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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1362382
異議申立番号 異議2019-700703  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-06-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-09-05 
確定日 2020-05-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第6484371号発明「セルスタック」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6484371号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6484371号(請求項の数4。以下「本件」という。)についての出願は,平成30年 6月12日に出願され,平成31年 2月22日にその特許権の設定登録がなされ,同年 3月13日に特許掲載公報が発行された。その後,本件の請求項1?4に係る特許に対し,令和 1年 9月5日差出で,特許異議申立人 亀崎伸宏(以下「申立人」という。)より,特許異議の申立てがされ,同年12月25日付け(令和 2年 1月 6日発送)で取消理由を通知したところ,その指定期間経過後の令和 2年3月9日差出で意見書(以下,単に「意見書」という。)が提出されたものである。

第2 本件発明
本件の請求項1?4に係る発明は,特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。

「【請求項1】
電気化学セルと、
前記電気化学セルと電気的に接続される集電部材と、
を備え、
前記集電部材は、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、前記基材の表面の少なくとも一部を覆う酸化クロム膜と、前記酸化クロム膜の表面の少なくとも一部を覆う被覆膜と、前記基材から前記酸化クロム膜が剥離することを抑制する剥離抑制部とを有し、
前記集電部材は、前記電気化学セルの表面を流れるガスの流通方向において上流側に位置する上流部位と、前記流通方向において前記上流部位の下流側に位置する下流部位とを含み、
前記下流部位が有する前記剥離抑制部の数は、前記上流部位が有する前記剥離抑制部の数より多い、
セルスタック。
【請求項2】
前記剥離抑制部は、前記基材の表面に形成された凹部内に配置され、クロムより平衡酸素圧の低い元素の酸化物を含有するアンカー部である、
請求項1に記載のセルスタック。
【請求項3】
前記酸化クロム膜は、前記基材の表面に形成された凹部内に埋設され、前記凹部の開口でくびれている埋設部を有し、
前記剥離抑制部は、前記埋設部である、
請求項1に記載のセルスタック。
【請求項4】
前記基材は、前記基材と前記酸化クロム膜との界面から30μm以内の界面領域に形成され、前記基材の断面における円相当径が0.5μm以上20μm以下の気孔を有し、
前記剥離抑制部は、前記気孔である、
請求項1に記載のセルスタック。」

第3 申立理由及び取消理由の概要
申立人が主張する特許異議の申立ての理由の概要は,次の1?3とおりである。また,当審が通知した取消理由の概要は,次の4のとおりである。

1 理由1(進歩性)
本件の請求項1?4に係る発明はいずれも,以下のとおり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,本件の請求項1?4に係る特許は,特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(1)本件の請求項1,2に係る発明は,甲第1号証に記載された発明及び甲第2?4,13号証に記載された周知技術に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件の請求項3に係る発明は,甲第1号証に記載された発明及び甲第2?9,13号証に記載された周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件の請求項4に係る発明は,甲第1号証に記載された発明及び甲第2?4,10?13号証に記載された周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 理由2(サポート要件)
本件の請求項2に係る発明は,発明の詳細な説明に記載されたものではなく,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないから,本件の請求項2に係る特許は,特許法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

3 理由3(明確性)
本件の請求項2に係る発明は明確でなく,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号の規定に適合しないから,本件の請求項2に係る特許は,特許法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

4 理由4(委任省令要件)
本件の発明の詳細な説明は,特許法第36条第4項第1号による委任省令で定めるところにより記載されたものではないから,本件の請求項2に係る特許は,特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

(証拠方法)
甲第1号証:特許第6188181号公報(以下「甲1」という。)
甲第2号証:特開2012-204008号公報(以下「甲2」という。)
甲第3号証:特開2012-212651号公報(以下「甲3」という。)
甲第4号証:特開2013-84421号公報(以下「甲4」という。)
甲第5号証:特開2016-66731号公報(以下「甲5」という。)
甲第6号証:特開2017-90267号公報(以下「甲6」という。)
甲第7号証:特開2003-191092号公報(以下「甲7」という。)
甲第8号証:特開2013-12397号公報(以下「甲8」という。)
甲第9号証:特開平11-158628号公報(以下「甲9」という。)
甲第10号証:特開2016-171077号公報
(以下「甲10」という。)
甲第11号証:特開平10-299408号公報
(以下「甲11」という。)
甲第12号証:特開2017-58366号公報
(以下「甲12」という。)
甲第13号証:特開2002-141081号公報
(以下「甲13」という。)

第4 引用文献の記載
1 甲1について
(1)甲1には,「合金部材、セルスタック及びセルスタック装置」(発明の名称)に関して,次の記載がある。下線は当審が付した。以下同様。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、
前記凹部内に配置され、クロムよりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物を含有するアンカー部と、
前記表面を覆い、前記アンカー部に接続される酸化クロム膜と、
前記酸化クロム膜の少なくとも一部を覆う被覆膜と、
を備える合金部材。」
「【請求項6】
2つの燃料電池セルと、
請求項1乃至5のいずれかに記載の合金部材と、
を備え、
前記合金部材は、前記2つの燃料電池セルを電気的に接続する集電部材である、
セルスタック。」

「【0014】
[セルスタック装置100]
図1は、セルスタック装置100の斜視図である。セルスタック装置100は、マニホールド200と、セルスタック250とを備える。
【0015】
[マニホールド200]
図2は、マニホールド200の斜視図である。マニホールド200は、「合金部材」の一例である。
【0016】
マニホールド200は、燃料ガス(例えば、水素など)を各燃料電池セル300に分配するように構成されている。マニホールド200は、中空状であり、内部空間を有している。マニホールド200の内部空間には、導入管204を介して燃料ガスが供給される。
【0017】
マニホールド200は、天板201と、容器202とを有する。天板201は、平板状に形成される。容器202は、コップ状に形成される。天板201は、容器202の上方開口を塞ぐように配置される。」

「【0021】
[セルスタック250]
図3は、セルスタック装置100の断面図である。セルスタック250は、複数の燃料電池セル300と、複数の集電部材301とを有する。」

「【0025】
各燃料電池セル300は、内部にガス流路11を有している。セルスタック装置100の運転中、マニホールド200から各ガス流路11に燃料ガス(水素など)が供給されるとともに、各燃料電池セル300の外周に酸化剤ガス(空気など)が供給される。
【0026】
隣接する2つの燃料電池セル300は、集電部材301によって電気的に接続されている。集電部材301は、接合材102を介して、隣接する2つの燃料電池セル300それぞれの基端側に接合される。接合材102は、例えば、(Mn,Co)_(3)O_(4)、(La,Sr)MnO_(3)、及び(La,Sr)(Co,Fe)O_(3)などから選ばれる少なくとも1種である。」

「【0054】
天板201は、基材210と、酸化クロム膜211と、被覆膜212と、アンカー部213とを有する。容器202は、基材220と、酸化クロム膜221と、被覆膜222と、アンカー部223とを有する。」

「【0056】
容器202の構成は、天板201の構成と同様であるため、以下においては、図7を参照しながら、天板201の構成について説明する。」

「【0058】
基材210は、Cr(クロム)を含有する合金材料によって構成される。このような金属材料としては、Fe-Cr系合金鋼(ステンレス鋼など)やNi-Cr系合金鋼などを用いることができる。基材210におけるCrの含有割合は特に制限されないが、4?30質量%とすることができる。
【0059】
基材210は、表面210aと凹部210bとを有する。表面210aは、基材210の外側の表面である。凹部210bは、表面210aに形成される。凹部210bは、穴状であってもよいし、溝状であってもよい。
【0060】
凹部210bの個数は特に制限されないが、表面210aに広く分布していることが好ましい。また、凹部210bどうしの間隔は特に制限されないが、均等な間隔で配置されていることが特に好ましい。これによって、後述するアンカー部213によるアンカー効果を、酸化クロム膜211全体に対して均等に発揮させることができるため、基材210から被覆膜212が剥離することを特に抑制できる。」

「【0065】
酸化クロム膜211は、アンカー部213に接続される。酸化クロム膜211は、基材210の表面210aとアンカー部213の表面213aとを覆うように配置される。酸化クロム膜211は、基材210の表面210aの少なくとも一部を覆っていればよいが、表面210aの略全面を覆っていてもよい。酸化クロム膜211は、アンカー部213の表面213aの少なくとも一部を覆っていればよいが、表面213aの略全面を覆っていることが好ましい。酸化クロム膜211は、基材210の凹部210bの開口を塞ぐように形成される。酸化クロム膜211の厚みは、0.5?10μmとすることができる。」

「【0069】
アンカー部213は、基材210の凹部210b内に配置される。アンカー部213は、凹部210bの開口部付近において被覆膜212に接続される。アンカー部213が凹部210bに係止されることによってアンカー効果が生まれて、被覆膜212の基材210に対する密着力を向上させることができる。その結果、被覆膜212が基材210から剥離することを抑制できる。
【0070】
アンカー部213は、凹部210bの内表面の少なくとも一部と接触していればよいが、凹部210bの内表面の略全面と接触していることが好ましい。
【0071】
アンカー部213は、Cr(クロム)よりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物(以下、「低平衡酸素圧酸化物」という。)を含有する。すなわち、アンカー部213は、Crよりも酸素との親和力が大きく酸化しやすい元素の酸化物を含有する。そのため、セルスタック装置100の運転中、被覆膜212を透過してくる酸素をアンカー部213に優先的に取り込むことによって、アンカー部213を取り囲む基材210が酸化することを抑制できる。これにより、アンカー部213の深さが幅よりも大きい形態を維持することができるため、アンカー部213によるアンカー効果を長期間に亘って得ることができる。その結果、被覆膜212が基材210から剥離することを長期間に亘って抑制することができる。」

「【0076】
アンカー部213の個数は特に制限されないが、基材表面の断面観察で10mm長さあたり100個以上観察されることが好ましく、10mm長さあたり200個以上観察されることがより好ましい。これによって、アンカー部213によるアンカー効果を十分大きくすることができるため、被覆膜212が基材210から剥離することをより抑制できる。
【0077】
[マニホールド200の製造方法]
マニホールド200の製造方法について、図面を参照しながら説明する。なお、容器202の製造方法は、天板201の製造方法と同様であるため、以下においては、天板201の製造方法について説明する。
【0078】
まず、図8に示すように、基材210の表面210aに凹部210bを形成する。例えばサンドブラストを用いることによって、楔状の凹部210bを効率的に形成することができる。この際、研磨剤の粒径を調整したり、又は、適宜ローラーで表面を均したりすることによって、凹部210bの深さL及び幅Wを調整することができる。」

「【0084】
上記実施形態では、本発明に係る合金部材をマニホールド200に適用することとしたが、これに限られるものではない。本発明に係る合金部材は、セルスタック装置100及びセルスタック250の一部を構成する部材として用いることができる。例えば、本発明に係る合金部材は、隣接する2つの燃料電池セル300を電気的に接続する集電部材301などにも好適に用いることができる。」

「【図3】



「【図7】



(2)上記(1)の摘示,特に請求項1,5の記載よりみて,甲1には,次の発明が記載されているといえる(以下「甲1発明」という。)。

「燃料電池セルと集電部材とを備えたセルスタックであって、前記集電部材は、
表面に凹部を有し、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、
前記凹部内に配置され、クロムよりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物を含有するアンカー部と、
前記表面を覆い、前記アンカー部に接続される酸化クロム膜と、
前記酸化クロム膜の少なくとも一部を覆う被覆膜と、
を備え、前記燃料電池セルを電気的に接続する、セルスタック」

2 甲2について
甲2には,「保護膜形成方法」(発明の名称)に関して,次の記載がある。

「【背景技術】
【0002】
かかるSOFC用セルは、電解質膜の一方面側に空気極を接合するとともに、同電解質膜の他方面側に燃料極を接合してなる単セルを、空気極または燃料極に対して電子の授受を行う一対の電子電導性の基材により挟み込んだ構造を有する。
そして、このようなSOFC用セルでは、たとえば700?900℃程度の作動温度で作動し、空気極側から燃料極側への電解質膜を介した酸化物イオンの移動に伴って、一対の電極の間に起電力が発生し、その起電力を外部に取り出し利用することができる。セル間接部材にはインターコネクタやインターコネクタを介してセル間を電気的に接続する部材が該当する。」

「【0007】
一般的にセル接続部材は複雑な形状をしていることが多く、酸化被膜の増大、Cr被毒の発生といった劣化を抑制するためには、劣化防止被膜を形成する必要がある。この劣化防止被膜は緻密で、均一な膜厚とすることが望ましい。膜厚が不均一になった場合、膜厚が大きすぎる部位は、起動停止に熱応力(接合する部材の熱膨張率の不一致に起因することが多い)が発生し、クラックや剥離が生じやすくなり、膜厚が小さすぎる部位は、劣化防止の機能(合金の酸化被膜の増大抑制、Cr被毒抑制)が十分発揮できず、その部位の劣化が抑制されにくくなるという問題が生じやすい。」

3 甲3について
甲3には,「保護膜形成方法、セル接続部材および固体酸化物形燃料電池用セル」(発明の名称)に関して,次の記載がある。

「【背景技術】
【0002】
かかるSOFC用セルは、電解質膜の一方面側に空気極を接合するとともに、同電解質膜の他方面側に燃料極を接合してなる単セルを、空気極または燃料極に対して電子の授受を行う一対の電子電導性の基材により挟み込んだ構造を有する。
そして、このようなSOFC用セルでは、たとえば700?900℃程度の作動温度で作動し、空気極側から燃料極側への電解質膜を介した酸化物イオンの移動に伴って、一対の電極の間に起電力が発生し、その起電力を外部に取り出し利用することができる。セル接続部材にはインターコネクタやインターコネクタを介してセル間を電気的に接続する部材が該当する。」

「【0007】
一般的にセル接続部材として用いられる基材は複雑な形状をしていることが多く、酸化被膜の増大、Cr被毒の発生といった劣化を抑制するためには、劣化防止被膜を形成する必要がある。この劣化防止被膜は緻密で、均一な膜厚とすることが望ましい。膜厚が不均一になった場合、あるいは、膜厚が大きすぎる部位がある場合には、起動停止に熱応力(接合する部材の熱膨張率の不一致に起因することが多い)が発生し、クラックや剥離が生じやすくなり、膜厚が小さすぎる部位は、劣化防止の機能(合金の酸化被膜の増大抑制、Cr被毒抑制)が十分発揮できず、その部位の劣化が十分に抑制されなくなるという問題が生じやすい。」

4 甲4について
甲4には,「固体酸化物形燃料電池」(発明の名称)に関して,次の記載がある。

「【0003】
燃料電池セル間を電気的に接続する部材は、インターコネクタ、セパレータと呼ばれる場合が多いが、これらには従来からフェルト状や板状の耐熱性導電部材が集電部材として用いられることが多い。燃料電池は、近年の開発の進展に伴い、作動温度が下がってきている。
従来の作動温度は1000℃程度であり、耐熱性導電部材には、耐熱性の観点からランタンクロマイト(LaCrO_(3))に代表される金属酸化物が使用されていたが、最近は作動温度が600℃?900℃まで下がっており、耐熱合金が望ましく採用され、このような導電率の高い耐熱合金として、Crを10?30wt%含有する合金が一般的に用いられる。耐熱性導電部材材料として合金を使用することにより、コストダウン、ロバスト性の向上が期待できる。」

「【0006】
これらの合金は、ほぼ例外なくCrを含んでおり、作動環境である高温大気雰囲気で表面にCr_(2)O_(3)やMnCr_(2)O_(4)の酸化物被膜を形成する。この酸化物被膜は経時的に膜厚が増大するとともに、作動環境である高温大気雰囲気で6価クロムの化合物として蒸発し、空気極を被毒させて劣化を引き起こすことが知られている(Cr被毒と呼ばれる)。すなわち、Crを含有する耐熱性導電部材基材と空気極とを接合してなるSOFCでは、作動時等において耐熱性導電部材が高温にさらされることで、その合金等に含まれるCrが空気極側に飛散して、空気極のCr被毒が発生するという問題がある。
このような空気極のCr被毒は、空気極における酸化物イオンの生成のための酸素の還元反応を阻害し、空気極の電気抵抗を増加させ、さらには耐熱性導電部材のCr濃度を減少させることにより耐熱性導電部材自体の耐熱性の低下などの問題を引き起こし、結果、SOFCの性能低下を招く場合がある。
そこで、耐熱性導電部材の表面に耐熱性に優れた金属酸化物材料からなる保護膜を設けて劣化を抑制する試みがなされている(例えば、特許文献1を参照。)。」

「【0011】
しかし、ZnOは熱膨張率が7×10^(-6)K^(-1)(30-800℃)程度であり、構成部材としてのフェライト系SUSの熱膨張率11?12×10^(-6)K^(-1)等に比べて小さい。
SOFCは700℃?800℃の高温で作動するため、起動停止時には熱膨張率の不一致に伴う応力が各構成材料の界面で発生する。このような応力は、前記保護膜の膜厚が大きいほど顕著に現れ、このような応力を繰り返して受けることによって、前記耐熱性導電部材と前記保護膜は界面で剥離したり、保護膜自体にクラックが生じたりする不具合が起こる可能性がある。」

5 甲5について
甲5には,「回路装置」(発明の名称)に関して,次の記載がある。

「【発明の効果】
【0007】
樹脂膜が上面に開口する凹部を有しており、凹部は、内部の幅が、開口における幅よりも大きく、接続パッドの一部は、凹部に充填されているので、接続パッドの一部が凹部の開口に引っ掛かる。よって、接続パッドが樹脂膜から剥離しにくくなる。したがって、例えば接続パッドの周囲を覆う樹脂層等が不要であり、樹脂膜に対する接着強度および配置密度が高い接続パッドを有する回路装置を提供することができる。」

6 甲6について
甲6には,「機械部品」(発明の名称)に関して,次の記載がある。

「【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明の機械部品の製造方法は下記記載の構成を採用する。本発明の機械部品は、単結晶材料で構成され、表面には、開口幅が内周幅より小さい凹部を複数備え、これら凹部に入り込むように、表面に薄膜が形成されていることを特徴とする。
【0010】
また、凹部は、上面又は下面の前記表面に配置され、側部の表面には、波状の凹凸が形成されていることを特徴とする。
【0011】
これにより単結晶基板表面に形成された凹部の内部に形成された薄膜は、単結晶基板との間でアンカー効果を生じるので、薄膜は単結晶基板から剥がれ難くなる。また凹部の深さは、薄膜の厚さより小さくてもよい。」

7 甲7について
甲7には,「銅メッキなしアーク溶接用ソリッドワイヤ」(発明の名称)に関して,次の記載がある。

「【0034】一般的に、ワイヤ等の表面凹凸の大小は、算術平均粗さRa、最大高さRy、十点平均粗さRz、負荷長さ率tp、凹凸の平均間隔Sm、局部山頂の平均間隔S及び比表面積等を使用して表現する。しかしながら、これらの値によって表現される単純な凹凸だけでは、塗布剤を効果的に保持することができるとはいえない。即ち、従来検討されているような単純な凹凸だけでは、ワイヤに変形が加わると凹部の形状も変化するため、塗布剤が離脱しやすくなる。塗布剤を効果的に保持するためには、アンカー効果を有する「ボトルネック状又はケイブ状の凹部」に塗布剤を保持することがよい。これにより、ワイヤの変形等が生じ、凹部の形状が多少変化しても、塗布剤は凹部から容易に離脱することはなくなる。」

8 甲8について
甲8には,「固体酸化物形燃料電池セルおよび燃料電池モジュール」(発明の名称)に関して,次の記載がある。

「【0021】
また、燃料極層3および固体電解質層4が積層されていない他方の平坦面n(上面)には、導電性支持体1のインターコネクタ8側の面に複数の凹部7が設けられており、該凹部7にインターコネクタ材料が充填されて導電性支持体1の外面に直接インターコネクタ8が接合されている。」

「【0025】
また、図2(c)に示すように、凹部7の深さ方向が幅広の台形状の場合がある。この場合には、アンカー効果をさらに向上でき、接合強度をさらに向上できる。また、図3(d)(当審注:「図2(d)」の誤記と解される。)に示すように、アンカー部(係止部)を有する場合には、アンカー効果をさらに向上できる。」





「【0082】
図3に示す燃料電池セル装置11では、燃料電池セル10の下端部は、燃料電池セル10に燃料ガスを供給するためのガスタンク16に、ガラスシール材等の接着剤により固定されており、接着剤と燃料電池セル10のインターコネクタ層8とは膨張係数が異なるため、また、固定部においてはインターコネクタ層8に応力が作用しやすいため、また、燃料電池セル10の上端部では燃料ガスが燃焼して高温となるため、導電性支持体1とインターコネクタ層8との間に強い接合強度が要求されている。
【0083】
そこで、図8(b)に示すように、凹部37を、導電性支持体1の長さ方向(図8(b)図2の上下方向)の両端部に形成することができる。この場合には、導電性支持体1の長さ方向の両端部おいて、導電性支持体1とインターコネクタ層8との間における接合強度を向上できる。
【0084】
また、図8(b)に示すように、凹部37を導電性支持体1の長さ方向の下端部に高い密度で形成することができる。この場合には、導電性支持体1の長さ方向の下端部における凹部37の形成密度を高くすることにより、ガラスシール材等の接着剤によりガスタンク16に接合された燃料電池セルのインターコネクタ層8の剥離を抑制することができる。
【0085】
また、図9(a)に示すように、凹部37の形成密度が上下端部で同じであっても、インターコネクタ8の導電性支持体1への接合強度を向上すべく、図9(b)に示すように、燃料電池セル10の下端部における凹部37の深さを深くしてもよく(図7(b)に示す深さを参照)、図9(c)に示すように、燃料電池セル10の下端部における凹部37の断面形状をアンカー効果が大きい台形形状とすることができる。」





9 甲9について
甲9には,「成膜及び触刻装置用セラミック素材」(発明の名称)に関して,次の記載がある。

「【0014】図1は表面に凹凸14を形成したセラミック素材10に膜物質12が付着した状態の断面図を示す。膜物質12がセラミック素材10の表面に形成した凹凸14に入り込むことにより、アンカー作用によって膜物質12が支持される。これにより、気孔率の小さいセラミック素材10を用いた場合に膜物質12が剥離しやすくなることを防止し、成膜及び触刻処理中に膜物質12が脱落して不良の発生原因となることを好適に防止することができる。
【0015】図2はセラミック素材10の表面に形成する凹凸14の形状を示す。凹凸14の形状としては、図2(a) 、(b) のように逆止形状としたものが、アンカー効果が有効に作用して好適である。」





10 甲10について
甲10には,「固体酸化物形燃料電池用金属部材およびその製造方法」(発明の名称)に関して,次の記載がある。

「【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、塑性加工を施しても接合されたMn-Cu系合金板の剥離やクラックの発生を防ぐことができる固体酸化物形燃料電池用金属部材を得ることができる。また、本発明によれば、接合されたMn-Cu系合金板の剥離やクラックの発生を防ぐことによりCr蒸発をより確実に抑制することができる。」

「【実施例】
【0016】
(実施例1)
以下の実施例で本発明を更に詳しく説明する。
表1に示す組成の厚さが3mmのフェライト系ステンレス鋼板を用意した。試験片寸法として30mm(w)×50mm(l)となるように切断し、試験片の表面を#600のエメリー紙で研磨した。同様に表2に示す組成の厚さが0.08mmのNiを含むMn-Cu系合金を用意した。試験片寸法として30mm(w)×50mm(l)となるように切断した。
続いてフェライト系ステンレス鋼板とMn-Cu系合金を1枚ずつ重ね合わせ、板厚が50%となるまで冷間圧延を施した。その後、水素中、900℃にて5分間の焼鈍を行い試験用母材となる固体酸化物形燃料電池用金属部材を作製した。
なお、焼鈍後の固体酸化物形燃料電池用金属部材には、クラックや剥離といった問題は発生しなかった。
【0017】
【表1】
(略)
【0018】
【表2】
(略)
【0019】
作製した固体酸化物形燃料電池用金属部材から断面観察用試験片を採取して電子顕微鏡(SEM)を用いて断面観察を行った。図1に断面観察結果を示す。
図1に示されるようにフェライト系ステンレス鋼板1上に均一な厚さのMn-Cu合金板2が接合している。なお、後述の図2の分析結果から拡散層の形成は確認されるが、SEM観察では拡散層部分は不明瞭となっていた。
図2はEPMAを用いて元素マッピングを行った結果の図である。フェライト系ステンレス鋼板とMn-Cu系合金板との界面にMn、Cu、Fe、Niの濃化が認められ、拡散層4が形成されている。図2の断面の構造としては、Mn-Cu系層とフェライト系ステンレス鋼板を備え、且つ、前記フェライト系ステンレス鋼鈑と前記Mn-Cu系層との界面に拡散層を有する構造となっていることがわかる。
続いて図2から任意5点のMn-Cu系層と拡散層の厚さを測定し、その平均値を計算した。結果を表3に示す。表3の結果から拡散層の厚さはMn-Cu系層の厚さの36.1%となっていることが確認された。」

「【0021】
(実施例2)
続いて上記実施例1で示した固体酸化物形燃料電池用金属部材を用いて予備酸化を施した。予備酸化は大気中900℃で100時間施した。予備酸化した固体酸化物形燃料電池用金属部材から断面観察用試験片を採取し、電子顕微鏡を用いて断面観察と分析を行った。その結果を図3に示す。フェライト系ステンレス鋼板1上に酸化被膜が形成している。なお後述の図4の分析結果から拡散層を含む酸化被膜の詳細な構造は確認されるが、SEM観察では拡散層部分は不明瞭となっていた。
図4は実施例2についてEPMAを用いて元素マッピングを行った結果の図である。Cr酸化物5とMnCr酸化物6が形成しており、さらにその上層にMnCu酸化物7からなる酸化被膜が形成していることがわかる。またCr酸化物5及びMnCr酸化物6と、MnCu酸化物層7の間にMn、Cu、Fe酸化物からなる拡散層4が形成されていることがわかる。またMnCu酸化物中には黒色針状のMn酸化物及びポーラスが観察された。なお表層近傍の酸化被膜の同定はエックス線回折装置で行った。
【0022】
続いてCr蒸発試験を行った。
上記の実施例1で示す固体酸化物形燃料電池用金属部材と、実施例2で行った固体酸化物形燃料電池用金属部材に予備酸化を行ったものからCr蒸発試験用の試験片を採取した。比較例1としてコーティングを施さないフェライト系ステンレス鋼板を用いた。比較例2としてコーティングを施さない状態のフェライト系ステンレス鋼板に850℃で500時間の酸化を施したCr蒸発測定用の試験片を用いた。
Cr蒸発試験は1.54mm×10mm×10mmの試験片上にアルミナ製のセラミックスリング(外径13mm、内径9mm、高さ1.6mm)を載せ、さらにリング内に市販のランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)粉末0.2gを摺り切りで載せ、10%加湿空気中にて850℃で30時間加熱を行った。なお使用したLSMはランタンオキサイドを58質量%、マンガンオキサイドを33質量%、ストロンチウムオキサイドを9質量%含有しており、Crは含有していないことを試験前に確認した。加熱後にICP発光分析にて試験片上に載せたLSM粉末全量中のCr濃度を分析し、試験片からのCr蒸発量を評価した。図5に比較例1のCr蒸発量を1とした時の実施例1及び2、比較例1及び2のCr蒸発試験結果を示す。
図5に示すように、実施例1及び2の固体酸化物形燃料電池用金属部材は、最もCr蒸発量が少なく、比較例1に対して約1/10となる結果が得られた。一般にフェライト系ステンレス鋼板からのCr蒸発量は酸化処理を施さない状態で最も多くなり、酸化処理が長くなるほどCr蒸発量が減少する傾向がある。本発明で規定する固体酸化物形燃料電池用金属部材は850℃×500時間の酸化を施した試料よりもCr蒸発量が少なく、十分なCr蒸発抑制効果が得られることが確認された。
また実施例1と2を比較すると予備酸化を施した実施例2の方がCr蒸発量が少ない。これは予備酸化処理によってMnCu酸化物が形成されたことで、試験初期のCr蒸発量を抑制したことに起因していると考えられる。
次に曲げ試験を行った。曲げ試験は上記の実施例1で示す固体酸化物形燃料電池用金属部材と、実施例2で行った固体酸化物形燃料電池用金属部材に予備酸化を行ったものから曲げ試験用の試験片を採取し、90°曲げ試験を行ったところ、実施例1及び実施例2の何れの試験片もMn-Cu系合金板の剥離やクラックの発生も見られなかった。」





11 甲11について
甲11には,「ガスタービン静翼」(発明の名称)に関して,次の記載がある。

「【0006】
【発明が解決しようとする課題】き裂の成長は部材に生じる熱応力を低減することで抑制される。熱応力は部材の熱膨張が、構造による拘束を受けることにより生じる。その部材の熱膨張を吸収するような孔やスリットを設けることで熱応力を低減させる。またき裂が発生すると、孔やスリットと同様の作用により、熱応力が低減される。本発明はこれらを利用して、静翼に発生したき裂の成長を抑制し、長寿命化が可能となる静翼構造を提供することを課題とした。」

12 甲12について
甲12には,「温度センサ」(発明の名称)に関して,次の記載がある。

「【0008】
また、電極線には気孔が形成されている。この気孔は、焼結製法での製造時において残留するガス成分によって形成されたものである。
温度センサの使用時において、電極線に気孔が形成されていることにより、電極線に生じる熱応力が緩和され、電極線と溶融接合部との界面に作用する熱応力の集中が緩和される。それ故、上記温度センサによれば、電極線に生じる熱応力を緩和し、電極線と溶融接合部との界面を断線から保護することができる。」

13 甲13について
甲13には,「平板形固体酸化物形燃料電池」(発明の名称)に関して,次の記載がある。

「【0041】このように、発電膜2a及び発電膜2bの有効発電部に各反応ガスがそれぞれ供給されて電極反応が進行すると、この電池反応による発熱に伴い各発電膜2毎にその面方向に温度分布が生じ、反応ガス供給部近傍が低温、反応ガス排出部近傍が高温となる。この温度分布は、電極の特性、各々の反応ガスの投入温度、投入量によって異なるが、その典型的な一例を以下、図6(a)?図6(c)を用いて説明する。」

「【0069】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の平板形固体酸化物形燃料電池によれば、作動中の平板形固体酸化物形燃料電池の電極において定常的に発生する反応ガス入口付近と反応ガス出口付近との温度差を十分に低減することができるので、平板形固体酸化物形燃料電池の構成部材間に発生する熱応力を効果的に低減することができる。従って、当該熱応力に起因する構成部材の損傷を効果的に防止して平板形固体酸化物形燃料電池を長期にわたり安定して作動させることができる。」

第5 当審の判断
当審は,申立人が提示した特許異議申立ての理由及び証拠によって,本件の請求項1?4に係る特許を取り消すことはできず,また,意見書の内容を勘案して,当審が通知した取消理由は解消したものと判断する。その理由は次のとおりである。

1 理由1(進歩性)について
(1)請求項1?2に係る発明について
ア 甲1発明との対比
(ア)本件の請求項1に係る発明と,甲1発明とを対比する。
後者の「燃料電池セル」は,その機能よりみて,前者の「電気化学セル」に相当する。そして,後者の「燃料電池セルを電気的に接続する集電部材」は,前者の「電気化学セルと電気的に接続される集電部材」に相当する。
また,両者の「集電部材」はともに「クロムを含有する合金材料によって構成される基材」を有しており,その「基材」について,後者の「凹部内に配置され、クロムよりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物を含有するアンカー部」であって「酸化クロム膜」に「接続」される「アンカー部」,「基材」の「表面を覆」う「酸化クロム膜」及び「前記酸化クロム膜の少なくとも一部を覆う被覆膜」は,各々,前者の「前記基材から前記酸化クロム膜が剥離することを抑制する剥離抑制部」,「前記基材の表面の少なくとも一部を覆う酸化クロム膜」及び「前記酸化クロム膜の少なくとも一部を覆う被覆膜」に相当する。
したがって,本件の請求項1に係る発明と,甲1発明とは,次の一致点及び相違点1を有する。

(一致点)
「電気化学セルと、
前記電気化学セルと電気的に接続される集電部材と、
を備え、
前記集電部材は、クロムを含有する合金材料によって構成される基材と、前記基材の表面の少なくとも一部を覆う酸化クロム膜と、前記酸化クロム膜の表面の少なくとも一部を覆う被覆膜と、前記基材から前記酸化クロム膜が剥離することを抑制する剥離抑制部とを有する、セルスタック」である点。

(相違点1)
「集電部材」における「剥離抑制部」の数に関して,本件の請求項1に係る発明では,電気化学セルの表面を流れるガスの流通方向において下流側に位置する「下流部位が有する剥離抑制部の数」が「上流部位が有する剥離抑制部の数」より多いのに対し,甲1発明では,「下流部位が有する剥離抑制部の数」が「上流部位が有する剥離抑制部の数」より多いかどうか不明である点。

(イ)上記相違点1について検討する。
本件の請求項1に係る発明は,集電部材の基材が有する剥離抑制部について,ガス流通方向の下流部位が有する剥離抑制部の数が,上流部位が有する剥離抑制部の数より多い,というものである。
これに対し,甲1には,マニホールドや集電部材を構成する合金部材の基材表面に設けた凹部にアンカー部を配置することは記載されているものの,アンカー部の数をガス流通方向との関係で異ならせることは,何ら示されていない。むしろ,甲1では,マニホールドを構成する合金部材の表面に設けた凹部は,表面に広く,均等な間隔で配置されていることが特に好ましく,これによって,アンカー部によるアンカー効果を,酸化クロム膜全体に対して均等に発揮させ,基材から被覆膜が剥離することを抑制できるとされており(段落【0060】),ガス流通方向との関係で数を異ならせることは,記載も示唆もされていない。
また,甲2?甲4には,燃料電池セルにおけるセル間の接続部材が,燃料電池の起動停止時に熱膨張率の不一致に起因する熱応力が発生し,保護膜の膜厚が大きいとクラックや剥離が生じやすくなることが記載されているが,いずれも,燃料電池の起動停止時における問題を説明したものであり,燃料電池の運転時におけるガス流通方向の温度差に着目したものではない。しかも,剥離抑制部については,何ら記載も示唆もされていない。
さらに,甲13には,燃料電池の電極において定常的に発生する反応ガス入口付近と反応ガス出口付近の温度差を低減して,構成部材間に発生する熱応力を低減することが記載されているが,当該記載は,熱応力の低減を図るためのガスの流れの工夫に関するものであって,剥離抑制部については,何ら記載も示唆もされていない。
その外,甲1?甲13のいずれの記載を勘案しても,甲1発明において,ガス流通方向の下流部位が有する剥離抑制部の数が,上流部位が有する剥離抑制部の数より多い構成とすることについて,積極的な動機を見いだすことができない。

(ウ)そして,本件の請求項1に係る発明は,上記のように,集電部材の基材が有する剥離抑制部について,ガス流通方向の下流部位が有する剥離抑制部の数が,上流部位が有する剥離抑制部の数より多い構成とすることにより,大きな熱応力がかかりやすい下流部位における被覆膜の剥離を特に抑制できるため,集電部材全体としての耐久性を向上させることができる(段落【0043】)という,本件の明細書に記載されるとおりの効果を確認したものである。
したがって,本件の請求項1に係る発明は,甲1に記載された発明並びに甲2?甲4及び甲13に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件の請求項2に係る発明は,請求項1を引用して特定するものであり,甲1発明と対比すると,上記ア(ア)と同様の相違点1を有する。
そして,上記ア(イ)及び(ウ)と同様の理由により,甲1に記載された発明並びに甲2?甲4及び甲13に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)請求項3に係る発明について
ア 本件の請求項3に係る発明は,請求項1を引用して特定するものであるり,甲1発明と対比すると,上記(1)ア(ア)と同様の相違点1,及び次の相違点2を有する。

(相違点2)
「剥離抑制部」に関して,本件の請求項3に係る発明は「前記凹部の開口でくびれている埋設部」であるのに対し,甲1発明は「アンカー部」である点。

イ 相違点についての検討
(ア)相違点1については,上記(1)ア(イ)及び(ウ)のとおりである。

(イ)相違点2についても一応検討する。
甲1発明の「アンカー部」は,酸化クロムではなくクロムよりも平衡酸素圧の低い元素の酸化物を用いるものであり,酸化クロム膜が埋設された状態で形成されている「埋設部」とは,その構造のみならず材料が異なる。よって,甲1発明の「アンカー部」を「埋設部」に置換しようとすると,その化学組成として好ましくない材料を選択することになり,置換の積極的動機が見いだせない。
一方,甲5?甲7,甲9には,埋設部を剥離抑制部として機能させることが記載されているが,いずれも燃料電池とは技術分野が異なるものであり,熱応力に伴う酸化クロム膜の剥離を抑制することについては,何ら記載されていない。
また,甲8には,燃料電池におけるインターコネクタ層の剥離抑制について記載されているが,その具体的内容は,導電性支持体の長さ方向の下端部における凹部の形成密度を高くすることにより,接着剤によりガスタンクに接合された燃料電池セルのインターコネクタ層の剥離を抑制するというものである(段落【0084】,図8(b))。よって,甲1発明に上記事項を適用すると,ガス流通方向における上流部位の剥離抑制部を多くすることになり,本件の請求項3に係る発明の構成に辿り着くことができない。
その外,甲1?甲13のいずれの記載を勘案しても,甲1発明において,アンカー部に代えて埋設部を設けるすることについて,積極的な動機を見いだすことができない。

(ウ)そして,本件の請求項3に係る発明は,剥離抑制部を埋設部で構成することにより,基材に対する酸化クロム膜の密着力を高めて,大きな熱応力がかかりやすい下流部位における被覆膜の剥離を特に抑制できるため,集電部材全体としての耐久性を向上させることができる(段落【0043】,【0044】)という,本件の明細書に記載されるとおりの効果を確認したものである。

したがって,本件の請求項3に係る発明は,甲1に記載された発明及び甲5?甲9に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)請求項4に係る発明について
ア 本件の請求項4に係る発明は,請求項1を引用して特定するものであるり,甲1発明と対比すると,上記(1)ア(ア)と同様の相違点1,及び次の相違点3を有する。

(相違点3)
「剥離抑制部」に関して,本件の請求項4に係る発明は「気孔」であるのに対し,甲1発明は「アンカー部」である点。

イ 相違点についての検討
(ア)相違点1については,上記(1)ア(イ)及び(ウ)のとおりである。

(イ)相違点3についても一応検討する。
甲1発明の「アンカー部」は,基材表面の凹部内に当該アンカー部を物理的に固定することにより被覆膜の剥離を抑制するものであるのに対し,本件の請求項4に係る発明の「気孔」は,基材の表面領域に柔軟性を持たせて熱応力を緩和させることにより被覆膜の剥離を抑制するものであるから,剥離抑制の作用機序が異なるものである。
一方,甲10には,燃料電池用金属部材に関し,フェライト系ステンレス鋼板とMn-Cu系合金を1枚ずつ重ね合わせ,冷間圧延,焼鈍を行い作成したもの(実施例1)及び更に予備酸化を施したもの(実施例2)の各々について,電子顕微鏡を用いた断面観察及び元素マッピングを行った結果が記載されており,実施例1ではステンレス鋼板の表層付近に気泡が生成している様子も窺えるが,当該実施例1は金属部材の層間構造に係るものであって,基材表面の酸化クロム被覆膜とは構造が異なる。そして,ステンレス鋼板表面に酸化物層を形成した実施例2では,MnCu酸化物中にポーラス層が観察され,ステンレス鋼板の表層付近に気泡は観察されないが,曲げ試験による剥離やクラックの発生は見られず(段落【0021】,【0022】),気泡の存在と酸化クロム層の剥離抑制との関連性は明らかでない。
また,甲11はガスタービン静翼,甲12は温度センサに関するものであって,燃料電池の集電部材における基材表面の剥離抑制に関するものではない。
その外,甲1?甲13のいずれの記載を勘案しても,甲1発明において,アンカー部に代えて気泡を設けることについて,積極的な動機を見いだすことができない。

(ウ)そして,本件の請求項4に係る発明は,剥離抑制部を気泡で構成することにより,集電部材の内部に発生する熱応力を緩和させて,大きな熱応力がかかりやすい下流部位における被覆膜の剥離を特に抑制できるため,集電部材全体としての耐久性を向上させることができる(段落【0043】,【0044】)という,本件の明細書に記載されるとおりの効果を確認したものである。
したがって,本件の請求項4に係る発明は,甲1に記載された発明及び甲10?甲12に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)理由1(進歩性)についてのまとめ
以上のとおり,本件の請求項1?4に係る各発明は,甲1に記載された発明及び甲2?甲13に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 理由2(サポート要件)について
本件の請求項2には,剥離抑制部が「基材の表面に形成された凹部内に配置され、クロムより平衡酸素圧の低い元素の酸化物であるアンカー部」であることが記載されている。
これに対し,発明の詳細な説明には,基材の表面に形成された凹部内にアンカー部が配置され,該アンカー部が酸化クロム膜に接続されるという構成を有するため,このようなアンカー部が凹部によって係止されることで生じるアンカー効果によって,基材に対する酸化クロム膜の密着力を高め,被覆膜が酸化クロム膜とともに基材から剥離することを抑制することができること(段落【0046】,【0047】),また,アンカー部は,Crよりも酸素との親和力が大きく酸化しやすい元素の酸化物を含有するため,セルスタック装置の運転中,被覆膜を透過してくる酸素をアンカー部に優先的に取り込むことによって,アンカー部を取り囲む基材が酸化することを抑制でき,これにより,アンカー部の形状を維持できるため,アンカー部によるアンカー効果を長期間に亘って得ることができ,基材に対する酸化クロム膜の密着力を長時間維持させることができること(段落【0051】)が記載されている。
そして,発明の詳細な説明に記載された「アンカー部」が,上記のアンカー効果を奏するものである限り,その形状,長さ,幅及び構成材料を更に特定することを要しないことは,アンカーの語義(anchor:錨,固定具)よりみても明らかである。
申立人は,本件の請求項2に記載される発明が,「アンカー部」の形状,長さ,幅及び構成材料によってはアンカー効果を得られないものまで含まれることになるから,請求項2に記載される発明は「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものである旨主張するが,アンカー効果を奏しないものは,そもそも「アンカー部」といえないものであることは明らかであり,そのようなものが請求項2の範囲外であることは上記の検討結果に照らして自明であるから,当該主張は採用できない。
よって,本件の請求項2に係る発明は,発明の詳細な説明に記載されたものである。

3 理由3(明確性)について
本件の請求項2に記載される「アンカー部」は,「基材の表面に形成された凹部内に配置され」,かつ,「クロムより平衡酸素圧の低い元素の酸化物である」ことにより,明確に特定されるものである。
そして,発明の詳細な説明に記載された「アンカー部」が,上記のアンカー効果を奏するものである限り,その形状,長さ,幅及び構成材料を更に特定することを要しないことは,アンカーの語義(anchor:錨,固定具)よりみて明らかであることは,前記2で検討したとおりである。
申立人は,本件の請求項2における「アンカー部」との記載は,それ自体明確ではなく,また,発明の詳細な説明に定義が存在せず,出願時の技術常識をもってしても,特許を受けようとする発明が明確に把握できるとは認められない旨主張するが,「アンカー部」との記載それ自体が明確であることは,アンカーの語義(anchor:錨,固定具)よりみても明らかであり,発明の詳細な説明に更なる定義をおく必要も認められないから,当該主張は採用できない。
よって,本件の請求項2に係る発明は,明確である。

4 理由4(委任省令要件)について
当審が通知した取消理由は,発明の詳細な説明には,アンカー部がクロムよりも平衡酸素圧の低い元素(低平衡酸素圧元素)の酸化物を含有することに関して,本件の請求項2に記載された発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されているとはいえない,というものである。
これに対して,アンカー部が低平衡酸素圧元素の酸化物を含有する場合,当該酸化物は,クロムを含有する基材本体において酸素を取り込みやすいため,コーティング膜を透過した酸素は,当該酸化物に取り込まれること,酸化が進行すると,当該酸化物によって構成されるアンカー部が形成され,そのサイズが若干拡大するが,当該アンカー部の外延は基材の凹部によって等方的に拘束されているためアンカー部は相似拡大し,その形状は,元のアンカー部の形状と略同じであることは,意見書のとおりである。
よって,本件の請求項2に記載された発明の技術上の意義について,当業者は上記のとおり理解することができるから,本件の発明の詳細な説明は,委任省令で定めるところにより記載されたものであるといえる。

第6 むすび
以上のとおり,令和 1年12月25日付けで通知した取消理由,並びに,申立人が提示した特許異議申立ての理由及び証拠によっては,本件の請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件の請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-05-18 
出願番号 特願2018-111683(P2018-111683)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 537- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 近藤 政克  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 土屋 知久
平塚 政宏
登録日 2019-02-22 
登録番号 特許第6484371号(P6484371)
権利者 日本碍子株式会社
発明の名称 セルスタック  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  
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