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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1362787
審判番号 不服2019-7848  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-06-12 
確定日 2020-05-27 
事件の表示 特願2017-558968「D2Dチャネルの測定」拒絶査定不服審判事件〔平成28年11月17日国際公開,WO2016/182653,平成30年 6月14日国内公表,特表2018-515994〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2016年(平成28年)4月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2015年5月14日 米国,2016年4月7日 米国)を国際出願日とする出願であって,平成30年10月4日に手続補正書が提出され,同年10月15日付けで拒絶理由が通知され,平成31年1月22日に意見書及び手続補正書が提出され,同年2月4日付けで拒絶査定がされ,これに対し,令和1年6月12日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。



第2 本願発明
本願の請求項1?29に係る発明は,平成31年1月22日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?29に記載された事項により特定されるものであるところ,請求項1,2及び9には以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
基地局のネットワークカバレージの外側にあるユーザ機器(UE)によるワイヤレス通信の方法であって,
前記基地局のネットワークカバレージ内にある1つまたは複数の近接UEからそれぞれ1つまたは複数のデバイスツーデバイス(D2D)信号を受信することと,
前記1つまたは複数のD2D信号の1つまたは複数のデータ部を受信するために使用される1つまたは複数のリソース要素の信号強度に基づいて,前記1つまたは複数のD2D信号の信号強度を測定することと,
前記測定された1つまたは複数のD2D信号の前記信号強度に基づいて,中継UEとして前記1つまたは複数の近接UEのうちの1つを選択することと,
前記選択された中継UEを介して前記基地局と通信するために,D2D通信を介して,前記選択された中継UEと通信することと
を備える,方法。」,
「【請求項2】
前記1つまたは複数のD2D信号の1つまたは複数の基準信号を受信するために使用される1つまたは複数のリソース要素の信号強度にさらに基づいて前記1つまたは複数のD2D信号の信号強度を測定することをさらに備える,
請求項1に記載の方法。」,
「【請求項9】
前記1つまたは複数のD2D信号の前記1つまたは複数のデータ部を受信するために使用される前記1つまたは複数のリソース要素の前記信号強度は,前記1つまたは複数のD2D信号の前記1つまたは複数のデータ部を受信するために使用される前記1つまたは複数のリソース要素の基準信号受信電力(RSRP)または基準信号受信品質(RSRQ)のうちの少なくとも1つに基づく,
請求項1に記載の方法。」



第3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は,
「2.(明確性)この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
3.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」
というものであり,
明確性については,具体的には,請求項9,18,27記載の「データ部を受信するために使用される前記1つまたは複数のリソース要素の基準信号受信電力(RSRP)または基準信号受信品質(RSRQ)」とは,(a)「データ部分」の「受信電力」または「受信品質」であるのか,(b)「基準信号部分」の「受信電力」または「受信品質」であるのか,が分からないから,不明確であるというものであり,
進歩性については,請求項1-29に係る発明に対して,LG Electronics,Discussion on synchronization and discovery enhancements for UE-to-network relay,3GPP TSG-RAN WG1#80bis,3GPP,2015年4月11日(掲載日),R1-151508,インターネット<URL:https://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG1_RL1/TSGR1_80b/Docs/R1-151508.zip>が引用されている。



第4 当審の判断
1 明確性について
請求項1の「前記1つまたは複数のD2D信号の1つまたは複数のデータ部を受信するために使用される1つまたは複数のリソース要素の信号強度」との記載,請求項2の「前記1つまたは複数のD2D信号の1つまたは複数の基準信号を受信するために使用される1つまたは複数のリソース要素の信号強度」との記載によれば,データ部を受信するために使用されるリソース要素と,基準信号を受信するために使用されるリソース要素とは,明確に区別されているから,データ部と基準信号とは包含関係にないものである。そして,LTEにおいて1つのリソース要素(RE:Resource Element)にはデータ情報,基準信号,制御情報等のいずれか1つのみしかマッピングできないことは当業者における技術常識である。
そして,LTEにおいて,基準信号受信電力(RSRP),基準信号受信品質(RSRQ)は,3GPPの技術標準であるTS36.214 V12.2.0(2015-03)において以下のように定義されている。
「5.1.1 Reference Signal Received Power (RSRP)
Definition
Reference signal received power (RSRP), is defined as the linear average over the power contributions (in [W]) of the resource elements that carry cell-specific reference signals within the considered measurement frequency bandwidth.
For RSRP determination the cell-specific reference signals R0 according to TS 36.211 [3] shall be used. If the UE can reliably detect that R1 is available it may use R1 in addition to R0 to determine RSRP.
(中略)
5.1.3 Reference Signal Received Quality (RSRQ)
Definition
Reference Signal Received Quality (RSRQ) is defined as the ratio N×RSRP/(E-UTRA carrier RSSI), where N is the number of RB’s of the E-UTRA carrier RSSI measurement bandwidth. The measurements in the numerator and denominator shall be made over the same set of resource blocks.」(8?9ページ)
([当審仮訳]:
5.1.1 基準信号受信電力(RSRP)
定義
基準信号受信電力(RSRP)は,考慮される測定周波数帯域幅内でセル固有基準信号を搬送するリソース要素の電力寄与([W])の線形平均として定義される。
RSRPの決定には,TS 36.211 [3]に準拠したセル固有基準信号R0を使用する必要がある。UEがR1が利用可能であることを確実に検出できる場合,R0に加えてR1を使用してRSRPを決定できる。
(中略)
5.1.3 基準信号受信品質(RSRQ)
定義
基準信号受信品質(RSRQ)は,N×RSRP/(E-UTRAキャリアRSSI)の比率として定義される。Nは,E-UTRAキャリアRSSI測定帯域幅のRBの数である。分子と分母の測定は,同じリソースブロックのセットで行われる。)

すなわち,基準信号受信電力(RSRP)は,データ情報ではなく基準信号であるセル固有基準信号(CRS)を受信するために使用されるリソース要素の信号強度であって,単なる受信信号強度を表すRSSI(Received Signal Strength Indicator)とは別個のものであることが技術常識である。また,基準信号受信品質(RSRQ)は,セル固有基準信号(CRS)を受信するために使用されるリソース要素の信号強度に関連する比率である。
してみると,請求項9の「前記1つまたは複数のD2D信号の前記1つまたは複数のデータ部を受信するために使用される前記1つまたは複数のリソース要素の基準信号受信電力(RSRP)または基準信号受信品質(RSRQ)のうちの少なくとも1つに基づく」との記載は,技術常識に反するものであり,「1つまたは複数のリソース要素」には,データ部(データ情報)がマッピングされているのか,基準信号がマッピングされているのか不明確であり,データ部の信号強度に基づいて近接UEを選択するのか,基準信号の信号強度に基づいて近接UEを選択するのか,不明確であると言わざるを得ない。

ここで,発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
「【0042】
[0050]本開示の第1の手法によれば,UEは,近接UEからのD2D発見信号の信号強度に基づいて,近接UEとのD2Dリンクの品質を測定し得る。近接UEはD2D発見信号を定期的に告知し得る。UEは,D2D発見信号を検出し,受信し得,D2D発見信号に基づいて,近接UEが,D2D接続を確立するために利用可能であると決定し得る。近接UEは,物理サイドリンク発見チャネル(PSDCH:physical sidelink discovery channel)上でD2D発見信号を送信し得る。LTEでは,UEは,基地局から受信された1つまたは複数の基準信号に基づいて,基地局からの信号の信号強度を測定し得る。一態様では,いくつかの事例では,D2D発見において,UEは,D2D発見のための同等の基準信号を送信し得る。より詳細には,D2D発見において,そのような事例では,異なる近接UEからの基準信号が互いに同等であり得るので,UEは,ある近接UEからの基準信号と別の近接UEからの基準信号とを区別することが可能でないことがある。そのような事例では,UEは,UEが基準信号の信号強度を測定する場合でも,基準信号がどの近接UEからのものであるかを決定することが可能でないことがあるので,UEは,どの近接UEが基準信号の信号強度に対応するかを決定することができない。したがって,そのような事例では,UEは,D2D発見信号中の基準信号部分(reference signal portion)でない部分に基づいて,近接UEからのD2D発見信号の信号強度を測定し得る。
【0043】
[0051]したがって,本開示の第1の手法によれば,UEは,D2D発見信号中の基準信号部分および/またはD2D発見信号中の基準信号部分でない部分に基づいて,(たとえば,近接UEとのD2Dリンクの品質を決定するために)近接UEからのD2D発見信号の信号強度を測定し得る。一態様では,UEは,近接UEからのD2D発見信号の基準信号部分および/またはデータ部分(data portion)に基づいて,D2D発見信号の信号強度を測定することによって,近接UEとのD2Dリンクの品質を決定し得る。特に,近接UEからのD2D発見信号の信号強度を測定するために,UEは,D2D発見信号の,基準信号部分の通信のために使用されるリソース要素および/またはデータ部分の通信のために使用されるリソース要素上の信号強度を測定するように構成され得る。いくつかの事例では,D2D発見信号のデータ部分に基づいて信号強度が測定された場合,近接UEから送られたデータが近接UEに固有であるので,UEは,ある近接UEから送られたデータ部分と別の近接UEから送られたデータ部分とを区別することができる。一態様では,UEは,D2D発見信号のデータ部分の通信のために使用されるリソース要素を介して基準信号受信電力(RSRP:reference signal received power)および/または基準信号受信品質(RSRQ:reference signal received quality)を測定することによって,D2D発見信号のデータ部分の通信のために使用されるリソース要素上の信号強度を測定し得る。一態様では,UEは,D2D発見信号の基準信号部分の通信のために使用されるリソース要素を介してRSRPおよび/またはRSRQを測定することによって,D2D発見信号の基準信号部分の通信のために使用されるリソース要素上の信号強度を測定し得る。」,
「【0046】
[0054]本開示の第2の手法によれば,UEは,近接UEからのD2D通信に基づいて,近接UEとのD2Dリンクの品質を測定し得る。D2D通信信号中に,D2D通信のための制御部およびトラフィック部がある。UEは,物理サイドリンク制御チャネル(PSCCH:physical sidelink control channel)上で制御部を受信し得,物理サイドリンク共有チャネル(PSSCH:physical sidelink shared channel)上でトラフィック部を受信し得る。制御部と比較して,トラフィック部は,時間および周波数上でより拡散されたより多くのリソースを介して送信される。たとえば,制御部は,概して,単一のリソースブロック上で送信され,トラフィック部は,概して,2つ以上のリソースブロック上で送信される。さらに,制御部は,トラフィック部よりもより低い頻度で送信される。したがって,トラフィック部は,D2Dリンクの品質を測定するために,トラフィック部が与えるよりもより多くの情報を与え,したがって,D2Dリンクの品質のより正確な測定を与え得る。この理由で,第2の手法によるUEは,D2D通信信号のトラフィック部に基づいてD2Dリンクの品質を測定する。
【0047】
[0055]D2D通信信号のトラフィック部は,基準信号部分とデータ部分とを含む。第2の手法の一態様では,UEは,データ部分の信号強度および/または基準信号部分の信号強度を測定し得る。UEは,D2Dリンクの品質を決定するために,基準信号部分の信号強度および/またはデータ部分の信号強度に基づいて,D2D通信信号の信号強度を決定し得る。D2D通信では,1つまたは複数の状態に応じて,ある近接UEからの基準信号が,別の近接UEからの別の基準信号とは区別可能であり得る。たとえば,異なる近接UEが,基準信号の送信のために使用される異なるシーケンス(たとえば,Zadoff-Chuシーケンス)を送信する場合,UEは,異なるシーケンスを区別することによって,異なる近接UEからの基準信号を区別することが可能であり得る。しかしながら,概して,異なるシーケンスの数が制限される。したがって,近接UEの数が,異なるシーケンスの数よりも大きい場合,必ずしもすべての基準信号がシーケンスに基づいて区別可能であるとは限らない。たとえば,5つの異なるZadoff-Chuシーケンスがあり,20個の異なる近接UEからの20個の基準信号がある場合,UEは,5つの異なるZadoff-Chuシーケンスに基づいて,すべての20個の異なる近接UEを完全に区別することが可能であるとは限らない。
【0048】
[0056]見方を変えれば,UEは,近接UEの数にかかわらず,異なる近接UEからのデータ部分を区別し得る。近接UEから送られたデータが近接UEに固有であるので,UEは,近接UEの数にかかわらず,ある近接UEから送られたデータ部分と別の近接UEから送られたデータ部分とを区別することができる。したがって,第2の手法の態様では,D2D通信信号の信号強度の測定が,データ部分の通信のために使用されるリソース要素の信号強度に少なくとも部分的に基づくことが好ましいことがある。別の態様では,D2D通信信号の信号強度の測定は,データ部分のために使用されるリソース要素の信号強度ならびに基準信号部分のために使用されるリソース要素の信号強度に基づき得る。一態様では,UEは,D2D通信信号のデータ部分の通信のために使用されるリソース要素を介してRSRPおよび/またはRSRQを測定することによって,データ部分の通信のために使用されるリソース要素の信号強度を測定し得る。一態様では,UEは,D2D通信信号の基準信号部分の通信のために使用されるリソース要素を介してRSRPおよび/またはRSRQを測定することによって,基準信号部分の通信のために使用されるリソース要素の信号強度を測定し得る。」

上記【0047】の記載から,基準信号部分とデータ部分とは明確に区別され,包含関係にないことが明らかである。上記【0043】の記載からも,D2D発見信号中の基準信号部分とD2D発見信号中の基準信号部分でない部分(すなわち,D2D発見信号のデータ部分)とは明確に区別され,包含関係にないことが明らかである。そして,データ部分の通信のために使用されるリソース要素と,基準信号部分の通信のために使用されるリソース要素も明確に区別されている。そして,上述のとおり基準信号受信電力(RSRP)は,データ部分ではなく基準信号部分に該当するセル固有基準信号(CRS)を受信するために使用されるリソース要素の信号強度であって,単なる受信信号強度を表すRSSI(Received Signal Strength Indicator)とは別個のものであることが技術常識であるから,上記【0043】,【0048】の「データ部分の通信のために使用されるリソース要素を介してRSRPおよび/またはRSRQを測定する」との記載は,技術常識に反するものであり意味不明である。
このため,明細書の記載を考慮して特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈しても,依然として請求項9に係る発明が不明確である。

したがって,請求項9に係る発明は不明確である。請求項18,27に係る発明についても同様である。

(請求人の主張について)
請求人は,審判請求書において,「なお,RSRPおよびRSRQは,一般的な技術用語であると思料いたします。そのため,このRSRPまたはRSRQのRS(基準信号)がD2D信号のトラフィック部の基準信号部分と対応付けられないのは明白であると思料いたします。」と主張している。
しかしながら,RSRPおよびRSRQが一般的な技術用語であることが,どうしてRSRPまたはRSRQのRS(基準信号)がD2D信号のトラフィック部の基準信号部分と対応付けられないこととなるのか,その因果関係が明らかにされておらず,また,当該主張は3GPPの技術標準に基づく上記技術常識に反するものであるから,採用できない。


2 進歩性について
(1)本願発明
上記1のとおり,請求項9に係る発明は不明確であるが,解釈上,以下の仮定が考えられる。
(i)「基準信号受信電力(RSRP)」は,データ部分の受信信号強度(RSSI)の誤記。
(ii)「データ部分」は,データ情報及び基準信号を含む部分,すなわちトラフィック部(PSSCH)の誤記であり,基準信号受信電力(RSRP)/基準信号受信品質(RSRQ)はトラフィック部の基準信号の受信電力/受信品質を意味する。

このうち,(i)の仮定は,「ratio N×RSRP/(E-UTRA carrier RSSI)」と定義される「基準信号受信品質(RSRQ)」については,RSRPをRSSIに読み替えると分子分母ともRSSIとなり定義式が意味不明なものとなる。また,発明の詳細な説明(特に,【0043】,【0048】。)をみてもデータ部分からどのように近隣UEを識別するのか開示されておらず,どのUEがどのようなデータを送信するのかは予め知り得ないはずであるから,(i)の仮定は不自然である。
このため,(ii)の仮定に基づき,請求項9に係る発明を以下のとおりのものとして,進歩性について判断する。
「 基地局のネットワークカバレージの外側にあるユーザ機器(UE)によるワイヤレス通信の方法であって,
前記基地局のネットワークカバレージ内にある1つまたは複数の近接UEからそれぞれ1つまたは複数のデバイスツーデバイス(D2D)信号を受信することと,
前記1つまたは複数のD2D信号の1つまたは複数のトラフィック部(PSSCH)を受信するために使用される1つまたは複数のリソース要素の信号強度に基づいて,前記1つまたは複数のD2D信号の信号強度を測定することと,
前記測定された1つまたは複数のD2D信号の前記信号強度に基づいて,中継UEとして前記1つまたは複数の近接UEのうちの1つを選択することと,
前記選択された中継UEを介して前記基地局と通信するために,D2D通信を介して,前記選択された中継UEと通信することと
を備え,
前記1つまたは複数のD2D信号の前記1つまたは複数のトラフィック部(PSSCH)を受信するために使用される前記1つまたは複数のリソース要素の前記信号強度は,前記1つまたは複数のD2D信号の前記1つまたは複数のトラフィック部(PSSCH)を受信するために使用される前記1つまたは複数のリソース要素の基準信号受信電力(RSRP)または基準信号受信品質(RSRQ)のうちの少なくとも1つに基づく,方法。」(以下,「本願発明」という。)(下線は(ii)の仮定に基づき読み替えた点を示す。)

(2)引用発明
原査定の拒絶の理由に引用されたLG Electronics,Discussion on synchronization and discovery enhancements for UE-to-network relay([当審仮訳]:UEからネットワークへのリレーのための同期及びディスカバリー強化についての議論),3GPP TSG-RAN WG1#80bis,3GPP,2015年4月11日(掲載日),R1-151508,インターネット<URL:https://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG1_RL1/TSGR1_80b/Docs/R1-151508.zip>(以下,「引用例」という。)には,図面と共に以下の事項が記載されている。

「1. Introduction
One objective of Rel-13 eD2D WI is to support UE-to-Network Relays [1]:
Define enhancements to D2D communication to enable the following features:
a)Support the extension of network coverage using L3-based UE-to-Network Relays, including service continuity (if needed), based on Release 12 D2D communication, considering applicability to voice, video. [RAN2, RAN1, RAN3]. (RAN3 involvement pending on progress in the other groups)
In this contribution, we discuss enhancements on synchronization and discovery to achieve the objective of UE-to-Network relay operation.

2. Relay path establishment and maintenance
When a relay path is established, synchronization procedure for relay UE-to-remote UE has to be started. If a remote UE selects the SLSS having the highest S-RSRP among in-coverage SLSS as transmit timing reference according to the existing procedure, there is no way for the remote UE to transmit D2D signal to relay UE if there is no relay UE in the cell transmitting the selected SLSS. Therefore, to support UE-to-Network relay operation, it is desirable to prioritize relay UE’s synchronization signal as transmit synchronization reference.

Observation 1: It is desirable to prioritize relay UE’s synchronization signal as transmit synchronization reference.

How to prioritize relay UE’s synchronization signal
In Rel. 12 D2D, S-RSRP is the only criterion for synchronization source selection for the same priority level. Aforementioned earlier, further specification work is needed for the prioritization of relay UE’s synchronization signal. Here we present possible alternatives which reuse the existing SLSS/PSBCH structures.

Alt. 1) Indicate relay UE’s synchronization signal by using PSBCH reserved bit:
(中略)


Alt. 2) Introduce new measurement such as relay UE’s discovery signal or communication signal: In rel. 13 work scope, partial coverage discovery needs to be discussed. To prioritize relay UE’s synchronization source, discovery results and/or discovery measurement can be used to synchronization procedure. For example, if a remote UE discovers a relay UE, the remote UE can prioritize SLSS which is associated with discovery signal from the relay UE. In this method, a remote UE can select SLSS based on S-RSRP measurement firstly, but if the remote UE find that there is no relay UE in the selected SLSS or the link quality from the discovered relay UE is poor, the remote UE can de-prioritize the selected SLSS then reselect its transmit synchronization reference. If multiple relay UEs are discovered for different resource pools or in a single resource pools, UE can selects one based on received signal quality of discovery signal, for instance, a measurement for discovery DMRS of relay UE can be defined and the remote UE can select the largest DMRS measurement of relay UE among multiple discovered relay UE’s discovery signal. Similar to discovery measurement, a measurement for communication signal of relay UE can be also defined.

Proposal 1: To prioritize relay UE’s synchronization source, the following alternatives can be further discussed,

Alt. 1) Indicate relay UE’s synchronization signal by using PSBCH reserved bit
Alt. 2) Introduce a new measurement for synchronization source selection such as DMRS of relay UE’s discovery signal or communication signal 」(1?2ページ)
([当審仮訳]:
1.はじめに
Rel.13のeD2D WIの1つの目的はUEからネットワークへのリレーをサポートすることである[1] 。
以下の特徴を可能とするD2D通信の拡張を定義する。
a)(必要であれば)音声,ビデオの適用性を考慮したリリース12のD2D通信に基づくサービスの継続性を含む,L3ベースのUEからネットワークへのリレーを用いたネットワークカバレッジの拡張のサポート。[RAN1,RAN2,RAN3]。(RAN3を含めるかどうかは他のグループの進捗により未定。)
本寄稿では,UEからネットワークへのリレー操作の目的を達成するため同期及び発見についての拡張を検討する。

2.リレーパスの確立とメンテナンス
リレーパスが確立されると,リレーUEからリモートUEへの同期手順を開始する必要がある。既存の手順に従ってリモートUEがカバレッジ内のSLSSの中で最も高いS-RSRPを持つSLSSを送信タイミング基準として選択する場合,選択したSLSSを送信するリレーUEがセルに存在しないと,リモートUEがリレーUEにD2D信号を送信する方法はない。したがって,UEからネットワークへのリレー操作をサポートするには,リレーUEの同期信号を送信同期基準として優先させることが望ましい。

所見1:リレーUEの同期信号を送信同期基準として優先させることが望ましい。

リレーUEの同期信号に優先付けする方法
Rel.12のD2Dでは,S-RSRPが同じ優先度レベルの同期ソース選択の唯一の基準である。前述のように,リレーUEの同期信号の優先付けには更なる仕様作業が必要である。ここでは,既存のSLSS/PSBCH構造を再利用する可能な代替案を示す。

代替案1)PSBCHの予備ビットを使用してリレーUEの同期信号を示す:
(中略)
(図1は省略。)

代替案2)リレーUEの発見信号又はコミュニケーション信号のような新しい測定の導入:
Rel.13の作業範囲では,部分的カバレージ発見が議論される必要がる。リレーUEの同期ソースに優先付けするために,発見結果及び/又は発見測定が同期手順に使用されることができる。例えば,リモートUEがリレーUEを発見した場合,リモートUEは,リレーUEからの発見信号に関連付けられたSLSSを優先付けすることができる。この方法では,リモートUEはまずS-RSRP測定に基づいてSLSSを選択できるが,リモートUEが,選択したSLSSにリレーUEがないこと,又は発見されたリレーUEからのリンク品質が低いことを見つけた場合,リモートUEは選択したSLSSの優先付けを解除して送信同期基準を再選択する。複数のリレーUEが異なるリソースプール又は単一のリソースプールについて発見された場合,UEは発見信号の受信信号品質に基づいて1つを選択できる。例えば,リレーUEの発見DMRSの測定が定義され得,リモートUEは,発見された複数のリレーUEの発見信号の中でDMRS測定が最大のリレーUEを選択できる。発見測定と同様に,リレーUEのコミュニケーション信号の測定も定義され得る。

提案1:リレーUEの同期ソースに優先付けするために,次の代替案をさらに検討できる。

代替案1)PSBCHの予備ビットを使用してリレーUEの同期信号を示す。
代替案2)リレーUEの発見信号又はコミュニケーション信号のDMRSのような同期ソース選択のための新しい測定を導入する。 )

上記記載及び当業者が技術常識を考慮すると以下のことがいえる。
ア 「1.」の記載によれば,引用例には,D2D通信に係るUEからネットワークへのリレーについて記載されているといえる。そして,図1によれば,リモートUEはeNBのカバレージの外側にあること,リレーUEはeNBのカバレージ内にあることが見てとれる。
そして,「2.」の「リモートUEがカバレージ内SLSSの中で最も高いS-RSRPを持つSLSSを送信タイミング基準として選択する」との記載,「代替案2)」の「代替案2)リレーUEの発見信号又はコミュニケーション信号のような新しい測定の導入」及び「リレーUEの同期ソースに優先付けするために,発見結果及び/又は発見測定が同期手順に使用されることができる。」との記載によれば,リモートUEは,複数のUEからのSLSS,発見信号,コミュニケーション信号を測定しており,これらの信号がD2D信号に含まれることは当業者における技術常識であるから,引用例には「eNBのカバレージ内にあるUEからそれぞれD2D信号を受信する」ことが記載されていることが明らかである。

イ 「2.」の「既存の手順に従ってリモートUEがカバレッジ内SLSSの中で最も高いS-RSRPを持つSLSSを送信タイミング基準として選択する場合,選択したSLSSを送信するセルにリレーUEが存在しないと,リモートUEがリレーUEにD2D信号を送信する方法はない。」,「所見1」の「リレーUEの同期信号を送信同期基準として優先させることが望ましい。」,「代替案2)」の「この方法では,リモートUEはまずS-RSRP測定に基づいてSLSSを選択できるが,リモートUEが,選択したSLSSにリレーUEがないこと,又は発見されたリレーUEからのリンク品質が低いことを見つけた場合,リモートUEは選択したSLSSの優先付けを解除して送信同期基準を再選択する。(中略)例えば,リレーUEの発見DMRSの測定が定義され得,リモートUEは,発見された複数のリレーUEの発見信号の中でDMRS測定が最大のリレーUEを選択できる。発見測定と同様に,リレーUEのコミュニケーション信号の測定も定義され得る。」及び「代替案2)リレーUEの発見信号又はコミュニケーション信号のDMRSのような同期ソース選択のための新しい測定を導入する。」との記載によれば,引用例には,リモートUEが,「カバレッジ内のSLSSの中で最も高いS-RSRPを持つSLSSを送信タイミング基準として選択し,選択したSLSSにリレーUEがないこと,又は発見されたリレーUEからのリンク品質が低いことを見つけた場合,選択したSLSSの優先付けを解除すること」,「複数のリレーUEのD2D信号のコミュニケーション信号のDMRSの測定をすること」,「測定されたDMRSに基づいて選択されたリレーUEの同期信号を送信同期基準として再選択する」ことが記載されているといえる。

ウ 「2.」に「リレーパスが確立されると,リレーUEからリモートUEへの同期手順を開始する必要がある。」との記載があり,同期はリモートUEがワイヤレス通信を行う上で必要なものであるから,上記の各動作は「eNBのカバレージの外側にあるリモートUEによるワイヤレス通信の方法」ということできる。

上記ア?ウを総合すると,引用例には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「 eNBのカバレージの外側にあるリモートUEによるワイヤレス通信の方法であって,
前記eNBのカバレージ内にあるUEからそれぞれD2D信号を受信することと,
カバレッジ内のSLSSの中で最も高いS-RSRPを持つSLSSを送信タイミング基準として選択し,選択したSLSSにリレーUEがないこと,又は発見されたリレーUEからのリンク品質が低いことを見つけた場合,選択したSLSSの優先付けを解除すること,
前記複数のリレーUEのD2D信号のコミュニケーション信号のDMRSの測定をすることと,
前記測定されたDMRSに基づいて選択されたリレーUEの同期信号を送信同期基準として再選択することと,
を備える方法。」

(3)対比・判断
ア 引用例の「eNBのカバレージの外側にあるリモートUE」は,本願発明の「基地局のネットワークカバレージの外側にあるユーザ機器(UE)」に相当するから,本願発明と引用発明は「基地局のネットワークカバレージの外側にあるユーザ機器(UE)によるワイヤレス通信の方法」といえる点で共通する。

イ 引用発明の「前記eNBのカバレージ内にあるUEからそれぞれD2D信号を受信すること」は,明らかに本願発明の「前記基地局のネットワークカバレージ内にある1つまたは複数の近接UEからそれぞれ1つまたは複数のデバイスツーデバイス(D2D)信号を受信すること」に相当する。

ウ D2D通信は,物理サイドリンクブロードキャストチャネル(PSBCH),物理サイドリンク発見チャネル(PSDCH),物理サイドリンク共有チャネル(PSSCH),および物理サイドリンク制御チャネル(PSCCH)などのサイドリンクチャネルを通して行われるものであり得ること,SLSSのS-RSRPとはPSBCH中の基準信号の受信電力であることが当業者の技術常識であるところ,引用例の「リレーUEの発見信号又はコミュニケーション信号」なる記載から明らかなように引用発明の「コミュニケーション信号」はPSDCHで送信される発見信号とは異なるものであり,また,「コミュニケーション信号のDMRS」はPSBCH中の基準信号とは異なるものといえるから,引用発明の「D2D信号のコミュニケーション信号」は,PSSCHで送信される本願発明の「D2D信号の前記1つまたは複数のトラフィック部(PSSCH)」を含むと解される。
そして,引用発明の「D2D信号のコミュニケーション信号のDMRSの測定」がD2D信号のコミュニケーション信号を受信するために使用される1つまたは複数のリソース要素の信号強度を測定することによりなされること,及び引用発明「DMRSの測定」は1つまたは複数のリソース要素の基準信号受信電力(RSRP)の測定といえることは,LTEの技術常識に照らして当業者に自明である。そして,引用発明「DMRSの測定」は,本願発明の「基準信号受信電力(RSRP)または基準信号受信品質(RSRQ)のうちの少なくとも1つ」のうちの基準信号受信電力(RSRP)に対応するものである。
したがって,引用発明の「前記複数のリレーUEのD2D信号のコミュニケーション信号のDMRSの測定をすること」は,本願発明の「前記1つまたは複数のD2D信号の1つまたは複数のトラフィック部(PSSCH)を受信するために使用される1つまたは複数のリソース要素の信号強度に基づいて,前記1つまたは複数のD2D信号の信号強度を測定すること」,「前記1つまたは複数のD2D信号の前記1つまたは複数のトラフィック部(PSSCH)を受信するために使用される前記1つまたは複数のリソース要素の前記信号強度は,前記1つまたは複数のD2D信号の前記1つまたは複数のトラフィック部(PSSCH)を受信するために使用される前記1つまたは複数のリソース要素の基準信号受信電力(RSRP)に基づく」に相当する。

エ 引用発明は「選択したSLSSにリレーUEがないこと,又は発見されたリレーUEからのリンク品質が低いことを見つけた場合,選択したSLSSの優先付けを解除すること」,「前記測定されたDMRSに基づいて選択されたリレーUEの同期信号を送信同期基準として再選択すること」は,選択されたリレーUEの同期信号を送信同期基準とすることによりUEからネットワークへのリレーをサポートする際のリレーUEを選択しているといえるから,本願発明の「前記測定された1つまたは複数のD2D信号の前記信号強度に基づいて,中継UEとして前記1つまたは複数の近接UEのうちの1つを選択すること」に相当する。

したがって,本願発明と引用発明とは,以下の点で一致し,又,相違する。
(一致点)
「 基地局のネットワークカバレージの外側にあるユーザ機器(UE)によるワイヤレス通信の方法であって,
前記基地局のネットワークカバレージ内にある1つまたは複数の近接UEからそれぞれ1つまたは複数のデバイスツーデバイス(D2D)信号を受信することと,
前記1つまたは複数のD2D信号の1つまたは複数のトラフィック部(PSSCH)を受信するために使用される1つまたは複数のリソース要素の信号強度に基づいて,前記1つまたは複数のD2D信号の信号強度を測定することと,
前記測定された1つまたは複数のD2D信号の前記信号強度に基づいて,中継UEとして前記1つまたは複数の近接UEのうちの1つを選択することと,
を備え,
前記1つまたは複数のD2D信号の前記1つまたは複数のトラフィック部(PSSCH)を受信するために使用される前記1つまたは複数のリソース要素の前記信号強度は,前記1つまたは複数のD2D信号の前記1つまたは複数のトラフィック部(PSSCH)を受信するために使用される前記1つまたは複数のリソース要素の基準信号受信電力(RSRP)に基づく,方法。」

(相違点1)
本願発明は「前記選択された中継UEを介して前記基地局と通信するために,D2D通信を介して,前記選択された中継UEと通信すること」との発明特定事項を有しているのに対して,引用発明は当該構成が明示されていない点。

(相違点2)
本願発明は「前記1つまたは複数のD2D信号の前記1つまたは複数のトラフィック部を受信するために使用される前記1つまたは複数のリソース要素の基準信号受信電力(RSRP)または基準信号受信品質(RSRQ)のうちの少なくとも1つに基づく」「信号強度」のみによって中継UEを選択するのに対し,引用発明は「カバレッジ内のSLSSの中で最も高いS-RSRPを持つSLSSを送信タイミング基準として選択し,選択したSLSSにリレーUEがないこと,又は発見されたリレーUEからのリンク品質が低いことを見つけた場合,選択したSLSSの優先付けを解除」して「前記測定されたDMRSに基づいて選択されたリレーUEの同期信号を送信同期基準として再選択する」点。

以下,各相違点について検討する。
(相違点1について)
引用発明はUEからネットワークへのリレーをサポートすることを目的としており,引用例の「2.」の「選択したSLSSを送信するセルにリレーUEが存在しないと,リモートUEがリレーUEにD2D信号を送信する方法はない」との記載からも明らかなように,リモートUEがリレーUEにD2D信号を送信することを意図しているから,リモートUEが,選択されたリレーUEを介してeNBと通信するために,D2D通信を介して,前記選択されたリレーUEと通信すること,すなわち,相違点1は当業者が容易になし得ることに過ぎない。

(相違点2について)
引用発明は,まず既存の方法にて選択し不都合が生じた場合に新たな測定に基づく選択方法を採用するものであるが,新たな測定に基づく選択方法のみによってもUEからネットワークへのリレーをサポートとの目的を達成し得ることは自明であり,無駄を省くことは常套手段であることに鑑みれば,引用発明において「カバレッジ内のSLSSの中で最も高いS-RSRPを持つSLSSを送信タイミング基準として選択し,選択したSLSSにリレーUEがないこと,又は発見されたリレーUEからのリンク品質が低いことを見つけた場合,選択したSLSSの優先付けを解除すること」を省略することは,格別困難なことではなく,必要に応じて適宜なし得ることに過ぎない。



第5 むすび
以上のとおり,本件出願は,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから,特許を受けることができない。また,本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-12-17 
結審通知日 2019-12-24 
審決日 2020-01-10 
出願番号 特願2017-558968(P2017-558968)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04W)
P 1 8・ 537- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊東 和重  
特許庁審判長 中木 努
特許庁審判官 菅原 道晴
井上 弘亘
発明の名称 D2Dチャネルの測定  
代理人 岡田 貴志  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 福原 淑弘  
代理人 井関 守三  

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