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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C07K |
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管理番号 | 1362786 |
審判番号 | 不服2019-1395 |
総通号数 | 247 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-07-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-02-01 |
確定日 | 2020-05-27 |
事件の表示 | 特願2015-551600「N-末端の電荷が改変されたインスリン分泌ペプチド誘導体」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 7月10日国際公開、WO2014/107035、平成28年 2月12日国内公表、特表2016-504379〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成26年1月3日(パリ条約による優先権主張 2013年1月3日 (KR)大韓民国、2014年1月2日 (KR)大韓民国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は概ね以下のとおりである。 平成29年12月27日付け:拒絶理由通知書 平成30年 4月 5日 :意見書、手続補正書の提出 平成30年 9月27日付け:拒絶査定 平成31年 2月 1日 :拒絶査定不服審判請求書、手続補正書の提出 平成31年 5月17日付け:前置報告書 令和 1年11月 1日 :上申書の提出(前置報告書に対する意見を述べるもの) 第2 平成31年2月1日にされた手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成31年2月1日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 補正の内容 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1と、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1は、それぞれ次のとおりのものである。 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1 「インスリン分泌ペプチドと比較してGLP-1受容体に対し、より大きい解離定数(Kd)を有するインスリン分泌ペプチド誘導体の製造方法であって、前記インスリン分泌ペプチドのN-末端アミノ基またはN-末端アミノ酸残基の正電荷を中性または実効負電荷に改変することを含む方法。」 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1(下線部は補正により追加された部分である。) 「インスリン分泌ペプチドと比較してGLP-1受容体に対し、より大きい解離定数(Kd)を有するインスリン分泌ペプチド誘導体の製造方法であって、前記インスリン分泌ペプチドのN-末端アミノ基またはN-末端アミノ酸残基の正電荷を中性または実効負電荷に改変することを含み、 前記インスリン分泌ペプチドはエキセンディン-4であり、 前記改変は、前記インスリン分泌ペプチドのN-末端アミノ基を除去すること;前記N-末端ヒスチジン残基のα炭素を除去してイミダゾールアセチル残基のみを残すこと;及び、前記N-末端アミノ基を除去し、C-末端のカルボキシル基をプロピルアミド(propylamide)に置換することのうちの一つ以上を含む方法。」(以下、「本件補正発明」という。) 2 補正の適否 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「インスリン分泌ペプチド」及び「改変」を限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正発明が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するかどうか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか)について以下に検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1の「本件補正後の特許請求の範囲の請求項1(下線部は補正により追加された部分である。)」に記載したとおりのものである。 (2)引用例の記載事項 原査定の拒絶の理由において引用文献2として引用された、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特表2010-533709号公報(以下、「引用例」という。)は、「N末端のアミノ酸が変性したインスリン分泌ペプチド誘導体」の発明を開示する公表特許公報であって、次の事項が記載されている。 ア 「【請求項1】 インスリン分泌ペプチドのN末端ヒスチジン残基が、デサミノ-ヒスチジル、N-ジメチル-ヒスチジル、ベータ-ヒドロキシイミダゾプロピオニル、4-イミダゾアセチル及びベータ-カルボキシイミダゾプロピオニルよりなる群から選ばれる物質に置換されたインスリン分泌ペプチド誘導体。 【請求項2】 インスリン分泌ペプチドは、エキセンディン-3、エキセンディン-4及びこれらの誘導体から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載のインスリン分泌ペプチド誘導体。 【請求項3】 インスリン分泌ペプチドは、エキセンディン-4またはその誘導体であることを特徴とする、請求項2に記載のインスリン分泌ペプチド誘導体。 【請求項4】 前記インスリン分泌ペプチド誘導体は下記化学式1のアミノ酸であることを特徴とする、請求項1または2に記載のインスリン分泌ペプチド誘導体。 R1-X-R2<化学式1> ここで、R1は、デサミノ-ヒスチジル、N-ジメチル-ヒスチジル、ベータ-ヒドロキシイミダゾプロピオニル、4-イミダゾアセチル及びベータ-カルボキシイミダゾプロピオニルよりなる群から選ばれ、 R2は、-NH_(2)または-OHであり、 Xは、Gly-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Leu-Ser-Y-Gln-Met-Glu-Glu-Glu-Ala-Val-Arg-Leu-Phe-Ile-Glu-Trp-Leu-Z-Asn-Gly-Gly-Pro-Ser-Ser-Gly-Ala-Pro-Pro-Pro-Ser、・・・よりなる群から選ばれ、 Yは、Lys、Ser及びArgよりなる群から選ばれ、 Zは、Lys、Ser及びArgよりなる群から選ばれる。 【請求項5】 R1はデサミノ-ヒスチジル、YはLysまたはSer、ZはLys、R2は-NH_(2)であることを特徴とする、請求項4に記載のインスリン分泌ペプチド誘導体。 ・・・ 【請求項7】 R1は4-イミダゾアセチル、YはLysまたはSer、ZはLys、R2は-NH_(2)であることを特徴とする、請求項4に記載のインスリン分泌ペプチド誘導体。 ・・・ 【請求項10】 請求項1のインスリン分泌ペプチド誘導体を含む糖尿病治療用薬剤学的組成物。」 イ 「【0013】 本発明のインスリン分泌ペプチド誘導体は、インスリン分泌ペプチドのN末端のヒスチジン(histidine,His)残基の化学的変異誘導体あるいはN末端ヒスチジン残基のアミノグループを化学的に変化させた誘導体である。 【0014】 好ましくは、本発明の前記インスリン分泌ペプチドは、エキセンディン-4(exendin-4)、エキセンディン-3(exendin-3)またはこれらの誘導体である。ここで「エキセンディン-4またはエキセンディン-3の誘導体」は、天然型のエキセンディン-4またはエキセンディン-3の一つ以上のアミノ酸が置換、欠失または組み入れされたものであるか、一つ以上のアミノ酸残基が、例えば、アルキル化、アシル化、エステル化形成またはアミド形成などによって化学的に変形されたペプチドを示し、天然型の活性を持つものを言う。 ・・・ 【0016】 具体的に、本発明のインスリン分泌ペプチド誘導体は、インスリン分泌ペプチドのN末端アミノグループが除去された誘導体(ジメチル-ヒスチジル-誘導体)、アミノグループをヒドロキシルグループに置換した誘導体(ベータ-カルボキシイミダゾプロピル-誘導体)、アミノグループに二つのメチル(methyl)残基で修飾された誘導体(Dimethyl-histidyl-誘導体)、アミノ末端のアミノグループをカルボキシルグループに置換した誘導体(ベータ-ヒドロキシイミダゾプロピオニル-誘導体)またはアミノ末端ヒスチジン残基のアルファカーボンを削除してイミダゾールアセチル(imidazoacetyl)グループのみを残してアミノグループの正電荷(positive charge)を除去した誘導体(Imidazoacetyl-誘導体)などを含むことができ、またその他の形態のN末端アミノグループ変異誘導体が本発明の範疇に属する。 【0017】 好ましくは、本発明は、エキセンディン-4のN末端アミノグループまたはアミノ酸残基を化学的に変性させた誘導体、より好ましくは、エキセンディン-4のアミノ末端の一番アミノ酸であるヒスチジン残基のアルファカーボンに存在するアルファアミノグループまたはアルファカーボンを置換または除去したエキセンディン-4誘導体、さらにより好ましくはN末端アミノグループを除去したデサミノ-ヒスチジル-エキセンディン-4(Desamino-histidyl-exendin-4、DA-エキセンディン-4)、ヒドロキシルグループまたはカルボキシルグループに置換したベータ-ヒドロキシイミダゾプロピオニル-エキセンディン-4(HY-エキセンディン-4)、ベータ-カルボキシイミダゾプロピル-エキセンディン-4(CX-エキセンディン-4)、二つのメチル残基で修飾したジメチル-ヒスチジル-エキセンディン-4(Dimethyl-histidyl-exendin-4、DM-エキセンディン-4)、またはアミノ末端ヒスチジン残基のアルファカーボンを除去したイミダゾアセチル-エキセンディン-4(CA-エキセンディン-4)を提供する。」 ウ 「【0026】 したがって、本発明は化学的に変化されたN末端ヒスチジン残基を有するか化学的に変化されたN末端ヒスチジン残基を有するエキセンディン-4誘導体を提供し、これは、天然のエキセンディン-4に比べて予測することができなかった、優れたインスリン分泌活性を示す。In vitro実験で、本発明によるインスリン分泌ペプチド誘導体はエキセンディン-4に比べて優れた血中安定性及びインスリン分泌活性を示した(図2参照)。実際には、糖尿病モデル動物であるdb/dbマウスに対し、天然型エキセンディン-4に比べて優れた血糖低下の効果を確認した(図3参照)。N末端のヒスチジン残基のアミノグループの変化によるnet chargeの変化またはヒスチジン残基の大きさ変化は血中分解タンパク質に対する感受性の差を誘発するか、あるいは受容体との親和力に影響を及ぼすと予測できるが、より深い分子的研究が必要である。本発明によるインスリン分泌ペプチド誘導体のこのような性質はエキセンディン-4の固有の活性であるインスリン分泌による第2型糖尿病の治療の効果を最大化させると予想され、エキセンディン-4の他の効果である飲食物摂取の減少、胃内容排出の抑制などでも優れた効果を示すと予想される。 【0027】 本発明のデサミノ-ヒスチジル-エキセンディン-4(DA-エキセンディン-4)、ベータ-ヒドロキシイミダゾプロピオニル-エキセンディン-4(HY-エキセンディン-4)、ベータ-カルボキシイミダゾプロピオニル-エキセンディン-4(CX-エキセンディン-4)、ジメチル-ヒスチジル-エキセンディン-4(DM-エキセンディン-4)及びイミダゾアセチル-エキセンディン-4(CA-エキセンディン-4)を含むエキセンディン-4誘導体は、N末端ヒスチジン残基のアルファアミノグループの除去及び置換、またはN末端ヒスチジン残基のアルファカーボンの除去によって作られる。したがって、それ以外のアミノ酸配列はその活性が維持される限り制限されない。また、ペプチドの治療効果を高めるために使用されているPEG、糖鎖などの高分子の修飾のような通常の技術を利用してエキセンディン-4誘導体を変性させる場合、天然型エキセンディン-4より優れた治療学的効果が現れるのは当業者にとって周知の事実である。 【0028】 他の一様態において、本発明は、前記インスリン分泌ペプチド誘導体を含む糖尿病治療用薬剤学的組成物を提供する。」 エ 「【0035】 実施例1.エキセンディン-4誘導体の血漿安定性 エキセンディン-4誘導体の血漿内安定性を測定する方法として、天然型試料とエキセンディン-4誘導体をそれぞれ血漿に曝露させ、変性されずに残っている量を逆相(reversed phase)HPLCで測定して曝露時間による変性程度を比較する試験を行った。 【0036】 本試験では、血漿に曝露された試料の分析のために、血漿混合試料からタンパク質を除去した後に分析した。 【0037】 天然型エキセンディン-4、デサミノ-ヒスチジル-エキセンディン-4(DA-エキセンディン-4)、ベータ-ヒドロキシイミダゾプロピオニル-エキセンディン-4(HY-エキセンディン-4)、ベータ-カルボキシイミダゾプロピオニル-エキセンディン-4(CA-エキセンディン-4)、ジメチル-ヒスチジル-エキセンディン-4(DM-エキセンディン-4)、及びイミダゾアセチル-エキセンディン-4(CA-エキセンディン-4)をそれぞれ1mg/mlの濃度で製造した。エキセンディン-4誘導体試料200μL(リットル)をそれぞれラット血清200μLと混合した。サンプリング時間別に37℃で反応させながら0hr、1hr、2hr、4hr、6hr、8hr、18hr、24hrの時点でそれぞれ100μLずつサンプリングした。サンプリングした試料100μLに400μLのice-cold methanolを入れて反応を中止させ、よく混合されるように20秒間ボルテックス(vortexing)した。この混合物を15,000rpmで30分間遠心分離し、上層液を取って分析試料を準備した。」 (3)引用発明の認定 上記(2)イには、インスリン分泌ペプチドのN末端のヒスチジン残基の化学的変異誘導体あるいはN末端ヒスチジン残基のアミノグループを化学的に変化させた誘導体を提供することが記載され、具体的には、前記インスリン分泌ペプチドはエキセンディン-4であって、エキセンディン-4のN末端アミノグループまたはアミノ酸残基を化学的に変性させたエキセンディン-4誘導体を提供すること、好ましくはエキセンディン-4のN末端アミノグループを除去したデサミノ-ヒスチジル-エキセンディン-4(DA-エキセンディン-4)またはアミノ末端ヒスチジン残基のアルファカーボンを除去したイミダゾアセチル-エキセンディン-4(CA-エキセンディン-4)を提供することが記載されている。 また、上記(2)ウには、DA-エキセンディン-4、CA-エキセンディン-4を含むエキセンディン-4誘導体は、N末端ヒスチジン残基のアルファアミノグループの除去、N末端ヒスチジン残基のアルファカーボンの除去によって作られることが記載されており、DA-エキセンディン-4及びCA-エキセンディン-4の製造方法が記載されているといえる。 そうすると、引用例には、以下の発明が記載されていると認められる。 「エキセンディン-4のN末端アミノグループの除去によるデサミノ-ヒスチジル-エキセンディン-4(DA-エキセンディン-4)の製造方法、またはエキセンディン-4のアミノ末端ヒスチジン残基のアルファカーボンの除去によるイミダゾアセチル-エキセンディン-4(CA-エキセンディン-4)の製造方法。」(以下、「引用発明1」という。) (4)対比 本件補正発明と引用発明1とを対比する。 引用発明1における「デサミノ-ヒスチジル-エキセンディン-4(DA-エキセンディン-4)」及び「イミダゾアセチル-エキセンディン-4(CA-エキセンディン-4)」は、ともに本件補正発明における「インスリン分泌ペプチド誘導体」に相当し、引用発明1における「エキセンディン-4」は、本件補正発明における「インスリン分泌ペプチド」に相当する。 また、引用発明1における「エキセンディン-4のN末端アミノグループの除去による」及び「エキセンディン-4のアミノ末端ヒスチジン残基のアルファカーボンの除去による」は、それぞれ本件補正発明における「前記インスリン分泌ペプチドのN-末端アミノ基を除去すること」及び「前記N-末端ヒスチジン残基のα炭素を除去してイミダゾールアセチル残基のみを残すこと」に相当し、併せて本件補正発明における「前記インスリン分泌ペプチドのN-末端アミノ基またはN-末端アミノ酸残基の正電荷を中性または実効負電荷に改変することを含み」に相当するものである。 そうすると、両者は、 「インスリン分泌ペプチド誘導体の製造方法であって、前記インスリン分泌ペプチドのN-末端アミノ基またはN-末端アミノ酸残基の正電荷を中性または実効負電荷に改変することを含み、 前記インスリン分泌ペプチドはエキセンディン-4であり、 前記改変は、前記インスリン分泌ペプチドのN-末端アミノ基を除去すること;前記N-末端ヒスチジン残基のα炭素を除去してイミダゾールアセチル残基のみを残すことのうちの一つ以上を含む方法。」である点で一致し、次の点で一応相違する。 本件補正発明は、インスリン分泌ペプチド誘導体について、「インスリン分泌ペプチドと比較してGLP-1受容体に対し、より大きい解離定数(Kd)を有する」ことが特定されているのに対し、引用発明1では、その様な特定を有しない点(一応の相違点という。)。 なお、本件補正発明には、改変の態様として、「前記N-末端アミノ基を除去し、C-末端のカルボキシル基をプロピルアミド(propylamide)に置換すること」も挙げられているが、これは改変の態様の選択肢の一つに過ぎず、本件補正発明における必須の発明特定事項ではないから、この点は引用発明1との相違点にはならない。 (5)判断 上記一応の相違点について検討する。 まず、本件補正発明における、インスリン分泌ペプチド誘導体についての「インスリン分泌ペプチドと比較してGLP-1受容体に対し、より大きい解離定数(Kd)を有する」という特定は、インスリン分泌ペプチド誘導体が固有に有している機能、特性を表現したものであると認められ、同じインスリン分泌ペプチド誘導体であれば同じ機能、特性を有しているものといえる。 一方、引用発明1におけるDA-エキセンディン-4またはCA-エキセンディン-4は、エキセンディン-4のN-末端アミノ基を除去すること、また、前記N-末端ヒスチジン残基のα炭素を除去してイミダゾールアセチル残基のみを残すことで得られた化合物であり、それぞれ本件補正発明で特定されているインスリン分泌ペプチド誘導体と同一の化合物である。 そうすると、引用発明1で特定されるDA-エキセンディン-4またはCA-エキセンディン-4は、本件補正発明で特定されるインスリン分泌ペプチド誘導体と同じ機能、特性を有しているものであるから、「インスリン分泌ペプチドと比較してGLP-1受容体に対し、より大きい解離定数(Kd)を有する」ものであるといえる。 よって、上記一応の相違点は相違点ではない。 したがって、本件補正発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (6)審判請求人の主張 平成31年2月1日に提出された審判請求書及び令和1年11月1日に提出された上申書において、審判請求人は、エキセンディン-4のN末端を改変した誘導体であるDA-エキセンディン-4及びCA-エキセンディン-4についてGLP-1受容体に対するKdが増大することは予想外であるから、本件補正発明は引用発明1に対し新規性を有する旨主張する。 しかしながら、上記(5)で述べたとおり、本件補正発明で特定されたインスリン分泌ペプチド誘導体と引用発明1で特定されたDA-エキセンディン-4及びCA-エキセンディン-4とは同一の化合物であるから、本件補正発明で特定されたインスリン分泌ペプチド誘導体のKdの特性が予想外であったか否かに関わらず、当該特性は引用発明1で特定されたDA-エキセンディン-4及びCA-エキセンディン-4も同様に有するものであると認められ、この点において本件補正発明と引用発明1とは相違するものではない。 したがって、上記主張を採用することはできない。 (7)むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 よって、上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成31年2月1日にされた手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?18に係る発明は、は、平成30年4月5日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?18に記載された事項により特定されるものである。そして、その請求項17に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「インスリン分泌ペプチド誘導体を有効成分として含有する糖尿病治療用薬学的組成物であって、前記インスリン分泌ペプチド誘導体は、インスリン分泌ペプチドのN-末端アミノ基またはN-末端アミノ酸残基の正電荷を中性または実効負電荷に化学的に改変したものであり、前記インスリン分泌ペプチド誘導体は、前記インスリン分泌ペプチドと比較してGLP-1受容体に対し、より大きい解離定数(Kd)を有する、薬学的組成物。」 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明は、本願優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特表2010-533709号公報(上記第2の2(2)の「引用例」である。)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、というものである。 3 引用例およびその記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された引用例およびその記載事項は、上記第2の2(2)に記載したとおりである。 4 引用発明の認定 上記第2の2(2)ウ及びエには、化学的に変化されたN末端ヒスチジン残基を有するエキセンディン-4誘導体はエキセンディン-4に比べて優れた血中安定性及びインスリン分泌活性を示すことが記載され、上記第2の2(2)アの請求項1及び10の記載事項を併せると、引用例には、以下の発明が記載されていると認められる。 「エキセンディン-4のN末端ヒスチジン残基が、デサミノ-ヒスチジル、N-ジメチル-ヒスチジル、ベータ-ヒドロキシイミダゾプロピオニル、4-イミダゾアセチル及びベータ-カルボキシイミダゾプロピオニルよりなる群から選ばれる物質に置換されたエキセンディン-4誘導体を有効成分とする糖尿病治療用薬剤学的組成物。」(以下、「引用発明2」という。) 5 対比 本願発明と引用発明2とを対比する。 引用発明2における「エキセンディン-4のN末端ヒスチジン残基が、デサミノ-ヒスチジル、N-ジメチル-ヒスチジル、ベータ-ヒドロキシイミダゾプロピオニル、4-イミダゾアセチル及びベータ-カルボキシイミダゾプロピオニルよりなる群から選ばれる物質に置換されたエキセンディン-4」は、本願発明における「前記インスリン分泌ペプチド誘導体は、インスリン分泌ペプチドのN-末端アミノ基またはN-末端アミノ酸残基の正電荷を中性または実効負電荷に化学的に改変したもの」に相当する。また、引用発明2における「糖尿病治療用薬剤学的組成物」は、本願発明における「薬学的組成物」に相当する。 そうすると、両者は、 「インスリン分泌ペプチド誘導体を有効成分として含有する糖尿病治療用薬学的組成物であって、前記インスリン分泌ペプチド誘導体は、インスリン分泌ペプチドのN-末端アミノ基またはN-末端アミノ酸残基の正電荷を中性または実効負電荷に化学的に改変したものである、薬学的組成物。」である点で一致し、次の点で一応相違する。 本願発明は、インスリン分泌ペプチド誘導体について、「インスリン分泌ペプチドと比較してGLP-1受容体に対し、より大きい解離定数(Kd)を有する」ことが特定されているのに対し、引用発明2では、その様な特定を有しない点、(一応の相違点という。)。 6 判断 上記一応の相違点について検討する。 上記第2の2(5)で検討したとおり、本願発明における、インスリン分泌ペプチド誘導体についての「インスリン分泌ペプチドと比較してGLP-1受容体に対し、より大きい解離定数(Kd)を有する」という特定は、当該インスリン分泌ペプチド誘導体が固有に有している機能、特性を表現したものであると認められ、同様のインスリン分泌ペプチド誘導体であれば同様の機能、特性を有するものといえる。 そして、引用発明2で特定されているエキセンディン-4誘導体は、エキセンディン-4のN末端ヒスチジン残基が、デサミノ-ヒスチジル、N-ジメチル-ヒスチジル、ベータ-ヒドロキシイミダゾプロピオニル、4-イミダゾアセチル及びベータ-カルボキシイミダゾプロピオニルよりなる群から選ばれる物質に置換された誘導体であり、本願発明のインスリン分泌ペプチド誘導体と同一の化合物である。 そうすると、引用発明2で特定されるエキセンディン-4誘導体は、本願発明で特定されるインスリン分泌ペプチド誘導体と同様の機能、特性を有するものであるから、「インスリン分泌ペプチドと比較してGLP-1受容体に対し、より大きい解離定数(Kd)を有する」ものであるといえる。 よって、上記一応の相違点は相違点ではない。 したがって、本願発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2019-12-20 |
結審通知日 | 2019-12-24 |
審決日 | 2020-01-10 |
出願番号 | 特願2015-551600(P2015-551600) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(C07K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 上村 直子 |
特許庁審判長 |
中島 庸子 |
特許庁審判官 |
小暮 道明 常見 優 |
発明の名称 | N-末端の電荷が改変されたインスリン分泌ペプチド誘導体 |
代理人 | 本田 淳 |
代理人 | 恩田 誠 |
代理人 | 恩田 博宣 |