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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  H01G
審判 一部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  H01G
審判 一部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  H01G
審判 一部無効 1項3号刊行物記載  H01G
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01G
審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01G
管理番号 1362594
審判番号 無効2016-800110  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-07-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-09-16 
確定日 2020-04-01 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4732181号発明「タブ端子の製造方法およびその方法により得られるタブ端子」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 平成30年4月10日付け訂正請求において、特許第4732181号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔10-14〕について訂正することを認める。 特許第4732181号の請求項1ないし4、9に係る発明についての特許を無効とする。 特許第4732181号の請求項10、12ないし14に係る発明についての審判の請求は、成り立たない。 特許第4732181号の請求項11についての審判の請求を却下する。 審判費用は、その10分の5を請求人の負担とし、10分の5を被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4732181号に係る発明についての出願は、平成18年2月15日の出願であって、平成23年4月28日にその発明について特許権の設定登録がなされた。
以後の本件に係る手続の概要は、以下のとおりである。

平成28年 9月16日 本件無効審判の請求
同年11月 8日 手続補正書(方式)(請求人)
平成29年 1月13日 審判事件答弁書
同年 1月13日 訂正請求書
同年 1月26日 手続補正書(方式)(被請求人)
同年 3月 6日 審判事件弁駁書
同年 4月 7日 訂正拒絶理由通知書・職権審理結果通知書
同年 5月11日 意見書(被請求人)
同年 5月11日 手続補正書
(被請求人、補正の対象は訂正請求書)
同年 5月16日 上申書(請求人)
同年 7月 4日 審理事項通知書
同年 9月 6日 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年 9月 6日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年 9月19日 手続補正書
(請求人、補正の対象は口頭審理陳述要領書)
同年 9月27日 口頭審理
同年10月11日 上申書(請求人)
同年10月25日 上申書(被請求人)
平成30年 2月 5日 審決の予告
同年 4月10日 意見書(被請求人)
同年 4月10日 訂正請求書
同年 5月17日 手続補正書(方式)(被請求人)
同年 8月 2日 審判事件弁駁書
同年10月18日 訂正拒絶理由通知書・職権審理結果通知書

第2 当事者の主張
1 請求人
(1)請求の趣旨及び無効理由について
請求人は、審判請求書において、「特許第4732181号の請求項1乃至4、9乃至14に係る特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、請求人が主張する無効理由は、概略、以下のとおりのものである。なお、「1-1」「1-2」等の無効理由の番号は当審で付与したものである。

ア 無効理由1-1
本件発明1ないし4、9ないし11、13は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。(審判請求書の「7(1)(1-1)」及び「7(4)(4-3)」)
イ 無効理由1-2
本件発明1ないし4、9ないし11、13は、甲第1号証に記載された発明、又は、それらに加えて本件特許出願時における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。(審判請求書の「7(1)(1-1)」及び「7(4)(4-4)」)
ウ 無効理由2
本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件発明10ないし14について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。(審判請求書の「7(1)(1-2)」及び「7(4)(4-5)」)
エ 無効理由3
本件特許の特許請求の範囲の請求項10ないし14の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定された要件を満たしていない。(審判請求書の「7(1)(1-3)」及び「7(4)(4-6)」)
オ 無効理由4
本件特許の特許請求の範囲の請求項2、10ないし12、及び14の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定された要件を満たしていない。(審判請求書の「7(1)(1-4)」及び「7(4)(4-7)」)

(2)訂正請求について
請求人は、平成30年8月2日付け審判事件弁駁書において、平成30年4月10日付けの訂正請求について、請求項1ないし9からなる一群の請求項に係る訂正に含まれる訂正事項1は、平成29年5月11日付け手続補正書による補正後の平成29年1月13日付けの訂正請求における訂正事項1と同じ内容であり、審決の予告に記載されているとおり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるとはいえないから、請求項1ないし9からなる一群の請求項に係る訂正は認められないと主張する。なお、平成30年10月18日付け職権審理結果通知書によって、同日付けの訂正拒絶理由に対する意見を求めたが、請求人から意見書は提出されなかった。
また、請求人は、平成29年3月6日付け審判事件弁駁書、口頭審理陳述要領書、平成29年10月11日付け上申書、及び、平成30年8月2日付け審判事件弁駁書における主張を総合すると、仮に平成30年4月10日付けの訂正請求に係る訂正が認められたとしても、訂正後の請求項1ないし4、9ないし10、12ないし14については、上記(1)のとおりの無効理由を依然として有すると主張する。
さらに、請求人は、平成29年10月11日付け上申書の「(7-3)」及び平成30年8月2日付け審判事件弁駁書の「7.1」の「(2)」において、訂正後の請求項10が訂正前の請求項12における「SiO_(2)換算で20nm以上」という発明特定事項を有していることも考慮すると、当該請求項10を引用する訂正後の請求項13については、審判請求書において訂正前の請求項13に対して主張した無効理由に加えて、訂正前の請求項12についての明確性要件違反(特許法第36条第6項第2号)と同様の無効理由4が新たに生じた旨を主張する。

(3)請求人が提出した証拠方法
ア 審判請求書に添付した証拠方法
甲第1号証:特開2000-277398号公報
甲第2号証:特開平9-45579号公報
甲第3号証:特開平9-213592号公報
甲第4号証:特開平9-139326号公報
甲第5号証:特開2004-253311号公報
甲第6号証:特開2000-144445号公報
甲第7号証:化学大辞典9 縮刷版 第807頁
甲第8号証:特開平11-314311号公報
甲第9号証:特開平7-286285号公報
甲第10号証:理化学辞典 第4版 第504頁、第1383頁
甲第11号証:特開2002-161396号公報
甲第12号証:「アルミ電解コンデンサのリード溶接部におけるSnウィスカの成長について」と題する記事(第34回 信頼性・保全性シンポジウム 発表報文集)
甲第13号証:化学辞典 第1版 第374頁
甲第14号証:化学大辞典3 縮刷版 第58頁、第59頁
甲第15号証:「東京地方裁判所平成27年(ワ)第19661号 特許権侵害差止等請求事件」において、平成28年5月9日付けで原告(本件被請求人)が提出した準備書面(3)
甲第16号証:「東京地方裁判所平成27年(ワ)第19661号 特許権侵害差止等請求事件」において、平成28年6月17日付けで原告(本件被請求人)が提出した準備書面(4)
甲第17号証:「東京地方裁判所平成27年(ワ)第19661号 特許権侵害差止等請求事件」において、平成28年3月7日付けで被告(本件請求人)が提出した証拠説明書1(差替え版)

イ 審判事件弁駁書に添付した証拠方法
甲第18号証:「東京地方裁判所平成27年(ワ)第19661号 特許権侵害差止等請求事件」において、平成28年7月15日付けで原告(本件被請求人)が提出した結果報告書
甲第19号証:「東京地方裁判所平成27年(ワ)第19661号 特許権侵害差止等請求事件」において、平成28年7月15日付けで原告(本件被請求人)が提出した準備書面(5)
甲第20号証:「知的財産高等裁判所平成29年(ネ)第10003号 特許権侵害差止等請求控訴事件」において、平成29年2月10日付けで控訴人(本件被請求人)が提出した控訴理由書
甲第21号証:「知的財産高等裁判所平成29年(ネ)第10003号 特許権侵害差止等請求控訴事件」において、平成29年2月24日付けで控訴人(本件被請求人)が提出した控訴人準備書面(1)
甲第22号証:「東京地方裁判所平成27年(ワ)第19661号 特許権侵害差止等請求事件」において、平成28年2月29日付けで被告(本件請求人)が提出した作業指導書
甲第23号証:「東京地方裁判所平成27年(ワ)第19661号 特許権侵害差止等請求事件」において、平成28年2月29日付けで被告(本件請求人)が提出した製品安全データシート(MSDS)
甲第24号証:「東京地方裁判所平成27年(ワ)第19661号 特許権侵害差止等請求事件」において、平成28年2月29日付けで被告(本件請求人)が提出した仕様書

ウ 口頭審理陳述要領書に添付した証拠方法
甲第25号証:タブ端子の作製に関する報告書
甲第26号証:オージェ電子分光装置分析報告書
甲第27号証:サンウォッシュLH-1の化学物質等安全データシート(MSDS)

エ 平成29年10月11日付け上申書に添付した証拠方法
甲第28号証:陳述書

2 被請求人
(1)答弁の趣旨及び無効理由について
被請求人は、平成29年1月13日付けで訂正請求をした上で、審判事件答弁書において、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、訂正後の各発明については、請求人による無効の主張はいずれも理由がないと主張する。
また、被請求人は、平成29年1月13日付けの請求項1ないし9からなる一群の請求項に係る訂正請求が認められないとした場合について、請求項1ないし4、9に記載された発明についての特許に対する上記各無効理由に対する意見は特にないと陳述した。(被請求人が提出した口頭審理陳述要領書の「5.(1)(1-2)」及び第1回口頭審理調書の「被請求人 7」。)
さらに、被請求人は、平成30年4月10日付けで訂正請求をした上で、同日付けの意見書において、訂正後の各発明は特許性を有すると主張する。

(2)訂正請求について
被請求人は、平成29年1月13日付けの訂正請求について、その訂正請求書において、訂正事項が全ての訂正要件に適合していることを説明するとともに、同年4月7日付けの訂正拒絶理由で訂正要件を満たしていないとされた訂正事項1について、同年5月11日付け意見書において反論を述べている。
そして、上記訂正事項1は訂正要件を満たしていないとする審決の予告の後、被請求人は、平成30年4月10日付けで、上記訂正事項1と同じ内容の訂正事項1を含む訂正を新たに請求するとともに、同日付けの意見書において、上記訂正事項1について審決の予告に対する反論を述べている。
なお、平成30年4月10日付けの訂正請求についての同年10月18日付け訂正拒絶理由通知に対しては、被請求人から意見書は提出されなかった。

(3)被請求人が提出した証拠方法
ア 審判事件答弁書に添付した証拠方法
乙第1号証:日本パーカライジング株式会社の製品カタログ
乙第2号証:日本パーカライジング株式会社の製品安全データシート

イ 平成29年10月25日付け上申書に添付した証拠方法
乙第4号証:実験報告書
乙第5号証:サンウォッシュFM-20の安全データシート
乙第6号証:カタログ「サンウォッシュ FM-20」
乙第7号証:報告書(平成29年6月21日付 東京都立産業技術研究センター理事長)
乙第7号証の2:乙第7号証の詳細なデータ
乙第8号証:鑑定意見書(2017年9月20日付 国立大学法人 東京工業大学 教授 工学博士 高橋邦夫)
乙第9号証:実験報告書(被請求人顧問 吉澤修平)
乙第10号証:結果報告書「Pイオン注入及び注入品のXPS分析」(株式会社東レリサーチセンター)
乙第11号証:結果報告書「Pイオン注入及び注入品のXPS分析2」(株式会社東レリサーチセンター)(当審注:上記「XPS分析2」の「2」は○囲い数字)

ウ 平成30年4月10日付け意見書に添付した証拠方法
乙第12号証:特開2004-31217号公報
乙第13号証:特開平8-102331号公報
乙第14号証:特開2005-310800号公報
乙第15号証:特開2002-198025号公報
乙第16号証:特開2004-146348号公報
乙第17号証:特開2018-2489号公報
乙第18号証:特開2011-249641号公報
乙第19号証:特開2006-120954号公報
乙第20号証の1:化学大辞典7 縮刷板350頁 「非晶質」
乙第20号証の2:化学大辞典9 縮刷板77?78頁 「無定形」
乙第21号証:「Synthesis of organically templated nanoporous tin(II/IV) phosphate for radionuclide and metal sequestration」Inorganic Chemistry Volume 45, Issue 6, Pages:2382-2384
乙第22号証:ウェブページ「Inorganic Chemistry」Table of Contents - March 20, 2006 Volume 45, Issue 6

第3 本件訂正請求について
1 訂正の趣旨
平成30年4月10日付けの訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)における訂正(以下、「本件訂正」という。)の趣旨は、「特許第4732181号の特許請求の範囲を本件請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1ないし14について訂正することを求める」ものである。
なお、平成29年1月13日付けの訂正の請求は、特許法第134条の2第6項の規定により取り下げられたものとみなす。

2 訂正の内容
本件訂正は、特許請求の範囲を以下の訂正事項1ないし14のとおりに訂正することを求めるものである。

(1)請求項1ないし9からなる一群の請求項に係る訂正
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「リン系溶剤で洗浄する工程」とあるのを、「リン系溶剤で洗浄して、前記溶接部分の少なくとも一部に、SiO_(2)換算で厚さ20nm以上の、SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜を形成する工程」に訂正する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2は請求項1を引用するものであるため、訂正事項1にともない請求項2の内容を実質的に訂正する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3は請求項2を引用するものであるため、訂正事項2にともない請求項3の内容を実質的に訂正する。
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4は請求項1?3のいずれか一項を引用するものであるため、訂正事項1?3にともない請求項4の内容を実質的に訂正する。
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5は請求項1?4のいずれか一項を引用するものであるため、訂正事項1?4にともない請求項5の内容を実質的に訂正する。
カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6は請求項5を引用するものであるため、訂正事項5にともない請求項6の内容を実質的に訂正する。
キ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7は請求項5又は6を引用するものであるため、訂正事項5及び6にともない請求項7の内容を実質的に訂正する。
ク 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8は請求項5?7のいずれか一項を引用するものであるため、訂正事項5?7にともない請求項8の内容を実質的に訂正する。
ケ 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9は請求項1?8のいずれか一項を引用するものであるため、訂正事項1?8にともない請求項9の内容を実質的に訂正する。

(2)請求項10ないし14からなる一群の請求項に係る訂正
コ 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項10に「前記溶接部分の少なくとも一部に、SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成されてなることを特徴とする」とあるのを、「前記溶接部分の少なくとも一部に、SiO_(2)換算で厚さ20nm以上の、SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成されてなることを特徴とする」に訂正する。
サ 訂正事項11
特許請求の範囲の請求項11を削除する。
シ 訂正事項12
特許請求の範囲の請求項12に「前記SnPO_(x)皮膜またはスズ表面PO_(x)皮膜の厚みが、SiO_(2)換算で20nm以上である、請求項10に記載のタブ端子。」とあるのを、独立項形式に書き換えるとともに、「スズが存在する部分において、スズ表面にPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成され」という事項を付加することで、「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなるタブ端子であって、前記溶接部分の少なくとも一部に、SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成され、スズが存在する部分において、スズ表面にPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成され、前記SnPO_(x)皮膜またはスズ表面PO_(x)皮膜の厚みが、SiO_(2)換算で20nm以上であることを特徴とする、タブ端子。」に訂正する。
ス 訂正事項13
特許請求の範囲の請求項13は請求項10ないし12のいずれか一項を引用するものであるため、訂正事項11にともない、特許請求の範囲の請求項13に「請求項10?12のいずれか一項に記載のタブ端子」とあるのを、「請求項10または12に記載のタブ端子」に訂正する。
セ 訂正事項14
特許請求の範囲の請求項14は請求項13を引用するものであるため、訂正事項13にともない請求項14の内容を実質的に訂正する。

3 訂正拒絶理由について
当審において平成30年10月18日付けで通知した訂正拒絶理由は、概略、以下のとおりのものである。
(1)請求項1ないし9からなる一群の請求項に係る訂正について
ア 訂正事項1について
訂正事項1に含まれる「リン系溶剤で洗浄して、前記溶接部分の少なくとも一部に、SiO_(2)換算で厚さ20nm以上の、SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜を形成する」という発明特定事項は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであるとはいえないから、訂正事項1は、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合していない。
よって、上記訂正事項1を含む、請求項1ないし9からなる一群の請求項に係る訂正請求は、適法な訂正請求とはいえず、拒絶すべきものである。

4 訂正の適否についての判断
(1)請求項1ないし9からなる一群の請求項に係る訂正について
ア 一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし9において、請求項2ないし9は、訂正する請求項1を直接又は間接的に引用しているものであるから、請求項1ないし9は、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項である。

イ 訂正事項1について
(ア)訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「リン系溶剤で洗浄する工程」に関して、「前記溶接部分の少なくとも一部に、SiO_(2)換算で厚さ20nm以上の、SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜を形成する」という発明特定事項を付加するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか否かについて
上記(ア)に示したとおり、訂正事項1は、発明特定事項を付加することによって、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(ウ)願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下、願書に添付した明細書を「本件特許明細書」といい、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲を「本件特許明細書等」という。)には、SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜の厚みに関して、次の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。)
(a)「【請求項10】
芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなるタブ端子であって、
前記溶接部分の少なくとも一部に、SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成されてなることを特徴とする、タブ端子。
(中略)
【請求項12】
前記SnPO_(x)皮膜またはスズ表面PO_(x)皮膜の厚みが、SiO_(2)換算で20nm以上である、請求項10に記載のタブ端子。」(特許請求の範囲)
(b)「【0025】
また、好ましい態様として、SnPO_(x)皮膜またはスズ表面PO_(x)皮膜の厚みが、SiO_(2)換算で20nm以上である。」
(c)「【0039】
本発明においては、リン酸系化合物の皮膜を溶接部分に形成するために、タブ端子をリン系溶剤によって洗浄する。この洗浄によって、リン系化合物がタブ端子表面に付着する。空気雰囲気中でタブ端子が置かれることにより、このリン系化合物が酸化してリン酸系化合物を形成する。」
(d)「【0044】
本発明の好ましい態様においては、上記の洗浄工程の後、タブ端子の溶接部分にイオン注入を行う。イオン注入により、より一層ウィスカの成長を抑制することができる。イオン注入源としてはリンイオンが好ましい。このようなイオン注入によってスズウィスカの成長が抑制される理由は定かではないが、以下のように考えられる。すなわち、溶接部分にイオン注入を行うことにより、アルミ/リン、または銅/リン等の固溶体が形成される。その結果、溶接部分の表面自由エネルギーが低下する。そのため、空気雰囲気中の酸素とリンとが結合し易くなり、溶接部分の表面にリン酸塩等のリン酸化合物が形成される。このリン酸化合物によって、スズの結晶成長を抑制することができると考えられる。
・・・(中略)・・・
【0048】
イオン注入においては、通常のイオンビーム成膜等に使用されるプラズマフィラメントイオン源やECRバケット型イオン源等を好適に使用できる。また、イオンビーム成膜装置としては、シングルイオン源型であってもデュアルイオン源型であってもよい。例えば、ULVAC社製のIMX-3500やIH-800UP等のイオン注入装置を使用できる。イオン注入時のエネルギーは、10keV程度である。イオン注入量は、注入時間や印可エネルギー等によって調整できるが、1.0×10^(5)?1.0×10^(20)cm^(-2)程度が好ましい範囲である。この程度のイオン注入量とすることにより、溶接部分の表面に形成されたSnPO_(x)のリン系化合物皮膜またはSn表面状に形成されたPO_(x)皮膜の厚みを、SiO_(2)換算で20nm以上とすることができ、このような厚みのリン系化合物皮膜が形成されることにより、タブ端子の溶接部分でのウィスカ発生を抑制することができる。」

そして、上記(c)及び(d)の記載からみて、「SiO_(2)換算で厚さ20nm以上の、SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜」は、「リン系溶剤によって洗浄する」工程の後に、「イオン注入を行う」ことによって形成されており、イオン注入を行わずにリン系溶剤による洗浄のみで「SiO_(2)換算で厚さ20nm以上の、SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜」を形成することは、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲には記載されていない。
したがって、訂正事項1に含まれる「リン系溶剤で洗浄して、前記溶接部分の少なくとも一部に、SiO_(2)換算で厚さ20nm以上の、SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜を形成する」という発明特定事項は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるとはいえない。
よって、訂正事項1は、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合していない。

この点に関する被請求人の主張(反論)について検討する。なお、上記「第1」で示したとおり、平成30年10月18日付けで通知した訂正拒絶理由(上記「3」参照。)に対して被請求人は意見書を提出していない。
(i)被請求人は、平成30年4月10日付け訂正請求書の「6.(1)」の「3)」の「イ 訂正事項が全ての訂正要件に適合している事実の説明」の「(ア)c」において、
「訂正事項1において、訂正前の請求項1に追加された発明特定事項である「溶接部分の少なくとも一部に、SiO_(2)換算で厚さ20nm以上の、SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜を形成する」なる記載は、本件特許公報の明細書(以下、本件明細書という。)の【0025】及び【0048】に記載されている事項であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であると言える。したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。」
と主張する。
しかしながら、上記【0025】には「SnPO_(x)皮膜またはスズ表面PO_(x)皮膜の厚みが、SiO_(2)換算で20nm以上である」と記載されてはいるが(上記(b)参照。)、どのような方法(工程)によってそのような厚みの皮膜を形成するのかについては当該段落に記載はない。また、特許請求の範囲の請求項10及び12の記載(上記(a)参照。)についても同様である。
また、上述のとおり、上記【0048】(上記(d)参照。)に記載されているのは、「SiO_(2)換算で厚さ20nm以上の、SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜」を、「リン系溶剤によって洗浄する」工程の後に、「イオン注入を行う」ことによって形成することであって、イオン注入を行わずにリン系溶剤による洗浄のみで、すなわち、「リン系溶剤で洗浄する工程」のみで、「SiO_(2)換算で厚さ20nm以上の、SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜」を形成することは記載されていない。
そうすると、上記【0025】及び【0048】に記載されている事項であるという被請求人の上記主張を採用することはできない。
(ii)被請求人は、平成30年4月10日付け意見書の「5」の「(2)請求項1ないし4、9の訂正要件充足について」において、
「しかしながら、段落【0044】において「本発明の好ましい態様においては、上記の洗浄工程の後、タブ端子の溶接部分にイオン注入を行う」(傍点は被請求人による)(当審注:前記「好ましい態様においては」の各文字には傍点が付されている。)と記載されておりますとおり、イオン注入は単に本件発明の好ましい実施態様を示すものに過ぎず、段落【0048】の記載は「SiO_(2)換算で厚さ20nm以上の、SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜」を形成する方法をイオン注入に限定する趣旨のものではありません。現に、段落【0039】において「本発明は、リン酸系化合物の皮膜を溶接部分に形成するために、タブ端子をリン系溶剤によって洗浄する。この洗浄によって、リン系化合物がタブ端子表面に付着する。空気雰囲気中でタブ端子が置かれることにより、このリン系化合物が酸化してリン酸系化合物を形成する。」と記載されていることから、請求項1の方法によりリン酸系化合物の皮膜が形成されることが読み取れます。その上、段落【0025】では、「また、好ましい態様として、SnPOx皮膜またはスズ表面POx皮膜の厚みが、SiO_(2)換算で20nm以上である。」と記載されており、ここからリン酸系化合物の皮膜(SnPO_(x)皮膜またはスズ表面POx皮膜)をSiO_(2)換算で20nm以上とすることが読み取れますが、この方法がイオン注入に限定されるものでないことは、その前後の文脈からも明らかです。」
と主張する。
確かに、上記【0044】(上記(d)参照。)に記載されているとおり、「洗浄工程の後、タブ端子の溶接部分にイオン注入を行う」ことは、「本発明の好ましい態様」であって、「SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜」を形成する方法をイオン注入に限定するものではない。しかしながら、上記「本発明の好ましい態様」についての上記【0048】(上記(d)参照。)には、「この程度のイオン注入量とすることにより、溶接部分の表面に形成されたSnPO_(x)のリン系化合物皮膜またはSn表面状に形成されたPO_(x)皮膜の厚みを、SiO_(2)換算で20nm以上とすることができ、」(下線は当審で付与した。)としか記載されておらず、イオン注入を行わずに「SiO_(2)換算で厚さ20nm以上の、SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜」を形成することは記載も示唆もされていない。
また、上記【0039】(上記(c)参照。)には、リン系溶剤で洗浄することによって、リン酸系化合物を形成することが記載されているだけであって、SnPO_(x)からなる皮膜の厚みについては何ら記載されていない。一方、上記【0025】(上記(b)参照。)には、SnPO_(x)からなる皮膜の厚みについて記載はされているが、イオン注入を行わずにそのような厚みの皮膜を形成することは記載されておらず、むしろ、「好ましい態様として、」と記載されていることからみて、上述した「本発明の好ましい態様」である【0044】ないし【0048】の記載に対応するものであると解するのか妥当である。
以上のとおりであるから、「段落【0048】の記載は「SiO_(2)換算で厚さ20nm以上の、SnPOx(xは2?4を表す)からなる皮膜」を形成する方法をイオン注入に限定する趣旨のものではありません。」という被請求人の上記主張を採用することはできない。

なお、上記「第2」の「2」の「(2)」で述べたように、上記訂正事項1は、平成29年1月13日付けの訂正請求における訂正事項1と同じ内容であるから、平成29年1月13日付けの訂正請求における訂正事項1についての主張についても念のため検討する。
(iii)被請求人は、平成29年5月11日付け意見書の「5」の「(2)訂正事項1について」において、
「しかしながら、明細書の段落【0044】の上記の記載は、本発明の好ましい態様、すなわち、本発明の効果がより一層奏される実施態様として、洗浄工程の後にイオン注入を行うことを記載しているに過ぎず、洗浄工程のみではウィスカ発生の抑制が不十分であることを記載しているわけではありません。また、明細書の同段落【0048】には、上記の記載に続けて、「このような厚みのリン系化合物皮膜が形成されることにより、タブ端子の溶接部分でのウィスカ発生を抑制することができる。」と記載があり、当業者であれば、SiO_(2)換算で20nm以上の厚みのSnPOx(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成されていれば、ウィスカ発生を抑制することができると理解します。
そして、本件特許の明細書の【実施例】の欄には、トリポリリン酸ナトリウムを含む溶剤を用いて処理したタブ端子(実施例1)は、何らの溶剤処理も行わないタブ端子(比較例1)に対して、ウィスカの数が108本から僅か4本に減少し、ウィスカ長さも65μmあったものが20μmに減少したことが示されております(表1)。これらの実施例の評価結果に接した当業者であれば、タブ端子を特定の溶剤で処理すれば、更に続けてイオン注入を行わなくともウィスカ発生を抑制できることを理解します。」
とした上で、
「このように、明細書の段落【0048】の記載と実施例の評価結果の記載(表1)を踏まえると、当業者であれば、実施例1のタブ端子は、SiO_(2)換算で20nm以上の厚みのSnPOx(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成されているものと理解することができます。すなわち、特定の溶剤を用いた溶剤処理とイオン注入処理とを併用しなくとも、特定の溶剤を用いた溶剤処理を行えばウィスカの発生を抑制することができる程度の厚みの皮膜が形成されると当業者は理解するはずです。」
と主張する。
確かに、上記【0044】(上記(d)参照。)に記載されているとおり、「洗浄工程の後、タブ端子の溶接部分にイオン注入を行う」ことは、「本発明の好ましい態様」であって、洗浄工程のみではウィスカ発生の抑制が不十分であることを記載しているわけではないが、洗浄工程のみを行った場合の皮膜の厚みについては、本件特許明細書等には記載はされていない。
また、上記表1に記載の実施例の評価結果についても、実施例1と比較例1や、実施例3と比較例2をそれぞれ対比すれば、タブ端子を特定の溶剤で処理すれば、更に続けてイオン注入を行わなくともウィスカ発生を抑制できるということは読み取れるが、上記表1を含む【実施例】の欄(【0049】ないし【0059】)には、皮膜やその厚みについて全く記載がなされていない。
したがって、タブ端子を特定の溶剤で処理すれば、更に続けてイオン注入を行わなくともウィスカ発生を抑制できるからといって、「SiO_(2)換算で20nm以上の厚みのSnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成されている」とまではいうことはできないから、被請求人の上記主張を採用することはできない。
(iv)被請求人は、平成29年10月25日付け上申書の「5」の「(1)被請求人の5月11日付け意見書の3頁の最終段落の内容について」において、
「そして、特定の溶剤による洗浄処理によってタブ端子の溶接部分にSnPOxからなる皮膜が形成されると理解する当業者であれば、溶剤による洗浄処理の条件について説明した本件特許明細書の段落【0040】?【0043】の記載を参酌すれば、タブ端子の溶接部分に形成される皮膜の厚さ(換言すれば、ウィスカ抑制効果)は、リン系溶剤濃度や洗浄処理温度、洗浄処理時間等によって影響を受けると理解するはずであり、例えば、溶剤濃度を高くしたり、洗浄温度を溶剤の曇点以上に高くし、好ましい時間の範囲で洗浄を行うことにより、スズがより一層変性されて、より厚い「十分な」(段落【0042】)SnPOxからなる皮膜が形成されると理解できます。
即ち、洗浄処理のみを行った(リンイオン注入を行わなかった)実施例1及び実施例3のタブ端子において20nm以上の皮膜が出来ていると考えるのが合理的であると考えますが、もし仮に溶接部分に形成されたSnPOxのリン系化合物皮膜の厚みが仮に20nm未満であるとすれば、それでもウィスカの抑制に足るSnPOxからなる皮膜が形成されることになりますので、20nm以上の皮膜においては尚更本件特許発明の課題が解決できることが理解できます。その上、当業者であれば、過度な試行錯誤や複雑高度な実験を行わずとも、リン系溶剤濃度や洗浄処理温度、洗浄処理時間等の洗浄条件の変更により、厚み20nm以上のSnPOxからなる皮膜とすることができることは明らかです。」
と主張する。
確かに、上記【0040】にはリン系溶剤濃度の範囲が、上記【0041】には洗浄処理温度の範囲が、上記【0042】には洗浄処理時間の範囲がそれぞれ記載されてはいるが、それらの範囲内で溶剤処理を行った場合に形成される皮膜の具体的な厚みや厚みの範囲については、上記(ii)でも述べたとおり、実施例1及び3の場合も含めて、何ら具体的な記載がない。
さらに、タブ端子の溶接部分に形成される皮膜の厚さが、リン系溶剤濃度や洗浄処理温度、洗浄処理時間等によって影響を受けるからといって、それらの洗浄条件を変更することによって皮膜を無制限に厚くできるわけではなく、したがって、それらの洗浄条件を変更することによって厚みを20nm以上にできることが明らかであるとまではいえず、特に、上記【0040】ないし【0042】記載の上記各範囲内の変更で、厚みを20nm以上にできることが明らかであるとまでは到底いうことはできない。また、同様の理由で、特定の洗浄条件で厚みが20nm未満の皮膜が形成できたからといって、厚みが20nm以上の厚みの皮膜を形成できることが明らかであるということはできない。
また、洗浄条件を変更することによって、例えば「30分以上洗浄を行うと、タブ端子の表面、特にアルミ表面が過剰にエッチングされるため好ましくない」(【0042】)という問題が生じることを勘案すると、単純に洗浄条件を変更して厚みを増していけばよいというものでないことは明らかであり、そうすると、洗浄処理のみで、タブ端子にそのような問題を生じることなく20nm以上の皮膜が形成できることが、「過度な試行錯誤や複雑高度な実験を行わずとも」できることであるとは認められない。
したがって、被請求人の上記主張を採用することはできない。

ウ 請求項1ないし9からなる一群の請求項に係る訂正の適否についての結論
上記「イ」のとおり、請求項1ないし9からなる一群の請求項に係る訂正に含まれる訂正事項1は、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものではない。したがって、訂正事項2ないし9について判断するまでもなく、請求項1ないし9からなる一群の請求項に係る訂正は、これを認めることはできない。

(2)請求項10ないし14からなる一群の請求項に係る訂正について
ア 一群の請求項について
訂正前の請求項10ないし14において、請求項11ないし14は、訂正する請求項10を直接又は間接的に引用しているものであるから、請求項10ないし14は、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項である。

イ 訂正事項10について
(ア)訂正の目的について
訂正事項10は、訂正前の請求項10の「SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜」について、「SiO_(2)換算で20nm以上の」ものであるという発明特定事項を付加したものであるから、当該訂正事項10は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
本件特許明細書等には、「前記SnPO_(x)皮膜またはスズ表面PO_(x)皮膜の厚みが、SiO_(2)換算で20nm以上である、請求項10に記載のタブ端子。」(【請求項12】)、「また、好ましい態様として、SnPO_(x)皮膜またはスズ表面PO_(x)皮膜の厚みが、SiO_(2)換算で20nm以上である。」(【0025】)、「この程度のイオン注入量とすることにより、溶接部分の表面に形成されたSnPO_(x)のリン系化合物皮膜またはSn表面状に形成されたPO_(x)皮膜の厚みを、SiO_(2)換算で20nm以上とすることができ、このような厚みのリン系化合物皮膜が形成されることにより、タブ端子の溶接部分でのウィスカ発生を抑制することができる。」(【0048】)と記載されている。
したがって、それらの記載からみて、訂正事項10において、訂正前の請求項10に付加された発明特定事項である「SiO_(2)換算で厚さ20nm以上の」という事項は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した範囲内のものであるから、訂正事項10は、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか否かについて
上記「(ア)」に示したとおり、訂正事項10は、発明特定事項を付加することによって、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(エ)独立特許要件について
請求項10は、無効審判の請求の対象とされているので、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は適用されない。

ウ 訂正事項11について
訂正事項11は、請求項11を削除するというものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、請求項11を削除するというものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した範囲内の訂正であるとともに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。したがって、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。

エ 訂正事項12について
(ア)訂正の目的について
訂正事項12のうち、訂正前の請求項12が引用していた請求項10の「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなるタブ端子であって、前記溶接部分の少なくとも一部に、SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成されてなることを特徴とする、」という発明特定事項を含むように請求項12の記載を書き換える訂正事項は、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」を目的とするものであり、「スズが存在する部分において、スズ表面にPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成され」という事項を付加する訂正事項は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
訂正事項12のうち、「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなるタブ端子であって、前記溶接部分の少なくとも一部に、SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成され、」という発明特定事項は訂正前の請求項10に記載されており、「スズが存在する部分において、スズ表面にPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成され、」という発明特定事項は訂正前の請求項11に記載されている。
したがって、それらの記載からみて、訂正事項12は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した範囲内のものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか否かについて
上記「(ア)」に示したとおり、訂正事項12は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとするものであるとともに、発明特定事項を付加することによって、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(エ)独立特許要件について
請求項12は、無効審判の請求の対象とされているので、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は適用されない。

オ 訂正事項13について
訂正事項13は、請求項13に「請求項10?12のいずれか一項に記載のタブ端子」とあるのを、「請求項10または12に記載のタブ端子。」に訂正することによって引用請求項数を減少するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、請求項13の引用請求項数を減少するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した範囲内の訂正であるとともに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。したがって、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。
なお、請求項13は、無効審判の請求の対象とされているので、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は適用されない。

カ 訂正事項14
訂正事項14に係る請求項14は請求項13を引用するものであり、かつ、請求項13は請求項10または12を引用するものであるから、訂正事項14は、訂正事項10、12及び13を実質的に含むものである。
そうすると、上記「イ」、「エ」及び「オ」で説示したように、訂正事項14も、訂正事項10、12及び13と同様に、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。
なお、請求項14は、無効審判の請求の対象とされているので、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は適用されない。

キ 請求項10ないし14からなる一群の請求項に係る訂正の適否についての結論
上記「ア」ないし「カ」のとおり、請求項10ないし14からなる一群の請求項に係る訂正に含まれる訂正事項10ないし14は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、訂正事項12は同条同項ただし書第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものでもあり、かつ、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。したがって、請求項10ないし14からなる一群の請求項に係る訂正は、これを認める。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正のうち、請求項1ないし9からなる一群の請求項に係る訂正は認めない。
また、本件訂正のうち、請求項10ないし14からなる一群の請求項に係る訂正は認める。

第4 本件発明
上記「第3」のとおり、請求項1ないし9からなる一群の請求項に係る訂正を認めることができないから、特許第4732181号の請求項1ないし9に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明9」という。)は、特許権の設定登録時の特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものであり、また、請求項10ないし14からなる一群の請求項に係る訂正は認めるから、特許第4732181号の請求項10、12ないし14に係る発明(以下、「本件発明10」、「本件発明12」ないし「本件発明14」という。)は、平成30年4月10日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項10、12ないし14に記載された事項により特定されるものであるところ、本件発明1ないし10、12ないし14はそれぞれ次のとおりのものである。

「【請求項1】
芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなるタブ端子を製造する方法であって、
芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、アルミ芯線を溶接し、該アルミ芯線の端部を圧扁してタブ端子を準備する工程、および
前記タブ端子を、リン系溶剤で洗浄する工程、
を含んでなり、
前記リン系溶剤が、リン酸ナトリウムまたはポリリン酸ナトリウムを含んでなる洗浄剤であることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記洗浄工程を、前記洗浄剤の曇点以上の温度で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記洗浄工程を、70?100℃の温度で行う、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記洗浄工程を、5?30分間行う、請求項1?3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記タブ端子の溶接部分に、イオン注入を行う工程をさらに含んでなる、請求項1?4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記イオン注入のイオン源がリンである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記イオン注入工程を、前記洗浄工程の後に行う、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
イオン注入量が、1.0×10^(5)?1.0×10^(20)cm^(-2)である、請求項5?7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記タブ端子が、アルミ電解コンデンサに使用されるものである、請求項1?8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなるタブ端子であって、
前記溶接部分の少なくとも一部に、SiO_(2)換算で厚さ20nm以上の、SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成されてなることを特徴とする、タブ端子。
【請求項11】
(削除)
【請求項12】
芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなるタブ端子であって、
前記溶接部分の少なくとも一部に、SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成され、
スズが存在する部分において、スズ表面にPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成され、
前記SnPO_(x)皮膜またはスズ表面PO_(x)皮膜の厚みが、SiO_(2)換算で20nm以上であることを特徴とする、タブ端子。
【請求項13】
針状のウィスカが実質的に存在しない、請求項10または12に記載のタブ端子。
【請求項14】
タブ端子表面に発生したウィスカの形状が、螺旋状または帯状である、請求項13に記載のタブ端子。」

第5 無効理由に対する当審の判断
1 請求項1ないし4、9に係る発明の特許について
1-1 無効理由1-1(特許法第29条第1項第3号)及び1-2(特許法第29条第2項)について
事案に鑑み、まず無効理由1-2(特許法第29条第2項)から検討する。
なお、上記「第2」の「2」の「(1)」のとおり、被請求人は、平成29年1月13日付けの請求項1ないし9からなる一群の請求項に係る訂正請求が認められないとした場合について、すなわち、訂正前の本件発明1ないし4、9について、上記無効理由1-2に対する意見は特にないと陳述した。

(1)引用発明1
ア 甲第1号証の記載事項
請求人が提出した甲第1号証(特開2000-277398号公報)には、「コンデンサ用リード線の製造方法」に関して、図面とともに以下の記載がある。(下線は当審で付与した。)
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、すずめっきされた銅線とアルミニウム線とが溶接されたコンデンサ用リード線の製造方法に関するものである。」

(イ)「【0004】本発明の課題は、ウィスカの発生を防止することができるコンデンサ用リード線の製造方法を提供することである。」

(ウ)「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、以下のような解決手段により、前記課題を解決する。すなわち、請求項1の発明は、すずめっきされた銅線とアルミニウム線とが溶接されたコンデンサ用リード線の製造方法であって、前記コンデンサ用リード線をアルカリ性洗浄液で洗浄する洗浄工程と、前記コンデンサ用リード線から前記アルカリ性洗浄液を除去する洗浄液除去工程と、前記コンデンサ用リード線を高温加熱して、溶接部にウィスカが発生するのを防止する乾燥工程とを含むコンデンサ用リード線の製造方法である。
【0006】請求項2の発明は、請求項1に記載のコンデンサ用リード線の製造方法において、前記洗浄工程は、温度90°C?99°Cで約12分間洗浄する工程であり、前記乾燥工程は、温度約150°Cで約21分間加熱する工程であることを特徴とするコンデンサ用リード線の製造方法である。」

(エ)「【0007】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して、本発明の実施形態についてさらに詳しく説明する。図1は、コンデンサ用リード線の一部を省略して示す図であり、図2は、リード線製造装置の概略構成図である。コンデンサ用リード線1は、図1に示すように、極めて純度の高いすずがめっきされた銅線10とアルミニウム線11とを溶接部12で溶接したものである。また、リード線製造装置2は、図2に示すように、洗浄装置20と、液回収装置21と、水洗装置22と、遠心分離器23と、エアブロー24と、乾燥装置25と、冷却装置26と、搬送装置27とを備えている。」

(オ)「【0008】前記洗浄装置20は、例えば、アルミニウム及びその合金用の非エッチング型弱アルカリクリーナ(商品名:ファインクリーナ315)などの洗浄液によって、コンデンサ用リード線1を洗浄する洗浄槽である。この洗浄装置20は、温度90°C?99°Cの洗浄液でコンデンサ用リード線1を約12分間洗浄して、アルミニウム線11を脱脂したり、銅線10とアルミニウム線11とを溶接するときに発生するカーボンを除去する。」

(カ)「【0011】次に、本発明の実施形態に係るコンデンサ用リード線の製造方法を説明する。図2に示すように、コンデンサ用リード線1が搬送ユニット27a内に図中A方向から搬入されると、この搬送ユニット27aを搬送装置27が図中B方向に搬送する。コンデンサ用リード線1は、洗浄装置20内で洗浄されて、アルミニウム線11が脱脂されるとともに、銅線10とアルミニウム線11とを溶接するときに発生するカーボンが除去される(洗浄工程)。そして、コンデンサ用リード線1は、液回収装置21内でエアを吹き付けられて、水洗装置22内で洗浄液が洗い流される(洗浄液除去工程)。次に、コンデンサ用リード線1は、遠心分離器23によって純水を除去された後に、エアブロー24によって純水が除去される。そして、コンデンサ用リード線1は、乾燥装置25内で加熱乾燥され、ウィスカの発生が防止される(乾燥工程)。その後に、コンデンサ用リード線1は、冷却装置26内で冷却されて、搬送ユニット27a内から図中C方向に搬出される。」

(キ)「【0012】本発明の実施形態に係るコンデンサ用リード線の製造方法は、以下に記載するような効果を有する。
(1) 本発明の実施形態では、コンデンサ用リード線1をアルカリ性の洗浄液で洗浄し、このコンデンサ用リード線1から洗浄液を除去した後に、このコンデンサ用リード線1を加熱している。その結果、アルカリ性の洗浄液で洗浄した後に、コンデンサ用リード線1を温度約150°Cで約21分間加熱して、溶接部12にウィスカが発生するのを防止することができる。
【0013】
(2) 本発明の実施形態では、温度90°C?99°Cのアルカリ性の洗浄液でコンデンサ用リード線1を約12分間洗浄するので、アルミニウム線11を脱脂できるとともに、このアルミニウム線11に溶接時に付着したカーボンを除去することができる。」

(ク)「【0015】
【発明の効果】以上詳しく説明したように、本発明によれば、コンデンサ用リード線をアルカリ性洗浄液で洗浄し、前記コンデンサ用リード線から前記アルカリ性洗浄液を除去し、前記コンデンサ用リード線を加熱して、溶接部にウィスカが発生するのを防止するので、ウィスカの発生を防止することができる。」

(ケ)図1の記載からみて、すずめっきされた銅線10の端部にアルミニウム線11が溶接されている。

イ 甲第1号証に記載された発明(引用発明1)
上記「ア」の「(エ)」の記載からみて、洗浄装置20内で洗浄されるコンデンサ用リード線1は、「極めて純度の高いすずがめっきされた銅線10とアルミニウム線11とを溶接部12で溶接したものである」から、すずめっきされた銅線10とアルミニウム線11とからコンデンサ用リード線1を製造する工程には、すずめっきされた銅線10とアルミニウム線11とを溶接する工程が含まれていることを踏まえて、上記「ア」の「(ア)ないし(ケ)」の記載事項及び図面の記載を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「すずめっきされた銅線10の端部に、アルミニウム線11が溶接されたコンデンサ用リード線1の製造方法であって、
すずめっきされた銅線10の端部に、アルミニウム線11を溶接する工程、および、すずめっきされた銅線10とアルミニウム線11とが溶接されたコンデンサ用リード線1を、アルミニウム及びその合金用の非エッチング型弱アルカリクリーナ(商品名:ファインクリーナ315)などの洗浄液によって洗浄する工程、を含んでなり、
前記洗浄する工程は、温度90°C?99°Cの洗浄液でコンデンサ用リード線1を約12分間洗浄する、コンデンサ用リード線1の製造方法。」

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1の「銅線10」は、本件発明1の「リード線」の「芯材」に相当し、また、引用発明1の前記「銅線10」は「すずめっきされた」ものであるから、その「表面にスズからなる金属層が形成されて」いるといえる。そうすると、引用発明1の「すずめっきされた銅線10」は、本件発明1の「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線」に相当する。
(イ)引用発明1の「アルミニウム線11」は、本件発明1の「アルミ芯線」に相当する。
(ウ)引用発明1の「コンデンサ用リード線1」は、コンデンサに用いられる「部品」である点で、本件発明1の「タブ端子」と共通する。
(エ)引用発明1における「すずめっきされた銅線10の端部に、アルミニウム線11を溶接する工程」は、その後に行われる「洗浄する工程」において洗浄する対象となるコンデンサ用リード線を用意するための工程であるから、当該工程はコンデンサ用リード線を「準備する工程」であるということができる。
(オ)引用発明1における「洗浄液」は「洗浄剤」ということができ、また、引用発明1における「ファインクリーナ315」は、請求人が提出した甲第5号証(特開2004-253311号公報)によれば、「縮合リン酸塩」を「25?30質量%」含むものである(【0041】を参照。)から、引用発明1の「洗浄液」は「リン系溶剤」に含まれるものである。

そうすると、本件発明1と引用発明1は、
「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、アルミ芯線を溶接し、リード線端部にアルミ芯線が溶接されてなる部品を準備する工程、および、前記部品を、洗浄剤であるリン系溶剤で洗浄する工程、を含んでなる方法」
である点で一致し、次の各点において相違する。
<相違点1>
本件発明1のアルミ芯線は「圧扁部」を有しており、前記「準備する工程」において「該アルミ芯線の端部を圧扁して」いるのに対して、引用発明1のアルミニウム線11が圧扁部を有するか不明であり、したがって、準備する工程においてアルミニウム線11の端部を圧扁しているのかも不明である点。
<相違点2>
本件発明1の部品は「タブ端子」であるのに対して、引用発明1は「コンデンサ用リード線」である点。
<相違点3>
本件発明1の洗浄剤(リン系溶剤)が、「リン酸ナトリウムまたはポリリン酸ナトリウムを含んでなる」のに対して、引用発明1における洗浄剤がそれらを含んでいるか不明である点。

イ 判断
上記各相違点について検討する。
(ア)相違点1について
コンデンサ用リード線に用いられるアルミニウム線に圧扁部を設けること、及び、そのためにアルミニウム線の端部を圧扁する(扁平加工を施す)ことは、本件出願日時点における周知技術にすぎず(請求人が提出した甲第3号証(特開平9-213592号公報)の【0002】、図3等及び甲第4号証(特開平9-139326号公報)の【0002】、図1等を参照のこと。)、これを引用発明1に適用することを妨げるべき事由は見当たらない。
そうすると、引用発明1に上記周知技術を適用して、上記相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
(イ)相違点2について
すずめっきがされた銅線とアルミニウム線が溶接されたコンデンサ用リード線をアルミ電解コンデンサ用のタブ端子とすることは、本件出願日時点における周知技術にすぎず(請求人が提出した甲第2号証(特開平9-45579号公報)の【0013】等、甲第3号証の【0002】等、甲第4号証の【0002】等を参照のこと。)、これを引用発明1に適用することを妨げるべき事由は見当たらない。
そうすると、引用発明1に上記周知技術を適用して、上記相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
(ウ)相違点3について
金属材料の脱脂処理液にリン酸ナトリウムまたはポリリン酸ナトリウムを含めることは、本件出願日時点における周知技術にすぎず(請求人が提出した甲第6号証(特開2000-144445号公報)の【0015】ないし【0017】、表1及び2を参照のこと。)、かつ、引用発明1の洗浄液は、脱脂を目的の1つとするものであるから(上記「(1)ア(オ)」)、引用発明1の洗浄液に上記周知技術を適用してリン酸ナトリウムまたはポリリン酸ナトリウムを含めるようにすることは、当業者が適宜なし得ることであり、そのようにすることの効果も、引用発明1及び上記周知技術の効果から当業者が予測し得る範囲内のものである。
(エ)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された引用発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と引用発明1とを対比すると、上記「(2)ア」で示した点で一致し、上記「(2)ア」で示した相違点1ないし3に加えて以下の点で相違する。
<相違点4>
本件発明2は洗浄工程を「前記洗浄剤の曇点以上の温度で行う」のに対して、引用発明1の洗浄工程は「温度90°C?99°Cの洗浄液で」行う点。

イ 判断
(ア)相違点1ないし3について
上記「(2)イ」の「(ア)ないし(ウ)」で判断したとおりである。
(イ)相違点4について
下記「1-2」で述べるとおり、本件発明2における「洗浄剤の曇点」とはどのようなものであるか不明確ではあるが、洗浄剤は本件発明2も引用発明1もリン系溶剤である点、及び、引用発明1の洗浄液の温度(90°C?99°C)は本件特許明細書に実施例として記載されている洗浄処理の温度(85°C)(【0050】、【0055】)よりも高いことを勘案すると、引用発明1においても、「洗浄剤の曇点以上の温度」で洗浄工程を行っている蓋然性が高いから、上記相違点4は実質的な相違点ではない。
(ウ)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明2は、甲第1号証に記載された引用発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)本件発明3について
ア 対比
引用発明1における洗浄液の温度は「90°C?99°C」であり、本件発明3の「70?100℃」という範囲内の温度である。
そして、上記「(3)イ(イ)」で述べたとおり、上記相違点4が実質的な相違点でないことを勘案すると、本件発明3と引用発明1は、上記「(2)ア」で示した相違点1ないし3で相違し、その余の点で一致する。
イ 判断
(ア)相違点1ないし3について
上記「(2)イ」の「(ア)ないし(ウ)」で判断したとおりである。
(イ)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明3は、甲第1号証に記載された引用発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)本件発明4について
ア 対比
引用発明1における洗浄工程の時間は「約12分間」であり、本件発明4の「5?30分間」という範囲内の時間である。
そうすると、本件発明4と引用発明1は、上記「(2)ア」で示した相違点1ないし3で相違し、その余の点で一致する。
イ 判断
(ア)相違点1ないし3について
上記「(2)イ」の「(ア)ないし(ウ)」で判断したとおりである。
(イ)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明4は、甲第1号証に記載された引用発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6)本件発明9について
ア 対比
上記「(2)ア」で示した相違点2と同様に、本件発明9の部品は「タブ端子」であるのに対して、引用発明1は「コンデンサ用リード線」である点で相違するが、それに加えて、本件発明9の部品(タブ端子)は「アルミ電解コンデンサに使用されるものである」のに対して、引用発明1の部品は「コンデンサ用」ではあるものの、「アルミ電解コンデンサ」用であるかは不明である。
そうすると、本件発明9と引用発明1とを対比すると、上記「(2)ア」で示した点で一致し、上記「(2)ア」で示した相違点1ないし3に加えて以下の点で相違する。
<相違点5>
本件発明9の部品は「アルミ電解コンデンサに使用されるものである」のに対して、引用発明1の部品が「アルミ電解コンデンサ」用であるかは不明である点。
イ 判断
(ア)相違点1ないし3について
上記「(2)イ」の「(ア)ないし(ウ)」で判断したとおりである。
(イ)相違点5について
上記「(2)イ」の「(イ)」で述べたとおり、すずめっきがされた銅線とアルミニウム線が溶接されたコンデンサ用リード線をアルミ電解コンデンサ用のタブ端子とすることは、本件出願日時点における周知技術にすぎず、これを引用発明1に適用することを妨げるべき事由は見当たらない。
そうすると、引用発明1に上記周知技術を適用して、上記相違点5に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
(ウ)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明9は、甲第1号証に記載された引用発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(7)請求項1ないし4、9に係る発明の特許に対する無効理由1-1及び1-2についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし4、9は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって、無効理由1-1について検討するまでもなく、請求項1ないし4、9に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

1-2 無効理由4について
次に、請求項2に係る発明の特許に対する無効理由4(特許法第36条第6項第2号)について検討する。
なお、上記「第2」の「2」の「(1)」のとおり、被請求人は、平成29年1月13日付けの請求項1ないし9からなる一群の請求項に係る訂正請求が認められないとした場合について、すなわち、訂正前の本件発明2について、上記無効理由4に対する意見は特にないと陳述した。

(1)本件発明2について
特許請求の範囲の請求項2には「前記洗浄工程を、前記洗浄剤の曇点以上の温度で行う」と記載されているが、上記「洗浄剤の曇点」がどのようなものであるかの定義は、本件特許明細書には記載されていない。
そこで、「曇点」の一般的な意味について検討すると、請求人が提出した甲第13号証(化学辞典 第1版 第374頁)及び甲第14号証(化学大辞典3 縮小版 第58頁及び第59頁)には「曇り点」又は「曇点」についての意味が解説されているが、それらの記載からみて、「曇点」とは、非イオン界面活性剤の水溶液、若しくは油脂及び石油製品に関するパラメータであると認められる。
ところが、本件特許明細書に記載の洗浄剤は、非イオン界面活性剤を含むものではなく、油脂又は石油製品でもないから、請求項2に記載の上記「曇点」の意味を、上記甲第13号証及び甲第14号証に説明されている一般的な意味であると解釈することは適切ではない。
そうすると、請求項2の「洗浄剤の曇点」がどのようなものであるか不明であるといわざるを得ず、したがって、請求項2に係る発明(本件発明2)は明確でない。

(2)請求項2に係る発明の特許に対する無効理由4についてのまとめ
以上のとおりであるから、願書に添付した特許請求の範囲の請求項2の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合するものではない。したがって、請求項2に係る発明の特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

2 請求項10ないし14に係る発明の特許について
(1)本件発明10について
ア 「SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜」について
(ア)請求人の主張
上記「第4」で示したとおり、訂正後の特許請求の範囲の請求項10には、「前記溶接部分の少なくとも一部に、SiO_(2)換算で厚さ20nm以上の、SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成されてなる」と記載されているから、訂正後の請求項10に係る発明(本件発明10)は訂正前の請求項10に係る発明と同様に、「前記溶接部分の少なくとも一部に、SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成されてなる」という発明特定事項を備えている。
この発明特定事項に関して、請求人は、審判請求書において次のaないしeのとおり主張する。(下線は当審で付与した。)

a 「(4-3)新規性違反について」の欄
「(4-3-6) 本件発明10
(中略)
(ウ) 構成要件10-Cについて
構成要件10-Cは、「前記溶接部分の少なくとも一部に、SnPOx(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成されてなることを特徴とする、」である。
ここで、甲第7号証によれば、リン酸スズは、「2SnO_(2)・P_(2)O_(5)・10H_(2)O」、「Sn_(3)(PO_(4))_(2)」、「Sn_(2)P_(2)O_(7)」、「SnP_(2)O_(7)」、「Sn_(2)O(PO_(4))_(2)」及び「2SnO_(2)・P_(2)O_(5)」として存在することは記載されているが、「SnPOx(xは2?4を表す)」として存在することについては記載されていない。すなわち、構成要件10-Cの「SnPOx(xは2?4を表す)」という化合物は、一般に知られていない化合物であり、そのような化合物を構成要件として含む本件発明10はそもそも不明確であると認められる。なお、甲第15号証において、被請求人は、「被告が主張するようにリン酸スズにはSn_(2)P_(2)O_(7)等が存在し、これはSnPO_(3.5)(すなわち、SnPOxにおけるx=3.5に相当)に他ならない。」(第14頁第17行乃至第19行)と主張しているが、Sn_(2)P_(2)O_(7)は二量体を示すため、通常SnPO_(3.5)とは表記されず、Sn_(2)P_(2)O_(7)とSnPO_(3.5)とが同一の化合物であるとは言えない。また、仮に同一の化合物であったとしても、SnPO_(3.5)以外の「SnPOx(xは2?4を表す)」という化合物が一般に知られていないという事実に変わりはない。以下、構成要件10-Cに記載された「SnPOx(xは2?4を表す)」が一般的な「リン酸スズ」を意味していると仮定して、甲第1号証に、構成要件10-Cが開示されているに等しいことについて説明する。
(以下、省略)」
b 「(4-4) 進歩性違反について」の欄
「(4-4-5) 本件発明10
(中略)
(相違点3)
本件発明10は、「溶接部分の少なくとも一部に、SnPOx(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成されて」いるのに対して、甲第1号証には、「溶接部分の少なくとも一部にSnPOx(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成されて」いることに関する明示的な記載はない点。
イ 本件発明10の容易想到性について
(中略)
(イ)相違点3
上記(4-3-6)(ウ)で述べたとおり、そもそも「SnPOx(xは2?4を表す)」は不明確であるから、以下においては、本件発明10に記載された「SnPOx(xは2?4を表す)」が一般的な「リン酸スズ」を意味していると仮定して説明する。
(以下、省略)」
c 「(4-5) 実施可能要件違反について」の欄
「(4-5-1) 本件発明10について
(中略)
ここで、本件特許明細書の実施例においては、タブ端子を、トリポリリン酸ナトリウムを含む溶剤(商品名:サンウォッシュLH-1、ライオン株式会社製)中に85℃で10分間浸漬して洗浄処理を行い、加速試験によりタブ端子の溶接部分に発生したウィスカの数及びその長さを測定している(実施例1)。また、上記洗浄処理の後、さらにリンのイオン注入を行い、同様の加速試験により発生したウィスカの数及びその長さの評価を行っている(実施例2)。しかしながら、当該実施例においては、溶接部に「SnPOx」が形成されたことや、SnPOxからなる「皮膜」が形成されたことは全く確認されていない。ここで、上記(4-3-6)(ウ)で述べたとおり、SnPOx(xは2?4を表す)は一般に知られていない化合物であるから、実施例に記載の方法で実際にSnPOxからなる皮膜が形成されているとは到底考えられない。
また、実施例においては、特定の溶剤を用いて「溶剤処理」を行い、又は特定の条件で「イオン注入」を行っているのみであり、本件特許明細書には、「SnPOxからなる皮膜」に関して、皮膜中にSnPOxがどの程度の濃度で分散していれば「SnPOxからなる皮膜」といえるのか等の「皮膜」に関する具体的な説明がないことから、当該実施例に記載された特定の溶剤又は条件以外に、どのような溶剤を用いて「溶剤処理」を行い、また、どのような条件で「イオン注入」を行えば、溶接部に「SnPOxからなる皮膜」が形成されるのかについて理解することができない。
したがって、当業者が本件特許明細書の記載内容及び本件特許出願時の技術常識を考慮しても、当該実施例に記載された特定の「溶剤処理」及び「イオン注入」によってSnPOxからなる皮膜を形成できたとは認められず、またその特定の溶剤又は条件以外に、どのような溶剤を用いて「溶剤処理」を行い、また、どのような条件で「イオン注入」を行えば溶接部に「SnPOxからなる皮膜」が形成されて、本件発明10の作用効果を奏するのかが明らかでないことから、本件発明10は、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものである。
(以下、省略)」
d 「(4?6) サポート要件違反について」の欄
「(4-6-1) 本件発明10について
(中略)
しかしながら、当該実施例においては、溶接部に「SnPOx」が形成されたことや、SnPOxからなる「皮膜」が形成されたことについては全く確認されていない。ここで、上記(4-3-6)(ウ)で述べたとおり、SnPOx(xは2?4を表す)は一般に知られていない化合物であることから、実施例に記載の方法で、実際にSnPOxからなる皮膜が形成されているとは到底考えられない。したがって、実施例における具体的な「洗浄処理」又は「イオン注入」によって「SnPOxからなる皮膜」が形成されたことは明らかでないため、「溶接部分の少なくとも一部に、SnPOx(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成されて」という構成要件を備えることによって上記所期の課題を解決できることについても明らかでない。
また仮に、実施例における「洗浄処理」又は「イオン注入」によって、溶接部に「SnPOxからなる皮膜」が形成されているとした場合であっても、実施例においては、特定の溶剤を用いて「溶剤処理」を行い、又は特定の条件で「イオン注入」を行っているのみであり、当該実施例に記載された特定の溶剤又は条件以外の「溶剤処理」又は「イオン注入」によっても、溶接部に「SnPOxからなる皮膜」が形成されることや、それによって上記所期の課題を解決できることは明らかでない。
すなわち、本件発明10の構成要件を備えれば本件発明10の課題を解決できることを、発明の詳細な説明に当業者が認識できる程度に記載も示唆もされておらず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本件特許出願時の技術常識に照らし本件発明10の課題を解決できると認識できる範囲のものでもない。
したがって、当業者が本件特許明細書の記載内容及び出願時の技術常識を考慮しても、本件発明10における当該特定の内容を特許請求の範囲の全範囲に拡張乃至一般化できるものではない。
(以下、省略)」
e 「(4-7) 明確性要件違反について」の欄
「(4-7-2) 本件発明10について
本件発明10は、「前記溶接部分の少なくとも一部に、SnPOx(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成されてなることを特徴とする、」という構成要件を備えている。しかしながら、上記(4-3-6)(ウ)で述べたとおり、スズとリンと酸素とからなる化合物としては、例えば、「2SnO_(2)・P_(2)O_(5)・10H_(2)O」、「Sn_(3)(PO_(4))_(2)」、「Sn_(2)P_(2)O_(7)」、「SnP_(2)O_(7)」、「Sn_(2)O(PO_(4))_(2)」及び「2SnO_(2)・P_(2)O_(5)」は知られているが、SnPOxは一般に知られていない化合物である。
また、本件特許明細書には、「SnPOxからなる皮膜」に関して、「SnPOx皮膜またはスズ表面POx皮膜の厚みが、SiO_(2)換算で20nm以上である」(段落0025)と記載されているものの、どの程度の濃度でSnPOxが分散しているのか等について記載されておらず、また、実施例においても、SnPOxからなる皮膜が形成されたことや、皮膜の厚みについては一切評価を行っていないことから、「皮膜」が具体的にどのような形態を意味するのかが理解できない。
したがって、「SnPOx(xは2?4を表す)からなる皮膜」の意義が不明であるから、そのような構成要件を含む本件発明10は不明確である。
(以下、省略)」

以上のとおり、請求人が本件発明10に対して主張する無効理由1-1ないし4のいずれも、「SnPO_(x)(xは2?4を表す)という化合物は、一般に知られていない化合物である」ことをその理由又はその理由の前提に含んでいるから、まずその点について検討する。

(イ)被請求人の主張
被請求人は、請求人の上記「SnPO_(x)(xは2?4を表す)という化合物は、一般に知られていない化合物である」という主張に対して、審判事件答弁書の「7.」の「(3)」において、
「タブ端子の溶接部分に存在するSnの表面にリン酸スズからなる皮膜を形成する場合のように、化学組成が異なる物質からなる皮膜形成を行なった場合、通常は、皮膜の化学構造は、図2に示すような「非結晶状態」で多くの構造欠陥が存在するものと推測される。即ち、タブ端子の溶接部分に存在するSnの表面に形成されたリン酸スズからなる皮膜は、Sn(スズ)やP(リン)に結合しているO(酸素)の数が、単結晶や精製された化合物のような化学量論性の高い状態にあるリン酸スズとは異なった、化学構造を有しているものと考えられる。
上記したように、本件訂正発明1及び10の「SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜」とは、上記したような化学量論的に完全なリン酸スズではなく、タブ端子の溶接部の表面に形成される化学量論的に不完全なリン酸スズからなる皮膜を意味していることは、当業者であれば当然に理解するものである。」
と主張する。
そして、リン酸スズが非結晶状態で存在することについて、平成30年4月10日付け意見書の「5.」の「(3)」において、「甲第7号証においては、「Sn_(2)P_(2)O_(7)(=SnPO_(3.5))」が無定形粉末であることが記載されております。そして、乙第20号証の1及び2(化学大辞典)に記載のとおり、「無定形」という用語は「非晶質」と同義ですので、「SnPOx(xは2?4を表す)」に属する化合物が「非晶質状態」で存在し得ることが明確に示唆されております。」と主張する。
また、リン酸スズの表記に関して、同意見書の「5.」の「(3)」において、「甲第7号証に記載の「Sn_(2)P_(2)O_(7)」という式は、組成式として該無定形(非晶質性)粉末中に存在する元素の種類とその比率を示しているものに過ぎませんので、「Sn_(2)P_(2)O_(7)」と表記するか「SnPO_(3.5)」と表記するかによって、指す化合物が変わることはありません。」と主張するとともに、本件出願前に公開された乙第12号証(特開2004-31217号公報)の【0026】、乙第13号証(特開平8-102331号公報)の【0016】、乙第14号証(特開2005-310800号公報)の【0049】の各記載を例示して、「「SnPO_(3.5)」と小数を交えて表記することは何ら珍しいことではな」いと主張する。さらに、平成29年10月25日付け上申書の「5.」の「(2)」において、乙第10号証(結果報告書「Pイオン注入及び注入品のXPS分析」)及び乙第11号証(結果報告書「Pイオン注入及び注入品のXPS分析2」)を示して、「SnPOx」との表現は一般的に用いられていると主張する。
また、同意見書の「5.」の「(3)」において、甲第7号証について、「ここでは単に「リン酸スズ」として代表的な化合物を列記しているに過ぎず、ここに記載のないものは存在し得ないということを意味する記載ではありません。」と主張するとともに、上記乙第12号証ないしい乙第14号証は、「「SnPOx(xは2?4を表す)」に属する「SnPO_(3.5)」と表記される化合物が、本件出願時前現に存在し知られたことも示して」いると主張する。

(ウ)当審の判断
「SnPO_(x)(xは2?4を表す)」という化合物が、一般に知られていない化合物であるか否かについて検討する。
請求人が提出した甲第7号証(化学大辞典9 縮刷版 第807頁)には「リン酸スズ」についての一般的な解説として、「オルトリン酸スズ(II),ピロリン酸スズ(II),メタリン酸スズ(II),ピロリン酸スズ(IV)などがある。」と記載されており、その後の「[2]ピロリン酸スズ(II)」の欄には「Sn_(2)P_(2)O_(7)=411.35 製法 (中略) 性質 無色の無定形粉末.(以下省略)」と記載されている。
ここで、上記「無定形」の技術的意味は、被請求人が提出した乙第20号証の1(化学大辞典7)の「ひしょうしつ 非晶質 (中略) → 無定形」という記載、及び、乙第20号証の2(化学大辞典9)の「むていけい 無定形 (中略) 原子配列の立場からいうと,結晶格子(原子の周期的配列)がほとんど認められない固体の状態を示す形容語で,結晶質--に対し,無定形--といわれる.この意味では非晶質が全く同じように用いられる.(以下省略)」という記載を参酌すると、「非晶質」と同義であって、結晶格子がほとんど認められない固体の状態を示すものである。
そして、「非晶質」である化合物をその組成比で表現することは普通に行われていることであり、被請求人が提出した乙第12号証(特開2004-31217号公報)の【0026】、乙第13号証(特開平8-102331号公報)の【0016】、乙第14号証(特開2005-310800号公報)の【0049】には、上記ピロリン酸スズ(II)(Sn_(2)P_(2)O_(7))と同じ組成比である化合物に対して、「SnPO_(3.5)」という表記が用いられている。
してみると、甲第7号証に記載のピロリン酸スズ(II)(Sn_(2)P_(2)O_(7))は、非晶質(無定形)であるから、「SnPO_(3.5)」とも表現しうるものであり、そうすると、「SnPO_(x)(xは2?4を表す)」という化合物に含まれるものであるということができる。また、乙第12号証ないし乙第14号証に記載の上記「SnPO_(3.5)」という化合物も、「SnPO_(x)(xは2?4を表す)」という化合物に含まれるものである。
したがって、少なくとも甲第7号証及び乙第12号証ないし乙第14号証の記載からみて、「SnPO_(x)(xは2?4を表す)」という化合物が、一般に知られていない化合物であるということはできない。

なお、請求人は、平成30年8月2日付け審判事件弁駁書の「7.1」の「(2)」の欄において「SnPO_(3.5)とも表記しうるピロリン酸スズ(II)が知られているとしても、「SnPO_(x)(xは2?4を表す)」の全体が一般的に知られているとまでは認められない。」とも主張するが、「SnPO_(3.5)」とも表現しうるピロリン酸スズ(II)は非晶質(無定形)であるから、実際に測定した組成比におけるOの数値がある程度の幅を有することは明らかであることや、被請求人が提出した乙第15号証(特開2002-198025号公報。特に、【0016】を参照。)及び乙第16号証(特開2004-146348号公報。特に、【0016】を参照。)に「スズ化合物」又は「リン酸錫」として「SnPO_(4)」という化合物が記載されていることを勘案すると、請求人の上記主張を採用することはできない。
さらに、請求人は上記「7.1」の上記「(2)」の欄において、甲第7号証には、ピロリン酸スズ(II)(Sn_(2)P_(2)O_(7))が無定形「粉末」であると記載されているから、甲第7号証の記載を参酌しても、粉末ではないタブ端子の溶接部分の「SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜」が「非結晶状態」で形成されることは明らかではない旨を主張する。
しかしながら、ピロリン酸スズ(II)等のリン酸スズをタブ端子の溶接部分に形成した際には、無定形にならないことを示す証拠は示されておらず、粉末として形成した際に「無定形」になるのであれば、タブ端子の溶接部分に形成しても同様に「無定形」になると解するのが自然であるから、請求人の上記主張を採用することはできない。

イ 無効理由1-1(特許法第29条第1項第3号)及び無効理由1-2(特許法第29条第2項)について
(ア)甲第1号証に記載された発明(引用発明2)
請求人が提出した甲第1号証の記載事項は、上記「1」の「1-1」の「(1)」の「ア」で摘示したとおりであり、当該「ア」の「(ア)」ないし「(ケ)」の記載事項及び図面の記載を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

「すずめっきされた銅線10の端部に、アルミニウム線11が溶接されたコンデンサ用リード線1。」

(イ)対比
本件発明10と引用発明2とを対比する。
a 引用発明2の「銅線10」は、本件発明10の「リード線」の「芯材」に相当し、また、引用発明2の前記「銅線10」は「すずめっきされた」ものであるから、その「表面にスズからなる金属層が形成されて」いるといえる。そうすると、引用発明2の「すずめっきされた銅線10」は、本件発明10の「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線」に相当する。
b 引用発明2の「アルミニウム線11」は、本件発明10の「アルミ芯線」に相当する。
c 引用発明2の「コンデンサ用リード線1」は、コンデンサに用いられる「部品」である点で、本件発明10の「タブ端子」と共通する。

そうすると、本件発明10と引用発明2は、
「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、アルミ芯線が溶接されてなるタブ端子。」
である点で一致し、次の各点において相違する。
<相違点1>
本件発明10のアルミ芯線は「圧扁部」を有しているのに対して、引用発明2のアルミニウム線11が圧扁部を有するか不明である点。
<相違点2>
本件発明10の部品は「タブ端子」であるのに対して、引用発明2は「コンデンサ用リード線」である点。
<相違点3>
本件発明10は、「溶接部分の少なくとも一部に、SiO_(2)換算で厚さ20nm以上の、SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成されてなる」のに対して、引用発明2の溶接部分にそのような皮膜が形成されているか不明である点。

(ウ)無効理由1-1(特許法第29条第1項第3号)についての判断
上述のとおり、本件発明10と引用発明2は、上記相違点1ないし3で相違するから、本件発明10は、甲第1号証に記載された発明であるということはできない。

(エ)無効理由1-2(特許法第29条第2項)についての判断
上記各相違点について検討する。
a 相違点1について
上記「1」の「1-1」の「(2)」の「イ」の「(ア)」で説示したように、コンデンサ用リード線に用いられるアルミニウム線に圧扁部を設けることは、本件出願日時点における周知技術にすぎず(請求人が提出した甲第3号証(特開平9-213592号公報)の【0002】、図3等及び甲第4号証(特開平9-139326号公報)の【0002】、図1等を参照のこと。)、これを引用発明2に適用することを妨げるべき事由は見当たらない。
そうすると、引用発明2に上記周知技術を適用して、上記相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
b 相違点2について
上記「1」の「1-1」の「(2)」の「イ」の「(イ)」で説示したように、すずめっきがされた銅線とアルミニウム線が溶接されたコンデンサ用リード線をアルミ電解コンデンサ用のタブ端子とすることは、本件出願日時点における周知技術にすぎず(請求人が提出した甲第2号証(特開平9-45579号公報)の【0013】等、甲第3号証の【0002】等、甲第4号証の【0002】等を参照のこと。)、これを引用発明2に適用することを妨げるべき事由は見当たらない。
そうすると、引用発明2に上記周知技術を適用して、上記相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
c 相違点3について
上記「1」の「1-1」の「(1)」の「イ」で説示したように、甲第1号証には、引用発明2の「すずめっきされた銅線10の端部に、アルミニウム線11が溶接されたコンデンサ用リード線1」を製造する工程に、「すずめっきされた銅線10とアルミニウム線11とが溶接されたコンデンサ用リード線1を、アルミニウム及びその合金用の非エッチング型弱アルカリクリーナ(商品名:ファインクリーナ315)などの洗浄液によって洗浄する工程」が含まれること、及び、前記洗浄する工程において、「温度90°C?99°Cの洗浄液でコンデンサ用リード線1を約12分間洗浄する」ことが記載されている。
一方、本件特許明細書には、「SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜」を、タブ端子をリン系溶剤で洗浄することによって形成することが記載されおり、その洗浄温度及び洗浄時間については「70?100℃」(【0041】、【請求項3】)及び「5?30分間」(【0042】、【請求項4】)が好ましいと記載されている。
そして、上記「1」の「1-1」の「(2)」の「ア」の「(オ)」で説示したように、甲第1号証に記載の上記「ファインクリーナ315」は、縮合リン酸塩を25?30質量%含むものであるから、甲第1号証の上記洗浄液は本件特許明細書に記載の「リン系溶剤」に含まれるものであり、それを用いた洗浄温度及び洗浄時間も、本件特許明細書において好ましいと範囲として規定されている範囲内のものである。
そうすると、引用発明2のコンデンサ用リード線1を製造する際には、本件特許明細書に記載の洗浄液、洗浄温度、及び洗浄時間に含まれる洗浄液、洗浄温度、及び洗浄時間で洗浄されているから、引用発明2の溶接部分の少なくとも一部にも、本件発明10と同様にSnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成されていると解される。
ただし、上記「第3」の「4」の「(1)」の「イ」の「(ウ)」で説示したように、本件特許明細書の記載によれば、「SiO_(2)換算で厚さ20nm以上の、SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜」は、リン系溶剤による洗浄のみでは形成されておらず、リン系溶剤によって洗浄する工程の後に、イオン注入を行うことによって形成されているのに対して、甲第1号証には、イオン注入を行うことについては何ら記載も示唆もない。したがって、引用発明2の溶接部分の少なくとも一部には、「SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜」が形成されているとはいえるが、「SiO_(2)換算で厚さ20nm以上の、SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜」が形成されているとまではいうことができない。
なお、本件訂正によって訂正前の請求項10に対して付加された「SiO_(2)換算で厚さ20nm以上の」という事項は、上記「第3」の「4」の「(2)」の「イ」の「(イ)」で説示したように、本件訂正前の請求項12に記載されていた事項であり、当該請求項12に対しては、無効理由1-1(新規性)及び1-2(進歩性)は主張されていない。また、平成30年8月2日付け審判事件弁駁書の「7.1」の「(2)」の欄をみても「さらに、訂正後の請求項10、13及び14は、新規性欠如及び進歩性欠如に基づく無効理由を有する。」と記載されているだけであって、「SiO_(2)換算で厚さ20nm以上の」という事項に関する新規性欠如及び進歩性欠如の具体的理由は示されていない。そして、請求人が提出した他の証拠方法のいずれにも、SiO_(2)換算で厚さ20nm以上の、SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜を形成すること、あるいは、リン系溶剤によって洗浄する工程の後に、イオン注入を行うことは、記載も示唆もされていない。
したがって、本件発明10は、甲第1号証に記載された引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

ウ 無効理由2(特許法第36条第4項第1号)について
上記「ア」の「(ア)」の「c」で摘示したとおり、請求人は、「SnPOx(xは2?4を表す)は一般に知られていない化合物であるから、実施例に記載の方法で実際にSnPOxからなる皮膜が形成されているとは到底考えられない。」と主張する。
また、請求人は、審判請求書の「(4-5-1)」において、「当業者が本件特許明細書の記載内容及び本件特許出願時の技術常識を考慮しても、当該実施例に記載された特定の「溶剤処理」及び「イオン注入」によってSnPOxからなる皮膜を形成できたとは認められず、またその特定の溶剤又は条件以外に、どのような溶剤を用いて「溶剤処理」を行い、また、どのような条件で「イオン注入」を行えば溶接部に「SnPOxからなる皮膜」が形成されて、本件発明10の作用効果を奏するのかが明らかでないことから、本件発明10は、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものである。」旨を主張する。

しかしながら、上記「ア」の「(ウ)」で説示したとおり、「SnPO_(x)(xは2?4を表す)」という化合物が、一般に知られていない化合物であるということはできない。
また、本件特許明細書の【0049】ないし【0052】には溶剤処理の実施例が、【0053】ないし【0054】にはイオン注入の実施例が、それぞれ具体的に記載されており、さらに、【0040】ないし【0042】、【0048】には、上記実施例以外の条件等についても記載されている。そして、【0037】には「本発明者らがAESスペクトル分析等によって分析したところ、溶接部分の表面にはSnPO_(x)(xは2?4)のリン酸化合物が形成されていることを確認した。」と記載されており、SnPO_(x)の存在やその厚みは、被請求人が平成29年1月13日付け審判事件答弁書の「7.」の「(3)」で主張するとおりAES分析やXPS分析によって確認できるものである。したがって、以上を総合勘案すると、本件発明10は、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものであるということはできない。

なお、請求人は、平成29年10月11日付け上申書の「(7-4)」において、本件特許明細書の【0050】に記載の「商品名:サンウォッシュLH-1、ライオン株式会社製」には、トリポリリン酸ナトリウムが含まれておらず、リンの含有量は0.1ppmであるから、本件特許明細書には、リンがほとんど含有されていない洗浄液を用いて洗浄処理を行った実施例しか記載されておらず、実施可能要件、サポート要件、及び明確性要件を充足していない旨を主張している。
しかしながら、上記【0050】には、「上記のタブ端子を、30重量%のトリポリリン酸ナトリウムを含む溶剤(商品名:サンウォッシュLH-1、ライオン株式会社製)中に85℃で10分間浸漬して洗浄処理を行った。」と記載されており、本件特許明細書の全体の記載も参酌すれば、溶剤の商品名の有無にかかわらず、当該記載から「タブ端子を、30重量%のトリポリリン酸ナトリウムを含む溶剤中に85℃で10分間浸漬して洗浄処理を行った」という技術事項を把握することができるから、「サンウォッシュLH-1」という商品に上記溶剤の商品名にリンがほとんど含有されていないとしても、すなわち、上記溶剤の商品名に誤りがあったとしても、実施可能要件、サポート要件、及び明確性要件を充足していないとまではいうことはできない。

また、請求人は平成29年9月6日付け口頭審理陳述要領書の「(1-4)」において、本件特許明細書の実施例1の追試を行い(甲第25号証及び甲第26号証)、その結果、厚み20nm以上のSnPO_(x)からなる皮膜の形成は認められなかったから、実施可能要件、サポート要件、及び明確性要件を充足していない旨を主張している。
しかしながら、請求人が行った上記追試においては、リン系溶剤による洗浄のみが行われたものであり、その後にイオン注入は行われていない。そして、上記「第3」の「4」の「(1)」の「イ」の「(ウ)」で説示したように、本件特許明細書の記載によれば、「SiO_(2)換算で厚さ20nm以上の、SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜」は、リン系溶剤による洗浄のみでは形成されておらず、リン系溶剤によって洗浄する工程の後に、イオン注入を行うことによって形成されていることを勘案すると、上記追試において厚み20nm以上のSnPO_(x)からなる皮膜の形成が認められなかったということのみでは、実施可能要件、サポート要件、及び明確性要件を充足していないとまではいうことはできない。

エ 無効理由3(特許法第36条第6項第1号)について
本件発明10が解決しようとする課題は、本件特許明細書の【0014】に記載されているように、「鉛フリーのスズメッキが施されたリード線を、そのままタブ端子に使用した場合であっても、溶接部分からのスズウィスカが発生しない」ようにすることであるが、上記「ア」の「(ア)」の「d」で摘示したとおり、請求人は、「SnPOx(xは2?4を表す)は一般に知られていない化合物であることから、実施例に記載の方法で、実際にSnPOxからなる皮膜が形成されているとは到底考えられない」ため、本件発明10は上記課題を解決することができない旨を主張する。
さらに、請求人は、仮に、実施例における「洗浄処理」又は「イオン注入」によって上記課題が解決できたとしても、実施例以外の「洗浄処理」又は「イオン注入」によっても上記課題が解決できることは明らかでないから、本件発明10の範囲にまで拡張又は一般化することはできない旨を主張する。

しかしながら、上記「ア」の「(ウ)」で説示したとおり、「SnPO_(x)(xは2?4を表す)」という化合物が、一般に知られていない化合物であるということはできず、かつ、上記「ウ」で説示したとおり、実施例に記載された特定の「溶剤処理」及び「イオン注入」以外についても、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものでもない。
そして、本件特許明細書の【0048】には、「溶接部分の表面に形成されたSnPO_(x)のリン系化合物皮膜またはSn表面状に形成されたPO_(x)皮膜の厚みを、SiO_(2)換算で20nm以上とすることができ、このような厚みのリン系化合物皮膜が形成されることにより、タブ端子の溶接部分でのウィスカ発生を抑制することができる。」という記載とともに、SnPO_(x)の皮膜の厚みをSiO_(2)換算で厚さ20nm以上とするための、イオン注入量の好ましい範囲は「1.0×10^(5)?1.0×10^(20)cm^(-2)程度」であることが明記されている。さらに、本件特許明細書の実施例の欄には、溶剤処理の後に上記の好ましい範囲内の「1×10^(16)cm^(-2)」でイオン注入を行った実施例2について、ウィスカの数及び長さの測定結果が示されており(【表1】参照。)、「針状のウィスカは全く発生せず」(【0054】)ということ、すなわち、上記課題が解決できていることが確認されている。
そうすると、本件特許明細書の記載により、当業者であれば、「溶接部分の少なくとも一部に、SiO_(2)換算で厚さ20nm以上の、SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成されてなること」によって、上記課題を解決できることを認識できるから、本件発明10は、本件特許明細書の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。したがって、本件発明10は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるということはできない。

オ 無効理由4(特許法第36条第6項第2号)について
上記「ア」の「(ア)」の「c」で摘示したとおり、請求人は、「SnPOxは一般に知られていない化合物であ」り、「SnPOx(xは2?4を表す)からなる皮膜」の具体的形態も理解できないから、本件発明10は明確でない旨を主張する。

しかしながら、上記「ア」の「(ウ)」で説示したとおり、「SnPO_(x)(xは2?4を表す)」という化合物が、一般に知られていない化合物であるということはできず、また、皮膜の化学構造についても、被請求人が主張するように「非結晶状態」であると解されるから、「SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜」という記載が不明確であるということはできない。
したがって、本件発明10は明確でないということはできない。

なお、請求人は、訂正前の請求項12に係る発明について、審判請求書の「(4-7-4)」において、「そもそもSiO_(2)換算で」の厚みの意味するところが全く理解できない。」と主張する。
本件発明10も「SiO_(2)換算で厚さ20nm以上の」という発明特定事項を有するものであるから、上記主張についても検討すると、被請求人が審判事件答弁書の「7.」の「(5)」で述べているとおり、AES分析等の深さ方向分析において、「SiO_(2)換算」で厚みを表すことは周知であるから、請求人の上記主張を採用することはできない。
また、請求人は、平成29年10月11日付け上申書の「(7-3-2)」において、訂正によって請求項10に追加された「SiO_(2)換算で厚さ20nm以上」という事項は数値範囲の上限が示されていないから不明確である旨を主張している。
しかしながら、数値範囲の上限が示されていないということのみから直ちに発明が不明確であるということはできず、上記「エ」で示した本件発明10が解決しようとする課題からみて、上限を特定しなければならない合理的理由も見いだせないから、請求人の上記主張は採用することができない。

カ 本件発明10についてのまとめ
以上のとおり、本件発明10は、甲第1号証に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。
また、本件発明10は、甲第1号証に記載された引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
また、本件発明10は、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものではないから、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件発明10について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。
さらに、本件発明10は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく、明確でないというものでもないから、本件特許の特許請求の範囲の請求項10の記載は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定された要件を満たすものである。

(2)本件発明12について
ア 無効理由2(特許法第36条第4項第1号)、無効理由3(特許法第36条第6項第1号)、無効理由4(特許法第36条第6項第2号)について
(ア)請求人の主張
請求人は、審判請求書において、訂正前の請求項12は訂正前の請求項10を引用するものであるから、訂正前の請求項12に係る発明についても、訂正前の請求項10に係る発明と同様の理由で、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定された要件を満たしていない旨を主張する。さらに、訂正前の請求項12に記載の「SiO_(2)換算で」の厚みの意味するところが全く理解できないから、その点においても、特許法第36条第6項第2号に規定された要件を満たしていない旨を主張する。
また、請求人は、審判請求書において、訂正前の請求項11については、PO_(x)(xは2?4を表す)は一般に知られていない化合物であるから、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定された要件を満たしていない旨を主張する。
そして、請求人は、平成30年8月2日付け審判事件弁駁の「7.1」の「(3)」において、訂正後の請求項12は、訂正前の請求項10及び11における発明特定事項を有していることも考慮すると、本件発明12(訂正後の請求項12に係る発明)についても、審判請求書において訂正前の請求項10ないし12に対して主張したのと同様の理由で、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定された要件を満たしていない旨を主張する。

(イ)当審の判断
a 「SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成され」について
上記「(1)」の「ア」の「(ウ)」で説示したとおり、少なくとも甲第7号証及び乙第12号証ないし乙第14号証の記載からみて、「SnPO_(x)(xは2?4を表す)」という化合物が、一般に知られていない化合物であるということはできない。
そうすると、本件発明10の「SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成され」という発明特定事項について上記「(1)」の「ウ」ないし「オ」で説示したのと同様の理由で、本件発明12の「SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成され」という発明特定事項についても、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものではなく、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく、明確でないというものでもない。

b 「PO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成され」について
請求人が提出した甲第11号証(特開2002-161396号公報)には、
(a)「【請求項3】電子部品用リードフレーム等の板状素材上に形成される錫-銀合金めっき皮膜の製造方法であって、前記錫-銀合金めっき皮膜の表面をリン酸化合物及び/又はカルボン酸化合物を含む溶液により洗浄処理する工程を備えたことを特徴とする錫-銀合金めっき皮膜の製造方法。」
(b)「【0085】(実施例1)三リン酸ナトリウムを含む処理液で処理した後、更にリン酸化合物とカルボン酸化合物を含む溶液で錫-銀合金めっき皮膜8の表面を洗浄処理する工程を加えたこと以外は実施の形態1と同様にして電子部品用リードフレーム1を形成した。
【0086】リン酸化合物としては、リン酸、三リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、亜リン酸、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸水素ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム等が用いられる。本実施例では濃度70g/Lの亜リン酸水素ナトリウムと、濃度30g/Lのピロリン酸ナトリウムと、カルボン酸化合物として、濃度40g/Lのピロリジン-2-カルボン酸とを含む60℃の水溶液に30秒間浸漬して処理した。」
(c)「【0090】更に本実施例においては、形成された錫-銀合金めっき皮膜8に含まれる物質の微量分析を行った。錫-銀合金めっき皮膜8の微量分析は、TOF-SIMS/Physical Electronics社製 TRIFTを使用した飛行時間型二次イオン質量分析法を用いた。なお、一次イオン種Ga+、二次イオン種Positive/Negativeで測定した。分析の結果、この錫-銀合金めっき皮膜8表面には分子量31、63、79に相当するリン化合物P、PO_(2)、PO_(3)が測定された。」
と記載されており(下線は当審で付与した。)、これらの記載を総合すると、錫-銀合金めっき皮膜の表面をリン酸化合物を含む溶液により洗浄処理することにより、前記錫-銀合金めっき皮膜の表面に「PO_(2)、PO_(3)」といったリン化合物が形成される。
そして、上記「PO_(2)、PO_(3)」は、「PO_(x)(xは2?4を表す)」に含まれるから、PO_(x)(xは2?4を表す)は一般に知られていない化合物であるということはできない。そうすると、本件発明12の「PO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成され」という発明特定事項は、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものではなく、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく、明確でないというものでもない。

c 「前記SnPO_(x)皮膜またはスズ表面PO_(x)皮膜の厚みが、SiO_(2)換算で20nm以上である」について
本件発明12の「SiO_(2)換算で20nm以上」という発明特定事項についても、本件発明10の「SiO_(2)換算で20nm以上」という発明特定事項について上記「(1)」の「ウ」ないし「オ」で説示した理由と同様の理由で、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものではなく、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく、明確でないというものでもない。

イ 本件発明12についてのまとめ
以上のとおり、本件発明12は、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものではないから、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件発明10について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。
さらに、本件発明12は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく、明確でないというものでもないから、本件特許の特許請求の範囲の請求項12の記載は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定された要件を満たすものである。

(3)本件発明13について
ア 無効理由1-1(特許法第29条第1項第3号)及び1-2(特許法第29条第2項)について
本件発明13は、本件発明10の発明特定事項を全て含み、当該発明特定事項に対して、さらに「針状のウィスカが実質的に存在しない」という発明特定事項を付加したものであるから、上記「(1)」の「ア」及び「イ」で説示した理由と同様の理由で、本件発明13は、甲第1号証に記載された発明であるということはできず、かつ、甲第1号証に記載された引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。

イ 無効理由2(特許法第36条第4項第1号)、無効理由3(特許法第36条第6項第1号)、無効理由4(特許法第36条第6項第2号)について
(ア)請求人の主張
請求人は、審判請求書において、訂正前の請求項13は訂正前の請求項10を引用するものであるから、訂正前の請求項13に係る発明についても、訂正前の請求項10に係る発明と同様の理由で、特許法第36条第4項第1号及び特許法第36条第6項第1号に規定された要件を満たしていない旨を主張する。
そして、請求人は、平成29年10月11日付け上申書の「(7-3)」及び平成30年8月2日付け審判事件弁駁書の「7.1」の「(2)」において、訂正後の請求項10が訂正前の請求項12における「SiO_(2)換算で20nm以上」という発明特定事項を有していることも考慮すると、当該請求項10を引用する訂正後の請求項13については、審判請求書において訂正前の請求項13に対して主張した無効理由に加えて、訂正前の請求項12についての明確性要件違反(特許法第36条第6項第2号)と同様の無効理由4が新たに生じた旨を主張する。

(イ)当審の判断
本件発明10について上記「(1)」の「ウ」ないし「オ」で説示した理由と同様の理由で、本件発明13は、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものではなく、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく、明確でないというものでもない。

ウ 本件発明13についてのまとめ
以上のとおり、本件発明13は、甲第1号証に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。
また、本件発明13は、甲第1号証に記載された引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
また、本件発明13は、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものではないから、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件発明13について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。
さらに、本件発明13は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく、明確でないというものでもないから、本件特許の特許請求の範囲の請求項13の記載は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定された要件を満たすものである。

(4)本件発明14について
ア 無効理由2(特許法第36条第4項第1号)、無効理由3(特許法第36条第6項第1号)、無効理由4(特許法第36条第6項第2号)について
(ア)請求人の主張
請求人は、審判請求書において、訂正前の請求項14は訂正前の請求項10を間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項14に係る発明についても、訂正前の請求項10に係る発明と同様の理由で、特許法第36条第4項第1号及び特許法第36条第6項第1号に規定された要件を満たしていない旨を主張する。さらに、訂正前の請求項14に記載の「ウィスカの形状が、螺旋状または帯状である」という技術事項は不明確であるから、特許法第36条第6項第2号に規定された要件も満たしていない旨を主張する。
そして、請求人は、平成30年8月2日付け審判事件弁駁書の「7.」において、訂正後の請求項14においても、審判請求書等で述べた上記各無効理由を有する旨を主張する。

なお、請求人は、同審判事件弁駁書において、「本件特許は、訂正後の請求項10、13及び14について、審判請求書、弁駁書、陳述要領書及び上申書において述べたとおり、特許法第29条第1項第3号(新規性欠如)、同条第2項(進歩性欠如)、同法第36条第4項第1号(実施可能要件違反)、同条第6項第1号(サポート要件)及び同項第2号(明確性要件違反)に基づく無効理由を有する。」(第4頁第14行?第18行。なお、下線は当審で付与した(以下同様)。)と主張する。
しかしながら、上記「第2」の「1」の「(1)」の「ア」及び「イ」で示したとおり、審判請求書においては、請求項14に対して無効理由1-1(特許法第29条第1項第3号)及び無効理由2(特許法第29条第2項)は主張されていない。また、平成29年3月6日付け審判事件弁駁書の第20頁の「(5)本件訂正発明3、4、9、13及び14」には、当初、「審判請求書に記載したとおり、本件訂正発明3、4、9、13及び14は、依然として無効理由1乃至4を有する。」と記載されていたが、同年10月11日付け上申書の第3頁?第4頁の「(7-2)弁駁書の誤記の訂正について」において、「正しくは、「審判請求書に記載したとおり、本件訂正発明3、4及び9は、依然として無効理由1を有し、本件訂正発明13は、依然として無効理由1乃至3を有し、本件訂正発明14は、依然として無効理由2乃至4を有する。」である。」と記載されているとおり、平成29年3月6日付け審判事件弁駁書の上記記載は誤記であって、訂正後の請求項14について無効理由1は主張されていない。さらに、平成30年8月2日付け審判事件弁駁書の「7.1」の「(2)」には、「さらに、訂正後の請求項10、13及び14は、新規性欠如及び進歩性欠如に基づく無効理由を有する。」という記載もあるが、訂正後の請求項14に対する新規性欠如及び進歩性欠如の具体的理由は何ら記載されていない。
したがって、訂正後の請求項14が、特許法第29条第1項第3号(新規性欠如)、同条第2項(進歩性欠如)に基づく無効理由を有するという請求人の上記主張は、そもそも審判請求書に記載されたものではなく、その後の手続きを参酌しても、実質的な理由を伴うものではないので、審理の基礎としない。

(イ)当審の判断
本件発明10について上記「(1)」の「ウ」及び「エ」で説示した理由と同様の理由で、本件発明14は、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものではなく、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものでもない。
また、「螺旋」及び「帯」の一般的な意味を勘案すれば、「螺旋状」及び「帯状」という形状がどのような形状であるのかは、明確に観念し得るものであり、また、本件特許明細書には、「螺旋(状)」及び「帯(状)」について一般的な意味とは異なる特別な定義がなされているわけではないから、本件発明14の「ウィスカの形状が、螺旋状または帯状である」という発明特定事項は不明確であるということはできない。したがって、本件発明14は、明確でないというものでもない。

イ 本件発明14についてのまとめ
以上のとおり、本件発明14は、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものではないから、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件発明14について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。
さらに、本件発明14は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく、明確でないというものでもないから、本件特許の特許請求の範囲の請求項14の記載は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定された要件を満たすものである。

(5)請求項11について
訂正によって、請求項11は削除されたから、請求項11についての本件審判請求は却下すべきものである。

(6)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明10及び13は、特許法第29条第1項第3号(無効理由1-1)には該当せず、本件発明10及び13は、特許法第29条第2項(無効理由1-2)の規定により特許を受けることができないものではなく、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件発明10、12ないし14について、特許法第36条第4項第1号(無効理由2)に規定する要件を満たしており、本件特許の特許請求の範囲の請求項10、12ないし14の記載は、特許法第36条第6項第1号(無効理由3)に規定された要件を満たしており、本件特許の特許請求の範囲の請求項10、12ないし14の記載は、特許法第36条第6項第2号(無効理由4)に規定された要件を満たしているから、本件発明10、12ないし14に係る特許を無効とすることはできない。
また、訂正によって、請求項11は削除されたから、請求項11についての本件審判請求は却下すべきものである。

第6 むすび
以上のとおり、平成30年4月10日付けの訂正請求のうち、請求項1ないし9からなる一群の請求項に係る訂正は認めず、請求項10ないし14からなる一群の請求項に係る訂正は認める。

そして、請求人の主張する無効理由1-2によって、本件特許の請求項1、3、4、及び9に係る特許は無効とすべきものであり、また、請求人の主張する無効理由1-2及び無効理由4によって、本件特許の請求項2に係る特許は無効とすべきものである。
一方、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許の訂正後の請求項10、12ないし14に係る特許を無効とすることはできない。
また、上記訂正によって、請求項11は削除されたから、請求項11についての本件審判請求は却下すべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、その10分の5を請求人の負担とし、10分の5を被請求人の負担とする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなるタブ端子を製造する方法であって、
芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、アルミ芯線を溶接し、該アルミ芯線の端部を圧扁してタブ端子を準備する工程、および
前記タブ端子を、リン系溶剤で洗浄して、前記溶接部分の少なくとも一部に、SiO_(2)換算で厚さ20nm以上の、SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜を形成する工程、
を含んでなり、
前記リン系溶剤が、リン酸ナトリウムまたはポリリン酸ナトリウムを含んでなる洗浄剤であることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記洗浄工程を、前記洗浄剤の曇点以上の温度で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記洗浄工程を、70?100℃の温度で行う、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記洗浄工程を、5?30分間行う、請求項1?3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記タブ端子の溶接部分に、イオン注入を行う工程をさらに含んでなる、請求項1?4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記イオン注入のイオン源がリンである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記イオン注入工程を、前記洗浄工程の後に行う、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
イオン注入量が、1.0×10^(5)?1.0×10^(20)cm^(-2)である、請求項5?7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記タブ端子が、アルミ電解コンデンサに使用されるものである、請求項1?8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなるタブ端子であって、
前記溶接部分の少なくとも一部に、SiO_(2)換算で厚さ20nm以上の、SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成されてなることを特徴とする、タブ端子。
【請求項11】
(削除)
【請求項12】
芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなるタブ端子であって、
前記溶接部分の少なくとも一部に、SnPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成され、
スズが存在する部分において、スズ表面にPO_(x)(xは2?4を表す)からなる皮膜が形成され、
前記SnPO_(x)皮膜またはスズ表面PO_(x)皮膜の厚みが、SiO_(2)換算で20nm以上であることを特徴とする、タブ端子。
【請求項13】
針状のウィスカが実質的に存在しない、請求項10または12に記載のタブ端子。
【請求項14】
タブ端子表面に発生したウィスカの形状が、螺旋状または帯状である、請求項13に記載のタブ端子。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2019-02-22 
結審通知日 2019-02-28 
審決日 2019-03-13 
出願番号 特願2006-38212(P2006-38212)
審決分類 P 1 123・ 537- ZDB (H01G)
P 1 123・ 121- ZDB (H01G)
P 1 123・ 536- ZDB (H01G)
P 1 123・ 841- ZDB (H01G)
P 1 123・ 113- ZDB (H01G)
P 1 123・ 851- ZDB (H01G)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 飯島 尚郎  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 井上 信一
國分 直樹
登録日 2011-04-28 
登録番号 特許第4732181号(P4732181)
発明の名称 タブ端子の製造方法およびその方法により得られるタブ端子  
代理人 柏 延之  
代理人 江頭 あがさ  
代理人 柏 延之  
代理人 勝浦 敦嗣  
代理人 赤堀 龍吾  
代理人 砂山 麗  
代理人 野呂 悠登  
代理人 根本 浩  
代理人 中村 行孝  
代理人 斉藤 直彦  
代理人 浅野 真理  
復代理人 遠田 利明  
代理人 砂山 麗  
代理人 中村 行孝  
代理人 永井 浩之  
代理人 高橋 三郎  
代理人 白井 徹  
代理人 浅野 真理  
代理人 高橋 三郎  
代理人 白井 徹  
代理人 永井 浩之  
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