木材であればよい。 【0028】 薬剤20を木材10に含浸(注入)させる方法は周知の含浸技術を用いることができる。例えば、浸漬法、噴射法、減圧・加圧式処理法、パッシブ減圧薬剤注入法等を用いることができる。 【0029】 薬剤20としては、周知の難燃化処理剤や不燃化処理剤を用いることができる。具体的には、硼酸、硼砂等の水溶性無機化合物、珪酸、燐酸を含む薬剤、リン系、窒素系、ホウ素、ハロゲン系の防火薬剤などを用いることができる。 【0030】 図2に示すように、不燃化処理された木材10は、仮導管16に薬剤20が充填された状態となる。また、表面14には仮導管16によって凹部17が形成されており、この凹部17に薬剤20が充填された状態となる。 【0031】 [除去処理] つぎに、木材10の表面14の薬剤20を液体Mで除去する方法について説明する。 【0032】 本実施形態の液体Mは水(H2O)である。なお、純水である必要はなく、水溶液であってもよい。例えば、酸性又はアルカリ性の水溶液であってもよいし、界面活性剤等を含む洗浄液であってもよい。更に、水以外の液体、例えば、有機溶剤であってもよい。また、液体Mは、薬剤20の種類に応じて適宜選択すればよい。 【0033】 なお、以降に説明する四つの浸漬処理、拭処理、被覆処理、及び掛流処理のいずれか一つを行ってもよいし、複数組み合わせて行ってもよい。また、これら四つの以外の除去処理方法で薬剤20を液体で除去してもよい。 【0034】 そして、木材10に対して除去処理を行うことで、図3に示すように、木材10の表面14の薬剤20が除去された状態となる。図3に示す状態の木材を第二表面処理木材40とする。 【0035】 (浸漬処理) 図4に示すように、水槽100の液体(水)Mの中に、木材10を予め定めた時間(例えば、1時間)浸漬して取り出す。 【0036】 (拭処理) 図5に示すように、液体(水)Mを湿潤させた布やスポンジなどの湿潤部材110で木材10の表面14を拭く。 【0037】 (被覆処理) 図6に示すように、液体(水)Mを湿潤させた布やスポンジなどの湿潤部材120で木材10の表面14を予め定めた時間(例えば、1時間)被覆して取り出す。 【0038】 (掛流処理) 図7に示すように、木材10の表面14に予め定めた時間(例えば、1時間)、液体(水)Mを掛流す。 【0039】 [塗布処理(下地処理)] つぎに、図3に示す状態を第二表面処理木材40の表面14に下地処理剤(プライマー)60(図1参照)を塗布し、接着面62Aとなる下地処理剤層62を形成する塗布処理(下地処理)について説明する。 【0040】 本実施形態では、下地処理剤(プライマー)60は、シランカップリング剤を含有する液体であり、木材10の木質12(繊維(主成分セルロース))と化学的に反応して架橋する。 【0041】 なお、シランカップリング剤を含有する液体以外の下地処理剤(プライマー)60であってもよい。要は、木材10の木質12(繊維(主成分セルロース))と化学的に反応して架橋する物質が含まれていればよく、また、木材10の木質12の種類や薬剤20に応じて適宜選択すればよい。 【0042】 図8に示すように、除去処理された第二表面処理木材40の表面14に下地処理剤(プライマー)60を刷毛130で塗る。なお、下地処理剤(プライマー)60を塗布する方法は、刷毛130で塗る以外の方法であってもよい。例えば、第二表面処理木材40の表面14に下地処理剤60をスプレーで吹き付けてもよい。 【0043】 また、第二表面処理木材40の表面14に下地処理剤(プライマー)60を刷毛130で塗って接着面62Aとなる下地処理剤層62が形成された木材を第一表面処理木材50とする(図1参照)。 【0044】 <作用及び効果> つぎに、本実施形態の作用及び効果について説明する。 【0045】 図2に示すように、不燃化処理された木材10は、仮導管16で形成された凹部17に薬剤20が充填された状態であり、表面14には薬剤20が露出している。 【0046】 図3に示すように、この木材10の表面14の薬剤20を液体(水)Mで除去することで(図4?図7を参照)、仮導管16で形成された凹部17に充填された薬剤20が除去される。 【0047】 図8に示すように、薬剤20が除去された第二表面処理木材40の表面14に、下地処理剤(プライマー)の下地処理剤60を塗布する。これにより図1に示すように、表面14には、下地処理剤60で構成された下地処理剤層62が形成される。なお、下地処理剤60は、木質12(繊維(主成分セルロース))と化学的に反応して架橋する。 【0048】 また、第二表面処理木材40の表面14の凹部17から薬剤20が除去されているので、凹部17に下地処理剤60が充填され、下地処理剤60が架橋する面積が増える。 【0049】 そして、図1に示す第一表面処理木材50の下地処理剤層62、つまり下地処理剤60は、木質12よりも接着剤70との化学的結合が強いので接着性が向上する。つまり、下地処理剤60を塗布することで、接着性が向上された接着面62Aが形成され、この結果、接着剤70の接着性が向上する。 【0050】 [その他の表面処理木材] ここで、第一表面処理木材50は、薬剤20の除去処理と下地処理剤60の塗布処理(下地処理)との両方を行ったが、いずれか一方のみであってもよい。よって、つぎにこれらいずれか一方の処理のみを行った場合について説明する。 【0051】 図9に示す薬剤20の除去処理のみを行った第二表面処理木材40は、薬剤20が除去された表面14との接着剤70との接触面積が増えることにより化学結合が促進されると共に、凹部17に接着剤70が充填されることによる投錨効果によって、接着性が向上する。 【0052】 図10に示す塗布処理(下地処理)のみ行った第三表面処理木材45は、薬剤20が充填されている凹部17と凹部17との間の木質の表面14と化学的に反応して架橋すると考えられる。また、刷毛130(図8参照)で薬剤20を塗る場合は、一部の凹部17から薬剤20が除去されることもあると考えられる。そして、薬剤20が除去された凹部17に下地処理剤60が充填されるので、下地処理剤60が架橋する面積が増える。 【0053】 よって、除去処理が行わないで塗布処理(下地処理)を行って形成された下地処理剤層62(下地処理剤60)を有する第三表面処理木材45は、図1に示す第一表面処理木材50と同様に接着性が向上する。 【0054】 [接着性の向上効果の確認実験] つぎに、「薬剤20の除去処理」及び「下地処理剤60の塗布処理(下地処理)」による接着性の向上効果の確認実験、及びその結果について説明する。 【0055】 (実験方法の概要) 集成材の日本農林規格より、ブロックせん断試験に準じた試験を実施した。 【0056】 ブロックせん断試験を行う試験体は、 A(○):除去処理無し、塗布処理無し B(□):除去処理有り、塗布処理無し:第二表面処理木材40 C(●):除去処理無し、塗布処理有り:第三表面処理木材45 D(■):除去処理有り、塗布処理有り:第一表面処理木材50 とした。 また、A、B、C、Dは複数の試験体を作成して、それぞれ試験を実施した。 【0057】 除去処理は、図5に示す液体(水)Mを湿潤させた布やスポンジなどの湿潤部材110で木材10の表面14を拭く拭処理で行った。 【0058】 図8に示す塗布処理(下地処理)では、貼り合わせる両方の試験体に下地処理剤60を刷毛130で塗った。 【0059】 接着処理は、接着する両方の試験体に接着剤70(図1等を参照)を塗布して貼り合わせ、一定時間圧縮力を加える圧締処理を実施した。 【0060】 圧締終了後、20℃、60%RHの環境に24±2時間養生したのち、ブロックせん断試験を行った。 【0061】 (実験結果) 図11は、A、B、C、Dのそれぞれの試験体における最大せん断応力の平均値をプロットしたものである。この図11から最大せん断応力の大きさは、A<B<C<Dの順番となった。つまり、接着力はA<B<C<Dの順番で大きくなる。 【0062】 すなわち、「薬剤20の除去処理」及び「下地処理剤60の塗布処理(下地処理)」による接着性の向上効果が確認された。また、「処理剤20の除去処理」及び「下地処理剤60の塗布処理(下地処理)」のいずれか一方のみでも接着性の向上効果が確認された。 【0063】 <適用例> 本発明が適用された第一表面処理木材50、第二表面処理木材40、第三表面処理木材45を接着接合して用いる適用例としては、第一表面処理木材50、第二表面処理木材40、第三表面処理木材45同士を接着接合又は他の木材と接着接合した耐火集成材や単板積層材(LVL)等の耐火木質部材が挙げられる。 【0064】 なお、使用する接着剤は、薬剤20、下地処理剤60、及び木材10の木質12の種類等に応じて適宜選択すればよい。例えば、レゾルシノール系樹脂接着剤やメラミン樹脂接着剤などの熱硬化型接着剤等を用いることができる。 【0065】 <その他> 尚、本発明は上記実施形態に限定されない。 【0066】 第一表面処理木材50、第二表面処理木材40、第三表面処理木材45は、接着接合して用いたが、これに限定されない。第一表面処理木材50、第二表面処理木材40、第三表面処理木材45に塗料を塗布する場合も、接着剤70と同様の理由で塗料の木材との接着性が向上する。よって、塗料が剥がれにくくなり、塗装の付着性・耐久性が向上する。なお、下地処理剤60は、塗布する塗料に応じて適宜選択すればよい。 【0067】 本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない 【符号の説明】 【0068】 10 不燃化処理された木材 14 表面 20 薬剤 40 第二表面処理木材 45 第三表面処理木材 50 第一表面処理木材 60 下地処理剤 62 下地処理剤層 62A 接着面 70 接着剤 120 湿潤部材 110 湿潤部材 M 液体 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 不燃化処理されると共に表面の仮導管で形成された全ての凹部から不燃化処理の薬剤が全て除去された木材の前記表面に前記木材と架橋する下地処理剤が塗布され、前記凹部に前記下地処理剤が充填されている、表面処理木材。 【請求項2】 不燃化処理された木材の表面及び前記表面の仮導管で形成された凹部に充填された不燃化処理の薬剤を液体で全て除去する除去工程と、 前記除去工程の後に前記木材と架橋する下地処理剤を前記表面に塗布し、前記凹部に前記下地処理剤を充填する塗布工程と、 を備える表面処理木材の製造方法。 【請求項3】 前記除去工程は、 前記液体に前記木材を1時間浸漬する浸漬工程、 前記液体を湿潤させた湿潤部材で前記木材の前記表面を1時間被覆する被覆工程、 の一つ又は二つを組み合わせた工程である、 請求項2に記載の表面処理木材の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-03-24 |
出願番号 | 特願2014-76897(P2014-76897) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(B27K)
P 1 651・ 537- YAA (B27K) P 1 651・ 536- YAA (B27K) P 1 651・ 851- YAA (B27K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 竹中 靖典 |
特許庁審判長 |
秋田 将行 |
特許庁審判官 |
有家 秀郎 大塚 裕一 |
登録日 | 2018-08-31 |
登録番号 | 特許第6393499号(P6393499) |
権利者 | 株式会社竹中工務店 |
発明の名称 | 表面処理木材、及び表面処理木材の製造方法 |
代理人 | 福田 浩志 |
代理人 | 中島 淳 |
代理人 | 加藤 和詳 |
代理人 | 福田 浩志 |
代理人 | 加藤 和詳 |
代理人 | 中島 淳 |